説明

カラー陰極線管

【課題】 カラー陰極線管の大型化、高精細化、低消費電力化などに際し、従来の蛍光膜パターンでは輝度が不足する。
【解決手段】 ガラスパネル12の内面にあらかじめ形成された開口部付きブラックマトリクス膜21の開口部に緑、青、赤の各蛍光膜22,23,24を形成し、その上に電子線を紫外線に変換するCsClなどからなる変換層2を所定の膜厚で形成する。また、電子線を紫外線に変換する物質(CsClなど)3と緑、青、赤の各可視域発光蛍光体25、26、27を混合して各色蛍光膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、文字や図形を表示するカラー陰極線管に関し、特に改良された蛍光膜により輝度を向上したカラー陰極線管に関する。
【0002】
【従来の技術】情報化社会の進展のなかで、コンピュータ端末ディスプレイ、ハイビジョンなどの画像表示に好適するカラー陰極線管11は、図2に示すように、ガラス製パネル12とガラス製ファンネル13とをガラス半田14により一体に接合したバルブ15を有し、パネルの内側には、緑、青、赤に発光する蛍光体スクリーン16が塗布形成され、この蛍光体スクリーン16の背後に一定の間隔を保持して多数の電子ビーム通過孔が形成されたシャドウマスク17などの色選択用電極が取り付けられ、ファンネルのネック部内には3電子ビームを放出する電子銃18が配設されている。蛍光体スクリーン16は、図3に示すように、パネル12上にあらかじめ形成された開口部付きブラックマトリクス膜21の開口部に緑、青、赤の各蛍光膜22,23,24が所定の位置関係をもって形成されており、シャドウマスクによって選択された緑、青、赤に対応する電子ビームをそれぞれの蛍光膜上に照射し、発光するようになっている。上記蛍光膜に使用される蛍光体としては、緑色発光蛍光体25として銅付活硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Cu)、青色発光蛍光体26として銀付活硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag)、赤色発光蛍光体27としてユーロピウム付活酸硫化イットリウム蛍光体(Y2O2S:Eu)などがある。
【0003】このようなカラー陰極線管の蛍光膜の形成
方法は、一般にフェース面のパネル12の内面に開口部を有する光吸収用ブラックマトリクス膜21を形成した後、緑色発光蛍光体とポリビニルアルコールと重クロム酸アンモニウムとを混合したスラリーをパネル内面に塗布して均一な膜を形成する。次に、この膜をシャドウマスクまたは特定のフォトマスクを通して紫外線で露光し、緑用の電子ビームの照射位置と対応する位置に架橋反応を起こさせ、次いで温水で現像してブラックマトリクス膜の開口部に緑色蛍光膜22を形成する。以下同様の工程を青色発光蛍光体、赤色発光蛍光体について繰り返し、所定のパターンに配列した青色蛍光膜23および赤色蛍光膜24を形成する。
【0004】

【発明が解決しようとする課題】
近年、省資源化が重要視されるに伴ってカラー陰極線管の低消費電力化が強く要望されている。カラー陰極線管の消費電力を低下させると、ビーム電流も少なくなり輝度が低下する。表示装置として輝度の低下は許容できないので蛍光膜の高輝度化が必要になる。また、近年、カラー陰極線管の大型化が著しいが、大型化すればするほど消費電力が増加し、高輝度な画面が望まれるので、さらに一層の高輝度化が要望される。このような現状において、従来のカラー陰極線管の輝度は必ずしも十分とはいえなかった。
【0005】本発明は上記の問題に鑑みて提案されたも
ので、その目的は、蛍光膜を構成する蛍光体の組成などを改善して輝度を向上させた新規なカラー陰極線管を提供することである。
【0006】

【課題を解決するための手段】本発明のカラー陰極線管
は、電子線によって励起され紫外線を放射する物質と、可視域発光蛍光体とを用いて形成された蛍光膜を有することを特徴とする。この手段により、可視域発光蛍光体が前記紫外線と電子線の両方で励起され発光するので輝度が向上する。
【0007】また、電子線によって励起され紫外線を放
射する物質と、可視域発光蛍光体とが積層された蛍光膜を有することを特徴とする。
【0008】また、電子線によって励起され紫外線を放
射する物質と、可視域発光蛍光体とが混合された蛍光膜を有することを特徴とする。
【0009】また、電子線によって励起され紫外線を放
射する物質が、弗化バリウム、塩化セシウムからなる群のうち一種以上からなることを特徴とする。
【0010】また、電子線によって励起され紫外線を放
射する物質が、弗化バリウム、塩化セシウムをそれぞれ母体とする蛍光体からなる群のうち一種以上からなることを特徴とする。
【0011】また、電子線によって励起され紫外線を放
射する物質が、オージェ・フリー発光を放射する物質であることを特徴とする。
【0012】

【発明の実施の形態】本発明のカラー陰極線管の特徴は
、蛍光膜が、電子線によって励起され紫外線を放射する物質と、緑色または青色または赤色を発光する蛍光体(以下、可視域発光蛍光体と称する。)とを組み合わせて形成されている点にある。上記物質は電子銃から放出される電子線によって励起され、例えば200〜400nmの紫外線を効率よく放射するので、この紫外線により上記物質の近傍にある可視域発光蛍光体が励起されて緑色または青色または赤色を発光する。上記蛍光体は本来の電子線による励起に加えて、上記の紫外線による励起によって強く発光するので、高輝度のカラー陰極線管が得られる。
【0013】上記物質は電子線によって効率良く紫外線
を放射するものが望ましい。このような物質として、例えば、オージェ・フリー発光を行なう物質が好適する。この物質は、オージェ・フリー発光と固有発光の総和として1以上の量子効率が得られるので、紫外線を効率よく放射する。オージェ・フリー発光を行なう物質として、例えば弗化バリウム、塩化セシウムなどのハロゲン化物の一種以上の組み合わせが好適する。また、弗化バリウム、塩化セシウムなどをそれぞれ母体とし、以下の元素で付活した蛍光体の一種以上の組み合わせが更に好適する。付活剤としては、Ce、Pr、Nd、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどの希土類元素のうち一種以上、また、F、Cl、Br、Iなどのハロゲン元素のうちの一種以上、また、Pb、Sn、Cd、Tl、Bi、In、Ag、Auなどの諸元素のうち一種以上が使用できる。また、これら希土類元素、ハロゲン元素、諸元素からなる群のうち一種以上を使用しても良い。特に、ハロゲン元素は母体1モルに対して0.1モル以下が望ましい。上記の各物質は200〜400nmの紫外線を放射してカラー陰極線管の蛍光体を効率良く発光させる。これらの物質は各色可視域発光蛍光体と適宜組み合わせることが出来る。
【0014】電子線によって励起され紫外線を放射する
物質の配設形態は重要である。第1に、紫外線の減衰を防止するため、可視域発光蛍光体の近傍に配設することが望ましい。第2に、この物質と上記蛍光体とがバランス良く電子線を吸収できる位置でなければならない。この物質が電子線を吸収する必要があるが、蛍光体が電子線を吸収するのを遮蔽してはいけない。物質が電子線を吸収し過ぎると、可視域発光蛍光体を直接励起する電子線が減り、輝度は減少する。したがって、電子線の50%以上が蛍光体を直接励起し、電子線の50%以下が上記物質を励起するように配設することが望ましい。言い換えると電子線の大部分が蛍光体を励起し、電子線の一部が上記物質を励起するように配設することが望ましい。第3に、蛍光体が放射した可視光をこの物質が吸収してはならない。このため、この物質と蛍光体粒子の微視的な位置関係は微妙であり、重要である。これらの点を考慮して、配設方法、蛍光体との重量比率、粒径、膜厚などを最適化する必要がある。上記の諸点および量産性を考慮したこの物質の配設方法として、可視域発光する蛍光膜の上(シャドウマスク側)に薄く積層する方法、この物質の粉末と、可視域発光蛍光体の粉末とを混合して蛍光膜を形成する方法などがある。積層する場合は、特に粒径、膜厚などを最適化する必要がある。また、蒸着、スパッタなどで形成しても良い。混合する場合は、特に蛍光体との重量比率、粒径などを最適化する必要がある。なお、本発明で使用する可視域発光蛍光体(または顔料付き蛍光体)は、カラー陰極線管に使用できるものであればどれでも良い。以下、本発明の実施例について図を参照して説明する。
【0015】

【実施例】(実施例1)図1は本発明による蛍光膜を形
成したパネル1の要部拡大断面図である。従来のカラー陰極線管の蛍光膜付きパネルと同一部分は同一符号を付けて重複する説明を省略する。図3に示した従来のパネルとの違いは、本発明の蛍光膜は、緑、青、赤の各蛍光膜の上(シャドウマスク側)に、電子線によって励起され紫外線を放射する物質の層(以下、変換層という)が形成されていることである。すなわち、図1(a)において、ガラスパネル12の内面にあらかじめ形成された開口部付きブラックマトリクス膜21の開口部に緑、青、赤の各蛍光膜22,23,24が所定の位置関係をもって形成されている。形成方法は従来と同様である。各蛍光膜の上に粒径5〜6μmのCsClからなる変換層2が所定の膜厚(0.1〜10μm)で形成されている。変換層2は電子線の一部を効率良く紫外線に変換すると共に、電子線のかなりの量を透過する膜厚で形成される。透過した電子線は緑、青、赤の各蛍光体を励起して発光させる。実施例1では、変換層2は、緑、青、赤の各蛍光膜に共通して組み合わせるので、CsCl粉末をバインダ溶液に分散したスラリーを用いて全面に塗布する。緑、青、赤の各蛍光膜に対応して変換層の材料を使い分ける場合は、変換層をパターン化して形成する必要がある。パターン化する方法は、緑、青、赤の各蛍光膜パターンを形成する方法と同様である。
【0016】(実施例2)塩化セシウムCsClに代え
て、弗化バリウムをユーロピウムで付活したBaF2:Eu蛍光体を用いて、変換層2を形成する以外は実施例1と同様にしてカラー陰極線管を得た。
【0017】(実施例3)塩化セシウムCsClに代え
て、弗化バリウムBaF2を用いて、変換層2を形成する以外は実施例1と同様にしてカラー陰極線管を得た。
【0018】(実施例4)実施例4は、電子線によって
励起され紫外線を放射する物質を、可視域発光蛍光体と混合して蛍光膜を形成した例である。すなわち、図1(b)に示すように、塩化セシウムCsClなどの電子線を紫外線に変換する物質3と、緑色発光蛍光体(ZnS:Cu、Al)25、青色発光蛍光体(ZnS:Ag)26、赤色発光蛍光体(Y2O2S:Eu)27をそれぞれ所定重量比率で混合した3種類のスラリーを用いて、従来と同様の方法で緑、青、赤の各蛍光膜を形成したカラー陰極線管を得た。
【0019】(実施例5)塩化セシウムCsClに代え
て、弗化バリウムをユーロピウムで付活したBaF2:Eu蛍光体を用いる以外は実施例4と同様にしてカラー陰極線管を得た。
【0020】(実施例6)塩化セシウムCsClに代え
て、弗化バリウムBaF2を用いる以外は実施例4と同様にしてカラー陰極線管を得た。
【0021】(比較例1)電子線によって励起され紫外
線を放射する物質を使用しないで、従来のように可視域発光蛍光体を用いて各色蛍光膜を形成してカラー陰極線管を得た。
【0022】(カラー陰極線管の評価方法と評価結果)
発光輝度:実施例1乃至6及び比較例1に示した各カラー陰極線管を動作させ、緑色、青色、赤色のテストパターンを表示させ、各色について輝度を測定する。比較例1の輝度を100として、各実施例の輝度を相対値であらわし表1に示す。表1から、本発明のカラー陰極線管の輝度は従来のものより向上することがわかる。
【0023】

【表1】



【0024】

【発明の効果】以上に説明したように、本発明のカラー
陰極線管は、蛍光膜が、電子線によって励起され紫外線を放射する物質と、緑色または青色または赤色を発光する可視域発光蛍光体とを組み合わせて形成されており、上記物質は電子銃から放出される電子線によって励起され、例えば200〜400nmの紫外線を効率よく放射するので、この紫外線により可視域発光蛍光体が励起されて発光する。上記蛍光体は本来の電子線による励起に加えて、上記の紫外線による励起によって強く発光する。これにより、高輝度のカラー陰極線管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】

【図1】 本発明のカラー陰極線管の実施の形態を示す
蛍光膜付きパネルの要部拡大断面図

【図2】 従来のカラー陰極線管の構造を示す一部切り
欠き側面図

【図3】 従来のカラー陰極線管の蛍光膜パターンの要
部拡大断面図

【符号の説明】

1 蛍光膜付きパネル
2 変換層
3 電子線を紫外線に変換する物質(例えば、CsCl)
12 ガラスパネル
21 ブラックマトリクス膜
22 緑色蛍光膜
23 青色蛍光膜
24 赤色蛍光膜
25 緑色発光蛍光体
26 青色発光蛍光体
27 赤色発光蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】電子線によって励起され紫外線を放射する物質と、可視域発光蛍光体とを用いて形成された蛍光膜を有するカラー陰極線管。
【請求項2】電子線によって励起され紫外線を放射する物質と、可視域発光蛍光体とが積層された蛍光膜を有することを特徴とする請求項1に記載のカラー陰極線管。
【請求項3】電子線によって励起され紫外線を放射する物質と、可視域発光蛍光体とが混合された蛍光膜を有することを特徴とする請求項1に記載のカラー陰極線管。
【請求項4】電子線によって励起され紫外線を放射する物質が、弗化バリウム、塩化セシウムからなる群のうち一種以上からなることを特徴とする請求項1に記載のカラー陰極線管。
【請求項5】電子線によって励起され紫外線を放射する物質が、弗化バリウム、塩化セシウムをそれぞれ母体とする蛍光体からなる群のうち一種以上からなることを特徴とする請求項1に記載のカラー陰極線管。
【請求項6】電子線によって励起され紫外線を放射する物質が、オージェ・フリー発光を放射する物質であることを特徴とする請求項1に記載のカラー陰極線管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−30625(P2000−30625A)
【公開日】平成12年1月28日(2000.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−192227
【出願日】平成10年7月8日(1998.7.8)
【出願人】(000156950)関西日本電気株式会社 (26)
【Fターム(参考)】