説明

カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子

【課題】簡便な方法で製造され、粒子径の小さいカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子を提供すること。
【解決手段】本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、リン酸マンガンリチウム粒子と、該リン酸マンガンリチウム粒子表面に形成されたカーボン層とを有し、不活性気体で置換された密閉容器内で、マンガン化合物とリチウム化合物とリン酸原料とを、グリコールを含む反応媒体中、250℃〜350℃でソルボサーマル反応させて得られた生成物を、350℃以上で熱処理することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
LiFePOやLiMnPOなどのオリビン系化合物粒子は、Liイオン電池の正極材料として期待されているが、電気抵抗が大きいため、十分な放電容量が得られないことや充電の受入れ性が悪いといった問題がある。こうした問題を解決するため、オリビン系化合物粒子間の導電性を向上させる目的で粒子をカーボンで被覆すること、および、オリビン系化合物粒子自体を微細化してリチウムイオン拡散パスを短くすることが検討されている。
【0003】
カーボン被覆する方法としては、炭素源となる高分子や糖などの有機物を粒子または粒子原料と混合して、窒素雰囲気下500℃以上の高温で熱処理を行う方法が知られている(特許文献1,2)。しかし、このような高温で熱処理を行うと、オリビン系化合物粒子の成長が起こり、粒子の微細化を困難にする。
【0004】
オリビン系粒子を微細化する方法としては、界面活性剤を含有する分散媒に粉体原料を添加し、分散媒のみを蒸発除去した後に焼成する方法(特許文献3)、原料混合溶液を噴霧乾燥器で微細な原料混合物粒子とした後、熱処理する方法(特許文献4)、一次粒子径が5nm以上100nm以下の非晶性リン酸鉄(III)とリチウム含有化合物とを混合後、熱処理する方法(特許文献5)などが報告されている。
【0005】
上記方法をリン酸マンガンリチウムに適用しても、粒子表面にカーボン被覆することが困難であることから、リン酸マンガンリチウム粒子表面にNiまたはFe化合物を存在させ、これを触媒として有機物を炭素化してカーボン被覆する技術が提案されている(特許文献6)。また、350℃以上の高温でリン酸マンガンリチウムを水熱合成することにより、粒子表面の炭素を含む膜状体によって連結されたリン酸マンガンリチウムを作製する技術が提案されている(特許文献7)。いずれにおいてもリン酸マンガンリチウム粒子は粒子表面の炭素により粒子間の導電性は改善される。しかし、前者においては、NiまたはFeのリン酸マンガンリチウム粒子の性能への影響が懸念される。後者においては、粒子表面の炭素を含む膜状体によって連結されたリン酸マンガンリチウムを粉砕し、熱分解で炭素化するポリマー等と混合後、再度熱処理を行って粒子間に炭素を生成させていることから、粒子表面の炭素を含む膜状体の効果は限定的と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4187524号公報
【特許文献2】特開2009−245762号公報
【特許文献3】特許第4058680号公報
【特許文献4】特許第4190912号公報
【特許文献5】特開2011−82083号公報
【特許文献6】特開2010−135305号公報
【特許文献7】特開2011−171058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、簡便な方法で製造され、粒子径の小さいカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、リン酸マンガンリチウム粒子と、該リン酸マンガンリチウム粒子表面に形成されたカーボン層とを有し、不活性気体で置換された密閉容器内で、マンガン化合物とリチウム化合物とリン酸原料とを、グリコールを含む反応媒体中、250℃〜350℃でソルボサーマル反応させて得られた生成物を、350℃以上で熱処理することにより得られる。
好ましい実施形態においては、上記グリコールが、1,4−ブタンジオールである。
好ましい実施形態においては、平均1次粒子径が3nm〜300nmの粒子である。
好ましい実施形態においては、上記カーボン層の厚みが0.3nm〜6nmである。
好ましい実施形態においては、リチウム二次電池用正極材料が提供される。このリチウム二次電池用正極材料は、上記カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子を含む。
本発明の別の局面によれば、リチウム二次電池が提供される。このリチウム二次電池は、上記リチウム二次電池用正極材料を含む。
本発明の別の局面によれば、カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子の製造方法が提供される。このカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子の製造方法は、不活性気体で置換された密閉容器内で、マンガン化合物とリチウム化合物とリン酸原料とを、グリコールを含む反応媒体中、250℃〜350℃でソルボサーマル反応させる工程と、該ソルボサーマル反応により得られた生成物を350℃以上で熱処理する工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリコールを含む反応媒体中、マンガン化合物とリチウム化合物とリン酸原料とを、250℃〜350℃でソルボサーマル反応させることで、低温の熱処理によりカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子を製造することができる。その結果、得られるカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、粒子径が非常に小さい。また、カーボン層の厚みは非常に薄く、カーボン被覆の均一化を達成し得る。また、本発明によれば、粒子の粉砕やカーボン原料の混合といった工程を必須としないため、低コストでカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1で得られたリン酸マンガンリチウム粒子のTEM写真である。
【図2】本発明の実施例1で得られたカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子のTEM写真である。
【図3】本発明の実施例4で得られたリン酸マンガンリチウム粒子のTEM写真である。
【図4】本発明の実施例4で得られたカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子のTEM写真である。
【図5】本発明の実施例4で用いた流通式反応装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子
本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、リン酸マンガンリチウム粒子と、このリン酸マンガンリチウム粒子表面に形成されたカーボン層とを有する。具体的には、カーボン層は、リン酸マンガンリチウム粒子の全体またはその一部を覆っている。カーボン層の厚みは、好ましくは0.3nm〜6nm、より好ましくは0.3nm〜5nm、さらに好ましくは0.3nm〜4nmである。カーボン層は、非晶質および/またはグラファイトであり得る。グラファイトは、単層グラフェンから複数層グラフェンを含む。非晶質の場合、厚みはできるだけ薄いほうが好ましい。グラファイトの場合、粒子間の融着が効果的に抑制され得る。なお、カーボン層は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散X線分光法(EDS)で確認することができる。本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、好ましくは、TEM−EDSにおいて、少なくとも3粒子を選んだ場合、各粒子上の任意の5点のうち3点でEDS分析により炭素が検出され、かつ、各粒子の端部において連続的なカーボン層が観察される。このように、本発明によれば、カーボン被覆の均一化を達成し得る。
【0012】
カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子の平均一次粒子径は、好ましくは3nm〜300nm、より好ましくは4nm〜200nm、さらに好ましくは5nm〜100nmである。カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子の粒子サイズは、均一であることが好ましいが、一定の割合でその粒子サイズと異なるものが混合されていてもよい。カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子の形状が、棒体、円柱体、直方体、楕円柱体などの場合(アスペクト比が1以上の場合)は、その短軸の長さ(短径)が上記範囲に含まれていることが好ましく、長軸の長さ(長径)は上記の範囲を超えるものであってもよい。なお、平均一次粒子径の測定方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、TEM、吸着法、光散乱法、SAXS等が挙げられる。
【0013】
B.製造方法
本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、リン酸マンガンリチウム粒子の原料を、グリコールを含む反応媒体を用いてソルボサーマル反応させ、ソルボサーマル反応により得られた生成物(リン酸マンガンリチウム粒子)を熱処理することにより製造される。
【0014】
B−1.ソルボサーマル反応
上記リン酸マンガンリチウム粒子の原料としては、任意の適切な原料が用いられる。好ましい実施形態においては、マンガン化合物(Mn源)、リチウム化合物(Li源)およびリン酸原料(PO源)が用いられる。マンガン化合物としては、例えば、硫酸マンガン、シュウ酸マンガン、酢酸マンガン、ビス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン(II)2水和物、ビス(アセチルアセトナト)マンガン(II)2水和物などの錯体等が挙げられる。マンガン化合物としては、好ましくは、2価マンガン化合物である。リチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。リン酸原料としては、例えば、リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸リチウム等が挙げられる。
【0015】
上記原料としては、上記反応媒体に溶解するものが好ましいが、懸濁状態となるものであってもよい。製造操作上の簡便性の観点から、液状であるものも好適に用いられる。
【0016】
ソルボサーマル反応の際に用いられる反応媒体としては、上述のとおり、グリコールが用いられる。グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、グリコールの二つの水酸基に由来する酸素原子が、生成した粒子表面に、構造的に安定な共有結合、イオン結合、水素結合もしくは配位結合、または静電的相互作用を形成しやすいという点から、1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0017】
反応媒体は、グリコール以外の他の有機溶媒および/または水を含んでいてもよい。他の有機溶媒としては、グリコール以外のアルコール類、カルボニル基を有するケトン類またはアルデヒド類、シアノ基を有するニトリル類、ラクタム化合物、オキシム化合物、アミド基を有するアミド類ないしは尿素類、アミノ基を有するアミン類、スルフィド類、スルホキシド類、リン酸エステル類、カルボン酸またはカルボン酸誘導体であるエステル、炭酸または炭酸エステル、エーテル類等が挙げられる。
【0018】
ソルボサーマル反応に際し、分散安定化剤が用いられ得る。分散安定化剤としては、好ましくは、得られるリン酸マンガンリチウム粒子表面に強く吸着しない物質である。分散安定化剤を用いることにより、生成粒子の媒体親和性を改善することができる。その結果、粒子径が小さく、粒度分布が狭く、凝集が少ない粒子が得られ得る。分散安定化剤の具体例としては、有機アミン類、例えば、オレイルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン類、アニリン等の芳香族アミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の水酸基含有アミン、さらにそれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、グリコールとの併用において、得られるリン酸マンガンリチウム粒子の粒子径やその粒度分布のコントロールが容易である点から、オレイルアミンが好ましい。
【0019】
ソルボサーマル反応に際し、上記リン酸マンガンリチウム粒子の原料(Li源、Mn源およびPO源の合計)の濃度は、好ましくは0.01mol/L以上10mol/L以下、より好ましくは0.10mol/L以上10mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以上5mol/L以下、特に好ましくは1.0mol/L以上3.0mol/L以下である。濃度が0.01mol/Lより低いと、製造効率が低くなるおそれがある。一方、10mol/Lを超えると、大粒径のリン酸マンガンリチウム粒子が生成し易く、例えば、正極材料としての性能を悪化させてしまうおそれがある。
【0020】
ソルボサーマル反応に際し、Li源とMn源との配合比は、モル比で、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5、さらに好ましくは3:1〜1:3、特に好ましくは1.2:1〜1:1.2である。10:1よりLi源が多いとマンガンを含まないリン酸リチウム(LiPO)が生成し易く、1:10よりマンガン源が多いとリン酸マンガン(Mn(PO)が生成し易く、例えば、正極材料としての性能を悪化させてしまうおそれがある。
【0021】
ソルボサーマル反応に際し、Li源とMn源との配合合計量とPO源の配合量は、モル比で、好ましくは1:0.5〜1:10、より好ましくは1:0.5〜1:5、さらに好ましくは1:0.5〜1:1である。1:10よりPO源が多いとリン酸アニオンが過剰となって副生成物が生成し易く、1:0.5よりPO源が少ないと未反応のLi源とMn源が残存し、例えば、正極材料としての性能を悪化させてしまうおそれがある。
【0022】
ソルボサーマル反応に際して分散安定化剤を用いる場合、上記反応媒体と分散安定化剤との配合比は、体積比で、好ましくは100:1〜1:100、より好ましくは10:1〜1:10、さらに好ましくは5:1〜1:5、特に好ましくは1:2〜2:1である。100:1より反応媒体が多いと得られるリン酸マンガンリチウム粒子が大粒径になり易く、1:100よりも分散安定化剤が多いと後述の熱処理によりカーボン層が形成されないおそれがあり、例えば、得られるリン酸マンガンリチウム粒子に十分な導電性が付与されないおそれがある。
【0023】
ソルボサーマル法は、反応媒体として水以外の液体を用いる点で、水熱合成法と異なる。しかし、基本的には、水熱合成法の反応装置、操作手順および反応条件を、ソルボサーマル法に援用することができる。本発明におけるリン酸マンガンリチウム粒子の合成においても、反応媒体にグリコールを用いる点以外は、通常の水熱合成法に用いられる反応装置、操作手順および反応条件を援用することができる。
【0024】
また、必要に応じて、超臨界状態または亜臨界状態で反応を行うこともできる。例えば、超臨界状態で反応を行う場合、一般に、反応温度を反応媒体の臨界点よりも高い温度に保持する。ここで、超臨界状態にするためにグリコールよりも低温で超臨界状態に達する媒体(例えば、エタノール)を併用してもよい。この場合、グリコールよりも低温で超臨界状態に達する媒体の配合量を、グリコールの配合量に対し、同体積〜200倍体積とすることが好ましく、より好ましくは20倍体積〜150倍体積、さらに好ましくは50倍体積〜100倍体積である。本明細書において、超臨界状態とは、このように他の媒体を用いることにより臨界圧力を超えた状態を含み得る。反応混合物(通常、リン酸マンガンリチウム粒子の原料と反応媒体と必要に応じて分散安定化剤)は一定容積(容器容積)内に封入されているので、温度上昇により圧力が増大する。一般に、温度TがT>Tc(Tc:媒体の臨界温度)の関係を満たし、かつ、圧力PがP>Pc(Pc:媒体の臨界圧力)の関係を満たせば、超臨界状態にある。実際に、反応媒体中に導入された原料の溶解度は、亜臨界条件と超臨界条件との間で大きく異なるので、超臨界条件では、粒子の十分な成長速度が得られ得る。反応時間は、特に、原料の反応性および熱力学的パラメーター(すなわち、温度および圧力の値)に依存する。
【0025】
ソルボサーマル反応の反応装置としては、高温高圧の条件を達成できる装置である限り、任意の適切な装置が用いられる。具体的には、回分式装置、流通式装置のいずれも用いられる。
【0026】
1つの実施形態においては、流通方式を採用し、さらに、2つの原料液(第1の原料液および第2の原料液)を混合してからソルボサーマル反応させる。具体的には、異なる配管から供給された2つの原料液を混合して得られた最終原料液を反応部に供給することで、ソルボサーマル反応に供する。好ましくは、反応部は、予め反応温度に加熱されている。このような実施形態によれば、粒子径が小さく、粒度分布が狭く、凝集が少ない粒子が得られ得る。2つの原料液の構成としては、任意の適切な構成が採用される。具体例としては、第1の原料液は、Mn源、Li源および反応媒体を含み、第2の原料液は、PO源および反応媒体を含む。なお、本実施形態では、第1の原料液と第2の原料液とを混合して得られた最終原料液が、上述した配合比の範囲を満足することが好ましい。
【0027】
反応温度(反応場(例えば、オートクレーブ内)の温度)は、例えば、用いる反応媒体に応じて適宜設定され得る。反応温度は、通常、200℃〜500℃であり、好ましくは250℃〜350℃である。反応温度への昇温速度は、任意の適切な値に設定される。
【0028】
反応時の圧力(反応場(例えば、オートクレーブ内)の圧力)は、例えば、用いる反応媒体に応じて適宜設定され得る。反応時の圧力は、例えば、液体状の反応混合物(原料および反応媒体)を収容した反応器を密閉容器(例えば、オートクレーブ)に入れて密封し、上記所定の反応温度に昇温することで得られる圧力である。反応時の圧力は、通常、1MPa〜60MPaである。
【0029】
好ましくは、不活性気体の雰囲気下で、ソルボサーマル反応させることが好ましい。このような形態によれば、生成物の酸化を防ぐことができる。1つの実施形態においては、不活性気体で置換された密閉容器内でソルボサーマル反応させる。不活性気体としては、任意の適切な不活性気体が用いられる。例えば、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、窒素等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0030】
上記所定の反応温度に達した後の反応時間については、用いる原料および反応媒体、分散安定化剤の有無、所望のリン酸マンガンリチウム粒子の大きさや量、反応方式等によっても異なるが、通常、数十秒間から数時間とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよく、徐々に昇温または降温してもよい。降温する場合、方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内にオートクレーブを設置したまま放冷してもよく、オートクレーブを電気炉から取り外して空冷してもよい。必要であれば、冷媒を用いて急冷してもよい。
【0031】
上記ソルボサーマル反応により得られるリン酸マンガンリチウム粒子は、その粒子の表面に、反応媒体であるグリコールと必要に応じて用いられた分散安定化剤とを含む有機物層が形成されている。有機物層は、粒子表面の全体に形成されていてもよいし、一部に形成されていてもよい。この有機物層の有無は、例えば、熱重量分析や固体NMRによって確認され得る。熱重量分析により有機物層を確認する場合、窒素雰囲気下、150℃〜350℃の範囲で見られる重量減少をグリコールに由来する重量減少とし、350℃〜470℃の範囲で見られる重量減少を分散安定化剤に由来する重量減少とする。
【0032】
上記有機物層の厚みは、定性的には、薄いところでグリコールの単分子層であり、厚いところでグリコールが重なった複層のレベルであると考えられる。このように有機物層の厚みは、分子レベルであるため数値的に規定することは難しいが、好ましくは1Å〜30Åである。このような有機物層は、重量換算すると、リン酸マンガンリチウム粒子全重量の0.1重量%〜15重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%〜10重量%である。0.1重量%より少ないと、得られるカーボン被覆が不十分となるおそれがある。
【0033】
グリコールは、粒子表面において、好ましくは、共有結合、イオン結合、水素結合もしくは配位結合により結合、または静電的相互作用により存在している。分散安定化剤を用いる場合、上記有機物層に含まれる分散安定化剤は、粒子表面および/またはグリコールが形成する吸着層に、イオン結合、水素結合、疎水的相互作用または静電的相互作用により吸着している。分散安定化剤の吸着はグリコールの吸着より弱いため、洗浄などにより有機物層から除去され得る。
【0034】
上記ソルボサーマル反応により得られるリン酸マンガンリチウム粒子の平均一次粒子径は、好ましくは3nm〜300nm、より好ましくは4nm〜200nm、さらに好ましくは5nm〜100nmである。リン酸マンガンリチウム粒子の形状が、棒体、円柱体、直方体、楕円柱体などの場合(アスペクト比が1以上の場合)は、その短軸の長さ(短径)が上記範囲に含まれていることが好ましく、長軸の長さ(長径)は上記の範囲を超えるものであってもよい。
【0035】
B−2.熱処理
ソルボサーマル反応により得られたリン酸マンガンリチウム粒子の熱処理温度は、好ましくは350℃以上、より好ましくは350℃〜700℃、さらに好ましくは360℃〜650℃、特に好ましくは400℃〜600℃である。350℃より低いと、カーボン層が良好に形成されないおそれがある。一方、700℃より高いと、結晶成長が進み粒子サイズが大きくなるおそれがある。本発明によれば、このような低い熱処理温度でカーボン層を形成することができる。
【0036】
熱処理時間は、好ましくは10分〜4時間、より好ましくは30分〜3時間、さらに好ましくは1時間〜2時間である。4時間より長いと、結晶成長が進み粒子サイズが大きくなるおそれがある。熱処理を行う環境は、特に限定されず、大気下であってもよいし、不活性気体の雰囲気下であってもよい。不活性気体の雰囲気下で熱処理することにより、グラファイトが形成され得る。不活性気体としては、任意の適切な不活性気体が用いられる。例えば、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、窒素等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0037】
B−3.その他
本発明において、任意の適切なタイミングで、他の処理を行ってもよい。他の処理としては、例えば、洗浄処理、乾燥処理、粉砕処理などが挙げられる。1つの実施形態においては、ソルボサーマル反応により得られたリン酸マンガンリチウム粒子を洗浄・乾燥後、必要に応じて、粉砕する。洗浄溶媒としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノール等が挙げられる。乾燥温度は、例えば、50℃〜100℃である。粉砕方法としては、特に限定されず、例えば、乳鉢やビーズミルによる粉砕が挙げられる。他の処理の別の具体例としては、撹拌処理が挙げられる。1つの実施形態においては、ソルボサーマル反応に際し、撹拌処理を行う。このような実施形態によれば、より粒子径の小さい粒子が得られ得る。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
ガラス容器に50mLの1,4−ブタンジオールと50mLのオレイルアミンを入れ、さらにLiOH・HOを1.58g、Mn(acac)・2HOを9.21gおよびリン酸を3.74g加えて攪拌した。こうして得られた懸濁液をオートクレーブ内にセットして密閉後、系内をアルゴンで置換した。次いで300℃まで2時間で昇温し、その後300℃で2時間保持した後、放冷した。
放冷後、オートクレーブを開けたところ、試験管内には黄色の上澄み液と白色の析出物が生成していた。この析出物をアセトンで洗浄し、乾燥して5.14gの固体を得た。この固体をX線回折で分析したところ、オリビン型リン酸マンガンリチウム結晶であることが確認された。また、この固体のTEM観察結果を図1に示す。長径(一次粒子径)は20〜200nmであり、短径(一次粒子径)は20〜100nmであった。
【0040】
得られたリン酸マンガンリチウム粒子を、大気下、400℃で1時間焼成した。焼成した粒子をTEM−EDS観察したところ、長径(一次粒子径)は50〜200nm、短径(一次粒子径)は20〜100nmであり、その表面には図2に示すように非晶質のカーボン層(厚み:1nm以下)が形成されていることが確認された。また、3つの粒子それぞれの任意の5点のEDS測定の結果、3粒子全ての点で炭素が検出された。
【0041】
[実施例2]
ガラス容器に50mLの1,4−ブタンジオールと50mLのオレイルアミンを入れ、さらにLiOH・HOを0.85g、Mn(acac)・2HOを5.00gおよびリン酸を2.01g加えて攪拌した。こうして得られた懸濁液をオートクレーブ内にセットして密閉後、系内をアルゴンで置換した。次いで300℃まで2時間で昇温し、その後300℃で2時間保持した後、放冷した。
放冷後、オートクレーブを開けたところ、試験管内には黄色の上澄み液と白色の析出物が生成していた。この析出物をアセトンで洗浄し、乾燥して2.5gの固体を得た。この固体をX線回折で分析したところ、オリビン型リン酸マンガンリチウム結晶であることが確認された。また、この固体をTEM観察したところ、長径(一次粒子径)は20〜150nmであり、短径(一次粒子径)は20〜100nmであった。
【0042】
得られたリン酸マンガンリチウム粒子を、大気下、400℃で1時間焼成した。焼成した粒子をTEM−EDS観察したところ、長径(一次粒子径)は50〜200nm、短径(一次粒子径)は25〜100nmであり、その表面には非晶質のカーボン層(厚み:1nm以下)が形成されていることが確認された。また、3つの粒子それぞれの任意の5点のEDS測定の結果、3粒子全ての点で炭素が検出された。
【0043】
[実施例3]
ガラス容器に70mLの1,4−ブタンジオールを入れ、さらにLiOH・HOを0.84g、Mn(acac)・2HOを5.04gおよびリン酸を2.01g加えて攪拌した。こうして得られた懸濁液をオートクレーブ内にセットして密閉後、系内をアルゴンで置換した。次いで300℃まで2時間で昇温し、その後300℃で2時間保持した後、放冷した。
放冷後、オートクレーブを開けたところ、試験管内には黄色の上澄み液と白色の析出物が生成していた。この析出物をアセトンで洗浄し、乾燥して2.3gの固体を得た。この固体をX線回折で分析したところ、オリビン型リン酸マンガンリチウム結晶であることが確認された。また、この固体をTEM観察したところ、長径(一次粒子径)は100〜700nmであり、短径(一次粒子径)は100〜300nmであった。
【0044】
得られたリン酸マンガンリチウム粒子をビーズミルで粉砕後、大気下、400℃で1時間焼成した。焼成した粒子をTEM−EDS観察したところ、長径(一次粒子径)は100〜300nm、短径(一次粒子径)は100〜300nmであり、その表面には非晶質のカーボン層(厚み:1nm以下)が形成されていることが確認された。また、3つの粒子それぞれの任意の5点のEDS測定の結果、3粒子全ての点で炭素が検出された。
【0045】
[実施例4]
図5に示すような2ライン送液の流通式反応装置(流路の内径は4.35mm)を用意し、系内を予めアルゴンで置換した。
第1原料液供給部11に第1原料液(エタノール溶液:エタノール100g、1,4−ブタンジオール1.52g、ビス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン(II)2水和物0.13gおよび水酸化リチウム1水和物0.021g)を準備し、第2原料液供給部12に第2原料液(エタノール溶液:エタノール100g、1,4−ブタンジオール0.251gおよびリン酸0.059g)を準備し、供給部内をそれぞれアルゴンで置換した。
第1の原料液と第2の原料液とを、それぞれプランジャーポンプにて6ml/minで、混合部15を経て反応部21へ送液した。この際、反応部21の温度を300℃とし、反応部21の滞留時間が37秒となるように流路長を調節し、系の圧力が20MPaとなるように背圧弁にて調節した。このような流通方式の反応を3時間半、連続的に行い、2520mlの反応液を回収した。
この回収液を、遠心分離、メタノールによる洗浄およびアセトンによる洗浄をこの順で3回繰り返し、乾燥することにより、白色の粒子を得た。得られた粒子についてX線回折で分析を行った結果、やや結晶性の低いオリビン型リン酸マンガンリチウムであることが確認された。また、この固体のTEM観察結果を図3に示す。長径(一次粒子径)は7〜15nmであり、短径(一次粒子径)は7〜15nmであった。
【0046】
得られたリン酸マンガンリチウム粒子を、大気下、400℃で1時間焼成した。焼成した粒子をTEM−EDS観察したところ、長径(一次粒子径)は10〜50nm、短径(一次粒子径)は10〜25nmであり、その表面には図4に示すように非晶質のカーボン層(厚み:1nm以下)が形成されていることが確認された。また、3つの粒子それぞれの任意の5点のEDS測定の結果、3粒子全ての点で炭素が検出された。
【0047】
[実施例5]
ガラス容器に50mLの1,4−ブタンジオールと50mLのオレイルアミンを入れ、さらにLiOH・HOを1.04g、Mn(acac)・2HOを6.11gおよびリン酸を2.50g加えて攪拌した。こうして得られた懸濁液をオートクレーブ内にセットして密閉後、系内をアルゴン窒素で置換した。次いで300rpmで撹拌しながら300℃まで2時間で昇温し、その後300℃で2時間保持した後、放冷した。
放冷後、オートクレーブを開けたところ、試験管内には黄色の上澄み液と白色の析出物が生成していた。この析出物をアセトンで洗浄し、乾燥して3.4gの固体を得た。この固体をX線回折で分析したところ、オリビン型リン酸マンガンリチウム結晶であることが確認された。また、この固体をTEM観察したところ、長径(一次粒子)は20〜200nmであり、短径(一次粒子)は20〜50nmであった。
【0048】
得られたリン酸マンガンリチウム粒子を、アルゴン雰囲気下、600℃で1時間焼成した。焼成した粒子をTEM−EDS観察したところ、長径(一次粒子径)は50〜200nmであり、短径(一次粒子径)は20〜50nmであり、粒子間の融着は見られなかった。また、任意の3粒子についてEDS測定したところ、それぞれの粒子の任意の5点全てで炭素が検出された。さらに、ラマン散乱分光分析では、グラファイトのDバンドが1330cm−1に観測され、グラファイトのGバンドが1570−1600cm−1に観測された。以上の結果より、粒子の表面にグラファイトが形成されており、それによって粒子間の融着が抑制されていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、粒子径が小さく、粒子表面に極めて薄いカーボン層が形成されており、粒子間の導電性が非常に高い。したがって、本発明のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子は、例えば、リチウム二次電池用正極材料として好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸マンガンリチウム粒子と、該リン酸マンガンリチウム粒子表面に形成されたカーボン層とを有するカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子であって、
不活性気体で置換された密閉容器内で、マンガン化合物とリチウム化合物とリン酸原料とを、グリコールを含む反応媒体中、250℃〜350℃でソルボサーマル反応させて得られた生成物を、350℃以上で熱処理することにより得られる、カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子。
【請求項2】
前記グリコールが、1,4−ブタンジオールである、請求項1に記載のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子。
【請求項3】
平均1次粒子径が3nm〜300nmの粒子である、請求項1または2に記載のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子。
【請求項4】
前記カーボン層の厚みが0.3nm〜6nmである、請求項1から3のいずれかに記載のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のカーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子を含む、リチウム二次電池用正極材料。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウム二次電池用正極材料を含む、リチウム二次電池。
【請求項7】
不活性気体で置換された密閉容器内で、マンガン化合物とリチウム化合物とリン酸原料とを、グリコールを含む反応媒体中、250℃〜350℃でソルボサーマル反応させる工程と、
該ソルボサーマル反応により得られた生成物を350℃以上で熱処理する工程と
を含む、カーボン被覆リン酸マンガンリチウム粒子の製造方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107815(P2013−107815A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−233380(P2012−233380)
【出願日】平成24年10月23日(2012.10.23)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】