説明

ガウジング用電源装置

【課題】 ガウジング施工の溝形状を、ガウジング棒の運棒の技能やガウジング棒の棒形状等を変更することおで変更していた。
【解決手段】 設定電流入力部8と出力特性入力部11と出力特性傾き変更部12と基準設定入力部17とを備え、出力特性の傾きを変化させ、また、出力特性を出力電流を変化させずに平行移動させることにより出力経路のインピーダンスの変化の影響を受けることなくガウジング棒の運棒の技量に左右されずに、また、ガウジング棒の径や形状を変更したりガウジング棒の運棒を変化させたりすることなく母材の溝形状及び表面の滑らかさを容易に変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークガウジング用トーチに炭素電極を取り付けて電極と母材間にアークを発生させて母材を溶融させるとともに、圧縮空気を吹き付けて溶融金属を吹き飛ばすことにより母材の溝掘りを行うアークガウジングに関し、出力電流と出力電圧の関係を表す出力特性の傾きを変更可能とするガウジング用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガウジング用電源装置は、従来、出力特性に垂下特性を持つものが一般的である。そして、出力の調整は使用するガウジング棒の太さや形状により溝深さを調整するための出力電流の調整のみであるものが主流である。近年、出力特性を並行移動させることにより、入熱を調整することができるものも考案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、垂下特性の出力特性を有する従来のガウジング用電源装置の概略構成図である。図8において、1はガウジング用電源装置を駆動するための入力電圧部、2は出力を制御するための出力制御回路、3は溶接機出力端子に接続されガウジングを行うためのトーチ、4はガウジングを行う対象である母材、5はトーチ3に接続されガウジングを行うためのガウジング溶接棒である。また、6はトーチ3と母材4との間に発生する電圧を検出するための出力電圧検出部、7はガウジングの電流を設定するために可変抵抗などで構成される電流設定ボリウム、8は電流設定ボリウム7で設定された値を読み込むための設定電流入力部、21は設定電流入力部8で設定された値に基づいてガウジング用電源装置の出力特性を並行移動する出力特性可変部、22は出力特性可変部21で決定した出力特性と出力電圧検出部6で検出した出力電圧との差を求める差動増幅回路、15は差動増幅回路22で求めた値により出力制御回路2を駆動するための駆動指令部である。
【0004】
以上のように構成された従来のガウジング用電源装置についてその動作を説明する。
【0005】
まず、出力制御回路2は、駆動指令部15からの信号を受け、入力電圧部1からの電圧をインバータ制御またはサイリスタ制御などのガウジング用電源装置の出力制御によりトーチ3と母材4との間に電圧を発生させ、ガウジング溶接棒5と母材4との間にアークを発生させガウジングを行う。このとき、駆動指令部15は、差動増幅回路22から得られる値によりガウジング用電源装置の出力を制御するための信号を出力制御回路2に送り、出力制御回路2は前記信号を受けて出力を制御している。
【0006】
ここで、出力特性可変部21が電流設定ボリウム7で設定された値に基づいてガウジング用電源装置の出力特性を並行移動する例を示したものが図9である。
【0007】
図9は、ガウジング用電源装置の出力特性を示したものであり、横軸が電流出力、縦軸が電圧出力である。特性A4がガウジング用電源装置の元となる垂下特性を表しており、電流設定ボリウム7で設定された値により垂下特性は例えば特性A5や特性A6のように並行移動する。
【特許文献1】特開平7−60441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のガウジング用電源装置では、予め決められた出力特性によってガウジングを行った際の母材4の溝形状が決まってしまい、溝形状を変化させたい場合には出力電流の調整やガウジング棒の運棒の技能やガウジング棒の棒形状を変更すること等により対応しなければならないという課題を有していた。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、出力電流の調整やガウジング棒の運棒の技能に左右されること無くガウジングによる溝形状を変化させることができるガウジング用電源装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のガウジング用電源装置は、ガウジングを行う設定電流を入力するための設定電流入力部と、前記設定電流入力部に入力された設定電流に基づいて前記設定電流に対応した設定基準電圧を選定する基準電圧選定部と、前記設定電流と前記基準電圧との交点を固定点として電流と電圧の関係を表すガウジング出力特性の傾きを変更するためのガウジング出力特性傾き変更部とを備えたものである。
【0011】
また、本発明のガウジング用電源装置は、上記に加えて、設定電流入力部に入力された設定電流に基づいて選定された基準電圧を増加あるいは低減するための基準電圧増減部を備え、前記設定電流入力部に入力された設定電流と前記設定基準電圧増減部により増加あるいは低減された設定電圧との交点を固定点として電流と電圧の関係を表すガウジング出力特性の傾きを変更するものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のガウジング用電源装置によれば、電流と電圧の関係を表すガウジング出力特性の傾きを変化させることにより、ガウジング棒の運棒の技量に左右されず、ガウジング棒の径や形状を変更したりガウジング棒の運棒を変化させたりすることなく、母材の溝形状及び表面の滑らかさを変化させることができる。また、出力側経路に接続された延長ケーブル等のインピーダンスによるアーク電圧及び出力電流の変化の影響を受けずにガウジング電源装置の出力特性の傾きを変化させ、母材の溝形状及び表面の滑らかさを容易に変化させることができる。
【0013】
また、設定基準電圧を増加あるいは低減することでガウジング用電源装置の出力側経路に接続された延長ケーブル等のインピーダンスによるアーク電圧及び出力電流の変化に対応してガウジング出力特性を変化させることができるので、出力側経路のインピーダンスの影響に対応して母材の溝形状及び表面の滑らかさを容易に変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図7を用いて説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は本実施の形態におけるガウジング用電源装置の概略構成を示す図である。なお、図1において、背景技術で説明した図7と同じ構成要素については同じ符号を用いて詳細な説明を省略する。図1の構成が図7の構成と異なる主な点は、基準電圧設定部9と、特性設定ボリウム10と、出力特性入力部11と、出力特性傾き変更部12と、差動増幅回路13と、出力特性生成部14を設けた点である。
【0016】
図1において、10はガウジング電源装置の垂下特性の傾きを変更するための可変抵抗などで構成される特性設定ボリウム、11は特性設定ボリウム10で設定された値を読み込むための出力特性入力部、12は出力特性入力部11で入力された値により増幅率を決定するための出力特性傾き変更部である。13は出力電圧検出部6で検出した出力電圧と基準電圧設定部9で設定された値との差を出力特性傾き変更部12により決定された増幅率を掛け合わして値を決定するための差動増幅回路、14は設定電流入力部8で設定された値と差動増幅回路13で決定された値とから出力特性を決定する出力特性生成部、15は出力特性生成部14で決定された値により出力制御回路2を駆動するための駆動指令部である。
【0017】
以上のように構成されたガウジング用電源装置についてその動作を説明する。
【0018】
まず、出力制御回路2は駆動指令部15からの信号を受け、入力電圧部1から入力した電圧をインバータ制御またはサイリスタ制御などのガウジング用電源装置の出力制御によりトーチ3と母材4の間に電圧を発生させ、ガウジング溶接棒5と母材4との間にアークを発生させてガウジングを行う。このとき、駆動指令部15は、出力特性生成部14から得られる値によりガウジング用電源装置の出力を増減するための信号を出力制御回路2に送り、出力制御回路2は前記信号を受けて出力を制御している。
【0019】
基準電圧設定部9は、電流設定ボリウム7で設定された電流に基づいて基準電圧を設定する。
【0020】
差動増幅回路13は基準電圧設定部9で決定された前記基準電圧に対して、出力電圧検出部6から得られた出力電圧との差分をとり、出力特性傾き変更部12により決定された増幅率により前記差分された値を増幅する。この増幅する量は、特性設定ボリウム10で設定された値を出力特性入力部11で読み込み、この値により出力特性傾き変更部12で決定される。前記増幅量は特性設定ボリウム10により変化し、その変化量は0より大きい数値とし、1より小さい値とし、その値は連続値であっても離散値であってもよい。先に説明した出力特性生成部14が決定する値は、差動増幅回路13で決定される値と設定電流入力部8で決定される値を加算することにより得ることができる。これらの結果、基準電圧設定部9からの値が固定であった場合の出力特性生成部14で決定される値をグラフにしたものが、図2である。
【0021】
図2はガウジング用電源装置の出力特性を示したものであり、横軸が電流出力、縦軸が電圧出力である。記号Vdが基準電圧、特性A1、特性A2、特性A3がガウジング用電源装置の垂下特性を表しており、出力特性傾き変更部12で決定される値により特性A1を基準として特性A2へ、あるいは、特性A3へと垂下特性が変化する。この図2では設定電流入力部8で決定される値を固定としているため、基準電圧設定部9で決定される値が固定となり、出力特性傾き変更部12で決定される増幅率のみが変化した場合を示している。
【0022】
なお、図2では設定電流入力部8で決定される値を固定としているため、基準電圧設定部9で決定される値が固定となり、基準電圧Vdが一定の場合を示したが、図3に示すように、設定電流入力部8で決定される値を設定電流に従って例えばVd1に示すように変化させても良い。
【0023】
また、図4はガウジング用電源装置の出力特性の別の例を示したものであり、横軸が電流出力、縦軸が電圧出力である。図2と同様の箇所には同じ記号を示し詳細な説明は省略する。図2と異なる点は、設定電流入力部8からの値は固定であるが、基準電圧設定部9で決定される基準電圧が異なる場合を示しており、このときの出力特性傾き変更部12で決定される増幅率は固定としている。
【0024】
図4において、基準電圧が記号Vdから記号Vd2へ変化した場合、特性A1を基準として、特性B1へと垂下特性が変化する。特性B1は、B11−B12で描く垂下特性を示しており、出力電圧が特性A1と同じ場合、例えばガウジングを行う場合にガウジング溶接棒5と母材4との間でアークが発生している状態であり、電流が多く流れるため、ガウジング時に深く母材4を削ることができる。
【0025】
図5はガウジングのアーク長が変化した場合のアーク特性と、ガウジング用電源装置の出力特性とを表したものであり、図6は出力特性の傾きを変化させた場合のガウジングを行った母材4における溝形状の変化の傾向を示したものである。
【0026】
図5において、アーク長が長い場合のアーク特性をL1、アーク長が短い場合のアーク特性をL2としている。特性A1はA11−A12で描くガウジングの垂下特性を示す。特性A2はA21−A22で描くガウジングの垂下特性を示す。
【0027】
アーク長がL1からL2に短くなる場合、出力特性の傾斜が急峻な特性A2の場合は特性A3の場合と比較して出力電圧の低下が大きく、出力電流の上昇が小さいため発熱量が減少し、溶融金属の中にアークが埋もれた状態になり、図6の下側に示すように幅が狭く深い溝形状となり易い。
【0028】
また、特性A3はA31−32で描く垂下特性を示し、アーク長がL1からL2に短くなる場合、出力特性の傾斜が緩やかな特性A3の場合は電流の上昇が大きく発熱量が維持されるため、図6の上側に示すように幅が広く浅い丸底形状の溝形状となり易い。
【0029】
以上のように、本実施の形態によれば、特性設定ボリウム10によりガウジング用電源装置の出力特性の傾きを変化させることができるので、ガウジング溶接棒の形状を変更したりガウジング溶接棒の運棒を変化させたりすることなく母材4の溝形状及び表面の滑らかさを変化させることができる。
【0030】
また、ガウジング用電源装置の出力側経路に接続された延長ケーブル等のインピーダンスによるアーク電圧及び出力電流の変化の影響を受けずにガウジング用電源装置の出力特性の傾きを変化させ、母材の溝形状及び表面の滑らかさを容易に変化させることができる。
【0031】
(実施の形態2)
図7は本実施の形態におけるガウジング用電源装置の概略構成を示す図である。
【0032】
本実施の形態において実施の形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。図7の構成が図1の構成と異なる主な点は、基準設定ボリウム16と、基準設定入力部17を設けた点である。
【0033】
図7において、16はガウジング用電源装置の垂下特性の基準電圧を調整するために可変抵抗などで構成される基準設定ボリウム、17は基準設定ボリウム16で設定された値を読み込むための基準設定入力部である。図1と異なる点は、基準電圧設定部9が基準設定入力部17の出力と設定電流入力部8の出力とを入力して差動増幅回路13に出力するようにした点である。
【0034】
以上のように構成されたガウジング用電源装置について、その動作を説明する。
【0035】
まず、出力制御回路2は駆動指令部15からの信号を受け、入力電圧部1からの入力電圧をインバータ制御またはサイリスタ制御などのガウジング用電源装置の出力制御によりトーチ3と母材4の間に電圧を発生させ、ガウジング溶接棒5と母材4との間にアークを発生させガウジングを行う。このとき、駆動指令部15は出力特性生成部14から得られる値によりガウジング用電源装置の出力を増減するための信号を出力制御回路2に送り、出力制御回路2は前記信号を受けて出力を増減する。
【0036】
基準設定ボリウム16で設定された値を基準設定入力部17に入力し、基準設定入力部17で入力された値と設定電流入力部8で入力された値との差分をとることにより基準電圧設定部9は基準電圧を設定する。この設定される基準電圧は、基準設定入力部17で決定された値により変化し、その変化量は連続値であっても離散値であっても良い。
【0037】
差動増幅回路13は基準電圧設定部9で決定された前記基準電圧に対して、出力電圧検出部6から得られた出力電圧との差分とり、出力特性傾き変更部12により決定された増幅率により前記差分された値を増幅する。この増幅する量は、特性設定ボリウム10で設定された値を出力特性入力部11で読み込み、この値により出力特性傾き変更部12で決定され、前記増幅量は特性設定ボリウム10により変化し、その変化量は0より大きい数値とし、1より小さい値とし、その値は連続値であっても離散値であってもよい。
【0038】
先に説明した出力特性生成部14が決定する値は、差動増幅回路13で決定される値と設定電流入力部8で決定される値を加算することにより得ることができる。
【0039】
これらの結果、実施の形態1で説明したガウジング用電源装置の図2から図4に示すものと同じ垂下特性を得ることができる上、基準設定ボリウム16によって図4に示すように出力電流を変化させること無く出力電圧を変化させることができる。
【0040】
以上のように、本実施の形態によれば、基準設定ボリウム16により設定基準電圧を増加あるいは低減することでガウジング用電源装置の出力側経路に接続された延長ケーブル等のインピーダンスによるアーク電圧及び出力電流の変化に対応してガウジング出力特性を変化させることができる。従って、出力側経路のインピーダンスの影響に対応して出力電圧を変化させることで、出力側経路のインピーダンスが変化する以前の母材4の溝形状及び表面の滑らかさを容易に再現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係るガウジング用電源装置は、電流と電圧の関係を表すガウジング出力特性の傾きを変化させることによってガウジング棒の運棒の技量に左右されずに、また、ガウジング棒の径や形状を変更したりガウジング棒の運棒を変化させたりすることなく母材の溝形状及び表面の滑らかさを容易に変化させることができ、ガウジングを行う装置として産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガウジング用電源装置の概略構成を示す図
【図2】本発明の実施の形態1におけるガウジング用電源装置の出力特性の傾きを変化させた場合の出力特性を示す図
【図3】本発明の実施の形態1におけるガウジング用電源装置の基準電圧が一定ではない場合の出力特性を示す図
【図4】本発明の実施の形態1におけるガウジング用電源装置の基準電圧が変化した場合の出力特性を示す図
【図5】本発明の実施の形態1におけるガウジング用電源装置の出力特性とアーク特性との関係を示した図
【図6】本発明の実施の形態1におけるガウジング用電源装置の出力特性を変化させた場合の溝形状の違いを示す図
【図7】本発明の実施の形態2におけるガウジング用電源装置のブロック図
【図8】従来のガウジング用電源装置の概略構成を示す図
【図9】ガウジング用電源装置の出力特性の平行移動の状態を示す図
【符号の説明】
【0043】
1 入力電圧部
2 出力制御回路
3 トーチ
4 母材
5 ガウジング溶接棒
6 出力電圧検出部
7 電流設定ボリウム
8 設定電流入力部
9 基準電圧設定部
10 特性設定ボリウム
11 出力特性入力部
12 出力特性傾き変更部
13 差動増幅回路
14 出力特性生成部
15 駆動指令
21 出力特性可変部
22 差動増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガウジングを行う設定電流を入力するための設定電流入力部と、
前記設定電流入力部に入力された設定電流に基づいて前記設定電流に対応した設定基準電圧を選定する基準電圧選定部と、
前記設定電流と前記基準電圧との交点を固定点として電流と電圧の関係を表すガウジング出力特性の傾きを変更するためのガウジング出力特性傾き変更部とを備えたガウジング用電源装置。
【請求項2】
設定電流入力部に入力された設定電流に基づいて選定された基準電圧を増加あるいは低減するための基準電圧増減部を備え、
前記設定電流入力部に入力された設定電流と前記設定基準電圧増減部により増加あるいは低減された設定電圧との交点を固定点として電流と電圧の関係を表すガウジング出力特性の傾きを変更する請求項1記載のガウジング用電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−148775(P2009−148775A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326908(P2007−326908)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】