説明

ガスセンサ

【課題】選択性能力を劣化させることなく応答性を向上させることができるガスセンサを提供すること。
【解決手段】センサパッケージ2に立設された筒部3内にセンサチップ4を配置して固定し、筒部3の上部に有孔キャップ18を被せて固定した構造を有するガスセンサ1において、筒部3と有孔キャップ18で形成される内部空間に、該内部空間の内容積を減少させるための部材17を配置した。それにより、センサパッケージ2の内部空間の内容積を減少させることができ、選択性能力を落とさずに、応答性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関し、特に高速応答型マイクロガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシン技術を用いて作成したマイクロガスセンサは、検出素子の体積を極小にできるため、ガスセンサ内における検知ガスの置換体積が小さくなり、高速な応答性が得られるものである(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
図5(A)、(B)および(C)は、それぞれ、特許文献1に開示されている従来のマイクロガスセンサの構造例を示す平面図、背面図およびA−A線断面図である。マイクロガスセンサ40は、シリコン基板41上に、酸化シリコン(SiO2 )膜48c、窒化シリコン(SiN)膜48bおよび酸化ハフニウム(HfO2 )膜48aからなる絶縁体薄膜48が形成され、その上に、検出素子部Rsとして白金(Pt)ヒータ42、Al2 3 層およびPd/γAl2 3 触媒層43と、補償素子部Rrとして白金(Pt)ヒータ44、Al2 3 層およびγAl2 3 触媒層45が形成され、さらにシリコン基板41を異方性エッチングして凹部46および47が形成されて、それぞれ薄膜ダイヤフラムDsおよびDrが形成された熱容量の小さいガスセンサである。
【0004】
また、特許文献2には、検出素子を覆う有孔キャップと、ケースの有孔キャップの孔と対向しない位置に複数のガス導入孔を設けたケースを組み合わせることにより、ガスの拡散が直ちに行われ、高速応答で流量依存性が少ないマイクロガスセンサが開示されている。
【特許文献1】特開2004−069465号公報
【特許文献2】特開2006−208079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているマイクロガスセンサは、パルス駆動した場合、水素(H2 )等の無極性または低有極性ガスに対しては従来の接触燃焼式ガスセンサと同様の出力を示す。また、DCで駆動した場合、図6の曲線A(活性炭フィルタ無)に示すように、検知対象ガス(たとえば、H2 )に対する応答性は、0.2秒と非常に早い数値を示す。
【0006】
このときの応答性測定治具を図7に示される。すなわち、測定ガス雰囲気が存在するチャンバー50内にボックス50で密閉したマイクロガスセンサ40を配置し、ボックス50を開閉してマイクロガスセンサ40の測定ガスに対する応答性を測定した。なお、応答性は、センサ出力90%に到達する時間に設定した。
【0007】
しかし、水素(H2 )に対する選択性を向上させるために、マイクロガスセンサ40
上段に活性炭フィルタを装着した場合は、曲線Bに示すように、応答性は2.4秒になり、格段に遅くなってしまう。このように、活性炭フィルタを装着して選択性を向上させようとすると、選択性が向上する代わりに、応答性が悪くなってしまうという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されているマイクロガスセンサは、ガスの拡散の影響を減らし、応答性を向上させているが、有孔キャップ内についての検討は行っていないため、有孔キャップ内のガス拡散に対しては対応できていないという問題がある。また、キャップ内容積が大きいと、検知ガスの拡散の影響により応答性が悪くなると言う問題がある。
【0009】
そこで本発明は、上記の課題に鑑み、選択性能力を劣化させることなく応答性を向上させることができるガスセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、センサパッケージに立設された筒部内にセンサチップを配置して固定し、前記筒部の上部に有孔キャップを被せて固定した構造を有するガスセンサにおいて、前記筒部と前記有孔キャップで形成される内部空間に、該内部空間の内容積を減少させるための部材を配置したことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の発明は、請求項1記載のガスセンサにおいて、前記部材は、前記筒部の内周側に装着されたリングであることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するためになされた請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のガスセンサにおいて、前記有孔キャップの孔に活性炭フィルタが装着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、センサチップの接合やワイヤボンディング等の作業効率を落とさずに、センサチップが収容されるセンサパッケージの内部空間の内容積を減少させることができ、選択性能力を落とさずに、応答性を向上させることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、筒部にリングを装着するだけで、センサパッケージの内部空間の内容積を減少させることができ、組み立て作業が容易になる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、選択性能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るガスセンサの構造を示す断面図である。本実施形態では、マイクロガスセンサに適用した場合について説明する。本実施形態のマイクロガスセンサ1は、接触燃焼式のマイクロガスセンサであり、絶縁体からなるセンサパッケージ2に一体形成で立設された円筒状の筒部3の内部のほぼ中央にセンサチップ4を配置し、センサパッケージ2上に接合して固定している。
【0018】
センサチップ4の構成は、図4の従来のマイクロガスセンサ40と同じになっており、シリコン基板5上に、絶縁体薄膜6が形成され、その上に、検出素子部としてヒータ7および活性触媒層8と、補償素子部としてヒータ9および不活性触媒層10が形成され、さらにシリコン基板5の裏側を異方性エッチングして凹部11および12が形成されて、それぞれ薄膜ダイヤフラムDsおよびDrが形成されている。
【0019】
センサチップ4のヒータ7および9は、筒部3の内側でセンサパッケージ2上にモールド成型により配置された電極13に、金製のワイヤ15および16でボンディングにより配線されている。電極13は、モールド成型により、センサパッケージ2の横から出ているリードフレーム端子16(図2参照)から筒部3の内部に延出されている。
【0020】
また、筒部3の内周側には、絶縁性材料からなるリング17が装着されている。リング17は、その厚みが、ワイヤ15および16に接触することなくそれらの近傍まで接近させたものとされている。このリング17は、請求項1における部材に相当する。
【0021】
さらに、筒部3の外周側には、金属製の円筒状の有孔キャップ18が被せられている。有孔キャップ18には、孔18aが形成されている。孔18aには、活性炭フィルタ19が装着されている。有孔キャップ18は、孔18aと反対側の開口端部がセンサパッケージ2に接合され、リング17を押さえるのに役立っている。
【0022】
マイクロガスセンサ1の組み立て時、図2に示すように、まず、センサパッケージ2の筒部3の内側底部にセンサチップ4を接合し、次いでセンサチップ4のヒータ7および9の端子と電極13にワイヤ15および16をボンディングにより配線する。
【0023】
次に、図3に示すように、リング17を筒部3の内周側にはめ込む。次に、図示しないが、有孔キャップ18を筒部3の上方から被せて、開口端部をセンサパッケージ2に接合する。以上のようにしてマイクロガスセンサ1の組み立てが完了する。
【0024】
上述のように構成される本実施の形態のマイクロガスセンサ1は、筒部3および有孔キャップ18で仕切られるセンサパッケージ2の内部空間の内容積を、リング17をはめ込むことによって減少させることにより、検知ガスの拡散の影響を軽減し、センサの応答性を向上させることができるものである。
【0025】
そこで、リング17の有無でのマイクロガスセンサ1の応答性の変化を図7と同様の測定環境で測定してみた。活性炭フィルタ19は、選択性の度合いによって装着しても装着しなくても良いが、この実施の形態では、選択性向上のねらいで活性炭フィルタ19を装着している。活性炭フィルタ19を装着すると、雰囲気中の検知対象ガス以外の雑ガスが吸収され、検知対象ガスの選択性が向上する。
【0026】
リング17を未装着として従来と同じ構造とした場合のマイクロガスセンサ1の応答性は、図6の曲線Bに示すように、2.4秒という数値であった。
【0027】
これに対して、リング17をセンサパッケージ2に装着して内部空間の内容積を未装着時の46.5%にした場合のマイクロガスセンサの応答性は、図4に示すように0.9秒となり、従来と同じ構造の場合に比して1.5秒短くなり性能が向上した。なお、リング17を装着した場合のマイクロガスセンサ1では、活性炭フィルタ19は従来通りであるため、従来の選択性の能力を維持したまま、ガスに対する応答性を向上させることができる。
【0028】
このリング17は、リング17のない従来構造のマイクロガスセンサのセンサパッケージにはめ込むだけの作業になるため、簡単に装着でき、ワイヤボンディング等の作業効率を落とさず、応答性を向上させることができる。リング17の大きさは、ガスセンサとして機能する性能を維持できる範囲内で大きくしたり小さくしたりすることができる。また、リング17は、センサチップ4の触媒8および10を除く部分を埋めるような形でも良く、センサの形状に合わせて丸型である必要もない。仮に、センサチップ4と同じ大きさまでセンサパッケージ内容積を減少させたい場合は、センサパッケージ2の構造を小さくして内容積を減少させるという方法があるが、センサパッケージ2にセンサチップ4を接合したり、ワイヤー15および16を電極13および14にボンディングしたりする作業は、センサパッケージ2を小さくした分非常に難しくなり作業効率が悪くなったりする。
【0029】
そこで、ボンディング等の作業の効率化を図るため、センサパッケージを大きくした場合、一連のボンディング作業後、リング17を装着することで、センサパッケージ2の内部空間の内容積を簡単に減少させることができる。
【0030】
以上のように、本発明によれば、リング17を装着することにより、ボンディング等の作業効率を落とさずセンサパッケージ2の内部空間の内容積を減少させることができ、選択性能力を落とさずに、応答性を向上させることができる。
【0031】
以上の通り、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず、種々の変形、応用が可能である。
【0032】
たとえば、上述の実施の形態では、リング17は絶縁性材料から作られているが、これに代えて金属製材料を用いることもできる。この場合は、電極13および14をショートさせることがないように、電極13および14とリング17の間に絶縁板を配置する必要がある。
【0033】
また、センサパッケージ2の筒部3の形状は、円筒状だけでなく、角筒や星型筒でも良く、リング17の形状もそれに合わせて変形可能である。また、可燃性ガス検知の目的で、活性炭フィルタをつけない場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0034】
また、上述の実施の形態では、検知ガスが水素(H2 )の場合について説明したが、本発明は、他のガスについても同様に適用可能である。また、センサパッケージにリングを追加する構成であるため、接触燃焼式だけでなく、半導体式ガスセンサなどにも適用可能である。
【0035】
さらに、上述の実施の形態では、本発明をマイクロガスセンサに適用した場合について説明したが、これに限らず、ガス検知空間の内容積の減少を図る一般的なガスセンサにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係るマイクロガスセンサの構造を示す断面図である。
【図2】マイクロガスセンサの組み立て方法を説明する斜視図である。
【図3】マイクロガスセンサの組み立て方法を説明する平面図である。
【図4】マイクロガスセンサの応答性を表すセンサ出力特性図である。
【図5】(A)、(B)および(C)は、それぞれ、従来のマイクロガスセンサの平面図、背面図およびA−A線断面図である。
【図6】図5のマイクロガスセンサの応答性を表すセンサ出力特性図である。
【図7】マイクロガスセンサの応答性測定治具を示す略図である。
【符号の説明】
【0037】
1 マイクロガスセンサ
2 センサパッケージ
3 筒部
4 センサチップ
17 リング(部材)
18 有孔キャップ
18a 孔
19 活性炭フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサパッケージに立設された筒部内にセンサチップを配置して固定し、前記筒部の上部に有孔キャップを被せて固定した構造を有するガスセンサにおいて、
前記筒部と前記有孔キャップで形成される内部空間に、該内部空間の内容積を減少させるための部材を配置したことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記部材は、前記筒部の内周側に装着されたリングであることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のガスセンサにおいて、
前記有孔キャップの孔に活性炭フィルタが装着されていることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−107105(P2008−107105A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287801(P2006−287801)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】