説明

ガスバリア性積層フィルム

【課題】本発明の目的は、食品、日用品、医薬品などの包装分野や、電子ペーパーやLCD、有機ELディスプレイなどのFPD向け電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明ガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【解決手段】基材層(1)の片面に、第1のアンカー層(2)と、第1のガスバリア層(3)と、第2のアンカー層(4)と、第2のガスバリア層(5)とが順次形成されたガスバリア性積層フィルム(6)であって、第1および第2のアンカー層(2)、(4)の表面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下であり、基材層(1)の、ガスバリア層を積層しない側に設けたコーティング層(7)の表面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、日用品、医薬品などの包装分野、および電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に、好適に用いられる透明なガスバリア性積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、日用品、医薬品などの包装に用いられる包装材料や電子機器関連部材などに用いられる包装材料は、収容物の変質を抑制して、その機能や性質を包装中においても保持できるようにするため、包装材料を透過する酸素、水蒸気など、収容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらの気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。
【0003】
通常のガスバリア性を有する包装材料としては、比較的ガスバリア性に優れている塩化ビニリデン樹脂フィルムまたは塩化ビニリデン樹脂をコーティングしたフィルムなどがよく用いられてきたが、これらの包装材料は、高度なガスバリア性が要求される包装に用いることはできない。従って高度なガスバリア性が要求される場合には、アルミニウムなどの金属箔をガスバリア層として積層した包装材料を用いざるを得なかった。
【0004】
アルミニウムなどの金属箔を積層した包装材料は、温度や湿度の影響が殆どなく、高度なガスバリア性を有している。しかし、こうした包装材料では、それを透視して収容物を確認することができない、使用後に不燃物として廃棄処理しなければならない、収容物の検査に金属探知器が使用できない、などの多くの欠点を有していた。
【0005】
これらの欠点を克服した包装材料として、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムからなる基材層に、透明な酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層をガスバリア層とし、その上に適宜のガスバリア性被膜層とを積層してなる積層フィルムが開示されている。
【0006】
また近年、次世代のFPD(フラットパネルディスプレイ)として期待される電子ペーパー、有機ELディスプレイなどの開発が進むなかで、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。
【0007】
ガラス基板には環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、上述した包装材料用のガスバリアフィルムはそのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る電子ペーパー、有機ELディスプレイなどでは、食品包材用バリアフィルムの100倍から1万倍のガスバリア性が必要とも言われている。
【0008】
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、電子ビーム蒸着や誘導加熱蒸着を用いた反応性蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング法により成膜された無機酸化物薄膜は、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。
【0009】
しかしながら、上記ドライコーティング法を用いたとしても、高いガスバリア性を目指すために緻密な膜を得ようとすると、高温プロセスが必要であったり、緻密であるために膜中の応力が大きくなる傾向がある。そのため、プラスチックフィルムの使用可能な温度範囲では緻密な膜を得ることが困難であったり、プラスチックフィルムと無機酸化物薄膜との熱膨張係数の差が大きいため密着不良やクラックが発生したりする問題が生じ、高いガスバリア性の発現は容易ではない。
【0010】
その中で、有機シラン化合物を用いたプラズマCVD法による酸化珪素薄膜は、高いガスバリア性を発現するバリア層として検討されており、特許文献2には炭素濃度および、酸化珪素薄膜の組成を制御することで、密着性と透明性が改善するとの報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開平11−322981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載された酸化珪素薄膜は、水蒸気バリア性は若干劣ると記載されており、特に高いガスバリア性を必要とする電子ペーパーやLCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイなどのFPD向けとしては、ガスバリア性が不十分である。
【0013】
本発明の目的は、食品、日用品、医薬品などの包装分野や電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
さらに本発明の目的は、上述した電子ペーパーやLCD、有機ELディスプレイなどのFPD向けとして、ガスバリア性が不十分である問題を解決するものであり、水蒸気バリ
ア性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、プラスチックフィルムからなる基材層の片面に、アンカー層(以下「第1のアンカー層」と称する。)と、酸化珪素からなるガスバリア層(以下「第1のガスバリア層」と称する。)、さらにこのガスバリア層上にアンカー層(以下「第2のアンカー層」と称する。)と、酸化珪素からなるガスバリア層(以下「第2のガスバリア層」と称する。)とを順次形成されたガスバリア性積層フィルムであって、第1および第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下であり、基材層のガスバリア層を積層しない側の表面に無機フィラーを含むコーティング層を備え、コーティング層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、100nm以上であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムであって、無機フィラーの粒径が30nm以上300nm以下であり、無機フィラーがコーティング層中に1.25質量%以上25質量%以下の割合で含まれることを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルムであって、第1および第2のアンカー層の厚さがそれぞれ20nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムであって、第1および第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)がいずれも3nm以下であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムであって、第1および第2のアンカー層が少なくともポリオール類とイソシアネート化合物とから形成されてなることを特徴とする。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムであって、第1および第2のガスバリア層が厚さがそれぞれ10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムであって、400nm以上1000nm以下における分光透過率が85%以上であることを特徴とする。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、プラスチックフィルムからなる基材層の片面に、第1のアンカー層と、酸化珪素からなる第1のガスバリア層、さらに第1のガスバリア層上に、第2のアンカー層と、酸化珪素からなる第2のガスバリア層とが順次形成されたガスバリア性積層フィルムの製造方法において、基材層の片面に、表面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下である第1のアンカー層を形成する工程と、第1のアンカー層の表面に、第1のガスバリア層を形成する工程と、第1のガスバリア層の表面に、表面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下である第2のアンカー層を形成する工程と、第2のアンカー層の表面に、第2のガスバリア層を形成する工程と、基材層の、ガスバリア層を積層しない側の表面に、無機フィラーを含むコーティング剤により、算術平均粗さ(Ra)が、100nm以上であるコーティング層を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、無機フィラーの粒径が30nm以上300nm以下であり、無機フィラーがコーティング剤に対して0.5質量%以上10質量%以下の割合で含まれることを特徴とする。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項8または9に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、第1および第2のアンカー層、第1および第2のガスバリア層ならびにコーティング層が、巻取り(Roll to Roll)方式で形成されたものであることを特徴とする。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、請求項8から10のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、第1および第2のアンカー層が少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含むアンカー剤を塗布して形成されたものであることを特徴とする。
【0025】
また、請求項12に記載の発明は、請求項8から11のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、第1および第2のガスバリア層がプラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明のガスバリア性積層フィルムおよびその製造方法は、プラスチックフィルムからなる基材層の片面に、第1のアンカー層と、酸化珪素からなる第1のガスバリア層、さらにこの第1のガスバリア層上に第2のアンカー層と、酸化珪素からなる第2のガスバリア層とを順次形成された構成からなることにより、単層のガスバリア層における微少な欠陥を補完するとともに、ガスバリア層を保護し、上記のFPD用途にも適合し得る高度なガスバリア性を有するガスバリア性積層フィルムを得ることができる。
【0027】
この時、第1および第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)を、いずれも5nm以下とすることにより、優れたガスバリア性を安定して発揮するガスバリア性積層フィルムを得ることができる。
【0028】
さらに、基材層のガスバリア層を形成しない側の表面に、粒径が30nm以上300nm以下の無機フィラーを0.5質量%以上10質量%以下含んだコーティングを施し形成した無機フィラーを含むコーティング層を備え、コーティング層の表面の算術平均粗さ(Ra)を100nmとすることにより、途中工程においてフィルムの表裏面がブロッキングすることを防止し安定的に製造することができる。特に、粒径が30nm以上300nm以下の無機フィラーがコーティング層中に(0.5)質量%以上(10)質量%以下の割合で含まれることにより、上記効果をさらに奏する。
【0029】
また、第1および第2のアンカー層の厚さを、それぞれ20nm以上1000nm以下とした場合には、アンカー層の塗工面のRaを安定的に小さくすることを担保できると共に、過剰な膜厚に起因する密着性の低下を防止する効果がある。
【0030】
また、第1および第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)を、いずれも3nm以下とした場合には、ガスバリア層のガスバリア性をさらに向上せしめる効果がある。
【0031】
また、第1および第2のアンカー層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含むアンカー剤を塗布して形成されてなるものである場合には、優れたガスバリア性が安定して発揮される。
【0032】
また、第1および第2のガスバリア層の厚さがそれぞれ10nm以上1000nm以下である場合には、優れたガスバリア性が安定して発揮される。
【0033】
また、400nm以上1000nm以下における分光透過率が85%以上である場合には、可視光の透過性が良好であり、透明性が必要とされる用途にも用いることができる。
【0034】
また、第1および第2のアンカー層、第1および第2のガスバリア層ならびにコーティング層が、巻取り(Roll to Roll)方式で形成されたものである場合には、生産効率が良好であり、安定した品質のガスバリア性積層フィルムを能率よく生産することができる。
【0035】
また、第1および第2のガスバリア層がプラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたものである場合には、優れたガスバリア性が安定して発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明に係るガスバリア性積層フィルムの一実施態様における断面構成を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係るガスバリア性積層フィルムを実施するための最良の形態を、図面に沿って説明する。図1は、本発明に係るガスバリア性積層フィルムの一実施態様における断面構成を示した断面模式図である。基材層(1)上に、第1のアンカー層(2)と酸化珪素からなる第1のガスバリア層(3)と、第2のアンカー層(4)、酸化珪素からなる第2のガスバリア層(5)が順次積層されている。また、基材層(1)の、第1のガスバリア層(3)および第2のアンカー層(4)を積層しない側の上にコーティング層(7)が積層されている。
【0038】
[基材層(1)について]
本発明のガスバリア性積層フィルム(6)において、基材層(1)は透明なプラスチックフィルムからなっている。透明なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが用いられる。
【0039】
これらの透明なプラスチックフィルムは、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性などが優れたものが好ましい。特に、耐熱性や寸法安定性などの面から、包装材料には二軸方向に延伸したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0040】
さらに、高度な耐熱性や寸法安定性が求められるLCDや有機ELディスプレイなどのFPD向けには、ポリエチレンナフタレートやポリエーテルスルフォン、ポリカーボネートなどが好ましく用いられる。
【0041】
また、透明なプラスチックフィルムは、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等などの添加剤を含有してもよい。さらに、透明なプラスチックフィルムにおいて、他の層を積層する側の表面には、密着性をよくするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
【0042】
これらの透明なプラスチックフィルムからなる基材層(1)の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や他の層を積層する場合の加工適性などを考慮すると、実用的には3μm以上200μm以下の範囲、特に6μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、太陽電池、電子ペーパーや有機ELディスプレイなどのFPD向けとしては、加工適正などを考慮すると、実用的には25μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。
【0043】
[コーティング層(7)について]
本発明のガスバリア性積層フィルム(6)において、特に巻取り(Roll to Roll)方式で作製する場合、表面の算術平均粗さ(Ra)が小さい平滑面同士が接触すると、ブロッキングが起こり傷や膜はがれなどによるガスバリア性劣化の可能性がある。ブロッキングを防ぐため、後述する第1のアンカー層(2)と接触する基材層(1)表面、すなわち、基材層(1)の、ガスバリア層を積層しない側の表面のRaは100nm以上であることが好ましい。基材(1)表面のRaは、無機フィラーを含むコーティング剤を塗布してコーティング層(7)を形成することによって調整できる。
【0044】
コーティング剤に含まれる無機フィラーは、粒径が30nm以上300nm以下、より好ましくは80nm以上200nmであることが好ましい。粒径が30nmより小さいと、第1のアンカー層(2)と接触する基材層(1)表面のRaを100nm以上に調整することが困難であるため、ブロッキングを防ぐ効果が小さくなり、また、300nmより大きいと、基材層(1)の透明性が損なわれる可能性がある。
【0045】
また、無機フィラーは、コーティング剤に対して0.5質量%以上10質量%以下、より好ましくは2質量%以上6.5質量%以下の割合で含まれていることが好ましい。コーティング剤に含まれる無機フィラーが0.5質量%より少ない場合、基材層(1)表面のRaを100nm以上に調整することが困難であるため、ブロッキングを防ぐ効果が小さくなり、一方、10質量%より多い場合、基材層(1)の透明性が損なわれる可能性がある。このコーティング剤によりコーティング層(7)を形成する場合、無機フィラーがコーティング層(7)中に1.25質量%以上25質量%以下の割合で含まれることが好ましい。コーティング層(7)中に含まれる無機フィラーが1.25質量%より少ない場合、基材層(1)表面のRaを100nm以上に調整することが困難であるため、ブロッキングを防ぐ効果が小さくなり、一方、25質量%より多い場合、基材層(1)の透明性が損なわれる可能性がある。
【0046】
無機フィラーには、酸化珪素、酸化アルミ、酸化カルシウム、炭化カルシウムなどが好ましく用いられる。また、コーティング剤には、無機フィラーの他、ポリウレタン樹脂やエポキシ樹脂などの公知のバインダー樹脂や、トルエン、MEK(メチルエチルケトン)などの公知の溶媒が含まれる。
【0047】
コーティング層(7)は、周知のコーティング方法、例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、エアナイフコート法、コンマコート法などを用いて基材層(1)にコーティングし、その後溶媒などを除去し、コーティング膜を乾燥・硬化させることで得ることができる。効率的で生産コストの低減が可能であるため巻取り(Roll to Roll)方式で作製することが好ましい。
【0048】
[第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)について]
本発明のガスバリア性積層フィルム(6)における第1のアンカー層(2)の役割は、基材層(1)の表面を平滑化することにより、第1のアンカー層(2)上に形成する第1のガスバリア層(3)が優れたガスバリア性を発現するものである。また第2のアンカー層(4)の役割は、第1のガスバリア層(3)の表面を平滑化することにより、第2のアンカー層(4)上に形成する第2のガスバリア層(5)が優れたガスバリア性を発現するものである。
【0049】
第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)の表面のRaは、5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)の表面のRaが5nmより大きく、平滑でない表面にガスバリア層を形成した場合、均一な膜形成ができず、十分なガスバリア性が発現しない。そのため、第1のアンカー層(2)によって基材層(1)の表面を平滑化する場合、Raを5nm以下にする必要がある。
【0050】
なお、優れたガスバリア性の発現に寄与するのは微小領域の表面平滑性であり、上述のRaは、数μmから数百μmの領域で測定することが好ましく、例えば、走査プローブ顕微鏡を用い、タッピングモードで測定することができる。
【0051】
第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)の膜厚は、いずれも20nm以上1000nm以下であることが好ましい。膜厚が20nm未満であると均一な膜形成が難しく十分な平滑化機能が発揮できない。また、膜厚が1000nmを超えるとガスバリア性積層体の光学特性を制御することが困難となる他、アンカー層硬化時の内部応力が過度に働き、密着性が低下する恐れがある。
【0052】
第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)は、周知のコーティング方法、例えばディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、エアナイフコート法、コンマコート法などを用いて基材層(1)または第1のガスバリア層(3)にコーティングし、その後溶媒などを除去し、コーティング膜を乾燥・硬化させることで得ることができる。特に平滑なアンカー層を形成するためには、ダイコート法やグラビアコート法も用いることが好ましい。加えて、効率的で生産コストの低減が可能であるため巻取り(Roll to Roll)方式で作製することが好ましい。
【0053】
本発明のガスバリア性積層フィルム(6)において、第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)は、アクリルポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール類とTDI(トリレンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)などのイソシアネート化合物を任意の配合比で混合したアンカー剤を調製し、アンカー剤を基材層(1)または第1のガスバリア層(3)にコーティングして形成する。アンカー剤は、トルエン、MEK(メチルエチルケトン)などの溶媒を加え、任意の濃度に希釈してもよい。
【0054】
[第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)について]
本発明のガスバリア性積層フィルム(6)において、第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)の膜厚は、それぞれ10nm以上100nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm未満であるとガスバリア材としての機能を十分に果たすことができず、また100nmを超えるとガスバリア層にクラックが生じやすくなる他、ガスバリア性積層フィルム(6)の光学特性を制御することが困難となる。
【0055】
本発明のガスバリア性積層フィルム(6)において、第1のガスバリア層(3)および第2のガスバリア層(5)の形成方法は、特に限定されるものではないが、基材層(1)の表面に、酸化珪素からなるガスバリア層を真空中において成膜して、高いガスバリア性を発現させるためには、現時点ではプラズマ化学蒸着(CVD)法が好ましく、上記プラスチックフィルムからなる基材層の片面もしくは両面に成膜することができる。また、プラスチック基材の特徴を活かした巻取(Roll to Roll)方式による連続蒸着を行うことができ、巻取式の真空蒸着成膜装置を用いることが好ましい。また、プラズマ発生装置としては、直流(DC)プラズマ、低周波プラズマ、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、3極構造プラズマ、マイクロ波プラズマなどの低温プラズマ発生装置が用いられる。
【0056】
プラズマCVD法により積層される酸化珪素からなるガスバリア層は、分子内に炭素を有するシラン化合物と酸素ガスを原料として成膜することができ、この原料に不活性ガスを加えて成膜することもできる。分子内に炭素を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシランなどの比較的低分子量のシラン化合物を選択し、これらシラン化合物の1つまたは、複数を選択しても良い。
【0057】
プラズマCVD法による成膜では、上記シラン化合物を気化させ酸素ガスと混合したものを電極間に導入し、低温プラズマ発生装置にて電力を印加してプラズマ化し、上記第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)に積層することができる。また、プラズマCVD法では、酸化珪素からなるガスバリア層の膜質を様々な方法で変えることが可能であり、ガスバリア層の酸素成分や炭素成分の組成比を増減させることが比較的容易にでき、例えば、シラン化合物やガス種の変更、シラン化合物と酸素ガスの混合比や、印加電力の増減などがその有効な手法となる。
【0058】
本発明のガスバリア積層フィルム(6)を太陽電池モジュールの表面保護シートやFPD向けに用いる場合、高い光透過性が求められるため、ガスバリア性積層フィルムの400nm以上1000nm以下における分光透過率は85%以上であることが好ましく、また90%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明に係るガスバリア性積層フィルムについて、実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0060】
<実施例1>
基材層(1)として、片面に粒径150nmの酸化珪素からなる無機フィラーが1.2質量%含まれるコーティング剤を塗布し、反対面は未処理である厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。このとき、コーティングによって形成されたコーティング層(7)の表面算術平均粗さ(Ra)は700nmであった。フィルムの未処理面にアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)をNCO比で6:4に混合し、MEK(メチルエチルケトン)で固形分10%に希釈したアンカー剤をダイコート法によりコーティングし、乾燥・硬化させ厚さ50nmの第1のアンカー層(2)を形成した。このとき、第1のアンカー層(2)のRaは3nmであった。
【0061】
続いてプラズマCVD法を用い、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)/酸素=10/100sccmの混合ガスを電極間に導入し、電力を0.5kW印加してプラズマ化し、第1のアンカー層(2)上に酸化珪素からなる厚さ60nmの第1のガスバリア層(3)を形成した。次に、第1のアンカー層(2)と同様に厚さ50nmの第2のアンカー層(4)を形成した。このとき、第2のアンカー層(4)のRaは4nmであった。続いて、第1のガスバリア層(3)と同様にして厚さ60nmの第2のガスバリア層(5)を形成した。なお、第1のアンカー層(2)から第2のガスバリア層に到るまで、巻取り(Roll to Roll)方式を用いて積層した。こうして、実施例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0062】
<実施例2>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、厚さ100nmの第1のアンカー層(2)、および第2のアンカー層(4)を形成した。このとき第1のアンカー層(2)のRaは1nm、第2のアンカー層(4)のRaは2nmであった。その他は、実施例1と同様にして実施例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0063】
<比較例1>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層(1)として、片面にコーティング層(7)が形成され、反対面は未処理であるポリエチレンナフタレート(PEN)を基材に用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。このとき、コーティング層(7)表面のRaは20nmであった。
【0064】
<比較例2>
比較例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、コーティング層(7)表面のRaが5nmであるポリエチレンナフタレート(PEN)を基材に用いた以外は、比較例1と同様にして比較例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0065】
<比較例3>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、厚さ10nmの第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)を形成した。このとき第1のアンカー層(2)および第2のアンカー層(4)のRaは10nmであった。その他は実施例1と同様にして比較例3のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0066】
<比較評価>
実施例1、2および比較例1、2、3のガスバリア性積層フィルムについて、モダンコントロール社製の水蒸気透過率計(MOCON PERMATRAN−W 3/31)により、40℃−90%RH雰囲気下での水蒸気透過率(g/m/24h)を測定した。この測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1からわかるように、実施例1、2のガスバリア性積層フィルムは、低い水蒸気透過率であった。一方、比較例1、2、3のガスバリア性積層フィルムは、実施例1、2と比べて水蒸気透過率が高かった。比較例1、2のガスバリア性積層フィルムを光学顕微鏡で観察したところ、フィルムの表裏面がブロッキングして生じたと思われるガスバリア層のはがれが確認された。
【符号の説明】
【0069】
1・・・基材層
2・・・第1のアンカー層
3・・・第1のガスバリア層
4・・・第2のアンカー層
5・・・第2のガスバリア層
6・・・ガスバリア性積層フィルム
7・・・コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムからなる基材層の片面に、第1のアンカー層と、酸化珪素からなる第1のガスバリア層、さらに該第1のガスバリア層上に、第2のアンカー層と、酸化珪素からなる第2のガスバリア層とが順次形成されたガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記第1および第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、5nm以下であり、
前記基材層の、ガスバリア層を積層しない側の表面に、無機フィラーを含むコーティング層を備え、
該コーティング層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、100nm以上であることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記無機フィラーの粒径が、30nm以上300nm以下であり、該無機フィラーがコーティング層中に1.25質量%以上25質量%以下の割合で含まれることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記第1および第2のアンカー層の厚さが、それぞれ20nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記第1および第2のアンカー層の表面の算術平均粗さ(Ra)が、3nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記第1および第2のアンカー層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物とから形成されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記第1および第2のガスバリア層が、厚さがそれぞれ10nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項7】
400nm以上1000nm以下における分光透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項8】
プラスチックフィルムからなる基材層の片面に、第1のアンカー層と、酸化珪素からなる第1のガスバリア層、さらに該第1のガスバリア層上に、第2のアンカー層と、酸化珪素からなる第2のガスバリア層とが順次形成されたガスバリア性積層フィルムの製造方法において、
前記基材層の片面に、表面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下である前記第1のアンカー層を形成する工程と、
前記第1のアンカー層の表面に、前記第1のガスバリア層を形成する工程と、
前記第1のガスバリア層の表面に、表面の算術平均粗さ(Ra)が5nm以下である前記第2のアンカー層を形成する工程と、
前記第2のアンカー層の表面に、前記第2のガスバリア層を形成する工程と、
前記基材層の、ガスバリア層を積層しない側の表面に、無機フィラーを含むコーティング剤により、算術平均粗さ(Ra)が、100nm以上であるコーティング層を形成する工程と
を備えることを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記無機フィラーの粒径が、30nm以上300nm以下であり、該無機フィラーがコーティング剤に対して0.5質量%以上10質量%以下の割合で含まれることを特徴とする請求項8に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記第1および第2のアンカー層、前記第1および第2のガスバリア層ならびにコーティング層が、巻取り(Roll to Roll)方式で形成されたものであることを特徴とする請求項8または9に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記第1および第2のアンカー層が、少なくともポリオール類とイソシアネート化合物を含むアンカー剤を塗布して形成されたものであることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記第1および第2のガスバリア層が、プラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたものであることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−63634(P2013−63634A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58530(P2012−58530)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】