説明

カード抑制剤、肉用食感改良剤、肉用歩留り改良剤、魚肉缶詰、獣鳥肉類加工食品およびそれらの製造方法

【課題】カードの生成を抑制するカード抑制剤、肉をパサつきにくくする肉用食感改良剤、歩留りを向上させる肉用歩留り改良剤、それらが改良された魚肉缶詰、獣鳥肉類加工食品およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ剤と緩衝剤と増粘剤とを含む。アルカリ剤はリン酸三ナトリウム、緩衝剤は乳酸ナトリウム、増粘剤はデンプンであることが好ましい。魚肉缶詰は、缶本体の内部にカード抑制剤、肉用食感改良剤または肉用歩留り改良剤を含む溶液が充填されている。獣鳥肉類加工食品は、肉用食感改良剤または肉用歩留り改良剤を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード抑制剤、肉用食感改良剤、肉用歩留り改良剤、魚肉缶詰、獣鳥肉類加工食品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ノルウェー産のサバに比べて日本の近海で獲れるゴマサバは、缶詰にしたとき、パサついた食感となり、ジューシー感が乏しい。また、歩留りも良くない。ノルウェー産のサバの方が日本近海のゴマサバに比べて脂肪分が多く含まれるためである。このため、日本近海のゴマサバは用途が限られていた。
【0003】
また、従来、サバなどの魚肉の缶詰では、カードが生成しやすいという問題があった。カードとは、魚肉から缶詰内に溶出した可溶性蛋白が、缶詰を殺菌処理などにより加熱したときに、凝固して白色の豆腐状になったものである。一般に、新鮮な原料は、鮮度が悪いものに比べpHが高く、可溶性蛋白を溶出しやすい。このため、新鮮な原料を用いた方が生成されるカードが多くなるが、原料には新鮮なものが好まれるというジレンマがあった。
【0004】
従来、品質を保持するために魚肉の缶詰に製剤を使用するものとして、以下の肉をリン酸塩を含むアルカリ性溶液中に浸漬し、その以下の肉を詰めた缶詰に酸性水溶液を注入する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−212740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法はいかの黒変を防止するものであり、従来、カードの生成を抑制する製剤や、肉をパサつきにくくする製剤はなかった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、カードの生成を抑制するカード抑制剤、肉をパサつきにくくする肉用食感改良剤、歩留りを向上させる肉用歩留り改良剤、それらが改良された魚肉缶詰、獣鳥肉類加工食品およびそれらの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るカード抑制剤は、アルカリ剤と緩衝剤とを含むことを、特徴とする。
【0009】
本発明に係るカード抑制剤は、アルカリ剤を含むため、魚肉に添加されたとき、魚肉のpHをアルカリ側に遷移させて蛋白を変性させることができる。このため、缶詰に使用されたとき、魚肉からの可溶性蛋白の溶出を抑えて、カードの生成を抑制することができる。また、緩衝剤により保水性が得られるため、魚肉を適度に軟らかくして、ほぐれやすくすることができ、魚肉の身質改善効果が得られる。
【0010】
アルカリ剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、それらの2以上の組合せを用いることができる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸三ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、それらの2以上の組合せを用いることができる。
【0011】
本発明に係るカード抑制剤は、アルカリ剤と緩衝剤と増粘剤とを含むことが好ましい。この場合、増粘剤により、さらに保水性が高められ、粘度も得られるため、魚肉にオイリー感を付与することができ、魚肉をパサつきにくくすることができる。増粘剤としては、例えば、デンプンや増粘多糖類を用いることができる。
本発明に係るカード抑制剤がアルカリ剤と緩衝剤と増粘剤とを含む場合、アルカリ剤と緩衝剤と増粘剤との配合比率は5:1:4 乃至 5:4:1 が好ましい。
【0012】
本発明に係るカード抑制剤で、前記アルカリ剤はリン酸三ナトリウムであることが好ましい。また、本発明に係るカード抑制剤で、前記緩衝剤は乳酸ナトリウムであることが好ましい。本発明に係るカード抑制剤で、前記増粘剤はデンプンであることが好ましい。これらの場合、特に、カード抑制効果および魚肉の身質改善効果が高く、魚肉をパサつきにくくする効果も高い。
本発明に係るカード抑制剤がリン酸三ナトリウムと乳酸ナトリウムとデンプンとを含む場合、アルカリ剤と緩衝剤と増粘剤との配合比率は5:1:4 乃至 5:4:1が好ましい。
【0013】
本発明に係る肉用食感改良剤は、リン酸三ナトリウムと乳酸ナトリウムとデンプンとを含むことを、特徴とする。
【0014】
本発明に係る肉用食感改良剤は、緩衝剤の乳酸ナトリウムにより保水性が得られるため、肉を適度に軟らかくして、ほぐれやすくすることができ、肉の身質改善効果が得られる。増粘剤のデンプンにより、さらに保水性が高められ、粘度も得られるため、肉にオイリー感を付与することができ、肉をパサつきにくくすることができる。
本発明に係る肉用食感改良剤のアルカリ剤と緩衝剤と増粘剤との配合比率は 5: 1:4乃至 5:4:1 が好ましい。
【0015】
本発明に係る肉用歩留り改良剤は、リン酸三ナトリウムと乳酸ナトリウムとデンプンとを含むことを、特徴とする。
【0016】
本発明に係る肉用歩留り改良剤は、緩衝剤の乳酸ナトリウムにより保水性が得られるため、肉を適度に軟らかくして、ほぐれやすくすることができ、肉の身質改善効果が得られる。増粘剤のデンプンにより、さらに保水性が高められ、粘度も得られるため、肉にオイリー感を付与することができ、肉をパサつきにくくすることができる。このため、肉を加熱調理すると、軟らかく、ジューシーな食感が得られる。また、保水性の向上により、浸漬処理および加熱処理での原料に対する歩留まりを向上させることができる。
本発明に係る肉用歩留り改良剤のアルカリ剤と緩衝剤と増粘剤との配合比率は 5: 1:4乃至 5:4:1が好ましい。
【0017】
本発明に係る魚肉缶詰は、缶本体の内部に魚肉を密封して成る魚肉缶詰であって、本発明に係るカード抑制剤、本発明に係る肉用食感改良剤または本発明に係る肉用歩留り改良剤を含む溶液が前記缶本体の内部に充填されていることを、特徴とする。また、本発明に係る魚肉缶詰の製造方法は、缶詰の缶本体に魚肉と本発明に係るカード抑制剤、本発明に係る肉用食感改良剤または本発明に係る肉用歩留り改良剤を含む溶液とを充填し、脱気、密封および殺菌加熱処理を行うことを、特徴とする。
【0018】
本発明に係る魚肉缶詰および魚肉缶詰の製造方法は、缶本体の内部に充填される溶液が、カード抑制剤、肉用食感改良剤または肉用歩留り改良剤を含むため、カードの生成を抑制することができ、魚肉の身質改善効果が得られ、魚肉をパサつきにくくすることができる。また、リン酸三ナトリウムを含む場合には、キレート効果および蛋白変質効果により、魚肉の臭いのマスキング効果も得られる。
【0019】
本発明に係る魚肉缶詰で、前記溶液は前記カード抑制剤、肉用食感改良剤または肉用歩留り改良剤を前記魚肉の質量に対し1.3〜1.5質量%含むことが好ましい。この場合、特に、カード抑制効果および魚肉の身質改善効果が高く、魚肉をパサつきにくくする効果も高い。
【0020】
本発明に係る獣鳥肉類加工食品は、本発明に係る肉用食感改良剤または本発明に係る肉用歩留り改良剤を含有することを、特徴とする。また、本発明に係る獣鳥肉類加工食品の製造方法は、獣鳥肉類に本発明に係る肉用食感改良剤または本発明に係る肉用歩留り改良剤を含有させた後、その獣鳥肉類を加熱することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る獣鳥肉類加工食品および獣鳥肉類加工食品の製造方法は、獣鳥肉類に肉用食感改良剤または肉用歩留り改良剤を含有するため、獣鳥肉類の身質改善効果が得られ、獣鳥肉類をパサつきにくくすることができる。このため、獣鳥肉類を加熱調理すると、軟らかく、ジューシーな食感が得られる。また、保水性の向上により、浸漬処理および加熱処理での原料に対する歩留まりを向上させることができる。リン酸三ナトリウムを含む場合には、キレート効果および蛋白変質効果により、獣鳥肉類の臭いのマスキング効果が得られる。なお、獣鳥肉類は、牛肉、豚肉、鶏肉、その他、哺乳類のいかなる食肉であってもよい。
【0022】
本発明に係る獣鳥肉類加工食品は、本発明に係る肉用食感改良剤または本発明に係る肉用歩留り改良剤を1.0〜3.0質量%含有することが好ましい。また、本発明に係る獣鳥肉類加工食品の製造方法は、本発明に係る肉用食感改良剤または本発明に係る肉用歩留り改良剤を獣鳥肉類に対して1.0〜3.0質量%含有させた後、その獣鳥肉類を加熱することをが好ましい。この場合、特に、獣鳥肉類の身質改善効果が高く、獣鳥肉類をパサつきにくくする効果も高い。
【0023】
なお、本発明に係るカード抑制剤、肉用食感改良剤、肉用歩留り改良剤、魚肉缶詰および獣鳥肉類加工食品は、二酸化ケイ素、食塩、調味料等を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カードの生成を抑制するカード抑制剤、肉をパサつきにくくする肉用食感改良剤、歩留りを向上させる肉用歩留り改良剤、それらが改良された魚肉缶詰、獣鳥肉類加工食品およびそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
カード抑制剤について、カード抑制効果および魚肉の身質改善効果を確認し、最適な材料およびその比率を検討するために、以下の試験を行った。
まず、以下の手順で試験用の試料を作成した。冷凍のサバ肉を原料とし、その原料を解凍し、適当な大きさにカットして、12%濃度の塩水に3分間浸漬させる。浸漬した原料をレトルトパックに入れ、そのレトルトパック内に試験溶液を充填し、レトルトパック内を脱気して密封した後、レトルトパックに対して115度の温度条件下で80分間の殺菌処理を行う。その後、表1の評価基準に従って、レトルトパック内のカードの生成状況、原料のサバ肉のほぐれやすさ、パサつき、生臭さ、アルカリ臭等について、評価を行った。
【0026】
【表1】

【0027】
[アルカリ剤によるカード抑制効果の試験]
試験溶液として、表2に示す7種類のアルカリ剤を、原料に対してそれぞれ0.5質量%、0.75質量%、1.0質量%、1.25質量%、1.5質量%含む溶液を作成し、試験を行った。
試験結果を表3乃至表7に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
表3乃至表7に示すように、試験の結果、試験溶液によりカードの生成を抑制することができることが確認された。これは、試験溶液がアルカリ剤を含むため、魚肉に添加されたとき、魚肉のpHをアルカリ側に遷移させて蛋白を変性させ、魚肉からの塩溶性蛋白の溶出を抑えるためである。また、試験結果の全体的な傾向として、特に、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)およびリン酸三ナトリウムのカード抑制効果が高いことが確認された。
【0035】
また、試験の結果、以下に示す傾向が認められた。(1)pHがアルカリ側(pH11以上)にあればカード抑制効果が得られる傾向がある。また、濃度が濃くなるにつれてカード抑制効果は大きくなる。(2)イオン強度よりもpHの方がカード抑制効果に関係がある。(3)アルカリ剤として炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、炭酸水素ナトリウム(重曹)を使用すると気泡(二酸化炭素)が発生する。(4)貝殻焼成カルシウム(貝Ca)はpHがアルカリ側でカード抑制効果はあるものの、オリが出来ている。(5)水酸化ナトリウム(水酸化Na)は添加量が多くなるほど注液が黒くなる。これは、強アルカリのため、魚の皮が溶けていると考えられる。(6)リン酸三ナトリウム(リン酸3Na)とリン酸三カリウム(リン酸3K)とを比較すると注液の褐変度合いに若干の違いが出る。リン酸三カリウム(リン酸3K)の方が、若干褐変が少ない傾向がある。
【0036】
[緩衝剤によるカード抑制効果と魚肉の身質改善効果の試験]
試験用の製剤として、アルカリ剤を75質量%と、緩衝剤を25質量%とを含むものを作成した。アルカリ剤と緩衝剤との質量比は、3:1である。アルカリ剤としては、表3乃至表7の試験の結果から、カード抑制効果の高い炭酸ナトリウム(ソーダ灰)およびリン酸三ナトリウムの2種類を使用した。製剤として、その2種類のアルカリ剤と、表8に示す4種類の緩衝剤とを組み合わせて、全部で8種類を作成した。試験溶液として、原料に対して製剤を0.5質量%、0.75質量%、1.0質量%、1.25質量%、1.5質量%含む溶液を作成して、試験を行った。
試験結果を表9乃至表13に示す。
【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
【表10】

【0040】
【表11】

【0041】
【表12】

【0042】
【表13】

【0043】
表9乃至表13に示すように、試験の結果、緩衝剤は4種類とも魚肉の身質改善効果(「ほぐれ」の欄参照)が高いことが確認された。これは、緩衝剤により保水性が得られるため、魚肉を適度に軟らかくして、ほぐれやすくすることができるためである。特に、乳酸ナトリウム(乳酸Na)およびグルコン酸ナトリウム(グルコン酸Na)の身質改善効果が高いことが確認された。また、表10の製剤添加量0.75%のもので比較すると、グルコン酸ナトリウム(グルコン酸Na)よりも乳酸ナトリウム(乳酸Na)の方が肉の身質改善効果が高いことが確認された。
【0044】
また、試験の結果、以下に示す傾向が認められた。(1)pHがアルカリ側(pH11以上)にあればカード抑制効果が得られる傾向がある。また、濃度が高くなるにつれてカード抑制効果は大きくなる。(2)そのpH帯は11前後で、あまり高くなると魚の皮などの物性に影響する。(3)乳酸ナトリウム(乳酸Na)等の緩衝剤は、カード抑制効果に大きな影響を示さず、魚肉の身質改善に効果を発揮している。
【0045】
[増粘剤による魚肉の身質改善効果の試験]
試験用の製剤として、アルカリ剤を50質量%と、緩衝剤を17質量%と、増粘剤を33質量%とを含むものを作成した。また、比較のために、増粘剤を含まない、アルカリ剤を75質量%と、緩衝剤を25質量%とを含むものも作成した。なお、いずれの製剤も、アルカリ剤と緩衝剤との質量比は、3:1である。アルカリ剤および緩衝剤としては、表3乃至表7および表9乃至表13の試験の結果から、カード抑制効果および魚肉の身質改善効果の高い、リン酸三ナトリウム(リン酸3Na)および乳酸ナトリウム(乳酸Na)を使用した。また、増粘剤として、澱粉を使用した。
試験結果を表14に示す。
【0046】
【表14】

【0047】
表14に示すように、澱粉を使用することにより、生臭さが軽減される傾向が認められた。また、アルカリ臭の軽減や、オイリー感を付与して魚肉をパサつきにくくする効果も確認された。これは、増粘剤の澱粉により保水性が高められ、粘度も得られるためである。
【0048】
以上の試験結果から、カード抑制剤として、アルカリ剤50質量%と、緩衝剤17質量%と、増粘剤33質量%とを含むものが、カード抑制効果および魚肉の身質改善効果が高く、魚肉をパサつきにくくする効果も高いことが確認された。また、アルカリ剤としてリン酸三ナトリウム、緩衝剤として乳酸ナトリウム、増粘剤として澱粉を含むものが、特にそれらの効果が高いことが確認された。
【0049】
本発明の実施の形態のカード抑制剤、肉用食感改良剤および肉用歩留り改良剤は、リン酸三ナトリウム50質量%と、乳酸ナトリウム16.32質量%と、二酸化ケイ素0.68質量%と、増粘剤33質量%とを含んでいる。以下に、本発明の実施の形態のカード抑制剤を魚肉缶詰に利用した実施例、および本発明の実施の形態の肉用食感改良剤を獣鳥肉類加工食品に利用した実施例を示す。なお、本発明の実施の形態の肉用歩留り改良剤は、本発明の実施の形態の肉用食感改良剤と同じものであり、本発明の実施の形態の肉用食感改良剤と同様の作用および効果を有している。
【実施例1】
【0050】
[サバの水煮缶詰への利用]
サバの水煮缶詰を以下のようにして製造した。まず、冷凍された原料のサバの魚肉を解凍し、適当な大きさにカットする。そのサバの魚肉を12%濃度の塩水に3分間浸漬させる。浸漬したサバの魚肉を缶詰の缶本体に入れ、缶本体と原料との隙間にカード抑制剤を含む溶液を充填する。その溶液は、カード抑制剤を原料に対して1.5質量%の割合で含むよう調整されている。缶本体に対して95度の温度条件下で12分間の脱気処理を行い、缶本体を巻き締めにより密封する。その後、缶本体に対して115度の温度条件下で80分間の殺菌処理を行い、冷却する。なお、表15に示すように、比較のため、カード抑制剤を添加しないサバの水煮缶詰も製造した。
【0051】
【表15】

【0052】
缶詰内のサバの魚肉を取り出して比較した結果、カード抑制剤を添加したサバの水煮缶詰は、カード抑制剤を添加しないサバの水煮缶詰と比べて、カードの生成が抑制されている。これは、カード抑制剤のアルカリ剤により、サバの魚肉のpHをアルカリ側に遷移させて蛋白を変性させ、魚肉から缶詰内への塩溶性蛋白の溶出を抑えるためである。
【0053】
また、カード抑制剤を添加したサバの水煮缶詰の方が、オイリー感がありパサつきにくく、ほぐれやすい。これは、カード抑制剤の緩衝剤により保水性が得られるため、サバの魚肉を適度に軟らかくし、魚肉の身質改善効果が得られるためである。また、カード抑制剤の増粘剤により、さらに保水性が高められ、粘度も得られるためである。
【0054】
カード抑制剤を添加したサバの水煮缶詰の方が、サバの魚肉の臭いのマスキング効果が高い。これは、カード抑制剤のリン酸三ナトリウムによるキレート効果および蛋白変質効果によるものである。
【実施例2】
【0055】
[蒸し鶏への利用]
蒸し鶏の調理過程で、以下のようにして肉用食感改良剤を使用した。まず、原料の生の鶏肉に、原料に対して1.0質量%の割合で肉用食感改良剤を添加し、真空状態で40分間のタンブリングを行う。その鶏肉を冷蔵庫で一晩キュアリングした後、15分間蒸煮して、放冷する。なお、表16に示すように、比較のため、肉用食感改良剤を添加しない蒸し鶏も調理した。
【0056】
【表16】

【0057】
調理前後の歩留まりの測定、および官能検査を行った。
表17に示すように、肉用食感改良剤を添加した蒸し鶏は、肉用食感改良剤を添加しない蒸し鶏と比べて、浸漬処理および加熱処理での原料に対する歩留まりが高い。これは、肉用食感改良剤の緩衝剤および増粘剤により、保水性が向上するためである。
【0058】
【表17】

【0059】
また、図1に示すように、肉用食感改良剤を添加した蒸し鶏の方が、軟らかく、ジューシーな食感が得られ、ほぐしやすい。これは、肉用食感改良剤の緩衝剤により保水性が得られるためである。また、肉用食感改良剤の増粘剤によりさらに保水性が高められ、粘度も得られるため、肉にオイリー感を付与することができ、肉をパサつきにくくすることができるためである。なお、肉用食感改良剤を添加した蒸し鶏は、バンバンジー料理などに使用すると、ほぐしやすく、食べやすい。
【実施例3】
【0060】
[鶏唐揚げへの利用]
鶏の唐揚げの調理過程で、以下のようにして肉用食感改良剤を使用した。まず、原料の生の鶏肉をテンダリングしてカットする。原料に対して1.5質量%の割合で肉用食感改良剤を添加し、タンブリングを行う。タンブリング条件は、0.085Mpa、正転20分〜静置10分〜反転20分、12rpmである。その鶏肉を一晩エージングした後、衣を付け、170度の温度で3分3秒間、油ちょうする。その後、−15度で冷凍し、レンジアップする。なお、表18に示すように、比較のため、肉用食感改良剤を添加しない鶏唐揚げ、重合リン酸塩製剤を原料に対して0.5質量%の割合で添加した鶏唐揚げも調理した。
【0061】
【表18】

【0062】
調理前後の歩留まりの測定、および官能検査を行った。なお、官能検査のパネラーは、20名である。
表19および図2に示すように、肉用食感改良剤を添加した鶏の唐揚げは、肉用食感改良剤を添加しない鶏唐揚げ、および重合リン酸塩製剤を添加した鶏唐揚げと比べて、浸漬処理および加熱処理での原料に対する歩留まりが高い。これは、肉用食感改良剤の緩衝剤および増粘剤により、保水性が向上するためである。
【0063】
【表19】

【0064】
また、図3に示すように、肉用食感改良剤を添加した鶏唐揚げが、最も軟らかく、ジューシーな食感が得られ、唐揚げとして最も好まれる傾向がある。これは、肉用食感改良剤の緩衝剤により保水性が得られるためである。また、肉用食感改良剤の増粘剤によりさらに保水性が高められ、粘度も得られるため、肉にオイリー感を付与することができ、肉をパサつきにくくすることができるためである。なお、肉用食感改良剤を添加しない鶏唐揚げは、やや軟らかい食感だが、ジューシー感に欠け、あまり好まれない傾向がある。また、重合リン酸塩製剤を添加した鶏唐揚げでは、食感は軟らかいものの、ジューシー感および嗜好はどちらともいえない。
【実施例4】
【0065】
[冷凍ハンバーグへの利用]
ハンバーグの調理過程で、以下のようにして肉用食感改良剤を使用した。まず、表20に示す配合で材料を混合し、約90gずつに分けて成型する。それを急速凍結させ、オーブンで200度の温度で15分間、加熱調理する。なお、表20に示すように、ハンバーグは、肉用食感改良剤を添加しないもの、肉用食感改良剤を全体の0.5質量%(畜肉に対して1.0質量%)の割合で添加したもの、重合リン酸塩製剤を全体の0.5質量%(畜肉に対して1.0質量%)の割合で添加したものを調理した。
【0066】
【表20】

【0067】
調理前後の歩留まりの測定、および官能検査を行った。なお、官能検査のパネラーは、20名である。
表21および図4に示すように、肉用食感改良剤を添加したハンバーグは、肉用食感改良剤を添加しないハンバーグよりも加熱処理での原料に対する歩留まりが高くなっている。これは、肉用食感改良剤の緩衝剤および増粘剤により、保水性が向上するためである。
【0068】
【表21】

【0069】
また、図5に示すように、肉用食感改良剤を添加したハンバーグが、非常に軟らかい食感で、粗挽き感、ジューシー感もあり、ハンバーグとして最も好まれる傾向がある。これは、肉用食感改良剤の緩衝剤により保水性が得られるためである。また、肉用食感改良剤の増粘剤によりさらに保水性が高められ、粘度も得られるため、肉にオイリー感を付与することができ、肉をパサつきにくくすることができるためである。なお、肉用食感改良剤を添加しないハンバーグは、軟らかい食感で粗挽き感はあるが、ジューシー感に欠け、あまり好まれない傾向がある。また、重合リン酸塩製剤を添加したハンバーグは、ジューシー感はあるが、硬くて締まった食感で、粗挽き感がなく、好き嫌いが分かれる傾向がある。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態の肉用食感改良剤を蒸し鶏に使用したときの官能検査結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態の肉用食感改良剤を鶏唐揚げに使用したときの歩留まりの測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の肉用食感改良剤を鶏唐揚げに使用したときの官能検査結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の肉用食感改良剤を冷凍ハンバーグに使用したときの歩留まりの測定結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の肉用食感改良剤を冷凍ハンバーグに使用したときの官能検査結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤と緩衝剤とを含むことを、特徴とするカード抑制剤。
【請求項2】
アルカリ剤と緩衝剤と増粘剤とを含むことを、特徴とするカード抑制剤。
【請求項3】
前記アルカリ剤はリン酸三ナトリウムであることを、特徴とする請求項1または2記載のカード抑制剤。
【請求項4】
前記緩衝剤は乳酸ナトリウムであることを、特徴とする請求項1,2または3記載のカード抑制剤。
【請求項5】
前記増粘剤はデンプンであることを、特徴とする請求項1,2,3または4記載のカード抑制剤。
【請求項6】
リン酸三ナトリウムと乳酸ナトリウムとデンプンとを含むことを、特徴とする肉用食感改良剤。
【請求項7】
リン酸三ナトリウムと乳酸ナトリウムとデンプンとを含むことを、特徴とする肉用歩留り改良剤。
【請求項8】
缶本体の内部に魚肉を密封して成る魚肉缶詰であって、
請求項1乃至5のいずれかに記載のカード抑制剤、請求項6記載の肉用食感改良剤または請求項7記載の肉用歩留り改良剤を含む溶液が前記缶本体の内部に充填されていることを、
特徴とする魚肉缶詰。
【請求項9】
前記溶液は前記カード抑制剤、肉用食感改良剤または肉用歩留り改良剤を前記魚肉の質量に対し1.3〜1.5質量%含むことを、特徴とする請求項8記載の魚肉缶詰。
【請求項10】
缶詰の缶本体に魚肉と請求項1乃至5のいずれかに記載のカード抑制剤、請求項6記載の肉用食感改良剤または請求項7記載の肉用歩留り改良剤を含む溶液とを充填し、脱気、密封および殺菌加熱処理を行うことを、特徴とする魚肉缶詰の製造方法。
【請求項11】
請求項6記載の肉用食感改良剤または請求項7記載の肉用歩留り改良剤を含有することを、特徴とする獣鳥肉類加工食品。
【請求項12】
請求項6記載の肉用食感改良剤または請求項7記載の肉用歩留り改良剤を1.0〜3.0質量%含有することを、特徴とする獣鳥肉類加工食品。
【請求項13】
獣鳥肉類に請求項6記載の肉用食感改良剤または請求項7記載の肉用歩留り改良剤を含有させた後、その獣鳥肉類を加熱することを特徴とする獣鳥肉類加工食品の製造方法。
【請求項14】
請求項6記載の肉用食感改良剤または請求項7記載の肉用歩留り改良剤を獣鳥肉類に対して1.0〜3.0質量%含有させた後、その獣鳥肉類を加熱することを特徴とする獣鳥肉類加工食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61059(P2007−61059A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254279(P2005−254279)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(591219566)青葉化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】