カーボンナノチューブ成長用基板、その製造方法及び配向カーボンナノチューブの製造方法
【課題】平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを長尺化できるカーボンナノチューブ成長用基板を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ成長用基板1は、基材1上に形成された反応防止層3と、反応防止層3上に形成された触媒材料層4と、触媒材料層4上に形成された分散層5と、分散層5上に形成された分散促進層6とを備える。
【解決手段】カーボンナノチューブ成長用基板1は、基材1上に形成された反応防止層3と、反応防止層3上に形成された触媒材料層4と、触媒材料層4上に形成された分散層5と、分散層5上に形成された分散促進層6とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ成長用基板、その製造方法及び配向カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界放出用エミッタの多層カーボンナノチューブの合成のための、基板上に垂直方向に配向されている配向カーボンナノチューブの製造方法として、プラズマCVDを用いる方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
前記プラズマCVDを用いる方法によれば、プラズマにより形成されるシースによる電界引き上げ効果がカーボンナノチューブの配向性に貢献するものと考えられている。しかし、プラズマCVDを用いる方法では、プラズマの発生領域で炭素ラジカルが発生する一方、該炭素ラジカルに副生するイオンにより基板が攻撃され、成長しつつあるカーボンナノチューブがエッチングされるという問題がある。このため、プラズマCVDを用いる方法は、長尺のカーボンナノチューブを成長させる場合には不利であり、単層カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブよりもエッチングを受けやすいので、さらに不利である。
【0004】
本発明者らは、前記問題を解決するために、アンテナ型プラズマCVDにおいて、プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得ると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離に基板を保持する技術を提案している(特許文献1参照)。前記技術において、前記基板は、基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層を形成したことを特徴としている。
【0005】
このような構成により、プラズマに由来するイオンの攻撃を避けることができると共に、前記基板が不必要に高い温度に曝されることもないため、触媒の熱凝集を抑制することができる。この結果、長尺の単層カーボンナノチューブからなる配向カーボンナノチューブを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−36593号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science, 282, 1105, (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の基板を用いたのでは、平均直径2nm以上の単層カーボンナノチューブの長尺化は達成することができるものの、平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを400μm以上の長さに長尺化することができないという不都合がある。
【0009】
本発明は、かかる不都合を解消して、平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを長尺化することができるカーボンナノチューブ成長用基板を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の目的は、前記カーボンナノチューブ成長用基板の製造方法及び該カーボンナノチューブ成長用基板を用いる配向カーボンナノチューブの製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるカーボンナノチューブ成長用基板であって、基材と、該基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層と、該分散層上に形成され該分散層による前記触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層とを備え、該分散促進層はTi又はその酸化物からなることを特徴とする。
【0012】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板によれば、分散層の上にさらにTi又はその酸化物からなる分散促進層を備えるので、該分散促進層により前記分散層による前記触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用が増大される。この結果、カーボンナノチューブ成長用基板上に、従来よりも細径で平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを成長させることができ、しかも該単層カーボンナノチューブの長さを400μm以上に長尺化することができる。
【0013】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記反応防止層はAl、Si、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又は窒化物からなることが好ましい。
【0014】
また、前記反応防止層により前記基材との反応が防止されるために、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属の混合物、合金又は酸化物からなることが好ましい。また、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属と、Pt、Ru、Pb、Mo、Mn、Cuからなる群から選択される1種以上の金属との混合物、合金又は酸化物からなるものであってもよい。
【0015】
前記いずれかの触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させるために、前記分散層はAl、Si、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は1nm未満の厚さを備え、前記分散促進層は該触媒材料層の4倍未満の厚さを備えることが好ましい。前記触媒材料層の厚さが1nm以上であると、多層カーボンナノチューブが選択的に生成し、細径の単層カーボンナノチューブを得ることが難しくなる傾向がある。また、前記分散促進層の厚さが前記触媒材料層の4倍以上であると、形成される単層カーボンナノチューブの純度が低下したり、該単層カーボンナノチューブの成長自体が阻害されることがある。
【0017】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、基材上に該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層を形成する工程と、該反応防止層上に触媒材料層を形成する工程と、該触媒材料層上に該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層を形成する工程と、該分散層上に該分散層による該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層を形成する工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0018】
また、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、先端がマイクロ波の定在波の腹(1/4波長)に一致するように正確に制御されたアンテナを有するアンテナ型プラズマCVDを用いる配向カーボンナノチューブの製造方法に用いることができる。
【0019】
本発明の配向カーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブの原料となる気体の流通下、所定の圧力に減圧された処理室にプラズマを発生させ、前記カーボンナノチューブ成長用基板を、該プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得る距離であり、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離を存して保持する。
【0020】
本発明の配向カーボンナノチューブの製造方法によれば、前記カーボンナノチューブ成長用基板を用いることにより、平均直径2nm未満、長さを400μm以上の単層カーボンナノチューブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ成長用基板の構成を示す説明的断面図。
【図2】本発明の配向カーボンナノチューブの製造に用いるアンテナ型プラズマCVD装置の構成を示す説明的断面図。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトルにおけるG/Dを示すグラフ(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図4】実施例4〜6で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトルにおけるG/Dを示すグラフ(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図5】実施例7〜9及び比較例4〜6で得られたカーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を示すグラフ(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図6】実施例10で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図7】実施例11で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図8】実施例12で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を示す図。
【図9】比較例7で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を示す図。
【図10】実施例13で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を示す図。
【図11】比較例8で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0023】
本実施形態のカーボンナノチューブ成長用基板は、アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるものである。図1に示すように、カーボンナノチューブ成長用基板1は、基材2と、基材2上に形成された反応防止層3と、反応防止層3上に形成された触媒材料層4と、触媒材料層4上に形成された分散層5と、分散層5上に形成された分散促進層6とからなる。
【0024】
基材2に用いることができる材料としては、シリコン、ガラス、溶融石英、耐熱セラミックス、耐熱鋼板等を挙げることができる。
【0025】
反応防止層3は、基材2と触媒材料層4との反応を防止して触媒材料層4に所定量の触媒材料を確保すると共に、該触媒材料から形成される触媒微粒子を所定の形態に維持する。反応防止層3は、前記機能を備えるために、Al、Si、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又は窒化物により、2〜70nmの範囲の厚さに形成されることが好ましい。尚、反応防止層3は、前記金属の酸化物と窒化物との複合物であってもよい。
【0026】
触媒材料層4は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属の混合物、合金又は酸化物からなるものでもよく、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属と、Pt、Ru、Pb、Mo、Mn、Cuからなる群から選択される1種以上の金属との混合物、合金又は酸化物からなるものであってもよい。触媒材料層4は、1nm未満、例えば0.025〜0.9nmの厚さに形成される。
【0027】
分散層5は、触媒材料層4の触媒材料から形成される触媒微粒子を安定して分散させると共に、該触媒微粒子の径を所望の大きさに規定する。分散層5は、前記機能を備えるために、Al、Si、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物により、例えばFe0.5nmの厚さの触媒材料層4を使用した場合には、3nm未満かつ触媒材料層4の厚さの3倍未満の厚さに形成されることがより好ましい。
【0028】
また、Feの厚さが0.5nmに満たない場合、又はFeと他の元素(例えばNiもしくはCo)との多元系触媒を用いる場合にはこの限りではなく、触媒材料層4の3倍の厚さを超える分散層5としてもよい。
【0029】
分散促進層6は、分散層5による触媒材料層4に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる。より具体的には、分散促進層6は、カーボンナノチューブ製造時の高温環境下において、前記触媒材料から形成される触媒微粒子の分散状態を維持する。分散促進層6は、前記機能を備えるために、Ti又はその酸化物により、触媒材料層4の厚さの4倍未満の厚さに形成される。分散促進層6は、例えばその厚さが3nm未満であることがより好ましい。
【0030】
ここで、本実施形態のカーボンナノチューブ成長用基板1を用いてカーボンナノチューブを成長させるときには、後述するように予めチャンバー内に減圧下で水素を流通させ、さらに加熱により、触媒材料層4を還元して、触媒を金属の状態としておく必要がある。触媒を金属の状態としておかないと、長尺化フォレストの様な密なカーボンナノチューブの成長は望めない。そこで、分散層5は触媒材料層4よりもイオン化傾向の大きな金属の酸化物からなることが好ましく、分散促進層6についても触媒材料層4よりもイオン化傾向の大きな金属又はその酸化物からなることが好ましい。
【0031】
例えば、触媒材料層4がFe、Fe合金又は酸化鉄からなるときには、分散層5はFeよりもイオン化傾向の大きなAlからなることが好ましい。また、分散促進層6はTi又はその酸化物からなり、Tiは、Fe及びAlよりもイオン化傾向が大きいので好都合である。
【0032】
本実施形態のカーボンナノチューブ成長用基板1は、基材2上に、反応防止層3、触媒材料層4、分散層5、分散促進層6を逐次形成することにより製造することができる。すなわち、基材2上に反応防止層3を形成し、反応防止層3上に触媒材料層4を形成し、触媒材料層4上に分散層5を形成し、分散層5上に分散促進層6を形成する。
【0033】
前記各層の形成は、いずれも、スパッタ法、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法等により行うことができる。ここで、例えば、酸化アルミニウムからなる反応防止層3は、基材2上にスパッタ法によりアルミニウムを蒸着させた後、製膜されたアルミニウムを大気暴露して酸化させることにより形成することができる。このスパッタの際にイオン源となるArガス圧力を高く設定すると成膜後のアルミニウム層が高比表面積を有するポーラスな酸化アルミニウムとなるためさらに好ましい。
【0034】
次に、カーボンナノチューブ成長用基板1を用いる配向カーボンナノチューブの製造方法について説明する。
【0035】
本実施形態の配向カーボンナノチューブの製造方法は、図2に示すアンテナ型プラズマCVD装置11,21により実施することができる。
【0036】
図2(a)に示すアンテナ型プラズマCVD装置11は、箱形のチャンバー(処理室)12を備える例であり、天井部にカーボンナノチューブの原料となる気体(以下、原料ガスと略記する)を導入する原料ガス導入部13を備えると共に、底部側面にはチャンバー2内のガスを排出するガス排出部14を備えている。ガス排出部14は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。また、チャンバー12の天井部には、マイクロ波導波管15及びアンテナ16が備えられており、所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波の印加によりアンテナ16の先端部16aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部16の周囲にプラズマ発生領域17が形成される。
【0037】
チャンバー12内には、マイクロ波導波管15に対向する位置に基板加熱部18が上下動自在に設けられており、基板加熱部18上にカーボンナノチューブ成長用基板1が載置される。アンテナ型プラズマCVD装置11では、基板加熱部18を上下動させることにより、マイクロ波導波管15直下のプラズマ発生領域17とカーボンナノチューブ成長用基板1との距離dを調整するようになっている。この結果、距離dは、カーボンナノチューブ成長用基板1がプラズマ発生領域17に発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避けることができると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持してカーボンナノチューブ成長用基板1に到達することができる距離に調整される。
【0038】
また、図2(b)に示すアンテナ型プラズマCVD装置21は、管状のチャンバー(処理室)22を備える例であり、チャンバー22の一方の端部から原料ガスを導入すると共に、他方の端部からチャンバー22内のガスを排出するようになっている。チャンバー22のガス排出側の端部は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。また、チャンバー22の原料ガス導入側の端部近傍には、アンテナ型プラズマCVD装置11と同様のマイクロ波導波管15及びアンテナ16が備えられており、所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波の印加によりアンテナ16の先端部16aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部16の周囲にプラズマ発生領域17が形成される。
【0039】
導入される原料ガスに対し、プラズマ領域17の下流側には、チャンバー22を挟んで1対の基板加熱部23a,23bが、チャンバー22の長さ方向に沿ってプラズマ領域17に対して進退自在に設けられている。そして、チャンバー22内には、基板加熱部23bに対向して基板載置部24が設けられ、基板載置部24上にカーボンナノチューブ成長用基板1が載置される。CVD装置21では、基板加熱部23a,23bを進退させることにより、プラズマ発生領域17と基板15との距離dを調整するようになっている。この結果、距離dは、カーボンナノチューブ成長用基板1がプラズマ発生領域17に発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避けることができると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持してカーボンナノチューブ成長用基板1に到達することができる距離に調整される。
【0040】
アンテナ型プラズマCVD装置11,21では、図示しないマイクロ波発生装置により、例えば周波数2.45GHzのマイクロ波が照射されると、マイクロ波導波管15によりアンテナ16の先端部16aが腹(1/4波長、長さ3cmに相当)となる定在波が形成される。この結果、アンテナ16の先端部16aの周囲にプラズマ球(プラズマ発生領域17)が形成される。
【0041】
本実施形態では、アンテナ型プラズマCVD装置11,21において、カーボンナノチューブ成長用基板1を650〜800℃の温度に維持すると共に、チャンバー12,22内にプラズマを発生させることにより、配向カーボンナノチューブを製造する。このとき、チャンバー12,22内は、原料ガスを供給しつつ、チャンバー12,22内のガスを排出することにより減圧され、2.66〜13.33kPaの範囲の圧力に保持される。そして、プラズマ発生のために印加する電力を60〜180Wの範囲に保持することにより、平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブ成長用基板1に対して略垂直の方向に成長させ、400μm以上の長さに長尺化することができる。
【0042】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0043】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、シリコンからなる基材2上にスパッタ法によりAlを5nmの厚さに蒸着した後、大気暴露することにより、酸化アルミニウムからなる反応防止層3を形成した。次に、反応防止層3上にスパッタ法によりFeを0.5nmの厚さに蒸着し、Feからなる触媒材料層4を形成した。次に、触媒材料層4上にスパッタ法によりAlを1.0nmの厚さに蒸着した後、大気暴露することにより、酸化アルミニウムからなる分散層5を形成した。次に、分散層5上にスパッタ法によりTiを0.3nmの厚さに蒸着した後、大気暴露することにより、酸化チタンからなる分散促進層6を形成した。この結果、図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0044】
次に、図2(a)に示すアンテナ型プラズマCVD装置11にカーボンナノチューブ成長用基板1を配設すると共に、メタン5sccmと水素45sccmとを原料ガスとしてチャンバー12内に流通し、チャンバー12内の圧力を2.66kPaに保持した。この状態で基板加熱部18によりカーボンナノチューブ成長用基板1を650℃に加熱し、マイクロ波導波管15から周波数2.45GHzのマイクロ波を照射して、アンテナ16の先端部16aにプラズマを発生させた。
【0045】
マイクロ波の出力を60Wとし、カーボンナノチューブ成長用基板1とプラズマ発生領域17との距離dを50mmとした。前記マイクロ波は、カーボンナノチューブ成長用基板1の温度が650℃に達してから1分後に照射し、合成時間は3時間として、配向カーボンナノチューブを得た。
【0046】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0047】
〔実施例2〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.6nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0048】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0049】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0050】
〔実施例3〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.75nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0051】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0052】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0053】
〔比較例1〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例1と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0054】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0055】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0056】
〔比較例2〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例2と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0057】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例2と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0058】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0059】
〔比較例3〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例3と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0060】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0061】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0062】
図3によれば、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例1〜3のカーボンナノチューブは、分散促進層6を備えないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例1〜3のカーボンナノチューブに比較してそれぞれG/Dが大きくなっている。従って、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いることにより、質が向上するか、或いは単層カーボンナノチューブが多く存在するカーボンナノチューブを得ることができることが明らかである。
【0063】
〔実施例4〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.25nmとし、酸化アルミニウムからなる分散層5の厚さを0.5nmとし、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.6nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0064】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0065】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図4に示す。
【0066】
〔実施例5〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.25nmとし、酸化アルミニウムからなる分散層5の厚さを0.5nmとし、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを1.0nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0067】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0068】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図4に示す。
【0069】
〔実施例6〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.25nmとし、酸化アルミニウムからなる分散層5の厚さを0.5nmとし、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを1.5nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0070】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0071】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図4に示す。
【0072】
図4によれば、分散促進層6の厚さが触媒材料層の4倍以上となっているカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例5,6のカーボンナノチューブは、分散促進層6の厚さが触媒材料層の4倍未満となっているカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例4のカーボンナノチューブに比較してG/Dが小さくなっている。従って、分散促進層6の厚さが触媒材料層の4倍以上であると、形成される単層カーボンナノチューブの質が低下したり、該単層カーボンナノチューブの成長自体が阻害されることが明らかである。
【0073】
〔実施例7〕
本実施例では、触媒材料層4を0.4nmの厚さのFeと0.1nmの厚さのNiとにより形成し、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.75nmとし、合成時のカーボンナノチューブ成長用基板1とプラズマ発生領域17との距離を62.5mmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0074】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0075】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0076】
〔実施例8〕
本実施例では、実施例7で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用い、メタン7.5sccmと水素42.5sccmとを原料ガスとしてチャンバー12内に流通すると共に、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0077】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0078】
〔実施例9〕
本実施例では、実施例7で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用い、メタン10sccmと水素40sccmとを原料ガスとしてチャンバー12内に流通すると共に、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0079】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0080】
〔比較例4〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例7と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0081】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0082】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0083】
〔比較例5〕
本比較例では、比較例4で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例8と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0084】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0085】
〔比較例6〕
本比較例では、比較例4で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例9と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0086】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0087】
図5によれば、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例7〜9のカーボンナノチューブは、分散促進層6を備えないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例4〜6のカーボンナノチューブに比較してそれぞれRBM比が大きくなっている。従って、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いることにより、質が向上するか、或いは単層カーボンナノチューブが多く存在するカーボンナノチューブを得ることができることが明らかである。
【0088】
〔実施例10〕
本実施例では、触媒材料層4を0.4nmの厚さのFeと0.1nmの厚さのNiとにより形成し、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.5nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0089】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いると共に、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0090】
本実施例で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長632.8nmのHe−Neレーザーにて測定)を図6に示す。
【0091】
〔実施例11〕
本実施例では、触媒材料層4を0.5nmの厚さのFeと0.1nmの厚さのCoとにより形成し、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.5nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0092】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0093】
本実施例で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長632.8nmのHe−Neレーザーにて測定)を図7に示す。
【0094】
図6及び図7によれば、1600cm−1付近にグラファイト網面に由来するGバンドと、1550cm−1付近に細径金属チューブに由来するBWFが観察され、1300cm−1付近に欠陥に由来するDバンドが観察される。さらに、100〜400cm−1付近にカーボンナノチューブの径情報を与えるRBMが特徴的な295cm−1及び283cm−1のピークとして観察され、平均直径2nm以下の細径の単層カーボンナノチューブが存在することが明らかである。
【0095】
〔実施例12〕
本実施例では、反応防止層3を5nmの厚さのAlとし、触媒材料層4を0.1nmの厚さのFeとし、分散層5を0.1nmの厚さのAlとし、分散促進層6を0.1nmの厚さの酸化チタンとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0096】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用い、チャンバー12内の圧力を7.98kPaに保持し、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱すると共に、合成時間を5分間とした以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0097】
本実施例で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を図8に示す。
【0098】
〔比較例7〕
本比較例では、反応防止層3を5nmの厚さの酸化アルミニウムとし、触媒材料層4を0.2nmの厚さのFeとし、分散層5を0.5nmの厚さの酸化アルミニウムとし、分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例1と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0099】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用い、該カーボンナノチューブ成長用基板を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0100】
本比較例で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を図9に示す。
【0101】
図8から、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例12のカーボンナノチューブでは、直径1nm程度の細径の単層ナノチューブが多数認められることが明らかである。これに対して、図9からは、分散促進層6を備えていないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例7のカーボンナノチューブでは、直径5nm程度の2層カーボンナノチューブが多数認められることが明らかである。
【0102】
〔実施例13〕
本実施例では、実施例2で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0103】
本実施例で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を図10に示す。
【0104】
〔比較例8〕
本比較例では、分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例2と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0105】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0106】
本比較例で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を図11に示す。
【0107】
図10及び図11から、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例13のカーボンナノチューブは、分散促進層6を備えないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例8のカーボンナノチューブよりも長尺化されており、400μm以上の長さを備えていることが明らかである。
【符号の説明】
【0108】
1…カーボンナノチューブ成長用基板、 2…基材、 3…反応防止層、 4…触媒材料層、 5…分散層、 7…分散促進層、 11,21…アンテナ型プラズマCVD装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ成長用基板、その製造方法及び配向カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界放出用エミッタの多層カーボンナノチューブの合成のための、基板上に垂直方向に配向されている配向カーボンナノチューブの製造方法として、プラズマCVDを用いる方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
前記プラズマCVDを用いる方法によれば、プラズマにより形成されるシースによる電界引き上げ効果がカーボンナノチューブの配向性に貢献するものと考えられている。しかし、プラズマCVDを用いる方法では、プラズマの発生領域で炭素ラジカルが発生する一方、該炭素ラジカルに副生するイオンにより基板が攻撃され、成長しつつあるカーボンナノチューブがエッチングされるという問題がある。このため、プラズマCVDを用いる方法は、長尺のカーボンナノチューブを成長させる場合には不利であり、単層カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブよりもエッチングを受けやすいので、さらに不利である。
【0004】
本発明者らは、前記問題を解決するために、アンテナ型プラズマCVDにおいて、プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得ると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離に基板を保持する技術を提案している(特許文献1参照)。前記技術において、前記基板は、基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層を形成したことを特徴としている。
【0005】
このような構成により、プラズマに由来するイオンの攻撃を避けることができると共に、前記基板が不必要に高い温度に曝されることもないため、触媒の熱凝集を抑制することができる。この結果、長尺の単層カーボンナノチューブからなる配向カーボンナノチューブを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−36593号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science, 282, 1105, (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の基板を用いたのでは、平均直径2nm以上の単層カーボンナノチューブの長尺化は達成することができるものの、平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを400μm以上の長さに長尺化することができないという不都合がある。
【0009】
本発明は、かかる不都合を解消して、平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを長尺化することができるカーボンナノチューブ成長用基板を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明の目的は、前記カーボンナノチューブ成長用基板の製造方法及び該カーボンナノチューブ成長用基板を用いる配向カーボンナノチューブの製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるカーボンナノチューブ成長用基板であって、基材と、該基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層と、該分散層上に形成され該分散層による前記触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層とを備え、該分散促進層はTi又はその酸化物からなることを特徴とする。
【0012】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板によれば、分散層の上にさらにTi又はその酸化物からなる分散促進層を備えるので、該分散促進層により前記分散層による前記触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用が増大される。この結果、カーボンナノチューブ成長用基板上に、従来よりも細径で平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを成長させることができ、しかも該単層カーボンナノチューブの長さを400μm以上に長尺化することができる。
【0013】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記反応防止層はAl、Si、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又は窒化物からなることが好ましい。
【0014】
また、前記反応防止層により前記基材との反応が防止されるために、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属の混合物、合金又は酸化物からなることが好ましい。また、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属と、Pt、Ru、Pb、Mo、Mn、Cuからなる群から選択される1種以上の金属との混合物、合金又は酸化物からなるものであってもよい。
【0015】
前記いずれかの触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させるために、前記分散層はAl、Si、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は1nm未満の厚さを備え、前記分散促進層は該触媒材料層の4倍未満の厚さを備えることが好ましい。前記触媒材料層の厚さが1nm以上であると、多層カーボンナノチューブが選択的に生成し、細径の単層カーボンナノチューブを得ることが難しくなる傾向がある。また、前記分散促進層の厚さが前記触媒材料層の4倍以上であると、形成される単層カーボンナノチューブの純度が低下したり、該単層カーボンナノチューブの成長自体が阻害されることがある。
【0017】
本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、基材上に該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層を形成する工程と、該反応防止層上に触媒材料層を形成する工程と、該触媒材料層上に該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層を形成する工程と、該分散層上に該分散層による該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層を形成する工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0018】
また、本発明のカーボンナノチューブ成長用基板は、先端がマイクロ波の定在波の腹(1/4波長)に一致するように正確に制御されたアンテナを有するアンテナ型プラズマCVDを用いる配向カーボンナノチューブの製造方法に用いることができる。
【0019】
本発明の配向カーボンナノチューブの製造方法は、カーボンナノチューブの原料となる気体の流通下、所定の圧力に減圧された処理室にプラズマを発生させ、前記カーボンナノチューブ成長用基板を、該プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得る距離であり、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離を存して保持する。
【0020】
本発明の配向カーボンナノチューブの製造方法によれば、前記カーボンナノチューブ成長用基板を用いることにより、平均直径2nm未満、長さを400μm以上の単層カーボンナノチューブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ成長用基板の構成を示す説明的断面図。
【図2】本発明の配向カーボンナノチューブの製造に用いるアンテナ型プラズマCVD装置の構成を示す説明的断面図。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトルにおけるG/Dを示すグラフ(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図4】実施例4〜6で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトルにおけるG/Dを示すグラフ(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図5】実施例7〜9及び比較例4〜6で得られたカーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を示すグラフ(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図6】実施例10で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図7】実施例11で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(ラマンスペクトルは励起波長632.8nmのHe−Neレーザにて測定)。
【図8】実施例12で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を示す図。
【図9】比較例7で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を示す図。
【図10】実施例13で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を示す図。
【図11】比較例8で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0023】
本実施形態のカーボンナノチューブ成長用基板は、アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるものである。図1に示すように、カーボンナノチューブ成長用基板1は、基材2と、基材2上に形成された反応防止層3と、反応防止層3上に形成された触媒材料層4と、触媒材料層4上に形成された分散層5と、分散層5上に形成された分散促進層6とからなる。
【0024】
基材2に用いることができる材料としては、シリコン、ガラス、溶融石英、耐熱セラミックス、耐熱鋼板等を挙げることができる。
【0025】
反応防止層3は、基材2と触媒材料層4との反応を防止して触媒材料層4に所定量の触媒材料を確保すると共に、該触媒材料から形成される触媒微粒子を所定の形態に維持する。反応防止層3は、前記機能を備えるために、Al、Si、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又は窒化物により、2〜70nmの範囲の厚さに形成されることが好ましい。尚、反応防止層3は、前記金属の酸化物と窒化物との複合物であってもよい。
【0026】
触媒材料層4は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属の混合物、合金又は酸化物からなるものでもよく、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属と、Pt、Ru、Pb、Mo、Mn、Cuからなる群から選択される1種以上の金属との混合物、合金又は酸化物からなるものであってもよい。触媒材料層4は、1nm未満、例えば0.025〜0.9nmの厚さに形成される。
【0027】
分散層5は、触媒材料層4の触媒材料から形成される触媒微粒子を安定して分散させると共に、該触媒微粒子の径を所望の大きさに規定する。分散層5は、前記機能を備えるために、Al、Si、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物により、例えばFe0.5nmの厚さの触媒材料層4を使用した場合には、3nm未満かつ触媒材料層4の厚さの3倍未満の厚さに形成されることがより好ましい。
【0028】
また、Feの厚さが0.5nmに満たない場合、又はFeと他の元素(例えばNiもしくはCo)との多元系触媒を用いる場合にはこの限りではなく、触媒材料層4の3倍の厚さを超える分散層5としてもよい。
【0029】
分散促進層6は、分散層5による触媒材料層4に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる。より具体的には、分散促進層6は、カーボンナノチューブ製造時の高温環境下において、前記触媒材料から形成される触媒微粒子の分散状態を維持する。分散促進層6は、前記機能を備えるために、Ti又はその酸化物により、触媒材料層4の厚さの4倍未満の厚さに形成される。分散促進層6は、例えばその厚さが3nm未満であることがより好ましい。
【0030】
ここで、本実施形態のカーボンナノチューブ成長用基板1を用いてカーボンナノチューブを成長させるときには、後述するように予めチャンバー内に減圧下で水素を流通させ、さらに加熱により、触媒材料層4を還元して、触媒を金属の状態としておく必要がある。触媒を金属の状態としておかないと、長尺化フォレストの様な密なカーボンナノチューブの成長は望めない。そこで、分散層5は触媒材料層4よりもイオン化傾向の大きな金属の酸化物からなることが好ましく、分散促進層6についても触媒材料層4よりもイオン化傾向の大きな金属又はその酸化物からなることが好ましい。
【0031】
例えば、触媒材料層4がFe、Fe合金又は酸化鉄からなるときには、分散層5はFeよりもイオン化傾向の大きなAlからなることが好ましい。また、分散促進層6はTi又はその酸化物からなり、Tiは、Fe及びAlよりもイオン化傾向が大きいので好都合である。
【0032】
本実施形態のカーボンナノチューブ成長用基板1は、基材2上に、反応防止層3、触媒材料層4、分散層5、分散促進層6を逐次形成することにより製造することができる。すなわち、基材2上に反応防止層3を形成し、反応防止層3上に触媒材料層4を形成し、触媒材料層4上に分散層5を形成し、分散層5上に分散促進層6を形成する。
【0033】
前記各層の形成は、いずれも、スパッタ法、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法等により行うことができる。ここで、例えば、酸化アルミニウムからなる反応防止層3は、基材2上にスパッタ法によりアルミニウムを蒸着させた後、製膜されたアルミニウムを大気暴露して酸化させることにより形成することができる。このスパッタの際にイオン源となるArガス圧力を高く設定すると成膜後のアルミニウム層が高比表面積を有するポーラスな酸化アルミニウムとなるためさらに好ましい。
【0034】
次に、カーボンナノチューブ成長用基板1を用いる配向カーボンナノチューブの製造方法について説明する。
【0035】
本実施形態の配向カーボンナノチューブの製造方法は、図2に示すアンテナ型プラズマCVD装置11,21により実施することができる。
【0036】
図2(a)に示すアンテナ型プラズマCVD装置11は、箱形のチャンバー(処理室)12を備える例であり、天井部にカーボンナノチューブの原料となる気体(以下、原料ガスと略記する)を導入する原料ガス導入部13を備えると共に、底部側面にはチャンバー2内のガスを排出するガス排出部14を備えている。ガス排出部14は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。また、チャンバー12の天井部には、マイクロ波導波管15及びアンテナ16が備えられており、所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波の印加によりアンテナ16の先端部16aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部16の周囲にプラズマ発生領域17が形成される。
【0037】
チャンバー12内には、マイクロ波導波管15に対向する位置に基板加熱部18が上下動自在に設けられており、基板加熱部18上にカーボンナノチューブ成長用基板1が載置される。アンテナ型プラズマCVD装置11では、基板加熱部18を上下動させることにより、マイクロ波導波管15直下のプラズマ発生領域17とカーボンナノチューブ成長用基板1との距離dを調整するようになっている。この結果、距離dは、カーボンナノチューブ成長用基板1がプラズマ発生領域17に発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避けることができると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持してカーボンナノチューブ成長用基板1に到達することができる距離に調整される。
【0038】
また、図2(b)に示すアンテナ型プラズマCVD装置21は、管状のチャンバー(処理室)22を備える例であり、チャンバー22の一方の端部から原料ガスを導入すると共に、他方の端部からチャンバー22内のガスを排出するようになっている。チャンバー22のガス排出側の端部は例えば図示しない真空ポンプに接続されている。また、チャンバー22の原料ガス導入側の端部近傍には、アンテナ型プラズマCVD装置11と同様のマイクロ波導波管15及びアンテナ16が備えられており、所定の周波数(例えば2.45GHz)のマイクロ波の印加によりアンテナ16の先端部16aにプラズマを集中発生させるようになっている。この結果、先端部16の周囲にプラズマ発生領域17が形成される。
【0039】
導入される原料ガスに対し、プラズマ領域17の下流側には、チャンバー22を挟んで1対の基板加熱部23a,23bが、チャンバー22の長さ方向に沿ってプラズマ領域17に対して進退自在に設けられている。そして、チャンバー22内には、基板加熱部23bに対向して基板載置部24が設けられ、基板載置部24上にカーボンナノチューブ成長用基板1が載置される。CVD装置21では、基板加熱部23a,23bを進退させることにより、プラズマ発生領域17と基板15との距離dを調整するようになっている。この結果、距離dは、カーボンナノチューブ成長用基板1がプラズマ発生領域17に発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避けることができると共に、該ラジカルがラジカル状態を維持してカーボンナノチューブ成長用基板1に到達することができる距離に調整される。
【0040】
アンテナ型プラズマCVD装置11,21では、図示しないマイクロ波発生装置により、例えば周波数2.45GHzのマイクロ波が照射されると、マイクロ波導波管15によりアンテナ16の先端部16aが腹(1/4波長、長さ3cmに相当)となる定在波が形成される。この結果、アンテナ16の先端部16aの周囲にプラズマ球(プラズマ発生領域17)が形成される。
【0041】
本実施形態では、アンテナ型プラズマCVD装置11,21において、カーボンナノチューブ成長用基板1を650〜800℃の温度に維持すると共に、チャンバー12,22内にプラズマを発生させることにより、配向カーボンナノチューブを製造する。このとき、チャンバー12,22内は、原料ガスを供給しつつ、チャンバー12,22内のガスを排出することにより減圧され、2.66〜13.33kPaの範囲の圧力に保持される。そして、プラズマ発生のために印加する電力を60〜180Wの範囲に保持することにより、平均直径2nm未満の単層カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブ成長用基板1に対して略垂直の方向に成長させ、400μm以上の長さに長尺化することができる。
【0042】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0043】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、シリコンからなる基材2上にスパッタ法によりAlを5nmの厚さに蒸着した後、大気暴露することにより、酸化アルミニウムからなる反応防止層3を形成した。次に、反応防止層3上にスパッタ法によりFeを0.5nmの厚さに蒸着し、Feからなる触媒材料層4を形成した。次に、触媒材料層4上にスパッタ法によりAlを1.0nmの厚さに蒸着した後、大気暴露することにより、酸化アルミニウムからなる分散層5を形成した。次に、分散層5上にスパッタ法によりTiを0.3nmの厚さに蒸着した後、大気暴露することにより、酸化チタンからなる分散促進層6を形成した。この結果、図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0044】
次に、図2(a)に示すアンテナ型プラズマCVD装置11にカーボンナノチューブ成長用基板1を配設すると共に、メタン5sccmと水素45sccmとを原料ガスとしてチャンバー12内に流通し、チャンバー12内の圧力を2.66kPaに保持した。この状態で基板加熱部18によりカーボンナノチューブ成長用基板1を650℃に加熱し、マイクロ波導波管15から周波数2.45GHzのマイクロ波を照射して、アンテナ16の先端部16aにプラズマを発生させた。
【0045】
マイクロ波の出力を60Wとし、カーボンナノチューブ成長用基板1とプラズマ発生領域17との距離dを50mmとした。前記マイクロ波は、カーボンナノチューブ成長用基板1の温度が650℃に達してから1分後に照射し、合成時間は3時間として、配向カーボンナノチューブを得た。
【0046】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0047】
〔実施例2〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.6nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0048】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0049】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0050】
〔実施例3〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.75nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0051】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0052】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0053】
〔比較例1〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例1と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0054】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0055】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0056】
〔比較例2〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例2と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0057】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例2と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0058】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0059】
〔比較例3〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例3と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0060】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0061】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図3に示す。
【0062】
図3によれば、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例1〜3のカーボンナノチューブは、分散促進層6を備えないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例1〜3のカーボンナノチューブに比較してそれぞれG/Dが大きくなっている。従って、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いることにより、質が向上するか、或いは単層カーボンナノチューブが多く存在するカーボンナノチューブを得ることができることが明らかである。
【0063】
〔実施例4〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.25nmとし、酸化アルミニウムからなる分散層5の厚さを0.5nmとし、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.6nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0064】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0065】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図4に示す。
【0066】
〔実施例5〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.25nmとし、酸化アルミニウムからなる分散層5の厚さを0.5nmとし、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを1.0nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0067】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0068】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図4に示す。
【0069】
〔実施例6〕
本実施例では、Feからなる触媒材料層4の厚さを0.25nmとし、酸化アルミニウムからなる分散層5の厚さを0.5nmとし、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを1.5nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0070】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0071】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンスペクトルのG/Dを図4に示す。
【0072】
図4によれば、分散促進層6の厚さが触媒材料層の4倍以上となっているカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例5,6のカーボンナノチューブは、分散促進層6の厚さが触媒材料層の4倍未満となっているカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例4のカーボンナノチューブに比較してG/Dが小さくなっている。従って、分散促進層6の厚さが触媒材料層の4倍以上であると、形成される単層カーボンナノチューブの質が低下したり、該単層カーボンナノチューブの成長自体が阻害されることが明らかである。
【0073】
〔実施例7〕
本実施例では、触媒材料層4を0.4nmの厚さのFeと0.1nmの厚さのNiとにより形成し、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.75nmとし、合成時のカーボンナノチューブ成長用基板1とプラズマ発生領域17との距離を62.5mmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0074】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0075】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0076】
〔実施例8〕
本実施例では、実施例7で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用い、メタン7.5sccmと水素42.5sccmとを原料ガスとしてチャンバー12内に流通すると共に、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0077】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0078】
〔実施例9〕
本実施例では、実施例7で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用い、メタン10sccmと水素40sccmとを原料ガスとしてチャンバー12内に流通すると共に、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0079】
本実施例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0080】
〔比較例4〕
本比較例では、酸化チタンからなる分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例7と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0081】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0082】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0083】
〔比較例5〕
本比較例では、比較例4で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例8と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0084】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0085】
〔比較例6〕
本比較例では、比較例4で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例9と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0086】
本比較例で得られた配向カーボンナノチューブのラマンRBMスペクトル比(295/283)を図5に示す。
【0087】
図5によれば、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例7〜9のカーボンナノチューブは、分散促進層6を備えないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例4〜6のカーボンナノチューブに比較してそれぞれRBM比が大きくなっている。従って、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いることにより、質が向上するか、或いは単層カーボンナノチューブが多く存在するカーボンナノチューブを得ることができることが明らかである。
【0088】
〔実施例10〕
本実施例では、触媒材料層4を0.4nmの厚さのFeと0.1nmの厚さのNiとにより形成し、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.5nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0089】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いると共に、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0090】
本実施例で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長632.8nmのHe−Neレーザーにて測定)を図6に示す。
【0091】
〔実施例11〕
本実施例では、触媒材料層4を0.5nmの厚さのFeと0.1nmの厚さのCoとにより形成し、酸化チタンからなる分散促進層6の厚さを0.5nmとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0092】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0093】
本実施例で得られたカーボンナノチューブのラマンスペクトル(励起波長632.8nmのHe−Neレーザーにて測定)を図7に示す。
【0094】
図6及び図7によれば、1600cm−1付近にグラファイト網面に由来するGバンドと、1550cm−1付近に細径金属チューブに由来するBWFが観察され、1300cm−1付近に欠陥に由来するDバンドが観察される。さらに、100〜400cm−1付近にカーボンナノチューブの径情報を与えるRBMが特徴的な295cm−1及び283cm−1のピークとして観察され、平均直径2nm以下の細径の単層カーボンナノチューブが存在することが明らかである。
【0095】
〔実施例12〕
本実施例では、反応防止層3を5nmの厚さのAlとし、触媒材料層4を0.1nmの厚さのFeとし、分散層5を0.1nmの厚さのAlとし、分散促進層6を0.1nmの厚さの酸化チタンとした以外は、実施例1と全く同一にして図1に示す構成を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を得た。
【0096】
次に、本実施例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用い、チャンバー12内の圧力を7.98kPaに保持し、カーボンナノチューブ成長用基板1を690℃に加熱すると共に、合成時間を5分間とした以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0097】
本実施例で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を図8に示す。
【0098】
〔比較例7〕
本比較例では、反応防止層3を5nmの厚さの酸化アルミニウムとし、触媒材料層4を0.2nmの厚さのFeとし、分散層5を0.5nmの厚さの酸化アルミニウムとし、分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例1と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0099】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用い、該カーボンナノチューブ成長用基板を690℃に加熱した以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0100】
本比較例で得られたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像を図9に示す。
【0101】
図8から、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例12のカーボンナノチューブでは、直径1nm程度の細径の単層ナノチューブが多数認められることが明らかである。これに対して、図9からは、分散促進層6を備えていないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例7のカーボンナノチューブでは、直径5nm程度の2層カーボンナノチューブが多数認められることが明らかである。
【0102】
〔実施例13〕
本実施例では、実施例2で得られたカーボンナノチューブ成長用基板1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0103】
本実施例で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を図10に示す。
【0104】
〔比較例8〕
本比較例では、分散促進層6を形成しなかった以外は、実施例2と全く同一にしてカーボンナノチューブ成長用基板を得た。
【0105】
次に、本比較例で得られたカーボンナノチューブ成長用基板を用いた以外は、実施例1と全く同一にして配向カーボンナノチューブを得た。
【0106】
本比較例で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像を図11に示す。
【0107】
図10及び図11から、分散促進層6を備えるカーボンナノチューブ成長用基板1を用いて製造された実施例13のカーボンナノチューブは、分散促進層6を備えないカーボンナノチューブ成長用基板を用いて製造された比較例8のカーボンナノチューブよりも長尺化されており、400μm以上の長さを備えていることが明らかである。
【符号の説明】
【0108】
1…カーボンナノチューブ成長用基板、 2…基材、 3…反応防止層、 4…触媒材料層、 5…分散層、 7…分散促進層、 11,21…アンテナ型プラズマCVD装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるカーボンナノチューブ成長用基板であって、
基材と、該基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層と、該分散層上に形成され該分散層による前記触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層とを備え、該分散促進層はTi又はその酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記反応防止層はAl、Si、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又は窒化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属の混合物、合金又は酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属と、Pt、Ru、Pb、Mo、Mn、Cuからなる群から選択される1種以上の金属との混合物、合金又は酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記分散層はAl、Si、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は1nm未満の厚さを備え、前記分散促進層は該触媒材料層の4倍未満の厚さを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項7】
アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法であって、
基材上に該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層を形成する工程と、
該反応防止層上に触媒材料層を形成する工程と、
該触媒材料層上に該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層を形成する工程と、
該分散層上に該分散層による該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層を形成する工程とを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法。
【請求項8】
先端がマイクロ波の定在波の腹(1/4波長)に一致するように正確に制御されたアンテナを有するアンテナ型プラズマCVDを用いる配向カーボンナノチューブの製造方法であって、
カーボンナノチューブの原料となる気体の流通下、所定の圧力に減圧された処理室にプラズマを発生させ、
基材と、該基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層と、該分散層上に形成され該分散層による該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層とを備える基板を、
該プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得る距離であり、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離を存して保持することを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項1】
アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるカーボンナノチューブ成長用基板であって、
基材と、該基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層と、該分散層上に形成され該分散層による前記触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層とを備え、該分散促進層はTi又はその酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記反応防止層はAl、Si、Mg、Tiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物又は窒化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属の混合物、合金又は酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は、Fe、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属と、Pt、Ru、Pb、Mo、Mn、Cuからなる群から選択される1種以上の金属との混合物、合金又は酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記分散層はAl、Si、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のカーボンナノチューブ成長用基板において、前記触媒材料層は1nm未満の厚さを備え、前記分散促進層は該触媒材料層の4倍未満の厚さを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板。
【請求項7】
アンテナ型プラズマCVDを用いて配向カーボンナノチューブを製造するために用いられるカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法であって、
基材上に該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層を形成する工程と、
該反応防止層上に触媒材料層を形成する工程と、
該触媒材料層上に該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層を形成する工程と、
該分散層上に該分散層による該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層を形成する工程とを備えることを特徴とするカーボンナノチューブ成長用基板の製造方法。
【請求項8】
先端がマイクロ波の定在波の腹(1/4波長)に一致するように正確に制御されたアンテナを有するアンテナ型プラズマCVDを用いる配向カーボンナノチューブの製造方法であって、
カーボンナノチューブの原料となる気体の流通下、所定の圧力に減圧された処理室にプラズマを発生させ、
基材と、該基材上に形成され該基材と触媒材料との反応を防止する反応防止層と、該反応防止層上に形成された触媒材料層と、該触媒材料層上に形成され該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる分散層と、該分散層上に形成され該分散層による該触媒材料層に含まれる触媒材料を分散させる作用を増大させる分散促進層とを備える基板を、
該プラズマの発生領域に対し、該領域で発生したラジカルに副生するイオンの攻撃を避け得る距離であり、該ラジカルがラジカル状態を維持して到達し得る距離を存して保持することを特徴とする配向カーボンナノチューブの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−184145(P2012−184145A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49601(P2011−49601)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】
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