説明

ガスバリア性フィルムの製造方法およびガスバリア性包材

【課題】
アルコール蒸散剤の併用を行うことなく、良好に内容物の品質を保持するガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにある。さらには、この製造方法により得られたガスバリア性フィルムを用いたガスバリア性包材を提供することにある。
【解決手段】
ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に、無機化合物層を形成し、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋して、前記無機化合物層上にガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記ガスバリア層形成時に、前記アクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物に加えてアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物を含有する組成物を使用し、フィルム温度を60℃以下とした状態でガスバリア層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた酸素及び水蒸気遮断性能およびボイル・レトルト処理などの加熱殺菌処理に対する耐性を有した上で選択的にアルコールを蒸散させることができるガスバリア性フィルムの製造方法およびガスバリア性フィルムを用いたガスバリア性包材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルム及びそれを用いた包装材料は、一般食品、ボイル処理食品、レトルト処理食品、衛生用品、ならびに医薬品等の包装に使用され、長期間の保存においても内容物の変質・劣化を防止している。具体的には熱可塑性樹脂フィルム上に無機酸化物蒸着層を設け、さらに該蒸着層上にポリマーコーティングによりガスバリア層を積層し、ガスバリア性を向上させる方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
また、カビの発生防止や殺菌を目的とした内容物の品質を保持する手段として、エチルアルコール蒸散剤を別途内容物と共に封入する方法が知られている。エチルアルコールには微生物の増殖抑制や殺菌作用があることが昔から知られており、生麺類、水産練り製品などにそのままで添加したり、ハムなどをアルコール溶液に浸積したり、カステラ等の表面にスプレーしたり、前述のアルコール蒸散剤を封入したりする例は多い。
【0003】
ここでアルコール蒸散剤とは、これもまたアルコールの殺菌力を利用したもので、アルコールを吸着させた担体(粉末)を小袋に入れ、アルコール蒸気が商品の包装系内に拡散して、カビなどを殺菌、あるいは抑制する仕組みとなっている。(例えば、特許文献2参照)
市販のガスバリア性フィルムを構成の一部に用いたガスバリア性包材とアルコール蒸散剤を併用するとアルコールの包装系外への揮散がなく、より長期的に系内のアルコールを残存させ、良好に内容物の品質を保持する手段となるため、一般的に使用されている。ガスバリア性包材としては、例えば、市販のガスバリア性フィルムのガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられているガスバリア性包材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2010−038755号パンフレット
【特許文献2】特開2009−179330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルコール蒸散剤を内容物と共に封入する場合、アルコール蒸散剤の費用が加算されること、ならびに良好に品質を保持するべくガスバリア性フィルムを用いた場合はさらに費用が加算されることになり、費用面で割高になるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、このような点に鑑み、アルコール蒸散剤の併用を行うことなく、良好に内容物の品質を保持するガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにある。さらには、この製造方法により得られたガスバリア性フィルムを用いたガスバリア性包材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成する本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に、無機化合物層を形成し、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋して、前記無機化合物層上にガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記ガスバリア層形成時に、前記アクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物に加えてアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物を含有する組成物を使用し、フィルム温度を60℃以下とした状態でガスバリア層を形成することを特徴とするものである。
【0008】
また、前記課題を解決するため、本発明のガスバリア性包材は、下記の(1)〜(5)の構成からなる。
(1)本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられていることを特徴とするガスバリア性包材である。
(2)本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に、1層または複数層の強度保持層、および、シーラント層が、この順に各層間に接着剤層を介して設けられていることを特徴とするガスバリア性包材である。
(3)上記(1)、ならびに(2)において、本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層の接着層側の少なくとも一部に印刷が施されていることを特徴とするガスバリア性包材である。
(4)本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられており、前記ガスバリア性フィルムのシーラント層を設けたのと反対の面に、1層または複数層の強度保持層を各層間に接着剤層を介して設けられていることを特徴とするガスバリア性包材である。
(5)上記(2)、ならびに(4)において、強度保持層の少なくとも一部に印刷が施されていることを特徴とするガスバリア性包材である。
【0009】
尚、本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルム、ならびにガスバリア性包材は、内容物に限定されることなく、好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルコール蒸散剤の併用を行うことなく、良好に内容物の品質を保持することが可能となる。
【0011】
また、本発明による製造方法で得られたガスバリア性フィルムは、ガスバリア層形成時に高温での熱処理を必要としない。この結果、安価なコストで生産が可能であり、複雑な生産工程を経ないために生産適性にも優れるという効果を有している。
【0012】
また、本発明による製造方法で得られたガスバリア性フィルムを用いたガスバリア性包材によれば、優れた酸素バリア性および水蒸気バリア性にとどまらず、ボイル・レトルト処理など熱水殺菌処理に対する耐性をも有するガスバリア性包材が得られるので、内容物の品質の保持について、食品の内容物の種類によらず幅広い適用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に、無機化合物層を形成し、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋して、前記無機化合物層上にガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記ガスバリア層形成時に、前記アクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物に加えてアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物を含有する組成物を使用し、
フィルム温度を60℃以下とした状態でガスバリア層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法である。好ましくは、前記アルコキシ基がエトキシ基であって、さらに好ましくは、トリアルコキシシランを部分的に加水分解したシラン化合物を、前記アルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物として使用するガスバリア性フィルムの製造方法である。トリアルコキシシランを部分的に加水分解したシラン化合物を含有する前記アクリル共重合樹脂とイソシアネート化合物の組成物をポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に形成された無機化合物層上に形成し、フィルム温度を60℃以下とした状態に制御することで製造されたガスバリア性フィルムは、加水分解されていないシラン化合物がガスバリアフィルム製造後にガスバリア層内で長期的に加水分解し、アルコールを蒸散させることができ、とりわけ前記アルコキシ基にエトキシ基を適用した場合には、発生するアルコールがエタノールであるため、カビなどの殺菌力や消毒力を利用し、食品、医薬品、ならびに衛生用品などに適用することができる。
[基材フィルム]
本発明のガスバリア性フィルムにおいて、基材フィルムはポリエステルフィルムである。使用できるポリエステルとしては、例えば、ポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアルキレンナフタレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレートなど)などのホモ又はコポリアルキレンアリレート、液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0015】
基材フィルムは、未延伸フィルム、延伸(一軸又は二軸)フィルムのいずれでも良いが、延伸(一軸又は二軸)フィルムを用いることが好ましく、二軸延伸フィルムを用いることがより好ましい。延伸法としては、例えば、ロール延伸、圧延延伸、ベルト延伸、テンター延伸、チューブ延伸や、これらを組み合わせた延伸などの慣用の延伸法が適用できる。
【0016】
基材フィルムの厚みは、特に制限はないが、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜30μm、最も好ましくは、包装材料で使用されるポリエステルフィルムの厚みを加味し12〜25μmであるのが実用上好ましい。
[無機化合物層]
本発明における無機化合物層に使用できる無機化合物としては、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化珪素、酸化窒化珪素等及びそれらの混合酸化物、金属窒化物としては窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化珪素等を挙げることができる。これらの中でも蒸着フィルムの加工コストやガスバリア性能等の面から酸化アルミニウム、酸化珪素および酸化窒化珪素が好ましい。
【0017】
無機化合物層の形成は、無機化合物層の厚み制御を所定の範囲にて行うことができるものであれば特に制限はなく、たとえば蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)等の公知の方法により行えばよい。
無機化合物層の厚みは、ガスバリア性が発現する厚みとして3nm以上、500nm以下である。厚みが3nmより薄くなると、十分にガスバリア性が確保できない箇所が発生し、基材面内でガスバリア性がばらつくなどの問題が生じる。また、厚みが500nmより厚くなると、無機化合物層の膜応力が大きくなるため、無機化合物層内部にクラックが発生し、ガスバリア性が低下する問題が生じる。従って、無機化合物層の厚みは3nm以上、500nm以下が好ましく、フレキシブル性を確保する観点から5nm以上、300nm以下がより好ましい。
[ガスバリア層]
本発明において、ガスバリア層は、ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に、無機化合物層を形成した後、該無機化合物層上に、形成するものであり、本発明の効果の発現に加え、ガスバリア性のさらなる向上化、形成した無機化合物層の保護によるボイル・レトルト処理などの熱水殺菌処理に対する耐性化を可能とする。
【0018】
本発明におけるガスバリア層は、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋して、前記無機化合物層上に形成する。このとき、前記アクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物に加えてアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物を含有する組成物を使用し、フィルム温度を60℃以下とした状態でガスバリア層を形成することを特徴とするものである。ここで、ガスバリア層を、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋して形成する工程は、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物を前記無機化合物層上に塗布し、架橋反応を進めて層を形成する一連の工程を含むものとする。すなわち溶液を用いて塗布後乾燥させる工程を採る場合には溶媒の乾燥工程およびその後のエージング(後架橋)工程(通常、乾燥よりも低温で行われる)も含めるものとし、フィルム温度を60℃以下とした状態でガスバリア層を形成するとは、かかる一連の工程全体を、60℃以下で行うことをいう。部分的に加水分解したシラン化合物を使用することで、ガスバリア性フィルム製造後、さらに効率的にアルコールを徐放する。これより、本願目的であるアルコール蒸散剤の併用を行うことなく、良好に内容物の品質を保持するガスバリア性フィルムを提供することができる。
(アクリル系共重合樹脂)
本発明において用いられるアクリル系共重合樹脂は、水酸基を有する成分を共重合成分として含むものである。ガスバリア性フィルムにおいてガスバリア性を決定する因子としては、ガスバリア層を形成する素材の凝集エネルギー、自由体積等が挙げられるが、水酸基は高い凝集力を示す官能基として機能し、結果凝集エネルギーが上がり、さらには自由体積空間を小さくしようとする駆動力も上がるため、本発明では水酸基を有するアクリル系共重合樹脂を用いている。さらに本発明のように水酸基を有するアクリル系共重合樹脂をガスバリア層に含有させイソシアネート化合物で架橋させることにより、無機化合物層と強く密着し、塗膜強度や熱水処理に対する耐性を発現させることができる。
【0019】
水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂としては、水酸基を有するアクリル系不飽和化合物(a)、不飽和ニトリル(b)、および、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(c)の少なくとも3成分を単量体とする共重合体で構成される。例えば以下の化合物を公知の技術により共重合させた樹脂である。
(a)アクリル系不飽和化合物
本発明において好ましく用いられるアクリル系不飽和化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシビニルエーテル、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等のアクリル系不飽和化合物の単量体が挙げられる。これらの水酸基を有する不飽和化合物は単独で、または2種類以上組み合わせて選択することができる。これらの水酸基を有する不飽和化合物のうち、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートが、良好な重合安定性が得られること、イソシアネート化合物との反応性が良好なことから好ましく、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが特に好ましい。
【0020】
また、共重合体中で、水酸基を有するアクリル系不飽和化合物の含有量によってガスバリア層の造膜性やガスバリア性、さらには硬化剤との架橋点数が変動することに起因して、耐熱性、塗膜硬度などは変化する。これらの観点から水酸基を有するアクリル系不飽和化合物の配合量は、共重合体100質量部に占める割合が30〜70質量部であり、好ましくは50〜70質量部である。水酸基を有するアクリル系不飽和化合物の配合量が、30質量部よりも少ない場合には水酸基に由来する樹脂鎖間の凝集力が十分に働かず、ガスバリア性の向上につながらない場合がある。水酸基と硬化剤との間の架橋反応の進行により形成される架橋点の数が十分ではなく、ガスバリア層の耐熱性、耐熱水殺菌性が十分に発現しないことがある。一方、水酸基を有するアクリル系不飽和化合物の配合量が、70質量部よりも多い場合には、共重合樹脂中に水酸基数が増加するため硬化剤配合量も増やす必要を生じ、同時にイソシアネート化合物が未反応で残存し易くなり、ブロッキング等の問題を発生する要因となる場合がある。
(b)不飽和ニトリル
本発明において好ましく用いられる不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリルが好ましい。アクリロニトリルはその分子構造中にニトリル基を有し、ニトリル基が大きく分極した官能基であることに由来して強い水素結合形成能を持つ。すなわち、アクリロニトリルを構成成分とする共重合体により形成されたガスバリア層には、アクリロニトリルのニトリル基の大きな寄与により、ガスバリア性が付与される。アクリロニトリルの含有量によって発現するガスバリア性は変化する。
【0021】
不飽和ニトリルの配合量は、共重合体100質量部に占める割合が10〜30質量部であり、好ましくは10〜25質量部である。不飽和ニトリル(a)の配合量が、30質量部よりも多い場合には共重合樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下するため、重合時の分子量増加を妨げるだけでなく塗料化が困難になる。さらには塗膜の造膜性、透明性も低下するなど実用的ではなくなる。逆に10質量部よりも少ない場合にはガスバリア層のガスバリア性向上効果が不十分となる。
【0022】
不飽和ニトリルとアクリル系不飽和化合物との共重合体中における質量比率としては、(b):(a)が10:70〜30:30であることが好ましい。さらに好ましくは、20:50〜30:50である。
(c)不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物
本発明におけるアクリル系共重合樹脂に好ましく用いられる飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物に関して、不飽和カルボン酸エステルとして、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0023】
また、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0024】
その他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、好ましいのは、不飽和カルボン酸エステルである。不飽和カルボン酸エステルのうちメチルメタクリレート、メチルアクリレートが特に好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましい。
【0026】
(c)の配合量は、共重合体100質量部に対して3〜60質量部が好ましく、5〜40質量部がさらに好ましい。(c)の配合量が60質量部よりも多い場合には共重合樹脂中に占める不飽和ニトリル(b)及び水酸基を有するアクリル系不飽和化合物(a)の相対量が減少し、ガスバリア性が十分に発現しない場合や、架橋構造の不足に伴う塗膜強度や熱水処理耐性が不足する場合がある。
【0027】
不飽和ニトリル(b)と水酸基を有するアクリル系不飽和化合物(a)と不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(c)の共重合体中における比率としては、(b)+(a):(c)=40:60〜97:3であることが好ましい。さらに好ましくは、(b)+(a):(c)=60:40〜80:20である。
[イソシアネート化合物]
本発明では、イソシアネート化合物を、水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂を架橋させるために用いる。アクリル系共重合樹脂はそれを単独で塗布した場合、ガスバリア性は発現するものの塗膜強度や熱水処理耐性といった物性は得られない傾向がある。そこで、アクリル系共重合樹脂が側鎖として有する水酸基と反応する1分子中に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を硬化剤として用いる。硬化剤の添加により、架橋構造が生成されるので、ガスバリア性、塗膜強度および熱水処理耐性といった物性を兼ね備えたガスバリア層が形成される。イソシアネート化合物としては、その反応性を考慮して、1分子中に2つのイソシアネート基を有する芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート等を用いることが好ましい。
【0028】
使用できる芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、4,4′−、2,4′−又は2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート等が例示できる。
【0029】
使用できる芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,3−又は1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が例示できる。
【0030】
使用できる脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート;IPDI)、4,4’−、2,4’−又は2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水添XDI)等が例示できる。
【0031】
使用できる脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−、2,3−又は1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が例示できる。
【0032】
これらの有機ジイソシアネートのウレタン変性体、アロファネート変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。なお、これらは、単品でも混合物でもよい。
さらに、上記例示したイソシアネート化合物と水酸基を有する化合物等との部分縮合物や各種誘導体の1種またはこれらの2種以上を用いてもよい。例えば、各種低分子量のジオールからオリゴマーまで幅広いジオール類や必要に応じて3官能以上のポリオール類との部分縮合物等が挙げられる。
【0033】
共重合体で構成されるアクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物の架橋反応生成物により形成されるガスバリア層のガスバリア性を考慮すると、これらのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物のうち、下記構造式(1)で示される骨格構造を有する1,3−キシレンジイソシアネート(XDI)およびその部分縮合物、及び/又は下記構造式(2)で示される骨格構造を有する1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)およびその部分縮合物が好ましい。架橋生成物の立体的構造は、ガスバリア性に大きく影響する。ガスバリア性を発現させるためには、キシリレンジイソシアネート骨格を有すると好ましい。これらの化合物は、キシリレンジイソシアネート骨格を有する。
【0034】
【化1】

【0035】
[アルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物]
本発明において、前記水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋する際にはアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物を、前記アクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物に加えて用いる。かかるアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物は、1分子中に有機官能基と加水分解性官能基を有するものであり、無機物と有機物との密着力を向上させる効果がある。したがって、かかるシラン化合物を添加することにより、無機化合物層とガスバリア層との密着力を熱水殺菌処理にも耐えうる程度に強固なものとすることができる。
【0036】
本発明におけるアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物は、水と溶剤を配合し、加水分解させることによって、アルコシキ基がヒドロキシル基により置換され、ケイ素原子に結合した化合物であるシラノールなど、少なくとも1つのアルコキシ基から置換されたヒドロキシル基を含有するシラン化合物とアルコールとに分解される。加水分解前のシラン化合物としては、熱水殺菌処理に対する密着性を確保する観点から、アミノ基、ビニル基、エポキシ基の群から選択される1つ以上の官能基を有することが好ましい。例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、Nー2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、Nー2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が例示できる。これらのシラン化合物は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。この時、アルコキシ基をエトキシ基にすることで選択的にエタノールを生成させることができ、さらにエタノールの生成量もアルコキシ基の1分子当たりの数により調整することができる。また、ヒドロキシル基を少なくとも1つ含有していると、アクリル系共重合樹脂のヒドロキシル基と硬化剤のイソシアネート基の架橋反応を促進するとともに、無機化合物層表面のヒドロキシル基と水素結合することにより、熱水殺菌処理に対する無機酸化物蒸着層とガスバリア層との密着力は向上し、さらに強固なものとすることができる。
【0037】
本願では、アルコール蒸散剤の併用を行うことなく、良好に内容物の品質を保持するガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにあることから、エタノールの生成量をあげるべく、トリアルコキシシランであるトリエトキシシラン(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)を使用することが好ましい。
【0038】
尚、生成させるアルコールはアルコキシ基の種類によって選択できるため、その用途によって随時シラン化合物を選択できることは言うまでもない。
【0039】
シラン化合物の添加量はガスバリア層の形成に用いるアクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物の和100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、ガスバリア層の経時安定性の観点から0.1〜2質量部程度がより好ましい。0.1質量部以下の添加量の場合にはシラン化合物の効果が薄く、十分な密着力が得られないことがある上、さらには十分なエタノール蒸散量を得ることができず本願を達成することができない可能性がある。一方、10質量部より多く添加した場合にはシラン化合物がガスバリア層中で可塑剤のような働きをするため塗膜のガスバリア性が低下することがある。
【0040】
加水分解時に使用できる溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0041】
加水分解方法の一例としては、アセトンを始めとした溶剤100質量部に対して、シラン化合物(信越化学株式会社製KBE903:成分3−アミノプロピルトリエトキシシラン 分子量:221.42)を18.6質量部(0.084mol)、水(分子量18)を4.54質量部(0.252mol)加え、溶剤が揮発しないように撹拌を行う(例えば、加熱環流条件下で効率良く溶剤蒸気を凝縮させるジムロート冷却器を使用するなど気化した溶剤を加水分解系外に排出しないようにすることが好ましい)。この例においては、上記シラン化合物に対する水の質量は、化学反応式上、シラン化合物が完全に加水分解する最低の水の質量である。
【0042】
加水分解時の水の配合量は、後述するように水がシラン化合物に対して過剰に配合されると加水分解率が高くなり、過剰な水がイソシアネート化合物と副反応を起こし、熱水殺菌処理に対する密着性が低下する場合がある。また、加水分解を完全に完了させてしまうと、ガスバリア層形成時の乾燥工程でアルコールが揮発してしまうので、部分的に加水分解することが好ましい。本発明において、部分的にとは、下記に示す加水分解率が1〜10%であることをいう。加水分解率不足による熱水殺菌処理に対する密着性を確保する観点も加味し、好ましくは加水分解率は2〜7%、さらに好ましくは2〜4%である。
【0043】
加水分解率(%)=(実際に加水分解させた加水分解溶液のガスクロマトグラフィー分析値)/(完全に加水分解したときの加水分解溶液の理論アルコール量)×100
なお、ガスクロマトグラフィー条件は、80℃×30分追い出し条件である。
【0044】
加水分解溶液の温度をヒーターなどで25〜35℃、好ましくは30℃の温度に保ち、2時間撹拌することにより、上記加水分解率とすることができる。
【0045】
本発明にかかるガスバリア層には、その特性を損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化剤、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤、無機化合物層との間の密着力向上剤などを添加してもよい。
【0046】
使用できる熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
使用できる強化剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、無機層状化合物などが挙げられる。無機層状化合物の好ましい例としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バーミキュライト、フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等が例示でき、膨潤性フッ素雲母又はモンモリロナイトが特に好ましい。これらの無機層状化合物は、天然に産するものであっても、人工的に合成あるいは変性されたものであってもよく、またそれらをオニウム塩などの有機物で処理したものであってもよい。 使用できる無機化合物層との間の密着力向上剤としては、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物が好ましく用いられる。
【0048】
2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物を添加することにより、無機化合物層とガスバリア層との間の密着力が向上する。カルボキシル基または無水カルボン酸基は、無機化合物層を形成するアルミナやシリカといった材料が有するアルミ−酸素結合や珪素−酸素結合などに対して、配位し易い性質を有する。そのため、ガスバリア層を形成する樹脂組成物に配合して塗布することで、無機化合物表面に2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物が配位して、表面が有機的になり、樹脂組成物との密着力を向上させることができる。さらに、無機化合物表面に2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物が配位することで、大気中の水分や熱水殺菌処理時に触れる水が無機化合物層に浸透しにくくなるため、密着力の低下を生じにくくなるという効果も得られる。
【0049】
1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0050】
無水カルボン酸基を持つ化合物としては無水マレイン酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、四塩基酸無水物等あるが、金属のように極性の高い基材フィルムへ塗工する場合は、特に四塩基酸無水物のように2つ以上の無水カルボン酸基酸を持つ化合物が良好である。四塩基酸無水物としては、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7ーナフタリンテトラカルボン酸2無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ならびに1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)等が挙げられる。これらのうち、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物や1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)を使用することが好ましい。
無機化合物層との間の密着力向上剤として2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物を添加する場合には、1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物の添加量はガスバリア層の形成に用いるアクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物の和100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、ガスバリア層の経時安定性の観点から0.1〜10質量部程度がより好ましい。0.1質量部以下の添加量の場合には、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物の配位する効率が小さくなり、十分な密着力が得られないことがある。一方、20質量部より多く添加した場合には、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物以外の反応を阻害する働きがあるため塗膜のガスバリア性が低下する場合がある。
【0051】
また、上記1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物を重合した化合物を使用する事もできる。前記した1分子中にカルボン酸基を2個以上または無水カルボン酸基を1個以上有する化合物の数平均分子量は1000以下であることが好ましい。
[ガスバリア層の形成]
本発明において、基材フィルム上に形成した無機化合物層上にガスバリア層を形成する方法は、以下の通りである。
【0052】
まず、前述の水酸基を有するアクリル系不飽和化合物(a)、不飽和ニトリル(b)、ならびに不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物(c)の少なくとも3成分を配合し、共重合させたアクリル系共重合樹脂を溶媒に溶解し、所定濃度の溶液を調製する(以降、ここで調製した溶液を、主剤と記すこともある)。ここで用いる溶媒としては、共重合させたアクリル系共重合樹脂を溶解するものであること、ならびに後述するがガスバリア層を形成時の乾燥工程において、揮発させることができるものであれば良い。
【0053】
かかる溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、酢酸プロピル、n−プロピルアルコール等を単独または混合して用いることができ、中でもメチルエチルケトン(MEK)−プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)混合溶剤を用いることが好ましい。かかる、主剤の調製に当たって、固形分濃度は、20〜40質量%であることが好ましく、25〜35質量%であればより好ましい。
【0054】
次に無機化合物層とガスバリア層との間の密着力をさらに向上させるべく、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物を無機化合物層との間の密着力向上剤として添加する場合には、かかる化合物を溶媒に溶解させた添加剤溶液を調製して用いる。
【0055】
溶媒としては、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物を溶解するものであること、ならびに後述するがガスバリア層を形成時の乾燥工程おいて、揮発させることができるものであれば良い。例えば、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)の場合は、ケトン類が好ましく、より好ましくはアセトンである。かかる、2つ以上のカルボン酸基または1つ以上の無水カルボン酸基を有する化合物の溶液調製に当たって、溶液の安定性の観点から固形分濃度は、3〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であればより好ましい。
【0056】
添加剤溶液の好ましい一例として、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)をアセトンに溶解させた5質量%に調製したものが挙げられる。
【0057】
かかる添加剤溶液は、前記主剤または次に述べる硬化剤に混合し、あるいは、前記主剤と次に述べる硬化剤を混合するときに同時に混合する等して使用すればよいが、作業性やポットライフ等の観点からは、前記主剤と混合して用いることが好ましい。
【0058】
次に、アクリル系共重合樹脂を架橋するイソシアネート化合物の溶液(本溶液を硬化剤と記すこともある)を調製する。
【0059】
まず、1分子中に少なくとも1つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を溶媒に溶解し、所定濃度の溶液を調製する。ここで用いる溶媒としては、イソシアネート化合物を溶解するものであること、ならびに後述するがガスバリア層を形成時の乾燥工程において、揮発させることができるものであれば良い。
かかる溶媒としては、例えば、ケトン類、エステル類、炭化水素類、エーテル類、アルコール類等を単独または混合して用いることができ、中でも費用面でも有利である酢酸エチルを用いることが好ましい。かかる、硬化剤の調製に当たって、固形分濃度は、60〜80質量%であることが好ましく、70〜75質量%であればより好ましい。
【0060】
このようにして得た、主剤および硬化剤を混合したものを塗布し、溶媒を乾燥除去してガスバリア層を形成するが、この過程でアクリル系共重合樹脂の側鎖の水酸基とイソシアネート化合物のイソシアネート基を反応させることにより、ウレタン結合を形成することにより所望のガスバリア層を得ることができる。
【0061】
かかる、ガスバリア層の好ましい作成方法の例を以下に示す。
【0062】
上記主剤100質量部(固形分濃度30質量%)、添加剤溶液(上記好ましい一例)63〜70質量部、メチルエチルケトン(MEK)40〜275質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)100〜182質量部、ならびにシリカ粒子(degussa社製シリカフィラー OK412)を0.02〜0.11質量部加え、撹拌させた溶液(A液)を調製する。
【0063】
次に別容器にて、キシレンジイソシアネートを主成分とするイソシアネート化合物として、DIC株式会社製 HX−75を45.5〜50質量部、メチルエチルケトン(MEK)115〜318質量部、ならびに前述の加水分解率を3%にしたシラン化合物(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)溶液を18〜25質量部加え撹拌させた溶液(B液)を調製する。
【0064】
上記A液とB液をそれぞれ100質量部、138〜195質量部混合させた混合溶液(C液)を作製する。また、A液、B液を介さずC液を調合させても良いがポットライフ(寿命)の観点から、使用する直前にC液を調合するほうが良い。さらにA液のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)は、ガスバリア層形成時のガスバリア層外観を調整するための溶剤であるため、必須成分ではなく、形成時外観上問題がない場合は、使用せず全量メチルエチルケトン(MEK)であってもよい。
【0065】
例えばイソシアネート化合物が少なすぎるとアクリル系共重合樹脂との間で生じる架橋反応が不十分なものとなり、塗膜が硬化不良を起こすだけでなく塗膜強度が十分発現せずに熱水処理耐性、基材フィルムとの密着性等も不足する場合がある。またイソシアネート化合物の配合量が多すぎる場合にはブロッキングを生じる原因となるだけでなく、余剰のイソシアネート化合物が他の層に移行するなどして後加工等において不都合を生じる場合がある。
【0066】
本発明にかかるガスバリア層を形成するための上述した溶液を基材フィルム上に塗工する方法としては、特に制限はなく、基材フィルムに対応した方法で塗工することができる。例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法などの印刷方式やロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ダイコーティング法、ナイフエッジコーティング法、グラビアコーティング法、キスコーティング法、スピンコーティング法等やこれらを組み合わせた方法を用いて、上記C液をコーティングすればよいが、コーティング後にC液の溶剤成分を除去するためのインライン乾燥工程において、フィルム温度を60℃以下にする。フィルム温度が60℃以上であると、加水分解率を3%に設定した加水分解後のシラン化合物が、乾燥工程において加水分解が促進されエタノールを放出してしまうため、本願目的であるアルコール蒸散剤の併用を行うことなく、少なくともアルコール蒸散剤の過剰スペックを設定することなく、良好に内容物の品質を保持するガスバリア性フィルム製造を成し得ない。フィルム温度を60℃以下にすることで、ガスバリア性フィルムが製造後もエタノールを徐々に放出するため、本願目的を好適に達成する。フィルム温度を確認する方法としては、例えばヒートラベル(ミクロン株式会社製 CR−B)をガスバリア層形成前の無機化合物層面上に貼り、ガスバリア層形成、インライン乾燥工程を行うことで確認できる。例えば、グラビア印刷法でのガスバリア層形成の場合は、ヒートラベルを貼ることでグラビア版を痛めてしまう可能性がある場合は、グラビア版とインプレッションロールのニップを解除することで版を痛めずにフィルム温度を確認することもできる。
【0067】
無機化合物層上に設けるガスバリア層の厚みは、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.2〜2μmである、さらに好ましくは0.35〜1μmである。ガスバリア層の厚みが、0.1μm以上であると、ガスバリア性の十分な向上が得られ、コーティング時の加工性も高まり、膜切れやはじきなどの欠陥のないガスバリア層を形成することができる。一方、ガスバリア層の厚みが10μm以下であると、コーティング時の乾燥条件が低温、短時間であっても溶剤が十分に乾燥するので、フィルムにカール等の変形が生じることがなく、製造コストが高騰するといった問題点も起こらず好ましい。
[ガスバリア性包材]
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法で得られたガスバリア性フィルムは、次のような態様の積層構造を有するガスバリア性包材として好ましく用いられる。
【0068】
第1の態様は、本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層を設けられているガスバリア性包材である。
【0069】
第2の態様は、本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に、1層または複数層の強度保持層、および、シーラント層が、この順に各層間に接着剤層を介して設けられているガスバリア性包材である。
【0070】
第3の態様は、本発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられており、前記ガスバリア性フィルムのシーラント層を設けたのと反対の面に、1層または複数層の強度保持層を各層間に接着剤層を介して設けられているガスバリア性包材である。
【0071】
以下、本発明のガスバリア性包材のガスバリア性フィルム以外の各層について説明する。
(シーラント層)
ピロー包装や3包シール袋、4包シール袋、スタンディングパウチをはじめとする形態の袋をガスバリア性包材により製袋する際のシール部を形成する層のことをいう。例えば上記4包シール袋では1対のガスバリア性包材のシーラント層面々を重ね合わせ、加熱加圧することでシール部が形成される。内容物が封入された上で4辺がシールされた状態のものを4包シール袋という。つまりこの層は内容物と必ず接触する。シーラント層として使用できるフィルムとしては、未延伸ポリエチレンフィルム(高密度ポリエチレンフィルム、中密度ポリエチレンフィルム、低密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム)、未延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル重合体及びそれらの金属架橋物等のプラスチック材料などが好適に使用され、厚みは、内容物の質量、内容物封入後の保管状況、ならびに内容物封入後のボイルやレトルト処理の有無を考慮し適宜決定することができる。
(強度保持層)
内容物や外部からの作用による突き刺しや摩擦などによる破袋を防ぐための層である。強度保持層として使用できるフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートであるポリエステルフィルム、2軸延伸ナイロンをはじめとするポリアミドフィルム、ならびに2軸延伸ポリプロピレンフィルムをはじめとするポリオレフィンフィルムが挙げられる。強度保持層としては、表面に接着剤層との密着性を向上させるためや印刷を施す際のインキの転移性を補助するためのコロナ処理やコート処理をされていても好適に使用することができる。厚みとしては、強度保持層としての役割より、ポリエステルフィルムでは、6〜25μm、ポリアミドフィルムとしては15〜25μm、ポリオレフィンフィルムとしては15〜50μmのものが好適に使用される。
(接着剤層)
本発明のガスバリア性フィルム、強度保持層、ならびにシーラント層を一体の積層体とするための層のことをいう。
【0072】
接着剤としては、成分として特に制限はされないが、包装業界として頻繁に使用する接着剤としては、ポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールなどの水酸基を含む主剤、イソシアネート基を含む硬化剤、ならびに酢酸エチルなどの溶剤との混合物が挙げられる。接着剤として例えば、東洋モートン株式会社製 AD−503(主剤)、東洋モートン株式会社製硬化剤 CAT−10が挙げられる。
【0073】
また、接着剤の塗工量は特に制限はされないが、要求される物性(例えばレトルト処理後の接着剤層を介する各層間の密着強度)と費用面を考えて1.5〜10.0g/mである。1.5g/m以下の場合、レトルト処理後のデラミネーションや内容物の成分によるデラミネーションを引き起こす可能性が高まる。一方、10.0g/mの場合、製造コストが高騰し、また、塗布量が多すぎるため接着剤のコーティング加工適性を著しく悪化させてしまう恐れがある。なお、ここでいう塗工量とは、接着剤層を構成する接着剤成分のみの量をいうものであり、後述するような溶剤を用いて接着剤層をコーティングにより形成する場合には、溶剤乾燥後の質量をいうものとする。
(ガスバリア性包材の第1の態様)
本願発明の製造方法により得られたガスバリア性フィルムのガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられている本発明のガスバリア性包材の第1の態様において、ガスバリア性フィルムとシーラント層を接着剤を介して積層する方法としては、含溶剤接着剤を用いて貼り合わせるドライラミネート法、無溶剤接着剤を用いて貼り合わせるノンソルベントラミネート法、等の公知の積層方法を適用して形成することができる。接着剤の塗工均一性や塗工外観を含めたラミネート時のハンドリングしやすさから、含溶剤接着剤を用いたドライラミネート法が好ましい。また、公知のラミネート機で製造することができ、ロール・ツー・ロール方式でも枚葉方式でも問題なく形成することができる。
【0074】
記ガスバまず、はじめにガスバリア性フィルムのガスバリア層上にグラビアコーティング法で接着剤をコーティングし、乾燥工程にて溶剤を揮発させる。接着剤のコーティング方法としては、特に制限されず、ロールツーロール方式であるグラビアコーティング方式やディッピング方式などが好適に使用される。
【0075】
接着剤に使用する溶剤にもよるが、乾燥工程は、前述のガスバリア層を形成する際の理由と同じく、フィルム温度を60℃以下にすることが好ましい。
【0076】
上記乾燥工程後、ガスバリア層上に形成された接着剤を含むガスバリア性フィルムとシーラント層を接着剤層を介してロール加圧することで貼り合わせ、その後巻き取ることで連続的に生産することができる。また、巻き取った中間製品に対して主剤と硬化剤との間の架橋反応を十分に進行させる目的でエージング処理をすることもできる。エージング処理により架橋反応はより進行し、十分な塗膜強度、ガスバリア性、熱水処理耐性等が発現する。前記ガスバリア層の接着層側の一部に印刷が施されていてもよく、グラビア印刷法などの公知の印刷法で、ウレタン樹脂製インキなどの公知の印刷用インキを用いて好適に印刷を施すことができる。
(ガスバリア性包材の第2の態様)
本発明のガスバリア性包材の第2の態様は、本発明の製造法で得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に、1層または複数層の強度保持層、および、シーラント層が、この順に各層間に接着剤層を介して設けられている態様である。接着剤を介して積層する方法としては、前述と同様、特に制限はなく、ガスバリア性フィルムと強度保持層を積層し、つぎにこの積層体とシーラント層を積層するといった2パス工程でも良いし、1パス工程で一度に3層を積層する方法でもよい。
【0077】
前記ガスバリア層の接着層側の一部に印刷が施されていてもよく、グラビア印刷法などの公知の印刷法で、ウレタン樹脂製インキなどの公知の印刷用インキを用いて好適に印刷を施すことができる。
(ガスバリア性包材の第3の態様)
本発明のガスバリア性包材の第3の態様は、本発明の製造方法で得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられており、前リア性フィルムのシーラント層を設けたのと反対の面に、1層または複数層の強度保持層を各層間に接着剤層を介して設けられている態様である。接着剤を介して積層する方法としては、前述と同様、特に制限はないがガスバリア性フィルムのガスバリア層がシーラント層側(内容物側)に面することが重要である。ガスバリア層がシーラント層側に面しないとガスバリア層から蒸散したエタノールが内容物系外に揮散され、本願目的を達成することができない。また、強度保持層の一部に前述と同様の方法で印刷が施されていてもよい。
【実施例】
【0078】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお実施例中で「部」とは、特に注釈の無い限り「質量部」であることを意味する。
[特性の評価方法]
本発明のガスバリア性フィルムの特性は、以下の評価方法を用いて、評価した。
(1)ガスクロマトグラフィー評価
得られたサンプルをガスクロマトグラフィー測定器(Agilent Technologies製7890A)を使用してガス追い出し温度を80℃×30分に設定しエタノール測定を行った。測定は、1回の測定当たり、縦10cm、横20cmのサイズで10枚切り出した試験片について行った。かかる試験片を容積が30ccの密閉容器に詰め、80℃×30分ガス追い出しを行い、追い出されたエタノール測定を行った。
【0079】
また、測定は各実施例・比較例について2回ずつ行い、平均値をエタノールのガスクロマトグラフィー値とした。
(2)加水分解率(%)=(実際に加水分解させた加水分解溶液のガスクロマトグラフィー分析値)/(完全に加水分解したときの加水分解溶液の理論アルコール量)×100
信越化学工業製3−アミノプロピルトリエトキシシランを主成分とするシラン化合物 KBE903 3.75部にアセトン20.33部、水0.92部添加し、各種時間加水分解させたものを試料注入口に直接1μL注入し、ガスクロマトグラフィー測定器(島津製作所製GC−14A)を使用して、80℃×30分のガス追い出し後に追い出されたエタノール測定を行った。分母の理論エタノール量は、化学反応式より算出した値を用いた。
(3)コーティング時フィルム温度測定 (乾燥時フィルム温度)
フィルム温度測定は、ヒートラベル(ミクロン株式会社製 CR−B)をガスバリア層形成前の無機化合物層面上に貼り、ガスバリア層形成後のラベルの変色を確認した。
【0080】
本実施例では、グラビア印刷法でのガスバリア層形成のため、ヒートラベルを貼ることでグラビア版を痛めてしまう可能性があるため、グラビア版とインプレッションロールのニップを解除することでフィルム温度を確認した。
(4)酸素透過率
酸素透過率は、温度23℃、湿度0%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名、オキシトラン(登録商標)(OXTRAN2/20))を使用して、JIS K7126(2000年版)に記載のB法(等圧法)に基づいて測定した。また、測定は各実施例・比較例について2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を各実施例、比較例における酸素透過率の値とした。
(5)水蒸気透過率
水蒸気透過率は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名、パ−マトラン(登録商標)W3/31)を使用してJIS K7129(2000年版)に記載のB法(赤外センサー法)に基づいて測定した。また、測定は各実施例・比較例について2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を各実施例、比較例における水蒸気透過率の値とした。
(6)密着強度
密着強度は、引っ張り試験機((株)オリエンテック製テンシロンPTM−50)を使用して評価した。実施例および比較例で作製したガスバリア性包材から、幅15mm、長さ100mmの短冊を切り出して評価サンプルとした。後述する実施例および比較例で作製したガスバリア性包材(構成:ガスバリア性フィルム/接着剤層/強度保持層/接着剤層/シーラント層)のガスバリア性フィルムと強度保持層の間を長さ30mm分だけ剥がし、剥がした評価サンプルのガスバリア性フィルム側を引っ張り試験機の一方のフィルムチャックで固定し、さらに剥がしたもう一方側の強度保持層とシーラント層の積層品を他方のチャックで固定し、引っ張り試験機を用いて、速度300mm/分、T型剥離(剥離界面角度90°)で引っ張り、ガスバリア性フィルムと強度保持層間の密着強度を長さ40mm分測定した。この時の測定値としては長さ40mm分の測定値の平均値とした。各実施例、比較例において、5枚の評価サンプルを上記方法で評価し、その平均値を密着強度とした。(7)耐レトルト性評価
実施例および比較例で作製した積層フィルム(15cm角)をそれぞれ2枚準備した。2枚の積層フィルムをシーラントフィルム面が面するようにして重ね、ヒートシーラーを用いて3辺の端部をシール巾1cmにて熱シールした。次いで、内容物として水道水100gを入れ、残りの1辺の端部を熱シールして15cm角のパッケージを作製した。各実施例、比較例について1つのパッケージを準備した。次にそのパッケージを、株式会社トミー精工製オートクレープSR−240を用いてレトルト処理(120℃、30分間)した。処理後、パッケージを切断して水道水を抜き、シール部以外の部分から、幅15mm、長さ100mmの短冊を切り出して評価サンプルとし、剥がしたガスバリア性フィルム側と剥がしたもう一方側の強度保持層とシーラント層の積層品との間の密着強度の測定を(6)項に記載の方法で引っ張り試験機を用いて行い、レトルト処理後の密着強度とした。また、レトルト処理を終え、内容物としての水道水を抜いた後、一晩室温下で乾燥した試験片について前述の方法に従い酸素透過率及び水蒸気透過率を測定して、レトルト処理後のバリア性の値とした。
(8)ガスバリア性包材の外観不良(気泡)評価
評価(i)
実施例および比較例で作製した積層フィルム(15cm角)を強制的に80℃×24時間乾燥させた後の外観(気泡)を目視にて確認し、乾燥前後で増加した気泡の数を計測する。各実施例、比較例において、3枚の評価サンプルを評価し、その平均値を気泡評価(i)とした。観察は目視で行い、最長幅が0.1mm以上のものをカウントした。最長幅とは、気泡の最も長い部分を指し、円形の場合は直径、楕円の場合は長径、多角形の場合は最も長い辺もしくは最も長い対角線を指す。また、最大幅はレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製VK9700)を用いて、1000倍で観察し、確認した。
【0081】
評価(ii)
実施例および比較例で作製した積層フィルム(15cm角)をそれぞれ2枚準備した。2枚の積層フィルムをシーラントフィルム面が面するようにして重ね、ヒートシーラーを用いて3辺の端部を熱シールした。次いで、内容物として水道水100gを入れ、残りの1辺の端部を熱シールして15cm角のパッケージを作製した。各実施例、比較例について3つのパッケージを準備した。次にそのパッケージを、株式会社トミー精工製オートクレープSR−240を用いてレトルト処理(120℃、30分間)した。処理後、パッケージを切断して水道水を抜き、外観(気泡)を目視にて確認し、レトルト前後で増加した気泡の数を計測する。なお、気泡としては最長幅が0.1mm以上のものをカウントした。最長幅とは、気泡の最も長い部分を指し、球状の場合は直径、楕円の場合は長径、多角形の場合は最も長い辺もしくは最も長い対角線を指す。また、最大幅はレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製VK9700)を用いて、1000倍で観察し測定した。
(無機化合物フィルム(基材フィルムに無機化合物を蒸着したフィルム))
基材フィルムに無機化合物層が設けられた蒸着フィルムとして、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に酸化アルミ層を蒸着により設けた東レフィルム加工株式会社製 バリアロックス(登録商標)1011HGを用いた。
(アクリル系共重合樹脂の溶液の調製)
以下の実施例、比較例に用いる共重合体は、アクリロニトリル(AN)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)及びメチルメタクリレート(MMA)の各モノマーをそれぞれ20:50:30に示す割合(質量%)で配合し、公知の技術により共重合して得た。得られた共重合樹脂をメチルエチルケトン(MEK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)の混合溶剤に溶解させて固形分濃度が30質量%の共重合樹脂の溶液を得た。
(コーティング液)
上記アクリル系共重合樹脂の溶液 12.0部、DIC株式会社製キシレンジイソシアネートを主成分とする硬化剤 HX−75(固形分濃度75質量%) 6.0部、メチルエチルケトン 66.0部、プロピレングリコールモノメチルエーテル 5.0部、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(無水ピロメリット酸)のアセトン希釈液(5質量%)8.0部、degussa社製シリカフィラー OK412 0.01部、さらに信越化学工業製3−アミノプロピルトリエトキシシランを主成分とするシランカップリング剤 KBE903 3.75部にアセトン20.33部、水0.92部添加し、公知の技術にて2時間加水分解させたもの 3.0部(固形分濃度15質量%)を30分間密閉攪拌して固形分濃度約9.0質量%の塗剤を調整した。
(実施例1)
上記コーティング液を使用し、ロール・ツー・ロールのダイレクトグラビアコーティング機にて、59線/cm(150線/インチ)、深度64μmの格子柄を使用し、速度100m/分にて無機化合物層上にコーティングを行った後、インラインで乾燥を行い、ガスバリア性フィルムを得た。乾燥時のフィルム温度はヒートラベルにて60℃になるよう乾燥条件を設定した。
(比較例1)
乾燥時のフィルム温度が71℃になるように乾燥条件を設定した以外、実施例と同じ条件でガスバリア性フィルムを得た。
(比較例2)
乾燥時のフィルム温度が82℃になるように乾燥条件を設定した以外、実施例と同じ条件でガスバリア性フィルムを得た。
(比較例3)
乾燥時のフィルム温度が88℃になるように乾燥条件を設定した以外、実施例と同じ条件でガスバリア性フィルムを得た。
(比較例4)
コーティング液に使用するシラン化合物として、信越化学工業製3−アミノプロピルトリエトキシシランを主成分とするシランカップリング剤 KBE903 3.75部にアセトン20.33部、水0.92部添加し、30℃温調下48時間撹拌することで、加水分解率を100%にしたもの 3.0部(固形分濃度15質量%)を使用した以外、実施例1と同じ条件でガスバリア性フィルムを得た。
【0082】
なお、公知のドライラミネート機を用いて上記実施例1、比較例1〜3で得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に、1層の強度保持層(東洋紡社製2軸延伸ナイロン NAP22、厚み15μm、コロナ処理面をガスバリア層側へ向ける)、および、シーラント層(東レフィルム加工株式会社製無延伸ポリプロピレンフィルム ZK207、厚み60μm、コロナ処理面を強度保持層側へ向ける)が、この順に各層間に接着剤層を介して設けられているガスバリア性包材を得た。接着剤層は、酢酸エチル乾燥後3g/m(東洋モートン社製 主剤AD503/硬化剤CAT10/酢酸エチル=20/1/20)となるように形成し、乾燥時のフィルム温度が60℃になるように乾燥条件を設定した。
【0083】
【表1】

【0084】
(実施例1と、比較例1〜3との比較)
実施例1と比較例1〜3との比較より、バリア性(酸素透過率、水蒸気透過率)を悪化させることなく、乾燥時のフィルム温度を60℃に保つことによってガスバリア性フィルム作製直後だけでなく、ガスバリア性包材作成後もエタノールを好適に蒸散させることができ、これよりフィルム温度の制御で選択的にアルコールを蒸散させることができることがわかる。
(実施例1と、比較例4との比較)
実施例1と比較例4との比較より、シラン化合物を部分的に加水分解することによって、ガスバリア性フィルム作製直後だけでなく、ガスバリア性包材作成後もエタノールを好適に蒸散させることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの少なくとも一面に、無機化合物層を形成し、
水酸基を有する成分を共重合成分として含むアクリル系共重合樹脂をイソシアネート化合物で架橋して、前記無機化合物層上にガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記ガスバリア層形成時に、前記アクリル系共重合樹脂とイソシアネート化合物に加えてアルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物を含有する組成物を使用し、フィルム温度を60℃以下とした状態でガスバリア層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項2】
アルコキシ基がエトキシ基である請求項1に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項3】
トリアルコキシシランを部分的に加水分解したシラン化合物を、前記アルコキシ基を少なくとも一つ含有するシラン化合物として使用する請求項1または2に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられているガスバリア性包材。
【請求項5】
請求項1〜3記載の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に、1層または複数層の強度保持層、および、シーラント層が、この順に各層間に接着剤層を介して設けられているガスバリア性包材。
【請求項6】
前記ガスバリア層の接着層側の少なくとも一部に印刷が施されている請求項4または5に記載のガスバリア性包材。
【請求項7】
請求項1〜3記載の製造方法により得られたガスバリア性フィルムの前記ガスバリア層上に接着剤層を介して、シーラント層が設けられており、前記ガスバリア性フィルムのシーラント層を設けたのと反対の面に、1層または複数層の強度保持層を各層間に接着剤層を介して設けられているガスバリア性包材。
【請求項8】
前記強度保持層の少なくとも一部に印刷が施されている請求項5または7に記載のガスバリア性包材。

【公開番号】特開2012−30484(P2012−30484A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171948(P2010−171948)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】