説明

カルシウム結合発光蛋白質、それをコードする遺伝子およびその用途

【課題】より感度よく発光を検出することができるカルシウム結合発光蛋白質の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するアポクライティン蛋白質、該蛋白質を利用したカルシウムイオンの検出または測定。また該蛋白質のレポーター蛋白質、発光マーカーとしての利用。該蛋白質をコードするポリヌクレオチド、およびレポーター遺伝子などとして利用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカルシウム結合発光蛋白質、それをコードする遺伝子およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム結合発光蛋白質は、アポ蛋白質と、発光基質のペルオキシドとが複合体を形成した状態で存在する発光蛋白質である。カルシウム結合発光蛋白質は、カルシウムイオンと結合すると瞬間的に発光するという性質を有している。
【0003】
カルシウム結合発光蛋白質としては、イクオリン、オべリン、クライティン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボインなどが知られている。なかでもイクオリンはカルシウム結合発光蛋白質の代表的なものであり、その高次構造および発光メカニズムなどが詳細に報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2など参照)。イクオリンのカルシウムイオンに対する感受性は非常に高いので、微量カルシウムイオンの検出・定量や細胞内カルシウムイオンの濃度変化の測定などに利用されている。
【0004】
クライティンは、発光クラゲClytia gregariaから得られたカルシウム結合発光蛋白質である(非特許文献3など参照)。クライティンは、アポクライティンと、発光基質セレンテラジンのペルオキシドとが複合体を形成した状態で存在している。クライティンにカルシウムイオンが結合すると、瞬間的な発光を示し、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミドと二酸化炭素を生成する。
【0005】
ここで、クライティンは、クライティン−Iとクライティン−IIの2つのグループに分類できる(特許文献1および非特許文献4など参照)。2つのグループのうち、クライティン−IIは、カルシウムイオンが結合すると、瞬間的な発光を示す。クライティン−IIの発光は、クライティン−Iの発光と比較して、発光の減衰が早い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−22848号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inouye et al.(1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 3154-3158
【非特許文献2】Head et al. (2000) Nature 405, 372-376
【非特許文献3】Inouye, S. and Tsuji, F.I. (1993) FEBS Lett. 315, 343-346
【非特許文献4】Inouye, S (2008) J. Biochem.143, 711-717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記状況において、発光の減衰が早く感度よく発光を検出することができるカルシウム結合発光蛋白質などが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質などが、セレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有することを見出した。さらに、得られた前記ホロ蛋白質が、カルシウムイオンと結合することによって発する光は、発光の減衰が早く感度よく発光を検出することができることなどを見出した。これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の蛋白質、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体等を提供する。
【0010】
(1) 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
(2) 以下の(a)〜(d)のいずれかである上記(1)記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜16個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜16個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
(3) 以下の(a)〜(d)のいずれかである上記(1)記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜6個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜6個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
(4) 以下の(a)または(b)である上記(1)記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
(5) さらに精製のためのペプチド配列および/または分泌シグナルペプチド配列を含有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の蛋白質。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドまたはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質。
(7) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(8) 上記(7)記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
(9) 上記(8)記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
(10) 上記(9)記載の形質転換体を培養し、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質を生成させる工程を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質の製造方法。
(11) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質または上記(6)記載のホロ蛋白質を含むキット。
(12) 上記(7)記載のポリヌクレオチド、上記(8)記載の組換えベクターまたは上記(9)記載の形質転換体を含むキット。
(13) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質または上記(6)記載のホロ蛋白質を使用してカルシウムイオンを検出または定量する方法。
(14) 上記(7)記載のポリヌクレオチドをレポーター遺伝子として、プロモーター制御に関与する配列の活性を測定する方法。
(15) 上記(7)記載のポリヌクレオチドを細胞内で発現させ、発光蛋白質を形成させるステップを含む、細胞内カルシウム濃度の変化を測定する方法。(16) カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下又は非存在下、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛋白質と、セレンテラミド又はその類縁体とを反応させることを含む、蛍光蛋白質の製造方法。
(17) 前記反応を、還元剤の存在下において行う、上記(16)記載の方法。
(18) 前記反応を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下で行う、上記(16)又は(17)記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛋白質は、セレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる。本発明のある態様の蛋白質から形成したホロ蛋白質は、発光の減衰が早く感度よく発光を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】発現ベクターpBlue-CLI-ESNAの構成を示す図である(実施例1)。(a)pBlue-CLI-ESNAの概略図、(b)pBlue-CLI-ESNAの塩基配列の概略図。
【図2】発現ベクターpiP-H-CLI-ESNAの構成を示す図である(実施例3)。(a)piP-H-CLI-ESNAの概略図、(b)piP-H-CLI-ESNAの塩基配列の概略図。
【図3】SDS-PAGEによる分析結果を示す図である(実施例4)。レーン1. 蛋白質分子量マーカー(テフコ社)、レーン2. piP-H-CLI-ESNAを発現させた大腸菌の形質転換株の超音波破砕物を5,000gで10分間遠心して得られた上清 (培養菌体100 μl相当)、レーン3. ニッケルキレートカラムからの精製画分 (蛋白量 29.5 μg)、レーン4. ブチルセファロースカラムからの精製画分 (蛋白量 2.2 μg)
【図4】CLI−ESNA、AQ(イクオリン)、CL−I(クライティン-I)、CL−II(クライティン-II)およびOb(オベリン)発光パターンの測定結果を示す図である(実施例6)。
【図5】組換えクライティン-ESNAの生物発光スペクトルおよび組換えアポクライティン-ESNAとセレンテラミドより調製した合成蛍光蛋白質の蛍光スペクトルを示す図である。A: カルシウム溶液添加による組換えクライティン-ESNAの生物発光スペクトル。B:組換えアポクライティン-ESNAとセレンテラミドより調製したカルシウム結合型合成蛍光蛋白質の335 nmの励起光による蛍光スペクトル。C:組換えアポクライティン-ESNAとセレンテラミドより調製したカルシウム非結合型合成蛍光蛋白質の335 nmの励起光による蛍光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
1.本発明の蛋白質
本発明の蛋白質とは、配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質および配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質を意味する。
【0015】
実質的に同質の活性もしくは機能とは、例えば、(i)前記蛋白質がセレンテラジンのペルオキシドまたはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してホロ蛋白質を形成することができる機能、(ii)前記蛋白質がセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能、(iii)前記ホロ蛋白質がカルシウムイオンと結合することによって生じる発光の最大発光強度(Imax)が、配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質の最大発光強度(Imax)の1/4以上、好ましくは1/3以上、より好ましくは1/2以上、さらに好ましくは1/1.5以上であること、(iv)前記ホロ蛋白質がカルシウムイオンと結合することによって生じる発光の半減期(T1/2、秒)が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の半減期(T1/2、秒)の4倍以下、好ましくは3倍以下、より好ましくは2倍以下、さらに好ましくは1.5倍以下であること、などのいずれかを意味する。なお、上記の発光活性や発光パターンの測定は、例えば、Shimomura 0.et al (1988) Biochem. J.251,405-410およびShimomura 0.et al. Biochem. J. (1989)261, 913-920などに記載の方法によって測定することができる。
【0016】
具体的には、例えば、前記ホロ蛋白質にカルシウム溶液を加えることにより発光反応を開始させ、発光測定装置を用いて発光活性または発光パターンを測定することができる。発光測定装置としては、市販されている装置、例えばTD−4000(ラボサイエンス社製)、Centro LB 960(ベルトールド社製)などを使用することができる。
【0017】
本明細書において、「蛋白質がセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してホロ蛋白質を形成する」とは、(1)蛋白質が、セレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してホロ蛋白質を形成すること、だけではなく(2)蛋白質が、酸素存在下に、セレンテラジンもしくはその誘導体と接触することにより、蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含有するホロ蛋白質(複合体)を形成すること、をも意味する。
【0018】
本明細書において、セレンテラジン誘導体とは、本発明の蛋白質と結合し、カルシウムイオンの作用によって発光しうるホロ蛋白質を形成することができる化合物を意味する。
【0019】
本発明の蛋白質としては、より具体的には、例えば、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつ配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつ配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質、
などが挙げられる。
【0020】
配列番号:2のアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、例えば、
(a)配列番号:2、4または6のアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2、4または6のアミノ酸配列を含有する蛋白質、
などが挙げられる。
【0021】
配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有する蛋白質としては、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有する蛋白質、
などが挙げられる。
【0022】
上記「1〜複数個のアミノ酸が置換された」とは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の置換があることを意味する。
【0023】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0024】
本明細書において、「1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜16個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個である。置換したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。このような蛋白質は、“Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)”、“Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)”、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0025】
配列番号:2のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換位置としては、107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目以外の位置であれば、特に限定されないが、例えば、1番目〜12番目、47番目〜103番目などからなる群から選択される1〜複数個の位置を挙げることができる。特には、4番目、5番目、6番目、8番目、11番目、47番目、49番目、52番目、53番目、55番目、56番目、59番目、60番目、61番目、62番目、64番目、67番目、68番目、69番目、71番目、72番目、74番目、75番目、76番目、77番目、78番目、79番目、81番目、82番目、83番目、84番目、86番目、87番目、88番目、91番目、92番目、93番目、95番目、96番目、97番目、98番目、99番目、101番目、102番目、103番目などからなる群から選択される1〜複数個の位置を挙げることができる。
【0026】
本発明の特に好ましい態様の蛋白質は、(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質、(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質などである。
【0027】
本発明の蛋白質はさらに他のペプチド配列をN末端および/またはC末端、好ましくはN末端に含んでいてもよい。他のペプチド配列としては、例えば、精製のためのペプチド配列、分泌シグナルペプチド配列、抗体認識可能なエピトープ配列などからなる群から選択される少なくとも1つのペプチド配列を挙げることができる。他のペプチド配列は、好ましくは、精製のためのペプチド配列および/または分泌シグナルペプチド配列である。精製のためのペプチド配列としては、当技術分野において用いられているペプチド配列を使用することができる。精製のためのペプチド配列としては、例えば、ヒスチジン残基が4残基以上、好ましくは6残基以上連続したアミノ酸配列を有するヒスチジンタグ配列、グルタチオン S−トランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインのアミノ酸配列またはプロテインAのアミノ酸配列などが挙げられる。分泌シグナルペプチドとは、当該分泌シグナルペプチドに結合された蛋白質またはポリペプチドを、細胞膜透過させる役割を担うペプチド領域を意味する。このような分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、当技術分野において周知であり、報告されている(例えばvon Heijine G (1988) Biochim. Biohys. Acra 947: 307-333、von Heijine G (1990) J. Membr. Biol. 115: 195-201など参照)。分泌シグナルペプチドとしては、より具体的には、例えば、大腸菌の外膜蛋白質A由来の分泌シグナルペプチド(OmpA)(Ghrayeb, J. et al. (1984) EMBO J. 3:2437-2442)、コレラ菌由来コレラトキシン由来の分泌シグナルペプチドなどが挙げられる。
【0028】
本発明の蛋白質の取得方法については特に制限はない。本発明の蛋白質としては、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換え蛋白質であってもよい。本発明の蛋白質を化学合成する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等により合成することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。本発明の蛋白質を遺伝子組換え技術により作製する場合には、通常の遺伝子組換え手法により作製することができる。より具体的には、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA)を適当な発現系に導入することにより、本発明の蛋白質を作製することができる。本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド、本発明の蛋白質の発現系での発現などについては、後記する。
【0029】
本発明の蛋白質を、発光基質であるセレンテラジンまたはその誘導体(例えば、h-セレンテラジン、e-セレンテラジン、cl-セレンテラジンch-セレンテラジン、hcp-セレンテラジンなど)と、酸素存在下に接触させることにより、本発明の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドまたはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質を得ることができる。以下、「セレンテラジンまたはその誘導体」を、単に「セレンテラジン」と称することがある。本明細書中、本発明の蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシドまたはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質を、「本発明のホロ蛋白質」と称することがある。ここで、本発明のホロ蛋白質(発光蛋白質)とは、本発明の蛋白質(アポ蛋白質)とセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとを含有する複合体(ホロ蛋白質)を意味する。本発明のホロ蛋白質としては、本発明の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質、本発明の蛋白質とセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質などが挙げられる。本発明の蛋白質とセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質としては、例えば、本発明の蛋白質とh-セレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質、本発明の蛋白質とe-セレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質、本発明の蛋白質とn-セレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質、本発明の蛋白質とch-セレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質、本発明の蛋白質とhcp-セレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質などが挙げられる。本発明のホロ蛋白質は、本発明の蛋白質とセレンテラジンとから、公知のカルシウム結合発光蛋白質(例えば、イクオリンなど)と同様にして製造することができる。より具体的には、本発明のホロ蛋白質は、例えば、Shimomura 0.et al (1988) Biochem. J.251,405-410およびShimomura 0.et al. Biochem. J. (1989)261, 913-920などに記載の方法によって調製できる。本発明のホロ蛋白質は、酸素存在下において、本発明の蛋白質と、セレンテラジンと分子状酸素から生成するセレンテラジンのペルオキシドとが複合体を形成した状態で存在する。前記複合体にカルシウムイオンが結合すると、瞬間的な発光を示し、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミドと二酸化炭素を生成する。前記複合体(本発明のホロ蛋白質)を「本発明の発光蛋白質」と称することがある。
【0030】
2.本発明のポリヌクレオチド
本発明は、前述した本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、本発明の蛋白質をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよいが、好ましくはDNAである。DNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞・組織由来のcDNA、細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAなどが挙げられる。ライブラリーに使用するベクターは、特に制限はなく、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織からtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction(以下、RT-PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
【0031】
本発明のポリヌクレオチドには、
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(e)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(f)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド、を含有するポリヌクレオチド、
などが含まれる。
【0032】
配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドとしては、例えば、
(a)配列番号:1、3または5の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号:1、3または5の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
などが挙げられる。
【0033】
実質的に同質の活性もしくは機能とは、前記の通りである。
【0034】
また、「1〜複数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列」は、前記の通りである。
【0035】
あるアミノ酸配列に対して、1〜複数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドは、部位特異的変異導入法(例えば、Gotoh, T. et al., Gene 152, 271-275 (1995)、Zoller, M.J., and Smith, M., Methods Enzymol. 100, 468-500 (1983)、Kramer, W. et al., Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456 (1984)、Kramer W, and Fritz H.J., Methods. Enzymol. 154, 350-367 (1987)、Kunkel,T.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492 (1985)、Kunkel, Methods Enzymol. 85, 2763-2766 (1988)、など参照)、アンバー変異を利用する方法(例えば、Gapped duplex法、Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456 (1984)、など参照)などを用いることにより得ることができる。
【0036】
また目的の変異(欠失、付加、置換および/または挿入)を導入した配列をそれぞれの5’端に持つ1組のプライマーを用いたPCR(例えば、HoS. N. et al., Gene 77, 51 (1989)、など参照)によっても、ポリヌクレオチドに変異を導入することができる。
【0037】
また欠失変異体の一種である蛋白質の部分断片をコードするポリヌクレオチドは、その蛋白質をコードするポリヌクレオチド中の作製したい部分断片をコードする領域の5’端の塩基配列と一致する配列を有するオリゴヌクレオチドおよび3’端の塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、その蛋白質をコードするポリヌクレオチドを鋳型にしたPCRを行うことにより取得できる。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性もしくは機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、などであるのが好ましい。
【0039】
本発明のポリヌクレオチドは、さらに他のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを、5’末端および/または3’末端、好ましくは5’末端に含んでいてもよい。他のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、精製のためのペプチド配列、分泌シグナルペプチド配列などからなる群から選択される少なくとも1つのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。精製のためのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、当技術分野において用いられている精製のためのペプチド配列をコードする塩基配列を含有するポリヌクレオチドを使用することができる。精製のためのペプチド配列としては、前記したものなどが挙げられる。分泌シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、当記述分野において知られている分泌シグナルペプチドをコードする核酸配列を含有するポリヌクレオチドを使用することができる。分泌シグナルペプチドとしては、前記したものなどが挙げられる。
【0040】
3.本発明の組換えベクターおよび形質転換体
さらに、本発明は、上述した本発明のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび形質転換体を提供する。
【0041】
(1)組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリヌクレオチド(DNA)を連結(挿入)することにより得ることができる。より具体的には、精製されたポリヌクレオチド(DNA)を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入して、ベクターに連結することにより得ることができる。本発明のポリヌクレオチドを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、動物ウイルス等が挙げられる。プラスミドとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pBR325, pUC118, pUC119等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などがあげられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージなどがあげられる。動物ウイルスとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルスなど)などがあげられる。
【0042】
本発明のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクター中のプロモーターの下流に、発現可能なように連結される。用いられるプロモーターとしては、形質転換する際の宿主が動物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADH1プロモーター、GALプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0043】
本発明の組換えベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などがあげられる。
【0044】
(2)形質転換体の作成
このようにして得られた、本発明のポリヌクレオチド(すなわち、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド)を含有する組換えベクターを、適当な宿主中に導入することによって、形質転換体を作成することができる。宿主としては、本発明のポリヌクレオチド(DNA)を発現できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、シュードモナス属菌、リゾビウム属菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などがあげられる。エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia
coli)などがあげられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などがあげられる。シュードモナス属菌としては、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などがあげられる。リゾビウム属菌としては、例えば、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などがあげられる。酵母としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などがあげられる。動物細胞としては、例えば、COS細胞、CHO細胞などがあげられる。昆虫細胞としては、例えば、Sf9、Sf21などがあげられる。
【0045】
組換えベクターの宿主への導入方法およびこれによる形質転換方法は、一般的な各種方法によって行うことができる。組換えベクターの宿主細胞への導入方法としては、例えば、例えばリン酸カルシウム法(Virology, 52, 456-457 (1973))、リポフェクション法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987))、エレクトロポレーション法(EMBO J., 1, 841-845 (1982))などがあげられる。エシェリヒア属菌の形質転換方法としては、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)、Gene, 17, 107 (1982)などに記載の方法などがあげられる。バチルス属菌の形質転換方法としては、例えば、Molecular & General Genetics,168, 111 (1979)に記載の方法などがあげられる。酵母の形質転換方法としては、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,75,1929 (1978)に記載の方法などがあげられる。動物細胞の形質転換方法としては、例えば、Virology,52, 456 (1973)に記載の方法などがあげられる。昆虫細胞の形質転換方法としては、例えば、Bio/Technology, 6, 47-55 (1988)に記載の方法などがあげられる。このようにして、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)を含有する組換えベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
【0046】
4.本発明の蛋白質の製造
また、本発明は、前記形質転換体を培養し、本発明の蛋白質を生成させる工程を含む、本発明の蛋白質の製造方法を提供する。本発明の蛋白質は、前記形質転換体を本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(DNA)が発現可能な条件下で培養し、本発明の蛋白質を生成・蓄積させ、分離・精製することによって製造することができる。
【0047】
(形質転換体の培養)
本発明の形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。該培養によって、形質転換体によって本発明の蛋白質が生成され、形質転換体内または培養液中などに本発明の蛋白質が蓄積される。
【0048】
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する培地としては、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプンなどの炭水化物、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーなどが用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどが用いられる。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)などを、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)などを培地に添加してもよい。
【0049】
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加える。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加える。
【0050】
宿主が酵母である形質転換体を培養する培地としては、たとえばバークホールダー(Burkholder)最小培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980))や0.5%(w/v)カザミノ酸を含有するSD培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5330 (1984))があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0051】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する培地としては、たとえば約5〜20%(v/v)の胎児牛血清を含むMEM培地(Science, 122, 501 (1952)),DMEM培地(Virology, 8, 396 (1959))などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0052】
宿主が昆虫細胞である形質転換体を培養する培地としては、Grace's Insect Medium(Nature,195,788(1962))に非働化した10%(v/v)ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0053】
(本発明の蛋白質の分離・精製)
上記培養物から、本発明の蛋白質を分離・精製することによって、本発明の蛋白質を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体もしくは培養細胞、または培養菌体もしくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明の蛋白質の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
【0054】
具体的には、本発明の蛋白質が培養菌体内もしくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体もしくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明の蛋白質の粗抽出液を得ることができる。本発明の蛋白質がペリプラズムスペース中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば浸透圧ショック法など)により目的蛋白質を含む抽出液を得ることができる。本発明の蛋白質が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体もしくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明の蛋白質を含む培養上清を得ることができる。
【0055】
このようにして得られた抽出液もしくは培養上清中に含まれる本発明の蛋白質の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。本発明の蛋白質が上述した精製のためのペプチド配列を含有する場合、これを用いて精製するのが好ましい。具体的には、本発明の蛋白質がヒスチジンタグ配列を含有する場合にはニッケルキレートアフィニティークロマト法、S−トランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインを含有する場合にはグルタチオン結合ゲルによるアフィニティークロマト法、プロテインAのアミノ酸の配列を含有する場合には抗体アフィニティークロマト法を用いることができる。
【0056】
精製した本発明のアポ蛋白質を、還元剤(たとえばメルカプトエタノール、ジチオスレイトールなど)および酸素の存在下、発光基質であるセレンテラジンもしくはその誘導体と低温でインキュベーションすることにより、カルシウムイオン濃度依存的に発光する本発明のホロ蛋白質(発光蛋白質)を調製することができる。
【0057】
5.本発明の蛋白質などの利用
(カルシウムイオンの検出または定量)
上述したように、本発明の蛋白質(アポ蛋白質)は、セレンテラジンもしくはその誘導体と分子状酸素より生成するセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと非共有的な結合を形成することによって生成可能な蛋白質であって、且つカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質(発光蛋白質)を形成することができる。よって、本発明の蛋白質および本発明のホロ蛋白質は、カルシウムイオンの検出または定量に使用することができる。
【0058】
本発明の蛋白質をカルシウムイオンの検出または定量に使用する場合には、本発明の蛋白質(アポ蛋白質)とセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質を使用する。前記ホロ蛋白質は、前述した方法に従って製造することができる。カルシウムイオンの検出または定量は、検体溶液を直接ホロ蛋白質溶液に添加し、発生する発光を測定することにより行うことができる。あるいは、検体溶液にホロ蛋白質溶液を添加し、発生する発光を測定することにより、カルシウムイオンを検出または定量することもできる。また、前記ホロ蛋白質は、カルシウムイオンの検出または定量を行う測定系に添加する前に、予め本発明の蛋白質(アポ蛋白質)水溶液とセレンテラジンまたはその誘導体(例えば、h-セレンテラジン、e-セレンテラジン、cl-セレンテラジン、ch-セレンテラジン、hcp-セレンテラジンなど)とを接触させて生成させたものを用いてもよい。また、測定系中で、本発明の蛋白質(アポ蛋白質)とセレンテラジンまたはその誘導体)とを接触させることにより、本発明の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質を生成させてもよい。生成したホロ蛋白質は、本発明の蛋白質(アポ蛋白質)とセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとの複合体(発光蛋白質)であり、前記複合体(すなわち本発明のホロ蛋白質)はカルシウムイオン濃度依存的に発光する。従って、本発明の蛋白質(アポ蛋白質)または本発明のホロ蛋白質は、カルシウムイオンの検出に使用することができる。カルシウムイオンの検出は、具体的には、前述の通り、検体溶液を直接ホロ蛋白質溶液に添加し、発生する発光を測定することにより行うことができる。あるいは、検体溶液にホロ蛋白質溶液を添加し、発生する発光を測定することによりカルシウムイオンを検出することもできる。
【0059】
カルシウムイオンの検出または定量は、カルシウムイオンによる本発明のホロ蛋白質の発光を、発光測定装置を用いて測定することにより行うことができる。発光測定装置としては、市販されている装置、例えば、Centro LB 960(ベルトールド社製)などを使用することができる。カルシウムイオン濃度の定量は、ホロ蛋白質を用いて、既知のカルシウムイオン濃度に対する発光標準曲線を作成することにより、測定可能である。
【0060】
本発明の蛋白質は、本発明の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドまたはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質を作製し、前記ホロ蛋白質をマイクロインジェクション法などの手法により細胞内に直接導入することによって、生理的条件下の細胞内カルシウムイオン濃度変化の検出に利用することもできる。
【0061】
本発明の蛋白質は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、アポ蛋白質遺伝子(本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド)を細胞内で発現させることによって、細胞内で生成させてもよい。さらに、生成した本発明の蛋白質(アポ蛋白質)に細胞外よりセレンテラジンまたはその誘導体を付与することにより、ホロ蛋白質を生成させてもよい。
【0062】
このようにして細胞内に導入した、または細胞内で生成した本発明のホロ蛋白質を用いて、外部刺激(たとえば、レセプターに関与する薬剤による刺激等)に対する細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を測定することもできる。
【0063】
(レポーター蛋白質としての利用)
本発明の蛋白質は、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することもできる。本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチド(すなわち、本発明のポリヌクレオチド)を、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列(例えば、エンハンサーなど)に融合したベクターを構築する。前記ベクターを宿主細胞に導入し、本発明の蛋白質に由来する発光(すなわち、本発明のホロ蛋白質の発光)を検出することにより、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列の活性を測定することができる。
【0064】
本発明のポリヌクレオチドは、上述のようにして、レポーター遺伝子として利用することができる。
【0065】
(発光による検出マーカーとしての利用)
本発明の蛋白質は、発光による検出マーカーとして利用することができる。本発明の検出マーカーは、例えば、イムノアッセイまたはハイブリダイゼーションアッセイなどにおける目的物質の検出に利用することができる。本発明のホロ蛋白質を化学修飾法など通常用いられる方法により目的蛋白質あるいは目的核酸と結合させて使用することができる。このような検出マーカーを用いた検出方法は、通常の方法によって行うことができる。また、本発明の検出マーカーは、例えば、目的蛋白質との融合蛋白質として発現させ、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入することによって、前記目的蛋白質の分布を測定するために利用することもできる。このような目的タンパク質などの分布の測定は、発光イメージング等の検出法などを利用して行うこともできる。なお、本発明の蛋白質は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることもできる。
【0066】
(アミューズメント用品の材料)
本発明の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなる複合体(本発明のホロ蛋白質)は、微量のカルシウムイオンと結合するだけで発光する。前記複合体(本発明のホロ蛋白質)の発光は既知の発光蛋白質の5倍以上の発光強度を示す。よって、本発明の蛋白質、本発明のホロ蛋白質などは、アミューズメント用品の材料の発光基材として好適に使用することができる。アミューズメント用品としては、たとえば、発光シャボン玉、発光アイス、発光飴、発光絵の具等があげられる。本発明のアミューズメント用品は、通常の方法によって製造することができる。
【0067】
6.本発明のキット
本発明は、本発明の蛋白質、本発明のホロ蛋白質、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換えベクターおよび本発明の形質転換体から選択されるいずれかを含むキットも提供する。本発明のキットには、さらにセレンテラジンもしくはその誘導体を含んでいてもよい。本発明のキットは、通常用いられる材料および方法で製造することができる。本発明のキットは、例えば、サンプルチューブ、プレート、キット使用者に対する指示書、溶液、バッファー、試薬、標準化のために好適なサンプルまたは対照サンプルを含んでもよい。
【0068】
本発明のキットは、上述したカルシウムイオンの検出または定量、レポーター蛋白質もしくはレポーター遺伝子を用いた測定、発光マーカーなどに利用することができる。
【0069】
発明を実施するための形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0070】
6.蛍光蛋白質6.1.蛍光蛋白質の製造方法
本発明の蛍光蛋白質の製造方法において製造する蛍光蛋白質は、本発明の蛋白質に、セレンテラミド又はその類縁体が配位した複合体である。本発明の蛍光蛋白質は、光の励起を受けて蛍光を発生することができる。本発明のいくつかの態様の蛍光蛋白質は、生物発光スペクトルと蛍光発光スペクトルを有し、例えば、蛍光最大波長が、発光最大波長に比べ、長波長側にシフトしたものである。
【0071】
本発明では、蛍光蛋白質を、セレンテラミド又はその類縁体から次のように製造する。すなわち、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下又は非存在下、本発明の蛋白質を、セレンテラミド又はその類縁体に反応させることで、蛍光蛋白質を製造する。
【0072】
本発明において蛍光蛋白質を製造するのに用いるセレンテラミド又はその類縁体として、例えば、WO2005/014633号パンフレットの6頁15行〜7頁23行に記載の化合物、下記一般式(1)で表される化合物などが挙げられる。
【化1】

で表わされる化合物
(式中、
は、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のアリールアルキル、脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、脂肪族環式基、又は複素環式基であり、
は、水素、又は−(SO)Rであり、
は、水素、水酸基、メトキシ、又はアセトキシであり、
は、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のアリールアルキル、又は脂肪族環式基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖のアルキルであり、
1は、−C(=S)−、又は−SO−である。)。
【0073】
ここで、一般式(1)において、Rは、フェニル、p−メチルフェニル、p−ヒドロキシフェニル、p−メトキシフェニル、p−アセトキシフェニル、p−ニトロフェニル、ベンジル、α−ヒドロキシベンジル、4−メチルベンジル、4−ヒドロキシベンジル、4−メトキシベンジル、4−アセトキシベンジル、4−ニトロベンジル、フェニルエチル、メチル、エチル、プロピル、2−メチルプロピル、2−メチルプロパニル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル、アダマンチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル、又はチオフェン−2−イルであることが好ましい。
また、一般式(1)において、Rは、水素、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、4−ヒドロキシフェニルスルホニル、4−メトキシフェニルスルホニル、4−アセトキシフェニルスルホニル、4−ニトロフェニルスルホニル、ベンジルスルホニル、α−ヒドロキシベンジルスルホニル、4−メチルベンジルスルホニル、4−ヒドロキシベンジルスルホニル、4−メトキシベンジルスルホニル、4−アセトキシベンジルスルホニル、4−ニトロベンジルスルホニル、フェニルエチルスルホニル、メタンスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、2−メチルプロピルスルホニル、2−メチルプロパニルスルホニル、シクロヘキシルメチルスルホニル、シクロヘキシルエチルスルホニル、アダマンチルメチルスルホニル、又はシクロペンチルメチルスルホニルであることが好ましい。
【0074】
本発明において蛍光蛋白質を製造するのに用いるセレンテラミド又はその類縁体として、好ましくは、WO2005/014633号パンフレットの42頁19行〜130/1頁に記載の化合物、下記化合物などからなる群から選択される化合物を挙げることができる。
【化2】

【0075】
本発明において蛍光蛋白質を製造するのに用いるセレンテラミド又はその類縁体として、さらに好ましくは、セレンテラミド、e−セレンテラミド、ch-セレンテミドなどを挙げることができる。
【0076】
セレンテラミド又はその類縁体は、例えば、後述の参考例1に記載の方法、Shimomura & Johnson, Tetrahedron Lett. (1973) 2963-2966に記載の方法、Teranishi & Goto Bull.Chem.Soc.Jpn (1990) 63:3132-3140に記載の方法、Shimomura & Teranishi Luminescence (2000) 15:51-58に記載の方法など、又はこれらに準ずる方法にて調製することができる。
【0077】
ここで、一般式(1)で表わされる化合物のうち、下記一般式(2)
【化3】

(式中、R、R、及びRは、前記の通りである。)で表わされる化合物は、例えば、
一般式(4)
【化4】

で表わされる化合物(式中、Rは、前記の通りである。)と、
一般式(5)
【化5】

で表わされる化合物(式中、Rは、前記の通りである。)を反応させることにより、製造することができる。
【0078】
一般式(4)で表わされる化合物は、公知の製造方法で製造することができる。例えば、一般式(4)で表わされる化合物は、Kishi, Y. et al., Tetrahedron Lett., 13, 2747-2748 (1972)、又はAdamczyk, M. et al., Org. Prep. Proced. Int., 33, 477-485 (2001)に記載の方法又はそれに準ずる方法で製造することができる。より具体的には、次のようにして、一般式(4)で表わされる化合物を製造することができる。すなわち、まず、4塩化チタンなどのルイス酸触媒を用いて置換フェニルグリオキサールアルドキシムとグリシノニトリル誘導体との環化反応を行い、ピラジンオキシドを形成した後、Raney Ni等を触媒として用いた接触水素還元により製造するか、又は2-アミノ-5-ブロモピラジン誘導体と置換フェニルホウ酸或は置換フェニルホウ酸ピナコールエステルとの鈴木-宮浦カップリング反応を行うことで製造できる。
【0079】
一般式(5)で表わされる化合物も、公知の製造方法で製造することができ、或いは、市販のものを入手することができる。具体的には、例えば、1)対応する置換ベンジルスルホン酸又はその塩に対して過剰の塩化チオニルを作用させて加熱還流した後、減圧濃縮するか、又は、2)対応する置換ベンジルスルホン酸又はその塩に対してジクロロメタンなどの溶媒中、触媒量のN、N-ジメチルホルムアミド(DMF)存在下、対応するカルボン酸に対して二塩化オキサリルをさせた後、減圧濃縮することにより、或いは3)置換ベンジルGrignard試薬に対し塩化スルフリルを反応させるか、のいずれかの方法又はそれらに準ずる方法で製造することができる。また、ベンジルスルホニルクロリドは東京化成工業株式会社、和光純薬工業株式会社、関東化学株式会社、などから購入することができる。
【0080】
ここで、一般式(2)で表わされる化合物の製造方法において使用される溶媒は、水系、又はアルコール類以外であればであれば特に限定されず、種々のものを使用できる。例えば、ピリジン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、トルエン、ジオキサン又はエーテル等であり、これらは単独で又は混合して使用することができる。
【0081】
また、一般式(2)で表わされる化合物の製造方法において、反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、-20℃〜200℃で、0.25時間〜72時間、好ましくは、-20℃〜100℃で、0.5時間〜36時間、より好ましくは、0℃〜50℃で、1時間〜24時間である。
【0082】
さらに、一般式(2)で表わされる化合物のうちR=Hである一部の化合物については、R=SO2R1である化合物、すなわちジスルホン酸アミド化合物のアルカリ加水分解を行い、一方のスルホン酸アミド結合のみを選択的に切断するか、又はそれに準ずる方法で製造することができる。
【0083】
また、一般式(1)で表わされる化合物のうち、下記一般式(3)
【化6】

(式中、R、R、及びRは、前記の通りである。)で表わされるチオアミド系セレンテラミドは、例えば、
一般式(6)
【化7】

で表わされる化合物(式中、R、R、及びRは、前記の通りである。)に、ローソン試薬、又は五硫化二リン(十硫化四リン)を反応させることにより、製造することができる。
【0084】
一般式(6)で表わされる化合物は、公知の製造方法で製造することができる。具体的には、例えば、一般式(4)で表わされる化合物、及び一般式(7)で表わされる酸ハライド又はその類縁体とを有機溶媒中、塩基の存在下、又は塩基性有機溶媒中で反応させるか、又はそれらに準ずる方法で製造することができる。
【0085】
【化8】

(式中、Rは前記の通りであり、Xはハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)、又はRC(=O)−である。)
【0086】
ここで、一般式(3)で表わされる化合物の製造方法において使用される溶媒は、水系、又はアルコール類、ケトン類、エステル類以外であれば特に限定されず、種々のものを使用できる。例えば、トルエン、ベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、又はピリジン等であり、これらは単独で又は混合して使用することができる。
【0087】
また、一般式(3)で表わされる化合物の製造方法において、反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、0℃〜200℃で、0.5時間〜72時間、好ましくは、室温〜200℃で、1時間〜48時間、より好ましくは、60℃〜150℃で、2時間〜24時間である。
【0088】
蛍光蛋白質の製造のために用いるセレンテラミド又はその類縁体の量は、特に制限されないが、本発明の蛋白質1molに対して、例えば、1mol〜5mol、好ましくは、1mol〜2mol、さらに好ましくは、1mol〜1.2molである。
【0089】
本発明のいくつかの態様では、蛍光蛋白質を製造するのに、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価又は3価のイオンが用いられる。ここで、カルシウムイオンと置換可能な2価又は3価のイオンとは、カルシウムイオンに代えてカルシウム結合型発光蛋白質と反応させた場合に、発光反応を起こす2価又は3価のイオンのことである。つまり、カルシウム結合型発光蛋白質に対して、カルシウムイオンと同等の作用をするものである。カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンは、例えば、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、鉛イオン(Pb2+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、イットリウムイオン(Y3+)、ランタンイオン(La3+)、サマリウムイオン(Sm3+)、ユウロピウムイオン(Eu3+)、ジスプロシウムイオン(Dy3+)、ツリウムイオン(Tm3+)、又はイットリビウムイオン(Yb3+)等を挙げることができる。これらのうち、2価の金属イオンが好ましい。より好ましくは遷移金属以外の2価の金属イオン、例えばCa2+、Sr2+、又はPb2+等である。
【0090】
カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを用いる場合、その量は、特に制限されないが、本発明の蛋白質1molに対して、例えば、4mol〜10mol、10mol〜100mol、100mol〜1000molなどである。
【0091】
本発明の蛍光蛋白質の製造において、本発明の蛋白質とセレンテラミド又はその類縁体との反応は、還元剤の存在下で行うのが好ましい。ここで用いる還元剤としては、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、又はメルカプトエタノール等を挙げることができる。本発明の蛍光蛋白質の再生に影響しなければ、本発明の蛍光蛋白質の製造のために用いる還元剤の量は、特に制限されないが、本発明の蛋白質にシステイン残基が2つ以上存在する場合、S-S 結合形成を防ぐ濃度であるのが好ましい。例えば、最終濃度が、1 mMジチオトレイトールや0.1%メルカプエタノールである。
【0092】
本発明のいくつかの態様では、本発明の蛋白質とセレンテラミド又はその類縁体との反応を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下で行う。この場合、キレート剤の量は、蛍光蛋白質の製造に影響しなければ、その濃度は特に制限されない。イオン状態の本発明の蛋白質1molには、3molのカルシウムイオンが結合することが示されていることより、例えば、3mol 以上が好ましい。
【0093】
蛍光蛋白質を製造するのに用いるキレート剤は、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2若しくは3価のイオンと強く結合するものであれば良く、特に制限されない。キレート剤の例として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N′,N′−四酢酸(EGTA)、trans−1,2−ジアミノシクロヘキサンN,N,N′,N′−四酢酸(CyDTA)、又はN−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HIDA)等を挙げることができる。
【0094】
蛍光蛋白質の製造における反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば、0℃〜42℃で、0.1時間〜2時間、4℃〜37℃で、0.1時間〜2時間、又は4℃〜15℃で、0.1時間〜24時間である。
【0095】
このようにして得た蛍光蛋白質は、さらに精製に供しても良い。gFPの精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、又は適宜組み合わせて用いることができる。
【0096】
6.2.蛍光蛋白質の利用
(1)レポーター蛋白質としての利用
蛍光蛋白質は、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することができる。例えば、本発明の蛋白質をコードするポリヌクレオチドを、目的のプロモーター又は他の発現制御配列(例えば、エンハンサーなど)に融合したベクターを構築する。前記ベクターを宿主細胞に導入し、さらに、これに、セレンテラミド又はその類縁体を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下又は非存在下で接触させることで、蛍光蛋白質を生成させ、蛍光蛋白質に由来する蛍光を検出することにより、目的のプロモーター又は他の発現制御配列の活性を測定することができる。
【0097】
(2)検出マーカーとしての利用
本発明の蛍光蛋白質は、蛍光による検出マーカーとして利用することができる。検出マーカーは、例えば、イムノアッセイ又はハイブリダイゼーションアッセイなどにおける目的物質の検出に利用することができる。蛍光蛋白質を化学修飾法など通常用いられる方法により目的物質(蛋白質或いは核酸など)と結合させて使用することができる。このような検出マーカーを用いた検出方法は、通常の方法によって行うことができる。また、本発明の検出マーカーは、例えば、本発明の蛋白質と目的物質との融合蛋白質として発現させ、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入し、さらに、これに、セレンテラミド又はその類縁体を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下又は非存在下で接触させることで蛍光蛋白質を生成させること等によって、前記目的物質の分布を測定するために利用することもできる。このような目的物質などの分布の測定は、蛍光イメージング等の検出法などを利用して行うこともできる。なお、アポ蛋白質は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることもできる。
【0098】
(3)アミューズメント用品の材料
本発明の蛍光蛋白質は、アミューズメント用品の材料の蛍光材として好適に使用することができる。アミューズメント用品としては、たとえば、蛍光シャボン玉、蛍光アイス、蛍光飴、蛍光絵の具等があげられる。アミューズメント用品は、通常の方法によって製造することができる。
【0099】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を実施できる。発明を実施するための最良の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0100】
本明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
[配列番号:1]CLI−ESNAのDNAの塩基配列を示す。この塩基配列は、配列番号:3の第88番目〜第657番目の塩基配列または配列番号:5の第112番目〜第681番目の塩基配列を示す。
[配列番号:2]CLI−ESNAのアミノ酸配列を示す。このアミノ酸配列は、配列番号:4の第30番目〜第218番目のアミノ酸配列または配列番号:6の第38番目〜第226番目の塩基配列を示す。
[配列番号:3]実施例1で作製した発現ベクターpBlu−CLI−ESNAに挿入された、CLI−ESNAを含む蛋白質をコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:4]実施例1で作製した発現ベクターpBlu−CLI−ESNAによりコードされるCLI−ESNAを含む蛋白質のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:5]実施例3で作製した発現ベクターpiP−H−CLI−ESNAに挿入された、CLI−ESNAを含む蛋白質をコードするDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:6]実施例3で作製した発現ベクターpiP−H−CLI−ESNAにより発現される、CLI−ESNAを含む蛋白質のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:7]実施例1で用いたプライマーCLI-1N/XbaIの塩基配列を示す。
[配列番号:8]実施例1で用いたプライマーCL-I_S140P-Rの塩基配列を示す。
[配列番号:9]実施例1で用いたプライマーCL-I_S140P-Fの塩基配列を示す。
[配列番号:10]実施例1で用いたプライマーCLI-2-C/SalIの塩基配列を示す。
[配列番号:11]実施例1で用いたプライマーCL-I_E110D-Rの塩基配列を示す。
[配列番号:12]実施例1で用いたプライマーCL-I_E110D-Fの塩基配列を示す。
[配列番号:13]実施例1で用いたプライマーCL28_N179T,A180S-Rの塩基配列を示す。
[配列番号:14]実施例3で用いたプライマーCLI-N-EL-SacIの塩基配列を示す。
[配列番号:15]実施例3で用いたプライマーCLI-C-XhoIの塩基配列を示す。
[配列番号:16]CLIのcDNAクローンph41の塩基配列を示す。
[配列番号:17]CLIのcDNAクローンph41の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を示す。
[配列番号:18]CLIの塩基配列を示す。この塩基配列は、配列番号:16の第28番目〜第597番目の塩基配列を示す。
[配列番号:19]CLIのアミノ酸配列を示す。このアミノ酸配列は、配列番号:17の第10番目〜第198番目のアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0101】
以下に実施例により本発明を説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
【0102】
実施例1 組換えアポクライティン遺伝子の作製
カルシウム結合発光蛋白質のアポクライティンをコードするアポクライティン遺伝子を鋳型としてPCR法により組換えアポクライティン遺伝子を作製後、発現ベクターpBlueScript SK(+)(Stratagene社)に挿入し、発光パターンの解析を行った。
【0103】
具体的には、pBlue-CLI-ESNAを以下の手順で構築した。
pPh41(文献FEBS Lett. 315 (1993) 343-346.に記載。)を鋳型として2種のPCRプライマー:CLI-1N/XbaI(5’ c ggT CTA GAA GTC AAA CTC AGA CCC AAC TTC 3’(配列番号:7))およびCL-I_S140P-R(5' GTC TGA TGG GCA GAT TCC AGA 3'(配列番号:8))を用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施した。同様にpPH41を鋳型として2種のPCRプライマー:CL-I_S140P-F(5' ATC TGC CCA TCA GAC GAA GAC 3'(配列番号:9))およびCLI-2-C/SalI(5' ggc GTC GAC TTA AGG AAC AAA ATT GCC GTA 3'(配列番号:10))を用いて、PCRキットにてPCRを実施した。得られた各DNA断片を鋳型として2種のPCRプライマー:CLI-1N/XbaIおよびCLI-2-C/SalIを用いて、PCRキットにてPCRを実施して、所望のアポクライティン遺伝子領域を増幅した。得られたDNA断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製した。精製したDNA断片を常法により制限酵素XbaI/SalIにて消化した後、pBlueScriptSK(+)(Stratagene社)の制限酵素XbaI/SalI部位に連結する事によって、pBlue-CL-S140Pを構築した。DNAシークエンサー(ABI社製)にて塩基配列を決定する事により、インサートDNAの確認を行った。
【0104】
次いで、pBlue-CL-S140Pを鋳型として2種のPCRプライマー:CLI-1N/XbaIおよびCL-I_E110D-R(5' AAC AGC ATC TCC CCA GTC GCG 3'(配列番号:11))を用いて、PCRキットにてPCRを実施した。同様に、pBlue-CL-S140Pを鋳型として2種のPCRプライマー:CL-I_E110D-F(5' TGG GGA GAT GCT GTT TTC GAC 3'(配列番号:12))およびCL28_N179T,A180S-R(5' ggc GTC GAC TTA AGG AAC AAA ATT GCC GTA AAG ACC ATC ACT AGT GGG 3'(配列番号:13))を用いて、PCRキットにてPCRを実施した。得られた各DNA断片を鋳型として2種のPCRプライマー:CLI-1N/XbaIおよびCL28_N179T,A180S-Rを用いて、PCRキットにてPCRを実施して、所望のアポクライティン遺伝子領域を増幅した。得られたDNA断片をPCR精製キットで精製した。精製したDNA断片を常法により制限酵素XbaI/SalIにて消化した後、pBlueScriptSK(+)(Stratagene社)の制限酵素XbaI/SalI部位に連結する事によって、pBlue-CLI-ESNAを構築した(図1)。
【0105】
DNAシークエンサー(ABI社製)にて塩基配列を決定する事により、インサートDNAの確認を行った。pBlue-CLI-ESNAに挿入された、組換えアポクライティン−ESNAをコードするDNAの塩基配列を配列番号:3に示す。配列番号:3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
【0106】
実施例2 組換えアポクライティンの大腸菌内での発現
組換えアポクライティン遺伝子の大腸菌内での発現は、組換えアポクライティン遺伝子をpBlueScript SK(+)に挿入した実施例1で調製したベクターを含む宿主大腸菌JM83(ATCC登録株No.35607)を使用して行った。形質転換株をアンピシリン(100μg/ml)を含有する10mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストエクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、37℃で18時間培養を行った。培養菌体液を、冷却遠心機により5分間、10,000rpmで集菌した後、10mM EDTAを含む30mM Tris-HCl (pH7.6)で懸濁し、氷冷下で超音波破砕処理(ブランソン社製、ソニファイアーモデル250)を行い、遠心上清を回収した。
【0107】
実施例3 組換えアポクライティン−ESNA発現ベクター(piP-H-CLI-ESNA)の構築
大腸菌において、組換えアポクライティン−ESNAを発現させるために、組換えアポクライティン−ESNA遺伝子を有するpBlue-CLI-ESNAよりPCR法により調製し、特開2008−22848号公報の実施例4に記載の発現ベクターpiP-H-M(11)に挿入することにより発現ベクターpiP-H-CLI-ESNAを構築した。
【0108】
組換えアポクライティン−ESNA発現ベクターpiP-H-CLI-ESNAは、具体的には以下の方法に従って構築した。
組換えクライティン−ESNA遺伝子を有するpBlue-CLI-ESNAを鋳型として2種のPCRプライマー:CLI-N-EL-SacI(5’ ggc gAg CTC AGA CCC AAC TTC GAC AAC 3’(配列番号:14)SacI制限酵素サイトはアンダーライン)およびCLI-C-XhoI(5’ cgg CTC GAG TTA AGG AAC AAA ATT GCC GTA 3’(配列番号:15)XhoI制限酵素サイトはアンダーライン)を用いて、PCRキットにてPCRを実施して、所望の組換えアポクライティン-ESNA遺伝子領域を増幅した。得られたDNA断片をPCR精製キットで精製した。精製したDNA断片を常法により制限酵素SacI/XhoIにて消化した後、piP-H-M(11)の制限酵素SacI/XhoI部位に連結する事によって、図2に示すベクター、piP-H-CLI-ESNAを構築した。
【0109】
なお、DNAシークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定する事により、インサートDNAの確認を行った。piP-H-CLI-ESNAに挿入された、組換えアポクライティン-ESNAをコードするDNAの塩基配列を配列番号:5に示す。配列番号:5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:6に示す。
【0110】
実施例4 蛋白質の精製法
1)蛋白質の大腸菌での発現
発現ベクターpiP-H-CLI-ESNAを常法により大腸菌WA802株(ATCC登録株 No.33526)に導入し、得られた形質転換株をアンピシリン(100μg/ml)を含有する10mlのLB液体培地(水1リットルあたり、バクトトリプトン10g、イーストエクストラクト5g、塩化ナトリウム5g、pH7.2)に植菌し、さらに37℃で18時間培養を行った。次いで、その培養菌体液を新たなLB液体培地2リットル(400ml×5本)に添加して、37℃で18時間培養した。培養菌体液を、冷却遠心機により5分間、5,000rpm(6000×g)で集菌した。
【0111】
2)培養菌体からのアポクライティン-ESNA蛋白質の抽出
上記1)で集菌した菌体を200 ml(40mlx5本)の50mM Tris-HCl (pH7.6)で懸濁し、氷冷下で超音波破砕処理(ブランソン社製、ソニファイアーモデル250)を各3分間、3回行った。その菌体破砕液を10,000rpm(12,000×g)で20分間遠心分離後、得られた溶解性画分を組換えアポクライティン-ESNA蛋白質精製の出発材料とした。
【0112】
3)ニッケルキレートカラムクロマトグラフ法による組換えアポクライティン-ESNA蛋白質の精製
上記2)で得られた溶解性画分(200 ml)を、50mM Tris-HCl (pH7.6)で平衡化したニッケルキレートカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径6.5×2.5cm)に添加して組換えアポクライティン-ESNA蛋白質を吸着させた。吸着した組換えアポクライティン-ESNA蛋白質を、200mlの50mM Tris-HCl (pH7.6)で洗浄後、0.1Mイミダゾール(和光純薬工業社製)で溶出した。各画分の発光活性を測定し、発光活性を有する画分を集めた。
【0113】
4)組換えアポクライティン-ESNA蛋白質から組換えクライティン-ESNA蛋白質への変換
組換えアポクライティン-ESNA蛋白質から組換えクライティン-ESNA蛋白質への変換は、以下の条件で行った。
上記3)で得た精製組換えアポクライティン-ESNA蛋白質20mlを10mM DTTおよび、10mM EDTAを含む50mM Tris-HCl (pH7.6) 80mlに溶解し、エタノールに溶解したセレンテラジン0.4mgを加え、4℃で一昼夜放置し、組換えクライティン-ESNA蛋白質へと変換した。
【0114】
5)ブチルセファロースカラムクロマトグラフ法による組換えクライティン蛋白質の精製
セレンテラジンと複合体を形成した組換えクライティン-ESNAと複合体を形成しなかった組換えアポクライティン-ESNAの分離は、疎水性クロマトグラフィーであるブチルセファロース4ファーストフローゲルを用いて行った。すなわち、上記4)で得られた組換えクライティン-ESNA蛋白質(150 ml)を、硫酸アンモニウムの最終濃度が2Mになるように調整し、次いで、不溶画分を遠心分離によって除去し、その上澄み液を、2M-硫酸アンモニウムを含有する10mM Tris-HCl、2mM EDTA(pH7.6)で平衡化したブチルセファロース4ファーストフローカラム(アマシャムバイオサイエンス社、カラムサイズ:直径6.0×1.5cm)に添加して吸着させた後、カラムを2M-硫酸アンモニウムで洗浄した。1.2M-硫酸アンモニウムで溶出し、発光活性を有する組換えクライティン-ESNA画分を回収した。一方、組換えアポクライティン-ESNAは、10mM Tris-HCl、2mM EDTA(pH7.6)でのみ溶出した。
【0115】
蛋白量濃度は、Bradford法にもとづく市販のキット(バイオラッド社製)を用い、ウシ血清アルブミン(ピアス社製)を標準物質として用いて決定した。
【0116】
それぞれの精製過程画分について、還元状態で12%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEによる分析を行った。SDS-PAGEによる分析結果を図3に示す。2リットルの培養菌体から、5.3mgの組換えクライティン-ESNAを純度95%で得た。
【0117】
実施例5 発光活性の測定法
実施例4の組換えクライティン-ESNAの発光測定を、次のように行った。10mM EDTAを含む30mM Tris-HCl (pH7.6)に、2-メルカプトエタノール(1μl)、およびエタノールに溶解した基質セレンテラジン(1μg/μl)を混合した後、各精製段階の組換えアポクライティン-ESNA を添加し、氷上(4℃)で2時間反応を行い、再生組換えクライティン-ESNAを調製した。この再生組換えクライティン-ESNA溶液1μlへ、50mMカルシウム溶液を100μl/ウェル注入することにより発光反応を開始させ、発光プレートリーダーCentro LB960(ベルトールド社製)にて10秒間発光活性を測定し、その最大値(Imax)で示した。
【0118】
実施例6 組換えクライティン-ESNAと他の発光蛋白質との発光活性の比較
実施例5で得た組換えクライティン-ESNA(CLI−ESNA)と、他のホロ蛋白質(イクオリン(AQ)、クライティン−I(CL−I)、クライティンII(CL−II)、オベリン(Ob))との発光性能を比較するために、カルシウム添加による発光パターンを比較した。
【0119】
CLI−ESNA、AQ、CL−I、CL−IIおよびOb発光パターンの測定は次のように行った。10mM EDTAを含む30mM Tris-HCl (pH7.6)に、2-メルカプトエタノール(1μl)、およびエタノールに溶解した基質セレンテラジン(1μg/μl)を混合した後、CLI-ESNA、AQ、CL-I、CL-IIおよびObを添加して氷上(4℃)で2時間反応を行い、それぞれの再生反応を行った。この再生溶液へ、50mMカルシウム溶液を100μl/ウェル注入することにより発光反応を開始させ、発光プレートリーダーCentro LB960(ベルトールド社製)にて10秒間発光活性を測定し、その最大値(Imax)で示した。
【0120】
その結果を図4に示す。図4に示すように組換えクライティンと、他の発光蛋白質の発光パターンを時間に対する相対発光活性値で比較したところ、組換えクライティン-ESNAはAQ、Cl−I、Obなどに比べ発光の減衰が早いパターンを示した。その結果、Cl−Iに対して4つのアミノ酸変異を持つ組換えアポクライティン−ESNAから再生した組換えクライティン-ESNAは、Cl−Iに比べ高いS/N比を示すことが明らかとなった。
【0121】
参考例1 セレンテラミドの合成
合成に使用した4-メトキシフェニルアセチルクロライド(Aldrich社)、BBr3の1.0M CH2Cl2溶液(Aldrich社)、及びその他のすべての化学試薬は市販のものであり、そのまま使用した。
分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)には、あらかじめシリカゲルが塗布された(0.25mm)シリカゲルプレート(MERCK社、シリカゲル60 F254、カタログ番号1.05715.0009)を用いた。
分取カラムクロマトグラフィーには、シリカゲル(関東化学社、シリカゲル60N、球状、中性、カタログ番号37563-84)を使用した。
融点(Mp.)は、YANACO MP-J3を使用して測定した(未補正)。1H(300 MHz)核磁気共鳴スペクトル(NMRスペクトル)、および13C(75.5 MHz)NMRスペクトルは、Varian社製Gemini-300を用いてDMSO-d6(CIL社)中で測定した。1H NMRの化学シフトの基準には、測定溶媒であるDMSO-d6中の残存非重水素化ジメチルスルホキシドのピークをδ2.49とした。13C NMRの化学シフトの基準には、測定溶媒であるDMSO-d6のピークをδ 39.7とし、それぞれ単位ppmで示した。また、結合定数(J)は単位Hzで示した。略号s、m及びbrはそれぞれ、singlet、multiplet及びbroadを表す。赤外分光(IR)スペクトルは、DRS-8000Aを備えた分光計SHIMADZU IRPrestige-21を用い、拡散反射法により測定し、吸収帯は単位cm-1で示した。高分解能質量分析(HRMS)は、電子衝撃イオン化(EI)法の条件下で、質量分析計JEOL JMS-700を用いて行った。
【0122】
セレンテラミドの合成スキーム
【化9】

【0123】
セレンテラミドジメチルエーテル(IV)
アルゴン雰囲気下、ピリジン中の2-アミノ-3-ベンジル-5-(4-メトキシフェニル)ピラジン(II)(セレンテラミンメチルエーテルともいう)(Kishi et al., Tetrahedron Lett., 13, 2747-2748(1972);Adamczyk et al., Org. Prep. Proced. Int., 33, 477-485(2001))(502 mg、1.72 mmol)の溶液(5 mL)に対し、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(21.1 mg、172 μmol)及び4-メトキシフェニルアセチルクロリド(III)(527 μL、3.45 mmol)を続けて室温で加え、混合物を同じ温度で22.5時間攪拌した。これに対し炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(100 mL)を加え、ジクロロメタン(50 mL×3)を用いて混合物の抽出を行った。有機抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、減圧下で濃縮した。トルエン(20 mL×3)を用い、残留ピリジンを共沸して除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(85 g、ジクロロメタン/酢酸エチル=9/1)により精製し、淡黄色固体であるとしてセレンテラミドジメチルエーテル(IV)(617 mg、81.5%)を得た。酢酸エチルからの再結晶によって分析的に純粋なサンプルとして無色の固体を得た(全部で2回の再結晶により、458 mg、60.5%を得た)。
【0124】
Mp. 189.5-191 ℃; 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ3.61 (s, 2H), 3.73 (s, 3H), 3.80 (s, 3H), 4.03 (s, 2H), 6.88-6.93 (AA’BB’, 2H), 7.02-7.07 (2 ´ AA’BB’, 4H), 7.12-7.30 (m, 5H), 8.00-8.05 (AA’BB’, 2H), 8.87 (s, 1H), 10.43 (s, 1H); 13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6) δ 41.6, 55.1, 55.3, 113.9 (2C), 114.5 (2C), 126.2, 127.5, 128.0 (2C), 128.1, 128.2 (2C), 129.0 (2C), 130.2 (2C), 137.1, 138.3, 143.7, 148.2, 150.5, 158.2, 160.7, 170.3; IR (KBr, cm-1) 698, 833, 1034, 1177, 1256, 1495, 1514, 1543, 1672, 2833, 2957, 3265; HRMS (EI) m/z439.1898 (M+, C27H25N3O3requires 439.1896)。
【0125】
セレンテラミド(I)
アルゴン雰囲気下、無水ジクロロメタン中、セレンテラミドジメチルエーテル(IV)(660 mg、1.50 mmol)の溶液(20 mL)を、0 ℃で10分かけて三臭化ホウ素(6.01 mL、6.01 mmol)の1.0 Mジクロロメタン溶液に加え、同じ温度で15分間、混合物を攪拌した。混合物を室温になるまで暖め、21時間攪拌し続けた。これに対し炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(100 mL)を加え、混合物を減圧下で濃縮してジクロロメタンを除去した。残留懸濁水溶液をろ過し、回収した固体を真空で乾燥させ、淡黄色固体としてセレンテラミド(I)(570 mg、92.3))%)を得た。
エタノールからの再結晶によって分析的に純粋なサンプルとして無色の固体を得た(103 mg、16.7%)。
【0126】
Mp. 242-243 ℃ (dec.); 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 3.54 (s, 2H), 4.01 (s, 2H), 6.69-6.75 (AA’BB’, 2H), 6.84-6.90 (AA’BB’, 2H), 7.00-7.06 (AA’BB’, 2H), 7.11-7.24 (m, 5H), 7.89-7.95 (AA’BB’, 2H), 8.80 (s, 1H), 9.28 (br s, 1H), 9.85 (br s, 1H), 10.35 (s, 1H); 13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6) δ41.7, 115.2 (2C), 115.8 (2C), 125.7, 126.2, 126.6, 128.0 (2C), 128.2 (2C), 129.0 (2C), 130.2 (2C), 136.8, 138.4, 143.4, 148.6, 150.5, 156.2, 159.1, 170.5; IR (KBr, cm-1) 704, 1157, 1229, 1267, 1364, 1450, 1493, 1516, 1545, 1593, 1611, 1673, 3022, 3285, 3385; HRMS (EI) m/z 411.1582 (M+, C25H21N3O3requires 411.1583)。
【0127】
実施例7 セレンテラミド及び組換えアポクライティン-ESNAからの新規合成蛍光蛋白質の調製
10mM CaCl2および1mM DTTを含む1mlの50mM Tris-HCl(pH 7.6)中、組換えアポクライティン-ESNA(0.5mg、22nmol)(実施例4 3)で得られたもの)及び10μlのセレンテラミド(無水メタノール中1.2μg/μl、29nmol)(参考例1で得られたもの)を混合し、この混合物を4℃で16時間静置することにより、蛍光蛋白質を合成した。続いて、過剰のセレンテラミドを除去するために、遠心濃縮器Amicon Ultra-4 (10,000 MWCO、MILLIPORE 社)を用いて4℃、5,000 x gで20分間処理し、混合物を0.1 mlまで濃縮した。濃縮された溶液は、長波UVランプ(366nm)の下で強い黄色蛍光を示した。また、図5にしめすように、335nmの波長で励起することにより、蛍光最大波長が513nmである蛍光発光スペクトルを得た(図5のスペクトルB)。
【0128】
実施例8 セレンテラミド及び組換えアポクライティン-ESNAからのカルシウム非結合型新規合成蛍光蛋白質の調製
10mM EDTA及び 1mM DTTを含む1mlの50mM Tris-HCl(pH 7.6)中、組換えアポクライティン-ESNA(0.5mg、22nmol)(実施例4 3)で得られたもの)及び10μlのセレンテラミド(無水メタノール中1.2μg/μl、29nmol)(参考例1で得られたもの)を混合し、この混合物を4℃で16時間静置することにより、カルシウム非結合型蛍光蛋白質を合成した。続いて、過剰のセレンテラミドを除去するために、遠心濃縮器Amicon Ultra-4 (10,000 MWCO、MILLIPORE 社)を用いて4℃、5,000 x gで20分間処理し、混合物を0.1 mlまで濃縮した。図5にしめすように、335nmで励起することにより、蛍光最大波長が513nm である蛍光発光スペクトルを得た(図5のスペクトルC)。
【0129】
実施例9 蛍光および生物発光スペクトルの測定
実施例7および8の合成蛍光蛋白質の蛍光スペクトルは、JascoのFP-6500蛍光分光光度計(発光/励起帯域幅: 3 nm、レスポンス:0.5 sec、スキャン速度:100nm/分)により石英セル(光路長10mm)を用いて25℃で測定した。
実施例4 5)で得られた組換えクライティン-ESNAの生物発光スペクトルは、JascoのFP-6500蛍光分光光度計を用い、励起光源を停止し、所定の条件(発光/励起帯域幅: 20 nm、レスポンス:0.5 sec、スキャン速度:2000nm/分)で測定した。図5に示すように、精製組換えクライティン-ESNA(0.02mg)を含む1mlの50mM Tris-HCl(pH 7.6)へ、0.1mlの50mM CaCl2を添加することにより、発光最大波長が、470nmである発光スペクトルを得た(図5のスペクトルA)。
得られた蛍光・生物発光スペクトルは、スペクトル補正を行なった。
図5に示すように、実施例7および8の合成蛍光蛋白質より得られた蛍光スペクトルは、発光最大波長は、513nm であり、実施例4 5)の組換えクライティン-ESNAより得られた発光スペクトルに比べ、約43nm 以上長波長へシフトした。すなわち、生物発光スペクトルと著しく異なる蛍光スペクトルを示す新規蛍光蛋白質をアポクライティン-ESNAより調製することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の蛋白質は、本発明の蛋白質と発光基質であるセレンテラジンのペルオキシドとからなるホロ蛋白質を形成することができる。本発明のホロ蛋白質は、本発明の蛋白質と、セレンテラジンのペルオキシドとが複合体を形成した状態で存在する。前記複合体にカルシウムイオンが結合すると、瞬間的な発光を示す。この発光は、「発光の減衰が早い」、「S/N比がよい」などのうちの少なくとも1つの優れた特性を示す。
【0131】
よって、本発明の蛋白質、本発明のホロ蛋白質などは、カルシウムイオンの検出または測定に好適に利用することができる。また、本発明の蛋白質、本発明のホロ蛋白質などは、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することもできる。さらに、本発明の蛋白質、本発明のホロ蛋白質などは、検出マーカー、アミューズメント用品の材料などとして利用することもできる。
【0132】
本発明のポリヌクレオチドは、上述した本発明の蛋白質をコードしているので、レポーター遺伝子として利用することができる。
【0133】
また、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、本発明の形質転換体などは、本発明の蛋白質の製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
【請求項2】
以下の(a)〜(d)のいずれかである請求項1記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜16個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜16個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
【請求項3】
以下の(a)〜(d)のいずれかである請求項1記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜6個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列からなり、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列において107番目、110番目、120番目、140番目、179番目および180番目のアミノ酸が、それぞれ、アスパラギン酸、アスパラギン酸、グリシン、プロリン、トレオニン、およびセリンであり、それ以外の1〜6個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合してカルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
【請求項4】
以下の(a)または(b)である請求項1記載の蛋白質:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含有し、かつセレンテラジンのペルオキシドもしくはセレンテラジン誘導体のペルオキシドと結合して、カルシウムイオンの作用によって発光するホロ蛋白質を形成することができる機能を有する蛋白質。
【請求項5】
さらに精製のためのペプチド配列および/または分泌シグナルペプチド配列を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の蛋白質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質とセレンテラジンのペルオキシドまたはセレンテラジン誘導体のペルオキシドとからなるホロ蛋白質。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項9】
請求項8記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項10】
請求項9記載の形質転換体を培養し、請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質を生成させる工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質または請求項6記載のホロ蛋白質を含むキット。
【請求項12】
請求項7記載のポリヌクレオチド、請求項8記載の組換えベクターまたは請求項9記載の形質転換体を含むキット。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質または請求項6記載のホロ蛋白質を使用してカルシウムイオンを検出または定量する方法。
【請求項14】
請求項7記載のポリヌクレオチドをレポーター遺伝子として、プロモーター制御に関与する配列の活性を測定する方法。
【請求項15】
請求項7記載のポリヌクレオチドを細胞内で発現させ、発光蛋白質を形成させるステップを含む、細胞内カルシウム濃度の変化を測定する方法。
【請求項16】
カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンの存在下又は非存在下、請求項1〜5のいずれかに記載の蛋白質と、セレンテラミド又はその類縁体とを反応させることを含む、蛍光蛋白質の製造方法。
【請求項17】
前記反応を、還元剤の存在下において行う、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記反応を、カルシウムイオン又はカルシウムイオンと置換可能な2価若しくは3価のイオンを除去するためのキレート剤の存在下で行う、請求項16又は17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−263829(P2010−263829A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117972(P2009−117972)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】