説明

ガスケット

【課題】倒れ防止機能及び蛇行防止機能が確実に発揮され、シール対象媒体の取付溝への浸入を生じさせず、且つ、2部材に熱膨張差が生じる場合でもシール機能が適正に維持される新規なガスケットを提供する。
【解決手段】第1部材1と前記第2部材2との間のいずれか一方に形成された環状の取付溝10に嵌め入れられるガスケット3において、前記取付溝に沿った形状の環状のガスケット本体30と、前記取付溝の側壁10aに対向する前記ガスケット本体の側面に、該ガスケット本体の前記取付溝の深さ方向Fに相当する高さ方向Hに沿い且つ該ガスケット本体の周方向に間隔を空けて設けられた凸条体からなる複数の縦リブ31と、前記側面に、前記ガスケット本体の全周に亘り連なって設けられた凸条体からなる横リブ32とを備え、前記複数の縦リブは、前記横リブを挟んで前記高さ方向に相対する位置に、前記横リブと分離した状態で形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向配置される第1部材及び第2部材の対向面のいずれか一方に形成された環状の取付溝に嵌め入れられ、締結部材によって対向して締結される前記第1部材と前記第2部材との間を密封するガスケットに関し、例えば、内燃機関におけるシリンダヘッドとインテークマニホールドとの間、或いはシリンダヘッドとヘッドカバーとの間を、シールするガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
前記のように、第1部材及び第2部材の対向面のいずれか一方に形成された環状の取付溝に嵌め入れられ、締結部材によって対向して締結される前記第1部材と前記第2部材との間を密封するガスケットの例として、特許文献1〜8に記載されたものが挙げられる。特許文献1,2に記載されたガスケットは、取付溝に装着した際の安定性を図るために、取付溝の側壁に対向する側面に、周方向に適宜間隔をもって形成された複数の縦リブ状の突部を備えている。また、特許文献3〜5に記載されたガスケットは、取付溝に装着した際の安定性(脱落防止、倒れ防止等)を図るために、取付溝の側壁に対向する側面に、全周に亘って形成された横リブ状の突部を備えている。さらに、特許文献6〜8には、側面に周方向に適宜間隔を開けて形成された複数の縦リブ状の突部と、これら縦リブ状の突部に交差し全周に亘って形成された横リブ状の突部とを備えたガスケットが記載されている。そして、特許文献6〜8における縦リブ状の突部は、いずれも、ガスケットを取付溝に装着する際の脱落を防止する機能を奏するものであるとされている。また、特許文献7に記載された横リブ状の突部(ビード)は、取付溝に装着した後に圧縮安定性を確保するものであるとされ、この圧縮安定性は、倒れ防止機能であると想定される。特許文献6,8に記載された横リブ状の突部については、いずれも、図示はされているが、符号は付されておらず、どのような機能を奏するものかの説明はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭47−40192号公報
【特許文献2】実開昭62−75262号公報
【特許文献3】実開昭59−37464号公報
【特許文献4】特開2008−281110号公報
【特許文献5】特開2010−138957号公報
【特許文献6】特開2008−249096号公報
【特許文献7】特開2008−261351号公報
【特許文献8】特開2010−249270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1及び2に記載されたガスケットにおける縦リブ状の突部は、当該ガスケットの取付溝に対する装着時の、姿勢保持(倒れ、ずれの防止)、脱落の防止等を意図するものと解される。しかし、前記突部がガスケットの周方向に間隔を開けて形成されているので、突部間での倒れがなお生じる懸念がある。また、突部と突部の間は、ガスケット側面と対向する溝側壁との接触度合いが弱いため、シール対象の媒体がこの部分から浸入して取付溝の底部に至り、浸入した媒体がガスケットを劣化させ、シール性が経時的に低下する可能性もある。さらに、取付溝に対する装着時における突部間の溝側壁に対する干渉が少ないので、ガスケットが蛇行した状態で溝に装着されることも予想される。一方、特許文献3,4に記載されたガスケットにおける横リブ状の突部も、取付溝に対する装着時の姿勢保持、或いは脱落の防止等を意図するものと解される。しかし、これら横リブ状の突部は、ガスケットの各側面に1列(1条)形成されているだけであるから、倒れ防止機能は充分とは言い難いものである。
【0005】
これに対し、特許文献5には、横リブ状の突部が、ガスケットの各側面に上下2列に形成されている。しかし、このように上下2列の横リブ状の突部を設けた場合、前記装着時の姿勢保持、或いは脱落の防止機能は改善されるが、溝の側壁との接触面積が増加し、相手部材(取付溝が形成されていない方の部材)との追従性が悪くなってシール性が低下することになる。即ち、この種のガスケットによる密封構造では、第1部材及び第2部材の一方の部材が合成樹脂の成型体からなる例も多い。このように一方の部材が合成樹脂の成型体からなる場合、他方の部材との熱膨張差が大きく、この熱膨張差のため締結部材間で両部材の対向面の間隔が広がるような変動が発生する。従って、ガスケットが溝の側面に強く密着していると、この密着力によってガスケットの弾性復元力が規制され、ガスケットが、前記間隔が広がるような変動に伴って他方の部材の対向面に追従し難く、両シール面間のシール機能が低下することになる。
【0006】
特許文献6〜8には、縦リブ状の突部と、横リブ状の突部とを備えたガスケットが示されている。しかし、特許文献6,8に記載された横リブ状の突部については、説明がないためにどのような機能を奏するものか定かではない。また、特許文献7に記載された横リブ状の突部(ビード)は、上述のとおり、取付溝に装着した後の圧縮安定性、即ち、倒れ防止機能を確保するものであると想定される。しかし、添付図等の記載から、この横リブ状の突部のガスケットの側面における突出高さは、縦リブ状の突部の突出高さより低く形成されている。そのため、横リブ状の突部と溝の側壁とを充分に接触させシールすることができず、前記と同様に、シール対象媒体が溝の底部に浸入してガスケットを劣化させる懸念がある。また、このように横リブ状の突部と溝の側壁とを充分に接触させることができない場合は、ガスケットを溝に装着した際に、ガスケットが蛇行する要因になることが予想される。更に、縦リブ状の突部と横リブ状の突部とが一体に連接されているから、ガスケットが取付溝内で圧縮され弾性変形する際、横リブ状の突部が縦リブ状の突部の影響を受け、溝側壁に対し周方向全体に亘り均一に接触しなくなることがある。このように、均一な接触状態が得られないと、横リブ状の突部による溝側壁との側面補助シール機能が充分に発揮されず、シール対象媒体の取付溝の底部への浸入を防止することが難しくなる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、倒れ防止機能及び蛇行防止機能が確実に発揮され、シール対象媒体の取付溝への浸入を生じさせず、且つ、2部材に熱膨張差が生じる場合でもシール機能が適正に維持される新規なガスケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガスケットは、対向配置される第1部材及び第2部材の対向面のいずれか一方に形成された環状の取付溝に嵌め入れられ、締結部材によって対向して締結される前記第1部材と前記第2部材との間を密封するガスケットにおいて、前記取付溝に沿った形状の環状のガスケット本体と、前記取付溝の側壁に対向する前記ガスケット本体の側面に、該ガスケット本体の前記取付溝の深さ方向に相当する高さ方向に沿い且つ該ガスケット本体の周方向に間隔を空けて設けられた凸条体からなる複数の縦リブと、前記側面に、前記ガスケット本体の全周に亘り連なって設けられた凸条体からなる横リブとを備え、前記複数の縦リブは、前記横リブを挟んで前記高さ方向に相対する位置に、前記横リブと分離した状態で形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るガスケットは、対向配置される第1部材及び第2部材の対向面のいずれか一方に形成された環状の取付溝に嵌め入れられ、第1部材及び第2部材を締結部材によって締結することにより、取付溝を有する一方の対向面と他方の対向面との間に圧縮された状態で介在する。両対向面間に、当該ガスケットが圧縮された状態で介在することにより、前記第1部材と前記第2部材との間が密封される。また、前記取付溝の側壁に対向する前記ガスケット本体の側面には、複数の縦リブ及び横リブが形成されているから、前記締結過程で、取付溝内でのガスケットの倒れが生じることを防止することができる。そして、横リブがガスケット本体の全周に亘り連なって形成されていることにより、横リブが取付溝の側壁に干渉し、ガスケットの蛇行も生じ難くなる。特に、縦リブは、ガスケット本体の高さ方向に沿って設けられているから、締結過程でガスケットが倒れようとしても、縦リブが取付溝の側壁に干渉してそれ以上に倒れることがない。また、縦リブは周方向に間隔を開けて設けられているが、隣接する縦リブ間には、横リブが存在するから、隣接する縦リブの間隔が大きくても、この部分では横リブが取付溝の側壁に干渉し、この部分でのガスケットの倒れが阻止されるとともに、ガスケットの周方向に沿った蛇行も阻止される。
【0010】
さらに、ガスケット本体の周方向に間隔を空けて設けられた複数の縦リブと、ガスケット本体の全周に亘り連なって設けられた一つの横リブと、を備えているから、横リブを上下2段に配した構造に比べ、取付溝の側壁と横リブ及び縦リブを介したガスケット全体との接触面積を小さくすることができる。従って、前記圧縮の際に、ガスケットの取付溝の側壁方向への変形により生じる応力が小さくなる。さらに、この取付溝の側壁方向への変形は、取付溝の側壁により抑制されるため、これによって生じる圧縮方向(締結方向)への変形による圧縮方向のシール反力の増加を抑えることができ、シール反力を適切な状態に維持することができる。また、ガスケットが取付溝の側壁を押す力が小さくなるため、両リブの取付溝の側壁に貼り付きにくいものとすることができる。これによって、例えば、第1部材或いは第2部材が熱膨張差によって、対向面間に前記変動が発生した場合でも、ガスケットがこれに伴って弾性復元し、この変動に対して追従することができるので、対向面間において優れたシール性が発揮される。そして、縦リブを、横リブを高さ方向に挟んだ位置に、横リブと分離した状態で形成しているから、ガスケットを圧縮した際に、横リブが縦リブとは独立して変形し、縦リブの影響を受けず取付溝の側壁面に均一に接触する。この均一な接触により、安定した側面補助シールができ、シール対象媒体の溝底までの浸入を効果的に防止する。さらに、縦リブが、横リブを挟んで前記高さ方向に相対する位置に形成されているから、ガスケットの圧縮過程における倒れ防止が的確になされる。
【0011】
本発明において、前記横リブの前記側面からの突出高さが、前記縦リブの前記側面からの突出高さ以下の高さとされていても良い。これによれば、ガスケットが圧縮されて取付溝の側壁方向へ圧縮変形する際、横リブが溝の側壁面に過剰に接触せず、圧縮方向への過剰な反力が生じない。これによって、横リブが取付溝の側壁面に貼り付きにくいものとすることができ、第1部材及び第2部材の熱変形差による前記変動に対する追従性が維持され、前記変動があっても、第1部材及び第2部材間のシール性の低下がより生じ難くなる。
【0012】
本発明において、前記横リブが、ガスケット本体における前記側面の前記高さ方向中央部に設けられているものとしても良い。これによれば、ガスケットが上下方向から圧縮された際に、ガスケット本体の高さ方向中央部が最もその直交する方向へ膨み易いため、横リブが、より縦リブの影響を受けずに溝の側壁面に均一に接触する。そのため、この部分と取付溝の側壁との干渉によって、より一層ガスケットの倒れ及びシール対象媒体の浸入を効果的に防止することができる。また、隣接する縦リブ間でのガスケットの蛇行の発生をより効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明において、前記ガスケット本体の断面形状が、前記高さ方向中央の横断線を対称軸として線対称に、且つ、前記高さ方向に直交する幅方向中央の縦断線を対称軸として線対称に形成され、前記縦リブ及び前記横リブが、前記ガスケット本体の両側部の前記側面に前記縦断線を対称軸として線対称に形成されているものとしても良い。これによれば、ガスケットを前記取付溝に嵌め入れる向きはいずれでもよくなるので、上下反転して嵌め入れても、同様の効果を発揮し得る。よって、ガスケットの嵌め入れ間違いを起こすことがない。この場合、横リブが、前記のようにガスケット本体における前記側面の前記高さ方向中央部に設けられていれば、より一層ガスケットを嵌め入れる向きが限定されなくなる。
【0014】
本発明において、前記横リブ及び縦リブの断面形状が、いずれも山形の形状とされ、且つその頂部をとおり前記ガスケット本体の側面に垂直な線を対称軸として線対称に形成されているものとしても良い。これによれば、前記締結時におけるこれらリブの圧縮弾性変形が均一になされ、前記のシール対象媒体の浸入阻止機能や、蛇行防止機能、倒れ防止機能、さらには前記変動に伴う追従性等が適正に発揮される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスケットによれば、倒れ防止機能及び蛇行防止機能が確実に発揮され、特に、横リブが縦リブの影響を受けることなく、シール対象媒体の取付溝への浸入を防止する機能を発揮し、且つ、2部材に熱膨張差が生じる場合でもシール機能が適正に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガスケットが適用される第1部材及び第2部材の締結状態を示す要部の断面図と、一部の拡大図である。
【図2】本発明のガスケットの一実施形態を模式的に示す部分破断斜視図である。
【図3】同実施形態のガスケットの一部を示す平面図である。
【図4】第1部材及び第2部材の締結前の状態を示す図1の拡大図に対応する図と、その一部をさらに拡大した図である。
【図5】図4におけるX−X線矢視断面図である。
【図6】本発明のガスケットの他の実施形態を示す図4と同様図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、内燃機関におけるインテークマニホールド(第1部材)1とシリンダヘッド(第2部材)2との間を、ガスケット3を介して密封する密封構造を示している。インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2は、それぞれの対向面1a,2aが対向するよう配置される。インテークマニホールド1は合成樹脂の成型体からなり、燃料混合気(シール対象媒体)の流通路としてのシール対象空所1bを有し、該インテークマニホールド1の前記対向面1aには、ガスケット3を嵌め入れて装着するための取付溝10が凹設されている。該対向面1aは、前記シール対象空所1bの開口部回りに環状に形成され、取付溝10は、環状の対向面1aの周方向に沿って環状に凹設されている。取付溝10は、対向面1aに垂直な方向が溝深さ方向Fとなるよう、断面形状が方形状に形成されている。シリンダヘッド2は、アルミニウム等の金属製鋳造体からなり、インテークマニホールド1からの前記混合気の流入路としてシール対象空所2bを有している。前記対向面2aは平坦面とされ、前記シール対象空所2bの開口部回りに形成されている。インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2は、前記取付溝10にガスケット3を装着した状態で、対向面1a,2aが互いに対向関係で合体するよう、ボルト(締結部材)4によって、ガスケット3の圧縮を伴い対向して締結される。
【0018】
ガスケット3は、FKM,NBR,H−NBR,EPDM,CR,ACM,AEM,VMQ及びFVMQ等のゴム材による加硫成型体からなり、前記環状の取付溝10に嵌まり得る環状の形状に形成されている。該ガスケット3は、全体形状が取付溝10に沿った環状の形状のガスケット本体30を有している。該ガスケット本体30は、図1〜図4に示すように、断面形状が前記取付溝10の深さ方向Fに相当する高さ方向Hに沿って縦長で、高さ方向中央の横断線L1を対称軸として線対称に、且つ、前記高さ方向Hに直交する幅方向中央の縦断線L2を対称軸として線対称に形成されている(図4参照)。そして、ガスケット本体30の前記取付溝10の両側壁(内壁)10a,10aに対向する側面30a,30aは、いずれも前記高さ方向Hに平行とされ、ガスケット本体30の高さ方向の上下端部30b,30cは、断面三角形状とされている。また、ガスケット本体30の高さは、前記取付溝10の深さより大とされ、図4に示すように、取付溝10に、上端部30bがその底壁10bに当接するよう嵌め入れられたときには、下端部30cを含む部分が取付溝10の開口部10cより下方に突出するように形成されている。
なお、本明細書において、上及び下なる用語は、前記高さ方向Hに沿って、各図の紙面上側が上、下側が下、をそれぞれ意味するものとする。また、前記上下端部30b,30cの形状は、断面三角形状に限らず、フラットな形状や、円弧形状、その他の形状であっても良い。
【0019】
前記ガスケット本体30の両側面30a,30aに、凸条体からなる縦リブ31が高さ方向Hに沿い、且つ該ガスケット本体30の周方向S(図2、図3参照)に沿って間隔を空けて複数設けられている。また、該両側面30a,30aには、ガスケット本体30の周方向Sに沿いその全周に亘って連なる凸条体からなる横リブ32が各1条ずつ設けられている。そして、前記複数の縦リブ31は、前記横リブ32を挟んで前記高さ方向Hに相対する位置に、該横リブ32と分離した状態、即ち、横リブ32に交差はするが、連接しない状態で形成されている。これら縦リブ31及び横リブ32は、断面形状がいずれも山形の形状とされ、その頂部をとおり前記ガスケット本体30の側面30aに垂直な線(垂直線)L3,L4(図4、図5参照)を対称軸として線対称に形成されている。また、これら縦リブ31及び横リブ32は、前記ガスケット本体30の両側面30a,30aに、前記縦断線L2を対称軸として線対称に形成されている。横リブ32は、前記両側面30a,30aの高さ方向Hの中央において、前記横断線L1と垂直線L3とが一致するように形成され、複数の縦リブ31は、両側面30a,30aに、ガスケット本体30の周方向(長手方向)に沿った中心線L5(図3参照)の左右に対称関係で形成されている。そして、本実施形態に係る横リブ32の前記側面30aからの突出高さAと、縦リブ31の前記側面30aからの突出高さBとは同じとされている(図4参照)。
【0020】
次に、インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2の各対向面1a,2a間に前記ガスケット3を介在させて、当該2部材1,2間をシールする密封構造を構成する要領を説明する。先ず、図4に示すように、前記のように構成されたガスケット3が、前記取付溝10に嵌め入れられて装着される。この時、ガスケット3の断面形状は、前記のように実質的に上下及び左右に対称に形成されているから、ガスケット3を嵌め入れる向きが限定されず、前記上端部30b及び下端部30cのいずれからも取付溝10に嵌め入れることが可能で、装着間違いが生じる懸念がない。取付溝10にガスケット3が装着された状態で、対向面1a,2aが互いに対向関係となるよう配置され、図1に示すように、インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2がボルト4によって締結される。この締結は、取付溝10の深さ方向F、即ち、ガスケット3の高さ方向Hに沿ってなされ、締結に伴い、ガスケット3は、取付溝10の底壁(内壁)10b及びシリンダヘッド2の前記対向面2a間で、高さ方向Hに沿って圧縮される。ガスケット3が高さ方向Hに沿って圧縮されると、ガスケット本体30の上下端部30b、30cが図1に示すように圧縮弾性変形して、前記底壁10b及び対向面2aに弾接するとともに、ガスケット本体30は、高さ方向Hに直交する方向(幅方向)に膨大するように弾性変形する。
【0021】
この圧縮過程で、ガスケット3は、左右いずれかに倒れようとするが、ガスケット本体30の前記両側面30a,30aには、前記複数の縦リブ31が前記のように設けられているから、これら縦リブ31のいずれかが側面30aに当接し、それ以上の倒れが防止される。しかも、両側面30a,30aにおける縦リブ31は、前記中心線L5の左右に対称関係(図3参照)で形成されているから、両側の縦リブ31,31の前記側壁10a,10aとの規制作用によって、左右への倒れが効果的に防止される。また、両側面30a,30aの高さ方向Hの中央部には、前記のように横リブ32,32が設けられているから、ガスケット本体30の周方向に隣接する縦リブ31間においては、横リブ32が前記側壁10aに当接し、この部分での倒れも防止される。特に、横リブ32は、圧縮に伴う幅方向への膨みが顕著な前記中央部に形成されているから、前記側壁10aに対して当接し易く、隣接する縦リブ31,31間での倒れ防止がより的確になされる。そして、ガスケット3は、取付溝10内で左右に蛇行するような場合があるが、横リブ32が側壁10aに当接することにより、このような蛇行が防止される。しかも、本実施形態では、横リブ32及び縦リブ31の前記側面30aからの突出高さが同じとされているから、縦リブ31が隣接する縦リブ31間における蛇行防止機能の障害となることがない。
【0022】
前記ボルト4による締結は、図1に示すように、前記対向面1a,2aが互いに対向関係で当接して合体するようになされる。従って、ガスケット3は、その周方向Sの全周に亘り、圧縮圧のむらがなく均等に圧縮されることになる。そして、このように締結が完了した状態では、図1に示すように、ガスケット3は、高さ方向H(上下方向)に圧縮されるとともに、幅方向(高さ方向Hに直交する方向)に膨む。これによって、ガスケット本体30の上下端部30b,30cが、取付溝10の前記底壁10b及びシリンダブロック2の対向面2aに弾性変形を伴い弾接し、且つ、縦リブ31及び横リブ32も弾性変形を伴い取付溝10の側壁10aに弾接する。上下端部30b,30cの前記底壁10b及び対向面2aに対する弾接によって、インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2の対向面1a,2a間が密封され、両者のシール対象空所1b,2b間を流通するシール対象媒体の外部への漏出が防止される。また、横リブ32は、ガスケット本体30の全周に亘り形成され、前記側面10aに弾接状態で接触しているから、この部分からシール対象媒体が、取付溝10の底壁10b側内部へ浸入することが防止され、底壁10b側内部に滞留することがない。従って、ガスケット3の底壁10b側に位置する部分が、浸入したシール対象媒体に晒されて劣化することがなく、この部分のシール性が経時的に低下することもない。特に、本実施形態では、横リブ32及び縦リブ31の前記側面30aからの突出高さA,Bが同じとされているから、横リブ32を側面10aに十分に接触させることができる。また、横リブ32は縦リブ31と分離した状態とされているから、縦リブ31の影響を受けずに、前記側面10aに均一に密着した状態で接触し、この側面補助シール機能により前記シール対象媒体の底壁10b側内部への浸入防止機能が的確に発揮される。
【0023】
インテークマニホールド1を含む内燃機関は高温の環境下で使用されるため、図例のようにインテークマニホールド1が合成樹脂の成型体からなる場合、熱変形(熱膨張)を起こし易い。この熱変形に伴うインテークマニホールド1及びシリンダヘッド2の熱膨張差によって、ボルト4による締結部間のインテークマニホールド1が浮き上がり、対向面1a,2aの間隔が拡がろうとする。ガスケット3と取付溝10の側壁10aとの弾接は、複数の縦リブ31及び両側壁10aに各1条の横リブ32の弾性変形によってなされるから、実質的な弾接面積が小さく、従って、前記圧縮の際に、ガスケット3の取付溝10の側壁10a方向への変形により生じる応力が小さくなる。さらに、この取付溝10の側壁10a方向への変形は、取付溝10の側壁10aにより抑制されるため、これによって生じる圧縮方向(締結方向)への変形による圧縮方向のシール反力の増加を抑えることができ、シール反力を適切な状態に維持することができる。また、ガスケット3が取付溝10の側壁10aを押す力が小さくなるため、両リブ31,32が側壁10aに貼り付きにくいものとすることができる。即ち、ガスケット3の圧縮による深さ方向Fに沿った復元弾力に対する側壁10aによる規制は少なく、該復元弾力は対向面1a,2aの間隔の拡がりに伴い下端部30cに作用し、下端部30cを対向面2a側に膨出するよう弾性変形させる。従って、対向面1a,2a間にその間隔が拡がるような変動が生じても、ガスケット3がその復元弾力によってこの変動に追従し、下端部30cの対向面2aに対する弾接状態が維持され、インテークマニホールド1が熱変形しても、シリンダヘッド2とのシール性が低下せず、優れたシール性が維持される。
【0024】
また、縦リブ31及び横リブ32は、いずれも断面形状が山形とされ、且つ、前記垂直線L3,L4を対称軸として線対称に形成されているから、前記締結時におけるこれらリブ31,32の圧縮弾性変形が均一になされ、前記のシール対象媒体の浸入阻止機能や、蛇行防止機能、倒れ防止機能、さらには前記変動に伴う追従性等が適正に発揮される。
図1に示すようなインテークマニホールド1の取付溝10に対するガスケット3の嵌め入れ装着は、取付溝10の開口部10cを上向きにした状態でなされる。その後インテークマニホールド1を天地反転もしくは回転して、インテークマニホールド1の対向面1a及び取付溝10の開口部10cが、シリンダヘッド2の対向面2aに対向するように配置される。この時、例示のガスケット3は、取付溝10に遊びを持たせた状態で嵌め入れられているだけであるから、ガスケット3に手を添えていないと脱落する懸念がある。そこで、図示は省略するが、縦リブ31、或いは、横リブ32等に、前記嵌め入れの際に取付溝10の側壁10aに弾接する脱落防止突起を適宜設けても良い。このような脱落防止突起は、次に説明する図6の例においても同様に採用可能である。
【0025】
図6は、本発明に係るガスケットの他の実施形態を示している。この実施形態のガスケット3では、横リブ32の前記側面30aからの突出高さAが、縦リブ31の側面30aからの突出高さBより小とされている。ガスケット3のその他の構成は、図1〜図5に示す例と同様である。この実施形態のガスケット3においては、横リブ32の前記突出高さAが、縦リブ31の前記突出高さBより小とされていることにより、前記締結過程で横リブ32と側壁10aとが過剰に接触せず、圧縮方向への過剰な反力が生じない。これによって、横リブ32が取付溝10の側壁10a面に貼り付きにくいものとすることができ、インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2の熱変形差による前記変動に対する追従性が維持され、前記変動があっても、インテークマニホールド1及びシリンダヘッド2間のシール性の低下がより生じ難くなる。また、締結後の取付溝10の底壁10b側内部へのシール対象媒体の浸入も防止される。この場合、前記突出高さAと突出高さBとの差Cが大き過ぎると、横リブ32の頂部と、取付溝10の側壁10aとの距離が大きくなるため、ガスケット3の嵌め入れ装着時における横リブ32による蛇行防止効果、或いは、側面補助シール効果が充分に発揮され難くなる。突出高さAと突出高さBとの差Cの適正値について、種々検証を試みた結果、ガスケット本体30の両側面30a,30aに形成された横リブ32,32の頂点を結ぶ線分の長さ2A+D(Dは、ガスケット本体30の幅方向寸法)の15%以下が望ましいことが実証されている。即ち、C≦0.15(2A+D)、縦リブ31,31の頂点を結ぶ線分の長さ2B+D≦1.3(2A+D)であることが望ましい。
【0026】
なお、前記実施形態では、第1部材及び第2部材がインテークマニホールド及びシリンダヘッドである例について述べたが、本発明のガスケットが適用される密封構造は、これに限定されず、ヘッドカバー及びシリンダヘッド間の密封構造や、その他の2部材間の密封構造にも適用される。また、第1部材であるインテークマニホールドが合成樹脂の成型体からなる場合を例示したが、第1部材及び第2部材がともに金属製、或いは合成樹脂製であっても良い。さらに、横リブ32の形成位置は、例示のように、側面30aの高さ方向Hの中央部であることが望ましいが、中央よりやや下方位置であっても良い。加えて、図例の取付溝10、ガスケット本体30、縦リブ31及び横リブ32の断面形状は、模式的に示したものであるから、実際には設計上の適正な形状とされることは言うまでもない。ガスケット3の断面形状は、実施形態のように上下及び左右が対称である形状が望ましいが、これに限定されず、下部に左右に膨出した鍔部を有した形状であっても良い。この形状の場合、第1部材及び第2部材の締結状態では、それぞれの対向面1a,2aが当接した合体状態とならず、鍔部が両対向面1a,2a間に挟圧され、対向面1a,2a間に隙間が生じることになる。
【符号の説明】
【0027】
1 インテークマニホールド(第1部材)
1a 対向面
10 取付溝
10a 側壁
10b 底壁
2 シリンダヘッド(第2部材)
2a 対向面
3 ガスケット
30 ガスケット本体
30a 側面
31 縦リブ
32 横リブ
4 ボルト(締結部材)
A 横リブの突出高さ
B 縦リブの突出高さ
F 深さ方向
H 高さ方向
L1 高さ方向中央の横断線(対称軸)
L2 幅方向中央の縦断線(対称軸)
L3 横リブの対称軸(垂直線)
L4 縦リブの対称軸(垂直線)
S 周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置される第1部材及び第2部材の対向面のいずれか一方に形成された環状の取付溝に嵌め入れられ、締結部材によって対向して締結される前記第1部材と前記第2部材との間を密封するガスケットにおいて、
前記取付溝に沿った形状の環状のガスケット本体と、
前記取付溝の側壁に対向する前記ガスケット本体の側面に、該ガスケット本体の前記取付溝の深さ方向に相当する高さ方向に沿い且つ該ガスケット本体の周方向に間隔を空けて設けられた凸条体からなる複数の縦リブと、
前記側面に、前記ガスケット本体の全周に亘り連なって設けられた凸条体からなる横リブとを備え、
前記複数の縦リブは、前記横リブを挟んで前記高さ方向に相対する位置に、前記横リブと分離した状態で形成されていることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のガスケットにおいて、
前記横リブの前記側面からの突出高さが、前記縦リブの前記側面からの突出高さ以下の高さとされていることを特徴とするガスケット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスケットにおいて、
前記横リブが、前記側面の前記高さ方向中央部に設けられていることを特徴とするガスケット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のガスケットにおいて、
前記ガスケット本体の断面形状が、前記高さ方向中央の横断線を対称軸として線対称に、且つ、前記高さ方向に直交する幅方向中央の縦断線を対称軸として線対称に形成され、前記縦リブ及び前記横リブが、前記ガスケット本体の両側部の前記側面に前記縦断線を対称軸として線対称に形成されていることを特徴とするガスケット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガスケットにおいて、
前記横リブ及び縦リブの断面形状が、いずれも山形の形状とされ、且つその頂部をとおり前記ガスケット本体の側面に垂直な線を対称軸として線対称に形成されていることを特徴とするガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79667(P2013−79667A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219447(P2011−219447)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】