説明

カーテンウォールおよびカーテンウォール用ファスナー

【課題】層間塞ぎ作業を容易に行うことが可能なプレキャストコンクリート製のカーテンウォールを提供すること。
【解決手段】上端部の裏面が平坦に成形された壁体Wと、壁体Wを建物躯体Tに接続するためのファスナーFと、を具備するプレキャストコンクリート製のカーテンウォールAであって、ファスナーFは、壁体Wの上端部に固着される下プレート部11と、下プレート部11の上側に設けられた上プレート部12と、下プレート部11の建物躯体側の側面に突設された躯体接続部13と、を有し、下プレート部11は、その建物躯体側の側面が壁体Wの裏面3aと略面一になるように壁体Wに埋設されており、上プレート部12は、下プレート部11よりも建物躯体T側に位置しており、壁体Wの上側に配置される他のカーテンウォールBの裏面4aに沿って配置される、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート製のカーテンウォールおよびカーテンウォール用ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ファスナーを具備したプレキャストコンクリート製のカーテンウォールが特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたファスナーF’は、図12に示すように、上下に並ぶカーテンウォールA’,B’を連結しつつ下側のカーテンウォールA’を建物躯体に接続するものであり、カーテンウォールA’,B’の境界部分を跨ぐように配置された平板状の本体プレート101と、下側のカーテンウォールA’の上端部に埋設される定着部材102と、構造躯体に接続される接続部材103とを備えて構成されている。
【0003】
なお、特許文献1では、本体プレート101の上半部を上側のカーテンウォールB’の裏面(建物躯体側の面)に沿わせるべく、下側のカーテンウォールA’の上端部に凸部104を設け、凸部104に本体プレート101の下半部を埋設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−147891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーテンウォールと建物躯体との間には、施工誤差等を吸収できるように、数十ミリ程度のクリアランスが設けられる。このクリアラスは、モルタルやロックウールなどの耐火・耐熱性に優れた材料によって閉塞(層間塞ぎ)されるが、特許文献1のカーテンウォールA’を使用した場合には、図13に示すように、凸部104の有る部分と無い部分とでクリアランスCの大きさに差異が生じてしまうので、層間塞ぎ作業に手間取る虞がある。
【0006】
このような観点から、本発明は、層間塞ぎ作業を容易に行うことが可能なプレキャストコンクリート製のカーテンウォールおよびカーテンウォール用ファスナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は、上端部の裏面が平坦に成形された壁体と、前記壁体を建物躯体に接続するためのファスナーと、を具備するプレキャストコンクリート製のカーテンウォールであって、前記ファスナーは、前記壁体の上端部に固着される下プレート部と、前記下プレート部の上側に設けられた上プレート部と、前記下プレート部の建物躯体側の側面に突設された躯体接続部と、を有し、前記下プレート部は、前記側面が前記壁体の裏面と略面一になるように前記壁体に埋設されており、前記上プレート部は、前記下プレート部よりも前記建物躯体側に位置しており、前記壁体の上側に配置される他のカーテンウォールの裏面に沿って配置される、ことを特徴とする。
【0008】
壁体の上端部の裏面(建物躯体側の面)を凹凸のない平坦な平面に成形し、ファスナーの下プレート部の側面を壁体の裏面と略面一にすると、カーテンウォールと建物躯体との間のクリアランス(離隔距離)を一様な大きさに保った状態でカーテンウォールを設置することが可能になるので、層間塞ぎ作業を容易に行うことが可能となる。
【0009】
なお、本発明のカーテンウォールは、他のカーテンウォールの下側に連設されるものであり、本発明のカーテンウォールに備えられたファスナーは、上下に並ぶカーテンウォール同士を連結しつつ下側のカーテンウォール(すなわち、本発明のカーテンウォール)を建物躯体に接続するものである。ファスナーの上プレート部は、他のカーテンウォール(上側のカーテンウォール)の裏面に沿って配置されることになるが、下プレート部と面一にせず、建物躯体側にずらして配置しているので、本発明のカーテンウォールの上側にこれと同厚の他のカーテンウォールを面一に配置した場合であっても、上プレート部が他のカーテンウォールに干渉することはない。
【0010】
前記ファスナーに、前記壁体に埋設されるアンカーを具備させてもよい。このようにすると、ファスナーの耐力が向上する。なお、前記アンカーは、前記下プレート部と直交する方向に延びる軸部を具備するものを使用し、前記軸部に形成された雄ネジを前記下プレート部に設けられた雌ネジに螺着するとよい。雄ネジ部品をアンカーとして利用すると、手間と費用の掛かる溶接をせずにアンカーを下プレート部に固定することができる。
【0011】
雄ネジ部品をアンカーとして利用する場合には、前記壁体に、前記軸部と交差しつつ上下方向に延在する差し筋と、前記差し筋を取り囲むスパイラル筋とを配筋するか、あるいは、前記アンカーと交差しつつ上下方向に延在する縦U字筋と、前記アンカーと交差しつつ左右方向に延在する横U字筋とを配筋することが望ましい。このようにすると、アンカーの周囲に発生する虞のあるコーン状破壊が抑制され、ファスナーの耐力が向上するようになる。
【0012】
なお、前記下プレート部、前記上プレート部および前記躯体接続部は、鍛造により一体成形するとよい。このようにすると、溶接作業が不要になるので、複数の部品を溶接により一体化してファスナーを形成する場合に比べて、品質管理が容易になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カーテンウォールと建物躯体との間のクリアランス(離隔距離)を一様な大きさに保った状態でカーテンウォールを設置することが可能になるので、層間塞ぎ作業を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るカーテンウォールを示す斜視図である。
【図2】ファスナーの構成を示す図であって、(a)は断面図、(b)は側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るカーテンウォールの断面図(配筋図)である。
【図4】図3のX1−X1線断面図である。
【図5】(a)および(b)は、カーテンウォールの組立方法を説明するための断面図である。
【図6】(a)は層間塞ぎの様子を示す断面図、(b)は(a)のX2−X2線断面図である。
【図7】(a)はファスナーの変形例を示す断面図、(b)は(a)のX3−X3線断面図である。
【図8】(a)はファスナーの他の変形例を示す断面図、(b)は(a)のX4−X4線断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係るカーテンウォールの変形例を説明するための配筋図である。
【図10】図9のX6−X6断面図
【図11】図9のX7−X7矢視図である。
【図12】従来技術に係るカーテンウォールの断面図である。
【図13】図12のX5−X5線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係るカーテンウォールAは、プレキャストコンクリート部材であり、図1に示すように、他のカーテンウォールBの下側に連設される。
【0016】
カーテンウォールAは、鉄筋コンクリート構造の壁体Wと、壁体Wを建物躯体Tに接続するためのファスナーFとを具備している。
【0017】
(ファスナー)
ファスナーFは、上下に並ぶカーテンウォールA,Bを連結しつつ下側のカーテンウォールAを建物躯体Tに接続するものであり、図2の(a)に示すように、カーテンウォールA,Bの境界部分(目地)を跨ぐように配置されるファスナー本体1と、カーテンウォールAの壁体Wに埋設される複数(本実施形態では四つ)のアンカー2,2,…とを備えている。
【0018】
ファスナー本体1は、壁体Wの上端部に固着される下プレート部11と、下プレート部11の上側に設けられた上プレート部12と、下プレート部11の建物躯体T側の側面(以下、「露出側面」という。)に突設された躯体接続部13とを備えている。ファスナー本体1は、一般構造用鋼材(SS材)を鍛造して得た鍛造品であり、下プレート部11、上プレート部12および躯体接続部13は一体成形されている。なお、ファスナー本体1の材質や製造方法は、適宜変更しても差し支えない。
【0019】
下プレート部11は、その露出側面が壁体Wの裏面3aと面一になるように壁体Wに埋設されている。下プレート部11は平板状を呈しているが(図2の(b)参照)、その上端部は建物躯体T側に膨出している。
【0020】
下プレート部11には、複数の雌ネジ11a,11a,…が形成されている。雌ネジ11aは、壁体W側の側面に開口している。なお、図示の下プレート部11には、その下端部の左右二箇所と、躯体接続部13の左右両側の二箇所の合計四箇所に雌ネジ11a,11a,…が形成されているが、雌ネジ11aの位置や個数を限定する趣旨ではない。
【0021】
上プレート部12は、下プレート部11の露出側面よりも建物躯体T側に位置しており、壁体Wの上側に配置される他のカーテンウォールBの裏面4aに沿って配置される。すなわち、上プレート部12は、壁体Wの裏面3aを含む鉛直面よりも建物躯体T側に位置していて、他のカーテンウォールBの裏面4aと隙間をあけて対向する。
【0022】
上プレート部12には、図2の(b)にも示すように、受入凹部12aとネジ孔12bとが形成されている。受入凹部12aは、上プレート部12の上端部に形成されていて、上向きに開口している。受入凹部12aには、図2の(a)に示すように、カーテンウォールBの係止部41が挿入される。ネジ孔12bは、受入凹部12aの下側に形成されていて、上プレート部12を貫通している。ネジ孔12bには、位置決め用の押しボルト42が螺入される。なお、係止部41は、カーテンウォールBに植設されたアンカーボルトからなり、カーテンウォールBの裏面4aから突出した軸部には、雄ネジが形成されている。
【0023】
躯体接続部13は、下プレート部11の露出側面から側方に向って張り出している。躯体接続部13の先端部は、建物躯体Tの上方に位置する。躯体接続部13の先端部には、ネジ孔13aが形成されている。ネジ孔13aは、躯体接続部13を上下方向に貫通している。ネジ孔13aには、荷重受けボルト51が螺入される。荷重受けボルト51は、建物躯体Tの上面に立設されるものであって、蓋プレート52の挿通孔に挿入されるとともに、躯体接続部13の下側からネジ孔13aに螺着される。なお、カーテンウォールAに作用した荷重(自重を含む)は、荷重受けボルト51を介して建物躯体Tに伝達される。
【0024】
アンカー2は、ファスナーFの引抜耐力を向上させるものであり、所定の被りを確保した状態で壁体Wに埋設される。アンカー2は、雄ネジ部品からなり、下プレート部11と直交する方向に延びる軸部21と、軸部21と一体成形された頭部22とを備えている。
【0025】
軸部21の端部には、雄ネジが形成されている。雄ネジは、下プレート部11の雌ネジ11aに螺着される。頭部22は、鍛造成形された部位であり、円錐台状を呈している。上側に配置されるアンカー2と下側に配置されるアンカー2とは、同様の構成を具備しているが、下側のアンカー2の軸部21および頭部22は、上側のアンカー2のものよりも太径である。なお、同径としても勿論差し支えない。
【0026】
なお、頭部22の形状は適宜変更しても差し支えない。また、図示は省略するが、軸部となるネジ棒を頭部となる鋼板に摩擦圧接または溶接したものをアンカー2としてもよい。
【0027】
アンカー2をファスナー本体1に固定するには、軸部21の雄ネジを下プレート部11の雌ネジ11aに螺着した後、雄ネジに螺合しておいた緩止めナット(図示略)を締め付ければよい。
【0028】
(壁体)
壁体Wは、図1に示すように、平板状を呈している。壁体Wの裏面3aのうち、少なくとも上端部(建物躯体Tの側面に対向する部分)は、平坦に成形されている。
【0029】
壁体Wには、図3および図4に示すように、表裏二列に配筋された壁筋31,31のほか、アンカー2の軸部21と交差しつつ上下方向に延在する差し筋32と、差し筋32を取り囲むスパイラル筋33と、壁筋31,31の間隔を保持する幅止め筋34とが配筋されている。なお、図3および図4においては、壁体Wに付すべきハッチングを省略している。
【0030】
壁筋31は、複数の縦筋31a,31a,…と複数の横筋31b,31b,…を格子状に組み合わせたものである。
【0031】
差し筋32は、上下に並ぶアンカー2,2と立体的に交差するとともに、下側のアンカー2の下方まで延出している。差し筋32は、壁筋31,31の間に位置し、かつ、ファスナーF側の壁筋31の横筋31b,31b,…に接するように配筋されている。本実施形態では、図4に示すように、アンカー2の軸部21の左右両側に差し筋32,32が配筋されている。
【0032】
スパイラル筋33は、左右二箇所に配筋されていて、それぞれ、一対の差し筋32,32を取り囲んでいる。すなわち、アンカー2の軸部21を左右から挟む一対の差し筋32,32につき、一つのスパイラル筋33が配筋されている。本実施形態のスパイラル筋33は、アンカー2の頭部22をも取り囲んでいる。スパイラル筋32は、コーン状破壊が想定される範囲(頭部22の周縁から45〜60度で広がる円錐台状の範囲)を含むように配筋すればよいが、本実施形態では、図3に示すように、上下のアンカー2,2を内包しつつ、下側のアンカー2の下方まで延出している。
【0033】
幅止め筋34は、図4に示すように、二つのスパイラル筋33,33を挟んで左右両側に配筋されている。図3に示すように、本実施形態の幅止め筋34は、逆U字状を呈していて、最上段の横筋31b,31bと、上から2段目の横筋31b,31bを拘束している。
【0034】
次に、図5を参照して、カーテンウォールA,Bの組立方法を説明する。
図5の(a)に示すように、まず、下向きに開口した断面溝形のカバー部材53を建物躯体Tの上面(例えば、鉄骨のフランジ上面)に固着する。カバー部材53は、例えば、溝形鋼からなる(図1参照)。
【0035】
カバー部材53を設置したならば、カーテンウォールAを建て込む。具体的には、カバー部材53の上面に設けた開口部に、カーテンウォールAの躯体接続部13に螺着しておいた荷重受けボルト51を遊挿し、建物躯体Tの上面に荷重受けボルト51を載置すればよい(図5の(b)参照)。カバー部材53の開口部は、荷重受けボルト51の軸部に装着された蓋プレート52で塞ぐ。なお、蓋プレート52は、溶接等の手段によりカバー部材53の上面に固着する。なお、ロッキング方式とする場合には、蓋プレート52に、ボルト51の外径とほぼ同一寸法(ボルト51の外径+1mm程度)の貫通孔を形成する。また、スウェー方式とする場合には、図示は省略するが、一枚のカーテンウォールに対して取り付けられる二つのファスナーのうちの一方に対応する蓋プレート52に、横方向に延在する長孔(ルーズホール)を形成する。
【0036】
カーテンウォールAを所定位置に設置したならば、図5の(b)に示すように、その上方に他のカーテンウォールBを建て込む。具体的には、カーテンウォールBの下端部に設けた係止部41を、下側のカーテンウォールAの受入凹部12aに遊挿しつつ、カーテンウォールBの上端部に設けたファスナー(図示略)を上階の建物躯体(図示略)に接続すればよい。なお、ファスナーFの上プレート部12を下プレート部11と面一にせず、建物躯体T側にずらして配置しているので、カーテンウォールAの上側にこれと同厚の他のカーテンウォールBを面一に配置しても、上プレート部12が他のカーテンウォールBに干渉することはない。
【0037】
カーテンウォールBを建て込んだならば、下側のカーテンウォールAのネジ孔12bに押しボルト42を螺入し、その螺入量を調整することで、カーテンウォールBの下端部の位置決めを行う。その後、図1にも示すように、受入凹部12aを覆い隠すように調整プレート43を配置するとともに、座金44を介在させつつナット45を係止部41に螺合し、さらに、図示せぬ緩止めを装着する。なお、調整プレート43は、溶接等の手段により上プレート部12に固着する。本実施形態はロッキング方式であるため、調整プレート43には、縦長のルーズホールが形成されている。なお、スウェー方式とする場合には、横長のルーズホールを形成する。
【0038】
次に、図6を参照して、層間塞ぎ作業の手順を説明する。
図6の(a)に示すように、まず、カーテンウォールAの上端部と建物躯体との間に形成されたクリアランスに、鋼板61を設置する。鋼板61は、ファスナーFの躯体接続部13の下側に設置する。鋼板61の厚さは、1.6mm以上とすることが望ましい。本実施形態では、壁体Wの裏面3aが凹凸のない平坦な平面に成形され、下プレート部11の露出側面が壁体Wの裏面3aと面一になっているので、鋼板61を容易に設置することが可能となる。
【0039】
鋼板61を設置したならば、鋼板61の上に、耐火・耐熱性に優れた材料(例えば、モルタル、コンクリート、ロックウールなど)からなる充填材62を充填し、クリアランスを閉塞する。
【0040】
以上説明した本実施形態に係るカーテンウォールAによれば、図6の(b)に示すように、壁体Wの裏面3aを凹凸のない平坦な平面に成形し、ファスナーFの下プレート部11の露出側面を壁体Wの裏面3aと面一にしたので、カーテンウォールAと建物躯体Tとの間のクリアランス(離隔距離)を一様な大きさに保った状態でカーテンウォールAを設置することが可能になる。つまり、カーテンウォールAを使用すると、層間塞ぎ作業を容易に行うことが可能となる。
【0041】
また、本実施形態においては、ファスナー本体1を鍛造品とし、アンカー2を雄ネジ部品としているので、ファスナーFの品質管理が容易になるとともに、手間と費用の掛かる溶接をせずにファスナーFを得ることができる。
【0042】
また、本実施形態においては、壁体Wに、差し筋32とスパイラル筋33とを配筋したので、アンカー2の周囲に発生する虞のあるコーン状破壊が抑制され、ファスナーFの引抜耐力が高い。
【0043】
なお、ファスナーFの構成は、適宜変更しても差し支えない。
例えば、前記した実施形態では、下プレート部の壁体W側の側面を凹凸の無い平面に成形した場合を例示したが、下プレート部11の壁体W側の側面に、コッター(凹部)を設けてもよい。コッターの位置や個数等に制限はなく、例えば、図7の(a)および(b)に示すように、左右一対のコッター(凹部)11b,11bを設けてもよいし、図8の(a)および(b)に示すように、左右方向に連続するコッター11b,11b,…を並設してもよい。コッター11bを設けると、カーテンウォールAに作用する鉛直力をファスナーFに伝達することができる。
【0044】
また、図10に示すように、ファスナー本体1に空気孔11cを設けてもよい。このようにすると、ファスナー本体1の背面に空気溜りが形成され難くなる。
【0045】
前記した実施形態では、差し筋32とスパイラル筋33を配筋した場合を例示したが、これらに代えて、図9に示す壁体W’のように、縦U字筋36と横U字筋37とを配筋してもよい。なお、図9は、壁体W’を裏側(建物躯体側)から見た配筋図である。図9においては、U字筋36,37と他の鉄筋との区別が容易になるよう、U字筋36,37に薄墨またはハッチングを付し、ファスナー本体1の図示を省略している。
【0046】
壁体W’の配筋をより詳細に説明する。
壁体W’には、壁筋(縦筋31a,横筋31b)および幅止め筋34のほか、上下方向に延在するJ字筋35、同じく上下方向に延在する縦U字筋36、左右方向に延在する横U字筋37などが配筋されている。壁筋および幅止め筋34の構成は、前記したものと同様である。なお、図10では、J字筋35にも薄墨を付している。
【0047】
J字筋35は、図10に示すように、側面視逆J字状を呈する補強筋であって、上部の逆U字状部分によって、最上段の横筋31b,31bおよび上から2段目の横筋31b,31bを拘束している。J字筋35のうち、表側(室外側)の壁筋(縦筋31a)に沿う直線部分35aは、上下のアンカー2,2の中間位置まで延出し、裏側(室内側)の壁筋(縦筋31a)に沿う直線部分35bは、下側のアンカー2の下方まで延出している。図11に示すように、J字筋35は、ファスナーF(左右の縦U字筋36,36)を挟んで両側に二つずつ配筋されている。なお、J字筋35の位置や数は適宜変更しても差し支えない。
【0048】
縦U字筋36は、図9に示すように、正面視逆U字状を呈する補強筋であって、上下に並ぶアンカー2,2を囲うように配筋されている。すなわち、縦U字筋36は、上下に並ぶ一組のアンカー2,2に対応して配筋されている。縦U字筋36のうち、左右の直線部分36a,36aは、アンカー2の軸部21を挟むように配置されている。直線部分36aは、下側のアンカー2の下方まで延出していて、上下に並ぶアンカー2,2の軸部21,21と立体的に交差するとともに、複数の横筋31b,31b,…と立体的に交差している。縦U字筋36のうち、左右の直線部分36a,36aを繋ぐ弧状部分(折曲げ端)36bは、上側のアンカー2に近接した位置において上側のアンカー2を跨ぐように配置されている。
【0049】
図10にも示すように、縦U字筋36は、上下に並ぶ一組のアンカー2,2ごとに、二つずつ配筋されている。ファスナーFには、上下一組のアンカー2,2が左右二列に並んでいるので、図11に示すように、一のファスナーFにつき四つの縦U字筋36,36,…が配筋されることになる。なお、縦U字筋36は、表側の壁筋と裏側の壁筋との間に配筋されている。
【0050】
表側の縦U字筋36は、アンカー2の頭部周辺におけるコーン状破壊を防止する目的で配筋されるものであり、アンカー2の最大径部の裏側に配筋されている。すなわち、表側の縦U字筋36は、アンカー2の頭部に近接して配筋されていて、アンカー2を介して作用する引張力(面外力)に対して抵抗する。なお、図10に示すように、表側の縦U字筋36の頂部は、J字筋35の頂部と同じ高さに位置しているが、他の鉄筋等と干渉するような場合には、適宜ずらして配置しても差し支えない。
【0051】
裏側の縦U字筋36は、コンクリートの割裂や支圧破壊を防止する目的で配筋されるものであり、アンカー2の軸方向中央部と交差するように配筋されている。すなわち、裏側の縦U字筋36は、ファスナー本体1の背面(壁体W’側の側面)に沿って配筋されていて、アンカー2の端あき方向へのせん断力(面内力)に対して抵抗する。なお、裏側の縦U字筋36の頂部は、表側の縦U字筋36の頂部よりも下がったところに位置しているが、他の鉄筋等と干渉するような場合には、適宜ずらして配置しても差し支えない。
【0052】
横U字筋37は、図9に示すように、正面視横U字状を呈する補強筋であって、左右に並ぶアンカー2,2を囲うように配筋されている。すなわち、横U字筋37は、縦U字筋36と交差するように配筋されている。
【0053】
横U字筋37のうち、上下の直線部分37a,37aは、アンカー2の軸部21を挟むように配置されていて、それぞれ、左右に並ぶアンカー2,2と立体的に交差するとともに、複数の縦筋31a,31a,…と立体的に交差している。横U字筋37のうち、上下の直線部分37a,37aを繋ぐ弧状部分(折曲げ端)37bは、壁体W’の側縁部に位置している。
【0054】
横U字筋37は、コンクリートの割裂や支圧破壊を防止する目的で配筋されるものであり、図10に示すように、アンカー2の軸方向中央部と交差するように配筋されている。すなわち、横U字筋37は、ファスナー本体1の背面に沿って配筋されていて、アンカー2の端あき方向へのせん断力(面内力)に対して抵抗する。なお、横U字筋37は、表側の縦U字筋36と裏側の縦U字筋36の間に位置し、かつ、裏側の縦U字筋36に接するように配筋されているが、他の鉄筋等と干渉するような場合には、適宜ずらして配置しても差し支えない。
【0055】
このように、上下方向に縦U字筋36を配筋し、左右方向に横U字筋37を配筋すると、コーン状破壊、割裂破壊、支圧破壊などに対する抵抗力が増すようになる。また、J字筋35を配筋すると、PCa板曲げに対する抵抗力が増すようになる。しかも、J字筋35、縦U字筋36および横U字筋37は、壁筋やアンカー2の配筋が終了した後でも、上または横から差し込むことができるので、配筋作業が容易になる。なお、J字筋35、縦U字筋36および横U字筋37は、適宜な間隔をあけて配筋されるので、コンクリートの充填性が損なわれることはない。
【符号の説明】
【0056】
A カーテンウォール
F ファスナー
1 ファスナー本体
11 下プレート部
12 上プレート部
13 躯体接続部
2 アンカー
21 軸部
22 頭部
W 壁体
32 差し筋
33 スパイラル筋
34 幅止め筋
35 J字筋
36 縦U字筋
37 横U字筋
B 他のカーテンウォール
T 建物躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部の裏面が平坦に成形された壁体と、
前記壁体を建物躯体に接続するためのファスナーと、を具備するプレキャストコンクリート製のカーテンウォールであって、
前記ファスナーは、前記壁体の上端部に固着される下プレート部と、前記下プレート部の上側に設けられた上プレート部と、前記下プレート部の建物躯体側の側面に突設された躯体接続部と、を有し、
前記下プレート部は、前記側面が前記壁体の裏面と略面一になるように前記壁体に埋設されており、
前記上プレート部は、前記下プレート部よりも前記建物躯体側に位置しており、前記壁体の上側に配置される他のカーテンウォールの裏面に沿って配置される、ことを特徴とするカーテンウォール。
【請求項2】
前記ファスナーは、前記壁体に埋設されるアンカーを有し、
前記アンカーは、前記下プレート部と直交する方向に延びる軸部を有し、前記軸部に形成された雄ネジが前記下プレート部に設けられた雌ネジに螺着されていることを特徴とする請求項1に記載のカーテンウォール。
【請求項3】
前記壁体には、前記軸部と交差しつつ上下方向に延在する差し筋と、前記差し筋を取り囲むスパイラル筋とが配筋されている、ことを特徴とする請求項2に記載のカーテンウォール。
【請求項4】
前記壁体には、前記アンカーと交差しつつ上下方向に延在する縦U字筋と、前記アンカーと交差しつつ左右方向に延在する横U字筋とが配筋されている、ことを特徴とする請求項2に記載のカーテンウォール。
【請求項5】
前記下プレート部、前記上プレート部および前記躯体接続部は、鍛造により一体成形されている、ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のカーテンウォール。
【請求項6】
上下に並ぶカーテンウォール同士を連結しつつ下側のカーテンウォールを建物躯体に接続するカーテンウォール用ファスナーであって、
下側の前記カーテンウォールの壁体に埋設される下プレート部と、前記下プレート部の上側に設けられた上プレート部と、前記下プレート部の一側面に突設された躯体接続部と、前記下プレート部の他側面に突設されたアンカーとを有し、
前記上プレート部は、前記下プレート部の一側面よりも前記建物躯体側に位置しており、上側の前記カーテンウォールの裏面に沿って配置される、ことを特徴とするカーテンウォール用ファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−285864(P2010−285864A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112488(P2010−112488)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】