説明

カメラ用シャッタ

【課題】シャッタ駆動手段は作動信号が出力されてもすぐに作動を開始することがなく、安定な動作が行われるカメラ用シャッタを提供する。
【解決手段】シャッタ開口を有する基板と、前記シャッタ開口を開閉するシャッタ羽根と、前記シャッタ羽根を駆動する駆動手段とを備えたカメラ用シャッタにおいて、前記駆動手段は、前記シャッタ羽根に連結される腕部を有し揺動自在に軸支された揺動レバーと、前記腕部に設けられた永久磁石と、前記揺動レバーの作動範囲の両端位置の少なくとも一方の位置で対峙するとともに磁性材からなる拘束部材と、前記永久磁石に対峙するように固定された電磁コイルとで構成され、前記電磁コイルへの通電による前記永久磁石の吸引力または反発力により前記揺動レバーを作動させて前記シャッタ羽根を駆動するとともに前記シャッタ羽根の作動停止位置及び/または全開位置において前記揺動レバーが前記拘束部材により作動を規制されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に設けられたシャッタ開口を開閉するシャッタ羽根を備えたカメラ用シャッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来におけるカメラ用シャッタとしては、例えば特開2001−281724号公報に記載されているものが知られている。当該特許公報に記載された電磁駆動シャッタは、シャッタ羽根を作動させる駆動手段を有するが、駆動レバーの停止位置において拘束部材が設けられていない。即ち、シャッタ羽根の閉鎖位置あるいは開放位置において、電磁駆動コイルに作動電流が通電されるとすぐに駆動レバーが作動を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−281724号(図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、駆動レバーの停止位置において永久磁石を吸着保持すべき磁性材料で構成された拘束部材が設けられていないため、シャッタ駆動手段は作動信号が出力されるとすぐに作動を開始し不安定な動作が行われ易い。即ち、各部品のハメアイ隙間や摩擦力によって作動の安定性が確保できないままの状態で作動が開始され、シャッタ制御が不安定になり易いのである。
【0005】
また、駆動レバーの停止位置において、拘束部材に直接的に当接させる構成によって吸着保持する方法も考えられるが、吸着保持される双方の接触面の加工に基づく粗さの状態および全面のウネリの有無によって、吸着力に強弱のバラツキが生じ易く、作動性能の不安定要因となる。即ち、粗さが精細でウネリが微少の場合には吸着保持力が強く、逆に粗さが粗雑であるかウネリがある場合には吸着保持力が弱くなる。
【0006】
従って、双方の接触面の状態に対応して、吸着保持力に抗する磁力を発生させないと、双方を離反させられないことになる。さらに、このような状態に起因して電圧依存性が高くなり好ましくない。つまり、接触面の状態が作動機構の機能および性能に大きな影響を与えることになる。
【0007】
本発明の目的は、作動信号が出力されてもすぐにはシャッタ駆動手段が作動を開始することがなく、さらには部品の加工状態に左右されることなく安定な動作が行われるように構成したカメラ用シャッタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、シャッタ開口を有する基板と、前記シャッタ開口を開閉するシャッタ羽根と、前記シャッタ羽根を駆動する駆動手段とを備えたカメラ用シャッタにおいて、前記駆動手段は、前記シャッタ羽根に連結される腕部を有し揺動自在に軸支された揺動レバーと、前記腕部に設けられた永久磁石と、前記揺動レバーの作動範囲の両端位置の少なくとも一方の位置で対峙するとともに磁性材からなる拘束部材と、前記永久磁石に対峙するように固定された電磁コイルとで構成され、前記電磁コイルへの通電による前記永久磁石の吸引力または反発力により前記揺動レバーを作動させて前記シャッタ羽根を駆動するとともに前記シャッタ羽根の作動停止位置及び/または全開位置において前記揺動レバーが前記拘束部材により作動を規制されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、駆動レバーの停止位置において拘束部材が設けられているため、駆動手段は作動信号が出力されても駆動レバーがすぐに作動を開始することがない。そして、所定の通電後に駆動手段の動力が、駆動レバーと拘束部材との磁気吸引力の保持限界を超えた時に、駆動レバーが作動を開始する。そのため、各部品のハメアイ隙間や摩擦力に起因する作動の不安定な領域は比較的短い時間で経過し、作動の安定性が確保できた状態でシャッタ羽根の作動が行われることになる。従って、シャッタ羽根の作動制御が各種の要因に基づいて不安定になることがなく、作動の安定した好ましいシャッタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例におけるシャッタ羽根の構成を示す鳥瞰図である。
【図2】本発明の一実施例における主要部を拡大した平面図を示す。
【図3】本発明の一実施例における主要部を拡大した断面図である。
【図4】本発明の一実施例におけるシャッタ羽根の作動説明図を示す。
【図5】本発明の一実施例における揺動レバーの作動回転角度に対する駆動力及び永久磁石の反発力ならびに吸引力の作動説明図を示す。
【図6】従来例のシャッタ構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るカメラ用シャッタの好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
まず、本発明に係るカメラ用シャッタの実施形態を図1乃至図4により説明する。図1におけるカメラ用シャッタは、レンズシャッタでの実施形態を示している。このレンズシャッタには、円形のシャッタ開口1aを設けた基板1を有している。この基板1には、シャッタ開口1aを開閉する1対のシャッタ羽根2a,2bが、支持軸1b,1cの周りに回動自在に取り付けられている。そして、シャッタ羽根2aには小判型の作動溝2cが形成され、一方、シャッタ羽根2bには小判型の作動溝2dが形成されている。
【0013】
また、基板1の上方には、カバー板3がシャッタ羽根2a,2bの作動空間を確保して取り付けられている。そして、カバー板3には、基板1のシャッタ開口1aと中心が一致する開口3aが形成されている。さらに、基板1におけるシャッタ開口1aの左側には、シャッタ羽根2a,2bを開閉作動させる駆動手段4が、図2のような状態で配置されている。
【0014】
駆動手段4は、図1及び図2に示すように合成樹脂で成型された揺動レバー4aを有し、基板1に設けられた支持軸1bに回動自在に取り付けられている。揺動レバー4aは、支持軸1bの両側に延びる腕4b、4cを有し、それぞれの腕4b、4cには永久磁石4d、4eが固定取り付けられている。
【0015】
また、揺動レバー4aの腕4b、4cに固定された永久磁石4d、4eに対向して、駆動コイル4f、4gが基板1上に固定されている。そして、駆動コイル4f、4gには、図示しない電子制御回路から制御電流が所定の時間だけ通電されるように構成されている。
【0016】
一方、揺動レバー4aの腕4b、4cには突起4h、4iが形成されており、この突起4h、4iは、シャッタ羽根2a、2bに形成された小判型の作動溝2c、2dにそれぞれ嵌合し、シャッタ羽根2a、2bを作動して、シャッタ開口1aを開閉する。
【0017】
さらに、揺動レバー4aの作動範囲の両端、つまり腕4b、4cの突起4h、4iによってシャッタ羽根2a、2bが閉鎖した位置及び開放した位置で、永久磁石4d、4eを吸引する拘束部材5a、5bが、基板1上に固定されている。つまり、この拘束部材5a、5bは磁性材で構成され、所定の磁力によって永久磁石4d、4eを揺動レバー4aの作動範囲の両端位置で吸引保持する。そして、この所定の磁力を確保するため、両者の距離および拘束部材5a、5bの体積並びに磁気的材質が設定される。
【0018】
即ち、シャッタ羽根2a、2bの慣性や、作動溝2c、2dと揺動レバー4aの腕4b、4cに設けた突起4h、4iとの嵌め合い隙間などに起因して、駆動手段4が作動を開始した際における作動の安定性が確保されず変動することになる。そのため、これらの特性を考慮して永久磁石4d、4eによる吸引保持力が所定の磁力に設定されるように、拘束部材5a、5bの体積並びに磁気的材質等を設定することになる。
【0019】
この場合に、前述のように永久磁石4d、4eと拘束部材5a、5bとを密着させることも考えられる。しかし、両者を密着させると駆動手段4を作動して、両者を離反させるためにコイルに通電させて離反させる際の動力が強力にする必要があり、強力な通電電力が必要になり好ましくない。そのため、本実施形態においては両者を所定の距離だけ離して配置した構成としてある。具体的に本実施形態における構成においては図2における永久磁石4d、4eと拘束部材5a、5bとの隙間は0,2〜0,3mmである。
【0020】
このような構成であるから、駆動コイル4f、4gに通電した初期の段階においては、揺動レバー4aだけが変位して各部品相互間の隙間が、それぞれ作動方向の片側へ変位する。そして、これらの隙間による変動要因が一方向に除去された状態から揺動レバー4aがシャッタ羽根2a、2bを作動するから、安定した作動性能を確保することができる。
【0021】
その他、シャッタ制御のための部品が基板1に配置されているが、カメラ用シャッタの作動とは直接関連しないので、カメラ用シャッタの主要部を理解し易くするため、一部を図示するにとどめ全体図示及び説明を省略してある。
【0022】
なお、駆動手段4をはじめ、基板1に配置されているシャッタ制御のための部品が、シャッタ羽根2a、2bの作動を阻害しないようにするために、作動領域を覆うように薄い仕切り板6が配置されている。
【0023】
以下、このように構成されたカメラ用シャッタの作動方法について詳細に説明する。写真撮影のためのレリーズ操作に伴って、図示しない電子制御回路から駆動コイル4f、4gに制御電流が所定の時間だけ通電されると駆動コイル4f、4gには、永久磁石4d、4eの磁力に反発する方向の駆動力が発生する。この駆動力に依存して揺動レバー4aは、永久磁石4d、4eの反力によって支持軸1bの周りに左旋回して、図2の実線で示した状態から点線で示した状態へ旋回される。この場合において、電子制御回路から駆動コイル4f、4gに制御電流が通電されるが、通電初期においては駆動コイル4f、4gに発生する磁力が小さいから、永久磁石4eが拘束部材5bに保持されたままで、揺動レバー4aは各部品のハメアイ隙間だけ変位するものの旋回しない。
【0024】
しかし、所定の時間を経過して通電が続くと永久磁石4d、4eの磁力に反発する方向へ次第に大きな駆動力がコイル4f、4gに発生し、保持される限界を超えると急速に揺動レバー4aが旋回される。この揺動レバー4aの作動に伴って突起4h、4iが小判型の作動溝2c、2dを作動して、シャッタ羽根2a,2bを図4の実線で示した状態から点線で示した状態へ旋回させ、シャッタ開口1aを開放方向へ作動する。
【0025】
即ち、この急速な揺動レバー4aの旋回によって、シャッタ羽根2a、2bの慣性や、作動溝2c、2dと揺動レバー4aの腕4b、4cに設けた突起4h、4iとの嵌め合い隙間などに起因して生じる不安定要素、つまり駆動手段4が作動を開始した際におけるこれらの作動の不安定要素が除去され、比較的安定したシャッタ羽根2a、2bの作動を確保することができる。
【0026】
続いて、揺動レバー4aが旋回しシャッタ羽根2a,2bを、図4の点線で示した状態へ旋回させてシャッタ開口1aを完全に開放する。この位置まで旋回すると揺動レバー4aは、拘束部材5aに永久磁石4dが吸引保持されるようになり、シャッタ羽根2a,2bが全開状態を保持する。
【0027】
シャッタの所望の露出時間が経過すると、図示しない電子制御回路から駆動コイル4f、4gにシャッタ羽根2a,2bを閉鎖するための制御電流が所定の時間だけ通電され、駆動コイル4f、4gにはシャッタ羽根2a,2bを閉鎖する方向に永久磁石4d、4eの磁力に反発する方向の駆動力が発生する。この駆動力に依存して揺動レバー4aは、永久磁石4d、4eの反力によって支持軸1bの周りに右旋回して、図2の点線で示した状態から実線で示した状態へ旋回される。この場合において、電子制御回路から駆動コイル4f、4gに制御電流が通電されるが、通電初期においては駆動コイル4f、4gに発生する磁力が小さいから、永久磁石4dが拘束部材5aに保持されたままで揺動レバー4aが旋回しないのは前記開放作動の場合と同様である。
【0028】
さらに通電が続くと、前述の開放作動の場合と同様に永久磁石4d、4eの磁力に反発する方へ次第に大きな駆動力がコイル4f、4gに発生し、保持される限界を超えると急速に揺動レバー4aが旋回される。この揺動レバー4aの作動に伴って突起4h、4iが小判型の作動溝2c、2dを作動して、シャッタ羽根2a,2bを図4の点線で示した状態から実線で示した状態へ旋回させ、シャッタ開口1aを閉鎖する方向へ作動する。
【0029】
さらに通電が続き、揺動レバー4aが旋回しシャッタ羽根2a,2bを、図4の実線で示した状態へ旋回させてシャッタ開口1aを完全に閉鎖する。この位置まで旋回すると揺動レバー4aは、拘束部材5bに永久磁石4eが吸引保持されるようになり、シャッタ羽根2a,2bが全閉状態を保持する。
【0030】
次に、揺動レバー4aの作動回転角度に対する駆動力及び永久磁石4d、4eの反発力ならびに吸引力の作動について、図5により説明する。この線図はいずれも揺動レバー4aの作動角(横軸)に対する駆動力Fおよび永久磁石4d、4eと拘束部材5a、5bとの反発力ならびに吸引力の関係を示している。以下、それぞれの線図について説明する。
【0031】
図5において、線Aは拘束部材5a、5bが無いときの反発吸引力曲線を示し、ゼロレベルに対してプラス側は反発力を、マイナス側は吸引力を表している。つまり、拘束部材5a、5bが無いからコイルへの通電によって揺動レバー4aが回転すると反発力は徐々に減少して行き、ゼロレベルになった後は反対の磁極への吸引力に依存して停止位置まで作動する。
【0032】
線Bは拘束部材5a、5bが有るときの反発吸引力曲線を示し、拘束部材5a、5bがあるからコイルへの通電によって揺動レバー4aが回転すると反発力は急峻に減少し、徐々に揺動レバー4aが回転し作動の終了位置に近づくと、反対の磁極への吸引力に依存して急速に停止位置に吸引される。
【0033】
線Cは拘束部材5a、5bが有るときの駆動力曲線を示し、拘束部材5a、5bがあるから、コイルへの通電によって揺動レバー4aの回転開始直後まで、拘束部材5a、5bによる吸引力から脱出するために、急速に駆動力を増大させねばならないことを示している。その後は徐々に駆動力が増加して行き、揺動レバー4aが回転して作動の終了位置に近づくと、反対の磁極への吸引力が加算されて、急速に停止位置に吸引される。
【0034】
線Dは拘束部材5a、5bが無いときの驅動力曲線を示し、拘束部材5a、5bが無いからコイルへの通電によって揺動レバー4aが回転すると駆動力は徐々に増加して行き、そのまま徐々に加速されながら反対の磁極への吸引力に依存して停止位置まで作動する。
【0035】
なお、本実施例において揺動レバー4aは、シャッタ羽根2a、2bが閉鎖した位置及び開放した位置の作動範囲の両端で、永久磁石4d、4eを吸引する拘束部材5a、5bによって吸引保持されるように構成したが、作動範囲の両端位置の何れか一方においてのみ吸引保持されるように構成しても実施できる。つまり、本発明によって生じる作用効果が必要な位置でのみ構成するようにしてもよい。
【0036】
以上、本発明のカメラ用シャッタに係わる実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、上記実施形態のカメラ用シャッタは、回転式で二枚羽根のレンズシャッタであるが、スライド式の羽根その他の形式の羽根を用いたカメラ用シャッタにも適用可能である。また、上記説明における永久磁石の磁極を逆特性の磁極として構成すれば、コイルに通電する電流が逆になるか、あるいは説明における反発力が吸引力として作用することになる。従って構成上は、コイルへの通電によって発生する永久磁石の吸引力または反発力により前記揺動レバーを作動させて前記シャッタ羽根を駆動することになる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で適宜実施形態を変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 基板
1a シャッタ開口
1b、1c 支持軸
2a,2b シャッタ羽根
2c、2d 作動溝
3 カバー板
4 駆動手段
4a 揺動レバー
4b、4c 腕
4d、4e 永久磁石
4f、4g 駆動コイル
4h、4i 突起
5a、5b 拘束部材
6 仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャッタ開口を有する基板と、前記シャッタ開口を開閉するシャッタ羽根と、前記シャッタ羽根を駆動する駆動手段とを備えたカメラ用シャッタにおいて、前記駆動手段は、前記シャッタ羽根に連結される腕部を有し揺動自在に前記基板上に軸支された揺動レバーと、前記腕部に設けられた永久磁石と、前記揺動レバーの作動範囲の両端位置の少なくとも一方の位置で対峙するとともに磁性材からなり前記基板上に固定された拘束部材と、前記永久磁石に対峙するように前記基板上に固定された電磁コイルとで構成され、前記電磁コイルへの通電により発生する前記永久磁石に対する吸引力または反発力により前記揺動レバーを作動させて前記シャッタ羽根を駆動するとともに前記シャッタ羽根の作動停止位置及び/または全開位置において前記揺動レバーが前記拘束部材により作動を規制されることを特徴とするカメラ用シャッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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