説明

ガスケット及び樹脂組成物

【課題】 優れた摺動特性と応力緩和特性を有し、流動立ち上がり特性や脈動性が良好なガスケットを提供する。
【解決手段】 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、成分(C):ポリオレフィン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物を成形して得られ、かつ分子量:250,000〜350,000と、100,000〜150,000の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有するガスケット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い摺動性と応力緩和特性を有し、流動立ち上がり特性や脈動性が良好な、医療用に好適なガスケットに関するものである。また、本発明は、高い摺動性と応力緩和特性を有し、流動立ち上がり特性や脈動性が良好なガスケット用の原料に好適な樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用器具として、例えばディスポーザブル注射器のように、筒状体と、該筒状体内壁面に密着して摺動するガスケットとを具備するものがある。
従来、医療用器具のガスケットには、加硫ゴムが用いられてきた。しかしながら、加硫ゴムからなるガスケットは複雑な加硫工程を経るため、大がかりな設備を必要とする。また、加硫には硫黄/加硫促進剤/充填剤等の多くの添加物を必要とし、その結果としてこれら添加物が医療用器具の使用時に液剤中に溶出する恐れがあり、硫黄由来の臭気も強い。このような問題を解決するために煮沸工程を経るという手法もあるが、更なる設備が必要となる上、上記の問題を十分に解決することが出来なかった。
【0003】
ガスケットの材質の改良としては、スチレン系熱可塑性エラストマーや、該スチレン系熱可塑性エラストマーとゴム用軟化剤、更に加工性及び硬度調整のためのポリオレフィン樹脂等を含有する樹脂組成物が挙げられる(特許文献1〜3)。ここでスチレン系熱可塑性エラストマーとは、スチレンブロックとブタジエン及び/またはイソプレンブロックとの共重合体の水素添加誘導体である。
スチレン系熱可塑性エラストマーや、これを含有する樹脂組成物からなるガスケットは、熱溶融及び射出成形による成形が可能であり、また硫黄等の溶出がないことから衛生性に優れるものの、加硫ゴムのように分子構造上に密な架橋構造を持っておらず、従ってゴム弾性に劣る。ゴム弾性を補う最も効果的な手法としては、上記樹脂組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマー及びゴム用軟化剤の含有割合を上げることが挙げられるが、その場合、成形品表面の粘着性が増してしまう。
【0004】
このような理由により、スチレン系熱可塑性エラストマーや、これを含有する樹脂組成物からなるガスケットを注射器に用いると、筒体内面との摩擦が原因で、押子に加えた変位が直ちにはガスケットの移動量とならず、ガスケットが間欠的に移動する「脈動現象」を生ずるという不都合がある。また、押し込み初期においては、押子を移動させてもガスケット部材だけが変形してしまい、一定時間、設定した内容液の流量が得られないという問題点が発生する。この特性を「流動立ち上がり特性」と呼称するが、注射器用ガスケット分野では「脈動特性」と併せてこれが重要な特性となっている。
【0005】
これらの問題に対し、スチレン系熱可塑性エラストマーとしてイソプレンを含有するスチレン系ブロック共重合体を選択し、ポリオレフィン樹脂として高密度ポリエチレン系樹脂及び重合型オレフィン系エラストマーを併用することで、脈動特性と良好な外観を兼備できるという技術が開示されている(特許文献4)。
しかし、近年はガスケット部材に要求されるシール特性が一層高まっていることから、筒体の内径に対するガスケットのサイズが大きくなる傾向にあり、従来に比べて筒体への密着性が高くなっている。そのため、上記技術では性能的に満足するレベルに未だ達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−156959号公報
【特許文献2】特開平7−228749号公報
【特許文献3】特開平9−173417号公報
【特許文献4】特開2004−123977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、優れた摺動特性と応力緩和特性を有し、流動立ち上がり特性や脈動性が良好なガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、スチレン系熱可塑性エラストマーとして特定の化学構造/及び分子量分布を有するブロック共重合体を用い、更に特定量のポリオレフィン系樹脂及び炭化水素系ゴム用軟化剤を配合して製造した樹脂組成物が、ガスケット、特に医療用のガスケットとして高い性能を発現し、従来の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[12]を要旨とする。
[1] 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、成分(C):ポリオレフィン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物を成形して得られるガスケットであって、該樹脂組成物がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とするガスケット。
[2] [1]において、該樹脂組成物がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有するガスケット。
【0010】
[3] 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、成分(C):ポリオレフィン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物を成形して得られるガスケットであって、該成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とするガスケット。
[4] [3]において、成分(A)がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有するガスケット。
【0011】
[5] [1]〜[4]において、ピーク分離して得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比〔A−1/A−2〕が50/50〜95/5であるガスケット。
[6] [1]〜[5]において、成分(A)が重合体ブロックPを10重量%以上含有するガスケット。
[7] [1]〜[6]において、重合体ブロックQが、共役ジエンとしてイソプレンを有し、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%であるガスケット。
[8] [1]〜[7]において、成分(B)が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、および炭素原子芳香族系オイルから選択されるガスケット。
[9] [1]〜[8]において、成分(C)がパーオキサイド架橋型のポリオレフィン系樹脂であるガスケット。
[10] [1]〜[9]のいずれか一項に記載の医療用ガスケット。
[11] [1]〜[10]のいずれか一項に記載の注射器用ガスケット。
【0012】
[12] 筒状体と、該筒状体内壁面に密着して摺動するガスケットとを具備し、該ガスケットが[1]〜[9]のいずれかに記載のガスケットであることを特徴とする医療用注射器。
[13] 成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、
成分(C):エチレン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物であって、該成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とする樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、摺動性と応力緩和特性に優れ、流動立ち上がり特性や脈動性等の注射器用に適したガスケットが提供される。本発明のガスケットを注射器用ガスケットに用いることにより、加硫ゴム代替が可能であり、従来の加硫ゴム製のガスケットと比較して、生産性や衛生性、臭気等が改良された注射器が提供され、特に医療用注射器に好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明においてガスケットとは、液体や気体の漏れを防止するためのものであれば限定されないが、より具体的には、注射器の筒体内において押子に装着されるものが例示され、また、医療用に用いられるものが例示される。
本発明のガスケットは、以下の成分(A)、(B)及び(C)を含有してなる樹脂組成物を成形して得られるものである。
【0015】
<成分(A)>
本発明における成分(A)は、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である。
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したものを意味し、「共役ジエンを主体とする重合体」とは、共役ジエンを主体とする単量体を重合したものを意味する。また、本発明において「主体とする」とは、50モル%以上であることを意味する。
【0016】
ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。なお、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0017】
ブロックQを構成する単量体の共役ジエンは限定されないが、ブタジエン及び/又はイソプレンを主体とすることが好ましく、より好ましくはブタジエン及びイソプレンである。なお、ブロックQには、共役ジエン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
ブロックQは、重合後に有する二重結合を水素添加した水素添加誘導体であってもよい。ブロックQの水素添加率は限定されないが、80〜100重量%が好ましく、90〜100%が好ましい。ブロックQを前記範囲で水素添加することにより、得られる樹脂組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、ガスケットとして良好な特性とすることが出来る。なお、ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。水素添加率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0018】
ブロックQが水素添加誘導体であり、ブタジエンを主体として構成される場合は、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,4−付加構造が20〜100重量%であるのが好ましい。同様に、ブロックQがイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%であるのが好ましい。何れの場合も、1,4−付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、得られる樹脂組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、ガスケットとして良好な特性とすることが出来る。なお、1,4−付加構造の比率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0019】
本発明における成分(A)は、重合体ブロックPを少なくとも2個と、重合体ブロックQを少なくとも1個有する構造であれば限定されず、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましい。さらに、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体は、水素添加誘導体(以下、水添ブロック共重合体と略記する場合がある)が更に好ましい。下記式(1)又は(2)で表される共重合体が水添ブロック共重合体であると、熱安定性が良好になる。P−(Q−P)m (1)
(P−Q)n (2)
(式中Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ表し、mは1〜5の整数を表し、nは2〜5の整数を表す)
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序−無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0020】
成分(A)が式(1)又は(2)で表される水添ブロック共重合体であり、ブロックQがブタジエンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,4−付加構造が20〜70重量%であるのが好ましい。同様に、ブロックQがイソプレンから構
成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%であるのが好ましい。何れの場合も、1,4−付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、得られる樹脂組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、ガスケットとして良好な特性とすることが出来る。
ブロック共重合体または水添ブロック共重合体(以下、まとめて「(水添)ブロック共重合体」と記す)としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表される(水添)ブロック共重合体よりも式(1)で表される(水添)ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体が更に好ましい。
【0021】
成分(A)を構成するブロックPとブロックQとの重量割合は任意であるが、本発明における樹脂組成物の機械的強度及び熱融着強度の点からはブロックPが多い方が好ましく、一方、樹脂組成物の柔軟性、異形押出成形性、ブリードアウト抑制の点からはブロックPが少ない方が好ましい。
成分(A)中のブロックPの重量割合は、10重量%以上であるのが好ましく、15重量%以上であるのが更に好ましく、30重量%以上であるのが特に好ましく、一方、60重量%以下であるのが好ましく、50重量%以下であるのが更に好ましく、45重量%以下であるのが特に好ましい。
【0022】
本発明における成分(A)の製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、特公昭40−23798号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、例えば、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特開昭59−133203号公報及び特開昭60―79005号公報などに記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。この水添処理では、重合体ブロック中のオレフィン性二重結合の50%以上が水添されているのが好ましく、80%以上が水添されているのが更に好ましく、且つ、重合体ブロック中の芳香族不飽和結合の25%以下が水添されているのが好ましい。
【0023】
このような水添ブロック共重合体の市販品としては、シェルケミカルズジャパン株式会社製「KRATON−G」、株式会社クラレ製「セプトン」、「ハイブラー」、旭化成株式会社製「タフテック」等が挙げられる。
非水添型のブロック共重合体の市販品としては、シェルケミカルズジャパン株式会社製「KRATON−A」、株式会社クラレ製「ハイブラー」の一部グレード、旭化成株式会社製「タフプレン」等が挙げられる。
【0024】
本発明における成分(A)の数平均分子量が限定されないが、通常30,000以上、好ましくは50,000以上、より好ましくは80,000以上であり、通常500,000以下、好ましくは400,000以下、より好ましくは300,000以下であるのが望ましい。成分(A)の数平均分子量が前記範囲内であると、成形性と耐熱性が良好であるので望ましい。
本発明における成分(A)の質量平均分子量が限定されないが、通常60,000以上、好ましくは80,000以上、より好ましくは100,000以上であり、通常550,000以下、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下であるのが望ましい。成分(A)の質量平均分子量が前記範囲内であると、成形性と耐熱性が良好であるので望ましい。
【0025】
本発明のうち一つの発明に係るガスケットは、該ガスケットを構成する樹脂組成物の一成分である成分(A)が、特定の分子量分布を有することに特徴をもつ。
具体的には、成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)分析によるスチレン換算分子量において、下記(A−1)および(A−2)の範囲内において、少なくともそれぞれ1つ以上のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものである。更に望ましくは、下記(A−1)、(A−2)および(A−3)の範囲に少なくともそれぞれ1つ以上のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものであり、最も望ましくは下記(A−1)〜(A−4)の範囲に少なくともそれぞれ一つ以上のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものである。
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
ここで、本発明におけるピークショルダーとは、該ブロック共重合体のGPCピークをガウス・ニュートン法によって分離した際、そのショルダー部分を頂点としたピークが分離可能であり、最も強度の高いピークに対して1/20以上のピーク強度が得られるものを指す。
【0026】
なお、本発明において、分子量分布(数/質量平均分子量)の測定及びピーク分離に際して使用されるGPCの測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
機 器:東ソー株式会社製「HLC−8120GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel Super HM−M」
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器/内蔵)
溶 媒:クロロホルム
温 度:40℃
流 速:0.5ml/分
注入量:20μL
濃 度:0.1wt%
較正資料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン換算
較正曲線近似式:3次式
ピーク分離ソフト:東ソー株式会社製「DBFinderSP」
ピーク分離法:ガウス・ニュートン法
【0027】
また、ガウス・ニュートン法によって分離されて得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比〔A−1/A−2〕が50/50〜95/5であることが望ましく、60/40〜90/10であることが更に望ましい。
以上のように、成分(A)として前記(A−1)〜(A−4)の分子量の範囲において、前記のピーク特性を有することにより、初期の流動立ち上がり特性と、脈動特性に優れたガスケットを得ることができる。その要因は明確ではないが、成分(A)が成分(C)の非晶部位と深く相溶することによると考えられる。
【0028】
本発明において、成分(A)として前記(A−1)〜(A−4)の分子量の範囲の何れかに特定のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものとするための手段は限定されないが、前記した製造方法により、製造条件を最適化することによって達成するか、または、市販品の(水添)ブロック共重合体の中から適宜選択して使用することによって達成できる。また、複数の製造品や市販品を適宜配合して使用することによって達成することもできる。
特に、異なる分子量分布を有する(水添)ブロック共重合体を複数用い、これらと後述する成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とするよりも、予め前記の通りG
PC分析における複数のピークを有する(水添)ブロック共重合体として成分(A)を得た後、これらと後述する成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とする方が好ましい。
【0029】
本発明のガスケットを構成する樹脂組成物は、成分(A)と後述する成分(B)との合計(100重量%)に対して、成分(A)が通常25重量%以上、好ましくは30重量%以上であり、通常90重量%以下、好ましくは80重量%である。同様に、成分(B)は通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上であり、通常75重量%以下、好ましくは70重量%である。
また、成分(A)として前記(A−1)および(A−2)の分子量の範囲に特定のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものを用いる場合、該特定のピーク/及びまたはピークショルダーを有する成分(A)と成分(B)との合計(100重量%)に対して、該特定のピーク/及びまたはピークショルダーを有する成分(A)が通常25重量%以上、好ましくは28重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、通常90重量%以下、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。同様に、成分(B)が通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、通常75重量%以下、好ましくは72重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
【0030】
<(成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤>
本発明においては、成分(B)として炭化水素系ゴム用軟化剤を用いる。炭化水素系ゴム用軟化剤としては、成分(A)への親和性が高いことから、鉱物油系又は合成樹脂系の軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30〜45%程度以上がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが炭素原子芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらのうち、色相が良好であることから、パラフィン系オイルが好ましい。また、合成樹脂系軟化剤としては、ポリブテン及び低分子量ポリブタジエン等が挙げられる。なお、炭化水素系ゴム用軟化剤は、上述の各種軟化剤の何れか1種を単独で用いても、複数種の混合物でも構わない。
【0031】
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は、成形性の観点では低い方が好ましいが、溶出微粒子等の衛生性の観点からは高い方が望ましい。具体的には、20センチストークス以上であるのが好ましく、50センチストークス以上であるのが更に好ましく、また、一方、800センチストークス以下であるのが好ましく、600センチストークス以下であるのが好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は限定されないが、200℃以上であるのが好ましく、250℃以上であるのが更に好ましい。
【0032】
<成分(C):ポリオレフィン系樹脂>
本発明において、成分(C)としてはポリオフレィン系樹脂を用いる。ポリオレフィン系樹脂として具体的には、低密度ポリエチレン単独重合体、高密度ポリエチレン単独重合体、エチレン・αオレフィン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・4−メチル1−ペンテン共重合体、エチレン−メタクリル酸コポリマー等及びこれらの重合体を酸無水物などで変性し、極性官能基を付与したものなどが挙げられる。これらの中でも、成分(C)はエチレン系樹脂であることが望ましい。ここでエチレン系樹脂とはエチレンを主体とするモノマーから得られる重合体を意味し、具体的にはエチレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エ
チレン−メタクリル酸共重合体等が好ましい。それらの中でもエチレン単独重合体が特に望ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂は、上述の各種ポリオレフィン系樹脂の何れか1種を単独で用いても、複数種の混合物でも構わない。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂は、JIS K7210の試験条件4に従って測定した190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、成形性の点では大きい方が好ましく、機械的強度の点では小さい方が好ましい。具体的には、ポリオレフィン系樹脂の190℃、2.16kg荷重におけるMFRが0.1g/10min以上であるのが好ましく、1g/10min以上であるのが更に好ましく、一方、50g/10min以下であるのが好ましく、30g/10min以下であるのがより好ましい。
成分(C)の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量%に対して、1〜45重量%である。ブロッキングの抑止や成形性などの点では成分(C)が多い方が好ましいが、シール性の観点では成分(C)が少ない方が好ましい。成分(C)の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量%に対して、2重量%以上であるのが好ましく、一方、40重量%以下であるのが好ましく、25重量%以下であるのがより好ましい。
【0034】
<その他の成分>
本発明のガスケットを構成する樹脂組成物には、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分(A)〜(C)以外の樹脂や添加剤等を用いてもよい。
成分(A)〜(C)以外の樹脂としては、具体的には、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体等のプロピレン系共重合体;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂及びポリメチルメタクリレート系樹脂等アクリル/メタクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0035】
また、成分(A)〜(C)以外の添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、光安定剤、結晶核剤、衝撃改良剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、相溶化剤、粘着性付与剤等が挙げられる。これらのその他の樹脂や添加剤等は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用しても良い。
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0036】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
本発明のガスケットの製造に、成分(A)〜(C)以外の樹脂や成分を用いる場合でも
、本発明のガスケットの原料中における成分(A)〜(C)の合計量は、本発明の優れた効果の発現のしやすさ等の点から、60重量%以上であるのが好ましく、80重量%以上であるのが更に好ましい。なお、ここでの上限は、通常100重量%である。
【0037】
<樹脂組成物>
本発明のガスケットは、上述の各成分を所定の割合で混合した樹脂組成物を、所定の形状に成形することにより得ることができる。
本発明における樹脂組成物を得る方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した樹脂組成物を得ることができる。
本発明における樹脂組成物は、前記の各原料成分をそのままドライブレンドした状態をも包含し、これを成形することによってガスケットとしてもよいが、より均一な混合・分散のためには、前記の各原料成分を、溶融混合して樹脂組成物としておくことが好ましい。溶融混合の方法としては、例えば、本発明における樹脂組成物の各原料成分等を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分等を順次溶融させながら混合しても良いし、各原料成分等の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0038】
前記の各原料成分を混合する際の混合方法や混合条件は、各原料成分等が均一に混合されれば特に制限は無いが、生産性の点からは、単軸押出機や2軸押出機のような連続混練機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機等の公知の溶融混練方法が好ましい。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行う例が多い。
本発明のガスケット製造に用いられる樹脂組成物は、柔軟かつ成形性が良好である。
【0039】
本発明のガスケット製造に用いられる樹脂組成物は、JIS K7210の試験条件4に従って測定した230℃、49N(5kgf)荷重におけるMFRが、成形性の点では大きい方が好ましく、機械的強度の点では小さい方が好ましい。具体的には、樹脂組成物の230℃、49N(5kgf)荷重におけるMFRが0.2g/10min以上であるのが好ましく、0.3g/10min以上であるのが更に好ましく、一方、300g/10min以下であるのが好ましく、200g/10min以下であるのがより好ましい。
【0040】
ガスケットを注射器に使用した際の初期流動立ち上がり特性は、ガスケットの表面静摩擦係数に依存する。また、シール性の観点から、ガスケットは注射器筒体の径に比べて大きく製造されて嵌合されるため、両者間の摩擦力は、変形したガスケットの反発力にも依存する。従って、本発明のガスケット製造に用いられる樹脂組成物は、静摩擦係数及び反発弾性率が低いものが望ましい。
具体的にはJIS K7125に準拠し、該樹脂組成物とプロピレン系樹脂を接触させた状態で1.96Nの錘を乗せ、100mm/minの速度で引っ張った際の静摩擦係数が2.5以下であることが好ましく、更に好ましくは2以下であり、最も好ましくは1.5以下である。上記の通り、ガスケットの要求特性から静摩擦係数の下限は限定されないが、摩擦係数が低い樹脂であるフッ素系樹脂の摩擦係数が0.1程度であることから、本発明におけるガスケットの静摩擦係数の下限も通常0.1以上である。ここで、静摩擦係数を測定するに際し、接触させる対象であるプロピレン系樹脂によって値が変化する場合は、該プロピレン系樹脂としてポリプロピレン系熱可塑性エラストマーを用いることとし、更に限定的には、接触させる対象材料として三菱化学社製、ゼラスMC600を用いて測定した際の値を意味するものとする。
また、JIS K6255に従いリュプケ式にて測定した反発弾性率は50%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。なお、下限は限定されないが、通常10%以上であ
る。
【0041】
また、ガスケットを注射器に使用した際の脈動特性は、ガスケットの表面動摩擦係数及び摺動時の応力振幅に依存するため、ガスケット製造に用いられる樹脂組成物はこれら値の小さいことが望ましい。具体的にはJIS K7125に準拠し、該樹脂組成物とプロピレン系樹脂と接触させた状態で1.96Nの錘を乗せ、100mm/minの速度で引っ張った際の動摩擦係数が2.5以下であることが好ましく、更に好ましくは2以下であり、最も好ましくは1.5以下である。上記の通り、ガスケットの要求特性から動摩擦係数の下限は限定されないが、摩擦係数が低い樹脂であるフッ素系樹脂の摩擦係数が0.1程度であることから、本発明におけるガスケットの動摩擦係数の下限も通常0.1以上である。ここで、動摩擦係数を測定するに際し、接触させる対象であるプロピレン系樹脂についても、前記の静摩擦係数を測定する際の基準と同様である。
また、該試験において、接触面間の相対ずれが開始してから応力最小値と応力最大値の差が1.5N以下であることが好ましく、更に好ましくは1N以下である。
【0042】
<ガスケット>
本発明のガスケットは、上述の樹脂組成物をガスケットの形状に成形することにより得ることができる。本発明のガスケットは、密封性と摺動性が確保できればどのような形状のものでも構わない。ガスケットの用途は限定されないが、本発明のガスケットは衛生性に優れ、臭気も極めて少ないので、医療用に好適に使用することができる。なお、本発明において医療用とは、診断用や医療検査用のものも包含する。
本発明のうち一つの発明に係るガスケットは、該ガスケットを構成する樹脂組成物が、特定の分子量分布を有することに特徴をもつ。
【0043】
具体的には、前記樹脂組成物がGPC分析によるスチレン換算分子量において、下記(A−1)および(A−2)の範囲内において、少なくともそれぞれ1つ以上のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものである。更に望ましくは、下記(A−1)、(A−2)および(A−3)の範囲に少なくともそれぞれ1つ以上のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものであり、最も望ましくは下記(A−1)〜(A−4)の範囲に少なくともそれぞれ一つ以上のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものである。
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
ここで、分子量分布(数/質量平均分子量)の測定及びピーク分離に際して使用されるGPCの測定条件、および、ピークショルダーの解釈については前記の同様である。なお、前記樹脂組成物がGPC測定の溶媒であるクロロホルムに不溶の成分を含有する場合は、不溶成分を濾過した溶液を用いて測定するものとする。
【0044】
また、ガウス・ニュートン法によって分離されて得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比が50/50〜95/5であることが望ましく、60/40〜90/10であることが更に望ましい。
【0045】
本発明において、前記樹脂組成物が前記(A−1)〜(A−4)の分子量の範囲の何れかに特定のピーク/及びまたはピークショルダーを有するものとするための手段は限定されないが、成分(A)、成分(B)、成分(C)のうち少なくとも一成分以上の成分の分子量を最適化することや、その配合組成を最適化することによって達成することが出来る。特に、成分(A)の分子量分布を最適化することによって達成することが好ましく、成分(A)を前記した製造方法により、製造条件を最適化することによって達成するか、ま
たは、市販品の(水添)ブロック共重合体の中から適宜選択して使用することによって達成できる。また、複数の製造品や市販品を適宜配合して使用することによって達成することもできる。
特に、異なる分子量分布を有する(水添)ブロック共重合体を複数用い、これらと成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とするよりも、予め前記の通りGPC分析における複数のピークを有する(水添)ブロック共重合体として成分(A)を得た後、これらと成分(B)及び成分(C)とを配合して樹脂組成物とする方が好ましい。
【0046】
本発明のガスケットは、柔軟であることが好ましい。具体的には、JIS K6253に従って測定したデュロA硬度が80以下であるのが好ましく、70以下であるのが更に好ましい。なお、デュロA硬度の下限としては、ベタツキ発生の点から40を下限値とするのがよい。
【0047】
<ガスケットの製造方法>
本発明のガスケットの製造方法は、シール性を発現させることが出来る形状に成形できれば特に制限はない。具体的には射出成形、圧縮成形、押出成形からの打ち抜き成形等が挙げられるが、これらのうち、成形サイクルや量産性を考えると、射出成形又は圧縮成形が好ましい。
成形時のシリンダー及びダイスの温度は、未溶融物の表面析出等による外観不良が起こり難い点では、高温であることが好ましく、溶融樹脂中に含まれる成分の中で最も融点が高い成分の融点より高温であることが更に好ましく、最も融点が高い成分の融点より10℃以上高いことが特に好ましく、最も融点が高い成分の融点より20℃以上高いことが最も好ましい。具体的には、成分(A)の融点が一般的に160℃〜240℃であることから、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることが更に好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。一方、含有成分の熱分解による変色や物性低下を起こさないためには、成形時のシリンダー及びダイスの温度は、低い方が好ましい。成形時のシリンダー及びダイス温度の上限は250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることが更に好ましい。また、射出成形を行う場合の金型温度は、60℃以下であるのが好ましく、45℃以下であるのが更に好ましい。
【0048】
<注射器>
本発明のガスケットは、該ガスケットを用いる際の具体的用途に制限はないが、高い摺動性を有することから、注射器用のガスケットとして用いる場合に好適である。具体的には、筒状体と、該筒状体内壁面に密着して摺動するガスケットとを具備する注射器に好適であり、特に、大口径(例えば、内径が20mm以上)の注射器におけるガスケットに好適である。また、本発明のガスケットは衛生性に優れ、臭気も極めて少ないので、医療用注射器用のガスケットに好適であり、更にはシリンジポンプに用いる医療用注射器用のガスケットとして好適である。
本発明のガスケットを用いた注射器における筒状体の材質は限定されないが、通常はガラスまたは樹脂製であり、樹脂製の場合は通常、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂が用いられる。特に本発明のガスケットは、筒状体としてポリプロピレン系樹脂を用いた注射器に用いた場合、優れた流動立ち上がり特性や脈動性が発揮されるので好適である。
また、本発明のガスケットを用いた注射器における押子の材質も限定されず、通常はガラスまたは樹脂製であり、樹脂製の場合は上記の筒状体の材質と同様である。
なお、筒状体の内面、すなわち筒状体と本発明のガスケットとの摺動面には、公知の潤滑材が塗布されていてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超
えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。また、本発明で使用した成分(A)について詳細を表−1に記す。なお、GPCの測定条件は前記の通りである。
【0050】
<成分(A)>
(a−1) 株式会社クラレ製「セプトンKL−J3341」:スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:41重量%(13C−NMR測定値)、イソプレンの1,4−ミクロ構造比94%、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比93%、質量平均分子量:337,000、数平均分子量:230,000。
(a−2) 株式会社クラレ製「セプトン4077」:スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:30重量%(13C−NMR測定値)、イソプレンの1,4−ミクロ構造比94%、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比93%、質量平均分子量:381,000、数平均分子量:290,000。
【0051】
(a−3) シェル・ケミカル株式会社製「クレイトンG1651HU」:スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:33重量%(13C−NMR測定値)、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比70%、質量平均分子量:253,000、数平均分子量:210,000。
(a−4) シェル・ケミカル株式会社製「クレイトンG1650HU」:スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。
スチレン(ブロックP)含量:29重量%(13C−NMR測定値)、ブタジエンの1,4−ミクロ構造比70%、質量平均分子量:91,000、数平均分子量:82,000。
【0052】
【表1】

【0053】
<成分(B)>
(b−1) 出光興産株式会社製「PW−90」:パラフィン系プロセスオイル。
<成分(C)>
(c−1) 日本ポリエチレン株式会社製「ノバテックPE HJ490」:ポリエチレン単独重合体。
<その他の成分>
(d−1) Honeywell株式会社製「AC−8」:ポリエチレンワックス。
【0054】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
表−2に示す配合割合(重量部)に基づき、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−30αII」、シリンダー口径30mm)によって、設定温度180℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを用い、射出成形機(東芝機械株式会社製「IS−130t」)で80mm×120mm×2mmのプレートを成形し、これから物性評価用及びガスケット特性評価用の試験片を打ち抜いた。射出成形の条件は、樹脂温度:180〜240℃、射出時間:2〜20秒、金型温度:20〜60℃、冷却時間:10〜40秒とした。
実施例1〜2、比較例1〜4で得られた各試験片を用いて、成分(A)と同様にGPC測定を行ったが、測定溶媒であるクロロホルムに溶解した成分の結果は、表−1とほぼ同様であった。
【0055】
<成形体の評価>
(1)デュロA硬度
射出成形して得られたプレートを用い、JIS K6253に従って測定した。
(2)メルトフローレート(MFR)
溶融混練して得られた樹脂組成物のMFRについて、JIS規格K7210に準拠し、230℃,49N(5kgf)の荷重にて測定した。
(3)引張特性
JIS規格K6251に従って、射出成形して得られたプレートを打ち抜いて得られる3号ダンベルの試験片を、オートグラフを用いて500mm/minの速度で引張って、破断するまでの伸び率(引張り伸び率)及び破断時の強度(引張り破断強度)を測定した。また、100%の伸び率を示したときに得られる応力(100%モデュラス)及び300%の伸び率を示したときに得られる応力(300%モデュラス)も併せて測定した。
【0056】
(4)摩擦特性
摩擦特性は、JIS K7125に準拠して測定を行った。前記の通り射出成形して得られた厚さ2mmのプレートに対し、63mm×63mm×2mmのプロピレン系樹脂の成形品を接触させた状態で1.96Nの錘を乗せ、100mm/minでプロピレン系樹脂の成形品を移動させた際、相対ずれ運動が開始するまでの移動量及び運動開始までに発生する最大応力を測定し、これから静摩擦係数を求めた。なお、プロピレン系樹脂にはゼラスMC600(三菱化学社製)を使用した。
また、接触面間の相対ずれ運動が開始した後から60mmまでの平均応力を測定し、これから動摩擦係数を求めた。加えて、摺動している間の応力最大値(最大摩擦応力)と、応力最大値と最小値の差(最大応力振幅)とを併せて測定した。樹脂組成物の静摩擦係数及び動摩擦係数は小さい方が望ましく、最大摩擦応力や最大応力振幅も同様に小さい方が望ましいが、何れも0.1〜1.5の範囲が特に好ましい。
【0057】
(5)反発特性
射出成形して得られたプレートから直径28mmの試験片を打ち抜き、それを6枚重ねたものを用い、JIS K6255に準拠してリュプケ式にて反発弾性率を測定した。樹脂組成物の反発弾性率は低い方が好ましいが、10〜45%の範囲が特に好ましい。
【0058】
(6)射出成形品外観(フローマーク)
射出成形して得られたプレートを用い、フローマークの有無を評価した。
○:フローマークがない。
△:成形品の一部にフローマークがある。
×:全面にわたりフローマークがある。
【0059】
(成形体の評価)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物及び成形体について、前記の方法によって評価した結果を表−2に示す。
【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のガスケットは、従来の熱可塑性エラストマーにより製造されたガスケットと比較して、高い摺動性を有しており、かつ加硫ゴムと比較しても衛生性や成形性、低臭気性、リサイクル性に勝っていることから、注射器用ガスケットを始めとした各種医療用部材
への適応が期待される。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、
成分(C):ポリオレフィン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物を成形して得られるガスケットであって、該樹脂組成物がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とするガスケット。
【請求項2】
該樹脂組成物がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、
成分(C):ポリオレフィン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物を成形して得られるガスケットであって、該成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とするガスケット。
【請求項4】
成分(A)がさらに、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−3)分子量:400,000〜550,000
(A−4)分子量:150,000〜250,000
の範囲にそれぞれ一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とする請求項3に記載のガスケット。
【請求項5】
ピーク分離して得られた(A−1)の範囲に有するピークと(A−2)の範囲に有するピークとのピークシグナル強度比〔A−1/A−2〕が50/50〜95/5であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスケット。
【請求項6】
成分(A)が重合体ブロックPを10重量%以上含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスケット。
【請求項7】
重合体ブロックQが、共役ジエンとしてイソプレンを有し、ブロックQのミクロ構造中
のイソプレンの1,4−付加構造が60〜100重量%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスケット。
【請求項8】
成分(B)が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、および炭素原子芳香族系オイルから選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスケット。
【請求項9】
成分(C)がパーオキサイド架橋型のポリオレフィン系樹脂である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスケット。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の医療用ガスケット。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の注射器用ガスケット。
【請求項12】
筒状体と、該筒状体内壁面に密着して摺動するガスケットとを具備し、該ガスケットが請求項1〜9のいずれか一項に記載のガスケットであることを特徴とする医療用注射器。
【請求項13】
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体 25〜90重量%と、成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤 10〜75重量%との合計100重量%に対して、
成分(C):エチレン系樹脂 1〜45重量%を含有してなる樹脂組成物であって、該成分(A)がゲル浸透クロマトグラフィー分析によるスチレン換算分子量において、
(A−1)分子量:250,000〜350,000
(A−2)分子量:100,000〜150,000
の範囲にそれぞれ少なくとも一つ以上のピーク及び/またはピークショルダーを有することを特徴とする樹脂組成物。



【公開番号】特開2012−197829(P2012−197829A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61165(P2011−61165)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】