説明

ガス吸着物質

多孔性金属有機構造体、および複数の機能性フラーレンまたはフラーリドを含むガス吸着物質。金属有機構造体は、各金属クラスターが1つ以上の金属イオンを含有する複数の金属クラスター、および隣り合う金属クラスターを結合する複数の荷電した多座結合配位子を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の分野
本発明はガス分子を吸着する物質に関する。本発明は特に機能性フラーレンまたはフラーリドを注入した金属有機構造体を含むガス吸着物質に関し、この物質はガス貯蔵およびガス分離に主な用途を有する。
【0002】
発明の背景
本発明に対する背景についての以下の論議は、本発明の理解を容易にすることを目的とする。しかし、この論議は、参照している任意の材料が本出願の優先日において発表され、知られ、または共通の一般的な知識の一部であったという承認または自認でないことを理解されたい。
【0003】
ガス分子を吸着するため、特にガス貯蔵または分離の目的のための、物質または系の開発は非常に現在興味がもたれている。
【0004】
水素とメタンは将来のエネルギー担体とみなされている。燃焼副生物として水のみを生じるため、水素は燃料として非常に環境に優しい。また、水素の電気化学的酸化により電気を生じる燃料電池のために、水素は重要な燃料である。車両用燃料として主にメタンである吸着天然ガス(ANG)を使用することは、十分なガスを車内に貯蔵できるように340atm.の作業圧を要し、それによって複雑な多段圧縮装置を必要とする圧縮天然ガス(CNG)に対する魅力的な代替手段とみなされている。
【0005】
しかし、安全で実用的な仕方での水素とメタンの貯蔵は難しい工学的問題を提示する。車両輸送における燃料としてのこれらの効率的な使用は、これらを大きくて重く危険な高圧タンクまたは低温タンクに貯蔵するという現在の要求によって制限されている。このような用途での水素とメタンの貯蔵は、これらのガスが可燃性である状況では爆発性であるという事実により面倒である。これらのガスの貯蔵のための代替方法は存在するが、現在の各代替案は1つ以上の理由で望ましくない。
【0006】
二酸化炭素の捕捉と貯蔵は他の現在の重要な関心のある分野である。現在、二酸化炭素の主な人為的発生源である発電所の煙道排気からの二酸化炭素の除去は一般に、排気を冷やして加圧するか、ガスをアミン水溶液の流動床に通すことによってなされており、これらの両方とも費用がかかり効率が悪い。酸化物表面での二酸化炭素の化学吸着または多孔性のケイ酸塩、カーボンおよびメンブラン内での吸着に基づく他の方法が二酸化炭素取り込みのための手段として探求されている。しかし、有効な吸着媒体が二酸化炭素除去において長期的な実現可能性を有するためには、以下の2つの特徴を併せ持つことが望ましい。(i)二酸化炭素の取り込みと放出が十分可逆的である周期構造、および(ii)最適な取り込み能力のために化学的な機能化や分子レベルの微調整を実現できる適応性。
【0007】
水素のようなガスの高容量貯蔵の最近の研究は、主として物理吸着または化学吸着をベースにした物質に焦点を合せている。金属有機構造体は高いガス吸着能を有する物質として大きな有望さを示している。これらは本質的に高い表面積と内部体積を有し、これらは高圧および/または低温での物理吸着によるガス貯蔵に有用なファクターである。しかし、これらの作動条件は、水素またはメタン駆動の車両内での実施のために、重く、潜在的に高価なシステム要素を必要とする。したがって、室温付近条件で作用する物質が非常に求められている。システム要件が劇的に低減するためである。これらの条件下で作動を達成するためには、ガス吸着熱が劇的に増加しなければならない。
【0008】
物理吸着をベースにした物質について吸着熱を増加させることはその幅広い実施に対して難しいのに対し、マグネシウムおよびリチウム金属水素化物のような化学吸着をベースにした物質は、室温水素貯蔵に必要な値として計算された15.1kJ/molを十分に超える吸着熱を有する。したがって、これらの物質は操作のために数百度、すなわちかなりのエネルギーコストを必要とする。
【0009】
物理吸着されたメタン(ANG)が、車両を動力で動かすためにCNGに対する現実的な代替を提示するために、USエネルギー省はANG技術のベンチマークとして298Kおよび35atm.において180v/vのメタン吸着を規定し、最適な吸着熱は18.8kJ molと見積もられた。しかし、大部分の努力は貯蔵物質としての多孔性カーボンの開発にあり、主としてカーボン内での本質的に低いメタンの吸着熱(典型的には3−5kJ/mol)のために、最も高性能のカーボンでさえ180v/vの目標を超える任意の重要な改善を得るのに精一杯である。
【0010】
したがって、代替的なガス吸着物質を提供することが望ましい。
【0011】
発明の概要
本発明者は、ガス吸着熱および金属有機構造体(MOF)によって吸着されるガスの体積の両方におけるかなりの増加が、MOFを機能性フラーレンまたはフラーリドで充満させることによって達成されうることを発見した。フラーレンは、水素貯蔵物質の成分として特に魅力的な候補である。フラーレン構造を壊すことなく内部に58に達する水素原子を貯蔵するそれらの能力により、これは7.5wt%の取り込みと同等である。加えて、ある種の金属によるフラーレンの外面の修飾はそれらの表面吸着性能を劇的に高め、遷移金属修飾の場合にはKubas相互作用により8wt%の水素取り込みを生じ、またはLi修飾の場合にはフラーレンあたり60のH2分子に達する。また、フラーレンの疎水性はこれらをメタン貯蔵の魅力的な候補にする。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、(i)(a)複数のクラスター、および(b)隣り合うクラスターを結合させる複数の荷電した多座架橋配位子を含む多孔性金属有機構造体;ならびに(ii)金属有機構造体のポア内に設けられた複数の機能性フラーレンまたはフラーリドを含むガス吸着物質が提供される。
【0013】
本発明は第2の態様において、貯蔵キャビティを有するコンテナと、内部に配置されて前記コンテナの少なくとも一部を満たす本発明の第1の態様によるガス貯蔵物質とを含むガス貯蔵システムを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、本発明のガス吸着物質を製造する方法を提供する。
【0015】
本発明の金属有機構造体は、金属有機構造体のポア内に複数の機能性フラーレンまたはフラーリドを含む。MOFのポア内の機能性フラーレン/フラーリドの存在は、特に相当する金属有機構造体単独またはポア内に(機能化されていない)フラーレンを有する金属有機構造体のガス吸着特性と比較した場合に、金属有機構造体のガス吸着特性を驚異的に高める。典型的に、機能性フラーレンまたはフラーリドを、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウムおよび遷移金属から選択される1種以上の金属で修飾する。好ましくは、機能性フラーレンまたはフラーリドは、マグネシウム、アルミニウムおよび/またはリチウム修飾フラーレンまたはフラーリドであり、好ましくはマグネシウム修飾フラーレンまたはフラーリドである。
【0016】
機能性フラーレンまたはフラーリドは好ましくは球状または楕円体状フラーレンに基づく。より好ましくは、フラーレンまたはフラーリドはC20ないしC84の範囲にある。
【0017】
機能性フラーレンまたはフラーリドは好ましくは機能性C60分子、より好ましくはMg-機能化C60フラーレンまたはフラーリドである。より好ましくは、機能性フラーレンまたはフラーリドは、1ないし10のMg原子、好ましくは10のMg原子を含むMg-機能化C60フラーレンを含む。マグネシウムは、高温化学吸着に基づく水素貯蔵の分野において比較的よく機能することが知られている軽金属の有利な性質を有する。
【0018】
本明細書で用いる限り、「クラスター」という語は、1以上の金属またはメタロイドの1以上の原子またはイオンを含有する部分を意味する。この定義は、任意に配位子または共有結合基を有する、単一原子もしくは単一イオンまたは原子群もしくはイオン群を包含する。
【0019】
好ましくは、各クラスターは2以上の金属またはメタロイドのイオン(以下、ともに「金属イオン」という)を含み、複数の多座配位子の各配位子は2以上のカルボキシラートを含む。
【0020】
典型的に、金属イオンはアクチニド、ランタニドおよびこれらの組み合わせを含むIUPAC元素周期表のうち1から16族の金属からなる群より選択される。好ましくは、金属イオンはLi+,Na+,K+,Rb+,Be2+,Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Sc3+,Y3+,Ti4+,Zr4+,Hf4+,V4+,V3+,V2+,Nb3+,Ta3+,Cr3+,Mo3+,W3+,Mn3+,Mn2+,Re3+,Re2+,Fe3+,Fe2+,Ru3+,Ru2+,Os3+,Os2+,Co3+,Co2+,Rh2+,Rh+,Ir2+,Ir+,Ni2+,Ni+,Pd2+,Pd+,Pt2+,Pt+,Cu2+,Cu+,Ag+,Au+,Zn2+,Cd2+,Hg2+,B3+,B5+,Al3+,Ga3+,In3+,Tl3+,Si4+,Si2+,Ge4+,Ge2+,Sn4+,Sn2+,Pb4+,Pb2+,As5+,As3+,As+,Sb5+,Sb3+,Sb+,Bi5+,Bi3+,Bi+およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0021】
典型的に、クラスターは式Mmnを有し、ここでMは金属イオンであり、Xは14族から17族のアニオンからなる群より選択され、mは1ないし10の整数であり、nは前記金属クラスターが所定の電荷を有するように前記金属クラスターを電荷バランスさせるために選択される数である。
【0022】
好ましくは、XはO2-,N3-およびS2-からなる群より選択される。好ましくは、Mは、Be2+,Ti4+,B3+,Li+,K+,Na+,Cs+,Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,V2+,V3+,V4+,V5+,Mn2+,Re2+,Fe2+,Fe3+,Ru3+,Ru2+,Os2+,Co2+,Rh2+,Ir2+,Ni2+,Pd2+,Pt2+,Cu2+,Zn2+,Cd2+,Hg2+,Si2+,Ge2+,Sn2+およびPb2+からなる群より選択される。より好ましくは、MはZn2+であり、XはO2-である。
【0023】
典型的に、多座結合配位子は芳香環または非芳香環に組み込まれた6以上の原子を有する。好ましくは、多座結合配位子は芳香環または非芳香環に組み込まれた12以上の原子を有する。より好ましくは、1つ以上の多座結合配位子は、式1から27を有する配位子からなる群より選択される配位子を含む:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0024】
ここで、Xは水素,-NHR,-N(R)2,ハライド,C1-10アルキル,C6-18アリールもしくはC6-18アラルキル,-NH2,アルケニル,アルキニル,-Oアルキル,-NH(アリール),シクロアルキル,シクロアルケニル,シクロアルキニル,-(CO)R,-(SO2)R,-(CO2)R,-SH,-S(アルキル),-SO3H,-SO3-+,-COOH,-COO-+,-PO32-,-PO3-+,-PO32-2+もしくはPO32-2+,-NO2,-CO2H,シリル誘導体;ボラン誘導体;ならびにフェロセンおよび他のメタロセンであり;Mは金属原子であり、RはC1-10アルキルである。
【0025】
1つの実施形態において、多座結合配位子は先に説明した式3を有する配位子を含む。他の実施形態において、多座結合配位子は式18を有する配位子(“BTB”)を含む。別の実施形態において、多座結合配位子は式14を有する配位子を含む。
【0026】
金属有機構造体はあらゆる既知の組成物のものであってもよい。本発明における使用に適するであろう金属有機構造体の例は、この技術分野においてMOF-177,MOF-5,IRMOF-1またはIRMOF-8として一般に知られるものを含む。好ましい実施形態において、金属有機構造体はMOF-177である。
【0027】
好ましくは、ガスはメタン、水素、アンモニア、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素およびこれらの組み合わせから選択される成分を含む。より好ましくは、ガスは水素、メタンまたは二酸化炭素のうち1種以上である。
【0028】
典型的に、金属有機構造体は10ないし21Å、好ましくは13ないし21Åのポア半径を有する。
【0029】
ガス吸着物質がメタンを吸着するのに用いることを目的としている場合には、ポア半径は好ましくは17から21Åである。ガス吸着物質が水素を吸着するのに用いることを目的としている場合には、ポア半径は好ましくは13から16Åである。
【0030】
本発明のガス吸着物質はガス貯蔵および放出、ガス分離ならびにガス洗浄を含む多くの用途を有する。
【0031】
次に、本発明をより容易に理解できるように、添付の図面を参照して、その非限定的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
次に、添付の図面に示した実施形態を参照して、本発明をより詳細に記載する。図において、以下の略語を用いる:
MOF=金属有機構造体;
60@MOF=C60を注入した金属有機錯体;および
Mg-C60@MOF=マグネシウム修飾C60を注入した金属有機錯体。
【図1】本発明のガス吸着物質の第1の実施形態の概略図である。
【図2】(a)ないし(c)は、(a)10Å,(b)12Åおよび(c)18Åのキャビティ半径を有する未充填または充填MOFについて、キャビティ中心からの距離に対する吸着のポテンシャルエネルギー(kJ/mol)を示すグラフである。
【図3】MOF,C60@MOFおよびMg-C60@MOFについて、キャビティ半径(Å)に対する吸着の平均ポテンシャルエネルギー(kJ/mol)を示すグラフである。
【図4A】MOF,C60@MOFおよびMg-C60@MOFにおける水素(a)吸着について、298K(下側曲線)および77K(上側曲線)での吸着のための自由体積のグラフである。
【図4B】MOF,C60@MOFおよびMg-C60@MOFにおけるメタン(b)吸着について、298K(下側曲線)および77K(上側曲線)での吸着のための自由体積のグラフである。
【図5A】水素(a)について、wt%貯蔵に対するIRMOF-8(配位子は式14を有する)内の吸着熱(kJ/mol)のグラフである。
【図5B】メタン(b)について、wt%貯蔵に対するIRMOF-8(配位子は式14を有する)内の吸着熱(kJ/mol)のグラフである。
【図6A】77Kで水素(a)について、圧力(atm)に対するwt%ガス貯蔵のグラフである。
【図6B】298Kでメタン(b)について、圧力(atm)に対するwt%ガス貯蔵のグラフである。
【0033】
好ましい実施形態の詳細な説明
図1は、本発明のガス吸着物質10の第1実施形態の概略図を示す。
【0034】
ガス吸着物質は、機能性フラーレン24を浸透させたポア22を有する多孔性金属有機構造体20を含む。
【0035】
金属有機構造体20は、複数の金属クラスター26、および金属クラスター26を結合する複数の多座配位子28を有する。各金属クラスター26は式Zn46+を有する。
【0036】
各多座配位子28は複数の芳香環30と、金属クラスター26におけるそれぞれの亜鉛イオンに配位するための少なくとも2つのカルボキシラート末端基32とを有する。多座配位子28は先に例示した式18(“BTB”)を有することが好ましい。BTBは3つのカルボキシラート末端基を有するが、明確にするために図1においては2つのみを示す。
【0037】
ポアまたはキャビティ22の数は、金属有機構造体内で画定される。
【0038】
ポアの幾何形状は、半径r1を有する球形状に近似することができる。r1のサイズは各配位子28のサイズに大きく依存し、特に、配位子28における芳香環の数および立体配置に依存する。
【0039】
各ポア22は機能性フラーレン分子24が浸透されている。機能性フラーレン24はマグネシウム修飾C60分子を含み、これはその外面において10のMg原子で修飾されている。
【0040】
浸透されたポアの自由体積は厚さr2を有する。
【0041】
本発明者は、吸着のための平均ポテンシャルエネルギー、吸着のための自由体積、吸着熱ならびにポアサイズおよびフラーレン浸透に応じて水素およびメタンの重量パーセントおよび体積取り込みを評価することによって、発明したガス吸着物質の吸着性能を予測するモデル研究を行った。
【0042】
図2は、10、12および18Åのキャビティ半径について、非浸透MOF(MOF)、C60を浸透したMOF(C60@MOF)およびMg修飾C60を浸透したMOF(Mg−C60@MOF)のポテンシャルエネルギープロファイルを示す。図2(a)、(b)および(c)における鉛直の破線は、キャビティ半径r1および浸透後に残っている自由体積r2を示す(図2(a)にのみ表示している)。
【0043】
理論に制約されることを望まないが、MOF構造の浸透による主な利点のうち1つは、フラーレン「ゲスト」からの表面ポテンシャルエネルギーと、残っている自由体積を横切るMOF「ホスト」のそれとの重なりであると考えられる。この重なりは、低密度ガスの形態でポアを単に充填するのと対照的に、吸着強度および高密度に吸着されたガスの総量の両方とも高めることができるであろう。図2は、MOFのポア半径r1を変化させることによって、MOFとフラーレン表面との間の距離r2に応じた3つの別々の場合におけるこれらの効果を示す。r2が特に短いと、ポテンシャルエネルギーの重なりが特に強く、これらの条件下では高いエンタルピーでガス吸着が生じるであろうが(図2(a))、吸着に利用できる自由体積が犠牲になる(以下の図4の論議を参照のこと)。大きなr2距離はポテンシャルエネルギーの重なりを減少させるが(図2(c))、中程度のr2では、十分な自由体積を保ちながらポテンシャルエネルギー増大を達成できる領域が存在する(図2(b))。全ての場合においてMg-C60@MOFは、C60@MOFおよび未充填のMOFよりも優れた性能を有することが明らかである。図3に示すように、この高まりは、C60@MOFについては88%までであり、Mg-C60@MOFについては122%に及ぶ。
【0044】
吸着のための自由体積の割合は、多孔性物質内でのガス貯蔵を支配する別の主要因である。これは、バルクのガス状態と対照的に、ガスが高密度吸着状態で存在しうるMOFキャビティ内での体積の割合を表す。図4Aおよび4Bは、Mg-C60@MOF内での自由体積の50%までが、水素(図4A)およびメタン(図4B)の両方を高密度に吸着した状態で収容できることを示し、これは空のMOF構造のそれのほぼ2倍である。両方の吸着ガスのために最適なキャビティ半径r1はより低温で増加する(CH4 298Kで17.0Å,77Kで21Å:H2 298Kで13Å,77Kで16Å)。このことは、より低温ではガス分子が複数の吸着層を作っている吸着質の表面からより大きな距離で吸着状態にあることができ、したがって最適な容量に達するのにより大きなキャビティが必要になるためであると考えられる。
【0045】
先に述べたように、ガス貯蔵物質内での吸着熱を調節することは、おそらく水素またはメタンで動く車両輸送の実現可能性に関与する者が直面する最大の課題である。殆どの物理吸着媒は、室温作動に必要と考えられる15.1kJ mol-1より十分下で作動する。本発明の物質の吸着熱についての我々のモデル化は、フラーレン浸透によって観察される吸着熱の増加が明白であることを示した。図5は、Mg-C60@IRMOF-8内での、水素およびメタンの吸着熱をそれぞれ示す。H2についての吸着熱は、Mg-C60@IRMOF-8で約10−11kJ mol-1である。本発明者が知る限り、これは今まで報告された最も高い値である。メタン取り込みについて吸着熱の相対的な増加は水素の場合よりもさらに顕著であり、Mg-C60@MOFは吸着熱を116%高める。測定値である13.5kJ mol-1は理想的な作動条件に近づいている。
【0046】
本発明の物質の低圧ガス貯蔵性能は、図6に示すように、水素およびメタン貯蔵の両方の将来の潜在的なパラダイム変化を示唆する。77KでMg-C60@MOF(この場合、IRMOF-8)は、ちょうど6atmで飽和水素取り込みに近づくことを示している。この戦略をさらに発展させることによって、将来の水素貯蔵を可能とするために高圧容器は必要なくなるであろうと思われる。
【0047】
メタン貯蔵の場合には、観察結果はより大きなブレークスルーを示す。35atm./298Kで、図6(b)はMg-C60@MOFについて28wt.%のメタン取り込みを示す。これは265v/vに等しく、これは47%まで180v/vというUS DoEガイドラインを上回る。いくつかの炭素質材料が同一条件下で200v/v程度の高いメタン取り込みを示すことが報告されているが、本発明者が知る限りでは、報告されている最も優れたメタン貯蔵物質は銅−アントラセン配位ポリマーであり、これはDoE目標よりも28%高い230v/vの性能を示す。また、この物質は30kJ mol-1という非常に例外的な吸着熱を有し、これは驚くべきことに18.8kJ mol-1という計算された最適熱を上回る。この状況において、Mg-C60@MOFについてのモデル化された結果は注目に値する。
【0048】
したがって、本発明は、水素およびメタン貯蔵物質に新規なコンセプトを与えるガス吸着物質を提供する。これらの物質はいくつかの例外的な性質を示し、265v/vというメタン取り込みを含み、あらゆる物質について最も高い報告値であり、DoE目標を著しい47%だけ上回り、11kJ/molという報告されている最高の物理吸着の水素吸着熱の1つであり、ちょうど6atmで多量の飽和水素取り込みと同時に、計算された最適値15.1kJ/molに近づく。
【0049】
本明細書に記載された本発明は具体的に記載したものの他に変更、改変および/または付加が可能であり、本発明は上記の記載の意図および範囲に含まれるすべてのこのような変更、改変および/または付加を含むことを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)以下を含有する多孔性金属有機構造体:
(a)各金属クラスターが1つ以上の金属イオンを含有する、複数の金属クラスター、および
(b)隣り合う金属クラスターを結合する複数の荷電した多座結合配位子;ならびに
(ii)前記金属有機構造体のポア内に設けられた複数の機能性フラーレンまたはフラーリド
を含むガス吸着物質。
【請求項2】
前記機能性フラーレンまたはフラーリドはマグネシウム、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウムおよび遷移金属から選択される1種以上の金属で修飾されている請求項1のガス吸着物質。
【請求項3】
前記機能性フラーレンまたはフラーリドはマグネシウム、アルミニウムおよび/またはリチウム修飾フラーレン、好ましくはマグネシウム修飾フラーレンである請求項1または2のガス吸着物質。
【請求項4】
前記機能性フラーレンはMg-機能化C60フラーレンを含む請求項1ないし3いずれかのガス吸着物質。
【請求項5】
前記機能性フラーレンは約1ないし10のMg原子、好ましくは10のMg原子を有するMg-機能化C60フラーレンを含む請求項1ないし4いずれかのガス吸着物質。
【請求項6】
前記各金属クラスターは2つ以上の金属イオンを含有し、前記複数の多座配位子の各配位子は2つ以上のカルボキシラートを有する請求項1ないし5のいずれかのガス吸着物質。
【請求項7】
前記金属イオンはアクチニド、ランタニドおよびそれらの組み合わせを含むIUPAC元素周期表の1族から16族の金属からなる群より選択される請求項1ないし6のいずれかのガス吸着物質。
【請求項8】
前記金属イオンはLi+,Na+,K+,Rb+,Be2+,Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,Sc3+,Y3+,Ti4+,Zr4+,Hf4+,V4+,V3+,V2+,Nb3+,Ta3+,Cr3+,Mo3+,W3+,Mn3+,Mn2+,Re3+,Re2+,Fe3+,Fe2+,Ru3+,Ru2+,Os3+,Os2+,Co3+,Co2+,Rh2+,Rh+,Ir2+,Ir+,Ni2+,Ni+,Pd2+,Pd+,Pt2+,Pt+,Cu2+,Cu+,Ag+,Au+,Zn2+,Cd2+,Hg2+,B3+,B5+,Al3+,Ga3+,In3+,Tl3+,Si4+,Si2+,Ge4+,Ge2+,Sn4+,Sn2+,Pb4+,Pb2+,As5+,As3+,As+,Sb5+,Sb3+,Sb+,Bi5+,Bi3+,Bi+およびそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1ないし7いずれかのガス吸着物質。
【請求項9】
前記金属クラスターは式Mmnを有し、ここでMは金属イオンであり、Xは14族から17族のアニオンからなる群より選択され、mは1から10までの整数であり、nは前記金属クラスターが所定の電荷を有するように前記金属クラスターを電荷バランスさせるために選択される数である請求項1ないし8のいずれかのガス吸着物質。
【請求項10】
XはO2-,N3-およびS2-からなる群より選択される請求項9のガス吸着物質。
【請求項11】
MはBe2+,Ti4+,B3+,Mg2+,Ca2+,Sr2+,Ba2+,V2+,V3+,V4+,V5+,Mn2+,Re2+,Fe2+,Fe3+,Ru3+,Ru2+,Os2+,Co2+,Rh2+,Ir2+,Ni2+,Pd2+,Pt2+,Cu2+,Zn2+,Cd2+,Hg2+,Si2+,Ge2+,Sn2+およびPb2+からなる群より選択される請求項9または10のガス吸着物質。
【請求項12】
MはZn2+であり、XはO2-である請求項9ないし11のいずれか1項のガス吸着物質。
【請求項13】
前記多座結合配位子は芳香環または非芳香環に組み込まれた6以上の原子を有する請求項1ないし12いずれかのガス吸着物質。
【請求項14】
前記多座結合配位子は芳香環または非芳香環に組み込まれた12以上の原子を有する請求項13のガス吸着物質。
【請求項15】
前記1つ以上の多座結合配位子は式1から27を有する配位子からなる群より選択される配位子を含む:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

(ここで、Xは水素、-NHR,-N(R)2,ハライド,C1-10アルキル,C6-18アリールもしくはC6-18アラルキル,-NH2,アルケニル,アルキニル,-Oアルキル,-NH(アリール),シクロアルキル,シクロアルケニル,シクロアルキニル,-(CO)R,-(SO2)R,-(CO2)R,-SH,-S(アルキル,-SO3H,-SO3-+,-COOH,-COO-+,-PO32-,-PO3-+,-PO32-2+もしくはPO32-2+,-NO2,-CO2H,シリル誘導体;ボラン誘導体;ならびにフェロセンおよび他のメタロセンであり;Mは金属原子であり、RはC1-10アルキルである)
請求項1ないし14いずれかのガス吸着物質。
【請求項16】
前記多座結合配位子は式3を有する配位子を含む請求項15のガス吸着物質。
【請求項17】
前記多座結合配位子は式18を有する配位子を含む請求項15のガス吸着物質。
【請求項18】
前記金属有機構造体はMOF-177,MOF-5またはIRMOF-8を含む請求項1ないし17いずれかのガス吸着物質。
【請求項19】
ガスはメタン、水素、アンモニア、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素およびそれらの組み合わせからなる群より選択される成分を含む請求項1ないし18いずれかのガス吸着物質。
【請求項20】
前記ガスは水素、メタンまたは二酸化炭素のうち1種以上である請求項19のガス吸着物質。
【請求項21】
前記金属有機構造体は10ないし20Å、好ましくは13ないし21Åのポア半径を有する請求項1ないし20いずれかのガス吸着物質。
【請求項22】
メタンを吸着する場合、前記金属有機構造体は17ないし21Åのポア半径を有する請求項20のガス吸着物質。
【請求項23】
水素を吸着する場合、前記金属有機構造体は13ないし16Åのポア半径を有する請求項20のガス吸着物質。
【請求項24】
前記物質をガス貯蔵および/または放出、ガス分離またはガス浄化のうちの少なくとも1つに用いる請求項1ないし23いずれかのガス吸着物質。
【請求項25】
貯蔵キャビティを有するコンテナと;
内部に配置されて前記コンテナの少なくとも一部を満たす請求項1ないし24いずれかによるガス貯蔵物質と
を含むガス貯蔵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2012−514530(P2012−514530A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543951(P2011−543951)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000004
【国際公開番号】WO2010/075610
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(393028081)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼーション (12)
【Fターム(参考)】