説明

ガス吸着濃縮装置

【課題】処理すべきガス中に沸点が250度近い高沸点物質が含まれていたり、吸着された時に重合によって高沸点物質が生成されたりした場合に、その沸点に近い温度の脱着空気を送ることができるガス吸着濃縮装置を得る。またシリコーンゴム系の弾性材を侵すような有機溶剤が含まれていても処理するガス吸着濃縮装置を得る。
【解決手段】脱着ゾーン4を構成する扇状のシール本体5を有し、シール本体5は一対の径方向シール6,7と、弧状の外周シール9と、内周シール8とを有し、これらのシールはガラスクロスをフッ素樹脂で覆ったシートよりなり、ハニカムロータの表面と接することで、各ゾーンを密封する。外周シール9と内周シール8はシートの一端に複数の切り目12,13を入れた耐熱シートを複数枚、切り目の位置が互いに一致しないように重ね、外周シール9は脱着ゾーン4の内側にはみ出すように曲げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハニカムロータを用い、工場などの排気から有機溶剤蒸気などのガスを吸着除去するものに関し、高温での再生が可能なガス吸着濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトなどの吸着剤を担持したハニカムロータを用いて工場などの排気から有機溶剤蒸気を吸着除去するものは、既に多く提案されている。このような装置でトルエンやキシレンなどの沸点が摂氏100度以下の有機溶剤蒸気をハニカムロータに吸着し、熱で脱着するのは実用上十分であった。例えば吸着率が98%を超え、濃縮率も20倍にでき、環境対策機器として十分な実力を発揮し、普及も進んでいる。
【0003】
このような有機溶剤吸着濃縮装置はハニカムロータを少なくとも吸着ゾーンと脱着ゾーンとに分割する必要がある。この分割のために、ハニカムロータに接触して気密をはかるシール材が必要である。シール材としては、シリコーンゴムやフッ素ゴムなど耐熱ゴムからなるものやフッ素樹脂からなる有機物系のものと、グラファイトなどの無機系のものとがある。
【0004】
シール材として要求される条件は、ハニカムロータ面との摩擦が小さいこと、ハニカムロータ面との摩擦による磨耗が少ないこと、耐熱性が高いこと、有機溶剤蒸気に侵されないこと、価格が安価であること、などがある。
【0005】
このような条件としては、ハニカムロータを用いた除湿装置も一部、要求事項が一致しており、特許文献1に公開されたものがある。この特許文献1に記載のものは、板状のフッ素樹脂をハニカムロータの表面に当ててシールをはかる物である。この発明は除湿機の発明であり、ハニカムロータの脱着温度が摂氏100度から120度程度と低いため、この構成でも問題がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−100940号公報
【特許文献2】特開2007−007536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、処理すべきガス中に沸点が摂氏200〜250度近い高沸点物質が含まれていたり、ゼオライトに吸着された時に重合反応によって高沸点物質が生成されたりした場合には、その沸点に近い温度の脱着空気を送る必要がある。このため、特許文献1に開示されたもののように、フッ素樹脂板をゴム板の弾力でハニカムロータに押し付けるようにしたものでは、摂氏250度近い温度ではゴムの弾性が十分ではなく、シール効果が十分に発揮できないという問題があった。つまり特許文献1に開示されたものは、除湿機に関するもので、有機溶剤吸着濃縮装置には適していないものである。
【0008】
特許文献2には、処理すべきガスに含まれる有機溶剤がポリマー化して、高沸点物質が生成されたりした場合には、その沸点に近い温度の脱着空気を送ってハニカムロータに付着した有機溶剤を脱着するものが開示されている。これは、ハニカムロータにシリコーンゴムやフッ素ゴムよりなるゴムシールを密着させるとともに、これらのゴムシールが高温のガスに曝されないようにしている。しかしながら、有機溶剤蒸気の種類によってはシリコーンゴムやフッ素ゴムを侵すものがあり、このような場合には使用が困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガラスクロス(ガラス繊維から作った織布)をフッ素樹脂で覆ったシート、すなわちガラスクロスをフッ素樹脂含浸したり、ガラスクロスの両面にフッ素樹脂シートを溶着して作られたフッ素樹脂ガラスクロスの一端に複数の切り目を入れた耐熱シートを複数枚、前記切り目の位置が互いに一致しないように重ね、前記一端がハニカムロータの表面に接するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガス吸着濃縮装置は、ガラスクロスをフッ素樹脂で覆ったシートを用いているため、摂氏250度近い温度でもシートの弾性が大きく減少することがなく、気密効果が維持されるという利点がある。しかしシートは伸縮性がないため3次元的に屈曲せず、内・外周の円弧部分に用いて気密を確保する事が困難である。しかし本発明の場合、シートの一端に複数の切り目を入れているため、内・外周の曲線部分にも追随して気密が確保できる。
【0011】
また、その切り目からガスが洩れることを防止するため、切り目の位置が互いに一致しないように複数のシートを重ねている。以上によって、ある程度厚いシートを用いながら、ハニカムロータの表面に凹凸があってもそれに追随し、さらに気密の保持ができる構造を提供している。切り目のハニカムロータの回転方向に対して、順方向の斜めに入れられている。
【0012】
そして、ハニカムロータの外周部分の気密をはかる部分は、シートを各ゾーンの内側にはみ出すようにされ、内周部分の気密をはかる部分は外側にはみ出すようにされている。つまりシートの広い面積で圧力を受ける外周部分は、内側にはみ出して、各ゾーンの圧力でシートの先端がハニカムロータに押し付けられる。ハニカムロータの内周部分と気密をはかる部分は、面積が小さく圧力の影響が小さいため、はみ出しの方向は自由度があり、構造的に外側にはみ出すようにされている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は有機溶剤吸着濃縮装置の分解状態の斜視図である。
【図2】図2は有機溶剤吸着濃縮装置の脱着ゾーンを構成するシールの斜視図である。
【図3】図3は有機溶剤吸着濃縮装置の脱着ゾーンを構成するシールの逆向きの斜視図である。
【図4】図4は有機溶剤吸着濃縮装置の脱着ゾーンを構成するシールの拡大斜視図である。
【図5】図5は有機溶剤吸着濃縮装置のシールのシートを2枚重ねた状態の平面図である。
【図6】図6は有機溶剤吸着濃縮装置のシールのシートを2枚ずらせて見た斜視図である。
【図7】図7は有機溶剤吸着濃縮装置のシールのシートを2枚重ねた状態の平面図である。
【図8】図8は有機溶剤吸着濃縮装置の径方向シールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
少なくとも吸着ゾーンと脱着ゾーンを有するハニカムロータの各ゾーンを構成する扇状のシール本体を有し、シール本体は一対の径方向シールと、弧状の外周シールと、内周シールとを有し、これらのシールはガラスクロスをフッ素樹脂で覆ったシートよりなり、ハニカムロータの表面と接することで、脱着ゾーンを密封するようにし、外周シールと内周シールはシートの一端に複数の切り目を入れた耐熱シートを複数枚、切り目の位置が互いに一致しないように重ね、外周シールは各ゾーンの内側に向かってはみ出すように曲げられた構造であるため、シールは耐熱性が高く、さらにスリットによって柔軟性の低いガラスクロスが入ったシートでも3次元的に曲げることができて、確実なシールをはかることができる。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例について以下、図に沿って説明をする。図1は有機溶剤吸着濃縮装置の分解状態の斜視図である。1はハニカムロータであり、セラミックよりなる不燃性の紙に、疎水性ゼオライトなどの有機溶剤吸着剤を担持したものである。2は、脱着ゾーン4のシールであり、これによってハニカムロータ1は、吸着ゾーン3と脱着ゾーン4とに分割される。
【0016】
シール2は略扇型をしており、5はシール本体であり、ステンレスなどの角パイプと、板材との組合せによって作られている。詳細に説明すると、シール本体5は角パイプによって一対の径方向シール6,7と、内周シール8と、弧状に形成された板材よりなる外周シール9より構成されている。
【0017】
外周シール9には、2枚の外周シールシート10,11が重なった状態で取り付けられている。この状態を図3〜図5に示す。外周シールシート10,11には、それぞれガラスクロス(ガラス繊維によって布状に織られたもの)の外側を例えば米国デュポン社や日東電工株式会社、或いは旭硝子株式会社などのフッ素樹脂で覆ったフッ素ガラスクロスを用いる。この材料は耐熱性が摂氏300度程度あるが、そのままでは伸縮性が無く3次元的に屈曲させることは出来ない。
【0018】
また外周シールシート10,11には、それぞれスリット12,13を有し、図5及び図6に示すようにそのスリット12,13の位置が互いにずれた状態となっている。さらにスリット12,13は図5に示すように、ハニカムロータ1の進行方向に対し、順方向、即ちハニカムロータ1の進行方向に対し上流側と鋭角αをなし、下流側と鈍角βをなしている。
【0019】
弧状の外周シール9に取り付けられた外周シールシート10,11は、図2及び図3に示されるように、2枚とも脱着ゾーン4の内側に向かって湾曲している。
【0020】
一対の径方向シール6,7はハニカムロータ1の半径方向のシールを行う部材である。径方向シール6,7には、それぞれにフッ素樹脂ガラスクロスよりなる径方向シールシート14,15がU字状に曲げられて、取り付けられている。
【0021】
また弧状の内周シール16に取り付けられた内周シールシート17,18は、図2に示されるように、2枚とも脱着ゾーン4の外側に向かって湾曲している。この内周シールシート17,18も図5及び図6に示すようにそのスリット12,13の位置が互いにずれた状態となっている。さらにスリット12,13は図5に示すように、ハニカムロータ1の進行方向に対し、順方向、即ちハニカムロータ1の進行方向に対し上流側と鋭角αをなし、下流側と鈍角βをなしている。
【0022】
上記全てのシールシートのうち、2重になっているシールシートの下側、即ち外周シールシート10、内周シールシート18はハニカムロータ1の表面と接し、また径シールシート14,15もハニカムロータ1の表面と接している。
【0023】
外周シールシート10,11および内周シールシート17,18は、それぞれスリット12,13を有しているため、各シートはハニカムロータ1外周及び内周に沿って湾曲しても、それぞれの先端がハニカムロータ1と接して3次元的に曲がることができる。特に、フッ素樹脂は、摩擦に対して潤滑性が高いのではあるが、磨耗に対して強い材料ではなく、フッ素ガラスクロスの表面のフッ素は、いずれ磨耗して内部のガラスクロスが露出する。その状態では、ガラスクロスがハニカムロータ1と接し、ガラスクロスの耐摩耗性が高いため、それ以上の磨耗の進行が抑えられる。
【0024】
ところで、ガラスクロスは伸縮性が少なく、3次元的に曲がり難い。しかしながら、外周シールシート10,11および内周シールシート17,18は、それぞれスリット12,13を有しているため、各シートはハニカムロータ1外周及び内周に沿って湾曲しても、それぞれの先端がハニカムロータ1と接して曲がることができる。
【0025】
そのスリット12,13からガスの漏れが考えられる。このため、外周シールシート10,11および内周シールシート17,18は、それぞれ2重になっており、さらにスリット12,13の位置が互いにずれるように形成されている。このスリット12,13の位置のずれによって、スリット12,13から抜けるガスの量が小さい。なおスリットは、図5及び図6に示すように多少の幅があるものであってもよいし、図7に示すように幅の無い切り込みであってもよい。
【0026】
また上記説明のとおりスリット12,13は、ハニカムロータ1の回転方向に対し、従う方向の角度を有している。つまり図5に示すように、ハニカムロータ1が矢印方向に回転しているとすると、ハニカムロータ1の回転上流側の面とスリット12のなす角αは鋭角で、回転下流側の面とスリット12のなす角度βは鈍角である。このようにすることによって、外周シールシート10,11および内周シールシート17,18がハニカムロータ1と接触しながら擦れても、異音の発生が少なく耐久性も向上する。
【0027】
外周シールシート10,11は図2及び図3に示すように、各ゾーン4の内側に向かって湾曲している。これによって、各ゾーン4を通過するガスの圧力によって、外周シールシート10,11の先端はハニカムロータ1の外周に押し付けられ、ガスの漏れが少なくなる。内周シールシート17,18は図2に示されるように、各ゾーン4の外側に湾曲している。これはガスの漏れに対して反対向きであるが、内周シールシート17,18は扇型をした各ゾーン4の先端、つまりハニカムロータ1の中心付近に位置するため、長さが短く、この部分でのガス漏れが小さいため、湾曲方向の問題がない。
【0028】
以上の実施例では、シールシートの材料として、ガラスクロスをフッ素樹脂で覆ったシートを用いているが、これにステンレス箔を貼り付けたものを用いると、耐摩耗性が高くなる。また、ステンレスに代えてリン青銅箔を用いると、ステンレスよりも弾性が高くかつ摩擦抵抗が少ない。或いは真ちゅう箔を用いると、リン青銅よりもさらに摩擦抵抗が少ない。有機溶剤が酸性物質である場合には、リン青銅や真ちゅうは酸化される場合があり、そのような場合にはステンレスが適する。
【0029】
さらに上記実施例では、シールシートの材料として、ガラスクロスをフッ素樹脂で覆ったシートを用いているが、アラミド繊維クロスをフッ素樹脂で覆ったシートを用いることもできる。この場合、アラミド繊維としてメタ系アラミド繊維の方が耐溶剤特性が強く、パラ系アラミド繊維よりもメタ系アラミド繊維の方が適する。シールシートとしては、耐熱性と耐溶剤性とが高ければ他の材料でも使用可能であり、要は耐熱性クロスとそれを覆う耐溶剤材料でできているものが適する。
【0030】
この有機溶剤吸着濃縮装置で処理する有機溶剤が、極めて強くシリコーンゴム系の弾性材を侵すような有機溶剤であった場合には、脱着ゾーン4とともに吸着ゾーン3もガラスクロスを耐溶剤材料で覆ったシートを用いるようにするとよい。温度が上昇した場合にのみシリコーンゴム系の弾性材を侵すような有機溶剤であった場合には、脱着ゾーン4のみガラスクロスを耐溶剤材料で覆ったシートを用いるようにするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上の説明のように、本発明のガス吸着濃縮装置は、シールの材料として、ガラスクロスなどの耐熱クロスをフッ素樹脂などの耐溶剤材料で覆ったシートを用いているため、摂氏250度近い温度でもシートの弾性が大きく減少することがなく、気密効果が維持されるという利点があり、高い脱着温度の必要なガスの吸着濃縮に適する。またシリコーンゴム系の弾性材を侵すような有機溶剤蒸気も処理することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ハニカムロータ
2 シール
3 吸着ゾーン
4 脱着ゾーン
5 シール本体
6,7 径方向シール
8 内周シール
9 外周シール
10,11 外周シールシート
12,13 スリット
14,15 径シールシート
16 内周シール
17,18 内周シールシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着ゾーンと脱着ゾーンとを有するハニカムロータの各ゾーンを構成する扇状のシール本体を有し、前記シール本体は一対の径方向シールと、弧状の外周シールと、内周シールとを有し、少なくとも前記脱着ゾーンを構成するシールは耐熱クロスとそれを覆う耐溶剤材料でできたシールシートよりなり、前記ハニカムロータの表面と接することで、少なくとも前記脱着ゾーンを密封するようにし、前記外周シールと内周シールはシートの一端に複数の切り目を入れた耐熱シートを複数枚、前記切り目の位置が互いに一致しないように重ね、前記外周シールは少なくとも前記脱着ゾーンの内側に向かってはみ出すように曲げられたことを特徴とするガス吸着濃縮装置。
【請求項2】
外周シールのスリットは、ハニカムロータの回転方向に対して順方向に形成されていることを特徴とする請求項1記載のガス吸着濃縮装置。
【請求項3】
耐熱クロスとして、ガラスクロスを用いたことを特徴とする請求項1記載のガス吸着濃縮装置。
【請求項4】
耐熱クロスとして、アラミド繊維クロスを用いたことを特徴とする請求項1記載のガス吸着濃縮装置。
【請求項5】
耐溶剤材料として、フッ素樹脂を用いたことを特徴とする請求項1記載のガス吸着濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−179582(P2012−179582A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45905(P2011−45905)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(390020215)株式会社西部技研 (31)
【Fターム(参考)】