ガスセンサ素子およびガスセンサ素子の製造方法
【課題】ガスセンサ素子を長期間にわたって使用した場合にも感応層と触媒部との密着力低下が抑制されるガスセンサ素子およびそのようなガスセンサの製造方法を提供する。
【解決手段】ガスセンサ素子(1)の製造工程のうち感応層(41)および触媒部(42)を加熱する熱処理工程において、酸素濃度が10ppm以下に規定されている。ガスセンサ素子(1)の触媒部(42)は、アスペクト比が2.0以上となる粒子(感応層41との密着状態が良好となる粒子)の割合が少なくとも20%以上に規定されており、感応層(41)からの剥離を抑制できる。また、ガスセンサ素子(1)は、感応層(41)および触媒部(42)に対する熱処理が施されることから、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図ることができる。よって、ガスセンサ素子(1)は、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層(41)と触媒部(42)との密着力低下を抑制できる。
【解決手段】ガスセンサ素子(1)の製造工程のうち感応層(41)および触媒部(42)を加熱する熱処理工程において、酸素濃度が10ppm以下に規定されている。ガスセンサ素子(1)の触媒部(42)は、アスペクト比が2.0以上となる粒子(感応層41との密着状態が良好となる粒子)の割合が少なくとも20%以上に規定されており、感応層(41)からの剥離を抑制できる。また、ガスセンサ素子(1)は、感応層(41)および触媒部(42)に対する熱処理が施されることから、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図ることができる。よって、ガスセンサ素子(1)は、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層(41)と触媒部(42)との密着力低下を抑制できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じてNOxなどの酸化性ガスの濃度変化を検出するガスセンサ素子が知られている(特許文献1)。ガスセンサ素子は、感応層の表面近傍における電子の授受による抵抗値の変化によって酸化性ガスのガス検知を行う。
【0003】
なお、ガスセンサ素子においては、経時的に素子抵抗の値が変動するという欠点があるが、そのような欠点を解消して素子抵抗の経時的な安定性を高めるために、水蒸気を含有する空気流中において350℃以上の温度で高温処理(熱処理)する技術が用いられる(特許文献2)。
【特許文献1】国際公開第2004/048957号パンフレット(請求の範囲1)
【特許文献2】特開平6−213853号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のガスセンサ素子においては、特許文献2に記載の高温処理を行うことにより素子抵抗の経時的な安定性の向上を図ることができるものの、高温処理時の条件によっては感応層と触媒部との密着力が低下する虞がある。
【0005】
なお、特許文献2に記載された技術は、触媒部を感応層に付与したガスセンサ素子を対象としておらず、感応層と触媒部との密着力の向上に着眼した高温処理については言及されていない。
【0006】
そして、このように感応層と触媒部との密着力が低下したガスセンサ素子においては、時間経過に伴い感応層からの触媒部の剥離が生じやすくなり、触媒部が剥離するとガスセンサ素子のガス応答感度が低下することから、ガスセンサ素子の耐久性が低下するという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明はこうした問題に鑑みなされたものであり、ガスセンサ素子を長期間にわたって使用した場合にも、感応層と触媒部との密着力低下が抑制されるガスセンサ素子およびそのようなガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子であって、感応層は、SnO2 を主体に構成され、触媒部は、Auを主体とする複数の粒子で構成され、触媒部を感応層上から観察したとき、複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が2.0以上となる粒子の割合は、20%以上であること、を特徴とするガスセンサ素子である。
【0009】
つまり、このガスセンサ素子は、触媒部が複数の粒子で構成されると共に、触媒部を構成する複数の粒子のうち20%以上の粒子の形状が特定されている。具体的には、触媒部を構成する粒子のうち、アスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が20%以上に規定されている。なお、アスペクト比は、触媒部をなす各粒子の長径寸法と短径寸法との比率であり、走査型電子顕微鏡にて感応層の表面上よりSEM写真を撮影し、その写真に基づいて粒子を観察すると共に、その粒子の長径寸法を粒子の短径寸法(換言すれば、長径寸法方向に対して直交する方向における粒子の最大寸法)で除算してアスペクト比を算出することができる。なお、走査型電子顕微鏡にて感応層の表面上よりSEM写真を撮影するにあたっては、触媒部を構成する複数個の粒子(好ましくは、100個程度の粒子)が含まれるように撮影倍率と撮影領域を任意に選択して撮影を行うものとする。
【0010】
このようにアスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)ではなく、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)である。そして、径寸法が一様ではない立体形状は、球形状に比べて、感応層との接触部分の面積が相対的に大きいことから、この粒子は、球形状の粒子に比べて、感応層との密着状態が良好となる。このため、触媒部を構成する粒子のうち少なくとも20%以上の粒子については、感応層との密着性が向上するため、感応層からの剥離を抑制できる。
【0011】
よって、本発明のガスセンサ素子は、感応層と触媒部との密着力低下を抑制でき、ガスセンサ素子の耐久性を向上できる。
なお、SnO2 を主体とする感応層とは、感応層を構成する成分のうち最も高い割合を占める成分がSnO2 である感応層を意味するものであり、Auを主体とする触媒部とは、触媒部を構成する成分のうち最も高い割合を占める成分がAuである触媒部を意味するものである。
【0012】
なお、本発明は、厚さ寸法が比較的厚い厚膜形状の感応層を備えるガスセンサ素子や厚さ寸法が薄い薄膜形状の感応層を備えるガスセンサ素子のいずれにも適用できる。そして、本発明は、薄膜形状の感応層を備えるガスセンサに適用することで、より一層その効果を発揮する。
【0013】
つまり、厚膜形状の感応層においては、その表面のみならず感応層の内部にも触媒部としての粒子が存在するが、このように内部に存在する粒子は感応層からの剥離が生じ難いことから、本発明を適用することで剥離が抑制できる粒子は、感応層の表面に存在する粒子であり、触媒部を構成する粒子の一部となる。
【0014】
これに対して、薄膜形状の感応層においては、その表面に触媒部としての粒子が略全て存在することから、本発明を適用することで、効果的に感応層と触媒部との密着力低下を抑制できる。
【0015】
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項2に記載のように、複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が1.1未満となる粒子の割合は、10%以下であるとよい。
【0016】
つまり、このガスセンサ素子は、触媒部が複数の粒子で構成されると共に、触媒部を構成する複数の粒子のうちアスペクト比が1.1未満となる粒子の割合が10%以下に規定されている。このようにアスペクト比が1.1未満の粒子は、径寸法が一様の球形状に近似する形状であり、楕円球形状に比べて感応層との接触部分の面積が相対的に小さいことから、感応層との密着力が低く、感応層からの剥離が生じやすい。
【0017】
そして、本発明のガスセンサ素子は、触媒部を構成する複数の粒子のうち、アスペクト比が1.1未満である粒子の割合が10%以下に制限されており、感応層から剥離しやすい触媒部の割合が低く設定されている。
【0018】
よって、本発明のガスセンサ素子は、感応層からの触媒部の剥離を抑制でき、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制できる。
ところで、触媒部を構成する粒子のうち、少なくとも一部が感応層の外部に露出した状態の粒子は、感応層の表面近傍における電子の授受に大きく寄与するためガス検知性能の向上に寄与するが、全表面を感応層に取り囲まれた状態の粒子は、感応層の表面近傍における電子の授受への寄与が少なくガス検知性能の向上に対する寄与が少ない。
【0019】
そこで、上述のガスセンサ素子においては、請求項3に記載のように、触媒部を構成する粒子は、その表面の少なくとも一部を感応層の外部に露出する状態で備えられ、感応層は、その表面の少なくとも一部が露出した状態で備えられるとよい。
【0020】
このように、触媒部を構成する粒子が、その表面の少なくとも一部を感応層の外部に露出する状態で備えられることで、触媒としての機能が一層発揮され、ガス検知性能の向上に寄与する。この結果、触媒機能の低下を防止できるため、ガス応答感度の低下を抑制できる。
【0021】
また、感応層の表面の少なくとも一部が露出した状態で備えられることから、触媒部によって感応層の表面が完全に覆われることが無いため、感応層の表面近傍における電子の授受が良好な状態で行われることになり、ガス検知性能の低下を抑制できる。
【0022】
よって、本発明のガスセンサ素子によれば、ガス応答感度の低下を抑制できると共に、ガス検知性能の低下を抑制できる。
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項4に記載のように、触媒部を構成する少なくとも一部の粒子は、その外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状であるとよい。
【0023】
このように、外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状となる粒子は、感応層との接触部分を大きく確保でき、感応層との密着力が大きくなる。
よって、本発明によれば、触媒部と感応層との密着力を増大でき、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制することができる。
【0024】
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項5に記載のように、感応層の表面のうち触媒部が形成される触媒形成表面において、当該表面の全体のうち触媒部の粒子により覆われる領域の面積割合は、1.5〜93.0%の範囲内であるとよい。
【0025】
つまり、後述する評価結果(触媒部面積割合とガス応答感度「Rg/Ra」との関係について評価した評価結果[表2])によれば、感応層の触媒形成表面のうち触媒部により覆われる領域の面積割合(触媒部面積割合)が上記範囲内に規定されたガスセンサ素子は、上記範囲を逸脱するガスセンサ素子に比べて、ガス応答感度が良好となる。このようにガス応答感度が良好なガスセンサ素子は、経時的なガス応答感度の低下の影響を受けた場合においても、ガス検知の用途に支障を来すのを抑制することができる。
【0026】
したがって、本発明のガスセンサ素子によれば、時間経過に伴うガス応答感度の低下を抑制できることから、ガス応答感度の経時的な安定性に優れる。
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項6に記載のように、感応層の表面のうち触媒部が形成される触媒形成表面において、感応層を構成するSn元素と触媒部を構成するAu元素との原子数比であるAu/(Sn+Au)で示される表面添加率が、10%〜70%の範囲内であるように、構成してもよい。
【0027】
つまり、Au/(Sn+Au)で示される表面添加率が10%未満である場合には、感応層上に形成される触媒部の割合が小さく、酸化性ガスに対するガス応答感度が初期の段階では良好だが、経時的なガス応答感度の低下が生じ易い傾向にある。また、Au/(Sn+Au)で示される表面添加率が70%を超える場合には、感応層上に形成される触媒の割合が多く、酸化性ガスに対するガス応答感度が初期の段階から良好に得られ難い傾向にある。
【0028】
したがって、Au/(Sn+Au)で示される表面添加率の範囲を本発明の上記範囲に設定することで、初期状態およびその後の時間経過に伴うガス応答感度の低下が生じにくく、信頼性により優れるガスセンサ素子とすることができる。
【0029】
なお、上記表面添加率としては、ガスセンサ素子のガス応答感度の低下をより有効に抑制する観点から、20%〜60%の範囲内に設定されることが好ましい。
ここで、本発明において、表面添加率は、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られた原子数より求めるものとする。より具体的には、X線による表面分析装置(Quantera SXM, Physical Electronics社製)にて、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件でAlKα線(1486KeV)を用いて感応層上に存在する元素のうち測定対象とする各元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の[数1]に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求めた。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、Ciは、測定対象とする元素iの定量値(単位:atomic%)、Aiは、測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは、測定対象とする元素iの相対感度係数を示すものとする。
【0032】
また、上述のガスセンサ素子においては、請求項7に記載のように、絶縁基板は、シリコン基板と、シリコン基板の上に形成されると共に感応層を加熱するための発熱体を埋設した絶縁層と、を含み、シリコン基板のうち発熱体の直下に位置する部位に開口部が形成された構造をなしており、感応層は、発熱体の直上に位置するように絶縁層の上に形成されるように構成してもよい。
【0033】
このように、感応層を発熱体の直上に位置するように絶縁層の上に形成すると共に、絶縁層を積層してなるシリコン基板のうち発熱体の直下に位置する部位に開口部を形成することで、ガスセンサ素子の使用時に発熱体によって感応層を効率良く加熱することができる。発熱体によって感応層を効率良く加熱することで、感応層が良好にかつ早期に活性化されることになり、被測定ガス中の酸化性ガスを良好に検出することができる。
【0034】
次に、上記目的を達成するためになされた請求項8に記載の発明方法は、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子の製造方法であって、薄膜形成法によりSnO2 を主体とする感応層を絶縁基板の上に形成する感応層形成工程と、感応層形成工程の後、絶縁基板に対する加熱を行わない状態で、薄膜形成法によりAuを主体とする触媒部を形成する触媒部形成工程と、感応層および触媒部の形成後、酸素濃度が10ppm以下の雰囲気において感応層および触媒部に対する加熱処理を行い、複数の粒子からなる当該触媒部を当該感応層の上に形成する熱処理工程と、を有することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法である。
【0035】
このように感応層および触媒部の形成後に熱処理工程を行うことで、ガスセンサ素子の素子抵抗値の経時的安定性を向上できる。しかし、酸素濃度の高い雰囲気下で熱処理工程を行うと、酸素の影響を大きく受けることによりAuを主体とする触媒材料の凝集度合いが高まり、触媒部をなす粒子は径寸法が一様の立体形状(球形状)になりやすくなる。その結果、得られるガスセンサ素子における感応層と触媒部との密着力が低くなるため、感応層と触媒部との剥離が生じやすくなる。
【0036】
これに対して、熱処理工程において、上記のように酸素濃度を10ppm以下の低濃度に規定して感応層および触媒部に対する加熱処理を行うことで、酸素の影響が低減されるため、Auを主体とする触媒材料の凝集度合いを抑えることができ、径寸法が一様ではない立体形状の粒子を含む触媒部が良好に形成される。その結果、感応層と触媒部との密着力の低下を抑制したガスセンサ素子を効率良く得ることができる。
【0037】
また、感応層と触媒部との密着力低下を抑制することで、触媒部の剥離に起因する素子抵抗値の変化を抑制でき、ガス検知性能の低下を抑制することができる。
よって、本発明方法に係るガスセンサ素子の製造方法によれば、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層と触媒部との密着力低下を抑制できるガスセンサ素子を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に、本発明の実施形態について、図面と共に説明する。
実施形態として、被測定ガス中から酸化性ガス(特に、二酸化窒素(NO2 ))を検出するガスセンサ素子1について説明する。ガスセンサ素子1は、酸化性ガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する特性を有しており、電気抵抗値の変化に応じて酸化性ガスの濃度変化を検出する。
【0039】
図1に、ガスセンサ素子1の概略内部構造を表す断面図を示す。
ガスセンサ素子1は、図1に示すように、シリコン基板2(以下、単に「基板2」ともいう。)、絶縁層3、感応体4、発熱体5、一対の電極6を備えて構成されている。
【0040】
絶縁層3は、基板2の表裏面に形成されており、基板2に積層された酸化ケイ素(SiO2 )で構成される第1絶縁層31と、第1絶縁層31に積層された窒化ケイ素(Si3N4)で構成される第2絶縁層32とを備えている。また、基板2のうち感応体4が設けられる側に形成される絶縁層3は、第2絶縁層32に積層された酸化ケイ素(SiO2 )で構成される発熱体絶縁層33と、発熱体絶縁層33に積層された窒化ケイ素(Si3N4)で構成される感応体側絶縁層34と、を備えている。
【0041】
また、この基板2のうち感応体4が形成される側の反対側においては、基板2および絶縁層3を厚さ方向に貫く形態の空間部21が形成されており、ガスセンサ素子1は、ダイヤフラム構造をなしている。
【0042】
発熱体絶縁層33の内部には発熱体5が形成されており、発熱体5は、発熱体絶縁層33のうち空間部21に近い位置に形成されている。なお、図示は省略しているが、発熱体5には外部からの電力供給を受けるための発熱体用リード部が接続されており、この発熱体用リード部は、外部機器と接続するためのコンタクト部を有している。発熱体5および発熱体用リード部は、Pt層52とTa層51によって構成された2層構造である(図2参照)。また、上記した空間部21は、この発熱体5の直下に位置しており、感応体4は、発熱体5の直上に位置するように絶縁層3の上に形成されている。
【0043】
次に、図2に、ガスセンサ素子1のうち感応体4などに相当する部分の概略内部構造を表す断面図を示す。
図2に示すように、一対の電極6は、感応体側絶縁層34の表面のうち発熱体5の近傍に形成されている。なお、図2に示す複数の電極6は、互いに隣接するものどうしが一対の電極として備えられている。また、図示は省略するが、一対の電極6にはそれぞれ電極用リード部が接続され、電極用リード部は、外部機器と接続するための電極用コンタクト部を有している。
【0044】
また、電極6は、感応体側絶縁層34に積層され且つTiにより構成される下層電極61と、この下層電極61に積層され且つPtにより構成される上層電極62と、を有する。ここで、下層電極61の層厚寸法は、20[nm]であり、上層電極62の層厚寸法は、40[nm]である。
【0045】
感応体4は、一対の電極6に電気的に接続される状態で感応体側絶縁層34に積層されて形成されている。また、感応体4は、酸化スズ(SnO2 )を主体とする感応層41(感応層の全質量を100質量%とした場合に酸化スズが99質量%以上)と、金(Au)からなる触媒部42と、を備えて構成されている。また、感応体4の平面形状は、角部が丸みを帯びたアール形状の四角形である。
【0046】
触媒部42は、感応層41の表面のうち触媒形成表面46に接触する状態で分散して形成されており、Auからなる複数の粒子で構成される。なお、感応層41の触媒形成表面46は、感応層41の表面のうち感応体側絶縁層34に接する面とは反対側に位置する面である。
【0047】
図3に、ガスセンサ素子1のうち触媒部42および感応層41の形成部分を、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真を示す。なお、この反射電子像は、倍率を8万倍に設定し、加速電圧を5kVに設定した条件下で撮影した。図のうち、淡色部分(白色部分)の粒状物が触媒部42の粒子であり、濃色部分(黒色部分)が感応層41の表面である。
【0048】
図3に示すように、触媒部42は、感応層41を完全に覆うように全ての粒子が完全に密着した状態で構成されるのではなく、少なくとも一部に隙間を有する状態で粒子が配列されて形成されている。このため、感応層41は、表面のうち触媒部42が形成される触媒形成表面の少なくとも一部が触媒部42の隙間(粒子間の隙間)から露出した状態で形成される。
【0049】
なお、図2に示す断面図では、触媒部42における粒子間の隙間を省略しており、触媒部42を模式的に表している。
また、ガスセンサ素子1は、触媒部42を構成する粒子として、径寸法が一様の立体形状(球形状)の粒子や径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)の粒子が含まれており、触媒部42を構成する全ての粒子のうち、アスペクト比が2.0以上となる形状の粒子の割合は41%である(図5参照)。
【0050】
図4に、触媒部42を構成する粒子43の模式図を示すと共に、長径寸法および短径寸法の採寸位置について示す。まず、粒子43のうち最も長い寸法となる位置を長径寸法Lmaxと定め、その長径寸法方向に対して直交する方向における粒子の最大寸法を短径寸法Lminと定める。このようにして定められた長径寸法Lmaxおよび短径寸法Lminに基づいて、各粒子のアスペクト比が「Lmax/Lmin」で定められる。
【0051】
ここで、本実施形態の触媒部42の粒子について、0.1毎に境界値を設定してアスペクト比を11段階に分類して、触媒部42を構成する粒子のうち、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果を、図5に示す。なお、分析作業は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により撮影した反射電子像のSEM写真において100個の粒子が含まれる領域を任意に選択して、100個それぞれの粒子のアスペクト比を算出し、11段階のいずれに相当するのかを判定することにより実施した。
【0052】
アスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)ではなく、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)であり、このような楕円球形状の粒子は、球形状の粒子に比べて、感応層41との接触部分の面積が相対的に大きいことから、感応層41との密着状態が良好となる。そして、本実施形態の触媒部42は、アスペクト比が2.0以上となる粒子が全ての粒子のうちの41%を占めており、感応層41との密着性が良好となるため、感応層41からの剥離を抑制することができる。
【0053】
また、アスペクト比が1.1未満となる略球形状の粒子は、感応層41との接触部分の面積が比較的小さいため、感応層41との密着力が小さく剥離が生じやすいが、触媒部42は、このような略球形状の粒子の割合が6%であり、剥離が生じやすい粒子が少ないことがわかる。このため、触媒部42は、感応層41からの剥離が生じがたくなる。
【0054】
このように構成されたガスセンサ素子1は、電極用リード部に接続される外部機器などにより一対の電極6を介して感応体4の電気抵抗値が検出され、検出された電気抵抗値に基づいて酸化性ガスの濃度変化を検出する用途に用いることができる。
【0055】
なお、前述したように、本実施形態のガスセンサ素子1においては、触媒部42が感応層41の表面のうち触媒形成表面46に分散して形成されている。これは、感応層41の表面が触媒部42により完全に覆われてしまう状態でないことを意味する。このことは、X線光電子分光法(XPS)により上記構成のガスセンサ素子1の感応層41上における元素を測定(分析)したところ、Sn,Auが測定されたことにより確認できた(XPSによる測定については、前述の装置を用いつつ、前述の条件下で行うものとする)。
【0056】
そして、感応層41の表面のうち触媒部42が形成される触媒形成表面46において、感応層41を構成するSn元素と触媒部42を構成するAu元素との原子数比であるAu/(Sn+Au)で示される表面添加率が10%〜70%の範囲内を満たすものとなっており、本実施形態のガスセンサ素子1では、上記表面添加率が45%であった。
【0057】
次に、ガスセンサ素子1の製造方法について説明する。
まず、第1工程では、基板2となるシリコンウェハの洗浄工程を実行する。つまり、洗浄液中に基板2となるシリコンウェハを浸し、シリコンウェハ表面の洗浄処理を行う。
【0058】
第2工程では、第1絶縁層31となる酸化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、シリコンウェハ(基板2)を熱処理炉に入れ、熱酸化処理にて膜厚が100[nm]の酸化ケイ素膜を形成する。
【0059】
第3工程では、第2絶縁層32となる窒化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、基板2の表裏面に第2絶縁層32(層厚200[nm])となる窒化ケイ素膜を、LP−CVDにてSiH2Cl2,NH3 をソースガスとして形成する。
【0060】
第4工程では、発熱体絶縁層33のうち下部発熱体絶縁層331となる酸化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、基板2の一方の面に下部発熱体絶縁層331(層厚100[nm])となる酸化ケイ素膜を、プラズマCVDにてTEOS,O2 をソースガスとして形成する。
【0061】
第5工程では、発熱体5の形成工程を実行する。つまり、下部発熱体絶縁層331の表面に対して、DCスパッタ装置を用いて、Ta層51(層厚20[nm])を形成後、Pt層52(層厚220[nm])を形成する。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウェットエッチング処理でヒータ5(発熱体5)を形成する。
【0062】
第6工程では、発熱体絶縁層33のうち上部発熱体絶縁層332となる酸化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、下部発熱体絶縁層331の表面に上部発熱体絶縁層332(層厚100[nm])となる酸化ケイ素膜を、プラズマCVDにてTEOS,O2 をソースガスとして形成した。
【0063】
第7工程では、感応体側絶縁層34となる窒化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、発熱体絶縁層33の表面に感応体側絶縁層34(層厚200[nm])となる窒化ケイ素膜を、LP−CVDにてSiH2Cl2,NH3 をソースガスとして形成した。
【0064】
第8工程では、発熱体用リード部(ヒータコンタクト部)の形成工程を実行する。つまり、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、ドライエッチング法で発熱体絶縁層33(窒化ケイ素膜)と感応体側絶縁層34(酸化ケイ素膜)のエッチングを行い、図示しない発熱体用リード部(ヒータコンタクト部)を形成する。
【0065】
第9工程では、1対の電極6の形成工程を実行する。つまり、DCスパッタ装置を用いて、感応体側絶縁層34に対して下層電極61としてのTi層(層厚20[nm])を形成した後、上層電極62としてのPt層(層厚40[nm])を形成する。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウェットエッチング処理を行うことで、電極6を形成する。なお、このとき、電極6とともに、電極用リード部および電極用コンタクト部を形成する。
【0066】
第10工程では、電極用コンタクト部および発熱体用コンタクト部に接続されるコンタクトパッド(ボンディングパット)の形成工程を実行する。つまり、感応体側絶縁層34のうち電極6が形成された面に対して、DCスパッタ装置を用いて、Au層(層厚400[nm])を形成する。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウェットエッチング処理を行うことで、電極用コンタクト部および発熱体用コンタクト部に接続されるコンタクトパッド(ボンディングパット)を形成する。
【0067】
第11工程では、空間部21(ダイヤフラム)の形成工程を実行する。つまり、基板2のうち感応体4が形成される側の反対側に形成された第2絶縁層32の表面に対して、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、マスクとなる絶縁膜をドライエッチングし、第1絶縁層31などが形成された基板2をTMAH溶液中に浸し、シリコンの異方性エッチングを行い、空間部21(ダイヤフラム)を形成する。
【0068】
第12工程では、感応体4の形成工程を実行する。つまり、次のような工程を実行することで、感応体側絶縁層34の表面に感応体4を形成する。
まず、ターゲットとしてSnO2 を準備し、RFスパッタ装置を用いて、発熱体5および空間部21に対応する位置に、感応層41となる酸化スズ層(層厚200[nm])を2[nm/分]の速度にて形成する。このとき、第1絶縁層31などが形成された基板2を50〜400[℃]に加熱した状態で、感応層41を形成(スパッタリング)する。
【0069】
その後、DCスパッタ装置もしくはRFスパッタ装置のいずれかを用いて、感応層41が形成された基板2を加熱することなく、ターゲットとしての金(Au)を感応層41の表面に添加することにより、触媒部42を形成する。
【0070】
第13工程では、RFスパッタ装置もしくは熱処理炉装置を用いて、酸素濃度が10[ppm]以下の雰囲気下で、感応層41などが形成された基板2を、約3時間にわたり360[℃]に加熱することにより、熱処理を行う。なお、本実施形態においては、酸素濃度を0.2[ppm]に設定して熱処理工程を実施した。この熱処理工程を通して、触媒部42を構成する触媒材料(本実施形態ではAu)は適宜凝集され、触媒部42は、感応層41の表面を完全に覆うことなく点在する状態で感応層41の表面に形成される。なお、本実施形態では、詳細は後述するが、上記熱処理工程を低酸素雰囲気にて実施したことにより、Auを主体とする触媒材料の凝集度合いが抑えられ、径寸法が一様でない立体形状の粒子を含む触媒部42が良好に形成されることになる。
【0071】
また、本実施形態では、感応層41を構成するSn元素と触媒部42を構成するAu元素との原子数比である「Au/(Sn+Au)」で示される表面添加率が45%となるように、第12〜第13工程におけるスパッタ時間や熱処理条件を適宜調整した上で触媒部42を形成した。
【0072】
第14工程では、基板2の切断工程を実行する。つまり、感応体4などが形成された基板2を、ダイシングソーを用いて切断して、複数のガスセンサ素子1を切り出した。
以上の工程を実施することで製造された各ガスセンサ素子1は、Auワイヤなどを介して配線基板と接続され、その後大気中にて250℃で100時間にわたりエージング処理がなされ、最終的にガスセンサ素子1(あるいは、ガスセンサ素子1が備えられたガスセンサ)として完成される。
【0073】
次に、上記実施形態のガスセンサ素子1(以下、第1ガスセンサ素子ともいう)と、第13工程における酸素濃度を上記数値(0.2[ppm])とは異なる数値に設定して製造したガスセンサ素子との比較結果について説明する。
【0074】
第13工程における酸素濃度を5[ppm]に設定して製造したガスセンサ素子(以下、第2ガスセンサ素子ともいう)について、触媒部42および感応層41の形成部分を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真を、図6に示す。また、第13工程における酸素濃度を大気雰囲気の酸素濃度(約20[%]=約200000[ppm])に設定して製造したガスセンサ素子(以下、従来型ガスセンサ素子ともいう)について、触媒部42および感応層41の形成部分を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真を、図7に示す。
【0075】
なお、本実施形態では、これらの反射電子像は、倍率を8万倍に設定し、加速電圧を5kVに設定した条件下で撮影した。
図3、図6、図7に示す触媒部42の粒子の形状を比較すると、図3に示す第1ガスセンサ素子の粒子が最も角張った形状を示しており、図6に示す第2ガスセンサの粒子が次に角張った形状を示しており、図7に示す従来型ガスセンサ素子の粒子が最も丸みを帯びた形状を示している。
【0076】
次に、第2ガスセンサ素子および従来型ガスセンサ素子について、触媒部42を構成する粒子のアスペクト比に関して、図5に示したものと同様の分析作業を行い、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果を、図8および図9に示す。
【0077】
図5、図8、図9に示す分析結果に基づき、アスペクト比が2.0以上の粒子の割合について比較すると、第1ガスセンサ素子が約41%であり、第2ガスセンサ素子が約32.5%であるのに対して、従来型ガスセンサ素子については1%程度であり極めて低い値である。
【0078】
なお、アスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)ではなく、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)であり、球形状に比べて感応層との接触部分の面積が大きいことから、球形状の粒子に比べて、感応層との密着状態が良好となる。このため、アスペクト比が2.0以上の粒子を多く含む第1ガスセンサ素子や第2ガスセンサ素子は、従来型ガスセンサ素子に比べて、触媒部と感応層との密着性が向上するため、触媒部が感応層から剥離するのを抑制できる。
【0079】
また、アスペクト比が1.1以下の粒子の割合について比較すると、第1ガスセンサ素子が約6%であり、第2ガスセンサ素子が約2.5%であるのに対して、従来型ガスセンサ素子については約30%であり極めて大きい値である。なお、アスペクト比が1.1以下の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)に近似する形状であり、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)に比べて、感応層との接触部分の面積が小さくなることから、楕円球形状の粒子に比べて、感応層との密着力が低下する。
【0080】
このため、アスペクト比が1.1以下の粒子の割合が少ない第1ガスセンサ素子や第2ガスセンサ素子は、従来型ガスセンサ素子に比べて、感応層との密着力が低い粒子が少ないため、触媒部が感応層から剥離し難くなる。
【0081】
次に、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれについて、ガス応答感度と通電耐久時間との関係を評価した測定結果について説明する。
まず、ガス応答感度の評価においては、基準抵抗値Ra(ベースガスを流したときの素子抵抗値)と、検知ガス添加後抵抗値Rg(NO2 ガス1ppm添加時から5秒後の素子抵抗値)とを検出し、ガス応答感度を「Rg/Ra」と定義して、ガス応答感度を評価した。このとき、ベースガスとしては、O2 が20.9%、N2が残余であり、相対湿度が40%となるガスを用いた。また、ガス温度は25[℃]に設定し、ガスセンサ素子のヒータ温度は200[℃]に設定した。
【0082】
なお、ガス応答感度「Rg/Ra」は、その値が大きいほどガス検出速度が速いことを示すことから、その値が大きいほどガス応答感度が高く(良く)、その値が小さいほどガス応答感度が低い(悪い)と評価できる。
【0083】
そして、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれの通電耐久時間に対するガス応答感度「Rg/Ra」の測定結果を、図10に示す。
通電開始時点から300時間経過した時点までのガス応答感度「Rg/Ra」の変化量を比較すると、第1ガスセンサ素子は、ガス応答感度「Rg/Ra」がほぼ一定値(約3)を示しておりほとんど変化しておらず、第2ガスセンサ素子は、ガス応答感度「Rg/Ra」が約1.2低下しており、従来型ガスセンサ素子は、ガス応答感度「Rg/Ra」が約3.5低下している。この測定結果によれば、第1ガスセンサ素子および第2ガスセンサ素子は、従来型ガスセンサ素子に比べて、時間経過に伴うガス応答感度の低下量が小さく、経時的なガス応答感度の安定性が高いことが判る。とりわけ、第1ガスセンサ素子については、ガス応答感度がほぼ一定の値を示しており、経時的なガス応答感度の安定性が極めて優れていると判断できる。
【0084】
次に、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれについて、触媒部の剥離発生状態を比較する。
感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像について、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子をそれぞれ図11、図12、図13に示す。
【0085】
図11および図12によれば、第1ガスセンサ素子および第2ガスセンサ素子については、触媒部の剥離が生じていないことが判り、図13によれば、従来型ガスセンサ素子は、矢印で示す位置において触媒部の剥離が生じていることが判る。このことから、第13工程における酸素濃度が高い場合には、触媒部の剥離が生じやすく、酸素濃度を低く設定することにより触媒部の剥離を抑制できることが判る。
【0086】
ここで、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子の比較結果を[表1]にまとめる。
【0087】
【表1】
【0088】
従来型ガスセンサ素子は、触媒部の剥離が生じており、触媒部の粒子として密着性の低い球形状の粒子が多く、通電耐久性に劣ることから、総合評価が最も低い評価となる。これに対して、第1ガスセンサ素子および第2ガスセンサ素子は、触媒部の剥離が無く、触媒部の粒子形状が密着性の高い楕円球形状が多く、通電耐久性に優れることから、従来型ガスセンサ素子に比べて、総合評価が高い評価となる。とりわけ、第1ガスセンサ素子は、通電耐久性が特に優れており、総合評価が最も高い評価となる。
【0089】
次に、感応層41の触媒形成表面のうち触媒部42の粒子により覆われる領域の面積割合(触媒部面積割合)と、ガス応答感度「Rg/Ra」との関係について評価した評価結果について説明する。なお、感応層41の触媒形成表面とは、感応層41の表面のうち触媒部42が形成される表面である。
【0090】
本評価では、触媒部面積割合が異なる7種類のガスセンサ素子(試料番号1〜7)を用いた。なお、感応層の触媒部面積は、触媒部の形成工程において粒子の添加量を調整することにより任意の値に設定している。
【0091】
また、面積割合の算出は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により撮影した感応層および触媒部の反射電子像(倍率:8万倍、加速電圧:5kVの条件で撮影)のSEM写真において、触媒部の粒子が占有する領域の総面積(触媒部面積)を算出し、反射電子像の全体における触媒部面積の割合を算出するという算出手法を用いた。
【0092】
触媒部面積割合とガス応答感度「Rg/Ra」との関係について評価した評価結果を、[表2]に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
7種類のガスセンサ素子は、いずれもガス応答感度「Rg/Ra」が測定可能であることから、検知ガスに応じてセンサ出力できるものであり、少なくともガス検知の用途に使用可能であることが判る。
【0095】
そして、経時的なガス応答感度の低下の影響を受けた場合においても、ガス検知の用途に支障を来さないためには、ガス応答感度「Rg/Ra」が所定の正常検知範囲(例えば、1.6以上の範囲)であることが望ましい。このため、触媒部面積割合が1.5〜93.0[%]の範囲に設定されたガスセンサ素子は、ガス応答感度の経時的な安定性に優れたものとなる。
【0096】
なお、ガス応答感度をより高い値(例えば、1.8以上)に設定するには、触媒部面積割合を2.0〜90.0[%]の範囲に設定すればよく、さらにガス応答感度を高い値(例えば、2.0以上)に設定するには、触媒部面積割合を2.0〜75.0[%]の範囲に設定すればよい。
【0097】
以上説明したように、ガスセンサ素子1(第1ガスセンサ素子)は、触媒部42が複数の粒子で構成されると共に、触媒部42を構成する複数の粒子のうちアスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が少なくとも20%以上に規定されている。アスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)であり、球形状の粒子に比べて、感応層41との接触部分の面積が大きいことから、感応層41との密着状態が良好となる。このため、触媒部42を構成する粒子のうち少なくとも20%以上の粒子については、感応層41との密着性が向上するため、ガスセンサ素子1の触媒部42は、感応層41からの剥離を抑制できる。
【0098】
また、ガスセンサ素子1は、第13工程において感応層および触媒部に対する熱処理を行うことから、経時的な素子抵抗値の変動を抑制でき、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図ることができる。
【0099】
よって、本実施形態のガスセンサ素子1は、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層41と触媒部42との密着力低下を抑制できる。
また、ガスセンサ素子1においては、触媒部42を構成する粒子のうち、感応層41との密着力が低く、感応層41からの剥離が生じやすい粒子(アスペクト比が1.1未満となる粒子)の割合が低く抑えられている。このため、ガスセンサ素子1は、感応層41からの触媒部42の剥離を抑制でき、感応層41と触媒部42との密着力低下をより一層抑制できる。
【0100】
次に、ガスセンサ素子1は、図3に示す反射電子像から判るように、触媒部42を構成する粒子は、その表面の少なくとも一部を感応層41の外部に露出する状態で備えられている。このように、表面の少なくとも一部を感応層41の外部に露出する粒子は、感応層41の表面近傍における電子の授受に大きく寄与して、ガス検知性能の向上に寄与する。
【0101】
また、ガスセンサ素子1は、図3に示す反射電子像から判るように、触媒部42を構成する粒子のうち一部の粒子は、その外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状である。このように、外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状となる粒子は、その直線部分において感応層41と接触することで感応層41との接触部分を大きく確保でき、感応層41との密着力が大きくなる。
【0102】
そして、ガスセンサ素子1は、このような粒子を含む触媒部42を備えることから、触媒部42と感応層41との密着力を増大でき、感応層41と触媒部42との密着力低下をより一層抑制することができる。
【0103】
また、ガスセンサ素子1の製造工程においては、感応層41および触媒部42の形成後に熱処理工程を行うことで、ガスセンサ素子1の素子抵抗値の経時的安定性を向上できる。さらに、この熱処理工程において、上記のように酸素濃度を低濃度に規定して感応層41および触媒部42に対する加熱処理を行うことから、酸素の影響を低減でき、感応層41と触媒部42との密着力の低下を抑制できる。このように、感応層41と触媒部42との密着力低下を抑制することで、触媒部42の剥離に起因する素子抵抗値の変化を抑制でき、ガス検知性能の低下を抑制することができる。
【0104】
よって、本実施形態におけるガスセンサ素子の製造方法によれば、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層と触媒部との密着力低下を抑制できるガスセンサ素子を製造できる。
【0105】
なお、ガスセンサ素子1においては、基板2および絶縁層3からなる構造体が、特許請求の範囲における絶縁基板に相当しており、空間部21が開口部に相当している。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、種々の態様をとることができる。
【0106】
例えば、上記実施形態では、触媒部を構成する粒子が感応層の表面に存在して、感応層の内部には粒子が存在しない構成のガスセンサ素子について説明したが、触媒部を構成する粒子が感応層の内部にも一部存在する構成のガスセンサ素子に対して、本発明を適用することもできる。つまり、触媒部を構成する粒子が感応層の内部にも存在する構成であっても、少なくとも感応層の表面に触媒部を構成する粒子が存在する場合には、本発明を適用することで、感応層の表面に存在する粒子が感応層から剥離し難くなり、触媒部と感応層との密着力低下を抑制できる。
【0107】
また、上記実施形態においては、酸素濃度を0.2[ppm]に設定して熱処理工程を実施した第1ガスセンサ素子(ガスセンサ素子1)と、酸素濃度を5.0[ppm]に設定して熱処理工程を実施した第2ガスセンサ素子について説明したが、熱処理工程における酸素濃度は、上記数値に限定されることはない。
【0108】
つまり、熱処理工程における酸素濃度を10[ppm]以下に設定することで、感応層と触媒部との密着力低下を抑制できる。そして、感応層と触媒部との密着力をより高めるためには、酸素濃度をより低く設定することが望ましく、例えば、好ましくは5[ppm]以下、より好ましくは0.2[ppm]以下に酸素濃度を設定すると良い。
【0109】
また、熱処理工程における加熱温度は、360[℃]に限られることはなく、ガスセンサ素子の使用環境温度よりも一定温度(例えば、50[℃])以上高い温度に設定することで、素子抵抗の経時的な安定性を高めることができる。例えば、使用環境温度が250[℃]のガスセンサ素子においては、熱処理工程における加熱温度を300[℃]以上に設定することで、素子抵抗の経時的な安定性を向上できる。
【0110】
また、第12工程における感応層および触媒部の形成手法としては、スパッタによる形成手法に限られることはなく、公知の薄膜形成法、例えば、蒸着法を用いることもできる。
【0111】
また、触媒部を構成する粒子のうちアスペクト比が2.0以上となる粒子の割合は、より高い割合であることが望ましく、図8に示す第2ガスセンサ素子のように、アスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が30%以上となることで、感応層と触媒部との密着力低下をより抑制できる。さらに、図5に示す第1ガスセンサ素子のように、アスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が40%以上となることで、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制できる。
【0112】
また、触媒部を構成する粒子のうちアスペクト比が1.1以下となる粒子の割合は、より低い割合であることが望ましく、アスペクト比が1.1以下となる粒子の割合が5%以下となることで感応層と触媒部との密着力低下をより抑制できる。さらに、アスペクト比が1.1以下となる粒子の割合が3%以下となることで、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】ガスセンサ素子の概略内部構造を表す断面図である。
【図2】ガスセンサ素子のうち感応体などに相当する部分の概略内部構造を表す断面図をである。
【図3】第1ガスセンサ素子における触媒部および感応層の形成部分を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真である。
【図4】触媒部を構成する粒子の模式図である。
【図5】第1ガスセンサ素子における触媒部の粒子について、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果である。
【図6】第2ガスセンサ素子における触媒部および感応層の形成部分を走査型電子顕微鏡で撮影した反射電子像のSEM写真である。
【図7】従来型ガスセンサ素子における触媒部および感応層の形成部分を走査型電子顕微鏡で撮影した反射電子像のSEM写真である。
【図8】第2ガスセンサ素子における触媒部の粒子について、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果である。
【図9】従来型ガスセンサ素子における触媒部の粒子について、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果である。
【図10】第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれの通電耐久時間に対するガス応答感度「Rg/Ra」の測定結果である。
【図11】第1ガスセンサ素子における感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像である。
【図12】第2ガスセンサ素子における感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像である。
【図13】従来型ガスセンサ素子における感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像である。
【符号の説明】
【0114】
1…ガスセンサ素子、2…シリコン基板、3…絶縁層、4…感応体、5…ヒータ(発熱体)、21…空間部、41…感応層、42…触媒部、43…粒子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じてNOxなどの酸化性ガスの濃度変化を検出するガスセンサ素子が知られている(特許文献1)。ガスセンサ素子は、感応層の表面近傍における電子の授受による抵抗値の変化によって酸化性ガスのガス検知を行う。
【0003】
なお、ガスセンサ素子においては、経時的に素子抵抗の値が変動するという欠点があるが、そのような欠点を解消して素子抵抗の経時的な安定性を高めるために、水蒸気を含有する空気流中において350℃以上の温度で高温処理(熱処理)する技術が用いられる(特許文献2)。
【特許文献1】国際公開第2004/048957号パンフレット(請求の範囲1)
【特許文献2】特開平6−213853号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のガスセンサ素子においては、特許文献2に記載の高温処理を行うことにより素子抵抗の経時的な安定性の向上を図ることができるものの、高温処理時の条件によっては感応層と触媒部との密着力が低下する虞がある。
【0005】
なお、特許文献2に記載された技術は、触媒部を感応層に付与したガスセンサ素子を対象としておらず、感応層と触媒部との密着力の向上に着眼した高温処理については言及されていない。
【0006】
そして、このように感応層と触媒部との密着力が低下したガスセンサ素子においては、時間経過に伴い感応層からの触媒部の剥離が生じやすくなり、触媒部が剥離するとガスセンサ素子のガス応答感度が低下することから、ガスセンサ素子の耐久性が低下するという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明はこうした問題に鑑みなされたものであり、ガスセンサ素子を長期間にわたって使用した場合にも、感応層と触媒部との密着力低下が抑制されるガスセンサ素子およびそのようなガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子であって、感応層は、SnO2 を主体に構成され、触媒部は、Auを主体とする複数の粒子で構成され、触媒部を感応層上から観察したとき、複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が2.0以上となる粒子の割合は、20%以上であること、を特徴とするガスセンサ素子である。
【0009】
つまり、このガスセンサ素子は、触媒部が複数の粒子で構成されると共に、触媒部を構成する複数の粒子のうち20%以上の粒子の形状が特定されている。具体的には、触媒部を構成する粒子のうち、アスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が20%以上に規定されている。なお、アスペクト比は、触媒部をなす各粒子の長径寸法と短径寸法との比率であり、走査型電子顕微鏡にて感応層の表面上よりSEM写真を撮影し、その写真に基づいて粒子を観察すると共に、その粒子の長径寸法を粒子の短径寸法(換言すれば、長径寸法方向に対して直交する方向における粒子の最大寸法)で除算してアスペクト比を算出することができる。なお、走査型電子顕微鏡にて感応層の表面上よりSEM写真を撮影するにあたっては、触媒部を構成する複数個の粒子(好ましくは、100個程度の粒子)が含まれるように撮影倍率と撮影領域を任意に選択して撮影を行うものとする。
【0010】
このようにアスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)ではなく、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)である。そして、径寸法が一様ではない立体形状は、球形状に比べて、感応層との接触部分の面積が相対的に大きいことから、この粒子は、球形状の粒子に比べて、感応層との密着状態が良好となる。このため、触媒部を構成する粒子のうち少なくとも20%以上の粒子については、感応層との密着性が向上するため、感応層からの剥離を抑制できる。
【0011】
よって、本発明のガスセンサ素子は、感応層と触媒部との密着力低下を抑制でき、ガスセンサ素子の耐久性を向上できる。
なお、SnO2 を主体とする感応層とは、感応層を構成する成分のうち最も高い割合を占める成分がSnO2 である感応層を意味するものであり、Auを主体とする触媒部とは、触媒部を構成する成分のうち最も高い割合を占める成分がAuである触媒部を意味するものである。
【0012】
なお、本発明は、厚さ寸法が比較的厚い厚膜形状の感応層を備えるガスセンサ素子や厚さ寸法が薄い薄膜形状の感応層を備えるガスセンサ素子のいずれにも適用できる。そして、本発明は、薄膜形状の感応層を備えるガスセンサに適用することで、より一層その効果を発揮する。
【0013】
つまり、厚膜形状の感応層においては、その表面のみならず感応層の内部にも触媒部としての粒子が存在するが、このように内部に存在する粒子は感応層からの剥離が生じ難いことから、本発明を適用することで剥離が抑制できる粒子は、感応層の表面に存在する粒子であり、触媒部を構成する粒子の一部となる。
【0014】
これに対して、薄膜形状の感応層においては、その表面に触媒部としての粒子が略全て存在することから、本発明を適用することで、効果的に感応層と触媒部との密着力低下を抑制できる。
【0015】
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項2に記載のように、複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が1.1未満となる粒子の割合は、10%以下であるとよい。
【0016】
つまり、このガスセンサ素子は、触媒部が複数の粒子で構成されると共に、触媒部を構成する複数の粒子のうちアスペクト比が1.1未満となる粒子の割合が10%以下に規定されている。このようにアスペクト比が1.1未満の粒子は、径寸法が一様の球形状に近似する形状であり、楕円球形状に比べて感応層との接触部分の面積が相対的に小さいことから、感応層との密着力が低く、感応層からの剥離が生じやすい。
【0017】
そして、本発明のガスセンサ素子は、触媒部を構成する複数の粒子のうち、アスペクト比が1.1未満である粒子の割合が10%以下に制限されており、感応層から剥離しやすい触媒部の割合が低く設定されている。
【0018】
よって、本発明のガスセンサ素子は、感応層からの触媒部の剥離を抑制でき、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制できる。
ところで、触媒部を構成する粒子のうち、少なくとも一部が感応層の外部に露出した状態の粒子は、感応層の表面近傍における電子の授受に大きく寄与するためガス検知性能の向上に寄与するが、全表面を感応層に取り囲まれた状態の粒子は、感応層の表面近傍における電子の授受への寄与が少なくガス検知性能の向上に対する寄与が少ない。
【0019】
そこで、上述のガスセンサ素子においては、請求項3に記載のように、触媒部を構成する粒子は、その表面の少なくとも一部を感応層の外部に露出する状態で備えられ、感応層は、その表面の少なくとも一部が露出した状態で備えられるとよい。
【0020】
このように、触媒部を構成する粒子が、その表面の少なくとも一部を感応層の外部に露出する状態で備えられることで、触媒としての機能が一層発揮され、ガス検知性能の向上に寄与する。この結果、触媒機能の低下を防止できるため、ガス応答感度の低下を抑制できる。
【0021】
また、感応層の表面の少なくとも一部が露出した状態で備えられることから、触媒部によって感応層の表面が完全に覆われることが無いため、感応層の表面近傍における電子の授受が良好な状態で行われることになり、ガス検知性能の低下を抑制できる。
【0022】
よって、本発明のガスセンサ素子によれば、ガス応答感度の低下を抑制できると共に、ガス検知性能の低下を抑制できる。
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項4に記載のように、触媒部を構成する少なくとも一部の粒子は、その外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状であるとよい。
【0023】
このように、外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状となる粒子は、感応層との接触部分を大きく確保でき、感応層との密着力が大きくなる。
よって、本発明によれば、触媒部と感応層との密着力を増大でき、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制することができる。
【0024】
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項5に記載のように、感応層の表面のうち触媒部が形成される触媒形成表面において、当該表面の全体のうち触媒部の粒子により覆われる領域の面積割合は、1.5〜93.0%の範囲内であるとよい。
【0025】
つまり、後述する評価結果(触媒部面積割合とガス応答感度「Rg/Ra」との関係について評価した評価結果[表2])によれば、感応層の触媒形成表面のうち触媒部により覆われる領域の面積割合(触媒部面積割合)が上記範囲内に規定されたガスセンサ素子は、上記範囲を逸脱するガスセンサ素子に比べて、ガス応答感度が良好となる。このようにガス応答感度が良好なガスセンサ素子は、経時的なガス応答感度の低下の影響を受けた場合においても、ガス検知の用途に支障を来すのを抑制することができる。
【0026】
したがって、本発明のガスセンサ素子によれば、時間経過に伴うガス応答感度の低下を抑制できることから、ガス応答感度の経時的な安定性に優れる。
次に、上述のガスセンサ素子においては、請求項6に記載のように、感応層の表面のうち触媒部が形成される触媒形成表面において、感応層を構成するSn元素と触媒部を構成するAu元素との原子数比であるAu/(Sn+Au)で示される表面添加率が、10%〜70%の範囲内であるように、構成してもよい。
【0027】
つまり、Au/(Sn+Au)で示される表面添加率が10%未満である場合には、感応層上に形成される触媒部の割合が小さく、酸化性ガスに対するガス応答感度が初期の段階では良好だが、経時的なガス応答感度の低下が生じ易い傾向にある。また、Au/(Sn+Au)で示される表面添加率が70%を超える場合には、感応層上に形成される触媒の割合が多く、酸化性ガスに対するガス応答感度が初期の段階から良好に得られ難い傾向にある。
【0028】
したがって、Au/(Sn+Au)で示される表面添加率の範囲を本発明の上記範囲に設定することで、初期状態およびその後の時間経過に伴うガス応答感度の低下が生じにくく、信頼性により優れるガスセンサ素子とすることができる。
【0029】
なお、上記表面添加率としては、ガスセンサ素子のガス応答感度の低下をより有効に抑制する観点から、20%〜60%の範囲内に設定されることが好ましい。
ここで、本発明において、表面添加率は、X線光電子分光法(XPS)により測定し、得られた原子数より求めるものとする。より具体的には、X線による表面分析装置(Quantera SXM, Physical Electronics社製)にて、検出領域100μm中、検出深さ4〜5nm(取出角45°)の条件でAlKα線(1486KeV)を用いて感応層上に存在する元素のうち測定対象とする各元素の光電子ピーク面積をそれぞれ測定し、以下の[数1]に示す式によって測定対象とする各元素の原子数を定量(相対定量)し、定量された各元素の原子数を用いて上述した表面添加率を求めた。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、Ciは、測定対象とする元素iの定量値(単位:atomic%)、Aiは、測定対象とする元素iの光電子ピーク面積、RSFiは、測定対象とする元素iの相対感度係数を示すものとする。
【0032】
また、上述のガスセンサ素子においては、請求項7に記載のように、絶縁基板は、シリコン基板と、シリコン基板の上に形成されると共に感応層を加熱するための発熱体を埋設した絶縁層と、を含み、シリコン基板のうち発熱体の直下に位置する部位に開口部が形成された構造をなしており、感応層は、発熱体の直上に位置するように絶縁層の上に形成されるように構成してもよい。
【0033】
このように、感応層を発熱体の直上に位置するように絶縁層の上に形成すると共に、絶縁層を積層してなるシリコン基板のうち発熱体の直下に位置する部位に開口部を形成することで、ガスセンサ素子の使用時に発熱体によって感応層を効率良く加熱することができる。発熱体によって感応層を効率良く加熱することで、感応層が良好にかつ早期に活性化されることになり、被測定ガス中の酸化性ガスを良好に検出することができる。
【0034】
次に、上記目的を達成するためになされた請求項8に記載の発明方法は、絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子の製造方法であって、薄膜形成法によりSnO2 を主体とする感応層を絶縁基板の上に形成する感応層形成工程と、感応層形成工程の後、絶縁基板に対する加熱を行わない状態で、薄膜形成法によりAuを主体とする触媒部を形成する触媒部形成工程と、感応層および触媒部の形成後、酸素濃度が10ppm以下の雰囲気において感応層および触媒部に対する加熱処理を行い、複数の粒子からなる当該触媒部を当該感応層の上に形成する熱処理工程と、を有することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法である。
【0035】
このように感応層および触媒部の形成後に熱処理工程を行うことで、ガスセンサ素子の素子抵抗値の経時的安定性を向上できる。しかし、酸素濃度の高い雰囲気下で熱処理工程を行うと、酸素の影響を大きく受けることによりAuを主体とする触媒材料の凝集度合いが高まり、触媒部をなす粒子は径寸法が一様の立体形状(球形状)になりやすくなる。その結果、得られるガスセンサ素子における感応層と触媒部との密着力が低くなるため、感応層と触媒部との剥離が生じやすくなる。
【0036】
これに対して、熱処理工程において、上記のように酸素濃度を10ppm以下の低濃度に規定して感応層および触媒部に対する加熱処理を行うことで、酸素の影響が低減されるため、Auを主体とする触媒材料の凝集度合いを抑えることができ、径寸法が一様ではない立体形状の粒子を含む触媒部が良好に形成される。その結果、感応層と触媒部との密着力の低下を抑制したガスセンサ素子を効率良く得ることができる。
【0037】
また、感応層と触媒部との密着力低下を抑制することで、触媒部の剥離に起因する素子抵抗値の変化を抑制でき、ガス検知性能の低下を抑制することができる。
よって、本発明方法に係るガスセンサ素子の製造方法によれば、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層と触媒部との密着力低下を抑制できるガスセンサ素子を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に、本発明の実施形態について、図面と共に説明する。
実施形態として、被測定ガス中から酸化性ガス(特に、二酸化窒素(NO2 ))を検出するガスセンサ素子1について説明する。ガスセンサ素子1は、酸化性ガスの濃度に応じて電気抵抗値が変化する特性を有しており、電気抵抗値の変化に応じて酸化性ガスの濃度変化を検出する。
【0039】
図1に、ガスセンサ素子1の概略内部構造を表す断面図を示す。
ガスセンサ素子1は、図1に示すように、シリコン基板2(以下、単に「基板2」ともいう。)、絶縁層3、感応体4、発熱体5、一対の電極6を備えて構成されている。
【0040】
絶縁層3は、基板2の表裏面に形成されており、基板2に積層された酸化ケイ素(SiO2 )で構成される第1絶縁層31と、第1絶縁層31に積層された窒化ケイ素(Si3N4)で構成される第2絶縁層32とを備えている。また、基板2のうち感応体4が設けられる側に形成される絶縁層3は、第2絶縁層32に積層された酸化ケイ素(SiO2 )で構成される発熱体絶縁層33と、発熱体絶縁層33に積層された窒化ケイ素(Si3N4)で構成される感応体側絶縁層34と、を備えている。
【0041】
また、この基板2のうち感応体4が形成される側の反対側においては、基板2および絶縁層3を厚さ方向に貫く形態の空間部21が形成されており、ガスセンサ素子1は、ダイヤフラム構造をなしている。
【0042】
発熱体絶縁層33の内部には発熱体5が形成されており、発熱体5は、発熱体絶縁層33のうち空間部21に近い位置に形成されている。なお、図示は省略しているが、発熱体5には外部からの電力供給を受けるための発熱体用リード部が接続されており、この発熱体用リード部は、外部機器と接続するためのコンタクト部を有している。発熱体5および発熱体用リード部は、Pt層52とTa層51によって構成された2層構造である(図2参照)。また、上記した空間部21は、この発熱体5の直下に位置しており、感応体4は、発熱体5の直上に位置するように絶縁層3の上に形成されている。
【0043】
次に、図2に、ガスセンサ素子1のうち感応体4などに相当する部分の概略内部構造を表す断面図を示す。
図2に示すように、一対の電極6は、感応体側絶縁層34の表面のうち発熱体5の近傍に形成されている。なお、図2に示す複数の電極6は、互いに隣接するものどうしが一対の電極として備えられている。また、図示は省略するが、一対の電極6にはそれぞれ電極用リード部が接続され、電極用リード部は、外部機器と接続するための電極用コンタクト部を有している。
【0044】
また、電極6は、感応体側絶縁層34に積層され且つTiにより構成される下層電極61と、この下層電極61に積層され且つPtにより構成される上層電極62と、を有する。ここで、下層電極61の層厚寸法は、20[nm]であり、上層電極62の層厚寸法は、40[nm]である。
【0045】
感応体4は、一対の電極6に電気的に接続される状態で感応体側絶縁層34に積層されて形成されている。また、感応体4は、酸化スズ(SnO2 )を主体とする感応層41(感応層の全質量を100質量%とした場合に酸化スズが99質量%以上)と、金(Au)からなる触媒部42と、を備えて構成されている。また、感応体4の平面形状は、角部が丸みを帯びたアール形状の四角形である。
【0046】
触媒部42は、感応層41の表面のうち触媒形成表面46に接触する状態で分散して形成されており、Auからなる複数の粒子で構成される。なお、感応層41の触媒形成表面46は、感応層41の表面のうち感応体側絶縁層34に接する面とは反対側に位置する面である。
【0047】
図3に、ガスセンサ素子1のうち触媒部42および感応層41の形成部分を、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真を示す。なお、この反射電子像は、倍率を8万倍に設定し、加速電圧を5kVに設定した条件下で撮影した。図のうち、淡色部分(白色部分)の粒状物が触媒部42の粒子であり、濃色部分(黒色部分)が感応層41の表面である。
【0048】
図3に示すように、触媒部42は、感応層41を完全に覆うように全ての粒子が完全に密着した状態で構成されるのではなく、少なくとも一部に隙間を有する状態で粒子が配列されて形成されている。このため、感応層41は、表面のうち触媒部42が形成される触媒形成表面の少なくとも一部が触媒部42の隙間(粒子間の隙間)から露出した状態で形成される。
【0049】
なお、図2に示す断面図では、触媒部42における粒子間の隙間を省略しており、触媒部42を模式的に表している。
また、ガスセンサ素子1は、触媒部42を構成する粒子として、径寸法が一様の立体形状(球形状)の粒子や径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)の粒子が含まれており、触媒部42を構成する全ての粒子のうち、アスペクト比が2.0以上となる形状の粒子の割合は41%である(図5参照)。
【0050】
図4に、触媒部42を構成する粒子43の模式図を示すと共に、長径寸法および短径寸法の採寸位置について示す。まず、粒子43のうち最も長い寸法となる位置を長径寸法Lmaxと定め、その長径寸法方向に対して直交する方向における粒子の最大寸法を短径寸法Lminと定める。このようにして定められた長径寸法Lmaxおよび短径寸法Lminに基づいて、各粒子のアスペクト比が「Lmax/Lmin」で定められる。
【0051】
ここで、本実施形態の触媒部42の粒子について、0.1毎に境界値を設定してアスペクト比を11段階に分類して、触媒部42を構成する粒子のうち、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果を、図5に示す。なお、分析作業は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により撮影した反射電子像のSEM写真において100個の粒子が含まれる領域を任意に選択して、100個それぞれの粒子のアスペクト比を算出し、11段階のいずれに相当するのかを判定することにより実施した。
【0052】
アスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)ではなく、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)であり、このような楕円球形状の粒子は、球形状の粒子に比べて、感応層41との接触部分の面積が相対的に大きいことから、感応層41との密着状態が良好となる。そして、本実施形態の触媒部42は、アスペクト比が2.0以上となる粒子が全ての粒子のうちの41%を占めており、感応層41との密着性が良好となるため、感応層41からの剥離を抑制することができる。
【0053】
また、アスペクト比が1.1未満となる略球形状の粒子は、感応層41との接触部分の面積が比較的小さいため、感応層41との密着力が小さく剥離が生じやすいが、触媒部42は、このような略球形状の粒子の割合が6%であり、剥離が生じやすい粒子が少ないことがわかる。このため、触媒部42は、感応層41からの剥離が生じがたくなる。
【0054】
このように構成されたガスセンサ素子1は、電極用リード部に接続される外部機器などにより一対の電極6を介して感応体4の電気抵抗値が検出され、検出された電気抵抗値に基づいて酸化性ガスの濃度変化を検出する用途に用いることができる。
【0055】
なお、前述したように、本実施形態のガスセンサ素子1においては、触媒部42が感応層41の表面のうち触媒形成表面46に分散して形成されている。これは、感応層41の表面が触媒部42により完全に覆われてしまう状態でないことを意味する。このことは、X線光電子分光法(XPS)により上記構成のガスセンサ素子1の感応層41上における元素を測定(分析)したところ、Sn,Auが測定されたことにより確認できた(XPSによる測定については、前述の装置を用いつつ、前述の条件下で行うものとする)。
【0056】
そして、感応層41の表面のうち触媒部42が形成される触媒形成表面46において、感応層41を構成するSn元素と触媒部42を構成するAu元素との原子数比であるAu/(Sn+Au)で示される表面添加率が10%〜70%の範囲内を満たすものとなっており、本実施形態のガスセンサ素子1では、上記表面添加率が45%であった。
【0057】
次に、ガスセンサ素子1の製造方法について説明する。
まず、第1工程では、基板2となるシリコンウェハの洗浄工程を実行する。つまり、洗浄液中に基板2となるシリコンウェハを浸し、シリコンウェハ表面の洗浄処理を行う。
【0058】
第2工程では、第1絶縁層31となる酸化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、シリコンウェハ(基板2)を熱処理炉に入れ、熱酸化処理にて膜厚が100[nm]の酸化ケイ素膜を形成する。
【0059】
第3工程では、第2絶縁層32となる窒化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、基板2の表裏面に第2絶縁層32(層厚200[nm])となる窒化ケイ素膜を、LP−CVDにてSiH2Cl2,NH3 をソースガスとして形成する。
【0060】
第4工程では、発熱体絶縁層33のうち下部発熱体絶縁層331となる酸化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、基板2の一方の面に下部発熱体絶縁層331(層厚100[nm])となる酸化ケイ素膜を、プラズマCVDにてTEOS,O2 をソースガスとして形成する。
【0061】
第5工程では、発熱体5の形成工程を実行する。つまり、下部発熱体絶縁層331の表面に対して、DCスパッタ装置を用いて、Ta層51(層厚20[nm])を形成後、Pt層52(層厚220[nm])を形成する。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウェットエッチング処理でヒータ5(発熱体5)を形成する。
【0062】
第6工程では、発熱体絶縁層33のうち上部発熱体絶縁層332となる酸化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、下部発熱体絶縁層331の表面に上部発熱体絶縁層332(層厚100[nm])となる酸化ケイ素膜を、プラズマCVDにてTEOS,O2 をソースガスとして形成した。
【0063】
第7工程では、感応体側絶縁層34となる窒化ケイ素膜形成工程を実行する。つまり、発熱体絶縁層33の表面に感応体側絶縁層34(層厚200[nm])となる窒化ケイ素膜を、LP−CVDにてSiH2Cl2,NH3 をソースガスとして形成した。
【0064】
第8工程では、発熱体用リード部(ヒータコンタクト部)の形成工程を実行する。つまり、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、ドライエッチング法で発熱体絶縁層33(窒化ケイ素膜)と感応体側絶縁層34(酸化ケイ素膜)のエッチングを行い、図示しない発熱体用リード部(ヒータコンタクト部)を形成する。
【0065】
第9工程では、1対の電極6の形成工程を実行する。つまり、DCスパッタ装置を用いて、感応体側絶縁層34に対して下層電極61としてのTi層(層厚20[nm])を形成した後、上層電極62としてのPt層(層厚40[nm])を形成する。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウェットエッチング処理を行うことで、電極6を形成する。なお、このとき、電極6とともに、電極用リード部および電極用コンタクト部を形成する。
【0066】
第10工程では、電極用コンタクト部および発熱体用コンタクト部に接続されるコンタクトパッド(ボンディングパット)の形成工程を実行する。つまり、感応体側絶縁層34のうち電極6が形成された面に対して、DCスパッタ装置を用いて、Au層(層厚400[nm])を形成する。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウェットエッチング処理を行うことで、電極用コンタクト部および発熱体用コンタクト部に接続されるコンタクトパッド(ボンディングパット)を形成する。
【0067】
第11工程では、空間部21(ダイヤフラム)の形成工程を実行する。つまり、基板2のうち感応体4が形成される側の反対側に形成された第2絶縁層32の表面に対して、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、マスクとなる絶縁膜をドライエッチングし、第1絶縁層31などが形成された基板2をTMAH溶液中に浸し、シリコンの異方性エッチングを行い、空間部21(ダイヤフラム)を形成する。
【0068】
第12工程では、感応体4の形成工程を実行する。つまり、次のような工程を実行することで、感応体側絶縁層34の表面に感応体4を形成する。
まず、ターゲットとしてSnO2 を準備し、RFスパッタ装置を用いて、発熱体5および空間部21に対応する位置に、感応層41となる酸化スズ層(層厚200[nm])を2[nm/分]の速度にて形成する。このとき、第1絶縁層31などが形成された基板2を50〜400[℃]に加熱した状態で、感応層41を形成(スパッタリング)する。
【0069】
その後、DCスパッタ装置もしくはRFスパッタ装置のいずれかを用いて、感応層41が形成された基板2を加熱することなく、ターゲットとしての金(Au)を感応層41の表面に添加することにより、触媒部42を形成する。
【0070】
第13工程では、RFスパッタ装置もしくは熱処理炉装置を用いて、酸素濃度が10[ppm]以下の雰囲気下で、感応層41などが形成された基板2を、約3時間にわたり360[℃]に加熱することにより、熱処理を行う。なお、本実施形態においては、酸素濃度を0.2[ppm]に設定して熱処理工程を実施した。この熱処理工程を通して、触媒部42を構成する触媒材料(本実施形態ではAu)は適宜凝集され、触媒部42は、感応層41の表面を完全に覆うことなく点在する状態で感応層41の表面に形成される。なお、本実施形態では、詳細は後述するが、上記熱処理工程を低酸素雰囲気にて実施したことにより、Auを主体とする触媒材料の凝集度合いが抑えられ、径寸法が一様でない立体形状の粒子を含む触媒部42が良好に形成されることになる。
【0071】
また、本実施形態では、感応層41を構成するSn元素と触媒部42を構成するAu元素との原子数比である「Au/(Sn+Au)」で示される表面添加率が45%となるように、第12〜第13工程におけるスパッタ時間や熱処理条件を適宜調整した上で触媒部42を形成した。
【0072】
第14工程では、基板2の切断工程を実行する。つまり、感応体4などが形成された基板2を、ダイシングソーを用いて切断して、複数のガスセンサ素子1を切り出した。
以上の工程を実施することで製造された各ガスセンサ素子1は、Auワイヤなどを介して配線基板と接続され、その後大気中にて250℃で100時間にわたりエージング処理がなされ、最終的にガスセンサ素子1(あるいは、ガスセンサ素子1が備えられたガスセンサ)として完成される。
【0073】
次に、上記実施形態のガスセンサ素子1(以下、第1ガスセンサ素子ともいう)と、第13工程における酸素濃度を上記数値(0.2[ppm])とは異なる数値に設定して製造したガスセンサ素子との比較結果について説明する。
【0074】
第13工程における酸素濃度を5[ppm]に設定して製造したガスセンサ素子(以下、第2ガスセンサ素子ともいう)について、触媒部42および感応層41の形成部分を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真を、図6に示す。また、第13工程における酸素濃度を大気雰囲気の酸素濃度(約20[%]=約200000[ppm])に設定して製造したガスセンサ素子(以下、従来型ガスセンサ素子ともいう)について、触媒部42および感応層41の形成部分を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真を、図7に示す。
【0075】
なお、本実施形態では、これらの反射電子像は、倍率を8万倍に設定し、加速電圧を5kVに設定した条件下で撮影した。
図3、図6、図7に示す触媒部42の粒子の形状を比較すると、図3に示す第1ガスセンサ素子の粒子が最も角張った形状を示しており、図6に示す第2ガスセンサの粒子が次に角張った形状を示しており、図7に示す従来型ガスセンサ素子の粒子が最も丸みを帯びた形状を示している。
【0076】
次に、第2ガスセンサ素子および従来型ガスセンサ素子について、触媒部42を構成する粒子のアスペクト比に関して、図5に示したものと同様の分析作業を行い、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果を、図8および図9に示す。
【0077】
図5、図8、図9に示す分析結果に基づき、アスペクト比が2.0以上の粒子の割合について比較すると、第1ガスセンサ素子が約41%であり、第2ガスセンサ素子が約32.5%であるのに対して、従来型ガスセンサ素子については1%程度であり極めて低い値である。
【0078】
なお、アスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)ではなく、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)であり、球形状に比べて感応層との接触部分の面積が大きいことから、球形状の粒子に比べて、感応層との密着状態が良好となる。このため、アスペクト比が2.0以上の粒子を多く含む第1ガスセンサ素子や第2ガスセンサ素子は、従来型ガスセンサ素子に比べて、触媒部と感応層との密着性が向上するため、触媒部が感応層から剥離するのを抑制できる。
【0079】
また、アスペクト比が1.1以下の粒子の割合について比較すると、第1ガスセンサ素子が約6%であり、第2ガスセンサ素子が約2.5%であるのに対して、従来型ガスセンサ素子については約30%であり極めて大きい値である。なお、アスペクト比が1.1以下の粒子は、径寸法が一様の立体形状(球形状)に近似する形状であり、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)に比べて、感応層との接触部分の面積が小さくなることから、楕円球形状の粒子に比べて、感応層との密着力が低下する。
【0080】
このため、アスペクト比が1.1以下の粒子の割合が少ない第1ガスセンサ素子や第2ガスセンサ素子は、従来型ガスセンサ素子に比べて、感応層との密着力が低い粒子が少ないため、触媒部が感応層から剥離し難くなる。
【0081】
次に、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれについて、ガス応答感度と通電耐久時間との関係を評価した測定結果について説明する。
まず、ガス応答感度の評価においては、基準抵抗値Ra(ベースガスを流したときの素子抵抗値)と、検知ガス添加後抵抗値Rg(NO2 ガス1ppm添加時から5秒後の素子抵抗値)とを検出し、ガス応答感度を「Rg/Ra」と定義して、ガス応答感度を評価した。このとき、ベースガスとしては、O2 が20.9%、N2が残余であり、相対湿度が40%となるガスを用いた。また、ガス温度は25[℃]に設定し、ガスセンサ素子のヒータ温度は200[℃]に設定した。
【0082】
なお、ガス応答感度「Rg/Ra」は、その値が大きいほどガス検出速度が速いことを示すことから、その値が大きいほどガス応答感度が高く(良く)、その値が小さいほどガス応答感度が低い(悪い)と評価できる。
【0083】
そして、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれの通電耐久時間に対するガス応答感度「Rg/Ra」の測定結果を、図10に示す。
通電開始時点から300時間経過した時点までのガス応答感度「Rg/Ra」の変化量を比較すると、第1ガスセンサ素子は、ガス応答感度「Rg/Ra」がほぼ一定値(約3)を示しておりほとんど変化しておらず、第2ガスセンサ素子は、ガス応答感度「Rg/Ra」が約1.2低下しており、従来型ガスセンサ素子は、ガス応答感度「Rg/Ra」が約3.5低下している。この測定結果によれば、第1ガスセンサ素子および第2ガスセンサ素子は、従来型ガスセンサ素子に比べて、時間経過に伴うガス応答感度の低下量が小さく、経時的なガス応答感度の安定性が高いことが判る。とりわけ、第1ガスセンサ素子については、ガス応答感度がほぼ一定の値を示しており、経時的なガス応答感度の安定性が極めて優れていると判断できる。
【0084】
次に、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれについて、触媒部の剥離発生状態を比較する。
感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像について、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子をそれぞれ図11、図12、図13に示す。
【0085】
図11および図12によれば、第1ガスセンサ素子および第2ガスセンサ素子については、触媒部の剥離が生じていないことが判り、図13によれば、従来型ガスセンサ素子は、矢印で示す位置において触媒部の剥離が生じていることが判る。このことから、第13工程における酸素濃度が高い場合には、触媒部の剥離が生じやすく、酸素濃度を低く設定することにより触媒部の剥離を抑制できることが判る。
【0086】
ここで、第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子の比較結果を[表1]にまとめる。
【0087】
【表1】
【0088】
従来型ガスセンサ素子は、触媒部の剥離が生じており、触媒部の粒子として密着性の低い球形状の粒子が多く、通電耐久性に劣ることから、総合評価が最も低い評価となる。これに対して、第1ガスセンサ素子および第2ガスセンサ素子は、触媒部の剥離が無く、触媒部の粒子形状が密着性の高い楕円球形状が多く、通電耐久性に優れることから、従来型ガスセンサ素子に比べて、総合評価が高い評価となる。とりわけ、第1ガスセンサ素子は、通電耐久性が特に優れており、総合評価が最も高い評価となる。
【0089】
次に、感応層41の触媒形成表面のうち触媒部42の粒子により覆われる領域の面積割合(触媒部面積割合)と、ガス応答感度「Rg/Ra」との関係について評価した評価結果について説明する。なお、感応層41の触媒形成表面とは、感応層41の表面のうち触媒部42が形成される表面である。
【0090】
本評価では、触媒部面積割合が異なる7種類のガスセンサ素子(試料番号1〜7)を用いた。なお、感応層の触媒部面積は、触媒部の形成工程において粒子の添加量を調整することにより任意の値に設定している。
【0091】
また、面積割合の算出は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により撮影した感応層および触媒部の反射電子像(倍率:8万倍、加速電圧:5kVの条件で撮影)のSEM写真において、触媒部の粒子が占有する領域の総面積(触媒部面積)を算出し、反射電子像の全体における触媒部面積の割合を算出するという算出手法を用いた。
【0092】
触媒部面積割合とガス応答感度「Rg/Ra」との関係について評価した評価結果を、[表2]に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
7種類のガスセンサ素子は、いずれもガス応答感度「Rg/Ra」が測定可能であることから、検知ガスに応じてセンサ出力できるものであり、少なくともガス検知の用途に使用可能であることが判る。
【0095】
そして、経時的なガス応答感度の低下の影響を受けた場合においても、ガス検知の用途に支障を来さないためには、ガス応答感度「Rg/Ra」が所定の正常検知範囲(例えば、1.6以上の範囲)であることが望ましい。このため、触媒部面積割合が1.5〜93.0[%]の範囲に設定されたガスセンサ素子は、ガス応答感度の経時的な安定性に優れたものとなる。
【0096】
なお、ガス応答感度をより高い値(例えば、1.8以上)に設定するには、触媒部面積割合を2.0〜90.0[%]の範囲に設定すればよく、さらにガス応答感度を高い値(例えば、2.0以上)に設定するには、触媒部面積割合を2.0〜75.0[%]の範囲に設定すればよい。
【0097】
以上説明したように、ガスセンサ素子1(第1ガスセンサ素子)は、触媒部42が複数の粒子で構成されると共に、触媒部42を構成する複数の粒子のうちアスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が少なくとも20%以上に規定されている。アスペクト比が2.0以上の粒子は、径寸法が一様ではない立体形状(楕円球形状など)であり、球形状の粒子に比べて、感応層41との接触部分の面積が大きいことから、感応層41との密着状態が良好となる。このため、触媒部42を構成する粒子のうち少なくとも20%以上の粒子については、感応層41との密着性が向上するため、ガスセンサ素子1の触媒部42は、感応層41からの剥離を抑制できる。
【0098】
また、ガスセンサ素子1は、第13工程において感応層および触媒部に対する熱処理を行うことから、経時的な素子抵抗値の変動を抑制でき、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図ることができる。
【0099】
よって、本実施形態のガスセンサ素子1は、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層41と触媒部42との密着力低下を抑制できる。
また、ガスセンサ素子1においては、触媒部42を構成する粒子のうち、感応層41との密着力が低く、感応層41からの剥離が生じやすい粒子(アスペクト比が1.1未満となる粒子)の割合が低く抑えられている。このため、ガスセンサ素子1は、感応層41からの触媒部42の剥離を抑制でき、感応層41と触媒部42との密着力低下をより一層抑制できる。
【0100】
次に、ガスセンサ素子1は、図3に示す反射電子像から判るように、触媒部42を構成する粒子は、その表面の少なくとも一部を感応層41の外部に露出する状態で備えられている。このように、表面の少なくとも一部を感応層41の外部に露出する粒子は、感応層41の表面近傍における電子の授受に大きく寄与して、ガス検知性能の向上に寄与する。
【0101】
また、ガスセンサ素子1は、図3に示す反射電子像から判るように、触媒部42を構成する粒子のうち一部の粒子は、その外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状である。このように、外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状となる粒子は、その直線部分において感応層41と接触することで感応層41との接触部分を大きく確保でき、感応層41との密着力が大きくなる。
【0102】
そして、ガスセンサ素子1は、このような粒子を含む触媒部42を備えることから、触媒部42と感応層41との密着力を増大でき、感応層41と触媒部42との密着力低下をより一層抑制することができる。
【0103】
また、ガスセンサ素子1の製造工程においては、感応層41および触媒部42の形成後に熱処理工程を行うことで、ガスセンサ素子1の素子抵抗値の経時的安定性を向上できる。さらに、この熱処理工程において、上記のように酸素濃度を低濃度に規定して感応層41および触媒部42に対する加熱処理を行うことから、酸素の影響を低減でき、感応層41と触媒部42との密着力の低下を抑制できる。このように、感応層41と触媒部42との密着力低下を抑制することで、触媒部42の剥離に起因する素子抵抗値の変化を抑制でき、ガス検知性能の低下を抑制することができる。
【0104】
よって、本実施形態におけるガスセンサ素子の製造方法によれば、素子抵抗の経時的な安定性の向上を図りつつ、感応層と触媒部との密着力低下を抑制できるガスセンサ素子を製造できる。
【0105】
なお、ガスセンサ素子1においては、基板2および絶縁層3からなる構造体が、特許請求の範囲における絶縁基板に相当しており、空間部21が開口部に相当している。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、種々の態様をとることができる。
【0106】
例えば、上記実施形態では、触媒部を構成する粒子が感応層の表面に存在して、感応層の内部には粒子が存在しない構成のガスセンサ素子について説明したが、触媒部を構成する粒子が感応層の内部にも一部存在する構成のガスセンサ素子に対して、本発明を適用することもできる。つまり、触媒部を構成する粒子が感応層の内部にも存在する構成であっても、少なくとも感応層の表面に触媒部を構成する粒子が存在する場合には、本発明を適用することで、感応層の表面に存在する粒子が感応層から剥離し難くなり、触媒部と感応層との密着力低下を抑制できる。
【0107】
また、上記実施形態においては、酸素濃度を0.2[ppm]に設定して熱処理工程を実施した第1ガスセンサ素子(ガスセンサ素子1)と、酸素濃度を5.0[ppm]に設定して熱処理工程を実施した第2ガスセンサ素子について説明したが、熱処理工程における酸素濃度は、上記数値に限定されることはない。
【0108】
つまり、熱処理工程における酸素濃度を10[ppm]以下に設定することで、感応層と触媒部との密着力低下を抑制できる。そして、感応層と触媒部との密着力をより高めるためには、酸素濃度をより低く設定することが望ましく、例えば、好ましくは5[ppm]以下、より好ましくは0.2[ppm]以下に酸素濃度を設定すると良い。
【0109】
また、熱処理工程における加熱温度は、360[℃]に限られることはなく、ガスセンサ素子の使用環境温度よりも一定温度(例えば、50[℃])以上高い温度に設定することで、素子抵抗の経時的な安定性を高めることができる。例えば、使用環境温度が250[℃]のガスセンサ素子においては、熱処理工程における加熱温度を300[℃]以上に設定することで、素子抵抗の経時的な安定性を向上できる。
【0110】
また、第12工程における感応層および触媒部の形成手法としては、スパッタによる形成手法に限られることはなく、公知の薄膜形成法、例えば、蒸着法を用いることもできる。
【0111】
また、触媒部を構成する粒子のうちアスペクト比が2.0以上となる粒子の割合は、より高い割合であることが望ましく、図8に示す第2ガスセンサ素子のように、アスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が30%以上となることで、感応層と触媒部との密着力低下をより抑制できる。さらに、図5に示す第1ガスセンサ素子のように、アスペクト比が2.0以上となる粒子の割合が40%以上となることで、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制できる。
【0112】
また、触媒部を構成する粒子のうちアスペクト比が1.1以下となる粒子の割合は、より低い割合であることが望ましく、アスペクト比が1.1以下となる粒子の割合が5%以下となることで感応層と触媒部との密着力低下をより抑制できる。さらに、アスペクト比が1.1以下となる粒子の割合が3%以下となることで、感応層と触媒部との密着力低下をより一層抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】ガスセンサ素子の概略内部構造を表す断面図である。
【図2】ガスセンサ素子のうち感応体などに相当する部分の概略内部構造を表す断面図をである。
【図3】第1ガスセンサ素子における触媒部および感応層の形成部分を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で撮影した反射電子像のSEM写真である。
【図4】触媒部を構成する粒子の模式図である。
【図5】第1ガスセンサ素子における触媒部の粒子について、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果である。
【図6】第2ガスセンサ素子における触媒部および感応層の形成部分を走査型電子顕微鏡で撮影した反射電子像のSEM写真である。
【図7】従来型ガスセンサ素子における触媒部および感応層の形成部分を走査型電子顕微鏡で撮影した反射電子像のSEM写真である。
【図8】第2ガスセンサ素子における触媒部の粒子について、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果である。
【図9】従来型ガスセンサ素子における触媒部の粒子について、各段階のアスペクト比に相当する粒子の割合を分析した分析結果である。
【図10】第1ガスセンサ素子、第2ガスセンサ素子、従来型ガスセンサ素子のそれぞれの通電耐久時間に対するガス応答感度「Rg/Ra」の測定結果である。
【図11】第1ガスセンサ素子における感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像である。
【図12】第2ガスセンサ素子における感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像である。
【図13】従来型ガスセンサ素子における感応層および触媒部の一部を光学顕微鏡を用いて撮影した画像である。
【符号の説明】
【0114】
1…ガスセンサ素子、2…シリコン基板、3…絶縁層、4…感応体、5…ヒータ(発熱体)、21…空間部、41…感応層、42…触媒部、43…粒子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、前記感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、前記感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子であって、
前記感応層は、SnO2 を主体に構成され、
前記触媒部は、Auを主体とする複数の粒子で構成され、
前記触媒部を前記感応層上から観察したとき、前記複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が2.0以上となる前記粒子の割合は、20%以上であること、
を特徴とするガスセンサ素子。
【請求項2】
前記複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が1.1未満となる前記粒子の割合は、10%以下であること、
を特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記触媒部を構成する前記粒子は、その表面の少なくとも一部を前記感応層の外部に露出する状態で備えられ、
前記感応層は、その表面の少なくとも一部が露出した状態で備えられること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記触媒部を構成する少なくとも一部の前記粒子は、その外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状であること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記感応層の表面のうち前記触媒部が形成される触媒形成表面において、当該表面の全体のうち前記触媒部の前記粒子により覆われる領域の面積割合は、1.5〜93.0%の範囲内であること、
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記感応層の表面のうち前記触媒部が形成される触媒形成表面において、前記感応層を構成するSn元素と前記触媒部を構成するAu元素との原子数比であるAu/(Sn+Au)で示される表面添加率が、10%〜70%の範囲内であること、
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記絶縁基板は、シリコン基板と、前記シリコン基板の上に形成されると共に前記感応層を加熱するための発熱体を埋設した絶縁層と、を含み、前記シリコン基板のうち前記発熱体の直下に位置する部位に開口部が形成された構造をなしており、
前記感応層は、前記発熱体の直上に位置するように前記絶縁層の上に形成されていること、
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、前記感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、前記感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子の製造方法であって、
薄膜形成法によりSnO2 を主体とする前記感応層を前記絶縁基板の上に形成する感応層形成工程と、
前記感応層形成工程の後、前記絶縁基板に対する加熱を行わない状態で、薄膜形成法によりAuを主体とする前記触媒部を形成する触媒部形成工程と、
前記感応層および前記触媒部の形成後、酸素濃度が10ppm以下の雰囲気において前記感応層および前記触媒部に対する加熱処理を行い、複数の粒子からなる当該触媒部を当該感応層の上に形成する熱処理工程と、
を有することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項1】
絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、前記感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、前記感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子であって、
前記感応層は、SnO2 を主体に構成され、
前記触媒部は、Auを主体とする複数の粒子で構成され、
前記触媒部を前記感応層上から観察したとき、前記複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が2.0以上となる前記粒子の割合は、20%以上であること、
を特徴とするガスセンサ素子。
【請求項2】
前記複数の粒子のうち、長径寸法を短径寸法で除算したアスペクト比が1.1未満となる前記粒子の割合は、10%以下であること、
を特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記触媒部を構成する前記粒子は、その表面の少なくとも一部を前記感応層の外部に露出する状態で備えられ、
前記感応層は、その表面の少なくとも一部が露出した状態で備えられること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記触媒部を構成する少なくとも一部の前記粒子は、その外面の少なくとも一部に直線部分を含む形状であること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記感応層の表面のうち前記触媒部が形成される触媒形成表面において、当該表面の全体のうち前記触媒部の前記粒子により覆われる領域の面積割合は、1.5〜93.0%の範囲内であること、
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記感応層の表面のうち前記触媒部が形成される触媒形成表面において、前記感応層を構成するSn元素と前記触媒部を構成するAu元素との原子数比であるAu/(Sn+Au)で示される表面添加率が、10%〜70%の範囲内であること、
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記絶縁基板は、シリコン基板と、前記シリコン基板の上に形成されると共に前記感応層を加熱するための発熱体を埋設した絶縁層と、を含み、前記シリコン基板のうち前記発熱体の直下に位置する部位に開口部が形成された構造をなしており、
前記感応層は、前記発熱体の直上に位置するように前記絶縁層の上に形成されていること、
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
絶縁基板上に積層された金属酸化物半導体からなる感応層と、前記感応層に接触する貴金属からなる触媒部と、を備え、前記感応層の抵抗値変化に応じて酸化性ガスを検出するガスセンサ素子の製造方法であって、
薄膜形成法によりSnO2 を主体とする前記感応層を前記絶縁基板の上に形成する感応層形成工程と、
前記感応層形成工程の後、前記絶縁基板に対する加熱を行わない状態で、薄膜形成法によりAuを主体とする前記触媒部を形成する触媒部形成工程と、
前記感応層および前記触媒部の形成後、酸素濃度が10ppm以下の雰囲気において前記感応層および前記触媒部に対する加熱処理を行い、複数の粒子からなる当該触媒部を当該感応層の上に形成する熱処理工程と、
を有することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−33431(P2007−33431A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3692(P2006−3692)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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