説明

ガスメーター及び流量計測における誤差の検知方法

【課題】ガス供給路に設置されガス流量の計測機能を有するガスメーターであって、当該流量計測における誤差を正確かつ効率的に検知し、保安機能を向上させることのできるガスメーター等を提供する。
【解決手段】ガスメーターが、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、前記演算手段によって求められた平均流量を予め定められた負の閾値と比較し前記平均流量の方が小さくなる場合が、所定期間内に所定回数以上発生した場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給路に設置されガス流量の計測機能を有するガスメーター等に関し、特に、当該流量計測における誤差を正確かつ効率的に検知し、保安機能を向上させることのできるガスメーター等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各家庭などガスの使用先に供給されるガスの流量を計測する目的でガスメーターが設置される。当該ガスメーターは、各使用先へのガス供給管に設けられ、上記ガス流量計測のためのガス流量計を内蔵する。計測されたガス流量は請求するガス料金の算出に利用されるほか、ガスメーターが有する保安機能にも利用される。この保安機能は、異常な状態が発生した際にガスの供給を遮断したり警報を発したりするものであり、ガス漏れや器具の消し忘れなどの異常状態を検知するために上記ガス流量計による流量計測が用いられる。
【0003】
そして、このガス流量計には、超音波センサを用いるもの、ガスの熱伝導率を用いるものなど種々のタイプのものが存在するが、いずれのガス流量計においても様々な要因で計測誤差というものが発生し得る。
【0004】
特に、ガス流量計を長期に亘って使用することによる経年変化により、ガス流量計の計測特性が変わり、ガス流量計のゼロ点がずれてしまう場合がある。すなわち、流量がない場合にもゼロ以外の何らかの流量値を計測してしまうことになり、かかる場合には、流量がある場合の計測値もこのずれを含んだ値となるため、計測が不正確となってしまう。
【0005】
このようなゼロ点のずれを補正する技術については、下記特許文献1及び2等に開示されている。下記特許文献1では、計測した流量と圧力に基づいて上記ゼロ点のずれ(以下、オフセットと称す)を検知する技術が提案され、また、下記特許文献2では、ガス未使用状態での流量に基づいて補正することが提案されている。
【0006】
また、ガス供給管内のガス流は周囲の状況により脈動する場合があり、この脈動によってもガス流量の計測精度に影響が出る。下記特許文献3では、脈動の発生を判定し脈動に係る補正の処理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3888946号公報
【特許文献2】特開2000−111043号公報
【特許文献3】特開2001−324362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1での手法では、ゼロ点のオフセットの検出に一定の大きさの圧力変化が必要であり、ガス供給が遮断されている場合など当該圧力変化がない状態では検出ができないという課題がある。また、当該手法では、流量計測と同程度の頻度で圧力の計測が必要となり、これは一般的なガスメーターの場合と比較して高頻度の計測となり、消費電力及びマイコン負荷の増加という問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の方法では、ガス未使用状態となる期間を正確に設定する必要があり、かつ、上述した脈動が考慮されていない。従って、上記補正を行うために人が介在するなど煩雑さがあり、また、補正も不正確になる虞がある。
【0010】
また、上記特許文献3に記載の方法では、上記脈動が正弦波であることを前提としているが、実際の脈動が正弦波ではないことを考えると補正の精度に問題があると考えられる。
【0011】
一方、ガス漏れに対する保安機能においては、ガス漏れがあってもその流量を実際よりも少なく計測し、それをガス漏れと認知できなくしてしまう、マイナス側へのゼロ点のオフセットを検知することが重要である。従って、保安の観点から、ガスメーターが備えるガス流量計のマイナス側への誤差を確実かつ正確に検知できることが望まれる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ガス供給路に設置されガス流量の計測機能を有するガスメーターであって、当該流量計測における誤差を正確かつ効率的に検知し、保安機能を向上させることのできるガスメーター、等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの側面は、ガスメーターが、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、前記演算手段によって求められた平均流量を予め定められた負の閾値と比較し前記平均流量の方が小さくなる場合が、所定期間内に所定回数以上発生した場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する、ことである。
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、ガスメーターが、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、前記演算手段によって求められた平均流量で所定流量よりも小さいものの所定個の平均値を予め定められた負の閾値と比較し前記平均値の方が小さい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する、ことである。
【0015】
更に、上記の発明において、好ましい態様は、前記予め定められた負の閾値は、前記ガスメーターが行うガス漏れ検出において、その値以上の流量についてガス漏れありと判断する流量閾値から、ガス漏れとして検出されるべき最低流量を差し引いた値である、ことを特徴とする。
【0016】
更にまた、上記の発明において、好ましい態様は、前記所定流量は、前記ガスメーターの下流におけるガス使用時の最低流量以下の値である、ことを特徴とする。
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、ガスメーターが、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、所定期間内において、前記計測された瞬間流量又は前記求められた平均流量が負の値である度数が、正の値である度数よりも大きい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する、ことである。
【0018】
更に、上記の発明において、好ましい態様は、前記誤差判定手段による判定に用いられる前記平均流量は、当該平均流量を求める際に用いられた前記瞬間流量の、最大値と最小値の差又は標準偏差が、所定の値以下である、ことを特徴とする。
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める制御手段とを有するガスメーターにおける、流量計測の誤差検知方法において、前記制御手段が、前記求めた平均流量を予め定められた負の閾値と比較し前記平均流量の方が小さくなる場合が、所定期間内に所定回数以上発生した場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する、ことである。
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の更に別の側面は、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める制御手段とを有するガスメーターにおける、流量計測の誤差検知方法において、前記制御手段が、前記求めた平均流量で所定流量よりも小さいものの所定個の平均値を予め定められた負の閾値と比較し前記平均値の方が小さい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する、ことである。
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める制御手段とを有するガスメーターにおける、流量計測の誤差検知方法において、前記制御手段が、所定期間内において、前記計測された瞬間流量又は前記求めた平均流量が負の値である度数が、正の値である度数よりも大きい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する、ことである。
【0022】
本発明の更なる目的及び、特徴は、以下に説明する発明の実施の形態から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用したガスメーターの実施の形態例に係る構成図である。
【図2】制御ユニット11が行う流量計測の誤差検知処理の手順を例示したフローチャートである。
【図3】ガス漏れ検知に対するゼロ点オフセットの影響を説明するための図である。
【図4】流量がゼロの場合の計測値について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、図において、同一又は類似のものには同一の参照番号又は参照記号を付して説明する。
【0025】
図1は、本発明を適用したガスメーターの実施の形態例に係る構成図である。図1に示すガスメーター1が本実施の形態例に係るガスメーターであり、内蔵するガス流量計12によって定常的に取得されるガス流量の計測値を利用して、当該ガス流量計12のゼロ点(流量なしの場合の計測値)のマイナス側へのオフセット(ずれ)を確実に検知し、保安機能を向上させようとするものである。
【0026】
図1に示すように、ガスメーター1は、ガス供給元2から顧客宅などのガス供給先4へガスを供給するガス供給管3に設けられる。ガス供給先4には、各種ガス器具(例えば、給湯器、コンロ、ファンヒーター等)が備えられ、適宜、必要に応じてガスが使用される。
【0027】
ガスメーター1には、図1に示すように、制御ユニット11、ガス流量計12、ガス遮断弁13、表示部14、及び通信部15等が備えられる。ガスメーター1内には、ガス供給元2側のガス供給管3からのガス流をガス供給先4側のガス供給管3へ流すガス流路があり、このガス流路に、図1に示す順で、ガス遮断弁13とガス流量計12が設けられる。
【0028】
ガス遮断弁13は、制御ユニット11の指示で上記ガス流路のガス供給を遮断する弁であり、ガス漏れが検知された場合など異常状態が検出された場合などに作動する。
【0029】
ガス流量計12は、瞬間的なガス流量を検出することのできる流量計であり、例えば、流体内における超音波の伝播時間から流量を計測する超音波流量計、流体内に置かれたヒーターの上下流にそれぞれ設けられた温度センサにより流量を求める熱フローセンサ、等を用いることができる。なお、ここでは、一例として2秒毎に流量の検出を行うものとする。
【0030】
制御ユニット11は、本ガスメーター1の制御部であり、ガス流量計12での検出結果からガス流量の計測値を取得して保持し、積算ガス量の計量及び保安機能を実行する。保安機能では、随時ガス供給管3(ガス流路)のガス流量を監視し、ガス漏れやガス使用器具の消し忘れなどの異常状態を検出した場合に、ガス遮断弁13を遮断するなどの措置を実行させる。また、当該保安機能を正しく実行するために、ガス流量計12の誤差を検知する機能を有し、本ガスメーター1では、この誤差検知の処理に特徴がある。その具体的な内容については後述する。
【0031】
なお、当該制御ユニット11は、いわゆるマイクロコンピュータで実現することができ、具体的には、図示していないが、CPU、ROM、RAM等で構成される。そして、制御ユニット11が行う上記機能は、当該ROMに格納されるプログラムに従って当該CPUが動作することによって実行される。また、当該ROMには、制御ユニット11が行う各種制御処理に必要なデータが格納される。また、当該RAMには、計測された瞬間ガス流量Q、当該ガス流量から求められる所定期間(例えば、30秒)内の平均ガス流量QAVE等が保持される。さらに、当該RAMには、後述する流量計測の誤差検知(ゼロ点のオフセット検知)において用いられる計数値などが保持される。
【0032】
また、制御ユニット11は、機能的に見れば、ガス流量計12での検出結果からガス流量の計測値Qを取得するガス流量計測手段、当該計測値Qから上記平均ガス流量QAVEを求める演算手段、上記流量計測の誤差検知を行う誤差判定手段、等から構成される。
【0033】
表示部14は、制御ユニット11によって計量された積算ガス量や保安機能上必要なメッセージ等を表示してユーザに報知する部分である。また、通信部15は、遠隔に位置する監視センター等との通信を司る部分であり、当該通信部15を介して遠隔から上記ガス遮断弁13の制御を受けることなどが可能である。また、制御ユニット11によって異常が検知された場合には、当該通信部15を介して上記監視センター等にその旨を報知することができる。
【0034】
以上のような構成を有する本実施の形態例に係るガスメーター1は、上述の通り、流量計測に係る誤差検知、具体的には、ガス流量計12のゼロ点についてマイナス側のオフセットが発生していることの検出に特徴があり、以下、その具体的な内容について説明する。
【0035】
図2は、制御ユニット11が行う上記誤差検知処理の手順を例示したフローチャートである。まず、制御ユニット11の電源が投入された際に、制御ユニット11は、ガス流量値の取得及び保持を開始する(ステップS1)。具体的には、ガス流量計12で2秒毎に計測される検出結果から各瞬間流量値Qを求めて取得し、それらの値を適宜前記RAMに保持する。そして、当該保持した瞬間流量値Qから所定時間(例えば、30秒)内の平均流量値QAVEを算出し順次前記RAMに保持する。平均流量値QAVEを算出する上記所定時間が30秒である場合には、上記処理の開始後、2秒毎の15の瞬間流量値Qが順次保持され、その後、当該15の瞬間流量値Qの平均値から上記平均流量値QAVEが算出されて保持される。以降、同様の処理が繰り返し行われる。
【0036】
このように取得、保持されたガス流量値は、前述した、積算ガス量の計量及び各種保安機能に適宜用いられる。例えば、所定値以上のガス流量値が変化せずに所定時間以上継続して取得された場合には、ガス器具の消し忘れであると判断したり、少量のガス流量であり所定の閾値以上のガス流量値が継続して取得された場合にはガス漏れであると判断する、等の処理がなされる。
【0037】
次に、制御ユニット11は、ガス流量計12のゼロ点についてマイナス側のオフセットが発生しているとの判定を行うために用いるガス流量値を取得する(ステップS2)。ここで取得されるガス流量値は、前記取得、保持された瞬間流量値Q及び平均流量値QAVEから所定の条件により取捨選択されて取得される。
【0038】
その後、制御ユニット11は、当該取得したガス流量値を用いて、上記マイナス側のオフセットが発生しているか否かの判定処理を実行する(ステップS3)。この判定処理(S3)については幾つかの手法で行うことが可能であり、その判定手法に応じて上記取得されるガス流量値(S2)も異なる。各手法についての具体的な内容については後述する。
【0039】
上記判定処理により、ガス流量計12のゼロ点についてマイナス側のオフセットが発生していると判定した場合には、制御ユニット11は、当該判定の結果を出力する(ステップS4)。具体的には、ガス流量計12のゼロ点がずれており、ガス流量計12の交換または調整が必要である旨を、前述した表示部14への表示、及び又は、通信部15を介しての通信により当該ガスメーター1の管理者及び又はユーザに報知する。
【0040】
これにより、図2に基づいて説明した上記誤差検知処理が終了するが、上記報知により、当該ガスメーター1の管理者等によってガス流量計12の交換又はゼロ点の補正がなされ、当該ガスメーター1における流量計測精度が向上し、ガス漏れの非検知などが回避される。
【0041】
次に、上述した判定処理(S3)の各手法について説明する。当該手法には3つ(第1手法、第2手法、第3手法)あり、その第1手法及び第2手法については、ゼロ点のマイナス側へのオフセット(ずれの絶対値)が所定値以上であると推察できる場合に、オフセットが発生しているとの判定を行い、第3手法では、オフセット(ずれ)の大きさによらずゼロ点がマイナス側へずれていると推察できる場合に、オフセットが発生しているとの判定を行う。
【0042】
図3は、ガス漏れ検知に対するゼロ点オフセットの影響を説明するための図である。図3に示すグラフでは、横軸が経過時間Tを、縦軸がガス流量計12によって計測される瞬間流量値Qを表している。当該グラフ中にプロットされる×印は、計測された各瞬間流量値Qを示しており、図中のXで示すプロット点群は、ガス流量計12にゼロ点のオフセットが発生しておらず正しい値が計測されている場合を示している。また、図中のX1及びX2で示すプロット点群は、それぞれ、Xで示すプロット点群と同じ流量であった場合に計測される値であって、ガス流量計12のゼロ点にマイナス側のオフセットとしてOS1及びOS2が発生している場合を示している。
【0043】
また、図中の実線で示す流量3.0(l/h(リットル/時間))は、ガス漏れとして検出すべき最低流量の一例であり、また、図中の破線で示す流量1.5(l/h)は、当該ガス漏れ検出の処理においてガス漏れありと判定する閾値の一例である。すなわち、ガス漏れ判定対象となったガス流量値が当該閾値以上であればガス漏れありと判定される。
【0044】
このような場合に、上述したXで示すプロット点群のガス流量値は、それぞれ、上記ガス漏れとして検出すべき最低流量を超えているので、ガス漏れとして検出される必要がある。そして、ガス流量計12のゼロ点にマイナス側のオフセットとしてOS1が発生しているX1の場合には、図3に示すように、OS1の値がそれほど大きくなく、正確には、上記ガス漏れとして検出すべき最低流量と上記ガス漏れと判定する閾値との差DE(ここでは、3.0−1.5=1.5)より小さいので、上記ガス漏れの判定において、それぞれ、ガス漏れありと正しい判定がなされることになる。
【0045】
一方、ガス流量計12のゼロ点にマイナス側のオフセットとしてOS2が発生しているX2の場合には、OS2の値が上記最低流量と上記閾値との差DEよりも大きく、図3に示すように、各プロット点が破線の下に位置し、上記ガス漏れの判定において、それぞれ、ガス漏れありと判定されないことになってしまう。かかる状況は、検出すべきガス漏れが検出されない危険な状況であるといえる。
【0046】
従って、ガス漏れ検出という目的においては、ゼロ点のマイナス側へのオフセットが所定値よりも大きい場合を検出することに意味がある。上記第1手法及び第2手法は、この考え方に基づくものである。
【0047】
まず、第1手法は、前述した平均流量値QAVEで、その値がマイナス値であり、かつ、その絶対値が上記ガス漏れ判定に係る最低流量と閾値との差DEよりも大きいものが、所定期間内(mか月)に所定回数(n1回)発生した場合に、ゼロ点がマイナス側に所定値以上ずれていると判断する、すなわち、ガス流量計12に誤差があると判定するものである。すなわち、平均流量値QAVE<−DEとなる平均流量値QAVEがmか月の間にn1回以上検出された場合には、ガス流量計12のゼロ点を補正すべきであると判断する。例えば、平均流量値QAVE<−1.5(l/h)となる平均流量値QAVEが1か月の間に10回以上検出された場合には、ガス流量計12のゼロ点を補正すべきであると判断する。
【0048】
当該手法では、前述したステップS2の処理において、前記RAMに保持される平均流量値QAVEが毎回取得され、前述したステップS3の判定処理において、上記平均流量値QAVE<−DEの条件を満たすか否かの判断が行われる。そして、当該条件を満たす場合には、上記所定期間内(mか月)に上記条件を満たした累積回数をカウントアップし、その値が、上記所定回数(n1回)に達した時点で、ゼロ点についてマイナス側のオフセットが発生していると判定し、当該判定の結果を出力する(S4)。なお、上記所定期間内に上記所定回数に達しない場合には、上記条件を満たした累積回数を0に戻し、上記処理が再スタートする。また、上記所定回数(n1回)に達した時点で判定を行わず、上記所定期間が経過した時点で、上記累積回数が上記所定回数(n1回)以上であるかを判断して、その結果で判定するようにしても良い。
【0049】
本ガスメーター1のような構成のガスメーターにおいて、ガス漏れ等を考慮してもガス流量計12の位置でガス流量が定常的にマイナスになることはない。従って、通常はあり得ないマイナス流量が所定期間内に複数回繰り返し発生する場合には、流量計測に係る誤差が発生している、すなわち、ガス流量計12のゼロ点がマイナス側にずれていると判断することができる。従って、当該第1手法はゼロ点のオフセット検出に妥当な方法であるといえる。また、第1手法において、上記所定期間内(mか月)を長くとり、上記所定回数(n1回)をそれに見合った値とすることにより、前述した脈動など短期的な変動の影響を受けずに、より正しい判定を行うことができる。また、上記差DEに基づく条件を用いることによって、ゼロ点がマイナス側にずれていること確実に判定でき、かつ、上述した保安上危険な状況を検出することができる。
【0050】
次に、第2手法は、前述した平均流量値QAVEで所定の値(q(l/h))よりも小さいもの、の所定個(n2個、例えば、100個)の平均値が前記−DEよりも小さい場合に、ゼロ点がマイナス側に所定値以上ずれていると判断するものである。そして、上記所定の値qには、ガス使用器具の使用時における最低使用量(最低流量)(例えば、5.0(l/h))以下の値が用いられる。従って、例えば、qを上記最低流量とすると、平均流量値QAVE<5.0となる平均流量値QAVEの100個の合計を100で除した値が、−1.5より小さい場合に、ガス流量計12のゼロ点を補正すべきであると判断する。
【0051】
当該手法では、前述したステップS2の処理において、前記RAMに保持される平均流量値QAVEが毎回所定の値qと比較されて、qより小さいものについてはその値が取得される。そして、前述したステップS3の判定処理において、当該取得された平均流量値QAVEがn2個になった時点で、上記平均値を求め、その値が−DEよりも小さい場合に、ゼロ点についてマイナス側のオフセットが発生していると判定し、当該判定の結果を出力する(S4)。上記−DEとの比較において、上記平均値が−DE以上である場合には、qより小さい平均流量値QAVEの取得を1個目から再開する。
【0052】
図4は、流量がゼロの場合の計測値について説明するための図である。一般的に、どのような流量計においても計測値にゆらぎというものがあり、ゼロ点のオフセットがない流量計においても、実際の流量がゼロの場合の計測値はゼロを中心に多少正負にずれることが知られている。図4は、実際の流量がゼロの場合に計測される値の度数分布を例示しており、Y1で示す実線がゼロ点のオフセットがない場合を示している。この場合には、度数分布の山の中心は概ね0となり、正負両方向に0から離れるに従って度数が減少する。この場合、上述した、ガス使用器具の使用時における最低使用量(例えば、5.0(l/h)より小さい値の流量計測値、すなわち、流量がないと考えられる場合の流量計測値、の平均値は、概ね0となる。もしガス漏れがある場合には、本ガスメーター1の構成では、ガス流量計12でのこの平均値はプラスの値になると考えられる。
【0053】
一方、図4のY2で示す度数分布は、流量計のゼロ点がマイナス側にずれている場合の一例である。この場合にも、実際の流量がゼロの場合に計測される値の平均値は、概ね当該度数分布の山の中心の値になると考えられる。そして、その値は概ねゼロ点のオフセットの値と考えることができる。従って、図4に示す例では、マイナス側に1.5(l/h)以上のオフセットが発生していると見ることができる。
【0054】
従って、上記第2手法はゼロ点のオフセット検出に妥当な方法であるといえる。また、第2手法において、所定個(n2個)を多くとることにより、前述した脈動や温度変化によるマイナス流量の発生など短期的な変動の影響を受けずに、正しい判定を行うことができる。また、上記差DEに基づく条件を用いることによって、ゼロ点がマイナス側にずれていること確実に判定でき、かつ、上述した保安上危険な状況を検出することができる。
【0055】
次に、第3手法は、マイナスの流量計測値の度数(個数)がプラスの流量計測値の度数(個数)よりも大きい場合に、ゼロ点がマイナス側にずれていると判断するものである。ここで、流量計測値としては、前述した瞬間流量値Q又は平均流量値QAVEを用いる。また、上記度数を取る期間は1〜2か月とすることができる。
【0056】
当該手法では、前述したステップS2の処理において、前記RAMに保持される瞬間流量値Q又は平均流量値QAVEの正負を毎回判断し、その値がマイナスである場合には、マイナスの累積度数をカウントアップし、プラスである場合にはプラスの累積度数をカウントアップして、それらの累積度数を取得する。そして、前述したステップS3の判定処理においては、所定のタイミングで、例えば、上記度数の累積を開始してから1か月が経過した時点で、マイナスの累積度数とプラスの累積度数を比較し、マイナスの累積度数の方が大きい場合には、ゼロ点についてマイナス側のオフセットが発生していると判定し、当該判定の結果を出力する(S4)。なお、マイナスの累積度数の方が大きいと判断されなかった場合には、双方の累積度数を0に戻して、処理を再開する。
【0057】
前述したように、本ガスメーター1のような構成においては、ガス流量計12の位置においてマイナスの流量が発生しないこと、ガス供給先4でガス器具が使用されている場合には当然にガス流量がプラスになること、図4に基づいて説明したようにゼロ点がずれていなければガスが使用されていない場合の計測値の度数は正負で概ね同じになること、等を考慮すると、ゼロ点がマイナス側にずれていなければ、上述したプラスの累積度数がマイナスの累積度数よりも大きくなる。従って、マイナスの累積度数の方が大きくなる場合には、ゼロ点がマイナス側にずれていると判断することができ、当該第3手法はゼロ点のオフセット検出に妥当な方法であるといえる。
【0058】
また、この第3手法においても、上記度数を取る期間を長くとることにより、前述した脈動や温度変化によるマイナス流量の発生など短期的な変動の影響を受けずに、正しい判定を行うことができる。また、当該第3手法では、ゼロ点のマイナス側へのオフセットが小さい場合にもオフセットありと検出する可能性があり、特に、ガス器具の使用時間が短い環境ではそのようになる可能性が高く、その意味において、前述した第1手法及び第2手法よりもオフセットの検出という点では感度の高い方法であるといえる。
【0059】
なお、ガス器具の使用時間が長い環境においては、当該第3手法では、オフセットありと検出する感度が落ちる、あるいは、検出ができない場合があり、このような環境では、計測流量値が所定の値(例えば、5.0(l/h))以下のものについて度数を取るようにしても良い。
【0060】
以上、第1手法、第2手法、及び第3手法について説明したが、これらをそれぞれ単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。組み合わせる場合には、第1手法と第3手法の組み合わせ、第2手法と第3手法の組み合わせが望ましい。これらの組み合わせでは、まず、第3手法によってマイナス側のオフセットがあることを検出し、その上で、第1手法又は第2手法により、そのオフセットが所定値以上であるかを判断する、すなわち、そのオフセットが保安上危険であるほどに大きいか否かを判定するようにすることが望ましい。
【0061】
また、これらの各手法における判定において、前述した脈動の弊害をより抑えるために、判定に用いるガス流量値(平均流量値QAVE)について更なる限定条件を設けるようにしても良い。その限定条件(1)は、その平均流量値QAVEを求めるために用いた瞬間流量値Qの最大値と最小値の差が一定値以下であることである。限定条件(2)は、その平均流量値QAVEを求めるために用いた瞬間流量値Qの標準偏差が一定値以下であることである。また、限定条件(3)は、その平均流量値QAVEを求めるために用いた瞬間流量値Qに、ガス流量の計測が脈動モードで行われている場合の瞬間流量値Qが含まれていないことである。なお、脈動モードとは、何らかの要因により脈動が発生している可能性のあることが判明した場合に脈動を検知するためにガス流量の計測頻度を高めたモードであり、ガスメーター1にこの脈動モードが採用されている場合にこの限定条件(3)が用いられる。これらの限定条件(1)〜(3)は、それぞれ単独で適用しても良いし、いくつかを組み合わせて適用しても良い。
【0062】
また、第3手法においては、実際に流量がない場合のガス流量値のみを用いた方がゼロ点のオフセット検出がされやすくなるので、そのように感度を高めたい場合には、判定に用いるガス流量値(平均流量値QAVE)について更なる限定条件を設けるようにしても良い。その限定条件(4)は、その平均流量値QAVEを求めるために用いた瞬間流量値Qの最大値が一定値以下であることである。限定条件(5)は、その平均流量値QAVEの一つ前に求められて保持された平均流量値QAVEの値が一定値以下であることである。また、限定条件(6)は、その平均流量値QAVEの一つ前に求められて保持された平均流量値QAVE、を求めるために用いた瞬間流量値Qの最大値が一定値以下であることである。これらの限定条件(4)〜(6)は、それぞれ単独で適用しても良いし、いくつかを組み合わせて適用しても良い。また、これら限定条件(4)〜(6)は、第2手法に適用しても良い。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態例に係るガスメーター1では、定常的に取得・保持される瞬間流量値Q及び平均流量値QAVEを用いて、ガス流量計12に誤差があること、すなわち、ガス流量計12のゼロ点のオフセット、を検出することが可能であり、当該目的のために新たな計測を必要とせず、また、判定のための処理も比較的容易であるので、電力コスト、マイコン負荷の増大を抑えることができる。特に、第3手法においては、判定のための処理を簡便に行うことができる。
【0064】
また、上述した各手法による判定により、短期的な流量変動の影響を排除した正確なオフセット判定が可能である。
【0065】
また、前述したように流量がマイナスになることが概ねあり得ない環境で、マイナス側へのオフセットを検出するので、確実なオフセット検出が可能であり、また、マイナス側のオフセットを検出して、ガス流量計12の交換又は調整を促すので、ガス漏れ時の未検出を防止でき保安機能を向上させることができる。
【0066】
また、第1手法及び第2手法においては、ガス漏れ検知の観点で危険な状況となるようなオフセットの場合にガス流量計12の交換又は調整が促され、安全性及び利便性の両面で適確な対処を施すことが可能となる。
【0067】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【符号の説明】
【0068】
1 ガスメーター、 2 ガス供給元、 3 ガス供給管、 4 ガス供給先、 11制御ユニット(流量計測手段、演算手段、誤差判定手段、制御手段)、 12 ガス流量計(流量計測手段)、 13 ガス遮断弁、 14 表示部、 15 通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、
前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、
前記演算手段によって求められた平均流量を予め定められた負の閾値と比較し前記平均流量の方が小さくなる場合が、所定期間内に所定回数以上発生した場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する
ことを特徴とするガスメーター。
【請求項2】
ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、
前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、
前記演算手段によって求められた平均流量で所定流量よりも小さいものの所定個の平均値を予め定められた負の閾値と比較し前記平均値の方が小さい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する
ことを特徴とするガスメーター。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2において、
前記予め定められた負の閾値は、
前記ガスメーターが行うガス漏れ検出において、その値以上の流量についてガス漏れありと判断する流量閾値から、ガス漏れとして検出されるべき最低流量を差し引いた値である
ことを特徴とするガスメーター。
【請求項4】
請求項2において、
前記所定流量は、前記ガスメーターの下流におけるガス使用時の最低流量以下の値である
ことを特徴とするガスメーター。
【請求項5】
ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、
前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める演算手段と、
所定期間内において、前記計測された瞬間流量又は前記求められた平均流量が負の値である度数が、正の値である度数よりも大きい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する誤差判定手段とを有する
ことを特徴とするガスメーター。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかにおいて、
前記誤差判定手段による判定に用いられる前記平均流量は、当該平均流量を求める際に用いられた前記瞬間流量の、最大値と最小値の差又は標準偏差が、所定の値以下である
ことを特徴とするガスメーター。
【請求項7】
ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める制御手段とを有するガスメーターにおける、流量計測の誤差検知方法であって、
前記制御手段が、前記求めた平均流量を予め定められた負の閾値と比較し前記平均流量の方が小さくなる場合が、所定期間内に所定回数以上発生した場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する
ことを特徴とする流量計測の誤差検知方法。
【請求項8】
ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める制御手段とを有するガスメーターにおける、流量計測の誤差検知方法であって、
前記制御手段が、前記求めた平均流量で所定流量よりも小さいものの所定個の平均値を予め定められた負の閾値と比較し前記平均値の方が小さい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する
ことを特徴とする流量計測の誤差検知方法。
【請求項9】
ガス流路を通過するガスの瞬間流量を所定の時間間隔で計測する流量計測手段と、前記流量計測手段によって計測された瞬間流量を用いて所定時間の前記ガスの平均流量を求める制御手段とを有するガスメーターにおける、流量計測の誤差検知方法であって、
前記制御手段が、所定期間内において、前記計測された瞬間流量又は前記求めた平均流量が負の値である度数が、正の値である度数よりも大きい場合に、前記流量計測手段による流量計測に誤差があると判定する
ことを特徴とする流量計測の誤差検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−217080(P2010−217080A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65843(P2009−65843)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】