説明

カートリッジ式検出装置

【課題】前処理剤等をいわゆるインラインで供給可能とすることを目的とする。
【解決手段】被検出物質を注入する注入ポートと、被検出物質を含む被検液を通す流路と、被検出物質を一時的に貯留する貯留部と、検出機構の少なくとも一部と、貯留部及び/又は検出機構に通じる液体流路と、検出機構から被検出物質を排出する排出ポートとを備える検出用カートリッジ、及び検出用カートリッジに接続可能であり、被検出物質を分析する処理ユニットを組み合わせてなるカートリッジ式検出装置であって、注入ポートから排出ポートまでの間において、被検液を貯留部に通し、検出用カートリッジ外に排出させる液体流路と、溶離液を貯留部に通し、貯留部から溶離した被検出物質を含む溶離液を検出機構に送る液体流路と、試薬を貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路とが切り換え可能に構成されているカートリッジ式検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物質の検出方法及びカートリッジ式検出装置に関し、より詳細には、カートリッジと処理ユニットとを組み合わせて、被検液中に微量に含有される被検出物質を検出する方法及びそれに使用されるカートリッジ式検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検液を分析するシステムが種々提案されており、その一例として、カード式の携帯型使い捨て分析システムがある(例えば、特許文献1)。
【0003】
この分析システムは、人又は動物の体液における検査値を検出し、それに相応した出力信号を発生するセンサーを備えたカード式使い捨て検査具と、この検査具からの信号を受けて演算処理する演算処理部及び表示部を含む携帯型分析ユニットとからなる。
【0004】
カード式使い捨て検査具は、薄い仕切り板を挟んで互いに液密に重畳される2枚の基板から構成される。各基板には、体液注入孔、体液を通す通路、体液を貯留する貯蔵部等が設けられている。また、携帯型分析ユニットは、検査具の挿入口を有し、検査具が差し込まれた際に検査具に含まれる体液がセンサーまで流れ、測定が行われる。測定により発生する電気信号が演算処理部において処理され、分析結果が表示部に表示される。
【0005】
この分析システムは、軽便で、現場での検査が可能であり、検査すべき体液を注射器等の注入器で直接注入できるので、検査すべき体液が雰囲気に触れるのを避けることができるという利点がある。
【0006】
しかし、検査対象は、人又は動物の体液といった高濃度の液体であり、例えば土壌に含まれる有害重金属のように極めて微量な被検出物質の濃度測定又はクロマトグラフ分析には使用できない。
【0007】
また、飲用水や廃水、及び血液や尿のような生物学的流体などの分析に使用される微小バンド電極アレイを備えた分析装置が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0008】
この分析装置は、分析対象の電解質液体が電極に接触することによって発生する電流のファラデー成分を検出するものであり、例えば、平坦な基板からなる平板状のセンサーとして微小バンド電極アレイを備えてなる。このような構成により、非ファラデ−成分の発生を抑制して検出感度を高めることができ、水溶液に微小量含まれる有害金属の検出を図っている。
【0009】
しかし、土壌に含まれる有害重金属のように極めて微量な被検出物質を対象とする場合には、この装置を用いて濃度測定を行うのは、検出感度が十分でないため困難である。
【特許文献1】特開平10−311829号公報
【特許文献2】米国特許第6110354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、被検出物質及び使用場所等についての制約を抑えて、測定者の操作を省いて、いわゆるインライン方式で簡便に使用することができるとともに、大量の被検物を迅速に処理することができるカートリッジ式検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のカートリッジ式検出装置は、被検出物質を注入する注入ポートと、前記被検出物質を含む被検液を通す流路と、前記被検出物質を一時的に貯留する貯留部と、検出機構の少なくとも一部と、前記貯留部及び/又は検出機構に通じる液体流路と、前記検出機構から前記被検出物質を排出する排出ポートとを備える検出用カートリッジ、及び該検出用カートリッジに接続可能であり、被検出物質を分析する処理ユニットを組み合わせてなるカートリッジ式検出装置であって、前記注入ポートから排出ポートまでの間において、前記被検液を前記貯留部に通し、前記検出用カートリッジ外に排出させる液体流路と、溶離液を前記貯留部に通し、該貯留部から溶離した被検出物質を含む溶離液を検出機構に送る液体流路と、試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路とが切り換え可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
このカートリッジ式検出装置においては、試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路は、(1)注入ポート−貯留部間から、前記貯留部−検出機構間までの間に形成されてなるか、(2)注入ポート−貯留部間から、前記検出機構下流までの間に形成されてなるか、(3)貯留部−検出機構間から、前記検出機構下流までの間に形成されてなるか、(4)貯留部−混合部間から、前記検出機構下流までの間に形成されてなる(ただし、貯留部−検出機構間にさらに混合部を備える)ものとすることが好ましい。
【0013】
また、注入ポートと貯留部との間に、さらにろ過部が形成されていてもよいし、試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路内に、前記試薬を保持する試薬部が形成されていてもよいし、処理ユニットは、さらに、送液ポンプと、溶離液タンク及び試薬調製用タンクとを備えていてもよいし、検出用カートリッジは、注入ポートから排出ポートまでの間に1又は複数のポートをさらに備え、処理ユニットは、さらに、前記注入ポートから排出ポートまでの間のポートの少なくとも1つに送液ポンプを切換接続するバルブ機構を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカートリッジ式検出装置によれば、被検出物質にかかわらず、測定者の操作を省いて簡便に使用することができるとともに、夾雑物等による測定の妨害等を最小限に止め、適切な前処理を確実に行い、検出に適する状態を導いて、正確な測定を実現することができる。特に、被検液に含まれる被検出物質の濃度が極めて微量であっても、測定者が特別な操作を行わなくても、カートリッジ式検出装置内で適切な操作を可能として、高精度の被検出物質の検出を行うことができる。
【0015】
また、この装置は、電気化学分析、光学分析、液体クロマトグラフ分析、免疫学的検定法(イムノアッセイ)、その他の被検出物質を含む被検液を検出するいかなる方法にも適用することができる。
【0016】
さらに、検査場所に制限がなく、どんな場所においても、つまり、試料採取現場においても、容易に濃度検出等の検出を行うことができる。加えて、多量のサンプルを迅速に処理することが可能となる。
【0017】
また、この装置は、カートリッジを使用するために、携帯に便利な簡易検出を実現することができる。特に、検出に必要な液体流通のための流路配管を極めてコンパクトに収めることができる構造を備えるために、より小型化及び低価格化を実現しながら、高精度の検出を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、最も広義において、検出用カートリッジと、このカートリッジに接続可能であり、被検出物質を分析する処理ユニットとを組み合わせてなるカートリッジ式検出装置である。なお、本発明において、「検出」という用語は、被検出物質の有無、濃度、組成その他の性質に関連する情報を収集すること意味し、定量及び/又は定性分析等の分析が含まれる。また、被険液中に含まれる種々の夾雑物質のうち、貯留部と反応又は吸着することに起因して被検出物質の分析結果に影響をもたらす物質を「妨害物質」と記す。
【0019】
本発明のカートリッジ式検出装置を構成する検出用カートリッジは、少なくとも、被検出物質を注入する注入ポートと、被検出物質を含む被検液を通す流路と、被検出物質を一時的に貯留する貯留部と、検出機構の少なくとも一部と、貯留部及び/又は検出機構に通じる液体流路と、検出機構から前記被検出物質を排出する排出ポートとを備える。
【0020】
また、検出用カートリッジ単独で又は検出用カートリッジと後述する処理ユニットとの組合せによって、注入ポートから排出ポートまでの間において、被検液を貯留部に通し、検出用カートリッジ外に排出させる液体流路と、溶離液を貯留部に通し、貯留部から溶離した被検出物質を含む溶離液を検出機構に送る液体流路と、試薬を貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路とを備え、これらの液体流路は、切り換え可能に構成されている。ここで、検出用カートリッジと処理ユニットとの組合せによって液体流路が構成されているとは、注入ポートから排出ポートまでの間の液体流路のすべてがカートリッジ内に配置していてもよいが、その一部がカートリッジ外の流路、つまり、処理ユニット内に構成される流路を経る場合も包含される。
【0021】
なお、この装置は、通常、試薬/溶液を液体流路に導入/排出するために、注入ポート及び排出ポートのほかに、複数のポートが形成されている。
【0022】
検出用カートリッジに導入された被検液は、貯留部に到達し、通常、ここで、被検液に含まれる被検出物質が貯留部に一時的に貯留される。貯留部を通過した残りの被検液は、検出用カートリッジのポートからカートリッジ外に排出される。あるいは、検出用カートリッジ内又は処理ユニット内に形成された廃液溜に導いてもよい。貯留部に貯留された被検物質は、貯留部の上流から導入する溶離液等を用いて溶離させ、検出機構に到達させ、そこで所望の検出を行い、検出機構の下流に形成された排出ポートから、カートリッジ外に排出される。あるいは、検出用カートリッジ内又は処理ユニット内に形成された廃液溜に導いてもよい。
【0023】
検出用カートリッジにおける流路及び液体流路は、被検液、種々の試薬、溶離液等の流れを確保し、液体を移送及び/又は貯留することができる限り、その形状、長さ、大きさ、数等は特に限定されず、例えば、数百μm〜数mmのオーダーの幅を有し、数百μmの深さを有する溝により形成されていることが適している。例えば、流路の断面積は100μm2〜1mm2程度である。
【0024】
なお、本発明のカートリッジ式検出装置では、溶離液として、被検出物質等に応じて、当該分野の分析に用いることができる一般的な溶離液のいずれをも用いることができる。また、試薬、電解質液等、本発明の装置を操作するために使用する種々の剤も、被検出物質等に応じて、当該分野の分析に用いることができる一般的なもののいずれをも用いることができる。
【0025】
また、流路及び液体流路は、被検液のろ過を行うためのろ過部をさらに有していてもよい。ろ過部は、通常、注入ポートの直下流に、つまり、注入ポートと貯留部との間に形成されていることが好ましい。また、後述する試薬部が配置される場合には、その上流に配置されることが好ましい。これにより、被検液中に存在する夾雑物を有効に除去することができる。ろ過部は、例えば、メンブレンフィルタ、粒子、多孔質材料等を用いて形成することができる。また、フィルタ、粒子、孔の粗さを変えたものを多段で用いてもよい。
【0026】
さらに、流路及び液体流路は、適当な位置に、貯留部及び/又は検出機構に送るための試薬を保持する試薬部が形成されていてもよいし、試薬部が流路及び液体流路に連結されていてもよい。試薬部は、固体、濃縮した液状、ペースト状等のどのような形態の成分を保持するものであってもよく、流路及び液体流路内に、適当な試薬を収容する、例えば、流路及び液体流路の内壁に試薬を付着させるなど、流路及び液体流路の一部自体を試薬部として機能させてもよい。また、流路及び液体流路とは別個に、試薬をそのまま、あるいは繊維、フィルタ等に含浸、化学修飾、挟持して配置/保持するための空間を設け、この空間と流路又は液体流路とを連結させてもよい。さらに、試薬部をカートリッジ外に配置して、流路又は液体流路と連結させてもよい。なお、試薬を繊維、フィルタ等を用いて配置する場合には、必ずしも試薬部として独立に形成されていなくてもよく、後述する貯留部に試薬部の機能を付与するようにして、配置してもよい。試薬部は、液体流路の途中に設けられた分岐した流路によって構成してもよい。この場合、分岐した流路の一方に試薬を配置し、他方には配置えせず、それぞれの流路における流量比を調整することによって、試薬添加量を制御することができる。
【0027】
試薬部に収容される試薬は特に限定されず、例えば、被検出物質の検出を妨害する物質のマスキング剤(例えば、錯形成剤、包接化合物、抗原又は抗体、受容体等)、発色分析に用いられる発色試薬、貯留部を構成する吸着物質等の前処理剤/活性化剤、検出機構を構成する電極等の活性化剤、カラム通液等、種々のものが挙げられる。特に、試薬部に配置される試薬が液状又はペースト状である場合には、試薬部と流路との間を検出用カートリッジ使用時に連通する素材で封止することが好ましい。使用時に連通される手段としては、カートリッジ設置時に物理的な手段(突起物、針等)で連通させる、光反応樹脂等の化学的な手段によって連通させるなどが利用できる。使用時に連通する素材としては、カートリッジを構成する基板と同じ材料であってもよいが、試薬部をカートリッジ外に配置する場合には、例えば、アルミパック等を用いてもよい。
【0028】
このようにカートリッジ中に試薬部を設置する場合、例えば、強酸・強アルカリ、その他毒物・劇物に該当する物質について、1回の測定に必要な分だけをカートリッジ内に格納してワンウェイ化することができ、非常に便利である。また、装置内の試薬用のタンクの数を減らし、試薬供給系統を簡易にすることが可能となる。
【0029】
また、流路及び液体流路は、カートリッジ式検出装置内で被検液と水、試薬、溶離液等の液体と混合するための混合部が形成されていてもよい。これにより、混合溶液を確実に調製することができる。混合部は、流路及び液体流路の断面に二次元又は三次元的に拡縮を形成したもの(例えば、図5(a)〜(c)参照)であってもよいし、これら流路自体又は混合のための空間内において、超音波素子を配置、隣接して振動を利用したもの、ポンプの吐出/吸込の繰り返し動作を利用したものであってもよい。混合部は、検出用カートリッジに試薬部が配置されている場合は、その下流に設けることが適している。また、混合部は、検出用カートリッジ内のみならず、処理ユニットに設けられていてもよい。
【0030】
貯留部は、被検液に含まれるであろう被検出物質を貯留するものであればよい。また、被検液内の被検物質を濃縮して保持する機能を有している。貯留部は、被検出物質を貯留及び/又は保持するために、通常、吸着担体を含んで構成される。吸着担体は、例えば、多孔質セラミック、多孔質ガラス等の多孔質物質、繊維(例えば、フィルタ等)、高分子膜、孔が形成された金属膜又は微粒子等の表面積の大きな材料を基材として用いることができる。吸着担体の態様としては、微粒子を直方体状、円筒状等に充填したもの、多孔質物質として連通孔を有する担体(モノリス)によるモノリスディスク、モノリスカラム等、繊維としてスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリレート樹脂、シリカ、アルミナ等、セルロース系材料、植物性繊維、動物性繊維等が挙げられる。また、基材の表面に、被検出物質に対して化学反応を行う又は吸着作用を有する官能基等を修飾した又は重金属受容性物質で処理したものを用いてもよい。このような官能基等としては、例えば、カチオン性又はアニオン性物質吸着担体として、スルホン基、第4級アンモニウム基、オクタデシル基、オクチル基、ブチル基、アミノ基、トリメチル基、シアノプロピル基、アミノプロピル基、ニトロフェニルエチル基、ピレニルエチル基、ジエチルアミノエチル基、スルホプロピル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、スルホキシエチル基、オルトリン酸基、ジエチル(2−ヒドロキシプロピル)アミノエチル基、フェニル基、イミノジ酢酸基、エチレンジアミン、硫黄原子を含むキレート形成基、例えば、各種メルカプト基、ジチオカルバミン酸基、チオ尿素基などの官能基や、アビジン、ビオチン、ゼラチン、ヘパリン、リジン、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、プロテインA、プロテインG、フェニルアラニン、ヒママメレクチン、デキストラン硫酸、アデノシン5'リン酸、グルタチオン、エチレンジアミン二酢酸、プロシオンレッド、アミノフェニルホウ酸、牛血清アルブミン、ポリヌクレオチド(例えばDNA)、タンパク質(例えば抗体)等の原子団等を用いることができる。
【0031】
検出機構は、特に限定されることなく、被検出物質を検出することができる方法を実現し得る機構の全てを利用することができる。方法としては、電気化学分析法、光学分析法、液体クロマトグラフィー分析、免疫学的検定法、他の原理を利用した分析、例えば特異的結合反応を利用した分析等、これらの2種以上を組み合わせたものが挙げられる。機構としては、特に限定されず、例えば、電気化学分析のための電極及び電流・電圧を印加又は読み取る手段等、光学的分析法における光学セル、光源及び分光器等、液体クロマトグラフィーにおけるクロマトカラム、イムノアッセイにおける抗原又は抗体の固定相等又はその一部が、検出用カートリッジにおいて検出区画を構成して、搭載される。
【0032】
検出用カートリッジにおいて、これら検出機構の一部のみが形成されている場合には、検出機構の他の部分は、後述する処理ユニット内に形成/配設される。例えば、検出機構を構成する部材として、ワンウェイに適した再生しにくい部材(例:HPLCカラム)、測定毎に煩雑な再生処理等を要する部材等は、カートリッジ側に配置することが好ましい。また、電気化学分析における電極は、測定毎に研磨を必要としないため、カートリッジ搭載に適している。一方、発色分析における光学セルは、測定毎に行う処理として比較的簡易な水洗浄でよいため、カートリッジ内に配置してもよく、処理ユニット内に配置してもよい。
【0033】
具体的には、検出機構が電気化学分析の場合は、検出用カートリッジ内の検出区画に、作用電極、対向電極及び参照電極等の電極が設置され、後述する溶離液が電解質溶液を兼ね、処理ユニット内に、電極と接続され、電流・電圧を印加又は読取る手段が設けられる。また、光学分析の場合は、検出用カートリッジ内に光学セルが設けられ、分析装置内に光源や分光器等が設けられる。
【0034】
複数のポートは、被験液又は試薬等を供給及び排出するために用いるものであり、その大きさ及び位置は特に限定されることなく、後述する検出を行うために適所に適宜形成される。例えば、ポートは、貯留部の上流、貯留部と検出機構との間、検出機構の下流等に、適宜配置することができる。ポートの選択/切り換えは、後述するバルブ機構(例えば、電磁バルブ等)により行うことができるが、この選択/切り換えを容易にするために、後述する補助部材を利用してもよい。
【0035】
処理ユニットは、検出用カートリッジからの電気信号、光学データ等を読み取り、処理し、被検出物質の濃度に関する情報を生成、測定する処理手段、演算/情報処理手段を含む電子処理手段、電源等を備えていることが適している。処理手段としては、特に限定されるものではなく、上述したような電気化学分析、発色分析法等を実現することができる手段等を含むものであればよく、演算処理手段は、例えば、マイクロコントローラから構成される制御部、A/Dコンバータ等、いずれも周知のものを利用することができる。
【0036】
また、処理ユニットは、任意に、検出結果を表示するための表示部を設けることができる。加えて、送液ポンプと、タンク(例えば、水タンク、試薬調製用タンク、溶離液タンク、排液タンク等)を備えていることが好ましい。試薬調整用タンクには、流路又は液体流路あるいは試薬部が試薬を収容する場合には、水を充填しておいてもよいし、液体の試薬自体を充填しておいてもよい。
【0037】
なお、処理ユニットは、検出用カートリッジを取外し自在に取り付けることができるカートリッジ取付部を備えることが好ましい。
【0038】
また、処理ユニットは、タンク切換バルブ機構、配管切換バルブ機構等のバルブ機構を備えていることが好ましい。タンク切換バルブ機構は、通常、任意のタンクを送液ポンプに接続するために機能し、配管切換バルブ機構は、通常、送液ポンプを、検出用カートリッジに設けられた複数のポートのうち、任意の1つに切換接続するために機能するものであることが好ましいが、直接及び間接的に両機能を兼ね備えるものであってもよい。バルブ機構自体は、公知のもののいずれをも利用することができる。これにより、上述した3つの液体流路、つまり、(1)被検液を貯留部に通し、検出用カートリッジ外に排出させる液体流路と、(2)貯留部から溶離した被検出物質を含む溶離液を検出機構に送る液体流路と、(3)試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路とを切り換えることができる。また、任意のポートに切換接続することにより、検出用カートリッジ内又はこのカートリッジと処理ユニットとの組合せにおいて、任意の流路を確保することができる。
【0039】
本発明では、補助部材として、検出用カートリッジ及び処理ユニットのほかに、例えば、被検液を注入するためのシリンジ、シリンジ内の溶液を検出用カートリッジ内に導くための部材、検出用カートリッジに導入された液を排出するための部材、検出用カートリッジにおける液流を確保する及び後述するような検出操作を容易にする等のために、種々の補助部材を組み合わせて用いることができる。補助部材は、いずれのポートにどのように接続して用いてもよい。
【0040】
本発明のカートリッジ式検出装置の具体的な一例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0041】
図1に示すように、検出用カートリッジ1は、例えば、3枚の樹脂製のベース基板11、12、13を、下からこの順で重ね、組み合わせて構成されている。典型的な例を挙げると、各基板の大きさは、平面形状が35mm×50mmであり、一枚の基板の厚さは1mmであり、重ね合わせた状態で約4mmとなる。
【0042】
基板11、12の間には、アニオン性又はカチオン性物質を吸着する吸着担体(図示せず)、アニオン性又はカチオン性物質を検出するための作用極(図示せず)、この作用極に対応する対極(図示せず)及び参照極(図示せず)がそれぞれ配置される。基板11には、これら電極を所定位置に収めるための凹部31と、吸着担体を収容する凹部32とが形成されている。吸着担体は、被検出物質を一時的に貯留する貯留部を構成する。
【0043】
例えば、カドミウム、鉛、水銀及び六価クロム(カチオン)測定用の作用極としては、板状カーボン電極(例えば、サイズ3.5mm×8.4mm×0.5mm)を用いることができる。また、ガラス基材上にクロム層を介して金層が形成された金電極(例えば、サイズ3.5mm×8.4mm×0.5mm)を用ることにより、砒素及びセレン(アニオン)測定用の作用極を構成することができる。対極には、作用極と同様の板状カーボン電極(例えば、サイズ3.5mm×8.4mm×0.5mm)を使用し、参照極には、アルミナ基材上に銀ペースト(日本アチソン社製6022)が塗布された電極(例えば、サイズ3.5mm×8.4mm×0.5mm)を使用することができる。
【0044】
電極の大きさは全て統一されており、電極表面と基板11の表面が同一面になるように、それぞれの電極が基板11の凹部31にそれぞれ収められている。基板11と基板12の間、基板12と基板13の間は、液密に固定されている。電極の表面は、例えば、粘着テープ等によってマスクされ、粘着テープの電極に対応する箇所に所定の面積の孔を開口することにより、各電極が露出される。
【0045】
図1及び図2では、説明の便宜上、カチオン又はアニオン測定用の電極は、いずれか一系統しか示していないが、双方を搭載する場合には、二系統の電極を同様にカートリッジの全面に搭載される。
【0046】
基板11には、溶液、試薬等を導入/排出するための複数のポート33、34、35、36、38等が形成されている。
【0047】
基板12には、被検液、溶離液等の導入のための貫通孔211、27、貯留部を構成する貫通孔222、電極の列に重なる溝23、その溝23内に連結する貫通孔24、廃液溜に連結する貫通孔26等が形成され、これらの貫通孔等は、基板12が基板11に重ねられたとき、基板11の貫通孔や凹部等に重なる位置に形成されている。
【0048】
基板13は、基板13が基板12に重ねられたとき、基板12の貫通孔211と接続し、貯留部の上部を受ける凹部42に連なる溝が形成されている。
【0049】
基板13には図示していないが、参照電極活性化液としての電解質溶液を入れた電解質溶液パック等を収める電解質溶液室等となる溝等が形成されていてもよい。
【0050】
このような構成により、図2に示すように、矢印Cから溶液を導入することができ、貯留部及び検出機構を経て(つまり、吸着担体32aからポート38、ポート34、検出区画23aを経て)、検出用カートリッジ外に廃液することができる。
【0051】
なお、各基板の構成によって、検出用カートリッジは、図2等に示すように、貯留部−検出機構間のポート付近等が外部流路(カートリッジ内でなく、処理ユニット側に設けられた流路)で形成されており、処理ユニット内の流路を経由して、再びカートリッジ内に戻るような構成が採用されていてもよい。
【0052】
上述した検出用カートリッジは、3枚基板のカートリッジについて詳述したが、検出用カートリッジの構成は、上述したポート、流路、貯留部及び検出機構等を備えるものであれば、1枚基板、2枚基板、4枚基板(例えば、図7参照)、5枚以上の基板で構成されるものであってもよい。
【0053】
例えば、4枚基板の検出用カートリッジ70は、図7に示すように、4枚の樹脂基板が貼り合せられて構成されており、各基板82、83、84、85には、ポート71、72、73、74、75、流路76、77、78、79、貯留部を構成する吸着担体80、検出区画81に相当する溝、貫通孔等が形成され、矢印X−X’間及びY−Y’間等において、それぞれ被検液、溶離液等が導入されるように構成されている。
【0054】
このカートリッジ式検出装置における処理ユニットは、図3に示すように、ケーシング20内に収められた演算処理装置21と、溶液供給部22とを備える。溶液供給部22は、溶液タンク54、55、56を収めた溶液カセット50と、基板11に形成されたポートを切り換えるためのバルブ機構51と、ポンプ52とを備える。溶液カセット50は、ケーシング20に嵌め込まれる構造であり、バルブ機構51とポンプ52は、図3では図示の便宜上ケーシング20の外に示してあるが、ケーシング20内に配置される。
【0055】
バルブ機構51は、例えば、5方向バルブ53aと4方向バルブ53bとを含み、5方向バルブ53aの流入側は、ポンプ52及び4方向バルブ53bを介して溶液タンク54、55、56に接続されている。5方向バルブ53aの流出側は、検出カートリッジに接続するためのカートリッジホルダ61に接続される。例えば、基板11には複数のポートが形成されており、5方向バルブ53aは、これらのポートの切り換えを行う。
【0056】
4方向バルブ53bは、溶液タンク54、55、56とポンプ52との間の接続を切り換えるためのものである。溶液タンク54、55、56にはアニオン性物質吸着担体用の溶離液、カチオン性物質吸着担体用の溶離液(電解質溶液と兼用)及び洗浄水等がそれぞれ収められており、4方向バルブ53bによって、ポンプ52に送液される溶液が切り換えられる。なお、バルブ53aとカートリッジの各ポートに接続するカートリッジホルダ61はプラスチック基材上に設けられた溝によって配管が形成されたものによって構成されていてもよい。タンク54〜56とバルブ53bとの間の接続も同様である。
【0057】
溶液タンクを収める溶液カセット50は、処理ユニット2のケーシング20に対し着脱できる構造となっており、各タンクに貯蔵する溶液が不足した際には、溶液タンクを取り外し、溶液を補充することができる。溶液タンク56と蓋57は着脱可能であり、ゴムリングにより溶液の漏れを完全にシールできる構造となっている。また蓋57の上部は、コネクタ構造により、カセット50の蓋58にワンタッチで結合できる構造となっている。
【0058】
さらに、処理ユニット2のケーシング20内に配置される演算処理装置21は、マイクロプロセッサ及び各種ドライバを搭載した電子基板66を備えており、処理ユニット2の上面67には、表示部と操作ボタンなどのユーザインタフェースが設けられている。処理ユニットの外面には、さらに検出用カートリッジ挿入ケース62が設けられる。この挿入ケース62は、開閉可能なヒンジ型の蓋として構成され、カートリッジが嵌め込まれるカートリッジホルダ61に対して開閉可能である。カートリッジホルダ61は、開閉可能な構造を有する。また、処理ユニット2は、電源コードを繋ぐ接続部64と、電源コードを繋がなくとも動作することができるバッテリー63と、外部と無線通信することができる通信機器65とを有する。
【0059】
処理ユニット内の演算処理ユニットは、例えば、図4のブロック図で示すように、マイクロコントローラから構成される制御部、A/Dコンバータや各種のブロックに示される構成コンポーネントを含む処理ユニット2により構成される。これらのコンポーネントは、いずれも周知のものを利用することができる。
【0060】
なお、処理ユニット、それに搭載される演算処理ユニット等の構成は、使用する検出用カートリッジの構成に対応するように、流路、ポートが確保されるとともに、それらの作動を実現するために、その構成を適宜変更することができる。
【0061】
上述したカートリッジ式検出装置に対応して、例えば、以下に示す流路A〜流路Dを構成し、それを用いて種々の物質の検出に応用することができる。
【0062】
添加流路A
この流路Aは、試薬を貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路として、注入ポート−貯留部間から、貯留部−検出機構間までの間に形成される。この液体流路を確保するために、例えば、図6(a)に示したように、注入ポート43又はポート36と、ポート38又はポート96を利用することができる。
【0063】
この流路Aは、貯留部132に被険液を通過させる前に、貯留部132に前処理をする場合に用いることができる。
【0064】
例えば、貯留部132としてアニオントラップフィルタを使用する場合、貯留部132に被険液を通過させる前に、貯留部132に含まれるフィルタを、試薬で活性化処理するために用いることができる。
【0065】
つまり、図6(a)において、排出ポート35、ポート33を閉じ、ポート36、ポート38を開いた状態にし、溶液状の試薬を、貯留部132の上流に存在するポート36から導入し、液体流路を経由し、貯留部132を通過させる。その後、貯留部132の下流に存在するポート38を開くことにより、そこから排出させることができる。
【0066】
これとは逆に、ポート38から試薬を供給し、ポート36から排出してもよい。このような形態は特に、貯留部132より上流の流路に試薬を残存させたくない場合に好適である。
【0067】
その後、注入ポート43又はポート36から被検液を通過させ、被検出物質を貯留部132に貯留させる。続いて、溶離液を、注入ポート43又はポート36から導入し、貯留部132を通過させる。これにより、被検出物質が溶離液に溶出する。被検出物質を含む溶離液は、液体流路に沿って、検出区画23aに到達し、例えば、検出用電極上を流れる。被検出物質を含む溶離液が連続して電極上を流れることにより、電極には、被検出物質の濃度情報に関連する電気信号が発生する。
【0068】
この流路Aにおいては、図6(a)に示すように、注入ポート43とポート36との間に試薬部91を形成してもよい。また、ポート38とポート96との間に試薬部95を形成してもよいし、あるいは、貯留部132とポート38との間に試薬部(図示せず)を配置してもよい。これにより、前処理を複数の試薬で行うことができる。例えば、ポート36から第1の試薬を導入し、次いで、注入ポート43から水を導入して試薬部91の試薬と混合して溶液状の試薬を調製し、貯留部132に導入する。さらに注入ポート43又はポート36から水等を導入して、貯留部132を洗浄し、ポート38から排出することができる。
【0069】
これとは逆に、貯留部132とポート38との間に試薬部を配置する(図示せず)か、ポート38とポート96との間に試薬部95が配置されている場合、ポート38から水を供給するか、ポート96から水を供給し、試薬部95で試薬を調製し、これを貯留部132に通し、ポート36から排出してもよい。
【0070】
このような添加流路を用いることにより、試薬タンクとしては水タンク又は水タンクとメタノールタンクだけで済むので、安全・簡便な装置とすることができる。
【0071】
さらに、例えば、貯留部132にふるい分け機能を与えようとする場合、図6(a)に示す流路を用いて、被検液と試薬(例えば、妨害物質のマスキング剤)とを混合した状態で、貯留部132に導入することができる。これにより、貯留部132において、被検出物質のみを貯留させ、検出に対する妨害物質を貯留部132から有効にカートリッジ外に排出することができる。
【0072】
この場合、図6(a)において、試薬部91に代えて混合部(例えば、図5(a)〜(c))を配置してもよい。
【0073】
さらに、例えば、貯留部132の上流でろ過操作を行う場合、図6(a)に示す流路Aにおいて、試薬部91に代えてろ過部を配置する。ろ過部として、土壌汚染防止法の規定による0.45μmのメンブレンフィルタ等を利用することができる。これにより、例えば、土壌抽出液からなる被険液をカートリッジに注入する代わりに、土壌自体を検出用カートリッジに導入し、注入ポート43から水又は抽出用の試薬を供給し、貯留部132に導入することにより、土壌の抽出を簡便に行い、土壌の汚染物質の分析を同時に行うことができる。
【0074】
(測定例1)
以下に、流路Aを利用して、被検出物質を測定する方法を説明する。
【0075】
上述したカートリッジ式検出装置を準備し、検出用カートリッジにおける流路Aを、例えば、図6(a)に示したように、注入ポート43又はポート36と、ポート38又はポート96により確保する。
【0076】
貯留部132としてアニオントラップフィルタ(3M社製「エムポア(登録商標)ディスクAnion-SR」)を使用した。作用極は、金電極、対極は、カーボン電極、参照極としてはAg/AgCl電極を用いた。
【0077】
このフィルタは、貯留部に被険液を通過させる前に、1M−NaOH等の試薬で活性化処理する必要がある。そこで、水:メタノール(1:1)混合物、次いで、1M−NaOH、さらに純水による処理を行う等のように、前処理を複数の試薬で行うために、まず、検出用カートリッジを処理ユニットに装着した。
【0078】
次いで、バルブ機構を操作して、貯留部132の上流に存在するポート36から水及びメタノールを導入してフィルタを浸潤させ、続いて、注入ポート43から水を導入し、試薬部91に収容した固体状のNaOHと混合して溶液状の試薬を調製した。この試薬を貯留部132に導入し、貯留部を通過させ、貯留部の下流に存在するポート38から排出させた。この際の試薬は、貯留部132内のフィルタを浸潤させるために50μl程度とした。
【0079】
さらに、注入ポート43から水を導入して、貯留部132を洗浄した。
【0080】
次に、注入ポート36から被検液10mlを注入し、アニオン性物質吸着担体を通過してポート38から排出させる。このとき、測定対象の砒素及びセレンは、アニオン性物質吸着担体に吸着により補足され、排出される溶液中には含まれない。
【0081】
続いて、検出用カートリッジ内の参照電極用の塩化銀形成のための塩化カリウム溶液を参照電極室に満たすため、バルブ機構が操作されて、排出ポート33から塩化カリウムを注入する。これにより、塩化カリウムは、参照電極の表面に銀/塩化銀電極が形成される。
【0082】
次いで、処理ユニット2上の測定開始ボタンを押し、測定をスタートさせると、砒素・セレン測定用溶離液(=1M硫酸;pH=約2)が注入ポート36から一定の流速で注入される。この溶離液は、吸着担体を通って流れ、さらに電極が配置された検出区画123aに沿って流れ、排出ポート35から系外に排出される。溶離液が吸着担体を通過すると吸着担体に捕捉されていた砒素及びセレンが離脱して溶離液中に移動し、溶離液の流れに伴って電極近傍に達する。そして、作用極に砒素及びセレンを析出するための電位(−0.4V)を印加する。電極近傍では砒素及びセレンの還元反応が起こり、作用極上に析出する。溶離液の流入及び析出電位の印加は捕捉された砒素及びセレンが脱着し尽くすまで行う。50μl/分の流速で300μl析出させれば砒素及びセレンの溶離は殆ど完了するので、析出時間は6分程度に設定する。6分経過後に電位の挿引を開始する。挿引の条件は以下の通りである。
【0083】
挿引の方式:LSV(電位の掃引の際に一定周波数を印加しない方式)
析出電位:−0.4V
析出時間:6分
掃引速度:0.2V/s
掃引開始電位:−0.4V
掃引終了電位:1.2V
これらの制御は、処理ユニット2内の手段によって、プログラム通りに実行される。
【0084】
上記の操作を行った際の電位−電流曲線を図9に示す。ここで観察されるピークの面積は、析出時間中に作用電極上に析出した重金属が、電位の上昇によって再溶解する際に流れた電流であり、溶解した物質量に対応する。図9では、砒素、セレンの濃度を代えて上記の測定を行った場合の電位−電流曲線を示している。これにより、砒素、セレンの測定操作が完了する。
【0085】
(測定例2)
図6(a)に示した流路の変形例として図6(b)に示す流路を用いる。この流路は、注入ポート43、ポート36及び混合部92が、貯留部132の上流において、この順に配置されている。
【0086】
まず、注入ポート43から、被検液として、10ppbのCd、10ppbのPb、700ppbのCuを含有する混合溶液10mlを注入するとともに、ポート36から、1.76μMの5,10,15,20-テトラキス(N-メチルピリジニウム-4-イル)-21H,23H-ポルフィリン,テトラキス(p-トルエンスルホン酸塩)、0.2mMのアスコルビン酸及び1.0mMのアスコルビン酸ナトリウムからなるマスキング剤溶液を添加し、混合部で混合し、貯留部132に通した。これにより、溶液中のカチオン成分であるCd及びPbが貯留部にトラップされ、ポルフィリンと銅との反応物及び未反応のポリフィリンを、ポート38から排出することができる。
【0087】
ここで、検出用カートリッジは、500×300×4mmの大きさであり、貯留部として直径60mmにカットした3M社製「エムポア(登録商標)ディスクCation-SR」を用いた。作用電極及び対向電極は三菱鉛筆社製PFCE、参照電極はAg/AgCl電極を用いた。
【0088】
次に、1.6MのNaCl、10mMのクエン酸一水和物を含有する溶離液(pH=2.5)を、ポート36から、流速50μl/分で4分間に渡って導入した。これにより、貯留部132にトラップされたCd及びPbが溶離液中に移動して、検出区画23a(電極区画)に到達し、排出ポート35から排出される。この間、−1.0Vの電圧を作用電極に印加することにより、検出区画(電極区画)を通過するCd及びPbを電極表面に析出させた。その後、掃引速度0.125V/秒、周波数50Hz、ステップ電位2.5mVで0.6Vまで掃引することにより、Cd及びPbがそれら化学種に特有の電圧に達した際にイオン化して溶液に移行した。この際の電圧−電流曲線を測定した(アノーディック・スクエアウェーブボルタメトリによる分析)。
【0089】
上述した測定例において、Cd及びPbの分析が正確に行われていることを確認するため、参考例として、Cuを添加せず、Cd及びPbのみの混合溶液を被険液として用いたこと以外は上記と同様の方法で、Cd及びPbを分析した。また、マスキング剤を用いない意外は、上記と同様の方法でCd及びPbを分析した。これらの結果、図10に示すように、Cd及びPbの分析が正確に行われていることが確認された。なお、図10において、(a)は、マスキング剤を用いて測定した結果、(b)は、Cuを添加せずに測定した結果、(c)は、マスキング剤を用いず、Cuが含有されたまま測定した結果を示す。
【0090】
添加流路B
この流路Bは、試薬を貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路として、注入ポート−貯留部間から、検出機構下流までの間に形成される。この液体流路を確保するために、図6(a)において、注入ポート43又はポート36と、排出ポート35又はポート33を利用する。
【0091】
例えば、貯留部132に被検出物質を貯留させた後、溶離液と試薬との混合溶液を貯留部132および検出機構23aに供給する場合、図6(a)に示すように、溶液状の試薬を貯留部132の上流に存在する注入ポート43又はポート36から導入し、貯留部132、検出区画23aを通過させ、検出区画23aの下流に存在する排出ポート35から排出させることができる。
【0092】
このような処理が必要/有効な例としては、マスキング剤(貯留部によるふるい分け効果を期待しない場合)、検出区画23aのために必要な試薬であって貯留部132を通過しても差し支えのないものを添加する場合が挙げられる。検出区画23aのために必要な試薬の例としては、Cr分析用のジフェニルカルバジドが挙げられる(ジフェニルカルバジドを用いてCr分析を行う場合の検出機構としては、光学分析、電気化学分析ともに可能である)。
【0093】
この添加流路Bの形態として、溶離液と試薬の混合溶液を試薬タンク内に格納しておき、注入ポート43又はポート36より供給する形態、混合溶液としては長期保存に適さない等の場合において、装置内では溶離液と試薬の溶液を別々に格納しておき、装置内の混合部(図示せず)で混合し、混合した溶液がカートリッジ内の注入ポート43又はポート36から供給される形態、注入ポート43からカートリッジ内に溶離液を導入して、試薬部91内で試薬と混合し、貯留部132に供給される形態等が挙げられる。
【0094】
添加機構C
この流路Cは、試薬を貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路として、貯留部−検出機構間から、検出機構下流までの間に形成されている。この液体流路を確保するために、図6(a)において、ポート38又はポート96と、排出ポート35又はポート33を利用する。
【0095】
例えば、検出区画23aに溶離液を通過させる前に、検出区画23aを前処理する場合、具体的には、検出区画23aが電気化学分析の場合、検出区画23a内に配置される電極のチェック、検出区画23a(の一部)としてHPLCカラムを用いる場合のカラム通液(前処理)等に利用することができる。
【0096】
このような場合には、図6(a)において、試薬を貯留部132と検出区画23aとの間のポート38から導入し、検出区画23aを通過させ、検出区画23aの下流に存在する排出ポート35から排出することができる。また、ポート96から水を導入し、その水が試薬部95を経由することにより試薬溶液となり、それを検出区画23aに送液してもよい。さらに、検出区画23aの下流にある排出ポート33から検出区画23aに試薬を供給してもよいし、排出ポート33から導入された水が試薬部93を経由して試薬溶液となり、それを検出区画23aに送液してもよい。
【0097】
添加機構D
この流路Dでは、さらに、貯留部−検出機構間に混合部を備え、試薬を貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路として、貯留部−混合部間から、検出機構下流までの間に形成される。この液体流路を確保するために、図6(c)に示したように、ポート38又はポート96と、排出ポート35を利用することができる。
【0098】
例えば、貯留部132に被検出物質を貯留させた後、試薬を貯留部132に通さずに、溶離液と試薬との混合溶液を検出区画23aに導入する場合、図6(c)において、溶液状の試薬を、貯留部132と検出区画23aとの間に存在するポート38又はポート96から導入する。そして、導入した試薬を、これらポート38又はポート96と検出区画23aとの間に形成された混合部92により、貯留部132からの溶離液と混合する。つまり、溶離液の送液と同時にポート38又はポート96から試薬を導入し(ポート96から水を供給し、試薬部95を通過後に試薬溶液とする場合を含む)、混合部92で混合して、検出区画23aを通過させ、検出区画23aの下流に存在する排出ポート35から排出させる。
【0099】
この場合、4−(2−ピリジアルアゾ)レゾルシノール(PAR)等の発色試薬、検出機構のpH調整用試薬、貯留部132からの溶離を促す条件と検出機構における検出を最適化する条件とが異なる場合に用いる調整剤等が挙げられる。溶離と検出との条件が異なる例としてAs検出におけるpHの例が挙げられる。Asの電気化学分析はpH=1程度に保つことが好ましいが、この条件では貯留部132からのAs溶離が起こらないため、貯留部132通過後の溶液の条件を変える場合に有効である。
【0100】
なお、混合部92は、上述したように、ポート38又はポート96と検出区画23aとの間のカートリッジに設けてもよいが、例えば、図6(d)及び図8に示すように、貯留部132の下流であって、検出区画23aの上流において、ポンプ97及びバルブ98等を利用して、ポート94から導入された試薬と、貯留部132通過後の溶離液とを、検出用カートリッジ90外に設けられた混合部92に導入して混合し、ポート34を介して、検出区画23aに導入されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のカートリッジ式検出装置は、所定の流路を確保することができるものであれば、この装置自体の構成にかかわらず、前処理剤等を、いわゆるインライン(装置内で又は装置内のラインを利用して)で供給するために、いずれの態様の検出装置、検出方法においても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一実施形態の検出用カートリッジを分解して示す斜視図である。
【図2】検出用カートリッジ内の被検液の流れを示す斜視図である。
【図3】処理ユニットの構造を分解して示す斜視図である。
【図4】処理ユニット内部の電気系統のブロック図である。
【図5】本発明のカートリッジ式検出装置内に形成される混合部を示す断面図である。
【図6】本発明のカートリッジ式検出装置に形成される流路を示す概略図である。
【図7】本発明のカートリッジ式検出装置に用いられる検出用カートリッジの別の実施形態を示す斜視図である。
【図8】混合部を備えた検出用カートリッジの概略斜視図である。
【図9】砒素、セレン測定により得られた電位−電圧曲線を示すグラフである。
【図10】マスキング剤を併用して場合のカドミウム、鉛測定により得られた電位−電圧曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0103】
1、70、90 検出用カートリッジ
2 処理ユニット
11、12、13 ベース基板
20 ケーシング
21 演算処理装置
22 溶離液供給部
23 溝
23a、81 検出区画
211、222、24、25、26、27 貫通孔
31、32、42 凹部
32a、80 吸着担体
33、34、36、37、38、41、71、72、73、74、75、94、96、99 ポート
35 排出ポート
41a 液体流路
43 注入ポート
54、55、56 溶液タンク
50 溶液カセット
51 バルブ機構
52 ポンプ
53a 5方向バルブ
53b 4方向バルブ
57、58 蓋
66 電子基板
67 処理ユニットの上面
62 検出用カートリッジ挿入ケース
61 カートリッジホルダ
64 接続部
63 バッテリー
65 通信機器
76、77、78、79 流路
82、83、84、85 基板
91、93、95 試薬部
92 混合部
97 ポンプ
98 バルブ
132 貯留部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質を注入する注入ポートと、前記被検出物質を含む被検液を通す流路と、前記被検出物質を一時的に貯留する貯留部と、検出機構の少なくとも一部と、前記貯留部及び/又は検出機構に通じる液体流路と、前記検出機構から前記被検出物質を排出する排出ポートとを備える検出用カートリッジ、及び
該検出用カートリッジに接続可能であり、被検出物質を分析する処理ユニットを組み合わせてなるカートリッジ式検出装置であって、
前記注入ポートから排出ポートまでの間において、
前記被検液を前記貯留部に通し、前記検出用カートリッジ外に排出させる液体流路と、
溶離液を前記貯留部に通し、該貯留部から溶離した被検出物質を含む溶離液を検出機構に送る液体流路と、
試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路とが切り換え可能に構成されていることを特徴とするカートリッジ式検出装置。
【請求項2】
試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路は、注入ポート−貯留部間から、前記貯留部−検出機構間までの間に形成されてなる請求項1に記載のカートリッジ式検出装置。
【請求項3】
試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路は、注入ポート−貯留部間から、前記検出機構下流までの間に形成されてなる請求項1に記載のカートリッジ式検出装置。
【請求項4】
試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路は、貯留部−検出機構間から、前記検出機構下流までの間に形成されてなる請求項1に記載のカートリッジ式検出装置。
【請求項5】
さらに、貯留部−検出機構間に、混合部を備え、試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路は、前記貯留部−混合部間から、前記検出機構下流までの間に形成されてなる請求項1に記載のカートリッジ式検出装置。
【請求項6】
さらに、注入ポートと貯留部との間に、ろ過部が形成されてなる請求項1〜5のいずれか1つに記載のカートリッジ式検出装置。
【請求項7】
さらに、試薬を前記貯留部及び/又は検出機構に送る液体流路内に、前記試薬を保持する試薬部が形成されてなる請求項1〜6のいずれか1つに記載のカートリッジ式検出装置
【請求項8】
処理ユニットは、さらに、送液ポンプと、溶離液タンク及び試薬調製用タンクとを備える請求項1〜7のいずれか1つに記載のカートリッジ式検出装置。
【請求項9】
検出用カートリッジは、注入ポートから排出ポートまでの間に1又は複数のポートをさらに備え、処理ユニットは、さらに、前記注入ポートから排出ポートまでの間のポートの少なくとも1つに送液ポンプを切換接続するバルブ機構を備えてなる請求項1〜8のいずれか1つに記載のカートリッジ式検出装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−333706(P2007−333706A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169362(P2006−169362)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】