説明

ガスタービン設備

【課題】圧縮機の吸気中に水噴霧するガスタービン設備において、吸気中の水分が凍結する外気温度においてもガスタービン設備を安全に運転する。
【解決手段】圧縮機1と、該圧縮機から吐出した空気と燃料とを燃焼させる燃焼器4と、該燃焼器の燃焼ガスによって駆動されるタービン2と、前記圧縮機の上流側に設置され、前記圧縮機に供給される空気に水を噴霧する噴霧装置9と、前記圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却する空気冷却器5と、該空気冷却器で冷却された圧縮空気を加湿する増湿器6と、該増湿器で加湿された圧縮空気を前記タービンの排ガスにより加熱する再生器7と、前記圧縮機から抽気した圧縮空気を前記タービンに供給する抽気経路11とを備え、前記空気冷却器で冷却された圧縮空気の一部を前記抽気経路に供給する空気供給経路13を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の吸気中に水を噴霧するガスタービン設備に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機吸気に水噴霧して、吸気温度を外気温より低下させ、さらに高湿分空気とすることにより、ガスタービンの出力と熱効率を向上するガスタービンシステムとして、例えばWO98/48159に記載の技術がある。
【0003】
なお、ガスタービンでは、高温の燃焼排ガスによる材料劣化を防止するため、タービンを冷却する必要がある。この冷却空気としては、通常、圧縮機で圧縮された空気を一部抽気した圧縮空気をタービン冷却に使用しており、これは圧縮機の吸気に水噴霧するシステムにおいても同様の方法をとっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO98/48159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、圧縮機の吸気に水噴霧するガスタービンシステムでは、冬期のように外気温度が低下して凍結のため噴霧水量が制限される場合には、圧縮機に供給される空気の湿分が低下するため、圧縮機で圧縮された空気温度は通常運転時よりも上昇してしまう。数MW規模のシステムでは、圧縮機の圧縮比がさほど大きくないため、水噴霧したときと比較して水噴霧しないときの圧縮後の空気温度上昇は、外気温度低下と相殺する程度であり、タービン冷却のために圧縮機から抽気する空気温度は、タービン冷却上、特に問題となっていなかった。
【0006】
しかし、数10MW程度のシステムになると、圧縮機の圧縮比が大きくなるため、圧縮機吸気に水噴霧しない場合の圧縮後の空気温度は、冷却設計で想定した温度よりも、例えば100℃程度高くなり、圧縮機から抽気した冷却空気では、十分なタービン冷却が困難になる。
【0007】
本発明の目的は、圧縮機の吸気に水噴霧するガスタービンにおいて、外気温度の低下により噴霧水量を制限された場合でも、タービン冷却空気の温度上昇を抑制することができるガスタービン設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のガスタービン設備は、空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機から吐出した空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器の燃焼ガスによって駆動されるタービンと、前記圧縮機の上流側に設置され、前記圧縮機に供給される空気に水を噴霧する噴霧装置と、前記圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却する空気冷却器と、該空気冷却器で冷却された圧縮空気を加湿する増湿器と、該増湿器で加湿された圧縮空気を前記タービンの排ガスにより加熱する再生器と、前記圧縮機から抽気した圧縮空気を前記タービンに供給する抽気経路とを備えたガスタービン設備において、前記空気冷却器で冷却された圧縮空気の一部を前記抽気経路に供給する空気供給経路を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧縮機の吸気に水噴霧するガスタービンにおいて、外気温度の低下により噴霧水量を制限した場合でも、タービン冷却空気の温度上昇を抑制することができるガスタービン設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるガスタービン設備の系統図である。
【図2】吸気噴霧水量に対する圧縮機入口空気温度と抽気温度の変化の模式図である。
【図3】本発明によるガスタービン設備の制御ブロック図である。
【図4】本発明によるガスタービン設備の系統図である。
【図5】本発明によるガスタービン設備の制御ブロック図である。
【図6】本発明によるガスタービン設備の系統図である。
【図7】本発明によるガスタービン設備の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態を示すガスタービン設備のシステム系統図である。
【0013】
本実施例のガスタービン設備は、空気を圧縮して吐出する圧縮機1と、圧縮機1で圧縮して得た圧縮空気と燃料を燃焼して燃焼ガスを生成する燃焼器4と、燃焼器4で生成された前記燃焼ガスにより駆動されるガスタービン2と、このガスタービン2によって駆動される発電機3と、圧縮機1で圧縮された空気を冷却する空気冷却器5と、空気冷却器5で冷却された圧縮空気に水を加湿する増湿器6と、ガスタービン2から排出された排気ガスの熱を利用して圧縮機1から燃焼器4へ供給される前記圧縮空気を加熱する再生器7と、再生器7を経た排ガスと熱交換させて増湿器6で加湿する給水を加熱する給水加熱器8と、圧縮機1の吸気に水を噴霧する水噴霧器9(噴霧装置)を備えている。圧縮機1の吐出または途中段で抽気された圧縮空気は、抽気ライン11によってガスタービンへ送られ、タービン翼やタービンケーシングを冷却してタービン主流ガスと合流する。また、抽気ライン11には水噴霧器10が設けられ、噴霧水供給ライン12により供給される水を、抽気された圧縮空気に噴霧してガスタービン冷却空気の温度を低下させる。
【0014】
以上のように構成された本実施形態では、圧縮機から抽気されたタービン冷却空気に水噴霧する設備を設けたことに特徴がある。
【0015】
図2は、外気温度が低く、圧縮機吸気への噴霧水量が制限される場合に、タービン冷却空気温度が上昇する問題を図示したもので、圧縮機吸気への噴霧水量に対する圧縮機入口空気温度と抽気された空気温度の変化を模式的に示している。
【0016】
通常運転時には、圧縮機吸気へ水噴霧することにより圧縮機入口空気温度は低下し、これにより圧縮機から抽気した空気温度も低下する。圧縮機吸気への噴霧水量が十分であれば、抽気温度はタービン冷却に必要な冷却空気設計温度Td以下にすることができる。しかし、外気温度が低く、圧縮機入口空気温度が凍結を生じる制限温度Toまで低下する場合には、噴霧水量が制限される。このような場合には、圧縮機からの抽気温度を冷却空気設計温度Tdまで下げることができず、十分なタービン冷却が困難になる。
【0017】
次に、図1のシステム系統図と図3の制御ブロック図とを用いて、本発明のシステムの制御方法を説明する。
【0018】
圧縮機1の吸気温度と吸気流量は温度測定器21と流量測定器31で測定され、制御装置51に温度測定信号T21と流量測定信号V31が送られる。これらの信号に基づいて、制御装置51は圧縮機入口空気温度が制限温度Toまで低下しないような最大噴霧水量を計算し(Wmax=f1(T21,V31,To))、流量調節弁41に制御信号S41
を送って弁開度を調節することにより水噴霧器9での噴霧水量を制御する。また、水噴霧器9で水噴霧された圧縮機入口空気温度は温度測定器22で測定され、測定信号T22が制御装置51に送られる。制御装置51は圧縮機入口空気温度T22と制限温度Toとを比較し、圧縮機入口空気温度T22が制限温度Toより低い場合には、流量調節弁41へ制御信号S41を送って弁開度を調節し、水噴霧器9での噴霧水量を減らす(W=W−ΔW)。以上の制御方法により、圧縮機吸気中の水分が凍結することによる圧縮機効率低下や翼信頼性低下を防止することができる。
【0019】
一方、タービン冷却のために圧縮機から抽気された空気温度と流量は温度測定器23と流量測定器33で測定され、制御装置51に温度測定信号T23と流量測定信号V33が送られる。これらの信号に基づいて、制御装置51は抽気への噴霧水量を計算し、流量調節弁42に制御信号S42を送って弁開度を調節することにより水噴霧器10での噴霧水量を制御する(Wc=f2(T23,V33))。さらに制御装置51は抽気温度T23と冷却空気設計温度Tdを比較し、抽気温度T23が設計温度Tdより高い場合には流量調節弁42に制御信号S42を送って弁開度を調節することにより噴霧水量を増加させ(Wc=Wc+ΔWc)、抽気温度T23が設計温度Td以下になるようにフィードバック制御をする。
【0020】
以上の制御方法により、外気温度が低くて圧縮機吸気への噴霧水量が制限される場合でも、タービン冷却のために圧縮機から抽気した空気温度を設計温度以下に制御して、ガスタービン設備を運転することができる。
【実施例2】
【0021】
図4は、本発明の他の実施形態を示すガスタービン設備である。本実施形態では、空気冷却器5から増湿器6に供給される圧縮空気の一部を分岐させて、この圧縮空気を圧縮機の抽気ライン11に供給する空気供給ライン13を設けたことに特徴がある。
【0022】
図4のシステム系統図と図5の制御ブロック図とを用いて、本発明のシステムの制御方法を説明する。
【0023】
圧縮機の吸気温度と吸気流量は温度測定器21と流量測定器31で測定され、制御装置52に温度測定信号T21と流量測定信号V31が送られる。これらの信号に基づいて、制御装置52は圧縮機入口空気温度が制限温度Toまで低下しないような最大噴霧水量を計算し(Wmax=f1(T21,V31,To))、流量調節弁41に制御信号S41を
送って弁開度を調節することにより水噴霧器9での噴霧水量を制御する。圧縮機入口空気温度は温度測定器22で測定され、測定信号T22が制御装置52に送られる。制御装置52は圧縮機入口空気温度T22と制限温度Toとを比較し、圧縮機入口空気温度T22が制限温度Toより低い場合には、流量調節弁41へ制御信号S41を送って弁開度を調節し、水噴霧器9での噴霧水量を減らす(W=W−ΔW)。以上の制御方法により、圧縮機吸気中の水分が凍結することによる圧縮機効率低下や翼信頼性低下を防止することができる。
【0024】
一方、タービン冷却のために圧縮機から抽気された空気温度と流量は温度測定器23と流量測定器33で測定され、制御装置52に温度測定信号T23と流量測定信号V33が送られる。さらに、空気冷却器5で冷却された空気の一部を分岐させた冷却空気温度は温度測定器24で測定され、測定信号T24が制御装置52に送られる。これらの信号に基づいて、制御装置52は抽気ライン11への冷却空気供給量Vbと圧縮機からの抽気流量Vcを計算し(Vb=f3(T23,V33,T24)、Vc=(T23,V33,T24))、流量調節弁43と44にそれぞれ制御信号S43とS44を送って弁開度を調節することにより、冷却空気供給量と抽気流量を制御する。
【0025】
制御装置52は抽気温度T23と冷却空気設計温度Tdを比較し、抽気温度T23が設計温度Tdより高い場合には、流量調節弁43と44に制御信号S43とS44を送って弁開度を調節することにより冷却空気供給量Vcの割合を増加させ(Vc=Vc+ΔVc)、抽気温度T23が設計温度Td以下になるようにフィードバック制御をする。タービン冷却に使用する空気量が増加するとガスタービンの熱効率が低下するため、空気冷却器5からの冷却空気供給量Vcと圧縮機1からの抽気流量Vbの合計はなるべく少なくすることが好ましい。したがって、流量調節弁43と44を使って、タービン冷却に使用する空気量を最小限に抑えるように制御装置52で制御する。例えば、冷却空気供給量Vcを増加させた場合には、抽気流量Vbを減少させる制御(Vb=Vb−ΔVb)を行う。
【0026】
以上の制御方法により、外気温度が低くて圧縮機吸気への噴霧水量が制限される場合でも、タービン冷却に使用する空気温度を設計温度以下に制御し、また使用空気流量を最小限としてガスタービン設備を運転することができる。
【実施例3】
【0027】
図6は、本発明の他の実施形態を示すガスタービン設備である。本実施形態では、圧縮機からの抽気の一部を圧縮機の吸気へ戻す空気供給ライン14を設けたことに特徴がある。
【0028】
図6のシステム系統図と図7の制御ブロック図とを用いて、本発明のシステムの制御方法を説明する。
【0029】
圧縮機1の吸気温度と吸気流量は温度測定器21と流量測定器31で測定され、制御装置53に温度測定信号T21と流量測定信号V31が送られる。これらの信号に基づいて、制御装置53は圧縮機入口空気温度が制限温度Toまで低下しないような最大噴霧水量を計算し(Wmax=f1(T21,V31,To))、流量調節弁41に制御信号S41
を送って弁開度を調節することにより水噴霧器9での噴霧水量を制御する。圧縮機入口空気温度は温度測定器22で測定され、測定信号T22が制御装置53に送られる。制御装置53は圧縮機入口空気温度T22と制限温度Toとを比較し、圧縮機入口空気温度T22が制限温度Toより低い場合には、流量調節弁41へ制御信号S41を送って弁開度を調節し、水噴霧器9での噴霧水量を減らす(W=W−ΔW)。以上の制御方法により、圧縮機吸気中の水分が凍結することによる圧縮機効率低下や翼信頼性低下を防止することができる。
【0030】
続いて、タービン冷却のために圧縮機1から抽気された空気温度と流量は温度測定器23と流量測定器33で測定され、制御装置53に温度測定信号T23と流量測定信号V33が送られる。制御装置53は抽気温度T23と冷却空気設計温度Tdを比較し、抽気温度T23が設計温度Tdより高い場合には、流量調節弁44と45に制御信号S44とS45を送って弁開度を調節することにより、圧縮機抽気の一部を吸気ライン15へ供給して吸気加熱する。なお、流量調節弁44と45の開度を同時に調節するのは、タービン冷却空気量を一定に保つためである。
【0031】
この後、最初に説明した吸気噴霧水量の制御手順へ戻り、温度上昇した吸気への噴霧水量を増加させて湿分を増やし、最終的にタービン冷却に使用する圧縮機からの抽気温度が設計値以下となるようにフィードバック制御する。
【0032】
以上の制御方法により、外気温度が低くて圧縮機吸気への噴霧水量が制限される場合でも、タービン冷却に使用する空気温度を設計温度以下に制御して、ガスタービン設備を運転することができる。また、外気温度に関わらず圧縮機吸気温度を最適制御できるという利点がある。さらに、通常、圧縮機吸気への水噴霧ができないような寒冷地においても空気への水噴霧が可能であり、ガスタービンの出力と効率を向上した運転ができ、設備稼働率を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
圧縮機の吸気中に水噴霧するガスタービン設備において、噴霧水が凍結する外気温度においてもガスタービン設備を安全に運転することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 圧縮機
2 ガスタービン
3 発電機
4 燃焼器
5 空気冷却器
6 増湿器
7 再生器
8 給水加熱器
9,10 水噴霧器
11 抽気ライン
12 噴霧水供給ライン
13,14 空気供給ライン
15 吸気ライン
21,22,23,24 温度測定器
31,33 流量測定器
41,42,43,44,45 流量調節弁
51,52,53 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、
該圧縮機から吐出した空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、
該燃焼器の燃焼ガスによって駆動されるタービンと、
前記圧縮機の上流側に設置され、前記圧縮機に供給される空気に水を噴霧する噴霧装置と、
前記圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却する空気冷却器と、
該空気冷却器で冷却された圧縮空気を加湿する増湿器と、
該増湿器で加湿された圧縮空気を前記タービンの排ガスにより加熱する再生器と、
前記圧縮機から抽気した圧縮空気を前記タービンに供給する抽気経路とを備えたガスタービン設備において、
前記空気冷却器で冷却された圧縮空気の一部を前記抽気経路に供給する空気供給経路を設けたことを特徴とするガスタービン設備。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン設備において、
前記圧縮機の吸気温度を測定する吸気温度測定器と、前記圧縮機から抽気された空気と前記空気冷却器から導入された空気との混合温度を測定する混合温度測定器と、前記混合温度測定器の測定値により前記圧縮機の吸気に供給する噴霧水量と、前記空気冷却器で冷却された空気を前記圧縮機の抽気に供給する量を調節する制御装置を備えたことを特徴とするガスタービン設備。
【請求項3】
請求項1に記載のガスタービン設備において、
前記制御装置は、前記噴霧装置により噴霧される噴霧水が凍結する条件を満足する場合には前記噴霧装置による水噴霧量を低減させ、前記低温空気供給経路から抽気経路に供給する空気流量を、前記水噴霧量の低減により上昇する抽気空気の温度を低下させるように制御することを特徴とするガスタービン設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−21534(P2012−21534A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238158(P2011−238158)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2008−3809(P2008−3809)の分割
【原出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)