説明

ガス分解装置及び発電装置

【課題】有害成分を含む大量のガスを処理することができるとともに、上記ガスを充分に加熱してから電極に作用させて分解することができるガス分解装置を提供する。
【解決手段】筒状の固体電解質層1と、この固体電解質層の外周部に積層形成された第1の電極層2と、上記固体電解質層の内周部に積層形成された第2の電極層5とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)7を用いて構成されるガス分解装置100であって、上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器51を備え、上記加熱容器内に、分解に供せられる第1のガスを上記第1の電極層に作用させるように流動させるガス流路90を設ける一方、上記筒状MEA内に第2のガスを流動させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ガス分解装置及び発電装置に関する。詳しくは、所定のガスを効率良く分解することができるガス分解装置、このガス分解装置を備える発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、アンモニアは農業や工業に不可欠の化合物であるがヒトには有害であるため、水中や大気中のアンモニアを分解する種々の方法が知られている。高濃度のアンモニアを含む水からアンモニアを分解除去するために、アンモニア水を噴霧するとともに空気流と接触させて空気中にアンモニアを分離し、次亜臭素酸溶液又は硫酸と接触させる方法が提案されている(特許文献1)。また、上記方法と同じプロセスで空気中にアンモニアを分離して触媒により燃焼させる方法(特許文献2)や、アンモニア含有排水を、触媒を用いて、窒素と水に分解する方法が提案されている(特許文献3)。さらに、半導体製造装置の廃ガスには、アンモニア、水素等が含まれることが多く、アンモニアの異臭を完全に除去するには、ppmオーダーにまで除去する必要がある。この目的のために、半導体装置の廃ガス放出の際にスクラバーを通して、薬品を含む水に有害ガスを吸収させる方法が多く用いられてきた。一方、エネルギや薬品等の投入なしに安価なランニングコストで有害ガスを分解するために、リン酸燃料電池でアンモニアを分解する、半導体製造装置等における廃ガス処理の方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−31966号公報
【特許文献2】特開平7−116650号公報
【特許文献3】特開平11−347535号公報
【特許文献4】特開2003−45472号公報
【特許文献5】特許第3238086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような中和剤等の薬液を用いる方法、特許文献2に記載されているような燃焼させる方法、特許文献3に記載されているような触媒を用いた熱分解反応による方法により、アンモニアを分解することはできる。ところが、これらの方法では、薬品や外部エネルギ(燃料)を必要とし、さらには、触媒を定期的に交換する必要があり、ランニングコストが大きくなるという問題がある。
【0005】
また、装置が大掛かりとなり、既存の設備に付加的に設ける場合には、スペースを確保するのが困難である。また、リン酸型燃料電池を、化合物半導体製造の排気中のアンモニアの除去に用いる装置についても、電解質が液体であるため、空気側とアンモニア側との仕切りをコンパクトにできず、装置の小型化が難しいという問題があった。
【0006】
上記問題を解決するため、特許文献5に記載されているように、筒状の固体電解質層と、この固体電解質層を内外から挟むようにして積層形成された第1の電極層及び第2の電極層とを備えて構成される筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を採用することができる。上記筒状MEAの内側空間を、分解されるガスを含む気体が、軸方向に流動させられる。
【0007】
上記ガスを分解するには、ガスを含む気体の温度をできるだけ高めて、上記筒状MEAの第1の電極層(燃料極)に作用させるのが好ましい。高いガス分解性能を得るために、筒状MEAを高温に、たとえば、800℃以上に保持する必要がある。このため、加熱容器内に上記筒状MEAを収容し、上記筒状MEAの全体を加熱するように構成されている。
【0008】
従来の筒状MEAでは、筒状MEAの内側に形成した第1の電極層に分解に供せられるガスを接触させるため、長尺状の筒状MEAを構成し、この内側空間に上記ガスを流動させるように構成されている。また、上記筒状MEA内を流動させるガスを効率よく上記第1の電極層に作用させるため、上記筒状MEAの内径が小さく設定されている。
【0009】
ところが、上記ガスの流量を増加させると、上記筒状MEA内で流動するガスの圧力損失が大きくなる。しかも、筒状MEAの内側電極の表面積が限られているため、大量のガスを処理するのが困難になり、ガス分解効率が低下するという問題が生じる。
【0010】
また、流量を増加させると、ガスが上記筒状MEA内で滞在する時間も減少する。このため、上記ガスを充分に加熱してから上記筒状MEAに作用させることができないという問題も生じる。
【0011】
本願発明は、大量のガスを処理することができるとともに、上記ガスを充分に加熱してから電極に作用させて分解することができるガス分解装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に記載した発明は、筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の外周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の内周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を用いて構成されるガス分解装置であって、上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器を備え、上記加熱容器内に、分解に供せられる第1のガスを上記第1の電極層に作用させるように流動させるガス流路を設ける一方、上記筒状MEA内に第2のガスを流動させるように構成したものである。
【0013】
本願発明に係るガス分解装置においては、筒状MEAが収容される加熱容器内に、分解に供せられるガスを流動させるガス流路を設けて、上記筒状MEAの外周部に形成された第1の電極層に作用させて分解する。
【0014】
上記加熱容器内の空間は、上記筒状MEA内の内側空間に比べて大きいため、大量のガスを流動させても圧力損失が大きくなることはない。特に、分解に供せられる第1のガスの量が、他のガスより多い場合、効率を高めることができる。たとえば、アンモニアガスを第1のガスとして分解する場合、第2のガスとして採用される空気より流量が多い。このため、第2のガスの流量を第1のガスの流量に比べて少なく設定することができる。
【0015】
しかも、上記加熱容器内の空間が大きいため、大量のガスを流動させても流速を小さく設定することが可能となり、加熱容器内での滞在時間を長く設定することが可能となる。このため、上記第1のガスを充分に加熱してから、上記第1の電極層に作用させて、ガス分解効率を高めることができる。
【0016】
さらに、上記第1の電極層を筒状MEAの外周部に設けることにより、上記第1のガスと接触する電極の接触面積を大きく設定することが可能となり、ガス分解効率をより高めることができる。
【0017】
上記筒状MEAの外周部に形成された第1の電極層に作用するように上記ガスを流動させることができれば、上記加熱容器内に設けられるガス流路の形態は特に限定されることはない。
【0018】
たとえば、請求項2に記載した発明のように、第1のガスを蛇行させながら上記第1の電極層に作用させるように、上記ガス流路を構成することができる。上記加熱容器内に第1のガスを蛇行させるガス流路を設けることにより、加熱容器内での流動距離及び滞在時間も長くなり、第1のガスと上記第1の電極層との接触時間が長くなるばかりでなく、第1のガスを充分に加熱してから上記第1の電極に作用させることができる。また、蛇行するガス流路を設定することにより、流動するガスを上記第1の電極に対して均一に作用させることも可能となり、ガス分解効率を高めることができる。
【0019】
上記ガス流路を構成する具体的構成は特に限定されることはない。たとえば、上記加熱容器内の対抗する壁面から交互に延出する板状部材を設けることにより、これら板状部材間に、上記第1のガスが蛇行して流動するガス流路を設けることができる。
【0020】
請求項3に記載した発明は、上記加熱容器内に複数の筒状MEAを収容するとともに、上記ガス流路を、上記複数の筒状MEAの外周部を通過するように形成したものである。
【0021】
通常、一つの加熱容器内に、複数の筒状MEAを収容してガス分解装置が構成される。従来のガス分解装置では、上記各筒状MEAの内側に分解に供せられる第1のガスをそれぞれ導入してガスを分解していた。ところが、上記筒状MEAのガス分解能力が異なるため、各筒状MEAにおいてガスの可能処理量や処理程度が異なるという問題があった。また、上記複数の筒状MEAのうち一つでも故障すると、ガス分解装置全体を停止する必要があった。
【0022】
本願発明では、加熱容器内に形成される上記ガス流路を、上記複数の筒状MEAの外周部を通過するように形成しているため、各筒状MEAの処理能力に差があっても、流動するガスを均一に処理することが可能となる。また、筒状MEAの一部が故障しても、装置全体を停止させる必要はなく、処理流量等を低下させる等の対応も可能となる。
【0023】
上述したように、ガスの分解効率を高めるには、ガスの温度をできるだけ高めるのが好ましい。一方、従来のガス分解装置では、筒状MEA内に分解に供せられるガスを流動させるため、筒状MEAを介してガスを加熱する必要があり、加熱効率が良いとはいえなかった。
【0024】
本願発明では、上記第1のガスを加熱容器内で流動させるため、第1のガスの加熱効率を高めることが可能となる。さらに、請求項4に記載した発明のように、上記ガス流路に、上記第1のガスを加熱する加熱手段を設けることができる。上記加熱手段を設けることにより、加熱容器内を流動するガスを直接加熱することが可能となり、ガス分解効率をさらに高めることができる。
【0025】
上記加熱手段の構成は特に限定されることはない。たとえば、ガス流路内に直接加熱ヒータを設けることができる。また、上記ガス流路を構成する部材に加熱ヒータを設けることもできる。さらに、上記ガス流路内に、加熱ヒータによって加熱される多孔質体を設け、この多孔質体内で上記第1のガスを流動させて加熱するように構成することもできる。
【0026】
上記筒状MEAの形態は特に限定されることはない。両端に開口端部を備え、これら開口端部に突出部をそれぞれ設けて接続部材を接続し、ガスを一方向に流動させるように構成された筒状MEAを採用することができる。
【0027】
また、請求項5に記載した発明のように、上記筒状MEAを、下端部を封止して設けられるとともに、上記加熱容器内に配置される封止部と、上記筒状MEAの内部空間に挿入されて、上記筒状MEAの内周面との間に筒状流路を形成するガス誘導パイプを備え、上端部に設けられた上記接続部材を介して上記ガス誘導パイプ内に導入された第2のガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第2の電極層に作用させ、上記接続部材を介して排出するように構成することができる。
【0028】
上記構成を採用することにより、第2のガスを出入りさせる接続部材を上端のみに設けることが可能となり、筒状MEAと上記接続部材とのシール構造も1か所に設ければ良い。したがって、配管接続の信頼性が高まる。また、部品点数や加工工程を低減させることができる。
【0029】
また、上記構成を採用することにより、筒状MEA内を流れる第2のガスは、筒状MEAの筒長さの2倍の距離を流動させられることになる。このため、上記ガス誘導パイプ内で第2のガスの温度を上昇させた後に、上記筒状MEAに作用させることができる。したがって、ガス分解装置の効率を高めることが可能となる。
【0030】
上記筒状MEAの一端部を封止する構成は特に限定されることはない。たとえば、上記筒状MEAの一端部を、上記固体電解質層を一体延出させて形成された底部によって封止することができる。上記底部は、成形及び焼結工程において筒状MEAと一体形成されるため、第2のガスが漏れ出たり、第1のガスと混ざり合うことはなく、筒状MEAの一端部を確実に封止することができる。
【0031】
また、上記筒状MEAの一端部を、封止部材を用いて封止することもできる。この構成を採用することにより、両端が開口された従来の筒状MEAに適用することが可能となる。
【0032】
上記筒状MEAにおける第2のガスの出入り口は、導入される第2のガスと排出される第2のガスとが混合しないように、二重構造を備える接続部材が設けられる。上記接続部材は、上記ガス誘導パイプに連通するガス導入部を備えるとともに、上記ガス誘導パイプの外周部を囲み、側部にガス排出部を有する環状の排気空間を備えて構成することができる。上記接続部材を採用することにより、上記筒状MEAの一方の側から、第2のガスを導入するとともに、排出することができる。
【0033】
また、上記ガス誘導パイプを第2の電極層の集電体として利用することができる。すなわち、上記ガス誘導パイプを導電性材料から形成するとともに、上記第2の電極層に導通させられて、上記第2の電極層の集電体を構成することができる。
【0034】
上記ガス誘導パイプを第2の電極層の集電体として利用することにより、ガス分解効率を高めることができるばかりでなく、筒状MEA内のスペースを有効活用することができる。
【0035】
上記ガス誘導パイプを構成する材料は特に限定されることはないが、耐熱性を有するとともに、第2のガスによって腐食等が生じない材料で形成する必要がある。たとえば、ステンレス、ニッケル、インコネル(スペシャルメタル社の登録商標)等のニッケル合金等の材料を用いて形成することができる。
【0036】
上記第2の電極層と上記ガス誘導パイプとを導通させる手法は特に限定されることはない。たとえば、導電性を有する多孔質金属体を、上記筒状MEA内周面と上記ガス誘導パイプ外周面の間に形成される筒状流路内に挿入して、上記第1の電極層と上記ガス誘導パイプとを導通させることができる。また、上記多孔質金属体を設けることにより、上記第2の電極層の内周面と上記ガス誘導パイプの外周面との間の筒状流路を確保することができるとともに、上記ガス誘導パイプを筒状MEA内で位置決め保持することができる。
【0037】
上記第1の電極層及び上記第2の電極層を構成する材料も特に限定されることはない。たとえば、請求項6に記載した発明のように、上記第1の電極層及び/又は上記第2の電極層を、ニッケル(Ni)を主成分とする金属粒子連鎖体と、イオン導電性セラミックスとを含む焼成体とすることができる。金属粒子連鎖体は、金属粒子が連なってできた数珠状の細長い金属体をいう。Ni、Fe含有Ni、もしくはNi,Fe含有Niに微量Tiを含む金属とするのがよい。Niなどは表面酸化された状態では、その金属粒子連鎖体の表面が酸化されており、中身(表層の内側の部分)は酸化されずに金属の導電性を保持している。
【0038】
このため、たとえば固体電解質層内を移動するイオンが陰イオンの場合(陽イオンの場合もある)、次のような作用効果が生じる。
(A1)金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)に含有させた場合、第1の電極層(アノード)において、固体電解質層から移動してくる陰イオンと、第1の電極層(アノード)の外部から第1の電極層(アノード)へと導かれる気体中のガス分子との化学反応を、金属粒子連鎖体の酸化層によって促進させ(触媒作用)、かつ陰イオンを参加させて第1の電極層(アノード)での化学反応を促進させる(電荷による促進作用)。そして、その化学反応の結果、生じる電子の導電性を、金属粒子連鎖体の金属部分で確保することができる。この結果、第1の電極層(アノード)における電荷の授受を伴う電気化学反応を、全体的に促進することができる。金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)に含有させた場合、第1の電極層(アノード)において、陽イオンたとえばプロトンを発生させて固体電解質層中を第2の電極層(カソード)へと陽イオンを移動させ、上記の電荷による促進作用を、同様に得ることができる。
ただし、金属粒子連鎖体の酸化層については、使用前は焼成処理によって確実に形成されているが、使用中に還元反応によって酸化層がなくなることが多い。酸化層がなくなっても、上記の触媒作用は減ずることはあってもなくなることはない。とくにFeやTiを含有させたNiは、酸化層がなくても触媒作用は高い。
【0039】
(A2)金属粒子連鎖体を第2の電極層(カソード)に含有させた場合、第2の電極層(カソード)において、第2の電極層(カソード)の外部から第2の電極層(カソード)へと導かれる気体中のガス分子の化学反応を、金属粒子連鎖体の酸化層によって促進させ(触媒作用)、かつ外部回路からの電子の導電性を向上させるとともに、当該電子を参加させて第2の電極層(カソード)での化学反応を促進させる(電荷による促進作用)。そして、当該分子から効率よく陰イオンを生じて、固体電解質層へと送り出すことができる。(A1)と同様に、(A2)の場合、固体電解質層中を移動してきた陽イオンと、外部回路を流れてきた電子と、第2の気体との電気化学反応を促進することができる。このため、上記第1の電極層(アノード)に含ませる場合と同様に、第2の電極層(カソード)における電荷の授受を伴う電気化学反応を、全体的に促進することができる。どのような場合に、金属粒子連鎖体を第2の電極層(カソード)に含ませるかは、分解対象のガスによって変わる。
(A3)金属粒子連鎖体を第1の電極層(アノード)及び第2の電極層(カソード)に含有させた場合は、上記(A1)および(A2)の効果を得ることができる。
【0040】
上記の電気化学反応は、イオンの固体電解質層を移動する速度または移動時間で律速される場合が多い。イオンの移動速度を大きくするために、上記のガス分解装置は、上記筒状MEAの全体を収容できる加熱機器たとえば加熱ヒータを備え、高温、たとえば600℃〜1000℃にするのが普通である。高温にすることで、イオン移動速度だけでなく、電極層での電荷授受をともなう化学反応も促進される。
【0041】
固体電解質層を移動するイオンが陰イオンの場合は、上述のように、第2の電極層(カソード)での化学反応によって発生し、供給される。第2の電極層(カソード)において導入された流体中の分子と電子とが反応して陰イオンが生成する。生成した陰イオンは、固体電解質層中を第1の電極層(アノード)へと移動する。第2の電極層(カソード)での反応に参加する電子は、第1の電極層(アノード)と第2の電極層(カソード)とを連絡する外部回路(蓄電器、電源、電力消費機器を含む)から入ってくる。固体電解質層を移動するイオンが陽イオンの場合は、第1の電極層(アノード)での電気化学反応によって発生して固体電解質層中を第2の電極層(カソード)へと移動する。電子は、第1の電極層(アノード)で発生して外部回路を第2の電極層(カソード)へと流れて第2の電極層(カソード)での電気化学反応に参加する。上記電気化学反応は、燃料電池としての発電反応であってもよいし、または電気分解反応であってもよい。
【0042】
請求項7に記載した発明のように、固体電解質層を、酸素イオン導電性またはプロトン導電性を有する構成とすることができる。酸素イオン導電性の固体電解質を用いた場合、たとえば第2の電極層(カソード)で電子と酸素分子とを反応させて酸素イオンを生じさせ、これを固体電解質層内で移動させて第1の電極層(アノード)にて所定の電気化学反応を起こさせることができる。この場合、酸素イオンの固体電解質層中の移動速度はプロトンと比べて大きくないので、実用レベルの分解容量を得るには、温度を十分高める、及び/又は固体電解質層の厚みを十分薄くする、などの対策が必要である。
【0043】
一方、プロトン導電性の固体電解質は、バリウムジルコネート(BaZrO)などが知られている。プロトン導電性の固体電解質を用いると、たとえば第1の電極層(アノード)でアンモニアを分解してプロトン、窒素分子および電子が生じる。このプロトンを、固体電解質層を経て第2の電極層(カソード)へと移動させ、第2の電極層(カソード)において酸素と反応して水(HO)を生じさせる。プロトンは酸素イオンと比べて小さいので固体電解質層中の移動速度は大きく、加熱温度を低くして実用レベルの分解容量を得ることができる。
【0044】
請求項8に記載した発明のように、分解対象のガスを燃料とし、上述した本願発明に係るガス分解装置を備えて発電装置を構成することもできる。
【0045】
請求項9に記載した発明は、筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の外周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の内周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を備えるガス分解装置によって行われるガス分解方法であって、加熱容器内に、上記筒状MEAを収容するとともに、分解に供せられるガスを、上記加熱容器内で蛇行させながら流動させて上記第1の電極層に作用させるものである。
【0046】
請求項10に記載した発明は、上記加熱容器内に複数の筒状MEAを収容するとともに、上記ガスを、上記複数の筒状MEAの外周部を通過させるように流動させるガス分解方法に関するものである。
【発明の効果】
【0047】
分解に供せられるガスを大量に流動させても圧力損失が大きくなることはなく、また、充分に加熱してから筒状MEAに作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本願発明に係るガス分解装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本願発明の第1の実施形態に係るガス分解装置の加熱容器内の要部の構造を示す縦断面図である。
【図3】図2におけるIII−III線に沿う要部の断面図である。
【図4】図1のガス分解装置の電気配線系統を示す図である。
【図5】図1に示すガス分解装置の上端部の縦断面図である。
【図6】本願発明の第2の実施形態に係るガス分解装置の概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本願発明の実施形態を、図に基づいて具体的に説明する。
図1は、本願発明の第1の実施形態に係るガス分解装置100の概略構成を示す縦断面図である。なお、本実施形態では、分解に供される第1のガスをアンモニア含有ガスとし、第2のガスとして空気を採用した場合のガス分解装置100について説明する。
【0050】
第1の実施形態では、筒状MEA7を備えて構成される複数のガス分解素子10を加熱容器51内に収容してガス分解装置100が構成されている。
【0051】
上記筒状MEA7には、下部を加熱容器51内に収容するとともに、上部を上記加熱容器から上方へ突出させることにより突出部41が設けられている。上記筒状MEA7の上端の開口端部には、接続部材30が設けられており、この接続部材30を介して、上記筒状MEAの内側に形成される第2ガス流路91へ第1のガス(空気)を導入するとともに排出できるように構成している。
【0052】
上記加熱容器51には、加熱ヒータ52が設けられており、この加熱ヒータ52を作動させることにより、上記筒状MEA7及び、これに作用させられる第1及び第2のガスを加熱するように構成している。上記加熱ヒータ52は、図示しない制御装置によって制御されるように構成されており、加熱容器51内を所定の温度が、たとえば、800〜1000℃に保持される。
【0053】
上記加熱容器の下部には、第1のガスを導入する導入口61が設けられるとともに、上部に分解処理された第1のガスを排出する排出口62が設けられており、第1のガスは、上記加熱容器51内を、下方から上方に向けて流動するように構成されている。上記加熱容器51の両側の側壁81,82の内面から対向する側壁の内面近傍まで、板状の仕切部材83が、上下方向に所定間隔を開けて交互に延出させられている。上記仕切部材83を設けることにより、第1のガスを蛇行させながら、上記加熱容器51内を流動させることができる第1のガス流路90が形成されている。
【0054】
図2は、上記ガス分解装置100における加熱容器51内の構造を示す要部の拡大縦断面図である。また図3は、図2におけるIII−III線に沿う断面図である。
【0055】
ガス分解素子10は、円筒状の固体電解質層1の外面を覆うように第1の電極層(アノード)2が設けられると共に、内面を覆うように第2の電極層(カソード)5が設けられた筒状MEA7(1、2、5)を備えて構成されている。第1の電極層(アノード)2は燃料極、また、第2の電極層(カソード)5は空気極と呼ばれることがある。
本実施形態では上記したように、上記筒状MEA7(1、2、5)の外側には第1のガスとしてアンモニア含有ガスが流される。一方、筒状MEA7(1、2、5)の内側には、第2のガスとして酸素含有ガスである空気が流される。
【0056】
上記加熱容器51内の空間Sは、上記筒状MEA7の内側空間に比べて大きいため、大量の第1のガスを上記第1のガス流路90で流動させても圧力損失が大きくなることはない。一方、筒状MEA7の内側空間に設けられた第2のガス流路91を流動する第2のガス(空気)と上記筒状MEA7の内周部に形成された第2の電極層5との反応性が高いため、第2のガスの流量を第1のガスの流量に比べて少なく設定することができる。
【0057】
また、上記加熱容器51内の空間Sに上記仕切部材83を設けて、第1のガスを蛇行させながら流すように構成している。このため、第1のガスの加熱容器内での流動距離及び滞在時間が長くなり、第1のガスと上記第1の電極層2との接触時間が長くなるばかりでなく、第1のガスを充分に加熱してから上記第1の電極に作用させることができる。このため、ガス分解効率を高めることができる。
【0058】
さらに、上記第1の電極層を筒状MEAの外周部に設けることにより、内周部に設けた場合と比べて、上記第1のガスと接触する電極の接触面積を大きく設定することが可能となり、ガス分解効率をより高めることができる。
【0059】
しかも、上記ガス流路90を、上記複数の筒状MEA7の外周部を通過するように形成しているため、各筒状MEA7の処理能力に差があっても、流動するガスを均一に処理することが可能となる。また、筒状MEA7の一部が故障しても、装置全体を停止させる必要はなく、流量等を低下させる等の対応も可能となる。
【0060】
本実施形態に係る上記筒状MEA7(1、2、5)は、図2に示すように、直円筒状に形成されている。筒状MEA7(1、2、5)の内径は、例えば20mm程度であるが、適用する装置に応じて寸法等を設定できる。
【0061】
図2及び図5に示すように、本実施形態のガス分解素子10では、上記筒状MEA7(1、2、5)の下端部が封止されると共に、上端部から第2のガスを誘導するガス誘導パイプ11kが挿入されている。上記ガス誘導パイプ11kは、ステンレス、銅、ニッケル、インコネル等のNiをベースとして、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等を含有させた合金、即ち600〜1000℃に対する耐熱性と、空気耐蝕性とを備えた材料で構成される。上記下端部は、上記筒状MEA7(1、2、5)の固体電解質層1及び内側に位置する第2の電極層5を延出させて、底部を設けることにより封止部44が設けられている。
【0062】
上記ガス誘導パイプ11kは、上記筒状MEA7(1、2、5)の上端部から下端部である上記封止部44側に向けて挿入されており、上記筒状MEA7の第2の電極層5の内周面と上記ガス誘導パイプ11kの外周面との間に、筒状流路43が形成されるように設定されている。この筒状流路43には、多孔質金属体11sが挿入されており、上記ガス誘導パイプ11kを中央部に保持しつつ、上記ガス誘導パイプ11kの外周面と上記第2の電極層5の内周面との間に、筒状流路43が形成される構成としている。
【0063】
本実施形態に係るガス分解素子10においては、上記ガス誘導パイプ11kの内部空間42内を上記封止部44に向けて第2のガスを導入し、上記封止部44の近傍において上記ガス誘導パイプ11k内から第2のガスを流出させると共に反転させ、更に上記筒状流路43を上記内部空間42での流れとは反対方向に向けて第2のガスを流すように構成している。すなわち、上記内部空間42と筒状流路43とで上記第2のガス流路91が構成される。
【0064】
上記構成を採用することにより、上記筒状MEA7の内側の空間において、筒状MEA7の筒長さの約2倍の距離を第2のガス流路とすることができる。このため、上記ガス誘導パイプ11k内で充分に加熱され、温度が上昇された状態で、上記筒状MEA7に作用させることができる。従って、ガスの分解効率を高めることが可能となり、ガスの処理量を増加させることも可能となる。
【0065】
また、上記ガス誘導パイプ11kは、ステンレス等の導電性の金属で形成されており、カソード側集電体11の構成要素として機能するように構成されている。一方、第1の電極層(アノード)2の外面に巻き付くようにアノード側集電体12が配置されている。
【0066】
上記カソード側集電体11は、銀ペースト塗布層11gとNiメッシュシート11aと多孔質金属体11sと上記ガス誘導パイプ11kとを備えて構成されている。上記Niメッシュシート11aは、銀ペースト塗布層11gを介して、筒状MEA7の内面側の第2の電極層(カソード)5に接触して、多孔質金属体11sからガス誘導パイプ11kへと導電するように構成されている。また、上記Niメッシュシート11aの先端部Wは、上記封止部44の近傍において、上記ガス誘導パイプ11kの外周部にバンド状の接合部材Wを介して巻き付けるように導電接続されている。このため、Niメッシュシート11aは、並列的に、(1)Niメッシュシート11a/多孔質金属体11s/ガス誘導パイプ11k、という導電路と、(2)Niメッシュシート11a/ガス誘導パイプ11k、という導電路とを形成している。この結果、筒状MEA7の内面に位置して、低い電気抵抗を維持しながら、圧力損失の増大を防止することが可能となる。
【0067】
多孔質金属体11sは、第2のガスの圧力損失を低減させるために、気孔率を高くできる金属メッキ体、例えばセルメット(登録商標:住友電気工業株式会社)を用いるのが好ましい。第2の電極層(カソード)5とカソード側集電体11との間の電気抵抗を低減させるために、上記銀ペースト塗布層11gとNiメッシュシート11aとが配置されている。
【0068】
上記アノード側集電体12は、銀ペースト塗布配線12gとNiメッシュシート12aとを備えて構成されている。本実施形態では、Niメッシュシート12aが、筒状MEA7の外面に接触して、図5に示す外部配線12eへと導電している。
【0069】
上記加熱容器51の外周部には、上記加熱ヒータ52が配置されている。本実施形態では、上記空間Sには予備加熱用配管53が上記加熱容器51を貫通して配置されている。
【0070】
上記加熱ヒータ52はガス分解素子10及び流動する第1のガス及び第2のガスを加熱するためのものであり、この加熱ヒータ52によって筒状MEA7が第1のガスの分解に適した温度に加熱される。上記予備加熱用配管53は、上記第2のガスを予熱するための配管である。第2のガスを上記筒状MEA7内に導入する前に予備加熱用配管53に通すことで、第2のガスを予熱し、温度の低い第2のガスがいきなり筒状MEA7に導入されることにより反応不足となるのを解消する。これによってガス分解素子10の分解性能の向上とコンパクト化を図ることが可能となる。具体的には、予備加熱用配管53の下方から、第2のガスとしての空気を吸入し、下流側は図5に示すガス導入管45と接続される構成としている。
【0071】
予備加熱用配管53としては、耐熱性の管、例えばNi管、インコネル管、その他の金属製やセラミックス製の耐熱及び耐腐食性を有する管を用いることができる。なお、筒状MEA7及び予備加熱用配管53は、図3には、各ガス分解素子10に対し1本ずつ設けているが、一つの予備加熱配管から複数のガス分解素子10にガスを供給するように構成してもよい。上記筒状MEA7を加熱する加熱ヒータ52によって上記予備加熱用配管53が加熱され、この予備加熱用配管内を流動する上記第2のガスが良好に予備加熱される。
【0072】
上記加熱容器51は耐熱材料で構成されることになるが、耐火物材料で厚肉に構成し、加熱ヒータ52を埋設したものとしてもよい。また、厚肉とした耐火物材料からなる加熱容器51の肉厚内に予備加熱用配管53を埋設、貫通させた構成とすることもできる。
【0073】
図4は、固体電解質層1が酸素イオン導電性である場合における、各ガス分解素子10の電気配線系統を示す図である。アンモニアを含む第1のガスは、図示しない第1のガス源から上記加熱容器51内に設けた第1のガス流路に導入される。上記筒状MEA7は、加熱ヒータ52によってその全体が800℃程度に加熱されており、上記第1のガスは、上記加熱容器51内を流動する間に昇温させられる。この間、上記第1のガス中のアンモニアが、加熱によって2NH→N+3Hのように分解される。また、第1の電極層(アノード)2と接触して、下記のアンモニア分解反応が生じる。
【0074】
酸素イオンO2−は、第2の電極層(カソード)5での酸素ガス分解反応によって生じ、固体電解質層1を通って第1の電極層(アノード)2に到達したものである。即ち、陰イオンである酸素イオンが固体電解質層1を移動する場合の電気化学反応である。
【0075】
第1の電極層(アノード)2では、以下の反応が生じている。
(アノード反応):2NH+3O2−→N+3HO+6e
より詳しくは、一部のアンモニアが、2NH→N+3Hの反応を生じ、この3Hが酸素イオン3O2−と反応して3HOを生成する。
第2の電極層(カソード)5には空気、特に酸素ガスが導入され、第2の電極層(カソード)5において酸素分子から分解した酸素イオンを第1の電極層(アノード)2に向かって固体電解質層1へと送り出す。
【0076】
第2の電極層(カソード)5では、以下の反応が生じている。
(カソード反応):O+4e→2O2−
上記の電気化学反応の結果、電力が発生し、第1の電極層(アノード)2と第2の電極層(カソード)5との間に電位差を生じ、カソード側集電体11からアノード側集電体12へと電流Iが流れる。カソード側集電体11とアノード側集電体12との間に負荷、例えばこのガス分解素子10を加熱するための加熱ヒータ52に接続しておけば、そのための電力の一部を供給することができる。
【0077】
上記は、陰イオンである酸素イオンが固体電解質層1を移動する電気化学反応であるが、固体電解質層1に、例えばバリウムジルコネート(BaZrO)を用いてプロトンを第1の電極層(アノード)2で発生させて固体電解質層1中を第2の電極層(カソード)5へと移動させる反応も、本発明の望ましい一つの形態である。
【0078】
プロトン導電性の固体電解質層1を用いると、例えば第1のガス中のアンモニアを分解する場合、第1の電極層(アノード)2でアンモニアを分解してプロトン、窒素分子及び電子が生じる。このプロトンを、固体電解質層1を経て第2の電極層(カソード)5へと移動させ、第2の電極層(カソード)5において酸素と反応させて水(HO)を生じさせる。プロトンは酸素イオンと比べて小さいので、固体電解質層1中の移動速度は大きい。このため、加熱温度を低くしながら実用レベルの分解容量を得ることができる。固体電解質層1の厚みも、強度を確保できる厚みにすることができる。
【0079】
図5は、上記ガス分解装置100の上部の構造を示す縦断面図であり、上記ガス誘導パイプ11kと外部配線11eとの接続形態、筒状MEA7とガス導入管45及び排気管65との接続形態を示している。
【0080】
本実施形態では、上記加熱容器51に、軸を鉛直方向に配向した状態で上記筒状MEA7の下部を収容するとともに、上記筒状MEA7の上端部を上記加熱容器51の上方に突出させて突出部41を設け、この突出部41の上端の開口端部に、第2のガスを出入りさせる接続部材30を設けている。
【0081】
上記接続部材30は、本体部31から固体電解質層1へと延びる締結部31bの内面側に収納されたOリング33が、焼成体であるセラミックスの固体電解質層1の外面に当接された状態で接続される。接続部材30の締結部31bは、外径がテーパ状に形成されており、そこにねじが切られ、そのねじに環状ねじ32が螺合される。環状ねじ32の外径が大きくなる方向へと螺合することで、締結部31bは、外面から締め付けられ、Oリング33による気密性を確保することができる。
【0082】
上記突出部41を設けることにより、上記加熱容器51から伝導される熱の一部を放熱させ、上記Oリング33及び上記接続部材30に伝導される熱を低減させることができる。このため、上記シール構造や上記接続部材30に上記筒状MEAを介して高い温度が作用するのを防止することができる。
【0083】
上記接続部材30の内側には、上記ガス誘導パイプ11kの基端部11dが気密性をもって嵌合できる嵌合部36が形成されている。これによって、ガス誘導パイプ11kと接続部材30とが連結され、第1のガスの通路が形成される。
【0084】
接続部材30には、上記第2のガスのガス導入管45との接続を行うためのガス導入部31aが設けられている。ガス導入管45の端部を、上記接続部材30のガス導入部31aの外周に嵌め合わせ、締結具47で締結することで、気密性のよい接続を得ることができる。第2のガスはガス導入管45からガス導入部31aを経てガス誘導パイプ11k内に流れ込む。ガス誘導パイプ11k内に流れ込んだ第1のガスは、内部空間42を通って上記筒状MEA7の封止部44の近傍まで流動させられる。
【0085】
また、接続部材30には、排気管65との接続を行うためのガス排出部31cが設けられている。ガス排気管65の端部を、上記接続部材30のガス排出部31cの外周に嵌め合わせ、締結具67によって締結することで、気密性のよい接続を得ることができる。筒状MEA7を経た第2のガスは、接続部材30内の排気空間35、ガス排出部31cを通って排気管65に排出される。
【0086】
上記接続部材30を採用することにより、上記筒状MEA7の同じ片側の位置から第2のガスを出入りさせることが可能となる。
【0087】
上記接続部材30の本体部31には、気密性を保ってその本体部31を貫通する導電貫通部37cが設けられ、気密性を保つために封止樹脂38等が塗られている。この導電貫通部37cは、円柱棒で、外部配線11eと確実な導電接続を行うためにナット39を螺合させるねじを切っておくのがよい。導電貫通部37cの管内先端には導電線37bが接合されており、この導電線37bの他端部37aが上記ガス誘導パイプ11kの外周部に、環状の締め付け具34を介して接合されている。上記構成を採用することにより、上記ガス誘導パイプ11kと外部配線11eの接続抵抗を低減させることができる。一方、アノード側集電体12のNiメッシュシート12aの端部の外周に、外部配線12eを周回させることで、外部への引き出しを行うことができる。
【0088】
本実施形態では、上記第2の電極層(カソード)5の内周部に多孔質導電層として、銀ペースト塗布層11gが設けられると共に、Niメッシュシート11aが上記多孔質導電層である銀ペースト塗布層11gを介して上記第2の電極層5に接続されている。また、上記第1の電極層(アノード)2の外周部にも、銀ペースト塗布配線12gが設けられている。
【0089】
塗布して乾燥(焼成)させた後に多孔質になる銀ペーストは市販されており、例えば京都エレックス株式会社製のDD−1240などを用いることができる。銀ペースト塗布配線12gを多孔質にすることにより、多くのアンモニア分子NHが、多孔質の気孔中に入って、上記第1の電極層(アノード)2中の触媒に触れてアノード反応が生じやすくなる。上記銀ペースト塗布配線12gの気孔率を、20〜80%に設定するのが好ましい。気孔率が20パーセント以下である場合、ガスを導電性ペースト塗布層内へ導くのが困難になり、効率を高めることができない。一方、気孔率が80%以上になると、充分な導電性を確保するのが困難であると共に、塗布層の強度を確保できない。更に、気孔率を40〜60%に設定するのがより好ましい。
【0090】
上記固体電解質層1を構成する粉体材料として、固体酸化物、溶融炭酸塩、リン酸、固体高分子などを用いることができる。固体酸化物は小型化でき、取り扱いが容易なので好ましい。固体酸化物としては、酸素イオン導電性の、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いるのがよい。また、プロトン導電性のバリウムジルコネートを用いることもできる。上記各粉体材料は、大気雰囲気で、1000℃〜1600℃に、30分〜180分間程度保持することにより焼成することができる。
【0091】
第1の電極層(アノード)2は、表面酸化されて酸化層を有する金属粒子連鎖体と、酸素イオン導電性のセラミックスとを主成分とする焼成体として形成できる。酸素イオン導電性のセラミックスとしては、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いることができる。
【0092】
上記SSZを採用する場合、平均径は0.5μm〜50μm程度のものを用いるのがよい。焼成工程は、大気雰囲気で、1000℃〜1600℃に、30分〜180分間程度保持することにより行うことができる。また、SSZの原料粉末の平均径は0.5μm〜50μm程度とするのが好ましい。表面酸化された金属粒子連鎖体と、SSZとの配合比は、mol比で0.1〜10の範囲とする。
【0093】
上記金属粒子連鎖体の金属は、ニッケル(Ni)、または、Niに鉄(Fe)を含むものを採用するのが好ましい。更に好ましくは、チタン(Ti)を2〜10000ppm程度の微量含むものである。
【0094】
金属粒子連鎖体は、還元析出法によって製造するのがよい。この金属粒子連鎖体の還元析出法については、特開2004−332047号公報などに詳述されている。第1の電極層(アノード)2に含まれる金属粒子連鎖体の平均直径Dは5nm以上、500nm以下の範囲とするのがよい。また、平均長さLは0.5μm以上、1000μm以下の範囲とするのがよい。また、上記平均長さLと平均径Dとの比は3以上とするのがよい。ただし、これら範囲外の寸法を持つものであってもよい。
【0095】
第2の電極層(カソード)5は、酸素イオン導電性のセラミックスを主成分とする焼成体から形成される。この場合の酸素イオン導電性のセラミックスとして、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)などを用いることができる。これら粉体材料も、上記と同様の条件で焼成することができる。
【0096】
図6に、本願発明の第2の実施形態を示す。第2の実施形態では、第1のガス流路290を構成する仕切部材283に、加熱ヒータ252aを設け、上記第1のガス流路を流れる第1のガスを加熱するように構成したものである。なお、筒状MEA207の構成及び加熱容器251の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0097】
第1のガス流路290を構成する仕切部材280に上記加熱ヒータ252aを設けることにより、蛇行して流れる上記第1のガスを上記第1のガス流路290内で効率よく加熱することが可能となる。また、第1のガスを最適な温度に加熱して上記第1の電極層に作用させて分解することができる。このため、ガス分解効率が大幅に高まる。
【0098】
しかも、上記第1のガス流路290を構成する複数の仕切部材283の間には、金属多孔質体(上述したセルメット)293が充填されている。このため、上記仕切部材283で発生した熱を、上記金属多孔質体293を介して上記第1のガスに効率よく伝達して加熱することができる。さらに、上記各筒状MEAの近傍において、上記第1のガスを集中的に加熱することができるため、熱効率も高い。
【0099】
上述した実施形態は、本願発明を、ガス除害を目的としたガス分解装置に適用したが、ガス除害を主目的としないガス分解装置や、電気化学反応装置の筒状MEAに適用できる。例えば、燃料電池等の発電装置を構成する筒状MEAにも用いることができる。
【0100】
上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に、特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0101】
ガス分解能力を大幅に高めて、大量のガスを分解処理することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 固体電解質層
2 第1の電極層(アノード)
5 第2の電極層(カソード)
7 筒状MEA
10 ガス分解素子
11 カソード側集電体
12 アノード側集電体
30 接続部材
41 突出部
42 内部空間
43 筒状流路
44 封止部
45 ガス導入管
51 加熱容器
52 加熱ヒータ
53 予備加熱用配管
65 排気管
90 第1のガス流路
91 第2のガス流路
100 ガス分解装置
S 加熱容器内の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の外周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の内周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を用いて構成されるガス分解装置であって、
上記筒状MEAを収容して加熱する加熱容器を備え、
上記加熱容器内に、分解に供せられる第1のガスを上記第1の電極層に作用させるように流動させるガス流路を設ける一方、
上記筒状MEA内に第2のガスを流動させるように構成した、ガス分解装置。
【請求項2】
上記ガス流路は、第1のガスを、蛇行させながら上記第1の電極層に作用させるように構成されている、請求項1に記載のガス分解装置。
【請求項3】
上記加熱容器内に複数の筒状MEAを収容するとともに、
上記ガス流路は、上記第1のガスが上記複数の筒状MEAの外周部を通過するように形成されている、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のガス分解装置。
【請求項4】
上記ガス流路に、上記第1のガスを加熱する加熱手段を設けた、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項5】
上記筒状MEAは、
下端部を封止して設けられるとともに、上記加熱容器内に配置される封止部と、
上記筒状MEAの内部空間に挿入されて、上記筒状MEAの内周面との間に筒状流路を形成するガス誘導パイプとを備え、
上端部に設けられた上記接続部材を介して上記ガス誘導パイプ内に導入された第2のガスを、上記封止部に向けて流動させるとともに、上記封止部近傍において上記誘導パイプ内から流出させることにより反転流動させ、上記筒状流路を上記ガス誘導パイプ内の流れと反対方向に向けて流動させながら第2の電極層に作用させ、上記接続部材を介して排出するように構成された、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項6】
上記第1の電極層及び/又は上記第2の電極層が、ニッケル(Ni)を主成分とする金属粒子連鎖体と、イオン導電性セラミックとを含む焼成体であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項7】
上記固体電解質層が、酸素イオン導電性又はプロトン導電性を有することを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガス分解装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載したガス分解装置を備える、発電装置。
【請求項9】
筒状の固体電解質層と、この固体電解質層の外周部に積層形成された第1の電極層と、上記固体電解質層の内周部に積層形成された第2の電極層とを有する筒状MEA(Membrane Electrode Assembly)を備えるガス分解装置によって行われるガス分解方法であって、
加熱容器内に、上記筒状MEAを収容するとともに、
分解に供せられるガスを、上記加熱容器内で蛇行させながら流動させて上記第1の電極層に作用させる、ガス分解方法。
【請求項10】
上記加熱容器内に複数の筒状MEAを収容するとともに、
上記ガスを、上記複数の筒状MEAの外周部を通過させるように流動させる、請求項9に記載のガス分解方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−157847(P2012−157847A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21374(P2011−21374)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】