説明

ガスセンサ素子及びガスセンサ

【課題】良好な多孔質保護層を形成することができ、従来に比べてライトオフタイムの短縮と信頼性の向上を図ることのできるガスセンサ素子及びその製造方法並びにガスセンサを提供する。
【解決手段】積層体Aの先端側からスプレー装置701によってスプレーし、次に積層体Aを回転させつつ側方からスプレーして積層体Aに多孔質保護層をとなるコート液(セラミック原料粉末を揮発性溶媒中に分散させたもの)を被着させ、この後、熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガス中の特定ガス成分の濃度を検出するためのガスセンサ素子及びその製造方法並びにガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車から排出される排気ガス等の被測定ガス中の特定ガス成分の濃度に応じて電気的特性が変化するガスセンサ素子を備えたガスセンサが知られている。このガスセンサ素子では、排気ガス中の酸素等の濃度を検出して外部に出力する板状のガスセンサ素子本体を備えている。このガスセンサ素子本体は、例えば、ジルコニアを主体とする固体電解質基材により構成されている。また、この固体電解質基材は、温度が低いと活性化しないため、ガスセンサ素子本体に、これを加熱するための板状のヒータを積層し、全体として板状の形状を有する積層型の積層体が知られている。なお、ヒータは、例えば、アルミナを主体としたセラミック基板(絶縁層)と発熱抵抗体とから形成される。
【0003】
さらに、上記のガスセンサ素子では、排気ガス中の水滴が付着した場合等におけるクラックの発生を防止するため、被測定ガスである排気ガスと接触する積層体の部分に、その外周を覆うようにセラミックからなる多孔質保護層を設けることが知られている。これは、多孔質保護層により水滴を分散させながら緩慢に浸透させていくことによって排気ガス中の水滴が付着した場合におけるクラックの発生を防止する機能を有する。特に板状のガスセンサ素子の場合に、各稜(以下角部と言う。)においてクラックが発生し易く、その角部に所望の厚さの多孔質保護層を設けることが必要となってくる。
【0004】
ところで、上記のような多孔質保護層の形成方法としては、原料となるセラミック粉末等を分散させたスラリー中に積層体を浸漬させる所謂ディップによって形成する方法、また、積層体に対して溶射(プラズマ溶射)によって多孔質保護層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−322632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したようにディップによって多孔質保護層を形成した場合、多孔質保護層の厚みが不均一になり易い。特にガスセンサ素子の断面において角部における厚みが薄くなる傾向にあり、平面部の中央付近の厚みが厚くなる傾向がある。このため、ガスセンサ素子のクラックの防止のために角部に所望の厚さの多孔質保護層を形成すると、平面部の中央付近の厚さが必要以上に厚くなる場合がある。
【0007】
そして、このように多孔質保護層の厚みが不所望に厚い部分があると、ヒータによる昇温時に熱がこの多孔質保護層に逃げるのでガスセンサ素子本体が活性するまでの時間(ライトオフタイム)が長くなるという問題やヒータの消費電力が増大するという問題が生じる。なお、ライトオフタイムとは、ヒータに通電を開始してからガスセンサが測定可能な状態となるまでに要する時間のことを指し、例えば一般的な酸素センサの場合、ガスセンサ素子が450℃に上昇するまでに要する時間を指す。
【0008】
一方、溶射によって多孔質保護層を形成した場合、厚みはディップの場合に比べてやや均一に形成できるが、空孔率の制御が困難であり、特に空孔率を30%以上とすることが困難である。そして、空孔率が低いと多孔質保護層により水滴を分散させながら緩慢に浸透させていくことによって排気ガス中の水滴が付着した場合等におけるクラックの発生を防止する機能を十分に発揮することができない場合がある。また、溶射の場合、実際にガスセンサ素子本体に被着するのは、噴出させた原料の一部であり、周囲に飛散して再利用が不能となる原料が多いため、原料が無駄に消費され、製造コストの増大に繋がるという問題もある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明は、良好な多孔質保護層を形成することができ、従来に比べてライトオフタイムの短縮と信頼性の向上を図ることのできるガスセンサ素子及びその製造方法並びにガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガスセンサ素子の製造方法は、被測定ガス中の所定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化するガスセンサ素子本体と、このガスセンサ素子本体を加熱するためのヒータとを積層させた軸線方向に延びる板状の積層体を有し、この積層体のうち少なくとも前記被測定ガスと接触することとなる先端面及び側周面を覆うように多孔質保護層が形成されたガスセンサ素子の製造方法であって、セラミック原料粉末を揮発性溶媒中に分散させたコート液を前記積層体にスプレーして未処理多孔質保護層を形成するスプレー工程と、この未処理多孔質保護層が形成された前記積層体を熱処理し、多孔質保護層を形成する熱処理工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明のガスセンサ素子の製造方法においては、多孔質保護層を、セラミック原料粉末を揮発性溶媒中に分散させたコート液を積層体にスプレーして未処理多孔質保護層を形成するスプレー工程と、この未処理多孔質保護層が形成された積層体を熱処理する熱処理工程とによって形成することにより、ディップにより形成した場合に比べてその厚みを均一化することができる。これによって、クラックの発生を防止し得る角部の所望厚みを確保してその信頼性を向上させつつ、最大厚みが不所望に厚くなることを抑制してライトオフタイムの短縮化を図ることができる。また、空孔率の制御も容易にできるため、例えば30%以上の空孔率を確保してクラックの発生を確実に抑制することができる。なお、熱処理工程は、積層体を形成するための焼成工程よりも低温度で処理を行っている。
【0012】
前記揮発性溶媒としては、例えばエタノール及びメタノールの少なくともいずれか一方が含まれている溶媒を使用することができる。これにより、乾燥時間とスプレーの噴霧時間等を調整することで積層体の表面にコート液が付着した時点で揮発性溶媒が揮発し、乾燥したセラミック原料粉末が積層体の表面に形成できる。よって、乾燥したセラミック原料粉末の上に順次スプレーするようにして、乾燥工程を必要とせず連続的に所望の厚みの多孔質保護層を形成することができる。
【0013】
上記スプレー工程では、積層体が軸線を中心として回転しつつ、積層体から所定間隔離れた位置から側周面に向かって一方向にスプレーを行うことが好ましい。多孔質保護層は水滴の付着によるクラックが発生しやすい積層体先端側の軸線方向に延びる角部(各側周面の稜)に形成する必要がある。この際、積層体を固定してその積層体の角部に向かってスプレーを行う場合には各角部に向かって複数のスプレーを行う必要があり、スプレー工程が複雑化する虞がある。しかしながら、積層体を回転させてスプレーを一方向から行うことで、複数のスプレーを行う必要がなくなり、スプレー工程の複雑化を防止することができる。さらには、回転速度、回転回数等を制御することにより、積層体の各角部に略均一の多孔質保護層を形成することができる。
【0014】
さらに、上記スプレー工程は、積層体の先端面に向かってスプレーを行う第1スプレー工程と、第1スプレー工程の後、積層体の側周面に向かってスプレーを行う第2スプレー工程とを有することが好ましい。積層体先端側の側周面と先端面との稜においても、水滴の付着によるクラックが発生する虞がある。この際、まず先端面に向かってスプレーを行い、その後、側周面に向かってスプレーを行うことで、多孔質保護層をより均一に形成することができる。
【0015】
一方、上記スプレー工程では、積層体が軸線を中心として回転しつつ、積層体から所定間隔離れた位置から先端面及び側周面に向かって一方向にスプレーを行うことが好ましい。これにより、一度に先端面及び側周面に未処理多孔質保護層を形成することができ、先端面及び側周面に形成する場合のスプレー工程の複雑化を防止することができる。
【0016】
上記スプレー工程では、前回までのスプレー工程時に多孔質保護層の形成部位に付着しなかったセラミック粉末を、セラミック原料粉末と共に揮発性溶媒中に分散させることができる。これによって、原料が再利用でき、無駄に消費されることを抑制できる。
【0017】
上記のガスセンサ素子の製造方法を用いて製造することにより、クラックの発生を抑制して信頼性を向上させつつライトオフタイムを短縮化したガスセンサ素子を得ることができる。
【0018】
また、本発明のガスセンサ素子は、被測定ガス中の所定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化するガスセンサ素子本体と、このガスセンサ素子本体を加熱するためのヒータとを積層させた軸線方向に延びる板状の積層体を有し、この積層体のうち少なくとも前記被測定ガスと接触することとなる先端面及び側周面を覆うように多孔質保護層が形成されたガスセンサ素子であって、前記多孔質保護層の厚みは、前記積層体の各角部から20μm以上で、且つ該多孔質保護層の最大厚みをA(単位はμm)とし、該各角部のうち最小厚みをB(単位はμm)としたときB+400≧Aであることを特徴とする。
【0019】
このように、多孔質保護層が積層体の各角部から20μm以上形成されることにより、多孔質保護層に付着した水滴が多数の気孔に分散しながら緩慢に浸透していき、角部に到達する前に水滴が分散されて素子本体に対する温度勾配を小さくし、積層体のクラックを防止することができる。なお、「角部」とは、2つの側周面によって形成される線状の稜だけでなく、例えば、2つの側周面をR形状で連結する曲面状の部分をも含めるものとする。また、「積層体の各角部から20μm以上形成する」とは、ガスセンサ素子を軸線方向に垂直な断面を見たときに、積層体の角部と多孔質保護層の表面とに接して形成される仮想円の直径が20μm以上とされることを意味する。
【0020】
そして、多孔質保護層の最大厚みをA(単位はμm)とし、各角部のうち最小厚みをB(単位はμm)としたときにB+200≧Aとなることで、多孔質保護層が不所望な厚さを有することを防止でき、ヒータによる昇温時の熱がこの多孔質保護層に逃げ、ガスセンサ素子本体が活性するまでのライトオフタイムが長くなることやヒータの消費電力が増大することを防止できる。多孔質保護層の最大厚みをA(単位はμm)とし、各角部のうち最小厚みをB(単位はμm)としたときにB+400<Aであれば、本発明の効果を得ることが難しい。なお、「各角部のうち最小厚み」は、上述した角部にできる最小の仮想円の直径を意味する。「多孔質保護層の最大厚み」とは、積層体の側周面から多孔質保護層の表面までの垂直方向の距離及び、上述した角部にできる仮想円の直径のうち、最大のものを意味する。
【0021】
さらに、多孔質保護層の空孔率が30%以上であることが好ましい。このように、多孔質保護層の空孔率が30%以上であることで、多孔質保護層により水滴を分散させながら緩慢に浸透させていくことによって排気ガス中の水滴が付着した場合等におけるクラックの発生を十分に防止することができる。
【0022】
また、本発明のガスセンサは、上記のガスセンサ素子を、主体金具に組み込んだことを特徴とする。このガスセンサによれば、多孔質保護層を良好な状態に形成することによって、従来に比べてライトオフタイムの短縮と信頼性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガスセンサ素子及びその製造方法並びにガスセンサによれば、良好な多孔質保護層を形成することができ、従来に比べてライトオフタイムの短縮と信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るガスセンサ素子の要部構成を拡大して示す断面図。
【図2】図1のガスセンサ素子の構成を模式的に示す分解斜視図。
【図3】ライトオフタイムと多孔質保護層のコート厚みとの関係を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係るガスセンサの構成を示す断面図。
【図5】本発明の実施形態に係るスプレー工程の流れを説明するための図。
【図6】本発明の実施形態に係るスプレー工程の概略構成を示す図。
【図7】本発明の他の実施形態に係るスプレー工程の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本発明の実施形態に係る積層型のガスセンサ素子100を、図1及び図2を用いて説明する。図1は、全体形状が薄板状とされたガスセンサ素子100の長手方向に直交する向きの断面を拡大して示すもので、その断面形状は、略90度をなす角部3を4個有する矩形状である。図2は、図1のガスセンサ素子100において、多孔質保護層4を除いた積層体Aの構造を示す分解斜視図であり、ガスセンサ素子本体1と、ヒータ2とから構成されている。
【0027】
上記ガスセンサ素子本体1は、例えば、安定化剤としてイットリア(Y)あるいはカルシア(CaO)を添加したジルコニア(ZrO)系焼結体やLaGaO系焼結体等から構成された酸素濃淡電池用固体電解質層(検出層)11を備えている。
【0028】
上記酸素濃淡電池用固体電解質層11のヒータ2と面する側には、基準電極132が形成されている。また、酸素濃淡電池用固体電解質層11の基準電極132と反対側に位置する面には、検知電極131が形成されている。これらの検知電極131及び基準電極132には、酸素濃淡電池用固体電解質層11の長手方向に沿って導体リード部133及び134がそれぞれ延設されている。これらの電極131,132及び導体リード部133,134は、導電性物質、例えばPt等から構成されている。
【0029】
導体リード部133の末端は、保護層12を貫通するスルーホール17を介して、外部端子と接続されるための信号取出し用端子19と接続される。また、導体リード部134の末端は、酸素濃淡電池用固体電解質層11を貫通するスルーホール15及び保護層12を貫通するスルーホール16を介して、外部端子と接続されるための信号取出し用端子18と接続される。
【0030】
また、保護層12は、検知電極131の表面上形成され検知電極131自身を被毒から防護するための多孔質状の電極保護層5と、導体リード部133の表面上に形成され酸素濃淡電池用固体電解質層11を保護するための強化保護層52とを具備している。
【0031】
一方、ヒータ2は、抵抗発熱体21を備え、この抵抗発熱体21は、絶縁性に優れるセラミック焼結体から構成される第1基層22及び第2基層23に挟持されている。この抵抗発熱体21は、蛇行状に形成される発熱部212と、この発熱部212の端部とそれぞれ接続され、長手方向に沿って延びる一対のヒータリード部213とを有している。また、このヒータリード部213の発熱部212と接続される側とは反対側の端部は、第2基層23を貫通する2つのスルーホール231を介して、外部回路接続用の外部端子と接続される一対のヒータ通電端子232とそれぞれ電気的に接続されている。
【0032】
上記第1基層22及び第2基層23は、セラミック焼結体であれば特に限定されず、このセラミックとしては、例えば、アルミナ、スピネル、ムライト、ジルコニア等を使用することができる。これらのうちの1種のみを用いることもでき、また2種以上を併用することもできる。
【0033】
抵抗発熱体21としては、貴金属、タングステン、モリブデン等を使用することができる。貴金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh等が挙げられ、これらのうちの1種のみを使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、抵抗発熱体21は、耐熱性、耐酸化性等を考慮して貴金属を主体に構成することが好ましく、Ptを主体に構成することがより好ましい。また、この抵抗体発熱体21には、主体となる貴金属にセラミック成分を含有させると良い。このセラミック成分は、抵抗発熱体21が埋設されることになるセラミック製の第1基層22及び第2基層23の主体となる成分と同成分を含有することが、固着強度の観点から好ましい。
【0034】
また、抵抗発熱体21において、発熱部212は通電により発熱する部位であり、リード部213は、外部から供給される直流電圧をこの発熱部212まで通電し自身はほとんど発熱しない部位である。これら発熱部212及びリード部213の形状は各々特に限定されないが、例えば、発熱部212をリード部213より幅細とし、リード部213より密なパターンとなるように蛇行させた形状を採用することができる。
【0035】
そして、このようにガスセンサ素子本体1とヒータ2を積層して構成される積層体Aのうちで測定対象ガスに晒される先端側の部分には、長手方向に延びる角部3のうち、ヒータ2の外側に位置する2つの角部3及びガスセンサ素子本体1の外側に位置する2つの角部3を含む周囲の全周に亘って、図1に示すように、多孔質保護層4が形成される。
【0036】
この多孔質保護層4は、その外側に付着した水滴を分散させながら緩慢に浸透させていくことによって、局部的に水滴による温度勾配が生じないようにし、クラックの発生を防止する機能を発揮する。
【0037】
そして、クラックは角部3において多く発生する傾向がある。このため、角部3における多孔質保護層4の厚みを20μm以上、更には50μm以上とすることによって、ガスセンサ素子全体におけるクラックの発生を防止することが可能となる。
【0038】
一方、多孔質保護層4の厚みが厚くなると、ヒータ2の熱が多孔質保護層4に多く逃げるようになり、ヒータ2に通電を開始してから所定温度となってガス濃度を測定可能な状態となるまでの時間、すなわちライトオフタイムが長くなってしまう。図3のグラフは、縦軸をライトオフタイム、横軸を多孔質保護層4の厚み(コート厚み)として、これらの関係を調べた結果を示すものである。なお、測定は、コート厚み0,100,300,400,500μmについて行った。測定は、排気量2000ccのエンジンを回転数1250±50rpm、トルク60±5N・m、吸入負圧−40±5kPaで運転し、このエンジンに繋がれた内径54mmの排気管にガスセンサを取り付けて行った。この時の排気温度(排気管のエンジン側で測定)は、350±5℃であり、λ=0.9と1.1を0.5秒毎に切り替えた。ヒータ印加電圧(Vh)は、バッテリ電圧相当を印加したものである。
【0039】
そして、ヒータ電圧の印加を開始し、素子温度が上昇し、センサが活性化したとき(活性温度(約450℃)に達したとき)の時間をライトオフタイムとした。
【0040】
図3に示されるように、多孔質保護層4の厚みが厚くなると、ライトオフタイムも長くなり、400μmから500μm以上となると2次関数的に増大する。このため、多孔質保護層4の最大厚みは600μm未満とすることが好ましく、更には500μm未満とすることが好ましい。
【0041】
そして、多孔質保護層4の厚みが不所望に厚い部分があると、ヒータ2の熱が多孔質保護層4に多く逃げるようになり、ヒータ2に通電を開始してからガスセンサ素子が活性するまでの時間であるライトオフタイムが長くなってしまう。そこで、多孔質保護層の最大厚みをA(単位はμm)とし、各角部のうち最小厚みをB(単位はμm)としたときにB+400≧Aとなることで、多孔質保護層が不所望な厚さを有することを防止でき、ヒータによる昇温時の熱がこの多孔質保護層に逃げ、ガスセンサ素子本体が活性するまでのライトオフタイムが長くなることやヒータの消費電力が増大することを防止できる。
【0042】
また、多孔質保護層4は、細孔の気孔を多数有するものであって、その空孔率は、30%〜60%の範囲内とすることがより好ましい。
【0043】
空孔率を30%〜60%の範囲内にすることで、水滴等の分散効果が十分に得られると共に、多孔質保護層4内での温度が均一化され、基体ないし素子本体に及ぶ熱衝撃の緩和能力を高めることができる。なお、空孔率は40%〜55%の範囲にすることがより好ましい。上記空孔率は、多孔質保護層の断面をSEMにて分析し、その分析によって得られた拡大写真より、単位面積当たりに占める空孔の面積の比率(%)として求めることができる。
【0044】
なお、ガスセンサ素子100の多孔質保護層4を含む全体の大きさは、長手方向の寸法30mm〜60mm、幅寸法2.5mm〜6mm、厚み1mm〜3mmの範囲内に形成することが好ましく、本実施例では、長手方向の寸法約40mm。幅寸法3mm、厚み約2mmに形成されている。
【0045】
図4は、上述したガスセンサ素子100が組み込まれたガスセンサであり、具体的には内燃機関の排気管に取り付けられ、排ガス中の酸素濃度の測定に使用される酸素センサ600の一例を示した全体断面図である。
【0046】
図4に示す主体金具30は、ガスセンサを排気管に取り付けるための雄ねじ部31と、取り付け時に取り付け工具をあてがう六角部32とを有している。また、主体金具30には、径方向内側に向かって突出する金具側段部33が設けられており、この金具側段部33はガスセンサ素子100を保持するための金属ホルダ34を支持している。そしてこの金属ホルダ34の内側にはガスセンサ素子100を所定位置に配置するセラミックホルダ35、滑石36が先端側から順に配置されている。
【0047】
この滑石36は、金属ホルダ34内に配置される第1滑石37と、金属ホルダ34の後端に渡って配置される第2滑石38とからなる。そして第2滑石38の後端側には、アルミナ製のスリーブ39が配置されている。このスリーブ39は多段の円筒状に形成されており、軸線に沿うように軸孔391が設けられ、内部にガスセンサ素子100を挿通している。そして、主体金具30の後端側の加締め部301が内側に折り曲げられており、ステンレス製のリング部材40を介してスリーブ39が主体金具30の先端側に押圧されている。
【0048】
また、主体金具30の先端側外周には、主体金具30の先端から突出するガスセンサ素子100の先端部を覆うと共に、複数のガス取り入れ孔241を有する金属製のプロテクタ24が溶接により取り付けられている。このプロテクタ24は、二重構造をなしており、外側には一様な外径を有する有底円筒状の外側プロテクタ41、内側には後端部421の外径が先端部422の外径よりも大きく形成された有底円筒状の内側プロテクタ42が配置されている。
【0049】
一方、主体金具30の後端側には、外筒25の先端側が挿入されている。この外筒25は、先端側の拡径した先端部251を主体金具30にレーザ溶接等により固定されている。外筒25の後端側内部には、セパレータ50が配置され、セパレータ50と外筒25の隙間に保持部材51が介在している。この保持部材51は、後述するセパレータ50の突出部501に係合し、外筒25を加締めることにより外筒25とセパレータ50とにより固定されている。
【0050】
また、セパレータ50には、ガスセンサ素子100のリード線111〜114を挿入するための通孔502が先端側から後端側にかけて貫設されている(なお、リード線114は図示せず。)。通孔502内には、リード線111〜114とガスセンサ素子100の外部端子とを接続する接続端子116が収容されている。各リード線111〜114は、外部において、図示しないコネクタに接続されるようになっている。このコネクタを介してECU等の外部機器と各リード線111〜114とは電気信号の入出力が行われることになる。また、各リード線111〜114は詳細に図示しないが、導線を樹脂からなる絶縁皮膜にて被覆した構造を有している。
【0051】
さらに、セパレータ50の後端側には、外筒25の後端側の開口部252を閉塞するための略円柱状のゴムキャップ52が配置されている。このゴムキャップ52は、外筒25の後端内に装着された状態で、外筒25の外周を径方向内側に向かって加締めることにより、外筒25に固着されている。ゴムキャップ52にも、リード線111〜114を挿入するための通孔521が先端側から後端側にかけて貫設されている。
【0052】
本発明の実施例として、以下に説明する方法により、積層型のガスセンサ素子100を製造した。
【0053】
まず、イットリアの安定化剤を固溶させたジルコニア粉末にアルミナ粉末50質量%を含有し、バインダ(ポリビニルブチラール)と共に混練した生素地を用いて、酸素濃淡電池用固体電解質層11となるものであって、10個の素子を切り出すことができる大きさの未焼成固体電解質シートを形成した。その後、未焼成固体電解質シートの所定位置に素子10個分のスルーホール15となる貫通孔を形成した。
【0054】
次に、未焼成固体電解質シート(スルーホール15となる貫通孔を含む)上の所定領域に、白金を主体とする導電ペーストを所定のパターンに印刷し、乾燥させて、検知電極131、基準電極132、導体リード部133、134となる導体パターンを形成すると共に、スルーホール15となる貫通孔の内壁面に対して導電ペーストを施した。これにより、酸素濃淡電池素子用未焼成シートを得た。
【0055】
次に、アルミナ粉末を、バインダ(ポリビニルブチラール)と共に混練した生素地を用いて、第2基層23となる未焼成アルミナシートを形成し、素子10個分のスルーホール231となる貫通孔を形成した。その後、第2基層23となる未焼成アルミナシート(スルーホール231となる貫通孔を含む)の表裏面の所定領域に、前述と同様の導電ペーストを所定のパターン形状に印刷・乾燥し、抵抗発熱体21、一対のヒータ通電端子232となる導電パターンを形成すると共に、スルーホール231となる貫通孔の内壁面に対して導体ペーストを施した。そして、第1基層22となる未焼成アルミナシートを上記第2基層23と同様な方法で作製し、この第1基層22となる未焼成アルミナシートを第2基層23となる未焼成アルミナシートの抵抗発熱体21となる導体パターンが形成された面に積層・減圧圧着した。これにより、ヒータ2となるヒータ用未焼成シートを得た。
【0056】
次に、酸素濃淡電池素子用未焼成シートと基体用未焼成シートとを積層し、さらに強化保護層52となる未焼成アルミナシートを酸素濃淡電池素子用未焼成シートの上に積層するとともに、所定のアルミナ粉末と気孔化剤としてのカーボン粉末、ポリビニルブチラールからなるバインダ、分散剤を混合したスラリーを用いてシート化した電極保護層5となる電極保護層用未焼成シートを、酸素濃淡電池素子用未焼成シートの外部に露出した検知電極131となる導体パターン上に積層し、減圧圧着して組立体を得た。そして、この組立体を、未焼成積層体を形成すべく公知の手法により切断し、10個の未焼成積層体を切り出した。そして、この未焼成積層体を大気雰囲気下にて脱脂し脱バインダ処理した後、1500℃で1時間焼成して、積層体Aを作製した。
【0057】
その後、図5に示すように、スピネル粉末と、チタニア粉末を調合し、さらに揮発性溶剤としてのエタノールを加えて調合しコート液を得た。このコート液を、積層体にスプレーし、焼成後に多孔質保護層4となる未処理多孔質保護層を所定厚み、即ち平均厚みが100μm、150μmとなるよう形成し、乾燥させた。
【0058】
スプレーは、図6に示すように、支持部材700によって積層体Aの後端側を支持した状態で、まず先端側からニードル式のノズルを用いたスプレー装置701によってスプレーして積層体Aの先端部分にコート液を被着させた後(a)、積層体Aを回転させつつスプレー装置701によって側方からスプレーして積層体Aの側面部分にコート液を被着させた(b)。なお、図6において、702は、周囲に飛散したセラミック粉末(コート液からエタノールが揮発したもの)を回収して再利用するための吸引装置を示している。この吸引装置702で回収されたセラミック粉末は再度エタノールに分散させることによって容易に再利用することができる。
【0059】
この時、コート液に水ではなく、揮発性溶剤であるエタノールを使用しているので、乾燥時間と、回転速度等、スプレーの噴霧時間等を適宜選択することで積層体の表面にコート液が付着した時点で揮発性溶媒が揮発し、乾燥したセラミック原料粉末が積層体の表面に形成できる。これにより途中で乾燥時間を設けることなく、必要な厚みの未処理多孔質保護層を得ることができる。また、空孔率の調整も、例えばスプレー時のエアーの強度等によって容易に調整することができる。
【0060】
また、上記のように方向を変えて2段階のスプレーを行うことにより、積層体Aの先端部分及び側面部分の全面に均一に多孔質保護層4を形成することができる。また、先に先端部分に向けてスプレーを行うことにより、後にスプレーした側面側の層が、先端側の層の一部を覆うように形成され、この結果、先端側の層を剥がれ難くすることができる。
【0061】
また、上記の先端側からと側方側からの2段階のスプレーに替えて、図7に示すように、これらの中間位置から斜めにスプレーする1段階のスプレーを行っても良い。
【0062】
次に、この状態の積層体を大気雰囲気下にて昇温していき、最高温度1000℃で1時間保持しつつ熱処理した後、空冷にて冷却して多孔質保護層4が形成された積層型のガスセンサ素子100(図1参照)を得た。
【0063】
上記の工程により、多孔質保護層4の平均厚みが150μmとなるよう10個の積層型ガスセンサ素子100を作成した。これらの積層型ガスセンサ素子100多孔質保護層4の厚みを測定した結果を表1に示す。この表1に示されるように、10個の最大厚みは231μm、10個の角部の最小厚みは58μmであり、多孔質保護層の最大厚みをAとし、各角部のうち最小厚みをBとしたとき、B+400≧Aとなっている。また、この場合、最小厚みが、クラックの発生を抑制することのできる前述した好ましい範囲の20μm以上となっている。
【0064】
【表1】

【0065】
また、同様にして、多孔質保護層4の平均厚みが100μmとなるよう10個の積層型ガスセンサ素子100を作成した。これらの積層型ガスセンサ素子100の多孔質保護層4の厚みを測定した結果を表2に示す。この表2に示されるように、10個の最大厚みは157μm、10個の角部の最小厚みは39μmであり、多孔質保護層の最大厚みをAとし、各角部のうち最小厚みをBとしたとき、B+400≧Aとなっている。また、この場合、最小厚みが、クラックの発生を抑制することのできる前述した好ましい範囲の20μm以上となっている。
【0066】
【表2】

【0067】
そして、サンプル2についてのライトオフタイムを測定した。なお、測定については、上述したライトオフタイム評価方法について基づいた。すると、ライトオフタイムが9秒となった。一方、従来例として角部の最小厚みが80μmとなるようにディップにより形成した。なお、最大厚みは、450μmとなった。そして、このときのライトオフタイムを測定した。すると、ライトオフタイムが11秒となった。
【0068】
以上のように、前述した多孔質保護層4の角部の厚み、即ち好ましくは20μm以上、さらに好ましくは50μm以上を確実に達成することにより、ガスセンサ素子若しくはガスセンサとしての信頼性を確保しつつ、多孔質保護層4の厚みが必要以上に厚くなることを抑制して、ライトオフタイムが長くなることを抑制することができる。
【0069】
また、ディップによって多孔質保護層4を形成する場合は、必要な厚みを得るためには、複数回ディップと乾燥を繰り返して行う必要があり、工程に時間が掛かるが、スプレーの場合、1回のスプレー(数秒程度)で必要な厚さの多孔質保護層4を得ることができ、工程に要する時間の短縮を図ることができる。
【0070】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。例えば、酸素センサ以外のガスセンサ、例えばHCセンサ、COセンサ、NOxセンサに使用する積層型ガスセンサ素子に対しても、上記と同様にして適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1……ガスセンサ素子本体、2……ヒータ、3……角部、4……多孔質保護層、5……電極保護層、11……酸素濃淡電池用固体電解質層、21……抵抗発熱体、100……ガスセンサ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化するガスセンサ素子本体と、このガスセンサ素子本体を加熱するためのヒータとを積層させた軸線方向に延びる板状の積層体を有し、この積層体のうち少なくとも前記被測定ガスと接触することとなる先端面及び側周面を覆うように多孔質保護層が形成されたガスセンサ素子の製造方法であって、
セラミック原料粉末を揮発性溶媒中に分散させたコート液を前記積層体にスプレーして未処理多孔質保護層を形成するスプレー工程と、
この未処理多孔質保護層が形成された前記積層体を熱処理し、多孔質保護層を形成する熱処理工程とを含むことを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
前記揮発性溶媒に、エタノール及びメタノールの少なくともいずれか一方が含まれていることを特徴とする請求項1記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記スプレー工程では、前記積層体が軸線を中心として回転しつつ、前記積層体から所定間隔離れた位置から前記積層体の前記側周面に向かって一方向にスプレーを行うことを特徴とする請求項1又は2記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
前記スプレー工程は、前記積層体の先端面に向かってスプレーを行う第1スプレー工程と、第1スプレー工程の後、前記積層体の側周面に向かってスプレーを行う第2スプレー工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項5】
前記スプレー工程では、前記積層体が軸線を中心として回転しつつ、前記積層体から所定間隔離れた位置から前記積層体の前記先端面及び前記側周面に向かって一方向にスプレーを行うことを特徴とする請求項1又は2記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項6】
前記スプレー工程では、前回までのスプレー工程時に前記多孔質保護層の形成部位に付着しなかったセラミック粉末を、前記セラミック原料粉末と共に前記揮発性溶媒中に分散させることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載のガスセンサ素子の製造方法を用いて製造したことを特徴とするガスセンサ素子。
【請求項8】
被測定ガス中の所定ガスの濃度に応じて電気的特性が変化するガスセンサ素子本体と、このガスセンサ素子本体を加熱するためのヒータとを積層させた軸線方向に延びる板状の積層体を有し、この積層体のうち少なくとも前記被測定ガスと接触することとなる先端面及び側周面を覆うように多孔質保護層が形成されたガスセンサ素子であって、
前記多孔質保護層の厚みは、前記積層体の各角部から20μm以上で、且つ該多孔質保護層の最大厚みをA(単位はμm)とし、該各角部のうち最小厚みをB(単位はμm)としたときB+400≧Aであることを特徴とするガスセンサ素子。
【請求項9】
前記多孔質保護層の空孔率が30%以上であることを特徴とする請求項8記載のガスセンサ素子。
【請求項10】
前記多孔質保護層の厚みは600μm未満であることを特徴とする請求項8又は9記載のガスセンサ素子。
【請求項11】
請求項8〜10いずれか1項記載のガスセンサ素子を、主体金具に組み込んだことを特徴とするガスセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−164591(P2010−164591A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106480(P2010−106480)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2005−220490(P2005−220490)の分割
【原出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】