説明

ガスタービン構成部品のための材料、ガスタービン構成部品の製造方法、及びガスタービン構成部品

本発明は、少なくともチタンとアルミニウムとを含有するチタン−アルミニウム系合金材料であるガスタービン構成部品のための材料に関するものである。本発明によれば、該材料は、a)室温領域において、B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、B2−Ti相の割合は最大で5体積パーセントであり、且つ、b)共析温度近傍領域において、β−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、β−Ti相の割合は最小で10体積パーセントである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した種類のガスタービン構成部品のための材料に関する。本発明は更に、請求項9の前提部分に記載した種類のガスタービン構成部品の製造方法と、請求項13の前提部分に記載した種類のガスタービン構成部品とに関する。
【背景技術】
【0002】
今日のガスタービンは、また特に航空機用エンジンは、信頼性、重量、出力、経済性、及び耐久性の夫々についての高度の要求を満たさねばならない。この数十年ほどの間に、特に民生用分野において、これら列挙した要求事項を全て満たすことのできる高い技術的完成度に達した航空機用エンジンが開発されるに至った。このような航空機用エンジンを開発する上で、重要な役割を果たした要因は数々あるが、それらのうちでも特に重要であるのは、適切な材料が選択されるようになったこと、目的に適した新規な材料が作り出されたこと、それに、新規な製造方法が案出されたことである。
【0003】
航空機用エンジンなどのガスタービンに現在使用されている材料のうち、最も重要な材料は、チタン合金、ニッケル合金(いわゆる超合金)、それに高強度鋼である。高強度鋼は、軸部材、動力伝達部材、コンプレッサ段のハウジング、それにタービン段のハウジングの材料として用いられている。チタン合金は、コンプレッサ段の部品の材料として一般的なものである。ニッケル合金は、航空機用エンジンの部品のうちの高温に曝される部品の材料として適している。
【0004】
チタン合金、ニッケル合金、ないしはその他の合金を材料としてガスタービン構成部品を製造するための従来公知の製造技法として、真っ先に挙げられるのは、精密鋳造法及び精密鍛造法である。例えばコンプレッサ段の構成部品などのように、大きな応力が作用するガスタービン構成部品は、その全てが鍛造品とされている。一方、タービン段の構成部品は多くの場合、精密鋳造品として製造されている。
【0005】
ガスタービン構成部品をチタン−アルミニウム系合金材料で製造することは、既に慣用技術となっている。その場合に特に、γ−TiAl系合金材料が用いられているが、しかしながらγ−TiAl系合金材料に鍛造を施すことには問題がある。即ち、この材料で鍛造品を製造するためには、実際上、例えば押出加工などにより予成形して製作した半加工品に、恒温鍛造または熱間鍛造を施すという製造手順を取らねばならない。しかるに、恒温鍛造と熱間鍛造とのいずれを用いる場合でも、準恒温状態で等温押出加工された一次材料を必要とし、そのことが製造コストを押し上げる原因となっていた。
【0006】
従って、新規な材料を用いてその材料に適合した鍛造法を実施することによりガスタービン構成部品を製造するような製造方法が求められている。またその製造方法は、低廉な製造コストで優れたプロセス信頼性及びプロセス安定性を保証し得るものでなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる状況に鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、ガスタービン構成部品のための新規な材料、ガスタービン構成部品の新規な製造方法、及び、新規なガスタービン構成部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は請求項1に記載の材料により達成される。本発明によれば、該材料は、a)室温領域において、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、β/B2−Ti相の割合は最大で5体積パーセントであり、且つ、b)共析温度領域において、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、β−Ti相の割合は最小で10体積パーセントである。
【0009】
本発明に係る材料は、γ−TiAl系統の合金材料であって、広い温度範囲内で鍛造を施し得るものである。また、その鍛造のための一次材料としては、鋳造品を使用することができ、そのため、高コストの押出成形品を使用する必要がない。
【0010】
本発明に係るガスタービン構成部品の製造方法は、請求項9に記載した通りのものであり、本発明に係るガスタービン構成部品は、請求項13に記載した通りのものである。
【0011】
従属請求項は、本発明の好適な実施の形態に関する数々の特徴を記載したものであり、それら特徴については以下の説明によって明らかとなる。また以下に添付図面を参照しつつ、本発明の幾つかの具体例について詳細に説明するが、ただし本発明はそれら具体例のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る材料から成り、本発明に係る方法により製造されたガスタービンのタービンブレードを高度に模式化して示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ガスタービン構成部品のための新規な材料に関するものであり、この材料はチタン−アルミニウム合金系統の材料である。本発明に係る材料は、室温領域においても複数の相を含み、いわゆる共析温度領域においても複数の相を含むものである。
【0014】
室温領域においては、本発明に係るこのTiAl系統の合金材料は、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、室温におけるβ/B2−Ti相の割合は最大で5体積パーセントである。共析温度領域においては、本発明に係るこのTiAl系統の合金材料は、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、共析温度領域におけるβ/B2−Ti相の割合は最小で10体積パーセントである。
【0015】
このように、本発明に係る前記材料はγ−TiAl系統の合金材料である。本発明に係る前記材料は、従来の鍛造法により成形し得るものであり、それゆえ比較的広い温度範囲内の鍛造温度で成形し得るものである。尚、Tを前記材料の共析温度とし、Tαを前記材料のα変態温度とするとき、前記材料の鍛造温度がT−50KからTα+100Kまでの温度範囲内にあるようにすることが望ましい。
【0016】
鍛造温度即ち成形温度がTα以下であるとき、並びに、上記鍛造温度範囲即ち成形温度範囲として示した温度範囲内にあるとき、並びに、共析温度領域及び室温領域にあるときには、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とが熱力学的平衡状態にある。
【0017】
本発明にかかる前記材料の熱力学的平衡状態にある体心立方構造のβ/B2−Ti相の割合は、室温領域においては、5体積パーセントより小さい。一方、共析温度領域においては、この体心立方構造のβ/B2−Ti相の割合は、10体積パーセントより大きい。
【0018】
本発明に係るγ−TiAl系統の合金材料は、チタン及びアルミニウムを含有することに加えて、更に、ニオブと、モリブデン及び/またはマンガンと、ホウ素及び/または炭素及び/またはケイ素とを含有するものである。
【0019】
このチタン−アルミニウム系合金材料は、
42〜45原子パーセントのアルミニウムと、
3〜8原子パーセントのニオブと、
0.2〜3原子パーセントのモリブデン及び/またはマンガンと、
0.1〜1原子パーセントの、また好ましくは0.1〜0.5原子パーセントの、ホウ素及び/または炭素及び/またはケイ素と、
残余のチタンと、
から成る組成を有するものとすることが望ましい。
【0020】
本発明に係る材料から成るガスタービン構成部品を、本発明に係る製造方法によって製造するには、先ず、本発明に係る材料から成る半製品即ち一次材料を用意する。この半製品は、低コストの鋳造半製品とすることができる。ただし、この半製品を、一次成形品とすることも考えられる。
【0021】
本発明に係る製造方法によれば、続いて、本発明に係るγ−TiAl系統の合金材料から成るその半製品に鍛造を施すことで成形を施し、この鍛造即ち成形は、T−50KからTα+100Kまでの温度範囲内の成形温度即ち鍛造温度で行うようにする。また、その際に、少なくとも1m/sの成形速度で鍛造を施すようにする。尚、好適な具体例においてはその鍛造に先立って、その半製品の表面に断熱層を形成するようにしている。
【0022】
また、その鍛造の後に、その製造対象の構成部品に熱処理を施すことが望ましい。
【0023】
更に、製造するガスタービン構成部品が、図1に示したような、航空機用エンジンのコンプレッサ段のロータブレード10である場合に、本発明の方法によれば、該タービンブレードの翼体部11の領域には、耐クリープ性の大きい粗粒組織とするために単一回鍛造を施し、該タービンブレードの翼根部12の領域には、靱性の大きい細粒組織とするために多数回鍛造を施すようにすることが望ましい。また、それら単一回鍛造及び多数回鍛造を施した後に、熱処理を施すことが望ましい。
【0024】
本発明に係るガスタービン構成部品は、本発明に係る材料から成り、本発明に係る製造方法を用いて製造されたものである。本発明に係るガスタービン構成部品とすることが特に望ましいものとしては、航空機用エンジンのコンプレッサ段のロータブレードや、また更に、タービン構成部品などがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともチタンとアルミニウムとを含有するチタン−アルミニウム系合金材料であるガスタービン構成部品のための材料において、
a)該材料は、室温領域において、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、β/B2−Ti相の割合は最大で5体積パーセントであり、
b)該材料は、共析温度領域において、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とを含み、β/B2−Ti相の割合は最小で10体積パーセントである、
ことを特徴とする材料。
【請求項2】
室温領域における体心立方構造のβ/B2−Ti相の割合が5体積パーセントより小さいことを特徴とする請求項1記載の材料。
【請求項3】
共析温度領域における体心立方構造のβ/B2−Ti相の割合が10体積パーセントより大きいことを特徴とする請求項1又は2記載の材料。
【請求項4】
室温領域において、β/B2−Ti相と、α−TiAl相と、γ−TiAl相とが存在することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の材料。
【請求項5】
共析温度領域において、β−Ti相と、αTiAl相と、γ−TiAl相とが熱力学的平衡状態にあることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の材料。
【請求項6】
前記材料が、
チタンと、
アルミニウムと、
ニオブと、
モリブデン及び/またはマンガンと、
ホウ素及び/または炭素及び/またはケイ素と、
を含有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の材料。
【請求項7】
前記材料が、
42〜45原子パーセントのアルミニウムと、
3〜8原子パーセントのニオブと、
0.2〜3原子パーセントのモリブデン及び/またはマンガンと、
0.1〜1原子パーセントのホウ素及び/または炭素及び/またはケイ素と、
残余のチタンと、
から成る組成を有することを特徴とする請求項6記載の材料。
【請求項8】
を前記材料の共析温度とし、Tαを前記材料のα変態温度とするとき、前記材料の成形温度がT−50KからTα+100Kまでの温度範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の材料。
【請求項9】
ガスタービン構成部品の製造方法において、
a)請求項1乃至8の何れか1項記載の材料から成る半製品を用意するステップと、
b)Tを前記材料の共析温度、Tαを前記材料のα変態温度とするとき、T−50KからTα+100Kまでの温度範囲内の成形温度で前記材料から成る前記半製品に鍛造を施して構成部品とするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
少なくとも1m/sの成形速度で鍛造を施すことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記鍛造の後に熱処理を施すことを特徴とする請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
前記半製品として鋳造半製品を用いることを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至8の何れか1項記載の材料から成り、請求項9乃至12の何れか1項記載の方法により製造されたことを特徴とするガスタービン構成部品。
【請求項14】
前記ガスタービン構成部品はタービンブレードであり、該タービンブレードの翼体部領域には、耐クリープ性の大きい粗粒組織とするために単一鍛造が施されており、該タービンブレードの翼根部領域には、靱性の大きい細粒組織とするために多数回鍛造が施されていることを特徴とする請求項13記載のガスタービン構成部品。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2011−502213(P2011−502213A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530269(P2010−530269)
【出願日】平成20年10月18日(2008.10.18)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001702
【国際公開番号】WO2009/052792
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(391028384)エムテーウー・アエロ・エンジンズ・ゲーエムベーハー (26)
【住所又は居所原語表記】DACHAUER STRASSE 665,80995 MUENCHEN,GERMANY
【出願人】(510118112)ボーレル・シュミーデテクニック・ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー (1)
【出願人】(510118123)ゲーエフエー・メタル・ウント・マテリアリエン・ゲーエムベーハー (1)
【出願人】(510118134)
【Fターム(参考)】