説明

ガスセンサ

【課題】ガス濃度を感度良く検知できるガスセンサを提供する。
【解決手段】水晶基板11と、水晶基板11の表面に形成され多数の交差指電極12a,
12bを有するIDT電極13と、水晶基板11に形成されガスに反応して発熱する水素
反応触媒膜14と、IDT電極13により励振される弾性表面波の伝播方向に沿ってID
T電極13の両側に配置された1対の反射器15と、IDT電極13を励振させる発振回
路と、を備え、水素反応触媒膜14がIDT電極13で励振される前記弾性表面波の伝播
路上に形成され、水素反応触媒膜14の発熱による水晶基板11の温度変化を周波数信号
として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスと触媒媒質との触媒反応における発熱を利用する接触燃焼式のガスセン
サに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、用途に応じたガスを検出するガスセンサが実用化されている。特に可燃性ガ
スを検出するガスセンサは、使用上の安全性を確保する上での重要なセンサと位置付けら
れている。
近年、環境負荷を低減するために自動車用、家庭用として燃料電池の開発が進んでいる
。燃料電池は水素を燃料とするため、水素ガスのガス漏れを検知することが燃料電池を安
全に使用する際の重要な事項である。このガス漏れの検知は水素センサによって行われ、
水素ガスだけに応答し、約0.05〜5%程度の水素濃度を定量的に検知する水素センサ
が必要である。
【0003】
現在、水素などの気体を検出するガスセンサとして接触燃焼式センサなどが知られてい
る。この、接触燃焼式センサは、ガスの検出機能を持つ物質の表面での接触燃焼現象によ
る発熱を利用し、この温度変化から電気抵抗の変化を固定抵抗と対にしたブリッジ回路か
ら電圧として検出するものである。
例えば、接触燃焼式水素センサの一例として特許文献1に示すように、触媒媒質として
の水素反応触媒層と該水素反応触媒層の発熱温度を検知する薄膜サーミスタが絶縁層を介
して積層され、この素子を用いてブリッジ回路を構成し、ブリッジ電圧を検出することで
水素濃度を検知可能としている。
【0004】
また、他の水素センサとして、特許文献2に示すように、気体中の分子を検出するため
に、トランスバーサル型SAWフィルタにおいて、櫛歯状のIDT(Interdigital Tran
sducer)電極からなる励振電極および受信電極の間にガス吸着体を設けたガスセンサが知
られている。
このガスセンサは、励振電極で励振された弾性表面波(SAW:Surface Acoustic W
ave)が、ガス吸着されて重量が変化したガス吸着体を通過することで弾性表面波の伝播
速度が変化し、これを受信電極で周波数変化として検出してガス濃度の検知している。
【0005】
【特許文献1】特開2005−98742号公報
【特許文献2】特開平8−68781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の接触燃焼式水素センサなどのガスセンサはブリッジ回路などから
検出される電圧の変化が微小なため、ガス濃度を感度良く検知できないという問題がある
。また、トランスバーサル型SAWフィルタを利用したガスセンサではSAWフィルタの
帯域幅があるため、わずかな周波数変動を検出できずガス濃度の検出感度に問題がある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ガス濃度を感度
良く検知できるガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のガスセンサは、圧電基板と、前記圧電基板の表面
に形成され多数の交差指電極を有するIDT電極と、前記圧電基板に形成されガスに反応
して発熱するガス反応触媒膜と、前記IDT電極により励振される弾性表面波の伝播方向
に沿って前記IDT電極の両側に配置された1対の反射器と、前記IDT電極を励振させ
る発振回路と、を備え、前記ガス反応触媒膜が前記IDT電極で励振される前記弾性表面
波の伝播路上に形成され、前記ガス反応触媒膜の発熱による前記圧電基板の温度変化を周
波数信号として検出することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、圧電基板に形成されたガス反応触媒膜にガスが接触して発熱し、こ
の熱により圧電基板の温度が上昇する。圧電基板は、温度により圧電基板を伝播する波の
音速が変化する特性を有しているため、圧電基板の温度上昇に伴い弾性表面波が伝播する
速度、つまり周波数が変化する。そして、周波数の変化を検知することで、ガスの存在ま
たはガスの濃度を検知することが可能となる。
また、本発明のガスセンサは共振子型の弾性表面波装置が利用されており、SAWフィ
ルタのように帯域幅を持たず、わずかな周波数変動を検知できることから、ガス濃度が低
い領域から感度良くガスを検知することが可能である。
【0009】
また、本発明のガスセンサは、前記ガス反応触媒膜が前記IDT電極における前記交差
指電極の間の前記弾性表面波伝播路上に形成されていることが望ましい。
【0010】
この構成によれば、弾性表面波を励振するIDT電極の交差指電極間にガス反応触媒膜
が形成されていることから、ガス反応触媒膜の発熱がすぐに弾性表面波伝播路上の圧電基
板に伝わる。このことから、IDT電極で励振される弾性表面波が伝播する速度に短時間
で変化を与えることができ、応答性および感度の優れたガスセンサを提供できる。
【0011】
また、本発明のガスセンサは、前記ガス反応触媒膜が前記IDT電極を覆う絶縁膜上で
かつ、前記弾性表面波伝播路上に形成されていることが望ましい。
【0012】
この構成によれば、絶縁膜を介してガス反応触媒膜が設けられることから、IDT電極
とガス反応触媒膜との短絡を防止し、より広い面積にガス反応触媒膜を配置することが可
能である。このことから、ガスによる発熱を充分に圧電基板表面に伝達することができ、
圧電基板表面の温度上昇に時間がかからず、応答性および感度の優れたガスセンサを提供
できる。
【0013】
本発明のガスセンサは、前記ガス反応触媒膜は白金またはパラジウムから選択される材
料で形成されていることが望ましい。
【0014】
この構成によれば、ガス反応触媒膜として白金またはパラジウムを利用することで、高
い水素選択性を持ち、水素を含まない他の可燃性ガスにほとんど応答しないガス反応触媒
膜を構成することができる。
【0015】
本発明のガスセンサは、前記圧電基板が水晶基板であることが望ましい。
【0016】
この構成によれば、水晶は加工性が良く量産に適し、また、水晶の主面のカット角(切
断方位)を適宜選択することで水晶基板の温度感度係数を調整できる利点がある。つまり
、水晶の主面のカット角を適宜選択することで温度に対する良好な感度を得ることができ
、ひいては、ガス濃度を感度良く検知でき、かつ量産性に優れたガスセンサを提供するこ
とができる。
【0017】
本発明のガスセンサは、水晶の結晶の電気軸をX軸、機械軸をY軸、光学軸をZ軸とし
て、X軸とZ軸の作る平面を主面とするY板をX軸の回りに反時計方向にθ°回転してで
きる水晶基板から、X軸に平行に前記弾性表面波が伝播するように前記IDT電極が形成
されており、θ=33〜53(°)であることが望ましい。
【0018】
この構成によれば、温度感度係数の絶対値が30〜60ppm/℃のガスセンサを構成
することができ、ガス濃度に対する発熱を効率よく検出でき、感度に優れたガスセンサを
提供することができる。
【0019】
本発明のガスセンサは、前記IDT電極より励振される弾性表面波がレイリー波または
STW波であることが望ましい。
【0020】
この構成によれば、レイリー波およびSTW波は、基板表面の数μm程度の領域に弾性
波が集中しており、基板表面部分の温度変化が弾性表面波の周波数の変化として時間をお
かずに現れる。このことから、弾性表面波として、レイリー波またはSTW波を用いるこ
とで、水素などのガス検出において応答性のよいガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体化したガスセンサの実施形態について水素センサを例にとり、図面
に従って説明する。
(第1の実施形態)
【0022】
図1は本実施形態の水素センサに係る水素反応検出素子の構成を示す構成図であり、図
1(a)は模式平面図、図1(b)は同図(a)のA−A断線に沿う模式断面図である。
水素反応検出素子3は、圧電材料からなる水晶基板11の表面にIDT電極13、反射
器15、水素反応触媒膜14を備えている。このように、本実施形態の水素センサは1ポ
ート共振子型の弾性表面波装置が利用されている。
IDT電極13は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる多数の交差
指電極12a,12bが交互に配列され弾性表面波を励振できるように構成されている。
この、励振される弾性表面波としては様々なタイプの弾性表面波を利用することができる
が、基板表面に弾性波が集中するレイリー波、STW波(SH波の一種)などが好適であ
る。また、このIDT電極13の略中央の交差指電極12a,12bの間には、白金(P
t)またはパラジウム(Pd)からなる水素反応触媒膜14が、IDT電極13で励振さ
れる弾性表面波の伝播路に形成されている。
なお、IDT電極13の交差指電極12a,12bのピッチをPとすると、弾性表面波
の波長λはλ=2Pと表される。また、IDT電極13の厚みをHとするとしたとき、規
格化電極厚みH/λがH/λ=0.08に設定されている。
【0023】
そして、弾性表面波の伝播する方向におけるIDT電極13の両側には、格子構造のア
ルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる反射器15が配置されている。
また、IDT電極13の交差指電極12aは入力側端子16に接続され、交差指電極1
2bは出力側端子17に接続されている。この入力側端子16および出力側端子17は、
IDT電極13を励振させる発振回路(図示せず)に接続されている。このように、共振
子型の弾性表面波装置を利用する水素反応検出素子3と発振回路とを備えることで、水素
センサを構成している。
なお、IDT電極13、反射器15、水素反応触媒膜14は、真空蒸着、スパッタリン
グ、およびフォトリソグラフィなどの従来方法を用いて形成されている。
【0024】
ここで、水晶基板11のカット角(切断方位)について詳細に説明する。水晶にはカッ
ト角に依存する周波数温度特性があり、このカット角を適宜選択することで所望の温度感
度係数が得られる。
図2は本実施形態に用いる水晶基板のカット角を説明する説明図である。
水晶のそれぞれ直交する3つの結晶軸において、電気軸をX軸、機械軸をY軸、光学軸
をZ軸とする。
図2に示すように、水晶基板はX軸とZ軸の作る平面を主面とするY板を、X軸の回り
に反時計方向にθ°回転してできる水晶基板1を用いている。そして、X軸と平行な方向
に弾性表面波が伝播するようにIDT電極2を形成している。Y板をX軸の回りに反時計
方向の回転を正符号として表示した場合、本実施形態ではカット角θ=33〜53(°)
となるカット角を用いている。
【0025】
次に、上記のようにカット角を設定した経緯について説明する。
本発明の水素センサは接触燃焼式であることから、水素反応触媒膜に水素ガスが接触し
た際に生ずる発熱を利用している。この発熱により発生する熱量は微量であるため、温度
変化を効率よく検出する必要があり、周波数における温度依存性の高い水晶基板が望まれ
る。
水晶基板における固有周波数の温度依存性は、水晶基板の熱膨張による変化、弾性定数
の温度依存性、熱膨張による密度変化に関係し、これらを考慮して水晶のカット角を選択
することにより決定した。
【0026】
さらに、水晶のカット角を選定するにあたり以下の点について考慮した。まず、水素濃
度の検出感度を0.1%以下とした場合、水素濃度5%を検出する際の温度変化は2〜3
℃であり、水素濃度0.1%あたり0.04〜0.06℃の温度変化となる。ここで、周
波数の検出限界は1ppm程度であり、水晶基板の温度感度(温度感度係数)が30pp
m/℃以上あれば、水素濃度0.1%あたり1.2ppm以上の周波数変化を得ることが
できる。ここで、1℃の温度変化における周波数変化を周波数偏差で表した値を温度感度
係数(ppm/℃)と呼ぶ。
また一方、この温度感度係数を大きくすることは、水素濃度の検出感度を向上させるが
、温度感度係数が大きいと周波数の変動も大きくなり、扱いが困難になる。水素センサの
使用温度範囲を50〜220℃とすると、170℃の温度変化で約10000ppmの周
波数変動の得られる温度感度係数60ppm/℃が適当であると考えられる。
このことから、温度感度係数の絶対値が30〜60ppm/℃となる水晶のカット角を
選ぶことが、水素センサに用いる水晶基板に適しているといえる。
【0027】
図3は図2で説明した水晶基板において、X軸を回転軸としてθ°回転したときのθ°
と温度感度係数との関係を示すグラフである。ここでは、動作温度が100℃、IDT電
極の規格化電極厚みがH/λ=0.08のときのθと温度感度係数との関係を示すグラフ
である。
このグラフから、温度感度係数の絶対値が30〜60ppm/℃のカット角θを選択す
ると、θ=33〜53(°)となる。
【0028】
以上のような構成の水素センサにおいて、水素反応検出素子3は、例えばカット角θ=
33(°)の場合、図4に示すような周波数温度特性を示す。このグラフによれば、水素
反応検出素子3は水晶基板11の温度が上昇するに従い、周波数が低下していく傾向にあ
ることが分かる。
図1に戻り、このような特性をもつ水素反応検出素子3を備えた水素センサは、水素反
応触媒膜14に水素を含むガスが接触して発熱し、その熱が水晶基板11に伝わり、水晶
基板11の温度が上昇する。発振回路により励振されたIDT電極13はこの温度に対応
する周波数を発振する。例えば、この検出された周波数と、水素が存在しない状態で励振
された周波数との差(周波数シフト)から水素濃度を検知することが可能となる。
図5は弾性表面波の周波数シフトと水素濃度の相関を示すグラフであり、カット角θ=
33(°)(温度感度係数:30ppm/℃)、動作温度100℃の場合である。このよ
うに周波数シフトは水素濃度に対応し、周波数シフトから水素濃度を検知することができ
る。
【0029】
このような水素反応検出素子3において、入力側端子16と出力側端子17の間に所定
の高周波信号電圧を印加すると、水晶基板11の表面に入力信号と同じ周波数の弾性表面
波が励振される。弾性表面波はIDT電極13の両側に伝播し、左右の反射器15に反射
されてIDT電極13の中央に向けて戻る結果、弾性表面波が両反射器15の間に閉じ込
められ、定在波が発生する。
水素反応触媒膜14が水素と接触すると、水素反応触媒膜14が発熱して水晶基板11
の温度が上昇する。水晶基板11は、温度によりこの水晶基板を伝播する波の音速が変化
する特性を有しているため、水晶基板11の温度上昇に伴い弾性表面波が伝播する速度、
つまり周波数が変化する。そして、この周波数の変化を検知することで、水素の存在また
は水素の濃度を検知することが可能となる。
【0030】
また、従来のトランスバーサル型の弾性表面波装置は中心周波数に関して、ある程度の
帯域幅を持った周波数特性を有するのに対して、共振子型の弾性表面波装置は中心周波数
の帯域幅が狭く、高いQ値を有する。このことから、トランスバーサル型の弾性表面波装
置を利用するよりも共振子型の弾性表面波装置を利用するほうが、低ノイズ化を図ること
ができ、その感度を向上させることができる。
そして、水素反応触媒膜14として白金またはパラジウムを利用することで、高い水素
選択性を持ち、水素を含まない他の可燃性ガスにほとんど応答しないガス反応触媒膜を構
成することができる。
【0031】
さらに、水晶は加工性が良く量産に適し、また、水晶の主面のカット角(切断方位)を
適宜選択することで水晶基板の温度感度係数を調整できる利点がある。つまり、水晶の主
面のカット角を適宜選択することで温度に対する良好な感度を得ることができ、ひいては
、水素濃度を感度良く検知でき、かつ量産性に優れた水素センサを得ることができる。
また、IDT電極13から励振される弾性表面波として、基板表面の集中度が高いレイ
リー波またはSTW波を用いることが好ましい。このレイリー波およびSTW波は、基板
表面の数μm程度の領域に弾性波が集中しており、基板表面部分の温度変化が周波数の変
化として時間をおかずに現れる。このことから、弾性表面波として、レイリー波またはS
TW波を用いることで、水素などのガス検出において追従性のよい水素センサを提供する
ことができる。
(変形例)
【0032】
図6は、水素反応検出素子における水素反応触媒膜の配置を変えた変形例の構成を示す
模式平面図である。
図6(a)に示す変形例の水素反応検出素子3aは、第1の実施形態と同様に1ポート
共振子型の弾性表面波装置を利用し、水晶基板21表面に交差指電極22a,22bが交
互に配列されたIDT電極23と水素反応触媒膜24とを弾性表面波の伝播経路に沿って
配置し、それらの両側に反射器25を配置している。
また、図6(b)に示す変形例の水素反応検出素子3bは、2ポート共振子型の弾性表
面波装置を利用し、水晶基板31表面に励振用IDT電極32及び受信用IDT電極33
と、この両IDT電極間の弾性表面波の伝播経路に配置された水素反応触媒膜34と、そ
れらを挟むように左右両側に配置された反射器35とを有している。
【0033】
上記のような、それぞれの水素反応検出素子3a,3bにおいても、水素反応触媒膜2
4,34に水素が接触して発熱し、水晶基板21,31の温度が上昇する。このことから
、水晶基板21,31を伝播する弾性表面波の速度、つまり周波数が変化する。そして、
温度変化を周波数信号として検出することで、水素の存在または水素の濃度を検知するこ
とが可能であり、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第2の実施形態)
【0034】
次に第2の実施形態における水素センサについて説明する。
この水素センサは水素反応検出素子の構成が第1の実施形態と異なり、この水素反応検
出素子の構成について詳細に説明する。
【0035】
図7は本実施形態の水素センサに係る水素反応検出素子の構成を示す構成図であり、図
7(a)は模式平面図、図7(b)は同図(a)のB−B断線に沿う模式部分断面図であ
る。
水素反応検出素子4は、圧電材料である水晶基板41の表面にIDT電極43、反射器
45、水素反応触媒膜44を備えている。このように、本実施形態の水素センサは1ポー
ト共振子型の弾性表面波装置が利用されている。
IDT電極43は、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる多数の交差
指電極42a,42bが交互に配列され弾性表面波を励振できるように構成されている。
この、励振される弾性表面波としては様々なタイプの弾性表面波を利用することができる
が、基板表面に弾性波が集中するレイリー波、STW波(SH波の一種)などが好適であ
る。また、弾性表面波の伝播路であるIDT電極43の略中央部の表面には、Al23
らなる絶縁膜48が形成され、その上に白金(Pt)またはパラジウム(Pd)からなる
水素反応触媒膜44が形成されている。なお、このAl23からなる絶縁膜48は陽極酸
化法などの手法により形成され、IDT電極43の一部だけでなくIDT電極43の表面
全体に形成しても良い。
【0036】
そして、弾性表面波の伝播する方向におけるIDT電極43の両側には、格子構造のア
ルミニウム(Al)またはアルミニウム合金からなる反射器45が配置されている。
また、IDT電極43の交差指電極42aは入力側端子46に接続され、交差指電極4
2bは出力側端子47に接続されている。この入力側端子46および出力側端子47は、
IDT電極43を励振させる発振回路(図示せず)に接続されている。このように、共振
子型の弾性表面波装置を利用する水素反応検出素子4と発振回路とを備えることで、水素
センサを構成している。
なお、IDT電極43、反射器45、水素反応触媒膜44は、真空蒸着、スパッタリン
グ、およびフォトリソグラフィなどの従来方法を用いて形成されている。
また、水晶基板41のカット角(切断方位)については、第1の実施形態と同様であり
、説明を省略する。このカット角を適宜選択することで所望の温度感度係数が得られてい
る。
【0037】
このような構成の水素反応検出素子4を備えた水素センサは、水素反応触媒膜44が水
素と接触すると、水素反応触媒膜44が発熱して、その熱が水晶基板41に伝えられて水
晶基板41の温度が上昇する。すると、水晶基板41の温度上昇に伴い弾性表面波が伝播
する速度、つまり周波数が変化する。そして、周波数の変化を検知することで、水素の存
在または水素の濃度を検知することが可能となる。
【0038】
以上のように、本実施形態の水素センサは、絶縁膜48を介して水素反応触媒膜44が
設けられることから、IDT電極43と水素反応触媒膜44との短絡を防止し、より広い
面積に水素反応触媒膜44を配置することが可能である。このことから、ガスによる発熱
を充分に水晶基板41表面に伝達することができ、水晶基板41表面の温度上昇に時間が
かからず、応答性および感度の優れた水素センサを提供できる。
また、実施形態の水素センサは水晶基板41の温度に起因する周波数信号を検出して水
素を検知することができることから、従来の電圧を検出してガスを検知する方法に比べて
感度良くガスを検知することができる。
また、従来のトランスバーサル型の弾性表面波装置は中心周波数に関して、ある程度の
帯域幅を持った周波数特性を有するのに対して、共振子型の弾性表面波装置は中心周波数
の帯域幅が狭く、高いQ値を有する。このことから、トランスバーサル型の弾性表面波装
置を利用するよりも共振子型の弾性表面波装置を利用するほうが、低ノイズ化を図ること
ができ、その感度を向上させることができる。
そして、水素反応触媒膜44として白金またはパラジウムを利用することで、高い水素
選択性を持ち、水素を含まない他の可燃性ガスにほとんど応答しないガス反応触媒膜を構
成することができる。
(変形例)
【0039】
次に第2の実施形態における水素センサの変形例ついて説明する。
この水素センサは水素反応検出素子の構成が第2の実施形態と異なり、この水素反応検
出素子の構成について詳細に説明する。なお、第2の実施形態と同様の構成については同
符号を付し、説明を省略する。
【0040】
図8は変形例の水素センサに係る水素反応検出素子の構成を示す構成図であり、図8(
a)は模式平面図、図8(b)は同図(a)のC−C断線に沿う模式部分断面図である。
水素反応検出素子5は、圧電材料である水晶基板41の表面にIDT電極43、反射器
45、水素反応触媒膜54を備えている。このように、本変形例の水素センサは1ポート
共振子型の弾性表面波装置が利用されている。そして、IDT電極43の略中央部にはI
DT電極43を覆うように、SiO2からなる絶縁膜58が形成され、その上に白金(P
t)またはパラジウム(Pd)からなる水素反応触媒膜54が形成されている。
【0041】
また、IDT電極43の交差指電極42aは入力側端子46に接続され、交差指電極4
2bは出力側端子47に接続されている。この入力側端子46および出力側端子47は、
IDT電極43を励振させる発振回路(図示せず)に接続されている。このように、共振
子型の弾性表面波装置を利用する水素反応検出素子5と発振回路とを備えることで、水素
センサを構成している。
【0042】
以上のように、本変形例の水素センサは第2の実施形態と同様に、絶縁膜58を介して
水素反応触媒膜54が設けられることから、IDT電極43と水素反応触媒膜54との短
絡を防止し、より広い面積に水素反応触媒膜54を配置することが可能である。このこと
から、ガスによる発熱を充分に水晶基板41表面に伝達することができ、水晶基板41表
面の温度上昇に時間がかからず、応答性および感度の優れた水素センサを提供できる。
【0043】
次に、本実施形態の水素センサを用いた水素濃度検出システムの一例を説明する。
図9は水素センサを用いた水素濃度検出システムの構成を示す概略構成図である。
水素センサ71は水素反応検出素子3と発振回路70を備えている。水素反応検出素子
3には帰還抵抗6、インバータ7が並列に接続され、ゲート側にはゲート容量8、ドレイ
ン側にはドレイン容量9が接続され、水素反応検出素子3のIDT電極を励振させる発振
回路70を構成している。
水素センサ71の発振回路70は整流器72に接続され、整流器72は周波数カウンタ
73に接続されている。さらに、周波数カウンタ73は演算器74に接続され、演算器7
4から所望の信号を出力する。
【0044】
このような構成の水素濃度検出システムにおいて、発振回路70により水素反応検出素
子3の周波数信号が整流器72に出力される。整流器72において周波数信号が整流され
、周波数カウンタ73に出力される。周波数カウンタ73にて周波数が計測され演算器7
4に出力される。演算器74では、例えば、計測された周波数と基準となる周波数とから
水素濃度を演算し、水素濃度の値、規格値を超えた場合のアラーム信号、電磁弁制御の信
号などを生成して出力する。
このように、水素濃度検出システムでは、水素センサ71から出力される周波数信号を
用いて水素濃度を検知することができ、この得られた水素濃度を基に様々な機器へ制御信
号などを出力することができる。
【0045】
なお、上記の回路のうち一部をIC化することも可能であり、周波数カウンタ73、演
算器74を1チップマイコンとして構成することもできる。また、信号処理をアナログ処
理、ディジタル処理のどちらを用いても実施は可能である。
【0046】
なお、本実施形態の水素センサにおいて、水晶基板と水素反応触媒膜の温度を制御する
温度制御手段を備えていても良い。例えば、水素反応触媒膜を水晶基板のIDT電極以外
の部分に設け、この水素反応触媒膜に通電することにより発熱が生じ水晶基板の温度が上
昇する。このことから、適宜電流の大きさ、通電時間を制御することで水晶基板の温度を
ガス雰囲気温度よりも高い温度で制御することができる。
このようにすれば、ガス雰囲気温度の変化、またはガスと反応して触媒媒質が発熱の際
に生じる水の影響を排除することができ、感度に優れたガスセンサを提供することができ
る。
【0047】
なお、本実施形態の水素センサでは圧電基板として水晶基板を用いたが、他にタンタル
酸リチウム、ニオブ酸リチウムなどの圧電材料を用いて圧電基板を構成しても実施が可能
である。
また、水素反応触媒膜として白金(Pt)、パラジウム(Pd)を用いたが、水素吸蔵
合金においても水素を吸収して発熱する性質があり、白金、パラジウムに替わり水素吸蔵
合金を利用して水素センサを構成することも可能である。
さらに、本実施形態のガスセンサは、水素の酸化作用により水が形成される際の発熱を
利用していることから、水素(H2)を検出するだけでなく、水素原子を含むシランガス
(SiH4)、ジボランガス(B24)、フォスフィン(PH4)、エタンガス(CH4
、エチレンガス(C26)などのガスを検出することに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1の実施形態の水素センサに係る水素反応検出素子の構成を示し、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のA−A断線に沿う模式断面図。
【図2】水晶基板のカット角を示す説明図。
【図3】カット角θと温度感度係数との関係を示すグラフ。
【図4】水素反応検出素子の周波数温度特性を示すグラフ。
【図5】水素反応検出素子の周波数シフトと水素濃度の相関を示すグラフ。
【図6】水素反応検出素子における水素反応触媒膜の配置を変えた変形例の構成を示す模式平面図。
【図7】第2の実施形態の水素センサに係る水素反応検出素子の構成を示し、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のB−B断線に沿う模式断面図。
【図8】第2の実施形態の水素センサにおける変形例の水素反応検出素子の構成を示し、(a)は模式平面図、(b)は同図(a)のC−C断線に沿う模式断面図。
【図9】水素センサを用いた水素濃度検出システムの一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0049】
3,4,5…水素反応検出素子、11…圧電基板としての水晶基板、12a,12b…
交差指電極、13…IDT電極、14…ガス反応触媒膜としての水素反応触媒膜、15…
反射器、16…入力側端子、17…出力側端子、41…圧電基板としての水晶基板、42
a,42b…交差指電極、43…IDT電極、44…ガス反応触媒膜としての水素反応触
媒膜、45…反射器、46…入力側端子、47…出力側端子、48…絶縁膜、54…ガス
反応触媒膜としての水素反応触媒膜、58…絶縁膜、70…発振回路、71…ガスセンサ
としての水素センサ、72…整流器、73…周波数カウンタ、74…演算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の表面に形成され多数の交差指電極を有するIDT電極と、
前記圧電基板に形成されガスに反応して発熱するガス反応触媒膜と、
前記IDT電極により励振される弾性表面波の伝播方向に沿って前記IDT電極の両側
に配置された1対の反射器と、
前記IDT電極を励振させる発振回路と、を備え、
前記ガス反応触媒膜が前記IDT電極で励振される前記弾性表面波の伝播路上に形成さ
れ、前記ガス反応触媒膜の発熱による前記圧電基板の温度変化を周波数信号として検出す
ることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサにおいて、
前記ガス反応触媒膜が前記IDT電極における前記交差指電極の間の前記弾性表面波伝
播路上に形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1に記載のガスセンサにおいて、
前記ガス反応触媒膜が前記IDT電極を覆う絶縁膜上でかつ、前記弾性表面波伝播路上
に形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスセンサにおいて、
前記ガス反応触媒膜は白金またはパラジウムから選択される材料で形成されていること
を特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガスセンサにおいて、
前記圧電基板が水晶基板であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサにおいて、
水晶の結晶の電気軸をX軸、機械軸をY軸、光学軸をZ軸として、
X軸とZ軸の作る平面を主面とするY板をX軸の回りに反時計方向にθ°回転してできる
水晶基板から、X軸に平行に前記弾性表面波が伝播するように前記IDT電極が形成され
ており、
θ=33〜53(°)
であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項7】
請求項6に記載のガスセンサにおいて、
前記IDT電極より励振される弾性表面波がレイリー波またはSTW波であることを特
徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−224582(P2008−224582A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66481(P2007−66481)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 地域新生コンソーシアム研究開発事業 「水晶MEMS技術による超高感度・超小型次世代センサの開発」産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】