説明

ガスバリア性積層体の製造方法

【課題】高い結合力を持つガスバリア層を得る製造方法を提供する。
【解決手段】(a)ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸から選ばれる基材に、プライマー剤溶液を塗布し、乾燥してプライマー剤層を形成する工程、(b)プライマー剤層の表面に対して、コロナ放電処理、窒素ガスによるプラズマ処理又は紫外線照射処理する工程、(c)平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含むセルロース繊維懸濁液を塗布し、乾燥する工程、を(a)、(b)、(c)の順で具備するガスバリア性積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の酸素、水蒸気等のガスバリア用材料は、主として化石資源から製造されているため、非生分解性であり、焼却処分せざるを得ない。そこで、再生産可能なバイオマスを原料として、生分解性のあるガスバリア材料を製造することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明が開示されている。特許文献2には、微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果(ガスバリア材料への適用、塗布性)や、その製造方法については記載されていない。
【0004】
特許文献3には、ポリ乳酸系等の生分解性樹脂基材の表面に多糖類からなる被膜が形成された生分解性ガスバリア材の発明が開示されている。基材表面に多糖類水溶液を塗布するときには、前記基材表面の接触角を低下させることが好ましいことが記載されており、前記接触角を低下させる処理法として、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、アルカリ表面処理が例示され、紫外線処理による表面改質が好ましいことが記載されている(段落〔0036〕)。なお、前記の接触角を低下させる処理法を適用した場合には、処理を高度に行うと接触角は低下するが、その一方で表面が荒れるため、均一な塗膜が得られないことも記載されている(段落〔0037〕)。実施例1では、紫外線照射後、多糖類水溶液にイソプロピルアルコールを5%添加したものを塗布しており、他の実施例では、多糖類水溶液に各種の添加剤を配合した塗布液を用いている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−348522号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【特許文献3】特開2008−49606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ乳酸フィルム等の基材表面にガスバリア材料の水溶液を塗布して被覆層を形成する場合、そのままでは塗布し難いため、予め前記基材表面に対してコロナ放電処理等をする方法、塗布液にイソプロピルアルコール等の溶剤を混合する方法等を適用し、塗布性を改善する処理がなされていた。
【0007】
コロナ放電処理等をしたフィルムは、塗布性は改善されるものの、処理から日数が経過すると、徐々に塗布性(濡れ性=接触角)が低下するという課題があるほか、フィルム自体も、僅かであるが変質(変色、物理的性質の変化等)や変形等が避けられないとの課題もある。
【0008】
本発明は、基材、プライマー剤層及びガスバリア層とを有するものであり、プライマー剤層を介して、基材とガスバリア層が高い結合力で一体化されたガスバリア性積層体を得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
(1)(a)ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸から選ばれる基材に、プライマー剤溶液を塗布し、乾燥してプライマー剤層を形成する工程、
(b)プライマー剤層の表面に対して、コロナ放電処理、窒素ガスによるプラズマ処理又は紫外線照射処理する工程、
(c)平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含むセルロース繊維懸濁液を塗布し、乾燥する工程、
を(a)、(b)、(c)の順で具備するガスバリア性積層体の製造方法。
(2)(a)工程の基材がポリ乳酸からなるものであり、
(c)工程の塗布後の乾燥が加熱乾燥又は常温乾燥である、請求項1記載のガスバリア性積層体の製造方法。
(3)前記プライマー剤溶液は、酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィン、及び変性ポリプロピレンから選ばれるプライマー剤溶液である、請求項1又は2記載のガスバリア性積層体の製造方法。
(4)(b)工程がコロナ放電処理をする工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、プライマー剤層を介して、基材とガスバリア層を一体化することで、基材とガスバリア層とが高い結合力で一体化されたガスバリア性積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<(a)工程>
(a)工程は、基材にプライマー剤溶液を塗布し、乾燥してプライマー剤層を形成する工程である。
【0012】
基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(Ny)(好ましくはナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612)、ポリプロピレン(好ましくは延伸ポリプロピレン:OPP)、ポリエチレン(好ましくは直鎖状低密度ポリエチレン:LLDPE)、ポリ乳酸(PLA)から選ばれる基材である。
基材は、前記各樹脂からなる市販のフィルムを用いることができる。市販のフィルムは、予めコロナ放電処理されているものがある。本発明の製造方法を実施する場合には、コロナ放電処理されているものが好ましいが、コロナ放電処理されていないものや、コロナ放電処理されたものであるが、日数が経過して濡れ性が低下したもの(接触角が大きくなったもの)でもよい。
【0013】
プライマー剤溶液は、
ユニストール(商品名:三井化学株式会社)、具体的には、酸変性ポリオレフィン溶液である、ユニストールP−40、P−401A、P−801、P−802、P−901、P−902(以上はトルエン溶液)、ユニストールR−100K、R−120K、R−200(以上はトルエン溶液)、R−200K(キシレン溶液)、R−220(トルエン溶液)、R−300(トルエン/MEK混合溶液)、H−100(メチルシクロヘキサン/MEK混合溶液);
商品名アウローレン(日本製紙ケミカル株式会社)、具体的には、無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィン溶液である、アウローレン100(トルエン100%溶液)、150(メチルシクロヘキサン/MEK=9/1)、200(トルエン/シクロヘキサン=7/3)、200T(無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィン15質量%、トルエン60質量%、シクロヘキサン25質量%)、250(メチルシクロヘキサン/MEK=8/2)、350(メチルシクロヘキサン/MEK=8/2)、350T(無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィン15質量%、トルエン51質量%、シクロヘキサン34質量%、イソプロパノール0.5質量%)、S−5183(メチルシクロヘキサン/MEK=8/2)、S−5189(メチルシクロヘキサン/MEK=8/2)、AE−201、AE−301、S−6097、S−6101(以上はエマルジョン);
変性ポリプロピレン溶液である、商品名プライマーL(トルエン80-90%/キシレン混合溶液10-20%)(十条ケミカル株式会社);
から選ばれるものを用いることができる。
【0014】
基材にプライマー剤溶液を塗布する方法は、一般的なスプレー法、刷毛塗り法、バーコーター、グラビアコーター、各種ロールコーター等の公知の塗布方法を適用することができる。
【0015】
プライマー剤溶液の塗布量は、連続したプライマー剤層の皮膜が形成されれば良く、上記基材と上記プライマー剤溶液の組み合わせによって、適宜設定すればよい。
【0016】
乾燥は、プライマー剤溶液に含まれる有機溶媒を除去するためのものであるから、常温又は加熱乾燥等の公知の方法を使用することができる。
【0017】
<(b)工程>
(b)工程は、プライマー剤層の表面に対して、コロナ放電処理、窒素ガスによるプラズマ処理又は紫外線照射処理する工程(表面処理工程)であるが、これらの中でもコロナ放電処理が好ましい。
【0018】
(b)工程では、プライマー剤層に対して上記の表面処理をするため、基材に対して直接に表面処理をした場合と比べると、基材が変質や変形を受け難くなるという効果が得られる。
【0019】
コロナ放電処理は周知の方法であり、実施例に記載の装置及び方法により、実施することができる。
【0020】
窒素ガスによるプラズマ処理は周知の方法であり、例えば、特開2007−302283号公報(特に段落〔0028〕〜〔0037〕の記載と実施例及び図面)に記載された方法を適用することができる。窒素ガスは、純度99%以上が好ましく、純度99.99%以上がより好ましい。
【0021】
処理条件は、処理速度(m/min)と処理後の接触角との関連において調整することが望ましい。処理速度は、0.1〜2.0m/minが好ましく、0.5〜2.0m/minがより好ましい。
【0022】
窒素ガスによるプラズマ処理の具体的な処理条件は、例えば、下記の処理条件を適用できる。
(処理条件)
方式:ダイレクト方式(電極間にN2ガスを導入し、電極間中でプラズマ処理する方式)
電極間距離(mm):1.9
電極サイズ(mm):W300×D65(プラズマ処理開始と同時に、D方向に電極が移動する)
電圧(V):180
周波数(kHz):10
処理速度(m/min):0.1〜2.0
処理環境の圧力:1気圧(絶対圧)
ガス種:N2
ガス純度:99.99%
流量(L/min):15
【0023】
紫外線照射処理は周知の方法であり、例えば、特開2007−302806号公報(特に段落〔0040〕、〔0041〕、〔0051〕の記載)に記載された方法を適用することができる。
【0024】
処理条件は、紫外線エネルギー量(mJ/cm2,波長254nmのとき)、照射時間(min)と処理後の接触角との関連において調整することが望ましい。
紫外線エネルギー量(照射時間)は、700〜4500mJ/cm2(1〜10min)が好ましく、700〜2800mJ/cm2(1〜6min)がより好ましい。更に700〜1700mJ/cm2(1〜3min)がより好ましい。
【0025】
紫外線照射処理の具体的な処理条件は、例えば、下記の処理条件を適用できる。
(処理条件)
照射距離:40mm
有効照射寸法:100×300mm
紫外線ランプ:低圧水銀ランプ(ピーク波長185nm,254nm)のものを3灯
処理時間:2〜8min
【0026】
いずれの処理方法を適用した場合でも、処理の目安は、処理後のプライマー剤層の接触角(蒸留水のプライマー剤層表面に対する接触角)が、処理前よりも小さくなるまでであり、好ましくは接触角が70°以下に低下するように処理し、より好ましくは接触角が60°以下に低下するように処理する。
【0027】
<(c)工程>
(c)工程は、プライマー剤層の上に、セルロース繊維懸濁液を塗布し、乾燥する工程である。
【0028】
〔セルロース繊維懸濁液の塗布〕
(c)工程で用いるセルロース繊維懸濁液は、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含む懸濁液である。
【0029】
前記セルロース繊維の平均繊維径は、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0030】
前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満であると、後述の繊維の微細化処理を行っても、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下に微細化されない。
【0031】
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
【0032】
(c)工程で用いるセルロース繊維の製造方法は公知であり(特開2009−57552号公報参照)、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
【0033】
原料となる天然繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0034】
次に、触媒として2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0035】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
【0036】
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
【0037】
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
【0038】
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
【0039】
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
【0040】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0041】
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。この段階では反応物繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す精製法で行うことができる。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状のガスバリア用材料の中間体(後述の微細化処理前のガスバリア用材料)を得ることができる。
【0042】
その後、該中間体を水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。それを超えると分散にきわめて高いエネルギーを必要とすることから好ましくない。
【0043】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものであるセルロース繊維を得ることができる。
【0044】
その後、必要に応じて固形分濃度を調整した懸濁液(目視的に無色透明又は不透明な液)を得ることができる。なお、懸濁液は、水のみを使用したものが望ましいが、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよいが、その場合には、媒体中の水が95質量%以上であることが望ましい。なお、媒体中の水(質量%)とは、水と他の有機溶媒を合わせた媒体中の水の割合とする。
【0045】
このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径が200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
【0046】
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させることができ、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0047】
上記の酸化処理、微細化処理によって得られたセルロース繊維は、下記の(I)、(II)、(III)の要件を満たすことができる。
(I):固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、目開き16μmのガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上である、性能の良好なセルロース繊維を得ること。
(II):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まないこと。
(III):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が、0.5%以上になること。
【0048】
要件(I):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分0.1質量%の懸濁液は、目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、該ガラスフィルター通過前の懸濁液中に含まれる全セルロース繊維量に対して質量分率5%以上が該ガラスフィルターを通過できるものである(該ガラスフィルターを通過できる微細セルロース繊維の質量分率を微細セルロース繊維含有率とする)。ガスバリア性の観点から、微細セルロース繊維含有率は、好ましくは30%以上、より好ましくは90%以上である。
【0049】
要件(II):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%の懸濁液は、原料として用いた天然繊維が微細化されており、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体は含まないものが好ましい。ここで、粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。この粒状体の有無の判定は、後述の光学顕微鏡による観察で行った。
【0050】
要件(III):前記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%のセルロース繊維懸濁液は、光透過率が0.5%以上であることが好ましく、ガスバリア性の観点から、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0051】
そして、上記の酸化処理、微細化処理により得られるセルロース繊維を含むセルロース繊維層は、微細セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用が生まれ、ガスの溶解、拡散を抑制し、高い酸素バリア性等のガスバリア性を発現できるものと考えられる。また、セルロース繊維の巾や長さによって、成形後のセルロース繊維間の細孔サイズや細孔分布を変化させることができるため(即ち、分子篩効果を変化させることができるため)、分子選択的バリア性も期待できる。
【0052】
セルロース繊維層には、本発明の課題を解決できる種類及び量の範囲内において、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤(シランカップリング剤等)、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、架橋剤(エポキシ基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する添加剤)、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。
【0053】
(b)工程で表面処理されたプライマー剤層にセルロース繊維層を形成する方法は特に制限されるものではなく、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、好ましくは塗布法又は噴霧法により、セルロース繊維懸濁液を付着させる。
【0054】
〔塗布後の乾燥〕
上記のようにしてセルロース懸濁液を塗布後、乾燥して、ガスバリア層(セルロース繊維層であり、ガスの透過を抑制できる層)を形成する。
【0055】
(c)工程の乾燥は、加熱乾燥又は常温(20〜25℃)乾燥を適用する。
「加熱乾燥」は、熱風乾燥、遠赤外線式乾燥等の方法で、常温(20〜25℃)よりも高い温度で乾燥することを意味する。尚、連続乾燥工程においては、基材に張力が掛かっている状態で、基材が変形しない乾燥温度であることが好ましい。
【0056】
(a)工程の基材がポリエチレンテレフタレート、ポリアミド又はポリプロピレン(延伸ポリプロピレン)であるとき、(c)工程の乾燥は、加熱乾燥(好ましくは40〜150℃、より好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは70〜125℃)又は常温乾燥である。なお、常温(20℃)よりも低い温度であっても、乾燥時間を長く設定すれば、(c)工程の乾燥方法として実施することができる。
【0057】
(a)工程の基材がポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン)であるとき、(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜100℃)である。
【0058】
(a)工程の基材がポリ乳酸であるとき、(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは40〜130℃、より好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜90℃)又は常温乾燥である。なお、常温(20℃)よりも低い温度であっても、乾燥時間を長く設定すれば、(c)工程の乾燥方法として実施することができる。
【0059】
(c)工程では、プライマー剤層を介した基材とセルロース繊維層(ガスバリア層)との結合強度を高めるため、基材とプライマー剤との組み合わせに応じて、乾燥温度を選択する。
【0060】
(i)加熱乾燥
基材が、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸から選ばれるものであるとき、プライマー剤溶液として、ユニストール(商品名:三井化学株式会社)、アウローレン200T(商品名:日本製紙ケミカル株式会社)、アウローレン350T(商品名:日本製紙ケミカル株式会社)、プライマーL(商品名:十条ケミカル株式会社)から選ばれるものを選択して、加熱乾燥する。
【0061】
(ii)常温乾燥
基材が、ポリ乳酸からなるものであるとき、プライマー剤溶液として、ユニストール(商品名:三井化学株式会社)、アウローレン200T(商品名:日本製紙ケミカル株式会社)、アウローレン350T(商品名:日本製紙ケミカル株式会社)、プライマーL(商品名:十条ケミカル株式会社)から選ばれるものを選択して、常温で乾燥する。
【0062】
ガスバリア性積層体は、セルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比及びガスバリア性積層体の厚みを制御することにより、仕様(高いガスバリア性、透明性など)に応じた積層体を得ることができる。
【0063】
本発明で得られたガスバリア性積層体のセルロース繊維層(ガスバリア層)は、高湿度条件では水蒸気がガスバリア層に溶解、拡散し、緻密な構造が乱れるので、ガスバリア性は低下する。
【0064】
そこで、本発明のガスバリア性積層体は、ガスバリア性積層体にさらに防湿層を積層してもよい。
【0065】
防湿層を積層する方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等で貼り合わせる方法や、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法を適用できる。ここで、高い防湿性能を有する基材や防湿層は、ポリオレフィンやポリエステル等のプラスチック、これらに無機酸化物(酸化アルミや酸化ケイ素等)を蒸着したもの、これらを板紙に積層したもの、ワックスやワックスを紙にコートしたもの等を用いることができる。高い防湿性能を有する基材や防湿層は、水蒸気透過度が0.1〜600g/m2・day、好ましくは0.1〜300g/m2・day、より好ましくは0.1〜100g/m2・dayのものを用いることが好ましい。前記の高い防湿性能を有する基材や防湿層を有するガスバリア性積層体にすることで、ガスバリア層への水蒸気の溶解、拡散を抑制することができるため、高湿度条件におけるガスバリア性の低下を抑制できる。
【0066】
本発明で得られたガスバリア性積層体は、セルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比、層の厚み、基材及び防湿層の水蒸気透過度を制御することにより、仕様(高いガスバリア性、透明性など)に応じた積層体を得ることができる。
【0067】
本発明は(b)工程を必須とするものであるが、(a)工程と(c)工程を下記の組み合わせにすることで、(b)工程がない場合でも、(b)工程がある製造方法を適用した場合と同程度まで、プライマー剤を介して基材とセルロース繊維層(ガスバリア層)が強く結合されたガスバリア性積層体を製造することができる。
【0068】
<(b)工程がない製造方法−1>
(a)工程の基材がポリエチレンテレフタレートで、プライマー剤溶液が商品名アウローレン、好ましくはアウローレン200T、アウローレン350Tから選ばれるものであり、
(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは40〜150℃、より好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは70〜125℃)又は常温乾燥である製造方法。
【0069】
<(b)工程がない製造方法−2>
(a)工程の基材がポリアミドで、プライマー剤溶液が商品名アウローレン、好ましくはアウローレン200T、アウローレン350Tから選ばれるものであり、
(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは40〜150℃、より好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは70〜125℃)又は常温乾燥である製造方法。
【0070】
<(b)工程がない製造方法−3>
(a)工程の基材がポリプロピレン(延伸ポリプロピレン)で、プライマー剤溶液が商品名アウローレン、好ましくはアウローレン200T、アウローレン350Tから選ばれるものであり、
(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは40〜150℃、より好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは70〜125℃)である製造方法。
【0071】
<(b)工程がない製造方法−4>
(a)工程の基材がポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン)で、プライマー剤溶液が商品名アウローレン、好ましくはアウローレン200T、アウローレン350Tから選ばれるものであり、
(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは70〜120℃、より好ましくは80〜100℃)である製造方法。
【0072】
<(b)工程がない製造方法−5>
(a)工程の基材がポリ乳酸で、プライマー剤溶液が商品名アウローレン、好ましくはアウローレン200T、アウローレン350Tから選ばれるものであり、
(c)工程の乾燥が、加熱乾燥(好ましくは70〜100℃又は常温乾燥である製造方法。
【実施例】
【0073】
(1)接触角
接触角測定装置(協和界面科学(株)の自動接触角形,Type:DM300)を使用して、蒸留水の基材表面に対する接触角を測定した。
【0074】
(2)懸濁液の性質
(2−1)光透過率
分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)を用い、濃度1質量%の懸濁液の波長660nm、光路長1cmにおける光透過率(%)を測定した。
(2−2)粘度
E型粘度計(VISCONIC、TOKIMEC製)を用い、23℃、回転数50r/mで濃度1質量%の懸濁液の粘度を測定した。
【0075】
(2−3)セルロース繊維懸濁液中の微細セルロース繊維の質量分率(微細セルロース繊維含有率)(%)
セルロース繊維懸濁液を0.1質量%に調製して、その固形分濃度を測定した。続いて、そのセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルター(25G P16,SHIBATA社製)で吸引ろ過した後、ろ液の固形分濃度を測定した。ろ液の固形分濃度(C1)をろ過前の懸濁液の固形分濃度(C2)で除した(C1/C2)値を微細セルロース繊維含有率(%)として算出した。
【0076】
(2−4)懸濁液の観察
固形分1質量%に希釈した懸濁液をスライドガラス上に1滴滴下し、カバーガラスをのせて観察試料とした。この観察試料の任意の5箇所を光学顕微鏡(ECLIPSE E600 POL NIKON社製)を用いて倍率400倍で観察し、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体の有無を確認した。粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。このときクロスニコル観察によって、より明瞭に確認することもできる。
【0077】
(3)セルロース繊維
(3−1)平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比
セルロース繊維の平均繊維径は、0.001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さの算術平均を平均繊維径とした。
【0078】
平均アスペクト比は、セルロース繊維を水で希釈した希薄懸濁液(0.005〜0.04質量%)の粘度から算出した。粘度の測定には、レオメーター(MCR300、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて、20℃で測定した。セルロース繊維の質量濃度とセルロース繊維懸濁液の水に対する比粘度の関係から、次式でセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、セルロース繊維の平均アスペクト比とした。
【数1】

(The Theory of Polymer Dynamics, M.DOI and D.F.EDWARDS, CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)を利用した(ここでは、剛直棒状分子=セルロース繊維とした)。(8.138)式とLb2×ρ0=M/NAの関係から数式1が導出される。ここで、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す)。
【0079】
平均繊維長は、上記の方法より測定された繊維径とアスペクト比より算出した。
【0080】
(3−2)カルボキシル基含有量(mmol/g)
酸化したパルプの絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
天然セルロース繊維はセルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
【0081】
(4)ガスバリア性
酸素透過度(等圧法)(×10-5cm3/m2・day・Pa)
JIS K7126−2 付属書Aの測定法に準拠して、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(型式ML&SL、MODERN CONTROL社製)を用い、23℃、湿度0%RHの条件で測定した。具体的には、23℃、湿度0%RHの酸素ガス、23℃、湿度0%RHの窒素ガス(キャリアガス)環境下で測定を行った。
【0082】
(5)塗布性
基材表面に対して、実施例及び比較例に記載の方法でセルロース繊維懸濁液を塗布したときの状態を下記の基準で評価した。
○:塗布が良好
×:塗布時に部分的にはじいた
【0083】
(6)テープ剥離試験
180°剥離試験機(PEELING TESTER,型式 IPT200-5N,測定範囲0.001〜5.0N;株式会社イマダ製)を用いて、下記の方法でテープ剥離試験を行った。
【0084】
まず、A4サイズ(210×297mm)の実施例、比較例及び実験例のガスバリア性積層体を用意した。
【0085】
次に、幅15mm、長さ140mmの粘着テープ(商品名 セロテープ;ニチバン(株)製)の一部(40mmの長さ部分)を折り返して互いに貼り合わせ(折り返した貼り合わせ部分の長さは20mm)、粘着部分を残部の100mmの長さ部分としたものを用意した。
【0086】
次に、ガスバリア性積層体に50〜100mmの直線状の切り込みを入れ、その切り込み線上に粘着テープの粘着部分の端を合わせた状態で、100mmの長さの粘着部分をセルロース繊維層に密着して貼り合わせた。
【0087】
その後、密着して貼り合わせた部分を幅15mm、長さ100mmに切断し、微細セルロース繊維層に粘着テープが貼り付けられ、ガスバリア性積層体と粘着テープが一体になったものを試験サンプルとした。
【0088】
まず、幅15mm、長さ120mmの両面テープ(商品名、ナイスタック;ニチバン(株)製)の一面側の粘着面を水平な台上に貼り付けて固定し、他面側の粘着面に試験サンプルの基材部分(ガスバリア性積層体の基材部分)を貼り付けた。
【0089】
その後、粘着テープの折り返してある部分(長さ20mmの部分)をテープ剥離試験機のクリップでしっかりと固定した状態で、剥離角度(ガスバリア性積層体と粘着テープがなす角度)が165〜180°になるようにして、300mm/minの速度で引っ張り、ガスバリア性積層体の基材と微細セルロース繊維層との剥がれを評価した。評価基準は次のとおりである。
【0090】
○:粘着テープ側に微細セルロース繊維層が付着しなかった(基材と微細セルロース繊維層が剥がれなかった)
×:粘着テープ側に微細セルロース繊維層が付着した(基材と微細セルロース繊維層が剥がれた)
【0091】
製造例1
〔ガスバリア用材料となるセルロース懸濁液の製造〕
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
【0092】
(2)製造手順
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行った。
【0093】
次に、120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化パルプの濃度を1質量%に調整し、ミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪ケミカル(株)製)にて60分間攪拌する(微細化処理時間が60分)ことにより、繊維の微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られた懸濁液に対して、イソプロピルアルコール(IPA)を30質量%添加した。
【表1】

【0094】
実施例1〜3、比較例1〜3
(a)工程
表2に示す基材表面にコントロールコータ装置(RK Print-Coat Instruments Ltd.製,Model No.:K202)(塗布条件:コーティングバー No.5,速度5)により、表2に示すプライマー剤溶液を塗布し、23℃で60分間乾燥して、プライマー剤層を形成した。
【0095】
(b)工程
プライマー剤層の表面に対して、下記の装置及び条件により、コロナ放電処理した。放電処理がないもの、放電処理をしたもののプライマー剤層表面の接触角を測定した。
(装置)
コロナ放電処理装置(春日電機(株)のType:A4SW−FLN型)
(処理条件)
電極種類 :セラミックス電極
電極間距離:1.0mm
電圧 :40V
電流 :2.8A
周波数 :34.5kHz
出力 :0.1kw
処理速度 :2.0m/min
処理回数 :5往復
【0096】
(c)工程
プライマー剤層の表面に、表1に示すセルロース懸濁液(固形分1質量%)をコントロールコータ装置(RK Print-Coat Instruments Ltd.製,Model No.:K202)(塗布条件:コーティングバー No.9,速度5)により塗布した。このとき、セルロース懸濁液の塗布のし易さを評価した。その後、予め電気乾燥機(VACUUM DRYING OVEN、DP41、ヤマト科学(株)製)の設定温度を表2に示す温度に設定し、設定温度に昇温完了した機内にて前記セルロース懸濁液を塗布したものを30分間乾燥して(乾燥条件23℃は自然乾燥処理で24時間以上放置、以下同様)、ガスバリア性積層体を得た。
【表2】

【0097】
表2の(a)工程の基材と(c)工程の乾燥条件の見方を説明する。
例えば、比較例1では、(a)工程の基材がPET/Ny/OPPであり、(c)工程の乾燥条件が23/80/100/120℃であるが、PETは23、80、100及び120℃の各温度で乾燥し、Nyは23、80、100及び120℃の各温度で乾燥し、OPPは23、80、100及び120℃の各温度で乾燥したことを意味するものであり、基材3種類、乾燥温度4種類であるから、合計で12とおりの例を含むことを意味する。表2の比較例2、3と実施例1〜3、表3〜5も同様の意味で表示している。
【0098】
表2の(b)工程のプライマー剤層の接触角の見方の説明をする。
例えば、比較例1では、(a)工程の基材がPETのときに105°、Nyのときに106°、OPPのときに104°を意味している。表2の実施例1も同様の意味で表示している。
【0099】
実施例4〜9
表3に示す条件にて、実施例1〜3と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【表3】

【0100】
実施例10〜12、比較例4〜6
表4に示す条件にて、実施例1〜3と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【表4】

表4の実施例10の酸素透過度の見方の説明をする。
(a)工程の基材がPETで乾燥温度80℃のとき、0.03(×10-5cm3/m2・day・Pa)、Nyで乾燥温度80℃のとき、0.02(×10-5cm3/m2・day・Pa)、OPPで乾燥温度80℃のとき、0.05(×10-5cm3/m2・day・Pa)であることを意味している。
表4の比較例4と実施例10のプライマー剤層の接触角の見方は、表2と同じである。
【0101】
実験例A−1〜6、B−1〜5
表5に示す条件にて、実施例1〜3と同様にして、ガスバリア性積層体を得た。
【表5】

表5の(b)工程のプライマー剤層の接触角の見方について説明する。
例えば、実験例A−2では、プライマー剤溶液がアウローレン200Tのときに94°、アウローレン350Tのときに99°を意味している。表5の実験例A−4も同様の意味で表示している。
【0102】
表2〜5に示す基材は、次のものを用いた。
PET:PETフィルム(商品名:テトロンG2、帝人デュポンフィルム(株)製、フィルム厚み25μm)
Ny:ナイロン6フィルム(商品名:エンブレム ON、ユニチカ(株)製、フィルム厚み25μm)
OPP:OPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルム(商品名:OP M−1、東セロ(株)製、フィルム厚み20μm)、
L−LDPE:LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)フィルム(商品名:FC−D、東セロ(株)製、フィルム厚み25μm)
PLA:ポリ乳酸フィルム(商品名:パルグリーンLC−4、東セロ(株)製、フィルム厚み25μm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸から選ばれる基材に、プライマー剤溶液を塗布し、乾燥してプライマー剤層を形成する工程、
(b)プライマー剤層の表面に対して、コロナ放電処理、窒素ガスによるプラズマ処理又は紫外線照射処理する工程、
(c)平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を含み、該セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含むセルロース繊維懸濁液を塗布し、乾燥する工程、
を(a)、(b)、(c)の順で具備するガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項2】
(a)工程の基材がポリ乳酸からなるものであり、
(c)工程の塗布後の乾燥が加熱乾燥又は常温乾燥である、請求項1記載のガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項3】
前記プライマー剤溶液が、酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸・アクリル変性ポリオレフィン、及び変性ポリプロピレンから選ばれるプライマー剤溶液である、請求項1又は2記載のガスバリア性積層体の製造方法。
【請求項4】
(b)工程がコロナ放電処理をする工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア性積層体の製造方法。

【公開番号】特開2011−207042(P2011−207042A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76959(P2010−76959)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】