説明

カーボンナノチューブ形成用基板複合体及びその製造方法、並びに、カーボンナノチューブ複合体及びエネルギーデバイスの製造方法

【課題】高い合成速度でカーボンナノチューブを表面に形成でき、かつ合成されたカーボンナノチューブが剥離しにくいカーボンナノチューブ形成用基板複合体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体であって、基板と、
前記基板の少なくとも一方の表面に配置され、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層と、前記バッファ層の表面に配置され、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ形成用基板複合体及びその製造方法、並びに、カーボンナノチューブ複合体及びエネルギーデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーデバイスは、エネルギー蓄積デバイスとエネルギー発電デバイスに大きく分けることができる。従来、エネルギー蓄積デバイスとして代表的なものに、電気化学キャパシタ、及び、電池があり、それぞれの特徴を生かした市場において既に使用されている。電気化学キャパシタにはさらに、活性炭を分極性電極活物質として用い、活性炭の細孔表面と電解液との界面に形成される電気二重層を利用した電気二重層キャパシタや、硝酸ルテニウムなど連続的に価数が変化する遷移金属酸化物やドーピング可能な導電性高分子を用いたレドックスキャパシタなどがある。また電池は、活物質のインターカレーションや化学反応を利用し充放電が可能な二次電池と、基本的に1度放電してしまえば再充電不可能な一次電池に大別される。
【0003】
このような種々のエネルギー蓄積デバイス全てに共通する最も基本的な構成は、その原理上エネルギーを放出可能な電極活物質である。この電極活物質に蓄積されたエネルギーを外部に取り出すため、電子伝導性を持ち電極活物質と電気的に接続された集電体(導電体)がさらに必要となる。集電体は、電極活物質のエネルギーを高効率で伝達する必要があるため、一般的にアルミニウム、銅、ステンレスなど非常に抵抗の低い金属材料が用いられる。しかし、硫酸水溶液など金属腐食性を持つ電解液を使用する場合には、導電性を付与したゴム系材料などが用いられる場合がある。
【0004】
近年、エネルギー蓄積デバイスの用途が大きく広がるに従い、より低抵抗で、大電流の放電が可能な優れた特性を持つものが要求されてきている。これらの特性は、まずエネルギー蓄積デバイスの中で原理的に最も抵抗の低い電気二重層キャパシタに求められ、電極活物質と集電体の接合面に炭素系導電層を設けることによって実現された。電気二重層キャパシタにおいては、電極活物質中の電子抵抗が他の二次電池と比較して低いため、電極活物質と集電体間の接触抵抗がデバイスの抵抗に対して無視できないほどの割合を占めていたからである。現状では同様な傾向がリチウム2次電池においても追求されようとしている。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、一端が集電体に接続したカーボンナノチューブを電極活物質に用いたエネルギーデバイスが検討されている(例えば特許文献1を参照)。カーボンナノチューブは直径が最小0.4nmで、長さが最大4mmの中空状炭素材料である。カーボンナノチューブの一端が基板に接続された構成を有するカーボンナノチューブ電極は従来のペレット型電極と異なり、導電補助材や結着材を必要としないので活物質体積率が100%であり、基板である集電体と電極活物質が接続しているため電気抵抗が非常に低いという特徴がある。さらに、カーボンナノチューブは理想比表面積が2625m/gと極めて高く、特に電気二重層コンデンサへの応用に適している。
【0006】
近年、シリコン基板上にアルミナ(酸化アルミニウム)膜をバッファ層として形成し、さらにバッファ層の上に触媒粒子を形成した後、水を酸化剤として導入することでカーボンナノチューブを高い成長速度で合成したことが報告されている(例えば非特許文献1と非特許文献2を参照)。これらの報告以来、カーボンナノチューブを高い成長速度で合成した報告例は、ほとんどすべてがアルミナ膜をバッファ層として使用したものである。
【0007】
また、上記の非特許文献1及び2では、シリコン基板などの高融点基板上にアルミナを含むバッファ層を形成してカーボンナノチューブを合成した後に、アルミニウム基板にカーボンナノチューブのみを転写して、これをエネルギーデバイスの電極として用いている。
【0008】
さらに特許文献2では、金属塩と界面活性体から金属含有ナノ粒子を製造した後、これを基板上に配置し、当該粒子を起点としてカーボンナノチューブを合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−259760号公報
【特許文献2】特開2009−215146号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Science,19,November 2004,1352−1354
【非特許文献2】Appl.Phys.,Vol.46,2007,L399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、一端を基板表面に接続したカーボンナノチューブ(以下、カーボンナノチューブ複合体ともいう)は、基板から容易に剥離してしまう傾向があり、エネルギーデバイスの電極として使用する際に耐久性が不十分となる問題があった。また、当該カーボンナノチューブは、基板上での合成に時間がかかるため、工業的プロセスにおいて製造コストが増大するという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、高い合成速度でカーボンナノチューブを表面に形成でき、かつ合成されたカーボンナノチューブが剥離しにくいカーボンナノチューブ形成用基板複合体、及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、この基板複合体を使用した、カーボンナノチューブ複合体及びエネルギーデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究した結果、意外にも、基板表面と、界面活性体と金属コアから構成される触媒金属含有粒子との間に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち本発明は、表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体であって、基板と、前記基板の少なくとも一方の表面に配置され、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層と、前記バッファ層の表面に配置され、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層と、を有する基板複合体に関する。
【0015】
また本発明は、基板の少なくとも一方の表面に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成する工程(A)と、前記バッファ層表面に、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成する工程(B)と、を含む、表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体の製造方法にも関する。
【0016】
さらに本発明は、基板の少なくとも一方の表面に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成する工程(A)と、前記バッファ層表面に、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成する工程(B)と、前記触媒金属含有粒子を起点としてカーボンナノチューブを合成する工程(C)と、を含む、カーボンナノチューブ複合体の製造方法にも関する。
【0017】
さらにまた、本発明は、基板の少なくとも一方の表面に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成する工程(D)と、前記バッファ層表面に、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成する工程(E)と、前記触媒金属含有粒子を起点としてカーボンナノチューブを合成してカーボンナノチューブ複合体を作製する工程(F)と、正極と負極とを、セパレータを介して対向させた状態で積層又は捲回することにより素子を作製する工程であって、前記正極及び前記複極の少なくとも1つが、前記カーボンナノチューブ複合体である工程(G)と、前記素子を駆動用電解液とともにケース内に収納する工程(H)と、前記ケースの開口部を封止する工程(I)と、を含む、エネルギーデバイスの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い合成速度でカーボンナノチューブを表面に形成でき、かつ形成されたカーボンナノチューブが剥離しにくいカーボンナノチューブ形成用基板複合体を提供することができる。さらに、当該基板複合体を用いて製造したカーボンナノチューブ複合体、及び当該カーボンナノチューブ複合体を電極として有するエネルギーデバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における基板複合体の断面概念図
【図2】本発明の実施の形態における触媒金属含有粒子の構造を示す模式図
【図3】本発明の実施の形態における捲回型エネルギーデバイスの斜視図
【図4】実施例1におけるフッ化アルミニウム層の深さ方向のX線光電子分光法スペクトル図
【図5】フッ化処理における酸素ガス混合比とフッ化アルミニウム層厚みとの関係を示すグラフ
【図6】フッ化アルミニウム層厚みとカーボンナノチューブの合成速度との関係を示すグラフ
【図7(a)】フッ化処理を行う前のアルミニウム基板表面を撮影した光学顕微鏡写真
【図7(b)】フッ化処理を行った後のアルミニウム基板表面を撮影した光学顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0021】
(実施の形態1)
[基板複合体]
まず、本実施形態による基板複合体の構造について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態における基板複合体の断面概念図を示す。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の基板複合体10は、基板14、バッファ層13、触媒金属含有粒子12を含む。
【0024】
基板14上にはバッファ層13が形成されている。バッファ層13上には触媒金属含有粒子12が形成されている。
【0025】
本実施形態において、基板14は特に限定されないが、金属基板を使用することができる。なかでも、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、又は、チタンから構成される基板が好ましい。また、2種類以上の金属板が積層されることで基板14を構成してもよい。また、基板14は、シリコン基板、サファイア基板などの半導体基板、又は、ガラス基板であってもよい。
【0026】
なかでもアルミニウムから構成される基板は、活性炭を電極活物質として含む電気二重層キャパシタの集電体として用いられていることから、本発明でも、基板14として特に好ましく使用することができる。アルミニウムから構成される基板は、アルミニウムを主要構成元素とする限り、他の元素を含むものであってもよい。
【0027】
基板14の厚さは特に限定されないが、例えば10〜100μmである。
【0028】
バッファ層13は、構成元素としてアルミニウム原子とフッ素原子とを含むものであり、具体的には、フッ化アルミニウム層又はフッ化アルミニウム粒子群から構成されることが好ましい。図1では、バッファ層13は層状に示したが、この形状に限定されない。バッファ層13は、基板14表面に形成された微小な複数の粒子から構成される粒子群であってもよい。
【0029】
バッファ層13におけるフッ化アルミニウムは、式:AlFxで表される組成を有し、前記xは、0<x<3.9を満たし、すなわち3.9未満の正数であることが好ましい。xは0.8以上であることが好ましく、また、2.7以下であることが好ましい。前記xの値は、X線光電子分光法(XPS)により各元素の原子濃度比から計算されるものである。xの値は、式:x=(フッ素原子濃度)/(アルミニウム原子濃度)を満たす。通常、アルミニウムは三価イオンを形成するため、フッ化アルミニウムは組成式がAlFである時に安定な結晶構造を形成する。しかし、XPSによる原子濃度換算では、相対感度係数による濃度換算誤差が20〜30%程度存在するため、AlF結晶をXPS分析した場合にも、算出されるxの値は最大3.9に達することがあり得る。そのため、前記xの上限値を3.9に設定した。
【0030】
バッファ層13はアルミニウム原子とフッ素原子とを含む層である。しかし、バッファ層13はアルミニウム原子とフッ素原子とを含む粒子群であってもよい。バッファ層13はフッ化アルミニウムを含む層又は粒子群のみから構成されるものであってもよいが、アルミナ(Al)から構成される層と、前記フッ化アルミニウムを含む層又は粒子群とが積層されたものであってもよい。この場合、基板14表面にアルミナから構成される層が積層され、さらにその上に、フッ化アルミニウムを含む層又は粒子群が積層されている。
【0031】
基板14表面に形成されるバッファ層13の厚さは、特に限定されないが、5nm以上であることが好ましい。更には、21nm以上であることが好ましい。ここで述べる前記厚さとは、バッファ層表面から深さ方向へのXPS測定を行い、フッ素強度がピーク強度の0.3倍となる点のエッチング深さとして定義した。
【0032】
触媒金属含有粒子12はバッファ層上に配置され、これにより、複数の触媒金属含有粒子からなる触媒層がバッファ層上に形成されている。
【0033】
図2は、本実施形態における触媒金属含有粒子の構造を示す模式図である。図示されている触媒金属含有粒子12は、金属コア15の周囲が界面活性体16によって覆われた構造を有する。金属コア15は、単結晶、多結晶及びアモルファス構造のいずれかの状態にある。より好ましくは、金属コア15は、結晶により構成されている。好ましくは、金属コア15は、形状が球形又は多角形であり、約1nm〜約10nmの範囲の直径を有する。より好ましくは、形状が球形であり、約4nm〜約7nmの直径を有する。
【0034】
金属コア15は、カーボンナノチューブを成長させるための触媒として作用する元素を主成分として含有する。より好ましくは、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種を含有する。金属コア15は、上記元素の酸化物、上記元素同士の合金、及び、上記元素と、カーボンナノチューブを成長させるための触媒作用のない元素との合金から構成されていてもよい。具体的な酸化物としては、FeO、α−Fe、γ−Fe、Fe、α−FeOOHなどの酸化鉄、CoO、Coなどの酸化コバルト、NiOが挙げられる。上記元素同士の合金は、Co/Ni、Ni/Fe、Co/Fe/Niなどの2元素及び3元素合金であってもよい。また、Fe、Co、又はNiと、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ti、又はVなどの元素との合金であってもよい。
【0035】
界面活性体16は、式R−Xで示される長鎖有機化合物であることが好ましい。式中、Rは、長鎖又は分岐ハイドロカーボン又はフルオロカーボン鎖であり、通常、8〜22個の炭素原子を含む。Xは金属コア表面に特定の化学結合を提供する部分であり、具体的には、スルフィネート(−SOOH)、スルホネート(SOOH)、ホスフィネート(−POOH)、ホスホネート(−OPO(OH))、カルボキシレート(−COOH)、及びチオール(−SH)が挙げられる。本発明で使用する界面活性剤としては、炭素数8〜22の脂肪酸が好ましく、オレイン酸(C1733COOH)が特に好ましい。
【0036】
オレイン酸は、ナノ粒子の安定化において一般的によく用いられている界面活性体である。オレイン酸の比較的長い炭素鎖は、粒子間に働く強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与えるため、Feナノ粒子などの磁性ナノ粒子の界面活性体としてよく用いられる。エルカ酸(C2141COOH、なたね油に含有)やリノール酸(C1731COOH、多くの植物油に含有)など類似の長鎖カルボン酸(不飽和脂肪酸)もオレイン酸同様に用いられている。オレイン酸は、オリーブ油などに含有されており容易に入手できる安価な天然資源であるので、安全性及び低コスト化の観点から好ましい。その他の長鎖不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸(C1325COOH、バターに含有)、パルミトレイン酸(C1529COOH、イワシ油やニシン油に含有)、エライジン酸(C1733COOH、オレイン酸のtrans異性体)、バクセン酸(C1733COOH、牛脂、バターに含有)、ガドレイン酸(C1937COOH、タラ肝脂に含有)、α−リノレン酸(C1729COOH、乾性油に含有)、エレオステアリン酸(C1729COOH、乾性油に含有)、ステアリドン酸(C1727COOH、イワシ油、ニシン油に含有)などが挙げられる。
【0037】
なお、図2では逆ミセル構造の触媒金属含有粒子を示したが、これに限定されず、ミセル構造の触媒金属含有粒子を用いることもできる。
【0038】
カーボンナノチューブ合成時の加熱により、又は当該合成前に予備加熱を実施することで、界面活性体16は除去又は分解され、バッファ層13表面の金属コア15は肥大化する。その際の金属コア粒子径と合成されるカーボンナノチューブ径には相関関係があると報告されている。したがって、カーボンナノチューブ径として1〜100nmを所望する場合は、金属コア粒子径を1〜100nmに調整することが望ましい。
【0039】
図1では、基板14の片面にのみ、バッファ層13、及び触媒金属含有粒子12が形成されているが、本発明はこの形態に限定されない。基板14の裏面にもバッファ層13、及び触媒金属含有粒子12が形成されていてもよい。
【0040】
[製造方法]
次に、本実施形態による基板複合体の製造方法について説明する。
【0041】
本実施の形態の製造方法は、基板14上にバッファ層13を形成する工程、さらにバッファ層13上に触媒金属含有粒子12を配置する工程を含む。
【0042】
基板14上にバッファ層13を形成する工程は、表面にアルミナ(酸化アルミニウム)層が形成された基板14を準備する工程と、前記アルミナ層の表面をフッ化する工程とを含むことができる。
【0043】
表面にアルミナ層が形成された基板14を準備する工程は、基板14を構成する材料の種類により異なる。
【0044】
基板14がアルミニウムから構成される場合は、アルミニウム基板の表面を酸化することによりアルミナ層が形成される。酸化の方法としては、熱酸化、水蒸気酸化等が挙げられる。また、自然酸化により表面にアルミナ層が形成されたアルミニウム基板を使用することもできる。
【0045】
基板14がアルミニウム以外の材料から構成される場合、CVD法等により基板14上にアルミニウム層を形成した後、上述した方法によりアルミニウム層表面を酸化することによりアルミナ層を形成することができる。また、基板14表面に反応性スパッタリング等によりアルミナ層を直接形成することもできる。
【0046】
アルミナ層の表面をフッ化する工程は、フッ素プラズマ処理による方法又は電気化学的な手法により実現することができる。フッ素プラズマ処理による方法では、アルミナ層が表面に形成された基板14をチャンバー内に配置し、次いで当該チャンバー内にフッ素含有ガスを導入した後、高周波誘導プラズマを前記チャンバー内で形成し、このプラズマにより励起したフッ素系ラジカルを基板14表面のアルミナ層に照射することでその表面をフッ化することができる。これによりバッファ層13が形成される。形成されるバッファ層13の厚さは、5nm以上が好ましく、21nm以上が好ましい。バッファ層13の厚みの上限は、特に限定されないが、使用する基板の厚み以下とすることが好ましい。実用的には、100μm以下、より好ましくは10μm以下である。この際、処理圧力、フッ素含有ガス流量、アンテナパワー/バイアスパワー、及び、処理時間の4つのパラメーターを変化させることで、フッ化アルミニウムを含む層又は粒子群の組成(AlFxのx値)を調整できる。
【0047】
フッ素含有ガスとしては、例えば、四フッ化カーボン(CF)ガス、CFHガス、又はSFガスを使用できるが、これらに限定されない。また、プラズマ中のフッ素濃度を上げるために、酸素ガスやアルゴンガスをフッ素含有ガスに混合することもできる。
【0048】
このように、基板14上にバッファ層13を形成する工程により、基板の少なくとも一方の表面にアルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成することができる。
【0049】
次に、バッファ層13上に触媒金属含有粒子12を配置する工程では、バッファ層13上に触媒金属含有粒子12からなる触媒層を形成する。
【0050】
以下、触媒金属含有粒子を形成する方法の一例について詳述する。この例では、以下の工程A〜Eによって、触媒金属含有粒子を形成する。
【0051】
工程Aは、溶媒、金属塩及び配位分子を混合し、ある一定時間の間還流することで、金属イオンと配位分子を反応させ、金属前駆体溶液を形成させる工程である。溶媒としては、極性溶媒と無極性溶媒の混合液を用いる。金属塩としては、金属コアを構成する金属元素の塩を用いる。配位分子は、前記金属元素のイオンに配位する分子であり、界面活性体の塩を用いることができる。金属塩及び配位分子は、室温で極性溶媒に溶解する。反応後、反応生成物である金属前駆体(金属元素イオンと界面活性体アニオンとの塩)は、無極性溶媒に溶解し、副生成物は極性溶媒に溶解する。この後、極性溶媒と無極性溶媒を分離することで、無極性溶媒中に金属前駆体が溶解した溶液を回収することができる。さらに、この金属前駆体溶液に対し無極性溶媒を加えることで、副生成物や未反応物を精製することもできる。好ましくは、極性溶媒として、水やエタノールを用い、無極性溶媒としては、ヘキサンを用いる。
【0052】
次に、工程Bは、上記の金属前駆体溶液から溶媒を除去し、金属前駆体を回収する工程である。溶媒の除去方法としては、真空乾燥、加熱、エバポレーターなどを用いた溶媒除去方法を用いるとよい。ここで、回収した金属前駆体は、固形物として回収される。
【0053】
次に、工程Cは、上記の金属前駆体、界面活性体、及び溶媒を混合して混合溶液を得る工程である。粒径の揃った10nm以下の金属含有粒子を合成するためには、金属前駆体と界面活性体の濃度比([界面活性体]/[金属前駆体])を1.0以下になるように調整することが好ましい。溶媒は、沸点が250℃以上300℃以下の無極性溶媒を用いることが好ましい。より好ましくは、沸点が約270℃〜290℃の範囲にあればよい。適当な無極性溶媒としては、ヘキサデセン、ジオクチルエーテルが含まれるが、これらに限定されない。また、金属含有粒子として合金粒子を合成するためには、工程Cにおいて、合金を構成する元素を含む金属前駆体を混合するとよい。この場合の金属前駆体としては、例えば、Co(アセチルアセトナート)、Pd(アセチルアセトナート)、Ti(アセチルアセトナート)などを用いることができる。
【0054】
次に、工程Dは、上記の混合溶液を溶媒の沸点まである一定の昇温速度で昇温し、ある一定時間の間還流させることで金属含有粒子の核形成・粒子成長を行なう工程(熟成工程)である。すなわち、上記の混合溶液の反応を沸点以下の温度で行なう。
【0055】
昇温速度は、金属含有粒子の核形成と相関があると考えられ、例えば3℃/min以上の昇温速度で昇温することが好ましい。これは、昇温速度が低いと核形成の開始された時間と大半の粒子が核形成する時間差が大きくなるため、実質的な成長時間に差が生じ、それ故に、粒径バラツキが大きくなると考えられるためである。熟成時間は、1時間以上行う必要がある。より好ましくは、1時間から2時間程度である。
【0056】
次に、工程Eは、上記熟成した溶液から金属含有粒子の精製、抽出、及び再分散を行う工程である。すなわち、上記混合溶液から金属含有粒子を析出させる工程である。金属含有粒子は、表面に、界面活性体に由来するカーボン鎖を有しているため、トルエンやヘキサン等の無極性溶媒には可溶であるが、アルコールなどの極性溶媒にはほとんど溶解しない。そこで、上記熟成した溶液に極性溶媒を加えることで、金属含有粒子間に疎水性相互作用が働き粒子同士が会合し凝集体が沈降する。この凝集体を回収し、無極性溶媒中に溶解させることで金属含有粒子分散溶液を作製することができる。ここで、熟成工程に用いた溶媒が可溶な極性溶媒を選択することで、回収する金属含有粒子中の不要な有機物を低減することができる。更に、純度を高めるために、回収した金属含有粒子を極性溶媒で複数回洗浄してもよい。好ましくは、極性溶媒として、メタノール、エタノール、アセトン及びこれらの混合溶液を用いる。
【0057】
次に、以上のようにして形成された触媒金属含有粒子をバッファ層上に配置する。配置する方法としては、例えば、金属含有粒子分散溶液に浸漬するディップコート法によって塗布する方法や、金属含有粒子溶液をスピンコート法によって塗布する方法が挙げられる。ここで、バッファ層上に配置される金属含有粒子の密度や均一性は、金属含有粒子分散溶液の濃度や上記塗布プロセスにおける乾燥方法によって制御することができる。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態では、カーボンナノチューブ複合体の製造方法について説明する。
【0059】
カーボンナノチューブ複合体は、実施の形態1により製造された基板複合体の表面にカーボンナノチューブを合成することで製造される。具体的には、バッファ層13上の触媒金属含有粒子12を起点としてカーボンナノチューブは形成される。合成されたカーボンナノチューブは、一端が基板複合体表面に接続される。カーボンナノチューブの合成方法は公知の方法に依拠することができるが、一例を以下に説明する。
【0060】
カーボンナノチューブ合成装置のチャンバー内に、基板複合体10を配置し、チャンバー内を真空度が<10−2Torrに達するまで減圧する。その後、還元ガスと、カーボン原料となるメタンガス等の炭化水素ガスとを、チャンバー内圧力が20Torrに達するまで導入する。還元ガスとは、水素ガスを主成分とするガスであり、水素ガス以外に、CO、HS、SO、H、HCHO(ホルムアルデヒド)等のガスを含んでいてよい。還元ガスは、後のプラズマ生成を安定化し、カーボンナノチューブ形成時に生じるアモルファスカーボンを除去する目的で使用される。そして、基板ホルダを抵抗加熱により昇温させ、ホルダの温度がカーボンナノチューブ合成に最適な温度(400〜900℃、ただしアルミニウム基板を使用の場合は660℃(アルミニウムの融点)以下)に達した時点で、マイクロ波励起プラズマを形成する。プラズマ中に形成された炭化水素ラジカルが触媒金属含有粒子に到達した後、カーボンナノチューブ11の合成が開始される。
【0061】
本発明では、バッファ層13及び触媒金属含有粒子12を含む基板複合体10を用いることで、カーボンナノチューブの合成速度を高めることができる。また、製造されたカーボンナノチューブ複合体では、カーボンナノチューブが基板から剥離しにくく、耐久性が高い。
【0062】
これにより、耐久性の高いカーボンナノチューブ複合体を製造コストを低減しつつ提供できるため、結果的に、それを用いたエネルギーデバイスも耐久性が高く、低い製造コストで提供することが可能になる。
【0063】
すなわち、低コストでのカーボンナノチューブ電極の提供が可能になったことから、携帯電話に代表される無線通信機能を備えた携帯型装置や、ノートパソコンに代表される情報処理端末、ハイブリッド自動車に代表される輸送デバイスの製造コストを低減することができる。
【0064】
本発明によると、基板複合体表面に一端が接続されたカーボンナノチューブ、すなわちカーボンナノチューブ複合体を製造することができる。しかし、本発明で製造されるカーボンナノチューブ複合体は、基板表面とカーボンナノチューブの一端が直接接触しているものに限定されない。基板表面には、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層と、触媒金属含有粒子からなる触媒層がこの順で形成されている。すなわち本発明により製造されるカーボンナノチューブ複合体は、基板と、前記基板上に配置されたアルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層と、前記バッファ層上に配置された、触媒金属含有粒子からなる触媒層と、触媒金属含有粒子に一端が接続されているカーボンナノチューブと、を有する。しかし、触媒金属含有粒子に含まれるはずの界面活性体は、カーボンナノチューブ合成時の加熱処理により除去又は分解されるので、本発明により製造されるカーボンナノチューブ複合体には界面活性剤は実質的に含まれない。触媒金属含有粒子の各粒子に、一本のカーボンナノチューブの一端が接続している。カーボンナノチューブの他端及び側面は、基板複合体表面と接続されていない。
【0065】
本発明で製造されるカーボンナノチューブ複合体は、電気二重層キャパシタ、電気化学キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、有機電池、酸化金属や導電性高分子を用いた擬似容量キャパシタ等のエネルギー蓄積デバイス全般において電極体として適用可能である。ここで、エネルギー蓄積デバイスに含まれる電極のうち少なくとも1つが、本発明で製造されるカーボンナノチューブ複合体であればよい。以下、本発明で製造されるカーボンナノチューブ複合体から構成される電極体をカーボンナノチューブ電極ともいう。
【0066】
電気二重層キャパシタ又は電気化学キャパシタでは、正負極ともに、カーボンナノチューブ電極を用いることが可能である。
【0067】
リチウムイオン二次電池では、通常、正極活物質としてコバルト酸リチウム等のリチウム酸化金属、シリコン化合物、又は、リチウム金属が用いられ、負極活物質としてグラファイト等が用いられている。カーボンナノチューブは、グラファイトと同じグラフェン構造を有するため、本発明では、負極として、グラファイトを含む電極の代わりに、カーボンナノチューブ電極を使用することができる。また、正極では活物質の担持材料としてカーボンナノチューブを用いることが可能である。すなわち、正極として、上述した正極活物質を担持したカーボンナノチューブ電極を使用することができる。
【0068】
リチウムイオンキャパシタでは、正極活物質として活性炭が、負極活物質としてグラファイトが提案されていることから、正負極のいずれか一方又は双方として、カーボンナノチューブ電極を用いることが可能である。
【0069】
有機電池では、正負極の少なくとも一方の活物質に有機材料を用いることが提案されていることから、当該有機材料の担持材料としてカーボンナノチューブを用いることが可能である。すなわち、活物質を担持したカーボンナノチューブ電極を正負極の少なくとも一方として使用することができる。
【0070】
上述のとおり本発明においては、カーボンナノチューブ複合体に含まれるカーボンナノチューブが電極活物質として機能するものであってもよいし、他の電極活物質のための担持材料として機能するものであってもよい。
【0071】
カーボンナノチューブの平均直径は約0.1〜100nmの範囲にある。イオン半径0.074nmのリチウムイオンや、イオン半径約0.5nmの電解質イオンがカーボンナノチューブの内部に侵入することを考えると、0.1〜10nmの範囲が望ましく、さらに望ましくは、0.1〜5nmの範囲である。
【0072】
単位面積当たりのカーボンナノチューブ密度が高くなるため、カーボンナノチューブ間の距離は短いことが好ましい。しかし、カーボンナノチューブ間の距離は、電解液中の電解質イオンが移動するのに十分な距離であることが望ましい。
【0073】
(実施の形態3)
本実施の形態では、カーボンナノチューブ複合体を電極体として含む、少なくとも一対の電極体を捲回して含む捲回型構造のエネルギーデバイス20について説明する。ここで、カーボンナノチューブ複合体とは、本発明の基板複合体表面にカーボンナノチューブの一端が接続されている形態を意味する。
【0074】
図3(a)は当該実施形態における捲回型構造のエネルギーデバイス20において電極体を捲回する際の状態を示す斜視図であり、図3(b)は捲回した電極体を封口部材と一体化して金属ケースへ挿入する際の状態を示す斜視図である。
【0075】
エネルギーデバイス素子21は陽極側リード線22を接続した陽極23と陰極側リード線24を接続した陰極25とをその間にセパレータ26を介在させて捲回することにより構成されている。そしてこのエネルギーデバイス素子21の陽極側リード線22と陰極側リード線24にはゴムよりなる封口部材27が取り付けられる。さらにこのエネルギーデバイス素子21に駆動用電解液を含浸させた後、アルミニウムより構成された有底円筒状の金属ケース28内にエネルギーデバイス素子21を収納する。この収納により、金属ケース28の開口部に封口部材27が位置し、そしてこの金属ケース28の開口部に横絞り加工とカーリング加工を施すことにより封口部材27が金属ケース28の開口部に封着されて金属ケース28の開口部が封口される。
【0076】
本発明のエネルギーデバイスでは、陽極23又は陰極25のいずれか一方又は双方に本発明の方法により製造されたカーボンナノチューブ複合体を用いる。また、陽極23又は陰極25が複数の電極体から構成される場合には、その内の少なくとも1つが本発明の方法により製造されたカーボンナノチューブ複合体であればよい。
【0077】
セパレータに要求される物性は、エネルギーデバイスの種類には原理的に依存しないが、特にリフロー対応が必要とされる場合には、耐熱性が要求される。耐熱性が要求されない場合には、ポリプロピレン等の合成高分子系の材料を、耐熱性が要求される場合にはセルロース系の材料を用いることができる。セパレータの膜厚は特に限定されないが、10μm〜50μm程度のものを用いる。
【0078】
電解液は、エネルギーデバイスの種類によって異なる材料を選択することができる。電解液に含まれる溶媒としては、使用電圧範囲によって電気化学的分解が起こらないよう、適切な電位窓を持ったものを選択する。一般的にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、又はそれらの混合溶媒を用いることができる。はんだ付けのためのリフロー対応が必要となる場合には、リフロー時に電解液が沸騰しないよう、スルフォランなどの高沸点溶媒を用いることができる。
【0079】
電解液に含まれる電解質としては、様々な公知の材料、例えば電気二重層キャパシタ用途としてはテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、リチウムイオン二次電池用途としてはリチウムペンタフルオロフォスフェート等を用いることができる。これらイオン性電解質のイオン直径に対応する直径を持つカーボンナノチューブを合成することにより、単位重量あたりのエネルギー密度がもっとも大きなエネルギー蓄積デバイスを作製することが可能になる。例えば、溶媒としてプロピレンカーボネートを含み、電解質としてテトラエチルアセテート・テトラフルオロボレートを含む電解液(LIPASTE−P/EAF069N、富山薬品工業製、濃度0.69M)を用いることができる。
【0080】
この実施形態では、捲回形のエネルギーデバイスを示したが、これに限定されない。本発明のエネルギーデバイスは、電極体を捲回せずに積層して含む積層型のものであってもよい。
【0081】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0082】
(基板複合体及びカーボンナノチューブ複合体の製造)
実施例(Sample N〜Sample S)では、基板14としてアルミニウム基板を用い、上述したフッ素プラズマ処理による方法にて当該基板をフッ化処理することで、フッ化アルミニウムからなるバッファ層13を形成した。なお、使用したアルミニウム基板表面には、自然酸化によりアルミナ層が形成されていた。フッ化処理の際、表1に記載した種々の条件(処理圧力、四フッ化カーボン(CF)ガス流量、酸素ガス流量、アンテナパワー/バイアスパワー、及び、処理時間)を選択し、フッ化処理された6個のサンプルを得た。
【0083】
【表1】


表1中、処理圧力とは、フッ化処理チャンバー内のCFとOとの混合ガス圧力である。CF流量(sccm)、O流量(sccm)とは、単位時間中にフッ化処理チャンバー内に導入したCFガス量およびOガス量である。アンテナパワー(W)とは、プラズマを生成するのに必要なエネルギーであり、バイアスパワー(W)とは、生成したプラズマを基板方向に移動するのに必要なエネルギーである。処理時間(sec)とは、プラズマ処理時間である。
【0084】
比較例(Reference 1及びReference 2)では、基板14としてアルミニウム基板を用いた。このアルミニウム基板表面には、自然酸化によりアルミナ層が形成されていた。比較例ではフッ化処理は行なわなかったので、フッ化アルミニウムからなるバッファ層13は形成されていない。
【0085】
実施例及び比較例において、以上で準備された基板のバッファ層13(実施例)又はアルミナ層(比較例)表面に対し、界面活性体をオレイン酸とし、金属コアを酸化鉄とする触媒金属含有粒子を塗布することで触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成した。
【0086】
上記触媒金属含有粒子は以下の手順で合成した。まず溶媒として水30mlとエタノール40mlの混合液にFeCl・6HO(金属塩)5.4g及びオレイン酸ナトリウム(配位分子)18.3gを混合させ、約4時間還流した。次にこの溶液から有機相を分離し、エバポレーターを用いて溶媒を除去した。得られたワックス状の金属前駆体:Fe(Oleate)9gに対し、オレイン酸(界面活性体)1.43g及び1−ヘキサデセン(溶媒)50gを混合し、この混合溶液を昇温速度約2.8℃/minで274℃まで昇温し約60分の熟成を行った。熟成後、エタノールを加えて酸化鉄ナノ粒子を析出させた。
【0087】
得られた触媒金属含有粒子を、ディップコート法により、各基板に塗布して各実施例及び各比較例の基板複合体を得た。その後、Reference2では、酸素プラズマの照射により、触媒金属含有粒子に含まれるオレイン酸の除去工程を実施した。しかし、各実施例及びReference1では、オレイン酸の除去工程を行っていない。
【0088】
次いで、得られた基板複合体を用い、上述の方法に従いカーボンナノチューブの合成を行った。その際、炭化水素ガスとしてメタンガスを使用した。カーボンナノチューブの合成時間は90分に設定した。
【0089】
以上により、実施例及び比較例のカーボンナノチューブ複合体を製造した。
【0090】
(X線光電子分光法スペクトル測定結果)
フッ化処理後で触媒金属含有粒子形成前の各基板について深さ方向に対するX線光電子分光法(XPS)スペクトルを測定した。
【0091】
図4は、実施例のSample Aについて得られた深さ方向のX線光電子分光法スペクトルを示す。スパッタ速度を4nm/minとし、15分間測定を行った。深さ方向のスキャンにより、C1s、N1s、O1s、F1s、Al2pスペクトルが観察され、F1sスペクトルは測定が進むにつれ顕著に強度が減少した。F1sスペクトル強度がピーク強度の0.3倍まで減少したときのエッチング深さをフッ化アルミニウム層の厚みとして定義した。
【0092】
以上の方法に従いXPSスペクトルを利用して各サンプルについてAlFx層の厚みを算定した。図5は、Sample N〜Sample Sを製造する際のフッ化処理時の酸素ガス混合比と、形成されたフッ化アルミニウム層厚みとの関係を示すグラフである。横軸は混合ガス中の酸素ガス比を示し、縦軸はフッ化アルミニウム層の厚みを示す。図5より、Oガス比率とフッ化アルミニウム層厚みとの間に正の相関性があり、バイアスパワーを変化しても同じ傾向があることが分かる。
【0093】
さらに、各サンプルのカーボンナノチューブ複合体について、カラー3Dレーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK−9700)によりカーボンナノチューブ層の厚みを計測し、これをカーボンナノチューブの合成時間で割ることで、各サンプルのカーボンナノチューブの合成速度を算出した。
【0094】
図6は、Sample N〜Sample S及びReference1、2におけるフッ化アルミニウム層厚みとカーボンナノチューブ合成速度との関係を示すグラフである。横軸はフッ化アルミニウム層の厚みを示し、縦軸はカーボンナノチューブ合成速度(μm/min)を示す。フッ化アルミニウム層の厚みは、サンプルNで7nm、サンプルOで21nm、サンプルPで60nm、サンプルQで5nm、サンプルRで18nm、サンプルSで39nm)であった。Reference1、2ではフッ化処理がされていないため、フッ化アルミニウム層厚みは0である。
【0095】
図6から分かるように、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子12からなる触媒層と基板との間にアルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層13を形成することで、カーボンナノチューブの合成速度を高めることができる。また、当該バッファ層の厚みが大きくなるにつれ、カーボンナノチューブの合成速度が向上しており、実施例の合成速度は、比較例の合成速度と比較して最大で約3倍に達している。
【0096】
すなわち、触媒層下のバッファ層13の厚みを増すことによりカーボンナノチューブの合成速度が向上している。バッファ層13の厚みが5nmのときには、カーボンナノチューブ合成速度は、Reference2の合成速度と比較して約1.08倍に達し、21nmのときには、約1.72倍に達している。
【0097】
バッファ層13を形成せず、オレイン酸を除去していないReference 1ではカーボンナノチューブの形成は認められなかった。従って、バッファ層13を形成しない場合には、カーボンナノチューブを合成するにあたってオレイン酸の除去工程が必須であると考えられる。一方、各実施例では、バッファ層13を形成することで、オレイン酸を除去することなく、カーボンナノチューブが合成された。従って、本発明の基板複合体によると、カーボンナノチューブを合成するにあたって、オレイン酸の除去工程が必要ないため、カーボンナノチューブ複合体の製造工程を簡略化することができる。
【0098】
本発明者らが行なった別の実験により、アルミニウム基板だけでなくシリコン基板を用いても同様の結果が得られることが分かっている。これにより、カーボンナノチューブの合成速度が向上するのは基板の種類に依存しないことがわかる。すなわち、本発明は高融点基板に対しても適用可能である。
【0099】
(フッ化処理前後の基板表面)
実施例のサンプルを作成する際、フッ化処理を行う前後でアルミニウム基板表面を光学顕微鏡で観察した。図7(a)は、フッ化処理を行う前のアルミニウム基板表面を撮影した光学顕微鏡写真(20倍)であり、図7(b)は、フッ化処理を行った後のアルミニウム基板表面を撮影した光学顕微鏡写真(20倍)である。
【0100】
これらの写真より、フッ化処理前のアルミニウム表面では、アルミニウム基板の製造工程に由来する圧延痕が多く、かつ深く存在しているのに対し、フッ化処理後のアルミニウム基板表面では、フッ化処理により基板表面が一部エッチングされることで、前記圧延痕が目立たなくなっており、凹凸が低減されていることが分かる。
【0101】
(カーボンナノチューブの剥離困難性)
実施例のカーボンナノチューブ複合体及び比較例のカーボンナノチューブ複合体双方について、カッターを用いて基板からのカーボンナノチューブの剥離を試みた。その結果、明らかに、実施例のカーボンナノチューブ複合体では、カーボンナノチューブ根元での基板との接続強度が強く、カーボンナノチューブの剥離がより困難であった。
【0102】
フッ化アルミニウム層又はフッ化アルミニウム粒子群を設けることでカーボンナノチューブの剥離が困難となったメカニズムについては以下のように推定される。
【0103】
〔メカニズム〕
AlFxを構成するFの電気陰性度(3.98(Paulingの電気陰性度値による))はAlを構成するOの電気陰性度(3.44)より高いことから、触媒金属原子とフッ素原子の結合エネルギーは、触媒金属原子と酸素原子の結合エネルギーよりも高い。これにより、触媒金属含有粒子とバッファ層との結合強度が高く、基板複合体からのカーボンナノチューブの剥離が困難になったとも推測される。
【0104】
また、特に基板がアルミニウムである場合には、上述のようにアルミニウム基板表面には、アルミニウム基板の製造工程に由来する圧延痕が存在するが、この表面上に触媒金属含有粒子を配置すると、圧延痕の凹部に触媒金属含有粒子が多く配置され、圧延痕の凸部に配置されにくいことが分かっている。
【0105】
しかし、図7(b)で示したとおりフッ化処理時に圧延痕の凹凸が低減されると、フッ化処理されたアルミニウム基板表面で、より均等に触媒金属含有粒子が配置されやすくなる。その結果、カーボンナノチューブが基板表面でより均等に配置されることになり、カーボンナノチューブ同士が相互に支持し合うことになり、カーボンナノチューブ層総体として剥離しにくくなったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、耐久性に優れ低コストで生産可能なカーボンナノチューブ複合体を提供することができる。このカーボンナノチューブ複合体を電極体としてエネルギーデバイスで使用し、さらにそのエネルギーデバイスを電子機器又は輸送デバイスに搭載することにより、耐久性に優れたエネルギーデバイス及び電子機器又は輸送デバイスを、低コストで提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0107】
10 カーボンナノチューブ形成用基板複合体
12 触媒金属含有粒子
13 バッファ層
14 基板
15 金属コア
16 界面活性体
20 エネルギーデバイス
21 エネルギーデバイス素子
22 陽極側リード線
23 陽極
24 陰極側リード線
25 陰極
26 セパレータ
27 封口部材
28 金属ケース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体であって、
基板と、
前記基板の少なくとも一方の表面に配置され、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層と、
前記バッファ層の表面に配置され、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層と、を有する基板複合体。
【請求項2】
前記バッファ層の厚みは5nm以上である、請求項1に記載の基板複合体。
【請求項3】
前記バッファ層の厚みは21nm以上である、請求項1に記載の基板複合体。
【請求項4】
前記金属コアは酸化鉄を含み、前記界面活性体はオレイン酸を含む、請求項1に記載の基板複合体。
【請求項5】
前記バッファ層は、フッ化アルミニウム層又はフッ化アルミニウム粒子群から構成される、請求項1に記載の基板複合体。
【請求項6】
前記フッ化アルミニウム層又はフッ化アルミニウム粒子群は、式:AlFx(式中、xは0<x<3.9を満たす。)で表される組成を有する、請求項5に記載の基板複合体。
【請求項7】
基板の少なくとも一方の表面に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成する工程(A)と、
前記バッファ層表面に、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成する工程(B)と、を含む、表面にカーボンナノチューブを形成するための基板複合体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(A)において形成される前記バッファ層は、膜厚が5nm以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)において形成される前記バッファ層は、膜厚が21nm以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属コアは酸化鉄を含み、前記界面活性体はオレイン酸を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(A)において、フッ素を含むガスと酸素ガスの混合ガスをプラズマ化して前記基板の少なくとも一方の表面に照射することで前記バッファ層を形成する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項12】
前記混合ガス総量のうち前記酸素ガスが30%以上の濃度で含まれる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
基板の少なくとも一方の表面に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成する工程(A)と、
前記バッファ層表面に、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成する工程(B)と、
前記触媒金属含有粒子を起点としてカーボンナノチューブを合成する工程(C)と、を含む、カーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項14】
前記工程(A)において形成される前記バッファ層は、膜厚が5nm以上である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記工程(A)において形成される前記バッファ層は、膜厚が21nm以上である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記金属コアは酸化鉄を含み、前記界面活性体はオレイン酸を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項17】
前記工程(A)において、フッ素を含むガスと酸素ガスの混合ガスをプラズマ化して前記基板の少なくとも一方の表面に照射することで前記バッファ層を形成する、請求項13に記載の製造方法。
【請求項18】
前記混合ガス総量のうち前記酸素ガスが30%以上の濃度で含まれる、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
基板の少なくとも一方の表面に、アルミニウム原子とフッ素原子とを含むバッファ層を形成する工程(D)と、
前記バッファ層表面に、金属コアと界面活性体とから構成される触媒金属含有粒子からなる触媒層を形成する工程(E)と、
前記触媒金属含有粒子を起点としてカーボンナノチューブを合成してカーボンナノチューブ複合体を作製する工程(F)と、
正極と負極とを、セパレータを介して対向させた状態で積層又は捲回することにより素子を作製する工程であって、前記正極及び前記複極の少なくとも1つが、前記カーボンナノチューブ複合体である工程(G)と、
前記素子を駆動用電解液とともにケース内に収納する工程(H)と、
前記ケースの開口部を封止する工程(I)と、
を含む、エネルギーデバイスの製造方法。
【請求項20】
前記工程(D)において形成される前記バッファ層は、膜厚が5nm以上である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記工程(D)において形成される前記バッファ層は、膜厚が21nm以上である、請求項19に記載の製造方法。
【請求項22】
前記金属コアは酸化鉄を含み、前記界面活性体はオレイン酸を含む、請求項19に記載の製造方法。
【請求項23】
前記工程(D)において、フッ素を含むガスと酸素ガスの混合ガスをプラズマ化して前記基板の少なくとも一方の表面に照射することで前記バッファ層を形成する、請求項19に記載の製造方法。
【請求項24】
前記混合ガス総量のうち前記酸素ガスが30%以上の濃度で含まれる、請求項23に記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【公開番号】特開2012−46386(P2012−46386A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190988(P2010−190988)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】