説明

カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物、その製造方法、及び、成形用樹脂組成物

【課題】 ポリスチレン、ポリカーボネートをはじめとする各マトリクス樹脂に対し優れた相溶性、分散性、加工性を保持しながら、カーボンナノチューブの添加を少量に抑制し、高度な導電性と耐汚染性を付与したカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物、および製造法を提供すること。
【解決手段】 乳化剤水溶液中に分散したスチレン系単量体を含む単量体混合物を、カーボンナノチューブ存在下、懸濁重合することによって得られることを特徴とするカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物、該カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを、スチレン系単量体を含む単量体混合物に分散させた後、これを乳化剤水溶液に機械分散を行った後、水中で(懸濁)重合することによって得られるカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物、および製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形加工材料で使用される汎用樹脂は、導電性の低い材料であり、一般的には、1014〜1016Ω・cmの抵抗値を示す絶縁材料である。これらの樹脂は、電気的絶縁性が要求される用途においては有用であるが、帯電防止などの導電性が要求される用途では、樹脂にある程度の導電性を付与する必要が生じる。絶縁性のある樹脂に導電性を付与させる一般的な方法として、樹脂中に導電性材料を分散させ、成形体にした際に帯電しないようにしている。導電性材料としては、金属繊維・粉末、カーボンブラック(CB)、グラファイト、カーボンファイバー(CF)、カーボンナノチューブ(CNT)などが使用されている。
【0003】
導電性材料をできるだけ少量添加して、成形体に導電性を付与する方法として、フィブリルの直径が3.5〜70nm、直径の5倍以上の長さのものが絡みあった導電性繊維状物の凝集体で、その最直径が、0.25mm以下で、径が0.10〜0.25mmの凝集体を少ない添加量で樹脂に添加して、成形物に高導電性を付与させる樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、カーボンナノチューブをプラズマ処理し、該カーボンナノチューブの外表面の炭素に対する酸含有量が2重量%以上とした材料を樹脂に低添加量添加して、高導電性を発現する成形物を与える樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、カーボンナノチューブの樹脂への分散性改良を目的として、常温(25℃)・常圧(1atm)で液状であるエステル分散剤を添加することで、導電性の改良を行う方法も開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2のような導電性材料の添加により、樹脂組成物に高い導電性を付与するためには、まだまだ添加量を多くする必要がある。導電性材料の添加量を多くすると、樹脂の成形加工性や成形物の各種物性が損なわれる問題がある上、樹脂成形物の表面に存在する導電性材料の確率が高くなることで、成形物が摩擦する際に導電性粒子が脱落し、脱落した導電性粒子が環境汚染を生じる可能性がある。特に成形物が電子機器包装材料の場合は、包装された電子機器に損傷を与える可能性がある。このような課題に対し、導電性材料を少なくする工夫として特許文献3のように導電性材料の分散を向上させるための液状の添加剤を加えた場合、成形体の耐熱性低下や強度劣化を生じたり、添加剤のブリードアウトによる成形体や金型自体への汚染が生じる問題があるほか、より高度な導電性、たとえばCNT重量比率が0.5〜1.0%にて成形体の導電性を10^5Ω・cm以下を得ることは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−074465号公報
【特許文献2】特開2003−306607号公報
【特許文献3】特開2007−77370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、ポリスチレン、ポリカーボネートをはじめとする各マトリクス樹脂に対し優れた相溶性、分散性、加工性を保持しながら、カーボンナノチューブの添加を少量に抑制し、高度な導電性と耐汚染性を付与したカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物、および製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブにスチレン系単量体を含む単量体混合物を添加し予備分散後に、これを乳化剤水溶液に機械分散を行った後、水中で(懸濁)重合することによって得られるカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物が、各マトリクス樹脂に対する相溶性、分散性、成形性、耐汚染性を損なわない上に、成形後に良好な導電性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記(I)〜(III)の工程からなることを特徴とするカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物の製造方法。
(I)カーボンナノチューブをスチレン系単量体を含む単量体混合物に分散させ、カーボンナノチューブ含有スチレン系単量体組成物を得る工程。
(II)前記カーボンナノチューブ含有スチレン系単量体組成物と乳化剤水溶液とを機械分散を行いカーボンナノチューブ含有スチレン系単量体水分散液を得る工程。
(III)前記カーボンナノチューブ含有スチレン系単量体水分散液に触媒を添加して懸濁重合してカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物を得る工程を提供する。
【0009】
また、本発明は乳化剤水溶液中に分散したスチレン系単量体を含む単量体混合物を、カーボンナノチューブ存在下、懸濁重合することによって得られることを特徴とするカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物をも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、各マトリクス樹脂への相溶性、分散性、成型加工性に優れ、得られる成形体は高導電性・機械的強度・耐汚染性が良好である。従って、成形体を得る場合においても、導電性材料の少量添加による脱離の減少・ブリードアウト物の減少により、電気・電子用部品用途等に好適に用いることができる。また、添加剤無添加で導電性材料の高分散が可能であることから、成形時の金型汚染機会の減少による生産性の向上も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で使用するカーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて円筒状にした形状を有しており、そのグラファイト層の1層で巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、2層以上で巻いた多層カーボンナノチューブのいずれでも良いが、多層カーボンナノチューブであることが好ましく、10〜50層の多層カーボンナノチューブであることがより好ましい。多層であることにより、樹脂との親和性及びカーボンナノチューブ由来の特性の両立を発現させることがより可能となる。
【0012】
上述したカーボンナノチューブの特性は、樹脂に配合した場合の樹脂特性の改良効果という両特性を具備するものとして、多層カーボンナノチューブの中で、10〜50層のカーボンナノチューブが好ましく、具体的には、直径20nm以下の多層カーボンナノチューブが好ましい。
【0013】
本発明で用いる好ましい多層カーボンナノチューブは、10〜50層のカーボンナノチューブが全カーボンナノチューブ中に50重量%以上含まれるものである。その同定方法としては、カーボンナノチューブやカーボンナノチューブを含む樹脂組成物の超薄切片を20万倍以上の透過型電子顕微鏡で観察した際に、その顕微鏡の視野中に見られる繊維状のナノチューブの本数の中で10〜50層のカーボンナノチューブが50%以上あれば良い。
【0014】
カーボンナノチューブの特徴である円筒状のグラファイト構造は、高分解能透過型電子顕微鏡で調べることが可能である。グラファイト層は、透過型顕微鏡でまっすぐにはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層は乱れていても構わない。グラファイト層が乱れたものは、カーボンナノファイバーと定義することがあるが、このようなカーボンナノファイバーも本発明においては、カーボンナノチューブに含むものとする。
【0015】
本発明で用いるカーボンナノチューブは、一般にレーザーアブレーション法、アーク放電、熱CVD法、プラズマCVD法、気相法、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。
【0016】
また、カーボンナノチューブを樹脂中に分散させるのに、カーボンナノチューブをカップリング剤で予備処理して使用することも好ましい。かかるカップリング剤としては、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明において以上の如きカーボンナノチューブは、樹脂組成物に対し0.1〜10重量%の割合で使用することが好ましい。カーボンナノチューブの使用量を、0.1重量%以上入れることで、得られる樹脂組成物からなる成形物の導電性を帯電防止に有効なレベルまで向上させることが可能であり、一方、カーボンナノチューブの使用量が10重量%以内であれば、機械的物性の劣化が起こらない上に経済的に好ましい。特に好ましくは、カーボンナノチューブの含有量が3重量%以下であり、この場合マトリクス樹脂をスチレン系樹脂あるいはポリカーボネート樹脂を組み合わせたことによるカーボンナノチューブの分散性改良による導電性向上の効果が特に顕著である。
【0018】
〔カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)〕
本発明で用いるカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)(以下、単にスチレン系樹脂組成物(A)と称する)は、スチレン系単量体を含む単量体混合物、カーボンナノチューブ、及び必要により有機溶剤を予備混合し、その後、超音波ホモジナイザー及び機械的攪拌を行い、これを乳化剤水溶液に機械分散を行った後、熱分解開始剤により、水中で(懸濁)重合することによって得られる。
【0019】
該予備混合工程においては、カーボンナノチューブを「微分散状態」にすることが必要である。一般にカーボンナノチューブは、糸毬状に絡まった形態をしている。微分散状態とは、糸毬状のカーボンナノチューブがほぐれて個別のカーボンナノチューブが発生する状態をいう。通常これを発現させるためには、スチレン系単量体を含む単量体混合物がチューブの内外に浸透し、高分散エネルギーを加えることが必要となる。この場合、高分散エネルギーを加える方法としては、超音波ホモジナイザーが好適である。また、微分散状態の可否は、カーボンナノチューブとスチレン系単量体を含む単量体混合物のスラリー粘度上昇により確認することができる。
【0020】
また、本発明で用いるカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物は、スチレン系単量体を含む単量体とカーボンナノチューブの混合物を乳化剤水溶液中に機械分散を行い、重合することで得られる。
【0021】
この場合の重合反応は、水中で行い、得られる樹脂組成物の粒子径は、スチレン系単量体を含む単量体とカーボンナノチューブの混合物の乳化剤水溶液における分散粒子径に依存する。この場合、上記単量体とカーボンナノチューブの混合物の乳化剤水溶液での機械分散工程における分散後の粒子径は、乳化剤水溶液中の乳化剤量、及び分散条件、即ち使用する分散機械種(高速ラインミキサー、マイクロフルイダイザー等)、及び分散条件(高速ラインミキサーであれば回転数、マイクロフルイダイザーであれば圧力、及び単位体積あたりの処理時間)によって、主に決定される。
【0022】
得られる樹脂組成物の粒子径は、各マトリクス樹脂に対する相溶性、分散性、成形性、耐汚染性、並びに成形後の良好な導電性を考慮すると、0.1μ〜20mmの範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明で用いることのできるスチレン系単量体としては、例えば以下の物が挙げられる。スチレン及びその誘導体;例えばスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレンの如きアルキルスチレン、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレンの如きハロゲン化スチレン、更にニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等がある。
【0024】
また、スチレン系単量体と混合する単量体としては、スチレン系単量体と共重合できる単量体であればよく、特に(メタ)アクリル系単量体を使用することが好ましい。例えば、メタクリ酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル等が挙げられる。
【0025】
さらに、本発明では、流動性改良や容易な高分子量を達成させるために、多分岐状のマクロモノマーを使用しても良い。
【0026】
多分岐状マクロモノマーの例として、エステル結合、エーテル結合又はアミド結合を有する構造単位を繰り返すことによって形成する分岐構造と、分岐末端に1分子中2個以上の重合性二重結合とを有する多分岐状マクロモノマーを挙げることができる。
【0027】
エステル結合を有する構造単位を繰り返して分岐構造を形成した多分岐状マクロモノマーは、分子鎖を形成するエステル結合のカルボニル基に隣接する炭素原子が4級の炭素原子である多分岐状ポリエステルポリオールに、ビニル基またはイソプロペニル基などの重合性二重結合を導入したものを好ましい態様として挙げることができる。多分岐状ポリエステルポリオールに重合性二重結合を導入するには、エステル化反応や付加反応によって行なうことができる。
【0028】
エーテル結合を有する構造単位を繰り返して分岐構造を形成した多分岐状マクロモノマーとしては、例えば、ヒドロキシ基を1個以上有する化合物に、ヒドロキシ基を1個以上有する環状エーテル化合物を反応させることにより多分岐状のポリマーとし、次いで該ポリマーの末端基であるヒドロキシ基にアクリル酸やメタクリル酸などの不飽和酸、イソシアネート基含有アクリル系化合物、4−クロロメチルスチレンなどのハロゲン化メチルスチレンを反応させて得られるものが挙げられる。また、該多分岐状ポリマーの製法としては、Williamsonのエーテル合成法に基づいて、ヒドロキシ基を1個以上有する化合物と、2個以上のヒドロキシ基とハロゲン原子、−OSOOCH又は−OSOCHを含有する化合物とを反応する方法も有用である。
【0029】
これらの多分岐状マクロモノマーを用いたスチレン系樹脂については、本発明者らより既に、特開2003‐292707号公報及び特開2005‐53939号公報等にて詳細に述べられているので、それらを参考として製造することができる。
【0030】
また、アミド結合を有する構造単位を繰り返して分岐構造を形成した多分岐状マクロモノマーとしては、例えば、分子中に窒素原子を介してアミド結合を繰り返し構造に有するものがあり、Dentoritech社製のゼネレーション2.0(PAMAMデントリマー)が代表的なものである。
【0031】
重合反応での反応物の粘性を低下させるために、反応系に有機溶剤を添加してもよく、その有機溶剤としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アセトニトリル、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0032】
前記ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過流酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過流酸塩類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキサイド、ジシナモイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシイシプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類、N,N’−アゾビスイソブチルニトリル、N,N’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、N,N’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、N,N’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、N,N’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
さらに、場合によっては、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム等、還元剤を併用することも可能である。
【0034】
更に、得られる樹脂混合物の分子量が過度に大きくなりすぎないように連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、連鎖移動基を1つ有する単官能連鎖移動剤でも連鎖移動基を複数有する多官能連鎖移動剤でも使用できる。単官能連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸エステル類等が挙げられる。多官能連鎖移動剤としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール中のヒドロキシ基をチオグリコール酸または3−メルカプトプロピオン酸でエステル化したもの等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物には、その他の各種添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤、充填剤、着色剤、難燃剤などの各種添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0036】
〔カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)の作成について〕
本発明に用いるカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)を得るには、カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)を脱水して得られるが、具体的な方法としては、遠心分離、熱風乾燥、スプレードライ等が挙げられる。
【0037】
この場合、カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)よりフリー乳化剤を除去するためには、遠心分離を行うか、使用する乳化剤に反応性乳化剤を使用することで達成できる。
【0038】
本発明のカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物は、例えば、前述の製造方法で得られるカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)、またはカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物(B)を用いることができる。
【0039】
カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物を後述する熱可塑性樹脂(マトリクス樹脂の混練方法〕
本発明で用いる混練方法については、一般的に用いられる方法が利用可能である。例えば、カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)とマトリクス樹脂を熱混練してブレンドする方法、カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)をドライアップし、マトリクス樹脂をドライブレンド後、熱混練する方法などが挙げられる。また、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物(A)は単体でも熱混練し、成型物を得ることも可能である。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物は後述する熱可塑性樹脂(マトリクス樹脂)と混練することで、本発明の成形用樹脂組成物を得ることができる。
【0041】
前記熱可塑性樹脂としては、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物と混練可能な樹脂であれば、特に限定されないが、例えば、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0042】
また、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物と熱可塑性樹脂(マトリクス樹脂)との混合比率は、熱可塑性樹脂100重量部当たり、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物の固形分5〜300重量部であることが、成形体の機械強度が低下せず、且つ、帯電防止性に顕著な効果を奏することから好ましい。
【0043】
前記マトリクス樹脂については、スチレン系樹脂(d)、ポリカーボネート系樹脂(e)であれば、分子量、組成等に関する規定はなく、通常汎用的に用いるものであれば、使用可能である。
【0044】
スチレン系樹脂(d)としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリメチルスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)、ABS樹脂とポリカーボネイトのアロイ、ABS樹脂とポリエステル系樹脂のアロイ、ABS樹脂とポリアミド系樹脂のアロイ、ポリスチレンとポリフェニレンオキサイドのアロイ等のスチレン系樹脂等が挙げられる。
【0045】
なお、スチレン系樹脂(d)の重量平均分子量としては、前記カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂(a)の重量平均分子量(Mwa)及びマトリクス樹脂としてのスチレン系樹脂(d)の重量平均分子量(Mwd)との差〔(Mwd)−(Mwa)〕が±10万〜35万であることが好ましい。スチレン系樹脂(a)が、スチレン系樹脂(b)よりも低分子量の場合は、スチレン系樹脂(a)については、10万〜25万が好ましく、スチレン系樹脂(B)については、25万〜50万が好ましい。また、スチレン系樹脂(a)が、スチレン系樹脂(b)よりも高分子量の場合は、スチレン系樹脂(A)については、25万〜50万が好ましく、スチレン系樹脂(B)については、10万〜25万が好ましい。
【0046】
また、ポリカーボネート系樹脂(e)としては、例えば、ビスフェノールA等の芳香族ジオール類とホスゲンもしくはカーボネートエステル類とを反応させて得られる樹脂であれば特に限定されない。これらの中でも、ビスフェノールAのポリカーボネートが好ましく、成形物を得るには、粘度平均分子量(M)が10000〜40000であることが好ましく、更に好ましくは15000〜36000、特に好ましくは18000〜35000である。分子量がこの範囲であれば、成形性が良好な成形用樹脂組成物が得られる。
【0047】
なお、前記粘度平均分子量(M)は下記の方法で求めることができる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂0.7gをそれぞれ塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(例えば、ウーベローデ粘度計で)を測定し、下記式から算出したものである。(なお、濃度を2点以上変えて[η]を算出してもよい。)
ηsp/c=[η]+0.45×[η]
[η]=1.23×10−40.83
ηsp:比粘度、η:極限粘度、c:定数(=0.7)、M:粘度平均分子量
【0049】
本発明のカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物(a)、樹脂組成物(d)、樹脂組成物()は、種々の方法で成形して成形品として用いることが可能である。成形方法としては、射出成形、押出成形、プレス成形などが挙げられる。成形品には、射出成形品、シート、未延伸フィルム、延伸フィルム、異形押出品などの押出成形品、繊維などが挙げられる。発泡成形、2色成形、インサート成形、アウトサート成形、インモールド成形などの種々の複合成形技術を適合することも可能である。また、本発明の樹脂組成物すべてを溶液あるいはけん濁液としてペースト・塗料・コーティング剤として用いることも可能である。
【0050】
また、本発明の成形用樹脂組成物は、導電性樹脂を得ることができる。該導電性樹脂の製造において、導電物質として、カーボンナノチューブに加えて、微粒子の酸化インジウムや酸化スズあるいは他の導電性カーボンや金属微粒子を併用して用いることができる。これらは、上記のカーボンナノチューブのモノマー等への微分散操作時にカーボンナノチューブとともに添加することが望ましい。
【0051】
また、前記導電性樹脂の製造において、導電物質として、カーボンナノチューブに加えて、微粒子の酸化インジウムや酸化スズあるいは他の導電性カーボンや金属微粒子を併用して用いることができる。これらは、上記のカーボンナノチューブのモノマー等への微分散操作時にカーボンナノチューブとともに添加することが望ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。本発明はもとより、これらの実施例の範囲に限定されるべきものではない。以下、「部」「%」は特に断りのない限り、重量基準である。
【0053】
〔スチレン系樹脂の分子量測定(GPC測定条件)〕
GPC測定を、高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製HLC−8220GPC)、RI検出器、TSK gel G6000H×1+G5000H×1+G4000H×1+G3000H×1+TSK guard column H×1、溶媒THF、流速1.0ml/分、温度40℃の条件にて行った。尚、スチレン系樹脂(A)については、THFに溶解後、ろ紙でろ過した後、0.5μmのフィルターを通した後に測定を行った。
【0054】
〔重合前の予備混合、分散〕
スチレン系単量体混合物とカーボンナノチューブ(Nanocyl 7000)を2Lのフラスコに入れ、氷浴中で、超音波ホモジナイザー(出力300W、日本精機製作所 US−300T)と攪拌装置を用いて120分間処理を行い、混合スラリーを得た。
〔カーボンナノチューブ/スチレン系単量体のスラリー混合物の、乳化剤水溶液への微分散工程〕
2Lのフラスコに乳化剤水溶液と上記スラリー混合物を入れ、高速ホモジナイザー〔PRIMIX社製〕9000回転かけた状態で10分間微乳化分散を行った。
【0055】
〔重合装置・方法〕
3LのSUS304の釜にダブルヘリカル翼を備え、ガラスの表蓋にリービッヒ冷却管を付設した装置を用いて重合した。
【0056】
〔カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)の乾燥方法〕
箱型熱風乾燥機に重合サンプルをステンレス製バットに入れ、80℃にて240時間乾燥し、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)を得た。
【0057】
〔カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)とマトリクス樹脂(スチレン系樹脂(D)、ポリカーボネート系樹脂(F))のブレンド方法〕
ラボプラストミル(東洋精機製:スクリューR-60)を用いて、230℃(5分)、100回転/分で10分混練し、サンプルを得た。
【0058】
〔サンプル片の調整〕
上記ブレンド方法で得られたサンプルを熱プレス(220℃)で成形することにより、厚さ3mmの試験片を得た。
【0059】
〔導電性の測定〕
上記条件で得られたサンプルについて、三菱化学製LorBta‐EP MCP‐T360(10Ω・cm以下)、シムコ製ST‐3(107Ω・cm以上)を用いて測定した。
【0060】
〔添加剤ブリードアウト及び成形性評価〕
住友重機械工業(株)製 射出成形機MINIMAT 14/7B を使用し、180〜220℃で樹脂を溶解し、横65mm×縦13mm×厚さ3mmの金型によるダンベル片を連続10ショットした後の金型汚れ及び成形性の評価を行った。(金型によるダンベル片を連続10ショットした後の金型汚れおよび成形性を目視で確認。(汚れ:少ないものを○、汚れが若干多いものを△、汚れが多いものを×、成形性:問題なく成形できるものを○、成形不良を起こすものを×とした。))
【0061】
(カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)の合成)
フラスコに昭和電工(株)製多層カーボンナノチューブ(Nanocyl 7000)(約10nm×約1.5μm)を20gとスチレンモノマーを980g、パーブチルO(日本油脂(株)製)5gを加え5分攪拌した。その後、フラスコを氷浴及び攪拌しながら、120分間、超音波ホモジナイザー(300w)で分散させた。分散させた混合スラリーと乳化剤水溶液(イオン交換水300にアデカリアソープSR−1025:200g、アデカリアソープER−20:100gを溶解したもの)と混合後、PRIMIX社製ホモジナイザーにて9000回転、10分間微分散を行った。
【0062】
3Lフラスコにイオン交換水を400g入れ、60℃まで昇温した。その後、上記微分散物と、還元剤水溶液(二亜硫酸ナトリウム5gのイオン交換水50g溶解液)を約1.5時間かけて並行滴下し、懸濁重合を行った。反応温度は60〜65℃の範囲にて制御した。得られた水性樹脂組成物の粒子径は0.1μ〜5.0mmと広範囲で生成した。(おもなものは0.1〜0.5μと0.5〜5.0mm)
不揮発分測定による重合率は、99%以上であった。なお、カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)中のスチレン系樹脂の重量平均分子量25万であった。
【0063】
(カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)の製作)
上記カーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)をステンレス製バットに入れ、箱型熱風乾燥機で80℃にて240時間乾燥し、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)を得た。
【0064】
〔実施例1〕
上記で得られたカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)(不揮発分約55%)91部、重量平均分子量38万のホモポリスチレン50部をトリミックスにて混練、揮発を行い、ブレンド物を得た。その後、ラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ4.5×10Ω・cmであった。
【0065】
〔実施例2〕
上記で得られたカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)(不揮発分約55%)91部、粘度平均分子量(M)3万のポリカーボネート50部をトリミックスにて混練、揮発を行い、ブレンド物を得た。その後、ラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ3.5×10Ω・cmであった。
【0066】
〔実施例3〕
上記で得られたカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)50部、重量平均分子量38万のホモポリスチレン50部をドライブレンド後、上記条件によりラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ5.5×10Ω・cmであった。
【0067】
〔実施例4〕
上記で得られたカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂(B)50部、粘度平均分子量3.5万のポリカーボネート50部をドライブレンド後、上記条件によりラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ3.7×10Ω・cmであった。
【0068】
〔比較例1〕
昭和電工(株)製多層カーボンナノチューブ(Nanocyl 7000)(約10nm×約1.5μm) を1部とエキセパールPE−MO(ポリオキシエチレンビスフェノールAのラウリン酸エステル:花王(株)製)の1部、重量平均分子量38万のホモポリスチレンを98部ブレンド後、上記条件によりラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ6.5×10Ω・cmであった。
【0069】
〔比較例2〕
昭和電工(株)製多層カーボンナノチューブ(Nanocyl 7000)(約10nm×約1.5μm) を1部とトリメリックスN(トリメリット酸トリノルマルアルキルエステル:花王(株)製)の1部、重量平均分子量38万のホモポリスチレンを98部ブレンド後、上記条件によりラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ3.0×1010Ω・cmであった。
【0070】
〔比較例3〕
昭和電工(株)製多層カーボンナノチューブ(Nanocyl 7000)(約10nm×約1.5μm)を1部とエキセパールPE−MO(ポリオキシエチレンビスフェノールAのラウリン酸エステル:花王(株)製)の1部、粘度平均分子量3万のポリカーボネートを98部ブレンド後、上記条件によりラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ2.5×10Ω・cmであった。
【0071】
〔比較例4〕
昭和電工(株)製多層カーボンナノチューブ(Nanocyl 7000)(約10nm×約1.5μm) を1部とトリメリックスN(トリメリット酸トリノルマルアルキルエステル:花王(株)製)の1部、粘度平均分子量3.5万のポリカーボネートを98部ブレンド後、上記条件によりラボプラストミルで混練し、樹脂組成物を得た。得られたサンプルを上記条件でプレス成形し、導電性を測定したところ9.0×10Ω・cmであった。
【0072】
〔ブリードアウト及び成形性評価〕
実施例1〜4、比較例1〜4
実施例1,2,3,4、比較例1,2,3,4の樹脂組成物について、先に記載の手法により、金型汚れ及び成形性の評価を行った。(金型によるダンベル片を連続10ショットした後の金型汚れおよび成形性を目視で確認。(汚れ:少ないものを○、汚れが若干多いものを△、汚れが多いものを×、成形性:問題なく成形できるものを○、成形不良を起こすものを×とした。))
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
以上より、カーボンナノチューブにスチレン系単量体を含む単量体混合物を添加し、機械的予備分散後に重合したカーボンナノチューブ分散スチレン系樹脂と分子量差のあるスチレン系樹脂とを混練する方法、及び低分子量スチレン系樹脂と高分子量スチレン系樹脂を用いてカーボンナノチューブを樹脂中に分散させる方法で得られる樹脂組成物は、同量のカーボンナノチューブを添加した分子量差の少ない樹脂組成物と比較すると、成形性や耐汚染性を損なうことなく、成形後の導電性をCNT含有量1重両部にて1.0×10Ω・cm以下の良好な数値を実現できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤水溶液中に分散したスチレン系単量体を含む単量体混合物を、カーボンナノチューブ存在下、懸濁重合することによって得られることを特徴とするカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物と熱可塑性樹脂とを含有する成形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、粘度平均分子量10000〜50000のポリカーボネート樹脂である請求項2記載の成形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂(d)であって、且つ、カーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂(a)の重量平均分子量(Mwa)とスチレン系樹脂(b)の重量分子量(Mwb)との差が10万〜35万である請求項2記載の成形用樹脂組成物。
【請求項5】
下記(I)〜(III)の工程からなることを特徴とするカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)の製造方法。
(I)カーボンナノチューブをスチレン系単量体を含む単量体混合物に分散させ、カーボンナノチューブ含有スチレン系単量体組成物を得る工程。
(II)前記カーボンナノチューブ含有スチレン系単量体組成物と乳化剤水溶液とを機械分散を行いカーボンナノチューブ含有スチレン系単量体水分散液を得る工程。
(III)前記カーボンナノチューブ含有スチレン系単量体水分散液に触媒を添加して懸濁重合してカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)を得る工程。
【請求項6】
前記工程(II)において、高速ラインミキサーを用いる請求項5記載のカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6で得られたカーボンナノチューブ含有スチレン系水性樹脂組成物(A)から乳化剤と水を除去したカーボンナノチューブ含有スチレン系樹脂組成物(B)の製造方法。

【公開番号】特開2011−236265(P2011−236265A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106349(P2010−106349)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】