説明

ガスセンサ

【課題】シール材による気密性の劣化を抑制したガスセンサを提供する。
【解決手段】ハウジング20と、ハウジングの内側に配置されたセンサ素子3と、センサ素子とハウジングとの隙間に充填されたシール材6と、シール材の基端側に配されると共に、少なくとも基端部10Bの外側面10Bfがハウジングの内側面と離間する筒状の絶縁部材10と、絶縁部材の基端側に配され、外周部30aが絶縁部材の基端部より径方向外側に突出し析出硬化型合金からなる環状の金属リング30とを有し、シール材と絶縁部材と金属リングとは、ハウジングの基端部を内側に屈曲して形成した加締め部20aによって加締め固定されており、金属リングの厚みをTとし、金属リングの外周部の外側面30fと絶縁部材の基端部の外側面との径方向の間隔をA(但し、A>0)としたとき、0.05<A/T<0.55の関係を満たすガスセンサ100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガスの濃度を検出するセンサ素子を備えたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の排気ガス中の酸素やNOの濃度を検出するガスセンサとして、固体電解質を用いたセンサ素子を有するものが知られている。
図8に示すように、この種のガスセンサは、有底円筒状のセンサ素子(この例では酸素センサ素子)3の中央付近に鍔部3aを設け、センサ素子3を筒状のハウジング(主体金具)200の内側に挿通して保持して構成されている(特許文献1)。ハウジング200の内周面には段部200eが設けられ、段部200eの基端側にパッキン12を介して筒状のセラミックホルダ5が配置されている。そして、セラミックホルダ5に基端側からパッキン(図示せず)を介してセンサ素子3の鍔部3aを当てることにより、間接的に段部200eに鍔部3aが当接している。
さらに、鍔部3aの基端側におけるセンサ素子3とハウジング200との径方向の隙間に、筒状のシール材(滑石粉末)6及び絶縁部材(セラミックスリーブ)50が配置されている。そして、絶縁部材50の基端側に金属リング(平ワッシャ)60を配し、ハウジング200の基端部を内側に屈曲して加締め部200aを形成することにより、絶縁部材50が先端側に押し付けられてシール材6を押し潰し、全体が加締め固定されるとともにシールされている。
【0003】
さらに、ハウジング200の基端部には、センサ素子3の基端側に設けられたリード線や端子を保持し、センサ素子3の基端部を覆うため、筒状の外筒400が接合されている。一方、センサ素子3の先端はプロテクタ7で覆われている。そして、このようにして製造されたガスセンサのハウジング200の雄ねじ部200dを排気管等のネジ孔に取付けることで、センサ素子3の先端を排気管内に露出させて被検出ガス(排気ガス)を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−285769号公報(図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1記載の技術の場合、ガスセンサが冷熱サイクルを受けるとセンサ素子3とハウジング200との間の気密性が低下し、センサ外部の被検出ガスがセンサ内部(外筒400内部)に流入するという問題がある。これは、ガスセンサが加熱されると、金属製のハウジング200がセラミック製のシール材6や絶縁部材50よりも多く膨張してしまい、加締め部200aが長手方向(図8のex方向)の基端側に延びるため、加締めが緩んでシール材6のシールが不十分になるためと考えられる。
従って、本発明は、シール材による気密性の劣化を抑制したガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサは、軸線方向に延びる筒状のハウジングと、先端側を該ハウジングの先端から突出させると共に、該ハウジングの内側に挿通配置されたセンサ素子と、前記センサ素子と前記ハウジングとの隙間に充填されたシール材と、該シール材の基端側に配されると共に、少なくとも基端部の外側面が前記ハウジングの内側面と離間する筒状の絶縁部材と、該絶縁部材の基端側に配されると共に、その外周部が前記絶縁部材の前記基端部より径方向外側に突出し、析出硬化型合金からなる環状の金属リングとを有し、前記シール材と前記絶縁部材と前記金属リングとは、前記ハウジングの基端部を内側に屈曲して形成した加締め部によって、基端側から先端側へ向かって押圧された状態で加締め固定されており、前記金属リングの厚みをTとし、前記金属リングの前記外周部の外側面と前記絶縁部材の前記基端部の外側面との径方向の間隔をA(但し、A>0)としたとき、0.05<A/T<0.55の関係を満たす。
このような構成とすると、加締めによって金属リングの外周部を下方(先端)へ押し下げる応力が金属リング全体にかかり、ガスセンサが加熱されて加締め部が延びた際にこの応力と反対方向に金属リングがスプリングバックする。そして、このスプリングバックに伴い、金属リングの先端向き面(先端)側が絶縁部材を先端へ押し下げ、これによって加締めの緩みを防止し、シール材による気密性の劣化を抑制する。ここで、金属リングが絶縁部材より外側に突出し過ぎたり、金属リングの厚みが薄過ぎると、加締めの際に金属リングが塑性変形しスプリングバックの効果が得られないが、A/Tを所定の範囲に管理することで、塑性変形せずに充分なスプリングバックが生じるようになる。
析出硬化型合金としては、析出硬化系ステンレス鋼を挙げることができ、特にJISに規格するSUS630が好ましい。
【0007】
又、本発明のガスセンサは、軸線方向に延びる筒状のハウジングと、先端側を該ハウジングの先端から突出させると共に、該ハウジングの内側に挿通配置されたセンサ素子と、前記センサ素子と前記ハウジングとの隙間に充填されたシール材と、該シール材の基端側に配されると共に、少なくとも基端部の外側面が前記ハウジングの内側面と離間する筒状の絶縁部材と、該絶縁部材の基端側に配されると共に、その外周部が前記絶縁部材の前記基端部より径方向外側に突出する環状の金属リングとを有し、前記シール材と前記絶縁部材と前記金属リングとは、前記ハウジングの基端部を内側に屈曲して形成した加締め部によって、基端側から先端側へ向かって押圧された状態で加締め固定されており、前記金属リングの外周部の先端向き面は、前記絶縁部材の前記基端部の基端向き面より先端側に位置している。
このような構成とすると、加締めによって金属リングの外周部を下方(先端)へ押し下げる応力が金属リング全体にかかり、ガスセンサが加熱されて加締め部が延びた際にこの応力と反対方向に金属リングがスプリングバックする。そして、このスプリングバックに伴い、金属リングの先端向き面(先端)側が絶縁部材を先端へ押し下げ、これによって加締めの緩みを防止し、シール材による気密性の劣化を抑制する。ここで、金属リングの外周部が絶縁部材の基端部の基端向き面より先端側に位置する程度に、充分に加締め加重を掛けることにより、上記したスプリングバック効果も大きくなり、加締めの緩みを防止し、シール材による気密性の劣化を抑制することができる。
なお、「金属リングの外周部の先端向き面が、絶縁部材の基端部の基端向き面より先端側に位置する」とは、金属リングが絶縁部材とハウジングとの間隙に食い込むことである。
【0008】
さらに、本発明のガスセンサにおいて、加締め部の内側端が金属リングの内側面より径方向外側に位置していてもよい。
このようにすると、金属リングに加締め加重を掛ける位置が金属リングの内周側より外周側に寄る。そのため、金属リングの外周側を下方(先端)へ押し下げる応力が掛かり易くなり、それに応じて上記したスプリングバック効果が容易に生じる。
【0009】
さらに、本発明のガスセンサにおいて、加締め部は、金属リングに直接接しており、加締め部の内側端が金属リングと離間していてもよい。
このようにすると、加締め部の内側端では加締め加重が掛からず、金属リングに加締め加重を掛ける位置が金属リングの外周側に寄る。そのため、金属リングの外周側を下方(先端)へ押し下げる応力が掛かり易くなり、それに応じて上記したスプリングバック効果が容易に生じる。
【0010】
さらに、本発明のガスセンサにおいて、加締め部と金属リングとの接触部が絶縁部材の外側面より径方向内側に位置していることが好ましい。金属リングの外周側に加締め加重を掛けることが好ましいが、金属リングの外周側に寄り過ぎると金属リングの外周部のみが変形してしまいスプリングバック効果が減少する虞がある。これに対し、加締め部と金属リングとの接触部が絶縁部材の外側面よりも径方向内側に位置すると、金属リングの外周側に加締め加重を掛けつつも、十分なスプリングバック効果を得ることができる。
【0011】
さらに、本発明のガスセンサにおいて、金属リングの内側面が絶縁部材の内側面より径方向外側に位置していてもよい。
加締めによる加重で金属リングの外周側が押し下げられるにつれて、金属リングの内周側が上方(基端側)へ押し上げられる。このとき、上記の構成とすると、金属リングの内側面がセンサ素子の外面に引っ掛かることが少なくなり、加締めを確実に行うことができる。
【0012】
さらに、本発明のガスセンサにおいて、金属リングの先端向き面は、絶縁部材に面接触していてもよい。これにより、金属リングの先端向き面が絶縁部材の基端向き面に接する面積が確実なものとなるため、上記したスプリングバックによるバネ力をこれら部材により確実に及ぼすことができる。
【0013】
なお、金属リングの先端向き面が絶縁部材に面接触する手段の1つとして、軸線方向に沿う面で切断した金属リングの断面が矩形であることが好ましい。
このようにすると、金属リングの先端向き面が平面であるため、絶縁部材の基端部の基端向き面に接する面積が大きくなり、上記したスプリングバックによるバネ力をこれら部材に確実に及ぼすことができる。
さらに、金属リングの基端向き面も平面であるため、加締め部に接する面積も大きくなり、さらに、スプリングバックによるバネ力をこれら部材に確実に及ぼすことができる。
【0014】
さらに、本発明のガスセンサにおいて、絶縁部材の外側面がストレート形状であってもよい。絶縁部材に鍔部を形成すると、加締め部の荷重により鍔部にてクラックが生じる虞があるが、ストレート形状にすることで、絶縁部材にクラックが生じない。
【0015】
前記析出硬化型合金を、析出硬化系ステンレス鋼とすると、スプリングバックが強くなるので好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、シール材による気密性の劣化を抑制したガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の発明の実施形態に係るガスセンサを軸方向に沿う面で切断した断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】金属リングを加締めた際に生じる応力と、そのスプリングバックの作用を示す図である。
【図4】20℃から450℃へ加熱したときの、加締めによる面圧減少率とA/Tとの関係を示す図である。
【図5】金属リングの内側面が絶縁部材の内側面より径方向外側に位置する場合の作用を示す図である。
【図6】金属リングの断面が矩形と異なる例を示す図である。
【図7】絶縁部材の基端部分を他の部分より縮径させた例を示す図である。
【図8】従来のガスセンサの加締め部近傍の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の発明の実施形態に係るガスセンサ100を軸方向(先端から基端に向かう方向)に沿う面で切断した断面構造を示す。この実施形態において、ガスセンサ100は自動車の排気管内に挿入されて先端(図1の矢印F側)が排気ガス中に曝され、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサになっている。センサ素子3は、酸素イオン伝導性の固体電解質体に一対の電極を積層した酸素濃淡電池を構成し、酸素量に応じた検出値を出力する公知の酸素センサ素子である。
なお、図1の下側(矢印F側)をガスセンサ100の先端側とし、図1の上側をガスセンサ100の基端側とする。
【0019】
ガスセンサ100は、センサ素子3をハウジング(主体金具)20内に組み付けたアッセンブリである。センサ素子3は、先端に向かってテーパ状に縮径する筒状の固体電解質体と、固体電解質体の内周面と外周面にそれぞれ形成された内側電極及び外側電極(図示せず)とからなる。そして、センサ素子3の内部空間を基準ガス雰囲気とし、センサ素子3の外面に被検出ガスを接触させてガスの検知を行うようになっている。又、センサ素子3の内部空間には、棒状のヒータ15が内挿されている。
センサ素子3の中央付近には、径方向外側に突出する鍔部3aが設けられている。一方、ハウジング20の先端寄りの内周面には内側に縮径する段部20eが設けられ、段部20eの基端側にパッキン12を介して筒状のセラミックホルダ5が配置されている。そして、センサ素子3をハウジング20及びセラミックホルダ5の内側に挿通し、セラミックホルダ5に基端側からパッキン(図示せず)を介してセンサ素子3の鍔部3aを当てることにより、間接的に段部20eに基端側からセンサ素子3の鍔部3aが当接している。
【0020】
さらに、鍔部3aの基端側におけるセンサ素子3とハウジング20との径方向の隙間に、筒状のシール材(滑石粉末)6が充填され、さらにシール材6の基端側に筒状の絶縁部材(セラミックスリーブ)10が配置されている。そして、絶縁部材10の基端側に金属リング(ステンレス製の平ワッシャ)30を配し、ハウジング20の基端部を内側に屈曲して加締め部20aを形成することにより、絶縁部材10が先端側に押し付けられてシール材6を押し潰し、絶縁部材10及びシール材6が加締め固定されるとともに、センサ素子3とハウジング20の隙間がシールされている。ここで、絶縁部材10の基端を直接加締めると、割れ等が生じる可能性があるため、金属リング30を介して加締めがされている。
なお、ハウジング20の内側面は絶縁部材10の基端近傍で拡径され、少なくとも絶縁部材10の基端部10Bの外側面10Bfがハウジング20の内側面と離間している。又、金属リング30の外径は絶縁部材10の外径より大きく、後述するように金属リング30の外周部30aが絶縁部材10の外側面10Bfから径方向外側へはみ出している。
【0021】
さらに、ハウジング20の基端には、センサ素子3の基端側に設けられたリード線41や端子金具71、91を保持すると共にセンサ素子3の基端部を覆うため、筒状の外筒40が接合されている。詳細には、外筒40の基端側の内面に絶縁性の筒状のセパレータ111が加締め固定され、セパレータ111の2個の挿通孔にそれぞれ端子金具71、91の基部74、94が挿通されて固定されている。各基部74、94の基端にはそれぞれ接続端部75、95が形成され、接続端部75、95にそれぞれリード線41、41が加締め接続されている。
セパレータ111の基端側の外筒40内側には筒状のグロメット131が加締め固定され、グロメット131の4個の挿通孔(図1では2つのみ図示)からそれぞれリード線41、41が外部に引き出されている。このようにして外筒40の先端側に端子金具71、91が突出した状態で、ハウジング20の基端に外筒40を被せると、筒状の端子金具71がセンサ素子3の筒に内嵌され、センサ素子3内面の基準電極のリードと電気的に接続される。又、端子金具91はセンサ素子3の外周面に外嵌めされ、センサ素子3外面の検知電極のリードと電気的に接続される。そして、外筒40の先端をハウジング20の基端部20bに外嵌し、両者を溶接して外筒40がハウジング20に固定される。
なお、グロメット131の中心には貫通孔131aが形成され、センサ素子3の内部空間に連通している。そして、グロメット131の中心孔に撥水性の通気フィルタ140が介装され、外部の水を通さずにセンサ素子3の内部空間に基準ガス(大気)を導入するようになっている。
【0022】
一方、ハウジング20の先端部20fには筒状のプロテクタ7が外嵌され、ハウジング20から突出するセンサ素子3の先端がプロテクタ7で覆われている。プロテクタ7は、複数の孔部(図示せず)を有する有底筒状で金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外側プロテクタ7bおよび内側プロテクタ7aを、溶接等によって取り付けて構成されている。
【0023】
なお、ハウジング20の中央付近には、径方向外側に突出し六角レンチ等を係合するための多角形の鍔部20cが設けられ、鍔部20cと先端部20fとの間のハウジング20外側面には雄ねじ部20dが形成されている。又、鍔部20cの先端面と雄ねじ部20dの基端との間の段部には、排気管に取付けた際のガス抜けを防止するガスケット14が嵌挿されている。
そして、ハウジング20の雄ねじ部20dを排気管等のネジ孔に取付けることで、センサ素子3の先端を排気管内に露出させて被検出ガス(排気ガス)を検知している。
【0024】
次に、図2を参照し、本発明の第1の発明における金属リング30と絶縁部材10との関係について説明する。本発明の第1の発明においては、金属リング30は析出硬化型合金からなる。析出硬化型合金としては、析出硬化系ステンレス鋼を挙げることができ、具体的には、JISに規格するSUS630を挙げることができる。析出硬化型合金を用いることで金属リング30が高強度となり、A/Tを以下の範囲に規制することができる。
第1の発明においては、金属リング30の厚みをTとし、金属リング30の外周部30aの外側面30fと絶縁部材10の基端部10Bの外側面10Bfとの径方向の間隔をAとしたとき、0.05<A/T<0.55の関係を満たす。又、金属リング30の外側面30fが絶縁部材10の基端部10Bの外側面10Bfより径方向外側へ突出している。
又、この実施形態では、加締め部20aの内側端20apが金属リング30の内側面30iより径方向外側に位置している。さらに、この実施形態においては、金属リング30の内側面30iが絶縁部材10の内側面10iより径方向外側に位置している。但し、本発明(第1の発明と後述する第2の発明ともに)においては、内側面30iが内側面10iより径方向外側に位置することは必須ではなく、内側面30iが内側面10iと面一であってもよい。なお、センサ素子3を挿通する関係から、内側面30iが内側面10iより径方向内側になることはない。
【0025】
このように、金属リング30の外側面30fが絶縁部材10の基端部10Bの外側面10Bfより径方向外側へ突出することにより、図3(a)に示すように、金属リング30の中央軸30Ceが絶縁部材10の径方向の中央軸10Ceより径方向外側に偏倚する。つまり、金属リング30の基端向き面30eに加締め部20aによる加締め加重を掛けたとき、この加重を支える絶縁部材10の基端部10Bの基端向き面10Bdの支点(絶縁部材10の径方向の中央軸10Ce)より、中央軸30Ceが径方向外側に位置する。このため、モーメントの関係から、金属リング30の基端向き面30eでは、金属リング30の径方向の中央軸30Ceより外側に加締め部20aの加重Pが多くかかる。
一方、これとは逆に、金属リング30の先端向き面30dでは、中央軸30Ceより径方向内側部分に絶縁部材10側からの反発力Pが多くかかる。
【0026】
従って、金属リング30全体としては、金属リング30の外周部30aを下方(先端)へ押し下げるような応力(曲げモーメント)Sが掛かることになる。なお、この応力Sは、金属リング30の外側面30fが絶縁部材10の基端部10Bの外側面10Bfより径方向外側へ突出し、かつ少なくとも金属リング30の内側面30iが絶縁部材10の内側面10iと面一であるか、又は内側面30iが内側面10iより外側に位置する限り、上述の絶縁部材10の支点との位置関係に起因して生じる。但し、後述するよう内側面30iが内側面10iより外側に位置すると、より応力Sが大きくなるので好ましい。
【0027】
一方、図3(b)に示すように、ガスセンサ100が加熱されると、金属製の加締め部20aがセラミック等の絶縁部材10より長手方向(図3のex方向)に延びるが、このとき応力Sと反対方向S(つまり、金属リング30の外周部30aが上方(基端)へ戻る方向)に金属リング30がスプリングバックする。そして、このスプリングバックに伴い、金属リング30の先端向き面30dが絶縁部材10を先端へ押し下げ(矢印Px)、これにより、加締めの緩みを防止し、シール材6による気密性の劣化を抑制する。
但し、金属リング30の外側面30fが絶縁部材10の基端部10Bの外側面10Bfより外側に突出し過ぎたり、金属リング30の厚みが薄過ぎると、加締めの際に金属リング30が弾性限を超えて塑性変形してしまい、上記したスプリングバックの効果が得られないことが判明した。
【0028】
そこで、本発明者らは、シミュレーションにより間隔Aと、厚みTの値を変え、スプリングバックが有効に生じる条件を実験的に詳細に検討した。このシミュレーションでは、図2に示すガスセンサの加締め部構造を用い、各構成部品の材質(具体的には熱膨張率、ヤング率等)とその位置を設定した。なお、金属リング30の材質としては、SUS630である。そして、常温(20℃)で、加締め部20aを0.4mm先端側へ押し下げてから除荷したときの各構成部品の位置変化に伴う反発力を、絶縁部材10の先端向き面(シール材6との界面)にシール材6側から掛かる面圧として解析した。この反発力(面圧)は、各構成部品の位置が変位したときにヤング率に応じて元に戻ろうとする力から計算される。なお、シミュレーションでは、金属リング30の内側面30iを絶縁部材10の内側面10iより径方向外側に位置させた。
次に、ガスセンサ100を450℃に加熱したとき、各構成部品の熱膨張に伴う延びによる位置変化を計算した。そして、この位置変化に応じた各構成部品のヤング率から、450℃における上記面圧を解析した。
なお、金属リング30の厚みTを0.5mm、1.0mm、2.0mmに変化させ、間隔Aを0mm、0.1mm、0.3mm、0.5mm、0.6mmに変化させて解析を行った。但し、このシミュレーションにおいて設定したハウジング20の加締め部構造の寸法では、間隔Aが0.6mmを超えるとハウジング20内に金属リング30を挿入することができなくなるため、間隔Aの最大値を0.6mmとした。
得られた結果を表1〜表3、及び図4に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
図4は、表1〜表3のA/Tにおいて、20℃から450℃への面圧減少率をグラフにしたものである。
図4において、A/T=0のとき(つまり、金属リング30が絶縁部材10の外側にはみ出さない従来例のとき)、厚みTが大きいほど面圧減少率が小さい(21.9%)。しかし、このような従来例では、加熱によって加締めが緩み、気密性が低下することが既に判明している。そこで、この面圧減少率21.9%を従来の水準とみなし、図4において面圧減少率が21.9%未満となるA/Tの範囲をRで求めたところ、0.05<A/T<0.55となった。つまり、0.05<A/T<0.55であれば、加熱による面圧減少が少なく、金属リング30によるスプリングバックが有効に生じていると考えられる。
ここで、0.05≧A/Tの場合、Aが実質的に0であり、上記した金属リング30のスプリングバックが生じず、加締めの緩みを防止する効果が得られない。一方、A/T≧0.55の場合、間隔Aが大きくなり過ぎ、金属リング30の外周側が下方(先端)へ撓み過ぎて塑性変形し、上記したスプリングバック効果が得られない。
厚みT≧1.0mmとすると、金属リング30の塑性変形がさらに起きにくくなるので、好ましい。
【0033】
なお、図1、図2に示した実施形態においては、加締め部20aの内側端20apと金属リング30の基端向き面30eとの間に隙間Gが形成され、内側端20apと金属リング30とが離間している。
このようにすると、加締め部20aのうち、金属リング30の基端向き面30eと接し、金属リング30に加締め加重を掛ける位置が金属リング30の外周部30a側になる。そのため、図3で説明した金属リング30の外周部30a側を下方(先端)へ押し下げる応力Sが掛かり易くなり、上記したスプリングバック効果が容易に生じる。
【0034】
さらに、図3(b)に示されるように、加締め部20aと金属リング30との接触部30gが絶縁部材10の外側面10Bfより径方向内側に位置している。これにより、金属リング30の外周部30a側に加締め加重を掛けつつも、金属リング30の外周部30aのみが変形してしまうことがなく、十分なスプリングバック効果を得ることができる。
【0035】
又、ガスセンサ100の軸線方向に沿う面で切断した金属リング30の断面が矩形であると好ましい。この場合、金属リング30の先端向き面30d、基端向き面30eが平面となり、加締め部20a及び絶縁部材10の基端部10Bの基端向き面10Bdに接する面積が大きくなるため、上記したスプリングバックによるバネ力をこれら部材に確実に及ぼすことができる。断面が矩形である金属リング30は、例えば平板を打ち抜いて製造することができる。なお、金属リング20の先端向き面30dが、絶縁部材10の基端向き面10Bdに面接触している形状であれば、少なくとも上記したスプリングバックによるバネ力をこれら部材により確実に及ぼすことができる。
【0036】
さらに、図1、図2に示した実施形態においては、金属リング30の内側面30iが絶縁部材10の内側面10iより径方向外側に位置している。この構成による効果を、図5を参照し、その内側面31iが絶縁部材10の内側面10iと面一に位置する金属リング31を例として説明する。
まず、加締め部20aで金属リング31の外周側により多くの加重を掛けつつ加締めると(図5(a))、金属リング31の外周側が押し下げられるにつれて、金属リング31の内周部側が上方(基端側)へ押し上げられる(図5(b))。このとき、金属リング31の内側面31iが絶縁部材10の内側面10iと面一であると、金属リング31の内周部側が押し上げられた際に内側面31iがセンサ素子3の外面に引っ掛かったりして加締め作業がし難くなる場合がある。
そこで、図2に示すように、金属リング30の内側面30iを絶縁部材10の内側面10iより径方向外側に位置させることで、上記した引っ掛かりが少なくなり、加締めを確実に行うことができる。
【0037】
なお、図6に示すように、ガスセンサ100の軸線方向に沿う面で切断した金属リング32の断面が矩形と異なるもの(図6の例では円管形)でもよい。このような金属リング32としては、円や楕円の管状のメタル中空リングが挙げられる。勿論、中実のリングであってもよい。断面が矩形と異なる金属リング32の場合、間隔Aは、金属リング32の最外側と絶縁部材10との間隔(図6のA2に相当)とし、厚みTは加締め部と絶縁部材との間における金属リング32の最大厚み(図6のT2に相当)とする。
【0038】
又、図7に示すように、絶縁部材11の基端部11Bの外側面11Bfを他の部分の外面より縮径させて段部11dを形成してもよい。つまり、少なくとも絶縁部材11の基端部11Bにおいて金属リング30の外側面30fが外側に突出していればよく、絶縁部材11の他の部分では金属リング30が外側に突出している必要はない。但し、絶縁部材11の外側面11Bfがストレート形状となっているほうが、絶縁部材10にクラックが生じないため好ましい。
【0039】
次に、本発明の第2の発明における金属リング30と絶縁部材10との関係について説明する。第2の発明においては、A/Tを規定する代わりに、金属リング30の外周部30aの先端向き面30d2が絶縁部材10の基端部10Bの基端向き面10Bdより先端側に位置している。但し、第2の発明のその他の構成については、第1の発明と同様であるので説明を省略し、既に述べた図2〜図7を参照する。なお、後述するように、金属リング30の先端向き面30d2は、金属リング30の外周部30a付近における面であって、金属リング30が絶縁部材10と接している部分の先端向き面30dより下方(先端側)に突出している。つまり、金属リングが絶縁部材とハウジングとの間隙に食い込んでおり、先端向き面30dと先端向き面30d2とは面一になっていない。従って、両者を区別するため、符号をそれぞれ30d、30d2としている。
図2において、絶縁部材10の基端部10Bの基端向き面10Bdに対し、金属リング30の外周部30aの先端向き面30d2が下方(先端側)に突出している。つまり、金属リング30の先端向き面30dを絶縁部材10の基端向き面10Bdから延ばした延長線を表す仮想線L(この仮想線Lは、先端向き面30dを通る)より下方に曲がる程度に、金属リング30の外側により多くの加締め加重を掛けている。これにより、図3に示したように、金属リング30の外周部30aを下方(先端)へ押し下げる応力Sが大きくなる。そして、それに応じて上記したスプリングバック効果も大きくなるので、第1の発明と同様に加締めの緩みを防止し、シール材6による気密性の劣化を抑制することができる。
【0040】
これに対し、金属リング30の先端向き面30d2が仮想線Lより上方(基端側)に位置する場合(つまり、金属リングが絶縁部材とハウジングとの間隙に食い込まず、先端向き面30d、30d2が面一の場合)、金属リング30外側への加締め加重が不足して応力Sが小さくなり、スプリングバック効果も少なくなる。
このことは、上記したシミュレーションにおいて、常温で間隔A>0とし、加締め部20aを0.4mm先端側へ押し下げてから除荷したとき、いずれの条件でも金属リング30の外周縁30fの先端向き面30d2が仮想線Lより先端側に垂れ下がったことからも確認された。
【0041】
なお、第2の発明の場合、図6に示したような金属リング32においても、外周部の先端向き面32d2が仮想線Lより下方(先端側)に位置する必要がある。但し、金属リング32の場合、その表面が平面状でないため、必ずしも金属リング32の最外周が先端側に下がっているとは限らず、外周からやや内側の部分が仮想線Lより下方に位置する場合がある。従って、金属リング32のうち、絶縁部材10の基端部10Bより径方向外側に突出する金属リングの外周部が仮想線Lより下方(先端側)に位置していればよい。
【0042】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
3 センサ素子
6 シール材
10、11 絶縁部材
10B、11B 絶縁部材の基端部
10Bd 絶縁部材の基端部の基端向き面
10Bf、11Bf 絶縁部材の基端部の外側面
10i 絶縁部材の内側面
20 ハウジング
20a ハウジングの加締め部
20ap 加締め部の内側端
30、31、32 金属リング
30a 金属リングの外周部
30d 金属リングの先端向き面
30d2、32d2 金属リングの外周部の先端向き面
30e 金属リングの基端向き面
30f 金属リングの外周部の外側面
30g 加締め部と金属リングとの接触部
30i 金属リングの内側面
100 ガスセンサ
A 金属リングの外周部の外側面と絶縁部材の基端部の外側面との径方向の間隔
F 先端の方向
T 金属リングの厚み
L 金属リングの先端向き面を絶縁部材の基端向き面から延ばした延長線(仮想線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる筒状のハウジングと、
先端側を該ハウジングの先端から突出させると共に、該ハウジングの内側に挿通配置されたセンサ素子と、
前記センサ素子と前記ハウジングとの隙間に充填されたシール材と、
該シール材の基端側に配されると共に、少なくとも基端部の外側面が前記ハウジングの内側面と離間する筒状の絶縁部材と、
該絶縁部材の基端側に配されると共に、その外周部が前記絶縁部材の前記基端部より径方向外側に突出し、析出硬化型合金からなる環状の金属リングとを有し、
前記シール材と前記絶縁部材と前記金属リングとは、前記ハウジングの基端部を内側に屈曲して形成した加締め部によって、基端側から先端側へ向かって押圧された状態で加締め固定されており、
前記金属リングの厚みをTとし、前記金属リングの前記外周部の外側面と前記絶縁部材の前記基端部の外側面との径方向の間隔をA(但し、A>0)としたとき、0.05<A/T<0.55の関係を満たすガスセンサ。
【請求項2】
軸線方向に延びる筒状のハウジングと、
先端側を該ハウジングの先端から突出させると共に、該ハウジングの内側に挿通配置されたセンサ素子と、
前記センサ素子と前記ハウジングとの隙間に充填されたシール材と、
該シール材の基端側に配されると共に、少なくとも基端部の外側面が前記ハウジングの内側面と離間する筒状の絶縁部材と、
該絶縁部材の基端側に配されると共に、その外周部が前記絶縁部材の前記基端部より径方向外側に突出する環状の金属リングとを有し、
前記シール材と前記絶縁部材と前記金属リングとは、前記ハウジングの基端部を内側に屈曲して形成した加締め部によって、基端側から先端側へ向かって押圧された状態で加締め固定されており、
前記金属リングの外周部の先端向き面は、前記絶縁部材の前記基端部の基端向き面より先端側に位置しているガスセンサ。
【請求項3】
前記加締め部の内側端が前記金属リングの内側面より径方向外側に位置している請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記加締め部は、前記金属リングに直接接しており、
前記加締め部の前記内側端が前記金属リングと離間している請求項1〜3のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記加締め部と前記金属リングとの接触部が前記絶縁部材の外側面より径方向内側に位置している請求項1〜4のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記金属リングの内側面が前記絶縁部材の内側面より径方向外側に位置している請求項1〜5のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記金属リングの先端向き面は、前記絶縁部材に面接触している請求項1〜6のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記軸線方向に沿う面で切断した前記金属リングの断面が矩形である請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記絶縁部材の外側面がストレート形状である請求項1〜8のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記析出硬化型合金は、析出硬化系ステンレス鋼である請求項1記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−61353(P2013−61353A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−57(P2013−57)
【出願日】平成25年1月4日(2013.1.4)
【分割の表示】特願2010−160467(P2010−160467)の分割
【原出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】