説明

カーボンナノチューブの製造方法及び製造装置

【課題】原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させる方法において、カーボンナノチューブの長尺化を図り易いカーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子55に接触させて、混合物中の原料炭素成分により触媒粒子55からカーボンナノチューブ57を成長させる製造方法であり、混合物中の原料炭素成分以外の成分や触媒活性を低下する成分を固定化するための固定化材料41に混合物を接触させることで、混合物中の原料炭素成分以外の成分や活性低下成分を減少させて原料炭素成分の存在割合を増加させた後、カーボンナノチューブ57を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させることで触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させる製造方法と、その製造方法に使用可能な製造装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブの製造方法として、適宜な条件下で、カーボンナノチューブを構成する炭素の供給原となる原料炭素成分を微細な触媒粒子に接触させることで、触媒粒子を基点にしてカーボンナノチューブを成長させる方法が知られている。
【0003】
例えば熱CVD法では、基材上に触媒粒子を分散配置しておき、アルコール等の原料物質を熱分解して原料炭素成分を含む分解混合物を生成させると共に触媒粒子に接触させることで、各触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させている。
【0004】
このような方法では、得られるカーボンナノチューブのグラフェンシートの層数やチューブ直径等が触媒粒子の粒径に依存するため、下記特許文献1等では、触媒粒子の粒径を適宜な範囲に調整し、製造過程において触媒粒子の粒径を保つことが行われている。
【特許文献1】WO2006/52009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させてカーボンナノチューブを成長させる従来の方法では、カーボンナノチューブの直径や径方向の構造は触媒粒子の粒径の調整により制御できたが、カーボンナノチューブの長さを長くすることは容易でなく、長尺に形成しようとしても成長がある程度で頭打ちとなり、原料炭素成分を触媒粒子に接触させつづけても、カーボンナノチューブを長尺化することが困難であった。
【0006】
そこで、この発明では、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させる方法において、成長させるカーボンナノチューブの長尺化を図り易いカーボンナノチューブの製造方法を提供することを課題とし、また、その製造方法に好適に使用可能なカーボンナノチューブの製造装置を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するカーボンナノチューブの製造方法は、原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させて、前記混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、前記混合物中の前記原料炭素成分以外の成分を固定化するための固定化材料に前記混合物を接触させることで、前記混合物中の前記原料炭素成分以外の成分を減少させて前記原料炭素成分の存在割合を増加させた後、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決する他のカーボンナノチューブの製造方法は、原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物を生成させて流下させ、下流側で前記分解混合物を触媒粒子に接触させて、前記分解混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、前記触媒粒子より上流側に配置し、前記分解混合物を前記固定化材料に接触させて前記分解混合物中の前記活性低下成分を前記固定化材料に固定化した後、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とする。
【0009】
更に、上記課題を解決するカーボンナノチューブの製造装置は、上流側に原料物質の導入部が設けられると共に下流側に排出部が設けられ、前記導入部と排出部との間に、前記原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物が生成する生成部と、前記生成部の下流側に配置され、前記生成部からの前記分解混合物を触媒粒子に接触させて、前記分解混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させる成長部とを備えたカーボンナノチューブの製造装置において、前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、前記成長部より上流側に前記分解混合物と接触可能に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明のカーボンナノチューブの製造方法によれば、原料炭素成分を含む混合物を、原料炭素成分以外の成分を固定化するための固定化材料に接触させることで、原料炭素成分以外の成分を減少させて原料炭素成分の存在割合を増加させ、その後、触媒粒子に接触させてカーボンナノチューブを成長させるので、より多くの原料炭素成分を触媒粒子に接触させることができ、カーボンナノチューブを効率よく触媒から成長させることができる。そのため、触媒活性が経時的に低下する間によりカーボンナノチューブを長く成長させ易く、長尺化を図り易い。
【0011】
特に、原料物質の熱分解により得られる分解混合物を触媒粒子に接触させてカーボンナノチューブを成長させる際、触媒粒子の活性低下成分が分解混合物中に生成される場合、活性低下成分を固定化材料に固定化すれば、原料炭素成分の存在割合を増加してカーボンナノチューブを効率よく成長させ易い上に、触媒粒子の活性が低下し難いため、より長くカーボンナノチューブを成長できて更に長尺化を図り易い。
【0012】
この発明のカーボンナノチューブの製造装置によれば、触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、カーボンナノチューブの成長部より上流側に分解混合物と接触可能に配置したので、原料物質の熱分解により触媒粒子の活性低下成分が生成されても、カーボンナノチューブの成長部より上流側で活性低下成分を固定化材料に固定化することができる。そのため、触媒粒子に接触させる分解混合物の原料炭素成分の存在割合を増加できると共に触媒粒子の活性を低下し難くでき、長くカーボンナノチューブを成長させて長尺化を図り易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0014】
この発明によりカーボンナノチューブを製造するには、原料炭素成分を含む混合物を用い、この混合物を触媒粒子と、この触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料とに接触させて、触媒粒子を基点としてカーボンナノチューブを成長させることで行う。
【0015】
まず、原料炭素成分とは、カーボンナノチューブを構成する炭素の供給源となるものであり、適宜な条件下で触媒粒子に接触させることで、触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させることが可能な分子、ラジカルなどであり、例えばエタノールを原料とした場合には、C、CH、CO、CO、HO、C・、CH・などと推測される。
【0016】
このような原料炭素成分が含まれる混合物は、複数の成分を含有する原料物質自体であってもよいが、原料物質を、例えば、加熱、溶解等の適宜な方法で処理することで得られるものであってもよい。好ましくは、原料炭素成分が含まれる混合物は原料物質を分解することで得られる混合物であり、より好ましくは、原料炭素成分を触媒に接触させて成長させるための加熱条件下又はその昇温過程の加熱条件下で原料物質を熱分解して得られる分解混合物であり、特に好ましくは、加熱条件下でのみ存在し得る分解混合物であるのが好適である。原料炭素成分以外の成分を予め除去し難いため、この発明を適用することが好適であり、また、製造工程を簡略化し易いからである。
【0017】
原料物質としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレンからなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の直鎖の炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノールからなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の直鎖の1価アルコール等のアルコール、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの誘導体からなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の芳香族炭化水素などの有機化合物を用いることができる。また、これら以外にも、触媒粒子上でカーボンナノチューブを生成可能な有機化合物を含む物質を用いることも可能である。これらの有機化合物の多くは、加熱分解されることで、原料炭素成分を含有する分解混合物となる。
【0018】
一方、触媒粒子とは、カーボンナノチューブを成長させるための触媒の粒子であり、原料炭素成分が所定条件下で表面に接触することで、例えば原料炭素成分を固溶してカーボンナノチューブを析出させるなど、カーボンナノチューブの成長の基点となって成長を促す触媒作用を奏するものである。
【0019】
粒子として用いるのは、得られるカーボンナノチューブのグラフェンシートの層数やチューブ直径等が触媒粒子の大きさに依存するためである。触媒粒子の大きさは、所望のカーボンナノチューブのグラフェンシート層数等に応じて適宜選択するのがよく、例えば、単層カーボンナノチューブでは、触媒粒子の粒径を8nm以下としてもよく、2層では8nm〜11nmとし、3層では11nm〜15nmとし、4層では15nm〜18nmとし、5層では18nm〜21nmとしてもよい。
【0020】
触媒粒子には、カーボンナノチューブの成長を促す触媒作用が得られる主触媒材料を原料炭素成分等に応じて適宜選択して用いることができる。主触媒材料としては、例えば、鉄、コバルト、及びニッケル、モリブデン、金等の単体金属、合金、又は混合体などが挙げられる。アルコール等の有機化合物を原料物質として用いる場合には、触媒作用を得易いという理由で、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体からなるもの、特に、鉄の単体金属、コバルトの単体金属、又は鉄−コバルト合金若しくは混合体からなるものが好適である。
【0021】
この触媒粒子は、成長を促す触媒作用を奏する主触媒材料と共に、カーボンナノチューブを成長させる際、或いは、表面の還元処理等の前処理の際、加熱されることで隣接する触媒粒子同士が凝集して粒成長することを防止するための助触媒材料を含んでいてもよい。この助触媒材料としては、例えば、融点が1500℃以上の高融点金属等を用いることができる。その場合、触媒粒子は、主触媒材料と助触媒材料との合金や混合体としてもよく、主触媒材料からなる粒子と助触媒材料からなる粒子とを混合したものであってもよい。
【0022】
このような触媒粒子は、カーボンナノチューブを適度な成長密度で成長させ易くするために、分散状態で配置されているのが好ましい。そのため、触媒粒子を基板に分散状態で担持させて構成されたカーボンナノチューブ成長用基材の形態で用いるのがよい。基板としては、石英ガラス、シリコン単結晶、各種セラミック、酸化アルミニウム等の各種金属を用いることができる。基板の大きさ、厚さは任意である。カーボンナノチューブ成長用基材は、例えば、触媒粒子を構成する材料をディップコート法、スパッタリング法等により基材に付着させることで形成することができる。
【0023】
この発明では、このような触媒粒子に原料炭素成分を含む混合物を接触させることでカーボンナノチューブを成長させる際、原料炭素成分が含まれる混合物を、原料炭素成分以外の成分を固定化するための固定化材料に接触させてから、触媒粒子に接触させることでカーボンナノチューブを成長させる。混合物中の原料炭素成分以外の他の成分を固定化すると、混合物中の原料炭素成分の存在割合を増加させることができるからである。
【0024】
ここで、固定化材料とは、混合物中に原料炭素成分と共に存在している他の成分(例えばOやHOなど)の少なくとも一つの成分を移動不能に固定化することが可能な材料である。この固定化材料は、他の成分を吸着或いは溶解することで固定化するものであってもよく、反応により固定化するものであってもよいが、原料炭素成分と混合された状態で接触することで、他の成分を選択的に固定化し易い材料が好ましい。また、カーボンナノチューブの成長時の条件下で他の成分を固定化でき、別の条件下で他の成分を離脱させることが可能な材料が好適である。繰り返し使用が可能となるからである。
【0025】
このような固定化材料は、固定化する成分に応じて適宜選択して使用することが可能である。混合物中に触媒粒子の活性を低下させる活性低下成分が含有されている場合には、活性低下成分を固定化可能な材料を用いるのが好ましい。活性低下成分を固定化すれば、混合物中の原料炭素成分の存在割合を増加できると同時に、カーボンナノチューブの成長時に触媒活性が低下し難くでき、より長いカーボンナノチューブを成長させ易くできるからである。
【0026】
原料炭素成分を含有する混合物には、触媒粒子の触媒活性を低下させたり、失活させる活性低下成分が含有されていることが多い。この活性低下成分の顕著な例としては、O等の酸素が挙げられる。酸素は触媒粒子を酸化して触媒活性を低下させ易く、表面の酸化が進むことで触媒活性を失活させる。例えば、原料物質としてアルコールを用いる場合、熱分解により原料炭素成分と共に酸素が生成される。
【0027】
混合物中に酸素が含有されている場合、触媒粒子が酸化されて活性が低下することを防止するため、酸素を固定化可能な材料を用いるのが好ましい。その場合、触媒粒子よりも酸素を取り込み易いという理由で、固定化材料として触媒粒子よりも酸素との親和力が大きい材料を用いるのがよい。カーボンナノチューブを高温条件下で成長させる場合、固定化材料として酸化可能な金属を用いるのが好適である。そのような高温条件下で安定に酸素を固定化し易いからである。触媒粒子と固定化材料とが何れも単体からなる場合には、固定化材料として触媒粒子よりイオン化傾向の高い材料を用いてもよい。
【0028】
具体的には、このような固定化材料としては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体を挙げることができる。
【0029】
次に、以上のような触媒粒子及び固定化材料を備え、原料炭素成分を含む混合物により触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させることが可能な装置について説明する。
【0030】
図1及び図2は、この実施の形態1のカーボンナノチューブの製造装置を示す。この製造装置は、アルコールを原料物質として用いて熱CVD法によりカーボンナノチューブを成長させる装置である。
【0031】
この製造装置は、反応炉20と、反応炉20の上流側に設けられた原料物質の導入部10と、反応炉20の下流側に設けられた排出部30とを備え、反応炉20に、原料物質から原料炭素成分を含む混合物を生成させる生成部40と、原料炭素成分によりカーボンナノチューブを成長させる成長部50とが設けられている。
【0032】
導入部10には、アルゴン等の不活性ガスを導入可能な不活性ガス導入部11と、水素ガス、一酸化炭素ガス等の還元性ガスを導入可能な還元性ガス導入部12と、原料物質としてのアルコールが収容された原料ガス発生容器19とを備える。これらはバルブ13〜17を備えた流路により互いに接続されると共に反応炉20に接続されている。また、原料ガス発生容器19には、加熱ヒータ及び水浴からなる温度調整装置18が設けられている。
【0033】
反応炉20には、生成部40及び成長部50が内部に設けられた炉心管24と、炉心管24内を所定温度に加熱するためのヒータ22及びその制御部27とを備えている。この実施の形態では、炉心管24内の一つの連続した空間の上流側に生成部40が設けられ、下流側に成長部50が設けられている。
【0034】
生成部40は、導入部10から導入されて滞留又は通気される原料ガスをヒータ22により加熱可能に構成されている。同時に、この生成部40には、固定化材料としての酸素ゲッタ41がホルダー部25に配置されている。
【0035】
酸素ゲッタ41は、チタン、アルミニウム、マグネシウム、又は亜鉛の1種又は2種以上の酸化可能な金属からなる。酸素ゲッタ41の形状は、特に限定されるものではなく、出来るだけ表面積が大きくなる形状とするのが好適である。表面が酸化されることで酸素を固定化するため、表面積が大きいほど固定化できる酸素量を多くできるからである。例えば不定形の塊形状、メッシュ形状、多孔質体形状等の形状としてもよく、多数の粒子形状の充填体とすることもできる。
【0036】
成長部50には、カーボンナノチューブ成長用基材51がホルダー部25に配置されている。カーボンナノチューブ成長用基材51は、石英ガラス、シリコン単結晶、各種セラミック、酸化アルミニウム等の各種金属などからなる基板53の表面に、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる1種又は2種以上の単体金属又は合金からなる触媒粒子55が分散配置されて構成されている。各触媒粒子55間は微少量離間しているが、図2では、多数の触媒粒子55を層状に略記している。
【0037】
なお、排出部30は、反応炉20から排出される排出ガスをコールドトラップ等の除害装置31を介して系外へ排出するように構成されてる。
【0038】
このような構成のカーボンナノチューブの製造装置を用いて、カーボンナノチューブを製造するには、まず、触媒粒子55の表面と酸素ゲッタ41の表面の還元工程を行い、その後、カーボンナノチューブ57を成長させる熱CVD工程を行うのがよい。
【0039】
還元工程では、酸素ゲッタ41及びカーボンナノチューブ成長用基材51を炉心管24内に格納した状態で、還元性ガス導入部12から水素ガス、一酸化炭素ガス等の還元性ガスを炉心管24に導入して炉心管24内を還元雰囲気とする。このとき、バルブ15、17は閉じた状態に保たれる。そして、還元性ガスを炉心管24内に滞留或いは通気させると共に、例えば0.1Pa〜10Paの範囲の圧力下で300℃以上400℃以下に炉心管24内を加熱することで、酸素ゲッタ41の表面及び触媒粒子55の表面を還元する。
【0040】
次いで、酸素ゲッタ41及びカーボンナノチューブ成長用基材51を炉心管24内に格納した状態のまま、熱CVD工程を開始する。
【0041】
熱CVD工程では、まず、導入部10において、バルブ13〜17の開度等を調整することで各ガス導入部11、12からのガス圧及び流量を調整すると共に、温度調整装置18により原料ガス発生容器19内の温度を調整することにより、アルコールを含有する原料ガスを所望の圧及び流量で反応炉20へ導入し、炉心管24内に原料ガスを滞留又は通気する。
【0042】
反応炉20では、ヒータ22により生成部40及び成長部50が所定温度に加熱される。生成部40では、導入部10から炉心管24内に導入された原料ガスが反応温度に加熱されることで、アルコールを熱分解して原料炭素成分と酸素とを含有する分解混合物を生成する。
【0043】
反応温度は触媒粒子55の種類やアルコールに応じて適宜設定されるが、この反応温度が500℃より低い場合はアモルファスカーボンの成長が優位となりカーボンナノチューブ57の収率が低下し易いため、500℃以上とするのが好ましい。具体的には、例えばエタノールを用いる場合、600℃〜1000℃程度が好適である。
【0044】
生成部40では、生成された分解混合物が酸素ゲッタ41に直ちに接触することで、分解混合物中の酸素が酸素ゲッタ41に固定化される。これにより分解混合物中の原料炭素成分の存在割合が増加される。また、酸素は金属からなる触媒粒子55を酸化させて活性を低下させる活性低下成分であるため、分解混合物中の活性低下成分が低減或いは除去されることになる。
【0045】
成長部50では、生成部40から流下された分解混合物を、ヒータ22により所定温度に加熱されたカーボンナノチューブ成長用基材51の表面に接触させることで、触媒粒子55からカーボンナノチューブ57が成長する。このとき、基板53に強固に付着された触媒粒子55からカーボンナノチューブ57が成長してもよく、基板53と触媒粒子55との間にカーボンナノチューブ57が成長してもよい。
【0046】
カーボンナノチューブ57を成長させた後、導入部10からの原料ガスの導入を停止する。反応時間はカーボンナノチューブ57が十分に成長できる時間とすればよいが、触媒粒子55の凝集を防止し易いなどの理由で、触媒粒子55が450℃を超える時間が600秒以内、より好ましくは300秒以内となるように設定してもよい。
【0047】
その後、反応炉20内を常温に戻してから、カーボンナノチューブ成長用基材51を取り出し、熱CVD工程を終了する。
【0048】
以上のようなカーボンナノチューブ57の製造装置によれば、酸素ゲッタ41をカーボンナノチューブ57の成長部50より上流側に分解混合物と接触可能に配置したので、成長部50より上流側で酸素を酸素ゲッタ41に固定化することができる。
【0049】
そのため、このようにしてカーボンナノチューブ57を製造すれば、原料炭素成分を含む混合物を酸素ゲッタ41に接触させることで、酸素を固定化して減少させて原料炭素成分の存在割合を増加させ、その後に、触媒粒子55に接触させてカーボンナノチューブ57を成長させるので、より多くの原料炭素成分を触媒粒子55に接触させることができ、カーボンナノチューブ57を効率よく触媒粒子55から成長させることができる。
【0050】
特に、アルコールの熱分解により得られる分解混合物を触媒粒子55に接触させてカーボンナノチューブ57を成長させる際、触媒粒子55の活性低下成分である酸素を酸素ゲッタ41に固定化するので、触媒粒子55の活性が低下し難い。そのため、カーボンナノチューブ57を長く成長させ易くて長尺化を図り易い。
【0051】
また、ここでは、酸素ゲッタ41が生成部40に配置されているので、分解混合物が生成されると同時に酸素ゲッタ41と接触することができ、効率よく酸素を酸素ゲッタ41に接触させて固定化することができる。
【0052】
なお、この実施の形態1は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば、上記では、カーボンナノチューブ成長用基材51として、基板53の表面に触媒粒子55だけを分散配置した構成について説明したが、例えば図3に示すように、基板53の表面の触媒粒子55の配置領域に、酸素等の活性低下成分を固定化する固定化材料54を設けていてもよい。このようにすれば、成長部50よりも上流側で酸素等の活性低下成分が固定化される上、成長部50に流下された分解混合物中に希薄に残留する酸素等の活性低下成分を固定化材料54に固定化しつつ分解混合物を触媒粒子55に接触させることができるため、触媒粒子55に接触する活性低下成分を更に少なくでき、より触媒粒子55の触媒活性を維持し易くできる。
[発明の実施の形態2]
【0053】
図4は、この発明の実施の形態2のカーボンナノチューブ57の製造装置の反応炉20を示す。
【0054】
この反応炉20では、炉心管24の生成部40と成長部50との間に可動仕切壁23が設けられ、この可動仕切壁23の開口部分により、生成部40と成長部50との間を連通する連通路23aが設けられている。この可動仕切壁23が閉じることで連通路23aが完全に閉塞され、生成部40と成長部50とが隔離されるようになっている。
【0055】
また、生成部40に対応する位置にヒータ22aが設けられると共に、成長部50に対応する位置にヒータ22bが設けられており、生成部40と成長部50とが別々に加熱可能となっている。
【0056】
そのため、熱CVD工程では、原料ガスを生成部40に導入して熱分解させる際、可動仕切壁23を閉じて連通路23bを閉塞した状態で、ヒータ22aにより生成部40を加熱して行うことが可能となっている。
【0057】
その他の構成は、発明の実施の形態1と同様である。
【0058】
このようなカーボンナノチューブ57の製造装置であっても、発明の実施の形態1と同様に、原料炭素成分を含む混合物を酸素ゲッタ41に接触させることで、酸素を固定化して減少させて原料炭素成分の存在割合を増加させてから、カーボンナノチューブ57を成長させるので、より多くの原料炭素成分を触媒粒子55に接触させることができる。また、触媒粒子55の活性低下成分である酸素を酸素ゲッタ41に固定化するので、触媒粒子55の活性が低下し難い。そのため、カーボンナノチューブ57を長く成長させ易くて長尺化を図ることが可能である。
【0059】
特に、このカーボンナノチューブ57の製造装置では、生成部40と成長部50とを別に加熱するヒータ22a、22bを備えたことにより、成長部50とは別にアルコールに熱量を供給することができる。しかも、生成部40と成長部50とが互いに仕切られて連通路23aにより連通されていて、連通路23aが開閉可能に構成されているので、生成部40に供給する熱量が成長部50に伝わり難い。
【0060】
そのため、触媒粒子55が加熱により凝集などを起こしやすいものであっても、触媒粒子55の凝集を防止してアルコールを加熱して十分に熱分解させることが可能である。そのため、分解混合物中の原料炭素成分の存在割合を増加させることが容易であり、効率よくカーボンナノチューブ57を生成させて長尺化を図ることが可能である。
【0061】
更に、生成部40には酸素ゲッタ41が配置されているので、アルコールをより多く分解させることで発生した活性低下成分の酸素を効率よく酸素ゲッタ41に固定化させることができる。そのため、触媒粒子55に接触させる酸素の割合をより少なく抑えることができ、更に長尺化を図れる。
[発明の実施の形態3]
【0062】
図4は、この発明の実施の形態3のカーボンナノチューブ57の製造装置の反応炉20を示す。
【0063】
この反応炉20では、連通路23aにより連通された2つの炉心管24a、24bが設けられており、上流側の炉心管24aには、生成部40が設けられると共に酸素ゲッタ41が配置されて、生成部40を加熱するヒータ22aが設けられている。下流側の炉心管24bには、成長部50が設けられてカーボンナノチューブ成長用基材51が配置されると共に、成長部50を加熱するヒータ22bが設けられている。
【0064】
ここでは、発明の実施の形態2に比べて、炉心管24a、24bに比べて連通路23aが格段に細い形状に形成されており、連通路23aは開閉しない構造となっている。また、この連通路23aでは、生成部40で生成された分解混合物が成長部50まで移送される間に温度が過剰に低下されることを防止するために図示しない保温手段が設けられている。その他の構成は実施の形態2と同様である。
【0065】
このようなカーボンナノチューブ57の製造装置であっても、発明の実施の形態1と同様に、原料炭素成分を含む混合物を酸素ゲッタ41に接触させることで、酸素を固定化してから、カーボンナノチューブ57の成長に用いられるので、より多くの原料炭素成分を触媒粒子55に接触させることができ、また、触媒粒子55の活性が低下し難い。そのため、カーボンナノチューブ57を長く成長させ易くて長尺化を図ることができる。
【0066】
また、発明の実施の形態2と同様に、生成部40と成長部50とを別に加熱するヒータ22a、22bを備え、生成部40と成長部50とが別の炉心管24a、24bからなるので、成長部50の触媒粒子55が過剰に加熱されることがなく、触媒粒子55の凝集を防止してアルコールを加熱して十分に熱分解させることが可能である。また、生成部40に酸素ゲッタ41が配置されているため、効率よく酸素ゲッタ41に固定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明の実施の形態1のカーボンナノチューブの製造装置を示す系統図である。
【図2】同発明の実施の形態1のカーボンナノチューブの製造装置の反応炉を示す概略断面図である。
【図3】同発明の実施の形態1のカーボンナノチューブの製造装置のカーボンナノチューブ成長用基材の変形例を示す断面図である。
【図4】同発明の実施の形態2のカーボンナノチューブの製造装置の反応炉を示す概略断面図である。
【図5】同発明の実施の形態3のカーボンナノチューブの製造装置の反応炉を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0068】
10 導入部
19 原料ガス発生容器
20 反応炉
22、22a、22b ヒータ
24 炉心管
30 排出部
40 生成部
41 酸素ゲッタ(固定化材料)
50 成長部
51 カーボンナノチューブ成長用基材
53 基板
55 触媒粒子
57 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭素成分を含む混合物を触媒粒子に接触させて、前記混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、
前記混合物中の前記原料炭素成分以外の成分を固定化するための固定化材料に前記混合物を接触させることで、前記混合物中の前記原料炭素成分以外の成分を減少させて前記原料炭素成分の存在割合を増加させた後、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物を生成させて流下させ、下流側で前記分解混合物を触媒粒子に接触させて、前記分解混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造方法において、
前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、前記触媒粒子より上流側に配置し、
前記分解混合物を前記固定化材料に接触させて前記分解混合物中の前記活性低下成分を前記固定化材料に固定化した後、前記カーボンナノチューブを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記原料物質はアルコールを含み、前記固定化材料は、酸素との親和力が前記触媒粒子より大きい材料からなることを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
上流側に原料物質の導入部が設けられると共に下流側に排出部が設けられ、前記導入部と排出部との間に、前記原料物質の熱分解により原料炭素成分を含む分解混合物が生成する生成部と、前記生成部の下流側に配置され、前記生成部からの前記分解混合物を触媒粒子に接触させて、前記分解混合物中の前記原料炭素成分により前記触媒粒子からカーボンナノチューブを成長させる成長部とを備えたカーボンナノチューブの製造装置において、
前記触媒粒子の活性低下成分を固定化するための固定化材料を、前記成長部より上流側に前記分解混合物と接触可能に配置したことを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項5】
前記原料物質はアルコールを含み、前記固定化材料は酸化可能な金属からなることを特徴とする請求項4に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項6】
前記触媒粒子は、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体からなり、
前記固定化材料は、チタン、アルミニウム、マグネシウム、及び亜鉛からなる群から選ばれる1種の単体金属又は2種以上の合金若しくは混合体からなることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項7】
前記固定化材料は、前記生成部に配置されていることを特徴とする4乃至6の何れか一つに記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項8】
前記生成部と前記成長部とを別に加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする請求項4乃至7の何れか一つに記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項9】
前記生成部と前記成長部とは、互いに仕切られて連通路により連通されていることを特徴とする4乃至8の何れか一つに記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【請求項10】
前記連通路が、開閉可能に構成されていることを特徴とする請求項9に記載のカーボンナノチューブの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−126412(P2010−126412A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304180(P2008−304180)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】