説明

カルバゾール誘導体及びこれを用いた有機固体レーザー材料

【課題】ASE特性を示し、発光効率の高い有機固体レーザー材料を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるカルバゾール誘導体を含む有機固体レーザー材料。


(式(I)中、Xは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表し、nは0又は1の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバゾール誘導体及びこれを用いた有機固体レーザー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、無機系の材料をベースにした無機半導体レーザーが幅広く利用されているが、その基板材料の作製方法は高価な手法しか存在せず、更なる低コスト化が難しい。また、無機材料では、レーザー波長の微調整も非常に困難であり、限られた波長領域でしかレーザー発振できない。更に、ヒ素などの有毒物質を利用しているため、地球環境保全の観点からも好ましくない。
【0003】
これらの問題点を解決するため、スピロフルオレン、オリゴチオフェン、カルバゾールなどの有機系の材料をベースとした有機固体レーザーの開発が盛んに行われている(非特許文献1〜3参照)。
【0004】
また、本発明者らは、下記の化合物が比較的低いASE閾値を有し、レーザー活性材料として優れた特性を有することを見出した(非特許文献4参照)。
【0005】
【化3】

【0006】
有機材料を用いた場合、蒸着や塗布という簡便な手法で有機固体レーザーを作製することができることから、無機半導体レーザーに比べて大幅なコストダウンが期待でき、また、有機材料の構造修飾の容易さから様々な波長領域でのレーザー発振が期待できるという利点がある。更に、環境にも優しい元素のみで有機固体レーザーを作製して、レーザー材料の無害化を達成することも可能である。
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,2004,85,1659.
【非特許文献2】Adv.Mater.,2005,17,2073.
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,2004,84,2724.
【非特許文献4】Appl.Phys.Lett.,2004,86,071110.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の如く、非特許文献4に記載される化合物は、比較的低いASE閾値を有し、レーザー活性材料として優れた特性を有するが、電流励起によるレーザー発振を達成させるためには、高電流注入、ASE低閾値化、発光量子効率の向上など、更なる改善が求められている。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、ASE特性の向上や、発光効率の高い有機固体レーザー材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、中央のフェニル基に対してカルバゾリル基と共役性置換基が好ましくはメタ連結した下記一般式(I)の構造を有するカルバゾール誘導体が、ASE特性の向上や、単層膜において高い発光効率を有することを見出し、本発明を達成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の有機固体レーザー材料は、下記一般式(I)で表されるカルバゾール誘導体を含むことを特徴とする。
【化4】

(式(I)中、Xは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表し、nは0又は1の整数を表す。なお、式(I)で表される化合物は、Xに含まれる置換基以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。)(請求項1)
本発明のカルバゾール誘導体は、下記一般式(II)で表されることを特徴とする。
【化5】

(式(II)中、Yは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表す。なお、式(II)で表される化合物は、Yに含まれる置換基以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。)(請求項2)
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機固体レーザー材料及びカルバゾール誘導体は、半導体特性を示し、非常に低い閾値を有する。従って、有機固体レーザー材料として用いることが可能であり、該有機固体レーザー材料を用いることにより、様々な波長のレーザー発振が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0013】
[語句の説明]
本発明において、「置換基を有してもよい」とは、置換基を1以上有してもよいことを意味する。
【0014】
[有機固体レーザー材料]
本発明に係る有機固体レーザー材料は下記一般式(I)で表されるカルバゾール誘導体、好ましくは下記一般式(II)で表されるカルバゾール誘導体を最低1種類含む。
【0015】
【化6】

(式(I)中、Xは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表し、nは0又は1の整数を表す。なお、式(I)で表される化合物は、Xに含まれる置換基以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。)
【0016】
【化7】

(式(II)中、Yは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表す。なお、式(II)で表される化合物は、Yに含まれる置換基以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。)
【0017】
なお、本発明の有機固体レーザー材料中には、本発明に係るカルバゾール誘導体の1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が混合して含まれていてもよい。
【0018】
{一般式(I)について}
<Xについて>
Xは、ベンゼン環のπ電子と共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表す。Xは、発光波長のチューニングに寄与することが期待されるものであり、目的とする波長に応じて適宜選択することが可能である。
Xの任意の置換基として好ましくは、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい芳香族複素環基が挙げられる。
【0019】
ここで、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基等が挙げられ、置換基の安定性を考えると、これらに置換基を有している方が好ましい。
アルキニル基としては、エチニル基等が挙げられ、置換基の安定性を考えると、これらは置換基を有している方が好ましい。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、ビフェニレニル基、アズレニル基、テルフェニル基、ナフチル基(好ましくは2−ナフチル基)、アントリル基(好ましくは2−アントリル基)、ターフェニル基、クオーターフェニル基、ナフタセニル基、フェナントリル基、フルオレニル基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。
芳香族複素環基としてはピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環などの6員環単環;チオフェン環、フラン環、イミダゾール環、チアゾール環などの5員環単環;キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環などの6員環縮合環;インドール環、ベンゾチオフェンなどの6員環と5員環の縮合環;などの複素環由来の基、更にカルバゾールなどの6員環と5員環の縮合した3環性芳香族化合物由来の基などが挙げられる。
【0020】
なお、Xのアルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、一般式(I)で表される化合物がX以外に有していてもよい置換基として後述するものが挙げられる。
【0021】
<nについて>
nは0又は1の整数である。
nが1の場合、カルバゾリル基の置換位置としては、好ましくはXに対して5位又は4位が挙げられる。
【0022】
nは、アモルファス性を向上させる場合には0が、分子間の相互作用を強める場合には1が好ましい。
【0023】
なお、カルバゾリル基は、任意の置換基を有していてもよく、この場合の置換基としては、一般式(I)で表される化合物がX以外に有していてもよい置換基として後述するものが挙げられる。
【0024】
<一般式(I)で表される化合物がX以外に有していてもよい置換基について>
一般式(I)で表される化合物は、X以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
該任意の置換基としては、化学的に安定な置換基であれば特に制限されないが、例えば、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよい主鎖の炭素数が1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基、シアノ基、ニトロ基、又はハロゲン原子などが挙げられ、また、これらは隣接する置換基同士で連結して環を形成していてもよい。
【0025】
置換基を有してもよい芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。これらの中でも炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が特に好ましい。
置換基を有していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、i−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも炭素数2〜20のアルキル基が特に好ましい。
置換基を有していてもよいシクロアルキル基の例としては、シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロプロピル基などが挙げられる。これらの中でも炭素数4〜20のシクロアルキル基が特に好ましい。
置換基を有していてもよいアルケニル基の例としては、ビニル基、スチリル基などが挙げられる。これらの中でも炭素数2〜20のアルケニル基が特に好ましい。
置換基を有していてもよいアルキニル基の例としては、エチニル基、トリメチルシリルエチニル基などが挙げられる。これらの中でも炭素数2〜20のアルキニル基が特に好ましい。
置換基を有してもよいアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基など直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。これらの中でも炭素数2〜20のアルコキシ基が特に好ましい。
置換基を有していてもよいアリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾイル基などが挙げられる。
置換基を有していてもよいシリル基の例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などの置換基としてアルキル基、アリール基等を有するシリル基が挙げられる。
置換基を有していてもよいアリールボリル基の例としては、ジメシチルボリル基などが挙げられる。
芳香族炭化水素基、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールアミノ基、シリル基、アリールボリル基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、フッ素原子などが挙げられる。
【0026】
なお、上記一般式(I)のカルバゾール誘導体がX以外に複数の置換基を有する場合、該複数の置換基は同一であっても、異なっていてもよい。同一の置換基を有している場合には分子の対称性により再結晶での精製による高純度化が容易であり、またデバイス化での分子配向に有利である。逆に異なる置換基を持つ場合には溶解度が高くなり、塗布でデバイス作成が可能となる利点がある。
【0027】
{一般式(II)について}
<Yについて>
Yは、ビニルベンゼンのπ電子と共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表す。Yは、発光波長のチューニングに寄与することが期待されるものであり、目的とする波長に応じて適宜選択することが可能である。
Yの任意の置換基として好ましくは、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有してもよい芳香族複素環基が挙げられる。
【0028】
ここで、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基等が挙げられ、置換基の安定性を考えると、これらに置換基を有している方が好ましい。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、ビフェニレン基、アズレニル基、テルフェニル基、ナフチル基(好ましくは2−ナフチル基)、アントリル基(好ましくは2−アントリル基)、ターフェニル基、クオーターフェニル基、ナフタセニル基、フェナントリル基、フルオレニル基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。
芳香族複素環基としてはピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環などの6員環単環;チオフェン環、フラン環、イミダゾール環、チアゾール環などの5員環単環;キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環などの6員環縮合環;インドール環、ベンゾチオフェンなどの6員環と5員環の縮合環;などの複素環由来の基、更にカルバゾールなどの6員環と5員環の縮合した3環性芳香族化合物由来の基などが挙げられる。
【0029】
なお、Yのアルケニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、一般式(I)で表される化合物がX以外に有していてもよい置換基として前述したものが挙げられる。
【0030】
<一般式(II)で表される化合物がY以外に有してもよい置換基について>
一般式(II)で表される化合物は、Y以外に更に任意の置換基を有してもよく、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。この置換基としては、一般式(I)で表される化合物がX以外に有していてもよい置換基として前述したものが挙げられる。
【0031】
{一般式(I),(II)で表されるカルバゾール誘導体の分子量}
一般式(I),(II)で表されるカルバゾール誘導体の分子量は、蒸着によるデバイス作成を行う場合、耐熱性の理由により、置換基を有する場合はその置換基も含めて、合計で2500以下であることが好ましい。また、湿式製膜法によるデバイス作成を行う場合には、溶剤に対する溶解性さえ確保できれば特に上限はないが、通常2000以下程度である。
【0032】
{具体例}
一般式(I),(II)で表されるカルバゾール誘導体の好ましい具体例としては、例えば、以下に例示されるものが挙げられる。ただし、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。なお、以下の例示化合物において、「Oct」はオクチル基を示し、「Et」はエチル基を示す。
【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
【化14】

【0040】
【化15】

【0041】
{合成方法}
一般式(I)で表されるカルバゾール誘導体のうち、特に一般式(II)で表され、Yが置換基Rを有するビニル基であるカルバゾール誘導体は、例えば以下のスキームで合成することができる。
【0042】
【化16】

【0043】
即ち、式(II-a)で表される化合物は、式<1−1>又は<1−2>で示される対応するホスホン酸エステルと式<2−1>又は<2−2>で表されるアルデヒドとを塩基の存在下に、有機溶剤中で反応させることにより得ることができる。
【0044】
なお、上記塩基としては、カリウム−t−ブトキシド、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシドなどが好ましい。また、上記有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンなどが好ましい。
この反応温度は用いる有機溶剤により変わるが、好ましくは0℃〜110℃である。更に添加剤としてクラウンエーテルを用いてもよい。
【0045】
{特性}
本発明に係るカルバゾール誘導体は、ASE特性を示し、単層膜において高い発光効率(PL.Q.E)を示す。更に、有機固体レーザー材料として用いることにより、様々な波長のレーザー発振が可能である。
【0046】
ASE閾値の評価方法は、励起するレーザーの強度を少しずつ上げながら、発光強度を測定してプロットをとり、発光強度が比例関係からずれたところを見積もる。
ASE:自然放出増幅光(Amplified spontaneous emission)は、レーザ光等の励起により、反転分布を形成した媒質から発生した自然放出光が、媒質自身の誘導放出過程によって増幅された指向性の高い光であり、この媒質中に共振器を組み込むことにより、レーザー発振を実現することができる。ASE発振閾値は、このASE発振を生じさせるために必要な最低励起エネルギーの値であり、この値以上の励起エネルギーを加えた場合、ASE光が得られる。ASE発振閾値を測定することにより、ASE発振を生じさせるために必要な最低励起エネルギー強度の情報を得ることができる。
ASE閾値としては、通常0μJ/cm〜1.5μJ/cm、好ましくは0μJ/cm〜0.9μJ/cm、特に好ましくは0μJ/cm〜0.55μJ/cmである。以上の値を満たす場合には、レーザー材料として、低発振閾値の条件を満たし、有用な材料であるといえる。
PL.Q.Eは、有機化合物の発光効率を示し、レーザ光等の励起により、基底状態より一重項励起状態(又は交換交差により三重項励起状態)に励起された分子が、基底状態へ遷移する際に放出される光の励起光に対する効率である。レーザ材料のQ.Eとして、通常50%以上であり、好ましくは79%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【0047】
なお、有機固体レーザー材料としての性能を確認するためには、以下の実施例の項の記載に従って標準的な素子を作成し、光励起下でのレーザー発振特性(ASE発振波長、ASE閾値)、発光効率(蛍光量子収率等)を測定することにより、確かめることができる。
【実施例】
【0048】
[1] 材料評価に使用しているデバイス・素子構成
1)光学特性評価用基板ならびに基板処理方法
ASE特性の測定にはガラス(厚さ1.1mm)基板、蛍光量子効率、発光吸収スペクトル測定には石英基板、蛍光寿命測定にはシリコン基板(13mm×13mm)を使用した。
すべての基板は次のように洗浄処理を行った。
まず、中性洗剤(クリンエース、井内盛栄堂株式会社製)を用いて指洗いをし、その後多量の水で洗い流した。次に1:3の割合に調整した中性洗剤と蒸留水中に基板を入れ、5分間超音波洗浄を行った。洗浄液を蒸留水に変え、更に5分間超音波洗浄を行った後、蒸留水を捨て、適量のアセトンで10分間超音波洗浄を行った。アセトンを捨て、適量のイソプロパノールを入れ5分間超音波洗浄を行った。その後イソプロパノールを捨て、新たに適量のイソプロパノールを入れ160℃にて煮沸洗浄を行った。煮沸洗浄後、基板をイソプロパノール中から引き上げて、エアーを吹きかけて乾燥させた。乾燥させた基板をNippon Laser and Electric Lab社製UVオゾンクリーナーを用いて15分間紫外線照射処理を行った。
その後、1:3の割合に調整した中性洗剤と蒸留水中に基板を入れ、5分間超音波洗浄を行った。溶液を蒸留水に変え、5分間超音波洗浄を行った後、蒸留水を捨て適量のアセトンで10分間超音波洗浄を行った。アセトンを捨て、適量のイソプロパノールを入れ5分間超音波洗浄を行った。その後、イソプロパノールを捨て、新たに適量のイソプロパノールを入れ160℃にて煮沸洗浄を行った。煮沸洗浄後、基板をイソプロパノール中から引き上げて、エアーを吹きかけて乾燥させた。
【0049】
2)電界効果トランジスタ特性評価用基板ならびに基板処理方法
電界効果トランジスタ(Field effect transistor, FET)特性の測定には、厚さ300nmのSiO膜が製膜されたnドープSi基板を使用した。ソース−ドレイン電極としてはCr(厚さ1nm)/Au(厚さ40nm)を用いた。ソース−ドレイン電極間のチャネル長はLSD=25μm,チャネル幅はL=4mmである。基板洗浄はオゾンを用いて行った。
【0050】
3)有機薄膜製膜方法
使用する有機材料をそれぞれボート中に適量入れ、真空蒸着機(Advanced Lab System社製)にセットした。その後、基板洗浄処理を施した基板を基板ホルダーに固定し、真空蒸着機にセットした。真空度が1×10−3Pa以下に到達したところで、モリブテンボートに電流を流し3.0A/sの蒸着速度で目標の膜厚70nmまで蒸着を行った。蒸着終了後、10分間放置しリークした。
【0051】
[2] ASE閾値の測定方法
1)ASE特性測定方法
波長337nmの窒素ガスレーザ(pulse width:500ps,repetition rate:20Hz,MNL200,Laser Technik Berlin)を励起光源として用いサンプルを光励起した。励起光はシリンドカルレンズによって0.1cm×0.5cmの大きさに集光し、サンプルへストライプ状に集光して照射した。そしてサンプルからの発光はMulti−channel photodiode(PMA−11,Hamamatsu photonics Co.)によって端面からASEを観測した。湿気と酸素による有機層の劣化を防ぐために、真空チャンバを用い、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0052】
2)ASE発振閾値算出方法
NDフィルターを用いて、入射光強度を0.01%〜100%の間で変化させ、上記の要領でスペクトルを測定し、それぞれのスペクトルのピーク強度を求め、入射光強度/ピーク強度のグラフを作成し、ピーク強度の急激な変化に対して2本の近似線を引き、その交点からASE閾値を算出した。
入射光強度は、下記の式から求めた。単層膜は有機層側から光を照射した。
入射光強度(μJ/cm
=レーザー出力(μJ/pulse)×石英板透過率×活性層吸収率×面積補正
=レーザー出力(μJ/pulse)×0.93×活性層吸収率×20
面積補正:1cm/(1mm×5mm)=20
【0053】
[3] 電界効果トランジスタ特性測定方法
1)電界効果トランジスタ特性測定方法
Au電極をソース−ドレイン電極として用い、n−ドープSi基板をゲート電極として用いた。作製したデバイスは真空チャンバの中にセットし、真空度1×10−3Pa以下において測定を行った。デバイスのドレイン電流−ドレイン電圧特性は半導体アナライザー(Agilent E5273A)を使用してドレイン電圧を10Vから−100Vまで−1Vずつ変化させ測定を行った。また、ゲート電圧は0Vから−100Vまで−20Vずつ変化させた。
【0054】
2)電界効果移動度測定方法
飽和領域におけるホール移動度は式(1)を用いて算出した。
【数1】

(ここで、Lはチャンネル長(cm)、Wはチャンネル幅(cm)、Cはゲート絶縁体の容量(F/cm)、Vgはゲート電圧(V)であり、Vは閾値電圧(V)である。
【0055】
[実施例1]
<本発明化合物(II-A)の合成>
【化17】

【0056】
窒素ライン接続三方コック、温度計、及び回転子を取り付けた500mL四口フラスコに、アルデヒド体(a)4.07gとホスホン酸エステル(b)2.5gを入れ、窒素置換した後、脱水DMF(ジメチルホルムアミド)(関東化学株式会社)250mLを加えて室温で撹拌して溶解させた。そこに、カリウム−t−ブトキシド2.1gを加え室温で撹拌を行った。
反応液を水にあけ、結晶をメタノール(純正化学株式会社)で洗浄した。また、結晶をヘキサン(純正化学株式会社)で熱時濾過し、酢酸エチル(純正化学株式会社)200mlで溶かし、再結晶し濾過した。
得られた固体をメタノールで洗浄し、加熱減圧下で乾燥して、黄色粉末状固体(化合物(II-A))を得た。同定はNMRにより行った(収量1.38g、収率15.0%)。
H NMR(CDCl、400MHz):δ8.16(d,4H)、7.72(s,2H)、7.60−7.59(m,4H)、7.47(s,4H)、7.46−7.40(m,10H)、7.32−7.28(td,4H)、7.18(d,4H)
【0057】
<評価結果>
化合物(II-A)を各基板上に厚さ100nmに製膜することによってサンプルを作製した。
化合物(II-A)を活性材料とした場合の光学特性を次に記す。
蛍光量子収率は82±2%、吸収ピーク波長、蛍光ピーク波長とASE発振波長はそれぞれ348nm、470nm、465nmであった。吸収と蛍光スペクトル、ならびにASE発光スペクトルを図1(a)〜(c)に示し、ASE測定における発光強度の励起光強度依存性と蛍光スペクトル半値幅の励起光強度依存性を図2に示す。
【0058】
[実施例2]
<本発明化合物(II-B)の合成>
【化18】

【0059】
窒素ライン接続三方コック、温度計、及び回転子を取り付けた200mL四口フラスコに、アルデヒド体(a)1.24gとホスホン酸エステル(c)991mgを入れ、窒素置換した後、脱水DMF(関東化学株式会社)30mLを加えて室温で撹拌して溶解させた。そこに、カリウム−t−ブトキシド1.07gを加え室温で撹拌を行った。
メタノール(純正化学株式会社)を加えて析出した結晶を吸引濾過で回収し、固体をメタノールで熱時濾過した。濾別した固体を加熱減圧下で乾燥して、黄色粉末状固体(化合物(II-B))を得た。同定はNMRにより行った(収量0.86g、収率57.0%)。
H NMR(CDCl、400MHz):δ8.16(d,4H)、7.74(s,2H)、7.65−7.58(m,12H)、7.48−7.42(m,10H)、7.33−7.28(td,4H)、7.22(d,4H)
【0060】
<評価結果>
化合物(II-B)を各基板上に厚さ100nmに製膜することによってサンプルを作製した。
化合物(II-B)を活性材料とした場合の光学特性を次に記す。
吸収ピーク波長、蛍光ピーク波長とASE発振波長はそれぞれ350nm、447nm、451nmであった。ASE発振閾値は0.50μJ/cmであった。吸収と蛍光スペクトル、ならびにASE発光スペクトルを図3(a)〜(c)に示す。
【0061】
[実施例3]
<本発明化合物(II-C)の合成>
【化19】

【0062】
窒素ライン接続三方コック、温度計、及び回転子を取り付けた200mL四口フラスコに、アルデヒド体(d)1.54gとホスホン酸エステル(e)605mgを入れ、窒素置換した後、脱水DMF(関東化学株式会社)40mLを加えて室温で撹拌して溶解させた。そこに、カリウム−t−ブトキシド782mgを加え室温で撹拌を行った。
メタノール(純正化学株式会社)を加えて析出した結晶を吸引濾過で回収し、固体をメタノールで熱時濾過した。濾別した固体を加熱減圧下で乾燥して、淡黄色粉末状固体(化合物(II-C))を得た。同定はマス分析により行った(収量1.25g、収率83%)。
【0063】
[実施例4]
<本発明化合物(II-D)の合成>
【化20】

【0064】
窒素ライン接続三方コック、温度計、及び回転子を取り付けた200mL四口フラスコに、アルデヒド体(d)1.41gとホスホン酸エステル(c)668mgを入れ、窒素置換した後、脱水DMF(関東化学株式会社)40mLを加えて室温で撹拌して溶解させた。そこに、カリウム−t−ブトキシド719mgを加え室温で撹拌を行った。
メタノール(純正化学株式会社)を加えて析出した結晶を吸引濾過で回収し、固体をメタノールで熱時濾過した。濾別した固体を加熱減圧下で乾燥して、淡黄色粉末状固体(化合物(II-D))を得た。同定はNMRにより行った(収量1.52g、収率101.5%)。
H NMR(CDCl、400MHz):δ8.17(d,8H)、7.85(d,4H)、7.71−7.70(m,2H)、7.66−7.58(m,12H)、7.49−7.45(m,10H)、7.35−7.30(m,14H)
【0065】
<評価結果>
化合物(II-D)を各基板上に厚さ100nmに製膜することによってサンプルを作製した。
化合物(II-D)を活性材料とした場合の光学特性を次に記す。
吸収ピーク波長、蛍光ピーク波長とASE発振波長はそれぞれ348nm、448nm、447nmであった。ASE発振閾値は0.50μJ/cmであった。吸収と蛍光スペクトル、ならびにASE発光スペクトルを図4(a)〜(c)に示す。
【0066】
[比較例1]
<比較例化合物BSB−Czの合成>
【化21】

【0067】
窒素ライン接続三方コック、温度計、及び回転子を取り付けた300mL四口フラスコに、4−カルバゾイルベンズアルデヒド12gを入れ、窒素置換した後、脱水DMF(関東化学株式会社)40mLを加えて室温で撹拌して溶解させた。そこに、ホスホン酸エステル(和光純薬製)9.0gを加えてよく撹拌し、カリウム−t−ブトキシド6.32gを加え撹拌を行った。その後、オイルバス中、50℃で6時間加熱撹拌を行った。次いで、放冷して、メタノール(純正化学株式会社)を加えて析出した結晶を吸引濾過で回収し、固体をメタノールで熱時濾過した。濾別した固体を加熱減圧下で乾燥して、淡黄色粉末状固体を得た。マス分析により同定を行ない、目的物BSB−Czであることを確認した(収量12.4g、収率91%)。
【0068】
<評価結果>
化合物BSB−Czを各基板上に厚さ100nmに製膜することによってサンプルを作製した。
化合物BSB−Czを活性材料とした場合の光学特性を次に記す。
蛍光量子収率は77±2%、吸収ピーク波長、蛍光ピーク波長とASE発振波長はそれぞれ371nm、476nm、482nmであった。
ASE発振閾値は0.56μJ/cmであった。
【0069】
実施例1及び比較例1における評価結果を表1にまとめた。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から判るとおり、実施例1においては、蛍光量子収率(発光効率(P.L.Q.E))が82±2%であり、一方、比較例1においては、発光効率77±2%である。このことから、本発明のカルバゾール誘導体が、高い発光効率を有することが分かった。
【0072】
また、実施例2,4及び比較例1における評価結果を表2にまとめた。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から判るとおり、実施例2および実施例4においては、ASE発振閾値が0.50μJ/cmであり、一方、比較例1においては、ASE発振閾値0.56μJ/cmである。このことから、本発明のカルバゾール誘導体がASE特性を有することが判った。
【0075】
以上、本発明のカルバゾール誘導体が、従来化合物である比較例1のものに比べて、よりレーザー発振が期待できる材料であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】化合物(II-A)の吸収(ABS:Absurption)スペクトル、蛍光スペクトル(PL)及びASE発光スペクトル(ASE)を示すチャートである。
【図2】化合物(II-A)のASE測定における発光強度の励起光強度依存性と、蛍光スペクトル半値幅(FWHM)の励起光強度依存性を示すチャートである。
【図3】化合物(II-B)の吸収(ABS:Absurption)スペクトル、蛍光スペクトル(PL)及びASE発光スペクトル(ASE)を示すチャートである。
【図4】化合物(II-D)の吸収(ABS:Absurption)スペクトル、蛍光スペクトル(PL)及びASE発光スペクトル(ASE)を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるカルバゾール誘導体を含むことを特徴とする有機固体レーザー材料。
【化1】

(式(I)中、Xは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表し、nは0又は1の整数を表す。なお、式(I)で表される化合物は、Xに含まれる置換基以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表されるカルバゾール誘導体。
【化2】

(式(II)中、Yは共役可能なπ電子を有する任意の置換基を表す。なお、式(II)で表される化合物は、Yに含まれる置換基以外に更に任意の置換基を有していてもよく、これらの置換基は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−98433(P2008−98433A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278910(P2006−278910)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】