説明

ガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置

【課題】 必要とされる膜の面積が少ない条件であっても、効率的かつ汎用的な手法で、所望の透過ガスの純度や回収率を有し所望の流量の複数の製品ガスを確保することが可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供すること。
【解決手段】 原料ガスの一部を第1バイパスガスとして第1残留ガスに添加するとともに、第1バイパスガスの流量を制御することによって、所望の純度の第1透過ガスあるいは第2透過ガスを作製し、易透過性ガスについて所望の回収率を確保することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置に関し、具体的には、選択的透過性を有するガス分離膜を用い、複数の成分ガスを含むガス混合物から特定のガス成分を分離回収するガス製造方法およびガス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場あるいは各種の化学プロセス工場などにおいては、各工程における原料ガスあるいは処理ガスとして所定量の純度の高いガスが必要とされ、入手容易で低コストの原料からこうしたガスを分離して連続的に使用することが多く行われる。具体的には、例えば、空気から富化酸素ガスと富化窒素ガスのいずれかあるいは両方を得る場合、ナフサ分解ガスから水素(H)を分離濃縮する場合、有機物蒸気を含むガス混合物から有機物蒸気を分離回収する場合、水性ガスからHを分離する場合などが該当する。かかる工程においては、装置が小型で簡便であることから、選択的透過性を有するガス分離膜に透過性の異なるガス混合物を原料ガスとして供給し、透過ガスと残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製品として取り出す方法が採られることが多い。
【0003】
こうしたガス分離膜を用いたガス製造方法においては、図4に例示するような、圧縮機102、乾燥器108、加熱器109、ガス分離膜101を備えたガス分離部103、残留側圧力調整弁110、冷却器113透過側圧力調整弁111を備えた系を基本として、所望の用途や仕様に応じた種々の構成が用いられてきた(例えば特許文献1参照)。
【0004】
例えば、比較的高圧の水素ガスおよび比較的低圧の水素ガスの製品を必要とする場合、図5に示すようなカスケードサイクルが有効であることはよく知られている。この例にあっては、二組のガス分離膜201(第1ガス分離膜201a及び第2ガス分離膜201b)が組み合わせて使用される。この構造にあっては、原料ガスg1は、第2ガス分離膜201bの透過性ガスg2aaと合流され、圧縮後、第1ガス分離膜201aに供給される。この状態で、第1ガス分離膜201aによる透過性ガスg2aが産出され、その残留性ガスg2bは、第2ガス分離膜201bの原料ガスとして供給される。この第2ガス分離膜201bでは、残留性ガスが産出される。それからの透過性ガスg2aaは、元々の原料ガスと合流することにより再利用される(例えば特許文献1参照)。ここで、図5においては、第2ガス分離膜201bからの透過性ガスg2aaが再利用される構成として例示されているが、透過性ガスg2aを高圧製品ガスとして取り出し、透過性ガスg2aaを低圧製品ガスとして取り出すことが可能である。
【0005】
また、並列サイクルとして、図6に例示するような、空気から富化窒素ガスを分離回収するシステムを挙げることができる。図6では、2本の中空糸分離膜モジュール312、313が並列で用いられており、供給ガスは前処理を終わったあと分岐してそれぞれのモジュール312、313へ供給され、それぞれの中空糸分離膜モジュール312、313で得られた富化窒素ガスは合流して製品ガス出口324へ導かれている。空気取入口301から採取された空気はダストフィルター302で空気中の浮遊粒子などを除去されコンプレッサー303へ供給される。ここで加圧された空気は、中空糸ガス分離膜モジュール312、313のガス供給口から膜の供給側へ流される。透過した透過ガスは、膜の透過側を流れてモジュールの透過ガス排出口を経由して透過ガス排出流となり、配管の途中で流量調節弁316、317で流量を絞られたのち系外へ排出される(例えば特許文献2参照)。ここで、図6のシステムにおいては、富化窒素ガスを製品ガスとして回収する場合を表しているが、透過ガス排出流は富化酸素ガスであり、これを製品ガスとして回収することも可能である。このとき、並列の中空糸分離膜モジュール312、313に供給する空気の圧力や流量を各々独立的に調整することによって、一方の透過性ガスを高圧製品ガスとして取り出し、他方の透過性ガスを低圧製品ガスとして取り出すことが可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−33222号公報
【特許文献2】特開2002−35530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記装置あるいは方法によっては、いくつかの課題が生じることがあった。つまり、図5のようなカスケードサイクルはひとつの原料ガスから、
(i)純度や圧力の異なる複数の透過製品を得る場合、
(ii)操作温度や材質などの違いによる特性の異なる複数のガス分離モジュールを組合せ使用する場合
などに有効であることが知られている。つまり、図5の例においては、第1ガス分離膜の残留ガス中の水素を第2ガス分離膜に供給し、低圧の製品ガス(第2透過ガス)として有効に取り出すことができることから、回収率を上げることができる。特に、原料ガスの流量がほぼ一定の時には、その条件に応じて、各ガス分離膜の面積や、運転条件を設計時に選定することにより、製品純度および回収率等の最適な性能が期待できる。しかし、原料ガスの流量が変化する場合には問題が生じる。一般に、原料ガスの流量が基準の値から減少した場合、他の運転条件をそのままにしておくと、透過性ガスの割合が増加し、残留性ガスの割合は減少する。つまり、透過性ガス中の易透過性ガスの回収率は増加するが、その割合は減少し、透過性ガスが製品である場合には、製品の純度が低下する。従って、減量運転時においては、第1ガス分離膜の第1残留ガスの流量・純度・圧力の変化が直接的に第2ガス分離膜の運転に影響し、また、圧力などによる減量操作にも制限が出てくるため、第2ガス分離膜の水素製品の純度や流量が制約されるという欠点がある。
【0008】
また、図6のような並列サイクルにおいては、2つあるいは複数のガス分離膜ごとの運転条件の設定が可能であることから、減量運転時においても対応することが容易であり、製品仕様に対する高い汎用性を期待することができる。しかし、その残留ガスは再利用されないので、易透過性ガスの回収率の低下を招来する。また、実際に上記のようなカスケードサイクルと同様の製品ガスを得るためには、数倍のガス分離膜の膜面積が必要となる場合もある。
【0009】
さらに、易透過性ガスの回収率の高さからカスケードサイクルを使うのが必然となる場合もあり、カスケードサイクルにおける上記のような課題を解決するとともに、既述のような並列サイクルの利点を活かす方法が要請されていた。
【0010】
本発明の目的は、選択的透過性を有するガス分離膜に透過性の異なるガス混合物を原料ガスとして供給し、透過ガスと残留ガスに分離して易透過性ガスに富んだ透過ガスを製品とするガス製造装置において、必要とされる膜の面積(モジュール数)が少ない条件であっても、効率的かつ汎用的な手法で、所望の透過ガスの純度や回収率を有し所望の流量の複数の製品ガスを確保することが可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供することである。なお、本願において、単に「回収率」とした場合には、全透過製品ガス中の所望の成分(易透過性ガス)流量の総計の、原料ガス中の所望の成分の流量に対する割合を意味し、上記原料ガスはバイパスへの分岐前の総量で捉えるものとする。また、最終残留ガスは副製品として利用される場合も含むこというまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、選択的透過性を有する少なくとも2つのガス分離膜のうちの上流の第1ガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を原料ガスとして供給し、該第1ガス分離膜によって第1透過ガスと第1残留ガスに分離し、該第1残留ガスをさらに第2ガス分離膜に供給して第2透過ガスと第2残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製造する方法であって、前記原料ガスの一部を第1バイパスガスとして前記第1残留ガスに添加するとともに、該第1バイパスガスの流量を制御することによって、所望の純度の第1透過ガスあるいは第2透過ガスを作製し、易透過性ガスについて所望の回収率を確保することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、選択的透過性を有する少なくとも2つのガス分離膜、該ガス分離膜の1つである上流の第1ガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物が供給される原料ガス流路、前記第1ガス分離膜から透過される透過ガスが取り出される第1透過ガス流路、前記第1ガス分離膜からの残留ガスが供出され、その下流に配設された第2ガス分離膜に対して供給される第1残留ガス流路、前記原料ガス流路から分岐され、前記第1残留ガス流路と合流する第1バイパス流路、前記第2ガス分離膜から透過される透過ガスが取り出される第2透過ガス流路、前記第2ガス分離膜からの残留ガスが供出される第2残留ガス流路、前記流路のいずれかに設けられる圧力調整手段、流量調整手段、圧力計測手段、流量計測手段のいずれかまたはその組み合わせ、前記第1バイパス流路の流量を制御する制御手段、を有するガス製造装置であって、前記制御手段によって、第1バイパス流路に設けられた流量調整手段または/および原料ガス流路あるいは各残留ガス流路に設けられた圧力調整手段を制御し、各透過ガスの純度および易透過性ガスについての回収率を所望の範囲内に制御操作を行う機能を有することを特徴とする。
【0014】
上記のように、例えば、複数の水素ガスの製品を必要とする場合、並列サイクルは各製品の仕様に対応が容易で汎用性が高い一方、ガス分離膜の膜面積や生産効率などの面で課題があり、カスケードサイクルは比較的小さな膜面積であっても所定の製品純度および回収率を確保することができる一方、第2ガス分離膜の水素製品の純度や流量が制約されるという課題がある。こうした課題は、製品の仕様、特に原料組成の変動や複数の水素ガスの流量比率などが変化する場合には、いずれか1つのみの機能では十分に対応することが困難であった。
【0015】
そこで、こうしたガス分離膜に対する使用条件の研究過程において、カスケードサイクルを基本として、下流側のガス分離膜(以下「第2ガス分離膜」という)の原料ガスとして使用する上流側のガス分離膜(以下「第1ガス分離膜」という)の第1残留ガスに、第1ガス分離膜の原料ガスの一部を添加する方法を検証した。なお、同一機能の要素について、上流側を第1、下流側を第2という。
【0016】
具体的には、流量調整弁を介して第1ガス分離膜の原料ガス流路と第2ガス分離膜へのガス供給流路(以下「第2供給ガス流路」という)を接続する第1バイパス流路を設け、第1バイパスガス流量を調整することによって、第1ガス分離膜からの第1透過ガスおよび第2ガス分離膜からの第2透過ガスの流量の調整に自由度を持たせることが可能となるとともに、かかる調整によって各透過ガスの純度の安定性を確保することができることを実証した。つまり、本発明に係る構成においては、第1バイパスガス流量がゼロのときは単純なカスケードサイクルとなり、第1バイパスガス流量を増加させることによって並列サイクルに近い機能を確保することが可能となる。従って、カスケードサイクルと並列サイクルが有する両方の機能を確保しながら、第1バイパスガス流量の調整によって、その機能の割合を自由に調整することが可能となる。
【0017】
また、本発明は、こうした基本構成を基に、例えば以下のように使用条件によって種々の展開を行うことができる点においても優れた機能を有している。
(1)複数のガス分離膜を、並列あるいは直列的に追加的に配設することによって、多くの数量の仕様の異なる製品が要求される場合に対応することが可能となり、個々の仕様に基づく各製品ガスの純度と本発明に係る構成全体としての回収率の安定性を確保することが可能となる。つまり、上流側のガス分離膜の供給ガスの一部を、バイパス流路を設けてそのガス分離膜の残留ガス流路と接続された構成とすることによって、その減量に対応した上流のガス分離膜の調整と下流側のガス分離膜の供給ガスの流量を調整することができるという従前にない機能を有することができる。
(2)特定のガス分離膜において、減量操作に対応した制御を容易にすることが可能となる。つまり、そのガス分離膜に導入する原料ガスの一部を、バイパス流路を設けてそのガス分離膜の透過ガス流路と接続し、減量操作に対応してバイパス流量を調整することによって、原料ガスの減量あるいは製品ガスの減量に対して、他のガス分離膜の特性に殆ど影響を与えず、所望の製品ガスの純度あるいは回収率を確保することが可能となる。
【0018】
さらに、本発明の有効性を数値的に実証することによって、簡便な手法で個々の製品ガスの純度と本発明に係る構成全体としての回収率の安定性を確保することが可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供することが可能となった。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造方法および製造装置を適用することによって、効率的かつ汎用的な手法で、所望の透過ガスの純度や回収率を有し所望の流量の複数の製品ガスを確保することが可能となる。特に、原料ガスの流量が減少した場合も、所望の製品ガスの純度や回収率を確保することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。ここでは、選択的透過性を有する2つのガス分離膜のうちの1つに対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を原料ガスとして供給し、第1ガス分離膜によって第1透過ガスと第1残留ガスに分離し、第1残留ガスをさらに第2ガス分離膜に供給して第2透過ガスと第2残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製造するプロセスにおいて、原料ガスの一部を第1バイパスガスとして第1残留ガスに添加するとともに、該第1バイパスガスの流量を制御して、所望の純度の第1透過ガスあるいは第2透過ガスを作製し、易透過性ガスについて所望の回収率を確保する制御操作を行うことが基本となる。
【0021】
本発明は、少なくともひとつの原料ガスから、複数の種類の製品ガスを生成することを扱う。そのため、製品ガスの要求仕様条件の与え方に様々なケースがある。さらに、本発明は、カスケードサイクルの改良に関わるので、前述のように、操作温度や材質などの違いによる特性の異なる複数のガス分離モジュールを組合せて使用する場合も含むため、様々なケースがある。これら様々なケースに応じて、制御方法の変形が必要であることは自明であり、以降に示す例は、本発明を限定するものでないことを注記しておく。
【0022】
以降、典型的な場合として、操作温度および材質が同一、また、第1透過ガスの純度、第2透過ガスの純度と流量、および装置全体での回収率が要求される場合を中心に扱う。つまり、原料ガス流量の減量に際しては、第1透過ガスの流量は指定されない場合を中心に扱う。
【0023】
<本発明に係るガス製造装置の基本構成例>
図1に、本発明に係るガス製造装置(以下「本装置1」という。)の1の構成例(第1構成例)を示す。具体的には、2つのガス分離膜S1,S2、原料ガス流路Uo、ガス分離膜S1,S2に接続する供給ガス流路U1,U2、透過ガス流路T1,T2、残留ガス流路R1,R2、バイパス流路B1、原料ガス流路Uoに設けられた流量計測手段FMo、残留ガス流路R1,R2に設けられた圧力調整手段PCr1(圧力制御弁PCV1および圧力調節計PC1),PCr2(圧力制御弁PCV2および圧力調節計PC2)、透過ガス流路T1,T2に設けられた流量計測手段FMt1,FMt2、バイパス流路B1に設けられた流量調整手段FCb1(流量制御弁FCV1および流量調節計FC1)および制御計算システム(図示せず)から構成される。また、ガス製造プロセスの性能確認用に、原料ガスの分析ポートAPoおよび第1透過ガスの分析ポートAP1および第2透過ガスの分析ポートAP2(ガスクロ分析計などによるバッチ分析に利用する)が設けられている。なお、分析ポートに代え、濃度計測手段を設けることも可能である。詳細は後述する。
【0024】
本装置1においては、原料ガスおよび供給ガスを供給する1次圧力Pi1,Pi2の制御を、残留ガス流路R1,R2に設けられた圧力調整手段PCr1,PCr2によって行う構成を例示しているが、圧力調整手段PCr1,PCr2を原料ガス流路Uo、供給ガス流路U1,U2あるいは別途バイパス流路を追加してそこに配設する構成等、これに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0025】
原料ガスは、精製ガスあるいは粗製ガスを精製処理されたガスを供給することが好ましく、具体的には、精製空気、精製ナフサ分解ガス、精製改質ガス、精製水性ガス、精製天然ガスなどが該当する。原料ガスの供給条件は、通常、環境温度とし、流量約1,000〜100,000[Nm/h]の上記各種ガスが使用される。また、圧力条件は、透過ガスの用途などによって異なるが、1〜50[bar(abs)]程度に加圧して使用する。
【0026】
ガス分離膜S1,S2は、原料ガスあるいは透過ガスの種類によって、最適な素材や容量(表面積)あるいは形状などが選択される。ガス分離膜S1,S2の素材として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シリコーンゴム、ポリスルフォン、酢酸セルロースやポリイミドなどの有機系分離膜のみならず、セラミックス膜などのような無機系の分離膜を挙げることができる。本装置1においては、これらに限定されるものではない。
【0027】
ここで、ガス分離膜S1,S2への原料ガスの供給流路に加熱手段を設けることが好ましい。ガス分離膜S1,S2は、その特性と用途に応じて適切な温度でガス分離を行うことが必要である。従って、原料ガスの温度を適切な温度まで加熱するために、また、原料ガス中に液体のミストが含まれた場合には、ガス分離膜S1,S2自体の変質を齎すことがある。具体的には、原料ガス中に高沸点成分が含まれる場合には、常温で液化を起こす可能性があり、この高沸点成分が難透過性ガスである場合、残留ガス中に高沸点成分が濃縮し液化する恐れがある。そのため、例えば約40℃(夏季の条件)まで原料ガスを冷却し、凝縮液化成分を分離後、加熱手段にて加熱することにより、ガス分離膜S1,S2での液体ミストの生成の恐れを回避することができる。
【0028】
分析ポートAPo〜AP2から採取したガスは、ガスクロマトグラフィーなどを使用してバッチ分析を行い、定期的な分析結果から、演算式の係数を修正する方式を採ることができる。また、これに代え、濃度計測手段を用いて、ガス分離膜の一次圧力や二次圧力あるいはこれらと連動するプロセス値のいずれかを制御することができる。濃度計測手段は、所望の成分、つまり製品ガス成分に対して選択性の高い分析計が好ましく、連続分析で信頼できるものが好ましい。また、製品ガスに対して化学的な変化を生じさせない分析計が好ましい。例えば、成分が水素の場合には熱伝導度式分析計や成分がメタンの場合には赤外線吸光式分析計などを挙げることができる。また、バッチ分析と連続分析を併用する方式も可能である。より信頼できるバッチ分析の結果から連続分析計の誤差を確認しつつ、微調整の判断に供することができる。
【0029】
〔本装置1を用いた制御方法例〕
本装置1の第1ガス分離膜S1に供給される原料ガスから最終製品ガスまでのプロセスにおいては、第1ガス分離膜S1および第2ガス分離膜S2の各透過ガスを製品ガスとした場合、第1バイパスガス流量Fb1を制御して、所望の第2製品ガス流量(第2透過ガス流量)Ft2を確保しつつ、各製品ガス濃度および回収率を所望の範囲に調整する。つまり、上記のように第1バイパスガス流量Fb1がゼロのときは単純なカスケードサイクルとなり、第1バイパスガス流量Fb1を増加させることによって並列サイクルに近い機能を確保することができることから、第1バイパスガス流量Fb1を制御することによって、カスケードサイクルと並列サイクルの両方の機能を確保することができ、第1ガス分離膜S1の許容範囲内での第1透過ガスの純度の低下と、第2ガス分離膜S2の許容範囲内での第2透過ガスの純度の確保を図ることができる。具体的には、以下のような制御方法例が考えられる。
【0030】
(1)第1バイパスガス流量Fb1の制御例
第2透過ガス流量Ft2が、所望の値になるよう流量計測手段FMt2と流量調節計FC1の流量制御ループで、第1バイパス流路B1に設置の流量制御弁FCV1の開度を制御する。例えば、原料流量の減量などで、第1分離膜S1の第1残留ガスの流量が少なくなり、かつ易透過性ガス成分の割合も少なくなり、第2透過ガス流量Ft2が少なくなった場合には流量制御弁FCV1の開度が大きくなり、原料ガスの一部が直接的に第2ガス分離膜S2に追加的に供給される。従って、対応する第2製品ガス流量Ft2が確保されると同時に第2ガス分離膜S2に対する原料ガス組成が良くなることにより、第2透過ガスの純度を上げる方向に制御できて好ましい。
【0031】
(2)第1ガス分離膜S1の1次圧力の制御例
例えば、第1ガス分離膜S1の第1残留ガス流路R1に設けられた圧力調整手段PCr1(圧力制御弁PCV1および圧力調節計PC1)にて制御される。図1に示した例のように、減量に際して、その設定値を一定とすることが好ましい場合もある。また、複数の製品に対する要求仕様によっては、その設定値を第1ガス分離膜S1への原料ガス流量Fu1あるいは第1透過ガス流量Ft1のある関数(例えば1次式)で演算し、変更するとの方法が好ましい場合もある。
【0032】
(3)第2ガス分離膜S2の1次圧力の制御例
例えば、第2ガス分離膜S2の第2残留ガス流路R2に設けられた圧力調整手段PCr2(圧力制御弁PCV2および圧力調節計PC2)にて制御される。減量に際して、その設定値を変更することが好ましいことが多いであろう。例えば、その設定値を第2ガス分離膜S2への原料ガス流量Fu2あるいは第2透過ガス流量Ft2のある関数(例えば1次式)で演算し、変更するとの方法が好ましい。
【0033】
つまり、上記のような構成あるいは方法を適用することによって、原料ガスの流量が減少した場合もモジュール数を変更することなく、簡便な手法で所望の製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することが可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供することが可能となった。
【0034】
<本発明に係るガス製造装置の他の構成例(第2構成例)>
本発明に係るガス製造装置の他の構成例(第2構成例)を図2に示す。基本的な構成は第1構成例と同様であるが、第2ガス分離膜S2の供給ガス流路U2に分岐点を設け、流量調整手段FCb2(流量制御弁FCV2および流量調節計FC2)を介して第2残留ガス流路R2に接続する第2バイパス流路B2を形成した装置(以下「本装置2」という。)が構成される。
【0035】
本装置2は、ガス分離膜の性能が経年変化などで劣化して透過率が減少したとき、特に原料流量が最大流量に近いとき、第1ガス分離膜S1からの第1残留ガス流量Fr1が大きくなり過ぎ、第2ガス分離膜S2の処理量を超過する場合などに、第2ガス分離膜S2を迂回して第2バイパス流路B2に流すことを可能にした変形である。第2バイパス流路B2の流量制御弁FCV2の制御は、例えば、第2透過ガス流路T2の流量調節計FC2の出力を、第1パイパス流路B1の流量制御弁FCV1とスプリットレンジで制御するなどの方法が可能である。
【0036】
<本発明に係るガス製造装置の第3の構成例>
本発明に係るガス製造装置の第3の構成例を図3に示す。つまり、基本的な構成は、第2構成例と同様であるが、さらに、原料ガス流路Uoの流量計測手段FMoの下流に分岐点を設け、流量調整手段FCb3(流量制御弁FCV3および流量調節計FC3)を介して第1透過ガス流路T1に接続する第3バイパス流路B3を形成し、第1透過ガスに原料ガスの一部を混合した製品ガス(以下「第1製品ガス」という)を作製することができる装置(以下「本装置3」という。)が構成される。図3では、第1製品ガス流路P1に、第1製品ガス濃度調整手段AC(濃度計測器AT3および第1製品ガス濃度調節計AC1)が設けられた構成例を示す。
【0037】
このとき、以下のような付加的機能を得ることができる。
(1)原料ガスの最大流量に対して易透過性ガスの所望の回収率を得るべく膜の面積(モジュール数)を選択し、透過ガスの純度が所望の値より高くなる稼動条件を設定した場合であって、かつ、原料ガスの一部を第3バイパス流路B3に割振った場合には、第1ガス分離膜S1へ供給される供給ガス流量Fu1が少なくなり、この流量に比例してモジュール数を減少させることが可能である。このとき、第1ガス分離膜S1を透過する第1透過ガスの純度および第1ガス分離膜自体の回収率は、不変に保つことができる。従って、第3バイパスガス流量Fb3を適切に調整すれば、第1製品ガスの純度を所望の値以上に保つことができる。
(2)一方、第3バイパスガスは全て易透過性ガスを主成分とする第1製品ガスに回収されるので、第3バイパス流路B3を含めた系全体での総合回収率は所望値以上になる。結局、モジュール数をさらに減少させた状態で、第1製品ガスの純度と回収率を所望の値以上に保つことが可能である。つまり、第3のバイパスを使用しない場合に比較し、少ないモジュール数で第1ガスの純度と回収率を所望の値以上に保つことが可能である。
【0038】
〔本装置3を用いた制御方法例〕
基本的な制御方法は第2構成例と同様であるが、さらに、第1ガス分離膜S1について、減量に応じて第3バイパスガス流量Fb3を制御して、第1製品ガスの純度を所望の範囲に調整することができる。制御方法の例としては、
(1)図3に示したように、第3バイパスガス流量Fb3を、第1製品ガス流路P1に設けられた濃度計測器AT3の出力に基づき、第1製品ガス濃度調節計AC1によって制御する。あるいは、
(2)第3バイパスガス流量Fb3を、第1製品ガスの流量Fp1(=Ft1+Fb3)の関数(例えば1次式)として演算された値で制御する。その係数は、第1製品ガス流路P1に設けられた分析ポートから採取した第1製品ガス中の所望の易透過性ガスの濃度計測値を指標として、微調整する。
などの方法が可能である。なお、ここでは、第2ガス分離膜の第2バイパス流路B2がある場合を例示したが、もちろん用途によっては、第2バイパス流路B2を省略した装置で充分な場合もあることは自明である。
【0039】
上記のような構成あるいは方法を適用することによって、原料ガスの流量が減少した場合もモジュール数を変更することなく、簡便な手法で所望の製品ガスの純度と回収率の安定性を確保することが可能なガス分離膜を用いたガス製造方法およびガス製造装置を提供することが可能となった。
【0040】
上記においては、第3バイパス流路のガス流量を製品の濃度調節計の出力で制御する方式を例示したが、これを基本として特願2006−352350で開示した他の方式と組み合わせて使うことが可能である。具体的には、第3バイパスガスの流量を、第1ガス分離膜の原料ガスの流量や第1製品ガス流量によって制御する方式、あるいはこれらと第1ガス分離膜の1次圧力や第1残留ガス流量によって制御する機能を組合せた方式などを挙げることができる。
【0041】
<実施例>
次に、上記の構成例の制御方法を、水素ガス製造プロセスを設定し、第1および第2透過ガスの純度や回収率の数値解析を行った結果を以下に示す。
【0042】
(1)解析条件
(1−1)原料ガスの組成を表1に例示する。
【表1】

(1−2)解析に用いたガス分離膜は、第1および第2ガス分離膜ともに、素材をポリアラミド系膜とした。
(1−3)原料ガスのガス分離膜入口温度は、90℃とした。
(1−4)原料ガスの一次圧力の初期設定値は40bar(abs)とし、定格時(最大処理時)の原料ガスの流量は、10,000Nm/hとした。なお、以下の表2および3においては、流量の表現は、上記原料ガスの最大値に対する割合(%)によって表示した。従って、膜面積の絶対値は、問題にする必要がない。
(1−5)第1透過ガス(製品ガス1)圧力は20bar(abs)とし、第2透過ガス(製品ガス2)圧力は10bar(abs)とした。なお、製品水素純度は97mol%以上を基準と捉えた。
(1−6)定格時の第1透過ガス流量は定格原料ガス流量の70%、第2透過ガス流量は定格原料ガス流量の10%を確保する。
(1−7)減量条件として、原料ガス流量は定格流量を基準として100%〜50%の範囲で変化させる。また、第2透過ガス流量は定格原料ガス流量の10%〜5%(つまり、第2透過ガス流量に関して100%〜50%)の範囲で(原料流量の減量度に関わらず)変化させる。第1透過ガス流量は、残りの原料ガスを用いてできるだけ回収するとの条件とした。
【0043】
(2)解析結果
(2−1)実施例1
本装置1において、上記〔本装置1を用いた制御方法例〕(第1残留ガスの圧力は一定、第2残留ガスの圧力は第2透過ガス流量の1次式で変更する)に基づき、上記(1−7)の条件を適用した。その結果、表2に示すように、第1および第2透過ガスの純度に対する高い安定性と高い回収率(いかなる運転モードにおいても88.7%以上)を確保することができた。特に、原料流量を50%に減量し、かつ、第2透過ガス流量に関して最大値を得る時に最大の回収率(95.2%)を得ることができた。
【表2】

【0044】
(2−2)実施例2
本装置3において、上記(2−1)実施例1と第1ガス分離膜S1および第2ガス分離膜S2について同じ膜面積を用い、〔本装置3を用いた制御方法例〕に基づき、第1透過ガスとバイパス流路B3の合流後の純度は97mol%に制御される(第1残留ガスの圧力は一定、第2残留ガスの圧力は第2透過ガス流量の1次式で変更する)として、上記(1−7)の条件を適用した。その結果、表3に示すように、第1および第2透過ガスの純度に対する高い安定性と高い回収率(いかなる運転モードにおいても90.3%以上)を確保することができた。特に、原料流量を50%に減量し、かつ、第2透過ガス流量に関して最大値を得る時に最大の回収率(95.5%)を得ることができた。
【表3】

【0045】
(2−3)比較例1
図6に例示された並列サイクルを用いた場合、上記(1−6)の条件を得るためには、上記(2−1)実施例1および(2−2)実施例2に比較して、約2.06倍のガス分離膜の面積が必要であった。
【0046】
(3)まとめ
上記の結果に示すように、本装置1および3における制御方法例のいずれについても、透過ガスの純度に対する高い安定性と高い回収率を安定的に保することができた。また、並列サイクルによるよりも少ない膜面積で高い回収率を確保できることが分かった。
【0047】
<本発明に係るガス製造装置の他の構成例>
なお、上記においては、ガス分離膜を2つ設けカスケードに接続した場合について説明したが、さらに多数のガス分離膜を用いて、その機能を活かし汎用性の高いガス製造装置とすることも可能である。例えば、その一部を第1のガス分離膜として並列的に接続された複数のグループに分け異なる条件の製品ガスを得るようにし、各グループの残留ガスを集合して第2のガス分離膜に供給するよう変更することも可能である。
【0048】
また、後段の第2ガス分離膜S2の残留ガス流路R2に第3のガス分離膜を設けて、本発明のような構成あるいは機能を適用することが可能である。さらに、第4、第5と順にこうしたガス分離膜からなる構成を連続的に複数配列することによって、個々の仕様に基づく各製品ガスの純度と本発明に係る構成全体としての高い回収率を確保することが可能である。
【0049】
さらに、2つガス分離膜S1,S2を設けた場合において、一方の第1ガス分離膜S1からの製品ガス1と、他方の第2ガス分離膜S2からの製品ガス2を別々に得ることができるが、これらの少なくとも一部を混合して、1つの製品ガスを作製することも可能であり、さらに、連続的に複数のガス分離膜を配列することによって、種々の仕様に基づく各製品ガスの純度と本発明に係る構成全体としての高い回収率を確保することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上、本発明に係るガス分離膜を用いたガス製造方法および製造装置単独の作用や機能などについて説明したが、かかる機能や技術思想は、ガスのみに限らず液体の選択的分離を行う場合においても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るガス製造装置の基本の構成例を示す説明図
【図2】本発明に係るガス製造装置の第2の構成例を示す説明図
【図3】本発明に係るガス製造装置の第3の構成例を示す説明図
【図4】従来技術に係るガス製造装置の基本構成を例示する説明図
【図5】従来技術に係るガス製造装置の他の1の構成を例示する説明図
【図6】従来技術に係るガス製造装置の他の2の構成を例示する説明図
【符号の説明】
【0052】
AC 第1製品ガス濃度調整手段
AC1 第1製品ガス濃度調節計
APo,AP1,AP2 分析ポート
AT3 濃度計測器
B1,B2,B3 バイパス流路
FC1 流量調節計
FCb1 流量調整手段
FCV1 流量制御弁
FMo,FMt1,FMt2 流量計測手段
P1 第1製品ガス流路
PC1,PC2 圧力調節計
PCr1,PCr2 圧力調整手段
PCV1,PCV2 圧力制御弁
R1,R2 残留ガス流路
S1,S2 ガス分離膜
T1,T2 透過ガス流路
Uo 原料ガス流路
U1,U2 供給ガス流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的透過性を有する少なくとも2つのガス分離膜のうちの上流の第1ガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物を原料ガスとして供給し、該第1ガス分離膜によって第1透過ガスと第1残留ガスに分離し、該第1残留ガスをさらに第2ガス分離膜に供給して第2透過ガスと第2残留ガスに分離し、易透過性ガスに富んだ透過ガスを製造する方法であって、前記原料ガスの一部を第1バイパスガスとして前記第1残留ガスに添加するとともに、該第1バイパスガスの流量を制御することによって、所望の純度の第1透過ガスあるいは第2透過ガスを作製し、易透過性ガスについて所望の回収率を確保することを特徴とするガス分離膜を用いたガス製造方法。
【請求項2】
選択的透過性を有する少なくとも2つのガス分離膜、
該ガス分離膜の1つである上流の第1ガス分離膜に対して透過性の異なる複数の成分ガスを含むガス混合物が供給される原料ガス流路、
前記第1ガス分離膜から透過される透過ガスが取り出される第1透過ガス流路、
前記第1ガス分離膜からの残留ガスが供出され、その下流に配設された第2ガス分離膜に対して供給される第1残留ガス流路、
前記原料ガス流路から分岐され、前記第1残留ガス流路と合流する第1バイパス流路、
前記第2ガス分離膜から透過される透過ガスが取り出される第2透過ガス流路、
前記第2ガス分離膜からの残留ガスが供出される第2残留ガス流路、
前記流路のいずれかに設けられる圧力調整手段、流量調整手段、圧力計測手段、流量計測手段のいずれかまたはその組み合わせ、
前記第1バイパス流路の流量を制御する制御手段、
を有するガス製造装置であって、
前記制御手段によって、第1バイパス流路に設けられた流量調整手段または/および原料ガス流路あるいは各残留ガス流路に設けられた圧力調整手段を制御し、各透過ガスの純度および易透過性ガスについての回収率を所望の範囲内に制御操作を行う機能を有することを特徴とするガス分離膜を用いたガス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−238099(P2008−238099A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84765(P2007−84765)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】