説明

ガスバリア用材料

【課題】特に高い水蒸気バリア性を有するフィルムが得られるガスバリア用材料、それを用いたガスバリア性成形体およびその製造方法の提供。
【解決手段】 平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維と25℃で固体の油性成分を含むガスバリア材料からなる層を有するガスバリア性成形体。前記平均繊維径が200nm以下のセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性が優れたフィルム等が得られるガスバリア用材料、それを用いたガスバリア性成形体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の水蒸気等のガスバリア材料は、主として化石資源から製造されているため、非生分解性であり、焼却処分せざるを得ない。そこで、再生産可能なバイオマスを原料として、生分解性のある酸素バリア材料を製造することが検討されている。
【特許文献1】特開2001−334600号公報
【特許文献2】特開2002−348522号公報
【特許文献3】特開2008−1728号公報
【非特許文献1】Bio MACROMOLECULES Volume7, Number6,2006年6月,Published by the American Chemical Society
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1は、ポリウロン酸を含む水溶性多糖類を原料とするガスバリア用材料に関する発明であり、高湿度雰囲気におけるガスバリア性が劣化するおそれがある。また、水蒸気バリア性に改善の余地がある。
【0004】
特許文献2は、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明である。原料となる微結晶セルロース粉末は、平均粒径が100μm以下のものが好ましいことが記載され、実施例では、平均粒径が3μmと100μmのものが使用されているだけであり、後述の繊維の微細化処理についての記載は一切なく、塗布したコーティング剤層の緻密性や膜強度、基材との密着性に改善の余地がある。
【0005】
特許文献3には微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果が示された用途については記載されていない。
【0006】
非特許文献1には、水蒸気バリア等のガスバリア性を発揮することについての開示は全くなされていない。
【0007】
本発明は、特に水蒸気バリア性が優れたフィルム等を得ることができるガスバリア用材料、それを用いたガスバリア性成形体とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
1.平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維と25℃で固体の油性成分を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるガスバリア用材料。
2.前記平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維の平均アスペクト比が10〜1,000である、請求項1記載のガスバリア用材料
3.前記25℃で固体の油性成分の融点が30℃〜150℃のものである、請求項1〜2記載のガスバリア用材料。
4. 請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料を含む、ガスバリア性成形体。
5.基材となる成形体表面に、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料を含む層を有する、ガスバリア性成形体。
6.イオン交換水のガスバリア層に対する接触角が20〜120°である、請求項4又は5記載のガスバリア性成形体。
7.基材となる成形体に対して又は成形用の硬質表面に対して、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料を含む懸濁液を供給し付着させて膜状物を形成させる工程、
その後、前記膜状物を前記25℃で固体の油性成分の融点以上の温度で加熱する工程、
を有している、ガスバリア性成形体の製造方法。
8.前記ガスバリア用材料を含む懸濁液が、前記セルロース繊維を含む懸濁液と25℃で固体の油性成分を含むエマルジョンの混合液である、請求項7記載のガスバリア性成形体の製造方法。
【0009】
本発明でいうガスバリアとは、酸素、窒素、炭酸ガス、有機性蒸気、水蒸気等の各種ガス、リモネン、メントール等の香気物質に対する遮蔽機能のことをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスバリア用材料を用いることにより、特に高いガスバリア性を有するフィルム等の成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<ガスバリア用材料>
本発明のガスバリア用材料は、特定のセルロース繊維と25℃で固体の油性成分を含んでいる。
1)セルロース繊維
本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0012】
本発明で用いるセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満であると、後述の繊維の微細化処理を行っても、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下とならず、性能の良好なガスバリア性成形体を得ることが困難となる。
【0013】
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
【0014】
本発明で用いるセルロース繊維は、平均アスペクト比が10〜1,000、好ましくは10〜500、より好ましくは100〜350のものである。平均アスペクト比は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0015】
本発明で用いるセルロース繊維は、例えば、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
【0016】
原料となる天然繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0017】
次に、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0018】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
【0019】
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
【0020】
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
【0021】
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
【0022】
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
【0023】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0024】
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。この段階では反応物繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す精製法で行うことができる。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状の酸化セルロースを得ることができる。
【0025】
その後、酸化セルロースを水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。それを超えると分散にきわめて高いエネルギーを必要とすることから好ましくない。
【0026】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものであるセルロース繊維を得ることができる。
【0027】
その後、必要に応じて固形分濃度を調整したセルロース繊維の懸濁液(目視的に無色透明又は不透明な液)又は必要に応じて乾燥処理したセルロース粉末(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状物であり、セルロース粒子を意味するものではない)を得ることができる。なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。
【0028】
このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径が200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
【0029】
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させたり、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0030】
上記の酸化処理、微細化処理によって得られたセルロース繊維は、下記の(I)、(II)、(III)の要件を満たすことができる。
(I):固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、目開き16μmのガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上である、性能の良好なセルロース繊維を得ること。
(II):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まないこと。
(III):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が、0.5%以上になること。
【0031】
要件(I):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分0.1質量%の懸濁液は、目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、該ガラスフィルター通過前の懸濁液中に含まれる全セルロース繊維量に対して質量分率5%以上が該ガラスフィルターを通過できるものである(該ガラスフィルターを通過できる微細セルロース繊維の質量分率を微細セルロース繊維含有率とする)。ガスバリア性の観点から、微細セルロース繊維含有率は、好ましくは30%以上、より好ましくは90%以上である。
【0032】
要件(II):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%の懸濁液は、原料として用いた天然繊維が微細化されており、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体は含まないものが好ましい。ここで、粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。この粒状体の有無の判定は、後述の光学顕微鏡による観察で行った。
【0033】
要件(III):前記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%のセルロース繊維懸濁液は、光透過率が0.5%以上であることが好ましく、ガスバリア性の観点から、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0034】
そして、上記の制御により、微細セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用が生まれ、例えば、酸素分子の浸透、拡散を抑制し、高い酸素バリア性等のガスバリア性を発現できるものと考えられる。また、セルロース繊維の巾や長さによって、成形後(製膜後)のセルロース繊維間の空隙密度を変化させることができるため(即ち、分子篩効果を変化させることができるため)、分子選択的バリア性も期待できるほか、光透過率も制御することができる。
【0035】
本発明で用いる25℃で固体の油性成分としては、炭化水素系、脂肪族系、シリコーン系からなるワックスを挙げることができる。例えば、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、セレシン、低分子ポリオレフィン、ミツロウ、キャンデリラワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸樹脂、シリコーンワックス等から選ばれるものを挙げることができる。形態は、粉体、溶融体、エマルジョンの状態で用いられ、好ましくはエマルジョンの状態で用いられる。
【0036】
本発明で用いる25℃で固体の油性成分は、融点が30〜150℃以下のものが好ましく、より好ましくは融点が50〜100℃のものである。
【0037】
本発明のガスバリア用材料は、上記した特定のセルロース繊維と25℃で固体の油性成分を含むものである。特定のセルロース繊維と25℃で固体の油性成分の含有割合は、前記セルロース繊維100質量部に対して疎水化剤は0.5〜50質量部が好ましく、1.0〜25質量部がより好ましく、5〜15質量部が更に好ましい。
【0038】
本発明のガスバリア用材料は、上記した特定のセルロース繊維を含む懸濁液と25℃で固体の油性成分を含むエマルジョンを混合したセルロース繊維の懸濁液にすることができるほか、前記懸濁液を乾燥して固形状にすることもできる。
【0039】
ガスバリア用材料には、本発明の課題を解決できる種類及び量の範囲内において、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤(シランカップリング剤等)、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、架橋剤(エポキシ基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する添加剤)、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。
【0040】
<ガスバリア性成形体>
本発明のガスバリア性成形体は、
(I)基材を使用しないで、ガスバリア用材料を成形して得られるもの、
(II)基材となる成形体の表面にガスバリア用材料からなる層を有するもの、
のいずれかにすることができる。
【0041】
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができ、それらの中でも、紙、板紙等の植物由来材料、生分解性プラスチック等の生分解性材料又はバイオマス由来材料にすることが好ましい。基材となる成形体は、同一又は異なる材料(例えば接着性やぬれ性向上剤)の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
【0042】
基材となるプラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、セルロース等のセロハン、三酢酸セルロース(TAC)等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
【0043】
基材となる成形体の厚みは特に制限されるものではなく、用途に応じた強度が得られるように適宜選択すればよく、例えば、1〜1000μmの範囲にすることができる。
【0044】
ガスバリア用材料からなる層(ガスバリア層)の厚みは、特に制限されるものではなく、用途に応じたガスバリア性が得られるように適宜選択すれば良く、例えば、20〜5000nmの範囲にすることができる。
【0045】
<ガスバリア性成形体の製造方法>
ガスバリア性成形体が基材となる成形体を含まないものである場合には、ガラス板等の基板上に、ガスバリア用材料を流延塗布した後、自然乾燥又は送風乾燥等の乾燥法により乾燥して膜を形成する。その後、基板から膜を剥がして、本発明のガスバリア性成形体(ガスバリア性膜)を得る。
【0046】
基材となる成形体の表面にガスバリア用材料からなる層を形成する場合は、例えば、 基材の一面又は両面に対して、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、好ましくは塗布法又は噴霧法により、ガスバリア用材料を付着させ、その後、自然乾燥、送風乾燥等の方法により乾燥することでガスバリア性成形体(基材+ガスバリア層)が得られる。
【0047】
この工程で用いるガスバリア用材料は、上記の特定のセルロース繊維を含む懸濁液と25℃で固体の油性成分を含むエマルジョンを混合したセルロース繊維の懸濁液である。この懸濁液の上記特定のセルロース繊維の濃度は0.05〜30質量%程度が好ましく、0.5〜5質量%の範囲がより好ましい。
【0048】
次の工程にて、前工程で形成したガスバリア性成形体を、前記ガスバリア用材料に含まれている25℃で固体の油性成分の融点以上の温度で加熱処理する。
【0049】
加熱温度は、25℃で固体の油性成分の融点よりも10〜150℃高い温度範囲が好ましく、より好ましくは30〜100℃である。加熱温度が低いと加熱に時間がかかりすぎ、加熱温度が高すぎると、基材やバリア層の変形(例えば収縮やカール)や変質(例えば熱分解)の問題がある。加熱時間は、25℃で固体の油性成分が融解でき、かつ基材やバリア層の変形や変質がおこらない範囲で適宜選択すれば良く、例えば、1〜120分間の範囲とすることができる。
【0050】
この加熱処理により、加熱処理をしない場合に比べて、ガスバリア性を向上させることができる。このようなガスバリア性向上の詳細なメカニズムは不明であるが、ガスバリア層に含まれている25℃で固体の油性成分が一旦軟化し、融着し合うことで固形油の連続相が形成されるためであると推測される。
【0051】
本発明のガスバリア性成形体のガスバリア層表面とイオン交換水との接触角は、セルロース繊維のカルボキシル基含有量や、25℃で固体の油性成分の種類、25℃で固体の油性成分の配合量、加熱温度、加熱時間により調整できるが、その接触角は、20〜120°であることが好ましく、より好ましくは30〜110°である。
【0052】
本発明のガスバリア性成形体は、水蒸気バリア性、酸素バリア性等が要求される各種分野の包装材料として好適である。
【実施例】
【0053】
実施例の各測定方法は以下の通りである。
【0054】
(1)セルロース繊維懸濁液の性質
(1-1)光透過率
分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)を用い、濃度1質量%の懸濁液の波長660nm、光路長1cmにおける光透過率(%)を測定した。
【0055】
(1-2)セルロース繊維懸濁液中の微細セルロース繊維の質量分率(微細セルロース繊維含有率)(%)
セルロース繊維懸濁液を0.1質量%に調製して、その固形分濃度を測定した。続いて、そのセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルター(25G P16,SHIBATA社製)で吸引ろ過した後、ろ液の固形分濃度を測定した。ろ液の固形分濃度(C1)をろ過前の懸濁液の固形分濃度(C2)で除した(C1/C2)値を微細セルロース繊維含有率(%)として算出した。
【0056】
(1-3)懸濁液の観察
固形分1質量%に希釈した懸濁液をスライドガラス上に1滴滴下し、カバーガラスをのせて観察試料とした。この観察試料の任意の5箇所を光学顕微鏡(ECLIPSE E600 POL NIKON社製)を用いて倍率400倍で観察し、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体の有無を確認した。粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。このときクロスニコル観察によって、より明瞭に確認することもできる。
【0057】
(2)セルロース繊維
(2-1)平均繊維径、及び平均アスペクト比
セルロース繊維の平均繊維径は、0.0001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さから平均繊維径を求めた。
【0058】
平均アスペクト比は、セルロース繊維を水で希釈した希薄懸濁液(0.005〜0.04質量%)の粘度から算出した。粘度の測定には、レオメーター(MCR300、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて、20℃で測定した。セルロース繊維の質量濃度とセルロース繊維懸濁液の水に対する比粘度の関係から、次式でセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、セルロース繊維の平均アスペクト比とした。
【0059】
【数1】

【0060】
(The Theory of Polymer Dynamics, M.DOI and D.F.EDWARDS, CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)を利用した(ここでは、剛直棒状分子=セルロース繊維とした)。(8.138)式とLb2×ρ0=M/NAの関係から数式1が導出される。ここで、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す。)
(2-2)カルボキシル基含有量(mmol/g)
酸化したパルプの絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。 天然セルロース繊維はセルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
【0061】
(3)ワックスエマルションの平均粒子径の測定
ワックスエマルジョンの粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−300V、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0062】
(4)ワックスの融点の測定
ワックスの融点は、示唆走査熱量計(セイコー電子工業(株)製:DSC220)を用いて、昇温速度2℃/minの条件で測定した。
【0063】
(5)ガスバリア層表面の接触角
ガスバリア性フィルムのガスバリア層表面にイオン交換水を約1μl滴下後、10秒後の接触角を界面張力測定器(協和界面科学(株)製、FAMAS)を用いて、20℃、50%RHの環境下の条件で測定した。
【0064】
(6)水蒸気透過度(g/m2・day)
JIS Z0208に基づき、カップ法を用いて、40℃、90%RHの環境下の条件で測定した。
【0065】
(7)酸素透過度(差圧法)(cm3/m2・day・Pa)
ASTM D−1434−75M法に基づいて、ガス透過測定装置(型式M-C3、(株)東洋精機製作所製)を用い、試料を24時間真空引き後、23℃の条件で測定した。
【0066】
製造例1(特定のセルロース繊維の製造)
(I)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤 天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
【0067】
(II)製造手順
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5、に保持し、温度20℃で酸化反応を行った。120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。
【0068】
次に、該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化パルプ100gとイオン交換水9900gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪ケミカル(株)製)にて、120分間攪拌することにより、繊維の微細化処理を行い、セルロース繊維の透明な懸濁液を得た。得られたセルロース繊維のカルボキシル基量は1.2mmol/g、平均繊維径は3.1nm、平均アスペクト比は240であった。得られた懸濁液の、固形分濃度は1.5質量%、光透過率は97.1%、微細セルロース含有率は90.9%であった。また、懸濁液中に粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体は含んでいなかった。
【0069】
実施例1〜5、
製造例1で得たセルロース繊維の懸濁液と、ワックスエマルション(固形分濃度1.0質量%)を混合した。ワックスエマルションとしては、商品名:セロゾール524(中京油脂製、主成分カルナバワックス、融点82.5℃、平均粒子径0.167μm)、商品名:セロゾールH620(中京油脂製、主成分パラフィンワックス、融点67.4℃、平均粒子径0.3μm)、商品名:AD1602(星光PMC製、アルキルケテンダイマー、融点61.3℃、平均粒子径0.329μm)を用いた。セルロース繊維とワックスの固形分比率が表1に示す割合になるように、セルロース繊維の懸濁液とワックスエマルジョンを混合して、ガスバリア用材料を得た。
【0070】
次に、ポリ乳酸(PLA)シート(コロナ放電処理済み品、シート厚み25μm,商品名PGパルグリーンLC−4:トーセロ(株)製)、又はポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)の片側面上に、前記ガスバリア用材料をバーコートで塗布し、23℃で6時間以上乾燥して、本発明のガスバリア性成形体を得た。
【0071】
その後、乾燥後のガスバリア性成形体を、105℃と150℃の恒温乾燥炉中(自然対流)で30分間加熱して、加熱処理した本発明のガスバリア性成形体を得た。
【0072】
比較例1は、ポリ乳酸(PLA)シート(コロナ放電処理済み品、シート厚み25μm,商品名PGパルグリーンLC−4:トーセロ(株)製)。比較例2は、比較例1のシートに製造例1のセルロース繊維懸濁液(ワックスは含まない)をバーコートで塗布した後、23℃で6時間以上乾燥したもの。比較例3は、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)。比較例4は、比較例3のシートに製造例1のセルロース繊維懸濁液(ワックスは含まない)をバーコートで塗布した後、23℃で6時間以上乾燥したものとした。
【0073】
実施例1、2、3、4と比較例1、実施例5と比較例3を比較すると明らかなように、本発明のガスバリア性成形体は水蒸気バリア性と酸素バリア性が向上した。また、実施例1、2、4と比較例2、実施例5と比較例4を比較すると、本発明のバリア性成形体は、ガスバリア層中のワックスが10質量%の場合には、ワックスの種類によらず、セルロース繊維懸濁液のみを塗布したシートと同等の酸素バリア性を維持しつつも、水蒸気バリア性が向上した。さらに、加熱処理を加えることで、酸素バリア性と水蒸気バリア性が向上した。特に、ワックスの融点より30℃以上高い温度で加熱した場合は、酸素バリア性と水蒸気バリア性が格段に向上した。実施例3と比較例2を比較すると、ガスバリア層中のワックスが30質量%の場合には、セルロース繊維懸濁液のみを塗布したシートよりも酸素バリア性は低下しているものの、加熱処理により、水蒸気バリア性が向上した。
実施例のガスバリア層表面の接触角に注目すると、接触角が30°以上の場合に、酸素バリア性と水蒸気バリア性が向上した。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維と25℃で固体の油性成分を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるガスバリア用材料。
【請求項2】
前記平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維の平均アスペクト比が10〜1,000である、請求項1記載のガスバリア用材料。
【請求項3】
前記25℃で固体の油性成分の融点が30℃〜150℃のものである、請求項1〜2記載のガスバリア用材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料を含む、ガスバリア性成形体。
【請求項5】
基材となる成形体表面に、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料を含む層を有する、ガスバリア性成形体。
【請求項6】
イオン交換水のガスバリア層に対する接触角が20〜120°である、請求項4又は5記載のガスバリア性成形体。
【請求項7】
基材となる成形体に対して又は成形用の硬質表面に対して、請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア用材料を含む懸濁液を供給し付着させて膜状物を形成させる工程、
その後、前記膜状物を前記25℃で固体の油性成分の融点以上の温度で加熱する工程、
を有している、ガスバリア性成形体の製造方法。
【請求項8】
前記ガスバリア用材料を含む懸濁液が、前記セルロース繊維を含む懸濁液と25℃で固体の油性成分を含むエマルジョンの混合液である、請求項7記載のガスバリア性成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−156068(P2010−156068A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334369(P2008−334369)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】