説明

カーボンナノ複合体、それを含む分散液及び樹脂組成物、並びにカーボンナノ複合体の製造方法

【課題】溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性に優れるカーボンナノ複合体を提供すること。
【解決手段】カーボンナノ構造体と、
ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であり且つ前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体と、
を備えることを特徴とするカーボンナノ複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ複合体、それを含む分散液及び樹脂組成物、並びにカーボンナノ複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)に代表されるカーボンナノ構造体は、熱伝導性、電気伝導性、機械的特性に優れ、貯蔵特性等も有することから、例えば、電子デバイス材料、顕微鏡探針、電界放出ディスプレイ用エミッタ、リチウム二次電池負極、電界効果トランジスタ、ドラッグデリバリーシステム用材料、樹脂やセラミックスとの複合材料、分子貯蔵材料等への展開に向けた開発が進められ、注目されている。しかし、カーボンナノ構造体は、ファンデルワールス力により凝集しやすく、溶媒、樹脂、金属およびセラミックス中での分散性が極めて低いため、前記特性を十分に発揮できないという課題があった。
【0003】
そこで、カーボンナノチューブの溶媒中での分散性を向上させるため、種々の方法が提案されている。例えば、国際公開第2002/016257号パンフレット(特許文献1)には、少なくとも1つのポリマーで少なくとも部分的にコーティングされたカーボンナノチューブを含む組成物が開示され、前記ポリマーとしてポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホネート、ポリエチレングリコールなどが例示されており、国際公開第2002/076888号パンフレット(特許文献2)には、親水性ポリマーがカーボンナノチューブ上に吸着した粉末が開示され、前記ポリマーとして、アラビアゴム、カラゲナン、ペクチン等が例示されている。しかしながら、このような特許文献1〜2に記載のようなポリマーを用いた場合には、特に、有機溶媒中又は樹脂中においてカーボンナノチューブの分散性が十分なものとはならなかった。
【0004】
また、2003年に発行された「CHEM. COMMUN.」の2904頁〜2905頁(非特許文献1)においては、カーボンナノチューブに対して親和性を示すピレニル基を含有するポリマーとカーボンナノチューブからなる複合体が開示されている。このポリマーをカーボンナノチューブに吸着させることでカーボンナノチューブの溶媒中での分散性は改善される傾向にある。しかしながら、熱伝導性、電気伝導性および機械的特性等のカーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造体が本来有する特性を更に発現するためには、分散性の更なる向上が求められていた。
【0005】
また、特開2006−265035号公報(特許文献3)には、ポリフェニレンビニレン又はポリチオフェンとカーボンナノチューブを含む分散液、およびこの分散液を遠心分離して得られる上澄み液から作製した薄膜が開示されている。しかし、上澄み液におけるカーボンナノチューブの濃度は、車両部品や電気電子機器部品等の用途において、熱伝導性、電気伝導性および機械的特性等のカーボンナノチューブが本来有する特性を更に発現するためには十分ではなかった。また、ポリフェニレンビニレンまたはポリチオフェンとカーボンナノチューブを含む組成物をエンプラやスーパーエンプラに代表される車両部品向けに好適な樹脂に配合した場合、これら樹脂とポリフェニレンビニレン、ポリチオフェンとの親和性が低いことから、樹脂中での分散性と樹脂組成物の流動性(加工性)が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2002/016257号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2002/076888号パンフレット
【特許文献3】特開2006−265035号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Petar Petrovら、CHEM. COMMUN.,2003年,2904−2905頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性に優れるカーボンナノ複合体、それを含む分散液及び樹脂組成物、並びに、そのカーボンナノ複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノ構造体と、ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であり且つ前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体とを備えるカーボンナノ複合体により、溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性が十分に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のカーボンナノ複合体は、カーボンナノ構造体と、
ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であり且つ前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体と、
を備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、上記本発明のカーボンナノ複合体においては、前記構造単位の分子量が400以上であることが好ましい。
【0012】
さらに、上記本発明のカーボンナノ複合体においては、前記カーボンナノ構造体の直径が1μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の分散液は、上記本発明のカーボンナノ複合体と溶媒とを含有することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の樹脂組成物は、上記本発明のカーボンナノ複合体と樹脂とを含有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のカーボンナノ複合体の製造方法は、カーボンナノ構造体と、
ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であるグラフト型ビニル系重合体と、
を溶媒中で混合して前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を吸着せしめてカーボンナノ複合体を得ることを特徴とする方法である。
【0016】
なお、本発明のカーボンナノ複合体が溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性に優れる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体が、ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上のものである。このようなグラフト型ビニル系重合体は嵩高い高分子鎖を側鎖に有するため、これが吸着することによりカーボンナノ複合体同士の立体反発は増大される。このような立体反発に起因して、溶媒中及び樹脂中でのカーボンナノ複合体の分散性が十分に向上する。また、このようなカーボンナノ複合体同士の立体反発の増大によって、前記カーボンナノ複合体同士の凝集エネルギーが減少するため、本発明のカーボンナノ複合体においては、グラフト型ビニル系重合体を吸着していない場合と比較して、流動性が十分に向上するものと推察される。なお、本発明のカーボンナノ複合体においては、前記側鎖の高分子鎖の種類(例えば、グラフト型ビニル系重合体がマクロモノマー法により製造される場合にはマクロモノマーの種類)を変えることで様々な溶媒や樹脂への分散性を向上したり、様々な機能性を付与することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性に優れるカーボンナノ複合体、それを含む分散液及び樹脂組成物、並びに、そのカーボンナノ複合体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
[カーボンナノ複合体]
本発明のカーボンナノ複合体は、カーボンナノ構造体と、
ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であり且つ前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体と、
を備えることを特徴とするものである。
【0020】
(カーボンナノ構造体)
先ず、本発明にかかるカーボンナノ構造体について説明する。このようなカーボンナノ構造体としては特に制限されないが、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、ナノグラフェン(グラフェンナノリボンなど)、カーボンナノウォール、フラーレン、グラファイト、カーボンフレーク、およびこれらの誘導体(例えば、炭素原子の一部または全部がホウ素や窒素に置き換わったもの)等のうち少なくとも1種を挙げることができる。このようなカーボンナノ構造体を使用した際の熱伝導性の向上及び機械特性の向上という観点からは、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、グラファイト、ナノグラフェンおよびカーボンナノウォールなどの異方性カーボンナノ構造体から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、更に好ましくはカーボンナノファーバー及び/又はカーボンナノチューブである。また、前記カーボンナノ構造体としては、1本の幹状でも多数のカーボンナノ構造体が枝のように外方に成長している樹枝状であってもよいが、熱伝導率、電気伝導率、機械強度等の観点からは、1本の幹状であることが好ましい。
【0021】
また、このようなカーボンナノ構造体の直径の上限は特に制限されないが、熱伝導率、電気伝導率を向上させる観点、樹脂組成物として使用する際にカーボンナノ複合体の少量添加で耐熱性を向上(荷重たわみ温度の上昇、熱線膨張係数の低下)させるという観点、並びに、カーボンナノ複合体を樹脂に配合した際に少量添加で引張強度、衝撃強度等の機械強度等を向上させるという観点から、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは800nm以下であり、更に好ましくは500nm以下であり、特に好ましくは300nm以下であり、最も好ましくは200nm以下である。このようなカーボンナノ構造体の直径の下限は特に制限されず、例えば0.4nm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5nm以上である。
【0022】
また、前記カーボンナノ構造体のアスペクト比としては特に制限はないが、カーボンナノ複合体を樹脂と混合して本発明の樹脂組成物を製造する際に、少量添加で、引張強度、衝撃強度等の機械強度を向上させる観点、熱線膨張を低下させる観点、並びに、熱伝導率が要求される用途の場合はカーボンナノ構造体及びその樹脂組成物の熱伝導率の向上の観点から、5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上であり、更に好ましくは20以上であり、特に好ましくは40以上であり、最も好ましくは80以上である。また、本発明にかかるカーボンナノ構造体はその構造中に炭素以外の原子、分子等を含んでもよく、必要に応じ、例えば金属や別の構造体を内包してもよい。
【0023】
本発明のカーボンナノ複合体を高熱伝導率が要求される用途、例えば高熱伝導樹脂用途で使用する場合、前記カーボンナノ構造体としては、そのラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に確認されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に確認されるDバンドの比、G/Dの値は、特に制限はないが、熱伝導性の向上の点から0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、更に好ましくは1.0以上であり、特に好ましくは3.0以上であり、最も好ましくは5.0以上である。
【0024】
また、カーボンナノ構造体がカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーのうちいずれかを含む場合、これらは単層、多層のいずれも用いることができ、用途に応じ、使い分けたり、併用したりすることができる。ここで、多層とは2層以上のものをいう。
【0025】
さらに、カーボンナノ構造体の製造方法としては特に制限はないが、従来公知の製造方法を用途に応じ好適に選択することができ、例えばレーザーアブレーション法、アーク合成法、HiPcoプロセス等の化学気相成長法(CVD法)、溶融紡糸法等を挙げることができる。なお、本発明に用いられるカーボンナノ構造体はこれらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0026】
(グラフト型ビニル系重合体)
次に、本発明にかかるグラフト型ビニル系重合体について説明する。このようなグラフト型ビニル系重合体は、ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であるものである。なお、以下において、「前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位」を「構造単位(I)」という。
【0027】
ここで「構造単位(I)」について例を挙げて説明すると、前記グラフト型ビニル系重合体がビニル系のマクロモノマー(ビニル系モノマー中の少なくとも1つの原子を高分子鎖で置換した構造を有するマクロモノマー)をグラフト重合する方法(マクロモノマー法)により製造されたものである場合、そのマクロモノマーにより形成される構造単位(マクロモノマーに由来する構造単位:マクロモノマー単位)が構造単位(I)に相当し、前記グラフト型ビニル系重合体が、ビニル系モノマーを重合して得られたビニル系重合体の側鎖に高分子化合物を付加する方法により製造されたものである場合、並びに、ビニル系モノマーを重合して得られたビニル系重合体の側鎖に高分子鎖を成長させる方法により製造されたものである場合、前記ビニル系モノマーの1つに由来して形成される単位のうちの前記高分子化合物が付加される側鎖部分又は高分子鎖を成長させる側鎖部分を除いた部分と、その部分に導入された1つの高分子鎖(前記高分子化合物に由来する部分)とからなる構造単位が構造単位(I)に相当する。より具体的な例を挙げて説明すると、下記一般式(1):
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、Pは高分子鎖を示す。)
で表されるマクロモノマーを用い、マクロモノマー法を利用して前記グラフト型ビニル系重合体を製造する場合には、そのグラフト型ビニル系重合体中に前記マクロモノマーに由来して形成される構造単位は、下記一般式(2):
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、Pは高分子鎖を示す。)
で表される構造単位となるが、この一般式(2)で表される構造単位が構造単位(I)に相当する。
【0032】
また、前記ビニル系モノマー単位とは、高分子鎖を側鎖に有する構造単位(I)のうちの一部分の構造であって、構造単位(I)から側差に結合している高分子鎖のみを除いた部分(1つのビニル系モノマーに由来して形成される単位のうちの側差に結合している高分子鎖部分を除いた部分)をいう。例えば、構造単位(I)が上記一般式(2)で表される構造単位である場合には、一般式(2)中においてPで表される高分子鎖部分を除いた部分(式(2)中の−(CH)CH−C(CH)−で表される部分)が前記ビニル系モノマー単位に相当する。
【0033】
また、このようなビニル系モノマー単位としては、ビニル系モノマー(ビニル系マクロモノマーを含む)に由来して形成されるものであればよく特に制限されず、公知のビニル系モノマーを適宜用いて形成させたものでよい。すなわち、このようなビニル系モノマー単位としては、例えば、不飽和カルボン酸エステルモノマー単位、シアン化ビニル系モノマー単位、不飽和カルボン酸モノマー単位、その酸無水物単位またはその誘導体単位、エポキシ基含有ビニル系モノマー単位、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー単位、アミノ基含有ビニル系モノマー単位、アミド基含有ビニル系モノマー単位、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー単位、オレフィン系モノマー単位、ハロゲン化ビニル系モノマー単位、カルボン酸不飽和エステルモノマー単位、カチオン性ビニル系モノマー単位、マレイミド系モノマー単位等を挙げることができる。
【0034】
このようなマレイミド系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミドおよびN−n−ドデシルマレイミドといったN−アルキルマレイミド;N−アセチレニルマレイミドおよびN−プロピニルマレイミドといったN−アルキニルマレイミド;N−ベンジルマレイミドおよびN−メチルベンジルマレイミドといったN−アラルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドに代表されるN−無置換シクロアルキルマレイミド、N−メチルシクロヘキシルマレイミドに代表されるN−置換シクロアルキルマレイミドといったN−シクロアルキルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミドおよびN−ピレニルマレイミドに代表されるN−無置換アリールマレイミド、N−トリルマレイミドおよびN−キシリルマレイミドに代表されるアルキル置換アリールマレイミド、N−(4−アミノフェニル)マレイミドに代表されるN−アミノ置換アリールマレイミド、N−アセチレニルフェニルマレイミドおよびN−プロピニルフェニルマレイミドに代表されるN−アルキニル置換アリールマレイミド、N−ビフェニルマレイミドに代表されるN−アリール置換アリールマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、N−ペンタフルオロフェニルマレイミドおよびN−テトラフルオロフェニルマレイミドに代表されるN−ハロゲン置換アリールマレイミドといったN−アリールマレイミド;N−ピリジルマレイミド、N−3−(9−アルキルカルバゾイル)マレイミドおよびN−(9−アクリジニル)マレイミドといった複素環で置換されたマレイミド;N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N’−1,3−フェニレンジマレイミドおよび4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタンといったビスマレイミド;N−フルオロマレイミド、N−クロロマレイミド、N−ブロモマレイミド、およびN−ヨードマレイミドといったハロゲン化マレイミド;N−アミノマレイミド、N−アセチルマレイミド、N−ヒドロキシマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、p−カルボキシフェニルマレイミド、N−(2−カルボキシエチル)マレイミドなどが挙げられる。これらのマレイミド系モノマーは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、これらのマレイミド系モノマーは、必要に応じてスルホン基やスルホンイミド基などの水溶性の置換基を有していてもよい。
【0035】
前記不飽和カルボン酸エステルモノマーとしては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシルといった(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルに代表される(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキルエステルなどが挙げられる。
【0036】
また、前記シアン化ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。前記芳香族ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、クロロスチレン、およびブロモスチレンなどが挙げられる。
【0037】
前記不飽和カルボン酸モノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸といった不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、およびメチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸といった不飽和ジカルボン酸、ならびにマレイン酸モノメチルおよびマレイン酸モノエチルに代表される不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルなどが挙げられる。また、酸無水物としては特に制限はないが、例えば、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、メチル無水マレイン酸、メチル無水フマル酸、無水メサコン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、およびメチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物などが挙げられる。さらに、誘導体としては特に制限はないが、例えば、不飽和カルボン酸モノマーの金属塩などが挙げられる。
【0038】
前記エポキシ基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、マレイン酸グリシジル、フマル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、グルタコン酸グリシジルといった不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、p−グリシジルスチレン、アリルグリシジルエーテルおよびスチレン−p−グリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
前記オキサゾリン基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−オキサゾリン、2−イソプロぺニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、2−スチリル−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−オキサゾリン、および4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0040】
前記アミノ基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、N−ビニルジエチルアミンおよびN−アセチルビニルアミンといったビニルアミン系誘導体類、アリルアミン、メタアリルアミンおよびN−メチルアリルアミンに代表されるアリルアミン系誘導体類、ならびにp−アミノスチレンに代表されるアミノスチレン類、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチルといった(メタ)アクリル酸のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。
【0041】
前記アミド基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミドおよびN−フェニル(メタ)アクリルアミドといったアクリルアミド類などが挙げられる。また、N−ビニル−2−ピロリドンといったアミド基含有ビニル系モノマー類縁体も用いることができる。
【0042】
前記ヒドロキシル基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルといった(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテンおよび4−ジヒドロキシ−2−ブテンといったヒドロキシアルケンなどが挙げられる。前記ポリアルキレンオキシド基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0043】
前記オレフィン系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、エチレン、プロピレン、イソプレン、ネオプレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンおよび環状オレフィンなどが挙げられ、前記ハロゲン化ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン、パーフルオロエチレンなどが挙げられる。前記カルボン酸不飽和エステルモノマーとしては特に制限はないが、例えば、酢酸ビニルおよび酢酸イソプロぺニルなどが挙げられる。前記カチオン性ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、ジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩、アリルイミン塩酸塩、およびアリルアミン塩酸塩などが挙げられ、前記アニオン性ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウムなどが挙げられる。
【0044】
また、前記ビニル系モノマー単位(構造単位(I)から高分子鎖を除いた部分)としては、分子量が27〜150であることが好ましく、71〜140であることがより好ましい。このような分子量が前記下限未満では、グラフト型ビニル系重合体の溶媒への溶解性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると高分子鎖による機能付与効果や樹脂との親和性が低下する傾向にある。
【0045】
また、前記構造単位(I)に含有される「高分子鎖」とは、構造中に少なくとも1種のモノマー単位の繰り返しにより構成される構造を含むものをいう。このような高分子鎖としては、その高分子鎖1つの分子量が200以上のものが好ましく、250〜5000000のものがより好ましく、300〜1000000のものが更に好ましい。このような高分子鎖1つの分子量が前記下限未満では、得られるカーボンナノ複合体の分散性が十分なものとならない傾向にあり、上記上限を超えるとグラフト型ビニル系重合体の溶媒への溶解性が低下する傾向にある。
【0046】
このような構造単位(I)に含有される高分子鎖の種類としては、特に制限はないが、例えば、ビニル系重合体、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルアミド、ポリε−カプロラクトン等のポリラクトン、ポリε−カプロラクタム等のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、液晶ポリエステル、ポリアリレート、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルフォン、ポリオキシアルキレン、ポリシロキサン、ポリ乳酸、ポリフェノール、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリ(n−ヘキシルイソシアナート)等のポリイソシアナート、ポリテトラヒドロフラン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンイミン、ポリN−メチルグリシン等のポリアミノ酸等のうち少なくとも1種を挙げることができ、これらの中では、グラフト型ビニル系重合体の各種溶媒への溶解性、得られるカーボンナノ複合体の各種溶媒への分散性の向上の点から、ビニル系重合体、ポリオキシアルキレン、ポリシロキサン、ポリラクトンがより好ましく、有機溶媒中、樹脂中での分散性および流動性の観点から更に好ましくは、ビニル系重合体、ポリシロキサン、ポリラクトンから選ばれる少なくとも一種であり、特に好ましくはビニル系重合体及び/又はポリシロキサンであり、最も好ましくはビニル系重合体である。一方、水中やアルコール等の高極性溶媒中への分散が求められる場合には、構造単位(I)中に含まれる高分子鎖の種類としては、ポリオキシアルキレンを用いることが好ましい。ここで、ポリオキシアルキレンとはポリアルキレングリコールおよびポリアルキレンオキシドと言い換えることもできる。また、構造単位(I)中に含まれる高分子鎖の形状は特に制限されず、直鎖状であっても分岐状であってもよく、分岐状としてはグラフト形状、ハイパーブランチ形状、スターポリマー形状、デンドリマー形状であっても架橋部分を含んでいる形状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0047】
また、構造単位(I)に含有される高分子鎖がビニル系重合体である場合、このような高分子鎖を形成するために用いられるビニル系モノマーの種類としては、特に制限はないが、例えば、不飽和カルボン酸エステルモノマー、シアン化ビニル系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸モノマー、その酸無水物またはその誘導体、エポキシ基含有ビニル系モノマー、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー、アミノ基含有ビニル系モノマー、アミド基含有ビニル系モノマー、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー、ポリアルキレンオキシド基含有ビニル系モノマー、オレフィン系モノマー、ハロゲン化ビニル系モノマー、カルボン酸不飽和エステルモノマー、カチオン性ビニル系モノマー、アニオン性ビニル系モノマー、マレイミド系モノマーを好ましく例示することができる。また、このようなビニル系モノマーとしては、上述のビニル系モノマー単位を形成する際に用いられるモノマーとして説明したものと同様のものを用いることができる。
【0048】
更に、このような構造単位(I)に含有される高分子鎖がビニル系重合体である場合の具体例として特に好ましいものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリネオプレン、水添ポリイソプレン、ポリブテン、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピン−ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル/アクリロニトリル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸n−ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸イソブチルおよびポリ(メタ)アクリル酸t−ブチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)等のポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(ジメチルアミノエチル)等のポリ(ジアルキルアミノアルキル)、ポリ(2−エチルオキサゾリン)等のポリオキサゾリン、ポリ(N−アシルアルキレンイミン)およびこれらの酸変性物、酸無水物変性物、エポキシ変性物およびオキサゾリン変性物などを挙げることができる。前記変性物を得るための変性方法としては特に制限はなく、(メタ)アクリル酸、酸無水物等の共重合であってもグラフトであっても化学反応であってもよい。また、これら高分子鎖部分の末端基としては、特に制限はなく、水素原子またはメチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等の炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキルメルカプト基、ベンジル基等の製造時に導入される基のほか、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、無水マレイン酸基、オキサゾリン基等の反応性置換基であってもよい。
【0049】
また、構造単位(I)に含有される高分子鎖がポリオキシアルキレンを含む場合、グラフト型ビニル系重合体は水や高極性溶媒であるアルコールにも可溶となり、得られるカーボンナノ複合体はこれら溶媒中に良分散可能となる。このようなポリオキシアルキレンとしては特に制限はないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリメチレングリコール、ポリプロピレングルコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)等を好ましく挙げることができる。
【0050】
構造単位(I)に含有される高分子鎖がポリシロキサンを含む場合、このようなポリシロキサンを含む高分子鎖を形成するために用いられるポリシロキサン含有マクロモノマーとしては、特に制限はないが、例えば、α−メチル−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α−エチル−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α−プロピル−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α−ブチル−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α−メトキシ−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサンおよびα−エトキシ−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサン等や、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジエトキシシリルプロピル、トリメトキシシリルスチレン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランおよびp−スチリルトリメトキシシラン等のアルコキシシランをアルコキシシランで処理してポリシロキサンを形成させたもの等を好ましく挙げることができる。
【0051】
また、前記高分子鎖を有するマクロモノマーとしては、従来公知の製造法を含む種々の製造法により所望のマクロモノマーを製造して用いもよく、市販のものを用いてもよい。このような市販のマクロモノマーとしては、例えば、チッソ(株)製α−ブチル−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン(商品名サイラプレーンFM−0711(数平均分子量1000)、商品名サイラプレーンFM−0721(数平均分子量5000)、商品名サイラプレーンFM−0725(数平均分子量10000))、東亜合成(株)製片末端メタクリロイル化ポリスチレン(商品名AS−6)、東亜合成(株)製片末端メタクリロイル化ポリメタクリル酸メチル(商品名AA−6、AA−714S)、東亜合成(株)製片末端メタクリロイル化スチレン−アクリロニトリル共重合体(商品名AN−6)、東亜合成(株)製片末端メタクリロイル化スポリジメチルシロキサン(商品名AK−32)、東亜合成(株)製片末端メタクリロイル化ポリアクリル酸n−ブチル(商品名AB−6)、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリル酸エステルは具体的には、新中村化学工業(株)メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名NKエステルM90G)、新中村化学工業(株)製メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名NKエステルM230G)、共栄社化学(株)製 メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名ライトエステル130MA、ライトエステル041MA、ライトエステル130A)、日油(株)製水酸基末端ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPEシリーズ、ブレンマーAEシリーズ)、日油(株)製ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPPシリーズ、ブレンマーAPシリーズ)、日油(株)製ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPEPシリーズ、ブレンマーAEPシリーズ)、日油(株)製ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPETシリーズ、ブレンマーAETシリーズ)、日油(株)製ポリ(プロピレングリコールーテトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPPTシリーズ、ブレンマーAPTシリーズ)、日油(株)製オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマー50POEP−800B、ブレンマー50AOEP−800B)、日油(株)製ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPLEシリーズ、ブレンマーALEシリーズ)、日油(株)製ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(商品名ブレンマーPSEシリーズ、ブレンマーASEPシリーズ)、日油(株)製ノニルブェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートブレンマー(商品名ANEシリーズ、ブレンマーPNEPシリーズ)、日油(株)製ノニルフェノキシポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(ブレンマーPNPEシリーズ、ブレンマーANEPシリーズ)、O−[N−(6−マレイミドヘキサノイル)アミノエチル]−O’−(2−カルボキシエチル)ポリエチレングリコール3000(Aldrich社製)、O−[N−(6−マレイミドヘキサノイル)アミノエチル]−O’−[(3−スクシンイミジロキシ)−3−オキソプロピル]ポリエチレングリコール3000(Aldrich社製)や、ε−カプロラクトンマクロモノマーとして、ダイセル化学工業(株)製ε−カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマー(商品名 PlaccelFA−1、Placcel FA−4、Placcel FM−1、Placcel FM−4)およびUCC社製ε−カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマー(商品名 TONE M−100、TONE M−201)などを挙げることができる。
【0052】
また、マクロモノマーの製造方法としては特に制限されないが、例えば、マクロモノマーのビニル系モノマー単位部分がマレイミド系モノマー単位である場合、無水マレイン酸とアミノ基含有高分子の反応により、N−高分子置換マレイミドを合成する方法や、カルボキシル基マレイミド又はヒドロキシル基含有マレイミドのカルボキシル基やヒドロキシル基の化学変換(高分子との反応、またはビニル基やハロゲン導入後のビニル重合)により、高分子鎖を導入する方法等を利用してもよい。また、マクロモノマーのビニル系モノマー単位部分がメタクリル酸単位、すなわちメタクリロキシ基であり、高分子鎖がポリスチレンを含む場合には、その合成法の定法として、例えば、Y.Yamashita,”Chemistry and Industry of Macromonomers”,Huthing und Wepf (1993)に記載の方法を用いることができ、マクロモノマーのビニル系モノマー単位部分がスチレン単位、すなわちスチリル基であり、高分子鎖部分がポリスチレンを含む場合には、例えばα−ベンジル−ω−ビニルベンジルポリスチレンの場合、ベンジルリチウム(n−ブチルリチウム/トルエン/テトラメチルエチレンジアミン複合体)を開始剤としたリビングアニオン重合により合成したポリスチレンとパラクロロメチルスチレンとを反応することにより合成することができる(Tsukahara,Yら、Polym.J.,1994年,26巻,1013頁(参照))。更に、マクロモノマーの高分子鎖部分がポリエチレングリコールを含む場合には、例えば、エチレングリコールモノエーテルの末端基変換等を挙げることができ、このような合成方法の参考文献としては、Macromolecules,1991年,24巻,2348−2354頁や、Polymer Journal,1985年,Vol17,No.7,827−839頁を挙げることができる。更に、ビニル系重合体のマクロモノマーの場合には、例えば、重合時にビニル基を有する連鎖移動剤を用いるラジカル連鎖移動反応による方法や片末端にエチレン性不飽和二重結合を取り付けた重合開始剤を用いて重合を行う方法を用いることもできる。
【0053】
また、前記構造単位(I)を有する前記グラフト型ビニル系重合体としては、前記構造単位(I)の他に、必要に応じて他の構造単位を含むことができる。このような他の構造単位を含むことにより、グラフト型ビニル系重合体の溶媒への溶解性、グラフト型ビニル系重合体のカーボンナノ構造体への吸着性が向上する傾向にある。このような他の構造単位としては特に制限されず、ビニル系モノマーに由来して形成される構造単位(以下、単に「他のビニル系モノマー単位」という。また、ここにいう「他のビニル系モノマー単位」においては全ての側鎖を含む。)を挙げることができ、例えば、不飽和カルボン酸エステルモノマー単位、シアン化ビニル系モノマー単位、不飽和カルボン酸モノマー単位、その酸無水物単位またはその誘導体単位、エポキシ基含有ビニル系モノマー単位、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー単位、アミノ基含有ビニル系モノマー単位、アミド基含有ビニル系モノマー単位、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー単位、オレフィン系モノマー単位、ハロゲン化ビニル系モノマー単位、カルボン酸不飽和エステルモノマー単位、カチオン性ビニル系モノマー単位、アニオン性ビニル系モノマー単位、分子量300未満のポリオキシアルキレン基含有ビニル系モノマー単位、シリル基含有ビニル系モノマー単位、分子量300未満のポリシロキサン基含有ビニル系モノマー単位、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位、イミド基含有構成単位等が好適なものとして挙げられる。これらの他の構造単位も1種が単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0054】
また、このような他の構造単位の中でも、カーボンナノ構造体に対する吸着性が高まるという観点からは、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位が好ましく、カーボンナノ構造体への吸着性および吸着安定性、ならびにガラス転移温度及び熱分解温度の向上という観点からはイミド基含有構成単位が好ましい。また、前記他の構造単位としては、グラフト型ビニル系重合体の溶媒への溶解性の向上という観点からは、不飽和カルボン酸エステルモノマー単位、シアン化ビニル系モノマー単位、芳香族ビニル系モノマー単位、不飽和カルボン酸モノマー単位、その酸無水物単位およびその誘導体単位、エポキシ基含有ビニル系モノマー単位、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー単位、アミノ基含有ビニル系モノマー単位、アミド基含有ビニル系モノマー単位、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー単位が好ましい。更に、前記他の構造単位としては、樹脂と混合する際のカーボンナノ複合体の分散性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸モノマー単位、その酸無水物単位およびその誘導体単位、エポキシ基含有ビニル系モノマー単位、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー単位が好ましい。
【0055】
また、前述の他の構造単位として含有し得る前記多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位としては特に制限はなく、前記芳香族ビニル系モノマー単位に多環芳香族基が直接または2価の有機基を介して結合したものや、前記アミド基含有ビニル系モノマー単位に多環芳香族基が直接または2価の有機基を介して結合したもの等も挙げることができるが、下記式(3):
【0056】
【化3】

【0057】
で表されるものが好ましい。前記式(3)中、Rは、炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Rは1価の多環芳香族含有基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜20の1価の有機基を表す。
【0058】
としては、炭素数1〜20の2価の有機基が好ましく、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、およびこれらの1つまたは2つ以上の水素原子が他の原子に置換された置換体がより好ましく、カーボンナノ構造体に対する吸着性および吸着安定性の観点やマクロモノマーとの共重合時の重合反応性の観点から、ブチレンが特に好ましい。Rとしては、ナフチル、ナフタレニル、アントラセニル、ピレニル、ターフェニル、ペリレン、フェナンスレン、テトラセン、ペンタセン及びこれらの1つ又は2つ以上の水素原子が他の原子に置換された置換体が好ましく、カーボンナノ構造体に対する吸着性および吸着安定性の観点からピレニルが特に好ましい。RおよびRとしては、水素原子、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。Rとしては、水素原子、メチル基、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。本発明において、このような多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位は1種単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0059】
また、前記イミド基含有構成単位としては、下記式(4):
【0060】
【化4】

【0061】
(式(4)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、Rは水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるマレイミド系モノマー単位、下記式(5):
【0062】
【化5】

【0063】
(式(5)中、RおよびR10はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、R11は水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるグルタルイミド基含有構成単位、並びに、
N−アルケニルイミド単位及びその誘導体単位等が挙げられる。
【0064】
このようなイミド基含有構成単位を形成するために用いられるマレイミド系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミドおよびN−n−ドデシルマレイミドといったN−アルキルマレイミド;N−アセチレニルマレイミドおよびN−プロピニルマレイミドといったN−アルキニルマレイミド;N−ベンジルマレイミド、N−メチルベンジルマレイミド、N−フェニルエチルマレイミド、N−フェニルエチルマレイミド、N−ナフチルメチルマレイミド、N−ナフチルエチルマレイミドといったN−アラルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドに代表されるN−無置換シクロアルキルマレイミド、N−メチルシクロヘキシルマレイミドに代表されるN−置換シクロアルキルマレイミドといったN−シクロアルキルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ナフタレニルマレイミド、N−ペリレニルマレイミド、N−ペンタセニルマレイミド、N−ターフェニルマレイミド、N−フェナンスレニルマレイミド、N−テトラセニルマレイミド、N−アントラセニルマレイミドおよびN−ピレニルマレイミドに代表されるN−無置換アリールマレイミド、N−トリルマレイミドおよびN−キシリルマレイミドに代表されるアルキル置換アリールマレイミド、N−(4−アミノフェニル)マレイミドに代表されるN−アミノ置換アリールマレイミド、N−アセチレニルフェニルマレイミドおよびN−プロピニルフェニルマレイミドに代表されるN−アルキニル置換アリールマレイミド、N−ビフェニルマレイミドに代表されるN−アリール置換アリールマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、N−ペンタフルオロフェニルマレイミドおよびN−テトラフルオロフェニルマレイミドに代表されるN−ハロゲン置換アリールマレイミドといったN−アリールマレイミド;N−ピリジルマレイミド、N−3−(9−アルキルカルバゾイル)マレイミドおよびN−(9−アクリジニル)マレイミドといった複素環で置換されたマレイミド;N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N’−1,3−フェニレンジマレイミドおよび4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタンといったビスマレイミド;N−フルオロマレイミド、N−クロロマレイミド、N−ブロモマレイミド、およびN−ヨードマレイミドといったハロゲン化マレイミド;N−アミノマレイミド、N−アセチルマレイミド、N−ヒドロキシマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、p−カルボキシフェニルマレイミド、N−(2−カルボキシエチル)マレイミド、3−マレイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミド、6−マレイミドヘキサン酸N−ヒドロキシスクシンイミド、3−[2−(2−マレイミドエトキシ)エチルカルバモイル]−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニロキシ、3−マレイミド安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドなどが挙げられる。これらのマレイミド系モノマーは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、これらのマレイミド系モノマーは、必要に応じてスルホン基やスルホンイミド基などの水溶性の置換基を有していたり、マレイミド系モノマーの塩であってもよい。
【0065】
前記イミド基含有構成単位を形成するために用いられる前記グルタルイミド基としては特に制限はないが、例えば、グルタルイミド、N−メチルグルタルイミド、N−エチルグルタルイミド、N−n−プロピルグルタルイミド、N−イソプロピルグルタルイミド、N−n−ブチルグルタルイミド、N−イソブチルグルタルイミド、N−tert−ブチルグルタルイミド、N−n−ペンチルグルタルイミド、N−n−ヘキシルグルタルイミド、N−n−ヘプチルグルタルイミド、N−n−オクチルグルタルイミドおよびN−n−ドデシルグルタルイミドといったN−アルキルグルタルイミド;N−アセチレニルグルタルイミドおよびN−プロピニルグルタルイミドといったN−アルキニルグルタルイミド;N−ベンジルグルタルイミドおよびN−メチルベンジルグルタルイミドといったN−アラルキルグルタルイミド;N−シクロヘキシルグルタルイミドに代表されるN−無置換シクロアルキルグルタルイミド、N−メチルシクロヘキシルグルタルイミドに代表されるN−置換シクロアルキルグルタルイミドといったN−シクロアルキルグルタルイミド;N−フェニルグルタルイミド、N−ナフチルグルタルイミド、N−アントラセニルグルタルイミドおよびN−ピレニルグルタルイミドに代表されるN−無置換アリールグルタルイミド、N−トリルグルタルイミドおよびN−キシリルグルタルイミドに代表されるアルキル置換アリールグルタルイミド、N−(4−アミノフェニル)グルタルイミドに代表されるN−アミノ置換アリールグルタルイミド、N−アセチレニルフェニルグルタルイミドおよびN−プロピニルフェニルグルタルイミドに代表されるN−アルキニル置換アリールグルタルイミド、N−ビフェニルグルタルイミドに代表されるN−アリール置換アリールグルタルイミドといったN−アリールグルタルイミドなどが挙げられる。これらのグルタルイミド基は1種単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0066】
更に、前記イミド基含有構成単位を形成するために用いられる前記N−アルケニルイミドおよびその誘導体としては特に制限はないが、例えば、N−ビニルコハク酸イミド、N−ビニルフタルイミド、1−ビニルイミダゾールおよびN−ビニルカルバゾールなどが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明にかかるグラフト型ビニル系重合体おいて、このようなイミド基含有構成単位は1種が単独で含まれていても2種以上が含まれていてもよい。また、これらのイミド基含有構成単位のうち、カーボンナノ構造体の分散性の向上および耐熱性の向上という観点から、マレイミド系モノマー単位が好ましく、マレイミドモノマー単位、N−シクロアルキルマレイミドモノマー単位、N−アリールマレイミドモノマー単位およびN−アルキルマレイミドモノマー単位のうちの少なくとも1種がより好ましく、N−アリールマレイミドモノマー単位が特に好ましい。また、グラフト型ビニル系重合体が他のビニル系モノマー単位として、剛直なイミド基含有構成単位を含有する場合、イミド基含有構成単位の含有量をより増加することによって、剛直性が更に強化される傾向にあり、これにより例えば平均直径が30nm以下のカーボンナノ構造体であっても分散性をより十分に向上させることができる傾向にある。
【0068】
また、前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記不飽和カルボン酸エステルモノマーとしては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルといった(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルに代表される(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキルエステルなどが挙げられる。
【0069】
更に、前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記シアン化ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられる。前記芳香族ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、クロロスチレン、およびブロモスチレンなどが挙げられる。
【0070】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記不飽和カルボン酸モノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸といった不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、およびメチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸といった不飽和ジカルボン酸、ならびにマレイン酸モノメチルおよびマレイン酸モノエチルに代表される不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルなどが挙げられる。また、酸無水物としては特に制限はないが、例えば、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、メチル無水マレイン酸、メチル無水フマル酸、無水メサコン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、およびメチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物などが挙げられる。さらに、誘導体としては特に制限はないが、例えば、不飽和カルボン酸モノマーの金属塩、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチルといった(メタ)アクリル酸のアルキルエステル誘導体類などが挙げられる。
【0071】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記エポキシ基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、マレイン酸グリシジル、フマル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、グルタコン酸グリシジルといった不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、p−グリシジルスチレン、アリルグリシジルエーテルおよびスチレン−p−グリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0072】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記オキサゾリン基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−オキサゾリン、2−イソプロぺニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、2−スチリル−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−オキサゾリン、および4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0073】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記アミノ基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、N−ビニルジエチルアミンおよびN−アセチルビニルアミンといったビニルアミン系誘導体類、アリルアミン、メタアリルアミンおよびN−メチルアリルアミンに代表されるアリルアミン系誘導体類、ならびにp−アミノスチレンに代表されるアミノスチレン類などが挙げられる。
【0074】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記アミド基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミドおよびN−フェニル(メタ)アクリルアミドといったアクリルアミド類などが挙げられる。また、N−ビニル−2−ピロリドンといったアミド基含有ビニル系モノマー類縁体も用いることができる。
【0075】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられる前記ヒドロキシル基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルといった(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテンおよび4−ジヒドロキシ−2−ブテンといったヒドロキシアルケンなどが挙げられる。前記ポリアルキレンオキシド基含有ビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0076】
前記他のビニル系モノマー単位を形成するために用いられるオレフィン系モノマーとしてはエチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、2−エチル−1−ブテン、2−エチル−2−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−エチル−2−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−2−ヘキセン、2−エチル−1−ヘキセン、1−メチル−1−ヘプテン、イソオクテン、2−メチル−1−オクテン、イソプレン、ネオプレン、ブタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンおよび環状オレフィンなどが挙げられ、前記ハロゲン化ビニル系モノマーとしては塩化ビニルなどが挙げられる。前記カルボン酸不飽和エステルモノマーとしては酢酸ビニルおよび酢酸イソプロぺニルなどが挙げられ、前記ビニルエーテルモノマーとしてはビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどが挙げられる。前記カチオン性ビニル系モノマーとしてはジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩、アリルイミン塩酸塩、アリルアミン塩酸塩などが挙げられ、前記アニオン性ビニル系モノマーとしてはスチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウムなどが挙げられる。
【0077】
また、本発明において、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位(I)の分子量は、カーボンナノ複合体の分散性及び流動性の向上の観点から、1つ当たり300以上である必要があり、好ましくは400以上であり、より好ましくは500以上であり、更に好ましくは600以上であり、特に好ましくは700以上であり、最も好ましくは800以上である。また、このような構造単位(I)の分子量の上限としては特に制限されないが、グラフト型ビニル系重合体の溶媒への溶解性が向上するという観点から、5000000以下であることが好ましく、より好ましくは1000000以下であり、更に好ましくは500000以下であり、特に好ましくは300000以下であり、最も好ましくは250000以下である。
【0078】
また、本発明における構造単位(I)の分子量は、以下のようにして測定される値を採用する。すなわち、先ず、前記グラフト型ビニル系重合体をマクロモノマーの重合により製造する場合(マクロモノマー法)あるいはビニル系重合体へのマクロモノマーの付加反応(重合体へのマクロモノマーのラジカル的付加等)で製造した場合には、用いたマクロモノマーの数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフにて測定し、その測定値を構造単位(I)の分子量として採用する。このようなゲルパーミエーションクロマトグラフとしては、用いたマクロモノマー2mgをクロロホルム2mlに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(Shodex GPC−101、ポンプ:DU−H7000、昭和電工(株)製、カラム:K−805L、昭和電工(株)製を直列に3本接続)を用いてマクロモノマーの数平均分子量を測定する方法を採用する。また、このようなゲルパーミエーションクロマトグラフによる測定においては、カラム温度は40℃とし、検出器は紫外線検出器(RI−71S、昭和電工(株)製)を用い、更に、数平均分子量は、マクロモノマー中の高分子鎖がポリエチレングリコールである場合は、標準試薬としてポリエチレングリコールスタンダードを用い、マクロモノマーの高分子鎖部分の高分子鎖がポリエチレングリコール以外の場合は標準試薬としてポリスチレンスタンダードを用いて換算して求める。なお、マクロモノマーがクロロホルムに溶解しない場合は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いて測定を行うものとする。また、グラフト型ビニル系重合体を重合体中のビニル系モノマー単位への高分子の付加反応(なお、上述のマクロモノマーを付加させる方法を除く)で製造した場合においては、用いた高分子の数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフにて測定した値と、前記ビニル系重合体を形成する際に用いたモノマーの種類により求められるビニル系モノマー単位の分子量とを足すことにより求められる値を構造単位(I)の分子量として採用する。更に、グラフト型ビニル系重合体を重合体中のビニル系モノマー単位からの高分子鎖成長により製造した場合には、グラフト型ビニル系重合体の数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフにて測定し、次いでH−NMR測定により、グラフト型ビニル系重合体中に形成されている構造単位(I)の比率を求め、これによりグラフト型ビニル系重合体中に含まれる構造単位(I)の個数を求め、下記計算式:
[Mn(I)]=[Mn(P)]×([R]/[N])
(式中、Mn(I)は、構造単位(I)の数平均分子量を示し、Mn(P)はグラフト型ビニル系重合体の数平均分子量を示し、Rは構造単位(I)の部分の比率を示し、Nは構造単位(I)の個数を示す。)
により構造単位(I)の数平均分子量を算出し、その算出された値を構造単位(I)の分子量として採用する。
【0079】
また、本発明にかかるグラフト型ビニル系重合体の組成は、重水素化クロロホルム中、30℃でH−NMR(400MHz)測定を行い、各単位のプロトンの積分値の比から決定することができる。例えば、前記グラフト型ビニル系重合体にジメチルシロキサン基が含まれる場合は、ジメチルシロキサン基のメチル基のプロトンは0ppm付近に観測され、−CH−Si−のメチレン基のプロトンは0.50〜0.80ppmの範囲に観測される。また、前記グラフト型ビニル系重合体にメタクリル酸メチル単位が含まれる場合は、メチルエステル基のメチル基のプロトンが3.5ppm付近に観測される。前記グラフト型ビニル系重合体にメタクリル酸1−ピレニルプロピル単位が含まれる場合、ピレン基のプロトンが7.55〜8.30ppmの範囲に観測される。前記グラフト型ビニル系重合体にスチレン単位が含まれる場合は、プロトンが化学シフト7.10〜7.45ppmの範囲に観測される。前記グラフト型ビニル系重合体にN−メチルマレイミド単位が含まれる場合はメチル基のプロトンが3.0ppm付近に観測される。前記グラフト型ビニル系重合体にN−フェニルマレイミド単位が含まれる場合はフェニル基のメタ位のプロトンが7.46〜7.50ppmの範囲に観測される。前記グラフト型ビニル系重合体にメタクリル酸メチル単位が含まれる場合はメチルエステルのメチル基のプロトンが約3.5ppmに観測される。前記グラフト型ビニル系重合体にメトキシポリエチレングリコールメタクリレート単位が含まれる場合は、ポリエチレングリコールのエチレンのプロトンが3.64〜3.67ppmの範囲に、末端メチル基のプロトンが3.8〜3.9ppmの範囲に、メタクリロキシ基のエステルに隣接するメチレンのプロトンが4.2〜4.4ppmの範囲に観測される。なお、グラフト型ビニル系重合体が重水素化クロロホルムに溶解しない場合は、重水素化溶媒として重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールを用いて測定を行って組成を決定するものとする。
【0080】
グラフト型ビニル系重合体の構造単位(I)の含有量の下限としては、特に制限はないが、0.01モル%以上であることが好ましく、分散性の向上の観点からより好ましくは0.05モル%以上であり、更に好ましくは0.1モル%以上であり、特に好ましくは0.5モル%以上であり、最も好ましくは1モル%以上である。構造単位(I)の含有量の上限は特に制限はなく100モル%でもよいが、グラフト型ビニル系重合体のカーボンナノ構造体への吸着性を増大させる観点から、99.9モル%以下であることが好ましく、より好ましくは99モル%以下であり、更に好ましくは90モル%以下であり、特に好ましくは80モル%以下であり、最も好ましくは70モル%以下である。
【0081】
また、前記グラフト型ビニル系重合体の数平均分子量は特に制限されないが、カーボンナノ構造体表面への吸着量の向上および立体反発によるカーボンナノ構造体の再凝集抑制による結合安定性向上の観点から、3000以上であることが好ましく、より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは7000以上であり、特に好ましくは10000以上であり、最も好ましくは20000以上である。また、このようなグラフト型ビニル系重合体の数平均分子量の上限は特に制限はないが、流動性の観点から、10000000以下であることが好ましく、より好ましくは5000000以下であり、更に好ましくは1000000以下であり、特に好ましく500000以下であり、最も好ましくは300000以下である。また、重量平均分子量/数平均分子量で求められるグラフト型ビニル系重合体の数平均分子量としては特に制限されないが、その下限は1に限りなく近い値であってもよい。
【0082】
また、このようなグラフト型ビニル系重合体の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、前述のようなマクロモノマーのビニル重合を利用する方法(マクロモノマー法)、ビニル系重合体の側鎖に高分子化合物を付加反応させてビニル系重合体の側鎖に高分子鎖を導入する方法、ビニル系重合体の側鎖に高分子鎖を成長させる方法、ラジカル開始剤等を用いてマクロモノマーをビニル系重合体にグラフト導入する方法等が挙げられる。また、このようなグラフト型ビニル系重合体の製造方法の中でも、分子量が明確な高分子鎖を簡便かつ確実に導入できることから、マクロモノマーのビニル重合により製造することが好ましい。なお、前記マクロモノマーを含むモノマー成分をビニル重合することによって前記グラフト型ビニル系重合体を製造する場合に用いることができる反応連鎖の伝達体としては特に制限はなく、ラジカルやイオンが挙げられる。前記マクロモノマーを含むモノマー成分をビニル重合する方法を採用する場合において、利用することが可能な重合反応は特に制限されず、公知の重合反応を適宜採用することができるが、狭分子量分布達成の観点からはリビング重合を採用することが好ましい。また、各種重合反応の中でもラジカル重合、リビングラジカル重合を利用することが好ましく、工業性の観点からは、ラジカル重合を利用することが特に好ましい。また、重合方法についても特に制限はなく、例えばラジカル重合による公知の重合法を用いることができ、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、分散重合およびこれら重合法の組み合わせを好適に採用することができ、回分式、連続式の何れも好適に採用することができる。また、従来公知の重合開始剤、連鎖移動剤、触媒、分散安定剤および溶媒等を好適に用いることができる。また、前記グラフト型ビニル系重合体のシーケンスは特に制限はなく、例えば、ランダム、ブロック、交互、グラフト、ハイパーブランチ等のデンドリティックおよびスターポリマー等の分岐状のうち少なくとも1種を挙げることができ、中でも分散性の観点から、ランダム、ブロック、交互、グラフトのうち少なくとも1種が好ましく、より好ましくはランダムである。
【0083】
(カーボンナノ複合体)
本発明のカーボンナノ複合体は、前記カーボンナノ構造体と、前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体とを備えるものである。ここにいう「吸着」は、非共有結合によるものであっても、共有結合によるものであっても、これらの組み合わせであってもよい。また、このようなカーボンナノ複合体としては、前記カーボンナノ構造体の表面構造に非破壊的であり(欠陥を形成せず)、且つ、前記カーボンナノ構造体の本来有する熱伝導性、電気伝導性及び機械的特性等における優れた特性を効果的に発現する傾向にあるという観点から、少なくとも前記グラフト型ビニル系重合体が前記カーボンナノ構造体に非共有結合により吸着したものを含むことが好ましい。
【0084】
また、本発明において「非共有結合による吸着」とは、前記グラフト型ビニル系重合体と前記カーボンナノ構造体との間に生じる共有結合以外の相互作用による吸着を意味する。また、グラフト型ビニル系重合体のカーボンナノ構造体への非共有結合による吸着は、例えば、アントラセニル基、ピレニル基等の多環芳香族含有単位やイミド基含有構成単位等をグラフト型ビニル系重合体中に導入することによる、カーボンナノ構造体のグラフェン構造とのπ−π相互作用および/またはファンデルワールス力や、水中では、グラフト型ビニル系重合体の疎水性を有する部分とカーボンナノ構造体との親和性を利用するもの等が挙げられる。
【0085】
一方、前述の「共有結合による吸着」としては特に制限はないが、例えば、カーボンナノ構造体に酸処理等によりカルボキシル基等を導入し、これを反応起点としてグラフト型ビニル系重合体を反応せしめて導入する方法、前記反応起点からビニル基やリビングラジカル開始剤の起点となるハロゲン化物に誘導して、ラジカル重合またはリビングラジカル重合等により重合せしめてグラフト型ビニル系重合体をカーボンナノ構造体にグラフト導入する方法を挙げることができるほか、重合中あるいは溶液加工時、溶融加工時のラジカル的付加により直接グラフト型ビニル系重合体を導入することもできる。
【0086】
また、本発明のカーボンナノ複合体は、ビニル系重合体の良溶媒での分散・洗浄濾過の分散洗浄操作を複数回繰り返しても吸着状態が残存していることが好ましい。
【0087】
さらに、本発明のカーボンナノ複合体においては、前記カーボンナノ構造体に対する前記グラフト型ビニル系重合体の吸着量は特に制限はされないが、その下限が、前記カーボンナノ構造体100質量%に対して、分散性および耐熱性の観点から0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは1.0質量%以上であり、特に好ましくは2.0質量%以上であり、最も好ましくは3.0質量%以上である。一方、前記吸着量の上限も特に制限されないが、前記カーボンナノ構造体100質量%に対して、500質量%以下であることが好ましく、より好ましくは200質量%以下であり、樹脂に添加して用いる際の流動性(成形加工性)の観点、及び、熱伝導性が求められる用途の場合は熱伝導性を高める観点から、前記カーボンナノ構造体100質量%に対して、100質量%以下であることが更に好ましく、特に好ましくは95質量%以下であり、最も好ましくは90質量%以下である。
【0088】
前記カーボンナノ構造体に対する前記グラフト型ビニル系重合体の吸着量の測定方法としては、以下の方法を採用する。すなわち、先ず、カーボンナノ複合体中の前記カーボンナノ構造体及び前記グラフト型ビニル系重合体をそれぞれ取り出し、これを真空乾燥して残留溶媒などの揮発分を除去した後、それぞれについて熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から500℃まで加熱して熱重量分析(TGA)を実施し、前記カーボンナノ構造体及び前記グラフト型ビニル系重合体の熱分解開始温度および熱分解終了温度を測定する。なお、通常、質量減少が開始した時点の温度を熱分解開始温度とし、質量減少が終了した時点の温度を熱分解終了温度とするが、500℃の時点で質量減少が終了していない場合には質量減少が終了するまでさらに昇温して熱分解終了温度を測定する。次に、カーボンナノ複合体について、熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から500℃まで(カーボンナノ複合体に含まれる前記グラフト型ビニル系重合体の熱分解終了温度が500℃以上の場合には熱分解終了温度まで)加熱して熱重量分析を実施する。そして、カーボンナノ複合体の質量減少のうちの前記グラフト型ビニル系重合体に由来するものをカーボンナノ複合体への前記グラフト型ビニル系重合体の吸着量として測定した後、この測定値に基づいてカーボンナノ構造体100質量部に対する量(質量部)を算出し、得られた値を吸着量とする。
【0089】
また、本発明のカーボンナノ複合体をクロロホルムに分散させた際の分散液の吸光度の下限としては特に制限されないが、波長650nmにおける吸光度の値が0.3以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは0.9以上であり、最も好ましくは1.0以上である。また、本発明のカーボンナノ複合体の再分散後の吸光度についても特に制限はないが、波長650nmにおける吸光度の値が0.3以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、更に好ましくは0.7以上であり、特に好ましくは0.8以上であり、最も好ましくは0.9以上である。
【0090】
前記分散液の吸光度の測定方法としては、以下の方法を採用する。すなわち、先ず、前記グラフト型ビニル系重合体2mgと、カーボンナノ構造体2mgとを、それぞれ計量し、クロロホルム20mlに投入し、1時間超音波処理(BRANSON社製 卓上型超音波洗浄機BRANSONIC B−220、発振周波数45kHz)を行って製造した直後のカーボンナノ複合体のクロロホルム分散液に対して、遠心分離(相対遠心加速度1000Gで1時間)を行う。次に、このようにして得られる上澄み液について、UV−可視光スペクトルを測定する。そして、測定された650nmにおける吸光度の値を上記吸光度とする。また、前記再分散後の吸光度の測定方法としては、以下の方法を採用する。すなわち、先ず、前記カーボンナノ複合体を2mg計量し、クロロホルム20mlに投入した後、15分間超音波処理(BRANSON社製 卓上型超音波洗浄機BRANSONIC B−220、発振周波数45kHz)を行う。次いで、このようにして得られたカーボンナノ複合体のクロロホルム分散液に対して、遠心分離(相対遠心加速度1000Gで1時間)を行う。次に、得られた上澄み液について、UV−可視光スペクトルを測定する。そして、測定された650nmにおける吸光度の値を上記再分散後の吸光度とする。
【0091】
また、本発明において、カーボンナノ複合体とポリフェニレンスルフィド樹脂とからなる樹脂組成物の流動性(トルク比)は特に制限されないが、1〜1.16の範囲にあることが好ましく、1〜1.10の範囲にあることがより好ましい。このような流動性の測定方法としては、以下の方法を採用する。すなわち、先ず、カーボンナノ複合体とポリフェニレンスルフィド樹脂(アルドリッチ社製、ポリフェニレンスルフィド、溶融粘度275poise(310℃))とを合わせて100容量%となる混合物を7cc作製する。ここで、カーボンナノ複合体の配合量は、カーボンナノ構造体における前記グラフト型ビニル系重合体の吸着量を考慮に入れた上で、混合物100容量%中に含まれるカーボンナノ構造体の容量が1容量%となるように計量して決定し、カーボンナノ複合体を除く残りをポリフェニレンスルフィド樹脂とする。次に、前記混合物を、精密同方向二軸混練機(マイクロレオロジーコンパウンダー HAAKE−MiniLab、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)に投入し、窒素雰囲気下、温度290℃、スクリュー回転数300rpmにて、混練機内で溶融樹脂を循環させながら溶融混練を10分間行った後のトルク値(N・m)を測定する。そして、そのトルク値の値を、ポリフェニレンスルフィド樹脂100容量%を前記条件で評価した際のトルク値で除する。このようにして求められるポリフェニレンスルフィド樹脂単独系に対するトルク比をカーボンナノ複合体の流動性の値とする。なお、トルク比が1に近いほど、カーボンナノ構造体含有による溶融粘度増加量が小さく、流動性に優れる。
【0092】
また、本発明のカーボンナノ複合体においては、前記グラフト型ビニル系重合体中の構造単位(I)の種類を変えることで、簡便に電気特性付与、摩擦特性付与、反応性付与といった機能性付与ができる。例えば、ポリシロキサンマクロモノマーを含む場合、電気抵抗(表面抵抗率)を向上させることができる。また、本発明においては、前記グラフト型ビニル系重合体がカーボンナノ構造体に吸着しているため、前記グラフト型ビニル系重合体の高分子鎖(高分子グラフト部分)によって、カーボンナノ複合体の溶媒や樹脂への親和性が向上するとともに、高分子鎖の存在によりカーボンナノ構造体間の立体反発が大きくなり分散性と流動性が向上する。
【0093】
このような本発明のカーボンナノ複合体は、カーボンナノ構造体の有する本来の特性を生かせる多種多様な用途に展開可能であり、例えば、樹脂、セラミックス、金属等に添加した場合は、機械特性が求められる用途、電磁波遮蔽が求められる用途、耐熱性が求められる用途、寸法性が求められる用途(熱線膨張係数の低下)、熱伝導性が求められる用途、電気伝導性が求められる用途等の広範な用途に展開可能であり、特に、分散性向上による熱伝導率の向上が要求される樹脂成形体、樹脂シート、樹脂フィルム等の用途に好適に用いることができる。
【0094】
[カーボンナノ複合体の製造方法]
本発明のカーボンナノ複合体を製造するための方法としては、前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を吸着させることが可能な方法であればよく特に制限されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(i)前記カーボンナノ構造体と前記グラフト型ビニル系重合体とを溶媒中で混合する方法。
(ii)前記カーボンナノ構造体と前記グラフト型ビニル系重合体とを溶媒を使用せずに混合する方法。
(iii)前記カーボンナノ構造体と溶融させた前記グラフト型ビニル系重合体とを混合する方法。
(iv)前記カーボンナノ構造体と前記グラフト型ビニル系重合体とを溶媒を使用せずに混合した後、前記グラフト型ビニル系重合体を溶融させる方法。
(v)前記カーボンナノ構造体と前記シリル基含有重合体または前記親水性基含有重合体とを、必要に応じて溶媒中で、混合して前記カーボンナノ構造体に前記重合体を吸着させた後、これにアルコキシシランを添加して前記カーボンナノ構造体上の前記重合体と前記アルコキシシランとを脱水重縮合せしめ、前記カーボンナノ構造体上にグラフト型ビニル系重合体を形成させる方法。
【0095】
このような前記カーボンナノ複合体を製造するための方法は単独で実施しても2つ以上を組み合わせて実施してもよい。また、このような製造方法においては、前記混合の際または前記重合後に、超音波処理、振動、攪拌、外場の印加(例えば、磁場印加、電場印加など)、溶融混錬などの処理を少なくとも1つ施すことが好ましく、中でも超音波処理を施すことがより好ましい。前記超音波処理としては特に制限はないが、例えば、超音波洗浄機を用いる方法や、超音波ホモジナイザーを用いる方法が挙げられる。なお、溶融混練処理を行う場合には、前記カーボンナノ構造体、前記グラフト型ビニル系重合体、必要に応じて樹脂および/または添加剤をそれぞれペレット状、粉末状または細片状にしたものを、攪拌機、ドライブレンダーまたは手混合などにより均一に混合した後、一軸または多軸のベントを有する押出機、ゴムロール機、またはバンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することができる。
【0096】
また、このようなカーボンナノ複合体を製造するための方法のうち、カーボンナノ構造体へのグラフト型ビニル系重合体の吸着量を向上させる観点から、前記(i)の製造方法、すなわち、前記カーボンナノ構造体と、前記グラフト型ビニル系重合体とを溶媒中で混合して前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を吸着せしめてカーボンナノ複合体を得る本発明のカーボンナノ複合体の製造方法を採用することが特に好ましく、かかる製造方法を利用して混合の際に超音波処理を施すことが最も好ましい。
【0097】
また、このようなカーボンナノ構造体を製造するための方法において、前記カーボンナノ構造体と、前記グラフト型ビニル系重合体とを混合する方法については特に制限はなく、一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序についても特に制限はなく、前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を添加してもよいし、前記グラフト型ビニル系重合体に前記カーボンナノ構造体を添加してもよいし、前記カーボンナノ構造体と本発明にかかる重合体とを同時に添加してもよいし、交互に添加してもよい。また、本発明のカーボンナノ複合体の製造方法においては、前記カーボンナノ構造体と前記グラフト型ビニル系重合体とを混合する際に他の樹脂や添加剤を添加してもよい。この樹脂や添加剤も一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序についても特に制限はない。
【0098】
また、前記混合を行う際における前記カーボンナノ構造体と前記グラフト型ビニル系重合体との混合比率は特に制限されないが、前記グラフト型ビニル系重合体の添加量がカーボンナノ構造体100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることがさらに好ましく、2.0質量部以上であることが特に好ましく、3.0質量部以上であることが最も好ましい。前記グラフト型ビニル系重合体の添加量が前記下限未満になると、カーボンナノ複合体の分散性および耐熱性が低下しやすい傾向にある。また、前記グラフト型ビニル系重合体の添加量の上限は、カーボンナノ構造体100質量部に対して100000質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、カーボンナノ複合体を含む樹脂組成物の流動性(成形加工性)や、熱伝導性が求められる用途における熱伝導性の向上の観点から、100質量部以下がさらに好ましく、95質量部以下が特に好ましく、90質量部以下が最も好ましい。
【0099】
また、前記(i)または(v)に記載の製造方法において用いられる溶媒としては特に制限はないが、有機溶媒および水が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。前記有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフェノール、ジクロロベンゼン、フェノール、テトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、N−ジメチルピロリドン、ペンタン、ヘキサン、ネオペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ジエチルエーテルなどが挙げられる。これらの有機溶媒も1種単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。また、本発明においては、エポキシ樹脂などの硬化樹脂の主剤や架橋剤などの原料を溶媒として用いることもできる。また、本発明にかかるグラフト型ビニル系重合体がシロキサン構造を含む高分子鎖を有する場合には、このような溶媒のうちシクロヘキサンやヘキサン等の無極性溶媒を用いることで、前記グラフト型ビニル系重合体が効率よく溶解する傾向にあり、これにより本発明のカーボンナノ複合体が良好に分散する傾向にある。
【0100】
また、溶媒中でカーボンナノ複合体を製造する前記(i)または(v)の製造方法においては、カーボンナノ構造体の添加量の下限は特に制限されないが、溶媒100質量部に対して0.0001質量部が好ましく、0.001質量部がより好ましく、0.005質量部がさらに好ましく、0.1質量部が特に好ましい。また、カーボンナノ構造体の添加量の上限は特に制限されないが、溶媒100質量部に対して1質量部が好ましく、0.1質量部がより好ましく、0.09質量部がさらに好ましく、0.08質量部が特に好ましい。カーボンナノ構造体の添加量が前記下限未満になるとカーボンナノ複合体の生産性が低下する傾向にある。他方、前記上限を超えるとカーボンナノ構造体の分散性が低下して凝集が起こりやすく、前記グラフト型ビニル系重合体の吸着量が減少しやすく、吸着安定性が低下しやすい傾向にある。なお、前記好適な上限を超えた場合でも、例えば分散液中の凝集や沈殿がない部分(例えば、上澄み液など)を回収することなどによって良質な分散液を得ることができる。
【0101】
また、前記(i)または(v)の製造方法により前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を吸着させた後、濾過、遠心分離と濾過との組み合わせ、再沈殿、溶媒の除去(乾燥など)、溶媒を含んだままの溶融混練、カーボンナノ複合体のサンプリングなどによりカーボンナノ複合体を得ることができる。
【0102】
さらに、前記(i)または(v)の製造方法により前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を吸着させた場合には、必要に応じて、混合後の分散液を濾過して溶媒および溶媒に溶解した未吸着の重合体を除去し、カーボンナノ複合体を回収することができる。除去した未吸着の重合体は回収して再利用することもできる。また、本発明にかかる重合体に対する貧溶媒で再沈殿させることにより、カーボンナノ複合体を回収することもできる。
【0103】
[カーボンナノ複合体を含む分散液および樹脂組成物]
本発明の分散液は、上記本発明のカーボンナノ複合体及び溶媒を含むものである。前記溶媒としては前記混合方法において例示したものが挙げられる。本発明においては、カーボンナノ複合体を溶媒中で調製してそのまま分散液として使用することもできるが、本発明のカーボンナノ複合体が再分散性に優れているため、カーボンナノ複合体を溶媒に添加して超音波処理などを施すことにより分散液を製造することもできる。
【0104】
また、本発明の樹脂組成物は、上記本発明のカーボンナノ複合体及び樹脂を含むものである。このようなカーボンナノ複合体の含有率は特に制限されないが、樹脂組成物100質量%に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、0.2質量%以上が特に好ましく、また、90質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。カーボンナノ複合体の含有率が前記下限未満になると本発明の樹脂組成物を成形加工して得られる樹脂複合材の熱伝導性および機械強度が低下しやすい傾向にあり、他方、前記上限を超えると樹脂組成物の流動性が低下しやすい傾向にある。また、本発明の樹脂組成物の溶融粘度は特に制限されないが、成形温度におけるMFRで0.1〜200g/(10分、荷重2.16kg)であることが好ましい。
【0105】
なお、得られる樹脂組成物の特性とカーボンナノ複合体の含有率との関係は、カーボンナノ複合体の種類によっても異なるものであり、一概には言えないが、例えば、上記本発明のカーボンナノ複合体を樹脂100重量部に対して0.1〜5重量%(好ましくは0.1〜3重量%)添加した場合に、得られる樹脂組成物(樹脂マトリックス)の熱伝導率が好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上、特に好ましくは1.4倍以上、最も好ましくは1.5倍以上に向上する傾向にある。すなわち、上記本発明のカーボンナノ複合体を適量含有させることで、本発明の樹脂組成物(樹脂マトリックス)自体の熱伝導率を効率よく向上させることができる傾向にある。そして、前記カーボンナノ複合体の添加により樹脂組成物自体の熱伝導率が1.5倍に向上した場合においては、その樹脂組成物に更にアルミナ、窒化ホウ素等の熱伝導性フィラーを添加した場合に、熱伝導率の値がカーボンナノ複合体を添加していない樹脂に前記熱伝導性フィラーを添加した場合の熱伝導率と比較して約1.5倍となるため、大きな熱伝導率アップ効果を発現させることが可能となる。
【0106】
前記樹脂としては特に制限はないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性イミド樹脂、熱硬化性ポリアミドイミド、熱硬化性シリコーン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、およびウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン樹脂、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体といった芳香族ビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、これらの共重合体、およびアクリルゴムといったアクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−アクリル酸メチル樹脂、およびアクリロニトリル−ブタジエン樹脂といったシアン化ビニル系樹脂、イミド基含有ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリネオプレン、ポリイソプレン、ポリブテン、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体といったポリオレフィン系樹脂、酸または酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン樹脂、酸または酸無水物変性アクリル系エラストマー、エポキシ変性アクリルエラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンおよびポリフッ化ビニルに代表されるフッ素系樹脂、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルアミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、前記樹脂の中では、熱伝導率と絶縁性との両立を目的とした場合に、熱伝導率と絶縁性とをより向上させるという観点からは、ポリオレフィン系樹脂および/またはエポキシ変性ポリオレフィン樹脂とポリフェニレンスルフィド等のその他の樹脂の1種以上を併用すること、または、ポリアミド樹脂とその他の樹脂の1種以上を併用することが特に好ましい。
【0107】
さらに、本発明の樹脂組成物においては、発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては特に制限はないが、例えば、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、粘度調整剤、着色剤、シランカップリング剤などの表面処理剤、タルク、モンモリロナイトなどの粘土鉱物、雲母鉱物およびカオリン鉱物に代表される層状ケイ酸塩、ガラス繊維、炭素繊維、シリカや熱伝導性フィラーなどの充填剤、エラストマー類などが挙げられる。
【0108】
前記熱伝導性フィラーとしては特に制限はないが、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよび軟磁性フェライトなどが挙げられる。これらの熱伝導性フィラーは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。この熱伝導性フィラーの熱伝導率は特に制限されないが、0.5W/mK以上が好ましく、1.0W/mK以上がより好ましく、10W/mK以上が更に好ましく、20W/mK以上が特に好ましい。本発明の樹脂組成物における熱伝導性フィラーの含有率は特に制限されないが、樹脂組成物100質量%に対して0.1〜90質量%が好ましく、0.1〜80質量%がより好ましく、0.1〜70質量%がさらに好ましく、0.1〜50質量%が特に好ましい。熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満になると得られる樹脂複合材の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、前記上限を超えると樹脂組成物の流動性が低下しやすい傾向にある。
【0109】
また、本発明の樹脂組成物の製造方法としては特に制限はなく、樹脂中にフィラーを分散させる際に採用される従来公知の混合方法が挙げられる。例えば、溶媒中で樹脂と本発明のカーボンナノ複合体と必要に応じて各種添加剤とを混合する方法、一軸または多軸のベントを有する押出機、ゴムロール機、またはバンバリーミキサーなどを用いて樹脂と本発明のカーボンナノ複合体と必要に応じて各種添加剤とを溶融混練する方法などが挙げられる。また、樹脂として低粘度の熱硬化性樹脂を用いる場合には自公転ミキサーを用いて複合化処理を施すことにより混合することも可能である。
【0110】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂中でカーボンナノ構造体にグラフト型ビニル系重合体を吸着せしめて製造することもできる。さらに、樹脂、本発明のカーボンナノ複合体および各種添加剤を混合する方法については特に制限はなく、一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序についても特に制限はなく、特定の成分を予備混合した後、残りの成分を混合してもよい。
【0111】
本発明の樹脂組成物の調製の際に用いるカーボンナノ複合体は、乾燥処理が施されていてもよいし、溶媒(有機溶媒および/または水)を含んでいてもよい。乾燥処理の温度については特に制限はないが、乾燥時の凝集を防ぐ観点から凍結乾燥させることが好ましい。また、カーボンナノ複合体が凝集している場合には、そのまま用いても、樹脂中で速やかに分散するが、粉砕や凍結粉砕を施して予め解砕することが好ましい。
【0112】
また、本発明においては、カーボンナノ複合体の分散性を向上させるために、樹脂の少なくとも一部および/または各種添加剤を予めカーボンナノ複合体と予備混合させることが好ましい。予備混合の方法としては、例えば、溶媒中で混合させる方法、溶融させた樹脂とカーボンナノ複合体とを混合させる方法、攪拌機、ドライブレンダーまたは手混合などにより混合する方法、カーボンナノ複合体の製造時に樹脂の少なくとも一部および/または各種添加剤を混合する方法などが挙げられる。中でも、溶媒中で混合させる方法が好ましく、その方法としては、本発明のカーボンナノ複合体を含む分散液に樹脂の少なくとも一部および/または各種添加剤を添加して混合する方法や、樹脂の少なくとも一部および/または各種添加剤を溶媒に溶解および/または分散(溶解を伴わないもの)させ、これに本発明のカーボンナノ複合体を添加して混合させる方法がより好ましい。なお、予備混合する際の樹脂の形状は特に制限されず、例えば、粉状、ペレット状、粒状、タブレット状、繊維状などが挙げられる。
【0113】
本発明の樹脂組成物に、射出成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、ガスアシスト成形、インサート成形、2色成形、外場を利用した成形(例えば、磁場を利用した成形、電場を利用した成形)などの従来公知の成形加工を施すことにより樹脂複合材を得ることができる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。先ず、グラフト型ビニル系重合体およびカーボンナノ複合体の各種物性の測定方法について説明する。
【0115】
[特性値等の測定方法]
(1)グラフト型ビニル系重合体中の構造単位(I)の分子量の測定方法
各調製例で得られたグラフト型ビニル系重合体中の構造単位(I)の分子量は、それぞれ以下に示す測定方法を採用して測定した。なお、各調製例においては、マクロモノマーを用いてグラフト型ビニル系重合体を製造した。
【0116】
先ず、各調製例に使用したマクロモノマー2mgをクロロホルム2mlに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(Shodex GPC−101、ポンプ:DU−H7000、昭和電工(株)製、カラム:K−805L、昭和電工(株)製を直列に3本接続)を用いてマクロモノマーの数平均分子量を測定した。なお、かかる測定の際のカラム温度は40℃とし、検出器は紫外線検出器(RI−71S、昭和電工(株)製)を用いた。また、数平均分子量は、マクロモノマーの高分子鎖部分の高分子鎖がポリエチレングリコールである場合は、標準試薬としてポリエチレングリコールスタンダードを用い、マクロモノマーの高分子鎖部分の高分子鎖がポリエチレングリコール以外の場合は標準試薬としてポリスチレンスタンダードを用いて換算して求めた。そして、このようにして測定された各マクロモノマーの数平均分子量を、そのまま構造単位(I)の分子量とした。
【0117】
(2)グラフト型ビニル系重合体の数平均分子量の測定方法
各調製例で得られたグラフト型ビニル系重合体の分子量を以下のようにして測定した。すなわち、先ず、グラフト型ビニル系重合体2mgをクロロホルム2mlに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(Shodex GPC−101、ポンプ:DU−H7000、昭和電工(株)製、カラム:K−805L、昭和電工(株)製を直列に3本接続)を用いてグラフト型ビニル系重合体の数平均分子量を測定し、その測定値をグラフト型ビニル系重合体の分子量とした。なお、カラム温度は40℃とし、検出器は紫外線検出器(RI−71S、昭和電工(株)製)を用いた。また、このような数平均分子量は、標準試薬としてポリスチレンスタンダードを用いて換算して求めた。
【0118】
(3)グラフト型ビニル系重合体の組成分析方法
グラフト型ビニル系重合体の組成は、以下のようにして測定した。すなわち、先ず、各調製例で得られたグラフト型ビニル系重合体をそれぞれ重水素化クロロホルムに溶解し、30℃、400MHzの条件でH−NMR測定を実施した。そして、測定結果から、下記表1に示した化学シフトに従って各構成単位のプロトンの積分値を求め、これらの比から各グラフト型ビニル系重合体における各構成単位のモル比を決定し、これにより質量比に換算した。
【0119】
【表1】

【0120】
(4)グラフト型ビニル系重合体の吸着量の測定方法
先ず、カーボンナノ構造体およびグラフト型ビニル系重合体をそれぞれ真空乾燥して残留溶媒などの揮発分を除去した後、それぞれについて熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から500℃まで加熱して熱重量分析(TGA)を実施し、カーボンナノ構造体およびグラフト型ビニル系重合体の熱分解開始温度および熱分解終了温度を測定した。なお、通常、質量減少が開始した時点の温度を熱分解開始温度とし、質量減少が終了した時点の温度を熱分解終了温度としたが、500℃の時点で質量減少が終了していない場合には質量減少が終了するまでさらに昇温して熱分解終了温度を測定した。
【0121】
次に、各実施例で得られたカーボンナノ複合体それぞれについて、熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から500℃まで(カーボンナノ複合体に含まれるグラフト型ビニル系重合体の熱分解終了温度が500℃以上の場合には熱分解終了温度まで)加熱して熱重量分析を実施した。カーボンナノ複合体の質量減少のうちのグラフト型ビニル系重合体に由来するものをカーボンナノ複合体へのグラフト型ビニル系重合体の吸着量とし、カーボンナノ構造体100質量部に対する量[質量部]で表した。
【0122】
(5)分散性
各実施例で得られたカーボンナノ複合体の分散性は以下のようにして評価した。すなわち、各実施例で用いたグラフト型ビニル系重合体及びカーボンナノ構造体(a−1)をそれぞれ用いて、前述の分散液の吸光度の測定方法と同様の方法を採用してUV−可視光スペクトルを測定し、650nmの吸光度から分散性を評価した。なお、吸光度の値が大きいほど、遠心分離後も溶媒中で分散しているカーボンナノ構造体が多いことを示し、分散性に優れたものであることが分かる。
【0123】
(6)再分散性
各実施例で得られたカーボンナノ複合体の再分散性は以下のようにして評価した。すなわち、実施例6〜10で得られたカーボンナノ複合体(e−1)〜(e−5)及び比較例5〜7で得られたカーボンナノ複合体(f−1)〜(f−3)をそれぞれ用い、前述の再分散後の吸光度の測定方法を採用してUV−可視光スペクトルを測定し、650nmの吸光度から分散性を評価した。なお、吸光度の値が大きいほど、遠心分離後も溶媒中で分散しているカーボンナノ構造体が多いことを示し、分散性に優れたものであることが分かる。
【0124】
(7)流動性
各実施例で得られたカーボンナノ複合体の流動性は以下のようにして評価した。すなわち、先ず、実施例7〜12で得られたカーボンナノ複合体(e−1)〜(e−6)、比較例5〜7で得られたカーボンナノ複合体(f−1)〜(f−3)およびカーボンナノ構造体(a−1)のうち1種と、ポリフェニレンスルフィド樹脂(アルドリッチ社製、ポリフェニレンスルフィド、溶融粘度275poise(310℃))とを合わせて100容量%となる混合物7ccをそれぞれ作製した。ここで、カーボンナノ複合体の配合量は、カーボンナノ構造体へのグラフト型ビニル系重合体の吸着量を考慮に入れた上で、混合物100容量%中に含まれるカーボンナノ構造体の容量が1容量%となるように計量して決定し、カーボンナノ複合体を除く残りをポリフェニレンスルフィド樹脂とした。次に、得られた各混合物を、精密同方向二軸混練機(マイクロレオロジーコンパウンダー HAAKE−MiniLab、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)にそれぞれ投入し、窒素雰囲気下、温度290℃、スクリュー回転数300rpmにて、混練機内で溶融樹脂を循環させながら溶融混練を10分間行った後のトルク値(N・m)を測定した。そして、得られたトルク値の値を、ポリフェニレンスルフィド樹脂100容量%を前記条件で評価した際のトルク値で除して、ポリフェニレンスルフィド樹脂単独系に対するトルク比を求めた(トルク比が1に近いほど、カーボンナノ構造体含有による溶融粘度増加量が小さく、流動性に優れたものといえる)。
【0125】
(8)熱伝導率
各実施例で得られたカーボンナノ複合体の熱伝導率は以下のようにして評価した。すなわち、先ず、前述の流動性を評価する際に使用した方法と同様の方法を採用して混合物をそれぞれ製造し、更に、各混合物を前述の流動性を評価する際に採用した条件と同様の条件で、それぞれ10分間溶融混練した。このようにして得られたガット状のサンプルをそれぞれ130℃で6時間真空乾燥した後、成形温度300℃でプレス成形を行い、厚み2mmの成形品をそれぞれ得た。そして、各成形品から25mm×25mm×2mmの試料をそれぞれ切り出し、各実施例で得られたカーボンナノ複合体の熱伝導率の測定を行った。なお、このような熱伝導率の測定にはアルバック理工社製定常法熱伝導率測定装置GH−1を用い、測定温度は40℃(上下の温度差24℃)とした。また、このような測定に際しては厚さ方向の熱伝導率を測定した。
【0126】
[調製例及び実施例で用いた材料について]
後述する調製例及び実施例で用いたカーボンナノ構造体、ビニル系モノマー、重合体(d−3)及び化合物(d−4)としては、以下に記載のものを使用した。なお、以下に示すモノマーの数平均分子量は前述の(1)に記載の方法で測定して得られた値を示す。また、カーボンナノ構造体のG/D値は、レーザーラマン分光システム〔日本分光(株)製「NRS−3300」〕を用い、励起レーザー波長532nmにおいて測定を行い、約1585cm−1付近に観察されるGバンドと約1350cm−1付近に観察されるDバンドのラマンスペクトルのピーク強度から求めた。
カーボンナノ構造体(a−1):
多層カーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジーズ社製、MWNT−7)、直径分布40〜90nm、アスペクト比100以上、G/D値:8.0、真比重:2.1
カーボンナノ構造体(a−2):
多層カーボンナノチューブ(CNT社製、Ctube100)、直径分布10〜40nm、アスペクト比100以上、G/D値:0.9、真比重:2.1
マクロモノマー(b−1):
α−ブチル−ω−(3−メタクリロキシプロピル)ポリジメチルシロキサン(チッソ社製、サイラプレーンFM−0711、数平均分子量1000)
マクロモノマー(b−2):
東亜合成社製 AS−6(ラジカル重合性基がメタクリロキシ基で、高分子鎖部分の高分子鎖がポリスチレンであるもの、数平均分子量6000)
マクロモノマー(b−3):
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業社製 NKエステルM230G(ラジカル重合性基がメタクリロキシ基で、高分子鎖部分の高分子鎖がポリエチレングリコールであるもの、数平均分子量1100)
マクロモノマー(b−4):
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(Aldrich社製、数平均分子量500)
マクロモノマー(b−5):
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(Aldrich社製、数平均分子量300)
重合体(d−3):
ポリ(3−デシルチオフェン)(アルドリッチ社製、数平均分子量30000)
化合物(d−4):
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)
【0127】
(調製例1)
メタクリル酸1−ピレニルブチルの調製:
1−ピレンブタノール5.0gおよびトリエチルアミン3.68gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、0℃で塩化メタクリロイル1.90gを滴下した後、室温で1時間撹拌した。析出物を酢酸エチルで洗浄しながら濾過し、濾液と洗浄液とを混合してこれを硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をカラムクロマトグラフ(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、真空乾燥してメタクリル酸1−ピレニルブチルを得た。
【0128】
(調製例2)
グラフト型ビニル系重合体(c−1)の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−1)45モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%およびメタクリル酸メチル30モル%からなる混合物100重量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.0重量部とを無水トルエン250重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液に5倍当量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去してグラフト型ビニル系重合体(c−1)を得た。
【0129】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−1)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−1)はマクロモノマー(b−1)に由来する構造単位(マクロモノマー(b−1)単位:構造単位(I)に相当)を50モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を24モル%、及び、メタクリル酸メチル単位を26モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記グラフト型ビニル系重合体(c−1)は下記式(6):
【0130】
【化6】

【0131】
(式中、mは括弧内の単位の繰り返し数を示す。)
で表されるもの(a:b:c=24:50:26[モル%])であることが分かった。また、グラフト型ビニル系重合体(c−1)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は26400であり、分子量分布は1.94であった。なお、このようにして得られた重合体(c−1)は構造体中に極めて低極性なポリシロキサン側鎖を含むため、クロロホルムやテトラヒドロフランのほか、アルカン、シクロアルカンにも溶解した。
【0132】
(調製例3)
グラフト型ビニル系重合体(c−2)の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−1)10モル%、N−フェニルマレイミド70モル%およびメタクリル酸メチル20モル%からなる混合物100重量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部とを無水トルエン500重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液をクロロホルムで希釈した後、過剰量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去しグラフト型ビニル系重合体(c−2)を得た。
【0133】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−2)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−2)はマクロモノマー(b−1)単位(構造単位(I)に相当)を8モル%、N−フェニルマレイミド単位を73モル%、及び、メタクリル酸メチル単位を19モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記グラフト型ビニル系重合体(c−2)は下記式(7):
【0134】
【化7】

【0135】
(式中、mは括弧内の単位の繰り返し数を示す。)
で表されるもの(d:b:c=73:8:19[モル%])であることが分かった。また、グラフト型ビニル系重合体(c−2)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は11100であり、分子量分布は3.30であった。
【0136】
(調製例4)
グラフト型ビニル系重合体(c−3)の調製:
攪拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−2)2モル%、N−フェニルマレイミド80モル%およびメタクリル酸メチル18モル%からなる混合物100重量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部とを無水トルエン500重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液に5倍当量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、グラフト型ビニル系重合体(c−3)を得た。
【0137】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−3)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−3)はマクロモノマー(b−2)単位(構造単位(I)に相当)を2モル%、N−フェニルマレイミド単位を83モル%、及び、メタクリル酸メチル単位を15モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記グラフト型ビニル系重合体(c−3)は下記式(8):
【0138】
【化8】

【0139】
(式中、mは括弧内の単位の繰り返し数を示す。)
で表されるもの(d:b:c=83:2:15[モル%])であることが分かった。また、グラフト型ビニル系重合体(c−3)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は30000であり、分子量分布は5.01であった。
【0140】
(調製例5)
グラフト型ビニル系重合体(c−4)の調製:
攪拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−3)40モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%およびメタクリル酸メチル35モル%からなる混合物100重量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.0重量部とを無水トルエン250重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液を5倍当量のヘキサンに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、グラフト型ビニル系重合体(c−4)を得た。
【0141】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−4)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−4)は、マクロモノマー(b−4)単位(構造単位(I)に相当)を55モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を16モル%、及び、メタクリル酸メチル単位を29モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記グラフト型ビニル系重合体(c−4)は下記式(9):
【0142】
【化9】

【0143】
(式中、mは括弧内の単位の繰り返し数を示す。)
で表されるもの(a:e:c=16:55:29[モル%])であることが分かった。また、グラフト型ビニル系重合体(c−4)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は33200であり、分子量分布は3.43であった。なお、このようにして得られたグラフト型ビニル系重合体(c−4)はクロロホルムのほか、高極性のアルコールにも溶解し、更に水にも可溶であった。
【0144】
(調製例6)
グラフト型ビニル系重合体(c−5)の調製:
攪拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−4)75モル%およびメタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%からなる混合物100重量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.0重量部とを無水トルエン250重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液を5倍当量のヘキサンに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、グラフト型ビニル系重合体(c−5)を得た。
【0145】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−5)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−5)は、マクロモノマー(b−4)単位(構造単位(I)に相当)を76モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を24モル%含有するものであることが確認された。また、グラフト型ビニル系重合体(c−5)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は21000であり、分子量分布は1.89であった。なお、このようにして得られたグラフト型ビニル系重合体(c−5)はクロロホルムのほか、高極性のアルコールにも溶解し、更に水にも可溶であった。
【0146】
(調製例7)
グラフト型ビニル系重合体(c−6)の調製:
攪拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−5)75モル%およびメタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%からなる混合物100重量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.0重量部とを無水トルエン250重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液を5倍当量のヘキサンに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、グラフト型ビニル系重合体(c−6)を得た。
【0147】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−6)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−6)は、マクロモノマー(b−5)単位(構造単位(I)に相当)を76モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を24モル%含有するものであることが確認された。また、グラフト型ビニル系重合体(c−6)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は23000であり、分子量分布は1.85であった。なお、このようにして得られたグラフト型ビニル系重合体(c−6)はクロロホルムのほか、高極性のアルコールにも溶解し、更に水にも可溶であった。
【0148】
(調製例8)
グラフト型ビニル系重合体(c−7)の調製:
攪拌機を備えた反応缶中において、マクロモノマー(b−3)40モル%とN−フェニルマレイミド60モル%とからなる混合物100重量部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部及びtert−ドデシルメルカプタン0.05重量部をメチルエチルケトン300重量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液を5倍当量のヘキサンに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、グラフト型ビニル系重合体(c−7)を得た。
【0149】
このようなグラフト型ビニル系重合体(c−7)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、グラフト型ビニル系重合体(c−7)は、マクロモノマー(b−3)単位(構造単位(I)に相当)を40モル%、N−フェニルマレイミド単位を60モル%含有するものであることが確認された。また、グラフト型ビニル系重合体(c−7)のゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定した数平均分子量は25000であり、分子量分布は2.30であった。なお、このようにして得られたグラフト型ビニル系重合体(c−7)はクロロホルムのほか、高極性のアルコールにも溶解し、更に水にも可溶であった。
【0150】
(調製例9)
メタクリル酸メチル/メタクリル酸1−ピレニルブチル共重合体(重合体(d−1))の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、メタクリル酸メチル75モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部およびトルエン550重量部を仕込んだ。次に、反応缶中に得られた溶液を攪拌しながら、系内を窒素ガスで置換した。次いで、前記溶液の温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことにより溶液中のモノマーを重合させた。次に、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液を過剰量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、真空乾燥により溶媒を完全に留去し、重合体(d−1)を得た。
【0151】
このような重合体(d−1)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、重合体(d−1)は、メタクリル酸メチル単位を70モル%、及び、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を30モル%含有するものであることが確認された。また、重合体(d−1)の数平均分子量は22000、分子量分布は2.55であった。
【0152】
(調製例10)
メタクリル酸1−ピレニルブチル/メタクリル酸デシル共重合体(重合体(d−2))の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、メタクリル酸デシル75モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、トルエン550重量部を次に、反応缶中に得られた溶液を攪拌しながら、系内を窒素ガスで置換した。次いで、前記溶液の温度を75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことにより溶液中のモノマーを重合させた。次に、モノマーを重合させた後の前記溶液の温度を30℃まで冷却した後、その溶液を過剰量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、真空乾燥により溶媒を完全に留去し、重合体(d−2)を得た。
【0153】
このような重合体(d−2)に関してH−NMRにより組成を求めたところ、重合体(d−2)は、メタクリル酸デシル単位を68モル%、及び、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を32モル%含有するものであることが確認された。また、重合体(d−2)の数平均分子量は20000、分子量分布は2.65であった。
【0154】
(実施例1)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体(c−1)を2mg、カーボンナノ構造体(A−1)を2mg、それぞれ計量し、これらをクロロホルム20mlに投入し、1時間超音波処理(BRANSON社製 卓上型超音波洗浄機BRANSONIC B−220、発振周波数45kHz)を行って、カーボンナノ構造体(a−1)にグラフト型ビニル系重合体(c−1)を吸着せしめて、溶媒中においてカーボンナノ複合体を製造し、これにより溶媒中にカーボンナノ複合体が分散した分散液を得た。このようにして得られた分散液の分散性について、前記(5)に記載の方法で評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0155】
(実施例2〜6)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体(c−1)の代わりに、下記表1に示す種類のグラフト型ビニル系重合体をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、カーボンナノ複合体及びそのカーボンナノ複合体が分散した分散液をそれぞれ得た。このようにして得られた分散液の分散性について、前記(5)に記載の方法で評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0156】
(比較例1〜3)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体(c−1)の代わりに、下記表2に示す種類の重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較のためのカーボンナノ複合体及びそのカーボンナノ複合体が分散した比較のための分散液をそれぞれ得た。このようにして得られた分散液の分散性について、前記(5)に記載の方法で評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0157】
(比較例4)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体(c−1)を用いず、カーボンナノ構造体(a−1)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして比較のための分散液を得た。このようにして得られた分散液の分散性について、前記(5)に記載の方法で評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0158】
【表2】

【0159】
表2に示す結果からも明らかなように、本発明の分散液(実施例1〜6)においては、比較のための分散液と比べて、吸光度が十分に高い値となっていた。このような結果から、グラフト型ビニル系重合体を用いた本発明のカーボンナノ複合体は、溶媒に対して十分に高い分散性を示すことが確認された。
【0160】
(実施例7)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体42mgと、カーボンナノ構造体(a−1)210mgとをそれぞれ計量し、クロロホルム210mlに投入し、1時間超音波処理(BRANSON社製 卓上型超音波洗浄機BRANSONIC B−220、発振周波数45kHz)を行って、分散液を得た。次に、前記分散液について桐山漏斗(フィルター:ミリポアメンブレンフィルター1.0μm)を用いて、クロロホルム630mLを用いて洗浄しながら吸引濾過を行った。次いで、得られた固形分から真空乾燥により溶媒を留去することにより、本発明のカーボンナノ複合体(e−1)を得た。上述の測定方法を利用して測定した各カーボンナノ複合体の特性を表3に示す。
【0161】
(実施例8〜12)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体の変わりに、調製例3(実施例8)、調製例4(実施例9)、調製例5(実施例10)、調製例6(実施例11)又は調製例7(実施例12)で得られたグラフト型ビニル系重合体をそれぞれ用いた以外は、実施例7と同様にして、本発明のカーボンナノ複合体(e−2)〜(e−6)をそれぞれ得た。上述の測定方法を利用して測定した各カーボンナノ複合体の特性を表3に示す。
【0162】
(比較例5〜7)
調製例2で得られたグラフト型ビニル系重合体の変わりに、調製例9(比較例5)、調製例10(比較例6)で得られた重合体又は重合体(d−3)をそれぞれ用いた以外は、実施例7と同様にして、比較のためのカーボンナノ複合体(f−1)〜(f−3)をそれぞれ得た。上述の測定方法を利用して測定した各カーボンナノ複合体の特性を表3に示す。
【0163】
(比較例8)
カーボンナノ構造体(a−1)をそのまま比較のためのカーボンナノ複合体として利用した。上述の測定方法を利用して測定した各カーボンナノ複合体の特性を表3に示す。
【0164】
【表3】

【0165】
表3に示す結果からも明らかなように、本発明のカーボンナノ複合体(実施例7〜12)においては、カーボンナノ構造体へのグラフト型ビニル系重合体の吸着量が多かった。このような結果は、グラフト型ビニル系重合体が嵩高い高分子鎖部分を含み且つ溶媒及び樹脂との親和性に優れることに起因するものと推察される。また、本発明のカーボンナノ複合体(実施例7〜12)においては、十分な量のグラフト型ビニル系重合体が吸着しているため、再分散性に優れるとともに樹脂に添加した際の流動性が十分に優れたものとなることが確認された。また、実施例7〜9で得られた本発明のカーボンナノ複合体(e−1)〜(e−3)は、有機溶媒および樹脂中での分散性と流動性及び熱伝導率により優れた特性を示していた。また、実施例8〜9で得られたカーボンナノ複合体(e−2)及び(e−3)においては、樹脂中での分散性、流動性の評価試験及び溶融混練した後に得られたガットの外観においても特に優れたものとなっていた。これは、実施例8〜9で得られたカーボンナノ複合体(e−2)及び(e−3)においては、吸着しているグラフト型ビニル系重合体の構造中にイミド単位を含有し、その耐熱性が高いため、高温での安定性に特に優れており、290℃の高温で10分間溶融混練を行ってもグラフト型ビニル系重合体の分解が生じないためであると推察される。また、実施例7〜9で得られたカーボンナノ複合体(e−1)〜(e−3)においては、樹脂中での分散性の向上と、カーボンナノ構造体表面へのグラフト型ビニル系重合体の多量吸着によるカーボン構造体と樹脂の界面の親和性の向上により熱伝導率が向上し、ポリフェニレンスルフィド樹脂単独(熱伝導率:0.24W/mK)と比較してトルク値の増加率を10%以内に抑制しつつも、熱伝導率が1.5倍以上向上していることが確認された。
【0166】
(実施例13)
グラフト型ビニル系重合体(c−4)を2mg、カーボンナノ構造体(a−1)を2mg、それぞれ計量し、これらをイオン交換水20mLに投入し、1時間超音波処理(BRANSON社製 卓上型超音波洗浄機BRANSONIC B−220、発振周波数45kHz)を行って、イオン交換水中においてカーボンナノ複合体を製造し、これによりイオン交換水中にカーボンナノ複合体が分散した分散液を得た。
【0167】
次に、このようにして得られた分散液を用いてUV−可視光スペクトルを測定する試験(スペクトル測定試験(I))を行った。すなわち、前記分散液に対して、遠心分離(相対遠心加速度1000Gで1時間)を行った後、得られた上澄み液について、UV−可視光スペクトルを測定した。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表4に示す。
【0168】
また、前記分散液を60mLのイオン交換水を用いて洗浄しながら吸引濾過を行った。次いで、得られた固形分から真空乾燥により溶媒を除去して得たカーボンナノ複合体について、上述の(4)に記載の方法でグラフト型ビニル系重合体の吸着量の測定を行ったところ、グラフト型ビニル系重合体(c−4)の吸着量は3.6質量%であることが確認された。
【0169】
(実施例14)
グラフト型ビニル系重合体(c−4)の代わりに調製例8で得られたグラフト型ビニル系重合体(c−7)を用いた以外は実施例13と同様にして、分散液を製造し、スペクトル測定試験(I)及びグラフト型ビニル系重合体の吸着量の測定を行った。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表4に示す。また、グラフト型ビニル系重合体(c−7)の吸着量は3.6質量%であることが確認された。
【0170】
(比較例9)
グラフト型ビニル系重合体(c−4)の代わりに化合物(d−4)を用いた以外は実施例13と同様にして、分散液を製造し、スペクトル測定試験(I)を行った。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表4に示す。
【0171】
(比較例10)
グラフト型ビニル系重合体(c−4)の代わりにマクロモノマー(b−3)を用いた以外は実施例13と同様にして、分散液を製造し、スペクトル測定試験(I)を行った。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表4に示す。
【0172】
(比較例11)
グラフト型ビニル系重合体(c−4)を使用しなかった以外は実施例13と同様にして、分散液を製造し、スペクトル測定試験(I)を行った。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表4に示す。
【0173】
【表4】

【0174】
表4に示す結果からも明らかなように、グラフト型ビニル系重合体(c−4)及び(c−7)を用いた本発明のカーボンナノ複合体(実施例13〜14)を含有する分散液においては、公知の化合物(d−4)やマクロモノマー(b−3)等を分散剤として用いた場合(比較例9〜11)の分散液と比較して、水中においてカーボンナノ複合体が十分に高度に分散していることが確認された。このような結果から、本発明のカーボンナノ複合体(実施例13〜14)は水に対しても十分に優れた分散性を有することが分かった。
【0175】
(実施例15)
グラフト型ビニル系重合体(c−1)を2mg、カーボンナノ構造体(a−2)を2mg、それぞれ計量し、これらをヘキサン20mLに投入し、1時間超音波処理(BRANSON社製 卓上型超音波洗浄機BRANSONIC B−220、発振周波数45kHz)を行って、ヘキサン中においてカーボンナノ複合体を製造し、これによりヘキサン中にカーボンナノ複合体が分散した分散液を得た。
【0176】
次に、このようにして得られた分散液を用いてUV−可視光スペクトルを測定する試験(スペクトル測定試験(II))を行った。すなわち、前記分散液に対して遠心分離(相対遠心加速度1000Gで1時間)を行った後、得られた上澄み液について、UV−可視光スペクトルを測定した。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表5に示す。
【0177】
また、前記分散液を60mLのヘキサンを用いて洗浄しながら吸引濾過を行った。次いで、得られた固形分から真空乾燥により溶媒を除去して得たカーボンナノ複合体について、上述の(4)に記載の方法でグラフト型ビニル系重合体の吸着量の測定を行ったところ、グラフト型ビニル系重合体(c−1)の吸着量は5.8質量%であることが確認された。
【0178】
(比較例12)
グラフト型ビニル系重合体(c−1)の代わりにマクロモノマー(b−1)を用いた以外は実施例15と同様にして、分散液を製造し、スペクトル測定試験(II)を行った。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表5に示す。
【0179】
(比較例13)
グラフト型ビニル系重合体(c−1)を使用しなかった以外は実施例15と同様にして、分散液を製造し、スペクトル測定試験(II)を行った。このようにして測定された650nmにおける吸光度の値を表5に示す。
【0180】
【表5】

【0181】
表5に示す結果からも明らかなように、グラフト型ビニル系重合体(c−1)を用いた本発明のカーボンナノ複合体(実施例15)を含有する分散液においては、マクロモノマー(b−1)等を用いた場合(比較例12〜13)の分散液と比較して、低極性と低比重とのために従来カーボンナノ構造体の分散が困難であったヘキサン中において、カーボンナノ複合体が十分に高度に分散していることが確認された。このような結果から、本発明のカーボンナノ複合体(実施例15)は低極性と低比重の溶媒中においても十分に優れた分散性を有することが分かった。なお、化合物(d−1)〜(d−3)はいずれもヘキサンに溶解せず、カーボンナノ構造体の分散性の改善効果がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0182】
以上説明したように、本発明によれば、溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性に優れるカーボンナノ複合体、それを含む分散液及び樹脂組成物、並びに、そのカーボンナノ複合体の製造方法を提供することが可能となる。
【0183】
このように、本発明のカーボンナノ複合体は、特に溶媒中や樹脂中での分散性及び流動性に優れるため、カーボンナノ構造体が本来有する特性を生かせる用途、例えば、機械特性が求められる用途、電磁波遮蔽が求められる用途、耐熱性が求められる用途、寸法性が求められる用途(熱線膨張係数の低下)、電気伝導性が求められる用途、熱伝導性が求められる用途などの様々な用途に展開可能であり、特に、これらの特性が要求される樹脂成形体、樹脂シート、樹脂フィルムなどに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノ構造体と、
ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し、前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であり且つ前記カーボンナノ構造体に吸着しているグラフト型ビニル系重合体と、
を備えることを特徴とするカーボンナノ複合体。
【請求項2】
前記構造単位の分子量が400以上であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノ複合体。
【請求項3】
前記カーボンナノ構造体の直径が1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノ複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のカーボンナノ複合体と溶媒とを含有することを特徴とする分散液。
【請求項5】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のカーボンナノ複合体と樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
カーボンナノ構造体と、
ビニル系重合体からなる主鎖及び高分子鎖からなる側鎖を有し且つ前記高分子鎖の1つと該高分子鎖が結合する前記主鎖中のビニル系モノマー単位とからなる構造単位の分子量が300以上であるグラフト型ビニル系重合体と、
を溶媒中で混合して前記カーボンナノ構造体に前記グラフト型ビニル系重合体を吸着せしめてカーボンナノ複合体を得ることを特徴とするカーボンナノ複合体の製造方法。

【公開番号】特開2010−37537(P2010−37537A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57782(P2009−57782)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】