説明

ガスバリアフィルムとその製造方法および環境感受性デバイス

【課題】 高湿度下に長期間置かれても高いガスバリア性を維持しうるガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】 プラスチックフィルム上の少なくとも一方の面に有機層と無機層を含む層を有するガスバリアフィルムを製造する際に、有機層を成膜した後、無機層を成膜する前に、有機層を構成するポリマーのガラス転移温度以上の温度で加熱するか、有機層に電子線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素や水分による影響を受けて性能が変化する環境感受性デバイスなどに適用可能な優れたガスバリア性を有するガスバリアフィルムとその製造方法に関する。特に、高湿度下に長期間置かれても高いガスバリア性を維持しうるガスバリアフィルムとそれを用いた環境感受性デバイス、特に有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や太陽電池、エレクトロルミネッセンス(EL)素子等の有機デバイスにおいて、重くて割れやすいガラス基板に代わり、薄くて軽く柔軟性に優れた透明なプラスチックフィルムを基板に用いることが検討されている。透明プラスチック基板は、大面積化が容易であり、ロール・トゥ・ロール(Roll to Roll)の生産方式を適用することも可能であることから、ガラスよりも生産性がよくコストダウンの点でも有利である。
しかし透明プラスチック基板は、ガラスと比較してガスバリア性に劣るという問題がある。有機デバイスは、一般に構成材料が水や空気によって劣化や変質を起こしやすい。例えば、液晶表示素子の基板にガスバリア性が劣る基材を用いると、液晶セル内の液晶を劣化させ、劣化部位が表示欠陥となって表示品位を低下させてしまう。有機EL素子であれば、ダークスポットの発生により均一な発光ができなくなってしまう。
【0003】
このような問題を解決するためには、上述のようなプラスチックフィルム基板自身にガスバリア機能を付与するか、或いはガスバリア性を持った透明なプラスチックフィルムでデバイス全体を封止すればよい。ガスバリアフィルムとしては、一般にプラスチックフィルム上に金属酸化物薄膜を形成したものが知られている。液晶表示素子に使用されるガスバリアフィルムとしては、例えば、プラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)がある。これらは、いずれも水蒸気透過率1g/m2/day程度の水蒸気バリア性を有する。しかし近年では、より高いバリア性が要求される有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイなどの開発が進んでおり、これらに使用可能な高バリア性をもつ基材が要求されるようになっている。
【0004】
この要求に応えるため、プラスチック基材に有機層と無機層を積層したガスバリアフィルムが開発されている。具体的には、プラスチック基材に有機層/無機層の交互積層構造を真空蒸着法により形成する技術が提案されている(特許文献3参照)。この技術により、ガスバリア性の改良が格段に進み、フレキシブルな有機ELディスプレイの実現の可能性が現実味を帯びてきた。しかしながら、ごく最近においては、さらなるガスバリア性が要求される有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイ等の開発が進み、これに使用可能な透明性を維持し、かつ一段と高いガスバリア性、特に水蒸気透過率で0.01g/m2/day未満の性能をもつ基材が要求されるようになってきた。
【0005】
この要求に応えるため、プラスチック基材の少なくとも片面に無機層と有機層を積層したガスバリアフィルムを積層後に加熱処理を行うことにより、高湿度下に長期間置かれてもガスバリア性能の低下を抑えることができる技術が提案されている(特許文献4参照)。しかし、無機層と有機層を積層したガスバリアフィルムに対して積層後に行う加熱処理工程自体がガスバリア性の低下を招いてしまうという問題があり、十分なガスバリア性能は達成できていなかった。これに対しては、ガラス転移温度が高いプラスチック基材を用いることで加熱処理工程自体によるガスバリア性能の低下を抑制する技術が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、そのレベルは十分とはいえず、さらなる改良が望まれていた。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭58−217344号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献3】米国特許第6,492,026号公報(第6頁[3−35]〜第8頁[8−45])
【特許文献4】特開2005−271467号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献5】特開2005−246716号公報(第1頁〜第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が検討したところ、プラスチック基材上に有機層と無機層を積層した後に加熱処理を行うことを特徴とする従来のガスバリアフィルムの製造方法には、有機層中の欠陥が加熱処理を行っても修復されずに存在し、また溶剤も多く含まれたままであることが判明した。このため、従来法で製造されるガスバリアフィルムは、ガスバリア性が十分とは言えず、高湿度下に長期間置かれた後のガスバリア性も満足の行くレベルではないため、実用性に課題があった。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、十分なガスバリア性を有しており、高湿度下に長期間置かれた場合であっても優れたガスバリア性を維持しうるガスバリアフィルムを提供することを本発明の目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ガスバリアフィルムの有機層に存在する欠陥を修復し、膜中に存在する溶剤を揮発させることができる方法や条件について検討した結果、優れたガスバリア性を有するガスバリアフィルムの製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的は、以下のガスバリアフィルムの製造方法、ガスバリアフィルム、および環境感受性デバイスにより達成される。
[1] プラスチックフィルム上の少なくとも一方の面に有機層と無機層を含む層を有するガスバリアフィルムの製造方法であって、
(1) 前記プラスチックフィルム上の少なくとも一方の面に前記有機層を成膜する有機層製膜工程、
(2) 製膜した前記有機層を、前記有機層を構成するポリマーのガラス転移温度以上の温度で加熱する加熱処理工程、または、製膜した前記有機層に電子線を照射する電子線照射工程、
(3) 前記無機層を製膜する無機層製膜工程、
をこの順に行うことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
[2] 前記加熱処理工程を減圧条件下で行うことを特徴とする[1]に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
[3] 前記加熱処理工程を100Pa以下で行うことを特徴とする[2]に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
[4] 前記有機層成膜工程において、有機層用塗布液を塗布して成膜することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
[5] 前記有機層用塗布液が、前記ポリマーを該ポリマーの良溶媒に溶解した塗布液であることを特徴とする[4]に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
[6] 前記加熱処理工程後の有機層表面の凹凸が5nm以下であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の製造方法で作製したガスバリアフィルムの製造方法。
[7] [1]〜[6]のいずれか一項に記載の製造方法により製造したガスバリアフィルム。
[8] [7]に記載のガスバリアフィルムを用いた環境感受性デバイス。
[9] [7]に記載のガスバリアフィルムを用いた有機EL素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法で製造されたガスバリアフィルムは、ガスバリア性が高く、高湿度下に長期間置かれた場合であってもそのような高いガスバリア性を維持しうる。
さらに、本発明の環境感受性デバイスは、高湿度下に長期間置かれた場合であってもデバイスの機能を良好に維持することができる。特に、本発明の有機EL素子は、ダークスポットによる発光の不均一化が抑制されており、耐久性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明のガスバリアフィルムとその製造方法および有機EL素子について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[ガスバリアフィルムの機能と構成]
本発明におけるガスバリアフィルムは大気中の酸素、水分を遮断する機能を有するバリア層をプラスチックフィルムの少なくとも片面に有するフィルムである。
本発明におけるバリア層は、少なくとも有機層と無機層が順次積層した構造を有する。好ましくは、複数の有機層と無機層を交互積層したバリア層である。バリア層は、プラスチックフィルム上に有機層、無機層の順に積層された構造であってもよいし、プラスチックフィルム上に無機層、有機層の順に積層された構造であってもよい。
【0011】
なお、本発明における有機層と無機層の境界(界面)は必ずしも明確である必要はなく、有機化合物と無機化合物が混在している領域が存在していて全体としてバリア層として機能するものであってもよい。例えば、有機化合物と無機化合物の割合が膜厚方向に連続的に変化するものであってもよい。その例としては、キムらによる論文「Journal of Vacuum Science and Technology A Vol. 23 p971−977(2005 American Vacuum Society) ジャーナル オブ バキューム サイエンス アンド テクノロジー A 第23巻 971頁〜977ページ(20005年刊、アメリカ真空学会)」に記載の態様や、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように有機層と無機層が界面を持たない連続的な層等が挙げられる。このように有機化合物と無機化合物が混在する領域を設ける場合は、有機化合物の含有量が多い領域と無機化合物の含有量が多い領域が膜厚方向に交互に現れる構造を採用することが好ましい。
【0012】
カスバリアフィルムを構成するバリア層の層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。なお、バリア層はプラスチックフィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0013】
有機層と無機層の交互積層構造は、ポリマー溶液をバー塗布する等の方法で有機層を成膜し、その有機層の上にスパッタ装置により無機層を成膜する工程を繰り返すことにより作製することができる。大量生産する場合には、塗布機により有機層成膜を行い、連続成膜できるスパッタ装置により無機層を製膜することにより、ロール・トゥ・ロールで連続成膜をすることができる。
【0014】
[プラスチックフィルム]
本発明のガスバリアフィルムを構成するプラスチックフィルムは、通常、基材フィルムとして機能する。プラスチックフィルムは、有機層、無機層等の構成層を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。また、ガラス転移温度(Tg)については、後述の有機層に用いられるポリマーのTg以上であれば特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性カーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのうち、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート:PET、ポリエチレンナフタレート:PENなど)が好ましい。
【0015】
これらのプラスチックフィルムの厚みは用途によって適宜選択されるため特に制限はないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。
これらのプラスチックフィルムは、片面もしくは両面に透明導電層、プライマー層等の機能層を有していてもよい。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層等が挙げられる。
【0016】
本発明のガスバリアフィルムを有機EL素子に適用する場合は、透明なプラスチックフィルム、すなわち、光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であるプラスチックフィルムを用いることが好ましい。プラスチックフィルムの光線透過率が80%以上あれば、後述する有機EL素子の基材フィルムとして好適に用いることができる。
なお、本明細書において透明性の尺度として用いられる光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
【0017】
[易接着剤層]
本発明のガスバリアフィルムは、プラスチックフィルムとバリア層の間の接着性(密着性)を向上させるために、プラスチックフィルム上に特に易接着剤層を形成してもよい。易接着層は、プライマー層、アンダーコート層、下塗層などとも呼ばれる層の1種であり、接着性の向上だけでなく、積層体の界面状態の調整なども図ることができる。
易接着層はバインダーを含有することが必須であるが、必要に応じてマット剤、界面活性剤、帯電防止剤、屈折率制御のための微粒子などを含有してもよい。バインダーには特に制限はなく、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ゴム系樹脂などを用いることができる。
【0018】
アクリル樹脂とはアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体を成分とするポリマーである。具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、ヒドロキシルアクリレートなどを主成分としてこれらと共重合可能なモノマー(例えば、スチレン、ジビニルベンゼンなど)を共重合したポリマーである。
ポリウレタン樹脂とは主鎖にウレタン結合を有するポリマーの総称であり、通常ポリイソシアネートとポリオールの反応によって得られる。ポリイソシアネートとしては、TDI(Tolylene Diisocyanate)、MDI(Methyl Diphenyl Isocyanate)、HDI(Hexylene diisocyanate)、IPDI(Isophoron diisocyanate)などがあり、ポリオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどがある。さらに、本発明のイソシアネートとしてはポリイソシアネートとポリオールの反応によって得られたポリウレタンポリマーに鎖延長処理をして分子量を増大させたポリマーも使用できる。
【0019】
ポリエステル樹脂とは主鎖にエステル結合を有するポリマーの総称であり、通常ポリカルボン酸とポリオールの反応で得られる。ポリカルボン酸としては、例えば、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などがあり、ポリオールとしては例えば前述のものがある。
【0020】
本発明のゴム系樹脂とは合成ゴムのうちジエン系合成ゴムをいう。具体例としてはポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−ジビニルベンゼン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレンなどがある。
【0021】
[有機層]
(ポリマー)
有機層は、通常、ポリマーの層である。具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他有機珪素化合物の層である。有機層は単独の材料からなっていても混合物からなっていてもよい。2層以上の有機層を積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように無機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0022】
本発明に用いられるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、100000〜500000であることが好ましく、100000〜300000であることがより好ましく、100000〜200000であることがさらに好ましい。分子量分布は1.2〜3であることが好ましく、1.2〜2.2であることがより好ましく、1.2〜2であることがさらに好ましい。このようなポリマーを用いることにより、有機層の欠陥修復効果や溶剤揮発効果がより促進される。重量平均分子量と分子量分布は、公知の方法により測定することができる。
【0023】
(製膜方法)
有機層の成膜方法としては、通常の溶液塗布法、あるいは真空成膜法等を挙げることができる。溶液塗布法としては、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法、手塗布によるバー塗布またはギーサー塗布により塗布することができる。真空成膜法としては、特に制限はないが、蒸着、プラズマCVD等の成膜方法が好ましい。本発明においてはポリマーを溶液塗布しても良いし、特開2000−323273号公報、特開2004−25732号公報に開示されているような無機物を含有するハイブリッドコーティング法を用いてもよい。また、ポリマーの前駆体(例えば、モノマー)を成膜後、重合することによりポリマー層を形成させても良い。本発明に用いることができる好ましいモノマーとしては、アクリレートおよびメタクリレートが挙げられる。アクリレートおよびメタクリレートの好ましい例としては、例えば、米国特許6083628号明細書、米国特許6214422号明細書に記載の化合物が挙げられる。これらの一部を以下に例示するが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されることはない。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
モノマーを含む重合成分の重合法は特に限定されないが、加熱重合、光(紫外線、可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。
光重合を行う場合は、光重合開始剤を併用する。光重合開始剤の例としては、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエサキュア(Ezsacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZTなど)等が挙げられる。
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm2以上が好ましく、2J/cm2以上がより好ましい。アクリレート、メタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0028】
本発明において、有機層はポリマー溶液を塗布することにより成膜することが好ましい。特に、ポリマーを良溶媒に溶解させた塗布液を塗布することにより製膜することが好ましい。さらに、ポリマーの濃度は通常は5〜60%であり、5〜30%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。
【0029】
[有機層に対する処理]
(加熱処理)
本発明のガスバリアフィルム製造方法は、有機層を成膜した後、無機層を成膜する前に、前記有機層を構成するポリマーのガラス転移温度以上の温度で加熱する加熱処理工程を含む。加熱処理を行うことでポリマーのレベリング効果が生じ、有機層表面が平滑になり、有機層表面凹凸の値を小さくすることができる。このため、加熱処理を行うことにより、有機層の欠陥が修復され、製造されるガスバリアフィルムのガスバリア性が向上する。
有機層を構成するポリマーのガラス転移温度をTgとするとき、加熱処理の温度範囲はTg以上であってプラスチックフィルムのガラス転移温度未満の温度範囲内で通常選択する。好ましい加熱温度は(Tg+5)〜(Tg+30)であり、より好ましい加熱温度は(Tg+5)〜(Tg+20)である。
加熱時間は、ポリマーの種類や加熱温度などに応じて適宜決定することができる。通常は0.5〜24時間であり、好ましくは1〜12時間であり、より好ましくは2〜8時間である。
加熱の方法は特に制限されない。例えば、熱線を照射する方法、熱風をあてる方法、高温ゾーン内に搬送または静置する方法などを挙げることができる。これらの方法は、2つ以上を組み合わせて実施してもよい。好ましい加熱方法は、高温ゾーン内に搬送または静置する方法である。
【0030】
また、前記加熱処理工程は、減圧下で行うことが好ましい。具体的には10000Pa以下の減圧条件下で行うことが好ましく、1000Pa以下の減圧条件下で行うことがより好ましく、500Pa以下の減圧条件下で行うことがさらに好ましく、100Pa以下の減圧条件下で行うことが特に好ましい。前記減圧条件下で加熱処理工程を行うことにより、有機層中の溶剤の揮発効果を高め、ガスバリアフィルム中の溶剤を減少させることができる。
【0031】
(電子線照射工程)
本発明のガスバリアフィルム製造方法は、有機層を成膜した後、無機層を成膜する前に、上記の加熱処理工程のかわりに電子線照射工程を行ってもよい。また、加熱処理工程と電子線照射工程をともに行ってもよい。2つの工程をともに行う場合は、逐次に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
有機層に電子線を照射することによって、有機層を構成するポリマーを架橋させてより密な網目構造とすることで、有機層中の欠陥を減らして膜硬度を向上させることができるため無機成膜時のプラズマによるエッチングへの耐性向上や、再架橋による架橋等の欠陥部位の修復や未反応重合性基の失活などの効果も期待できる。このため、製造されるガスバリアフィルムのガスバリア性を向上させることができる。いかなる理論にも拘泥するものではないが、電子線を照射することによりポリマーの水素原子が引き抜かれ、水素ラジカルと炭化水素ラジカルが発生し、発生した炭化水素ラジカル同士が結合して架橋するものと考えられる。
電子線の吸収線量は、通常1〜100kGyであり、10〜50kGyであることが好ましく、20〜30kGyであることがより好ましい。
【0032】
(有機層の性状)
本発明のガスバリアフィルムの有機層は、平滑で膜硬度が高い。有機層の平滑性は、有機層表面の凹凸を観察することにより評価することができる。具体的には、有機層表面をAFM観察して、観察領域の表面凹凸の平均値を求めることにより評価することができる。本発明のガスバリアフィルムは、加熱処理工程や電子線照射工程実施後における有機層表面の凹凸が5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。また、加熱処理工程や電子線照射工程実施後における有機層の膜硬度は、鉛筆硬度としてHB以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましい。
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難となり、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性能が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは、50nm〜2000nmが好ましく、50nm〜1000nmがさらに好ましい。
【0033】
[無機層]
本発明のガスバリアフィルムを構成する無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、塗布法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが適しており、具体的には特許第3400324号、特開2002−322561号、特開2002−361774号各公報記載の形成方法を採用することができる。この中でも特にスパッタリング法が好ましく用いられる。
【0034】
前記無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物、窒化炭化物、酸化窒化炭化物などを用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物または酸化窒化物が好ましく、特に、SiまたはAlの金属酸化物、窒化物または酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
前記無機層の厚みに関しては特に限定されないが、5nm〜500nmの範囲内であることが好ましく、8nm〜200nmの範囲内であることがより好ましく、10〜300nmの範囲内であることがさらに好ましい。また、2層以上の無機層を積層してもよい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、本発明で採用する無機層は、米国公開特許2004−46497号明細書に開示される態様のように有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0035】
[機能層]
本発明のガスバリアフィルムは、バリア層上に機能層を有していてもよい。機能層の例としては、基材フィルムの項で述べたものと同様の層が挙げられる。
【0036】
[ガスバリアフィルムの性能]
本発明のガスバリアフィルムは、優れたガスバリア性を示す。本発明のガスバリアフィルムの透湿度は、0.01g/m・day以下を達成することができ、好ましくは0.005g/m・day以下、より好ましくは0.003g/m・day以下、さらに好ましくは0.001g/m・day以下である。また、本発明のガスバリアフィルムは、高湿度下に長時間静置した後であっても、高いガスバリア性を維持することができる。このため、高湿度下にて使用することが予定されているデバイス、特に環境感受性デバイスに本発明のガスバリアフィルムは効果的に適用することができる。
【0037】
[環境感受性デバイス]
(ガスバリアフィルムの用途)
本発明のガスバリアフィルムはさまざまな用途に供することができる。なかでも、環境感受性デバイスに好ましく用いることができる。
本発明における環境感受性デバイスとは、環境中に存在する物質、たとえば酸素、水分による影響をうけて性能が変化するデバイスをいい、例えば、画像表示素子、有機メモリー、有機電池、有機太陽電池等が挙げられる。本発明における画像表示素子とは、円偏光板・液晶表示素子、タッチパネル、有機EL素子などを意味する。以下において、各環境感受性デバイスの詳細について説明する。
【0038】
(円偏光板)
本発明のガスバリアフィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【0039】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明のガスバリアフィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertically Alignment)型、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
【0040】
(タッチパネル)
タッチパネルは、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載されたものに応用することができる。
【0041】
(有機EL素子)
有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。本発明のガスバリアフィルムは、有機EL素子の封止フィルムとして有用である。有機EL素子は、基板上に陰極と陽極を有し、両電極の間に発光層を含む有機化合物層を有する。発光素子の性質上、陽極および陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明である。
【0042】
本発明における有機化合物層の積層の態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。さらに、正孔輸送層と発光層との間、または、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。陽極と正孔輸送層との間に、正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間には、電子注入層を有してもよい。また、発光層としては一層だけでもよく、また、第一発光層、第二発光層、第三発光層等に発光層を分割してもよい。さらに、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0043】
次に、有機EL素子を構成する各要素について、詳細に説明する。
(1)基板
本発明における有機EL素子に用いられる基板は、公知の有機EL素子に用いられる基板が広く採用できる。有機EL基板は、樹脂フィルムであってもよいし、ガスバリアフィルムであってもよい。ガスバリアフィルムの場合、上述した封止フィルムにおけるガスバリアフィルムのほか、特開2004−136466号公報、特開2004−148566号公報、特開2005−246716号公報、特開2005−262529号公報等に記載のガスバリアフィルムも好ましく用いることができる。
【0044】
本発明で用いる基板の厚みは、特に規定されないが30μm〜700μmが好ましく、より好ましくは40μm〜200μm、さらに好ましくは50μm〜150μmである。さらにいずれの場合もヘイズは3%以下が好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、全光透過率は70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0045】
(2)陽極
陽極は、通常、有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。上述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。透明陽極については、沢田豊監修「透明電極膜の新展開」シーエムシー刊(1999)に詳述がある。基板として耐熱性の低いプラスチック基材を用いる場合は、ITOまたはIZOを使用し、150℃以下の低温で成膜した透明陽極が好ましい。
【0046】
(3)陰極
陰極は、通常、有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
【0047】
陰極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられる。具体例としては2属金属(たとえばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
【0048】
これらの中でも、陰極を構成する材料としては、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01〜10質量%のアルカリ金属または2属金属との合金(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。なお、陰極の材料については、特開平2−15595号公報、特開平5−121172号公報に詳述されている。また、陰極と前記有機化合物層との間に、アルカリ金属または2属金属のフッ化物、酸化物等による誘電体層を0.1〜5nmの厚みで挿入してもよい。この誘電体層は、一種の電子注入層と見ることもできる。
【0049】
陰極の厚みは、陰極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜5μm程度であり、50nm〜1μmが好ましい。
また、陰極は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。なお、透明な陰極は、陰極の材料を1〜10nmの厚みに薄く成膜し、さらにITOやIZO等の透明な導電性材料を積層することにより形成することができる。
【0050】
(4)発光層
有機EL素子は、発光層を含む少なくとも一層の有機化合物層を有しており、有機発光層以外の他の有機化合物層としては、前述したごとく、正孔輸送層、電子輸送層、電荷ブロック層、正孔注入層、電子注入層等の各層が挙げられる。
【0051】
−有機発光層−
有機発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、または正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、または電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子との再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。発光層は、発光材料のみで構成されていてもよく、ホスト材料と発光材料の混合層とした構成でもよい。発光材料は蛍光発光材料でも燐光発光材料であってもよく、ドーパントは1種であっても2種以上であってもよい。ホスト材料は電荷輸送材料であることが好ましい。ホスト材料は1種であっても2種以上であってもよく、例えば、電子輸送性のホスト材料とホール輸送性のホスト材料とを混合した構成が挙げられる。さらに、発光層中に電荷輸送性を有さず、発光しない材料を含んでいてもよい。また、発光層は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0052】
前記蛍光発光材料の例としては、例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、縮合芳香族化合物、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサジン誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、スチリルアミン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体やピロメテン誘導体の金属錯体に代表される各種金属錯体等、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン誘導体などの化合物等が挙げられる。
【0053】
前記燐光発光材料は、例えば、遷移金属原子またはランタノイド原子を含む錯体が挙げられる。
前記遷移金属原子としては、特に限定されないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、および白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、および白金である。
前記ランタノイド原子としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、およびガドリニウムが好ましい。
【0054】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry, Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
【0055】
また、発光層に含有されるホスト材料としては、例えば、カルバゾール骨格を有するもの、ジアリールアミン骨格を有するもの、ピリジン骨格を有するもの、ピラジン骨格を有するもの、トリアジン骨格を有するものおよびアリールシラン骨格を有するものや、後述の正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層の項で例示されている材料が挙げられる。
【0056】
−正孔注入層、正孔輸送層−
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極または陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。正孔注入層、正孔輸送層は、具体的には、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、有機シラン誘導体、カーボン、等を含有する層であることが好ましい。
【0057】
−電子注入層、電子輸送層−
電子注入層、電子輸送層は、陰極または陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。電子注入層、電子輸送層は、具体的には、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体、等を含有する層であることが好ましい。
【0058】
−正孔ブロック層−
正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陰極側で隣接する有機化合物層として、正孔ブロック層を設けることができる。また、電子輸送層・電子注入層が正孔ブロック層の機能を兼ねていてもよい。
正孔ブロック層を構成する有機化合物の例としては、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、等が挙げられる。
また、陰極側から発光層に輸送された電子が陽極側に通りぬけることを防止する機能を有する層を、発光層と陽極側で隣接する位置に設けることもできる。正孔輸送層・正孔注入層がこの機能を兼ねていてもよい。
【0059】
(TFT表示素子)
本発明のガスバリアフィルムは、薄膜トランジスタ(TFT)画像表示素子用基板として用いることができる。TFTアレイの作製方法としては、特表平10−512104号公報に記載されている方法等が挙げられる。さらにこの基板はカラー表示のためのカラーフィルターを有していてもよい。カラーフィルターはいかなる方法を用いて作製されてもよいが、好ましくはフォトリソグラフィー手法を用いることが好ましい。
【0060】
[実施例1] ガスバリアフィルムの作製と評価
プラスチックフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、PENフィルム、Tg:120℃)上に無機層と有機層を設けたガスバリアフィルム試料1〜8を下記の手順にしたがって作製した。
【0061】
[1]有機層製膜工程
下記のポリスチレンA1を22.5g秤量し、メチルエチルケトン(MEK)277.5gに溶解して、塗布液を作製した。この塗布液を、プラスチックフィルム上に手塗布によるバー塗布により塗布し乾燥することにより成膜した。有機層の膜厚は500nmであった。
・ポリスチレンA1: Mw:230,000、分子量分布2.1、
Tg:94℃、Sigma Aldrich社製
・ポリメタクリル酸メチル: Mw:120,000、分子量分布2.2、
Tg:99℃、Sigma Aldrichsh社製
【0062】
[2]加熱処理工程
製膜した有機層に対して、大気圧または100Paの減圧下で表1に記載される温度で2時間加熱処理を行った。
【0063】
[3]無機層製膜工程
加熱処理工程後、以下の手順にしたがって、リアクティブスパッタリング装置を用いて、スパッタ法により酸化アルミニウム(AlO)の無機層を形成した。
リアクティブスパッタリング装置の真空チャンバーを、油回転ポンプとターボ分子ポンプとで到達圧力5×10-4Paまで減圧した。次にプラズマガスとしてアルゴンを導入し、プラズマ電源から電力2000Wを印加した。チャンバー内に高純度の酸素ガスを導入し、成膜圧力を0.3Paになるように調整して一定時間成膜し、膜厚40nmのAlOの無機層を形成した。
【0064】
[4]ガスバリアフィルムの物性評価
上記[1]〜[3]の各工程を順に実施することにより製造したガスバリアフィルムの水蒸気透過率をMOCON社製、「PERMATRAN−W3/31」(条件:40℃・相対湿度90%)を用いて測定した。この装置の測定限界である0.01g/m2/day以下の水蒸気透過率は、次の方法を用いて測定した。まず、ガスバリアフィルム上に直に金属Caを40nm蒸着し、蒸着Caが内側になるよう該フィルムとガラス基板を市販の有機EL用封止材で封止して測定試料を作成した。次に該測定試料を前記の温湿度条件に保持し、ガスバリアフィルム上の金属Caの光学濃度変化(水酸化あるいは酸化により金属光沢が減少)から水蒸気透過率を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から、有機層を成膜した後、無機層を成膜する前に、有機層を構成するポリマーのTg以上の温度で加熱処理を行うことにより、製造されるガスバリアフィルムの水蒸気透過率が向上することが確認された(試料3、4、7および8)。特に加熱処理を大気圧下で行うより減圧下で行ったほうが、製造されるガスバリアフィルムの水蒸気透過率がより低くて一段と良好な結果が得られた(試料3と4、および試料7と8の比較)。
【0067】
[実施例2] ガスバリアフィルムの作製と評価
ポリマーとして上記ポリスチレンA1を使用し、実施例1と同様にして膜厚500nmの有機層を成膜した。その後、実施例1と同様にして、表2に記載した条件下で加熱処理を行い、さらに膜厚40nmのAlO無機層を形成して、ガスバリアフィルムを得た。各条件において形成された有機層表面をAFM観察して凹凸を測定し、最終的に得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率を実施例1に記載される方法にしたがって測定した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2から、有機層を成膜した後、無機層を成膜する前に、有機層を構成するポリマーのTg以上の温度で加熱処理を行うことにより、有機層の表面凹凸が小さくなり、製造されるガスバリアフィルムの水蒸気透過率が向上することが確認された(試料13および14)。特に加熱処理を大気圧下で行うより減圧下で行ったほうが、有機層の表面凹凸とガスバリアフィルムの水蒸気透過率がより低くなり一段と良好な結果が得られた(試料13と14の比較)。
【0070】
[実施例3] ガスバリアフィルムの作製と評価
ポリマーとして上記ポリスチレンA1を使用し、実施例1と同様にして膜厚500nmの有機層を成膜した。その直後に、製膜した有機層に電子線を照射した。電子線の吸収線量は30kGyとし、酸素濃度は0.1ppm以下とした。電子線照射後、実施例1と同様にして、120℃で加熱処理を行い、さらに膜厚40nmのAlO無機層を形成して、ガスバリアフィルムを得た。
【0071】
有機層の膜硬度を鉛筆引掻き試験機(東洋精機(株)製)を用いてJISK5400に従い測定した。また、得られたガスバリアフィルムの水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果、水蒸気透過率は0.003g/m-2・dayであり、膜硬度はHであった。
上記の製造方法において、有機層塗布後に電子線照射を行なわずにガスバリアフィルムを製造した。電子線照射を行なわずに製造したガスバリアフィルムの水蒸気透過率は0.01g/m-2・dayであり、膜硬度は2Bであった。
すなわち、電子線照射を行った試料の方が電子線を照射していない試料よりも水蒸気透過率が低くなり、膜硬度も向上して、良好な結果が得られることが確認された。
【0072】
[実施例4] 有機EL素子の作製と評価
[1]ガスバリアフィルムの作製
分子量の異なるポリスチレンA1、A2およびA3(それぞれMw:230,000、300,000および350,000)をそれぞれ用いて、実施例1と同様にして膜厚500nmの有機層を成膜した。実施例1と同様にして、有機層を大気圧下にて120℃で加熱処理し、さらに膜厚40nmのAlO無機層を製膜し、ガスバリアフィルムを得た。
【0073】
[2]有機EL素子基板の作成
ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の有機化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン:膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
最後にフッ化リチウムを1nm、金属アルミニウムを100nm順次蒸着して陰極とし、その上に厚さ3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって製膜し、有機EL素子を作成した。
【0074】
[3]ガスバリアフィルムによる有機EL素子の封止
熱硬化型の接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、[1]で作成したガスバリアフィルムと[2]で作成した有機EL素子基板を、ガスバリア層が有機EL素子の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子(試料21〜26)を作成した。
【0075】
[4]有機EL素子の評価
作成直後の各有機EL素子(試料21〜26)をソースメジャーユニット(SMU2400型、Keithley社製)を用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察して、以下の基準にしたがって評価した。◎が実用レベルである。結果を表3に示す。
◎: ダークスポットの無い均一な発光を与える。
○: ダークスポットがごくわずかに認められるが均一な発光を与える。
△: ダークスポットがごくわずかに認められ、発光が不均一である。
×: ダークスポットが多数認められ、発光が不均一である。
次に各有機EL素子を25℃、相対湿度90%の条件化に10日間静置した後、EL発光劣化を調べ、以下の基準にしたがって評価した。○以上が実用レベルである。結果を表3に示す。
◎: 製造直後と比べて発光の劣化がまったく認められない。
○: 製造直後と比べて発光の劣化が認められるが許容範囲内である。
△: 製造直後と比べて発光の劣化が認められ、許容範囲外である。
×: 発光しない。
【0076】
【表3】

【0077】
表3の結果から、本発明のガスバリアフィルムで封止した有機EL素子は、いずれも発光面状が良好であり、高湿下における耐久性も高いことが確認された。特にガスバリアフィルムの有機層を構成するポリマーの重量平均分子量が低い方が、封止した有機EL素子の耐久性が高くてより良好な結果が得られた(試料21〜24と試料25〜26の比較)。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の製造方法で製造されたガスバリアフィルムは、優れたガスバリア性を有するとともに、高湿度下に長期間置かれても高いガスバリア性を維持しうる点で優れている。このため、本発明の製造方法で製造されたガスバリアフィルムは、水蒸気を遮断することが必要とされる多種多様な物品や、フレキシブルな物品に効果的に応用しうる。また、本発明によれば、高い耐久性を有する高精細な有機EL素子を提供することが可能である。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム上の少なくとも一方の面に有機層と無機層を含む層を有するガスバリアフィルムの製造方法であって、
(1) 前記プラスチックフィルム上の少なくとも一方の面に前記有機層を成膜する有機層製膜工程、
(2) 製膜した前記有機層を、前記有機層を構成するポリマーのガラス転移温度以上の温度で加熱する加熱処理工程、または、製膜した前記有機層に電子線を照射する電子線照射工程、
(3) 前記無機層を製膜する無機層製膜工程、
をこの順に行うことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理工程を減圧条件下で行うことを特徴とする請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理工程を100Pa以下で行うことを特徴とする請求項2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記有機層成膜工程において、有機層用塗布液を塗布して成膜することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記有機層用塗布液が、前記ポリマーを該ポリマーの良溶媒に溶解した塗布液であることを特徴とする請求項4に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理工程後の有機層表面の凹凸が5nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法で作製したガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により製造したガスバリアフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のガスバリアフィルムを用いた環境感受性デバイス。
【請求項9】
請求項7に記載のガスバリアフィルムを用いた有機EL素子。

【公開番号】特開2009−113455(P2009−113455A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292359(P2007−292359)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】