説明

ガスワイピング装置

【課題】
溶融金属中に金属板を浸漬通板させた後、溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、金属板を挟んで配置したノズルの対から気流を吹き付けて金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整する溶融金属めっき装置のガスワイピング装置において、騒音を抑制でき、かつ衝突噴流の乱流で目付け分布が不均一になることを抑制でき、スプラッシュ発生を抑制できるガスワイピング装置を提供する。
【解決手段】対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構と、該スリットの両端位置を金属板の両端位置に調整するスリット幅調整機構と、前記ノズルの吐出流速が一定になるようにガス流量を調整する機構とを有することを特徴とするガスワイピング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融金属中に金属板を浸漬通板させた後、溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、金属板を挟んで配置したノズルの対から気流を吹き付けて金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整する溶融金属めっき装置のガスワイピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は従来のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図を示す。溶融金属浴3中に金属板2をシンクロール4を用いて浸漬通板させた後、溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、金属板を挟んで配置したノズルの対であるノズル1から気流21を吹き付けて金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整する装置は、従来から使われていたが、板エッジで金属板表面の溶融金属の厚みが厚くなる、エッジオーバーコートが発生していた。これはガスワイピングの圧力がエッジで低下することが原因であると考えられ、従来から対応策が提案されていた。これらは大きく分類すると、板エッジに1)プレートを配置するもの、2)補助ノズル、3)吸引、という設備を配置するもの、4)ノズルのスリット間隔の幅方向可変式などがあるが、1)〜3)は設備が複雑となり、スプラッシュなどの付着に対する保守作業に費用がかかった。そこで、4)のようなノズルで完結する手法がシンプルで保守費用が少なくなると考えられる。
【0003】
図4は特許文献1〜5のエッジオーバーコート対策の最も一般的な構造の一つの正面図と矢視断面図を示す。基本的な考え方としては、ノズル長手方向にスリットの隙間dを一定ではなく、中央では狭く、両端では広くすることで、ガスワイピングの圧力がエッジで低下しないように金属板の両端で噴射される気体の噴出量が中央部より多くなるようにしていた。この効果を実現する装置として特許文献1〜5の装置が考案されている。
【0004】
図5は特許文献1のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図を示す。ノズル長手方向に複数のアクチュエータ31で荷重分布を作り、レバー33で力を伝えてノズルリップ43を弾性変形させて押し上げるとノズルが閉じることを利用し、ノズル長手方向に隙間(スリットギャップとも言う)分布を作るようになっている。
【0005】
図6は特許文献2のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図を示す。ノズル長手方向にノズル気道内のスリットギャップを調節できる、複数の遮蔽板34を設けている。
【0006】
図7は特許文献3のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図を示す。ノズル先端のガス吐出口の上下のリップ35形状が同一な3次曲線形状で長手方向にスライド可能とし、ノズル長手方向にスリットギャップの分布を作るようになっている。
【0007】
図8は特許文献4のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図を示す。可動板37を移動式のころ36で、局所的に、てこの原理で押し下げることでノズル長手方向にスリットギャップの分布を作るようになっている。
【0008】
図9は特許文献5の静圧パッドの正面図と矢視断面図を示す。GG'矢視断面図は調整ノズル板40で閉塞された部分の断面図で、HH' 矢視断面図は調整ノズル板で閉塞されていない部分の断面図である。吐出孔より広い受圧板39をもうけ、調整ノズル板40をロッド41で動かすことにより、ストリップ板幅方向に2辺の間隔を調整可能となっているが、金属板の振動を抑制するものであり、用途が異なる。
【特許文献1】特開平4-21752号公報
【特許文献2】特開平5-51716号公報
【特許文献3】特開平9-71852号公報
【特許文献4】特開平5-138078号公報
【特許文献5】特開昭56-123330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜5のエッジオーバーコート対策の最も一般的な構造の一つである、ノズル長手方向にスリットの隙間dを、中央では狭く、両端では広くする方法では、金属板の幅より外の対向する噴流が衝突し、また、衝突噴流による乱流で板面に流れの影響がおよび、板エッジでの圧力低下抑制効果が不安定なうえ、スプラッシュを発生させるなど、めっきの品質を低下させた。また構造として複雑な機構であるため、ノズル自体の機械加工が煩雑であり、また熱膨張対策などで高価になり、実現しなかった。さらに特許文献1〜5はそれぞれ次のような問題があった。
【0010】
特許文献1の方法(図5)では、構造が複雑で高価。アクチュエータが熱で壊れやすかった。
特許文献2の方法(図6)では、遮蔽板34からノズルのスリットまでの空間48に気体が回りこみ、効果がなかった。また、構造が複雑で高価となった。
【0011】
特許文献3の方法(図7)では、均一なノズル幅にならないため、目付け分布が幅方向に均一にできなかった。また、3次曲線形状の機械加工が必要で、高価となった。
【0012】
特許文献4の方法(図8)では、構造が複雑で高価となった。
特許文献5の方法(図9)では、静圧パッドにはなるが、ワイピング力が弱かった。また、ワイピングに使用すると、静圧パッド下端において、金属板に随伴する液が付着しやすくなり、メンテ費用が増大した。
【0013】
その上、特許文献1〜5は、噴流の衝突によって騒音が大きく、環境的問題が発生しかねなかった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、目付け量分布の不均一が減少し、スプラッシュ発生を抑制しつつ、エッジオーバーコートを安定に抑制できるガスワイピング装置を提供し、また、騒音も減少させることができるガスワイピング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明者はガスワイピング装置について広く研究を行った。これにより以下の知見を得た。
【0016】
対向するワイピングノズルからのガスの流れについて数値流体解析を行うと、金属板の有るところでは噴流は金属板の面に沿った流れが発生するのに対し、金属板の無いところでは対向するワイピングノズルからのガスの流れが、噴流同士の衝突で圧力の勝ち負けを時間的に変動を繰り返すことにより、上下にカルマン渦状の乱流を起こすことがわかった。このカルマン渦状の乱流が、金属板の面に沿った流れのとの間で、板エッジで不安定な速度勾配を作り、せん断力を発生させ、エッジオーバーコートを引き起こしていたことがわかった。本発明では板エッジ近傍で、対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を金属板の両端に調整することで、対向するノズルからの噴流同士が衝突しない状態を作った。それにより、噴流同士で圧力の勝ち負けを発生しないため、上下方向にカルマン渦を発生させず、金属板に沿った流れは、板エッジでも時間的に変化が激しい乱流との不安定な速度勾配を作らないので、目付け量分布の不均一が減少し、スプラッシュ発生を抑制しつつ、エッジオーバーコートを安定に抑制できることがわかった。また、騒音も減少させることができることがわかった。
【0017】
本発明は上記の知見を基になされたものであって、その要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)溶融金属中に金属板を浸漬通板させた後、該金属板を溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、該金属板を挟んで対向して配置した1対のノズルから気流を吹き付けて、該金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整する溶融金属めっき用ガスワイピング装置において、前記対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構と、該スリットの両端位置を金属板の両端位置に調整するスリット幅調整機構と、前記ノズルの吐出流速が一定になるようにガス流量を調整する機構とを有することを特徴とするガスワイピング装置。
(2)前記スリット幅調整機構が、前記ノズルのスリット開口端の位置と板エッジ位置の差の絶対値Lと金属板とノズルの距離Gが下記(A)式を満たす調整機能を有することを特徴とする(1)に記載のガスワイピング装置。
【0018】
L≦2G ・・・(A)
(3)板幅Wwの前記金属板に対向する、ノズル幅Wnの前記ノズルの、スリットギャップdかつスリット幅Wsのスリット開口の両端の外側に、さらに下記(B)式を満たすスリットギャップd1のスリットを設置したことを特徴とする(1)または(2)に記載のガスワイピング装置。
0≦d1≦0.3d ・・・(B)
(4)前記スリット幅調整機構がスリット閉塞部材として、ノズル内にスリット幅方向に摺動させるスリット閉塞棒を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
(5)前記スリット幅調整機構がスリット閉塞部材として、ノズルのスリット間にスリット幅方向に摺動させるスペーサーを有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
(6)前記スリット幅調整機構として、スリット幅方向に摺動させることで端部位置を変化させ、段差でスリット端部を形成するノズル上下のノズル構成部品を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
(7)前記スリット幅調整機構がスリット閉塞部材として、ノズルを板幅方向に傾斜させることで両端を板幅に板幅に合わせる機能を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
(8)前記ノズルのスリットの両端を前記金属板の板幅が変更した場合および、蛇行した場合に調整する機構を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を金属板の両端位置に調整することで、対向するノズルからの噴流同士が激しく衝突しない状態を作った。それにより、噴流同士の衝突で乱流を発生しないため、上下方向にカルマン渦を発生させず、金属板の面に沿った流れは、板エッジでも時間的に変化が激しい乱流との不安定な速度勾配を作らないので、目付け量分布の不均一が減少し、スプラッシュ発生を抑制しつつ、エッジオーバーコートを安定に抑制できるガスワイピング装置を提供できた。また、騒音も減少させることができるガスワイピング装置を提供できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
溶融金属中に金属板を浸漬通板させた後、溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、金属板を挟んで配置したノズルの対から気流を吹き付けて金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整する溶融金属めっき装置のガスワイピング装置において、対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を金属板の両端に調整する機構を設置したことを特徴とするガスワイピング装置について、図1、図2、図10〜図12を用いて説明する。
【0021】
図1は本発明のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図を示した図である。(a)は正面図、(b)はAA' 矢視断面図、(c)はBB' 矢視断面図である。溶融金属中3に板幅600〜1800mmの金属板2を通板速度100〜150mpmで浸漬通板させた後、溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、金属板2を挟んで配置したノズル1の対から気流21を吹き付けて金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整している。矢視AA'は金属板2の有る部分の断面図、矢視BB'は金属板の無い部分の断面図を示している。金属板の有る部分ではノズルのスリット9にスリット閉塞部材が無い状態にしてあり、金属板の無い部分ではノズルのスリット9にスリット閉塞機構42を設置している。スリット幅変更に伴い、スリット面積が変化することに対応してワイピング力を一定に保つために、吐出流速が一定になるようにガス流量を調整するようになっている。
【0022】
図2は本発明のガスワイピングノズルを示した正面図と矢視断面図である。(a)は正面図、(b)は側断面図である。スリット閉塞機構42はロッド41をアクチュエータを用いてスリット幅方向に動かし、スリット幅Wsを変更できるようになっている。スリット閉塞機構42はスリット部をノズル内部から閉塞するように配置されている。
【0023】
図10は従来の板エッジ近傍でのガス流れを示した図で、(a)は金属板に垂直な方向から見た正面図、(b)は通板側面から見た金属板が有る断面での板衝突噴流の流れ11を示すCC'矢視断面図、(c)は通板側面から見た金属板が無い断面での板外衝突噴流の流れ12を示すDD'矢視断面図、(d)は(a)の平面図である。
【0024】
対向するワイピングノズルからのガスの流れについて数値流体解析を行うと、板衝突噴流11と板外衝突噴流12は流れ状態が大きく異なっていることがわかった。金属板の有るところでは噴流は金属板の面に沿った流れが発生するのに対し、金属板の無いところでは対向するワイピングノズルからのガスの流れが、噴流同士で圧力の勝ち負けを時間的に変動を繰り返すことにより、上下にカルマン渦状の乱流を起こすことがわかった。このカルマン渦状の乱流が、金属板の面に沿った流れのとの間で、板エッジ13の衝突噴流ライン10から少し上で、板衝突噴流11と板外衝突噴流12の干渉14が発生し、不安定な速度勾配を作り、せん断力を発生させ、剥離流れ18を起こし、板上の溶融金属に外向きのせん断力19を作用させ、エッジ方向に溶融金属を移動させ、エッジオーバーコートを引き起こしていたことがわかった。
【0025】
図11は本発明での板エッジ近傍でのガス流れを示した図である。(a)は金属板に垂直な方向から見た正面図、(b)は通板側面から見た金属板が有る断面での板衝突噴流の流れ11を示すEE'矢視断面図、(c)は通板側面から見た金属板が無い断面での板外衝突噴流の流れ12を示すFF'矢視断面図、(d)は(a)の平面図である。対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を金属板の両端に調整する機構を設置することで、対向するノズルからの噴流同士が衝突せず、噴流同士で圧力の勝ち負けも発生させないため、上下にカルマン渦を発生させず、板エッジでも金属板に沿った流れは、時間的に変化が激しい乱流との不安定な速度勾配を作らないので、目付け量分布の不均一が減少し、スプラッシュ発生を抑制しつつ、エッジオーバーコートを安定に抑制できることがわかった。また、騒音も減少させることができることがわかった。
【0026】
本発明においては、板エッジより外側では衝突噴流が無いが、速度勾配が有る。渦の発生等の懸念があったので、数値流体解析を行うと、確かに速度勾配によって低圧部が発生し、不安定状態ができるものの、衝突噴流に起因するカルマン渦状の乱流と比較して、非常に影響が小さいことがわかった。さらに調べると、わずかに板外で衝突流を発生させると、速度勾配が小さくなり、不安定状態の影響がさらに小さくなり、カルマン渦も発生しないことがわかった。このときの、わずかな衝突流を発生させるには、ノズルの30%以下のスリットギャップでなければならない。
【0027】
図12は本発明でのスリット閉塞機構の位置関係を示した正面図と矢視断面図である。ノズルのスリット開口端の位置と板エッジの位置の差の許容範囲について、位置をパラメータとした数値流体解析を行った結果、ノズルのスリット開口端の位置と板エッジの位置の差の絶対値Lと金属板とノズルの距離Gが(A)式を満たせば、金属板の外の衝突噴流の乱流が影響しないことがわかった。
【0028】
L≦2G ・・・(A)
図13はノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構を示した断面図である。図13(a)は、ノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構として、ノズル内にスリット幅方向に摺動させるスリット閉塞棒を設置した図である。この方法では図6におけるノズルのスリットまでの空間48が無く、気体の回りこみを起こさず、スリットの両端位置を確実に調整することができた。また、ノズルの内側からなので、スリット閉塞棒の位置をあわせやすいという利点がある。
【0029】
図13(b)は、ノズルのスリット間にスリット幅方向に摺動させるスペーサーを設置した図である。図6におけるノズルのスリットまでの空間48が無く、気体の回りこみを起こさず、スリットの両端位置を確実に調整することができた。
【0030】
図13(C)は、スリットの外に閉塞用の蓋を設置した図である。(c)はスプラッシュが再付着する問題があり、ノズルと金属板のギャップは5〜10mm程度であり、スプラッシュの付着は通板の妨げになるため望ましくない。
【0031】
図14は、板幅変更時や、蛇行時に、ガスワイピング装置のノズルのスリットの両端を調整する機構を示した本発明の図である。閉塞棒42は相対するノズル1の両端から引き出され、位置を調整できるようになっている。実機では、板幅の変更や蛇行が発生するので、常時、金属板の両端を光学的に検出し、金属板の蛇行に追従するように、アクチュエータを用いてノズルのスリットの両端の位置を調整した。
【0032】
図15はノズルのスリットギャップの分布を示した図である。斜線がノズルのスリット形状を示している。
【0033】
図15(d)は従来の図3のスリット間隔分布、(e)は従来の図4のスリット間隔分布である。いずれも、板幅より広い領域で衝突噴流によりエッジオーバーコートを生じさせる乱流が発生した。
【0034】
図15(a)、(b)は(A)式を満たすスリット間隔分布である。スリット幅Wsが板幅Wwより広い場合が(a)、狭い場合が(b)である。図12における金属板とノズルの距離Gは5mm程度に設定している。このとき、噴流が金属板に到達した時の噴流の広がりと減衰により、板エッジで乱流を強くしないでエッジオーバーコートを発生させないための、スリット開口端の位置と板エッジの位置の差Lの許容値は(A)式から10mm以下となる。実際には、金属板の蛇行を考慮し、L=0mmに設置しておくことにより、金属板の5mm程度の蛇行に対しては、板エッジで激しい乱流を発生しないので、エッジオーバーコートを発生させないようにすることができた。また、5mmを超える蛇行については、スリット閉塞機構を移動させて対応する。
【0035】
図15(c)は(B)式を満たすスリット間隔分布である。(c)では板幅Wwの金属板に対向する、ノズル幅Wnの前記ノズルの、スリットギャップdかつスリット幅Wsのスリット開口両端の外側に、ギャップd1=0.2mmかつ長さL2=10mmのスリットを設置した。スリットギャップd=1mmであるので、(B)式を満たす位置になっている。
【0036】
0≦d1≦0.3d ・・・(B)
金属板とノズルの距離Gは5mm程度の場合、前述のようにL=0mmとしておけば、金属板の5mm程度の蛇行に対して乱流変動を抑えることができる。スリット開口の両端の外側にギャップd1かつ長さL2のスリットを取り付けると、板エッジ部での噴流の速度勾配が緩和できると考えられるが、反対に、従来のノズルのように、衝突噴流の乱流が悪影響を及ぼす懸念もある。ギャップd1の許容範囲について、ギャップd1をパラメータとした数値流体解析を行うと、(B)式を満たせば、金属板の外の衝突噴流の乱流の影響が発生しないことがわかった。d1のスリットギャップからのガス流れは、板エッジより外側の衝突噴流が無いところでの速度勾配が懸念される領域で、従来の衝突噴流による乱流を抑制しつつ、速度勾配を緩和する効果があると考えられる。
【0037】
図15(f)は本発明のスリット間隔分布であるがこの分布を簡単に実現するには図17の方法を用いる。
【0038】
図16は本発明のガスワイピング装置の正面図と矢視断面図である。(a)は(A)式を満たすために閉塞棒をスライドする構造、(b)は(B)式を満たすために閉塞棒の端部に、板部のスリットギャプより狭いスリットギャップを設けた構造となっている。
図17は本発明のガスワイピング装置の別の形態を示した正面図と矢視断面図である。ノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構として、スリット幅方向に摺動させることで端部位置を変化させ、段差でスリット端部を形成するノズル上下のノズル構成部品を設置している。(a)はスリット幅でスリットギャップが一定の場合を示す。(b)はスリット端部でスリットギャップが増加する場合を示す。スリット端部はエッジから50mm程度であるが、スリットギャップの変更はできないが、あらかじめ最適なスリットギャップ分布を決めておけば、ノズルの上下をスリット幅方向に移動させることでスリット幅を変更することが可能である。板幅が例えば600mmから1200mmに変化した場合でも、スリット端部はエッジから50mm程度であり、エッジ部分のスリットギャップ増加の効果はエッジ以外に及ばないので、板幅変更時にも安定した効果が得られる。
【0039】
図18は本発明と同じ効果を持つガスワイピング装置の正面図と矢視断面図である。ノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構として、ノズルを板幅方向に傾斜させることで両端を板幅に合わせて設置している。ノズルを左右で斜めにして両端を板幅に合わせて設置することで、同じ効果を持つことができた。つまり、1対のノズルを板面に対して鏡像関係を保ったまま、ノズルを幅方向に高低差をつけることで、スリット閉塞機構を用いなくてもスリット端を板幅に合わせることができる。また、スリット閉塞機構42と併用することで、迅速なスリット間隔の変更も可能となる。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例を、図12、図14を用いて説明する。
【0041】
図14は、板幅変更時や、蛇行時に、ガスワイピング装置のノズルのスリットの両端を調整する機構を示した本発明の図である。閉塞棒42は相対するノズル1の両端から引き出され、位置を調整できるようになっている。実施例では、板幅が600〜1800mmの間で変更し、5mm程度の蛇行が発生するので、常時、金属板の両端を光学的に検出し、金属板の蛇行に追従するように、アクチュエータを用いてノズルのスリットの両端の位置を調整した。
【0042】
図12は本発明でのスリット閉塞機構の位置関係を示した図である。ノズルのスリット開口端の位置と板エッジの位置の差の絶対値L=蛇行量5mmとした。金属板とノズルの距離Gは5mmとしているので(A)式を満たしており、金属板の外の衝突噴流の乱流が影響しない。
【0043】
L≦2G・・・(A)
以上により、対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を金属板の両端位置に調整することで、対向するノズルからの噴流同士が激しく衝突しない状態を作った。それにより、噴流同士の衝突で乱流を発生しないため、上下方向にカルマン渦を発生させず、金属板の面に沿った流れは、板エッジでも時間的に変化が激しい乱流との不安定な速度勾配を作らないので、目付け量分布の不均一が従来の半分に減少し、スプラッシュ発生を抑制しつつ、エッジオーバーコートを安定に抑制できるガスワイピング装置を提供できた。また、騒音も減少させることができるガスワイピング装置を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のガスワイピング装置を示した図である。
【図2】本発明のガスワイピング装置を示した図である。
【図3】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図4】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図5】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図6】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図7】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図8】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図9】従来のガスワイピング装置を示した図である。
【図10】従来の板エッジ近傍でのガス流れを示した図である。
【図11】本発明での板エッジ近傍でのガス流れを示した図である。
【図12】本発明でのスリット閉塞機構の位置関係を示した図である。
【図13】ノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構を示した図である。
【図14】本発明のガスワイピング装置を示した図である。
【図15】ノズルのスリットの間隔の分布を示した図である。
【図16】本発明のガスワイピング装置を示した図である。
【図17】本発明のガスワイピング装置を示した図である。
【図18】本発明と同じ効果を持つガスワイピング装置を示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ノズル
2 金属板
3 溶融金属浴
4 シンクロール
5 サポートロール
9 ノズルのスリット
10 衝突噴流ライン
11 板衝突噴流
12 板外衝突噴流
13 板エッジ
14 板衝突噴流の流れと板外衝突噴流の流れの干渉
18 剥離流れ
19 せん断力
21 ノズルからの気流
31 アクチュエータ
32 支点
33 レバー
34 遮蔽板
35 スライド式ノズルリップ
36 ころ
37 可動板
38 静圧パッド
39 受圧板
40 調整ノズル板
41 ロッド
42 スリット閉塞機構
43 ノズルリップ
44、45 スリット幅方向に摺動させることで端部位置を変化させ、段差でスリット端部を形成するノズル上下のノズル構成部品
47 摺動部
48 遮蔽板からノズルのスリット部までの空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属中に金属板を浸漬通板させた後、該金属板を溶融金属の自由表面上に連続的に引き上げ、該金属板を挟んで対向して配置した1対のノズルから気流を吹き付けて、該金属板表面の溶融金属の厚みを均一に調整する溶融金属めっき用ガスワイピング装置において、前記対向する1対のノズルの両方のノズルのスリットの両端位置を可変とするスリット閉塞機構と、該スリットの両端位置を金属板の両端位置に調整するスリット幅調整機構と、前記ノズルの吐出流速が一定になるようにガス流量を調整する機構とを有することを特徴とするガスワイピング装置。
【請求項2】
前記スリット幅調整機構が、前記ノズルのスリット開口端の位置と板エッジ位置の差の絶対値Lと金属板とノズルの距離Gが下記(A)式を満たす調整機能を有することを特徴とする請求項1に記載のガスワイピング装置。
L≦2G ・・・(A)
【請求項3】
板幅Wwの前記金属板に対向する、ノズル幅Wnの前記ノズルの、スリットギャップdかつスリット幅Wsのスリット開口の両端の外側に、さらに下記(B)式を満たすスリットギャップd1のスリットを設置したことを特徴とする請求項1または2に記載のガスワイピング装置。
0≦d1≦0.3d ・・・(B)
【請求項4】
前記スリット幅調整機構がスリット閉塞部材として、ノズル内にスリット幅方向に摺動させるスリット閉塞棒を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
【請求項5】
前記スリット幅調整機構がスリット閉塞部材として、ノズルのスリット間にスリット幅方向に摺動させるスペーサーを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
【請求項6】
前記スリット幅調整機構として、スリット幅方向に摺動させることで端部位置を変化させ、段差でスリット端部を形成するノズル上下のノズル構成部品を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
【請求項7】
前記スリット幅調整機構がスリット閉塞部材として、ノズルを板幅方向に傾斜させることで両端を板幅に板幅に合わせる機能を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。
【請求項8】
前記ノズルのスリットの両端を前記金属板の板幅が変更した場合および、蛇行した場合に調整する機構を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のガスワイピング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−284732(P2007−284732A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111669(P2006−111669)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】