カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子及び光磁気スイッチング素子
【課題】 カーボンナノチューブを用いた光磁気素子において、使用波長帯域を変更せずに磁場に対する吸収係数の変調を増大させるように調整する技術を提供する。
【解決手段】 SWCNTの吸収ピークは直径に依存し、大きな直径になるほど吸収ピークは低エネルギー側(長波長側)に位置する。すなわち、直径の大きなチューブを用いることにより、使用する信号光の波長を替えることなくより高感度に磁場に反応する光磁気スイッチング素子を作製することができる。
【解決手段】 SWCNTの吸収ピークは直径に依存し、大きな直径になるほど吸収ピークは低エネルギー側(長波長側)に位置する。すなわち、直径の大きなチューブを用いることにより、使用する信号光の波長を替えることなくより高感度に磁場に反応する光磁気スイッチング素子を作製することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子及び光磁気スイッチング素子に関し、特にこれらの素子の応答速度、応答感度の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本格的なブロードバンド、デジタル家電の時代の到来とともに、大容量、高速通信のための要素技術の開発が望まれていた。テラビット/秒のデータ転送速度に対応するためには、光ファイバーを用いた通信が不可欠であり、その使用波長帯(1.5μm)で用いることができる光デバイス材料の探索は重要である。
【0003】
単層カーボンナノチューブは、その一次元性を反映して光学応答が増大し、大きな非線形光学特性を示すことが知られている。その時間応答は1psのオーダーであり、高速な光スイッチング特性を示す。半導体ナノチューブの遷移は光通信で用いられる波長(1.5μm)に対応しており、その波長で大きな非線形性を示すことは、光スイッチング素子として大きなアドバンテージとなっている。また、磁場による光の吸収に関する変調を行うことにより、光スイッチング素子としてだけでなく、記憶素子などの様々な分野への応用が可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子において、応答時間を早くすることが重要である。また、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子において、磁場に基づく吸収係数は、カーボンナノチューブの断面を貫く磁束の大きさに依存して変化する。一定の磁場(磁束密度)においては、カーボンナノチューブの径を大きくすることにより、カーボンナノチューブの断面積大きくなるため、磁場による吸収の変化が大きくなる。ところが、カーボンナノチューブの径を変化させると吸収波長が変化するためスイッチング素子として使用する波長帯からはずれてしまうという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子の応答速度を高速にすることである。本発明の他の目的は、カーボンナノチューブを用いた光磁気素子において、使用波長帯域を変更せずに磁場に対する吸収係数の変調を増大させるように調整する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボンナノチューブの光吸収に関しては、半導体的な性質を持つカーボンナノチューブによるフォトンエネルギーの低い(波長の長い)第1ピーク及び第2ピークと、金属的なカーボンナノチューブによるフォトンエネルギーの高い(波長の短い)第3ピークとが観測される。カーボンナノチューブの径を大きくすると、すべての吸収ピークは低エネルギー側(長波長側)にシフトし、目的とする波長領域から低エネルギー側の波長領域に向けてずれていく。
【0007】
ここで、光吸収に基づく光スイッチング素子について、以下の手段により課題を解決することが可能である。
1)カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子において、高次側(短波長側)のピークの吸収ピークを用いることにより、応答時間を早くすることができる。高次側のピークを用いたことによる吸収波長のずれを、カーボンナノチューブの径を大きくすることにより調整する。
【0008】
2)光磁気スイッチング素子について。
a)カーボンナノチューブの径が小さい場合には、断面積が小さいためにカーボンナノチューブを貫く磁束が少なくなり、磁場による光吸収の変調の度合いが小さくなる。そこで、カーボンナノチューブの径を大きくすると変化させると、断面積の増加により磁場による光吸収の変調の度合いを変化させることができる。
b)カーボンナノチューブの径を大きくすると、第1ピークは低エネルギー側にシフトし、目的とする波長領域から低エネルギー側の波長領域に向けてずれていく。そこで、径を変化させるとともに、第1のピークの変わりに第2又は第3のピークにおける光磁場応答特性を利用する。
【発明の効果】
【0009】
上記の技術を用いると、光スイッチングにおける応答速度を上げることができる。この際変化する吸収波長を、第1次ピークのみでなく高次側ピークを用いることにより調整することが可能となる。
【0010】
また、光磁気素子において、光磁気応答の感度を向上させるためにカーボンナノチューブの径を大きくする。この際に、吸収のピークが長波長側にずれる。そこで、高次側に吸収のピークを用いることにより吸収波長帯を所望の波長に調整することができる。このとき同時に光スイッチングによる高速応答も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と称する。)の電子構造の特徴は、その構造(カイラリティー)に依存して、金属にも半導体にもなること、構造の一次元性を反映した1次元電子構造が実現していること、にある。このような電子構造は光学遷移に強く反映され、例えば、光吸収の大きさを表す吸収係数α(E)の光子エネルギー依存性、すなわち光吸収スペクトルとして観測することができる。
【0012】
図1(a)はSWCNTの模式図でありチューブ軸方向にy軸をとっている。SWCNTをグラファイトの2次元シート(グラフェン)を丸めた円筒であると仮定すると、電子はこの円筒表面上を運動する。したがって、SWCNTでは、グラファイトの2次元並進運動のうち、1つの方向の運動はチューブ円周方向に局在した状態となる。もう1つの方向の運動は、チューブ軸方向(y方向)への自由な運動として残り、これが、ナノチューブの1次元電子状態を実現している。図1(b)は半導体ナノチューブの、(c)は金属ナノチューブのバンド構造と状態密度とを示す図である。運動の1次元性を反映して状態密度にはvan Hove特異性と呼ばれる発散が見られる。始状態、終状態のパリティ(π軌道かπ*軌道か、および角運動量量子数)と光電場の方向を考慮すれば、図1(b)および(c)中の矢印A,B、Cで示されるものが許容遷移となる。これらの遷移はSWCNTの擬一次元性による状態密度の発散に起因して、大きな遷移強度をもつ。金属及び半導体チューブが混在する通常のSWCNT試料の吸収スペクトルには、符号Aと符号Bとで示される半導体的なSWCNTの光学遷移と、符号Cで表される金属的なSWCNTの光学遷移とが観測される。
【0013】
次に、SWCNTの生成方法について簡単に説明する。アーク放電法やレーザーアブレーション法で生成されたカーボンナノチューブには、触媒金属やフラーレン、アモルファスカーボンなどが含まれているため、酸化などにより精製する。ラマンスペクトルの測定では、このような試料をそのまま使うことができるが、吸収スペクトルを測定するためには、薄膜の作成が必要となる。例えば、有機溶媒に分散させて、それを基板へ吹き付け溶媒を蒸発させることにより多数のSWCNTが含まれる薄膜を作成する。あるいは、ポリマー中に分散させてそれを引き延ばすことにより、SWCNTの方向が揃った配向試料を得ることもできる。
【0014】
図2は、多数のSWCNTが含まれる薄膜試料に関して吸収スペクトルおよびポンプ光による光励起で誘起される吸収変化を測定する方法(ポンプ・プローブ分光法)の概略構成を示す図である。図2に示すポンプ・プローブ分光法では、SWCNTからなる薄膜試料1に対して、SWCNTに対して照射されるポンプ光3と、光パルスによるプローブ光5と、が異なる方向から照射される。プローブ光5と検出器7とで光吸収を測定する。光パルスによるポンプ光3を試料1に照射することにより、試料1の光吸収が変化し、プローブ光5に対する吸収係数が変調される。プローブ光5の出射光強度の変化を測定することで、吸収スペクトルの変化を得ることができる。
【0015】
図3(a)は、SWCNTの平均的な直径が1.22nmである場合における4.2Kで測定した吸収スペクトルである。図に示すように、SWCNT薄膜試料の吸収には、半導体的なSWCNTによる吸収ピークが光子エネルギー0.7eV付近(ピークA)と、1.4eV付近(ピークB)に現れ、金属的なSWCNTによる吸収ピークが2.0eV付近(ピークC)に観測される。これらの吸収ピークは、図1(b)、(c)中に矢印A,B,Cで示される光学遷移に対応する。
【0016】
図3(b)は、ポンプ光が入射された直後にプローブ光により測定された吸収スペクトルの変化分である。ポンプ光により吸収ピークA,B,Cの吸収が減少していることがわかる。
【0017】
以下、上記光吸収特性を利用した本発明の第1の実施の形態による光スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。図3に示す光スイッチング素子において、SWCNTの高次側のピーク位置における波長を有する信号光を用いることを思いついた。
【0018】
図4は、上記ピークA,B,Cのそれぞれの吸収帯における吸収の変化ΔAが時間的に回復していく様子をあらわす図である。光子エネルギー0.79eV付近での半導体的チューブの吸収Aの変化は1ps程度の緩和時定数で回復していることがわかる。一方、金属的チューブの吸収Cでは、約0.2psの緩和時間を有している。このように、高次側、たとえば、金属的なチューブのピークCを用いて光スイッチングを行うことにより、スイッチング速度を高速化することができることがわかる。
【0019】
次に、本実施の形態の変形例について説明する。図9(A)は、室温において測定した吸収スペクトルのSWCNTのチューブ直径依存性を示す図であり、SWCNTのチューブ直径を0.95nm、1.20nm、1.30nm、1.40nmと変化させた場合の光子エネルギー0.5eVから2.5eVまでの吸収スペクトルを示す図である。平均的なチューブ直径の増大に伴い、第1のピークA、第2のピークB、および第3のピークCのそれぞれが、高低エネルギー側(長波長側)にシフトすることがわかる。この直径の変化に対する吸収ピーク位置の変化を計算した例を図9(B)に示す。例えば、使用したい波長が光ファイバ通信で用いられる1.55μm、すなわち、0.8eVのエネルギーであるとすると、半導体チューブによるピークAを使用するためには、チューブの直径はおよそ1nmが対応するのに対して、ピークBでは2.1nm、ピークCでは3.1nm程度の直径のチューブが対応する。すなわち、直径の大きなチューブを用いることにより、使用する信号光の波長を替えることなく、より高速に応答する高次側の吸収ピークを使用した光スイッチを作製することができる。
【0020】
次に、光磁気スイッチング素子への応用について説明を行う。磁場中における吸収スペクトルを測定した際の条件は、磁場が10Tであり、図示しない偏光吸収スペクトル測定装置によって磁気応答の測定を行った。
【0021】
以下、本発明の第2の実施の形態による光磁気スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。図5及び図7は、SWCNTに対して信号光hνをSWCNTの延在方向に垂直な方向(SWCNTに平行な偏光E)に照射し、図5ではSWCNTの延在方向に平行な方向に磁場Bを、図7ではSWCNTの延在方向と垂直な方向に磁場Bを印加した光磁気スイッチング素子の簡略化された構成例を示す図である。図6は図5の配置における光吸収の磁気応答特性例を示す図である。図6(A)は、図5における配置において磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)を示す。磁場により吸収スペクトルは変化している。この時の変化をわかりやすくするために、磁場による変化分を差スペクトル(ΔA=A(10T)−A(0T))として図6(B)に示す。図6(B)に示すように、吸収ピーク位置では吸収が大きく減少している。
【0022】
一方、図8(A)は、図7における配置において、磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)、(B)は磁場による変位(ΔA=A(10T)−A(0T))を示す図である。図8に示すように、この配置では10Tまで磁場を印加しても吸収の変化はほとんど無いことがわかる。すなわち、図5の配置では磁場により光吸収が変化し、SWCNTを透過する光が変調されることがわかる。この磁場による光吸収の変化は、SWCNT中における電子構造の磁場による変化に基づくものと予想される。このように、SWCNTにおける磁場に基づく吸収変化により、信号光に関して磁場を制御手段としたスイッチングを行うことができる。
【0023】
次に、本発明の第3の実施の形態による光磁気スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。理論的予測によれば、磁場による吸収変化はSWCNTの断面を貫く磁束の大きさ(磁場×断面積)に比例している。したがって、磁場による吸収の変化量を大きくするためには、まず、SWCNTの直径を大きくすることが効果的である。すなわち、カーボンナノチューブの径が小さい場合には、断面積が小さいためにカーボンナノチューブを貫く磁束が少なくなり、磁場による光吸収の変調の度合いが小さくなる。そこで、カーボンナノチューブの径を大きくすると変化させると、断面積の増加により磁場による光吸収の変調の度合いを大きくさせることができる。この点については、吸収波長を一定に保持するという観点から図10から図13までを参照して後述する。
【0024】
ところで、図9は、室温において測定した吸収スペクトルのSWCNTのチューブ直径依存性を示す図であり、SWCNTのチューブ直径を0.95nm、1.20nm、1.30nm、1.40nmと変化させた場合の光子エネルギー0.5eVから2.5eVまでの吸収スペクトルを示す図である。平均的なチューブ直径の増大に伴い、第1のピークAと、第2のピークBと、第3のピークCと、のそれぞれが、吸収帯が低エネルギー側(長波長側)にシフトすることがわかる。SWCNTの径の変化(増大)に基づくシフトに対応するためには、光磁気スイッチング素子における信号光の波長を径の変化に応じてピーク位置と合うように調整することができる。
【0025】
但し、一般的には信号光の波長を調整するよりはむしろ、信号光の波長を一定にするのが好ましい。このような観点から、発明者は、SWCNTの径を大きくした場合には、磁気応答感度の向上と高速応答が得られるが、それに応じてピーク位置は長波長側へシフトするため、例えばそれまで用いていた第1のピークAの代わりに、より高次にピーク、すなわち第2のピークB又は第3のピークCを用いることを思いついた。図8(B)によれば、たとえば、使用したい波長が光ファイバ通信で用いられる1.55μm、すなわち、0.8eVであるとすると、チューブの直径がおよそ1nmの場合、ピークAが共鳴するのに対して、2.1nmのチューブではピークBが、3.1nm程度の直径のチューブではピークCが対応する。すなわち、直径の大きなチューブを用いることにより、使用する信号光の波長を替えることなく、より高感度に磁場に反応する吸収ピークを使用した光磁気スイッチング素子を作製することができる。この様子を実際に計算した結果を図10から図13に示す。
【0026】
図10から図12までは、SWCNTの径を1.04nm、2.10nm、3.12nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。これらの図を見るとわかるように、磁場を印加することによりピークが2つに分裂し、もとのピークが有った波長では吸収が減少することがわかる。例えば図10においては、吸収強度が650程度から100程度に減少していることがわかる。図11、図12に関しても同様の傾向のピーク変動が観測された。また、直径が大きなチューブほど、ピークが分裂するエネルギーΔEが大きくなっている。この分裂エネルギーが大きいほど、実際の素子では吸収変化が大きくなる。図13は、これらの様子をまとめて示す図である。Aバンドでは、10Tの磁場を印加した場合の波長0.8eV程度における吸収ピークの変動ΔEは、4.7meVであり、Bバンドでは10.5meVであり、Cバンドでは14.5meVである。このように、直径を大きくして、0.8eVに来るピークをAバンドからBバンド、そしてCバンドへと変えることにより、一定の磁場を加えた時のピークエネルギーの変化ΔEを大幅に大きくすることができ、磁場による吸収変化を大きくすることができる。これは、SWCNTの径が小さい場合には、断面積が小さいためにSWCNTを貫く磁束が少なくなり、磁場による光吸収の変調の度合いが小さくなるのに対して、カーボンナノチューブの径を大きくすることにより断面積が増加し磁場による光吸収の変調の度合いを変化させることができるためである。
【0027】
以上に説明したように、本実施の形態による光磁気スイッチング素子によれば、SWCNTの径を大きくすることにより吸収の磁気応答感度を向上させることができる。さらに、径を大きくすることにより変化した吸収ピークのエネルギー(波長)を、より高次側のバンドを用いることにより、一定になるように調整することができる。さらに、高次側のピークを用いることにより、光スイッチング応答速度も高めることができる。
【0028】
以上に説明した通り、上記の技術を用いると、光スイッチングの応答が高速になるため、高速光スイッチング素子を実現可能である。また、所望の波長帯における光磁気応答特性を向上させることができるため、カーボンナノチューブを用いた高感度な光磁気素子を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子及び光磁気スイッチング素子に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)はSWCNTの模式図でありチューブ軸方向にy軸をとっている。図1(b)は半導体ナノチューブの、図1(c)は金属ナノチューブのバンド構造と状態密度とを示す図である。
【図2】試料に関して吸収スペクトルおよびポンプ光による光励起で誘起される吸収変化を測定する方法(ポンプ・プローブ分光法)の測定系の概略構成を示す図である。
【図3】図3(a)は、SWCNTの平均的な径が1.22nmである場合における4.2Kで測定した吸収のエネルギー依存性を示すスペクトル図である。図3(b)は、ポンプ光が入射された直後にプローブ光により測定された吸収スペクトルの変化分を示す図である。
【図4】ピークAおよびCのそれぞれの吸収帯における吸収の変化ΔAが時間的に回復していく様子をあらわす図である。
【図5】SWCNTに対して信号光hνをSWCNTの延在方向に垂直な方向に照射し、磁場をSWCNTの延在方向と平行な方向に磁場を印加した光磁気スイッチング素子の簡略化された構成例を示す図である。
【図6】図5の配置において、磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)と磁場による吸収の変化(ΔA=A(10T)−A(0T))を示す図である。
【図7】SWCNTの延在方向と垂直な方向に磁場を印加した光磁気スイッチング素子の簡略化された構成例を示す図である。
【図8】図7における配置において、磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)と磁場による吸収の変化(ΔA=A(10T)−A(0T))を示す図である。
【図9】図9(A)は、室温において測定した吸収スペクトルのSWCNTのチューブ直径依存性を示す図であり、SWCNTのチューブ直径を0.95nm、1.20nm、1.30nm、1.40nmと変化させた場合の光子エネルギー0.5eVから2.5eVまでの吸収スペクトルを示す図である。図9(B)は、吸収ピーク位置とチューブ直径の関係を計算したものである。
【図10】SWCNTの径を1.04nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。
【図11】SWCNTの径を2.10nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。
【図12】SWCNTの径を3.12nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。
【図13】SWCNTの直径と磁場に基づく吸収の変化との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1…SWCNTからなる薄膜試料、3…ポンプ光、5…プローブ光、7…検出器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子及び光磁気スイッチング素子に関し、特にこれらの素子の応答速度、応答感度の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本格的なブロードバンド、デジタル家電の時代の到来とともに、大容量、高速通信のための要素技術の開発が望まれていた。テラビット/秒のデータ転送速度に対応するためには、光ファイバーを用いた通信が不可欠であり、その使用波長帯(1.5μm)で用いることができる光デバイス材料の探索は重要である。
【0003】
単層カーボンナノチューブは、その一次元性を反映して光学応答が増大し、大きな非線形光学特性を示すことが知られている。その時間応答は1psのオーダーであり、高速な光スイッチング特性を示す。半導体ナノチューブの遷移は光通信で用いられる波長(1.5μm)に対応しており、その波長で大きな非線形性を示すことは、光スイッチング素子として大きなアドバンテージとなっている。また、磁場による光の吸収に関する変調を行うことにより、光スイッチング素子としてだけでなく、記憶素子などの様々な分野への応用が可能になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子において、応答時間を早くすることが重要である。また、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子において、磁場に基づく吸収係数は、カーボンナノチューブの断面を貫く磁束の大きさに依存して変化する。一定の磁場(磁束密度)においては、カーボンナノチューブの径を大きくすることにより、カーボンナノチューブの断面積大きくなるため、磁場による吸収の変化が大きくなる。ところが、カーボンナノチューブの径を変化させると吸収波長が変化するためスイッチング素子として使用する波長帯からはずれてしまうという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子の応答速度を高速にすることである。本発明の他の目的は、カーボンナノチューブを用いた光磁気素子において、使用波長帯域を変更せずに磁場に対する吸収係数の変調を増大させるように調整する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボンナノチューブの光吸収に関しては、半導体的な性質を持つカーボンナノチューブによるフォトンエネルギーの低い(波長の長い)第1ピーク及び第2ピークと、金属的なカーボンナノチューブによるフォトンエネルギーの高い(波長の短い)第3ピークとが観測される。カーボンナノチューブの径を大きくすると、すべての吸収ピークは低エネルギー側(長波長側)にシフトし、目的とする波長領域から低エネルギー側の波長領域に向けてずれていく。
【0007】
ここで、光吸収に基づく光スイッチング素子について、以下の手段により課題を解決することが可能である。
1)カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子において、高次側(短波長側)のピークの吸収ピークを用いることにより、応答時間を早くすることができる。高次側のピークを用いたことによる吸収波長のずれを、カーボンナノチューブの径を大きくすることにより調整する。
【0008】
2)光磁気スイッチング素子について。
a)カーボンナノチューブの径が小さい場合には、断面積が小さいためにカーボンナノチューブを貫く磁束が少なくなり、磁場による光吸収の変調の度合いが小さくなる。そこで、カーボンナノチューブの径を大きくすると変化させると、断面積の増加により磁場による光吸収の変調の度合いを変化させることができる。
b)カーボンナノチューブの径を大きくすると、第1ピークは低エネルギー側にシフトし、目的とする波長領域から低エネルギー側の波長領域に向けてずれていく。そこで、径を変化させるとともに、第1のピークの変わりに第2又は第3のピークにおける光磁場応答特性を利用する。
【発明の効果】
【0009】
上記の技術を用いると、光スイッチングにおける応答速度を上げることができる。この際変化する吸収波長を、第1次ピークのみでなく高次側ピークを用いることにより調整することが可能となる。
【0010】
また、光磁気素子において、光磁気応答の感度を向上させるためにカーボンナノチューブの径を大きくする。この際に、吸収のピークが長波長側にずれる。そこで、高次側に吸収のピークを用いることにより吸収波長帯を所望の波長に調整することができる。このとき同時に光スイッチングによる高速応答も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と称する。)の電子構造の特徴は、その構造(カイラリティー)に依存して、金属にも半導体にもなること、構造の一次元性を反映した1次元電子構造が実現していること、にある。このような電子構造は光学遷移に強く反映され、例えば、光吸収の大きさを表す吸収係数α(E)の光子エネルギー依存性、すなわち光吸収スペクトルとして観測することができる。
【0012】
図1(a)はSWCNTの模式図でありチューブ軸方向にy軸をとっている。SWCNTをグラファイトの2次元シート(グラフェン)を丸めた円筒であると仮定すると、電子はこの円筒表面上を運動する。したがって、SWCNTでは、グラファイトの2次元並進運動のうち、1つの方向の運動はチューブ円周方向に局在した状態となる。もう1つの方向の運動は、チューブ軸方向(y方向)への自由な運動として残り、これが、ナノチューブの1次元電子状態を実現している。図1(b)は半導体ナノチューブの、(c)は金属ナノチューブのバンド構造と状態密度とを示す図である。運動の1次元性を反映して状態密度にはvan Hove特異性と呼ばれる発散が見られる。始状態、終状態のパリティ(π軌道かπ*軌道か、および角運動量量子数)と光電場の方向を考慮すれば、図1(b)および(c)中の矢印A,B、Cで示されるものが許容遷移となる。これらの遷移はSWCNTの擬一次元性による状態密度の発散に起因して、大きな遷移強度をもつ。金属及び半導体チューブが混在する通常のSWCNT試料の吸収スペクトルには、符号Aと符号Bとで示される半導体的なSWCNTの光学遷移と、符号Cで表される金属的なSWCNTの光学遷移とが観測される。
【0013】
次に、SWCNTの生成方法について簡単に説明する。アーク放電法やレーザーアブレーション法で生成されたカーボンナノチューブには、触媒金属やフラーレン、アモルファスカーボンなどが含まれているため、酸化などにより精製する。ラマンスペクトルの測定では、このような試料をそのまま使うことができるが、吸収スペクトルを測定するためには、薄膜の作成が必要となる。例えば、有機溶媒に分散させて、それを基板へ吹き付け溶媒を蒸発させることにより多数のSWCNTが含まれる薄膜を作成する。あるいは、ポリマー中に分散させてそれを引き延ばすことにより、SWCNTの方向が揃った配向試料を得ることもできる。
【0014】
図2は、多数のSWCNTが含まれる薄膜試料に関して吸収スペクトルおよびポンプ光による光励起で誘起される吸収変化を測定する方法(ポンプ・プローブ分光法)の概略構成を示す図である。図2に示すポンプ・プローブ分光法では、SWCNTからなる薄膜試料1に対して、SWCNTに対して照射されるポンプ光3と、光パルスによるプローブ光5と、が異なる方向から照射される。プローブ光5と検出器7とで光吸収を測定する。光パルスによるポンプ光3を試料1に照射することにより、試料1の光吸収が変化し、プローブ光5に対する吸収係数が変調される。プローブ光5の出射光強度の変化を測定することで、吸収スペクトルの変化を得ることができる。
【0015】
図3(a)は、SWCNTの平均的な直径が1.22nmである場合における4.2Kで測定した吸収スペクトルである。図に示すように、SWCNT薄膜試料の吸収には、半導体的なSWCNTによる吸収ピークが光子エネルギー0.7eV付近(ピークA)と、1.4eV付近(ピークB)に現れ、金属的なSWCNTによる吸収ピークが2.0eV付近(ピークC)に観測される。これらの吸収ピークは、図1(b)、(c)中に矢印A,B,Cで示される光学遷移に対応する。
【0016】
図3(b)は、ポンプ光が入射された直後にプローブ光により測定された吸収スペクトルの変化分である。ポンプ光により吸収ピークA,B,Cの吸収が減少していることがわかる。
【0017】
以下、上記光吸収特性を利用した本発明の第1の実施の形態による光スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。図3に示す光スイッチング素子において、SWCNTの高次側のピーク位置における波長を有する信号光を用いることを思いついた。
【0018】
図4は、上記ピークA,B,Cのそれぞれの吸収帯における吸収の変化ΔAが時間的に回復していく様子をあらわす図である。光子エネルギー0.79eV付近での半導体的チューブの吸収Aの変化は1ps程度の緩和時定数で回復していることがわかる。一方、金属的チューブの吸収Cでは、約0.2psの緩和時間を有している。このように、高次側、たとえば、金属的なチューブのピークCを用いて光スイッチングを行うことにより、スイッチング速度を高速化することができることがわかる。
【0019】
次に、本実施の形態の変形例について説明する。図9(A)は、室温において測定した吸収スペクトルのSWCNTのチューブ直径依存性を示す図であり、SWCNTのチューブ直径を0.95nm、1.20nm、1.30nm、1.40nmと変化させた場合の光子エネルギー0.5eVから2.5eVまでの吸収スペクトルを示す図である。平均的なチューブ直径の増大に伴い、第1のピークA、第2のピークB、および第3のピークCのそれぞれが、高低エネルギー側(長波長側)にシフトすることがわかる。この直径の変化に対する吸収ピーク位置の変化を計算した例を図9(B)に示す。例えば、使用したい波長が光ファイバ通信で用いられる1.55μm、すなわち、0.8eVのエネルギーであるとすると、半導体チューブによるピークAを使用するためには、チューブの直径はおよそ1nmが対応するのに対して、ピークBでは2.1nm、ピークCでは3.1nm程度の直径のチューブが対応する。すなわち、直径の大きなチューブを用いることにより、使用する信号光の波長を替えることなく、より高速に応答する高次側の吸収ピークを使用した光スイッチを作製することができる。
【0020】
次に、光磁気スイッチング素子への応用について説明を行う。磁場中における吸収スペクトルを測定した際の条件は、磁場が10Tであり、図示しない偏光吸収スペクトル測定装置によって磁気応答の測定を行った。
【0021】
以下、本発明の第2の実施の形態による光磁気スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。図5及び図7は、SWCNTに対して信号光hνをSWCNTの延在方向に垂直な方向(SWCNTに平行な偏光E)に照射し、図5ではSWCNTの延在方向に平行な方向に磁場Bを、図7ではSWCNTの延在方向と垂直な方向に磁場Bを印加した光磁気スイッチング素子の簡略化された構成例を示す図である。図6は図5の配置における光吸収の磁気応答特性例を示す図である。図6(A)は、図5における配置において磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)を示す。磁場により吸収スペクトルは変化している。この時の変化をわかりやすくするために、磁場による変化分を差スペクトル(ΔA=A(10T)−A(0T))として図6(B)に示す。図6(B)に示すように、吸収ピーク位置では吸収が大きく減少している。
【0022】
一方、図8(A)は、図7における配置において、磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)、(B)は磁場による変位(ΔA=A(10T)−A(0T))を示す図である。図8に示すように、この配置では10Tまで磁場を印加しても吸収の変化はほとんど無いことがわかる。すなわち、図5の配置では磁場により光吸収が変化し、SWCNTを透過する光が変調されることがわかる。この磁場による光吸収の変化は、SWCNT中における電子構造の磁場による変化に基づくものと予想される。このように、SWCNTにおける磁場に基づく吸収変化により、信号光に関して磁場を制御手段としたスイッチングを行うことができる。
【0023】
次に、本発明の第3の実施の形態による光磁気スイッチング素子について図面を参照しつつ説明を行う。理論的予測によれば、磁場による吸収変化はSWCNTの断面を貫く磁束の大きさ(磁場×断面積)に比例している。したがって、磁場による吸収の変化量を大きくするためには、まず、SWCNTの直径を大きくすることが効果的である。すなわち、カーボンナノチューブの径が小さい場合には、断面積が小さいためにカーボンナノチューブを貫く磁束が少なくなり、磁場による光吸収の変調の度合いが小さくなる。そこで、カーボンナノチューブの径を大きくすると変化させると、断面積の増加により磁場による光吸収の変調の度合いを大きくさせることができる。この点については、吸収波長を一定に保持するという観点から図10から図13までを参照して後述する。
【0024】
ところで、図9は、室温において測定した吸収スペクトルのSWCNTのチューブ直径依存性を示す図であり、SWCNTのチューブ直径を0.95nm、1.20nm、1.30nm、1.40nmと変化させた場合の光子エネルギー0.5eVから2.5eVまでの吸収スペクトルを示す図である。平均的なチューブ直径の増大に伴い、第1のピークAと、第2のピークBと、第3のピークCと、のそれぞれが、吸収帯が低エネルギー側(長波長側)にシフトすることがわかる。SWCNTの径の変化(増大)に基づくシフトに対応するためには、光磁気スイッチング素子における信号光の波長を径の変化に応じてピーク位置と合うように調整することができる。
【0025】
但し、一般的には信号光の波長を調整するよりはむしろ、信号光の波長を一定にするのが好ましい。このような観点から、発明者は、SWCNTの径を大きくした場合には、磁気応答感度の向上と高速応答が得られるが、それに応じてピーク位置は長波長側へシフトするため、例えばそれまで用いていた第1のピークAの代わりに、より高次にピーク、すなわち第2のピークB又は第3のピークCを用いることを思いついた。図8(B)によれば、たとえば、使用したい波長が光ファイバ通信で用いられる1.55μm、すなわち、0.8eVであるとすると、チューブの直径がおよそ1nmの場合、ピークAが共鳴するのに対して、2.1nmのチューブではピークBが、3.1nm程度の直径のチューブではピークCが対応する。すなわち、直径の大きなチューブを用いることにより、使用する信号光の波長を替えることなく、より高感度に磁場に反応する吸収ピークを使用した光磁気スイッチング素子を作製することができる。この様子を実際に計算した結果を図10から図13に示す。
【0026】
図10から図12までは、SWCNTの径を1.04nm、2.10nm、3.12nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。これらの図を見るとわかるように、磁場を印加することによりピークが2つに分裂し、もとのピークが有った波長では吸収が減少することがわかる。例えば図10においては、吸収強度が650程度から100程度に減少していることがわかる。図11、図12に関しても同様の傾向のピーク変動が観測された。また、直径が大きなチューブほど、ピークが分裂するエネルギーΔEが大きくなっている。この分裂エネルギーが大きいほど、実際の素子では吸収変化が大きくなる。図13は、これらの様子をまとめて示す図である。Aバンドでは、10Tの磁場を印加した場合の波長0.8eV程度における吸収ピークの変動ΔEは、4.7meVであり、Bバンドでは10.5meVであり、Cバンドでは14.5meVである。このように、直径を大きくして、0.8eVに来るピークをAバンドからBバンド、そしてCバンドへと変えることにより、一定の磁場を加えた時のピークエネルギーの変化ΔEを大幅に大きくすることができ、磁場による吸収変化を大きくすることができる。これは、SWCNTの径が小さい場合には、断面積が小さいためにSWCNTを貫く磁束が少なくなり、磁場による光吸収の変調の度合いが小さくなるのに対して、カーボンナノチューブの径を大きくすることにより断面積が増加し磁場による光吸収の変調の度合いを変化させることができるためである。
【0027】
以上に説明したように、本実施の形態による光磁気スイッチング素子によれば、SWCNTの径を大きくすることにより吸収の磁気応答感度を向上させることができる。さらに、径を大きくすることにより変化した吸収ピークのエネルギー(波長)を、より高次側のバンドを用いることにより、一定になるように調整することができる。さらに、高次側のピークを用いることにより、光スイッチング応答速度も高めることができる。
【0028】
以上に説明した通り、上記の技術を用いると、光スイッチングの応答が高速になるため、高速光スイッチング素子を実現可能である。また、所望の波長帯における光磁気応答特性を向上させることができるため、カーボンナノチューブを用いた高感度な光磁気素子を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、カーボンナノチューブを用いた光スイッチング素子及び光磁気スイッチング素子に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)はSWCNTの模式図でありチューブ軸方向にy軸をとっている。図1(b)は半導体ナノチューブの、図1(c)は金属ナノチューブのバンド構造と状態密度とを示す図である。
【図2】試料に関して吸収スペクトルおよびポンプ光による光励起で誘起される吸収変化を測定する方法(ポンプ・プローブ分光法)の測定系の概略構成を示す図である。
【図3】図3(a)は、SWCNTの平均的な径が1.22nmである場合における4.2Kで測定した吸収のエネルギー依存性を示すスペクトル図である。図3(b)は、ポンプ光が入射された直後にプローブ光により測定された吸収スペクトルの変化分を示す図である。
【図4】ピークAおよびCのそれぞれの吸収帯における吸収の変化ΔAが時間的に回復していく様子をあらわす図である。
【図5】SWCNTに対して信号光hνをSWCNTの延在方向に垂直な方向に照射し、磁場をSWCNTの延在方向と平行な方向に磁場を印加した光磁気スイッチング素子の簡略化された構成例を示す図である。
【図6】図5の配置において、磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)と磁場による吸収の変化(ΔA=A(10T)−A(0T))を示す図である。
【図7】SWCNTの延在方向と垂直な方向に磁場を印加した光磁気スイッチング素子の簡略化された構成例を示す図である。
【図8】図7における配置において、磁場を印加しない場合(0T)と磁場を印加した場合(10T)との光エネルギー0.6〜1.2eVにおける吸収スペクトル(Absorbance)と磁場による吸収の変化(ΔA=A(10T)−A(0T))を示す図である。
【図9】図9(A)は、室温において測定した吸収スペクトルのSWCNTのチューブ直径依存性を示す図であり、SWCNTのチューブ直径を0.95nm、1.20nm、1.30nm、1.40nmと変化させた場合の光子エネルギー0.5eVから2.5eVまでの吸収スペクトルを示す図である。図9(B)は、吸収ピーク位置とチューブ直径の関係を計算したものである。
【図10】SWCNTの径を1.04nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。
【図11】SWCNTの径を2.10nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。
【図12】SWCNTの径を3.12nmとした場合における磁場を印加しない場合(B=0T)と、磁場を印加した場合(B=10T)との吸収のピークを示す図である。
【図13】SWCNTの直径と磁場に基づく吸収の変化との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1…SWCNTからなる薄膜試料、3…ポンプ光、5…プローブ光、7…検出器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学特性を有するカーボンナノチューブからなる光学素子と、該光学素子に対して信号光を照射する第1の光源と、前記光学素子に対して制御光を照射する第2の光源と、を有する光スイッチング装置において、
前記光学素子に前記制御光を照射した際の光学吸収による前記透過信号光の変化を利用する際に光吸収応答を検出する対象とするピークをカーボンナノチューブで観測される複数のピークの中から選択して利用することを特徴とする光スイッチング装置。
【請求項2】
前記複数のピークは、半導体的性質を有する第1次ピークと、該第1のピークとはピーク位置が異なり半導体的性質を有する第2ピークと、前記第1及び第2のピークとはピーク位置の異なる金属的性質を有する第3ピークとを含むことを特徴とする請求項1に記載の光スイッチング装置。
【請求項3】
前記ピーク位置の異なるピークを利用する際に生じるピーク位置のずれを、前記カーボンナノチューブの径によりずれが小さくなる方向に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の光スイッチング装置。
【請求項4】
カーボンナノチューブの光吸収における前記カーボンナノチューブの延在方向と平行な方向に印加される磁場に対する変化を利用した光磁気スイッチング素子。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの光磁気応答特性に使用する吸収を、複数のピークの中から選択して利用することを特徴とする請求項4に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項6】
前記複数のピークのうちからより高次側のピークを選択して利用することを特徴とする請求項4又は5に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項7】
さらに、磁場に対する応答感度を調整するために前記カーボンナノチューブの径の調整することを特徴とする請求項4から6までのいずれか1項に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの径の調整に応じて変化する吸収波長を使用するピークを変更することにより調整することを特徴とする請求項7に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項9】
さらに、ピーク変更による吸収波長のずれを径により微調整することを特徴とする請求項8に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項1】
非線形光学特性を有するカーボンナノチューブからなる光学素子と、該光学素子に対して信号光を照射する第1の光源と、前記光学素子に対して制御光を照射する第2の光源と、を有する光スイッチング装置において、
前記光学素子に前記制御光を照射した際の光学吸収による前記透過信号光の変化を利用する際に光吸収応答を検出する対象とするピークをカーボンナノチューブで観測される複数のピークの中から選択して利用することを特徴とする光スイッチング装置。
【請求項2】
前記複数のピークは、半導体的性質を有する第1次ピークと、該第1のピークとはピーク位置が異なり半導体的性質を有する第2ピークと、前記第1及び第2のピークとはピーク位置の異なる金属的性質を有する第3ピークとを含むことを特徴とする請求項1に記載の光スイッチング装置。
【請求項3】
前記ピーク位置の異なるピークを利用する際に生じるピーク位置のずれを、前記カーボンナノチューブの径によりずれが小さくなる方向に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の光スイッチング装置。
【請求項4】
カーボンナノチューブの光吸収における前記カーボンナノチューブの延在方向と平行な方向に印加される磁場に対する変化を利用した光磁気スイッチング素子。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの光磁気応答特性に使用する吸収を、複数のピークの中から選択して利用することを特徴とする請求項4に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項6】
前記複数のピークのうちからより高次側のピークを選択して利用することを特徴とする請求項4又は5に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項7】
さらに、磁場に対する応答感度を調整するために前記カーボンナノチューブの径の調整することを特徴とする請求項4から6までのいずれか1項に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの径の調整に応じて変化する吸収波長を使用するピークを変更することにより調整することを特徴とする請求項7に記載の光磁気スイッチング装置。
【請求項9】
さらに、ピーク変更による吸収波長のずれを径により微調整することを特徴とする請求項8に記載の光磁気スイッチング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−11063(P2006−11063A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188379(P2004−188379)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電子通信回線での学会プログラム・抄録発表 学会名:27th International Conference on the Physics of Semiconductors(ICPS−27) 電子通信回線掲載日:平成16年5月1日 掲載アドレス:http://www.icps2004.org/baps/abs/S760.html
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電子通信回線での学会プログラム・抄録発表 学会名:27th International Conference on the Physics of Semiconductors(ICPS−27) 電子通信回線掲載日:平成16年5月1日 掲載アドレス:http://www.icps2004.org/baps/abs/S760.html
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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