説明

ガスセンサ

【課題】 シリコン等の被毒物質に対する被毒耐性が高く、ガス感度の経時的な変化を長期間に亘って抑制できるガスセンサを提供すること。
【解決手段】 ガスセンサ100は、酸化物半導体からなる感ガス膜131と、この感ガス膜131上に分散された触媒粒子133と、これら感ガス膜131及び触媒粒子133上に形成された保護層140とを有する。このうち保護層140は、平均粒子径Dが500nm以下の酸化物粒子141から構成されている。また、保護層140は、平均粒子径をD(nm)、保護層140の厚みをTH(nm)としたとき、20≦TH/D≦500となる形態とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感ガス膜を有するガスセンサに関し、特に、感ガス膜が酸化物半導体からなり、この感ガス膜上にガス透過性を有する保護層が形成されたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被検知ガスの濃度変化によって電気的特性が変化する感ガス膜を備え、被検知ガスの有無や濃度を検出するガスセンサが知られている。このようなガスセンサの中には、感ガス膜が酸化スズなどの酸化物半導体からなり、この感ガス膜上にガス透過性を有する保護層が形成されたものがある。例えば、特許文献1や特許文献2にこのようなガスセンサが開示されている。
【0003】
このようなガスセンサは、シリコン等の被毒ガス成分に接触すると、酸化物半導体からなる感ガス膜が被毒し、ガスセンサの特性が劣化することがあるので、経時的に安定したガス検知を行うことができないことがある。このような問題を解決するために、予想される被毒物質を用いてガスセンサの特性を予めある程度変化させておくことで、実使用時の特性変化を抑制する手法が用いられることがある。しかしながら、ガスセンサの使用環境には多様な状況が存在するため、予め行う被毒の程度を規定することは困難であり、その上、その効果も被毒初期の大きな特性変化を抑えるだけに過ぎなかった。
【0004】
これに対し、特許文献1のガスセンサでは、酸化スズからなる酸化物半導体の感ガス膜を覆うように、酸化スズと無定型アルミナ等の混合物からなるフィルタ層(保護層)を形成することを提案している(特許文献1の特許請求の範囲等を参照)。このようなフィルタ層を設けることにより、被毒に対する耐久性を高め、かつ、経時的安定性、初期安定化時間の短縮等について優れた効果が得られる旨が記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、酸化スズからなる酸化物半導体の感ガス膜上に、酸化タングステンや酸化チタン、酸化亜鉛等からなるコーティング層(保護層)を設けたガスセンサが記載されている(引用文献2の特許請求の範囲等を参照)。このようなガスセンサは、検知対象の各種の臭いに対する感度を高めると共に、無臭ガスに対する感度を低下させることで、S/N比を向上させ、より低濃度で臭いの計測を正確に行うことができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−166567号公報
【特許文献2】特許第3171745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のガスセンサも、特許文献2に記載のガスセンサも、シリコン等の被毒物質に対する被毒耐性が十分ではなく、ガス感度の経時的な変化を長期間に亘って抑えることができなかった。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、シリコン等の被毒物質に対する被毒耐性が高く、ガス感度の経時的な変化を長期間に亘って抑制できるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その解決手段は、酸化物半導体からなる感ガス膜と、この感ガス膜上に形成されたガス透過性を有する保護層と、を備えるガスセンサであって、前記保護層は、平均粒子径が500nm以下の酸化物粒子から構成されてなるガスセンサである。
【0010】
前述の特許文献1,2の記載事項からも明らかなように、従来は、どのような材質を用いて保護層を形成するかを検討することにより、ガスセンサの被毒耐性や経時的安定性を向上させる技術思想に過ぎなかった。しかしながら、保護層をなす材質を適宜選択するだけでは、十分な被毒耐性を得られず、ガス感度の経時的な変化を長期間に亘って抑制することができなかった。
これに対し、本発明では、保護層を酸化物粒子から形成するとした上で、更にその平均粒子径をも考慮している。酸化物粒子の平均粒子径を特定することにより、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子が密に充填された保護層を得ることができる。このような保護層を感ガス膜上に設けることにより、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、シリコン等の被毒物質の捕捉効果を高くして、被毒物質が透過して感ガス膜に接触するのを抑制できる。従って、被毒物質に対する被毒耐性を高くし、ガス感度の経時的な変化を少なくすることができる。
【0011】
なお、シリコン等の被毒物質を保護層内で効果的に捕捉すべく、酸化物粒子の比表面積を高めておくという理由から、平均粒子径が150nm以下、更に好ましくは100nm以下の酸化物粒子を用いて保護層を構成するのがよい。
また、ガス流通が過度に律速すると、ガス検知の応答性が低下する可能性があることから、平均粒子径が5nm以上の酸化物粒子を用いて保護層を形成するのが好ましい。
【0012】
「ガスセンサ」としては、一酸化炭素ガス、炭化水素系ガス(LPG、都市ガス、天然ガス、メタンガス、ハロゲン化炭化水素系ガス等)、アルコール系ガス、アルデヒド系ガス、水素ガスなどの還元性ガスを検知できるものや、二酸化窒素などの酸化性ガスを検知できるものなどが挙げられる。また、「ガスセンサ」としては、アンモニア、硫化水素ガス、酢酸エチルといった臭気性の強い臭気ガスを検知できるものも挙げられる。
【0013】
「保護層」は、平均粒子径が500nm以下の酸化物粒子から構成されていればよく、1層からなるものでも複数層からなるものでもよい。また、「保護層」は、1種類の酸化物粒子により構成されたものでもよいし、平均粒子径の異なる、または、材質の異なる複数種類の酸化物粒子から構成されたものでもよい。更に、酸化物粒子が複数種類の場合には、「保護層」は、これらの粒子が均一に混ざった状態で分布しているものでもよいし、例えば保護層のうち感ガス膜側の部分と表面側の部分とで異なる種類の酸化物粒子が分布しているなど、複数種類の酸化物粒子が場所によって異なる状態で分布しているものでもよい。
【0014】
また、「保護層」は、主として、平均粒子径が500nm以下の酸化物粒子から構成されていればよく、このような酸化物粒子のみから構成されたものでよいし、酸化物以外の粒子(例えば触媒粒子)が若干混在したものでもよい。但し、「保護層」は、その内部に触媒粒子を含まないもの、つまり、感ガス膜に付着していない状態の触媒粒子を含まないものがよい。保護層内部に触媒粒子を含んでいると、被検知ガスの触媒反応が保護層内部でも起こり得るため、その結果、感ガス膜上の触媒粒子における触媒反応が少なくなって、ガス感度が低下するおそれがあるからである。
【0015】
保護層を構成する「酸化物粒子」としては、酸化チタン粒子、酸化タングステン粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子、酸化スズ粒子などが挙げられる。
なお、保護層をなす酸化物粒子の「平均粒子径」は、例えば、日立製FB−2100などの装置を用いてFIB加工を行った後、日立製HD−2000などの装置を用いて、少なくとも30ヶの酸化物粒子が観察される視野にてTEM観察することにより、求めることができる。
【0016】
「感ガス膜」としては、例えば酸化スズや酸化インジウム等の酸化物半導体から構成されているものが挙げられる。また、感ガス膜は、薄膜形成されたものでも、厚膜形成されたものでもよい。なお、感ガス膜に対して、触媒粒子を組み合せてもよく、その具体的な形態として、感ガス膜上に触媒粒子を分散させた形態を採ってもよいし、感ガス膜内に触媒粒子を分散させた形態を採ってもよい。
【0017】
更に、上記のガスセンサであって、前記保護層は、前記平均粒子径をD(nm)、前記保護層の厚みをTH(nm)としたとき、20≦TH/D≦500とされてなるガスセンサとすると良い。
【0018】
平均粒子径Dと保護層の厚みTHとの関係をTH/D≧20とすることにより、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
一方、TH/Dの値が500を超えると、ガス透過性が阻害されるなどのおそれがあるため、TH/D≦500を満たすことがよく、ガス検知の応答性を良好に得るには、TH/D≦300とするのが好ましい。
なお、保護層の厚みTHは、感ガス膜の表面から保護層の表面までの寸法を指す。
【0019】
更に、上記のいずれかに記載のガスセンサであって、前記感ガス膜上に分散された触媒粒子を備え、前記保護層は、前記感ガス膜及び前記触媒粒子上に形成されてなるガスセンサとすると良い。
【0020】
このように、感ガス膜上に触媒粒子を分散させることで、保護層を透過したガスが触媒粒子及び感ガス膜の両者に効果的に接することになるため、ガス感度を高めることができる。
【0021】
更に、上記のガスセンサであって、前記保護層は、前記触媒粒子が露出しない膜厚を有してなるガスセンサとすると良い。
【0022】
保護層が、触媒粒子が露出しない膜厚を有することにより、保護層の持つ被毒物質の捕捉効果をより向上させて、被毒物質が感ガス膜に接触するのをより効果的に抑制できる。従って、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0023】
更に、上記のいずれかに記載のガスセンサであって、前記保護層は、これに含まれる細孔全体の容積に占める、前記平均粒子径以下の細孔径を有する細孔の割合が、50%以上とされてなるガスセンサとすると良い。
【0024】
このように小さな細孔が多く存在する保護層は、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子が密に充填されている。このため、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0025】
なお、「細孔径」の分布は、水銀圧入法(JIS R1655)、または、窒素ガス吸着法により求めることができる。水銀圧入法により細孔径分布を測定する場合には、例えば、島津製作所製オートポアIV9510を使用し、0.5psia〜36000psiaの圧力入力により、細孔径分布を求めることができる。また、窒素ガス吸着法により細孔径分布を測定する場合には、例えば、日本ベル株式会社製高精度全自動ガス吸着装置を使用し、吸着曲線を測定することにより、細孔径分布を求めることができる。
また、大きな細孔径の測定は水銀圧入法がより適しており、小さな細孔径の測定は窒素ガス吸着法がより適しているので、例えば、100nm以上の細孔径を水銀圧入法で測定すると共に、100nm未満の細孔径を窒素ガス吸着法で測定するなど、細孔径の大きさに応じて測定方法を適宜変更することもできる。
【0026】
更に、上記のいずれかに記載のガスセンサであって、前記保護層は、これに含まれる細孔全体の容積に占める、前記平均粒子径の3倍以上の細孔径を有する細孔の割合が、10%以下(0%を含む)とされてなるガスセンサとすると良い。
【0027】
このように大きな細孔が少ない保護層は、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子が密に充填されている。このため、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0028】
更に、上記のいずれかに記載のガスセンサであって、前記保護層は、これに含まれる細孔全体の容積に占める、水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔の割合が、5%以下(0%を含む)とされてなるガスセンサとすると良い。
【0029】
このように大きな細孔が少ない保護層は、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子が密に充填されている。このため、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0030】
更に、上記のいずれかに記載のガスセンサであって、前記保護層は、その表面から見たときに、前記平均粒子径の10倍以上の開口径を有する細孔が観察されない形態とされてなるガスセンサとすると良い。
【0031】
このように大きな細孔が観察されない保護層は、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子が密に充填されている。このため、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0032】
更に、上記のいずれかに記載のガスセンサであって、前記保護層は、前記感ガス膜上に前記酸化物粒子を堆積させ、前記酸化物粒子同士が焼結しない温度範囲で熱処理させてなるガスセンサとすると良い。
【0033】
このような保護層は、酸化物粒子同士が焼結しない温度範囲で熱処理されることで、酸化物粒子同士が良好に物理結合されて、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子が密に充填されている。このため、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0034】
更に、上記にいずれかに記載のガスセンサであって、前記酸化物粒子として酸化チタン粒子を用いてなるガスセンサとすると良い。
【0035】
酸化物粒子として、金属酸化物粒子、特に酸化チタン粒子を用いることにより、その他の酸化物粒子を用いる場合に比して、シリコン等の被毒物質を捕捉する能力が高いため、効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できる。このため、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態に係るガスセンサに関し、(a)は感ガス膜側から見た平面図であり、(b)は発熱抵抗体コンタクト部近傍の側面を見た側面図である。
【図2】実施形態に係るガスセンサのうち、感ガス膜付近の部分拡大図である。
【図3】実施形態に係るガスセンサのうち、発熱抵抗体コンタクト部付近の部分拡大図である。
【図4】実施形態に係るガスセンサのうち、感ガス膜、触媒粒子及び保護層近傍の部分拡大断面図である。
【図5】実施例1〜4及び比較例1〜4に係るガスセンサについて、シリコン被毒に対するガス感度の変化を示すグラフである。
【図6】実施例1〜4及び比較例1〜4に係るガスセンサについて、シリコン被毒に対するガス感度変化率の変化を示すグラフである。
【図7】実施例5〜7及び比較例5,6に係るガスセンサについて、シリコン被毒に対するガス感度の変化を示すグラフである。
【図8】実施例5〜7及び比較例5,6に係るガスセンサについて、シリコン被毒に対するガス感度変化率の変化を示すグラフである。
【図9】実施例8に係るガスセンサについて、シリコン被毒に対するガス感度の変化及びガス感度変化率の変化を示すグラフである。
【図10】保護層を構成する酸化物粒子が異なるガスセンサについて、保護層に含まれる細孔の細孔径と細孔容積との関係を示すグラフである。
【図11】保護層を構成する酸化物粒子が異なるガスセンサについて、保護層に含まれる細孔の細孔径と累積割合との関係を示すグラフである。
【図12】実施例2に係るガスセンサの保護層を、その表面から観察したSEM画像である。
【図13】実施例2に係るガスセンサの保護層について、図12の一部を拡大して観察したSEM画像である。
【図14】実施例2に係るガスセンサの保護層について、図12の他の一部を拡大して観察した別のSEM画像である。
【図15】実施例8に係るガスセンサの保護層を、その表面から観察したSEM画像である。
【図16】実施例4に係るガスセンサの保護層を、その表面から観察したSEM画像である。
【図17】変形形態に係るガスセンサのうち、触媒粒子を内部に含む感ガス膜、及び、保護層の近傍の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1〜図4に本実施形態に係るガスセンサ100を示す。図2は、図1に示すガスセンサ100のA−A断面の一部を示す部分拡大図に相当し、図3は、図1に示すガスセンサ100のB−B断面の一部を示す部分拡大図に相当する。また、図4は、ガスセンサ100のうち、感ガス膜131、触媒粒子133及び保護層140近傍の部分拡大断面図を示す。なお、図2では触媒粒子133を便宜上、層状に示しているが、実際は、図4に示したように、感ガス膜131上に分散されている。
【0038】
このガスセンサ100は、二酸化窒素などの酸化性ガスの存在により後述する感ガス膜131の電気的特性(具体的には、電気抵抗値)が変化することを利用して、被検知ガスによる濃度変化の検知(汚染検知)を行う。このガスセンサ100は、図1に示すように平面視矩形状をなし、図2〜図4に示すように、厚み400μmのシリコン基板101の表面101b及び裏面101c上に表面側絶縁被膜110及び裏面側絶縁被膜120が形成され、更に表面側絶縁被膜110上に感ガス膜131、触媒粒子133及び保護層140が形成された構造を有する。
【0039】
このうち、表面側絶縁被膜110は、シリコン基板101の表面101b上に形成された4層の絶縁層111,112,113,114からなり、一方の裏面側絶縁被膜120は、シリコン基板101の裏面101c上に形成された2層の絶縁層121,122からなる。絶縁層111及び絶縁層121は、酸化ケイ素からなり、シリコン基板101の表面101b及び裏面101c上にそれぞれ形成されている。絶縁層112及び絶縁層122は、窒化ケイ素からなり、絶縁層111及び絶縁層121上にそれぞれ形成されている。また、絶縁層113は、酸化ケイ素からなり、絶縁層112上に形成されている。更に、絶縁層114は、窒化ケイ素からなり、絶縁層113上に形成されている。
【0040】
表面側絶縁被膜110の絶縁層113の内部には、発熱抵抗体151が埋設されている。この発熱抵抗体151は、通電により発熱し、酸化物半導体からなる感ガス膜131を200℃以上に加熱して、当該感ガス膜131の活性化を図るものである。また、この絶縁層113の内部には、発熱抵抗体151に電気的に接続し、発熱抵抗体151に通電するための一対のリード部153が埋設されている。このリード部153は、図1及び図3に示すように、その末端において、外部回路と接続するための一対の発熱抵抗体コンタクト部160と電気的に接続している。この発熱抵抗体コンタクト部160は、平面視矩形状をなす。発熱抵抗体151及びリード部153は、白金層とタンタル層とからなる2層構造を有する。また、発熱抵抗体コンタクト部160は、チタン層及び白金層からなる引き出し電極161上に、金からなる発熱体コンタクトパッド163が形成された構造を有する(図3参照)。
【0041】
また、ガスセンサ100には、図2に示すように、裏面側絶縁被膜120及びシリコン基板101が部分的に凹状に除去されて、表面側絶縁被膜110の絶縁層111が底面に露出した凹部103が形成されている。この凹部103は、上述の発熱抵抗体151に対応した位置に設けられている。
【0042】
図2に示すように、表面側絶縁被膜110上(絶縁層114上)のうち、発熱抵抗体151に対応した位置には、電極155が形成されている。また、表面側絶縁被膜110上(絶縁層114上)には、この電極155と電気的に接続し、電極155に通電するための一対のリード部157(図3参照)が形成されている。これら電極155及びリード部157は、発熱抵抗体コンタクト部160の引き出し電極161と同様に、絶縁層114上に形成されたチタン層とその上に形成された白金層とから構成されている。また、このリード部157は、図1及び図3に示すように、その末端において、外部回路と接続するための一対の検知体コンタクトパッド170と電気的に接続している。この検知体コンタクトパッド170は、金からなり、平面視矩形状をなす。
【0043】
また、図2に示すように、感ガス膜131は、酸化物半導体である酸化スズからなり、表面側絶縁被膜110上(絶縁層114上)で電極155を覆うように形成されている。そして、この感ガス膜131上には、金からなる触媒粒子133が分散した状態で配置されている(図4も参照)。
【0044】
更に、感ガス膜131及び触媒粒子133全体の上には、これらを覆う保護層140が形成されている。この保護層140は、平均粒子径が500nm以下の酸化物粒子、具体的には、平均粒子径20nmの酸化チタン粒子141が密に充填されることにより構成されると共に、厚み方向に沿ってガス透過性を有するように構成されている。また、この保護層140は、酸化チタン粒子141の平均粒子径をD(nm)、保護層140の厚みをTH(nm)としたときに、20≦TH/D≦500を満たす形態、具体的には、保護層140の厚みTHが1000nmであるので、TH/D=50となる形態とされている。また、この厚みTHは、触媒粒子133が外部に露出しない膜厚でもある。
【0045】
後述するように、更にこの保護層140は、この保護層140に含まれる細孔全体の容積(全細孔容積)に占める、平均粒子径D以下の細孔径を有する細孔の割合が、50%以上とされている。具体的には、平均粒子径Dは上記のように20nmであり、20nm以下の細孔径を有する細孔の上記割合が、約88%である。
また、この保護層140は、これに含まれる細孔全体の容積(全細孔容積)に占める、平均粒子径Dの3倍以上の細孔径を有する細孔の割合が、10%以下とされている。具体的には、平均粒子径D=20nmの3倍(60nm)以上の細孔径を有する細孔の上記割合が、約1%である。
また、この保護層140は、これに含まれる細孔全体の容積(全細孔容積)に占める、水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔の割合が、5%以下(0%を含む)とされている。具体的には、水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔が全く存在しない。
【0046】
また、この保護層140は、その表面から見たときに、平均粒子径Dの10倍以上の開口径を有する細孔が観察されない形態とされている。具体的には、表面のSEM像を見たときに、平均粒子径D=20nmの10倍(200nm)以上の開口径を有する細孔が全く観察されない形態とされている。
また、保護層140は、感ガス膜131及び触媒粒子133上に、酸化チタン粒子141を堆積させ、酸化チタン粒子141同士が焼結しない温度範囲で熱処理させることにより形成されている。
【0047】
このように、本実施形態のガスセンサ100は、保護層140が、平均粒子径500nm以下の酸化物粒子141から構成されているので、被検知ガスに対する透過性を有しつつも、シリコン等の被毒物質を効果的に捕捉して、被毒物質が保護層140を透過して感ガス膜131に接触するのを抑制できる。従って、被毒物質に対する被毒耐性を高くし、ガス感度の経時的な変化を少なくすることができる。
【0048】
更に、本実施形態では、保護層140は、前述のように、酸化チタン粒子141の平均粒子径D(nm)と保護層140の厚みTH(nm)との関係が、TH/D=50となる形態とされているので、シリコン等の被毒物質の捕捉能力を向上させて、被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくできる。
【0049】
また、保護層140は、これに含まれる細孔全体の容積に占める、平均粒子径D=20nm以下の細孔径を有する細孔の割合が約88%である。また、保護層140は、これに含まれる細孔全体の容積に占める、平均粒子径D=20nmの3倍(60nm)以上の細孔径を有する細孔の割合が約1%である。また、保護層140は、水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔が全く存在しない。また、保護層140は、その表面をSEMで観察したときに、平均粒子径D=20nmの10倍(200nm)以上の開口径を有する細孔が全く観察されない形態とされている。また、保護層140は、後述するように、感ガス膜131及び触媒粒子133上に、酸化チタン粒子141を堆積させ、酸化チタン粒子141同士が焼結しない温度範囲で熱処理されている。このような保護層140は、ガス透過性を有した状態でありながら、酸化物粒子141が密に充填されている。このため、被検知ガスのガス透過性を阻害することなく、被毒物質の捕捉効果をより向上させて、より効果的に被毒物質が感ガス膜に接触するのを抑制できるので、被毒物質に対する被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくすることができる。
【0050】
また、保護層140を構成する酸化物粒子として酸化チタン粒子141を用いているので、被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくできる。また、保護層140は、触媒粒子133が露出しない膜厚(厚みTH)を有しているので、被毒耐性を更に高くし、ガス感度の経時的な変化を更に少なくできる。
【0051】
次いで、このガスセンサ100の製造方法について説明する。
まず、厚みが400μmのシリコン基板101を用意し、これを洗浄液中に浸して、洗浄処理を行う。
次に、洗浄したシリコン基板101を熱処理炉に入れ、熱酸化処理により厚みが100nmの酸化ケイ素層(絶縁層111,121)をシリコン基板101の表面101b及び裏面101cの全面に形成する。
その後、LP−CVDにてSiH2Cl2、NH3をソースガスとし、シリコン基板101の表面101b側(絶縁層111上)に、厚み200nmの窒化ケイ素層(絶縁層112)を形成する。また同様に、シリコン基板101の裏面101c側(絶縁層121上)に、厚み100nmの窒化ケイ素層(絶縁層122)を形成する。これにより、絶縁層11と絶縁層122とからなる裏面側絶縁被膜120が形成される。
【0052】
次に、プラズマCVDにてTEOS、O2をソースガスとし、表面101b側の絶縁層112上に厚み100nmの酸化ケイ素層(絶縁層113の下側の一部となる絶縁層)を形成する。
その後、DCスパッタ装置を用いて、絶縁層113上に厚み20nmのタンタル層を形成し、更にその上に厚み220nmの白金層を形成する。このスパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストを形成してパターニングを行い、ウェットエッチング処理を施して、発熱抵抗体151及びリード部153を形成する。
【0053】
そして、プラズマCVDにてTEOS、O2をソースガスとし、上記の酸化ケイ素層(絶縁層113の下側の一部)、発熱抵抗体151及びシード部153上に、厚み100nmの酸化ケイ素層(絶縁層113の上側の一部となる絶縁層)を形成する。かくして、厚み200nmの絶縁層113を形成し、この内部に発熱抵抗体151及びリード部153を埋設する。
その後、LP−CVDにてSiH2Cl2、NH3をソースガスとし、絶縁層113上に厚み200nmの窒化ケイ素層(絶縁層114)を形成する。これにより、絶縁層111、絶縁層112、絶縁層113及び絶縁層114からなる表面側絶縁被膜110が形成される。
【0054】
次に、フォトリソグラフィによりレジストを形成してパターニングを行い、ドライエッチング法により絶縁層113及び絶縁層114のエッチングを行って、発熱抵抗体コンタクト部160を形成する部分に穴をあけ、リード部153の一部を露出させる。
次に、DCスパッタ装置を用いて、絶縁層114上に厚み20nmのチタン層を形成し、更にその上に厚み40nmの白金層を形成する。このスパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストを形成してパターニングを行い、ウエットエッチング処理により所定パターンの電極151、リード部157及び引き出し電極161を形成する。
そして、DCスパッタ装置を用いて、基板の絶縁層114側に厚み400nmの金層を形成する。このスパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストを形成してパターニングを行い、ウエットエッチング処理を施して発熱体コンタクトパッド163及び検知体コンタクトパッド170を形成する。
【0055】
次に、フォトリソグラフィによりレジストを形成してパターニングを行い、ドライエッチング処理により、発熱抵抗体151に対応する部分の裏面側絶縁被膜120をエッチングする。そして、この基板をTMAH溶液中に浸し、シリコン基板101の異方性エッチングを行うことにより、発熱抵抗体151に対応する部分の表面側絶縁被膜110(具体的には絶縁層111)が底面に露出する凹部103を形成する。
【0056】
次に、表面側絶縁被膜110の絶縁層114上のうち、発熱抵抗体151及び凹部103に対応する位置に、RFスパッタ装置を用いて、酸化スズからなる感ガス膜131を形成する。具体的には、RFスパッタ装置に、アルゴンガスと酸素ガスをAr/(Ar+O2 )の割合が28%となるように導入し、ガス圧を2.0Pa、電力密度を4.34kW/cm2 、成膜速度を4.8nm/min、基板温度を240℃として42分間スパッタ処理を行い、厚み200nmの感ガス膜131を形成する。なお、このスパッタ処理のターゲット面積は5インチ×10インチ(12.7cm×25.4cm)を使用する。
【0057】
次に、感ガス膜131上に、DCスパッタ装置を用いて、金を付着させて触媒粒子133を形成する。具体的には、DCスパッタ装置に、アルゴンガスを導入し、ガス圧を2.0Pa、電力密度を0.62kW/cm2 、成膜速度を11.4nm/min、基板を加熱しない状態で48秒間スパッタ処理を行い、触媒粒子133を形成する。なお、このスパッタ処理のターゲット面積も5インチ×10インチ(12.7cm×25.4cm)とする。
その後、RFスパッタ装置を用いて、酸素濃度が10ppm以下の雰囲気下において360℃で3時間、熱処理を行った。なお、この熱処理は、RFスパッタ装置を用いる代わりに真空熱処理炉を用いても良い。また、酸素濃度は0.2ppm〜5ppmとするのが好ましい。
【0058】
次に、感ガス膜131及び触媒粒子133上に、保護層140を形成した。具体的には、まず、発熱抵抗体コンタクト部160及び検知体コンタクトパッド170をマスキングする。その後、所望の大きさ(本実施形態では平均粒子径Dが20nm)の酸化チタン粉末を、分散剤であるポリアクリル酸アンモニウムと共に水に分散させた所定の粘度を有する(本実施形態では粘度50mPa・s)ゾルを作成し、感ガス膜131及び触媒粒子133上にスピンコートする。なお、スピンコート時の条件を調整することで、保護層140を所望の厚みに調整することができ、本実施形態では、スピンコート時の回転数を5000rpm、基板温度を25℃、周辺相対湿度を40%RHに調整してスピンコートを行うことで、厚みTHが1000nmとなる保護層140を形成した。そして、自然乾燥後、更に熱処理炉において、酸化チタン粒子141同士が焼結しない温度範囲(本実施形態では350℃)で1時間加熱を行って保護層140を乾燥させ、更に酸化チタン粒子141同士を物理結合させて、酸化チタン粒子141が密に充填された保護層140を形成する。
その後は、ダイシングソーを用いて基板を平面視2.6mm×2mmの大きさに切断し、上記ガスセンサ100を完成させた。
【0059】
(実施例)
本発明の効果を検証するために、本発明に係る実施例1〜4のガスセンサとして、上記実施形態のガスセンサ100において保護層140を構成する酸化物粒子の材質及び粒径を変更したガスセンサを4種類用意した。具体的には、実施例1として、平均粒子径D=7nmの酸化チタン粒子から形成された保護層140を有するガスセンサ100を用意した。また、実施例2として、平均粒子径D=20nmの酸化チタン粒子から形成された保護層140を有するガスセンサ100を用意した。また、実施例3として、平均粒子径D=100nmの酸化チタン粒子から形成された保護層140を有するガスセンサ100を用意した。また、実施例4として、平均粒子径D=300nmの酸化タングステン粒子から形成された保護層140を有するガスセンサ100を用意した。なお、保護層140を構成する酸化物粒子の平均粒子径Dは、日立製FB−2100を用いてFIB加工を行った後、日立製HD−2000を用いてTEM観察することによりそれぞれ求めた。
【0060】
一方、比較例1〜4として、上記実施形態に係るガスセンサ100の保護層140の構成を変更したガスセンサを4種類用意した。具体的には、比較例1として、平均粒子径D=700nmの酸化アルミニウム粒子から形成された保護層を有するガスセンサを用意した。また、比較例2として、平均粒子径D=1000nmの酸化チタン粒子から形成された保護層を有するガスセンサを用意した。また、比較例3として、平均粒子径D=3000nmの酸化ケイ素粒子から形成された保護層を有するガスセンサを用意した。また、比較例4として、保護層を有しないガスセンサを用意した。
【0061】
次に、これら実施例1〜4及び比較例1〜4のガスセンサ100等について、被毒物質としてのシリコンが存在する状況下で、二酸化窒素ガス(NO2)に対する感度についての耐久試験を行った。具体的には、各ガスセンサ100等を、金ワイヤーを用いて測定治具に電気的に接続した。そして、試験ガス中に各ガスセンサ100等を配置し、発熱抵抗体151の温度が250℃となるように発熱抵抗体151に通電した状態で、400時間保持し、二酸化窒素ガスに対する感度の変化を求めた。この耐久試験中、感ガス膜131等に対してガス検知電圧の印加も継続的に行った。試験ガスとしては、相対湿度40%RHとする酸素の分量が20.9Vol%である窒素との混合ガスをベースガスとし、このベースガスを25℃として、これに有機シリコンであるヘキサメチルジシラザンを3ppm加えたものを使用した。
【0062】
この耐久試験では、各ガスセンサ100等について、通電開始前と通電100時間後と通電200時間後と通電400時間後に、それぞれ二酸化窒素ガスに対する感度を求めた。ここで、このガス感度は、以下の方法で測定したガスセンサ100の抵抗値に基づいて求めた。まず、25℃にされた上記のベースガスに晒された雰囲気中でガスセンサ100の抵抗値Raを測定する。その後、ガスセンサ100の周囲の雰囲気を、ベースガスに酸化性ガスとして二酸化窒素ガスを1ppm混合した雰囲気とし、5秒後にガスセンサ100等の抵抗値Rgを測定する。そして両抵抗値の比(Rg/Ra)を求め、これをガス感度Rg/Raとした。なお、二酸化窒素ガスの検知が十分に可能となる感度は、1.1以上である。その結果を表1に示し、更に図5にグラフで示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1及び図5から明らかなように、実施例1〜4のガスセンサ100は、いずれも、被毒物質(有機シリコン)が含まれるガス中で通電を400時間行った場合でも、ガス感度Rg/Raが閾値(1.1)よりも十分に高かった、即ち、十分に高いガス感度を維持していた。一方、比較例1〜4のガスセンサは、いずれも、被毒物質(有機シリコン)が含まれるガス中で通電を400時間行った場合に、ガス感度Rg/Raが徐々に低下し、ガス感度Rg/Raが閾値(1.1)近くまで低くなっていた。
【0065】
また、上記耐久試験から、ガス感度の変化率も求めた。即ち、ガス感度変化率Scを、耐久試験前のガス感度をA、耐久試験の所定時間経過後のガス感度をBとして、次式により求めた。
Sc=logB/logA
その結果を表2に示し、更に図6にグラフで示す。なお、ガス感度変化率Scの良否判断基準をSc≧0.5とした。
【0066】
【表2】

【0067】
表2及び図6から明らかなように、実施例1〜4のガスセンサ100は、いずれも、被毒物質(有機シリコン)が含まれるガス中で通電を400時間行った場合でも、ガス感度変化率Scが良否判断基準(Sc≧0.5)よりも十分に高い、即ち、十分に高いガス感度を維持していた。一方、比較例1〜4のガスセンサは、いずれも、通電を400時間行った場合或いはそれ以前に、ガス感度変化率Scが良否判断基準(Sc≧0.5)よりも下回り、即ち、ガス感度が大きく低下していた。
【0068】
以上の結果から、平均粒子径Dの小さい(500nm以下)の酸化物粒子を用いて保護層140を形成することにより、シリコン(有機シリコン)に対する被毒耐性が向上し、ガス感度の経時的な変化が少なくなることが判る。
【0069】
次に、本発明に係る別の実施例5〜7のガスセンサ100を用意した。これら実施例5〜7のガスセンサ100は、上記実施形態のガスセンサ100において保護層140を構成する酸化チタン粒子141の平均粒子径D(nm)を一定(D=20nm)とし、これに対する保護層の厚みTH(nm)の比(TH/D)を変更したガスセンサである。具体的には、実施例5として、TH/D=25の保護層140を有するガスセンサ100を用意した。また、実施例6として、TH/D=50の保護層140を有するガスセンサ100を用意した。また、実施例7として、TH/D=100の保護層140を有するガスセンサ100を用意した。
【0070】
一方、比較例5,6として、上記実施形態に係るガスセンサ100の保護層140の構成を変更したガスセンサを用意した。具体的には、比較例5として、TH/D=15の保護層を有するガスセンサを用意した。また、比較例6として、保護層を有しないガスセンサを用意した。なお、この比較例6のガスセンサは、前述の比較例4のガスセンサと同様である。
【0071】
次に、これら実施例5〜7及び比較例5,6のガスセンサ100等について、前述した実施例1〜4及び比較例1〜4と同様に、被毒物質としての有機シリコンが存在する状況下で、二酸化窒素ガスに対する感度についての耐久試験を行った。その結果を表3及び図7に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3及び図7から明らかなように、実施例5〜7のガスセンサ100は、いずれも、被毒物質(有機シリコン)が含まれるガス中で通電を400時間行った場合でも、ガス感度Rg/Raが閾値(1.1)よりも十分に高かった、即ち、十分に高いガス感度を維持していた。一方、比較例5,6のガスセンサは、共に、被毒物質(有機シリコン)が含まれるガス中で通電を400時間行った場合に、ガス感度Rg/Raが徐々に低下し、ガス感度Rg/Raが閾値(1.1)近くまで低くなっていた。
【0074】
また、上記耐久試験から、前述の実施例1〜4及び比較例1〜4と同様に、ガス感度変化率Scも求めた。算出式(Sc=logB/logA)や良否判断基準(Sc≧0.5)は前述の耐久試験の場合と同様である。その結果を表4及び図8に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表3及び図7から明らかなように、実施例5〜7のガスセンサ100は、いずれも、通電を400時間行っても、ガス感度変化率Scが良否判断基準(Sc≧0.5)よりも十分に高い、即ち、十分に高い感度を維持していた。一方、比較例5,6のガスセンサは、共に、通電を400時間行った場合或いはそれ以前に、ガス感度変化率Scが良否判断基準(Sc≧0.5)よりも下回り、即ち、ガス感度が大きく低下していた。
【0077】
以上の結果から、酸化チタン粒子141の平均粒子径D(nm)に対する保護層140の厚みTH(nm)の比(TH/D)が大きい(20以上)保護層140を形成することにより、シリコン(有機シリコン)に対する被毒耐性が向上し、ガス感度の経時的な変化が少なくなることが判る。
【0078】
次に、本発明に係る別の実施例8のガスセンサ100を用意した。この実施例8のガスセンサ100は、上記実施形態のガスセンサ100において保護層140を構成する酸化チタン粒子141の粒径を変更したガスセンサであり、具体的には、平均粒子径D=150nmの酸化チタン粒子から形成された保護層140を有する。この実施例8のガスセンサ100について、前述した実施例1〜7及び比較例1〜6と同様に、被毒物質としての有機シリコンが存在する状況下で、二酸化窒素ガスに対する感度についての耐久試験を行った。その結果を表5及び図9に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
表5及び図9から明らかなように、この実施例8のガスセンサ100は、被毒物質(有機シリコン)が含まれるガス中で通電を400時間行った場合でも、ガス感度Rg/Raが閾値(1.1)よりも十分に高かった、即ち、十分に高いガス感度を維持していた。
【0081】
また、上記耐久試験から、前述の実施例1〜7及び比較例1〜6と同様に、ガス感度変化率Scも求めた。算出式(Sc=logB/logA)や良否判断基準(Sc≧0.5)は前述の耐久試験の場合と同様である。その結果を表6及び図9に示す。
【0082】
【表6】

【0083】
表6及び図9から明らかなように、この実施例8のガスセンサ100は、通電を400時間行っても、ガス感度変化率Scが良否判断基準(Sc≧0.5)よりも十分に高い、即ち、十分に高い感度を維持していた。
この結果から、平均粒子径Dの小さい(150nm)の酸化物粒子を用いて保護層140を形成することにより、シリコン(有機シリコン)に対する被毒耐性が向上し、ガス感度の経時的な変化が少なくできることが判る。
【0084】
次に、上記実施例1,2,4,8のガスセンサ100の保護層140について、これに形成された細孔の細孔径分布を調べた。
具体的には、まず、各実施例1,2,4,8の保護層140と同様な多孔質をなす保護層140のバルク体をそれぞれ用意した。即ち、実施例1に対応したバルク体として、平均粒子径D=7nmの酸化チタン粒子から構成されたバルク体を用意した。また、実施例2に対応したバルク体として、平均粒子径D=20nmの酸化チタン粒子から構成されたバルク体を用意した。また、実施例4に対応したバルク体として、平均粒子径D=300nmの酸化タングステン粒子から構成されたバルク体を用意した。また、実施例8に対応したバルク体として、平均粒子径D=150nmの酸化チタン粒子から構成されたバルク体を用意した。各バルク体の寸法は、直径10mm、厚さ15mmである。
【0085】
なお、これらのバルク体は、ガスセンサ100の保護層140を作製する工程と同様のスピンコート工程、熱処理工程を通じて、上記寸法のものを作製した。即ち、酸化物粒子141を、分散剤(ポリアクリル酸アンモニウム)と共に水に分散させたゾル(粘度50mPa・s)を作成し、基板上に所望の厚さにスピンコートした。その後、自然乾燥させ、更に熱処理炉において、酸化物粒子141同士が焼結しない温度範囲(350℃)で1時間加熱を行い、酸化物粒子141同士を物理結合させて、酸化物粒子141が密に充填された上記バルク体を得た。
【0086】
そして、実施例1,2に対応した各バルク体については、100nm以上の細孔径を水銀圧入法で測定すると共に、100nm未満の細孔径を窒素ガス吸着法で測定して、細孔径分布を求めた。その理由は、100nm未満の小さな細孔径の測定は、水銀圧入法よりも窒素ガス吸着法の方がより正確に測定できるからである。一方、実施例4,8に対応した各バルク体については、水銀圧入法のみで細孔径を測定して、細孔径分布を求めた。
【0087】
水銀圧入法では、JIS R1655に準拠し、島津製作所製オートポアIV9510を使用して、0.5psia〜36000psiaの圧力入力により測定して、細孔径分布を求めた。また、窒素ガス吸着法では、日本ベル株式会社製高精度全自動ガス吸着装置を使用して、吸着曲線を測定することにより、細孔径分布を求めた。その結果を図10に示し、更に図10の各グラフについて積分して、細孔径の大きい側の累計割合を求めたものを図11に示す。
【0088】
実施例1に対応したバルク体(平均粒子径D=7nm)では、図11から判るように、細孔全体の容積に占める、平均粒子径D=7nm以下の細孔径を有する細孔の割合が50%以上である。具体的には、図11によれば、細孔径が7nmを超える細孔の累積割合が37%であるので、細孔径が7nm以下の細孔の容積の累計割合は63%である。
また、このバルク体(平均粒子径D=7nm)では、平均粒子径D=7nmの3倍(21nm)以上の細孔径を有する細孔の割合が10%以下である。具体的には、細孔径が21nm以上の細孔の容積の累積割合が2%である。
また、このバルク体(平均粒子径D=7nm)では、100nm以上の細孔径を水銀圧入法で測定しているが、この水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔が、全く存在しなかった(0%)。
【0089】
実施例2に対応したバルク体(平均粒子径D=20nm)では、図11から判るように、細孔全体の容積に占める、平均粒子径D=20nm以下の細孔径を有する細孔の割合が50%以上である。具体的には、図11によれば、細孔径が20nmを超える細孔の割合が約12%であるので、細孔径が20nm以下の細孔の割合は88%である。
また、このバルク体(平均粒子径D=20nm)では、平均粒子径D=20nmの3倍(60nm)以上の細孔径を有する細孔の割合が10%以下である。具体的には、細孔径が60nm以上の細孔の割合が1%である。
また、このバルク体(平均粒子径D=20nm)では、100nm以上の細孔径を水銀圧入法で測定しているが、この水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔が、全く存在しなかった(0%)。
【0090】
実施例4に対応したバルク体(平均粒子径D=300nm)では、図11から判るように、細孔全体の容積に占める、平均粒子径D=300nm以下の細孔径を有する細孔の割合が50%以上である。具体的には、図11によれば、細孔径が300nmを超える細孔の割合が4%であるので、細孔径が300nm以下の細孔の割合は96%である。
また、このバルク体(平均粒子径D=300nm)では、平均粒子径D=300nmの3倍(900nm)以上の細孔径を有する細孔の割合が10%以下である。具体的には、細孔径が900nm以上の細孔の割合が3%である。
【0091】
実施例8に対応したバルク体(平均粒子径D=150nm)では、図11から判るように、細孔全体の容積に占める、平均粒子径D=150nm以下の細孔径を有する細孔の割合が50%以上である。具体的には、図11によれば、細孔径が150nmを超える細孔の割合が1%であるので、細孔径が150nm以下の細孔の割合は99%である。
また、このバルク体(平均粒子径D=150nm)では、平均粒子径D=150nmの3倍(450nm)以上の細孔径を有する細孔の割合が10%以下である。具体的には、細孔径が450nm以上の細孔が全く存在しない(割合0%)。
また、このバルク体(平均粒子径D=150nm)では、細孔径を水銀圧入法で測定しているが、この水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔が、全く存在しなかった(0%)。
【0092】
次に、上記実施例2,4,8の各ガスセンサ100について、これらの保護層140の細孔の様子を表面からSEM観察した。
図12に、実施例2(平均粒子径D=20nm、酸化チタン粒子)のガスセンサ100の保護層140を表面から見たSEM画像を示す。また、図13及び図14に、図12の一部を拡大して見たSEM画像を示す。これらから、実施例2のガスセンサ100の保護層140では、観察される大きな細孔でも、開口径が高々数十nmであることが判る。更に、この保護層140の表面全体を観察しても、平均粒子径D=20nmの10倍(200nm)以上の細孔径を有する細孔は、全く観察されなかった。
【0093】
また、図15に、実施例8(平均粒子径D=150nm、酸化チタン粒子)のガスセンサ100の保護層140を表面から見たSEM画像を示す。このSEM画像から、実施例8のガスセンサ100の保護層140では、観察される大きな細孔でも、開口径が高々数百nmであることが判る。更に、この保護層140の表面全体を観察しても、平均粒子径D=150nmの10倍(1500nm)以上の細孔径を有する細孔は、全く観察されなった。
【0094】
また、図16に、実施例4(平均粒子径D=300nm、酸化タングステン粒子)のガスセンサ100の保護層140を表面から見たSEM画像を示す。このSEM画像から、実施例4のガスセンサ100の保護層140では、観察される大きな細孔でも、開口径が数百nm程度であることが判る。更に、この保護層140の表面全体を観察しても、平均粒子径D=300nmの10倍(3000nm)以上の細孔径を有する細孔は、全く観察されなかった。
【0095】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、実施形態では、二酸化窒素などの酸化性ガスの検知に利用されるガスセンサ100を例示したが、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスの検知に利用されるガスセンサに本発明を適用することもできる。その場合、触媒粒子133を金に代えて例えばパラジウムで形成することで、還元性ガスの検知が可能となる。
また、実施形態では、ガスセンサ100にシリコン基板101を用いたが、シリコン基板101の代わりに、例えばアルミナ基板を用いることもできる。
また、実施形態では、保護層140を形成するにあたり、酸化チタン粉末を、分散剤であるポリアクリル酸アンモニウムと共に水に分散させた所定の粘度を有するゾルを作成し、このゾルを感ガス膜131上にスピンコートした。しかし、このゾルを感ガス膜131上にディッピングし、その後に熱処理を行って保護層を形成するようにしてもよい。
【0096】
更に、実施形態では、スパッタ処理を行って感ガス膜131を薄膜形成した後、触媒粒子133をスパッタ処理にて感ガス膜131上に分散形成させたが、感ガス膜131の形成手法はこれに限定されない。
具体的には、例えば、酸化スズ粉末に、触媒粒子133、バインダー及び粘度調整剤を適宜混合してペーストを作成し、このペーストを表面側絶縁被膜110の絶縁層114上のうち、発熱抵抗体151及び凹部103に対応する位置に印刷し、これを焼成して感ガス膜231を厚膜形成した変形形態が挙げられる(図17参照)。このように感ガス膜231を厚膜形成したガスセンサ200は、感ガス膜231内部に触媒粒子133が分散された構成を有している。
【符号の説明】
【0097】
100,200 ガスセンサ
101 シリコン基板
110 表面側絶縁被膜
120 裏面側絶縁被膜
131,231 感ガス膜
133 触媒粒子
140 保護層
141 酸化チタン粒子(酸化物粒子)
151 発熱抵抗体
155 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体からなる感ガス膜と、この感ガス膜上に形成されたガス透過性を有する保護層と、を備えるガスセンサであって、
前記保護層は、
平均粒子径が500nm以下の酸化物粒子から構成されてなる
ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
前記平均粒子径をD(nm)、前記保護層の厚みをTH(nm)としたとき、
20≦TH/D≦500とされてなる
ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
前記感ガス膜上に分散された触媒粒子を備え、
前記保護層は、前記感ガス膜及び触媒粒子上に形成されてなる
ガスセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
前記触媒粒子が露出しない膜厚を有してなる
ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
これに含まれる細孔全体の容積に占める、前記平均粒子径以下の細孔径を有する細孔の割合が、50%以上とされてなる
ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
これに含まれる細孔全体の容積に占める、前記平均粒子径の3倍以上の細孔径を有する細孔の割合が、10%以下(0%を含む)とされてなる
ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
これに含まれる細孔全体の容積に占める、水銀圧入法で測定したときの細孔径が200nm以上となる細孔の割合が、5%以下(0%を含む)とされてなる
ガスセンサ。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
その表面から見たときに、前記平均粒子径の10倍以上の開口径を有する細孔が観察されない形態とされてなる
ガスセンサ。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のガスセンサであって、
前記保護層は、
前記感ガス膜上に前記酸化物粒子を堆積させ、前記酸化物粒子同士が焼結しない温度範囲で熱処理させてなる
ガスセンサ。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のガスセンサであって、
前記酸化物粒子として酸化チタン粒子を用いてなる
ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図17】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−151834(P2010−151834A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49694(P2010−49694)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願2007−337393(P2007−337393)の分割
【原出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】