説明

カーボンナノチューブ形成用CVD装置

【課題】基板の表面に連続的にカーボンナノチューブを形成し得るとともに原料ガスを基板の表面に均一に供給し得る熱CVD装置を提供する。
【解決手段】加熱炉1の炉本体2内の一端側に基板Kを構成する薄板材が巻き付けられた巻出しロール16を、他端側にこの基板Kを巻き取る巻取りロール17をそれぞれ配置し、これら両ロール16,17同士の間に、基板Kを挿通し得る連通用開口部3aを有する区画壁3により所定寸法の平面視矩形状の加熱室13を形成し、この加熱室13内の基板Kの上方位置に加熱装置41を配置し、加熱室13の下部に原料ガスGを供給し得るガス供給口5を設け、このガス供給口5に胴部が円柱状で且つ上端部が半球状にされた多孔質材料より成るガス分散部材21を配置し、加熱室13内を所定の真空度に減圧し得る排気装置23を具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ形成用CVD装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブを形成する装置としては、炭化水素を分解してカーボンナノチューブを生成する化学的気相成長装置、所謂、熱CVD装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この熱CVD装置においては、基板が設置されている反応管の内部に、メタンやアセチレンなどの原料ガスを導入し、そして加熱された基板上で原料ガスを分解させて、垂直に配向したカーボンナノチューブを基板上で成長させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−62924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の熱CVD装置によると、基板の表面にカーボンナノチューブを形成する場合、そのつど、加熱室内に基板を搬入した後、加熱するとともに所定の真空度に減圧した後、基板を加熱室内に搬入することにより、熱CVD法が行われていた。
【0006】
すなわち、基板を交換する毎に加熱室内の温度を下げたり上げたりしていたので、熱的に効率が悪く、またカーボンナノチューブの形成効率も低いという問題があり、この問題を解消するものとして、基板を連続的に移動させながら下方から原料ガスを供給して基板の表面にカーボンナノチューブを形成することが考えられるが、加熱室の底壁部に設けられたガス供給口から原料ガスを基板の表面に対して均一に供給することが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、基板の表面に連続的にカーボンナノチューブを形成し得るとともに原料ガスを基板の表面に均一に供給し得るカーボンナノチューブ形成用CVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係るカーボンナノチューブ形成用CVD装置は、炉本体内に設けられた加熱室内に炭素を含む原料ガスを導くとともに原料ガスを加熱して当該加熱室に移動される基板の表面にカーボンナノチューブを形成し得る加熱炉を具備する熱CVD装置であって、
炉本体内の一端側に基板を構成する薄板材が巻き付けられた巻出しロールを配置するとともに、他端側にこの基板を巻き取る巻取りロールを配置し、
これら両ロール同士の間に、上記基板を挿通し得る開口部を有する区画壁により所定寸法の平面視矩形状の加熱室を形成するとともに、この加熱室内の基板の上方位置に加熱装置を配置し、
上記加熱室の下部に原料ガスを供給し得るガス供給口を設け、
このガス供給口に胴部が円柱状で且つ上端部が半球状にされた多孔質材料より成るガス分散部材を配置し、
上記加熱室内を所定の真空度に減圧し得る排気装置を具備したものである。
【0009】
また、請求項2に係るカーボンナノチューブ形成用CVD装置は、請求項1に記載のCVD装置において、加熱室の寸法が所定範囲でない場合に、加熱室内の基板の下方に、ガス供給口から供給された原料ガスを基板下面に案内する上下面が開放された直方体形状のガス案内体を配置したものである。
【0010】
また、請求項3に係る熱CVD装置は、請求項1に記載のCVD装置において、加熱室内の基板の下方に、ガス供給口に配置されたガス分散部材から供給された原料ガスを基板の下面に案内する上下面が開放された逆四角錐台形状のガス案内体を配置したものである。
【0011】
また、請求項4に係る熱CVD装置は、請求項1乃至3のいずれかに記載のCVD装置において、加熱室内のガス圧力を計測する室内側圧力計と、ガス供給口に供給されるガス圧力を計測するガス供給側圧力計と、これら両圧力計からの計測圧力を入力してガス分散部材の不具合を検出する不具合検出装置を具備したものである。
【0012】
さらに、請求項5に係る熱CVD装置は、請求項1に記載のCVD装置において、多孔質材料としてシリカを用いたものである。
【発明の効果】
【0013】
上記CVD装置の構成によると、薄板材である基板を加熱室内に導くとともに反応ガスを導入してその表面にカーボンナノチューブを形成する際に、巻出しロールに巻き付けられた基板を巻取りロールに巻き取るようにするとともに、その途中の基板の表面にカーボンナノチューブを形成するようにしたので、連続的に、基板にカーボンナノチューブを形成することができ、したがって効率良くカーボンナノチューブを形成することができる。
【0014】
また、基板を、カーボンナノチューブを形成する面を下向きにした状態で、加熱室内に原料ガスを供給するとともに、所定寸法の加熱室の下部に設けられたガス分散部材より当該原料ガスを基板の下面に供給するようにしたので、原料ガスを分散させて基板の下面に均一に導くことができ、したがって基板に形成されるカーボンナノチューブの品質を維持する、つまり歩留まりの向上を図ることができる。
【0015】
さらに、加熱室内のガス圧力を計測する室内側圧力計およびガス供給口に供給されるガス圧力を計測するガス供給側圧力計からの計測圧力を入力してガス分散部材の不具合を検出する不具合検出装置を具備することにより、CVD装置で発生する不具合を防止することができ、延いては、CVD装置の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係るカーボンナノチューブ形成用CVD装置の概略構成を示す模式的斜視図である。
【図2】同CVD装置の要部構成を示す概略斜視図である。
【図3】同CVD装置における不具合検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】同CVD装置におけるガス分散部材から導かれるガス流のベクトルを示す図で、(a)は加熱室の底壁面から基板までの高さが水力直径以上である場合を示し、(b)は加熱室の底壁面から基板までの高さが水力直径より低い場合を示す。
【図5】同加熱装置における発熱体の配置状態を説明するための概略側面図である。
【図6】同加熱装置による基板での温度分布を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例の変形例に係るカーボンナノチューブ形成用CVD装置の概略構成を示す模式断面図である。
【図8】本発明の実施例の他の変形例に係るカーボンナノチューブ形成用CVD装置の概略構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るカーボンナノチューブ形成用CVD装置の実施例を、図1〜図6に基づき説明する。
本実施例においては、カーボンナノチューブ形成用CVD装置として、熱CVD装置を用いたものについて説明する。
【0018】
本実施例においては、カーボンナノチューブを形成する基板として、ステンレス製の薄鋼板、すなわちステンレス鋼板(薄板材の一例であり、例えば箔材の場合は20〜300μm程度の厚さのものが用いられ、ステンレス箔ということもできる。また、板材である場合には、300μm〜数mm程度の厚さのものが用いられる。)を用いるようにしたもので、しかも、このステンレス鋼板としては、所定幅で長いもの、つまり帯状のものが用いられる。したがって、このステンレス鋼板はロールに巻き付けられており、カーボンナノチューブの形成に際しては、このロールから引き出されて連続的にカーボンナノチューブが形成されるとともに、このカーボンナノチューブが形成されたステンレス鋼板は、やはり、ロールに巻き取るようにされている。すなわち、一方の巻出しロールからステンレス鋼板を引き出し、この引き出されたステンレス鋼板の表面にカーボンナノチューブを形成(生成)した後、このカーボンナノチューブが形成されたステンレス鋼板を他方の巻取りロールに巻き取るようにされている。
【0019】
以下、上述した帯状のステンレス鋼板(以下、主に、基板と称す)の表面に、カーボンナノチューブを形成するための熱CVD装置について説明する。
この熱CVD装置には、図1に示すように、炉本体2内にカーボンナノチューブを形成するための細長い処理用空間部が設けられて成る加熱炉1が具備されており、上記炉本体2内に設けられた処理用空間部は、所定間隔おきに配置された区画壁3により、複数の、例えば5つの部屋に区画されて(仕切られて)いる。
【0020】
すなわち、この炉本体2内には、ステンレス鋼板つまり基板Kが巻き取られた巻出しロール16が配置される基板供給室11と、この巻出しロール16から引き出された基板Kを導き予熱を行う前処理室(予熱室とも言える)12と、この前処理室12で予熱された基板Kを導きその表面にカーボンナノチューブを形成するための加熱室(反応室ともいえる)13と、この加熱室13でカーボンナノチューブが形成された基板Kを導き後処理を施すための後処理室14と、この後処理室14で後処理が施された基板Kを巻き取るための巻取りロール17が配置された基板回収室(製品回収室ということもできる)15とが具備されている。上記巻出しロール16から引き出される基板Kの表面には、予め、不動態膜の形成(塗布による)とカーボンナノチューブ生成用の触媒微粒子(鉄の微粒子)の塗布が行われている。なお、場合によっては、前処理室12で、不動態膜の形成と触媒微粒子の塗布とを行うようにしてもよい。また、上記各ロール16,17の回転軸心は水平方向にされており、したがって加熱室13内に引き込まれる(案内される)基板Kは水平面内を移動するとともに、基板Kの下面にカーボンナノチューブを形成するようにされている。
【0021】
上記前処理室12では、上述したように、不動態膜の形成および触媒微粒子の塗布が行われた基板Kの予熱が行われる。
また、後処理室14では、基板Kの冷却と、基板Kの下面に形成されたカーボンナノチューブの検査とが行われる。
【0022】
そして、基板回収室15では、基板Kの上面に保護フィルムが貼り付けられ、この保護フィルムが貼り付けられたステンレス鋼板である基板Kが巻取りロール17に巻き取られる。なお、基板Kの上面に保護フィルムを貼り付けるようにしているのは、基板Kを巻き取った際に、その外側に巻き取られる基板Kに形成されたカーボンナノチューブを保護するためである。
【0023】
上述したように、容器本体2内には、区画壁3により5つの部屋が形成されており、当然ながら、各区画壁3には、基板Kを通過させ得る連通用開口部(スリットともいう)3aがそれぞれ形成されている。なお、これら各部屋は、すなわち加熱室、前処理室、後処理室については、必要に応じて複数設けられることもある。また、少なくとも、基板供給室11と前処理室12および後処理室14と基板回収室15とを区画する区画壁3における連通用開口部3aには、シール機構18が、例えばラビリンスシール、磁性流体を用いた磁気シール装置などが設けられている。
【0024】
ところで、上記加熱室13においては、熱CVD法により、カーボンナノチューブが形成されるが、当然に、内部は所定の真空度(負圧状態、減圧下ともいう)に維持されるとともに、カーボンナノチューブの形成用ガスつまり原料ガスGが供給されており、またこの原料ガスGが隣接する部屋に漏れないように考慮されている。例えば、加熱室13においては、窒素ガスなどの不活性ガスNと一緒に原料ガスGが下方から供給されるとともに上方から排出されて(引き抜かれて)いる。
【0025】
ここで、加熱室13について詳しく説明する。
すなわち、この加熱室13の底壁部2aの中心位置には、炭素(カーボン)を含む原料ガス(例えば、アセチレン、メタン、ブタンなどが用いられる)Gを供給するガス供給口5が形成されるとともに、加熱室13の上方部には、ガスを排出するガス排出口6が設けられている。なお、このガス供給口5およびガス排出口6にはノズルが設けられており、図面における部材番号はノズル部分を示しており、これらガス供給口5およびガス排出口6であるノズル部分には、図2に示すように、それぞれガス供給管7およびガス排出管8が接続されている。
【0026】
そして、上記ガス供給口5には、胴部が円柱状で且つ上端部が半球状にされた多孔質シリカ(多孔質材料の一例)より成るガス分散部材21が配置されて、ガス供給口5より加熱室13内に供給される原料ガスGを放射状に分散させて基板Kの下面(表面)に均一な密度で到達し得るようにされている。
【0027】
なお、加熱室13を形成する内壁面には所定厚さの断熱材(図示せず)が貼り付けられている。
ここで、加熱室13の寸法について説明しておく。
【0028】
この加熱室13は、少なくとも、基板Kの高さ位置から加熱室13の底壁面(正確には、断熱材の表面)までの高さが、下記(1)式で示す水力直径D以上となるようにされている。
【0029】
D=4a×b/(2a+2b) ・・・(1)
但し、aは加熱室の水平断面における長辺の長さ、bは同水平断面における短辺の長さを示す。
【0030】
なお、図4(a)は基板Kまでの高さが水力直径D以上の場合におけるガス流の方向(矢印のベクトルで示す)を示しており、ガス流の方向が基板Kの下面に対して垂直になっていることが判る。なお、図4(b)は基板Kまでの高さが水力直径Dより低い(小さい)場合におけるガス流の方向を示しており、基板Kの幅方向中央付近でガス流の方向が基板Kの下面に対して垂直になっているが、左右の両端に近づくにしたがってガス流の方向が斜めになっていることが、つまり、原料ガスが基板Kの表面に垂直に当っていないことが判る。
【0031】
さらに、加熱室13には、当該加熱室13内の空気(気体)を排気して所定の真空度(後述する)に維持するための排気装置(真空装置)23が配管24を介して接続されている。
【0032】
そして、加熱室13内の中間部分の上方位置、つまり基板の上方位置には、当該加熱室13内を加熱するための複数本の円柱形状(または棒状)の発熱体42およびこの発熱体42に電気を供給する電源(図示せず)からなる加熱装置41が設けられている。また、発熱体42としては非金属の抵抗発熱体が用いられ、具体的には、炭化ケイ素、ケイ化モリブデン、ランタンクロマイト、ジルコニア、黒鉛などが用いられる。特に、炭化ケイ素およびケイ化モリブデンは、窒素ガス、水素ガス雰囲気下で用いられ、ランタンクロマイトは大気下でのみ用いられ、黒鉛は不活性ガス雰囲気(還元雰囲気)下で用いられる。
【0033】
また、図2に示すように、この加熱室13には、ガス拡散部材21の目詰まり・破損などの不具合(つまり、良否である)を圧力に基づき検出するための不具合検出装置22が具備されている。
【0034】
この不具合検出装置22は、図3に示すように、加熱室13内の圧力(真空度である)を計測する室内側圧力計(真空計が用いられる)31からの計測圧力、および例えばガス供給口5または当該ガス供給口5に接続されたガス供給管7内の真空度を計測する供給側圧力計(真空計が用いられる)32からの計測圧力を入力して圧力差を求める圧力差演算部33と、この圧力差演算部33で求められた圧力差を入力して不具合であるか否かを判断する不具合判断部34と、この不具合判断部34で得られた判断結果すなわち不具合状態を出力する状態出力部35とから構成されている。
【0035】
そして、不具合判断部33では、正常運転時における、供給ガス量およびそのときの両圧力差(つまり、圧力損失)をデータベース化しておき、そのときの圧力差が正常運転時における圧力差の−50%〜+50%の範囲外(この閾値は、当然に、ガス流量、室内のガス圧力により変動する)になった場合に不具合が発生していると判断する。例えば、正常運転時における圧力差の−50%以下である場合には、圧力差が大きく減少したこと、つまり、ガス拡散部材21が破損していることが判り、逆に、正常運転時における圧力差の+50%以上である場合には、圧力差が大きく増加したこと、つまり、ガス拡散部材21に目詰まりが生じていることが判る。
【0036】
なお、前処理室12においては予熱が行われるため、加熱室13と同様の発熱体42′および電源からなる加熱装置41′が具備されている。
ところで、基板Kとして、厚さが20〜300μm以下に圧延加工されてコイル状に巻き取られた薄いステンレス鋼板(ステンレス箔でもある)が用いられており、このような基板Kには、コイルの巻き方向に引張りの残留応力が存在するため、触媒の微粒化および熱CVD時に、残留応力の開放により、基板Kに反りが発生する。このような反りの発生を防止するために、コイル巻き方向で張力を付加する機構、具体的には、巻出しロールと巻取りロールとの間で張力を発生させて(例えば、両ロールの回転速度を異ならせることにより張力を発生させる。具体的には、一方のモータで引っ張り、他方のモータにブレーキ機能を発揮させればよい。)基板Kを引っ張るようにしてもよい。また、巻取りロール側に錘を設けて引っ張るようにしてもよい。
【0037】
次に、加熱装置41について詳しく説明する。
この加熱装置41は、シート状の基板Kの上面側に配置されるもので、上述したように、円柱形状の発熱体42が複数本基板Kの幅方向(短手方向)と平行(並行)に且つ長手方向にて所定間隔おきで配置されている。なお、これら発熱体42を含む平面は、当然ながら、基板Kと平行となるようにされている。
【0038】
上記発熱体42は円柱形状のものが用いられるとともに所定間隔おきに複数本並置されたものであるため、これら発熱体42による基板Kへの加熱の均一化すなわち均熱化を図るとともに均熱面積の最大化が望まれる。すなわち、発熱体42の配置および当該発熱体42の中心から基板Kまでの距離については適切に配置されること(つまり、設計)が要求される。
【0039】
ここで、基板Kを加熱する際に放射(輻射)が支配的になる減圧下において、発熱体42と基板Kとの適正な位置関係について、実験した結果について説明しておく。
なお、二次元断面だけの放射を考えた場合、発熱体42は点光源から放射線状に熱が放出され、この放射熱は距離の4乗に反比例する。すなわち、距離に大きく依存することになる。
【0040】
当然ながら、発熱体42と基板Kの配置モデルとして、図5に示すように、発熱体42の点光源を水平直線状に配置するとともに、各発熱体42と基板Kとを平行に配置する。なお、発熱体42の直径をdとすると、発熱体42,42同士の間隔sを2dとし、また発熱体42の中心と基板Kまでの距離をhとする。
【0041】
そして、発熱体42,42同士の間隔s(=2d)を一定とし、基板Kまでの距離hを変化させた場合の基板Kの温度分布を調べた結果は以下の通りである。なお、各発熱体42による発熱量は同一とする。
【0042】
調べた結果、発熱体42と基板Kとの距離hが短い場合には、図6(b)の曲線Aで示すように、基板Kに与えられる熱量の変動が激しく、また距離hが長過ぎる場合には、図6(c)の曲線Aで示すように、熱量が均一になる範囲が狭いが、距離hが適正である場合には、図6(a)の曲線Aで示すように、熱量が均一である曲線が得られる。なお、図6(a)〜図6(c)における下方の曲線Bは、各発熱体42の発熱量を示している。また、上記距離hの適正値は、(2d)1.24〜(2d)1.35の範囲内にされている。
【0043】
また、上記加熱炉1にて熱CVD法が行われる際には、加熱室13内が所定の真空度に減圧される。
この真空度(減圧値)としては、数Pa〜5000Paの範囲に維持される。例えば、数十Pa〜数千Paに維持される。なお、減圧範囲の下限である数Paは、カーボンナノチューブの形成レート(成膜レートである)を保つための限界値であり、上限である5000Paは煤、タールの抑制という面での限界値である。また、形成用容器1内の構成部材としては、煤、タールなどの生成が促進しないように、非金属の材料が用いられている。
【0044】
ところで、加熱室13以外の他の処理室、すなわち基板供給室11、前処理室12、後処理室14および製品回収室15については詳しくは説明しなかったが、シール機構18によりシールがおわれている各室12,14についても減圧状態にされるとともに、加熱室13に空気などのカーボンナノチューブの形成に悪影響を及ぼすガスが流入するのを防止するために、図1に示すように、それぞれの底壁部2aには窒素ガスなどの不活性ガスNを供給するためのガス供給口5′が設けられるとともに、上壁部2bには、ガス排出口6′が設けられている。勿論、基板供給室11および製品回収室15を減圧状態にしてもよく、この場合には、同様に、不活性ガスNを供給するためのガス供給口およびガス排出口が設けられる。なお、図1は熱CVD装置の概略構成を示し、その内部が分かるように、手前側の側壁部については省略している。
【0045】
次に、上記熱CVD装置により、カーボンナノチューブの形成方法について説明する。
まず、巻出しロール16から基板Kを引き出し、前処理室12、加熱室13および後処理室14における各区画壁3の連通用開口部3aを挿通させ、その先端を巻取りロール17に巻き取らせる。このとき、基板Kには張力が付与されて真っ直ぐな水平面となるようにされている。
【0046】
そして、前処理室12内では加熱装置41′により基板Kの予熱が行われる。
基板Kが予熱されると、基板Kは所定長さ分だけ、つまりカーボンナノチューブが形成される長さ分だけ、巻取りロール17により巻き取られる。したがって、前処理室12で予熱された部分が、順次、加熱室13内に移動される。
【0047】
この加熱室13では、排気装置(図示せず)により、所定の真空度に、例えば数Pa〜5000Paの範囲に、具体的には、上述したように数十Pa〜数千Paに維持される。
そして、加熱装置41、すなわち発熱体42により、基板Kの温度を所定温度に、例えば600〜900℃に加熱するとともに、加熱室13の外壁温度が80℃またはそれ以下(好ましくは、50℃以下)となるようにする。
【0048】
上記温度になると、ガス供給口5に原料ガスGとして例えばアセチレンガス(C)が供給される。ところで、このガス供給口5には、ガス分散部材21が配置されており、このガス分散部材21から加熱室13内に原料ガスGが分散されて均一に基板Kの下面に供給され、所定の反応が行われることにより、基板Kの下面に、カーボンナノチューブを生成(成長)させる。
【0049】
そして、所定時間が経過して所定高さのカーボンナノチューブが得られると、同じく、所定長さだけ移動されて、このカーボンナノチューブが形成された基板Kが後処理室14内に移動される。
【0050】
この後処理室14内では、基板Kの冷却と検査とが行われる。
この後処理が済むと、基板Kは製品回収室15内に移動されて、その上面に保護フィルムが貼り付けられるとともに、巻取りロール17に巻き取られる。すなわち、カーボンナノチューブが形成された基板Kが製品として回収されることになる。なお、カーボンナノチューブが形成された基板Kが全て巻取りロール17に巻き取られると、外部に取り出されることになる。
【0051】
ところで、カーボンナノチューブの形成のために運転途中において、室内側圧力計31および供給側圧力計32により、加熱室13内におけるガス圧力およびガス供給部分におけるガス圧力の差が求められる。この圧力差が設定範囲外である場合、すなわち所定範囲よりも高い場合には、ガス分散部材21に目詰まり(反応時の副産物である煤やタールなどの炭化物の付着による)が生じていると判断されて、ガス供給口5から空気または酸素を含むガスを供給し炭化物を燃焼させることにより、その除去(所謂、焼洗浄)が行われる。この圧力差が設定範囲外である場合、すなわち所定範囲よりも低い場合には、ガス分散部材21に破損が生じていると判断されて、運転が停止される。
【0052】
上記熱CVD装置の構成によると、基板を加熱室内に導くとともに原料ガスを導入してその表面にカーボンナノチューブを形成する際に、巻出しロールに巻き取られた基板を巻取りロールに巻き取るようにするとともに、その途中の基板の表面にカーボンナノチューブを形成するようにしたので、所定長さ毎ではあるが連続的に、基板にカーボンナノチューブを形成することができ、したがって完全なバッチ式にカーボンナノチューブを形成する場合に比べて、効率良くカーボンナノチューブを形成することができる。
【0053】
また、基板を、カーボンナノチューブを形成する面を下向きにした状態で、加熱室内に原料ガスを供給するとともに、所定寸法の加熱室の下部(底部)に設けられたガス分散部材より当該原料ガスを基板の下面に供給するようにしたので、原料ガスを分散させて基板の下面に均一に導くことができ、したがって基板に形成されるカーボンナノチューブの品質を維持する、つまり歩留まりの向上を図ることができる。なお、従来の熱CVD装置では、基板全面の均一な加熱および基板全面に原料ガスを均一に行き渡らせることが困難であり、従来炉で達成しようとすると、形成したい基板面積に対して炉の投影面積をかなり大きくする必要が生じ、このため、効率が悪く、生成する基板当たりコストも高価になってしまう。
【0054】
また、発熱体を基板のカーボンナノチューブの形成面とは反対の上面側に配置したので、原料ガスによる反応がスムーズに行われる。この理由は、発熱体が直接基板の全面を均一に温めるとともにガスが発熱体と反対の面から供給されるため、ガスは基板に真っ先に供給されてその極近傍でガス分解が生じるからである。
【0055】
さらに、加熱室内のガス圧力を計測する室内側圧力計およびガス供給口に供給されるガス圧力を計測するガス供給側圧力計からの計測圧力を入力してガス分散部材の不具合を検出する不具合検出装置を具備したので、CVD装置で発生する不具合を防止することができ、延いては、CVD装置の長寿命化を図ることができる。
【0056】
ところで、上記実施例においては、加熱室13そのものを、所定寸法、つまり少なくとも加熱室13の底壁面から基板Kまでの高さが水力直径以上となるような寸法を有する直方体形状として説明したが、例えば加熱室13がある程度大きい場合には、所定寸法の直方体空間が得られるように、図7に示すように、上下面が開放された直方体形状のガス案内体(所謂、断面が矩形状のダクトである)51を配置してもよい。なお、図7は加熱炉1の概略構成を示すもので、ガス案内体51だけを厚みあるものとして示している。
【0057】
さらに、上記実施例においては、加熱室13内のガス分散空間部分を平面視矩形状[水平断面が矩形状(長方形に加えて正方形も含む)]、すなわち直方体形状として説明したが、例えば図8に示すように、ガス供給口5から供給された原料ガスGを基板Kの下面に案内する上下面が開放された逆四角錐台形状(ホッパー形状ともいう)のガス案内体61を、所定寸法の加熱室13内に配置してもよい。
【0058】
この場合、所定寸法である加熱室13の底壁面から基板Kまでの高さは、上述した実施例で示した(1)式の値に、下記(2)式で示される割合(値)を掛けた値とされる。
(ガス案内体の上面(基板側)開放部の水力直径)/(ガス案内体の下面(ガス供給側)開放部の水力直径)・・・(2)
このように(2)式の値を掛けるのは、逆四角錐台形状のものでは、分散効果が直方体形状のものよりも少し低下するので、これを補うためである。
【0059】
なお、逆四角錐台形状のガス案内体(図7に示す直方体形状の場合も含む)61と基板Kとの隙間は、できるだけ狭くされている。
また、このとき、真空度が高い場合には、ガス案内体61の中間高さ位置に、邪魔板(仮想線にて示す)62を配置して、ガスの速度が低下しやすい周辺部にガスを強制的に導くようにしてもよく、さらには、基板Kの下面寄り位置に原料ガスGの整流を行う整流板(仮想線にて示す)63を配置することにより、原料ガスGを基板Kの下面に、より均一に導くようにしてもよい。つまり、真空度に応じて、邪魔板62および整流板63のいずれか、または両方設けるようにしてもよい。
【0060】
なお、図8も加熱炉1の概略構成を示すもので、ガス案内体61、邪魔板62および整流板63だけを厚みあるものとして図示している。
【符号の説明】
【0061】
K 基板
1 加熱炉
2 炉本体
2a 底壁部
3 区画壁
3a 連通用開口部
5 ガス供給口
6 ガス排出口
11 基板供給室
12 前処理室
13 加熱室
14 後処理室
15 基板回収室
16 巻出しロール
17 巻取りロール
21 ガス分散部材
22 不具合検出装置
24 排気装置
31 室内側圧力計
32 供給側圧力計
33 圧力差演算部
34 不具合判断部
35 状態出力部
41 加熱装置
42 発熱体
51 ガス案内体
61 ガス案内体
62 邪魔板
63 整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉本体内に設けられた加熱室内に炭素を含む原料ガスを導くとともに原料ガスを加熱して当該加熱室に移動される基板の表面にカーボンナノチューブを形成し得る加熱炉を具備する熱CVD装置であって、
炉本体内の一端側に基板を構成する薄板材が巻き付けられた巻出しロールを配置するとともに、他端側にこの基板を巻き取る巻取りロールを配置し、
これら両ロール同士の間に、上記基板を挿通し得る開口部を有する区画壁により所定寸法の平面視矩形状の加熱室を形成するとともに、この加熱室内の基板の上方位置に加熱装置を配置し、
上記加熱室の下部に原料ガスを供給し得るガス供給口を設け、
このガス供給口に胴部が円柱状で且つ上端部が半球状にされた多孔質材料より成るガス分散部材を配置し、
上記加熱室内を所定の真空度に減圧し得る排気装置を具備したことを特徴とするカーボンナノチューブ形成用CVD装置。
【請求項2】
加熱室の寸法が所定範囲でない場合に、加熱室内の基板の下方に、ガス供給口から供給された原料ガスを基板下面に案内する上下面が開放された直方体形状のガス案内体を配置したことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ形成用CVD装置。
【請求項3】
加熱室内の基板の下方に、ガス供給口に配置されたガス分散部材から供給された原料ガスを基板の下面に案内する上下面が開放された逆四角錐台形状のガス案内体を配置したことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ形成用CVD装置。
【請求項4】
加熱室内のガス圧力を計測する室内側圧力計と、ガス供給口に供給されるガス圧力を計測するガス供給側圧力計と、これら両圧力計からの計測圧力を入力してガス分散部材の不具合を検出する不具合検出装置を具備したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ形成用CVD装置。
【請求項5】
多孔質材料としてシリカを用いたことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ形成用CVD装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−32248(P2013−32248A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169695(P2011−169695)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】