カーボンナノ複合マグネシウム合金
【課題】耐熱Mg合金並みの強度、特に耐熱強度を有しながら、安全管理コストが不要であり、製造コストを下げることができるマグネシウム合金を提供することを課題とする。
【解決手段】マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であることを特徴とする。
【効果】最小クリープ速度が1×10−5/s以下であるから、Srを含む耐熱Mgと同等の耐熱強度を有する。加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【解決手段】マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であることを特徴とする。
【効果】最小クリープ速度が1×10−5/s以下であるから、Srを含む耐熱Mgと同等の耐熱強度を有する。加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有させたカーボンナノ複合マグネシウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は軽量であるため、軽量化が求められる車両などの部品材料として実用に供されてきた。ただし、マグネシウム合金は耐熱性能の点で難があるため、耐熱性能の向上技術が提案されてきた(例えば、特許文献1(請求項2)参照。)。
【0003】
特許文献1の請求項2には、Alを4.0超〜6wt%、Caを0.3〜2wt%、Srを0.2超〜1wt%、Mnを0.1〜1wt%含有し、残部がMg及び不可避不純物からなるダイカスト用マグネシウム合金が示されている。
【0004】
このダイカスト用マグネシウム合金は、Sr(ストロンチウム)を含んでいるために、クリープ強度が大きく、耐熱性能を有する。
しかし、Srは高価であり、材料コストが嵩む。また、Srは放射性物質の一つであるために、厳重な安全管理が求められ、そのためのコストが嵩む。結果、得られるダイカスト用マグネシウム合金は高価なものとなる。
【0005】
そのため、Srを含むダイカスト用マグネシウム合金(以下、耐熱Mg合金という)並みの強度、特に耐熱強度を有しながら、安全管理コストが不要であり、製造コストを下げることができるマグネシウム合金が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3737371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱Mg合金並みの強度、特に耐熱強度を有しながら、安全管理コストが不要であり、製造コストを下げることができるマグネシウム合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での引張強度が240MPa以上であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、3〜30質量%であり、常温での引張強度が265MPa以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が160MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が230MPa以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に供されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、最小クリープ速度が1×10−5/s以下であるから、Srを含む耐熱Mgと同等の耐熱強度を有する。
加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【0016】
請求項2に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での引張強度が240MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mgと同等の強度を有する。
【0017】
請求項3に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での引張強度が265MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mg合金より高い強度を有する。
【0018】
請求項4に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での0.2%耐力が160MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mg合金より高い耐力を有する。
【0019】
請求項5に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での0.2%耐力が230MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mg合金より遙かに高い耐力を有する。
【0020】
請求項6に係る発明は、カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されている。このSi微粒子がカーボンナノ材料とマトリックス金属(マグネシウム合金)とを結合する作用を発揮し、カーボンナノ複合マグネシウム合金の強度向上に寄与する。
【0021】
請求項7に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に供される。ダイカスト品や鋳造品の強度や耐熱強度を容易に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金の製造フロー図である。
【図2】製造時の温度曲線図である。
【図3】ダイカスト鋳造の原理を説明する図である。
【図4】混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
【図5】微粒子付着カーボンナノ材料の模式図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】定温撹拌型温度曲線図である。
【図8】昇温撹拌型温度曲線を示す図である。
【図9】ステップ昇温撹拌型温度曲線を示す図である。
【図10】カーボンナノ材料の含有割合と引張強さの相関を示すグラフである。
【図11】カーボンナノ材料の含有割合と耐力の相関を示すグラフである。
【図12】最小クリープ速度を説明するためのクリープ曲線図である。
【図13】カーボンナノ材料の含有割合と最小クリープ速度の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0024】
図1(a)に示されるように、坩堝11に、Mg合金インゴット12を投入し、半溶融状態になるまで加熱することで、半溶融物Mm1を得る(半溶融工程)。
【0025】
図1(b)において、半溶融物に、カーボンナノ材料14を投入し、撹拌機15で撹拌する。すると、カーボンナノ材料14はMg合金13の液相部分に分散する。これで半溶融物Mm2を得ることができる(第1撹拌工程)。
【0026】
カーボンナノ材料14の投入が完了したら、(c)において、半溶融物Mm2を撹拌機15で撹拌しながら、半溶融温度範囲内で加熱し、昇温することで、半溶融物Mm3を得る(第2撹拌工程)。
なお、坩堝11は、(a)〜(c)で共用であって差し支えない。ただし、大規模生産を図るのであれば、坩堝11を(a)〜(c)で個別に準備することもできる。
【0027】
温度曲線図の一例を図2に示す。すなわち、製造工程は、マグネシウム合金を加熱して半溶融状態にする半溶融工程と、半溶融状態のマグネシウム合金へカーボンナノ材料を投入し撹拌する第1撹拌工程と、カーボンナノ材料の投入が終わった半溶融物を、半溶融温度領域で且つ前記第1撹拌工程での温度より高い温度で撹拌することでカーボンナノ複合マグネシウム合金を得る第2撹拌工程と、からなる。
【0028】
第2撹拌工程では、半溶融領域の高温側に温度を設定し直すため、液相リッチに変化する。液相リッチであるから、図1(c)において、カーボンナノ材料14が隅々まで流動し分散される。なお、流動が過剰であるとカーボンナノ材料14が流動先で合体し、凝固し始める虞がある。しかし、固相が存在するために、カーボンナノ材料14の流動が適度に妨げられる。加えて、流動先で合体が起こっても、固相が合体を分離解消する役割を果たす。
【0029】
(c)での撹拌が終わったら、ポンプ16で汲み出すことで、半溶融物の形態でのカーボンナノ複合マグネシウム合金18を得ることができる。又は、インゴットなどの固体形態でのカーボンナノ複合マグネシウム合金19を得ることができる。
得られたカーボンナノ複合マグネシウム合金18又は19はダイカスト又は鋳造に好適である。ダイカストの原理を次図で説明する
【0030】
図3に示すように、カーボンナノ複合マグネシウム合金18又は19は、(a)に示すように、保温鍋21で溶融温度に加熱し保温する。得られた溶湯22は、柄杓(ひしゃく)などの汲上げ手段を用いて金属成形機23へ供給する。
溶湯22を、(b)に示す金属成形機23で金型24のキャビティ25へ供給する。(c)に示す26、26は金型24から取り出したカーボンナノ複合金属成形品(カーボンナノ複合金属鋳造品)である。
さらには、カーボンナノ複合金属成形品26に、熱間圧延加工や熱間押出し加工を、施すことで、金属組織の微細化を行い、機械的特性や熱的特性を向上させることができる。
【0031】
カーボンナノ複合金属成形品26は、カーボンナノ材料が均一にマグネシウム合金に分散しているため、機械的性質の向上が期待される。
機械的性質のさらなる向上が要求される場合には、均一分散に加えて、濡れ性の改善が有効となる。すなわち、強化材としてのカーボンナノ材料と母材であるマグネシウム合金との間に、微細な隙間が発生すると、機械的性質が低下することが知られている。逆に、強化材が母材に密着していれば、所望の性能が発揮される。濡れ性が高いほど、密着性が高まり、高い水準の機械的性質が得られる。そこで、濡れ性の向上対策を次に説明する。
【0032】
本発明の出発材料に一つであるカーボンナノ材料は、普通のカーボンナノ材料(Siが被覆されていない材料)と、次に説明するSi被覆カーボン材料とがある。
普通のカーボンナノ材料は、直径が1.0nm(ナノメートル)〜150nmで、長さが数μm〜100μmの超微細な炭素系材料である。
【0033】
一方、Si被覆カーボン材料は、例えば図4(a)〜(d)の手順で製造される。
(a):混合用容器30に、有機溶媒(例えば1リットルのエタノール)31を入れる。この有機溶媒31へ、炭化物形成微粒子(例えば10gのSi)32とカーボンナノ材料(例えば10g)14とを入れる。そして、撹拌機34にて、十分に撹拌する(例えば、毎分750回転で2時間)。撹拌が終了したら、吸引濾過し、高温(例えば100℃)の空気中で十分に乾燥させる(例えば3時間)ことで、(b)に示される混合体35を得る。(a)〜(b)が混合体形成工程である。
【0034】
(c):得られた混合体35を、ジルコニウム製容器36に入れ、ジルコニウム製蓋37を被せる。この蓋37は非密閉蓋を採用することで、容器36の内部と外部との通気を可能にする。
【0035】
(d):密閉炉体38と、炉体38内部を加熱する加熱手段39と、容器36を載せる台41、41と、炉体38内部を真空にする真空ポンプ42とを備える真空炉40を準備し、この真空炉40に容器36を入れる。
【0036】
真空炉40では、真空中で例えば1200℃で20時間の加熱を実施する。真空下で加熱することで、混合体35中のSi粉末が蒸発する。蒸発したSiがカーボンナノ材料の表面に接触し、炭化物を形成し、Siの微粒子(又はSi炭化物層)となって付着する。(c)〜(d)が真空蒸着工程である。
得られた微粒子付着カーボンナノ材料の構造は次図で説明する。
【0037】
図5は微粒子付着カーボンナノ材料の模式図、図6は図5の6−6線断面図であり、微粒子付着カーボンナノ材料50は、カーボンナノ材料14の表面全体が、炭化物層51で被覆されている。
【0038】
カーボンナノ材料14表面に炭化物形成微粒子を付着させると、界面に例えばSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料14に炭化物層51を強固に付着させることができる。したがって、炭化物層51がカーボンナノ材料14から脱落する心配はない。さらには、炭化物層51は、カーボンナノ材料14に比較してマトリックス金属との濡れ性が格段に良い。
【0039】
図2で説明した温度曲線は、次に述べる図7〜図9に示す温度曲線に差し替えることができる。
図7は定温撹拌型温度曲線を示す図であり、マグネシウム合金AZ91Dの半溶融温度領域は450〜595℃であるが、この半溶融温度領域内の温度である、580℃で撹拌を実施する。すなわち、半溶融工程でMg合金を580℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を580℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら、第2撹拌工程で、Mg合金を580℃に保ち、60分間撹拌する。一番重要な第2撹拌工程で、一定温度で撹拌を実施するため、定温撹拌と呼ぶ。
【0040】
図8は昇温撹拌型温度曲線を示す図であり、半溶融工程でMg合金を575℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を575℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら、第2撹拌工程で、Mg合金を575℃から592℃まで60分間かけて温度を高め、この間撹拌を継続する。一番重要な第2撹拌工程で、徐々に温度を上げながら撹拌を実施するため、昇温撹拌と呼ぶ。
【0041】
図9はステップ昇温撹拌型温度曲線を示す図であり、半溶融工程でMg合金を575℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を575℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら温度を590℃まで上げる。第2撹拌工程で、Mg合金を590℃に保ち、60分間撹拌する。第1撹拌工程の温度より第2撹拌工程の温度を上げたため、ステップ昇温撹拌と呼ぶ。
【0042】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
○材料:
・マグネシウム合金:ASTM AZ91D(マグネシウム合金ダイカスト JIS H 5303 MDC1D相当品)。
・カーボンナノ材料:カーボンナノチューブ(CNT)、又はSi微粒子被覆カーボンナノチューブ(Si+CNT)
・混合割合:次表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
比較のために、耐熱Mg合金を用意した。この耐熱Mg合金の成分を次に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表1で説明したCNT−Mg合金及び表2で説明した耐熱Mg合金に以下の処理を施す。
○撹拌・温度条件:図2に示す温度曲線に基づく。
○高圧鋳造:
・加圧圧力:200MPa
・溶融温度:650℃
・プレス速度:400mm/秒
○テストピース:直径4.0mm×長さ50mm。標点間隔20mm
○引張試験方法:JIS Z 2241
【0047】
耐熱Mg合金のテストピース及び0.1%〜40%CNT−Mg合金のテストピースを対象にして、常温での引張試験を実施した。その結果を次表に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
40%CNT−Mg合金での試験番号9では、試験片(テストピース)の作成が不可能であった。カーボンナノ材料が過剰であるため、脆くなり試験片の形状が維持できなかった。
【0050】
試験番号1〜9での引張強さをグラフ化したものを図10に示す。
図10において、試験番号1は耐熱Mg合金であり、カーボンナノ材料は含まれていない。カーボンナノ材料が含まれている試験番号2〜9では、カーボンナノ材料の含有割合が増加するほど、引張強さが大きくなった。
【0051】
比較基準となる試験番号1での引張強さが240MPaであったのに、試験番号2は引張強さが200MPa、試験番号3は引張強さが232MPaであり、試験番号1(耐熱Mg合金)より小さかった。
【0052】
逆に、横軸目盛りで2.0〜30質量%カーボンナノ材料であれば、引張強さは240MPa以上となる。
【0053】
そのため、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での引張強度が240MPa以上であれば、耐熱Mg合金と同等又はそれ以上の引張強さのカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0054】
加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【0055】
ただし、図10において、試験番号3の点と試験番号4の点とを結ぶ線は、横軸に対して傾斜が大きい。傾斜が大きいと、横軸の少しの変化で縦軸の読みが大きく変化し、引張強さが不安定になり勝ちである。この点、試験4〜試験8の間は傾斜が緩い。すなわち、試験4の点が、重要な変曲点となる。
【0056】
結果、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、3〜30質量%であり、常温での引張強度が265MPa以上であれば、耐熱Mg合金以上の引張強さのカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0057】
次に、高温引張試験を実施した。なお、試験温度は150℃とした。試験の結果を次表に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
試験番号11〜17(CNT−Mg合金)の引張強さは、試験番号10(耐熱Mg合金)の引張強さより、大きかった。カーボンナノ材料は、高温引張強度に好影響を及ぼすことが確認できた。
【0060】
次に、引張試験と並行して、耐力試験を実施した。その結果を、次表で示す。なお、試験番号は便宜上、新たに付与した。
【0061】
【表5】
【0062】
試験番号19〜26での0.2%耐力をグラフ化したものを図11に示す。
図11において、試験番号19は耐熱Mg合金であり、カーボンナノ材料は含まれていない。カーボンナノ材料が含まれている試験番号20〜26では、カーボンナノ材料の含有割合が増加するほど、耐力が大きくなった。
【0063】
比較基準となる試験番号19での耐力が160MPaであったのに、試験番号20は耐力が130MPa、試験番号21は耐力が152MPaであり、試験番号19(耐熱Mg合金)より小さかった。
【0064】
逆に、横軸目盛りで2.0〜30質量%カーボンナノ材料であれば、耐力は160MPa以上となる。
【0065】
そのため、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が160MPa以上であれば、耐熱Mg合金と同等又はそれ以上の引張強さのカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0066】
加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【0067】
ただし、図11において、試験番号23の点と試験番号24の点とを結ぶ線は、横軸に対して傾斜が大きい。傾斜が大きいと、横軸の少しの変化で縦軸の読みが大きく変化し、引張強さが不安定になり勝ちである。この点、試験24〜試験26の間は傾斜が緩い。すなわち、試験24の点が、重要な変曲点となる。試験24でのカーボン材料含有割合は9質量%で、0.2%耐力は237MPaである。
【0068】
結果、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が230MPa以上であれば、耐熱Mg合金以上の0.2%耐力のカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0069】
次に、高温耐力試験を実施した。なお、試験温度は150℃とした。試験の結果を次表に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
試験番号29〜35(CNT−Mg合金)の引張強さは、試験番号28(耐熱Mg合金)の引張強さより、大きかった。カーボンナノ材料は、高温耐力に好影響を及ぼすことが確認できた。
【0072】
次に、クリープ試験を実施した。
最小クリープ速度が高温強度を示す重要な数値である。この最小クリープ速度の定義を次図で説明する。
図12に示すように、クリープ試験を行うと、先ず、試験片に1次クリープと呼ばれる初期クリープが発生する。この初期クリープは非一次関数(時間−歪)となる。クリープ試験を継続すると、一次関数の定常クリープ(2次クリープ)が現れる。クリープ試験で破断に至る場合には、破断の前に急激な歪み(伸び)が発生して非一次関数となる。この領域は3次クリープと呼ばれる。
【0073】
定常クリープ(2次クリープ)での微分値(dε/dt)が、最小クリープ速度と呼ばれる。歪εは、(伸び/元の長さ)で定義されるため、無次元数である。そのために、最小クリープ速度の単位は、時間の逆数となる。以下の表では、最小クリープ速度の単位を、秒の逆数(/s)とした。
【0074】
クリープ試験は、クリープ試験機を用い、温度が200℃で、荷重が50MPaの条件で、400時間を限度に実施した。結果を次表に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表の最も右の欄で「破断せず」は、400時間の試験時間が経過しても、破断に至らなかったことを意味する。試験45は試験片が作成できなかったので、測定できなかった。
【0077】
試験番号37〜44での最小クリープ速度とカーボンナノ材料との関係をグラフ化した。
図13に示すように、カーボンナノ材料の含有割合が増加するほど、最小クリープ速度が小さくなった。最小クリープ速度は、高温伸びを表すため、高温強度を考える場合には、小さいほど好ましい。
【0078】
比較のための試験番号37(耐熱Mg合金)での最小クリープ速度は、1×10−5/sである。試験番号38〜41の最小クリープ速度は試験番号37より大きく、好ましくない。一方、試験番号42〜44の最小クリープ速度は試験番号37より小さく、好ましい。試験番号42のカーボン材料含有割合は、9質量%である。
【0079】
図13から、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であれば、耐熱Mg合金と同等又はより好ましい耐熱性能が得られることが確認できた。
【0080】
尚、本発明に用いるカーボンナノ材料は、予めSiが被覆されている材料が望ましいが、Siが被覆されていない材料であっても、差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に好適である。
【符号の説明】
【0082】
13…マグネシウム合金、14…カーボンナノ材料、18、19…カーボンナノ複合マグネシウム合金、26…ダイカスト品(カーボンナノ複合金属成形品)、33…Si微粒子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有させたカーボンナノ複合マグネシウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は軽量であるため、軽量化が求められる車両などの部品材料として実用に供されてきた。ただし、マグネシウム合金は耐熱性能の点で難があるため、耐熱性能の向上技術が提案されてきた(例えば、特許文献1(請求項2)参照。)。
【0003】
特許文献1の請求項2には、Alを4.0超〜6wt%、Caを0.3〜2wt%、Srを0.2超〜1wt%、Mnを0.1〜1wt%含有し、残部がMg及び不可避不純物からなるダイカスト用マグネシウム合金が示されている。
【0004】
このダイカスト用マグネシウム合金は、Sr(ストロンチウム)を含んでいるために、クリープ強度が大きく、耐熱性能を有する。
しかし、Srは高価であり、材料コストが嵩む。また、Srは放射性物質の一つであるために、厳重な安全管理が求められ、そのためのコストが嵩む。結果、得られるダイカスト用マグネシウム合金は高価なものとなる。
【0005】
そのため、Srを含むダイカスト用マグネシウム合金(以下、耐熱Mg合金という)並みの強度、特に耐熱強度を有しながら、安全管理コストが不要であり、製造コストを下げることができるマグネシウム合金が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3737371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱Mg合金並みの強度、特に耐熱強度を有しながら、安全管理コストが不要であり、製造コストを下げることができるマグネシウム合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での引張強度が240MPa以上であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、3〜30質量%であり、常温での引張強度が265MPa以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が160MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が230MPa以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に供されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、最小クリープ速度が1×10−5/s以下であるから、Srを含む耐熱Mgと同等の耐熱強度を有する。
加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【0016】
請求項2に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での引張強度が240MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mgと同等の強度を有する。
【0017】
請求項3に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での引張強度が265MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mg合金より高い強度を有する。
【0018】
請求項4に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での0.2%耐力が160MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mg合金より高い耐力を有する。
【0019】
請求項5に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、常温での0.2%耐力が230MPa以上であるから、Srを含む耐熱Mg合金より遙かに高い耐力を有する。
【0020】
請求項6に係る発明は、カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されている。このSi微粒子がカーボンナノ材料とマトリックス金属(マグネシウム合金)とを結合する作用を発揮し、カーボンナノ複合マグネシウム合金の強度向上に寄与する。
【0021】
請求項7に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に供される。ダイカスト品や鋳造品の強度や耐熱強度を容易に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るカーボンナノ複合マグネシウム合金の製造フロー図である。
【図2】製造時の温度曲線図である。
【図3】ダイカスト鋳造の原理を説明する図である。
【図4】混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
【図5】微粒子付着カーボンナノ材料の模式図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】定温撹拌型温度曲線図である。
【図8】昇温撹拌型温度曲線を示す図である。
【図9】ステップ昇温撹拌型温度曲線を示す図である。
【図10】カーボンナノ材料の含有割合と引張強さの相関を示すグラフである。
【図11】カーボンナノ材料の含有割合と耐力の相関を示すグラフである。
【図12】最小クリープ速度を説明するためのクリープ曲線図である。
【図13】カーボンナノ材料の含有割合と最小クリープ速度の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0024】
図1(a)に示されるように、坩堝11に、Mg合金インゴット12を投入し、半溶融状態になるまで加熱することで、半溶融物Mm1を得る(半溶融工程)。
【0025】
図1(b)において、半溶融物に、カーボンナノ材料14を投入し、撹拌機15で撹拌する。すると、カーボンナノ材料14はMg合金13の液相部分に分散する。これで半溶融物Mm2を得ることができる(第1撹拌工程)。
【0026】
カーボンナノ材料14の投入が完了したら、(c)において、半溶融物Mm2を撹拌機15で撹拌しながら、半溶融温度範囲内で加熱し、昇温することで、半溶融物Mm3を得る(第2撹拌工程)。
なお、坩堝11は、(a)〜(c)で共用であって差し支えない。ただし、大規模生産を図るのであれば、坩堝11を(a)〜(c)で個別に準備することもできる。
【0027】
温度曲線図の一例を図2に示す。すなわち、製造工程は、マグネシウム合金を加熱して半溶融状態にする半溶融工程と、半溶融状態のマグネシウム合金へカーボンナノ材料を投入し撹拌する第1撹拌工程と、カーボンナノ材料の投入が終わった半溶融物を、半溶融温度領域で且つ前記第1撹拌工程での温度より高い温度で撹拌することでカーボンナノ複合マグネシウム合金を得る第2撹拌工程と、からなる。
【0028】
第2撹拌工程では、半溶融領域の高温側に温度を設定し直すため、液相リッチに変化する。液相リッチであるから、図1(c)において、カーボンナノ材料14が隅々まで流動し分散される。なお、流動が過剰であるとカーボンナノ材料14が流動先で合体し、凝固し始める虞がある。しかし、固相が存在するために、カーボンナノ材料14の流動が適度に妨げられる。加えて、流動先で合体が起こっても、固相が合体を分離解消する役割を果たす。
【0029】
(c)での撹拌が終わったら、ポンプ16で汲み出すことで、半溶融物の形態でのカーボンナノ複合マグネシウム合金18を得ることができる。又は、インゴットなどの固体形態でのカーボンナノ複合マグネシウム合金19を得ることができる。
得られたカーボンナノ複合マグネシウム合金18又は19はダイカスト又は鋳造に好適である。ダイカストの原理を次図で説明する
【0030】
図3に示すように、カーボンナノ複合マグネシウム合金18又は19は、(a)に示すように、保温鍋21で溶融温度に加熱し保温する。得られた溶湯22は、柄杓(ひしゃく)などの汲上げ手段を用いて金属成形機23へ供給する。
溶湯22を、(b)に示す金属成形機23で金型24のキャビティ25へ供給する。(c)に示す26、26は金型24から取り出したカーボンナノ複合金属成形品(カーボンナノ複合金属鋳造品)である。
さらには、カーボンナノ複合金属成形品26に、熱間圧延加工や熱間押出し加工を、施すことで、金属組織の微細化を行い、機械的特性や熱的特性を向上させることができる。
【0031】
カーボンナノ複合金属成形品26は、カーボンナノ材料が均一にマグネシウム合金に分散しているため、機械的性質の向上が期待される。
機械的性質のさらなる向上が要求される場合には、均一分散に加えて、濡れ性の改善が有効となる。すなわち、強化材としてのカーボンナノ材料と母材であるマグネシウム合金との間に、微細な隙間が発生すると、機械的性質が低下することが知られている。逆に、強化材が母材に密着していれば、所望の性能が発揮される。濡れ性が高いほど、密着性が高まり、高い水準の機械的性質が得られる。そこで、濡れ性の向上対策を次に説明する。
【0032】
本発明の出発材料に一つであるカーボンナノ材料は、普通のカーボンナノ材料(Siが被覆されていない材料)と、次に説明するSi被覆カーボン材料とがある。
普通のカーボンナノ材料は、直径が1.0nm(ナノメートル)〜150nmで、長さが数μm〜100μmの超微細な炭素系材料である。
【0033】
一方、Si被覆カーボン材料は、例えば図4(a)〜(d)の手順で製造される。
(a):混合用容器30に、有機溶媒(例えば1リットルのエタノール)31を入れる。この有機溶媒31へ、炭化物形成微粒子(例えば10gのSi)32とカーボンナノ材料(例えば10g)14とを入れる。そして、撹拌機34にて、十分に撹拌する(例えば、毎分750回転で2時間)。撹拌が終了したら、吸引濾過し、高温(例えば100℃)の空気中で十分に乾燥させる(例えば3時間)ことで、(b)に示される混合体35を得る。(a)〜(b)が混合体形成工程である。
【0034】
(c):得られた混合体35を、ジルコニウム製容器36に入れ、ジルコニウム製蓋37を被せる。この蓋37は非密閉蓋を採用することで、容器36の内部と外部との通気を可能にする。
【0035】
(d):密閉炉体38と、炉体38内部を加熱する加熱手段39と、容器36を載せる台41、41と、炉体38内部を真空にする真空ポンプ42とを備える真空炉40を準備し、この真空炉40に容器36を入れる。
【0036】
真空炉40では、真空中で例えば1200℃で20時間の加熱を実施する。真空下で加熱することで、混合体35中のSi粉末が蒸発する。蒸発したSiがカーボンナノ材料の表面に接触し、炭化物を形成し、Siの微粒子(又はSi炭化物層)となって付着する。(c)〜(d)が真空蒸着工程である。
得られた微粒子付着カーボンナノ材料の構造は次図で説明する。
【0037】
図5は微粒子付着カーボンナノ材料の模式図、図6は図5の6−6線断面図であり、微粒子付着カーボンナノ材料50は、カーボンナノ材料14の表面全体が、炭化物層51で被覆されている。
【0038】
カーボンナノ材料14表面に炭化物形成微粒子を付着させると、界面に例えばSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料14に炭化物層51を強固に付着させることができる。したがって、炭化物層51がカーボンナノ材料14から脱落する心配はない。さらには、炭化物層51は、カーボンナノ材料14に比較してマトリックス金属との濡れ性が格段に良い。
【0039】
図2で説明した温度曲線は、次に述べる図7〜図9に示す温度曲線に差し替えることができる。
図7は定温撹拌型温度曲線を示す図であり、マグネシウム合金AZ91Dの半溶融温度領域は450〜595℃であるが、この半溶融温度領域内の温度である、580℃で撹拌を実施する。すなわち、半溶融工程でMg合金を580℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を580℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら、第2撹拌工程で、Mg合金を580℃に保ち、60分間撹拌する。一番重要な第2撹拌工程で、一定温度で撹拌を実施するため、定温撹拌と呼ぶ。
【0040】
図8は昇温撹拌型温度曲線を示す図であり、半溶融工程でMg合金を575℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を575℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら、第2撹拌工程で、Mg合金を575℃から592℃まで60分間かけて温度を高め、この間撹拌を継続する。一番重要な第2撹拌工程で、徐々に温度を上げながら撹拌を実施するため、昇温撹拌と呼ぶ。
【0041】
図9はステップ昇温撹拌型温度曲線を示す図であり、半溶融工程でMg合金を575℃まで加熱して半溶融状態にする。次に、第1撹拌工程で、Mg合金を575℃に保ち、撹拌しながらMg合金へカーボンナノ材料を徐々に投入する。投入が完了したら温度を590℃まで上げる。第2撹拌工程で、Mg合金を590℃に保ち、60分間撹拌する。第1撹拌工程の温度より第2撹拌工程の温度を上げたため、ステップ昇温撹拌と呼ぶ。
【0042】
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
○材料:
・マグネシウム合金:ASTM AZ91D(マグネシウム合金ダイカスト JIS H 5303 MDC1D相当品)。
・カーボンナノ材料:カーボンナノチューブ(CNT)、又はSi微粒子被覆カーボンナノチューブ(Si+CNT)
・混合割合:次表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
比較のために、耐熱Mg合金を用意した。この耐熱Mg合金の成分を次に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表1で説明したCNT−Mg合金及び表2で説明した耐熱Mg合金に以下の処理を施す。
○撹拌・温度条件:図2に示す温度曲線に基づく。
○高圧鋳造:
・加圧圧力:200MPa
・溶融温度:650℃
・プレス速度:400mm/秒
○テストピース:直径4.0mm×長さ50mm。標点間隔20mm
○引張試験方法:JIS Z 2241
【0047】
耐熱Mg合金のテストピース及び0.1%〜40%CNT−Mg合金のテストピースを対象にして、常温での引張試験を実施した。その結果を次表に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
40%CNT−Mg合金での試験番号9では、試験片(テストピース)の作成が不可能であった。カーボンナノ材料が過剰であるため、脆くなり試験片の形状が維持できなかった。
【0050】
試験番号1〜9での引張強さをグラフ化したものを図10に示す。
図10において、試験番号1は耐熱Mg合金であり、カーボンナノ材料は含まれていない。カーボンナノ材料が含まれている試験番号2〜9では、カーボンナノ材料の含有割合が増加するほど、引張強さが大きくなった。
【0051】
比較基準となる試験番号1での引張強さが240MPaであったのに、試験番号2は引張強さが200MPa、試験番号3は引張強さが232MPaであり、試験番号1(耐熱Mg合金)より小さかった。
【0052】
逆に、横軸目盛りで2.0〜30質量%カーボンナノ材料であれば、引張強さは240MPa以上となる。
【0053】
そのため、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での引張強度が240MPa以上であれば、耐熱Mg合金と同等又はそれ以上の引張強さのカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0054】
加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【0055】
ただし、図10において、試験番号3の点と試験番号4の点とを結ぶ線は、横軸に対して傾斜が大きい。傾斜が大きいと、横軸の少しの変化で縦軸の読みが大きく変化し、引張強さが不安定になり勝ちである。この点、試験4〜試験8の間は傾斜が緩い。すなわち、試験4の点が、重要な変曲点となる。
【0056】
結果、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、3〜30質量%であり、常温での引張強度が265MPa以上であれば、耐熱Mg合金以上の引張強さのカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0057】
次に、高温引張試験を実施した。なお、試験温度は150℃とした。試験の結果を次表に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
試験番号11〜17(CNT−Mg合金)の引張強さは、試験番号10(耐熱Mg合金)の引張強さより、大きかった。カーボンナノ材料は、高温引張強度に好影響を及ぼすことが確認できた。
【0060】
次に、引張試験と並行して、耐力試験を実施した。その結果を、次表で示す。なお、試験番号は便宜上、新たに付与した。
【0061】
【表5】
【0062】
試験番号19〜26での0.2%耐力をグラフ化したものを図11に示す。
図11において、試験番号19は耐熱Mg合金であり、カーボンナノ材料は含まれていない。カーボンナノ材料が含まれている試験番号20〜26では、カーボンナノ材料の含有割合が増加するほど、耐力が大きくなった。
【0063】
比較基準となる試験番号19での耐力が160MPaであったのに、試験番号20は耐力が130MPa、試験番号21は耐力が152MPaであり、試験番号19(耐熱Mg合金)より小さかった。
【0064】
逆に、横軸目盛りで2.0〜30質量%カーボンナノ材料であれば、耐力は160MPa以上となる。
【0065】
そのため、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が160MPa以上であれば、耐熱Mg合金と同等又はそれ以上の引張強さのカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0066】
加えて、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であるため、放射線成分などを含まず、安全管理が不要であり、製造コストの低減が可能となる。
【0067】
ただし、図11において、試験番号23の点と試験番号24の点とを結ぶ線は、横軸に対して傾斜が大きい。傾斜が大きいと、横軸の少しの変化で縦軸の読みが大きく変化し、引張強さが不安定になり勝ちである。この点、試験24〜試験26の間は傾斜が緩い。すなわち、試験24の点が、重要な変曲点となる。試験24でのカーボン材料含有割合は9質量%で、0.2%耐力は237MPaである。
【0068】
結果、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が230MPa以上であれば、耐熱Mg合金以上の0.2%耐力のカーボンナノ複合マグネシウム合金が提供される。
【0069】
次に、高温耐力試験を実施した。なお、試験温度は150℃とした。試験の結果を次表に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
試験番号29〜35(CNT−Mg合金)の引張強さは、試験番号28(耐熱Mg合金)の引張強さより、大きかった。カーボンナノ材料は、高温耐力に好影響を及ぼすことが確認できた。
【0072】
次に、クリープ試験を実施した。
最小クリープ速度が高温強度を示す重要な数値である。この最小クリープ速度の定義を次図で説明する。
図12に示すように、クリープ試験を行うと、先ず、試験片に1次クリープと呼ばれる初期クリープが発生する。この初期クリープは非一次関数(時間−歪)となる。クリープ試験を継続すると、一次関数の定常クリープ(2次クリープ)が現れる。クリープ試験で破断に至る場合には、破断の前に急激な歪み(伸び)が発生して非一次関数となる。この領域は3次クリープと呼ばれる。
【0073】
定常クリープ(2次クリープ)での微分値(dε/dt)が、最小クリープ速度と呼ばれる。歪εは、(伸び/元の長さ)で定義されるため、無次元数である。そのために、最小クリープ速度の単位は、時間の逆数となる。以下の表では、最小クリープ速度の単位を、秒の逆数(/s)とした。
【0074】
クリープ試験は、クリープ試験機を用い、温度が200℃で、荷重が50MPaの条件で、400時間を限度に実施した。結果を次表に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
表の最も右の欄で「破断せず」は、400時間の試験時間が経過しても、破断に至らなかったことを意味する。試験45は試験片が作成できなかったので、測定できなかった。
【0077】
試験番号37〜44での最小クリープ速度とカーボンナノ材料との関係をグラフ化した。
図13に示すように、カーボンナノ材料の含有割合が増加するほど、最小クリープ速度が小さくなった。最小クリープ速度は、高温伸びを表すため、高温強度を考える場合には、小さいほど好ましい。
【0078】
比較のための試験番号37(耐熱Mg合金)での最小クリープ速度は、1×10−5/sである。試験番号38〜41の最小クリープ速度は試験番号37より大きく、好ましくない。一方、試験番号42〜44の最小クリープ速度は試験番号37より小さく、好ましい。試験番号42のカーボン材料含有割合は、9質量%である。
【0079】
図13から、マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金において、カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であれば、耐熱Mg合金と同等又はより好ましい耐熱性能が得られることが確認できた。
【0080】
尚、本発明に用いるカーボンナノ材料は、予めSiが被覆されている材料が望ましいが、Siが被覆されていない材料であっても、差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に好適である。
【符号の説明】
【0082】
13…マグネシウム合金、14…カーボンナノ材料、18、19…カーボンナノ複合マグネシウム合金、26…ダイカスト品(カーボンナノ複合金属成形品)、33…Si微粒子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項2】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での引張強度が240MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項3】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、3〜30質量%であり、常温での引張強度が265MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項4】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が160MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項5】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が230MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項6】
前記カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に供されることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項1】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、温度が200℃で荷重が50MPaの条件で求める最小クリープ速度が1×10−5/s以下であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項2】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での引張強度が240MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項3】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、3〜30質量%であり、常温での引張強度が265MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項4】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、2〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が160MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項5】
マグネシウム合金に、カーボンナノ材料を含有してなるカーボンナノ複合マグネシウム合金であって、前記カーボンナノ材料の含有割合が、9〜30質量%であり、常温での0.2%耐力が230MPa以上であることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項6】
前記カーボンナノ材料は、予めSi微粒子が付着されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のカーボンナノ複合マグネシウム合金は、ダイカスト用又は鋳造用に供されることを特徴とするカーボンナノ複合マグネシウム合金。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−189717(P2010−189717A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35571(P2009−35571)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】
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