説明

カルシウム吸収促進組成物およびその利用

【課題】 ダイフルクトースアンハイドライド III(DFA III)のカルシウム吸収促進作用を増強することにより、これまでよりも低用量で、高いカルシウムの吸収促進作用をより一層高めることが可能な技術を提供する
【解決手段】 本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、DFA IIIと、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルとを含有する。さらに、カルシウムやその他の成分を含有してもよい。中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルをDFA IIIと併用することで、DFA IIIのカルシウムの吸収促進作用を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイフラクトース アンハイドライド III(DFA III)を含有するカルシウム吸収促進組成物およびその代表的な利用技術に関するものであり、特に、より高いカルシウムの吸収促進作用を発揮することが可能であり、かつ、よりDFA IIIを低容量化することが可能なカルシウム吸収促進組成物と、これを用いた飲食品や医薬品等の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
五大栄養素の一つであるミネラルの中でもカルシウムは、その摂取量が不足すると、骨粗鬆症、高血圧、大腸癌等の重大な疾病の原因となることが広く知られている。これら疾病のうち、特に、骨粗鬆症は高齢化に伴って発症することが知られており、骨折を容易に引き起こすため、骨折部位によっては、いわゆる「寝たきり」の状態となりやすい。一説に、骨粗鬆症の患者数は数百万人にもおよぶといわれており、しかも、これからの高齢者社会がより進んでいくことは明らかであるため、骨粗鬆症の患者数の増加は大きな社会問題になると考えられる。
【0003】
ここで、骨粗鬆症に代表される各種骨疾患では、その主たる原因として、カルシウムの摂取不足、カルシウム吸収能力の低下、閉経後のホルモン・アンバランス等が挙げられる。骨粗鬆症の予防のためには、小児期から青年期にかけて、できるだけ多くの骨量を獲得し、最大骨量を増加させておくことが極めて重要であるが、骨量を増加させるためには、カルシウムをより多く摂取することが重要となる。
【0004】
ところが、カルシウムの摂取量は、未だ日本を含む東アジア地域では不足しており、特に、日本の現状では、食生活が改善されたとはいうものの、日本人の平均的な食生活習慣では、充分なカルシウム量を摂取することは困難となっている。このように、食事から十分にカルシウムを摂取することは、少なくとも日本では困難な状態にある。また、幼児、老齢者、病気中または予後の患者等のように十分な食事量を確保できない人にとってはカルシウムの十分な摂取は非常に困難となっている。さらに、女性にとっては、一般にカルシウムは不足しやすいミネラルとなっている。
【0005】
もともとカルシウムの吸収率は低い上に、日常の食事から十分な量を摂取できなければ、骨粗鬆症等のカルシウム不足による疾患の発症のリスクは高くなってしまう。それゆえ、食事中のカルシウムをあえて増量しなくてもカルシウムの吸収率を向上させれば、摂取したカルシウムを体内で有効利用することが可能になり、カルシウム不足の問題を解消可能であると考えられる。
【0006】
このような考えから、カルシウムの吸収を促進する素材の検討が種々行われている。代表的なものとしては、(1)カルシウムにアミノ酸やタンパク質、あるいはタンパク質の加水分解物を組み合わせた組成物、(2)キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸等の多糖類、(3)豆乳、納豆、酵母等のように既に食品として利用されているもの、(4)植物や貝等から抽出したエッセンス成分、(5)上記(3)や(4)で用いられている食品や原料から抽出した有効成分、等が挙げられる。しかしながら、これらは消化管内で分解されやすいものが多いため、カルシウムの吸収促進効果を十分に確保することが困難であることが多い。
【0007】
ところで、本発明者らは、難消化性の二糖類であるダイフラクトースアンハイドライドIII(以下、適宜、DFA IIIと略す)がカルシウムの吸収を促進する作用を有していることを見出し、医薬品や飲食品に利用可能なカルシウム吸収亢進組成物を提案している(特許文献1参照)。このカルシウム吸収亢進組成物を経口摂取すれば、摂取した少ないカルシウムを効率的に吸収させることが可能になる。
【特許文献1】特開平11−43438号公報(平成11年(1999)2月16日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記DFA IIIを含有するカルシウム吸収亢進組成物は、カルシウムの吸収を有効に促進させることが可能な優れたものである。しかしながら、カルシウムの吸収促進用途の実用性を向上するにあたっては、次の課題を抱えている。
【0009】
すなわち、上記DFA IIIは、以前は有効な工業的生産技術は知られていなかったが、最近になって、イヌリンにイヌラーゼIIを作用させることにより、高純度のDFA IIIを効率的に製造することが可能となった。
【0010】
ところが、工業生産が可能になったとはいうものの、現状ではDFA IIIは高価であり、1kg当たり数千円以上の価格となっている。したがって、以前に比べれば高用量での使用が可能になったとは言え、用量をできる限り低減させることは実用上重要となる。なお、特許文献1でも述べているように、DFA IIIの安全性については何ら問題無いことが明らかとなっているが、一般に、難消化性のオリゴ糖類に共通する問題点として、経口摂取量が多くなると下痢をしやすくなる。DFA IIIをカルシウム吸収促進用途で用いる場合の用量であれば、このような問題点は基本的に考慮する必要は無いものの、理論上は、この点からもDFA IIIの用量を低減させることが好ましい。
【0011】
このように、カルシウム吸収促進用途においてDFA IIIの実用性を向上させるためには、低用量で有効にカルシウムを吸収促進できることが求められることになるが、このような技術は未だ開発されていない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、DFA IIIのカルシウム吸収促進作用を増強することにより、これまでよりも低用量で、高いカルシウムの吸収促進作用をより一層高めることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、いわゆる「健康油」等として知られている中鎖脂肪酸とDFA IIIとを組み合わせて用いることで、DFA IIIのカルシウム吸収促進作用を増強できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、上記の課題を解決するために、ダイフルクトースアンハイドライド III(DFA III)と、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルとを含有することを特徴としている。
【0015】
上記カルシウム吸収促進組成物においては、上記中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルとして、カプリル酸およびカプリン酸の少なくとも何れかの中鎖脂肪酸またはそのナトリウム塩、あるいはそのエステルを用いることができる。また、オリゴ糖等の他の成分を含有してもよい。さらに、上記中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルは、上記DFA IIIに対して、重量比で1/6〜3倍の範囲内で配合されることが好ましい。
【0016】
本発明には、上記カルシウム吸収促進組成物を含む薬学的組成物が含まれる。この薬学的組成物としては、例えば、飲食品、医薬品、またはこれらの素材を挙げることができ、特に、上記飲食品としては栄養補助食品を好ましく挙げることができる。
【0017】
上記薬学的組成物のより具体的な例としては、例えば、上記DFA IIIおよび中鎖脂肪酸(その塩やエステルも含む)に加えて、さらにカルシウムを含有しており、少なくともカルシウム補給用として用いられる組成物、すなわちカルシウム補給用組成物を挙げることができる。当該カルシウム補給用組成物の具体的な組成は特に限定されるものではないが、より好ましい例として、DFA III、中鎖脂肪酸(その塩やエステルも含む)、並びにカルシウムの重量比が、それぞれ、1〜3:0.5〜3:0.2〜3の範囲内にある組成を挙げることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明では、すでにカルシウム吸収促進作用が知られているDFA IIIに中鎖脂肪酸(塩やエステルも含む)を組み合わせている。これにより、DFA IIIのカルシウム吸収促進作用をより一層増強することができるため、少ない用量のDFA IIIで効果的にカルシウム吸収を促進することが可能となる。それゆえ、カルシウム吸収促進組成物としての実用性をより一層向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、ダイフルクトースアンハイドライド III(DiFructose Anhydride III、DFA III)と、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルとを含有するものである。なお、以下の説明では、説明の便宜上、カルシウム吸収促進組成物を単に「促進組成物」と省略する場合がある。
【0021】
〔必須成分〕
上記DFA IIIは、フラクトース2分子が1,2’および2,3’で結合している2糖類(di-D-fructofuranose-1,2':2,3 dianhydride)であり、難消化性である。甘味は蔗糖の約1/2を有し、水への溶解性が高く、ビフィズス菌増殖作用を有している。また、本発明者らよってカルシウムの吸収促進作用を有することも見出されている(特許文献1)。
【0022】
上記中鎖脂肪酸は、炭素数が6〜12個の範囲内の脂肪酸であれば、特に限定されるものではない。具体的には、カプロン酸(ヘキサン酸、炭素数6)、エナント酸(ヘプタン酸、炭素数7)、カプリル酸(オクタン酸、炭素数8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、炭素数9)、カプリン酸(デカン酸、炭素数10)、ヘンデカン酸(ウンデカン酸、炭素数11)、ラウリン酸(ドデカン酸、炭素数12)等の飽和脂肪酸を挙げることができる。あるいは、これら炭素数の範囲内での不飽和脂肪酸等も好適に用いることができる。これら脂肪酸は直鎖構造のものであってもよいし、側鎖や分岐鎖を有するものであってもよい。本発明ではこれら中鎖脂肪酸の塩やエステル等ももちろん用いることができる。塩としてはナトリウム塩等が挙げられ、エステルとしては上記中鎖脂肪酸の低級アルコールエステルやトリグリセリド(すなわち油脂)等を挙げることができる。
【0023】
上記中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。例えば、後述する実施例では、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)をそれぞれ単独で用いているが、もちろんこれに限定されるものではなく、上述した中鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸の塩、または中鎖脂肪酸エステルを適宜組み合わせて用いることができるし、中鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸エステルとを組み合わせたり、中鎖脂肪酸塩と中鎖脂肪酸エステルとを組み合わせたり、中鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸塩とを組み合わせたりして用いることもできる。
【0024】
なお、一般には、脂肪酸のうち、炭素数が2〜6の範囲のものを短鎖脂肪酸、8〜10の範囲のものを中鎖脂肪酸、12以上のものを長鎖脂肪酸といわれることがあるが、これら脂肪酸の区分は、絶対的なものではない。本発明では、DFA IIIと組み合わせることで、DFA IIIのカルシウムの吸収促進作用をより増強できるものであればよいため、上述したように、少なくとも炭素数6〜12の範囲内の脂肪酸またはその塩あるいはそのエステルであればよい。一般的な植物油に含まれている脂肪酸の炭素数は18個程度であるため、DFA IIIと組み合わせることでカルシウムの吸収促進作用を向上できるのであれば、上記6〜12の範囲から外れる脂肪酸(またはその塩やそのエステル)であっても本発明に用いることができる。
【0025】
〔その他の成分〕
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物においては、上記DFA IIIおよび中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステル以外の成分を含有していてもよい。具体的には、例えば、各種オリゴ糖を挙げることができる。より具体的には、フラクトオリゴ糖、ラフィノースのほか、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等マルトオリゴ糖;イソマルトオリゴ糖;大豆オリゴ糖;フラクトオリゴ糖;ガラクトオリゴ糖;ペクチンオリゴ糖;マルチュロース;イソラフィノース;パラチノース;ラクチュロース;トレハロース;キシロオリゴ糖;等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。これらの中でも、特に、カルシウム吸収促進作用を有するオリゴ糖を併用することが好ましい。
【0026】
さらに、カルシウム吸収促進作用を示す公知の他の物質や素材を組み合わせて用いることも可能である。例えば、前述した(1)カルシウムにアミノ酸やタンパク質、あるいはタンパク質の加水分解物を組み合わせた組成物、(2)キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸等の多糖類、(3)豆乳、納豆、酵母等のように既に食品として利用されているもの、(4)植物や貝等から抽出したエッセンス成分、(5)上記(3)や(4)で用いられている食品や原料から抽出した有効成分、等を組み合わせることで、より一層優れたカルシウムの吸収促進効果が得られることが期待できる。
【0027】
なお、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、上記DFA IIIおよび中鎖脂肪酸(および/またはその塩あるいはそのエステル)、並びにオリゴ糖等の他の成分以外に、カルシウムそのものも含有させることが可能であることは言うまでもない。ただし、本発明の用途の一つとして、単純にカルシウムの摂取量を高めるのではなく、食事中に含まれるカルシウムの吸収効率を向上させる(すなわち、あえてカルシウムの摂取量を増やすのではない)ことを想定している。そのため、本発明にかかる促進組成物は、通常の食事に併用して服用したり、通常の食事に添加してそのまま摂取したりする使用法が可能である。したがって、カルシウムの含有は必須ではない。
【0028】
また、カルシウム以外のミネラルも含んでいても構わない。DFA IIIはカルシウムのみならず、マグネシウム、鉄の吸収も促進することが知られているため、カルシウム以外にこれらのミネラルを含有させることができる。ただし、後述するように、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルを併用することによる吸収促進作用は、カルシウムのみに有効である。
【0029】
〔促進組成物の組成〕
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物の具体的な組成は特に限定されるものではないが、中鎖脂肪酸をDFA IIIと組み合わせることにより、DFA IIIのカルシウムの吸収促進作用を向上させることができるので、従来よりもDFA IIIの含有量を低減させることが可能である。
【0030】
具体的には、従来では、例えば、促進組成物中にカルシウムを含有している場合、DFA IIIの含有量は、カルシウムに対して重量比で1〜3倍以上が好ましく、5倍以上とすることがより好ましい(もちろん、用途や組成によってはこの範囲を外れてもよい)。本発明でも、この程度の量となるように、DFA IIIを含有させることができるが、中鎖脂肪酸の併用によりDFA IIIのカルシウムの吸収促進作用は2〜3倍程度向上させることが可能である(例えば、後述の実施例では2倍程度)。そこで、カルシウムの吸収促進効果をDFA III単独の場合と同じ程度得られればよいのであれば、促進組成物中のDFA IIIの含有量を、DFA III単独の場合と比較して30〜60%の範囲内程度に減少させることが可能である。
【0031】
なお、カルシウムを含有していない場合は、摂取する食事中のカルシウム量に基づいて、上記好ましい範囲内で本発明にかかる組成物を摂取可能とするように、DFA IIIの含有量の好ましい範囲を設定すればよい。
【0032】
上記中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルの含有量も特に限定されるものではないが、上記DFA IIIに対して、重量比で1/6〜3倍の範囲内で配合されることが好ましい。少なくともこの範囲内となるように、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルを配合することにより、DFA IIIのカルシウムの吸収促進作用を確実に向上させる効果を発揮することができる。したがって、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物の組成の一例を挙げると、当該促進組成物中、重量比でDFA IIIを1〜3%の範囲内、中鎖脂肪酸を0.5〜3%の範囲内とする例を挙げることができるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0033】
また、その他の成分(オリゴ糖やカルシウム等のミネラル)の含有量については、本発明にかかる組成物の用途に応じて適切な量を設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0034】
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、当該促進組成物の種類や状態に応じて、上記各成分を公知の方法で所望の組成となるように配合すればよい。なお、本発明の具体的な用途を後述するので、製造に関しては用途に記載されている内容も本発明の権利範囲に含まれる。
【0035】
〔DFA IIIのミネラル吸収促進作用の向上〕
後述する実施例に示すように、中鎖脂肪酸(特に、カプリル酸、カプリン酸)はDFA IIIと共同的に作用し、当該DFA IIIのカルシウムの吸収促進作用を強めている。また、中鎖脂肪酸のみの場合ではミネラル吸収に影響は見られなかった、DFA IIIと併用することで、カルシウム吸収量のみがより一層増加する結果も得られている。
【0036】
上記DFA IIIは、ミネラルのうち、カルシウム、マグネシウム、および鉄の吸収を促進するとともに、肝臓および脾臓中の鉄量も高めることが明らかとなっている(参考文献1:T. Suzuki, H. Hara, T. Kasai, F. Tomita: Effects of difructose anhydride III on calcium absorption in small and large intestines of rats. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 62(5), 837-841 (1998)、参考文献2:Kaosar Afsana, Kazuki Shiga, Satoshi Ishizuka, Hiroshi Hara: Ingestion of an indigestible saccharide, difructose anhydride III, restores tannic acid-induced suppression of iron absorption in rats. J. Nutr. 133(11):3553-3560 (2003))。このうち、カルシウムに関しては、小腸におけるTight Junction(TJ)経由の吸収促進作用が明らかとなっている(参考文献3:H. Mineo, H. Hara, N. Shigematsu, Y. Okuhara, F. Tomita: Melibiose, difructose anhydride III and difructose anhydride IV enhance net calcium absorption in rat small and large intestinal epithelium by increasing the passage of tight junctions in vitro. The Journal of Nutrition, 132 (11):3394-3399 (2002))。ここで、中鎖脂肪酸もTJの開口作用を有している(参考文献4:Hitoshi Mineo, Hiroshi Hara, Norihiro Shigematsu, Fusao Tomita:Indigestible disaccharides open tight-junctions and enhance net calcium, magnesium and zinc absorption in isolated rat small and large intestinal epithelium. Digestive Diseases and Sciences 49(1):122-132 (2004))。後述する実施例に示すように、本発明にかかる促進組成物を用いた場合、大腸での吸収作用は見られなかった。
【0037】
この点から、本発明では、DFA IIIが有するカルシウムの吸収促進作用のうち、小腸で生じる作用を中鎖脂肪酸(またはその塩やエステル)が増強していることがわかる。その結果、効率的にカルシウムを腸からの吸収させることが可能となる。
【0038】
以上の知見は、本発明者らによって独自の鋭意検討により見出されたものである。これまで、カルシウム吸収促進作用を有する食品素材としては様々な種類が知られており、複数種類の食品素材を組み合わせることも知られている。ここで、本発明では、DFA IIIに対して、これまでカルシウムの吸収促進に対して特段の作用・効果が知られていなかった中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルを組み合わせたものである。
【0039】
なお、カルシウムの吸収促進に対して作用効果の知られている脂質としては、リン脂質(例えば、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン)が知られている(特開平9−20676号公報参照、公開日:平成9年(1997)1月21日)。しかしながら、中鎖脂肪酸やその塩あるいはそのエステルについてはそのような作用効果はこれまで知られておらず、また、後述する実施例にも示すように、中鎖脂肪酸を単独で投与しただけではカルシウムの吸収促進効果は見られない。ところが、本発明者らが鋭意検討した結果、健康油としても知られている上記中鎖脂肪酸とDFA IIIとの組み合わせが、DFA IIIのカルシウムの吸収促進作用を増強することが明らかとなった。
【0040】
このように、本発明は、カルシウム吸収促進の技術分野で従来知られていなかった中鎖脂肪酸(またはその塩やそのエステル)を組み合わせて用いることに大きな特徴点を有しており、栄養成分として知られている中鎖脂肪酸をDFA IIIに単純に組み合わせた以上の優れた作用効果を発揮できるものである。
【0041】
〔本発明の利用〕
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物の利用方法は特に限定されるものではないが、例えば、カルシウムの吸収を促進するための栄養組成物として好適に用いることができる。栄養組成物の使用対象となる生物は特に限定されるものではなく、どのような生物であってもよいが、代表的にはヒトであり、それ以外には、家畜動物や実験動物等を挙げることができる。栄養組成物はどのような形でも摂取することができるが、経口摂取する方法が最も好ましい。したがって、本発明には、上記促進組成物を含有する飲食品も含まれる。
【0042】
本発明にかかる飲食品は、上記促進組成物を含有していればよいため、その種類は特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ビスケット、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、各種和菓子、各種洋菓子、各種冷菓等の菓子類;パン、麺類、ごはん、シリアル食品、豆腐もしくはその加工品(油揚げ類等)等の穀物加工食品;清酒、薬用酒等の発酵食品;みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料;ハム、ベーコン、ソーセージ等の畜農食品;かまぼこ、揚げ天、はんぺん等の水産加工品;果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶、豆乳などの飲料;ポタージュスープ等のスープ類;牛乳、ヨーグルト、チーズ、乳飲料等の乳製品;等の一般食品を挙げることができるが特に限定されるものではない。また、これら食品は、惣菜や弁当類、あるいは長期保存食品(缶詰、冷凍食品、レトルト食品等)等の形態となっていてもよい。これら一般食品への促進組成物の添加方法は特に限定されるものではなく、一般食品の種類に応じて公知の適切な方法を採用することができる。
【0043】
また、上記飲食品は、例えば、医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に、任意の食品に対して、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物を加え、その場で調製した飲食品の形態で患者に与えることもできる。したがって、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、液状であっても、粉末や顆粒などの固形状であってもよい。あるいは、アルコール飲料やミネラルウォーターに用時添加する易溶性製剤となっていてもよい。さらには、上記飲食品は、自然流動食、半消化態栄養食もしくは成分栄養食、またはドリンク剤等の加工形態とすることもできる。
【0044】
また、本発明にかかる飲食品には、健康食品や栄養食品等のように、一般食品でない特定用途に用いられる機能性食品を挙げることができる。具体的には、各種サプリメント等の栄養補助食品、特定保健用食品等を挙げることができる。サプリメント等の場合には、上記促進組成物を適当な形状に加工するだけでそのまま用いることができるし、必要に応じて第3の成分を添加して用いることもできる。
【0045】
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、カルシウムの吸収を促進するための医薬品として好適に用いることができる。医薬品の投与経路はどのようなものであってもよいが、本発明の特徴および目的(課題)から鑑みれば、経口投与が最も好ましい。
【0046】
本発明にかかる医薬品の剤形としては、経口投与が都合よく行われるものであればどのような剤形のものであってもよい。具体的には、例えば、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液体製剤;散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ等の固形製剤;等が挙げられる。これら剤形はそれぞれ単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0047】
上記医薬品においては、目的に応じて、製剤技術分野において通常使用し得る公知の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、安定化剤等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。より具体的には、固形製剤の場合には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。
【0048】
また、液体製剤の場合には、例えば、水、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。
【0049】
なお、前記飲食品において説明したように、本発明はサプリメント等の形態で用いることができるが、このようなサプリメントについても、上記医薬製剤の形態と同様で用いることができる。
【0050】
なお、上記飲食品および医薬品は、他のビタミン剤、ホルモン剤、その他の栄養剤、または微量元素もしくは鉄化合物と併用することができる。例えば、上記飲食品がドリンク剤の場合、必要に応じて、他の生理活性成分、ミネラル、ホルモン、栄養成分、香味剤等を混合することができる。これにより、嗜好飲料的性格を持たせることができるため好ましい。
【0051】
本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物は、上記のように飲食品、医薬品、またはこれらの素材として好適に用いることができる。それゆえ、本発明では、カルシウム吸収促進組成物の基本成分(DFA III、中鎖脂肪酸および/または塩・エステル、他の成分)以外の成分を含有する組成物を包括して薬学的組成物と称するものとする。
【0052】
本発明の主たる用途としては、通常の食事においてカルシウムの吸収を促進したり、カルシウムを含有する食品や製剤等と組み合わせてカルシウムを効率的に補給したりする用途を挙げることができる。したがって、上記薬学的組成物の中でも、本発明の好ましい使用形態としては、栄養補助食品を挙げることができる。この栄養補助食品の形態としては、上記サプリメントやドリンク剤等を挙げることができる。さらには、本発明にかかる薬学的組成物は、骨粗鬆症の予防用の薬剤としても有効に用いることができる。
【0053】
上記薬学的組成物を栄養補助食品や医薬品等として用いる場合には、上記DFA IIIおよび中鎖脂肪酸(その塩やエステルも含む)に加えて、さらにカルシウムも含有させておくことが好ましい。これによって、本発明にかかる薬学的組成物をカルシウム補給用組成物として好適に用いることができる。当該カルシウム補給用組成物の具体的な組成は特に限定されるものではなく、例えば、前述した〔促進組成物の組成〕に開示されている範囲内であれば、カルシウム補給用組成物として好ましく用いることができる。
【0054】
当該カルシウム補給用組成物の具体的な組成の一例を挙げると、重量比で、DFAIII:中鎖脂肪酸(その塩やエステルも含む):カルシウム=1〜3:0.5〜3:0.2〜3の範囲内にある組成を挙げることができる。
【0055】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、上記実施形態や後述する実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0056】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1〜3に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0057】
本実施例では、Sprague-Dawley系(SD系)の10週齢の雄ラットを用いて、以下の表1に示す8群に分けて試験飼育を14日間を行った。なお、実験に用いたラットは、実験前に7日間基本飼料で予備飼育を行った。また、基本飼料はAIN93G標準飼料をベースに調製した。
【0058】
【表1】

【0059】
試験飼育の期間中は、Pair feedingにより上記各群に対応する8種類の飼料を与えた。10〜14日目をバランステスト期間とし、4日間の糞を全量採取した。
【0060】
試験飼育が終了した後、ペントバルビタール麻酔下で放血屠殺した。盲腸は、両端を意図で結紮し、液体窒素中で瞬間凍結させた後、−40℃のフリーザーで保存した。内容物は蒸留水で5倍容量に希釈しホモジナイズした後、その1.5mlを灰化し、原子吸光法にてカルシウム量を測定した。
【0061】
採取した糞は、蒸留水を加え一晩膨潤させた後に凍結乾燥したものを、乳鉢も用いて均一化した。その約1.5gを灰化して、カルシウム含量を測定した。結果を図1に示す。
【0062】
各中鎖脂肪酸のみを飼料に添加しただけでは、カルシウムの吸収に変化は見られなかった。これに対して、基本飼料へDFA IIIの添加によりカルシウムの吸収量は増加した。さらに、DFA IIIを含有する飼料にカプリル酸またはラウリン酸を添加することで、カルシウムの吸収量がさらに増加した。
【0063】
ここで、DFA IIIのカルシウム吸収作用は、小腸および大腸とで起こることが分かっている。このうち大腸での作用は、腸内細菌による大腸発酵に依存することが分かっている。そこで、ラットの大腸発酵部位である盲腸の解析を行った。
【0064】
図2に盲腸内容物のpHを、図3に盲腸内容物の可溶化されたカルシウムの量を示す。図2に示すように、飼料へDFA IIIを添加すると盲腸内容物のpHは低下していることがわかる。また、図3に示すように、盲腸内で可溶化されたカルシウムも増加している。ただし、これらの数値は、基本飼料にDFA IIIおよび中鎖脂肪酸を添加した場合しなかった場合とで比較すると、中鎖脂肪酸の添加による増加は見られなかった(図3参照)。それゆえ、中鎖脂肪酸の添加は、DFA IIIによるカルシウムの吸収促進作用を増強するが、その作用は小腸で起こることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明では、DFA IIIが有しているカルシウム吸収促進作用をより一層向上させることができる。そのため、低用量でカルシウムの吸収を促進させることが可能となる。そのため、本発明は、各種機能性食品や健康食品の分野に有効に利用できるだけでなく、例えば骨粗鬆症等といった骨関係の疾患等の予防薬や治療薬等としても利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例において、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物を含有する飼料を与えられたラットの糞中のカルシウム含量を示すグラフである。
【図2】実施例において、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物を含有する飼料を与えられたラットにおける盲腸内容物のpHを示すグラフである。
【図3】実施例において、本発明にかかるカルシウム吸収促進組成物を含有する飼料を与えられたラットにおける盲腸内容物の可溶化カルシウムの量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイフルクトースアンハイドライド III(DFA III)と、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルとを含有することを特徴とするカルシウム吸収促進組成物。
【請求項2】
上記中鎖脂肪酸またはその塩あるいはそのエステルとして、カプリル酸およびカプリン酸の少なくとも何れかの中鎖脂肪酸またはそのナトリウム塩、あるいはそのエステルが用いられることを特徴とする請求項1に記載のカルシウム吸収促進組成物。
【請求項3】
さらに、オリゴ糖を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のカルシウム吸収促進組成物。
【請求項4】
上記中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステルは、上記DFA IIIに対して、重量比で1/6〜3倍の範囲内で配合されることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載のカルシウム吸収促進組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1項に記載のカルシウム吸収促進組成物を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項6】
飲食品、医薬品、またはこれらの素材として用いられることを特徴とする請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
上記飲食品が栄養補助食品であることを特徴とする請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
さらに、カルシウムを含有しており、少なくともカルシウム補給用として用いられることを特徴とする請求項5ないし7の何れか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
DFA III、中鎖脂肪酸および/またはその塩あるいはそのエステル、並びにカルシウムの重量比が、それぞれ、1〜3:0.5〜3:0.2〜3の範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の薬学的組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−241057(P2006−241057A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58217(P2005−58217)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】