説明

ガスフリー装置およびガスフリー方法

【課題】タンクローリー車の槽内のガスフリー作業において、ホースの劣化を防止することができるガスフリー装置およびガスフリー方法を提供する。
【解決手段】タンクローリー車1の槽2内に滞留したガスを除去するガスフリー装置10は、吸引ポンプ11と、基端を吸引ポンプ11に接続され、先端を槽2の天井部に設けられた開口3から槽内に挿入されるホース12と、を備え、ホース12の先端からの距離が槽2の開口3から底までの距離よりも小さくなるホース12の所定箇所に、槽2の開口3の周縁部に係止されるストッパ13が取り付けられている。ホース12は、ストッパ13により槽2の内壁と非接触な状態に吊り下げられ、その状態で槽2内のガスが吸引される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン、灯油、軽油、等の石油製品を輸送するタンクローリー車において、タンクローリー車の槽内で石油製品が気化し、それにより槽内に滞留した可燃性ガスを空気で置換するためのガスフリー装置およびガスフリー方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン、灯油、軽油、等の石油製品を輸送するタンクローリー車には、これらの石油製品のいずれかが積み込まれる槽が複数設けられており、出荷基地において各槽に適宜の石油製品が積み込まれる。
【0003】
ここで、ガソリンが積み込まれた槽内は、その荷卸し後に、槽内に残留したガソリンが気化して可燃性ガスが充満しているが、ガソリンの燃焼範囲(爆発範囲)が典型的には1.4〜7.6体積%であるところ、この状態ではガス濃度が燃焼上限界を超えており、燃焼不能な状態にある。
【0004】
しかし、ガソリンが気化して可燃性ガスが充満した槽に灯油や軽油を積み込んだ場合に、可燃性ガスが灯油や軽油に吸収されて槽内のガス濃度が低下し、ガス濃度が燃焼範囲に入ってしまうことがある。よって、ガソリンが積み込まれていた槽に灯油又は軽油を積み込む場合には、槽内に滞留した可燃性ガスを空気で置換するガスフリー作業が必要となる。
【0005】
一方の出荷基地では、例えばタンクローリー車の各槽に前回の出荷時にいずれの石油製品が積み込まれたかといった情報を管理するハッチ管理システムが導入されてきている。このハッチ管理システムの導入により、ガソリンが積み込まれていた槽を把握することができる。
【0006】
ところで、石油会社間では、物流配送の効率化を目的に、出荷基地を共有しているところがある。この場合に、複数会社のタンクローリー車が1つの出荷基地で積み込みを行うことになる。ここで、上述のハッチ管理システムでは、各タンクローリー車の情報を管理するにあたってカードやハンディー端末などの種々の記録媒体が用いられているが、記録媒体は石油会社間で各社各様であり、また、そこに記録されている情報も各社各様であるため、他社のタンクローリー車の情報を認識することができない場合もある。この場合には、タンクローリー車の乗務員の申告により前回の出荷時に各槽に積み込まれた石油製品が特定される。
【0007】
しかしながら、乗務員の誤認もあり得るので、ハッチ管理システムに対応していないタンクローリー車に対しては、全槽でガスフリー作業を行い、前回の出荷時にガソリンが積み込まれた槽にガスフリー作業が行われることなく灯油や軽油が積み込まれることを未然に防止するようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
なお、従来のガスフリー方法としては、小型船舶やタンカーで適用される方法ではあるが、船内のタンクに充満したガスを空気と置換するため、ガス排出配管と空気供給配管とを設置する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−63790号公報
【非特許文献1】角田 稔、外1名、“石油製品の物流システム標準化に関する調査”、[online]、平成12年、財団法人石油産業活性化センター、[平成19年4月17日検索]、インターネット<URL : http://www.pecj.or.jp/japanese/report/report02/report-pdf/00cho2.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガス排出と空気供給の2系統の配管をタンクローリー車に設置することはコスト等の点で制約されるので、タンクローリー車におけるガスフリー方法としては、ポンプに接続された管の先端をタンクローリー車の槽内に挿入し、槽内の可燃性ガスを吸引するとともに管の先端が挿入される槽の開口から空気を取り入れて、槽内の可燃性ガスを空気で置換する方法が考えられる。
【0010】
可燃性ガスを吸引する管としては、重量や取り扱いの容易性を考慮して例えばゴム製のホースが好ましい。しかし、上述のようにタンクローリー車の全槽でガスフリー作業を行う場合に、不揮発性の灯油や軽油が積み込まれていた槽では油が気化することなく残留しており、吸引時に、例えば飛沫となって油がホースに付着する。耐油性の低い一般的なゴムからなるホースでは、油が付着することにより溶解して亀裂や破損が発生する場合がある。特に、ホースの先端が槽の底部の内壁に接触している場合に、油の付着が著しい。
【0011】
なお、この対策として、耐油耐候性のある特殊ゴムからなるホースを使用する方法やグラスウールからなるホースを使用する方法がある。しかし、耐油耐候性のある特殊ゴムからなるホースは、一般的なゴムからなるホースに比べて重く、また硬いため曲げることが困難であり、ガスフリー作業の作業性が低下する。また、グラスウールからなるホースは軽く、油の付着によって溶解することも無いが、値段が高価なことに加え、不良箇所が発生した場合に、当該箇所を切断除去した後に再度つなぎ合わせるといった方法がとれず、全体の交換となってメンテナンス性に難があった。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、タンクローリー車の槽内のガスフリー作業において、ホースの劣化を防止することができるガスフリー装置およびガスフリー方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、下記(1)〜(5)に記載のガスフリー装置およびガスフリー方法により達成される。
(1)タンクローリー車の槽内に滞留したガスを除去するガスフリー装置であって、吸引ポンプと、基端を前記吸引ポンプに接続され、先端を前記槽の天井部に設けられた開口から槽内に挿入されるホースと、を備え、前記ホースの先端からの距離が前記槽の開口から底までの距離よりも小さくなるホースの所定箇所に、前記槽の開口の周縁部に係止されるストッパが取り付けられていることを特徴とするガスフリー装置。
(2)前記ストッパが取り付けられる前記ホースの所定箇所に、L字形の金属管が装着されていることを特徴とする上記(1)に記載のガスフリー装置。
(3)基端を吸引ポンプに接続されたホースの先端をタンクローリー車の槽内に挿入し、槽内に滞留したガスを吸引して除去するガスフリー方法であって、前記槽の内壁と非接触な状態に前記ホースを支持して吸引することを特徴とするガスフリー方法。
(4)前記ホースの先端からの距離が前記槽の開口から底までの距離よりも小さくなるホースの所定箇所にストッパを設け、前記ストッパを前記槽の天井部に設けられた開口の周縁部に係止して前記ホースを吊り下げることを特徴とする上記(3)に記載のガスフリー方法。
(5)タンクローリー車の槽内に滞留したガスを除去するガスフリー装置であって、吸引ポンプと、基端を前記吸引ポンプに接続され、先端を前記槽の天井部に設けられた開口から槽内に挿入されるホースと、を備え、前記ホースの先端に、耐油性材料からなるノズルが装着されていることを特徴とするガスフリー装置。
【発明の効果】
【0014】
上記構成のガスフリー装置およびガスフリー方法によれば、ホースが槽の内壁に接触することなく支持されるので、吸引時に槽内に残留した灯油や軽油が付着することが防止される。それにより、耐油性に優れる特殊ゴムやグラスウールからなるホースを使用せずともホースの劣化を防止することができ、ホースの材質についての自由度を高めることができ、例えば上記の特殊ゴムやグラスウールに比べて耐油性には劣るが軽量で柔軟性があり、安価なホースを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明のガスフリー装置およびガスフリー方法に係る好適な実施形態を説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は本発明のガスフリー装置の第1実施形態の概略構成を示す図、図2は図1のガスフリー装置の要部を拡大して示す図である。
【0017】
図1および図2に示すように、本実施形態のガスフリー装置10は、吸引ポンプ11と、基端を吸引ポンプ11に接続され、先端をタンクローリー車1の槽2の天井部に設けられた開口3から槽2内に挿入されるホース12と、を備えている。
【0018】
槽2は、タンクローリー車1に複数設けられており、各槽2には、ガソリン、灯油、軽油、等の石油製品のいずれかが出荷基地において適宜積み込まれる。これら積み込まれた石油製品が荷卸しされた後、ガソリンが積み込まれていた槽2内は、ガソリンが気化して生じた可燃性ガスが充満している。一方、不揮発性の灯油や軽油が積み込まれていた槽2内には、油が気化することなく残留している。
【0019】
ホース12は、耐摩耗性を考慮したゴム材料で形成されており、複数の槽2の間を移動して全槽のガスフリー作業を行うのに十分な長さを有している。そして、ホース12には、先端からの距離が鉛直方向に沿って槽2の開口3から底までの距離よりも小さくなる所定箇所にストッパ13が取り付けられている。
【0020】
ストッパ13は、左右両側に伸びる一組の腕部14を有しており、この腕部14は槽2の開口3の周縁部に係止される。それにより、ホース12は、その先端が槽2の内壁に接触することなく吊り下げられる。空気の比重を1として、ガソリンが気化して生じた可燃性ガスの比重は約3〜4程度であることから、可燃性ガスは槽2の底部に溜まっていく。よって、ホース12の先端を槽2の底部の内壁に接近させることにより、可燃性ガスの吸引効率を高めることができる。ホース12の先端と槽2の底部の内壁との間の距離Lは20〜50mm程度が好ましい。
【0021】
ここで、ストッパ13が取り付けられているホース12の所定箇所には、L字形の金属管15が装着されている。この金属管15がない場合に、ストッパ13を開口3の周縁部に係止されて吊り下げられたホース12は、上述のとおり十分な長さを有していることから弛みがあり、ストッパ13の基端側で自重により折れ曲がる。かかる箇所を予め折り曲げられたL字形の金属管15で構成することにより、繰り返しの折り曲げによるホース12の劣化を回避することができる。金属管15は、開口3の周縁部との接触によっても火花が生じることがないよう、例えばアルミで形成されることが好ましい。
【0022】
上述のように構成されたガスフリー装置10によるガスフリー作業は、先端が槽2の底部の内壁に接触することなく吊り下げられたホース12で槽2内の可燃性ガスを吸引するとともに、ホース12の先端が挿入される槽2の開口3から空気を取り入れて、槽2内の可燃性ガスを空気で置換してなされる。
【0023】
本実施形態のガスフリー装置10およびガスフリー装置10を用いたガスフリー方法によれば、ホース12が槽2の内壁に接触することなく支持されるので、吸引時に槽2内に残留した灯油や軽油が付着することが防止され、それにより、ホース12の劣化が防止される。
【0024】
なお、図示したものは、ホース12を分断して、それらの間に金属管15が介挿されているが、これに限定されず、例えばホース12の外周面に取り付けるようにしてもよい。
【0025】
(第2実施形態)
【0026】
図3は本発明のガスフリー装置の第2実施形態の概略構成を示す図、図4は図3のガスフリー装置の要部を拡大して示す図である。尚、上述した第1実施形態のガスフリー装置10と共通する部分については、図中に同一符号を付すことにより説明を省略或いは簡略する。
【0027】
図3および図4に示すように、本実施形態のガスフリー装置20は、吸引ポンプ11と、基端を吸引ポンプ11に接続され、先端をタンクローリー車1の槽2の天井部に設けられた開口3から槽2内に挿入されるホース22と、を備えている。
【0028】
ホース22は、耐磨耗性を考慮したゴム材料で形成されており、複数の槽2の間を移動して全槽のガスフリー作業を行うのに十分な長さを有している。ホース22の先端には、耐油性材料からなるノズル26が装着されている。
【0029】
ノズル26は、略円筒状に成形され、その周面に多数の孔が形成されている。ノズル26は、開口3の周縁部との接触によっても火花が生じることがないよう、例えばアルミで形成されることが好ましい。
【0030】
上述のように構成されたガスフリー装置20によるガスフリー作業は、ホース22の先端に装着されたノズル26が槽2の底部の内壁に接触する程度にホース22の先端が槽2内に挿入され、ホース22で槽2内の可燃性ガスを吸引するとともに、ホース22の先端が挿入される槽2の開口3から空気を取り入れて、槽2内の可燃性ガスを空気で置換してなされる。ホース22の先端にはノズル26が装着されているので、ホース22の先端が直接に槽2の底部の内壁に接触することが防止される。
【0031】
本実施形態のガスフリー装置20およびガスフリー装置20を用いたガスフリー方法によれば、ホース22が槽2の内壁に接触することなく支持されるので、吸引時に槽2内に残留した灯油や軽油が付着することが防止され、それにより、ホース22の劣化が防止される。
【0032】
なお、図示したものは、ノズル26が略円筒状に成形されているが、これに限定されず、例えば先端に鍔状に広がる台座を設けてもよい。このように構成すれば、例えばホース22の先端が槽2内に過度に挿入された場合にも、ノズル26は倒れることなく槽2の底部の内壁上で起立し、ホース22の先端が槽2の底部の内壁に接触することを一層確実に防止することができる。
【0033】
(第3実施形態)
【0034】
図5は本発明のガスフリー装置の第3実施形態の概略構成を示す図である。尚、上述した第1実施形態のガスフリー装置10や第2実施形態のガスフリー装置20と共通する部分については、図中に同一符号を付すことにより説明を省略或いは簡略する。
【0035】
図5に示すように、本実施形態のガスフリー装置30は、吸引ポンプ11と、基端を吸引ポンプ11に接続され、先端をタンクローリー車1の槽2の天井部に設けられた開口3から槽2内に挿入されるホース32と、を備えている。
【0036】
ホース32は、耐磨耗性を考慮したゴム材料で形成されており、複数の槽2の間を移動して全槽のガスフリー作業を行うのに十分な長さを有している。ホース32の先端には、耐油性材料からなるノズル26(図4参照)が装着されている。また、ホース32には、先端に取り付けられたノズル26の突端からの距離が鉛直方向に沿って槽2の開口3から底までの距離よりも小さくなる所定箇所にストッパ13(図2参照)が取り付けられている。そして、ストッパ13が取り付けられているホース12の所定箇所には、L字形の金属管15(図2参照)が装着されている。
【0037】
上述のように構成されたガスフリー装置30によるガスフリー作業は、先端およびこの先端に装着されたノズル26が槽2の底部の内壁に接触することなく吊り下げられたホース32で槽2内の可燃性ガスを吸引するとともに、ホース32の先端が挿入される槽2の開口3から空気を取り入れて、槽2内の可燃性ガスを空気で置換してなされる。
【0038】
本実施形態のガスフリー装置30およびガスフリー装置30を用いたガスフリー方法によれば、ホース32が槽2の内壁に接触することなく支持されるので、吸引時に槽2内に残留した灯油や軽油が付着することが防止され、それにより、ホース32の劣化が防止される。
【0039】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のガスフリー装置の第1実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】図1のガスフリー装置の要部を拡大して示す図である。
【図3】本発明のガスフリー装置の第2実施形態の概略構成を示す図である。
【図4】図3のガスフリー装置の要部を拡大して示す図である。
【図5】本発明のガスフリー装置の第3実施形態の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 タンクローリー車
2 槽
3 開口
10 ガスフリー装置
11 吸引ポンプ
12 ホース
13 ストッパ
20 ガスフリー装置
22 ホース
26 ノズル
30 ガスフリー装置
32 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクローリー車の槽内に滞留したガスを除去するガスフリー装置であって、
吸引ポンプと、
基端を前記吸引ポンプに接続され、先端を前記槽の天井部に設けられた開口から槽内に挿入されるホースと、
を備え、
前記ホースの先端からの距離が前記槽の開口から底までの距離よりも小さくなるホースの所定箇所に、前記槽の開口の周縁部に係止されるストッパが取り付けられていることを特徴とするガスフリー装置。
【請求項2】
前記ストッパが取り付けられる前記ホースの所定箇所に、L字形の金属管が装着されていることを特徴とする請求項1に記載のガスフリー装置。
【請求項3】
基端を吸引ポンプに接続されたホースの先端をタンクローリー車の槽内に挿入し、槽内に滞留したガスを吸引して除去するガスフリー方法であって、
前記槽の内壁と非接触な状態に前記ホースを支持して吸引することを特徴とするガスフリー方法。
【請求項4】
前記ホースの先端からの距離が前記槽の開口から底までの距離よりも小さくなるホースの所定箇所にストッパを設け、
前記ストッパを前記槽の天井部に設けられた開口の周縁部に係止して前記ホースを吊り下げることを特徴とする請求項3に記載のガスフリー方法。
【請求項5】
タンクローリー車の槽内に滞留したガスを除去するガスフリー装置であって、
吸引ポンプと、
基端を前記吸引ポンプに接続され、先端を前記槽の天井部に設けられた開口から槽内に挿入されるホースと、
を備え
前記ホースの先端に、耐油性材料からなるノズルが装着されていることを特徴とするガスフリー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−280067(P2008−280067A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125733(P2007−125733)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】