説明

カーボンナノチューブの製造方法及びカーボンナノチューブ成長用基材

【課題】成長させるカーボンナノチューブの長尺化を図り易いカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物を生成させ、分解混合物を触媒粒子55に接触させて、分解混合物中の原料炭素成分により触媒粒子55からカーボンナノチューブ57を成長させる製造方法であり、触媒粒子55の活性低下成分を固定化するための固定化材料54を、触媒粒子55の配置領域に配置し、分解混合物を固定化材料54と触媒粒子55とに接触させて分解混合物中の活性低下成分を固定化材料54に固定化しつつ、カーボンナノチューブ57を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させることで触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させる製造方法と、その製造方法に使用可能なカーボンナノチューブ成長用基材とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブの製造方法として、適宜な条件下で、カーボンナノチューブを構成する炭素の供給原となる原料炭素成分を微細な触媒粒子に接触させることで、触媒粒子を基点にしてカーボンナノチューブを成長させる方法が知られている。
【0003】
例えば熱CVD法では、基材上に触媒粒子を分散配置しておき、アルコール等の原料物質を熱分解して原料炭素成分を含む分解混合物を生成させると共に触媒粒子に接触させることで、各触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させている。
【0004】
このような方法では、得られるカーボンナノチューブのグラフェンシートの層数やチューブ直径等が触媒粒子の粒径に依存するため、下記特許文献1等では、触媒粒子の粒径を適宜な範囲に調整し、製造過程において触媒粒子の粒径を保つことが行われている。
【特許文献1】WO2006/52009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させてカーボンナノチューブを成長させる従来の方法では、カーボンナノチューブの直径や径方向の構造は触媒粒子の粒径の調整により制御できたが、カーボンナノチューブの長さを長くすることは容易でなく、長尺に形成しようとしても成長がある程度で頭打ちとなり、原料炭素成分を触媒粒子に接触させつづけても、カーボンナノチューブを長尺化することが困難であった。
【0006】
そこで、この発明では、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させる方法において、成長させるカーボンナノチューブの長尺化を図り易いカーボンナノチューブの製造方法を提供することを課題とし、また、その製造方法に好適に使用可能なカーボンナノチューブ成長用基材を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するカーボンナノチューブの製造方法は、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させて、前記混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料と前記触媒粒子とに前記混合物を接触させることで、前記混合物中の前記活性低下成分を前記固定化材料に固定化しつつ、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決する他のカーボンナノチューブの製造方法は、原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物を生成させ、前記分解混合物を触媒粒子に接触させて、前記分解混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、前記触媒粒子の配置領域に配置し、前記分解混合物を前記固定化材料と前記触媒粒子とに接触させて前記分解混合物中の前記活性低下成分を前記固定化材料に固定化しつつ、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とする。
【0009】
更に、上記課題を解決するカーボンナノチューブ成長用基材は、基板と、該基板に分散配置された触媒粒子とを備え、前記触媒粒子は、原料炭素成分を含む混合物を接触させることで、前記原料炭素成分から前記カーボンナノチューブを成長させるものであるカーボンナノチューブ成長用基材において、前記基板の前記触媒粒子の存在領域に、前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明のカーボンナノチューブの製造方法によれば、原料炭素成分を含む混合物を、触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料と触媒粒子とに接触させることで、活性低下成分を固定化材料に固定化しつつ、触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるので、触媒粒子の活性の低下や失活を防止し易く、カーボンナノチューブを長く成長させ易い。
【0011】
この発明のカーボンナノチューブ成長用基材によれば、基板に触媒粒子が分散配置された領域に、触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を配置したので、固定化材料が触媒粒子に近接して配置され、原料炭素成分を含む混合物が触媒粒子に接触する際に、混合物中の活性低下成分が固定化材料に固定化することができ、触媒粒子に活性低下成分が接触することで生じる触媒粒子の活性の低下や失活を防止することができ、長いカーボンナノチューブを製造し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0013】
この発明によりカーボンナノチューブを製造するには、原料炭素成分を含む混合物を用い、この混合物を触媒粒子と、この触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料とに接触させて、触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させることで行う。
【0014】
まず、原料炭素成分とは、カーボンナノチューブを構成する炭素の供給源となるものであり、適宜な条件下で触媒粒子に接触させることで、触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させることが可能な分子、ラジカルなどであり、例えば、エタノールを原料とした場合には、C、CH、CO、CO、HO、C・、CH・などと推測される。
【0015】
このような原料炭素成分が含まれる混合物は、複数の成分を含有する原料物質自体であってもよいが、原料物質を、例えば、加熱、溶解等の適宜な方法で処理することで得られるものであってもよい。好ましくは、原料炭素成分が含まれる混合物は原料物質を分解することで得られる混合物であり、より好ましくは、原料炭素成分を触媒に接触させて成長させるための加熱条件下又はその昇温過程の加熱条件下で原料物質を熱分解して得られる分解混合物であり、特に好ましくは、加熱条件下でのみ存在し得る分解混合物であるのが好適である。原料炭素成分以外の成分を予め除去し難いため、この発明を適用することが好適であり、また、製造工程を簡略化し易いからである。
【0016】
原料物質としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレンからなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の直鎖の炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノールからなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の直鎖の1価アルコール等のアルコール、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの誘導体からなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の芳香族炭化水素などの有機化合物を用いることができる。また、これら以外にも、触媒粒子上でカーボンナノチューブを生成可能な有機化合物を含む物質を用いることも可能である。これらの有機化合物の多くは、加熱分解されることで、原料炭素成分を含有する分解混合物となる。
【0017】
一方、触媒粒子とは、カーボンナノチューブを成長させるための触媒の粒子であり、原料炭素成分が所定条件下で表面に接触することで、例えば原料炭素成分を固溶してカーボンナノチューブを析出させるなど、カーボンナノチューブの成長の基点となって成長を促す触媒作用を奏するものである。
【0018】
粒子として用いるのは、得られるカーボンナノチューブのグラフェンシートの層数やチューブ直径等が触媒粒子の大きさに依存するためである。触媒粒子の大きさは、所望のカーボンナノチューブのグラフェンシート層数等に応じて適宜選択するのがよく、例えば、単層カーボンナノチューブでは、触媒粒子の粒径を8nm以下としてもよく、2層では8nm〜11nmとし、3層では11nm〜15nmとし、4層では15nm〜18nmとし、5層では18nm〜21nmとしてもよい。
【0019】
触媒粒子は、カーボンナノチューブの成長を促す触媒作用を奏する主触媒材料を原料炭素成分等に応じて適宜選択して用いることができる。主触媒材料としては、例えば、鉄、コバルト、及びニッケル、モリブデン、金等の単体金属、合金、又は混合体などが挙げられる。アルコール等の有機化合物を原料物質として用いる場合には、触媒作用を得易いという理由で、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体からなるもの、特に、鉄の単体金属、コバルトの単体金属、又は鉄−コバルト合金若しくは混合体からなるものが好適である。
【0020】
この触媒粒子は、成長を促す触媒作用を奏する主触媒材料と共に、カーボンナノチューブを成長させる際、或いは、表面の還元処理等の前処理の際、加熱されることで隣接する触媒粒子同士が凝集して粒成長することを防止するための助触媒材料を含んでいてもよい。この助触媒材料としては、例えば、融点が1500℃以上の高融点金属等を用いることができる。その場合、触媒粒子は、主触媒材料と助触媒材料との合金や混合体としてもよく、主触媒材料からなる粒子と助触媒材料からなる粒子とを混合したものであってもよい。
【0021】
このような触媒粒子は、分散状態で適度な密度で配置されているのが好ましい。触媒粒子の密度が過剰に低いと、成長するカーボンナノチューブの成長密度が低くなるため、得られるカーボンナノチューブの数が少なくなり、効率が悪く、一方、触媒粒子の配置密度が過剰に高いと成長するカーボンナノチューブの密度が高くなるため、周囲側に配置されている触媒粒子に比べて中央側に配置されている触媒粒子に到達する原料炭素成分の量が少なくなり易く、中央側で長尺化を図り難くなるためである。
【0022】
触媒粒子を適度な分散状態で安定して配置するために、触媒粒子を基板に担持させて構成されるカーボンナノチューブ成長用基材として用いるのが好適である。このカーボンナノチューブ成長用基材については、後述する。
【0023】
ところで、原料炭素成分を含有する混合物には、このような触媒粒子の触媒活性を低下させたり、失活させる活性低下成分が含有されていることが多い。この活性低下成分の顕著な例としては、O等の酸素が挙げられる。酸素は触媒粒子を酸化して触媒活性を低下させ易く、表面の酸化が進むことで触媒活性を失活させる。例えば、原料物質としてアルコールを用いる場合、熱分解により原料炭素成分と共に酸素が生成される。
【0024】
そのため、この発明では、原料炭素成分を含有する混合物中の活性低下成分を、固定化材料に固定化しつつ、その混合物を触媒粒子に接触させることでカーボンナノチューブを成長させる。触媒粒子に接触する活性低下成分を少なく抑えることができ、カーボンナノチューブの成長時において触媒活性の低下を防止して、カーボンナノチューブをより長く成長させ易くできるからである。
【0025】
ここで、固定化材料とは、混合物中に原料炭素成分と共に存在する活性低下成分を移動不能に固定化することが可能な材料である。この固定化材料は、活性低下成分を吸着或いは溶解することで固定化するものであってもよく、反応により固定化するものであってもよいが、原料炭素成分と混合された状態で接触することで活性低下成分を選択的に固定化し易い材料が好ましい。
【0026】
固定化材料としては、活性低下成分に応じて適宜選択して使用することが可能である。例えば、活性低下成分が酸素の場合、触媒粒子よりも酸素を取り込み易いという理由で、固定化材料として触媒粒子よりも酸素との親和力が大きい材料を用いるのがよい。また、カーボンナノチューブを高温条件下で成長させる場合、固定化材料として酸化可能な金属を用いるのが好適である。高温条件下で安定に酸素を固定化し易いからである。触媒粒子と固定化材料とが何れも単体からなる場合には、固定化材料として触媒粒子よりイオン化傾向の高い材料を用いてもよい。
【0027】
具体的には、このような固定化材料としては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体を挙げることができる。
【0028】
このような固定化材料は、触媒粒子に出来るだけ近接配置して用いるのが好ましく、触媒粒子が分散配置されている配置領域に、固定化材料を分散状態或いは層状に配置するのが好適である。触媒粒子に接触する混合物から直接に活性低下成分を固定化して除去できるため、効率よく活性低下成分が触媒粒子に接触することを防止できるからである。
【0029】
このような固定化材料の配置を実現するために、基板に触媒粒子を分散状態で担持させたカーボンナノチューブ成長用基材に、固定化材料を担持させることが好適である。
【0030】
次に、カーボンナノチューブ成長用基材について説明する。
【0031】
図1は、この実施の形態1のカーボンナノチューブ成長用基材を示す。このカーボンナノチューブ成長用基材51は、原料物質としてアルコールを用いる場合に使用するものの例である。基板53の一方の表面に、上述のような触媒粒子55と固定化材料としての酸素ゲッタ54が配置されて形成されている。
【0032】
まず、基板53としては、例えば、石英ガラス、シリコン単結晶、各種セラミック、酸化アルミニウム等の各種金属などを用いることができる。基板53の大きさ、厚さは任意であるが、表面粗さ(RMS)が数nm以下となる程度に平滑に研磨されているのが好ましい。
【0033】
触媒粒子55は、鉄、コバルト、ニッケルなどからなり、基板53の表面の所定の配置領域に、所定の粒径及び密度で分散配置されている。この触媒粒子55は基板53との間にカーボンナノチューブを成長させるものであってもよいが、基板53に強固に付着させることで、触媒粒子55から基板53の放射方向に向けてカーボンナノチューブを成長させるものであるのが好ましい。基板53上に配置される酸素ゲッタ54に近接配置した状態を維持し易いからである。
【0034】
酸素ゲッタ54は、チタン、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、亜鉛などからなる。ここでは、多数の粒子状の形態で触媒粒子55の配置領域に分散配置されており、各触媒粒子55とに近接或いは接触した状態となっている。
【0035】
この酸素ゲッタ54は、触媒粒子55より先に基板53上に配置されたものであるか、触媒粒子55と同時に基板53上に配置されたものであるのが好ましい。触媒粒子55より後から酸素ゲッタ54が多量に配置される場合、触媒粒子55の表面が酸素ゲッタ54により被覆され易いからである。
【0036】
ここでは、触媒粒子55と酸素ゲッタ54とが同時に基板53に配置されており、カーボンナノチューブの成長密度が所望の範囲となるように、触媒粒子55と酸素ゲッタ54との存在割合が調整されている。特に限定されるものではないが、例えば、カーボンナノチューブの成長密度を10〜1011本/cmの範囲とすることも可能である。
【0037】
このようなカーボンナノチューブ成長用基材51は、触媒粒子55や酸素ゲッタを構成する金属イオンが含有された溶液に基板53を浸漬し、溶媒を除去することで粒子を析出させるディップコート法や、触媒粒子55や酸素ゲッタを構成する金属をターゲットとしてスパッタリングにより付着させるスパッタリング法などにより製造することができる。
【0038】
ここでは、触媒粒子55や酸素ゲッタ54を強固に基板53に付着できるという理由で、スパッタリング法によりカーボンナノチューブ成長用基材51を製造している。
【0039】
この方法では、基板53に超音波振動下で洗剤、水、アルコール系溶媒等により精密洗浄を施した後、触媒粒子55の材料である主触媒材料、或いは、主触媒材料及び助触媒材料からなるターゲットと、酸素ゲッタ54のターゲットとを用いてスパッタリングすることでカーボンナノチューブ成長用基材51を製造する。
【0040】
スパッタリングは、マグネトロンスパッタリング装置の成膜室内に基板53を格納して高真空まで排気した後、成膜室にアルゴンガス等の希ガスを導入し、圧力を0.1Paないし3Pa程度に調整し、各ターゲットに負の高電圧を印加して行う。このとき、各ターゲットに印加する高周波パワーを調整したり、印加時間を調整することで各材料のスパッタ率を調整すれば、触媒粒子55と酸素ゲッタとの存在割合を調整することができる。
【0041】
次に、このようなカーボンナノチューブ成長用基材を用いて、原料炭素成分を含む混合物により触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させる製造装置について説明する。
【0042】
図2及び図3は、この実施の形態1のカーボンナノチューブの製造装置を示す。この製造装置は、アルコールを原料物質として用いて熱CVD法によりカーボンナノチューブを成長させる装置である。
【0043】
この製造装置は、反応炉20と、反応炉20の上流側に設けられた原料物質の導入部10と、反応炉20の下流側に設けられた排出部30とを備えている。
【0044】
導入部10には、アルゴン等の不活性ガスを導入可能な不活性ガス導入部11と、水素ガス、一酸化炭素ガス等の還元性ガスを導入可能な還元性ガス導入部12と、原料物質としてのアルコールが収容された原料ガス発生容器19とを備える。これらはバルブ13〜17を備えた流路により互いに接続されると共に反応炉20に接続されている。また、原料ガス発生容器19には、加熱ヒータ及び水浴からなる温度調整装置18が設けられている。
【0045】
反応炉20は、炉心管24と、炉心管24内を所定温度に加熱するためのヒータ22及びその制御部27とを備え、導入部10から導入されて炉心管24内部に滞留又は通気される原料ガスをヒータ22により加熱分解可能に構成されている。
【0046】
炉心管24の内部には、上述のようなカーボンナノチューブ成長用基材51がホルダー部25に支持されて配置されている。カーボンナノチューブ成長用基材51の酸素ゲッタ54及び触媒粒子55は多数の粒子状態でそれぞれ分散配置されている。図3では、層状に略記されており、基板53への付着順を上層及び下層により示している。
【0047】
排出部30は、反応炉20から排出される排出ガスをコールドトラップ等の除害装置31を介して系外へ排出するように構成されてる。
【0048】
このような構成のカーボンナノチューブの製造装置を用いて、カーボンナノチューブを製造するには、まず、触媒粒子55の表面と酸素ゲッタ54の表面の還元工程を行い、その後、カーボンナノチューブ57を成長させる熱CVD工程を行う。
【0049】
還元工程では、カーボンナノチューブ成長用基材51を炉心管24内に格納した状態で、還元性ガス導入部12から水素ガス、一酸化炭素ガス等の還元性ガスを炉心管24に導入して炉心管24内を還元雰囲気とする。このとき、バルブ15、17は閉じた状態に保たれる。そして、還元性ガスを炉心管24内に滞留或いは通気させると共に、例えば0.1Pa〜10Paの範囲の圧力下で300℃以上400℃以下に炉心管24内を加熱することで、酸素ゲッタ54の表面及び触媒粒子55の表面を還元する。
【0050】
次いで、カーボンナノチューブ成長用基材51を炉心管24内に格納した状態のまま、熱CVD工程を開始する。
【0051】
熱CVD工程では、まず、導入部10において、バルブ13〜17の開度等を調整することで各ガス導入部11、12からのガス圧及び流量を調整すると共に、温度調整装置18により原料ガス発生容器19内の温度を調整することにより、アルコールを含有する原料ガスを所望の圧及び流量で反応炉20へ導入し、炉心管24内に滞留又は通気する。
【0052】
反応炉20では、ヒータ22により原料ガスが反応温度に加熱されることで、アルコールが熱分解して原料炭素成分と酸素とを含有する分解混合物が生成される。反応温度は触媒粒子55の種類やアルコールに応じて適宜設定されるが、この反応温度が500℃より低い場合はアモルファスカーボンの成長が優位となりカーボンナノチューブ57の収率が低下し易いため、500℃以上とするのが好ましい。具体的には、例えばエタノールを用いる場合、600℃〜1000℃程度が好適である。
【0053】
そして、炉心管24内で生成された分解混合物が、カーボンナノチューブ成長用基材51に接触することで、触媒粒子55を基点としてカーボンナノチューブ57が成長する。このとき、基板53上に触媒粒子55が分散配置されると共に、この触媒粒子55の配置領域に酸素ゲッタ54が配置されているため、分解混合物中の酸素が酸素ゲッタ54に固定化されつつ、分解混合物中の原料炭素成分が触媒粒子55に接触し、触媒粒子55の活性低下を防止してカーボンナノチューブ57をより長く成長させることができる。反応時間はカーボンナノチューブ57が十分に成長できる時間とすればよいが、触媒粒子55の凝集を防止し易いなどの理由で、触媒粒子55が450℃を超える時間が600秒以内、より好ましくは300秒以内となるように設定してもよい。
【0054】
その後、導入部10からの原料ガスの導入を停止し、反応炉20内を常温に戻してから、カーボンナノチューブ成長用基材51を取り出し、熱CVD工程を終了する。
【0055】
以上のようなカーボンナノチューブ57の製造方法によれば、原料炭素成分を含む分解混合物を、酸素ゲッタ54と触媒粒子55とに接触させることで、酸素を触媒粒子55に近接する位置で酸素ゲッタ54に固定化しつつ、触媒粒子55からカーボンナノチューブ57を成長させるので、触媒粒子55への酸素の接触を抑えることができ、触媒粒子55
の活性の低下や失活を防止して、カーボンナノチューブ57を長く成長させることができる。
【0056】
特に、炉心管24内で原料物質であるアルコールの熱分解により原料炭素成分と共に活性低下成分である酸素が生成される分解混合物を、触媒粒子55と触媒粒子55の配置領域に配置された固定化材料である酸素ゲッタ55とに接触させるので、触媒粒子55近傍で生成される酸素分を酸素ゲッタ55に固定化することができる。そのため、触媒粒子55の活性の低下や失活をより防止し易く、より長くカーボンナノチューブを成長さることができる。
【0057】
なお、上記実施の形態はこの発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば、上記のカーボンナノチューブ成長用基材51では、粒子状の酸素ゲッタ54を基板53の表面に分散配置したが、図4に示すように、基板53に触媒粒子55より先に酸素ゲッタ54を配置することにより、酸素ゲッタ54を基板53の表面に層状に形成してもよい。このようにすれば、酸素ゲッタ54の存在量を多くすることができ、酸素をより多く固定化することが可能である。
【実施例】
【0058】
以下、この発明の実施例及び比較例について説明する。
<実施例1>
【0059】
図2に示すような製造装置及び図3に示すようなカーボンナノチューブ成長用基材51を用いて、カーボンナノチューブ57を製造した。
【0060】
カーボンナノチューブ成長用基材51は、SiOウエハからなる基板53の表面に、換算膜厚が0.3nmの鉄からなる触媒粒子55と、0.1nmのアルミニウムからなる酸素ゲッタ54とを、この順序でスパッタリング法により付着して作成した。ここで、換算膜厚とは、単位時間当たりの成膜レート等の成膜条件を元に計算される膜厚である。
【0061】
このカーボンナノチューブ成長用基材51を炉心管24内に配置し、還元工程により触媒粒子55の凝集を防止しつつ、酸素ゲッタ54及び触媒粒子55の表面を十分に還元した。
【0062】
その後、カーボンナノチューブ成長用基材51を外気に触れさせることなく、熱CVD工程を開始した。熱CVD工程では、炉心管24内を適切な昇温速度で反応温度800℃に昇温させた後、原料物質としてエタノールをアルゴンガスにより反応炉20に導入し、炉心管24の内圧を1700Paに保ちつつ、原料ガスを流通させた。その状態で、30分間保持することによりカーボンナノチューブ57を成長させた。
【0063】
その後、原料ガスの導入を停止し、内圧を維持したまま室温まで降温して、カーボンナノチューブ成長用基材51の製造を完了した。
【0064】
得られたカーボンナノチューブ57の写真を図5に示す。
<比較例1>
【0065】
カーボンナノチューブ成長用基材51を作成する際、アルミニウムからなる酸素ゲッタ54を形成することなく、基板53に鉄からなる触媒粒子55だけを付着させた他は、全て実施例1と同一にして、カーボンナノチューブ57の製造を実施した。
【0066】
得られたカーボンナノチューブ57の写真を図6に示す。
【0067】
図5と図6とを対比して明らかなように、アルミニウムからなる酸素ゲッタ54を設けた実施例1では、比較例1に比べて、カーボンナノチューブ57を3割長く形成することができた。ここでは、触媒粒子55が同一に形成されているにも拘わらず、実施例1ではカーボンナノチューブ57を長く形成できたのは、アルミニウムからなる酸素ゲッタ54により酸素を固定化したことによるものと推測することができた。
<実施例2>
【0068】
図2に示すような製造装置及び図5に示すようなカーボンナノチューブ成長用基材51を用いて、カーボンナノチューブ57を製造した。
【0069】
カーボンナノチューブ成長用基材51は、SiOウエハからなる基板53の表面に、アルミニウム層からなる酸素ゲッタ54を基板53の表面に層状に形成し、酸素ゲッタ54の表面に換算膜厚が合計2nmの鉄とコバルトとの混合体からなる触媒粒子55をスパッタリング法により付着して作成した。
【0070】
このカーボンナノチューブ成長用基材51を炉心管24内に配置し、還元工程により、触媒粒子55の凝集を防止しつつ、酸素ゲッタ54及び触媒粒子55の表面を十分に還元した。
【0071】
その後、カーボンナノチューブ成長用基材51を外気に触れさせることなく、熱CVD工程を開始した。熱CVD工程では、炉心管24内を適切な昇温速度で反応温度800℃に昇温させた後、原料物質としてエタノールをアルゴンガスにより反応炉20に導入し、炉心管24の内圧を1700Paに保ちつつ、原料ガスを流通させた。その状態で、30分間保持することによりカーボンナノチューブ57を成長させた。
【0072】
その後、原料ガスの導入を停止し、内圧を維持したまま室温まで降温して、カーボンナノチューブ成長用基材51の製造を完了した。
【0073】
得られたカーボンナノチューブ57の写真を図7に示す。
<比較例2>
【0074】
カーボンナノチューブ成長用基材51を作成する際、アルミニウムからなる酸素ゲッタ54の代わりに、酸化アルミニウムからなる障害粒子を設けた他は、全て実施例2と同一にして、カーボンナノチューブ57の製造を実施した。
【0075】
得られたカーボンナノチューブ57の写真を図8に示す。
【0076】
図7と図8を対比して明らかなように、アルミニウム層からなる酸素ゲッタ54を設けた実施例2では、酸化アルミニウムからなる障害粒子を設けた比較例2に比べ、カーボンナノチューブ57を顕著に長く形成することができた。図8に示す比較例2のカーボンナノチューブの長さ(基板から先端までの長さ)は約40μmであり、図7に示す実施例2のカーボンナノチューブの長さは約140μmである。
【0077】
この実験では、実施例2のアルミニウム層からなる酸素ゲッタ54と、酸化アルミニウムからなる障害粒子とは、同じ形状に形成されていた。それにも拘わらず、実施例2ではカーボンナノチューブが顕著に長く形成できたのは、アルミニウム層からなる酸素ゲッタ54により酸素を固定化できたためと推測することができた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】この発明の実施の形態のカーボンナノチューブ成長基材の概略断面図である。
【図2】同発明の実施の形態のカーボンナノチューブの製造装置を示す系統図である。
【図3】同発明の実施の形態のカーボンナノチューブの製造装置のカーボンナノチューブ成長用基材を示す拡大断面図である。
【図4】同発明の実施の形態のカーボンナノチューブの製造装置のカーボンナノチューブ成長用基材の変形例を示す拡大断面図である。
【図5】実施例1の結果を示す写真である。
【図6】比較例1の結果を示す写真である。
【図7】実施例2の結果を示す写真である。
【図8】比較例2の結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0079】
10 導入部
19 原料ガス発生容器
20 反応炉
22 ヒータ
24 炉心管
51 カーボンナノチューブ成長用基材
53 基板
54 酸素ゲッタ(固定化材料)
55 触媒粒子
57 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させて、前記混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、
前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料と前記触媒粒子とに前記混合物を接触させることで、前記混合物中の前記活性低下成分を前記固定化材料に固定化しつつ、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物を生成させ、前記分解混合物を触媒粒子に接触させて、前記分解混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、
前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、前記触媒粒子の配置領域に配置し、
前記分解混合物を前記固定化材料と前記触媒粒子とに接触させて前記分解混合物中の前記活性低下成分を前記固定化材料に固定化しつつ、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記原料物質はアルコールを含み、前記固定化材料は、酸素との親和力が前記触媒粒子より大きい材料からなることを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
基板と、該基板に分散配置された触媒粒子とを備え、前記触媒粒子は、原料炭素成分を含む混合物を接触させることで、前記原料炭素成分から前記カーボンナノチューブを成長させるものであるカーボンナノチューブ成長用基材において、
前記基板の前記触媒粒子の存在領域に、前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料が配置されていることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基材。
【請求項5】
前記混合物は、アルコールを含む原料物質の熱分解により得られる分解混合物であり、前記固定化材料は酸化可能な金属からなることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブ成長用基材。
【請求項6】
前記触媒粒子は、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体からなり、
前記固定化材料は、チタン、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体からなることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ成長用基材。
【請求項7】
前記固定化材料は、前記触媒粒子より先に、又は、同時に前記基板に配置されたものであることを特徴とする請求項4乃至6の何れか一つに記載のカーボンナノチューブ成長用基材。
【請求項8】
前記触媒粒子は、前記固定化材料と同時に前記基板に配置されたものであり、
前記触媒粒子と前記固定化材料との存在割合が、前記カーボンナノチューブの所望の成長密度に基づいて調整されていることを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記触媒粒子は、スパッタリングにより前記基板に配置されたものであることを特徴とする請求項5乃至8の何れか一つに記載のカーボンナノチューブ成長用基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−116305(P2010−116305A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292057(P2008−292057)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】