説明

ガイドワイヤ

【課題】ガイドワイヤ先端側での滑り性を向上させ、分岐部での管状器官の選択性を向上させると共に、ガイドワイヤ基部側でのチューブに対する保持力を増大させるガイドワイヤを提供する。
【解決手段】このガイドワイヤ10は、芯線20と、この芯線20の外周に被覆された樹脂膜40とからなり、このガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなし、この凹凸状外周面43の基端からガイドワイヤ基端までの外周面が凹凸のない平滑面47をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、血管、尿管、胆管、気管等の人体の管状器官内に、カテーテル等のチューブを挿入する際に用いられるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、尿管、胆管、気管などの人体の管状器官における検査・治療のため、チューブ状のカテーテルを挿入して造影剤や制癌剤等の薬剤を投与したり、カテーテルを通して鉗子等によって組織の一部を採取したりすることが行われている。このカテーテルの挿入に際しては、管状器官内に比較的細くて柔軟なガイドワイヤを挿入し、その先端を目的箇所に到達させた後、このガイドワイヤの外周に沿ってカテーテルを挿入するようにしている。
【0003】
従来のこの種のガイドワイヤとして、下記特許文献1には、複数色で色分けされた凹凸状の螺旋模様を少なくとも一部に有する樹脂膜で芯線の外周を被覆したガイドワイヤが開示されている。その実施形態には、芯線の基部側に、凹凸状の螺旋模様を有する樹脂膜が被覆されていることが記載されている。
【0004】
下記特許文献2には、芯線を有するワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の外周に部分的に設けられた隆起部形成層と、少なくとも前記隆起部形成層の形成領域において、前記隆起部形成層および前記ワイヤ本体を被覆する被覆層とを備え、当該ガイドワイヤの外表面において、前記隆起部形成層が設けられている部位が、前記隆起部形成層が設けられていない部位に対して隆起しているガイドワイヤが開示されている。前記隆起部形成層は、芯線先端から基端に至るまで設けられており、その結果、隆起部形成層およびワイヤ本体を被覆する被覆層の外周が、ガイドワイヤ先端から基端にかけて凹凸状をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−97662号公報
【特許文献2】特開2008−264498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のガイドワイヤは先端側が凹凸状ではないため、管状器官内にガイドワイヤを先端側から挿入するときに、ガイドワイヤ先端側での管状器官内壁に対する接触面積が大きくなり滑り性が低い。その結果、複数の分岐管が枝分かれした分岐部にて、目的の分岐管にガイドワイヤ先端を挿入しにくく、管状器官の選択性に問題があった。
【0007】
また、ガイドワイヤを介してカテーテルやシース等のチューブを管状器官内に挿入する際には、ガイドワイヤ先端を予め管状器官の目的箇所に留置した状態で、ガイドワイヤ外周に沿ってチューブを移動させていく。この際には、一方の手でガイドワイヤの基部側を把持固定しつつ、他方の手でチューブを把持して操作するが、このとき、ガイドワイヤやチューブから手を離して別の作業を行いたい場合がある。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、2のガイドワイヤは、いずれも基部側が凹凸状をなしているので、チューブ内周に対するガイドワイヤの接触面積が少なく、ガイドワイヤがチューブに対して滑りやすくなっていることから、ガイドワイヤやチューブから手を離すと、チューブに対してガイドワイヤが動いてしまい、目的箇所に留置させたガイドワイヤが、位置ずれてしまうことがあった。この場合、再度ガイドワイヤの位置を修正しなければならず、作業性に支障が生じる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ガイドワイヤの、管状器官への挿入方向先端側での滑り性を向上させて、分岐部での管状器官の選択性を向上させると共に、ガイドワイヤ基部側でのチューブに対する保持力を増大させるガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一つは、芯線と、この芯線の外周に被覆された樹脂膜とからなるガイドワイヤであって、このガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなし、この凹凸状外周面の基端からガイドワイヤ基端までの外周面が凹凸のない平滑面をなしていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一つのガイドワイヤにおいては、前記芯線は、基部と、該基部からガイドワイヤ先端に向けて縮径された縮径部とを有し、前記樹脂膜は、前記芯線の縮径部の途中又は前記基部の先端側に至る部分を被覆し、前記凹凸状外周面を有する凹凸状樹脂膜と、該凹凸状樹脂膜の基端から前記芯線の基部の基端までを覆う平滑状樹脂膜とを有していることが好ましい。
【0012】
また、本発明のもう一つは、芯線と、この芯線の外周に被覆された樹脂膜とからなるガイドワイヤであって、このガイドワイヤの両端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなし、この凹凸状外周面の間に位置する外周面が凹凸のない平滑面をなしていることを特徴とする。
【0013】
上記本発明のもう一つのガイドワイヤにおいては、前記芯線は、その両端が縮径された縮径部をなし、該縮径部の間の部分が縮径部よりも太い基部をなしており、前記樹脂膜は、前記芯線の両端からその縮径部の途中又は前記基部の端部側に至る部分を被覆し、前記凹凸状外周面を有する凹凸状樹脂膜と、該凹凸状樹脂膜の間の部分を覆う平滑状樹脂膜とを有していることが好ましい。
【0014】
本発明のガイドワイヤにおいては、前記凹凸状樹脂膜には親水性処理が施されており、前記平滑状樹脂膜には撥水性処理が施されていることが好ましい。
【0015】
本発明のガイドワイヤにおいては、血管内に挿入する際に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲の外周面、又は、ガイドワイヤの両端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が、凹凸状をなしているので、ガイドワイヤを管状器官内に挿入するときに、ガイドワイヤの、管状器官への挿入方向先端側の、管状器官内壁に対する接触面積を少なくして摩擦抵抗を低減することができ、ガイドワイヤ先端側の滑り性を向上させて、管状器官内をスムーズに移動させていくことができる。また、ガイドワイヤの滑り性が良いので、複数の分岐管が枝分かれした分岐部において、所望の分岐管に挿入しやすくなり、分岐部での管状器官の選択性を向上させる。
【0017】
更に、ガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなしている場合における、凹凸状周面の基端からガイドワイヤ基端までの外周面、又は、ガイドワイヤの両端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなしている場合における、凹凸状外周面の間に位置する外周面が、凹凸のない平滑面をなしているので、ガイドワイヤ外周に沿って挿入されたカテーテル等のチューブ内周に対する、ガイドワイヤの基部の接触面積が増大する。その結果、ガイドワイヤの基部外周とチューブ内周との間の摩擦力が増大して、ガイドワイヤから手を離しても、チューブに対してガイドワイヤが位置ずれしにくくなり、所定位置に保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のガイドワイヤの一実施形態を示す、断面説明図である。
【図2】同ガイドワイヤの側面図である。
【図3】同ガイドワイヤにおける凹凸状外周面の他形状を示しており、(a)は環状の凸部を軸方向に所定間隔で設けた場合の説明図、(b)は軸方向に伸びる突条を設けた場合の説明図、(c)は(b)のA−A矢示線における断面図、(d)は芯線外周に環状の凸部を軸方向に所定間隔で設けた場合の説明図、(e)は芯線外周に環状の凹溝を軸方向に所定間隔で設けた場合の説明図である。
【図4】同ガイドワイヤの使用状態を示し、(a)は分岐部での状態を示す説明図、(b)はガイドワイヤ手元側での状態を示す説明図である。
【図5】本発明のガイドワイヤの他の実施形態を示す、断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明のガイドワイヤの一実施形態について説明する。
【0020】
図1,2に示すように、この実施形態におけるガイドワイヤ10は、先端側に縮径部23を有する芯線20と、この芯線20の前記縮径部23の外周に装着されたコイル30と、前記芯線20の外周及び前記コイル30の外周に被覆された樹脂膜40とを備えている。そして、図2に示すように、ガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状外周面43をなし、この凹凸状外周面43の基端からガイドワイヤ基端までの外周面が凹凸のない平滑面47をなしている。なお、以下の説明において、ガイドワイヤの基部とは、凹凸のない平滑面47をなした部分を意味する。
【0021】
図1に示すように、前記芯線20は、一定径にて所定長さで伸びる基部21と、この基部21先端からガイドワイヤ先端に向かって次第に縮径されつつ伸びるテーパ部24と、同テーパ部24の先端から一定径で直線状に伸びる細径部25とを有している。前記テーパ部24及び細径部25が、本発明における縮径部23をなしている。なお、前記縮径部23は、その全体が先端に向かって次第に縮径する先細テーパ形状としてもよく、先端に向かって段階的に縮径させて段状をなす構造としてもよく、特に限定されない。
【0022】
上記芯線20の材質としては、例えば、Ni−Ti合金、Ni−Ti−X(X=Fe,Cu,V,Co等)合金、Cu−Zn−X(X=Al,Fe等)合金等の超弾性合金、又は、ステンレス、ピアノ線材、更には、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、W、Ag、Bi、Ta及びこれらの合金等からなるX線不透過性の材料が好ましく用いられる。
【0023】
上記芯線20の縮径部23の外周に装着されたコイル30は、例えば、Ni−Ti合金、Ni−Ti−X(X=Fe,Cu,V,Co等)合金、Cu−Zn−X(X=Al,Fe等)合金等の超弾性合金、又は、ステンレス、ピアノ線材、更には、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、W、Ag、Bi、Ta及びこれらの合金等からなるX線不透過性の材料からなる金属の線材を巻回して形成されている。
【0024】
この実施形態のコイル30は、基部側が線材どうしを密接して巻回した密巻き部31とされ、プッシュアビリティを保持できると共に、先端側が線材間に隙間を有する粗巻き部33とされて、柔軟性を確保できるようになっている。
【0025】
そして、このコイル30の内周に芯線20の縮径部23が挿通され、密巻き部31の基端がロウ材からなる接合部35を介してテーパ部24外周に固着され、粗巻き部33の先端がロウ材からなる丸い頭部36を介して細径部25の先端に固着され、更に、コイル30内周と芯線20外周との間の空隙に接着剤37が充填されて、芯線20の縮径部23の外周にコイル30が装着されている。
【0026】
上記芯線20の外周全体、及び、同芯線20の縮径部23の装着されたコイル30の外周には、樹脂膜40が被覆されている。この実施形態における樹脂膜40は、芯線20の先端から基部21の先端側に至る部分を被覆する凹凸状樹脂膜41と、この凹凸状樹脂膜41の基端から芯線20の基端までを覆う平滑状樹脂膜45とを有している。
【0027】
この実施形態の凹凸状樹脂膜41は、先端部41aが閉塞されていると共に、基端側が開口した有底筒状のチューブ状をなしている。ここでは、芯線20の最先端から、縮径部23のテーパ部24を超えて、基部21の先端側に至る部分までを被覆可能なように伸びている。また、前記先端部41aは、最先端が丸みを帯びた先細テーパ状をなし、これにより管状器官内への挿入性が高められている。
【0028】
この凹凸状樹脂膜41は、例えば、ポリウレタン、ナイロンエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルや、更には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂を好ましく用いることができる。また、凹凸状樹脂膜41の外周には、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体等の親水性樹脂をコーティングさせる、親水性処理が施されていることが好ましい。
【0029】
図1,2に示すように、上記凹凸状樹脂膜41の外周には、軸方向に沿って所定ピッチPをあけて凸部43aが螺旋状に突設されており、これにより隣接する凸部43a,43aの間が螺旋状の凹部43bをなしていて、これらの凸部43a及び凹部43bが凹凸状樹脂膜41外周の軸方向に交互に連続して配置されて、螺旋状の凹凸状外周面43が形成されている。これによりガイドワイヤ先端側の、管状器官内壁に対する接触面積が少なくなるので、その摩擦抵抗を低減させて滑り性を向上できるようになっている。
【0030】
図1に示すように、この実施形態では、凹凸状樹脂膜41の先端部41aから軸方向に沿った所定範囲は、凹凸となっておらず平滑に形成されており、この平滑部分の基端から、凹凸状樹脂膜41の軸方向に沿った所定範囲に、凹凸状外周面43が形成されるようになっている(この範囲を、凹凸面形成範囲Lという)。この凹凸面形成範囲Lは、30〜200mmが好ましい。凹凸面形成範囲Lが上記範囲内であれば、ガイドワイヤ先端側の凹凸状外周面43の長さ、及び、ガイドワイヤ基部側の平滑面47の長さをバランス良く確保して、ガイドワイヤ先端側における滑り性、及び、ガイドワイヤ基部側におけるチューブに対する保持力の両者を高めることができる。なお、凹凸面形成範囲Lが30mm未満の場合は、ガイドワイヤ先端側での滑り性を確保しにくく、200mmを超える場合は、平滑面47が短くなりチューブに対する保持力を確保しにくくなる。
【0031】
なお、図2の部分拡大図に示すように、隣接する凸部43a,43b間のピッチPは、0.5mm以上が好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましく、1〜1.5mmであることが最も好ましい。上記ピッチPが0.5mm以上の場合は、隣接する凸部43a,43aどうしが適度な間隔で離れているので、上記のガイドワイヤ先端側での滑り性がよい一方、0.5mm未満の場合は、凸部43a,43aどうしが近すぎて、その凹凸が管状器官内壁に引っ掛かりやすくなり、かえって滑り性が低下する。
【0032】
また、凹凸状外周面43を形成する凸部43aと凹部43bとの高低差D(凸部43aの、ガイドワイヤ外径方向に最も突出した部分から、凹部43bの、ガイドワイヤ内径方向に最も凹んだ部分までの距離)は、0.01〜0.05mmであることが好ましく、0.01〜0.02mmであることがより好ましい。高低差Dが0.01mm未満では、滑り性の向上効果が期待できず、0.05mmを超える場合には、ガイドワイヤ10の外径が大きくなり、柔軟性が損なわれる結果となる。高低差Dが0.01〜0.05mmであれば、ガイドワイヤ10の外径をなるべく小径として、柔軟性を損なわない範囲で、管状器官に対するガイドワイヤ先端側での滑り性を、効果的に向上させることができる。
【0033】
また、図1に示すように、上記凹凸状樹脂膜41の厚さT(芯線20の基部21外周面からの突出高さ)は、0.09mm以上であることが好ましい。上記厚さTが0.09mm以上であれば、凹凸状樹脂膜41の内周に配置されるコイル30の形状に影響されることなく、凹凸状樹脂膜41の外周面に上述したような凹凸状外周面43を形成することができる。
【0034】
なお、凹凸状外周面43は、凹凸状樹脂膜41の外周に螺旋状の凸部43a及び凹部43bを設けることにより形成されるものに限定されない。例えば、図3(a)に示すように、凹凸状樹脂膜41の外周に、環状の凸部43cを軸方向に沿って所定間隔で設けることにより、凹凸状外周面43を形成してもよい。また、図3(b),(c)に示すように、軸方向に沿って長く伸びる突条43dを、凹凸状外周面43の外周に、所定間隔で均等に突設させることにより、凹凸状外周面43を形成してもよい。
【0035】
更に上記形態においては、凹凸状樹脂膜41自体に凹凸状外周面43を直接的に設けたが、これに限定されず、芯線20に凹凸を設けることにより、凹凸状樹脂膜41に凹凸状外周面43を間接的に形成してもよい。例えば、図3(d)に示すように、芯線20の外周に環状の凸部27を軸方向に沿って所定間隔で設け、これに凹凸状樹脂膜41を密着させて被覆させると、前記凸部27の突出形状に沿って凹凸状樹脂膜41が盛り上がり、その外周に凹凸状外周面43を形成することができる。また、図3(e)に示すように、芯線20の外周に環状の凹溝28を軸方向に沿って所定間隔で設け、これに凹凸状樹脂膜41を密着させて被覆させると、前記凹溝28内に凹凸状樹脂膜41が入り込んで凹むことにより、その外周に凹凸状外周面43を形成することができる。
【0036】
一方、上記凹凸状樹脂膜41の基端から芯線20の基端までを覆う平滑状樹脂膜45は、その外周に何ら凹凸のない平滑面47をなしており、この実施形態では、先端側が開口すると共に、基端側が閉塞した有底筒状のチューブ状をなしている。
【0037】
その材質は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、若しくは、ポリウレタン、ナイロンエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル等の合成樹脂が好ましく用いられる。また、平滑状樹脂膜45の外周には、シリコン樹脂やフッ素系樹脂等の撥水性樹脂をコーティングさせる、撥水性処理が施されていることが好ましい。
【0038】
なお、この実施形態においては、芯線20の先端外周にコイル30が装着されているが、これに限定されず、芯線30の先端外周にコイル30を装着せずに、芯線30全体を樹脂膜40で被覆して、本発明に係るガイドワイヤを構成してもよい。
【0039】
以上説明したガイドワイヤ10は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0040】
まず、図1,2に示すような、螺旋状の凹凸形状をなした凹凸状樹脂膜41の製造方法について説明する。すなわち、図示しない成形装置の成形ダイの孔に、チューブ成形用の芯材をセットし、この芯材を成形ダイの孔に通して、孔から所定速度で引き抜きつつ、芯材の外周に溶融樹脂を被着させることにより、チューブ状の樹脂膜が形成されるようになっている。
【0041】
このとき、溶融樹脂を供給する際の供給圧力を、一般的な供給圧力よりも高めると共に、成形ダイの孔からの芯材の引き抜き速度を、一般的な引き抜き速度よりも高速で引き抜くことにより、芯材の外周に凹凸状外周面43を有する樹脂膜を形成することができ、最後に上記樹脂膜から芯材を引き抜くことにより、チューブ状の凹凸状樹脂膜41を製造することができる。
【0042】
また、所定長さで切り出された所定径の素線に、適宜機械加工やエッチング加工を施して、基部21、テーパ部24、細径部25からなる芯線20を形成する。次いで、コイル30を、ロウ材からなる接合部35及び頭部36を介して、芯線20の所定箇所に固着することにより、芯線20の縮径部23の外周にコイル30を装着する。
【0043】
そして、ガイドワイヤ10の把持する部分となる手元側(基部側)の外周に平滑状樹脂膜45を被覆させると共に、ガイドワイヤ10先端側の芯線20及びコイル30の外周に凹凸状樹脂膜41を被覆させる。
【0044】
凹凸状樹脂膜41や平滑状樹脂膜45の被覆は、例えば引き抜き成形によって被覆することもでき、樹脂チューブを被せて接着剤で固着することもでき、ウレタン等の熱収縮性チューブからなる場合は、それを芯線20やコイル30の外周に被せた後、ヒータ等の加熱手段により加熱して熱収縮させることもでき、フッ素系樹脂等からなるチューブの場合は、メチルエチルケトン(MEK)等の溶剤により予め膨潤させ、それを芯線20やコイル30の外周に被せた後、溶剤を乾燥させて収縮させることもできる。
【0045】
この実施形態では、基端側の平滑上樹脂膜45は、溶剤により予め膨潤させ、それを芯線20の外周に被せた後、溶剤を乾燥させて収縮させることにより被覆され、先端側の凹凸状樹脂膜41は、ガイドワイヤ10先端側の芯線20及びコイル30の外周に接着剤37を介して固着することにより被覆している。こうして、図1,2に示すようなガイドワイヤ10を製造することができる。
【0046】
こうして得られたガイドワイヤ10は、例えば、周知のセルディンガー法において、カテーテルやシース等の医療用チューブを図示しない管状器官の目的箇所にまでガイドする際等に用いることができる。
【0047】
これについて図4(a),(b)を併せて参照する。図4(a)には、管状器官内にガイドワイヤを挿入していく際の説明図であって、特に、複数の分岐管V1,V2が枝分かれした分岐部Vにおいて、目的の分岐管にガイドワイヤ10の先端部を挿入する際の状態が示されている。また、図4(b)には、ガイドワイヤ10に沿ってチューブTを挿入したときの、ガイドワイヤ10の手元側(基部側)での状態が示されている。
【0048】
すなわち、穿刺針等や鞘状のシース等を介し皮膚を通して、管状器官内にガイドワイヤ10を挿入していく。このとき、このガイドワイヤ10においては、ガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲が凹凸状外周面43をなしているので、ガイドワイヤ10の、管状器官への挿入方向先端側の、管状器官内壁に対する接触面積を少なくして摩擦抵抗を低減することができ、ガイドワイヤ先端側の滑り性を向上させて、管状器官内をスムーズに移動させていくことができる。
【0049】
このようにガイドワイヤ10の、管状器官への挿入方向先端側での滑り性が良いので、図4(a)に示すような分岐部Vにおいて特に効果を発揮する。すなわち、複数の分岐管V1,V2が枝分かれした分岐部Vまでガイドワイヤ10の先端を到達させた後、ガイドワイヤ10の手元側を把持し回転させ、ガイドワイヤ10の先端部を所定の向きに回転させて、目的の分岐管(ここではV1)を選択する。そして、ガイドワイヤ10を分岐管V1に挿入していくのであるが、このとき、上述したように凹凸状外周面43を設けたことにより、ガイドワイヤ10の、管状器官への挿入方向先端側での滑り性が向上しているので、所望の分岐管V1にスムーズに挿入することができ、その結果、分岐部Vにおける管状器官の選択性を向上させることができる。
【0050】
一方、このガイドワイヤ10の、凹凸状外周面43の基端からガイドワイヤ基端までの外周面は、凹凸のない平滑面47をなしているので、図4(b)に示すように、ガイドワイヤ外周に沿って挿入されたチューブTの内周に、ガイドワイヤ10の手元側の外周が当接しやすくなり、チューブTの内周に対するガイドワイヤ10の手元側の基部の接触面積が増大することとなる。その結果、ガイドワイヤ10の基部外周とチューブT内周との間の摩擦力を増大させることができるので、ガイドワイヤ基部でのチューブTに対する保持力が向上し、ガイドワイヤ10やチューブTから手を離しても、チューブTに対してガイドワイヤ10が位置ずれしにくくなり、ガイドワイヤ10を所定位置に保持させることができる。そのため、ガイドワイヤ10が位置ずれした場合に必要な、ガイドワイヤ10の位置修正作業が不要となり、作業性を向上させることができる。
【0051】
また、この実施形態においては、樹脂膜40を、凹凸状外周面43を有する凹凸状樹脂膜41と、平滑状樹脂膜45とで構成されている。その結果、凹凸状樹脂膜41によりガイドワイヤ先端側の滑り性を向上させることができると共に、平滑状樹脂膜43によりチューブTに対するガイドワイヤ10の保持力を高めることができる。また、樹脂膜40を、凹凸状樹脂膜41と平滑状樹脂膜45とに分けて構成したので、凹凸状外周面43を有し複雑な形状をなす凹凸状樹脂膜41を、芯線20全体を覆う長さで形成する必要がなく、短い長さで部分的に形成すればよいので、製造コストを低減させることができる。
【0052】
更に、この実施形態においては、凹凸状樹脂膜41には親水性処理が施されている共に、平滑状樹脂膜45には撥水性処理が施されている。このように、凹凸状樹脂膜41に親水性処理が施されていることにより、ガイドワイヤの、管状器官への挿入方向先端側の滑り性をより向上させることができる。また、ガイドワイヤ10の基端部に把持具を装着しなくても、手で把持して回転させることができるので、分岐部Vにおいて所望の分岐管を選択するときの、ガイドワイヤ10の操作性を向上させることができる。一方、平滑状樹脂膜45に撥水性処理を施したことにより、ガイドワイヤ手元側の基部の樹脂が、薬液や造影剤等の液体によって剥離することを防止できるので、ガイドワイヤの基部を把持したときに剥離した樹脂によって滑りやすくなることを防いで、安定した操作性を得ることができる。
【0053】
また、この実施形態においては、ガイドワイヤ10は、血管内に挿入する際に用いられることが好ましい。これによれば、微細な分岐管が多い血管へのガイドワイヤ挿入作業において、より効果的に所望の分岐管を選択することができる。
【0054】
図5には、本発明のガイドワイヤの他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0055】
この実施形態におけるガイドワイヤ10aは、ガイドワイヤの両端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状外周面43をなし、両凹凸状外周面43,43の間に位置する外周面が凹凸のない平滑面47をなしている。なお、この実施形態における、ガイドワイヤの基部とは、凹凸状外周面43,43の間の平滑面47をなした部分を意味する。
【0056】
図5に示すように、芯線20aは、その両端が縮径された縮径部23a,23bをなし、これらの縮径部23a,23bの間の部分が、同縮径部23a,23bよりも太い基部21aをなしている。両縮径部23a,23bは、前記実施形態と同様に、テーパ部24及び細径部25からなり、それらの外周にはコイル30がそれぞれ装着されている。
【0057】
そして、芯線20aの外周及び両コイル30,30の外周が樹脂膜40により被覆されるようになっている。この実施形態における樹脂膜40aは、芯線20aの両端から基部21aの端部側に至る部分を被覆し、凹凸状外周面43を有する凹凸状樹脂膜41,41と、これらの凹凸状樹脂膜41,41の間の部分を覆う平滑状樹脂膜45とを有している。
【0058】
なお、この実施形態では、芯線20aの縮径部23a,23bの最大外径Da,Dbは同一で、その軸方向に沿った長さLa,Lbも同一となっている。しかし、これに限定されるものではなく、例えば、(1)縮径部23a,23bの最大外径Da,Daを異なる外径とする一方、長さLa,Lbを同一長さとしたり、(2)縮径部23a,23bの長さLa,Lbを異なる長さとする一方、最大外径Da,Dbを同一外径としたり、(3)縮径部23a,23bの長さLa,Lbを同一長さとする一方、最大外径Da,Dbを異なる外径としたりしてもよい。
【0059】
上記(1)〜(3)のような形態として場合、細い内径の血管や、比較的太い内径の消化管に挿入する場合等、ガイドワイヤの適用箇所に応じて、使用する端部を適宜選択して用いることができ、使用者の利便性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 ガイドワイヤ
20 芯線
21 基部
23 縮径部
40 樹脂膜
41 凹凸状樹脂膜
43 凹凸状外周面
45 平滑状樹脂膜
47 平滑面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線と、この芯線の外周に被覆された樹脂膜とからなるガイドワイヤであって、
このガイドワイヤ先端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなし、この凹凸状外周面の基端からガイドワイヤ基端までの外周面が凹凸のない平滑面をなしていることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記芯線は、基部と、該基部からガイドワイヤ先端に向けて縮径された縮径部とを有し、
前記樹脂膜は、前記芯線の先端から前記縮径部の途中又は前記基部の先端側に至る部分を被覆し、前記凹凸状外周面を有する凹凸状樹脂膜と、該凹凸状樹脂膜の基端から前記芯線の基部の基端までを覆う平滑状樹脂膜とを有している請求項1記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
芯線と、この芯線の外周に被覆された樹脂膜とからなるガイドワイヤであって、
このガイドワイヤの両端から軸方向に沿った所定範囲の外周面が凹凸状をなし、この凹凸状外周面の間に位置する外周面が凹凸のない平滑面をなしていることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項4】
前記芯線は、その両端が縮径された縮径部をなし、該縮径部の間の部分が縮径部よりも太い基部をなしており、
前記樹脂膜は、前記芯線の両端からその縮径部の途中又は前記基部の端部側に至る部分を被覆し、前記凹凸状外周面を有する凹凸状樹脂膜と、該凹凸状樹脂膜の間の部分を覆う平滑状樹脂膜とを有している請求項3記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記凹凸状樹脂膜には親水性処理が施されており、前記平滑状樹脂膜には撥水性処理が施されている請求項1〜4のいずれか1つに記載のガイドワイヤ。
【請求項6】
血管内に挿入する際に用いられる請求項1〜5のいずれか1つに記載のガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−152211(P2011−152211A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14355(P2010−14355)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(599140507)株式会社パイオラックスメディカルデバイス (37)
【Fターム(参考)】