説明

ガイドワイヤ

【課題】樹脂被覆層の基端部に対するテーパ加工の必要がなく、その樹脂被覆層の基端部がガイドワイヤと組み合わせて使用する医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができるガイドワイヤを提供する。
【解決手段】ガイドワイヤ1は、可撓性または柔軟性を有する芯線3および被覆層7で構成されたワイヤ本体2と、螺旋状のコイル4と、樹脂被覆層6と、環状部材5とを備えている。環状部材5は、樹脂被覆層6の基端側に、樹脂被覆層6の基端部とワイヤ本体2との間の段差空間を埋めるように設けられている。環状部材5の先端52の外径は、樹脂被覆層6の基端の外径と略等しく、樹脂被覆層6の基端面61に、環状部材5の先端面53が接合(密着)している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
消化管、血管等の生体管腔にカテーテルを挿入する際には、当該カテーテルを生体管腔の目的部位まで誘導するために、ガイドワイヤが用いられる。このガイドワイヤは、カテーテル内に挿通して用いられる。
【0003】
また、内視鏡を用いた生体管腔等の観察や処置も行なわれ、この内視鏡や内視鏡のルーメンに挿入されたカテーテルを生体管腔等の目的部位まで誘導するのにもガイドワイヤが用いられる。
【0004】
このようなガイドワイヤとして、ワイヤ本体の先端部に、樹脂被覆層を有するガイドワイヤが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この樹脂被覆層により、ガイドワイヤを血管等に挿入する際、ガイドワイヤの血管壁との接触によるその血管壁の損傷を防止することができ、安全性が向上する。
【0005】
しかしながら、このような従来のガイドワイヤでは、樹脂被覆層の基端部とワイヤ本体との間に段差が形成されているので、樹脂被覆層の基端部が、ガイドワイヤと組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台等の医療器具に引っ掛かることがあり、これにより、樹脂被覆層が剥離してしまうこともある。
【0006】
このような事情から、樹脂被覆層の基端部が、ガイドワイヤと組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台に引っ掛からないように、その樹脂被覆層の基端部に対して、テーパ加工を施す必要がある。
【0007】
前記テーパ加工の方法としては、熱収縮チューブによる加工、グラインダー等の研削工具を使用した物理的加工、溶剤を使用した化学的加工が、主なものであった。
【0008】
しかしながら、前記の加工方法では、いずれも、適切な(きれいな)テーパ加工を施すのが困難であった。
【0009】
熱収縮チューブによる加工では、テーパ加工を施す部分以外の部分も熱の影響を受け、変形してしまう場合がある。
【0010】
また、グラインダー等の研削工具を使用した加工では、削った部分に、ケバ立ちが発生してしまう。
【0011】
また、溶剤を使用した加工では、溶剤量のコントロールが難しく、過少または過剰に加工されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−118005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、樹脂被覆層の基端部に対するテーパ加工の必要がなく、その樹脂被覆層の基端部がガイドワイヤと組み合わせて使用する医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができるガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的は、下記(1)〜(23)の本発明により達成される。
(1) 芯線を有するワイヤ本体と、
前記ワイヤ本体の先端部の外周を覆う樹脂被覆層と、
前記樹脂被覆層の基端側に、該樹脂被覆層の基端部と前記ワイヤ本体との間の段差空間を埋めるように設けられた環状部材とを備え、
前記環状部材の先端の外径と前記樹脂被覆層の基端の外径とは、略等しく、前記樹脂被覆層の基端面に、前記環状部材の先端面が接合していることを特徴とするガイドワイヤ。
【0015】
(2) 前記環状部材の外径は、先端側から基端側に向かって漸減しており、
前記環状部材の先端と前記樹脂被覆層の基端との間で、段差のない連続面を形成している上記(1)に記載のガイドワイヤ。
【0016】
(3) 前記ワイヤ本体と前記環状部材の基端との間で、段差のない連続面を形成している上記(1)または(2)に記載のガイドワイヤ。
【0017】
(4) 前記環状部材と前記樹脂被覆層との接合面に、互いに嵌合する凹凸が形成されている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0018】
(5) 前記環状部材の硬度は、前記樹脂被覆層の硬度よりも高い上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0019】
(6) 前記環状部材は、金属または硬質の樹脂で構成されている上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0020】
(7) 前記樹脂被覆層より基端側の前記芯線の外周を覆う被覆層を有し、
前記被覆層の外周に前記環状部材が設けられている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0021】
(8) 前記被覆層は、絶縁材料で構成されている上記(7)に記載のガイドワイヤ。
(9) 前記被覆層は、フッ素系樹脂で構成されている上記(7)または(8)に記載のガイドワイヤ。
【0022】
(10) 前記環状部材は、前記ワイヤ本体に対して接着剤またはろう材により固着されている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0023】
(11) 前記芯線は、その外径が先端方向に向かって漸減しているテーパ部を有し、
前記環状部材の全部または一部が、前記テーパ部に位置している上記(1)ないし(10)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0024】
(12) 前記環状部材は、前記ワイヤ本体の該環状部材より基端側と先端側との剛性の差を緩和する機能を有している上記(1)ないし(11)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0025】
(13) 前記環状部材の先端面および/または内周面は、粗面化されている上記(1)ないし(12)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0026】
(14) 前記樹脂被覆層は、前記芯線の先端部の外周に密着している上記(1)ないし(13)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0027】
(15) 前記ワイヤ本体の先端部に設置され、X線造影性を有するマーカを備え、
前記樹脂被覆層は、前記マーカの外周を覆っている上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0028】
(16) 前記ワイヤ本体の先端部の外周を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイルを備え、
前記樹脂被覆層は、前記コイルの外周を覆っている上記(1)ないし(15)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0029】
(17) 前記ワイヤ本体の先端部の外周を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイルと、
前記ワイヤ本体の先端部であって、前記コイルより先端側に設置され、X線造影性を有するマーカとを備え、
前記樹脂被覆層中には、X線造影性を有する粒子が分散されており、該樹脂被覆層は、前記コイルおよび前記マーカの外周を覆っている上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0030】
(18) 前記マーカの肉厚をt、前記素線の横断面での外径をDとしたとき、t≧1.25Dである上記(17)に記載のガイドワイヤ。
【0031】
(19) 前記芯線と前記コイルとを固定する少なくとも1つの固定部が、前記環状部材より先端側に設けられている上記(16)ないし(18)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0032】
(20) 前記コイルは、前記隣接する素線同士が接触するように密巻きに巻かれている上記(16)ないし(19)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0033】
(21) 前記コイルは、前記素線が前記ワイヤ本体の外周に接触するように巻かれている上記(16)ないし(20)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0034】
(22) 前記芯線は、その先端に、前記コイルの内径よりも大きい幅の扁平部を有し、前記コイルは、前記扁平部と前記環状部材との間に配置されている上記(16)ないし(21)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【0035】
(23) 当該ガイドワイヤの前記環状部材の基端より先端側の部位の外表面は、親水性材料で構成された親水性潤滑層で被覆されている上記(1)ないし(22)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、環状部材により樹脂被覆層の基端部とワイヤ本体との間の段差空間が埋められているので、樹脂被覆層の基端部が、ガイドワイヤと組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台等の医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができ、これにより、樹脂被覆層が剥離してしまうのを防止することができる。また、前記段差によるガイドワイヤの摺動性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のガイドワイヤの第1実施形態を示す縦断面図である。
【図2】本発明のガイドワイヤの第2実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【図3】本発明のガイドワイヤの第3実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【図4】本発明のガイドワイヤの第4実施形態を示す縦断面図である。
【図5】本発明のガイドワイヤの第5実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【図6】本発明のガイドワイヤの第6実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【図7】本発明のガイドワイヤの第7実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明のガイドワイヤを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明のガイドワイヤの第1実施形態を示す縦断面図である。
【0039】
なお、説明の都合上、図1中の右側を「基端」、左側を「先端」という。また、図1中では、理解を容易にするため、ガイドワイヤの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤの太さ方向を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と太さ方向の比率は実際とは異なる。
【0040】
図1に示すガイドワイヤ1は、カテーテル(内視鏡も含む)の内腔に挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤであって、可撓性または柔軟性を有する芯線(線材)3および基端側被覆層(以下、単に「被覆層」と言う)7で構成されたワイヤ本体2と、螺旋状のコイル4と、樹脂被覆層6と、環状部材(段差埋め部材)5とを備えている。
【0041】
本実施形態では、ワイヤ本体2は、1本の連続した芯線3と被覆層7とで構成されており、芯線3およびワイヤ本体2の横断面形状は、円形をなしている。但し、本発明では、これに限らず、芯線3は、同一または異なる材料の複数本の芯線(線材)を例えば溶接やろう接等により接合(連結)したものでもよい。また、ワイヤ本体2は、他の構成物(例えば、他の層等)を有していてもよく、また、被覆層7が省略されていてもよい。なお、芯線3が、例えば、2本の芯線を接合したものである場合、その接合部は、後述する本体部32と、テーパ部34と、小径部36とのうちのいずれに位置していてもよい。
【0042】
ガイドワイヤ1の全長は、特に限定されないが、200〜5000mm程度であるのが好ましい。また、ガイドワイヤ1の外径は、特に限定されないが、0.2〜1.2mm程度であるのが好ましい。
【0043】
芯線3は、ガイドワイヤ1のほぼ全長に渡って延びており、ガイドワイヤ1の本体部分に対応する本体部32と、その先端側に位置するテーパ部(外径漸減部)34と、その先端側に位置する小径部36とで構成されている。本体部32は、その外径がほぼ一定であり、テーパ部34は、その外径が先端方向に向かって漸減しており(先細りとなっており)、小径部36は、その外径がほぼ一定である。
【0044】
芯線3にテーパ部34を設けたことにより、本体部32とテーパ部34との境界部(テーパ部基端341)付近から先端方向に向かって芯線3の柔軟性が徐々に(連続的に)増し、その結果、ガイドワイヤ1の柔軟性が増すので、生体に挿入する際の操作性や安全性が向上する。
【0045】
また、テーパ部34の先端側に小径部36を有することにより、最先端の柔軟な部分を長くでき、最先端部分がより柔軟になるという効果が生じる。
【0046】
また、芯線3の小径部36の少なくとも一部が、リシェイプ(形状付け)可能なリシェイプ部となっていてもよい。このリシェイプ部の形状は、平板状または角柱状等が好ましい。
【0047】
芯線3の本体部32の外径(=テーパ部基端341の外径)Dは、特に限定されないが、0.3〜1.0mm程度とするのが好ましく、0.4〜0.7mm程度とするのがより好ましい。
【0048】
芯線3の小径部36の外径(=テーパ部先端342の外径)Dは、特に限定されないが、0.05〜0.3mm程度とするのが好ましく、0.1〜0.2mm程度とするのがより好ましい。なお、小径部36の外径は、一定である場合に限らず、外径が先端に向かって漸減しているものでもよい。
【0049】
また、テーパ部34の長さは、ガイドワイヤ1の用途や種類により種々異なり、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜300mm程度、より好ましくは30〜250mm程度とすることができる。
【0050】
また、小径部36の長さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0〜100mm程度、より好ましくは10〜50mm程度とすることができる。
【0051】
なお、テーパ部34のテーパ角度(外径の減少率)は、芯線3(ワイヤ本体2)の長手方向に沿って一定でもよく、また、長手方向に沿って変化する部位があってもよい。また、テーパ部34は、1箇所に限らず、2箇所以上に設けられていてもよい。
【0052】
芯線3の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti系合金、Ni−Al系合金、Cu−Zn系合金等の超弾性合金等の種々の金属材料や、比較的高剛性の樹脂材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
また、芯線3(ワイヤ本体2)の先端部の外周、すなわち、図示の構成では、芯線3の小径部36の外周およびテーパ部34の途中までの外周には、コイル4が配置されている。このコイル4は、素線(細線)(線材)を螺旋状に巻回(形成)してなる部材であり、芯線3(ワイヤ本体2)の先端側の部分(外周)を覆うように設置されている。図示の構成では、芯線3の先端側の部分は、コイル4の内側のほぼ中心部に挿通されている。また、芯線3の先端側の部分は、コイル4の内面と非接触で挿通されている。すなわち、コイル4の素線は、芯線3の外周から離間している。また、コイル4の基端は、芯線3のテーパ部34の途中(テーパ部先端342とテーパ部基端341との間)に位置している。
なお、コイル4(素線)は、後述する第5実施形態や第6実施形態のように、その素線が芯線3(ワイヤ本体2)の外周に接触するように巻かれていてもよい。
【0054】
また、図示の構成では、コイル4は、外力を付与しない状態で、螺旋状に巻回された素線同士の間に隙間が空いているが、図示と異なり、外力を付与しない状態で、螺旋状に巻回された素線同士が隙間なく密に配置されていてもよい(コイル4は、隣接する素線同士が接触するように密巻きに巻かれていてもよい)。
【0055】
コイル4は、金属材料で構成されているのが好ましい。コイル4を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、超弾性合金、コバルト系合金や、金、白金、タングステン等の貴金属またはこれらを含む合金(例えば白金−イリジウム合金)等が挙げられる。特に、貴金属のようなX線不透過材料(X線造影性を有する材料)で構成した場合には、ガイドワイヤ1にX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができ、好ましい。また、コイル4は、その先端側と基端側とを異なる材料で構成してもよい。例えば、先端側をX線不透過材料のコイル、基端側をX線を比較的透過する材料(ステンレス鋼など)のコイルにて各々構成してもよい。なお、コイル4の全長は、特に限定されないが、5〜500mm程度であるのが好ましい。
【0056】
コイル4の基端部および先端部は、それぞれ、固定材料81および82により芯線3に固定(固着)されている。
【0057】
これらの固定材料81および82、すなわち、芯線3とコイル4とを固定する2つの固定部は、後述する環状部材5より先端側に設けられており、環状部材5と接触していない。これにより、固定材料81を介して芯線3と環状部材5とが導通するのを防止することができ、これによって、ガイドワイヤの外表面と芯線3とが導通するのを防止することができる。
【0058】
固定材料81および82は、それぞれ、半田(ろう材)で構成されている。なお、固定材料81および82は、それぞれ、半田に限らず、例えば、接着剤でもよい。また、コイル4の固定方法は、固定材料によるものに限らず、例えば、溶接でもよい。また、血管等の体腔の内壁の損傷を防止するために、固定材料82の先端面は、丸みを帯びているのが好ましい。
【0059】
なお、本実施形態の場合、コイル4は、素線の横断面が円形のものを用いているが、これに限らず、素線の横断面が例えば楕円形、四角形(特に長方形)等のものであってもよい。
【0060】
また、ガイドワイヤ1は、芯線3(ワイヤ本体2)の先端部、コイル4、固定材料81および82の外周(外表面)を覆う樹脂被覆層6を有している。この樹脂被覆層6は、芯線3の先端部の外周に密着している。
【0061】
なお、図示の構成では、樹脂被覆層6は、コイル4内に入り込んでいるが、コイル4内に入り込んでいなくてもよい。
【0062】
樹脂被覆層6は、種々の目的で形成することができるが、その一例として、ガイドワイヤ1を血管等に挿入する際の安全性の向上を目的として設けることができる。この目的のためには、樹脂被覆層6は、柔軟性に富む材料(軟質材料、弾性材料)で構成されているのが好ましい。そして、樹脂被覆層6は、特に、後述する被覆層7よりも柔軟な材料で構成されているのが好ましい。
【0063】
このような柔軟性に富む材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、シリコーン樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー等の熱可塑性エラストマー、ラテックスゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料、またはこれらのうちに2以上を組み合わせた複合材料が挙げられる。
【0064】
特に、樹脂被覆層6が前述した熱可塑性エラストマーや各種ゴム材料で構成されたものである場合には、ガイドワイヤ1の先端部の柔軟性がより向上するため、血管等への挿入時に、血管内壁等を傷つけることをより確実に防止することができ、安全性が極めて高い。
【0065】
また、樹脂被覆層6中には、X線不透過材料(X線造影性を有する材料)で構成された粒子(フィラー)が分散されているのが好ましい。これにより、ガイドワイヤ1にX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができる。
【0066】
前記粒子の構成材料としては、X線不透過材料であれば特に限定されないが、例えば、金、白金、タングステン等の貴金属またはこれらを含む合金(例えば白金−イリジウム合金)等を用いることができる。
【0067】
樹脂被覆層6の厚さは、特に限定されず、樹脂被覆層6の形成目的や構成材料、形成方法等を考慮して適宜されるが、通常は、その厚さ(平均)は、100〜500μm程度であるのが好ましく、150〜350μm程度であるのがより好ましい。樹脂被覆層6の厚さが薄すぎると、樹脂被覆層6の形成目的が十分に発揮されないことがある。また、樹脂被覆層6の厚さが厚すぎると、ワイヤ本体2(ガイドワイヤ1)の物理的特性に影響を与えるおそれがある。
なお、樹脂被覆層6は、2層以上の積層体でもよい。
【0068】
また、ワイヤ本体2は、樹脂被覆層6より基端側の芯線3の外周(外表面)を覆う被覆層7を有している。この被覆層7の先端と樹脂被覆層6の基端とは、所定距離離間している(接触していない)。
【0069】
被覆層7は、種々の目的で形成することができるが、その一例として、ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)を低減し、摺動性を向上させることによってガイドワイヤ1の操作性を向上させることがある。
【0070】
ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)の低減を図るためには、被覆層7は、以下に述べるような摩擦を低減し得る材料で構成されているのが好ましい。これにより、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁の摩擦抵抗(摺動抵抗)が低減されて摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。また、ガイドワイヤ1の摺動抵抗が低くなることで、ガイドワイヤ1をカテーテル内で移動および/または回転した際に、ガイドワイヤ1のキンク(折れ曲がり)やねじれをより確実に防止することができる。
【0071】
また、被覆層7は、絶縁材料で構成されているのが好ましい。その理由は、被覆層7の外周に環状部材5が設けられるので、被覆層7を絶縁材料で構成することにより、芯線3と環状部材5とを絶縁することができる。これにより、例えば、電流を流して使用する医療器具をガイドワイヤ1に沿って配置する場合、環状部材5の外表面からの漏電等を防止することができる。
【0072】
このような摩擦を低減し得る絶縁材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂(PTFE、ETFE、PFA等)、またはこれらの複合材料が挙げられる。
【0073】
その中でも特に、フッ素系樹脂(またはこれを含む複合材料)を用いた場合には、ガイドワイヤ1とカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)をより効果的に低減し、摺動性を向上させることができ、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。また、これにより、ガイドワイヤ1をカテーテル内で移動および/または回転した際に、ガイドワイヤ1のキンク(折れ曲がり)やねじれをより確実に防止することができる。
【0074】
また、フッ素系樹脂(またはこれを含む複合材料)を用いた場合には、焼きつけ、吹きつけ等の方法により、樹脂材料を加熱した状態で、芯線3への被覆を行うことができる。これにより、芯線3と、被覆層7との密着性は特に優れたものとなる。
【0075】
また、被覆層7がシリコーン樹脂(またはこれを含む複合材料)で構成されたものであると、被覆層7を形成する(芯線3に被覆する)際に、加熱しなくても、芯線3に確実かつ強固に密着した被覆層7を形成することができる。すなわち、被覆層7をシリコーン樹脂(またはこれを含む複合材料)で構成されたものとする場合、反応硬化型の材料等を用いることができるため、被覆層7の形成を室温にて行うことができる。このように、室温にて被覆層7を形成することにより、簡便にコーティングができる。
【0076】
被覆層7の厚さは、特に限定されず、被覆層7の形成目的や構成材料、形成方法等を考慮して適宜されるが、通常は、その厚さ(平均)は、1〜100μm程度であるのが好ましく、1〜30μm程度であるのがより好ましい。被覆層7の厚さが薄すぎると、被覆層7の形成目的が十分に発揮されないことがあり、また、被覆層7の剥離が生じるおそれがある。また、被覆層7の厚さが厚すぎると、ワイヤ本体2(ガイドワイヤ1)の物理的特性に影響を与えるおそれがあり、また被覆層7の剥離が生じるおそれがある。
なお、被覆層7は、2層以上の積層体でもよい。
【0077】
また、本発明では、芯線3の外周面(表面)に、樹脂被覆層6や被覆層7の密着性を向上するための処理(粗面加工、化学処理、熱処理等)を施したり、樹脂被覆層6や被覆層7の密着性を向上し得る中間層を設けたりすることもできる。
【0078】
また、ガイドワイヤ1は、樹脂被覆層6の基端側に、樹脂被覆層6の基端部とワイヤ本体2との間の段差空間を埋めるように設けられた環状部材5を有している。この環状部材5は、被覆層7の外周に設けられている(密着している)。
【0079】
なお、樹脂被覆層6の基端の外径は、その樹脂被覆層6の基端におけるワイヤ本体2の外径より大きく、前記段差空間は、これらの外径の差により生じるものである。
【0080】
また、環状部材5の先端52の外径は、樹脂被覆層6の基端の外径と略等しく、樹脂被覆層6の基端面61に、環状部材5の先端面53が接合(密着)している。この場合、樹脂被覆層6は、環状部材5の先端52を基端側に越えて、環状部材5に被らないようになっている。すなわち、環状部材5の先端52と樹脂被覆層6の基端との間で、段差のない連続面を形成している。
【0081】
また、環状部材5の外径は、先端側から基端側に向かって(基端方向に向かって)漸減しており、環状部材5の基端51の外径は、先端52の外径より小さい。そして、環状部材5の基端51の外径は、その環状部材5の基端51におけるワイヤ本体2(被覆層7)の外径と略等しい。すなわち、ワイヤ本体2(被覆層7)と環状部材5の基端51との間で、段差のない連続面を形成している。環状部材5の基端51の外径は、芯線3の本体部32の外径よりも小さい。環状部材5の基端51は、テーパ部基端341よりも先端側に位置している。環状部材5は、0.5〜15mmの長さを有している。
【0082】
また、環状部材5の基端51の内径は、先端52の内径より大きい。これは、後述するように、環状部材5が、芯線3のテーパ部34に位置しているためである。
なお、基端51の内径が先端52の内径と同じであってもよい。
【0083】
この場合、基端51が被覆層7と密着し、先端52と被覆層7(または芯線3)の間には空間が形成されるが、後述する固定材料9をその空間に充填することで芯線3に環状部材5を固定することができる。
【0084】
この環状部材5により、樹脂被覆層6の基端部が、ガイドワイヤ1と組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台等の医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができ、これによって、樹脂被覆層6が剥離してしまのを防止することができる。また、前記段差によるガイドワイヤ1の摺動性の低下を防止することができる。
【0085】
また、環状部材5の傾斜角度θ(テーパ角度)(外径の減少率)は、本実施形態では、芯線3(ワイヤ本体2)の長手方向に沿って一定である。なお、傾斜角度θは、長手方向に沿って変化する部位があってもよい。
【0086】
この傾斜角度θは、30°以下であるのが好ましく、2〜25°程度であるのがより好ましく、5〜20°程度であるのがさらに好ましい。これにより、環状部材5が、ガイドワイヤ1と組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台等の医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができる。
【0087】
環状部材5の長さは、先端52の外径よりも大きいことが好ましい。特に、環状部材5の長さは、先端52の外径の2〜5倍が好ましい。
【0088】
また、環状部材5の硬度(硬さ)は、樹脂被覆層6の硬度よりも高く設定されているのが好ましい。これにより、環状部材5が、ガイドワイヤ1と組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台等の医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができる。
【0089】
また、環状部材5の先端面53と内周面とのいずれか一方または両方が、粗面化されていてもよい。環状部材5の先端面53が粗面化されていると、樹脂被覆層6との密着性が向上し、また、内周面が粗面化されていると、被覆層7および後述する固定材料9との密着性が向上する。
【0090】
また、環状部材5の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料等を用いることができる。例えば、樹脂被覆層6と同一の構成材料を用いることもでき、また、樹脂被覆層6と異なる構成材料を用いることもできる。
【0091】
但し、環状部材5は、金属材料(金属)または硬質の樹脂材料(樹脂)で構成されているのが好ましく、特に、金属材料で構成されているのが好ましい。
【0092】
環状部材5を構成する硬質の樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド等を用いることができる。
【0093】
また、環状部材5を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、Ni−Ti合金、アルミニウム、金、白金等を用いることができる。金や白金などの貴金属、またはその合金にて構成することによってX線造影性が向上する。
【0094】
また、環状部材5を金属材料で構成する場合は、その環状部材5の外周を図示しない被覆層で覆ってもよい。この被覆層の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種樹脂材料、各種セラミックス、各種金属材料等を用いることができるが、特に、絶縁材料を用いるのが好ましい。
【0095】
また、環状部材5は、樹脂被覆層6の基端と被覆層7の先端との間の芯線3(ワイヤ本体2)の外周に設けられた固定材料9により、芯線3(ワイヤ本体2)に固定(固着)されている。
【0096】
固定材料9は、接着剤で構成されており、特に、絶縁性の接着剤で構成されているのが好ましい。これにより、芯線3と環状部材5とを絶縁することができ、これによって、例えば、電流を流して使用する医療器具をガイドワイヤ1に沿って配置する場合、環状部材5の外表面からの漏電等を防止することができる。
【0097】
なお、固定材料9は、接着剤に限らず、例えば、環状部材5を金属材料で構成する場合、半田(ろう材)等でもよい。また、環状部材5の固定方法は、固定材料によるものに限定されないことは、言うまでもない。
【0098】
また、環状部材5は、芯線3(ワイヤ本体2)のテーパ部34に位置している。図示の構成では、環状部材5の全部(全体)が、テーパ部34に位置しているが、これに限らず、環状部材5の一部のみが、テーパ部34に位置していてもよい。
【0099】
この環状部材5は、ワイヤ本体2の環状部材5より基端側と先端側との剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)の差を緩和する機能を有している。すなわち、前述したように、芯線3のテーパ部34では、その外径が先端方向に向かって漸減しており、剛性が先端方向に向かって低くなってゆく。一方、ワイヤ本体2の環状部材5の先端側には、樹脂被覆層6が設けられており、環状部材5が設けられていない場合は、その樹脂被覆層6の基端において、剛性が急激に増大し、キンク(折れ曲がり)が生じ易い。しかし、このガイドワイヤ1では、環状部材5により、樹脂被覆層6の基端における剛性の急激な増大が防止され、その樹脂被覆層6の基端におけるキンクを防止することができる。
【0100】
このガイドワイヤ1は、例えば、下記のようにして製造される。
まず、芯線3の外周が被覆層7で覆われているワイヤ本体2の先端部に、コイル4を固定材料81および82で固定し、このコイル4の基端側に、環状部材5を固定材料9で固定する。このコイル4の固定と環状部材5の固定とは、いずれを先に行ってもよい。
【0101】
次に、ワイヤ本体2の先端部、コイル4、固定材料81および82の外周を樹脂被覆層6で被覆する(樹脂被覆層6を形成する)。
【0102】
そして、例えば、環状部材5の先端52よりも樹脂被覆層6の基端の方が高くなってしまい、樹脂被覆層6と環状部材5との間に段差が生じた場合は、その樹脂被覆層6を削って平らにし、樹脂被覆層6の基端の外径と環状部材5の先端52の外径とを等しくする。
【0103】
また、例えば、樹脂被覆層6が、環状部材5の先端52を基端側に越えて、環状部材5に被ってしまった場合は、その樹脂被覆層6を削って、環状部材5に被らないようにする。
【0104】
以上説明したように、このガイドワイヤ1によれば、環状部材5を設けることにより、樹脂被覆層6の基端部が、ガイドワイヤ1と組み合わせて使用するカテーテルの先端や内視鏡の起上台等の医療器具に引っ掛かってしまうのを防止することができ、これによって、樹脂被覆層6が剥離してしまのを防止することができる。また、前記段差によるガイドワイヤ1の摺動性の低下を防止することができる。
【0105】
また、このような効果を発現させるためには、環状部材5を設けるだけでよく、樹脂被覆層6の基端部にテーパ加工を施す必要がないので、容易に、前記ガイドワイヤ1を製造することができる。
【0106】
<第2実施形態>
図2は、本発明のガイドワイヤの第2実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【0107】
以下、第2実施形態のガイドワイヤ1について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0108】
図2に示すように、第2実施形態のガイドワイヤ1では、環状部材5と樹脂被覆層6との接合面11に、互いに嵌合する凹凸が形成されている。図示の構成では、環状部材5に、溝(凹部)54が形成され、樹脂被覆層6に凸条(凸部)62が形成されており、溝54に凸条62が挿入されることで、これらが互いに嵌合している。
【0109】
樹脂被覆層6の凸条62は、ワイヤ本体2の先端部、コイル4、固定材料81および82の外周を樹脂被覆層6で被覆する際、環状部材5の溝54内に、樹脂被覆層6の構成材料が充填されて形成される。
【0110】
このガイドワイヤ1によれば、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
そして、このガイドワイヤ1では、環状部材5と樹脂被覆層6との接合面11において割れ難くなり、特に、ガイドワイヤ1を屈曲、湾曲させた場合に、接合面11において割れてしまうのを防止することができる。
【0111】
この第2実施形態は、第3実施形態および第4実施形態にもそれぞれ適用することができる。
【0112】
<第3実施形態>
図3は、本発明のガイドワイヤの第3実施形態の主要部を示す縦断面図である。
【0113】
以下、第3実施形態のガイドワイヤ1について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0114】
図3に示すように、第3実施形態のガイドワイヤ1では、環状部材5の傾斜角度(テーパ角度)(外径の減少率)は、芯線3(ワイヤ本体2)の長手方向に沿って変化している。図示の構成では、環状部材5の傾斜角度は、基端方向に向かって漸増している。
【0115】
このガイドワイヤ1によれば、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、環状部材5の傾斜角度は、基端方向に向かって漸減していてもよい。
【0116】
また、この第3実施形態は、第2実施形態および第4実施形態にもそれぞれ適用することができる。
【0117】
<第4実施形態>
図4は、本発明のガイドワイヤの第4実施形態を示す縦断面図である。
【0118】
以下、第4実施形態のガイドワイヤ1について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0119】
図4に示すように、第4実施形態のガイドワイヤ1は、X線不透過材料(X線造影性を有する材料)で構成された筒状(図示の構成では円筒状)のマーカ12を有している。このマーカ12は、芯線3(ワイヤ本体2)の先端部の外周であって、コイル4より先端側に設置されており、その外周(外表面)は、樹脂被覆層6で覆われている。
【0120】
マーカ12の構成材料としては、X線不透過材料であれば特に限定されないが、例えば、金、白金、タングステン等の貴金属またはこれらを含む合金(例えば白金−イリジウム合金)等を用いることができる。
【0121】
また、マーカ12の肉厚をt、コイル4の素線の横断面での外径をDとしたとき、t≧1.25Dであるのが好ましく、3.0D≧t≧1.5Dであるのがより好ましく、2.5D≧t≧1.75Dであるのがさらに好ましい。これにより、X線透視下において、コイル4に比べてマーカ12が強調されて見えるようになり、特に、コイル4に対するマーカ12の見え具合を必要かつ十分に設定することができる。
【0122】
このガイドワイヤ1によれば、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
そして、このガイドワイヤ1では、マーカ12により、X線透視下で、ガイドワイヤ1の最先端部の位置を、容易かつ確実に確認することができる。
【0123】
この第4実施形態は、第2実施形態および第3実施形態にもそれぞれ適用することができる。
【0124】
<第5実施形態>
図5は、本発明のガイドワイヤの第5実施形態の主要部を示す縦断面図であり、図5(a)および図5(b)には、互いに異なる構成例が示されている。
【0125】
以下、第5実施形態のガイドワイヤ1について、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0126】
図5に示すように、第5実施形態のガイドワイヤ1では、コイル4の隣接する素線同士は、接触しており、いわゆる密巻きの状態となっている。すなわち、コイル4(素線)は、隣接する素線同士が接触するように密巻きに巻かれている。これらの素線同士は、自然状態で互いにワイヤ本体2の軸方向に押し合う力(圧縮力)が生じている。ここで、「自然状態」とは、外力が付与していない状態を言う。なお、自然状態で前記圧縮力が生じていなくてもよいことは、言うまでもない。
【0127】
第1実施形態で述べたように、コイル4をX線不透過材料(X線造影性を有する材料)で構成した場合には、ガイドワイヤ1にX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができるが、前記密巻きとすることにより、X線透視下でより容易に先端部の位置を確認することができる。
【0128】
また、コイル4(素線)は、その素線が芯線3(ワイヤ本体2)の外周に接触するように巻かれている。すなわち、コイル4の内面は、芯線3の外周に接触している。
【0129】
これにより、コイル4の素線が芯線3の外周から離間している場合に比べ、ガイドワイヤ1の先端部の外径をより小さくすることができる。また、ガイドワイヤ1を製造する際、コイル4の素線が芯線3の外周に接触しているので、そのコイル4が芯線3に対してずれてしまうのを防止することができ、容易にガイドワイヤ1を製造することができる。
【0130】
また、環状部材5は、芯線3の外周に設けられており、被覆層7の先端は、環状部材5の基端51に位置している。
【0131】
また、ガイドワイヤ1の少なくとも先端部の外表面(外面)は、親水性材料で構成された親水性潤滑層13で被覆されているのが好ましい。本実施形態では、ガイドワイヤ1の先端から環状部材5の基端51(被覆層7の先端)に至るまでの領域におけるガイドワイヤ1の外表面(ガイドワイヤ1の環状部材5の基端51より先端側の部位の外表面)、すなわち、樹脂被覆層6の外表面および環状部材5の外表面55が、親水性潤滑層13で被覆されている。これにより、親水性材料が湿潤して潤滑性を生じ、ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)が低減し、摺動性が向上する。従って、ガイドワイヤ1の操作性が向上する。
【0132】
特に、環状部材5の外表面55上、すなわち、環状部材5と親水性潤滑層13との間には、図示しない平滑な下地層を設けることが好ましく、これにより、環状部材5の外表面55における親水性潤滑層13の摺動性を向上させることができる。環状部材5が金属材料で構成される場合、その外表面55の微小な凹凸は、親水性潤滑層13本来の摺動性を低下させる原因になりやすい。また、外表面55が傾斜しているので、ガイドワイヤ1を引き抜くときに、カテーテルの先端等に引っ掛かりやすい。そこで、環状部材5の外表面55を下地層で覆って平滑にし、その下地層の外表面を親水性潤滑層13で覆うことにより、親水性潤滑層13本来の摺動性を保つことができ、環状部材5の外表面55の部分の親水性潤滑層13でも、樹脂被覆層6の外表面の部分の親水性潤滑層13と実質的に同じ摺動性を発揮できる。下地層としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができる。また、下地層の摩擦係数は、樹脂被覆層6の摩擦係数よりも低いことが好ましい。
【0133】
親水性材料としては、例えば、セルロース系高分子物質、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド(PGMA−DMAA)のブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0134】
このような親水性材料は、多くの場合、湿潤(吸水)により潤滑性を発揮し、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)を低減する。これにより、ガイドワイヤ1の摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。
【0135】
ここで、図5(a)に示す構成では、環状部材5の基端51の外径は、その環状部材5の基端51における芯線3の外径と略等しい。すなわち、芯線3と環状部材5の基端51との間で、段差のない連続面を形成している。
【0136】
また、親水性潤滑層13の基端の外径は、被覆層7の先端の外径と略等しい。すなわち、被覆層7と親水性潤滑層13との間で、段差のない連続面を形成している。
【0137】
また、図5(b)に示す構成では、環状部材5の基端51の外径は、被覆層7の先端の外径と略等しい。すなわち、被覆層7(ワイヤ本体2)と環状部材5の基端51との間で、段差のない連続面を形成している。
【0138】
このガイドワイヤ1によれば、前述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
また、この第5実施形態は、第2実施形態、第3実施形態および第4実施形態にもそれぞれ適用することができる。
【0139】
<第6実施形態>
図6は、本発明のガイドワイヤの第6実施形態の主要部を示す縦断面図であり、図6(a)および図6(b)には、互いに異なる構成例が示されている。
【0140】
以下、第6実施形態のガイドワイヤ1について、前述した第5実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0141】
図6に示すように、第6実施形態のガイドワイヤ1では、芯線3(ワイヤ本体2)の最先端部は、扁平形状をなしている。すなわち、芯線3は、その小径部36の先端に、扁平形状をなす扁平部37を有している。図示の構成では、扁平部37は、略四角形の平板状をなしている。
【0142】
この扁平部37の幅(コイル4の径方向の長さ)Lは、コイル4の内径a(小径部36の外径D)よりも大きく設定されている。そして、扁平部37は、コイル4の先端部よりも先端側に位置している。すなわち、コイル4は、扁平部37と環状部材5との間に配置され、その先端部は、扁平部37に当接(係合)し、基端部は、環状部材5の先端面53に当接している。
【0143】
これにより、芯線3(ワイヤ本体2)の先端からコイル4が抜けて離脱してしまうのを防止することができる。これによって、コイル4を芯線3に固定(固着)する固定材料を省略することができる。なお、コイル4を固定材料により芯線3に固定してもよいことは、言うまでもない。
【0144】
また、扁平部37の外表面に、例えば、金、白金、タングステン等の貴金属またはこれらを含む合金(例えば白金−イリジウム合金)等のX線不透過材料で構成された図示しない外層を設けてもよい。これにより、X線透視下で、ガイドワイヤ1の最先端部の位置を、容易かつ確実に確認することができる。
【0145】
前記扁平部37は、例えば、プレス成形等で形成することができる。具体例としては、例えば、芯線3の小径部36の長さを扁平部37の分だけ長くしておき、その芯線3の最先端部に対して、プレス成形を行う。これにより、小径部36の先端に、扁平部37が形成される。
【0146】
このガイドワイヤ1によれば、前述した第5実施形態と同様の効果が得られる。
また、この第6実施形態は、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態および第4実施形態にもそれぞれ適用することができる。
【0147】
<第7実施形態>
図7は、本発明のガイドワイヤの第7実施形態の主要部を示す縦断面図である。
なお、説明の都合上、図7中の右側を「基端」、左側を「先端」という。
【0148】
以下、第7実施形態のガイドワイヤ1について、その特徴部分を中心に説明する。
図7に示すように、第7実施形態のガイドワイヤ1では、環状部材5の基端51の内径と先端52の内径とが略等しい。すなわち、環状部材5の内径は、基端51から先端52まで略一定である。
【0149】
また、固定材料9は、環状部材5と芯線3との間に形成された空間の一部に充填されるとともに、環状部材5の先端面53の少なくとも一部を覆うように設けられている。図示の構成では、固定材料9は、環状部材5と芯線3との間の空間の先端側の部分に充填されるとともに、環状部材5の先端面53の全体を覆うように設けられており、環状部材5と芯線3との間に、隙間14が形成されている。
【0150】
また、図7の縦断面図において、固定材料9の先端面91は、先端側に向って傾斜しており、それに対応して、樹脂被覆層6の基端面61も傾斜し、固定材料9の先端面91と脂被覆層6の基端面61とが密着している。すなわち、樹脂被覆層6の基端面61に、固定材料9を介して、環状部材5の先端面53が接合している。
【0151】
固定材料9としては、樹脂製の固定材料、すなわち、接着剤を用いるのが好ましい。これにより、固定材料9と樹脂被覆層6との密着性が向上し、樹脂被覆層6の剥離を抑制することができる。
【0152】
ガイドワイヤ1の製造方法は、特に限定されないが、例えば、環状部材5と芯線3との間の空間の先端側の部分および環状部材5の先端面53に固定材料9を付与し、環状部材5を芯線3に固定した後、コイル4および樹脂被覆層6を設ける。
なお、この第7実施形態は、第1〜第6実施形態のそれぞれに適用することができる。
【0153】
以上、本発明のガイドワイヤを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0154】
また、本発明は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0155】
1 ガイドワイヤ
2 ワイヤ本体
3 芯線
32 本体部
34 テーパ部
341 テーパ部基端
342 テーパ部先端
36 小径部
37 扁平部
4 コイル
5 環状部材
51 基端
52 先端
53 先端面
54 溝
55 外表面
6 樹脂被覆層
61 基端面
62 凸条
7 基端側被覆層(被覆層)
81、82 固定材料
9 固定材料
91 先端面
11 接合面
12 マーカ
13 親水性潤滑層
14 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線を有するワイヤ本体と、
前記ワイヤ本体の先端部の外周を覆う樹脂被覆層と、
前記樹脂被覆層の基端側に、該樹脂被覆層の基端部と前記ワイヤ本体との間の段差空間を埋めるように設けられた環状部材とを備え、
前記環状部材の先端の外径と前記樹脂被覆層の基端の外径とは、略等しく、前記樹脂被覆層の基端面に、前記環状部材の先端面が接合していることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記環状部材の外径は、先端側から基端側に向かって漸減しており、
前記環状部材の先端と前記樹脂被覆層の基端との間で、段差のない連続面を形成している請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記ワイヤ本体と前記環状部材の基端との間で、段差のない連続面を形成している請求項1または2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記環状部材と前記樹脂被覆層との接合面に、互いに嵌合する凹凸が形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記環状部材の硬度は、前記樹脂被覆層の硬度よりも高い請求項1ないし4のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項6】
前記環状部材は、金属または硬質の樹脂で構成されている請求項1ないし5のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項7】
前記ワイヤ本体の先端部の外周を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイルを備え、
前記樹脂被覆層は、前記コイルの外周を覆っている請求項1ないし6のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項8】
前記コイルは、前記隣接する素線同士が接触するように密巻きに巻かれている請求項7に記載のガイドワイヤ。
【請求項9】
前記コイルは、前記素線が前記ワイヤ本体の外周に接触するように巻かれている請求項7または8に記載のガイドワイヤ。
【請求項10】
前記芯線は、その先端に、前記コイルの内径よりも大きい幅の扁平部を有し、前記コイルは、前記扁平部と前記環状部材との間に配置されている請求項7ないし9のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項11】
当該ガイドワイヤの前記環状部材の基端より先端側の部位の外表面は、親水性材料で構成された親水性潤滑層で被覆されている請求項1ないし10のいずれかに記載のガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−56258(P2013−56258A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−284855(P2012−284855)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2007−340859(P2007−340859)の分割
【原出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】