説明

カンプトテシン類含有水溶液製剤

製造時に加熱する必要がなく、カンプトテシン類が安定に溶解しているカンプトテシン類含有水溶液製剤の提供。
酢酸及び酢酸ナトリウムを含有し、pHが2〜5であることを特徴とするカンプトテシン類含有水溶液製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンプトテシン類の溶解性に優れ、安定な水溶液製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カンプトテシン(camptothecin、CPT)は、中国原産の喜樹(camptotheca acuminata)の実や根などに含有されるアルカロイドであり、またカンプトテシンの半合成誘導体である7−エチル−10−ピペリジノピペリジノカルボニルオキシカンプトテシン(CPT−11)(特許文献1)は、カンプトテシンの高い抗腫瘍活性を維持し、かつ毒性が軽減された化合物として特に重要な物質である。この7−エチル−10−ピペリジノピペリジノカルボニルオキシカンプトテシンは、生体内で代謝され、半合成誘導体である7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン(SN−38)(特許文献2)となり、活性が現れるとされている。
【0003】
7−エチル−10−ピペリジノピペリジノカルボニルオキシカンプトテシン等のカンプトテシン類の患者への投与は、主に静注により行なわれる。このため、現在7−エチル−10−ピペリジノピペリジノカルボニルオキシカンプトテシン等のカンプトテシン類は、ソルビトールなどにより等張化した製剤として上市され、流通し使用されている。この製剤化についてはこれまで種々の試みがなされており、例えば、カンプトテシン誘導体をコラーゲンと2−ヒドロキシエチル・メタクリレートのコ・ポリマーに含有させた徐放性製剤(特許文献3)やカンプトテシン又はその誘導体をポリ乳酸−グリコール酸共重合体からなる担体に含有せしめた徐放性製剤(特許文献4)が知られている。
しかしながら、カンプトテシン類は水に対する溶解性が低く、加熱して水溶液製剤を調製しなくてはならず、工程の簡略化のために加熱を要しないで製造可能なカンプトテシン類を含有する水溶液製剤の開発が望まれている。
【特許文献1】特公平3−4077号公報
【特許文献2】特公昭62−47193号公報
【特許文献3】特開平7−277981号公報
【特許文献4】特開平10−17472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、製造時に加熱する必要がなく、カンプトテシン類が安定に溶解しているカンプトテシン類含有水溶液製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、カンプトテシン類を含有する水溶液製剤に、酢酸及び酢酸ナトリウムを配合し、更に特定のpH範囲に調整すると、カンプトテシン類の水溶液中への溶解性が増大し、従来よりもカンプトテシン類を高濃度で溶解し、安定なカンプトテシン類含有水溶液製剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)カンプトテシン類
(B)酢酸及び酢酸ナトリウム
を含有し、pHが2〜5であることを特徴とするカンプトテシン類含有水溶液製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水溶液製剤には、製造時に加熱することなくカンプトテシン類を高濃度に溶解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の水溶液製剤で使用する成分(A)カンプトテシン類は、水溶液製剤の有効成分であり、例えば、10−ヒドロキシカンプトテシン、11−ヒドロキシカンプトテシン、9−メトキシカンプトテシン、10−メトキシカンプトテシン、11−メトキシカンプトテシン等の天然由来のものが挙げられ、また、天然のカンプトテシン等を原料に用いて化学修飾して得られる7−エチル−10−ピペリジノピペリジノカルボニルオキシカンプトテシン(以下、CPT−11と記載することもある)等の化合物も挙げられる。カンプトテシン類としてはCPT−11が好ましい。
【0009】
本発明の水溶液製剤で使用する成分(B)中の酢酸ナトリウムは、水溶液製剤中で酢酸及びアルカリ剤を添加して生成させてもよい。この場合、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。また、水溶液製剤中において、他の化合物との塩交換によって酢酸ナトリウムを形成してもよい。
【0010】
本発明の水溶液製剤中において、成分(B)酢酸及び酢酸ナトリウムは酢酸に換算して、好ましくは0.1〜10重量%含有する。
本発明の水溶液製剤中のカンプトテシン類100mgに対し、酢酸及び酢酸ナトリウムは酢酸換算量で10〜2000mg、更に10〜1000mg、特に20〜500mg含有するのが、カンプトテシン類の水溶液性剤中への溶解性向上の点で好ましい。
【0011】
本発明の水溶液製剤に、更に成分(C)として(i)サイクロデキストリン、(ii)アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウム、(iii)プロピレングリコール又は(iv)亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム及びα−チオグリセリンの群から選ばれる1種以上の化合物を配合すると、カンプトテシン類の溶解性がより向上し好ましい。
【0012】
成分(C)の(i)サイクロデキストリンは、6〜12個のグルコース分子がα−1,4グルコシド結合で環状に連なった非還元性マルトオリゴ糖であって、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリン及びそれらの誘導体が挙げられる。サイクロデキストリンの誘導体としては、マルトシルサイクロデキストリン、グルコシルサイクロデキストリン、ジメチルサイクロデキストリン、ヒドロキシプロピルサイクロデキストリン等が挙げられる。サイクロデキストリンとしては、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβ−サイクロデキストリン等が好ましい。
【0013】
本発明の水溶液製剤中には、サイクロデキストリンは、1〜20重量%、特に1.5〜14重量%含有するのが、カンプトテシン類の溶解性の点で好ましい。
本発明の水溶液製剤中のカンプトテシン類100mgに対し、サイクロデキストリンは、30〜1000mg、特に90〜700mg含有するのが、カンプトテシン類の水溶液性剤中への溶解性向上の点で好ましい。
また、サイクロデキストリンを使用する場合は、成分(B)酢酸及び酢酸ナトリウムの含有量は酢酸換算量で、0.1〜5.0重量%、更に0.3〜3.0重量%、特に0.5〜2.0重量%であるのがカンプトテシン類の溶解性の点で好ましい。
【0014】
本発明の水溶液製剤中に、成分(C)として、(ii)アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを配合すると、カンプトテシン類の溶解性がより向上した水溶液製剤が得られ好ましい。
【0015】
アスコルビン酸ナトリウムは、水溶液製剤中でアスコルビン酸にアルカリ剤を添加して生成させてもよい。この場合、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。また、水溶液製剤中において、他の化合物との塩交換によってアスコルビン酸ナトリウムを形成してもよい。
【0016】
本発明の水溶液製剤中には、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを、アスコルビン酸に換算して5〜20重量%、特に6〜15重量%含有するのが好ましい。
アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムを使用する場合は、成分(B)酢酸及び酢酸ナトリウムの含有量は、酢酸換算量で、更に0.5〜8重量%、特に0.7〜6重量%含有するのがカンプトテシン類の溶解性の点で好ましい。
【0017】
また、酢酸、アスコルビン酸及びそれらのナトリウム塩は、それぞれの酸に換算した含有量の合計量で0.1〜20重量%、更に0.3〜15重量%、特に0.4〜14重量%含有するのが、カンプトテシン類の溶解性の点で好ましい。
本発明の水溶液製剤中のカンプトテシン類100mgに対し、酢酸、アスコルビン酸及びそれらのナトリウム塩は、それぞれの酸に換算した含有量の合計量で500〜2000mg、特に800〜1500mg含有するのが、カンプトテシン類の水溶液性剤中への溶解性向上の点で好ましい。
【0018】
成分(C)として、(iii)プロピレングリコールを使用する場合は、本発明の水溶液製剤中には、40〜70重量%、特に50〜60重量%含有するのが好ましい。
また、本発明の水溶液製剤中のカンプトテシン類100mgに対し、プロピレングリコールは、1〜4g、特に2〜3g含有するのが、カンプトテシン類の水溶液性剤中への溶解性向上の点で好ましい。
プロピレングリコールを使用する場合は、成分(B)酢酸及び酢酸ナトリウムの含有量は、酢酸換算量で、更に0.5〜8重量%、特に0.7〜6重量%含有するのが、カンプトテシン類の溶解性の点で好ましい。
【0019】
本発明の水溶液製剤に、成分(C)として、(iv)亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム及びα−チオグリセリンの群から選ばれる1種以上の化合物を配合すると、カンプトテシン類の溶解性がより向上した水溶液製剤が得られ好ましい。
【0020】
本発明の水溶液製剤中のカンプトテシン類100mgに対し、成分(C)の(iv)から選ばれる化合物は1〜300mg、特に10〜200mg含有するのが、カンプトテシン類の溶解性の点で好ましい。
【0021】
本発明の水溶液製剤のpHは、室温(25℃)において2〜5であるが、2.5〜4.8とするのがカンプトテシン類の溶解性の点でより好ましい。pH調整は、酢酸、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のナトリウムを含有するアルカリを用いて行うのが好ましい。
【0022】
本発明の水溶液製剤は、有効成分であるカンプトテシン類が優れた悪性腫瘍治療効果を有することから、抗腫瘍性製剤として有用である。対象悪性腫瘍としては、肺がん、子宮がん、卵巣がん、胃がん、結腸・直腸がん、乳がん、リンパ腫、膵臓がん等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の水溶液製剤の剤形としては、注射用製剤、特に静脈内投与用製剤が好ましい。当該注射用製剤とするにあたって、上記成分以外に注射用蒸留水、グルコース、マンノース、乳糖に代表される糖類、食塩等に代表される無機塩類、HEPES、PIPES等の有機アミン、その他通常注射剤に用いる安定剤、賦形剤、緩衝剤等の成分を用いても良い。注射用製剤中にカンプトテシン類は、1〜50mg/mL、特に10〜30mg/mL含有するのが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
酢酸を加えてpHを調整した表1に記載の水溶液10mLにCPT−11を250〜500mg加えて、10分間超音波処理してCPT−11を水中に分散、溶解させた後、所要日数、室温で攪拌した。次いで、溶液をサンプリングし、3000r/minで30分間遠心分離し、上清を0.45μmフィルターでろ過した。ろ取した上清1mLを正確に量り取り、90%メタノール水溶液で50mLにメスアップした。下記の条件で、溶解しているCPT−11量をHPLCにて測定した。
【0026】
HPLC条件:
カラム ;Symmetry Shield RP18(3.5μm、4.6×50mm)
カラム温度;50℃
流速 ;2.0mL/min
移動相 ;A液を50mmol/Lギ酸緩衝液(pH5.5)/アセトニトリル/メタノール=850/100/50、B液を50mmol/Lギ酸緩衝液(pH5.5)/アセトニトリル/メタノール=750/250/50とし、B液を0〜100%に15分間でリニアグラジェントし、その後5分間、A液100%で平衡化した。
注入量 ;10μL
検出波長 ;254nm
【0027】
室温での攪拌を1日及び2日した後の各水溶液中のCPT−11溶解量を測定した結果を表1に示す。なお、結果は水溶液1mLあたりの溶解CPT−11量(CPT−11mg/mL)で示す。
【0028】

【0029】
本発明のカンプトテシン類含有水溶液製剤は、いずれもCPT−11の溶解性に優れていた。また、これらの水溶液製剤は、室温(25℃)に3日間、遮光せずに静置しても、変色は起こらず、結晶も析出しなかった。更に、振動してもCPT−11の結晶の析出は認められなかった。
【0030】
実施例2
表2に記載の水溶液10mLにCPT−11を250〜500mg加えて、10分間超音波処理してCPT−11を水中に分散、溶解させた後、所要日数、室温で攪拌した。次いで、溶液をサンプリングし、3000r/minで30分間遠心分離し、上清を0.45μmフィルターでろ過した。ろ取した上清1mLを正確に量り取り、90%メタノール水溶液で50mLにメスアップした。実施例1と同条件で、溶解しているCPT−11量をHPLCにて測定した。
【0031】
室温での攪拌を1日及び2日した後の各水溶液中のCPT−11溶解量を測定した結果を表2に示す。なお、結果は水溶液1mLあたりの溶解CPT−11量(CPT−11mg/mL)で示す。
【0032】

【0033】
No.6〜13の本発明のカンプトテシン類含有水溶液製剤は、いずれもCPT−11の溶解性に優れていた。また、これらの水溶液製剤は、室温(25℃)に3日間、遮光せずに静置しても、変色は起こらず、結晶も析出しなかった。更に、振動してもCPT−11の結晶の析出は認められなかった。一方、アスコルビン酸単独はCPT−11の溶解性は充分でなかった。
【0034】
実施例3
酢酸を用いてpHを4.0に調整した表3に記載の水溶液10mLにCPT−11を250〜500mg加えて、10分間超音波処理してCPT−11を水中に分散、溶解させた後、所要日数、室温で攪拌した。次いで、溶液をサンプリングし、3000r/minで30分間遠心分離し、上清を0.45μmフィルターでろ過した。ろ取した上清1mLを正確に量り取り、90%メタノール水溶液で50mLにメスアップした。実施例1と同条件で、溶解しているCPT−11量を測定した。
【0035】
室温での攪拌を1日及び2日した後、各水溶液中のCPT−11の溶解量を測定した結果を表3に示す。なお、結果は水溶液1mLあたりの溶解CPT−11量(CPT−11mg/mL)で示す。
【0036】

【0037】
No.14〜20の本発明のカンプトテシン類含有水溶液製剤は、いずれもCPT−11の溶解性に優れていた。また、これらの水溶液製剤は、室温(25℃)に3日間、遮光せずに静置しても変色は起こらず、結晶も析出しなかった。更に、振動してもCPT−11の結晶の析出は認められなかった。
【0038】
実施例4
酢酸ナトリウム100mg、酢酸20mg、亜硫酸ナトリウム60mg及びプロピレングリコール3000mgを含有するpH4.0の水溶液10mLにCPT−11を250〜500mg加えて、10分間超音波処理してCPT−11を水中に分散、溶解させた後、実施例1と同様にして、水溶液1mLあたりの溶解CPT−11量(CPT−11mg/mL)を測定した。1日目32.26mg/mL、2日目31.20mg/mLであった。比較として、酢酸ナトリウム、酢酸及び亜硫酸ナトリウムを除いた溶液では、1日目18.46mg/mL、2日目18.12mg/mLの溶解量であった。
【0039】
実施例5
次の製法により、下記の例1〜7の注射剤を得た。
各添加剤を予め加えて溶かしておいた溶液の3.5mLに塩酸イリノテカン(CPT−11)100mgを加え、よく攪拌して溶かした。この液に各添加剤を含む溶液を加えて5mLとした。
【0040】

【0041】

【0042】

【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】
例1〜7のカンプトテシン類含有水溶液製剤(注射剤)は、いずれも微黄色澄明な水溶液であって、塩酸イリノテカンの結晶析出は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)カンプトテシン類
(B)酢酸及び酢酸ナトリウム
を含有し、pHが2〜5であることを特徴とするカンプトテシン類含有水溶液製剤。
【請求項2】
更に成分(C):
(C)(i)サイクロデキストリン、
(ii)アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウム、
(iii)プロピレングリコール
又は
(iv)亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、エリソルビン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム及びα−チオグリセリンの群から選ばれる1種以上の化合物
を含有する請求項1記載のカンプトテシン類含有水溶液製剤。
【請求項3】
カンプトテシン類が、7−エチル−10−ピペリジノピペリジノカルボニルオキシカンプトテシンである請求項1又は2記載のカンプトテシン類含有水溶液製剤。
【請求項4】
水溶液製剤が、抗腫瘍性製剤である請求項1〜3のいずれか1項記載のカンプトテシン類含有水溶液製剤。
【請求項5】
注射用製剤である請求項1〜4のいずれか1項記載のカンプトテシン類含有水溶液製剤。



【国際公開番号】WO2005/077370
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517946(P2005−517946)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001902
【国際出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】