説明

カーボン材料中不純物の分析方法

【課題】 カーボン材料より、カーボンを短時間で、且つ、対象とする不純物の損失も無く酸化して二酸化炭素として除去することが可能で、カーボン材料中の不純物を迅速、且つ、正確に分析することが可能な分析方法を提供する。
【解決手段】
カーボン試料中の不純物を分析するに際し、カーボン酸化反応器2に収容した濃硫酸中において該カーボン試料に、200℃以上の温度下で、硝酸蒸気発生器3により生成せしめた硝酸蒸気を供給することにより接触せしめてカーボンを酸化して二酸化炭素として除去した後、残存する濃硫酸溶液中の不純物を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボン材料中に含まれる不純物元素の量を分析するための新規な分析方法に関する。詳しくは、カーボン材料よりカーボンを短時間で、且つ、対象とする不純物の損失も無く酸化して二酸化炭素として除去することが可能で、カーボン材料中の不純物元素を迅速、且つ、正確に分析することが可能な分析方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンは耐熱性、耐腐食性に優れ、電気および熱を良く伝えることから、一般工業材料から原子力分や半導体関連材料として広く使われている。特に後者の分野においては、カーボン材料中に含まれる種々の不純物元素が問題となる場合があり、これらを短時間で正確に分析する技術が求められる。
【0003】
カーボン材料中の不純物元素の分析方法として、従来から以下の分析方法が知られている。
【0004】
例えば、
(1)試料を白金製の容器に入れ、燃焼灰化処理した後、得られた灰分に炭酸ナトリウムなどの融剤を加え、加熱融解させた後、塩酸を加えて灰分を溶解して含まれる不純物を原子吸光光度法、誘導結合プラズマ発光分光分析法などで分析する方法(非特許文献1参照)、
(2)濃硫酸に試料を加えて加熱し、これに濃硝酸を少量ずつ添加してカーボンを酸化して二酸化炭素として除去した後、残渣を分析する方法(非特許文献1、非特許文献2参照)、
(3)加圧分解容器に試料と濃硫酸および濃硝酸の混合液を加えて、温度250℃で3日間加熱しカーボンを酸化して二酸化炭素として除去した後、残渣を分析する方法(非特許文献3参照)、
などが公知である。
【0005】
しかしながら、前記(1)の方法は、カーボン材料中に燃焼により揮発する可能性のある元素を含む場合に問題がある。即ち、カーボン材料がナトリウム、カリウム、リン、亜鉛、カドミウム、砒素、タリウム、錫、鉛などを含む場合、カーボンの燃焼と共に分析対象元素が同時に揮発し、正確な分析ができない。半導体工業において、上記ナトリウム、カリウム、リンなどは製品性能に大きな影響を与えるため、特に評価が必要な元素であり、これらの元素が分析不可能となることは致命的である。
【0006】
これに対して、カーボンを湿式法にて酸化して二酸化炭素として除去して分析する(2)、(3)方法は、処理温度が燃焼灰化温度(通常800℃以上)よりも十分に低いため、前記した元素の揮発は抑えられる。
【0007】
ところが、前記(2)、(3)の湿式によるカーボンの酸化して二酸化炭素として除去を採用する方法は、操作が煩雑であったり、処理に多大な時間がかかったりするという問題を有する。
即ち、前記(2)の方法では、カーボンの酸化速度を維持するためには、反応液の温度低下を防止するために、硝酸の添加を少量ずつ行ない、反応液の温度の上昇を待ちながら酸化を行なう必要があり、そのため操作が煩雑となるという問題を有する。しかも、反応には、3時間以上を要する。また、前記(3)の方法は、高い反応温度を採用することはできるが、酸化によって生じた二酸化炭素を主とするガスが系内に留まり、カーボンの酸化速度を低下させるために多大な時間がかかるという問題を有する。
【0008】
【非特許文献1】JAERI−M93−013、「高純度黒鉛の分析−標準試料の製作と分析方法の開発」 核燃料・炉材料等分析研究委員会 日本原子力研究所 1993年3月
【非特許文献2】Mitsuyoshi Watanabe and Akira Naruka,Analyst,2000,125,1189.
【非特許文献3】Yukihiro Koshino and Akira Naruka,Analyst,1993,118,827.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、カーボン材料中に含まれる不純物元素を分析するに当たり、燃焼灰化で消失し易いナトリウム、カリウム、リンなどの元素を消失することなく、しかも、短時間でカーボンを酸化して二酸化炭素として除去する操作を実施することができ、これにより、正確且つ迅速にカーボン材料の分析を行なうことができる分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは前記目的を達成するために、鋭意検討を重ねた。その結果、加熱された濃硫酸中にカーボン材料を存在せしめ、該濃硫酸中においてこれに硝酸蒸気を接触せしめることにより、濃硫酸の温度を高温に維持することで、湿式での反応ではありながら、カーボンの酸化に必要な時間を著しく短縮でき、しかも、煩雑な操作を必要とせず、カーボンを酸化し得ること、また、湿式法であるため、燃焼灰化で消失し易い元素も残存させることもでき、これらの効果により、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、カーボン材料中の不純物を分析するに際し、濃硫酸中において該カーボン材料に200℃以上の温度下で硝酸蒸気を接触せしめてカーボンを酸化し、二酸化炭素として除去する工程を含むことを特徴とするカーボン中不純物の分析方法である。
【0012】
また、本発明は、上記分析法において、カーボン材料に接触する硝酸蒸気を凝縮回収して循環する機構を有し、カーボンの酸化を効率的に実施することのできるカーボンの酸化装置をも提供する。
【0013】
即ち、本発明によれば、(A)硝酸を収容するための下側室と、該下側室と液流下管により連通する上側室とを有し、下側室には、これに収容する硝酸の液面より高い位置の側壁に蒸気取出口が、上側室には、側壁に蒸気回収口が、それぞれ形成され、且つ、上側室の上部に硝酸を凝縮するための還流器を介してガス取出口が設けられた硝酸蒸気発生器、
(B)カーボン材料を存在せしめた濃硫酸を収容するための室を有し、該室には、硝酸蒸気の導入口と反応ガス取出口とが形成された、カーボン酸化反応器、および、(C)前記硝酸蒸気発生器とカーボン酸化反応器とを加熱する加熱装置を含み、
更に、前記硝酸蒸気発生器の蒸気取出口は、カーボン酸化反応器の硝酸蒸気の導入口と、前記カーボン酸化反応器の反応ガス取出口は硝酸蒸気発生器の蒸気回収口とそれぞれ接続されてなることを特徴とするカーボンの酸化装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、硝酸を蒸気として、高温で濃硫酸よりなる反応液中に供給することができ、硝酸を液の状態で反応系に添加、或いは存在せしめることによりカーボン材料と接触させる従来の湿式法に比べて、反応系の温度を200℃以上に常に維持することができる。作用機構は明らかではないが、それにより、カーボンの酸化に要する時間が著しく短縮され、迅速な分析に寄与することができる。因みに、本発明においてカーボンの酸化処理に要する時間は、試料量にもよるが、30〜200分程度であり、従来の湿式法に要する時間はもとより、燃焼灰化法に要する時間と比較しても短時間で済む。
【0015】
しかも、従来の燃焼灰化法と比較しても、カーボン材料中に含まれるナトリウム、カリウム、リンなどの元素を消失することなくカーボンを二酸化炭素として完全に酸化して除去できるため、これらの元素を正確に測定することが可能である。
【0016】
したがって、本発明によれば、高精度の分析が可能で、半導体向け材料として用いる高純度カーボン材料の分析などに好適に適用できる。
【0017】
また、使用する硝酸を蒸気として供給するために、硝酸水溶液として反応系に供給する場合に比べて反応系に持ち込まれる不純物が少なく、このことも高精度分析に寄与することができる。
【0018】
また、本発明の装置によれば、硝酸を還流して使用するため、反応に寄与した硝酸以外は、ほとんどを回収して再利用することができ、環境的にもコスト的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のカーボン中不純物の分析方法は、加熱された濃硫酸中に、分析の対象とするカーボン材料を存在せしめ、該濃硫酸中において該カーボン材料に硝酸蒸気を接触せしめる工程を含むことを特徴するものである。
【0020】
本発明の対象となるカーボン材料(以下、「カーボン試料」ということもある。)は、特に制限されるものではなく、一般に使用されているカーボン材料に対して適応できる。具体的には黒鉛成型品、カーボンファイバーなどが挙げられる。中でも半導体工業に使用される高純度黒鉛材料に対して、本発明の分析方法は有効である。
【0021】
本発明において、該カーボン試料は分解に際して、反応が進行し易いように粒子状に加工することが好ましい。その平均粒子径は、1mm以下、特に、0.5mm以下にすることが望ましい。即ち、粒子径が上記範囲以上の場合、濃硫酸中に粒子が浮遊し難くなり、供給される硝酸蒸気との接触面積が少なくなるため、反応性が低下する傾向がある。
【0022】
したがって、塊状のカーボン試料を分析しようとする場合は、分析の対象とする元素の汚染が起こり難い方法により、前記粒子径まで解砕することが好ましい。具体的には、塊状の試料を、ドリルによる穿孔、ハンマーによる粗砕等により、適当な大きさの試料とした後、これを乳鉢による擂潰などにより微粉砕することによって、所定の大きさとなるように解砕する方法が挙げられる。勿論、上記器具は、カーボン試料と接触する部材の材質としてカーボン試料を汚染しない公知の材料を選択することが推奨される。
【0023】
本発明において使用する濃硫酸は硫酸濃度が96〜98%のものが使用される。また、かかる濃硫酸の純度は、分析において求められる精度により適宜決定すればよい。例えば、カーボン試料中の不純物元素を数%のレベルで分析する場合は、市販されている特級の濃硫酸程度の純度でよく、また、不純物元素を数十〜数百ppbのレベルで分析する場合は、不純物濃度が数ppbである分析用の高純度濃硫酸が使用される。
【0024】
また、本発明において使用する硝酸蒸気は、硝酸単体(沸点86℃)でもよいし、硝酸と水との共沸蒸気でもよい。上記硝酸蒸気の生成は、硝酸又は硝酸水溶液を加熱して沸騰させることで行う。これには、入手と取り扱いの容易さから、濃度60〜70重量%の硝酸水溶液が好適に使用され、特に、共沸組成である69.8重量%付近の濃度のものを使用し、硝酸と水との共沸蒸気として使用することが最も好適である。上記硝酸水溶液の品質に関しては、蒸発により純化された蒸気を得ることができるため、試薬1級から特級レベルのものが特に制限無く使用できる。
【0025】
本発明の分析方法は、必要に応じて解砕されたカーボン試料を、先ず、濃硫酸中に存在せしめる。かかる濃硫酸中に存在させるカーボン試料の割合は、カーボン試料1gに対して、濃硫酸が20〜100mlとなる割合、好適には濃硫酸が30〜60mlとなる割合で使用することが好ましい。即ち、濃硫酸に対してカーボン試料の割合が多すぎると、酸化反応の終了前に濃硫酸が蒸発してしまい、反応を維持できなくなる。逆に、カーボン試料の割合が少なすぎると、単位容積当りの処理効率が悪くなる。
【0026】
本発明において、濃硫酸中に存在するカーボン試料に前記硝酸蒸気を接触せしめる際の温度は、200℃以上、好ましくは、220℃以上に維持されることが、硝酸蒸気によるカーボンの酸化反応速度を十分高め、短時間でカーボンを酸化するために必要である。しかし、濃硫酸温度があまり高すぎると、濃硫酸が急速に蒸発するという不都合が生ずるため、その上限は240℃とすることが好ましい。
【0027】
尚、かかる硝酸蒸気を接触させる際の濃硫酸の温度は、硝酸水溶液の蒸留により発生した硝酸蒸気の温度より高いため、硝酸蒸気を多量に供給しようとする場合は、かかる蒸気による温度低下を勘案して、供給する硝酸蒸気を予熱することもできる。上記予熱温度は、特に制限されないが、200〜240℃の範囲より選択することが好ましい。
【0028】
また、上記硝酸蒸気を接触させる反応は、酸化分解により生成する二酸化炭素等のガスが放出され易い圧力を採用することが好ましく、一般には、常圧で実施される。
【0029】
本発明において、濃硫酸中に存在するカーボン試料と硝酸蒸気とを接触させる態様は特に制限されない。例えば、該濃硫酸の表面に硝酸蒸気を接触させてもよいが、硝酸蒸気とカーボン試料とを効率よく接触させるためには、濃硫酸中に設けられ、ノズルを形成した硝酸蒸気の導入口から硝酸蒸気をバブリングする(吹き込む)ことが好ましい。この場合、前記ノズルの孔径は、0.5mm〜10mm、特に、1〜5mmが好適である。
【0030】
また、本発明において、前記硝酸蒸気の供給量は特に制限されないが、前記バブリングにより供給する場合、カーボン試料1gに対して、共沸組成の硝酸水溶液として30〜300ml/hr特に、60〜200ml/hrとなるように供給することが好ましい。
【0031】
本発明において、濃硫酸と接触後の硝酸蒸気は、カーボンの酸化により生成する二酸化炭素、及び、硝酸の分解物である二酸化窒素と共に反応系より排ガスとして取り出されるが、該排ガスより硝酸蒸気を凝縮して回収し、再度蒸気源として使用することが好ましい。
【0032】
本発明の分析方法において、上述したカーボンの酸化を行なった後の濃硫酸中に存在するカーボン試料由来の不純物元素の分析を行なう。
【0033】
かかる分析方法は、濃硫酸を純水で希釈して公知の分析装置を用いて行うことができる。上記分析装置としては原子吸光分析装置、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)、誘導結合プラズママススペクトル装置(ICP−MS)などが挙げられる。
【0034】
また、カーボン試料中の不純物元素濃度が極めて低い場合、これを濃縮して分析する必要がある。そのためにはマトリックスである濃硫酸を除去した後、残渣を硝酸などに再度溶解し、ICP−MSあるいはICP−AESなどの分析装置を用いて、不純物元素を高感度分析することが好ましい。
【0035】
上記濃硫酸の除去方法は、該濃硫酸を加熱して蒸発させることにより行なうのが一般的である。かかる蒸発の速度をあまり早くすると、硫酸ミストに同伴して不純物元素が損失するので、かかる濃硫酸の蒸発速度は、5〜30ml/hrとなるように行なうことが好ましい。
【0036】
次に、本発明の分析方法に好適に使用されるカーボンの酸化装置を添付図面に従って説明するが、本発明は以下に述べる態様に限定されるものではない。
【0037】
図1は本発明の分析方法において使用するカーボンの酸化装置の代表的な態様を示す概略図である。
【0038】
即ち、図1において、カーボンの酸化装置は、
(A)硝酸7を収容するための下側室3bと、該下側室と液流下管により連通する上側室3aとを有し、下側室には、これに収容する硝酸の液面より高い位置の側壁に蒸気取出口が、上側室には、側壁に蒸気回収口が、それぞれ形成され、且つ、上側室の上部に硝酸を凝縮するための還流器11を介してガス取出口12が設けられた硝酸蒸気発生器3、
(B)カーボン試料を存在せしめた濃硫酸8を収容するための室を有し、該室には、硝酸蒸気の導入口9と反応ガス取出口とが形成された、カーボン酸化反応器2、
および、
(C)前記硝酸蒸気発生器とカーボン酸化反応器とを加熱する加熱装置1、1’
を有し、前記硝酸蒸気発生器の蒸気取出口は、カーボン酸化反応器の硝酸蒸気の導入口9とライン5により接続され、前記カーボン酸化反応器の反応ガス取出口は硝酸蒸気発生器の蒸気回収口とライン6により接続されてなる。
【0039】
上記硝酸蒸気発生器の材質は、耐薬品性と耐熱性に優れた石英ガラス或いはフッ素樹脂が、またカーボン酸化反応器は石英ガラスが好適に使用できる。
【0040】
前記図1において、硝酸蒸気発生器3とカーボン酸化反応器2とが独立した加熱装置1、1’を有する態様を示したが、共通する加熱装置を設けることも可能である。しかし、それぞれの容器内を異なった温度に制御するためには、図1に示す態様が好ましい。
【0041】
上記加熱手段としては、マントルヒーターなど伝熱によるもの、赤外線照射による輻射熱によるもの、マイクロ波によるものなどが適宜使用できる。
【0042】
本発明のカーボンの酸化装置においては、カーボン酸化反応器2に濃硫酸とカーボン試料とを収容して加熱する。同時に硝酸蒸気発生器3の下側室3bに硝酸を収容して加熱し、硝酸を沸騰せしめる。下側室で発生した硝酸蒸気は蒸気取出口よりライン5を経て、カーボン酸化反応器の硝酸蒸気の導入口9を形成するノズルから、濃硫酸中にバブリングされる。これにより、濃硫酸中のカーボン試料が十分に攪拌されることも該カーボン試料の酸化反応の促進に極めて有効である。
【0043】
上記カーボン試料と反応して生じた炭酸ガス、二酸化窒素、および未反応硝酸蒸気は、反応ガス取出口からライン6を経て硝酸蒸気発生器3の蒸気回収口より、上側室3aを経由して還流器11に導入される。ここで硝酸蒸気は凝縮されて硝酸となり液流下管10を経て、下側室3bに循環される。一方、炭酸ガスと二酸化窒素は、排ガス4として還流器11上のガス取出口12から系外に排出される。
【0044】
尚、前記硝酸はこのように循環使用されるため、カーボン酸化反応器2に収容されたカーボン試料を酸化するための化学量論的な必要量以上を加えておけば、反応中に硝酸の補給を必要としない。そのため前記従来法では必要だった反応状態の監視や途中の硝酸添加操作を行わなくて済み、操作の煩雑さが解消されると共に、試料の汚染についても大幅に低減される。
【実施例】
【0045】
実施例1
図1に示すように、還流冷却器11を取り付けた、硝酸蒸気発生器(フッ素樹脂製製)3と硝酸蒸気の導入口(ノズル)9を有するカーボン酸化反応器(石英ガラス製)2のガス出入り口をフッ素樹脂製のライン5で接続し、マイクロ波加熱器内にセットした。尚、図1においては、加熱装置1、1’で示すが、本実施例においては、硝酸蒸気発生器(フッ素樹脂製製)3とカーボン分解反応器(石英ガラス製)2とをマイクロ波加熱器内に置き加熱する方法を採用した。
【0046】
カーボン酸化反応器には、カーボン材料をメノウ乳鉢で粉砕して篩い分けした平均粒径0.2mmのカーボン試料0.5gと96%濃硫酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー硫酸)20mlを、硝酸蒸気発生器の下側室3bには、70%硝酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー100硝酸)40mlを加えた。
【0047】
冷却水を還流冷却器に流し、マイクロ波加熱器の出力を200Wとしてマイクロ波を照射し、硝酸蒸気発生器とカーボン酸化反応器とを加熱し、硝酸蒸気(共沸組成)を70ml/hrの速度でカーボン酸化反応器に共給した。この時の濃硫酸の温度は230℃に維持されていた。また、カーボン酸化反応器から排出されたガスは、還流器で未反応の硝酸を還流し、二酸化炭素等の排ガス4を系外に排出させた。
【0048】
硝酸蒸気を供給し始めて30分後、カーボン試料が完全に酸化され、無色透明の溶液が得られた。この溶液を純水で100倍に希釈し、ICP−AESにより含まれるナトリウム、カリウム、リンを分析した。結果を表1に示した。
【0049】
実施例2
実施例1において、加熱装置として、マイクロ波加熱器に代えてマントルヒーター1、1’を使用した装置を使用した。
【0050】
カーボン酸化反応器にはカーボン材料をメノウ乳鉢で粉砕して篩い分けした平均粒径0.2mmのカーボン試料0.5gと96%濃硫酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー硫酸)20mlを、硝酸蒸気発生器には、70%硝酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー100硝酸)40mlを加えた。
【0051】
冷却水を還流冷却器に流しながら、硝酸蒸気発生器とカーボン酸化反応器とを加熱し、硝酸蒸気(共沸組成)を60ml/hrの速度でカーボン酸化反応器に共給した。この時の濃硫酸温度は200℃であった。硝酸蒸気を供給し始めて200分後、カーボン試料が完全に酸化され、無色透明の溶液が得られた。この溶液を純水で100倍に希釈し、ICP−AESにより含まれるナトリウム、カリウム、リンを分析した。結果を表1に示した。
【0052】
実施例3
平均粒径1mmのカーボン試料を用い、濃硫酸の温度を225℃とした以外は、実施例1と同様にしてカーボン試料を酸化した。硝酸蒸気を供給し始めて50分後、カーボン試料が完全に酸化され、無色透明の溶液が得られた。この溶液を純水で100倍に希釈し、ICP−AESにより含まれるナトリウム、カリウム、リンを分析した。結果を表1に示した。
【0053】
実施例4
平均粒径1mmのカーボン試料を用いて、添加する濃硫酸量を10mlとした以外は、実施例1と同様にしてカーボン試料を酸化した。硝酸蒸気を供給し始めて60分後、カーボン試料が完全に酸化され、無色透明の溶液が得られた。この溶液を純水で100倍に希釈し、ICP−AESにより含まれるナトリウム、カリウム、リンを分析した。結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例5
不純物の少ない高純度カーボン材料をメノウ乳鉢で粉砕して篩い分けした。ノズルを有するカーボン酸化反応器に平均粒径0.5mmのカーボン試料と500ng相当のナトリウム、カリウム、リンの標準溶液および96%濃硫酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー硫酸)20mlを加えた。これを、70%硝酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー100硝酸)40mlを加えた硝酸蒸気発生器と接続しマイクロ波加熱器内にセットした。冷却水を還流冷却器に流しながら、出力200Wでマイクロ波を照射して、硝酸蒸気発生器とカーボン酸化反応器とを加熱し、硝酸蒸気(共沸組成)を70ml/hrの速度でカーボン酸化反応器に共給した。この時の濃硫酸温度は225℃であった。50分後、カーボン試料が完全に酸化し、無色透明の溶液が得られた。この濃硫酸溶液を30ml/hrの速度で蒸発乾固体後、硝酸水溶液で再溶解してナトリウム、カリウム、リンをICP−AESにより分析した。一方、同様の方法でカーボン試料のみの空試験を行い、各元素の回収率を求めた。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
比較例1
還流冷却器を取り付けた、硝酸蒸気発生器(フッ素樹脂製)に平均粒径0.2mmのカーボン試料0.5gと濃硫酸(関東化学株式会社製:96%ウルトラピュアー硫酸)20mlおよび70%硝酸(関東化学株式会社製:ウルトラピュアー100硝酸)40mlを加え、カーボン酸化反応器を接続せずにマイクロ波加熱器内にセットした。
【0058】
冷却水を還流冷却器に流しながら、出力200Wでマイクロ波を照射して、硝酸蒸気発生器を加熱した。しかしながら、加える熱のほとんどが硝酸の蒸発に消費されるために、液温が120℃付近で一定となり、全くカーボン試料が酸化されなかった。
【0059】
また、加える硝酸量を10mlとし、マイクロ波出力を600Wとした以外は、同様な条件でカーボン試料の酸化を試みたが、液温度が170℃付近で一定となり、カーボン試料は5時間後も、ほとんど酸化されなかった。
比較例2
実施例3において、カーボン酸化反応器の濃硫酸温度を150℃とした以外は同じ条件で酸化を試みたが、全くカーボン試料が酸化されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の分析方法に使用するカーボンの酸化装置の一態様を示す概略図
【符号の説明】
【0061】
1、1’ 加熱装置
2 カーボン酸化反応器
3 硝酸蒸気発生器
4 排ガス
5、6 ライン
7 硝酸
8 濃硫酸
9 硝酸蒸気の導入口
10 液流下管
11 還流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン材料中の不純物を分析するに際し、濃硫酸中において該カーボン材料に200℃以上の温度下で硝酸蒸気を接触せしめてカーボンを酸化し、二酸化炭素として除去する工程を含むことを特徴とするカーボン中不純物の分析方法。
【請求項2】
前記カーボン材料1gに対して、濃硫酸を20〜100mlの割合で使用する請求項1記載のカーボン中不純物の分析方法。
【請求項3】
前記濃硫酸中に硝酸蒸気をバブリングさせる請求項1又は2に記載のカーボン中不純物の分析方法。
【請求項4】
前記濃硫酸中に存在せしめるカーボン材料が平均粒子径1mm以下の粒子である請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボン中不純物の分析方法。
【請求項5】
カーボンを酸化除去後の濃硫酸より硫酸を除去した後、残渣を分析に供する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカーボン中不純物の分析方法。
【請求項6】
(A)硝酸を収容するための下側室と、該下側室と液流下管により連通する上側室とを有し、下側室には、これに収容する硝酸の液面より高い位置の側壁に蒸気取出口が、上側室には、側壁に蒸気回収口が、それぞれ形成され、且つ、上側室の上部に硝酸を凝縮するための還流器を介してガス取出口が設けられた硝酸蒸気発生器、
(B)カーボン材料を存在せしめた濃硫酸を収容するための室を有し、該室には、硝酸蒸気の導入口と反応ガス取出口とが形成された、カーボン酸化反応器、および、(C)前記硝酸蒸気発生器とカーボン酸化反応器とを加熱する加熱装置を含み、
更に、前記硝酸蒸気発生器の蒸気取出口は、カーボン酸化反応器の硝酸蒸気の導入口と、前記カーボン酸化反応器の反応ガス取出口は硝酸蒸気発生器の蒸気回収口とそれぞれ接続されてなることを特徴とするカーボンの酸化装置。
【請求項7】
前記カーボン酸化反応器において、カーボン酸化反応器の硝酸蒸気の導入口が、カーボン材料を存在せしめた濃硫酸の液中に開口した請求項6記載のカーボンの酸化装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−174988(P2009−174988A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13561(P2008−13561)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】