ガスの測定方法および測定装置
【課題】測定対象ガスを、測定装置へ導入するまでの搬送経路による影響を可及的に低減し、安定した測定値が早急に得られるようにする。
【解決手段】測定対象ガスを含むキャリアガスが導入される導入口52からの流路を、測定対象ガス用流路53とパージガス用流路54とに分岐し、パージガス用流路54には、測定対象ガスを除去するフィルター38および除塵フィルター37を設け、測定対象ガスを除去したキャリアガスをパージガスとしてチャンバ16のパージを行うようにし、パージ期間中においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置3に導入し、これによって、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスを遮断する構成のように、測定装置3までの搬送経路に測定対象ガスが溜まって測定値が高くなるといった不具合を解消する。
【解決手段】測定対象ガスを含むキャリアガスが導入される導入口52からの流路を、測定対象ガス用流路53とパージガス用流路54とに分岐し、パージガス用流路54には、測定対象ガスを除去するフィルター38および除塵フィルター37を設け、測定対象ガスを除去したキャリアガスをパージガスとしてチャンバ16のパージを行うようにし、パージ期間中においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置3に導入し、これによって、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスを遮断する構成のように、測定装置3までの搬送経路に測定対象ガスが溜まって測定値が高くなるといった不具合を解消する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの測定方法および測定装置に関し、更に詳しくは、人体ガス、例えば、呼気や皮膚の表面から放出される経皮ガスなどの測定に好適な測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、腎不全、腎臓・肝臓疾患、糖尿病などの病気の診療において、血中のアンモニア、グルコース、一酸化炭素などの濃度を検査し、一つの指標として利用している。しかし、このような検査法は、侵襲検査であり、実時間にその場で検査結果を得ることが困難であることに加えて、採血によるばい菌感染のリスクも伴う。
【0003】
一方、様々な研究及び臨床試験の結果、血中のガス濃度と、呼気や皮膚から(経皮)の特定のガス濃度との間に相関があることが明らかになりつつある。例えば、腎不全患者の血中尿素濃度と呼気中のアンモニア濃度、あるいは、糖尿病患者の血中のグルコース濃度と呼気中の硝酸メチル濃度に相関があることは、既に研究成果として発表されている(例えば、非特許文献1、2参照)。呼気、経皮ガスの検査は、非侵襲検査であり、苦痛を伴わず、それを用いて特定の疾患の検査、診療を行うことは、極めて望ましい。
【非特許文献1】L. R. Narasimhan, W. Goodman, and C. K. N. Patel, 鼎orrelation of breath ammonia with blood urea nitrogen and creatinine during hemodialysis・ Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 98, No. 84617−4621(2001).
【非特許文献2】B. J. Novak, et al. 摘xhaled methyl nitrate as a noninvasive marker of hyperglycemia in type 1 diabetes・ Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 104, No. 40, 15613−15618 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件出願人は、アンモニアガス等の測定に好適なガスセンサを既に提案している(特願2007−207230「ガスセンサ」平成19年8月8日提出)。
【0005】
図11は、このガスセンサの一例を示す概略構成図であり、この図11は、後述のパージガスとして空気を用いる場合の構成を示している。
【0006】
このガスセンサは、測定対象ガス、例えば、アンモニア(NH3)ガスの濃度を測定できる小型のガスセンサであり、測定対象ガスを感知するセンサチップ部15を有しており、このセンサチップ部15は、チャンバ16内に収納固定されている。
【0007】
センサチップ部15は、図12の拡大図にも示すように、ガラス基板17上に光導波層18を形成し、更に、光導波層18上に、測定対象ガス、例えば、アンモニアガスと反応する検知材としての反応膜19が成膜されて光導波路が構成されている。この反応膜19は、測定対象ガスと反応し、吸収スペクトルがシフトする材料で構成され、測定対象ガスの濃度に依存して、導波された光が減衰する。
【0008】
この反応膜19は、可逆性があり、例えば、窒素ガス、または、測定対象ガスを含まない空気によって再生可能であり、測定対象ガスの濃度の繰り返し測定が可能である。
【0009】
ガラス基板17上には、光導波層18へのカップリング用の直角プリズム20,21がそれぞれ設けられており、導波光は、図12に示すように、全反射を繰り返しながら進行するが、その間光導波層表面にエバネッセント波が染み出す。
【0010】
センサチップ部15は、測定対象ガスのガス濃度に応じて、反応膜19の色変化の程度が異なるため、エバネッセント波の吸収率が変化し、光導波層18に導波する光の出力が弱くなる。したがって、導波光の出力強度を測定することによって、測定対象ガスの濃度を検出することができる。
【0011】
このガスセンサでは、以上の構成を有するセンサチップ部15を、図11に示すように、チャンバ16内に装着固定している。このチャンバ16は、反応膜19を再生するとともに、パージを行うためのパージガスおよび測定対象ガスを個別に導入するための導入口22,23および導入したガスを排出する排出口24を備えている。
【0012】
パージガスの導入口22に連通する流路36には、電磁弁30、除塵フィルター37、および、測定対象ガスを除去するケミカルフィルター38を設けており、測定対象ガスの導入口23には、電磁弁31が設けられている。各電磁弁30,31によって、流路の開閉が制御される。チャンバ16のガスの排出口24には、パージガスまたは測定対象ガスを導入するためのポンプ29が接続されている。
【0013】
パージガスとしては、上述のように窒素ガスや空気を用いることができ、この例では、測定対象ガスをケミカルフィルター38によって除去し、除塵フィルター37で除塵した空気をパージガスとして用い、チャンバ16内のパージを行うと同時に、反応膜19を再生する。
【0014】
このガスセンサは、レーザーダイオード25からのレーザー光を、反射ミラー26を介してセンサチップ部15に導入するための光窓27およびセンサチップ部15からの導波光を取り出すための光窓28を備えており、また、センサチップ部15からの導波光を、チャンバ16の光窓28を介して検出するフォトダイオード32と、このフォトダイオード32の出力に基づいて、測定対象ガス、例えば、アンモニアガスの濃度を算出する信号処理回路33と、検出結果であるガス濃度を表示する表示器34とを備えている。
【0015】
これらは、チャンバ16、レーザーダイオード25、反射ミラー26、ポンプ29および電磁弁30,31などと共に、筐体35内に収納配置されている。
【0016】
かかるガスセンサは、周囲空気に含まれる測定対象ガスの測定には、非常に有効である。例えば、周囲空気中に含まれるアンモニアガスの測定では、先ず、アンモニアガスをケミカルフィルター38によって除去した空気をパージガスとしてチャンバ16内に導入してパージを行うとともに、反応膜19を初期化し、その後、パージガスに代えて、周囲空気をチャンバ16内に導入して空気中のアンモニアガスの濃度を測定することができる。
【0017】
しかしながら、かかるガスセンサを用いて、例えば、呼気、経皮ガスなどの人体ガス中の測定対象ガスを測定する場合には、次のような課題がある。
【0018】
すなわち、人体ガス、例えば、経皮ガスを採取してガスセンサまで搬送するには、通常、経皮ガスを捕集する捕集容器を測定対象部位に取り付け、捕集容器に捕集された経皮ガスを、窒素ガスなどのキャリアガスと共にガスセンサまでチューブ等の搬送路を介して搬送することになるが、経皮ガスの測定に先立って、上述のように、パージガスによってパージを行うとともに、反応膜を再生する必要がある。このパージを行っているパージ期間は、皮膚から放出される経皮ガスが、捕集容器からガスセンサまでのチューブ等の搬送経路に溜まることになり、その分、高めの測定値が得られることになる。
【0019】
正しい測定値を得るためには、経皮ガスが搬送経路に溜まらないように、パージの度に、経皮ガスを捕集する捕集容器を、一旦、測定対象部位から外さねばならず、面倒である。また、パージを終了し、経皮ガスを捕集して測定を開始した初期においては、搬送経路であるチューブ等の内面に、経皮ガスが吸着されるので、平衡に達して測定値が安定するまでには、時間を要することになり、したがって、パージおよび測定を繰り返し行う場合には、測定時間が長くなってしまう。
【0020】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、測定対象ガスを、測定装置へ搬送する搬送経路による影響を可及的に低減し、安定した測定値が早急に得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のガスの測定方法は、測定装置にパージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを、前記測定装置に導入して前記測定対象ガスを測定する方法であって、前記測定装置に導入される前記キャリアガスから前記測定対象ガスを除去し、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして用いるものである。
【0022】
本発明のガスの測定方法によると、測定対象ガスを除去したキャリアガスをパージガスとして用いるので、パージを行っているパージ期間においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することになり、従来例のように、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスの導入を遮断する必要がない。これによって、測定対象ガスを含むキャリアガスを、測定装置までの搬送する搬送経路に、測定対象ガスが溜まることがなく、測定対象ガスを精度よく測定できることになる。
【0023】
また、上述の図11の構成では、パージ期間中に、搬送経路に測定対象ガスが溜まるのを防止するために、パージの度に、測定対象ガスの捕集を止めねばならず、面倒であり、更に、測定対象ガスの採取を開始して測定する度に、測定対象ガスが搬送経路に吸着され、平衡に達して安定するまでに時間がかかったのに対して、本発明では、パージ期間中においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入するので、パージ期間中に、測定対象ガスの採取を止める必要がなく、測定時間を短縮することができる。
【0024】
更に、キャリアガスをパージガスとしているので、キャリアガスとパージガスとで温度や湿度の差がなく、それに起因する測定誤差も生じない。
【0025】
本発明のガスの測定装置は、パージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入して前記測定対象ガスを測定する装置であって、前記測定対象ガスに反応する検知材を有するセンサ部が収納されたチャンバを備え、前記測定対象ガスを含むキャリアガスを、当該測定装置に導入する導入流路を、測定対象ガス用流路とパージガス用流路とに分岐し、前記パージガス用流路には、前記キャリアガスに含まれる前記測定対象ガスを除去する除去部を設け、前記パージガス用流路を介して、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして前記チャンバに導入してパージを行い、前記測定対象ガス用流路を介して、前記測定対象ガスを含むキャリアガスを前記チャンバに導入して前記測定対象ガスを測定するものである。
【0026】
前記センサ部は、光導波路上に、前記検知材が設けられた光導波路型のセンサ部であるのが好ましい。
【0027】
前記検知材は、前記測定対象ガスに反応する一方、前記パージガスによって再生する可逆性の検知材であるのが好ましい。
【0028】
前記キャリアガスは、空気としてもよい。
【0029】
前記測定対象ガスを含む前記キャリアガスは、捕集容器から搬送されて当該測定装置に導入されるものであり、前記捕集容器が、皮膚から放出される経皮ガスを捕集する開口部を有するとともに、前記経皮ガスを搬送する前記キャリアガスの導入口および前記両ガスの導出口を有し、捕集した前記経皮ガスを、前記導入口から導入した前記キャリアガスと共に前記導出口から当該測定装置へ搬送してもよい。
【0030】
本発明のガスの測定装置によると、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入する導入流路を分岐し、パージガス用流路では、キャリアガスに含まれる測定対象ガスを除去してパージガスし、このパージガスによってパージを行うので、パージを行っているパージ期間においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することになり、上述の図11の構成のように、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスの導入を遮断する必要がない。これによって、測定対象ガスを含むキャリアガスの搬送経路に、測定対象ガスが溜まることがなく、測定対象ガスを精度よく測定できることになる。また、パージ期間中に、測定対象ガスの捕集を止める必要がなく、測定時間を短縮することができる。
【0031】
また、苦痛を伴わない非侵襲検査である経皮ガスの検査に有効である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、測定対象ガスを除去したキャリアガスをパージガスとして用いるので、パージを行っている期間においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することになり、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスの導入を遮断する必要がなく、これによって、測定対象ガスを含むキャリアガスの搬送経路に、測定対象ガスが溜まることがなく、測定対象ガスを精度よく測定できるとともに、測定時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面によって本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の実施形態に係るガスの測定装置を備える経皮ガス測定システムの概略構成図である。
【0035】
この実施形態の経皮ガス測定システムは、測定対象部位、例えば、ヒトの上腕の皮膚1から放出される経皮ガスに含まれる塩基性ガスであるアンモニア(NH3)ガスを測定するものであり、皮膚1からの経皮ガス(皮膚透過ガス)を採取する採取装置2と、採取された経皮ガスに含まれる測定対象ガスであるアンモニアガスの濃度を測定するガスの測定装置3とを備えている。
【0036】
身体中の新陳代謝の産生物として、有毒なアンモニアガスを発生する。大部分のアンモニアは、肝臓によって無毒の尿素(NH2)2COに変換して腎臓を通し、尿として排泄する。同時に少量のアンモニアガスは、呼気及び経皮から排出する。しかし、肝臓疾患、肝硬変、腎臓疾患、腎不全、ピロリ菌感染によって、体内に産生するアンモニアガスを尿素に変換する酵素が欠乏し、十分に尿素に変換することができない。その結果、血中のアンモニア濃度は高くなり、呼気、皮膚からも正常より高い濃度のアンモニアガスが排出される。
【0037】
この実施形態によれば、皮膚から排出されるアンモニアガスを測定することによって、特定の疾患の診療に役立てることができる。
【0038】
経皮ガスを採取する採取装置2は、測定対象部位の皮膚1に密着させて経皮ガスを捕集する捕集容器4と、捕集された経皮ガスを、キャリアガスと共に測定装置3へ搬送する搬送路となるチューブ5とを備えている。
【0039】
図2は、捕集容器を示す図であり、同図(a)は側面図、同図(b)は縦断した正面図、同図(c)は底面図である。
【0040】
この捕集容器4は、大略直方体状であって、測定対象部位の皮膚に密着される矩形の開口部6を有しており、この開口部6の周縁には、ゴムや軟質樹脂からなる弾性部材7が取り付けられている。
【0041】
捕集容器4は、アンモニアガスの吸着がない、あるいは、吸着が少ない材質であって、割れにくい材質が好ましく、例えば、ポリテトラフロロエチレン、表面をポリテトラフロロエチレンで処理したアルミニウム、あるいは、ポリビニール樹脂材などから構成するのが好ましい。捕集容器4の各隅部は、丸味を帯びた形状に処理されている。
【0042】
捕集容器4の上面には、図2(b)に示すように、捕集した経皮ガスを測定装置3へ搬送するためのキャリアガスである空気を導入するための導入口8が形成されており、下面には、捕集した経皮ガスを、キャリアガスと共に測定装置3へ導出するための導出口9が形成されており、この導出口9には、上記チューブ5の一端が接続されている。このチューブ5は、例えば、ポリテトラフロロエチレンからなる。
【0043】
捕集容器4の内部は、複数の通気口10を有する隔離板11によって、上下二つの空間に区画されており、下側の空間は、上記開口部6が臨む経皮ガスの捕集空間となっており、上側の空間には、キャリアガスとして導入される空気に含まれる測定対象ガスであるアンモニアガスを吸着除去するための吸着剤12が収納されている。また、隔離板11の上面には、空気に含まれる及びアンモニア吸着剤12から発生する塵埃を除去するメンブレンフィルタ13が設置されている。
【0044】
吸着剤12としては、例えば、ニッタ株式会社製の活性炭吸着剤(商品名:ピュラコールAMS、ギガソーブ)などを用いることができる。
【0045】
捕集容器4の両側面には、開口部6を測定対象部位の皮膚、例えば、上腕の皮膚に密着させた状態に保持できるように、一対の紐やベルト等の締め付け具14が取り付けられている。この締め付け具14には、簡単に付け外しができるように面ファスナー14aが設けられている。
【0046】
経皮ガスの採取は、捕集容器4の開口部6を、ヒトの測定対象部位の皮膚に密着させて締め付け具14を用いて固定し、皮膚から放出される経皮ガスを、捕集容器4の下側の捕集空間に捕集しつつ、空気を導入口8から導入して吸着剤12によってアンモニアガスを除去し、このアンモニアガスを除去した空気と共に経皮ガスを、チューブ5を介して測定装置3へ搬送するものである。
【0047】
図3は、本発明に係る測定装置3の概略構成図である。
【0048】
この実施形態の測定装置3は、測定対象ガスであるアンモニア(NH3)ガスの濃度を測定できる小型のガスセンサである。
【0049】
この測定装置3は、測定対象ガスを感知するガス検知部としてのセンサチップ部15を有しており、このセンサチップ部15は、チャンバ16内に収納固定されている。
【0050】
センサチップ部15は、上述の図12の拡大図にも示すように、ガラス基板17上に光導波層18を形成し、更に、光導波層18上に、アンモニアガスと反応する検知材としての反応膜19が成膜されて光導波路が構成されている。この反応膜19は、アンモニアガスと反応し、吸収スペクトルがシフトする材料で構成され、アンモニアガスの濃度に依存して、導波された光が減衰する。
【0051】
この反応膜19は、可逆性があり、窒素ガス、または、アンモニアガスを含まない空気によって再生可能であり、アンモニアガス濃度の繰り返し測定が可能である。
【0052】
この実施形態では、反応膜19の材料として、pH指示薬であるBCP(ブロモクレゾールパープル)を用いた。
【0053】
ガラス基板17上には、光導波層18とのカップリング用の直角プリズム20,21がそれぞれ設けられており、導波光は、上述の図12に示すように、全反射を繰り返しながら進行するが、その間光導波層表面にエバネッセント波が染み出す。
【0054】
センサチップ部15は、ガス濃度に応じて、反応膜19の色変化の程度が異なるため、エ バネッセント波の吸収率が変化し、光導波層18に導波する光の出力が弱くなる。したがって、導波光の出力強度を測定することによって、アンモニア濃度を検出することができる。
【0055】
この測定装置3では、以上の構成を有するセンサチップ部15を、図3に示すように、チャンバ16内に装着固定している。
【0056】
上述の図11では、ガスセンサは、パージガスを導入するための導入口50および測定対象ガスを導入するための導入口51を個別に備えていたけれども、この実施形態の測定装置3では、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入する導入口52のみを備えており、この導入口52に、上述のチューブ5が接続される。すなわち、測定装置3には、捕集容器4で捕集された経皮ガスを含む空気(キャリアガス)が、導入口52から導入される。
【0057】
この導入口52からの流路を、測定対象ガス用流路53とパージガス用流路54とに分岐し、更に、チャンバ16の導入口55の直前で合流させている。
【0058】
測定対象ガス用流路53には、電磁弁31が設けられ、パージガス用流路54には、電磁弁30が設けられるとともに、測定対象ガスであるアンモニアガスを除去するケミカルフィルター38および除塵フィルター37が設けられている。アンモニアガスを除去するケミカルフィルター38としては、例えば、ニッタ株式会社製のNH3除去材(商品名:ピュラコールAMS)などを用いることができる。電磁弁30,31によって、各流路53,54の開閉が制御される。
【0059】
チャンバ16は、導入したガスを排出する排出口24を備えており、排出口24には、パージガスまたは測定対象ガスを導入するためのポンプ29が接続されている。このポンプ29は、微小量のガスの定量の輸送制御が可能なマイクロポンプである。
【0060】
この測定装置3は、レーザーダイオード25からのレーザー光を、反射ミラー26を介してセンサチップ部15に導入するための光窓27およびセンサチップ部15からの導波光を取り出すための光窓28を備えており、また、センサチップ部15からの導波光を、チャンバ16の光窓28を介して検出するフォトダイオード32と、このフォトダイオード32の出力に基づいて、アンモニアガスの濃度を算出する信号処理回路33と、検出結果であるガス濃度を表示する表示器34とを備えている。これらは、チャンバ16、レーザーダイオード25、反射ミラー26、ポンプ29および電磁弁30,31などと共に、筐体35内に収納配置されている。
【0061】
この実施形態の測定装置3では、パージの際には、導入口52から導入される測定対象ガスであるアンモニアガスを含むキャリアガスを、パージ用流路54に導き、ケミカルフィルター38でアンモニアガスを除去し、除塵フィルター37で除塵して、パージガスとしてチャンバ16内に導入してパージを行う。このように、アンモニアガスを除去したキャリアガスをパージガスとするので、パージ期間中も、導入口52からアンモニアガスを含むキャリアガスを導入することになり、捕集容器4から導入口52に至る搬送経路にアンモニアガスが溜まることがない。
【0062】
このパージが終了した後に、導入口52から導入されたアンモニアガスを含むキャリアガスを、測定対象ガス用流路53に導き、チャンバ16内に導入して反応膜19と反応させてアンモニアガスの測定を行う。
【0063】
このように、チューブ5を介して導入口52から導入されるアンモニアガスを含むキャリアガス、すなわち、経皮ガスを含む空気からケミカルフィルター38でアンモニアガスを除去し、更に、除塵フィルター37によって、空気に含まれる塵埃及びアンモニア吸着剤から発生する塵埃を除去してパージガスとしてチャンバ16に導入し、パージおよび反応膜19の再生を行うので、パージ期間においても、経皮ガスを含む空気を、測定装置3に導入することになる。
【0064】
これによって、パージ期間中は、経皮ガスを含む空気の導入を遮断する図11の構成のように、捕集容器4から導入口52に至るチューブ5内に経皮ガスが溜まって測定値が高くなるといったことがない。また、捕集容器4から導入口52に至るチューブ5内に経皮ガスが溜まらないようにするために、パージ期間中は、捕集容器4を測定対象部位から外すといった必要もなく、更に、パージ期間が終了して経皮ガスを捕集して測定を開始したときに、捕集容器4から導入口52に至るチューブ5内に経皮ガスが吸着し、安定した測定値を得るまでに時間がかかるといったこともない。
【0065】
図4は、図3の信号処理回路33の要部の構成を示す図である。
【0066】
この実施形態の信号処理回路33は、オペアンプ39を備えており、このオペアンプ39の反転入力端子には、上述のフォトダイオード32のアノードが、入力抵抗R1を介して接続され、非反転入力端子には、直流の基準電圧源40が、可変抵抗VRを介して接続される。また、オペアンプ39の出力端子と非反転入力端子との間には、帰還抵抗R2が接続されている。
【0067】
この実施形態の信号処理回路33では、アンモニアガスが存在しない状態で、オペアンプ39の出力電圧が、0になるように、可変抵抗VRを調整して基準電圧を分圧し、参照電圧としてオペアンプ39に与える。
【0068】
すなわち、アンモニアガスが存在しておらず、導波光が減衰していない状態のフォトダイオード32の出力電圧に等しくなるように基準電圧を調整して参照電圧とする。
【0069】
この信号処理回路33を用いて、レーザーダイオード25のレーザー出力とオペアンプ39の出力電圧との相関関係を測定した。
【0070】
レーザーダイオード25は、自動パワー制御回路内蔵のものを使用した。レーザー光を安定させるために、安定化直流電源を使用し、レーザー光発振して3分を待って測定した。ガスチャンバー16内には、窒素ガスを導入し、アンモニアガスが存在しない状態で測定した。
【0071】
フォトダイオード32へ入射するレーザー光強度を、NDフィルターを用いて調整した。
【0072】
測定方法は、フォトダイオード32への初期光強度(I0)に対して、基準電圧源40の基準電圧が、可変抵抗VRを介して参照電圧としてオペアンプ39に入力される。このとき、信号処理回路33の出力電圧が、0になるように、可変抵抗VRで基準電圧を調整し、参照電圧とした。
【0073】
その後、レーザー光の強度を、上述のように、NDフィルターで調整し、そのレーザー光強度(I)に対する信号処理回路33の出力電圧を測定した。
【0074】
初期入射光強度は、25μW、50μW、100μWの3種類に対して行い、入射光の減衰率(1−I/I0)と、信号処理回路33の出力電圧値の相関関係を、図5にプロットした。
【0075】
この図5に示すように、入射光の減衰率(1−I/I0)が、約0〜0.5の範囲では、初期入射光強度が異なっても、出力電圧は、同一直線上に沿って変化していることが分かる。すなわち、初期入射光強度が異なっても、入射光の減衰率が同じであれば、同じ出力電圧が得られることが分かる。
【0076】
図6に、アンモニアガス濃度0ppb、50ppb、100ppb、500ppbをガスチャンバーに導入し、2分間検知材と反応させた後に入射光の減衰率を測定した結果を示す。それぞれのアンモニアガス濃度において、同一条件で3回測定を行い、平均値をプロットした。入射光の減衰率は、図6に示されるように、アンモニアガスの濃度に比例する。したがって、図4に示すオペアンプ39の増幅率を調整し、図6に示す曲線の勾配と合わせることにより、図5における横軸が、アンモニアガスの濃度に対応することになり、アンモニアガスの濃度に応じた出力電圧が得られることが分かる。また、図4に示すアンプ39の回路の増幅率は、帰還抵抗R2と入力抵抗R1の比で決定される。例えば、帰還抵抗R2は、固定抵抗及び可変抵抗を直列して構成すれば、可変抵抗を調整することで、増幅率の微調整ができる。
【0077】
なお、予め、出射光の出口光量と、測定対象ガスの濃度との関係を示す検量線を求めておき、測定した出口光量から、前記検量線を参照して、測定対象ガスの濃度を算出してもよい。
【0078】
この実施形態では、信号処理回路33の出力電圧は、アンモニアガスの濃度に対応したものとなり、したがって、信号処理回路33の出力電圧に基づいて、アンモニアガスの濃度を、直接表示器34に表示することが可能となる。
【0079】
なお、図5においては、入射光の減衰率(1−I/I0)が、0から0.5の領域について特に直線性が高い。従って、当該範囲を直線近似することにより、極低濃度のアンモニアガスを精度よく測定することが可能となる。
【0080】
上記の信号処理は本件のアンモニアガス濃度の算出方法の一つであり、パージ後及びアンモニアと反応後のフォトダイオードの出力を読取り、デジタル方式で濃度を求めて表示器に表示し、メモリに書き込むことも容易に用いる手法である。
【0081】
図7および図8は、この実施形態の測定装置3の性能を示すものである。図7は、0ppb、250ppb、500ppb、100ppb、50ppb、0ppbの標準濃度のアンモニアガスを測定した結果を示すものであり、横軸は時間(時:分:秒)を、縦軸は測定値をそれぞれ示している。また、図8は、空気中のアンモニア濃度を調整し、その濃度を測定した結果を示すものであり、横軸は測定日時を、縦軸は測定値をそれぞれ示している。
【0082】
測定では、先ず、パージガスを導入するために、図3の電磁弁31を閉じる一方、電磁弁30を開いて、導入口52から空気をパージガス用流路54に導入し、ケミカルフィルター38でアンモニアガスを除去し、除塵フィルター37で除塵して、チャンバ16内に、ポンプ29によって導入し、60秒間パージを行うとともに、センサチップ部15の初期化を行う。その後、ポンプ29を止め、電磁弁30を閉じる一方、電磁弁31を開く。合成した標準濃度のアンモニアガスを1.5L/Minの流量で、導入口52から測定対象ガス用流路53を介して導入口55からチャンバ16内に、ポンプ29で導入し、センサチップ部15と反応させる。30秒間反応させて平衡に達した後、ポンプ29を止め、ガス濃度を測定した。測定終了後、上述と同様にして、アンモニアガスを除去した空気によってパージおよびセンサチップ部15の再生を行い、異なる標準濃度のアンモニアガスの測定を同様に行った。
【0083】
図7に示すように、この実施形態の測定装置の測定の下限値は、50ppb以下であり、また、図8に示すように、測定レンジは、2ppm以上有している。
【0084】
この実施形態の測定装置3は、アンモニア以外のガス、例えば、CO、CO2、NO、H2O2、イソプラスタン、O2、H2、エタン、メタン、エタノール、IPA、メタノール、アセトン、トルエン、ベンゼン、硫化水素に対して感度が持たないことを確認した。
【0085】
なお、反応膜19の材料としては、上述のBCP(ブロモクレゾールパープル)に代えて、塩基性ガスと反応するpH指示薬、例えば、ブロモチモールブルー、インドオキシン、キノリンブルー、等を用いてもよい。
【0086】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0087】
実施例の捕集容器は、アルミ材で構成し、表面を、テトラフロロエチレンで加工した。開口部のサイズは、25mm×30mmで、高さは30mmとした。
【0088】
人体皮膚との接触部分となる開口部の周縁には、弾性部材として、厚み2mmのシリコンゴムシートを貼り付けた。
【0089】
キャリアガスとして、アンモニアを除去した空気を用い、空気中に含有するアンモニアの除去材として、上述の活性炭吸着剤を用いた。また、吸着剤から発する埃を除塵シートで遮断した。搬送用のチューブとして、長さ50cmの1/8インチのポリテトラフロロエチレン製のチューブを用いた。
【0090】
測定では、捕集容器の開口面をヒトの掌に密着し、固定する。測定装置の清浄ガス(アンモニアガスを含まないガス)を測定後、掌の皮膚からの経皮ガスを、搬送ガスの流量を一定として測定装置に導入して測定した。図9にその結果を示す。清浄ガスでは、アンモニアがないため、測定値は6ppb以下であった。健康なヒトの掌からの経皮ガスでは、約180ppb〜210ppbであった。2回目の測定値はすでに平衡状態になったことを確認できた。
【0091】
比較のために、上述の図11に示されるガスセンサを用いて、同一人物の掌部から同様の採取方法で採取したアンモニアガスの測定を行った。図10にその結果を示す。測定値はおよそ750ppb〜810ppbであった。測定値が平衡になるまで、4回以上連続測定しなければならない。また、図9の値と比較して、3倍以上になっている。これはセンサのパージ期間中に、皮膚からの経皮ガスが捕集容器およびチューブに溜まってアンモニアガス濃度が高くなったと考えられる。
【0092】
このように、測定対象ガスであるアンモニアガスを含むキャリアガスからアンモニアガスを除去してパージガスとして用いるので、パージ期間中においても、アンモニアガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することができ、捕集容器4およびチューブ5の搬送経路にアンモニアガスが溜まって測定値が高めになることがない。また、パージ期間中に、捕集容器4を測定対象部位から外してアンモニアガスの捕集を止める必要もなく、更に、パージが終わって経皮ガスの測定を開始する度に、その初期には、経皮ガスがチューブ5等の内面に吸着するために、測定値が安定しないといったこともない。
【0093】
この実施形態によれば、周囲の環境に影響されることなく、非侵襲でアンモニアガスを測定して、特定の疾患の診療に役立てることができ、また、操作者に資格が不要であるので、何時でも何処でも簡単に測定して健康管理を行うことができる。
【0094】
上述の実施形態では、経皮ガスを測定したけれども、経皮ガスに限らず、呼気等の人体ガスの測定に適用することもできる。また、アンモニアガスの濃度の測定に限らず、アンモニア以外の塩基性ガス、例えば、例えば、メチルアミン、またはトリメチルアミンの検出もできる。人体から発生する窒素化合物ガスのトータル管理にも使用できる。
【0095】
人体の経皮ガスの測定部位は、上述の実施の形態に限らず、背中、胸部、肝臓近辺、腎臓近辺、大腿、頭部、膀胱部、手の指先、足の指先などの部位からの経皮ガスを測定してもよい。
【0096】
また、人体ガスの測定に限らず、他のガスの測定に適用してもよいのは勿論である。
【0097】
キャリアガスは、空気に限らず、窒素ガスなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態に測定装置を備える測定システムの概略構成図である。
【図2】図1の捕集容器を示す図である。
【図3】図1の測定装置の概略構成図である。
【図4】図3の信号処理回路の構成図である。
【図5】入射光の減衰率と信号処理回路の出力電圧との関係を示す図である。
【図6】入射光の減衰率とアンモニアガス濃度との関係を示す図である。
【図7】標準濃度のアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図8】周囲のアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図9】清浄空気および掌からのアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図10】図11のガスセンサによる清浄空気および掌からのアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図11】本件出願人が先に提案しているガスセンサの概略構成図である。
【図12】センサチップ部の構成図である。
【符号の説明】
【0099】
2 採取装置
3 測定装置
4 捕集容器
5 チューブ
6 開口部
8 導入口
9 導出口
12 吸着剤
18 光導波層
19 反応膜
52 導入口
53 測定対象ガス用流路
54 パージガス用流路
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの測定方法および測定装置に関し、更に詳しくは、人体ガス、例えば、呼気や皮膚の表面から放出される経皮ガスなどの測定に好適な測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、腎不全、腎臓・肝臓疾患、糖尿病などの病気の診療において、血中のアンモニア、グルコース、一酸化炭素などの濃度を検査し、一つの指標として利用している。しかし、このような検査法は、侵襲検査であり、実時間にその場で検査結果を得ることが困難であることに加えて、採血によるばい菌感染のリスクも伴う。
【0003】
一方、様々な研究及び臨床試験の結果、血中のガス濃度と、呼気や皮膚から(経皮)の特定のガス濃度との間に相関があることが明らかになりつつある。例えば、腎不全患者の血中尿素濃度と呼気中のアンモニア濃度、あるいは、糖尿病患者の血中のグルコース濃度と呼気中の硝酸メチル濃度に相関があることは、既に研究成果として発表されている(例えば、非特許文献1、2参照)。呼気、経皮ガスの検査は、非侵襲検査であり、苦痛を伴わず、それを用いて特定の疾患の検査、診療を行うことは、極めて望ましい。
【非特許文献1】L. R. Narasimhan, W. Goodman, and C. K. N. Patel, 鼎orrelation of breath ammonia with blood urea nitrogen and creatinine during hemodialysis・ Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 98, No. 84617−4621(2001).
【非特許文献2】B. J. Novak, et al. 摘xhaled methyl nitrate as a noninvasive marker of hyperglycemia in type 1 diabetes・ Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 104, No. 40, 15613−15618 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件出願人は、アンモニアガス等の測定に好適なガスセンサを既に提案している(特願2007−207230「ガスセンサ」平成19年8月8日提出)。
【0005】
図11は、このガスセンサの一例を示す概略構成図であり、この図11は、後述のパージガスとして空気を用いる場合の構成を示している。
【0006】
このガスセンサは、測定対象ガス、例えば、アンモニア(NH3)ガスの濃度を測定できる小型のガスセンサであり、測定対象ガスを感知するセンサチップ部15を有しており、このセンサチップ部15は、チャンバ16内に収納固定されている。
【0007】
センサチップ部15は、図12の拡大図にも示すように、ガラス基板17上に光導波層18を形成し、更に、光導波層18上に、測定対象ガス、例えば、アンモニアガスと反応する検知材としての反応膜19が成膜されて光導波路が構成されている。この反応膜19は、測定対象ガスと反応し、吸収スペクトルがシフトする材料で構成され、測定対象ガスの濃度に依存して、導波された光が減衰する。
【0008】
この反応膜19は、可逆性があり、例えば、窒素ガス、または、測定対象ガスを含まない空気によって再生可能であり、測定対象ガスの濃度の繰り返し測定が可能である。
【0009】
ガラス基板17上には、光導波層18へのカップリング用の直角プリズム20,21がそれぞれ設けられており、導波光は、図12に示すように、全反射を繰り返しながら進行するが、その間光導波層表面にエバネッセント波が染み出す。
【0010】
センサチップ部15は、測定対象ガスのガス濃度に応じて、反応膜19の色変化の程度が異なるため、エバネッセント波の吸収率が変化し、光導波層18に導波する光の出力が弱くなる。したがって、導波光の出力強度を測定することによって、測定対象ガスの濃度を検出することができる。
【0011】
このガスセンサでは、以上の構成を有するセンサチップ部15を、図11に示すように、チャンバ16内に装着固定している。このチャンバ16は、反応膜19を再生するとともに、パージを行うためのパージガスおよび測定対象ガスを個別に導入するための導入口22,23および導入したガスを排出する排出口24を備えている。
【0012】
パージガスの導入口22に連通する流路36には、電磁弁30、除塵フィルター37、および、測定対象ガスを除去するケミカルフィルター38を設けており、測定対象ガスの導入口23には、電磁弁31が設けられている。各電磁弁30,31によって、流路の開閉が制御される。チャンバ16のガスの排出口24には、パージガスまたは測定対象ガスを導入するためのポンプ29が接続されている。
【0013】
パージガスとしては、上述のように窒素ガスや空気を用いることができ、この例では、測定対象ガスをケミカルフィルター38によって除去し、除塵フィルター37で除塵した空気をパージガスとして用い、チャンバ16内のパージを行うと同時に、反応膜19を再生する。
【0014】
このガスセンサは、レーザーダイオード25からのレーザー光を、反射ミラー26を介してセンサチップ部15に導入するための光窓27およびセンサチップ部15からの導波光を取り出すための光窓28を備えており、また、センサチップ部15からの導波光を、チャンバ16の光窓28を介して検出するフォトダイオード32と、このフォトダイオード32の出力に基づいて、測定対象ガス、例えば、アンモニアガスの濃度を算出する信号処理回路33と、検出結果であるガス濃度を表示する表示器34とを備えている。
【0015】
これらは、チャンバ16、レーザーダイオード25、反射ミラー26、ポンプ29および電磁弁30,31などと共に、筐体35内に収納配置されている。
【0016】
かかるガスセンサは、周囲空気に含まれる測定対象ガスの測定には、非常に有効である。例えば、周囲空気中に含まれるアンモニアガスの測定では、先ず、アンモニアガスをケミカルフィルター38によって除去した空気をパージガスとしてチャンバ16内に導入してパージを行うとともに、反応膜19を初期化し、その後、パージガスに代えて、周囲空気をチャンバ16内に導入して空気中のアンモニアガスの濃度を測定することができる。
【0017】
しかしながら、かかるガスセンサを用いて、例えば、呼気、経皮ガスなどの人体ガス中の測定対象ガスを測定する場合には、次のような課題がある。
【0018】
すなわち、人体ガス、例えば、経皮ガスを採取してガスセンサまで搬送するには、通常、経皮ガスを捕集する捕集容器を測定対象部位に取り付け、捕集容器に捕集された経皮ガスを、窒素ガスなどのキャリアガスと共にガスセンサまでチューブ等の搬送路を介して搬送することになるが、経皮ガスの測定に先立って、上述のように、パージガスによってパージを行うとともに、反応膜を再生する必要がある。このパージを行っているパージ期間は、皮膚から放出される経皮ガスが、捕集容器からガスセンサまでのチューブ等の搬送経路に溜まることになり、その分、高めの測定値が得られることになる。
【0019】
正しい測定値を得るためには、経皮ガスが搬送経路に溜まらないように、パージの度に、経皮ガスを捕集する捕集容器を、一旦、測定対象部位から外さねばならず、面倒である。また、パージを終了し、経皮ガスを捕集して測定を開始した初期においては、搬送経路であるチューブ等の内面に、経皮ガスが吸着されるので、平衡に達して測定値が安定するまでには、時間を要することになり、したがって、パージおよび測定を繰り返し行う場合には、測定時間が長くなってしまう。
【0020】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、測定対象ガスを、測定装置へ搬送する搬送経路による影響を可及的に低減し、安定した測定値が早急に得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のガスの測定方法は、測定装置にパージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを、前記測定装置に導入して前記測定対象ガスを測定する方法であって、前記測定装置に導入される前記キャリアガスから前記測定対象ガスを除去し、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして用いるものである。
【0022】
本発明のガスの測定方法によると、測定対象ガスを除去したキャリアガスをパージガスとして用いるので、パージを行っているパージ期間においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することになり、従来例のように、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスの導入を遮断する必要がない。これによって、測定対象ガスを含むキャリアガスを、測定装置までの搬送する搬送経路に、測定対象ガスが溜まることがなく、測定対象ガスを精度よく測定できることになる。
【0023】
また、上述の図11の構成では、パージ期間中に、搬送経路に測定対象ガスが溜まるのを防止するために、パージの度に、測定対象ガスの捕集を止めねばならず、面倒であり、更に、測定対象ガスの採取を開始して測定する度に、測定対象ガスが搬送経路に吸着され、平衡に達して安定するまでに時間がかかったのに対して、本発明では、パージ期間中においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入するので、パージ期間中に、測定対象ガスの採取を止める必要がなく、測定時間を短縮することができる。
【0024】
更に、キャリアガスをパージガスとしているので、キャリアガスとパージガスとで温度や湿度の差がなく、それに起因する測定誤差も生じない。
【0025】
本発明のガスの測定装置は、パージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入して前記測定対象ガスを測定する装置であって、前記測定対象ガスに反応する検知材を有するセンサ部が収納されたチャンバを備え、前記測定対象ガスを含むキャリアガスを、当該測定装置に導入する導入流路を、測定対象ガス用流路とパージガス用流路とに分岐し、前記パージガス用流路には、前記キャリアガスに含まれる前記測定対象ガスを除去する除去部を設け、前記パージガス用流路を介して、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして前記チャンバに導入してパージを行い、前記測定対象ガス用流路を介して、前記測定対象ガスを含むキャリアガスを前記チャンバに導入して前記測定対象ガスを測定するものである。
【0026】
前記センサ部は、光導波路上に、前記検知材が設けられた光導波路型のセンサ部であるのが好ましい。
【0027】
前記検知材は、前記測定対象ガスに反応する一方、前記パージガスによって再生する可逆性の検知材であるのが好ましい。
【0028】
前記キャリアガスは、空気としてもよい。
【0029】
前記測定対象ガスを含む前記キャリアガスは、捕集容器から搬送されて当該測定装置に導入されるものであり、前記捕集容器が、皮膚から放出される経皮ガスを捕集する開口部を有するとともに、前記経皮ガスを搬送する前記キャリアガスの導入口および前記両ガスの導出口を有し、捕集した前記経皮ガスを、前記導入口から導入した前記キャリアガスと共に前記導出口から当該測定装置へ搬送してもよい。
【0030】
本発明のガスの測定装置によると、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入する導入流路を分岐し、パージガス用流路では、キャリアガスに含まれる測定対象ガスを除去してパージガスし、このパージガスによってパージを行うので、パージを行っているパージ期間においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することになり、上述の図11の構成のように、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスの導入を遮断する必要がない。これによって、測定対象ガスを含むキャリアガスの搬送経路に、測定対象ガスが溜まることがなく、測定対象ガスを精度よく測定できることになる。また、パージ期間中に、測定対象ガスの捕集を止める必要がなく、測定時間を短縮することができる。
【0031】
また、苦痛を伴わない非侵襲検査である経皮ガスの検査に有効である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、測定対象ガスを除去したキャリアガスをパージガスとして用いるので、パージを行っている期間においても、測定対象ガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することになり、パージ期間中は、測定対象ガスを含むキャリアガスの導入を遮断する必要がなく、これによって、測定対象ガスを含むキャリアガスの搬送経路に、測定対象ガスが溜まることがなく、測定対象ガスを精度よく測定できるとともに、測定時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面によって本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の実施形態に係るガスの測定装置を備える経皮ガス測定システムの概略構成図である。
【0035】
この実施形態の経皮ガス測定システムは、測定対象部位、例えば、ヒトの上腕の皮膚1から放出される経皮ガスに含まれる塩基性ガスであるアンモニア(NH3)ガスを測定するものであり、皮膚1からの経皮ガス(皮膚透過ガス)を採取する採取装置2と、採取された経皮ガスに含まれる測定対象ガスであるアンモニアガスの濃度を測定するガスの測定装置3とを備えている。
【0036】
身体中の新陳代謝の産生物として、有毒なアンモニアガスを発生する。大部分のアンモニアは、肝臓によって無毒の尿素(NH2)2COに変換して腎臓を通し、尿として排泄する。同時に少量のアンモニアガスは、呼気及び経皮から排出する。しかし、肝臓疾患、肝硬変、腎臓疾患、腎不全、ピロリ菌感染によって、体内に産生するアンモニアガスを尿素に変換する酵素が欠乏し、十分に尿素に変換することができない。その結果、血中のアンモニア濃度は高くなり、呼気、皮膚からも正常より高い濃度のアンモニアガスが排出される。
【0037】
この実施形態によれば、皮膚から排出されるアンモニアガスを測定することによって、特定の疾患の診療に役立てることができる。
【0038】
経皮ガスを採取する採取装置2は、測定対象部位の皮膚1に密着させて経皮ガスを捕集する捕集容器4と、捕集された経皮ガスを、キャリアガスと共に測定装置3へ搬送する搬送路となるチューブ5とを備えている。
【0039】
図2は、捕集容器を示す図であり、同図(a)は側面図、同図(b)は縦断した正面図、同図(c)は底面図である。
【0040】
この捕集容器4は、大略直方体状であって、測定対象部位の皮膚に密着される矩形の開口部6を有しており、この開口部6の周縁には、ゴムや軟質樹脂からなる弾性部材7が取り付けられている。
【0041】
捕集容器4は、アンモニアガスの吸着がない、あるいは、吸着が少ない材質であって、割れにくい材質が好ましく、例えば、ポリテトラフロロエチレン、表面をポリテトラフロロエチレンで処理したアルミニウム、あるいは、ポリビニール樹脂材などから構成するのが好ましい。捕集容器4の各隅部は、丸味を帯びた形状に処理されている。
【0042】
捕集容器4の上面には、図2(b)に示すように、捕集した経皮ガスを測定装置3へ搬送するためのキャリアガスである空気を導入するための導入口8が形成されており、下面には、捕集した経皮ガスを、キャリアガスと共に測定装置3へ導出するための導出口9が形成されており、この導出口9には、上記チューブ5の一端が接続されている。このチューブ5は、例えば、ポリテトラフロロエチレンからなる。
【0043】
捕集容器4の内部は、複数の通気口10を有する隔離板11によって、上下二つの空間に区画されており、下側の空間は、上記開口部6が臨む経皮ガスの捕集空間となっており、上側の空間には、キャリアガスとして導入される空気に含まれる測定対象ガスであるアンモニアガスを吸着除去するための吸着剤12が収納されている。また、隔離板11の上面には、空気に含まれる及びアンモニア吸着剤12から発生する塵埃を除去するメンブレンフィルタ13が設置されている。
【0044】
吸着剤12としては、例えば、ニッタ株式会社製の活性炭吸着剤(商品名:ピュラコールAMS、ギガソーブ)などを用いることができる。
【0045】
捕集容器4の両側面には、開口部6を測定対象部位の皮膚、例えば、上腕の皮膚に密着させた状態に保持できるように、一対の紐やベルト等の締め付け具14が取り付けられている。この締め付け具14には、簡単に付け外しができるように面ファスナー14aが設けられている。
【0046】
経皮ガスの採取は、捕集容器4の開口部6を、ヒトの測定対象部位の皮膚に密着させて締め付け具14を用いて固定し、皮膚から放出される経皮ガスを、捕集容器4の下側の捕集空間に捕集しつつ、空気を導入口8から導入して吸着剤12によってアンモニアガスを除去し、このアンモニアガスを除去した空気と共に経皮ガスを、チューブ5を介して測定装置3へ搬送するものである。
【0047】
図3は、本発明に係る測定装置3の概略構成図である。
【0048】
この実施形態の測定装置3は、測定対象ガスであるアンモニア(NH3)ガスの濃度を測定できる小型のガスセンサである。
【0049】
この測定装置3は、測定対象ガスを感知するガス検知部としてのセンサチップ部15を有しており、このセンサチップ部15は、チャンバ16内に収納固定されている。
【0050】
センサチップ部15は、上述の図12の拡大図にも示すように、ガラス基板17上に光導波層18を形成し、更に、光導波層18上に、アンモニアガスと反応する検知材としての反応膜19が成膜されて光導波路が構成されている。この反応膜19は、アンモニアガスと反応し、吸収スペクトルがシフトする材料で構成され、アンモニアガスの濃度に依存して、導波された光が減衰する。
【0051】
この反応膜19は、可逆性があり、窒素ガス、または、アンモニアガスを含まない空気によって再生可能であり、アンモニアガス濃度の繰り返し測定が可能である。
【0052】
この実施形態では、反応膜19の材料として、pH指示薬であるBCP(ブロモクレゾールパープル)を用いた。
【0053】
ガラス基板17上には、光導波層18とのカップリング用の直角プリズム20,21がそれぞれ設けられており、導波光は、上述の図12に示すように、全反射を繰り返しながら進行するが、その間光導波層表面にエバネッセント波が染み出す。
【0054】
センサチップ部15は、ガス濃度に応じて、反応膜19の色変化の程度が異なるため、エ バネッセント波の吸収率が変化し、光導波層18に導波する光の出力が弱くなる。したがって、導波光の出力強度を測定することによって、アンモニア濃度を検出することができる。
【0055】
この測定装置3では、以上の構成を有するセンサチップ部15を、図3に示すように、チャンバ16内に装着固定している。
【0056】
上述の図11では、ガスセンサは、パージガスを導入するための導入口50および測定対象ガスを導入するための導入口51を個別に備えていたけれども、この実施形態の測定装置3では、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入する導入口52のみを備えており、この導入口52に、上述のチューブ5が接続される。すなわち、測定装置3には、捕集容器4で捕集された経皮ガスを含む空気(キャリアガス)が、導入口52から導入される。
【0057】
この導入口52からの流路を、測定対象ガス用流路53とパージガス用流路54とに分岐し、更に、チャンバ16の導入口55の直前で合流させている。
【0058】
測定対象ガス用流路53には、電磁弁31が設けられ、パージガス用流路54には、電磁弁30が設けられるとともに、測定対象ガスであるアンモニアガスを除去するケミカルフィルター38および除塵フィルター37が設けられている。アンモニアガスを除去するケミカルフィルター38としては、例えば、ニッタ株式会社製のNH3除去材(商品名:ピュラコールAMS)などを用いることができる。電磁弁30,31によって、各流路53,54の開閉が制御される。
【0059】
チャンバ16は、導入したガスを排出する排出口24を備えており、排出口24には、パージガスまたは測定対象ガスを導入するためのポンプ29が接続されている。このポンプ29は、微小量のガスの定量の輸送制御が可能なマイクロポンプである。
【0060】
この測定装置3は、レーザーダイオード25からのレーザー光を、反射ミラー26を介してセンサチップ部15に導入するための光窓27およびセンサチップ部15からの導波光を取り出すための光窓28を備えており、また、センサチップ部15からの導波光を、チャンバ16の光窓28を介して検出するフォトダイオード32と、このフォトダイオード32の出力に基づいて、アンモニアガスの濃度を算出する信号処理回路33と、検出結果であるガス濃度を表示する表示器34とを備えている。これらは、チャンバ16、レーザーダイオード25、反射ミラー26、ポンプ29および電磁弁30,31などと共に、筐体35内に収納配置されている。
【0061】
この実施形態の測定装置3では、パージの際には、導入口52から導入される測定対象ガスであるアンモニアガスを含むキャリアガスを、パージ用流路54に導き、ケミカルフィルター38でアンモニアガスを除去し、除塵フィルター37で除塵して、パージガスとしてチャンバ16内に導入してパージを行う。このように、アンモニアガスを除去したキャリアガスをパージガスとするので、パージ期間中も、導入口52からアンモニアガスを含むキャリアガスを導入することになり、捕集容器4から導入口52に至る搬送経路にアンモニアガスが溜まることがない。
【0062】
このパージが終了した後に、導入口52から導入されたアンモニアガスを含むキャリアガスを、測定対象ガス用流路53に導き、チャンバ16内に導入して反応膜19と反応させてアンモニアガスの測定を行う。
【0063】
このように、チューブ5を介して導入口52から導入されるアンモニアガスを含むキャリアガス、すなわち、経皮ガスを含む空気からケミカルフィルター38でアンモニアガスを除去し、更に、除塵フィルター37によって、空気に含まれる塵埃及びアンモニア吸着剤から発生する塵埃を除去してパージガスとしてチャンバ16に導入し、パージおよび反応膜19の再生を行うので、パージ期間においても、経皮ガスを含む空気を、測定装置3に導入することになる。
【0064】
これによって、パージ期間中は、経皮ガスを含む空気の導入を遮断する図11の構成のように、捕集容器4から導入口52に至るチューブ5内に経皮ガスが溜まって測定値が高くなるといったことがない。また、捕集容器4から導入口52に至るチューブ5内に経皮ガスが溜まらないようにするために、パージ期間中は、捕集容器4を測定対象部位から外すといった必要もなく、更に、パージ期間が終了して経皮ガスを捕集して測定を開始したときに、捕集容器4から導入口52に至るチューブ5内に経皮ガスが吸着し、安定した測定値を得るまでに時間がかかるといったこともない。
【0065】
図4は、図3の信号処理回路33の要部の構成を示す図である。
【0066】
この実施形態の信号処理回路33は、オペアンプ39を備えており、このオペアンプ39の反転入力端子には、上述のフォトダイオード32のアノードが、入力抵抗R1を介して接続され、非反転入力端子には、直流の基準電圧源40が、可変抵抗VRを介して接続される。また、オペアンプ39の出力端子と非反転入力端子との間には、帰還抵抗R2が接続されている。
【0067】
この実施形態の信号処理回路33では、アンモニアガスが存在しない状態で、オペアンプ39の出力電圧が、0になるように、可変抵抗VRを調整して基準電圧を分圧し、参照電圧としてオペアンプ39に与える。
【0068】
すなわち、アンモニアガスが存在しておらず、導波光が減衰していない状態のフォトダイオード32の出力電圧に等しくなるように基準電圧を調整して参照電圧とする。
【0069】
この信号処理回路33を用いて、レーザーダイオード25のレーザー出力とオペアンプ39の出力電圧との相関関係を測定した。
【0070】
レーザーダイオード25は、自動パワー制御回路内蔵のものを使用した。レーザー光を安定させるために、安定化直流電源を使用し、レーザー光発振して3分を待って測定した。ガスチャンバー16内には、窒素ガスを導入し、アンモニアガスが存在しない状態で測定した。
【0071】
フォトダイオード32へ入射するレーザー光強度を、NDフィルターを用いて調整した。
【0072】
測定方法は、フォトダイオード32への初期光強度(I0)に対して、基準電圧源40の基準電圧が、可変抵抗VRを介して参照電圧としてオペアンプ39に入力される。このとき、信号処理回路33の出力電圧が、0になるように、可変抵抗VRで基準電圧を調整し、参照電圧とした。
【0073】
その後、レーザー光の強度を、上述のように、NDフィルターで調整し、そのレーザー光強度(I)に対する信号処理回路33の出力電圧を測定した。
【0074】
初期入射光強度は、25μW、50μW、100μWの3種類に対して行い、入射光の減衰率(1−I/I0)と、信号処理回路33の出力電圧値の相関関係を、図5にプロットした。
【0075】
この図5に示すように、入射光の減衰率(1−I/I0)が、約0〜0.5の範囲では、初期入射光強度が異なっても、出力電圧は、同一直線上に沿って変化していることが分かる。すなわち、初期入射光強度が異なっても、入射光の減衰率が同じであれば、同じ出力電圧が得られることが分かる。
【0076】
図6に、アンモニアガス濃度0ppb、50ppb、100ppb、500ppbをガスチャンバーに導入し、2分間検知材と反応させた後に入射光の減衰率を測定した結果を示す。それぞれのアンモニアガス濃度において、同一条件で3回測定を行い、平均値をプロットした。入射光の減衰率は、図6に示されるように、アンモニアガスの濃度に比例する。したがって、図4に示すオペアンプ39の増幅率を調整し、図6に示す曲線の勾配と合わせることにより、図5における横軸が、アンモニアガスの濃度に対応することになり、アンモニアガスの濃度に応じた出力電圧が得られることが分かる。また、図4に示すアンプ39の回路の増幅率は、帰還抵抗R2と入力抵抗R1の比で決定される。例えば、帰還抵抗R2は、固定抵抗及び可変抵抗を直列して構成すれば、可変抵抗を調整することで、増幅率の微調整ができる。
【0077】
なお、予め、出射光の出口光量と、測定対象ガスの濃度との関係を示す検量線を求めておき、測定した出口光量から、前記検量線を参照して、測定対象ガスの濃度を算出してもよい。
【0078】
この実施形態では、信号処理回路33の出力電圧は、アンモニアガスの濃度に対応したものとなり、したがって、信号処理回路33の出力電圧に基づいて、アンモニアガスの濃度を、直接表示器34に表示することが可能となる。
【0079】
なお、図5においては、入射光の減衰率(1−I/I0)が、0から0.5の領域について特に直線性が高い。従って、当該範囲を直線近似することにより、極低濃度のアンモニアガスを精度よく測定することが可能となる。
【0080】
上記の信号処理は本件のアンモニアガス濃度の算出方法の一つであり、パージ後及びアンモニアと反応後のフォトダイオードの出力を読取り、デジタル方式で濃度を求めて表示器に表示し、メモリに書き込むことも容易に用いる手法である。
【0081】
図7および図8は、この実施形態の測定装置3の性能を示すものである。図7は、0ppb、250ppb、500ppb、100ppb、50ppb、0ppbの標準濃度のアンモニアガスを測定した結果を示すものであり、横軸は時間(時:分:秒)を、縦軸は測定値をそれぞれ示している。また、図8は、空気中のアンモニア濃度を調整し、その濃度を測定した結果を示すものであり、横軸は測定日時を、縦軸は測定値をそれぞれ示している。
【0082】
測定では、先ず、パージガスを導入するために、図3の電磁弁31を閉じる一方、電磁弁30を開いて、導入口52から空気をパージガス用流路54に導入し、ケミカルフィルター38でアンモニアガスを除去し、除塵フィルター37で除塵して、チャンバ16内に、ポンプ29によって導入し、60秒間パージを行うとともに、センサチップ部15の初期化を行う。その後、ポンプ29を止め、電磁弁30を閉じる一方、電磁弁31を開く。合成した標準濃度のアンモニアガスを1.5L/Minの流量で、導入口52から測定対象ガス用流路53を介して導入口55からチャンバ16内に、ポンプ29で導入し、センサチップ部15と反応させる。30秒間反応させて平衡に達した後、ポンプ29を止め、ガス濃度を測定した。測定終了後、上述と同様にして、アンモニアガスを除去した空気によってパージおよびセンサチップ部15の再生を行い、異なる標準濃度のアンモニアガスの測定を同様に行った。
【0083】
図7に示すように、この実施形態の測定装置の測定の下限値は、50ppb以下であり、また、図8に示すように、測定レンジは、2ppm以上有している。
【0084】
この実施形態の測定装置3は、アンモニア以外のガス、例えば、CO、CO2、NO、H2O2、イソプラスタン、O2、H2、エタン、メタン、エタノール、IPA、メタノール、アセトン、トルエン、ベンゼン、硫化水素に対して感度が持たないことを確認した。
【0085】
なお、反応膜19の材料としては、上述のBCP(ブロモクレゾールパープル)に代えて、塩基性ガスと反応するpH指示薬、例えば、ブロモチモールブルー、インドオキシン、キノリンブルー、等を用いてもよい。
【0086】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0087】
実施例の捕集容器は、アルミ材で構成し、表面を、テトラフロロエチレンで加工した。開口部のサイズは、25mm×30mmで、高さは30mmとした。
【0088】
人体皮膚との接触部分となる開口部の周縁には、弾性部材として、厚み2mmのシリコンゴムシートを貼り付けた。
【0089】
キャリアガスとして、アンモニアを除去した空気を用い、空気中に含有するアンモニアの除去材として、上述の活性炭吸着剤を用いた。また、吸着剤から発する埃を除塵シートで遮断した。搬送用のチューブとして、長さ50cmの1/8インチのポリテトラフロロエチレン製のチューブを用いた。
【0090】
測定では、捕集容器の開口面をヒトの掌に密着し、固定する。測定装置の清浄ガス(アンモニアガスを含まないガス)を測定後、掌の皮膚からの経皮ガスを、搬送ガスの流量を一定として測定装置に導入して測定した。図9にその結果を示す。清浄ガスでは、アンモニアがないため、測定値は6ppb以下であった。健康なヒトの掌からの経皮ガスでは、約180ppb〜210ppbであった。2回目の測定値はすでに平衡状態になったことを確認できた。
【0091】
比較のために、上述の図11に示されるガスセンサを用いて、同一人物の掌部から同様の採取方法で採取したアンモニアガスの測定を行った。図10にその結果を示す。測定値はおよそ750ppb〜810ppbであった。測定値が平衡になるまで、4回以上連続測定しなければならない。また、図9の値と比較して、3倍以上になっている。これはセンサのパージ期間中に、皮膚からの経皮ガスが捕集容器およびチューブに溜まってアンモニアガス濃度が高くなったと考えられる。
【0092】
このように、測定対象ガスであるアンモニアガスを含むキャリアガスからアンモニアガスを除去してパージガスとして用いるので、パージ期間中においても、アンモニアガスを含むキャリアガスを測定装置に導入することができ、捕集容器4およびチューブ5の搬送経路にアンモニアガスが溜まって測定値が高めになることがない。また、パージ期間中に、捕集容器4を測定対象部位から外してアンモニアガスの捕集を止める必要もなく、更に、パージが終わって経皮ガスの測定を開始する度に、その初期には、経皮ガスがチューブ5等の内面に吸着するために、測定値が安定しないといったこともない。
【0093】
この実施形態によれば、周囲の環境に影響されることなく、非侵襲でアンモニアガスを測定して、特定の疾患の診療に役立てることができ、また、操作者に資格が不要であるので、何時でも何処でも簡単に測定して健康管理を行うことができる。
【0094】
上述の実施形態では、経皮ガスを測定したけれども、経皮ガスに限らず、呼気等の人体ガスの測定に適用することもできる。また、アンモニアガスの濃度の測定に限らず、アンモニア以外の塩基性ガス、例えば、例えば、メチルアミン、またはトリメチルアミンの検出もできる。人体から発生する窒素化合物ガスのトータル管理にも使用できる。
【0095】
人体の経皮ガスの測定部位は、上述の実施の形態に限らず、背中、胸部、肝臓近辺、腎臓近辺、大腿、頭部、膀胱部、手の指先、足の指先などの部位からの経皮ガスを測定してもよい。
【0096】
また、人体ガスの測定に限らず、他のガスの測定に適用してもよいのは勿論である。
【0097】
キャリアガスは、空気に限らず、窒素ガスなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態に測定装置を備える測定システムの概略構成図である。
【図2】図1の捕集容器を示す図である。
【図3】図1の測定装置の概略構成図である。
【図4】図3の信号処理回路の構成図である。
【図5】入射光の減衰率と信号処理回路の出力電圧との関係を示す図である。
【図6】入射光の減衰率とアンモニアガス濃度との関係を示す図である。
【図7】標準濃度のアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図8】周囲のアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図9】清浄空気および掌からのアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図10】図11のガスセンサによる清浄空気および掌からのアンモニアガスの測定結果を示す図である。
【図11】本件出願人が先に提案しているガスセンサの概略構成図である。
【図12】センサチップ部の構成図である。
【符号の説明】
【0099】
2 採取装置
3 測定装置
4 捕集容器
5 チューブ
6 開口部
8 導入口
9 導出口
12 吸着剤
18 光導波層
19 反応膜
52 導入口
53 測定対象ガス用流路
54 パージガス用流路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定装置にパージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを、前記測定装置に導入して前記測定対象ガスを測定する方法であって、
前記測定装置に導入される前記キャリアガスから前記測定対象ガスを除去し、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして用いることを特徴とするガスの測定方法。
【請求項2】
パージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入して前記測定対象ガスを測定する装置であって、
前記測定対象ガスに反応する検知材を有するセンサ部が収納されたチャンバを備え、
前記測定対象ガスを含むキャリアガスを、当該測定装置に導入する導入流路を、測定対象ガス用流路とパージガス用流路とに分岐し、前記パージガス用流路には、前記キャリアガスに含まれる前記測定対象ガスを除去する除去部を設け、
前記パージガス用流路を介して、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして前記チャンバに導入してパージを行い、前記測定対象ガス用流路を介して、前記測定対象ガスを含むキャリアガスを前記チャンバに導入して前記測定対象ガスを測定することを特徴とするガスの測定装置。
【請求項3】
前記センサ部は、光導波路上に、前記検知材が設けられた光導波路型センサ部である請求項2に記載のガスの測定装置。
【請求項4】
前記検知材が、前記測定対象ガスに反応する一方、前記パージガスによって再生する可逆性の検知材である請求項2または3に記載のガスの測定装置。
【請求項5】
前記キャリアガスが、空気である請求項2ないし4のいずれか一項に記載のガスの測定装置。
【請求項6】
前記測定対象ガスを含む前記キャリアガスは、捕集容器から搬送されて当該測定装置に導入されるものであり、
前記捕集容器が、皮膚から放出される経皮ガスを捕集する開口部を有するとともに、前記経皮ガスを搬送する前記キャリアガスの導入口および前記両ガスの導出口を有し、捕集した前記経皮ガスを、前記導入口から導入した前記キャリアガスと共に前記導出口から当該測定装置へ搬送する請求項2ないし5のいずれか一項に記載のガスの測定装置。
【請求項1】
測定装置にパージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを、前記測定装置に導入して前記測定対象ガスを測定する方法であって、
前記測定装置に導入される前記キャリアガスから前記測定対象ガスを除去し、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして用いることを特徴とするガスの測定方法。
【請求項2】
パージガスを導入してパージを行い、測定対象ガスを含むキャリアガスを導入して前記測定対象ガスを測定する装置であって、
前記測定対象ガスに反応する検知材を有するセンサ部が収納されたチャンバを備え、
前記測定対象ガスを含むキャリアガスを、当該測定装置に導入する導入流路を、測定対象ガス用流路とパージガス用流路とに分岐し、前記パージガス用流路には、前記キャリアガスに含まれる前記測定対象ガスを除去する除去部を設け、
前記パージガス用流路を介して、前記測定対象ガスを除去したキャリアガスを、前記パージガスとして前記チャンバに導入してパージを行い、前記測定対象ガス用流路を介して、前記測定対象ガスを含むキャリアガスを前記チャンバに導入して前記測定対象ガスを測定することを特徴とするガスの測定装置。
【請求項3】
前記センサ部は、光導波路上に、前記検知材が設けられた光導波路型センサ部である請求項2に記載のガスの測定装置。
【請求項4】
前記検知材が、前記測定対象ガスに反応する一方、前記パージガスによって再生する可逆性の検知材である請求項2または3に記載のガスの測定装置。
【請求項5】
前記キャリアガスが、空気である請求項2ないし4のいずれか一項に記載のガスの測定装置。
【請求項6】
前記測定対象ガスを含む前記キャリアガスは、捕集容器から搬送されて当該測定装置に導入されるものであり、
前記捕集容器が、皮膚から放出される経皮ガスを捕集する開口部を有するとともに、前記経皮ガスを搬送する前記キャリアガスの導入口および前記両ガスの導出口を有し、捕集した前記経皮ガスを、前記導入口から導入した前記キャリアガスと共に前記導出口から当該測定装置へ搬送する請求項2ないし5のいずれか一項に記載のガスの測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−112908(P2010−112908A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287344(P2008−287344)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
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