説明

カンプトテシン関連化合物の合成方法

【課題】塩酸イリノテカンおよび各種カンプトテシン誘導体の出発化合物であるCPTを実用的な全合成により効率よく供給する手段を提供する。
【解決手段】下記、カンプトテシン(CPT)骨格のAB環部分に相当する2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノン(e)およびCDE環部分に相当する三環性ケトン(h)を効率よく製造する方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンプトテシン関連化合物の合成方法に関する。より詳細には、本発明は、抗腫瘍性活性を有するカンプトテシン類の合成に関連する中間体の製造方法および該中間体の使用に関し、カンプトテシン類の全合成に関する。
【背景技術】
【0002】
中国原産の喜樹(Camptotheca acuminata)の樹皮、根、果実、葉等から単離されたカンプトテシン(以下、CPTと記載する)は、五環性のアルカロイドであり、核酸合成を阻害することによって抗腫瘍活性を示すことが知られている。一方で、カンプトテシン誘導体には、副作用として下痢の誘発などが報告されており(癌と化学療法17,p115-120,1990)、消化器官に対して障害を引き起こすといった問題が残されおり、そのため毒性の低減、効果の増強等を目的として各種誘導体についても検討が重ねられている。
【0003】
既に本発明者らは、このようにCPTに比べ毒性が軽減された化合物として、CPTの水溶性半合成誘導体である7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン・塩酸塩・三水和物(以下、CPT−11と記載する)を報告しており、現在、抗腫瘍剤(一般名;塩酸イリノテカン)として広く用いられている。
このようなCPT−11などのカンプトテシン類は、天然素材から得られたCPTを化学修飾することによって得ることができる。
【0004】
しかしながら、原材料である喜樹等の天然素材から得られるCPTの量は極めてわずかであるため、有用な誘導体であるCPT−11等の需要が高まるにつれて、植樹等の原材料調達手段を講じているにも拘わらず、CPTを十分量供給することが困難になるものと予想されている。また、全合成による製法も検討されているが、実用化までは至っていないのが現状である。
【0005】
全合成による製法としては、下記の反応式で表わされるShen, W.等のアミノプロピオフェノンと三環性ケトンとのフリードレンダー反応を経る方法(J.Org.Chem.1993,58,611-617“Concise Total Syntheses of dl-Camptothecin and Related Anticancer Drugs.”)が知られているが、工程が煩雑となり、また収率も十分でなく、ラセミ体しか合成できないといった問題がある。
【化1】

【0006】
一方、Curran, D. P.等は、下記の反応式で表わされるアリールイソニトリルとヨードピリドンとのカスケードラジカル環化反応を用いる方法(Chem. Eur. J. 1998, 4, 67-83“A General Synthetic Approach to the (20S)-Camptothecin Family of Antitumor Agents by a Regiocontrolled Cascade Radical Cyclization of Aryl Isonitriles.”)で全合成を行っているが、環化反応の収率が充分でない、環化後保護基の脱保護が必要といった問題が指摘されている。
【化2】

【0007】
また前記Curran, D. P.等は、CPT類の三環性ケトン部分の合成における中間体である4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン−3−カルバルデヒドを、下記スキームによって合成しているが、
【化3】

この方法では、工業的には易発火性であるt−BuLiを大量に用いる必要が生じ危険性が高く、また反応温度として−78℃での反応が要求され、バッチサイズを大きくすることができない。さらに反応系全体での複雑な温度制御が必要となるため工業的には実用化できる反応系ではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塩酸イリノテカンおよび各種カンプトテシン誘導体の出発化合物であるCPTや、塩酸イリノテカン合成の重要な中間体である7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン等のカンプトテシン類を実用的な全合成により効率よく供給することにある。とくに、本発明の課題は、カンプトテシン類の骨格のAB環部分に相当する中間体およびCDE環部分に相当する中間体を夫々合成し、さらにこれら中間体を用いてカンプトテシン類を合成することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
かかる事情に鑑み鋭意研究した結果、本発明者らは、AB環部分に関して、化合物(a)(5−ヒドロキシ−2−ニトロベンズアルデヒド):
【化4】

を出発物質として、CPT骨格のAB環部分に相当する2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンを効率よく製造し、もってCPT及びその誘導体を安定的に供給できる手段を見出し、また、CDE環部分に関して、化合物(k)(2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(MTP)):
【化5】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)
を出発物質として、CPT骨格のCDE環部分に相当する三環性ケトンを効率よく製造し、もってCPTおよびその誘導体を安定的に供給できる手段を見出し、これら手段を適切に組み合わせることにより天然素材を用いないCPT類の全合成方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
【化6】

(式中Rは保護基を示す)に従う、CPT骨格のAB環に相当する2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法、および従来知られている合成経路であるCurranルート(Josien, H.; Ko, S. B.; Bom, D.; Curran, D. P. Chem. Eur. J. 1998, 4, 67-83.)、およびPharmacia & Upjohnルート(以後P&Uルートと記載する;Henegar, K. E.; Ashford, S. W.; Baughman, T. A.; Sih, J. C.; Gu, R. L. J. Org. Chem. 1997, 62, 6588-6597.)をもとに確立された合成経路
【0011】
【化7】

【0012】
(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、tBuはt−ブチル基を示す)にしたがう製造方法を改良および最適化し、特に2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(化合物(k))または3−ヒドロキシメチル−4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(化合物(v))から3−ホルミル−4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(化合物(l))を合成することを含むCPT骨格のCDE環部分に相当する三環性ケトンの製造方法を組み合わせたCPT類の全合成方法に関する。なお化合物(v)は、化合物(l)から3−(2−ブテニルオキシメチル)−4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(化合物(m))を合成する過程で副生される化合物でもあるため、上記合成経路では化合物(l)の下流に記載している。
【0013】
詳しくは、本発明は、カンプトテシン類を合成するための2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法であって、化合物(a):
【化8】

から、化合物(b):
【化9】

を生成し、化合物(b)から化合物(c):
【化10】

を生成し、化合物(c)から化合物(d):
【化11】

を生成し、化合物(d)から化合物(e):
【化12】

を生成することからなり、Rが接触還元によって脱保護可能な保護基であることを特徴とする、前記2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、接触還元によって脱保護可能な保護基が、ベンジル基であることを特徴とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、(1)化合物(a)、ベンジル化試薬および塩基を混合し、該混合物を溶媒中で加熱撹拌して化合物(b)を得る工程、
(2)化合物(b)に不活性化ガス雰囲気下でグリニャール試薬を滴下して化合物(c)を得る工程、
(3)化合物(c)と酸化剤とを混合し、撹拌して化合物(d)を得る工程、および
(4)化合物(d)を接触還元して化合物(e)を得る工程、
からなる群から選択される1または2以上の工程を特徴とする、前記の方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、(1)の工程において、溶媒がジメチルホルムアミドである、前記の方法に関する。
また本発明は、(2)の工程において、グリニャール試薬が、臭化ビニルマグネシウムである、前記の方法に関する。
さらに本発明は、(3)の工程において、酸化剤が、ジョーンズ試薬、二酸化マンガンまたはTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)−次亜塩素酸ナトリウムである、前記の方法に関する。
【0016】
また本発明は、式(c'):
【化13】

(式中Bnはベンジル基を示す)
で表される化合物に関する。
【0017】
さらに本発明は、式(d'):
【化14】

(式中Bnはベンジル基を示す)
で表される化合物に関する。
【0018】
また本発明は、カンプトテシン類を合成するための2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法であって、化合物(a):
【化15】

から、化合物(c''):
【化16】

を生成し、化合物(c'')から化合物(d''):
【化17】

を生成し、化合物(d'')から化合物(e):
【化18】

を生成することからなる、前記2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法に関する。
【0019】
さらに本発明は、(1)化合物(a)に不活性化ガス雰囲気下でグリニャール試薬を滴下して化合物(c'')を得る工程、
(2)化合物(c'')と酸化剤とを混合し、撹拌して化合物(d'')を得る工程、および
(3)化合物(d'')を接触還元して化合物(e)を得る工程、
からなる群から選択される1または2以上の工程を特徴とする、前記の方法に関する。
【0020】
また本発明は、(1)の工程において、グリニャール試薬が、臭化ビニルマグネシウムである、前記の方法に関する。
さらに本発明は、(2)の工程において、酸化剤が、ジョーンズ試薬、二酸化マンガンまたはTEMPO−次亜塩素酸ナトリウムである、前記の方法に関する。
また本発明は、前記の方法により得られた2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンのカンプトテシン類の製造への使用に関する。
さらに本発明は、前記の方法により得られた2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンと三環性ケトンとを反応させることを含む、カンプトテシン類の製造方法に関する。
【0021】
また本発明は、カンプトテシン類を合成するための三環性ケトンの製造方法であって、化合物(k):
【化19】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)、または化合物(v):
【化20】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)
から化合物(l):
【化21】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)を生成し、化合物(l)から化合物(m):
【化22】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)を生成し、化合物(m)から、化合物(n):
【化23】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(n)から化合物(o):
【化24】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(o)から化合物(p):
【化25】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(p)から化合物(q):
【化26】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(q)から化合物(r):
【化27】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基を示す)を生成し、化合物(r)から化合物(s):
【化28】

(式中、Etはエチル基、Prはプロピル基を示す)を生成し、化合物(s)から化合物(t):
【化29】

(式中、Etはエチル基、tBuはt−ブチル基を示す)を生成し、化合物(t)から化合物(h):
【化30】

(式中、Etはエチル基を示す)を生成することからなる三環性ケトンの製造方法において、
【0022】
(1)化合物(k)、リチオ化試薬、ホルミル化試薬およびヨウ素化試薬を混合し、化合物(l)を得る工程、
(2)化合物(l)、クロチルアルコール、トリエチルシランおよび酸を混合し、該混合物を溶媒を用いずに反応させ、化合物(m)を得る工程、
(3)(2)の工程において副生する化合物(v)に、酸化剤および塩基を混合し、化合物(l)を得る工程、
(4)化合物(m)、パラジウム触媒、塩基および相間移動触媒を混合し、該混合物を溶媒中で煮沸還流して化合物(n)を得る工程、
(5)化合物(n)からオスミウム触媒、共酸化剤、塩基、不斉試薬を混合し、化合物(o)を得る工程、
【0023】
(6)化合物(o)、塩基およびヨウ素を混合し、該混合物をアルコール-水混液で煮沸還流して化合物(p)を得る工程、
(7)化合物(p)、脱シリル化ヨウ素化試薬を混合し、化合物(q)を得る工程、
(8)化合物(q)、パラジウム触媒および塩基を混合し、該混合物を1-プロパノール中、一酸化炭素ガス雰囲気下で反応させて、化合物(r)を得る工程、
(9)化合物(r)および脱メチル化試薬を混合し、該混合物を室温で反応させて化合物(s)を得る工程、
(10)化合物(s)を、アクリル酸t-ブチルおよび塩基存在下で反応させて化合物(t)を得る工程、
からなる群から選択される1または2以上の工程を特徴とする、前記三環性ケトンの製造方法に関する。
【0024】
さらに本発明は、(1)の工程において、リチオ化試薬がn-ブチルリチウムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
また本発明は、(1)の工程において、反応温度が−30〜−40℃の一定温度であることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0025】
さらに本発明は、(3)の工程において、酸化剤がTEMPO−次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
また本発明は、(4)の工程において、塩基が炭酸カリウムまたはN,N-ジイソプロピルエチルアミンであることを特徴とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、(4)の工程において、溶媒がテトラヒドロフランまたはジイソプロピルエーテル-アセトニトリル-水混液であることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0026】
また本発明は、(5)の工程において、オスミウム触媒がオスミウム(VI)酸カリウムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、(6)の工程において、ヨウ素が化合物(o)に対して4当量であることを特徴とする、前記の方法に関する。
また本発明は、(7)の工程において、脱シリル化ヨウ素化試薬が、ヨウ素−トリフルオロ酢酸銀またはN-クロロコハク酸イミド−ヨウ化ナトリウムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0027】
さらに本発明は、化合物(q)が、化合物(p)から化合物(q)を生成する工程で得られた反応生成物を、
アルカリ水溶液に添加し、撹拌する工程、
有機溶媒を添加して撹拌した後、有機層を除去する工程、および、
水層を酸性とし、有機溶媒で抽出する工程、
を含む精製工程により、化学的に精製されることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0028】
また本発明は、アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、有機溶媒がクロロホルムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
また本発明は、化合物(q)が、化合物(p)から化合物(q)を生成する工程で得られた反応生成物を、
高極性溶媒に溶解させた後、低極性溶媒を積層する工程、および、
析出物をろ過した後、ろ液を減圧下濃縮乾固する工程、
を含む精製工程により、光学的に精製されることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0029】
さらに本発明は、高極性溶媒がクロロホルムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
また本発明は、低極性溶媒がn-ヘキサンであることを特徴とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、(10)の工程において、塩基が炭酸カリウムであることを特徴とする、前記の方法に関する。
また本発明は、前記の方法により得られた三環性ケトンのカンプトテシン類の製造への使用に関する。
さらに本発明は、前記の方法により得られた三環性ケトンと、2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンとを反応させることを含むカンプトテシン類の製造方法に関する。
【0030】
また本発明は、2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンが、前記の方法により得られた2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンであることを特徴とする、前記の方法に関する。
さらに本発明は、三環性ケトンと2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンとを混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気下で反応させることを特徴とする、前記の方法に関する。
【0031】
本発明は、これらの構成を採用することにより、CPT骨格のAB環部分に相当する2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンを効率よく製造することが可能となり、CPTの全合成の実用化を可能にする。また、本発明の製造方法における中間体の化合物(c')および化合物(d')については、これまで合成されたという報告はなく、CPT合成における有用な新規化合物である。
また、本発明は、これらの構成を採用することにより、CPT骨格におけるCDE環部分(三環性ケトン部分)となる骨格を有する化合物の不斉合成法が実用的に行なうことが可能となる。
【0032】
CPT骨格のAB環部分(2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノン)の合成ついて、2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造工程は、
(1)5−ヒドロキシ−2−ニトロベンズアルデヒド(化合物(a))から5−ベンジルオキシ−2−ニトロベンズアルデヒド(化合物(b'))を合成する工程、
(2)化合物(b')から1−(5−ベンジルオキシ−2−ニトロフェニル)−2−プロペン−1−オール(化合物(c'))を合成する工程、
(3)化合物(c')から1−(5−ベンジルオキシ−2−ニトロフェニル)−2−プロペン−1−オン(化合物(d'))を合成する工程、および
(4)化合物(d')から2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノン(化合物(e))を合成する工程の1または2以上の工程を含む。
【0033】
典型的な合成経路として、以下の合成経路:
【化31】

(式中、Rは接触還元によって脱保護可能な保護基を示す)
として表すことができる。
【0034】
本発明において、Rは接触還元によって脱保護可能な保護基であれば特に限定されないが、典型的にはベンジル基、メトキシベンジル基、2,6−ジメチルベンジル基、4−ニトロベンジル基などのベンジルエーテル系保護基、ベンジルオキシカルボニル基などのベンジルカーボネート系保護基などが挙げられるが、特に、試薬のコストの観点からベンジル基が好適に用いられる。
【0035】
なお、出発物質となる化合物(a)は、公知の方法によって合成したもの、類似の化合物から化学的に変換したもの、各種の天然素材等から単離、精製したもの、または化合物(a)を含有する天然素材そのものを使用することかできる。また市販されている試薬を用いてもよい。
【0036】
次に、上記(1)〜(4)の工程をさらに具体的に説明する。
(1)の工程において、化合物(a)を溶媒に溶解あるいは懸濁し、ベンジル化試薬および塩基を加え加熱撹拌することで化合物(b)が得られる。
溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、アセトニトリル、エタノール、水などを用いることができ、特に溶解性および反応性の観点から、DMFが好ましい。
【0037】
DMFの使用量は、化合物(a)に対し3倍量以上であればよく、好ましくは3〜20倍量の範囲である。
ベンジル化試薬としては、通常使用されるものであれば、いずれも好適に使用できる。ベンジル化試薬の具体的な例としては、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、フェニルジアゾメタン、炭酸二ベンジル等が挙げられ、特に塩化ベンジルが好適に使用できる。
ベンジル化試薬の使用量は、試薬に合わせて適宜調製すればよいが、例えば塩化ベンジルを用いる場合、化合物(a)に対し1〜5当量、好ましくは1〜2当量用いる。
【0038】
塩基としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できる。塩基の具体的な例としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、特に炭酸カリウムが好適に使用できる。
塩基の使用量は、試薬に合わせて適宜調製すればよいが、例えば炭酸カリウムを用いる場合、化合物(a)に対し1〜10当量、好ましくは1〜4当量用いる。
加熱温度としては、60〜100℃の範囲であり、特に60〜80℃であることが好ましい。
また、反応時間は0.5〜24時間の範囲であり、特に1〜20時間であることが好ましい。
【0039】
(2)の工程においては、化合物(b)に、不活性化ガス雰囲気下でグリニャール試薬を滴下することで化合物(c)が得られる。
不活性化ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン等の希ガス類、窒素等の反応性の低いガスであればいずれを用いても良く、特にコストの点から、アルゴン、窒素が好ましい。
【0040】
グリニャール試薬としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できる。グリニャール試薬の具体例としては、臭化ビニルマグネシウム、塩化ビニルマグネシウム、ヨウ化ビニルマグネシウム等が挙げられ、特に臭化ビニルマグネシウムが好適に使用できる。
グリニャール試薬の使用量は、試薬に合わせて適宜調製すれば良いが、例えば臭化ビニルマグネシウムであれば化合物(b)に対し1〜2当量、好ましくは1〜1.5当量である。
【0041】
化合物(b)の溶液にグリニャール試薬を滴下しても、逆にグリニャール試薬に化合物(b)の溶液を滴下しても化合物(c)の合成は可能であるが、還元型副生成物(以下、化合物(f)とよぶ)
【化32】

(式中、Rは接触還元によって脱保護可能な保護基を示す)
の生成を低減するためには、化合物(b)の溶液にグリニャール試薬を滴下することが好ましい。
【0042】
反応時に使用する溶媒量としては、例えばテトラヒドロフラン(以下、THFとよぶ)であれば10〜100倍量であれば良く、特にアルコールの生成を低減するためには、50〜100倍量が好ましい。
また、反応時の温度としては10℃以下が好ましく、特にアルコールの生成を低減するためには、−78〜−40℃が好ましい。
また、反応時間は0.1〜3時間であり、特に0.5〜1時間であることが好ましい。
【0043】
(3)の工程においては、化合物(c)に酸化剤を混合し、撹拌することで化合物(d)を得ることができる。
酸化剤としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できる。このような酸化剤としては、例えば二酸化マンガン、デス−マーチン試薬(Dess-Martin Periodinane)、ジョーンズ試薬(Na2Cr2O7/H2SO4)、PCC、PDC、DMSO/シュウ酸クロリド/トリエチルアミン(スワン酸化)、TEMPO−次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられ、特に二酸化マンガン、デス−マーチン試薬、ジョーンズ試薬、TEMPO−次亜塩素酸ナトリウムが好適に使用できる。
【0044】
これらの酸化剤は、使用する直前に調製されたものを使用することが好ましく、例えば二酸化マンガンであれば、使用直前に過マンガン酸カリウムと硫酸マンガンから調製したものが好適に使用できる。
酸化剤の使用量は、試薬に合わせて適宜調製すれば良いが、例えば二酸化マンガンであれば化合物(c)に対し2〜50倍量、好ましくは4〜10倍量である。
溶媒としては、例えばクロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン等が好適に使用でき、特にクロロホルム、塩化メチレンが好ましい。
溶媒の使用量は、5〜50倍量、好ましくは10〜20倍量である。
また、反応時間は1〜48時間であり、特に1〜18時間であることが好ましい。
【0045】
(4)の工程においては、化合物(d)を接触還元することで化合物(e)を得ることができる。
還元用触媒としては、パラジウム−炭素、水酸化パラジウム−炭素、ロジウム−アルミナ等が好適に使用でき、特にパラジウム−炭素、水酸化パラジウム−炭素が好ましい。
還元用触媒の使用量としては、化合物(d)に対し0.01〜0.5当量、好ましくは0.05〜0.2当量である。
溶媒としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できるが、溶解性の点から酢酸エチルが好ましい。
溶媒の使用量は、化合物(d)に対し5〜50倍量、好ましくは10〜20倍量である。
また、反応時間は0.1〜24時間の範囲であり、特に1〜3時間であることが好ましい。
【0046】
また、前記(1)の工程から(4)の工程を経て化合物(e)を合成するかわりに、化合物(a):
【化33】

から、化合物(c''):
【化34】

を生成し、化合物(c'')から化合物(d''):
【化35】

を生成し、化合物(d'')から化合物(e):
【化36】

を生成することも可能である。この合成経路では、化合物(a)に不活性化ガス雰囲気下でグリニャール試薬を滴下して化合物(c'')を得ることができる。また、化合物(d'')は、化合物(c'')と酸化剤とを混合し、撹拌してを得ることができ、化合物(e)は、化合物(d'')を接触還元することによって得ることができる。ここで使用可能な、グリニャール試薬および酸化剤は、それぞれ上記(2)および(3)の工程と同様である。この合成経路では、保護基を用いないためAB環部分の合成を簡便に行なうことができる。
【0047】
また、(4)の工程または前記合成経路で得られる化合物(e)と三環性ケトンを反応させることによりカンプトテシン類を製造することができるが、このような三環性ケトンとしては、例えば化合物(h):
【化37】

を使用することができる。
【0048】
CPT骨格のCDE環部分(三環性ケトン部分)の合成ついて、三環性ケトンの製造は、以下の合成経路を経て行われる。
【化38】

【0049】
式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、tBuはt−ブチル基を示す。
上記の合成経路において出発化合物となる化合物(k)は、前述のCurranルート(Josien, H.; Ko, S. B.; Bom, D.; Curran, D. P. Chem. Eur. J. 1998, 4, 67-83.)によって合成したもの、類似の化合物から化学的に変換したもの、各種の天然素材等から単離、精製したもの、または化合物(k)を含有する天然素材そのものを使用することができる
【0050】
上記の合成経路における三環性ケトンの好ましい合成方法としては、
(イ) 2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(以下、化合物(k)という)から、4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリル−3−ピリジンカルバルデヒド(以下、化合物(l)という)を合成する工程において、塩基にn-ブチルリチウムを使用し、−30〜−40℃の一定温度で反応させる、
(ロ) 化合物(l)から3−(2−ブテニルオキシメチル)−4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(以下、化合物(m)という)を合成する工程において、反応溶媒を使用しない、
(ハ) 3−ヒドロキシメチル−4−ヨード−2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン(以下、化合物(v)という)から化合物(l)を合成する工程において、酸化剤にTEMPO−次亜塩素酸ナトリウムを使用する、
【0051】
(ニ) 化合物(m)から4−エチル−8−メトキシ−6−トリメチルシリル−1H−ピラノ[3,4−c]ピリジン(以下、化合物(n)という)を合成する工程において、反応溶媒としてジイソプロピルエーテルとアセトニトリルと水との混合液を使用し、また塩基としてN,N-ジイソプロピルエチルアミンを使用する、
(ホ) 化合物(n)から(S)-4-エチル-3,4-ジヒドロ-3,4-ジヒドロキシ-8-メトキシ-6-トリメチルシリル-1H-ピラノ[3,4-c]ピリジン(以下、化合物(o)という)を合成する工程において、オスミウム触媒にオスミウム(VI)酸カリウムを使用する、
(ヘ) 化合物(o)から(S)−4−エチル−3,4−ジヒドロ−4−ヒドロキシ−8−メトキシ−6−トリメチルシリル−3−オキソ−1H−ピラノ[3,4−c]ピリジン(以下、化合物(p)という)を合成する工程において、4当量のヨウ素を使用して煮沸還流する、
【0052】
(ト) 化合物(p)から(S)−4−エチル−3,4−ジヒドロ−4−ヒドロキシ−6−ヨード−8−メトキシ−3−オキソ−1H−ピラノ[3,4−c]ピリジン(以下、化合物(q)という)を合成する工程において、酢酸中でN−クロロコハク酸イミド−ヨウ化ナトリウムを用いる、
(チ) 化合物(q)を化学的に精製する工程において、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液を加え、溶液をアルカリ性にし、クロロホルムなどの有機溶媒で洗浄を行い、次いで水層を酸性にしてクロロホルムなどの有機溶媒で抽出をする、
(リ) 化合物(q)を光学的に精製する工程において、化合物(q)をクロロホルムなどの高極性溶媒に溶解し、n−へキサンなどの低極性溶媒を積層し、得られた析出物をろ過し、ろ液を濃縮する、
【0053】
(ヌ) 化合物(q)から(S)-4-エチル-3,4-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-8-メトキシ-3-オキソ-1H-ピラノ[3,4-c]ピリジン-6-カルボン酸プロピル(以下、化合物(r)という)を得る工程において、パラジウム触媒に酢酸パラジウムを使用する、
(ル) 化合物(r)から、(S)-4-エチル-3,4,7,8-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,8-ジオキソ-1H-ピラノ[3,4-c]ピリジン-6-カルボン酸プロピル(以下、化合物(s)という)を合成する工程において、室温で反応を行う、
【0054】
(ヲ) 化合物(s)から(S)−4−エチル−3,4,8,10−テトラヒドロ−4,6−ジヒドロキシ−3,10−ジオキソ−1H−ピラノ[3,4−f]インドリジン−7−カルボン酸1,1−ジメチルエチル(以下、化合物(t)という)を合成する工程において、炭酸カリウムを用いてマイケル付加反応を行う、
の12の工程を1または2以上含む。
さらに、(ワ) (S)-4-エチル-7,8-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-1H-ピラノ[3,4-f]インドリジン-3,6,10(4H)-トリオン(以下、化合物(h)という)と、化合物(e)から、SN-38を得る工程において、反応を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、好適にSN-38を得ることができる。
【0055】
次に上記の13の工程を、更に具体的に説明する。
(イ)においては、化合物(k)を溶媒に溶かし、リチオ化試薬、ホルミル化試薬、リチオ化試薬、ヨウ素化試薬を加え撹拌することで化合物(l)が得られる。
溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン等を用いることができ、特に溶解性および反応性の観点から、THFが好ましい。
【0056】
リチオ化試薬としては、通常使用されるものであれば、いずれも好適に使用できる。リチオ化試薬の具体的な例としては、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(LiHMDS)等が挙げられ、特に取り扱いおよび反応性の観点から、n-ブチルリチウムが好適に使用できる。
リチオ化試薬の使用量は、試薬に合わせて適宜調製すればよいが、例えばn-ブチルリチウムを用いる場合、化合物(k)に対して2〜10当量、好ましくは2〜5当量用いる。
【0057】
ホルミル化試薬の具体的な例としては、N-ホルミル-N,N',N'-トリメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられ、次のヨウ素化を考慮すると、N-ホルミル-N,N',N'-トリメチルエチレンジアミンが好適に使用できる。
ホルミル化試薬の使用量は、例えばN-ホルミル-N,N',N'-トリメチルエチレンジアミンを用いる場合、化合物(k)に対して1〜10当量、好ましくは1〜3当量用いる。
【0058】
ヨウ素化試薬としては、ヨウ素、N-ヨードコハク酸イミド(NIS)等が使用でき、特にコストと反応性の観点から、ヨウ素が好ましい。
ヨウ素化試薬の使用量としては、化合物(k)に対して1〜10当量、好ましくは1〜5当量用いる。
反応温度としては、0〜−78℃の範囲であり、好ましくは−30〜−40℃の一定温度である。
【0059】
(ロ)においては、化合物(l)に、クロチルアルコール、トリエチルシラン、酸を加え溶媒を用いずに撹拌することで、化合物(m)が得られる。
クロチルアルコールの使用量をしては、化合物(l)に対して1〜10当量、好ましくは2〜5当量用いる。
トリエチルシランの使用量としては、化合物(l)に対して1〜10当量、好ましくは1〜4当量用いる。
【0060】
酸としては、トリフルオロ酢酸(TFA)、硫酸、メタンスルホン酸、塩酸等が使用でき、特に反応性の観点から、TFAが好ましい。
酸の使用量としては、例えばTFAの場合、化合物(l)に対して1〜15当量、好ましくは5〜10当量用いる。
【0061】
(ハ)においては、(ロ)において副生する化合物(v)に溶媒に溶かし、酸化剤、塩基を加え撹拌することで、化合物(l)が得られる。
溶媒としては、通常使用される溶媒であれば、いずれも好適に使用できる。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、トルエン、n-ヘキサン等が挙げられ、特に反応性の観点から、トルエン、n-ヘキサンが好ましい。
【0062】
酸化剤としては、二酸化マンガン、デス-マーチン試薬(Dess-Martin Periodinane)、ジョーンズ試薬(Na2Cr2O7-H2SO4)、PCC、PDC、DMSO-シュウ酸クロリド-トリエチルアミン(スワン酸化)、TEMPO-次亜塩素酸塩が挙げられ、特にTEMPO-次亜塩素酸塩が好ましく、更にはTEMPO-次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
酸化剤の使用量としては、例えばTEMPO-次亜塩素酸ナトリウムの場合、化合物(v)に対して、TEMPOは0.001〜0.1当量であり、好ましくは0.005〜0.02当量用いる。また、次亜塩素酸ナトリウムは1〜5当量であり、好ましくは1〜2当量用いる。
【0063】
塩基としては、通常使用される塩基であれば、いずれも好適に使用できる。このような塩基としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、トリエチルアミン等が挙げられ、特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0064】
塩基の使用量としては、例えば炭酸水素ナトリウムの場合、化合物(v)に対して、炭酸水素ナトリウム1〜10当量であり、好ましくは2〜4当量用いる。
反応温度としては、−10〜30℃の範囲であり、特に副反応を抑制するには、−10〜10℃であることが好ましい。
また反応時間としては、0.5〜10時間の範囲であり、好ましくは0.5〜5時間の範囲である。
【0065】
(ニ)においては、化合物(m)を溶媒に溶かし、パラジウム触媒、塩基、相間移動触媒を加え煮沸還流することで、化合物(n)が得られる。
溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル(IPE)、ジエチルエーテル、トルエン、水等が使用でき、特に反応性の観点から、アセトニトリル、THF、アセトニトリル、IPE、水が好ましく、更にはTHFあるいはアセトニトリル-IPE-水混液が好ましい。
【0066】
パラジウム触媒としては、酢酸パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(o)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、塩化パラジウム等が好適に使用でき、特に反応性の観点から酢酸パラジウムが好ましい。
パラジウム触媒の使用量としては、化合物(m)に対して0.01〜1当量、好ましくは0.05〜0.2当量用いる。
【0067】
塩基としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できる。このような塩基としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン(TEA)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、特に炭酸カリウム、DIPEAが好適に使用できる。
塩基の使用量としては、例えばDIPEAの場合、化合物(m)に対して1〜20当量、好ましくは5〜10当量用いる。
【0068】
相間移動触媒としては、通常使用される四級アンモニウム塩あるいはクラウンエーテルであればいずれも好適に使用でき、特に臭化テトラブチルアンモニウムが好ましい。
【0069】
相間移動触媒の使用量としては、例えば臭化テトラブチルアンモニウムの場合、化合物(m)に対して0.1〜3当量、好ましくは0.5〜1.5当量用いる。
また、反応時間については、THFを用いる場合、1〜20時間の範囲であり、好ましくは4〜10時間である。また、アセトニトリル-IPE-水混液を用いる場合、0.5〜10時間の範囲であり、好ましくは1〜5時間である。
(ホ)においては、化合物(n)をアルコール-水混液に溶かし、オスミウム触媒、共酸化剤、不斉触媒、塩基、メタンスルホンアミドを加え撹拌することで、化合物(o)が得られる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール(IPA)、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール等が挙げられ、特に反応性の観点からt-ブチルアルコールが好ましい。
オスミウム触媒としては、四酸化オスミウム、オスミウム(VI)酸カリウム等が好適に使用でき、特に取り扱いの観点から、オスミウム(VI)酸カリウムが好ましい。
【0070】
オスミウム触媒の使用量としては、化合物(n)に対して、0.001〜0.1当量、好ましくは0.002〜0.01当量用いる。
共酸化剤としては、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、4-メチルモルホリン N-オキシド(NMO)等が好適に使用でき、特に反応性の観点からヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムが好ましい。
共酸化剤の使用量としては、例えばヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムの場合、化合物(n)に対して1〜10当量、好ましくは2〜5当量用いる。
不斉触媒としては、(DHQD) 2PYR、(DHQD) 2PHAL、(DHQD)2AQN等が挙げられ、特に不斉収率の観点から(DHQD) 2PYRが好ましい。
【0071】
不斉触媒の使用量としては、例えば(DHQD) 2PYRの場合、化合物(n)に対して0.005〜0.1当量、好ましくは0.01〜0.05当量用いる。
塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用でき、特に反応性の観点から炭酸カリウムが好ましい。
【0072】
塩基の使用量としては、例えば炭酸カリウムの場合、化合物(n)に対して1〜20当量、好ましくは4〜10当量用いる。
メタンスルホンアミドの使用量としては、化合物(n)に対して0.1〜5当量、好ましくは0.5〜2当量用いる。
反応温度としては、−10〜30℃の範囲であり、好ましくは−10〜10℃である。
【0073】
(ヘ)においては、化合物(o)を溶媒に溶かし、塩基、ヨウ素を加え煮沸還流することで化合物(p)が得られる。
溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール(IPA)、水等が挙げられ、特に反応性の観点から、メタノール-水混液が好ましい。
【0074】
塩基としては、通常使用される塩基であれば好適に使用できる。このような塩基としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、特に炭酸カルシウムが好ましい。
塩基の使用量としては、例えば炭酸カルシウムの場合、化合物(o)に対して1〜10当量、好ましくは2〜5当量用いる。
【0075】
ヨウ素の使用量としては、化合物(o)に対して1〜10当量、好ましくは3〜5当量用いる。
また、反応時間については、0.5〜20時間の範囲であり、更には1〜5時間であることが好ましい。
【0076】
(ト)においては、化合物(p)を溶媒に溶かし、ヨウ素-トリフルオロ酢酸銀(以下、I2-CF3COOAgという)、あるいはN-クロロコハク酸イミド-ヨウ化ナトリウム(以下、NCS-NaIという)存在下で反応させることで、化合物(q)が得られる。
【0077】
溶媒については、I2-CF3COOAgの場合、ジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム等が好適であり、特にジクロロメタンが好ましい。また、NCS-NaIの場合、酢酸、アセトニトリル等が使用でき、特に反応性の観点から酢酸が好ましい。
I2-CF3COOAgの使用量としては、化合物(p)に対してI2は1〜10当量であり、好ましくは2〜4当量用いる。また、CF3COOAgは1〜10当量であり、好ましくは2〜4当量用いる。
【0078】
NCS-NaIの使用量としては、化合物(p)に対してNCSは1〜20当量であり、好ましくは5〜8当量用いる。また、NaIは1〜20当量であり、好ましくは5〜8当量用いる。
反応時の温度としては、I2-CF3COOAgを用いる場合は、10〜60℃であり、好ましくは20〜40℃である。また、NCS-NaIを用いる場合は、20℃〜煮沸還流温度であり、好ましくは50〜80℃である。
また、反応時間については、5〜48時間の範囲であり、好ましくは15〜24時間である。
【0079】
(チ)においては、化合物(q)を、例えば0.2Nの水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性溶媒を加え撹拌すると、化合物(q)はラクトンの開環体(化合物(u):
【化39】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す))となり、塩基性水溶液に溶解する。この溶液を有機溶媒で洗浄すると、中性〜塩基性の物質は有機層に移行する。有機層を分液後、水層を酸で酸性とし、有機溶媒で抽出することで化合物(q)を良好な純度で回収できる。
【0080】
塩基性溶媒は、0.01〜5Nの範囲であり、好ましくは0.1〜1Nである。さらに好ましくは、0.2〜0.5Nである。
使用する塩基としては、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
有機溶媒としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できる。このような溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等が挙げられ、特にジクロロメタンおよびクロロホルムが好ましい。
使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられ、特に塩酸が好ましい。
【0081】
(リ)においては、化合物(q)を高極性溶媒に溶解し、低極性溶媒を積層すると結晶が析出する。結晶をろ過し、ろ液を減圧下濃縮乾固する。得られた結晶はラセミ体であり、より光学的に純化された化合物(q)が残留物として得られる。
高極性溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、プロパノール等が使用でき、特にクロロホルムが好ましい。
使用する高極性溶媒量としては、例えばクロロホルムの場合、化合物(q)1 gに対して1〜10 mLの範囲であり、好ましくは3〜6 mLである。
【0082】
低極性溶媒としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ジエチルエーテル等が挙げられ、特にn-ヘキサンが好ましい。
高極性溶媒:低極性溶媒の比については、例えばクロロホルム:n-ヘキサンの場合、10:1〜1:20の範囲であり、好ましくは2:1〜1:2である。
結晶化操作の温度については、室温以下が好ましく、更には5℃以下が好ましい。
【0083】
(ヌ)においては、化合物(q)を1-プロパノールに溶かし、パラジウム触媒、塩基を加えて、一酸化炭素ガス雰囲気下で反応させることで、化合物(r)が得られる。
パラジウム触媒については、酢酸パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(o)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、塩化パラジウム等が好適に使用でき、特に反応性の観点から酢酸パラジウムが好ましい。
パラジウム触媒の使用量としては、化合物(m)に対して0.005〜0.5当量、好ましくは0.01〜0.1当量用いる。
【0084】
塩基としては、通常使用されるものであればいずれも好適に使用できる。このような塩基としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、トリエチルアミン(TEA)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、特に炭酸カリウムが好適に使用できる。
塩基の使用量としては、例えば炭酸カリウムの場合、化合物(m)に対して1〜20当量、好ましくは4〜10当量用いる。
反応温度としては、20℃〜煮沸還流温度の範囲であり、好ましくは50℃〜煮沸還流温度の範囲である。
【0085】
(ル)においては、化合物(r)を溶媒に溶かし、脱メチル化試薬を加えて、室温で反応させることで化合物(s)が得られる。
溶媒としては、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン等が使用でき、特にアセトニトリルが好ましい。
脱メチル化試薬としては、クロロトリメチルシラン−ヨウ化ナトリウム、ヨードトリメチルシラン、ヨウ化水素酸、臭化水素酸等が挙げられ、特に反応性の観点から、クロロトリメチルシラン-ヨウ化ナトリウムが好ましい。
脱メチル化試薬の使用量としては、例えばクロロトリメチルシラン-ヨウ化ナトリウムの場合、化合物(r)に対して1〜10当量の範囲であり、好ましくは2〜5当量用いる。
【0086】
(ヲ)においては、化合物(s)を溶媒に溶かし、塩基を加えて、不活性ガス下で撹拌する。得られた混合物にアクリル酸t-ブチルを滴下し、不活性ガス下で撹拌することで化合物(t)が得られる。
溶媒については、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が好適に使用でき、特に反応性の観点からDMSOが好ましい。
塩基をしては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用でき、特に炭酸カリウムが好ましい。
塩基の使用量としては、例えば炭酸カリウムの場合、化合物(s)に対して1〜20当量、好ましくは2〜5当量である。
【0087】
不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン等の希ガス類、あるいは窒素等の反応性の低いガスであればいずれを用いても良く、特にコストの点から、アルゴン、窒素が好ましい。
アクリル酸t-ブチルの使用量としては、化合物(s)に対して1〜20当量、好ましくは8〜12当量である。
反応温度については、20〜80℃の範囲であり、好ましくは40〜60℃である。
また、反応時間については5〜48時間であり、特に生成した化合物(t)の分解を防ぐためには、24時間以内であることが好ましい。
【0088】
(ワ)においては、化合物(h)と化合物(e)を溶媒に溶かし、酸を加え、不活性ガス雰囲気下で加熱撹拌することで、SN-38が得られる。
溶媒としては、トルエン、酢酸等が好適に使用でき、得にトルエン-酢酸混液が好ましい。
不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン等の希ガス類、あるいは窒素等の反応性の低いガスであればいずれを用いても良く、特にコストの点から、アルゴン、窒素が好ましい。
【0089】
酸としては、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等が使用でき、特に反応性の観点から、トルエンスルホン酸が好ましい。
酸の使用量としては、例えばトルエンスルホン酸の場合、化合物(h)1 gに対して1〜100 mgであり、好ましくは10〜30 mgである。
化合物(e)の使用量としては、化合物(h)に対して1〜3当量であり、好ましくは1〜1.5当量用いる。
反応温度としては、50℃〜煮沸還流温度の範囲であり、好ましくは80℃〜煮沸還流温度の範囲である。
【0090】
以下に実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕化合物(b')の合成
【化40】

式中Bnはベンジル基を示す。
【0091】
化合物(a)38.5g(0.230mol)をDMF又はアセトン116mLに溶解し、アルゴン雰囲気下、室温下で撹拌しながら炭酸カリウム 33.4g(0.242mol、2.1当量)及び塩化ベンジル 27.8mL(0.242mol、1.05当量)、または59.95mL(0.461mol、2当量)を加えた。添加後、60℃に加熱し、強く攪拌した。経時的に化合物(a)の残量を確認し、20時間後、化合物(a)の消失を確認した後、吸引濾過した。吸引濾過後、固形物が得られた。
【0092】
得られた固形物を反応溶媒116mLで洗浄し、濾液と洗浄液を合わせ、溶媒を減圧下留去した。留去後、残留物に水 300mLを加え、撹拌後、析出物を吸引濾過し、風乾した。風乾後、濾取物を酢酸エチル 170mLに溶解し、ヘキサン 1L中に撹拌下添加した。析出した固体を吸引濾過し、酢酸エチル−ヘキサン(1:10)の混合溶媒300mLにより洗浄後、減圧下乾燥させた。塩化ベンジルの量によってそれぞれ区別される製造例1及び2を得た。又、反応溶媒としてアセトンを用いた製造例3を得た。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示したように、塩化ベンジルを1.05当量用いた場合(製造例1)、反応は20時間で終了し、収率は94%であった。一方、塩化ベンジルを2.00当量用いた場合(製造例2)、反応は1時間で終了し、収率は94%であった。また、DMF量が3倍量より少ないと、反応中に固形物が析出し、撹拌が困難であった。一方、反応溶媒にアセトンを用い18時間加熱還流したが、反応は進行しなかった。
HPLC操作条件
カラム :Inertsil ODS-2、5μm、4.6mmID×250mm(GLサイエンス製)
温度 :40℃付近の一定温度
移動相 :水:アセトニトリル混液(1:1)
流速 :1mL/分
測定波長:220nm
【0095】
〔実施例2〕化合物(c')の合成(1)
【化41】

式中Bnはベンジル基を示す。
【0096】
化合物(b')1.0g(3.89mmol)をTHF 20mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で氷冷下撹拌しながら臭化ビニルマグネシウム THF溶液(1.0M) 5.84mL(5.84mmol、1.5当量)を15分かけて滴下した。この時反応液の内温は3〜10℃であった。1時間撹拌の後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液 20mL中に撹拌下加えた。さらに酢酸エチル 20mL、ヘキサン 4mLを加え、得られた有機層を水および飽和食塩水各々20mLで洗浄後、硫酸ナトリウム 3gにて乾燥し、溶媒を減圧下留去して反応生成物Aを得た。
【0097】
一方、臭化ビニルマグネシウム THF溶液(1.0M) 5.84mLに、アルゴン雰囲気下で氷冷下撹拌しながら、上述と同様に調製した化合物(b')THF溶液 20mLを15分かけて滴下した。この時反応液の内温は3〜10℃であった。1時間撹拌の後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液 20mL中に撹拌下加えた。さらに酢酸エチル 20mL、ヘキサン 4mLを加え、得られた有機層を水および飽和食塩水各々20mLで洗浄後、硫酸ナトリウム 3gにて乾燥し、溶媒を減圧下留去して反応生成物Bを得た。
【0098】
得られた反応生成物Aおよび反応生成物Bの各々をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(酢酸エチル:ヘキサン=1:20)、各々反応生成物Aから製造例4を得、反応生成物Bから製造例5を得た。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示したように、グリニャール試薬を化合物(b')の溶液に滴下することで、副生成物である化合物(f)の生成が抑制され、収率が57%向上した。
HPLC操作条件;実施例1参照
【0101】
〔実施例3〕化合物(c')の合成(2)
化合物(b')1.0g(3.89mmol)をTHF 10〜100mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で撹拌しながら臭化ビニルマグネシウム THF溶液(1.0M) 5.84mL(5.84mmol、1.5当量)を15分かけて滴下した。1時間撹拌の後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液 20mL中に撹拌下加えた。さらに酢酸エチル 20mL、ヘキサン 4mLを加え、得られた有機層を水および飽和食塩水各々20mLで洗浄後、硫酸ナトリウム 3gにて乾燥し、溶媒を減圧下留去して反応生成物を得た。
【0102】
得られた反応生成物を実施例2(製造例4および5)と同様の方法で精製し、製造例6〜製造例9を得た。製造例6は反応温度20℃で、溶媒量20倍量で反応させて得られたものであり、製造例7〜9は反応温度3℃で、各々溶媒量10倍量、40倍量、100倍量で反応させて得られたものである。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示したように、10℃以下、より好ましくは5℃以下で反応させることで、化合物(f)の生成が抑制され、化合物(c')の収率も15%向上した。一方、溶媒量を100倍量にすることで(製造例9)、化合物(f)の生成が抑制され、収率も6%向上した。
HPLC操作条件;実施例1参照
【0105】
〔実施例4〕化合物(d')の合成(1)
【化42】

式中Bnはベンジル基を示す。
【0106】
(1)二酸化マンガンの調製:
過マンガン酸カリウム水溶液 96.0g/600mL(0.607mol)に、室温撹拌下、硫酸マンガン五水和物 122g/150mL(0.506mol)及び40%水酸化ナトリウム水溶液 117mLを同時に加えた。18時間撹拌後、吸引濾取し、水洗した。得られた固形物を風乾し、二酸化マンガン 91.2gを得た。
【0107】
(2)化合物(d')の合成
化合物(c')2.00g(7.02mmol)をクロロホルム、塩化メチレン、又は酢酸エチル 20mLに溶解し、アルゴン雰囲気下25℃条件で撹拌しながら上述の方法により調製した二酸化マンガン 8.00g(4倍量、92.0mmol、13当量)を加え、強く攪拌した。15時間後、原料の消失を確認した後、吸引濾過した。得られた固形物をクロロホルム 20mLで洗浄し、濾液及び洗浄液を合わせ、溶媒を減圧下留去した。製造例10〜12を得た。
【0108】
【表4】

【0109】
表4に示したように、溶媒としてクロロホルム、或いは塩化メチレンを使用することにより、高い収率で化合物(d')が合成され、特に塩化メチレンを使用することで、反応時間を3倍以上短縮できた。一方、酢酸エチルの場合は24時間後でも化合物(c')が残っていた。
HPLC操作条件;実施例1参照
【0110】
〔実施例5〕化合物(d')の合成(2)
化合物(c')7.0g(3.5mmol)、トルエン(70mL)、酢酸エチル(70mL)、水(10mL)、TEMPO38.3mg(1mol%)を混合し、氷冷下激しく撹拌しながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素min.5.0%) 42mL、炭酸水素ナトリウム水溶液(炭酸水素ナトリウム7.1g、水60mL)を滴下した(2〜6℃、55分)。5分後、原料は0.4%(HPLC、ピーク面積%)であった。有機層を分液し、KI/硫酸水素カリウム水溶液で洗浄し(黄色→赤褐色)、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄後、溶媒を減圧下留去し、化合物(d')6.4g(収率91%、純度92.6%)を得た。3.0gをメタノール-水(25:1)にて再結晶し2.3g(再結晶収率77%、純度95.2%、HPLCによる)を得た。
HPLC操作条件;実施例1参照
【0111】
〔実施例6〕化合物(e)の合成
【化43】

式中Bnはベンジル基を示す。
化合物(d')1.84g(6.50mmol)を酢酸エチル 37mLに溶解し、アルゴン雰囲気下、氷冷撹拌しながら、10%パラジウム−炭素 0.69g(0.65mmol、10mol%)を加えた。混合物を水素雰囲気下25℃で強く撹拌し、経時的に回収した。得られた反応液を濾過し、濾液を留去した。製造例13〜14を得た。
【0112】
【表5】

【0113】
表5に示したように、13時間以上の反応により、副産物である化合物(g)の生成が抑制され、化合物(e)の収率も10%向上した。
HPLC操作条件
カラム :Inertsil ODS-2、5μm、4.6mmID×250mm(GLサイエンス製)
温度 :40℃付近の一定温度
移動相 :水:アセトニトリル混液(1:1)
流速 :1mL/分
測定波長:254nm
【0114】
〔実施例7〕2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの全合成
以下に2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノン(化合物(e))の製造工程を示す。
(1)化合物(b')の合成
化合物(a)1.00g (5.98 mmol)をDMF 3mLに溶解し、アルゴン雰囲気下、室温下で撹拌しながら炭酸カリウム 0.87g (6.28 mmol、2.1当量)及び塩化ベンジル 0.72mL(6.28mmol、1.05当量)を加えた。添加後、60℃に加熱し、強く攪拌した。経時的に化合物(a)の残量を確認し、20時間後、化合物(a)の消失を確認した後、吸引濾過した。吸引濾過後、固形物が得られた。
得られた固形物をDMF3mLで洗浄し、濾液と洗浄液を合わせ、溶媒を減圧下留去した。留去後、残留物を水 100mLに加え、撹拌後、析出物を吸引濾過し、風乾した。風乾後、減圧下乾燥させ(減圧度:1mmHg、室温20℃)、淡黄色固体として化合物(b')を1.45g(収率95%)得た。
【0115】
以下に、化合物(b')のNMRスペクトル等の物性を示す。
化合物(b');mp 71-73℃
1H-NMR(400MHz, CDCl3):δ 5.21(2H, s, PhCH2O), 7.21(1H, dd, J = 2.8, 9.3 Hz), 7.35-7.44(6H, m), 8.16(1H, d, J = 9.3 Hz), 10.48(1H, s, CHO).
IR(KBr): 1250, 1333, 1514, 1589, 1697 cm-1.
EI-MS:m/z 257(M+).
【0116】
(2)化合物(c')の合成
化合物(b')1.0g(3.89mmol)をTHF 20mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で氷冷下撹拌しながら臭化ビニルマグネシウム THF溶液(1.0M) 5.84mL(5.84mmol、1.5当量)を15分かけて滴下した。この時反応液の内温は3〜10℃であった。1時間撹拌の後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液 20mL中に撹拌下加えた。さらに酢酸エチル 20mL、ヘキサン 4mLを加え、得られた有機層を水および飽和食塩水各々20mLで洗浄後、硫酸ナトリウム 3gにて乾燥し、溶媒を減圧下留去した。
得られた反応生成物(1.19g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(酢酸エチル:ヘキサン=1:20)、橙色固体として化合物(c')を0.93g(収率84%)得た。
【0117】
以下に、化合物(c')のNMRスペクトル等の物性を示す。
化合物(c');mp 60-63℃
1H-NMR(400MHz, CDCl3):δ 5.15(2H, s, PhCH2O), 5.22-5.26(1H, m), 5.39-5.44(1H, m), 5.90(1H, d, J = 5.1 Hz), 6.06(1H, ddd, J = 5.1, 10.5, 15.6 Hz), 6.94(1H, dd, J = 2.9, 9.0Hz), 7.34(1H, d, J = 2.9 Hz), 7.35-7.44(5H, m), 8.04(1H, d, J = 9.0 Hz).
IR(KBr):3298, 1614, 1582, 1506, 1292, 1229 cm-1.
EI-MS:m/z 285(M+).
【0118】
(3)化合物(d')の合成
化合物(c')2.00g(7.02mmol)をクロロホルム 20mLに溶解し、アルゴン雰囲気下25℃条件で撹拌しながら二酸化マンガン 8.00g(4倍量、92.0mmol、13当量)を加え、強く攪拌した。15時間後、原料の消失を確認した後、吸引濾過した。得られた固形物をクロロホルム 20mLで洗浄し、濾液及び洗浄液を合わせ、溶媒を減圧下留去して、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して(酢酸エチル:ヘキサン=1:20)、白色固体として化合物(d')を1.88g(収率95%)得た。
【0119】
以下に、化合物(d')のNMRスペクトル等の物性を示す。
化合物(d');mp 84-85℃
1H-NMR(400MHz, CDCl3)δ: 5.17(2H, s, PhCH2O), 5.83(1H, d, J = 17.7 Hz), 6.01(1H, d, J = 10.6 Hz), 6.62(1H, dd, J = 10.6, 17.7 Hz), 6.91(1H, d, J = 2.7 Hz), 7.10(1H, dd, J = 2.7, 9.0Hz), 7.37-7.43(5H, m), 8.17(1H, d, J = 9.0 Hz).
IR(KBr):1686, 1578, 1506, 1342, 1244 cm-1.
EI-MS:m/z 283(M+).
【0120】
(4)化合物(e)の合成
化合物(d')1.84g(6.50mmol)を酢酸エチル 37mLに溶解し、アルゴン雰囲気下、氷冷撹拌しながら、10%パラジウム−炭素 0.69g(0.65mmol、10mol%)を加えた。混合物を水素雰囲気下25℃で強く撹拌した。13時間後、得られた反応液から触媒を濾過し、濾液を留去して、橙色固体として粗生成物 0.87g(収率81%、純度91.14%、HPLCによる)を得た。
得られた反応生成物 500mgを、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して(酢酸エチル:ヘキサン=1:10→1:4)、黄色固体として化合物(e)421mg(収率84%、純度95.59%、HPLCによる)を得た。
【0121】
以下に、化合物(e)のNMRスペクトル等の物性を示す。
化合物(e);mp 131-140(℃)
1H-NMR(400MHz, CDCl3)δ:1.20(3H, t, J = 7.2 Hz), 2.93(2H, q, J = 7.2 Hz), 6.59(1H, d, J = 8.8 Hz), 6.88(1H, dd, J = 2.9, 8.8 Hz), 7.23(1H, d, J = 2.9 Hz).
IR(KBr):3379, 3296, 1670, 1447, 1194 cm-1.
EI-MS:m/z 165(M+).
【0122】
〔実施例8〕 保護基Rを用いない化合物(e)の合成法
(1)化合物(a)から化合物(c'')の合成
【化44】

化合物(a)500mg (2.99mmol)をTHF 15mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で氷冷撹拌しながら臭化ビニルマグネシウムTHF溶液(1.0M) 7.5mL(7.5mmol、2.5当量)を約5分かけて滴下した。1時間撹拌の後、反応混合物を1mol/L塩酸 30mLに、氷冷撹拌しながら加えた。さらに酢酸エチル30mL、ヘキサン5mLを加え、得られた有機層を水および飽和食塩水各々50mLで洗浄後、硫酸ナトリウム3gにて乾燥し、溶媒を減圧下留去して反応生成物を得た。
得られた反応生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し(酢酸エチル:ヘキサン=1:10→1:3)、黄〜茶褐色固体として化合物(c'')を541mg(収率93%)得た。
【0123】
化合物(c'');
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ 5.22-5.26 (1H, m), 5.35-5.40 (1H, m), 5.90-5.92 (1H, m), 6.06 (1H, ddd, J = 5.2, 10.5, 15.6 Hz), 6.83 (1H, dd, J = 2.7, 9.0 Hz), 7.19 (1H, d, J = 2.7 Hz), 8.00 (1H, d, J = 9.0 Hz).
【0124】
(2)化合物(c'')から化合物(d'')の合成
【化45】

化合物(c'')1.00g (5.13mmol)をアセトン8mLに溶解し、氷冷撹拌しながら、ジョーンズ試薬3.0mL(5mmol、1.5当量)を加えた。0.5時間撹拌の後、反応混合物に氷片3ヶおよび飽和硫酸水素ナトリウム水溶液5mLを加えた。さらに酢酸エチル50mL、ヘキサン5mLを加え、得られた有機層を水、飽和食塩水各々50mLにて洗浄し、硫酸ナトリウム5gにて乾燥し、溶媒を減圧下留去して化合物(d'')を0.82g(収率83%)得た。
【0125】
化合物(d'');
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6) d 5.84 (1H, d, J = 17.6 Hz), 6.11 (1H, d, J = 10.7 Hz), 6.60 (1H, dd, J = 10.7, 17.7 Hz), 6.75 (1H, d = 2.7 Hz), 7.03 (1H, dd, 9.1 Hz), 8.13 (1H, d, J = 9.1 Hz), 11.41 (1H, s).
【0126】
(3)化合物(d'')から化合物(e)の合成
【化46】

化合物(d'')100mg (0.513mmol)を酢酸エチル1mLに溶解し、アルゴン雰囲気下で氷冷撹拌しながら、10%パラジウムー炭素55mg(0.0513mmol、10mol%)を加え、水素雰囲気下で室温にて撹拌した。18時間撹拌の後、10%パラジウムー炭素をろ過し、ろ液の溶媒を減圧下留去した。
黄色固体として、化合物(e)を64mg(収率76%)得た。
【0127】
〔実施例9〕7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン(SN−38)の合成
【化47】

実施例7で得られた化合物(e)(0.36g、2.14mmol)と、化合物(h)(0.50g、1.82mmol)を酢酸-トルエン混液(AcOH-toluene;1:1、10mL)中に懸濁し、室温でp-トルエンスルホン酸一水和物(p-TsOH・H2O;10mg)を加え、窒素ガス下100℃で18時間攪拌した。反応液を減圧下濃縮した後、残留物にトルエン(10mL)を加え、さらに減圧下濃縮した。残留物に室温でアセトン(9mL)を加え、2時間攪拌した後、析出物を濾取し、濾取物はアセトン(2mL×2)で洗浄した。減圧下乾燥し、褐色固体(0.63g、純度97.7%、HPLCによる、収率89%)としてSN-38を得た。
【0128】
HPLC操作条件;
カラム:Inertsil ODS-2、0.46cmID×25cm(GLサイエンス製)
温度 :40℃付近の一定温度
流速 :1mL/分
移動相:メタノール:アセトニトリル:10 mMリン酸二水素カリウム混液 (1:1:3)
測定波長:254nm
SN-38;
1H-NMR (400 MHz, CDCL3)δ: 0.98 (3H, t, J=7 Hz, CH3), 1.38 (3H, t, J=7 Hz, CH3), 1.90 (2H, q, J=7 Hz, CH2), 3.08 (2H, q, J=7 Hz, CH2), 5.17 (2H, s, CH2O), 5.23 (1H, d, J=16 Hz), 5.54 (1H, d, J=16 Hz), 6.83 (1H, d, J=9 Hz), 7.34-7.39 (3H, m).
【0129】
〔実施例10〕7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン(SN−38B−11)の合成
【化48】

実施例9で得られた合成SN−38(0.91 g, 2.32 mmol)を用いて、既法 (Sawada, S.; Okajima, S.; Aiyama, R.; Nokata, K.; Furuta, T.; Yokokura, T.; Sugino, E.; Yamaguchi, K.; Miyasaka, T. Chem. Pharm. Bull. 1991, 39, 1446.) に従いSN−38B−11(1.22 g, 2.08 mmol, 収率89%, 光学純度99.8%ee)を合成した。
キラルHPLC操作条件
カラム : DAICEL CHIRALCEL OD-H、0.46cmID×25cm(# ODHOCE-AK031)
ガードカートリッジ: DAICEL CHIRALCEL OD-H、0.4cmID×1cm
サンプル注入量: 10 μg/10 μL
温度 : 40℃付近の一定温度
流速 : 1 mL/分
移動相 : ジメチルアミン:n-ヘキサン:エタノール混液(1:250:250)
測定波長 :254nm
【0130】
〔実施例11〕7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン塩酸塩(CPT−11)の合成
【化49】

実施例10で得られたSN−38B−11(1.00g, 1.7mmol)に1/10Nの塩酸(20mL, 2.0mmol)を加え、80℃付近に加温して溶かし、アセトニトリル(100mL)を加え、一晩室温で撹拌した。析出物をろ取、乾燥、吸湿し黄白色の粉末(0.95mg, 収率89.8%)としてCPT−11を得た。
【0131】
〔実施例12〕化合物(l)の合成(1)
−30℃及び−20℃付近でのn−BuLi(n−ブチルリチウム)およびN−ホルミル−N,N',N'−トリメチルエチレンジアミンによる化合物(k)のホルミル化、次いで−30℃及び−20℃付近でのn−BuLiおよびヨウ素によるヨウ素化により化合物(l)を得た。
反応容器に窒素ガスを通じ、化合物(k)(5.0g;0.028モル)を乾燥テトラヒドロフラン(約66mL)に溶かし、−30℃及び−20℃付近に冷却した。得られた溶液にn−BuLi(1.6モル n−ヘキサン溶液;21.2mL,0.034mol,1.2当量)を滴下し、冷却下攪拌した。次いでホルミル化剤としてN−ホルミル−N,N',N'−トリメチルエチレンジアミン(4.4g,0.0034モル,1.2当量)を添加し、混合物を冷却下攪拌した。
【0132】
得られた混合物にn−BuLi(1.6モル n−ヘキサン溶液;35mL,0.05mol,2当量)を滴下し、表6に記載した温度で攪拌した。次いでヨウ素(18.4g)の乾燥テトラヒドロフラン(THF)溶液(19mL)を滴下し、混合物を攪拌した。
得られた混合物に亜硫酸水素ナトリウム水溶液(12g/200mL)を投入し、撹拌後、有機層(n−ヘキサン)を回収し、HPLC法により測定した。結果を表6に示す。
HPLC操作条件
カラム :Capcell Pack ODS UG120, 4.6mm ID×150mm
移動層 :50mM KH2PO4-MeCN混液(9:11)
測定波長 :220nm
流速 :約1mL/分
測定温度 :室温
【0133】
【表6】

【0134】
表6に示したように、リチオ化剤としてn−BuLiを用いても、60%以上の収率が得られた。また製造例16に示したように、−40〜−30℃の一定温度下では、70%以上の良好な収率で反応が進むことがわかった。
【0135】
〔実施例13〕化合物(l)の精製(希塩酸洗浄)
化合物(k)(5.0g;0.028モル)を乾燥テトラヒドロフラン(約66mL)に溶解し、−35℃付近の一定温度で、実施例12と同様に反応させた。得られた反応混合物(n−ヘキサン層)を回収し、有機層と同量の希塩酸により洗浄した。
洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、有機層をろ別し、ろ液の一部を実施例12と同じ条件で、HPLC法により測定した。結果を表7に示す。
【0136】
【表7】

【0137】
表7に示したように、希塩酸洗浄により化合物(k)はほぼ除去された。特に1.0mol/L以上の希塩酸で洗浄することにより、高純度の化合物(l)を得ることができた。一方、反応中間体である2−メトキシ−6−トリメチルシリルピリジン−3−カルバルデヒド(MTPC)はほとんど除去されなかった。なお、MTPCは、化合物(k)のホルミル化による中間体である。
【0138】
〔実施例14〕化合物(l)の精製(希塩酸による段階洗浄)
化合物(k)(5.0g;0.028モル)を乾燥テトラヒドロフラン(約66mL)に溶解し、−35℃付近の一定温度で、実施例12と同様に反応させた。得られた反応混合物(n−ヘキサン層)を回収し、有機層と同量の希塩酸により表8に示すように異なる濃度の希塩酸で段階的に洗浄した。
洗浄後、酸性の水層を分離し、炭酸ナトリウムで中和し、次いでn−ヘキサンで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ別し、ろ液の一部を実施例12と同じ条件で、HPLC法により測定した。結果を表8に示す。
【0139】
【表8】

【0140】
表8に示したように、異なる濃度の希塩酸で段階的に洗浄することにより、高純度の化合物(l)が得られた。
【0141】
〔実施例15〕化合物(l)の精製(蒸留による精製)
化合物(k)(5.0g;0.028モル)を乾燥テトラヒドロフラン(約66mL)に溶解し、−35℃付近の一定温度で、実施例12と同様に反応させた。得られた反応混合物(n−ヘキサン層)を回収し、減圧下(減圧度;0.35mmHg付近)、81〜99℃の温度で蒸留した。蒸留後、残留物(釜残留物)をシリカゲルカラムを用い、n−ヘキサン、次いでn−ヘキサン−酢酸エチル混液(50:1)を用いてろ過し、精製物を得た。
得られた残留物及び精製物を、下記の条件で、HPLC法により測定した。結果を表9に示す。
HPLC操作条件
カラム :Capcell Pack ODS UG120, 4.6mm ID×150mm
移動層 :50mM KH2PO4-MeCN混液(1:1)
測定波長 :220nm
流速 :約1mL/分
測定温度 :室温
【0142】
【表9】

【0143】
表9に示したように、蒸留によりMTPCはほぼ除去された。更に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製処理することで、極めて高純度の化合物(l)が得られた。一方、これ以上の高温で蒸留すると、化合物(l)の着色及び分解が認められ、好ましくない。
【0144】
〔実施例16〕化合物(l)の精製(塩酸塩としての回収)
化合物(k)(5.0g;0.028モル)を乾燥テトラヒドロフラン(約66mL)に溶解し、−35℃付近の一定温度で、実施例12と同様に反応させた。得られた反応混合物10gを10Nの塩酸(10mL)に溶解し、室温で攪拌した。撹拌後、黄色の析出物をろ取し、少量の10N塩酸で洗浄した。洗浄後、水に溶解し(約10mL)、pH約8付近になるまで炭酸水素ナトリウムを加えた後、n−ヘキサンで抽出し、減圧下乾固した。
得られた抽出物を、実施例15と同じ条件で、HPLC法により測定した。結果を表10に示す。
【0145】
【表10】

【0146】
表10に示したように、反応物を塩酸塩とする精製方法によって、MTPCがほとんど除去された。
化合物 (l);黄色油状物質
1H-NMR(400MHz, CDCl3)δ: 0.30(9H, s), 4.05(3H, s), 7.67(1H, s), 10.19(1H, s). EI-MS: m/z 335(M+).
【0147】
〔実施例17〕 化合物(m)の合成
【化50】

式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す。
化合物(l)(20.00 g, 56.0 mmol, 含量93.9%)、トリエチルシラン(17.9 mmL, 112.0 mmol, 2 eq.)、クロチルアルコール(15.7 mL, 184.8 mmol ,3.3 eq.)の混合液に、窒素ガス雰囲気下、0〜5℃でトリフルオロ酢酸(28.5 mL, 375.3 mmol, 6.7 eq.)を滴下した後、30分間撹拌し、その後室温で約20時間撹拌した。反応混合物に炭酸ナトリウム水溶液(20.8 gを277 mLの水に溶解)とn-ヘキサン(56 mL)に注ぎ、有機層をとり、水層をn-ヘキサン(56 mL)で抽出した。有機層を合わせて減圧下濃縮乾固した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフ法[シリカゲル:富士シリシアPSQ100B(化合物(l)の約4倍重), 流下液:n-ヘキサン/酢酸エチル(73:3)]により精製し、表11(製造例20)を得た。なお、表11(製造例19)はH. Josienらの方法(Josein, H. ; Ko, S.B. ; Bom, D. ; Curran, D.P., Chem. Eur. J. 1998, 4, 67-83.、Curran, D.P. ; Ko, S.B. ; Josein, H., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 2683-2684.)に従って製造した。報告された条件下で、ジクロロメタンを反応溶媒として用いた。ジクロロメタンを用いずに、質および収率において、同等の生成物(m)を得た。
【0148】
【表11】

【0149】
HPLC操作条件
カラム:Inertsil ODS-2、5 μm、4.6 mmI.D.×250 mm(GLサイエンス製)
サンプル注入量:2 μg/10 μL
温度:40℃付近の一定温度
移動層:アセトニトリル/0.01 mol/l リン酸二水素カリウム(5:1)
流速:1 mL/分
測定波長:254 nm
【0150】
〔実施例18〕 化合物(l)の合成(2)
【化51】

式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す。
化合物(v)(1.00 g, 純度98.43%, 2.9 mmol)のトルエン(8.7 mL)溶液にTEMPO(2.3 mg, 0.015 mmol, 0.005 eq.)、7%(w/v) NaHCO3(6.98 mL)を加え、0〜5℃に冷却した後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素:最小5%, 4.5 g, 3.0 mmol, 1.05 eq.)を加え、0〜5℃で2時間撹拌した。反応液に10%Na2SO3(3.7 mL, 2.9 mmol)を加え、0〜5℃で30分間撹拌した後、不溶物をろ去し、トルエン(1 mL×3)で洗い込んだ。有機層は分液し、水(10 mL)で洗浄、無水Na2SO4(2 g)で乾燥、ろ過、次いでトルエンで洗い込み、減圧下濃縮乾固して、黄色オイルとして化合物(l)0.93 g(収率87%)、含量90.60%(HPLC(実施例17参照)による)を得た。
【0151】
〔実施例19〕化合物(n)の合成(1)
【化52】

式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
化合物(m)1.60gを表12に示した溶媒約30mLに溶解し、臭化テトラブチルアンモニウム(Bu4NBr)0.83g、炭酸カリウム(K2CO3)0.71g、および酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)57mgを加え、表12に示した条件下反応させた。反応混合液を室温まで放冷し、氷冷下のn−へキサン18mLへ注いだ。
【0152】
不溶物をセライトパットで除去し、n−へキサン6mLで3回洗浄した。ろ液を水9mLで2回洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、減圧下濃縮した。残留物をn−へキサン・酢酸エチル混液(95:5)を流下液としてシリカゲルカラムクロマトグラフ法により精製し、製造例21〜27を得た。
表12の製造例21はH.Josienらの方法(Josien,H.; Ko,S.B.; Bom,D.; Curran, D.P., Chem.Eur.J. 1998, 4, 67-83.、Curran, D.P.; Ko,S.B.; Josien,H., Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 1995, 34, 2683-2684.)に従って製造した。得られた製造例21〜27のエンド体とエキソ体量はHPLC法により測定した。
【0153】
【表12】

【0154】
表12に示したように、反応溶媒としてTHFを用い、煮沸還流することで、エンド体とエキソ体の比率が7付近と、選択性が向上し(製造例25〜27)、収率も製造例21に比べ10%以上向上した。
HPLC操作条件;実施例17参照
【0155】
〔実施例20〕化合物(n)の合成(2)
化合物(m)(1.27 g、2.6 mmol、含量78.7%)をジイソプロピルエーテル-アセトニトリル-水混液(4:3:1、20 mL)に溶かし、室温で臭化テトラブチルアンモニウム(0.82 g、2.6 mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.48 mL、 20.8 mmol, 8eq.)、酢酸パラジウム(57 mg、0.26 mmol)を加え、30分間煮沸還流した。反応混合物を20℃以下まで冷却、ろ過し、n-ヘキサン(2.6 mL×3)で洗い込んだ。ろ液にn-ヘキサン(10 mL)と10% Na2SO3(16 mL、13.0 mmol, 5eq.)を加え、有機層を分液した。有機層を1N HCl(16.4 mL)、次いで水(10 mL×2)で洗浄した。有機層を減圧下、濃縮乾固して、褐色オイルとして化合物(n)(0.83 g、2.325 mmol、HPLCによる含量73.34%、収率91%、エンド体/エキソ体:10.6)を得た。
製造例21に比べて、選択性が大きく向上し、収率も20%程度向上した。
【0156】
〔実施例21〕化合物(o)の合成
【化53】


式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(195.7 g、0.59 mol)、炭酸カリウム(82.1 g、0.59 mol)及びメタンスルホンアミド(37.7 g、0.40 mol)の水溶(990 mL)液に、(DHQD)PYR(4.36 g、4.95 mmol)及びオスミウム酸カリウム(VI)二水和物(1.0 mmol)を加え、5℃付近で1時間撹拌した。この溶液に化合物(n)(77.8 g、0.18 mol、含量61.5%)を加え、さらに5℃付近20時間撹拌した。反応液に固体のまま亜硫酸ナトリウム(74.9 g)を加え、5℃付近で30分間撹拌した後、不溶物をセライトパッドでろ去した。不溶物を酢酸エチル(4回、全770 mL)で洗浄した。ろ液の有機層を取り、水層はさらに酢酸エチル(770 mL)で抽出した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフ法[シリカゲル:富士シリシアPSQ100B(化合物(n)の約3.5倍重)、流下液:ジクロロメタン/酢酸エチル混液(4:1)]により精製し、赤褐色固体として化合物(o)を得た。
化合物(p)まで導いた場合の結果(製造例29)を、表13に示す。
表13に示したように、四酸化オスミウムよりも揮発性が低く、取り扱いが容易なオスミウム酸カリウムを用いても、収率、光学純度ともに同等の結果が得られた。
【0157】
【表13】

製造例28はH. Josienらの方法(Josein, H. ; Ko, S.B. ; Bom, D. ; Curran, D.P., Chem. Eur. J. 1998, 4, 67-83.、Curran, D.P. ; Ko, S.B. ; Josein, H., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 2683-2684.)に従って製造した。
%ee:得られた化合物(o)を化合物(p)に、実施例22に記載の方法によって、変換し、その光学的純度は、キラルHPLC法(実施例22参照)によって測定した。
【0158】
〔実施例22〕化合物(p)の合成
【化54】

式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
化合物(o)70gをメタノール・水溶液(10:1)1Lに溶解し、室温で表12に示した量のヨウ素、および炭酸カルシウム47.1gを固体のまま加え、表14に示した条件で反応させた。
得られた反応混合物を室温まで放冷し、10%亜硫酸ナトリウム1Lおよびクロロホルム1Lを加え、室温で30分間攪拌し、不溶物をろ過して除いた。ろ液を分取し、水層をクロロホルム500mLで抽出した。洗浄後有機層を取り、更に水層をクロロホルム500mLで洗浄した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮した。
実施例19と同様に、得られた化合物における収率を算出し、結果を表14に示した。
表14に示したように、4当量のヨウ素を用いて煮沸還流することにより、製造例30の1/9〜1/10の反応時間で反応は完結し、同等の収率を示した。
【0159】
【表14】

製造例30はH.Josienらの方法(Josien,H.; Ko,S.B.; Bom,D.; Curran, D.P., Chem.Eur.J. 1998, 4, 67-83.、Curran, D.P.; Ko,S.B.; Josien,H., Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 1995, 34, 2683-2684.)に従って製造した。
HPLC操作条件;
カラム: GLサイエンスInertsil ODS-2 (0.46 cmφ×25 cm),
サンプル注入量: 2μg/10μL,
温度: 40℃,
流速: 1 mL/分,
移動相: アセトニトリル:10 mMリン酸二水素カリウム混液(5:3),
測定波長:254nm
キラルHPLC操作条件;
カラム: ダイセルCHIRALCEL OD-H (♯ODH0CE-AK031;0.46 cmΦ×25 cm),
ガードカートリッジ: ダイセルCHIRALCEL OD-H (0.4 cmΦ×1 cm),
サンプル注入量: 10μg/10μL,
温度: 室温付近の一定温度,
流速: 0.5 mL/分,
移動相: n−へキサン:エタノール混液 (200:1)
測定波長:254nm
【0160】
〔実施例23〕化合物(q)の合成
【化55】

溶媒(約400mL、表15に掲載)中の化合物(p)の溶液に、表中の試薬を加え、得られた混合物を表中の時間と温度で撹拌した。反応混合物に20%炭酸ナトリウム1.7L、10%亜硫酸ナトリウム1.0Lおよびクロロホルム550mLを加え撹拌した。有機層を分離し、水層をクロロホルム550mLで2回抽出した。クロロホルム層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮乾固して得られた化合物(q)をHPLCで測定した。結果を表15に示した。
この変換は、NCS-NaIを酢酸中65℃で用いることによって充分に行なわれた(製造例39)。反応完了に要する時間が明確に短縮でき、この条件下の化合物(q)の収率は、既報の比較例1に比べ約50%以上向上した。
【0161】
【表15】

【0162】
〔実施例24〕化合物(q)の精製方法I
実施例23で得られた、化合物(q)を含有する反応混合物63g(純度89.2 %、HPLCによる)をメタノール150mLに懸濁し、攪拌下0.2Nの水酸化ナトリウム水溶液に滴下し、2時間攪拌を続けた。アルカリ性溶液をジクロロメタン400mLで3回洗浄し、6Nの塩酸でpHを1〜2に調整し、クロロホルム400mLで3回抽出操作を行った。得られたクロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過後減圧下濃縮乾固して化合物(q)(純度97.7%(ピーク面積、HPLC操作条件:実施例25参照))(製造例40)を得た。
【0163】
〔実施例25〕化合物(q)の精製方法II
実施例24で得られた化合物(q)を含む精製物50gをクロロホルム240mLに溶かし、n−へキサン400mLを積層して、室温で約15時間静置した。析出した結晶をろ取し、ろ液を減圧下濃縮乾固し、化合物(q)(製造例41)を得た。
実施例24で得られた化合物(q)(製造例40、光学的純度93〜96%)を本方法により光学的に純化した。得られた化合物(q)(製造例41)は下記のキラルHPLC法で光学的純度99.7〜99.9%であった。
【0164】
HPLC操作条件;
カラム:Inertsil ODS-2、0.46 cm I.D.×25 cm(GLサイエンス製)
温度:40℃付近の一定温度
流速:1 mL/分
移動層:アセトニトリル/10mM リン酸二水素カリウム(5:3)
測定波長:254 nm
キラルHPLC操作条件;
カラム: ダイセルCHIRALPAK AD-H (# ADHOCE-BC037;0.46 cmID×25 cm),
ガードカートリッジ: ダイセルCHIRALPAK AD-H (0.4 cmID×1 cm),
温度: 約25℃付近の一定温度,
流速: 1 mL/分,
移動相: n−へキサン:IPA混液 (25:1)
測定波長:254nm
【0165】
〔実施例26〕化合物(r)の製造方法
【化56】

化合物(q)(42.8 g, 0.10 mol, 含量84.5%)の1-プロパノール(490 mL)溶液に、室温で酢酸パラジウム(1.34 g, 6.0 mmol)及び炭酸カリウム(24.7 g, 0.18 mol)を加え、反応容器内を減圧することで脱気し、窒素で置換し、さらに減圧により脱気し一酸化炭素で置換し、60℃で18時間撹拌した。室温まで冷却し、不溶物をセライトパッドによりろ去し、酢酸エチル(300 mL)で洗浄した。ろ液に1N塩酸(150 mL)及び飽和食塩水(300 mL)を加えて、有機層をとり、さらに水層に酢酸エチル(300 mL)を加えて抽出した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮乾固した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフ法[シリカゲル:富士シリシアPSQ100B(化合物(r)の約3.5倍重、流下液:クロロホルム/メタノール混液(99:1))で原点抜きを行い、褐色油状物として化合物(r)(30.3 g, 含量73.4%, HPLCによる, 収率70%)を得た。
HPLC操作条件;
カラム: GLサイエンスInertsil ODS-2 (0.46 cmID×25 cm),
温度: 40℃付近の一定温度,
流速: 1 mL/分,
移動相: 10 mMリン酸二水素カリウム: アセトニトリル混液(4:3).
測定波長:254nm
【0166】
〔実施例27〕化合物(s)の製造方法
【化57】

化合物(r)(28.7 g, 68.2 mmol, 含量73.4%)及びヨウ化ナトリウム(27.6 g, 0.18 mol)の無水アセトニトリル(141 mL)溶液を、窒素ガス雰囲気下遮光下、室温でクロロトリメチルシラン(23.3 mL, 0.18 mmol)を加え3時間撹拌した。反応混合液に1N塩酸(8 mL)さらには10%亜硫酸ナトリウム(232 mL)を加え、室温で30分間撹拌した。混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を分液し、次いで減圧下濃縮乾固して化合物(s)(22.3 g,含量85.6%, HPLCによる(下記参照)収率95%)を得た。
HPLC操作条件;
カラム:Inertsil ODS-2、0.46 cm I.D.×25 cm(GLサイエンス製)
温度:40℃付近の一定温度
流速:1 mL/分
移動層: 10mM リン酸二水素カリウム/アセトニトリル(5:2)
測定波長:254 nm
【0167】
〔実施例28〕化合物(t)の製造方法
【化58】

化合物(s)0.50gをジメチルスルホキシド(以下、DMSOという)7mLに溶解し、室温で、炭酸セシウム(Cs2CO3)、または炭酸カリウム(K2CO3)0.40gを加え、アルゴン雰囲気下、50℃で20分間攪拌した。混合物にアクリル酸t−ブチル2.1mL(1.8g)を滴下し、アルゴン雰囲気下、50℃で24時間攪拌した。氷冷攪拌下反応混合物に、水10mLおよび濃塩酸1mLを少量ずつ加えた。混合物をトルエン−酢酸エチル混液(4:1)7mLで4回抽出した。有機層は合わせて、水5mLで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過し、次いで減圧乾固して製造例42および製造例43を得た。得られた残留物をHPLC(下記参照)で分析した。
表16に示すように、化合物(t)は、塩基として炭酸セシウムを用いた場合72%の収率で得られ(製造例42)、一方、安価な炭酸カリウムを塩基として用いた場合、収率は製造例42と同等であった。
【0168】
【表16】

HPLC操作条件;
カラム:Inertsil ODS-2、0.46 cm I.D.×25 cm(GLサイエンス製)
温度:40℃付近の一定温度
流速:1 mL/分
移動層: 10mM リン酸二水素カリウム/アセトニトリル(5:2)
測定波長:254 nm
【0169】
〔実施例29〕SN−38の合成
化合物(h)(0.50 g, 1.82 mmol, 含量96.6%)と化合物(e)(0.36 g, 2.18 mmol)の混合物を窒素ガス雰囲気下トルエン-酢酸混液(1:1, 10 mL)に懸濁し、室温でp-TsOH・H2O(10 mg)を加え、90℃で7時間撹拌した。室温まで放冷し、減圧下濃縮した。残留物にトルエン(10 mL)を加え減圧下濃縮(本操作を2回繰り返して酢酸を除去)した後、アセトン(9 mL)を加え、窒素ガス雰囲気下室温で30分間撹拌した。不溶物をろ取し、アセトン(2 mL×2)で洗浄し、次いで減圧下乾燥し黄土色固体としてSN-38(0.63 g, 純度99.6%, HPLCによる(実施例9参照)収率89.1%)を得た(製造例45)。
表17の製造例44はP&Uの方法(Henegar, K. E.; Ashford, S. W.; Baughman, T. A.; Sih, J. C.; Gu, R. L., J. Org. Chem. 1997, 62, 6588-6597.)に従って製造した。
表17に示したように、反応を不活性ガス雰囲気下で行うことで、収率、純度ともに向上した。
【0170】
【表17】

【0171】
〔実施例30〕三環性ケトンの全合成 以下に、三環性ケトン(化合物(h))の製造工程を示す。
(1)化合物(m)の合成
化合物(l)(20.0 g, 56.0 mmol, 2 eq., 含量93.9%)、トリエチルシラン(17.9 mmL, 112 mmol, 2 eq.)、クロチルアルコール(15.7 mL, 184.8 mmol, 3.3 eq.)の混合液に、窒素ガス雰囲気下、0〜5℃でトリフルオロ酢酸(28.5 mL, 375.2 mmol, 6.7 eq.)を滴下した後、30分間撹拌し、その後室温で約20時間撹拌した。反応混合物に炭酸ナトリウム水溶液(20. 8 gを277 mLの水に溶解)とn-ヘキサン(56 mL)に注ぎ、有機層をとり、水層をn-ヘキサン(57 mL)で抽出した。有機層を合わせて抽出した。有機層を合わせて減圧下濃縮乾固した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフ法[シリカゲル:富士シリシアPSQ100B(80 g), 流下液:n-ヘキサン/酢酸エチル(73:3)]により副生した化合物(v)(4.95 g, 14.68 mmol, 純度98.43%, 収率26%)を除去し、黄色オイルとして化合物(m)(17.8 g, 含量80.0% 、HPLCによる、収率64%)を得た。
以下に、含量測定に用いたHPLC条件、および化合物(m)、化合物(v)のNMRスペクトルを示す。
【0172】
HPLC操作条件;実施例17参照
化合物(m);1H-NMR(400 MHz, CDCl3)δ:0.24(9H, s, TMS), 1.69(3H, dd, J=1.0, 6.1 Hz, =CHCH3), 3.85-4.05(2H, m, OCH2CH=), 3.93(3H, s, CH3O), 4.55(2H, s, OCH2), 5.55-5.83(2H, m, CH=CH), 7.47(1H, s)
化合物(v);1H-NMR(400 MHz, CDCl3)δ:0.27(9H, s, TMS), 2.45(1H, t, J=6.8 Hz, OH), 3.99(3H, s, CH3O), 4.79(2H, d, J=6.8 Hz, CH2OH), 7.49(1H, s)
【0173】
(2)化合物(n)の合成
化合物(m)(1.27 g, 2.555 mmol, 含量78.73%)をジイソプロピルエーテル-アセトニトリル-水混液(4:3:1, 20 mL)に溶かし、室温で臭化テトラブチルアンモニウム(0.82 g, 2.56 mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.48 mL, 2.555×8 mmol)、酢酸パラジウム(57 mg, 0.26 mmol)を加え、30分間煮沸還流した。反応混合物を20℃以下まで冷却、ろ過し、n-ヘキサン(10 mL)で洗い込んだ。ろ液にn-ヘキサン(10 mL)と10% Na2SO3(16 mL, 113 mmol, 5 eq.)を加え、有機層を分液した。有機層を1N HCl(16.4 mL)、次いで水(10 mL×2)で洗浄した。有機層を減圧下、濃縮乾固して、褐色オイルとして化合物(n)(0.83 g, 2.325 mmol, 含量73.34%, HPLCによる、収率91%, エンド体/エキソ体:10.6)を得た。
以下に、含量測定に用いたHPLC条件、および化合物(n)のNMRスペクトルを示す。
【0174】
HPLC操作条件;実施例17参照
化合物(n);
H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.26 (9H, s, TMS), 1.12 (3H, t, J=7.3Hz, CH2CH3), 2.31 (2H, dq, J = 1.0, 7.3Hz, CH2CH3), 3.94 (3H, s, OCH3), 5.00 (2H, s, OCH2), 6.51 (1H, t, J=1.0Hz, OCH=), 6.83 (1H, s, aromatic-H)
【0175】
(3)化合物(o)の合成
ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(195.7 g, 0.59 mol)、炭酸カリウム(82.1 g, 0.59 mol)及びメタンスルホンアミド(37.7 g, 0.40 mol)の水溶(990 mL)液に、(DHQD)PYR(4.36 g, 4.95 mmol)及びオスミウム酸カリウム二水和物(0.99 mmol)を加え、5℃付近で1時間撹拌した。この溶液に化合物(n)(77.8 g, 0.18 mol, 含量61.5%)を加え、さらに5℃付近20時間撹拌した。
【0176】
反応液に固体のまま亜硫酸ナトリウム(74.9 g)を加え、5℃付近で30分間撹拌した後、不溶物をセライトパッドでろ去した。不溶物を酢酸エチル(4回、全770 mL)で洗浄した。ろ液の有機層を取り、水層はさらに酢酸エチル(770 mL)で抽出した。有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフ法[シリカゲル:富士シリシアPSQ100B(700 g)、流下液:ジクロロメタン/酢酸エチル混液(4:1)]により精製し、赤褐色固体として化合物(o)を得た。
【0177】
(4)化合物(p)の合成
化合物(o)70.2gをメタノール-水混液(10:1, 1.0 L)に溶かし、室温でヨウ素(183.7 g, 0.72 mol)および炭酸カルシウム(36.23 g, 0.36 mol)を固体のまま加え、5時間煮沸還流した。反応混合物を室温まで放冷し、10% 亜硫酸ナトリウム(1.0 L)およびクロロホルム(1.0 L)を加え、室温で15分間攪拌し、不溶物をろ去し、ろ取物をクロロホルム(0.5 L)で洗浄した。
有機層をとり、さらに水層にクロロホルム(0.5 L)で抽出した。有機層を合せて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮乾固し、赤褐色油状物質として化合物(p)[53.6 g,含量80.4%、HPLCによる;化合物(m)からの全収率81%、96.2%ee、キラルHPLCによる]を得た。
以下に、含量測定に用いたHPLC条件、および化合物(p)のNMRスペクトルを示す。
【0178】
HPLC操作条件;実施例22参照
キラルHPLC操作条件;実施例22参照
化合物(p);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.28 (9H, s, TMS), 0.94 (3H, t, J=7.4Hz, CH2CH3), 1.76 (2H, q, J=7.4Hz, CH2CH3), 3.61 (1H, s, OH), 3.98 (3H, s, OCH3), 5.23 (1H, d, J=15.6Hz,), 5.54 (1H, d, J=15.6Hz), 7.33 (1H, s, aromatic-H).
【0179】
(5)化合物(q)の合成
化合物(p)(50.2 g, 0.14 mol, 含量80.4%, 96.2%ee)を酢酸(411 mL)に溶かし、室温でN−クロロコハク酸イミド(107.36 g, 0.80 mol)およびヨウ化ナトリウム(120.52 g, 0.80 mol)を固体のまま加え、約65℃で16時間撹拌した。室温まで放冷し、20% 炭酸ナトリウム(1.7 L)、10% 亜硫酸ナトリウム(1.0 L)およびクロロホルム(0.6 L)に攪拌しながら注いだ。有機層をとり、さらに水層にクロロホルム(0.6 L)を加えて2回抽出した。有機層を合せて、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮乾固した(粗生成物(q))。
【0180】
(6)化合物(q)の精製I
残留物(粗生成物の化合物(q)、HPLCによる純度89.2%)をメタノール(150 mL)に縣濁し、攪拌下0.2N 水酸化ナトリウム(0.40 mol)に滴下し、室温で2時間攪拌を続けた。アルカリ水溶液をクロロホルム(400 mL)で3回洗浄し、水層を分け6N 塩酸でpH 1〜2に調整し、クロロホルム(400 mL)で3回抽出した。有機層を分け、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮乾固した (精製過程の(q)、HPLCによる純度; 97.7%)。
【0181】
(7)化合物(q)の精製II
精製過程の(q)をクロロホルム(280mL)に溶かし、n−へキサン(400mL)を積層し、室温で約15時間静置した。析出した結晶をろ取し、ろ液を減圧下濃縮乾固し茶褐色タールとして化合物(q)(47.4 g, 0.115 mol, 含量84.5%, HPLCによる、収率86%, 99.7%ee、キラルHPLCによる)を得た。
以下に、含量測定に用いたHPLC条件、キラルHPLC条件、および化合物(q)のNMRスペクトルおよび比旋光度を示す。
HPLC操作条件;実施例22参照
キラルHPLC操作条件;実施例25参照
化合物(q);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.94 (3H, t, J=7.3Hz, CH2CH3), 1.75 (2H, q, J=7.3Hz, CH2CH3), 3.58 (1H, s, OH), 3.96 (3H, s, OCH3), 5.16 (1H, d, J=15.6Hz), 5.47 (1H, d, J=15.6Hz), 7.59 (1H, s, aromatic-H).
[α]D20 = +51.3 (c = 0.981, CHCl3)
【0182】
(8)化合物(r)の合成
化合物(q)(42.8 g, 0.10 mol, 含量84.5%)の1-プロパノール溶液(490 mL)に、室温で酢酸パラジウム(1.34 g, 6.0 mmol)および炭酸カリウム(24.67 g, 0.179 mol)を加え、反応容器内を減圧することで脱気しアルゴンで置換し、さらに減圧により脱気し一酸化炭素で置換し、60℃で4時間攪拌した。室温まで放冷し、不溶物をセライトパッドによりろ去し、酢酸エチル(300 mL)で洗浄した。ろ液に1 N塩酸(150 mL)および飽和食塩水(300 mL)を加え、有機層をとり、さらに水層に酢酸エチル(300 mL)加えて抽出した。有機層を合せて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮乾固した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフ法[シリカゲル: 200g, 流下液: クロロホルム:メタノール混液(99:1)]で精製し、褐色油状物質として化合物r(30.3 g, 72.9 mmol, 含量73.4%, HPLCによる、収率70%)を得た。
以下に、含量測定に用いたHPLC条件、および化合物(r)のNMRスペクトルを示す。
【0183】
HPLC操作条件;実施例26参照
化合物(r);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.88 (3H, t, J=7.3Hz, CH3), 1.04 (3H, t, J=7.3Hz, CH3), 1.82 (4H, m, CH2×2), 3.69 (1H, s, OH), 4.09 (3H, s, OCH3), 4.34 (2H, t, J=6.8Hz, CH2), 5.31(1H, d, J=16.3Hz), 5.61 (1H, d, J=16.3Hz), 7.94 (1H, s, aromatic-H)
【0184】
(9)化合物(s)の合成
化合物(r)(28.7 g, 68.2 mmol, 含量73.4%)及びヨウ化ナトリウム(27.6 g, 0.184 mol)の無水アセトニトリル(141 mL)溶液を、窒素ガス雰囲気下遮光下、室温でクロロトリメチルシラン(23.3 mL, 0.18 mmol)を加え3時間撹拌した。反応混合液に1N塩酸(8 mL)さらには10%亜硫酸ナトリウム(232 mL)を加え、室温で30分間撹拌した。混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を分液し、次いで減圧下濃縮乾固して化合物(s)(22.3 g, 64.5 mmol, 含量85.6%、HPLC(実施例27参照)による収率95%)を得た。
【0185】
化合物(s);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 1.00 (3H, t, J=7.3Hz, CH3), 1.02 (3H, t, J=7.3Hz, CH3), 1.83 (4H, m, CH2×2), 3.75 (1H, s, OH), 4.35 (2H, t, J=6.8Hz, CH2), 5.21 (1H, d, J=17.1Hz), 5.61 (1H, d, J=17.1Hz), 7.28 (1H, s, aromatic-H), 9.59 (1H, brs, OH)
【0186】
(10)化合物(t)の合成;
化合物(s)(0.50 g, 1.46 mmol, 含量86.6%)のDMSO(7 mL)溶液に、室温で炭酸カリウム(0.40 g, 2.92 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、50℃で20分間攪拌した。混合物にアクリル酸t−ブチル(2.1 mL, 14.6 mmol)を滴下し、アルゴン雰囲気下、50℃で24時間攪拌した。氷冷攪拌下反応混合物に、水(10 mL)および濃塩酸(1 mL)を少量ずつ加えた。混合物をトルエン-酢酸エチル混液(4:1, 7 mL)で4回抽出した。有機層は合せて、水(5 mL)で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮乾固し、黄褐色固体として化合物(t)(0.55 g, 1.13 mmol, 含量75.0%, HPLC(実施例28参照)による収率77%)を得た。
化合物(t);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.99 (3H, t, J=7.4Hz, CH2CH3), 1.58 (9H, s, t-Bu), 1.83 (2H, m, CH2CH3), 4.68 (2H, s, CH2), 5.25 (1H, d, J=17.8Hz), 5.69 (1H, d, J=17.8Hz), 7.01 (1H, s, aromatic-H)
【0187】
(11)化合物(h)の合成;
化合物(t)(1.02 g, 1.84 mmol, 含量66.0%)のトルエン溶液(17 mL)に、アルゴン雰囲気下、室温でトリフルオロ酢酸(1.7 mL)を加え、アルゴン雰囲気下、110℃で100分間攪拌し室温まで放冷し、減圧下濃縮乾固した。残留物にジクロロメタン(50 mL)を加え、不溶物をセライトパッドで除去した。ろ液に水(10 mL)を加えて有機層をとり、さらに水層にジクロロメタン(20 mL)を加えて3回抽出した。有機層を合せて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、次いで減圧下濃縮乾固し、固体として化合物(h)((S)-4-エチル-7,8-ジヒドロ-4-ヒドロキシ-1H-ピラノ-[3,4-f]インドリジン-3,6,10(4H)-トリオン)(0.46 g, 1.41 mmol, 含量80.7%、HPLCによる、収率77%)を得た。
以下に、含量測定に用いたHPLC条件、および化合物(h)のNMRスペクトルを示す。
【0188】
化合物(h);
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.98 (3H, t, J=7.3Hz, CH2CH3), 1.81 (2H, m, CH2CH3), 2.97 (2H, t, J=6.3Hz, CH2CH2), 3.64 (1H, s, OH), 4.34 (2H, m, CH2CH2), 5.25 (1H, d, J=17.1Hz), 5.68 (1H, d, J=17.1Hz), 7.22 (1H, s, aromatic-H).
HPLC操作条件;
カラム: GLサイエンスInertsil ODS-2 (0.46 cmID×25 cm),
温度: 40℃付近の一定温度,
流速: 1 mL/分,
移動相: 10 mMリン酸二水素カリウム: メタノール混液(4:1).
測定波長:254nm
【0189】
〔実施例31〕7−エチル−10−ヒドロキシCPT(SN−38)の合成
【化59】

実施例30の(11)で得られた化合物(h)(0.50 g、含量96.6%、1.82 mmol)と、化合物(e)(0.36 g、2.14 mmol)を酢酸-トルエン混液(AcOH-toluene;1:1、10 mL)中に懸濁し、室温でp-トルエンスルホン酸一水和物(p-TsOH・H2O;10 mg)を加え、窒素ガス下100℃で18時間攪拌した。反応液を減圧下濃縮した後、残留物にトルエン(10 mL)を加え、さらに減圧下濃縮した。残留物に室温でアセトン(9 mL)を加え、2時間攪拌した後、析出物をろ取し、ろ取物はアセトン(2 mL×2)で洗浄した。減圧下乾燥し、褐色固体(0.63 g、純度97.7%、HPLC(実施例9参照)による、収率89%)としてSN-38を得た。
【0190】
SN-38;
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ: 0.98 (3H, t, J=7 Hz, CH3), 1.38 (3H, t, J=7 Hz, CH3), 1.90 (2H, q, J=7 Hz, CH2), 3.08 (2H, q, J=7 Hz, CH2), 5.17 (2H, s, CH2O), 5.23 (1H, d, J=16 Hz), 5.54 (1H, d, J=16 Hz), 7.34-7.39 (3H, m), 6.83 (1H, d, J=9 Hz)
【0191】
〔実施例32〕7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン塩酸塩(SN−38B−11)の合成
【化60】

実施例31で得られた合成SN−38(0.91 g, 2.32 mmol)を用いて、既法(Sawada, S.; Okajima, S.; Aiyama, R.; Nokata, K.; Furuta, T.; Yokokura, T.; Sugino, E.; Yamaguchi, K.; Miyasaka, T. Chem. Pharm. Bull. 1991, 39, 1446.)に従いSN−38B−11(1.22 g, 収率 89%, 99.8%ee、キラルHPLC(実施例10参照)による)を合成した。
【0192】
〔実施例33〕7−エチル−10−[4−(1−ピペリジノ)−1−ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン塩酸塩(CPT−11)の合成
【化61】


実施例32で得られたSN−38B−11(1.00g, 1.7mmol)に0.1Nの塩酸(20 ml)を加え、80℃付近に加温して溶かし、アセトニトリル(100 mL)を加え、室温で15時間攪拌した。析出物をろ取、乾燥、吸湿し黄白色の粉末(0.95mg, 収率89.8%)としてCPT−11を得た。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の合成方法を用いることにより、短時間で、高純度の2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンおよび三環性ケトンを高い回収率で合成することができ、これらを中間体として使用することにより、効率よく実用的にCPT類を全合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンプトテシン類を合成するための2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法であって、化合物(a):
【化1】

から、化合物(b):
【化2】

を生成し、化合物(b)から化合物(c):
【化3】

を生成し、化合物(c)から化合物(d):
【化4】

を生成し、化合物(d)から化合物(e):
【化5】

を生成することからなり、Rが接触還元によって脱保護可能な保護基であることを特徴とする、前記2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法。
【請求項2】
接触還元によって脱保護可能な保護基が、ベンジル基であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(1)化合物(a)、ベンジル化試薬および塩基を混合し、該混合物を溶媒中で加熱撹拌して化合物(b)を得る工程、
(2)化合物(b)に不活性化ガス雰囲気下でグリニャール試薬を滴下して化合物(c)を得る工程、
(3)化合物(c)と酸化剤とを混合し、撹拌して化合物(d)を得る工程、
(4)化合物(d)を接触還元して化合物(e)を得る工程、
からなる群から選択される1または2以上の工程を特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(1)の工程において、溶媒がジメチルホルムアミドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(2)の工程において、グリニャール試薬が、臭化ビニルマグネシウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
(3)の工程において、酸化剤が、ジョーンズ試薬、二酸化マンガンまたはTEMPO−次亜塩素酸ナトリウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
式(c'):
【化6】

(式中Bnはベンジル基を示す)
で表される化合物。
【請求項8】
式(d'):
【化7】

(式中Bnはベンジル基を示す)
で表される化合物。
【請求項9】
カンプトテシン類を合成するための2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法であって、化合物(a):
【化8】

から、化合物(c''):
【化9】

を生成し、化合物(c'')から化合物(d''):
【化10】

を生成し、化合物(d'')から化合物(e):
【化11】

を生成することからなる、前記2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンの製造方法。
【請求項10】
(1)化合物(a)に不活性化ガス雰囲気下でグリニャール試薬を滴下して化合物(c'')を得る工程、
(2)化合物(c'')と酸化剤とを混合し、撹拌して化合物(d'')を得る工程、
(4)化合物(d'')を接触還元して化合物(e)を得る工程、
からなる群から選択される1または2以上の工程を特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(1)の工程において、グリニャール試薬が、臭化ビニルマグネシウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(2)の工程において、酸化剤が、ジョーンズ試薬、二酸化マンガンまたはTEMPO−次亜塩素酸ナトリウムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜6および9〜12のいずれかに記載の方法により得られた2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンのカンプトテシン類の製造への使用。
【請求項14】
請求項1〜6および9〜12のいずれかに記載の方法により得られた2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンと三環性ケトンとを反応させることを含む、カンプトテシン類の製造方法。
【請求項15】
カンプトテシン類を合成するための三環性ケトンの製造方法であって、化合物(k):
【化12】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)、または化合物(v):
【化13】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)
から化合物(l):
【化14】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)を生成し、化合物(l)から化合物(m):
【化15】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基を示す)を生成し、化合物(m)から、化合物(n):
【化16】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(n)から化合物(o):
【化17】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(o)から化合物(p):
【化18】

(式中、TMSはトリメチルシリル基、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(p)から化合物(q):
【化19】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す)を生成し、化合物(q)から化合物(r):
【化20】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基を示す)を生成し、化合物(r)から化合物(s):
【化21】

(式中、Etはエチル基、Prはプロピル基を示す)を生成し、化合物(s)から化合物(t):
【化22】

(式中、Etはエチル基、tBuはt−ブチル基を示す)を生成し、化合物(t)から化合物(h):
【化23】

(式中、Etはエチル基を示す)を生成することからなる三環性ケトンの製造方法において、
(1)化合物(k)、リチオ化試薬、ホルミル化試薬およびヨウ素化試薬を混合し、化合物(l)を得る工程、
(2)化合物(l)、クロチルアルコール、トリエチルシランおよび酸を混合し、該混合物を溶媒を用いずに反応させ、化合物(m)を得る工程、
(3)(2)の工程において副生する化合物(v)に、酸化剤および塩基を混合し、化合物(l)を得る工程、
(4)化合物(m)、パラジウム触媒、塩基および相間移動触媒を混合し、該混合物を溶媒中で煮沸還流して化合物(n)を得る工程、
(5)化合物(n)からオスミウム触媒、共酸化剤、塩基、不斉試薬を混合し、化合物(o)を得る工程、
(6)化合物(o)、塩基およびヨウ素を混合し、該混合物をアルコール-水混液で煮沸還流して化合物(p)を得る工程、
(7)化合物(p)、脱シリル化ヨウ素化試薬を混合し、化合物(q)を得る工程、
(8)化合物(q)、パラジウム触媒および塩基を混合し、該混合物を1-プロパノール中、一酸化炭素ガス雰囲気下で反応させて、化合物(r)を得る工程、
(9)化合物(r)および脱メチル化試薬を混合し、該混合物を室温で反応させて化合物(s)を得る工程、
(10)化合物(s)を、アクリル酸t-ブチルおよび塩基存在下で反応させて化合物(t)を得る工程、
からなる群から選択される1または2以上の工程を特徴とする、前記三環性ケトンの製造方法。
【請求項16】
(1)の工程において、リチオ化試薬がn-ブチルリチウムであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(1)の工程において、反応温度が−30〜−40℃の一定温度であることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
(3)の工程において、酸化剤がTEMPO−次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
(4)の工程において、塩基が炭酸カリウムまたはN,N-ジイソプロピルエチルアミンであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
(4)の工程において、溶媒がテトラヒドロフランまたはジイソプロピルエーテル-アセトニトリル-水混液であることを特徴とする、請求項15または19に記載の方法。
【請求項21】
(5)の工程において、オスミウム触媒がオスミウム(VI)酸カリウムであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
(6)の工程において、ヨウ素が化合物(o)に対して4当量であることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
(7)の工程において、脱シリル化ヨウ素化試薬が、ヨウ素−トリフルオロ酢酸銀またはN-クロロコハク酸イミド−ヨウ化ナトリウムであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
化合物(q)が、化合物(p)から化合物(q)を生成する工程で得られた反応生成物を、
アルカリ水溶液に添加し、撹拌する工程、
有機溶媒を添加して撹拌した後、有機層を除去する工程、および、
水層を酸性とし、有機溶媒で抽出する工程、
を含む精製工程により、化学的に精製されることを特徴とする、請求項15または23に記載の方法。
【請求項25】
アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
有機溶媒がクロロホルムであることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
化合物(q)が、化合物(p)から化合物(q)を生成する工程で得られた反応生成物を、
高極性溶媒に溶解させた後、低極性溶媒を積層する工程、および、
析出物をろ過した後、ろ液を減圧下濃縮乾固する工程、
を含む精製工程により、光学的に精製されることを特徴とする、請求項15または23に記載の方法。
【請求項28】
高極性溶媒がクロロホルムであることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
低極性溶媒がn-ヘキサンであることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
(10)の工程において、塩基が炭酸カリウムであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項31】
請求項15〜30のいずれかに記載の方法により得られた三環性ケトンのカンプトテシン類の製造への使用。
【請求項32】
請求項15〜30のいずれかに記載の方法により得られた三環性ケトンと、2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンとを反応させることを含むカンプトテシン類の製造方法。
【請求項33】
2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンが、請求項1〜6および9〜12のいずれかに記載の方法により得られた2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンであることを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
三環性ケトンと2’−アミノ−5’−ヒドロキシプロピオフェノンとを混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気下で反応させることを特徴とする、請求項14、32および33のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2008−273952(P2008−273952A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85358(P2008−85358)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【分割の表示】特願2002−565934(P2002−565934)の分割
【原出願日】平成14年2月21日(2002.2.21)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】