説明

ガスセンサ

【課題】構造がシンプルで、容易にかつ安価に製造でき、サイズを非常に小型化することができるガスセンサを提供する。
【解決手段】
本ガスセンサは、光路内に流入するガス成分を評価するためのものであって、ガス成分評価用の光を発する光源8と、光路1を伝達してきて出射する光を受光する受光素子9を有し、光路は、平板に矩形断面をもって形成された渦巻状の溝部1と、前記溝部1の底面部と、前記溝部1の上面を覆う平面板4により形成され、光路の渦外周部の光入射開口部6には光源8が配置されるとともに、光路の渦中心部の光出射開口部7には受光素子9が配置され、少なくとも溝部1の内壁はガス成分評価に有用な波長光に対して高い光反射特性を有し、溝部1の上面の平面板4の一部もしくは全面が被測定ガスを流出入させる部材で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス成分を評価するためのガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガスの種類の特定や濃度の測定を行うガスセンサとして、光源からガス成分評価用の光を発生させ、ガスを通過することにより吸収された分光成分を受光素子で検出するタイプのものが知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、空洞内に閉じ込められたガスサンプルの成分を評価するためのガスセンサであって、3つの楕円凹面状の壁部分を含むブロック状の形態を有し、内部に空洞が形成され、前記壁部分の内側は高い光反射性を有する鏡面を形成し、前記空洞は入口開口および出口開口を備え、前記入口開口からの入射光線が、前記3つの壁部分によって所定の回数だけ反射せしめられた後、前記出口開口を通って出て行くような光学的分析経路を形成するようになっているガスセンサにおいて、第1、第2および第3の壁部分は、それぞれ、同一の回転楕円体の一部分からなり、前記第1の壁部分は、前記回転楕円体を、長軸に平行な面で切り取って形成した前記回転楕円体の半分よりも幾分小さい部分からなり、前記第2および第3の壁部分は、前記第1の壁部分よりも幾分小さい壁部分から、それを2分割する分割線に沿って一部を取り除いた残りの2つの部分からなり、前記第2および第3の壁部分は、前記第1の壁部分に対置して配置されるとともに、互いに近づく方向に動かされ得るようになっていることを特徴とするガスセンサが提案されている。このような構成により、光路長を長くして被測定ガスの成分を精度よく検出しようというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3990733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなガスセンサは、回転楕円体の鏡面での反射を利用して、入口開口から入射した光を出口開口から出射させて、それを光検出器で検出して、ガス成分の評価を行うため、回転楕円体の鏡面の設計や光学系の設計が複雑となる上、ガスセンサのサイズも大きくなり、また製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、構造がシンプルで、容易にかつ安価に製造でき、サイズを非常に小型化することができるガスセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、第1には、光路内に流入するガス成分を評価するためのガスセンサであって、ガス成分評価用の光を発する光源と、光路を伝達してきて出射する光を受光する受光素子を有するガスセンサにおいて、前記光路は、平板に矩形断面をもって形成された渦巻状の溝部と前記溝部の上面を覆う平面板により形成され、前記光路の渦外周部の光入射開口部には前記光源が配置されるとともに、前記光路の渦中心部の光出射開口部には前記受光素子が配置され、少なくとも前記溝部の内壁はガス成分評価に有用な波長光に対して高い光反射特性を有し、前記溝部の上面の平面板の一部もしくは全面が被測定ガスを流出入させる部材で形成されていることを特徴とするガスセンサを提供する。
【0008】
また、本発明は、第2には、光路内に流入するガス成分を評価するためのガスセンサであって、ガス成分評価用の光を発する光源と、光路を伝達してきて出射する光を受光する受光素子を有するガスセンサにおいて、前記光路は、平板に矩形断面をもって形成された一対の渦巻状の溝部と前記溝部の上面を覆う平面板により形成され、前記一対の渦巻状の溝部は半回転分位相がずれた2重の渦巻溝形状となっており、前記光路の一方の渦外周部の光入射開口部には前記光源が配置されるとともに、前記光路のもう一方の渦外周部の光出射開口部には前記受光素子が配置され、少なくとも前記溝部の内壁はガス成分評価に有用な波長光に対して高い光反射特性を有し、前記溝部の上面の平面板の一部もしくは全面が被測定ガスを流出入させる部材で形成されていることを特徴とするガスセンサを提供する。
【0009】
第3には、上記第1または第2の発明において、前記光源の輝度の経時変化を調べるために前記光路を伝達する光の一部を取り出す手段を設けたことを特徴とするガスセンサを提供する。
【0010】
第4には、上記第1ないし第3のいずれかの発明において、前記被測定ガスを流出入させる部材が、被測定ガスは通過させ、前記溝部の光反射特性を劣化させる汚染物質の通過は阻止するガス透過膜またはガスフィルターであることを特徴とするガスセンサを提供する。
【0011】
第5には、上記第1ないし第4のいずれかの発明において、前記光出射開口部に波長選択フィルタを設けたことを特徴とするガスセンサを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記構成を採用したので、構造がシンプルで、容易にかつ安価に製造でき、サイズを非常に小型化することができるガスセンサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るガスセンサの構造を模式的に示す平面図である。
【図2】図1のガスセンサの光路を形成する溝部の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るガスセンサの構造を模式的に示す平面図である。
【図4】図3のガスセンサの変形例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態に係るガスセンサについて詳述する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係るガスセンサの構成を模式的に示す平面図、図2は、図1のガスセンサの光路を模式的に示す断面図である。
【0016】
本実施形態のガスセンサは、全体が一定厚さの円板状体に渦巻状の溝形状の光路(以下、溝部とも称する)1が形成されてなる。この溝部1の断面形状は図2に示すように、長方形あるいは正方形の矩形状となっており、溝部1は、両側の内壁2A、2Bと平面形状の底面3からなり、溝部1の上面は平面板4で覆われており、周囲全体が光学的に遮断された光路空間5が形成されている。すなわち、溝部1の両側の内壁2A、2Bは渦外側部から渦中心部にかけてなだらかな渦曲線を描いている。なお、図1では説明をわかりやすくするため、隣どうしの溝部1を隔てる壁部を線状で示したが、適当な幅を持たせたものとすることができる。また、渦外周部に光入射開口部6が設けられ、渦中心部には光出射開口部7が設けられている。光入射開口部6にはガス成分評価用の光を発する光源8が配置され、光出射開口部7には受光素子9が配置されている。
【0017】
溝部1の両側の内壁2A、2Bと底面3および平面板4の下面は、ガス成分評価に有用な波長光に対して高い反射率を有する面で形成されている。これらの面は、プラスチックのような材料にAuやPt等の高い反射率のコーティングを施して形成してもよいし、全体として高い反射率の材料を用いることにより形成してもよい。これらの面は、ガス成分評価に不要な波長光は吸収するものであることも好ましい。また、これらの面は、その表面性状が必ずしも鏡面である必要はなく、ガス成分評価に有用な波長光に対して高い反射率を示すものであれば、多少の凹凸がある散乱性の面であっても構わない。
【0018】
溝部1の上面を覆う平面板4は、その一部または全面にわたって被測定ガスの流入と流出を施すための開口が形成されているものとする。開口の形状は、被測定ガスがパイプもしくはホース等で供給される場合、パイプもしくはホースに接続するコネクターを有す形状で、流入部と流出部で一対をなすが、溝部全域に渡り万遍なくガスが行き渡るように溝部の互いに離れた位置に配置されものとすることができる。あるいは被測定ガスとして装置を取り囲む外気が対象の場合、平面板4は、被測定ガスは通過させ、溝部1の光反射特性を劣化させる塵埃等の汚染物質の通過は阻止するガス透過膜またはガスフィルターからなるものであってもよい。
【0019】
なお、図示はしていないが、本実施形態のガスセンサは光源8の駆動回路を備えており、また、受光素子9の検出信号は図示しないスペクトル分析装置等に接続される。
【0020】
本実施形態のガスセンサでは、光源8からガス成分評価に有用な波長光を発すると、その光は光入射開口部6から光路2の光路空間5に導かれる。光路空間5に導かれた光は、種々の方向に散乱する散乱光となり、溝部1の内壁2A、2B、あるいは底面3、平面板4の下面に当たり反射され、この繰り返しにより渦巻状の光路1を進み、渦中心部に配置された光出射開口部7を介して受光素子9により受光される。光路1を進む光は、光路1に存在する被測定ガスにより吸収され、この吸収された分光成分を検出することにより被測定ガスの種類や濃度を検出することが可能となる。
【0021】
本実施形態のガスセンサは、光路1を渦巻状に形成したので、小さな平板サイズの本体、光路1の小さい断面積にもかかわらず、長い光路長を実現することができ、シンプルな構成で、製造が容易、かつ小型化、低コスト化が可能となる。
【0022】
本実施形態のガスセンサは、1種類または数種類の被測定ガス成分に対して、その成分評価に適合した光波長を選択し、その光波長を含む波長領域の光を発する光源8を用いることができる。たとえば、二酸化炭素の場合、特定の波長(4.2μm付近)の赤外光を吸収する性質を有しているため、その波長を含む光を発生する光源8を使用することにより、スペクトル分析により、二酸化炭素の同定と濃度検出が可能となる。この場合、特定波長の光を選択的に通過させる波長選択フィルタの使用も好ましい。もちろん、その他の種類の被測定ガス成分やその濃度検出も可能である。
【0023】
本発明では、光入射開口部6から導入した光の反射回数や反射角度によって光路長に分布が存在するが、光源8から受光素子9に至る光路空間5、光学配置が経年変化無く一定となるように考慮する。たとえば、光源8の光放射角度の分布は経年変化を受けやすいので、光源8の位置ズレへの対処を行うようにする。そのため、光路1の途中に別の開口を設け、光源輝度の経時変化を参照するようにすることも有効である。このようにすると、ガス成分による分光成分に及ぼす効果はガス成分の濃度に比例するため、精度の高い濃度検出が可能となる。
【0024】
ここで、第1実施形態の作製例を示すと、ガスセンサの材質として光不透過性プラスチックからなり、厚さ10mm、直径40mmのプラスチック円板を用い、溝部1の幅を4mm、高さを8mm、光路長(光路の中心部分の渦の長さ)を300mmとし、溝部1の内壁2A、2Bと底面3および平面板4の下方面は黒色塗料でコーティングしたものとする。光源8としては波長4.2μm近傍の赤外光を発するランプを用い、受光素子9として市販の焦電型センサーを用いて、二酸化炭素検出用のガスセンサが構成される。
【0025】
もちろん、上記作製例は具体例の単なる例示のためのものであって、本発明をなんら限定するものではなく、種々の変形、変更が可能である。
【0026】
また、上記において光源8として発光強度が可変のものを用いてもよいし、複数のものを用い、ケースによって強度を切り替えることができるようにしてもよい。
【0027】
また、光出射開口部7には、光ファイバー等の光取り出し手段を接続して、検出すべき光を取出すこともできる。
【0028】
また、渦の巻数も任意に設定可能である。
【0029】
さらに、上記では、溝部1の内壁2A、2Bと底面3および平面板4の下面での光反射を利用したが、場合によっては溝部1の内壁2A、2Bでの光反射のみを利用することもできる。
【0030】
次に、本発明の第2実施形態に係るガスセンサについて述べる。
【0031】
図3は、第2実施形態に係るガスセンサの構成を模式的に示す平面図である。なお、図3において図1と同様な要素には同様な符号を付し、また図2と同様な要素には同様な符号を用いて説明を行う。
【0032】
本実施形態のガスセンサは、全体が一定厚さの円板状体に渦巻状の一対の溝形状の光路(溝部)1A、1Bが形成されてなる。この光路(溝部)1A、1Bの断面形状は図2に示すものと同様であり、両側の内壁2A、2Bと平面形状の底面3、平面板4も同様な構造とすることができる。光路(溝部)1A、1Bには、周囲全体が光学的に遮断された光路空間5A、5Bが形成される。また、一方の渦外周部には光入射開口部6が設けられ、もう一方の渦外周部には光出射開口部7が設けられている。光入射開口部6にはガス成分評価用の光を発する光源8が配置され、光出射開口部7には受光素子9が配置されている。
【0033】
一対の溝形状の光路(溝部)1A、1Bは、半回転分位相がずれた2重の渦巻溝形状となっている。すなわち、光路(溝部)1Aは、一方の渦外周部に設けられた光入射開口部6から渦巻状の経路をたどって次第に縮径しながら渦中心部10に達し、この渦中心部10において、光路(溝部)1Bに接続し、渦巻状の経路をたどって次第に拡径しながらもう一方の渦外周部に設けられた光出射開口部7に達するようになっている。
【0034】
このような構成のガスセンサでは、光源8からガス成分評価に有用な波長光を発すると、その光は光入射開口部6から光路2Aの光路空間5Aに導かれる。光路空間5Aに導かれた光は、種々の方向に散乱する散乱光となり、溝部1Aの内壁2A、2B、あるいは底面3、平面板4の下面に当たり反射され、この繰り返しにより渦巻状の光路1Aを進み、渦中心部10に達する。渦中心部10に達した光は、渦巻状の光路1Bに移り、同様の反射を繰り返して進み、光出射開口部7を介して受光素子9により受光される。第1実施形態と同様、光路1A、1Bを進む光は、光路1A、1Bに存在する被測定ガスにより吸収され、この吸収された分光成分を検出することにより被測定ガスの種類や濃度を検出することが可能となる。
【0035】
第2実施形態のガスセンサのような構成によると、第1実施形態のガスセンサの利点に加え、光路長をさらに一層長くすることができる利点がある。また、光路長は図4のようにして調整することができる。また、その他の構成についても、第1実施形態で述べたものと同様な構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1、1A、1B 光路(溝部)
2A、2B 内壁
3 底面
4 平面板
5、5A、5B 光路空間
6 光入射開口部
7 光出射開口部
8 光源
9 受光素子
10 渦中心部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路内に流入するガス成分を評価するためのガスセンサであって、ガス成分評価用の光を発する光源と、光路を伝達してきて出射する光を受光する受光素子を有するガスセンサにおいて、
前記光路は、平板に矩形断面をもって形成された渦巻状の溝部と前記溝部の上面を覆う平面板により形成され、
前記光路の渦外周部の光入射開口部には前記光源が配置されるとともに、前記光路の渦中心部の光出射開口部には前記受光素子が配置され、
少なくとも前記溝部の内壁はガス成分評価に有用な波長光に対して高い光反射特性を有し、
前記溝部の上面の平面板の一部もしくは全面が被測定ガスを流出入させる部材で形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
光路内に流入するガス成分を評価するためのガスセンサであって、ガス成分評価用の光を発する光源と、光路を伝達してきて出射する光を受光する受光素子を有するガスセンサにおいて、
前記光路は、平板に矩形断面をもって形成された一対の渦巻状の溝部と前記溝部の上面を覆う平面板により形成され、前記一対の渦巻状の溝部は半回転分位相がずれた2重の溝形状となっており、
前記光路の一方の渦外周部の光入射開口部には前記光源が配置されるとともに、前記光路のもう一方の渦外周部の光出射開口部には前記受光素子が配置され、
少なくとも前記溝部の内壁はガス成分評価に有用な波長光に対して高い光反射特性を有し、
前記溝部の上面の平面板の一部もしくは全面が被測定ガスを流出入させる部材で形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
前記光源の輝度の経時変化を調べるために前記光路を伝達する光の一部を取り出す手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記被測定ガスを流出入させる部材が、被測定ガスは通過させ、前記溝部の光反射特性を劣化させる汚染物質の通過は阻止するガス透過膜またはガスフィルターであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記光出射開口部に波長選択フィルタを設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−276427(P2010−276427A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128116(P2009−128116)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(508206977)株式会社美山技研 (5)
【Fターム(参考)】