説明

ガイドワイヤ

【課題】先端部の柔軟性と狭窄部に対する通過性を両立することが可能なガイドワイヤを提供する。
【解決手段】ガイドワイヤ10Aは、ワイヤ本体12と、ワイヤ本体12の先端外周部を覆うコイル14と、コイル14の内側に配置された伸縮部材16とを備える。コイル14は、伸縮部材16の伸縮に伴ってワイヤ本体12に対して移動可能であり、伸縮部材16は、先端側がコイル14の先端に固定され、基端側がワイヤ本体12の先端に固定され、収縮した際に伸縮部材16自体が密となることで剛性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルを消化管、血管等の生体管腔内に挿入する際に当該カテーテルのルーメンに挿通して用いられるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、例えばPTCA術(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty:経皮的冠状動脈血管形成術)のような、外科的手術が困難な部位の治療、または人体への低侵襲を目的とした治療や、心臓血管造影などの検査に用いられるカテーテルを誘導するのに使用される。PTCA術に用いられるガイドワイヤは、ガイドワイヤの先端をバルーンカテーテルの先端より突出させた状態にて、バルーンカテーテルと共に目的部位である血管狭窄部付近まで挿入され、バルーンカテーテルの先端部を血管狭窄部付近まで誘導する。
【0003】
血管は、複雑に湾曲しており、バルーンカテーテルを血管の目的とする位置に配置するために用いられるガイドワイヤには、曲げに対する適度の柔軟性および復元性、基端部における操作を先端側に伝達するための押し込み性およびトルク伝達性(これらを総称して「操作性」という)、さらには耐キンク性(耐折れ曲がり性)等が要求される。そこで、上記の要求を満たすべく、従来のガイドワイヤには、ワイヤ本体(コアシャフト)の外周にコイルが外装されて構成され、ワイヤ本体の先端部を柔軟性向上のため細く加工したものがある(例えば、下記特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−65795号公報
【特許文献2】実開平3−122849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のガイドワイヤにあっては、ワイヤ本体の細径化、先端部の平板化等により柔軟性にバリエーションを持たせており、医療現場においては、使用目的や状況に応じて様々な剛性のガイドワイヤが使用される。
【0006】
血管狭窄部の狭窄状態によっては、ガイドワイヤの先端部が狭窄部を通過することができない場合がある。しかし、当初から先端部の曲げ剛性が極めて大きいガイドワイヤを用いることは、血管壁に損傷を及ぼすおそれがあるため、避けなければならない。そこで、ガイドワイヤを狭窄部に到達させるまでは、先端が柔軟なガイドワイヤが使用される。
【0007】
ガイドワイヤの先端部が狭窄部を通過できない場合には、従来では、一旦ガイドワイヤを血管から抜去した後、先端部の曲げ剛性がより大きいガイドワイヤを別途用意し、これを用いて再度、血管狭窄部の通過を試みる。このように、従来のガイドワイヤは、先端の柔軟性と狭窄部に対する通過性のうち、一方が優れば他方が劣るというものであり、状況に応じてガイドワイヤの交換が必要となる課題がある。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、先端部の柔軟性と狭窄部に対する通過性を両立することが可能なガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係るガイドワイヤは、本体を構成し、先端が基端よりも柔軟に構成されたワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の少なくとも先端外周部を覆うコイルと、前記コイルの内側に配置され、軸線方向に弾性的に伸縮可能な伸縮部材とを備え、前記コイルは、前記伸縮部材の伸縮に伴って前記ワイヤ本体に対して移動可能であり、前記伸縮部材は、先端側が前記コイルの先端に固定され、基端側が前記ワイヤ本体の先端に固定され、収縮した際に当該伸縮部材が密となることで剛性が高まることを特徴とする。
【0010】
上記の本発明の構成によれば、ワイヤ本体の先端とコイルの先端との間が伸縮部材により接続されているので、ガイドワイヤの先端部が狭窄部に到達するまでは先端の柔軟性を確保できる。また、ガイドワイヤの先端部が血管内の狭窄部に到達し、最先端が狭窄部にトラップされた際にさらに押し込むと、伸縮部材が収縮して剛性が高くなるので、狭窄部に対する通過性を向上できる。このように、1本のガイドワイヤで、先端部の柔軟性と狭窄部に対する通過性を両立することが可能である。
【0011】
上記のガイドワイヤにおいて、前記ワイヤ本体における、前記コイルよりも基端側に、前記コイルが伸長した際に前記コイルの所定以上の移動を阻止する第1ストッパが設けられるとよい。
【0012】
ガイドワイヤの先端部を狭窄部に通過させた後、さらに押し込むとコイルが伸長するが、第1ストッパにより一定以上のコイルの伸長が阻止されるので、コイルに対するダメージを防止することができる。
【0013】
上記のガイドワイヤにおいて、前記コイルの基端部には、前記ワイヤ本体が挿通されたリング状のガイド部材が設けられ、前記ワイヤ本体の前記コイルに覆われた部分には、前記コイルが前記ワイヤ本体に対して相対的に先端方向に移動する際に前記ガイド部材の先端面に当接する第2ストッパが設けられるとよい。
【0014】
このような第2ストッパを設けると、ガイドワイヤを狭窄部から引き抜く際や、カテーテルから引き抜く際に、コイルが狭窄部又はカテーテル先端開口に引っ掛かっても、一定以上の編組体の伸長が阻止されるので、編組体に対するダメージを防止することができる。
【0015】
上記のガイドワイヤにおいて、前記コイルの基端部には、前記ワイヤ本体が挿通されたリング状のガイド部材が設けられるとよい。
【0016】
このようなガイド部材を設けると、コイルのワイヤ本体に対する相対移動をスムーズにすることができる。
【0017】
上記のガイドワイヤにおいて、前記伸縮部材は、細線が織り合わされた編組体であるとよい。
【0018】
伸縮部材が編組体である場合、編組体の長さが収縮した際に同時に拡径するので、編組体の外周面とコイルの内周面との間のクリアランスが小さくなり、結果としてガイドワイヤの先端部の剛性が高まる。よって、狭窄部に対する通過性をより向上することができる。
【0019】
上記のガイドワイヤにおいて、前記編組体が軸線方向への収縮に伴って拡径した際に、前記編組体の外周面と前記コイルの内周面とが接触するとよい。
【0020】
このような構成によれば、ガイドワイヤの先端部が狭窄部にトラップされた際にガイドワイヤの先端部を一層効果的に硬くすることができ、狭窄部に対する通過性をより向上することができる。
【0021】
上記のガイドワイヤにおいて、前記伸縮部材は、粗巻きのコイルスプリングであるとよい。
【0022】
このように伸縮部材が粗巻きのコイルスプリングにより構成された場合でも、長さが収縮した際に密となることで剛性が高くなり、ガイドワイヤの先端部の狭窄部に対する通過性を向上できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガイドワイヤによれば、先端部の柔軟性と狭窄部に対する通過性を両立することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係るガイドワイヤの一部省略縦断面図である。
【図2】図1に示したガイドワイヤの作用を説明する図であって、血管内の狭窄部に到達する前のガイドワイヤを示す一部省略縦断面図である。
【図3】図1に示したガイドワイヤの作用を説明する図であって、血管内の狭窄部に到達して狭窄部にトラップされたときのガイドワイヤを示す一部省略縦断面図である。
【図4】図1に示したガイドワイヤの作用を説明する図であって、狭窄部を通過した後に、さらに押し込んだときのガイドワイヤを示す一部省略縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るガイドワイヤの一部省略縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るガイドワイヤの一部省略縦断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るガイドワイヤの一部省略縦断面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るガイドワイヤの一部省略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るガイドワイヤについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本発明のガイドワイヤ10Aの第1実施形態を示す縦断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中(図2〜図8も同様)の右側を「基端」、左側を「先端」と言う。また、図1(図2〜図8も同様)では、理解を容易にするため、ガイドワイヤ10Aの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤ10Aの太さ方向を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と太さ方向の比率は実際とは異なる。
【0027】
図1に示すガイドワイヤ10Aは、カテーテル(内視鏡も含む)の内腔に挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤ(経内視鏡用ガイドワイヤ)である。ガイドワイヤ10Aは、線材で構成されたワイヤ本体(コアシャフト)12と、ワイヤ本体12の先端部を覆うコイル14と、ワイヤ本体12とコイル14とを接続する伸縮部材16とを備える。
【0028】
ガイドワイヤ10Aの全長は、特に限定されないが、200〜5000mm程度であるのが好ましい。また、ガイドワイヤ10Aの外径は、特に限定されないが、通常、0.2〜1.2mm程度であるのが好ましい。
【0029】
ワイヤ本体12は、可撓性または柔軟性を有する線材である。図1に示すように、比較的外径の大きい本体部18と、本体部18より先端側に位置し、先端方向に向かって外径が漸減する第1テーパ部19および第2テーパ部20と、両テーパ部19、20の間に位置し、長手方向に沿って外径がほぼ一定の中間部21と、第2テーパ部20より先端側に位置する細径部22と、細径部22より先端側に位置するリシェイプ部23とを有している。このようなワイヤ本体12では、先端が基端よりも柔軟に構成されている。本体部18、第1テーパ部19、中間部21、第2テーパ部20及び細径部22の断面は、円形である。
【0030】
ワイヤ本体12は、第1テーパ部19や第2テーパ部20を有することで、ワイヤ本体12の剛性を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、挿入の操作性の向上とともに、折れ曲がり等も防止することができる。ワイヤ本体12の第1テーパ部19より先端側の部分は、コイル14の内側のほぼ中心部に挿通されている。図示の構成では、ワイヤ本体12の第1テーパ部19より先端側の部分は、コイル14の内面と非接触で挿通されている。
【0031】
ワイヤ本体12の構成材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti系合金などの各種金属材料を使用することができる。ワイヤ本体12は、その全長に渡って、例えばステンレス鋼やNi−Ti系合金のような単一の材料で構成することもできるが、異なる材料を組み合わせて形成することもできる。例えば、本体部18(基端側部分)をステンレス鋼のような比較的高剛性の材料で構成し、本体部18より先端側、すなわち図示の実施形態では、第1テーパ部19、中間部21、第2テーパ部20および細径部22をNi−Ti系合金のようなステンレス鋼よりも剛性の小さい材料で構成することができる。これにより、ガイドワイヤ10Aは、優れた押し込み性やトルク伝達性を得て良好な操作性を確保しつつ、先端側においては良好な柔軟性、復元性を得て血管への追従性、安全性が向上する。
【0032】
リシェイプ部23は、ワイヤ本体12と同じ材料で構成され、プレスされることにより平板状に形成されている。これにより、ワイヤ本体12の最先端を柔軟に構成することができる。また、リシェイプ部23は、ステンレス鋼のような塑性変形可能(リシェイプ可能)な材料で構成されてもよい。これにより、前述したリシェイプ(形状付け)を容易かつ確実に行うことができる。すなわち、医師等が手指でガイドワイヤ10Aの先端部分をリシェイプ(形状付け)する際に、リシェイプ部23が塑性変形して、希望通りの形状を形作り、かつその形状を維持することができる機能を発揮する。なお、ここで、「リシェイプ可能」とは、リシェイプ部23を所望の形状に曲げて形状を保持できることを言う。
【0033】
ワイヤ本体12は、その外周面(外表面)の全部または一部を覆う合成樹脂製の潤滑性を有する被覆13を有していてもよい。図示した構成例において、被覆13は、本体部18、第1テーパ部19及び中間部21の基端側にわたって設けられている。このような被覆13を設けることにより、ガイドワイヤ10Aとともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦が低減されて摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ10Aの操作性がより良好なものとなる。このような被覆13の構成材料としては、例えば、フッ素系樹脂(PTFE、ETFE等)が挙げられる。
【0034】
コイル14は、素線(細線)を螺旋状に密巻きに巻回してなる部材である。すなわち、コイル14は、外力を付与しない状態で、螺旋状の各部位が軸線方向に隙間なく密に配置されている。コイル14は、先端部にて伸縮部材16に固定されているだけであり、その基端部はワイヤ本体12に対してフリーであるため、伸縮部材16の伸縮の範囲内で、ワイヤ本体12に対して軸線方向に移動可能である。
【0035】
コイル14を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti系合金のような超弾性合金、形状記憶合金、コバルト系合金、金、白金のような貴金属、タングステン系合金等が挙げられる。特に、貴金属、タングステン系合金のようなX線不透過材料を用いることにより、ガイドワイヤ10AにX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができ、好ましい。
【0036】
コイル14の基端部には、ワイヤ本体12が挿通されたリング状のガイド部材26が設けられている。ガイド部材26には、ワイヤ本体12を挿通可能なガイド孔28が軸線方向に貫通形成されている。ワイヤ本体12の外周部に対して滑らかに摺動でき、かつガタツキが大きくならないよう、当該ガイド孔28の内径は、ワイヤ本体12のうちガイド孔28に挿通される部分(図示例では、中間部21)の外径よりも僅かに大きく設定されるのがよい。
【0037】
このようなガイド部材26は、半田、溶接、接着等の適宜の接合方法により、コイル14の基端部に接合される。ガイド部材26の構成材料としては、特に限定されないが、コイル14と同種又は異種の金属又は樹脂等が挙げられる。
【0038】
コイル14の全長は、特に限定されないが、50〜500mm程度であるのが好ましい。なお、本実施形態の場合、コイル14は、素線の横断面が円形のものを用いているが、これに限らず、素線の断面が例えば楕円形、四角形(特に長方形)等のものであってもよい。
【0039】
伸縮部材16は、軸線方向に収縮した際に伸縮部材16が密となることで剛性(曲げ剛性)が高まるように構成された部材である。本実施形態において、伸縮部材16は、細線が織り合わされた編組体(ブレード)16aにより構成されている。
【0040】
編組体16aは、断面長方形状の細線(板状素材)が交差して織り合わされたメッシュ状で且つ全体として管状に構成された部材である。細線は剛性を有しており、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti系合金のような超弾性合金などの各種金属により構成され得る。
【0041】
このように構成された編組体16aは、編組体16aの軸線に対して浅い角度(鋭角)で織り込まれているため、軸線方向に収縮した際、拡径する機能を有する。すなわち、編組体16aが軸線方向に収縮するとき、編組体16aを構成する細線のうち、一方向に配設された複数の第1の細線と、当該第1の細線に対して交差する方向に配設された複数の第2の細線とが、それぞれ編組体16aの軸線に対して垂直な方向側に寄っていき、この結果、拡径するに至る。
【0042】
伸縮部材16は、コイル14と同心的に配置されており、自然状態(何らの外力も付与されていない状態)において、伸縮部材16の外径は、コイル14の内径よりも小さく設定される。したがって、自然状態では、伸縮部材16の外周面とコイル14の内周面との間には、中空円筒形に延在するクリアランスが形成される。
【0043】
伸縮部材16の自然状態での全長は、コイル14の全長よりも短く、例えば、2〜30mm程度であるの好ましい。伸縮部材16は、その先端部にてコイル14の先端部に固定(接合)され、その基端部にてワイヤ本体12の先端部(本実施形態では、リシェイプ部23)に固定(接合)されている。伸縮部材16の先端部とコイル14の先端部との固定方法は特に限定されないが、本実施形態の場合、第1接合部30により固定されている。また、伸縮部材16とワイヤ本体12との固定方法は特に限定されないが、本実施形態の場合、第2接合部32により固定されている。
【0044】
第1接合部30及び第2接合部32は、例えば、半田(ろう材)、溶接、接着等による接合部である。第1接合部30と第2接合部32の接合方法は、同じであっても、異なってもよい。第1接合部30の先端面は、血管内壁の損傷を防止するために、図示した構成例のように、丸みを帯びているのが好ましい。
【0045】
ワイヤ本体12の外周部には、ストッパ34Aが設けられている。このストッパ34Aは、コイル14が伸長した際にコイル14の所定以上の移動を阻止するものである。図示した構成例では、コイル14の基端部にガイド部材26が設けられているため、コイル14が伸長した際、コイル14の基端部に設けられたガイド部材26がストッパ34Aに当接することで、コイル14の所定以上の伸長が阻止される。
【0046】
ストッパ34Aは、ワイヤ本体12とは別に製作されたストッパ用部品をワイヤ本体12に適宜の接合手段(溶接、半田、接着等)で接合したものでもよく、あるいは、切削加工等の機械加工により、ストッパ34Aの外周部に一体成形された部分であってもよい。なお、このストッパ34Aの機能については、ガイドワイヤ10Aの作用の説明にて詳述する。
【0047】
本実施形態に係るガイドワイヤ10Aは、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0048】
例えば、PTCA術によって血管内に生じた狭窄部の治療を行う場合、ガイドワイヤ10Aの先端をバルーンカテーテルの先端より突出させた状態にて、バルーンカテーテルと共に目的部位である血管狭窄部付近まで挿入され、バルーンカテーテルの先端部を血管狭窄部付近まで誘導する。
【0049】
図2は、血管40内の狭窄部に到達する前のガイドワイヤ10Aを示している。この状態では、伸縮部材16は、圧縮力も引張り力も受けていないため、自然状態の長さを維持しており、曲げ剛性は初期状態のままである。すなわち、ガイドワイヤ10Aの先端が狭窄部に到達する前の状態では、ガイドワイヤ10Aの先端部は十分な柔軟性を有し、血管壁に損傷を及ぼすおそれがない。
【0050】
図3は、血管40内の狭窄部42に到達して狭窄部42にトラップされたときのガイドワイヤ10Aを示している。この状態で、ワイヤ本体12を狭窄部42側にさらに押し込むと、コイル14の先端部とワイヤ本体12の先端部との間に挟まれた編組体16aが圧縮力を受けて軸線方向に収縮する。このとき、編組体16aを構成する細線同士の間隔が小さくなり、すなわち、編組体16aの編み目が密となることで、編組体16aの曲げ剛性が高まる。この結果、ガイドワイヤ10Aの先端部が硬くなり、狭窄部42に対する通過性が向上する。
【0051】
以上の説明から了解されるように、本実施形態に係るガイドワイヤ10Aによれば、ガイドワイヤ10Aの先端部が狭窄部42に到達する前までは、先端の柔軟性を確保できて血管壁への損傷リスクを無くすことができる。また、ガイドワイヤ10Aの先端部が狭窄部42にトラップされた際にさらに押し込むと、伸縮部材16が収縮して剛性が高くなるので、狭窄部42に対する通過性を向上できる。このように、ガイドワイヤ10Aによれば、先端部の柔軟性と狭窄部42に対する通過性を両立することが可能である。
【0052】
また、編組体16aが軸線方向に収縮した際、編組体16aを構成する細線のうち、一方向に配設された複数の第1の細線と、当該第1の細線に対して交差する方向に配設された複数の第2の細線とが、それぞれ編組体16aの軸線に対して垂直な方向側に寄っていき、この結果、拡径するに至る。よって、編組体16aの外周面とコイル14の内周面との間のクリアランスが小さくなり、コイル14の自由度が小さくなるため、そのことによっても、ガイドワイヤ10Aの先端部の剛性を高めることができ、狭窄部42に対する通過性を効果的に向上することができる。
【0053】
編組体16aの軸線方向への収縮に伴って拡径した際に編組体16aの外周面とコイル14の内周面とが接触するように、コイル14の内径及び編組体16aの外径を設定すれば、ガイドワイヤ10Aの先端部が狭窄部42にトラップされた際にガイドワイヤ10Aの先端部の剛性を一層効果的に高めることができ、狭窄部42に対する通過性をより向上することができる。
【0054】
図4は、狭窄部42を通過した後に、さらに押し込んだときのガイドワイヤ10Aを示している。この状態では、ワイヤ本体12は押し込まれる一方、コイル14の途中部分が狭窄部42によって保持されるため、コイル14のうち狭窄部42よりも先端側の部分が伸長する。ここで、仮に、ストッパ34Aが無く、ワイヤ本体12をさらに押し込んだ場合には、コイル14のうち狭窄部42よりも先端側の部分の伸長が過大となり、コイル14に損傷が及ぶ可能性がある。
【0055】
そこで、本実施形態では、ワイヤ本体12のコイル14よりも基端側にストッパ34Aを設けている。このため、一定以上のコイル14の伸長が阻止されるので、コイル14に対するダメージを防止することができる。
【0056】
また、本実施形態の場合、コイル14の基端部には、ワイヤ本体12が挿通されたリング状のガイド部材26が設けられるので、コイル14のワイヤ本体12に対する相対移動をスムーズにすることができる。
【0057】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係るガイドワイヤ10Bの一部省略縦断面図である。図5に示したガイドワイヤ10Bにおいて、図1に示したガイドワイヤ10Aと共通する構成要素には、共通の参照符号を付している。
【0058】
本実施形態に係るガイドワイヤ10Bは、上述した第1実施形態に係るガイドワイヤ10Aにおけるガイド部材26を無くしたものに相当する。ワイヤ本体12(中間部21)の外径がコイル14の外径よりも僅かに小さい程度である場合、ワイヤ本体12(中間部21)とコイル14の内周面との間には、ほとんど隙間が形成されない。よって、そのような場合には、図5に示すガイドワイヤ10Bのように、コイル14の内周面自体がワイヤ本体12に対する摺動面となってもよい。
【0059】
[第3実施形態]
図6は、本発明の第3実施形態に係るガイドワイヤ10Cの一部省略縦断面図である。図6に示したガイドワイヤ10Cにおいて、図1に示したガイドワイヤ10Aと共通する構成要素には、共通の参照符号を付している。
【0060】
本実施形態に係るガイドワイヤ10Cは、ストッパ34Aとは別のストッパ34Bをワイヤ本体12のコイル14に覆われた部分に設けた点で、上述した第1実施形態に係るガイドワイヤ10Aと異なる。以下、2つのストッパ34A、34Bを区別するため、コイル14よりも基端側に設けられたストッパ34Aを「第1ストッパ34A」と呼び、コイル14内に設けられたストッパ34Bを「第2ストッパ34B」と呼ぶ。
【0061】
第2ストッパ34Bは、ワイヤ本体12とは別に製作されたストッパ用部品をワイヤ本体12に適宜の接合手段(溶接、半田、接着等)で接合したものでもよく、あるいは、切削加工等の機械加工により、ワイヤ本体12の外周部に一体成形された部分であってもよい。
【0062】
例えば、ガイドワイヤ10Bを狭窄部42(図3参照)から引き抜く際や、カテーテルから引き抜く際に、コイル14が狭窄部42又はカテーテル先端開口に引っ掛かることを想定した場合、コイル14とワイヤ本体12とは伸縮部材16のみを介して接続されているため、伸縮部材16に対して引張力が作用する。このとき、引張力が過大となると、伸縮部材16に損傷が及ぶ可能性がある。
【0063】
そこで、本実施形態では、コイル14に覆われた部分のワイヤ本体12に第2ストッパ34Bを設けている。ストッパ34Bが設けられる位置は、ガイド部材26の近傍であるのがよく、具体的には、自然状態において、ストッパ34Bとガイド部材26との間隔は、1〜10mm程度に設定されるのが好ましい。あるいは、伸縮部材16の長さとの関係では、ストッパ34Bとガイド部材26との間隔は、自然状態での伸縮部材16の長さの30分の1〜2分の1程度に設定されるのがよい。
【0064】
このようなストッパ34Bが設けられているので、ガイドワイヤ10Cを狭窄部42から引き抜く際や、カテーテルから引き抜く際に、コイル14が狭窄部42又はカテーテル先端開口に引っ掛かっても、一定以上の伸縮部材16の伸長が阻止されるので、伸縮部材16に対するダメージを防止することができる。
【0065】
[第4実施形態]
図7は、本発明の第4実施形態に係るガイドワイヤ10Dの一部省略縦断面図である。図7に示したガイドワイヤ10Dにおいて、図1に示したガイドワイヤ10Aと共通する構成要素には、共通の参照符号を付している。本実施形態に係るガイドワイヤ10Dは、上述した第1実施形態に係るガイドワイヤ10Aにおける編組体16aとして構成された伸縮部材16を、これとは異なる構成の伸縮部材46に置き換えた構成である。
【0066】
すなわち、ガイドワイヤ10Dにおける伸縮部材46は、コイルスプリング46aである。当該コイルスプリング46aは、細線を螺旋状に粗巻き巻回して構成されており、自然状態(何らの外力も付与されていない状態)において、螺旋をなす各部分が軸線方向に離間している。
【0067】
コイルスプリング46aの先端部とコイル14の先端部とは、第1接合部30によって接合(固定)されており、コイルスプリング46aの基端部とワイヤ本体12の先端部とは、第2接合部32によって接合(固定)されている。コイルスプリング46aの構成材料は特に限定されないが、例えば、編組体16aを構成する材料と同じものを用いることができる。本実施形態の場合、コイルスプリング46aは、素線の横断面が円形のものを用いているが、これに限らず、素線の断面が例えば楕円形、四角形(特に長方形)等のものであってもよい。
【0068】
このように構成されたガイドワイヤ10Dによれば、ワイヤ本体12の先端とコイル14の先端との間が粗巻きのコイルスプリング46aにより接続されているので、ガイドワイヤ10Dの先端部が狭窄部42(図3参照)に到達するまでは先端の柔軟性を確保できる。また、ガイドワイヤ10Dの先端部が狭窄部42に到達し、最先端が狭窄部42にトラップされた際にさらに押し込むと、コイルスプリング46aが収縮して曲げ剛性が高くなるので、狭窄部42に対する通過性を向上できる。よって、第1実施形態に係るガイドワイヤ10Aと同様に、1本のガイドワイヤ10Dで、先端部の柔軟性と狭窄部42に対する通過性を両立することが可能である。
【0069】
[第5実施形態]
図8は、本発明の第5実施形態に係るガイドワイヤ10Eの一部省略縦断面図である。図8に示したガイドワイヤ10Eにおいて、図1に示したガイドワイヤ10Aと共通する構成要素には、共通の参照符号を付している。
【0070】
本実施形態に係るガイドワイヤ10Eは、互いに異なる第1コイル50aと第2コイル50bを直列に連結してなるコイル52を備える点で、第1実施形態に係るガイドワイヤ10Aと異なる。第1コイル50aと第2コイル50bとは、第3接合部54により接合されている。第3接合部54は、例えば、半田(ろう材)、溶接、接着等による接合部である。
【0071】
第1コイル50aと第2コイル50bとで、それらを構成する素線の材質、径(太さ)、断面形状、素線の単位長さあたりの巻き数、螺旋のピッチ、コイル14の外径・内径等の条件は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0072】
第1コイル50aと第2コイル50bとの間で、第1コイル50aの剛性が相対的に低く、第2コイル50bの剛性が相対的に高いとよい。例えば、第1コイル50aを白金で構成し、第2コイル50bを白金よりも剛性の高いステンレス鋼で構成してもよい。これにより、ガイドワイヤ10Eは、第2コイル50bにおいては押し込み性やトルク伝達性をより向上することができ、良好な操作性を確保しつつ、第1コイル50aにおいては良好な柔軟性、復元性を得て血管への追従性、安全性が向上する。また、第1コイル50aを造影性の高い白金で構成したことにより、X線透視下でガイドワイヤ10Eの先端の位置を確認しながら操作を行うことができ、最先端が狭窄部にトラップされたか否かを容易に把握することができる。
【0073】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
10A〜10E…ガイドワイヤ 12…ワイヤ本体
14…コイル 16、46…伸縮部材
16a…編組体 26…ガイド部材
34A…ストッパ(第1ストッパ) 34B…ストッパ(第2ストッパ)
46a…コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を構成し、先端が基端よりも柔軟に構成されたワイヤ本体と、
前記ワイヤ本体の少なくとも先端外周部を覆うコイルと、
前記コイルの内側に配置され、軸線方向に弾性的に伸縮可能な伸縮部材とを備え、
前記コイルは、前記伸縮部材の伸縮に伴って前記ワイヤ本体に対して移動可能であり、
前記伸縮部材は、先端側が前記コイルの先端に固定され、基端側が前記ワイヤ本体の先端に固定され、収縮した際に当該伸縮部材自体が密となることで剛性が高まる、
ことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1記載のガイドワイヤにおいて、
前記ワイヤ本体における、前記コイルよりも基端側に、前記コイルが伸長した際に前記コイルの所定以上の移動を阻止する第1ストッパが設けられる、
ことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガイドワイヤにおいて、
前記コイルの基端部には、前記ワイヤ本体が挿通されたリング状のガイド部材が設けられ、
前記ワイヤ本体の前記コイルに覆われた部分には、前記コイルが前記ワイヤ本体に対して相対的に先端方向に移動する際に前記ガイド部材の先端面に当接する第2ストッパが設けられる、
ことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項1又は2記載のガイドワイヤにおいて、
前記コイルの基端部には、前記ワイヤ本体が挿通されたリング状のガイド部材が設けられる、
ことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガイドワイヤにおいて、
前記伸縮部材は、細線が織り合わされた編組体である、
ことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項5記載のガイドワイヤにおいて、
前記編組体が軸線方向への収縮に伴って拡径した際に、前記編組体の外周面と前記コイルの内周面とが接触する、
ことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガイドワイヤにおいて、
前記伸縮部材は、粗巻きのコイルスプリングである、
ことを特徴とするガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205800(P2012−205800A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74171(P2011−74171)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】