ガス器具動作識別システム
【課題】 器具別の流量検出を行わずとも、ガス器具の動作状況を確実かつ安価に把握することができるガス器具動作識別システムを提供する。
【解決手段】 ガス器具動作識別システム1においては、各ガス配管7に設けた振動センサ91によりガス器具5a,5bへのガス流通状態を反映した機械振動を検出する。そして、その検出された機械振動の周波数特性を解析し、ガス配管7に接続された個々のガス器具5a,5b及びその動作に特徴的な情報がその解析結果に反映されているか否かに基づいてガス器具5a,5bの作動状態を識別する。
【解決手段】 ガス器具動作識別システム1においては、各ガス配管7に設けた振動センサ91によりガス器具5a,5bへのガス流通状態を反映した機械振動を検出する。そして、その検出された機械振動の周波数特性を解析し、ガス配管7に接続された個々のガス器具5a,5b及びその動作に特徴的な情報がその解析結果に反映されているか否かに基づいてガス器具5a,5bの作動状態を識別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス器具動作識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平10−238772号公報
【特許文献2】特開2005−188925号公報
【特許文献3】特開平8−247808号公報
【特許文献4】特開2001−281037号公報
【特許文献5】特開2005−283479号公報
【0003】
ガス器具の動作状況を識別するシステムとして、次のような種々の方式が提案されている。
(1)ガス器具に接続される配管内のガス流量の検知結果に基づいて、ガス器具の作動状況を識別する(特許文献1及び特許文献2)。
(2)ガス配管に取り付けられたマイクにより、特定周波数を有するガス器具着火音を検出し、着火後のガス流量検出結果と合わせて器具動作状況を把握する(特許文献3)。
(3)器具のガスインレットに設けた電磁バルブにより、器具に対応付けられた特定周波数の圧力変動を故意に発生させ、その圧力変動を目印として器具特定する(特許文献4)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記各方式には以下のような欠点がある。
(1)器具別に高価な流量計を取り付けねばならず不経済である。また、超音波トランスジューサを用いた流量計測方式が採用されている場合は、ガス器具の立ち上り及び立ち下りにおける流量変化パターンから器具の動作判別を行なうことになるが、ガスメータ等で採用されている電池動作による超音波計測では測定動作が間欠的であり、ガス器具が動作し始める瞬間のパターン変化を見逃してしまう危険性がある。また、この瞬間を捉えるためには連続的に超音波を送受信させる必要があるが、電池寿命を考慮した場合には不可能である。従って、流量変化の立ち上り及び立ち下りの変化を捉えることは難しい。
【0005】
(2)マイクロフォンで検知できる情報は可聴帯域の限られた情報であり、器具動作特定の正確性に欠ける。また、マイクロフォンで検知できるのは結局着火音のみであり、その後の器具動作をガス流量で特定している点で(1)と同じ欠点を有し、マイクロフォンの追加が要求される点が更なるコストアップ要因となる。
(3)器具の動作特定のみの目的で各ガス器具に電磁バルブを追加するのは、部品点数の増大を招くばかりでなく、圧力損失の要因ともなりかねず不経済である。また、本来一定しているべき供給ガスの流量を、わざわざ電磁バルブを介在させて乱すのは、ガス器具の安定動作を確保する観点においては本末転倒の思想であるともいえる。
【0006】
本発明の課題は、器具別の流量検出を行なわずとも、ガス器具の動作状況を確実かつ安価に把握することができるガス器具動作識別システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のガス器具動作識別システムは、
ガス器具に接続されるガス配管と、
ガス配管に取り付けられ、該ガス配管に発生するガス器具へのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する振動センサと、
振動センサが検出する機械振動の周波数特性を解析する周波数特性解析手段と、
機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、ガス器具の作動状態を識別する器具作動状態識別手段と、
その識別結果を出力する識別結果出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明者は、ガス器具の接続された配管系統において、個々のガス器具が配管を介してガス供給されつつ動作した場合に、ガス器具へのガス流通状態(ひいては動作状態)に特有の機械振動を生ずることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。本発明のガス器具動作識別システムにおいては、各ガス配管に設けた振動センサによりガス器具へのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する。そして、その検出された機械振動の周波数特性を解析し、ガス配管に接続された個々のガス器具及びその動作に特徴的な情報がその解析結果に反映されているか否かに基づいてガス器具の作動状態を識別することができる。
【0009】
その結果、上記従来の手法の欠点をことごとく解決することができる。
(1)センシング部として安価な振動センサを採用でき、器具別に高価な流量計を取り付ける必要がなくなる。
(2)接続されたガス器具を含む配管系の機械的な振動特性とガス器具動作状況に応じたガス流通状態あるいは燃焼状態とを反映した、該配管系のさまざまなモードの固有振動を振動センサにより広帯域に検出でき、個々のガス器具及びその動作状況に係る特徴情報をよりきめ細かく抽出できるので、器具動作特定の正確性が大幅に向上する。また、流量測定のための超音波送信等が不要であり、発生する振動を受動的に検出すればよいので、ガス器具の連続的なモニタリングが可能である。また、特に、器具の立ち上りや立ち下りの検出を行なわずとも動作特定が可能である。
(3)センシング部自体は配管の振動を検出するのみであり、配管内のガス供給状態に全く影響を及ぼさない。
【0010】
ガス配管は複数のガス器具に分配接続することができる。器具作動状態識別手段は、機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、ガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものとして構成できる。これにより、ガス配管に接続されている複数のガス器具の動作状況を、配管に設けた振動センサの検出情報に基づいて容易にかつ安価に把握することが可能となる。
【0011】
この場合、ガス配管は、主配管と、該主配管から各ガス器具に向けて分岐する分岐配管とを有するものとして構成される。振動センサは、複数のガス器具に共用化される形で主配管に設けることができる。ガス器具毎に機械振動の周波数特性が異なっていれば、複数のガス器具が単独で動作している場合は、得られる機械振動波形の周波数特性の相違に基づき、どのガス器具が動作しているかを容易に特定できる。また、機械振動波形が互いに分離できる場合は、複数のガス器具が同時に動作している場合でも個々の動作中のガス器具を特定できる。当然、複数のガス器具間で1つの振動センサを共用化できるのでセンサコストの削減にも寄与できる。
【0012】
一方、複数の振動センサを各分岐配管に分散して設けることも可能である。分岐配管別に振動センサを設けることで、個々のガス器具の動作特定の精度は一層向上する。また、複数のガス器具が同時に動作している場合でも個々の器具の動作を高精度に識別でき、特に、個々のガス器具に由来した機械振動波形の帯域的な重なりが大きい場合においても問題なく動作特定が可能である。
【0013】
器具作動状態識別手段は、機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピーク位置に基づいてガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものとして構成できる。本発明者が検討したところ、器具動作に伴ないガス流通する配管系には、器具及び動作状態に特有の固有振動モードが存在し、その周波数スペクトルにおいて特有の周波数位置に振幅ピークを形成することが判明した。従って、個々の器具の作動中にどのような振幅ピークが現れるかが予め知れていれば、固有振動ピーク位置に基づいてガス器具のいずれが作動中であるかを容易に特定することができる。
【0014】
また、本発明のガス器具動作識別システムには、機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピークの高さに基づいて、作動中のガス器具に供給されるガス流量を推定するガス流量推定手段と、該ガス流量の推定結果を出力するガス流量推定結果出力手段とを設けることができる。本発明者が検討したところ、ガス器具動作に伴ない発生する機械振動の、その周波数スペクトルに現れる固有振動のピークは、器具へのガス供給流量が変化した場合、ピーク周波数位置はほとんど変化しない一方、ピーク高さは、流量が大きくなるほどこれに対応して一義的に増加することが判明した。従って、該ピーク高さと器具へのガス供給流量との関係が予め知れていれば、該ピーク高さを測定により特定することで、動作中のガス器具へのガス供給流量を推定することができる。
【0015】
次に、器具作動状態識別手段は、周波数スペクトルの予め定められた周波数位置に固有振動ピークが存在するか否かに基づいて、複数のガス器具のうち当該周波数位置に対応付けられた特定のものが作動しているか否かを判定するものとして構成できる。前述のごとく、個々の器具の作動中にどの周波数位置に振幅ピークが現れるかが予め知れていれば、その周波数位置に固有振動ピークが存在するか否かに基づいてガス器具のいずれが作動中であるかを容易に特定することができる。具体的には、各器具にてどの周波数位置に振幅ピークが現れるかを示す参照ピークパターンの情報を用意しておくことで、器具作動状態識別手段は、周波数スペクトルに現れる1又は複数の固有振動ピークからなる振動ピークパターンを、ガス器具別に予め記憶されている上記参照ピークパターンと照合し、特定のガス器具に対応する参照ピークパターンと照合一致した場合は該特定のガス器具が作動中であると判定し、照合不一致の場合は同じく非作動と判定するように構成できる。これにより、周波数スペクトルから周知のピーク特定アルゴリズムにより振動ピークパターンを抽出し、これを参照ピークパターンと照合することで、動作中のガス器具特定を一層容易に行なうことができる。
【0016】
例えば、振動センサを複数のガス器具に共用化される形で主配管に設ける場合、器具作動状態識別手段は、複数のガス器具のうちの2以上のものが動作している場合に、主配管に取り付けられた振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルにおいて、それら複数のガス器具の動作に個別に由来した複数の振動ピークパターンを、個々のガス器具の参照ピークパターンと照合することにより分離特定することにより、動作中の複数のガス器具を特定するように構成できる。すなわち、振動センサを主配管に取り付けると、複数のガス器具の動作中は、該振動センサが検出する振動の周波数スペクトルには、それら複数のガス器具に特有の振動ピークパターンが互いに重なり合って現れることとなる。しかしながら、個々のガス器具に固有の参照ピークパターンが用意されていれば、重なったパターンから個々のガス器具の振動ピークパターンを分離でき、限られた個数の振動センサにより、同時に動作する複数のガス器具も容易に特定することが可能となる。
【0017】
一方、各ガス器具への分岐配管に複数の振動センサを分散して設ける場合は、器具作動状態識別手段は、各分岐配管に取り付けられた振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルを対応する分岐配管につながるガス器具の参照ピークパターンとそれぞれ照合するとともに、対応する参照ピークパターンと照合一致する振動ピークパターンの検出された分岐配管のガス器具を作動中であると判定し、照合不一致のガス器具を非作動と判定するように構成できる。この構成であれば各分岐配管上で検出される振動ピークパターンが、その分岐配管に対応する参照ピークパターンと一致するか否かだけを照合するだけで、動作中のガス器具が複数であっても、それぞれ容易に特定が可能である。
【0018】
次に、器具作動状態識別手段は、ガス配管を流れるガス流量測定結果を取得するガス流量測定結果取得手段と、周波数スペクトルに現れる固有振動ピークを有意ピークと判定するための閾ピーク値を、測定されたガス流量が大きいほど高くなるように設定する閾ピーク値手段とを有するものとして構成できる。この場合、周波数スペクトル中の固有振動ピークの高さを閾ピーク値と比較するとともに、該閾ピーク値よりも高い比較結果が得られた場合にのみ固有振動ピークを、作動中のガス器具を特定するための有意ピークとして採用するようにする。前述のごとく、固有振動ピークの高さはガス器具に供給されるガス流量が大きくなるほど増加する。そこで、ガスメータなど、ガス配管を流れるガス流量の測定機構が別途設けられる場合は、そのガス流量測定結果を取得するとともに、期待される固有振動ピーク高さを反映した閾ピーク値を測定されたガス流量が大きいほど高くなるように設定し、検出される固有振動ピーク高さがこの閾ピーク値を超える場合にのみ当該固有振動ピークをガス器具動作特定に採用することで、その特定精度をさらに向上させることができる。
【0019】
次に、器具作動状態識別手段は、機械振動の周波数スペクトルにおいて、振動振幅が閾レベルを超える主振動成分の分布帯域の相違に基づき、作動中のガス器具の種別を特定するように構成できる。本発明者が検討したところ、複数のガス器具がガス配管に接続されている場合、周波数スペクトルに現れる主振動成分の分布帯域がどのガス器具が動作しているかに応じて変化することが判明した。従って、該主振動成分の分布帯域を分析することにより、いずれのガス器具が動作中であるかを特定することも可能である。該方式は、例えば振動ピーク位置が互いに近接しているガス器具同士の動作識別を行ないたい場合等に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態たるガス器具動作識別システム1の概略構成を示すブロック図である。ガス器具動作識別システム1は、ガス器具5a,5bに接続されるガス配管7と、ガス配管7に取り付けられ、該ガス配管7に発生する、ガス器具5a,5bへのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する振動センサ91と、該振動センサ91が接続される動作判別ユニット9とを有する。動作判別ユニット9はマイコンハードウェアを主体とするものであり、搭載されたプログラムにより、振動センサ91が検出する機械振動の周波数特性を解析する周波数特性解析手段と、機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、ガス器具5a,5bの作動状態を識別する器具作動状態識別手段として機能する。また、動作判別ユニット9には、その識別結果を出力する識別結果出力手段としての表示部93が設けられている。
【0021】
ガス配管7が複数のガス器具5a,5bに分配接続されている。図1では、複数のガス器具はガスコンロ5aと給湯機5bの2つを表示しているが、図4上に示すように、3以上のガス器具が接続されていてもよい。具体的には、ガス配管7は、主配管7と、該主配管7から各ガス器具5a,5bに向けて分岐する分岐配管7a,7bとを有する。振動センサ91は圧電セラミック素子を用いた周知の構成を有するものであり、図1の構成においては、複数のガス器具5a,5bに共用化される形で主配管7の外面に取り付けられている。なお、器具動作に固有な振動の検出感度を向上する観点から、振動センサ91は各分岐配管7a,7bへの分岐点よりも上流側にて、主配管7のなるべく該分岐点に近い位置に(例えば1m以内:望ましくは50cm以内)に取り付けることが望ましい。
【0022】
図1の構成においては、主配管7は都市ガスあるいはLPガスなどの燃料周知のガスメータ4が取り付けられ、超音波流量計を用いた周知の流量測定を該主配管7上にて行なうことにより、主配管7における瞬時ガス流量や、各ガス器具5a,5bの動作に伴ない配管系全体で消費される積算ガス流量が算出されるようになっている。なお、その算出結果はガスメータ4に設けられた表示部41に表示されるほか、シリアル通信バス50を介して動作判別ユニット9にも送られる。
【0023】
図2は、図1のガス器具動作識別システム1の主要部に係るさらに詳細な電気構成を示すブロック図である。動作判別ユニット9の主体をなすマイコン90はCPU901、RAM902、ROM903及び入出力部904が内部バス905により接続された構造を有する。振動センサ91はアンプ92を介して入出力部904のA/Dポートに接続されている。また、入出力部904には前述の表示部93と警報音出力部94とが接続されている。
【0024】
ROM903には、次のような内容が記憶されている。
・波形取り込むソフト:振動センサ91が検出する振動波形を取り込む処理を行なう。
・ピーク解析ソフト:その波形に高速フーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成し、該周波数スペクトルに現れる固有振動ピークの周波数f(位置)と高さhとを特定する。
・器具判別ソフト:固有振動ピークの位置(さらには高さ)に基づいて動作中の器具を判別する処理を行なう。
・流量推定ソフト:固有振動ピークの高さに基づいて各器具に供給される個別のガス流量を推定する。
・参照データ:ガスメータ40と通信を行なうための通信ソフト、及び、器具判別のための後述の参照パターンデータや、固有振動ピーク高さとガス流量との関係を示す流量推定用データなどからなる。
【0025】
また、RAM902には上記各ソフトの実行メモリ領域と、取り込んだデジタル振動波形データを記憶する振動波形メモリ領域、動作中の器具の判別結果を記憶する判別結果メモリ、器具別の流量の推定結果を記憶する器具別流量管理メモリ領域等が形成されている。
【0026】
次に、ガスメータ4は、制御主体がマイコン40で構成されている。マイコン40は、CPU401、RAM402、ROM403及び入出力部404が内部バス405により接続された構造を有する。入出力部404には、超音波流量計の原理に即した周知の流量測定部41と、その測定情報を元に演算された流量測定内容を表示する表示部42と、流量測定内容を外部に通信出力する外部通信ユニット43が接続されている。また、動作判別ユニット9とガスメータ4とは、それぞれシリアル通信インターフェース95,44を介してシリアル通信バス50に接続されている。
【0027】
図1においてガス器具5a,5bのいずれかが動作すると、ガス器具5a,5bへのガス流通状態(あるいは燃焼状態)に特有の機械振動が発生する。具体的には、器具動作に伴ないガス流通する配管系(7a,7b、7)に、各器具の機械的構造及び動作状態に特有の固有振動モードにて機械振動が発生する。この機械振動を主配管7に取り付けられた振動センサ91で検出する。
【0028】
検出された機械振動の波形は、図2において振動波形メモリに取り込まれ、高速フーリエ変換処理を経て周波数スペクトルデータに変換される。図3のパターンAはいずれのガス器具も動作していない状態で測定した周波数スペクトルの例を、パターンBは給湯機5bのみが動作している状態で測定した周波数スペクトルの例を、パターンCはガスコンロ5aのみが動作している状態で測定した周波数スペクトル(0Hz〜2000Hzの帯域における各周波数での相対振幅分布)を示している。いずれの周波数スペクトルにおいても、下限周波数側に尾引きの大きいバックグラウンド部BGが形成されている。
【0029】
器具非動作となるパターンAでは、バックグラウンド部BG以外に目立った振動ピークは観察されないが、給湯機4bが動作しているパターンBでは複数の振動ピークPが観察される。また、ガスコンロ5aが動作しているパターンCでも高さは小さいが振動ピークPが観察される。パターンB及びパターンCのいずれにおいても、給湯機4bないしガスコンロ4aの動作時には、振動ピークが各々固有の周波数位置に再現性よく出現する。また、ガスコンロ5aのパターンCに現れる振動ピークPは、給湯機4bのパターンBに現れる複数の振動ピークPのいずれとも異なる周波数位置に現れている。
【0030】
また、バックグラウンド部BGの現れる帯域(つまり尾引き)の上限周波数は、給湯機4bが動作しているパターンBでは1060Hzであるのに対し、ガスコンロ5aが動作しているパターンCでは1020Hzと、低周波数側に移動している。
【0031】
さらに、図4に示すように、各ガス器具の動作時に現れる振動ピークの高さhは、器具へのガス供給流量Qが大きいほど増加する。具体的には、図4の下に示すように、該ガス供給流量Qにほぼ比例する形でピーク高さhは単調に増加している。従って、ガス供給流量Qと特定の周波数位置に現れる振動ピークの高さhとの関係が、図4の下に示すように予め知れていれば、周波数スペクトル上で特定される振動ピークの高さhから、対象となるガス器具へのガス供給流量を推定することが可能である。
【0032】
なお、ガス供給流量Qに応じた振動ピークの高さhの変化の線形性は、図5に示すように、主配管7に対する振動センサ91の取付位置に応じて変化する。具体的には、各ガス器具5a,5b,‥への分岐配管7a,7b,‥の分岐点に近いほど上記の線形性は良好である。
【0033】
以下、ガス器具動作識別システム1の作動について、図6の流れ図に従い説明する。まず、T1において振動センサ91による振動検知を開始し、その波形を取り込むとともに、T2においてその波形を周波数スペクトルに変換する。そして、T3では、その周波数スペクトルにおいて振動ピークを特定し、また、バックグラウンド部BGの帯域(上限周波数)を特定する。図7の上に示すごとく周波数スペクトルが得られた場合、周知のピーク特定アルゴリズムにより振動ピーク(p1〜p7)を特定する。各振動ピークp1〜p7は、それぞれ周波数位置(f1〜f7)とピーク高さ(h1〜h7)とを対にしてデータ化される。
【0034】
振動ピークの周波数位置は、作動している器具の種別に応じて固有かつ不変の値となる。そこで、個々の器具毎に期待される複数の振動ピークの1又は複数のもの(振動ピークパターン)を、器具動作判定用ピークとして採用する。例えば、図3のパターンB(給湯機5b)においては、7つのピークp1〜p7からなる振動ピークパターンが確認可能であるが、例えば図8に示すように、相対高さの最も大きいピーク(最大ピーク)p4を少なくとも含むように器具動作判定用ピークを定めることができる。この場合、図8左に示すように、最も単純な態様として、最大ピークp4のみを器具動作判定用ピークとして選定することもできるし、図8右に示すように、最大ピークp4を含む複数の振動ピークを器具動作判定用ピークとして選定することもできる。図8右の態様では、最大ピークp4とこれに次いで相対高さの大きいピークp1とが器具動作判定用ピークとして選定されている。
【0035】
そして、上記各ガス器具について選定された器具動作判定用ピークの周波数位置の組が、参照ピークパターンとして参照データに含まれている。実測された振動波形の周波数スペクトルにて特定された振動ピークパターンの、個々のピーク位置は参照ピークパターンに含まれる個々のピーク位置と照合・比較される。この照合結果の一致することが、対応するガス器具が動作中であると判定するための必要条件となる。例えば図8の左においては、最大ピークp4の周波数位置f4が、参照ピークP4の周波数位置F4と一致しているか否かに基づき、対応するガス器具(つまり、給湯機5a)が動作中であるか否かを判定する。つまり、周波数スペクトルに現れる1又は複数の固有振動ピークからなる振動ピークパターンを、ガス器具5a,5b別に予め記憶されている参照ピークパターンと照合し、特定のガス器具5a,5bに対応する参照ピークパターンと照合一致した場合は該特定のガス器具5a,5bが作動中であると判定し、照合不一致の場合は同じく非作動と判定するのである。
【0036】
また、図8の右においては、最大ピークp4と、次に高さの大きいピークp1との各周波数位置f1,f4が、参照ピークP1,P4の周波数位置F1,F4と一致していることを必要条件として、対応するガス器具(つまり、給湯機5a)が動作中であるか否かを判定する。なお、本発明者が検討したところ、ガス流量が増加するのに合わせて各ピークの高さも増加方向に変化するが、周波数位置の異なる複数ピークの高さ比はガス流量によらずほぼ一定である。従って、複数の振動ピークを器具動作判定用ピークとして採用する場合は、それらピークの高さ比もガス器具動作判定に使用することができる。例えば、図8の右においては、最大ピークp4と、次に高さの大きいピークp1との高さ比h4/h1が参照ピークP1,P4の高さ比H4/H1と一致していることを必要条件として、対応するガス器具(つまり、給湯機5a)が動作中であるか否かを判定することも可能である。この場合、この高さ比一致の条件を、上記ピーク位置一致の条件と組み合わせることにより、器具動作特定の精度をさらに向上できる。
【0037】
ここで、主配管7を流通するガス流量の測定結果はガスメータ4より通信取得可能である。対応するガス器具が正常動作している場合は、個々のガス流量毎に期待される最低ピーク高さ(閾ピーク高さ)を実験的に特定できる。従って、その実験結果を用いれば、図4下のグラフに準じた形で、ガス流量と該閾ピーク高さの関係を示すデータが作成でき、これが図2の参照データに含める形で記憶されている。本実施形態では、図6のT51において、ガスメータ4よりガス流量を通信取得する。またT52では、取得したガス流量に対応する閾ピーク高さを読み取る。そして、T3において、周波数スペクトル上で検出された振動ピークの高さを読み取った閾ピーク高さと比較し、該閾ピーク高さを超えていれば、当該振動ピークを有効ピークとして認定し、器具動作判定に使用する。一方、閾ピーク高さを超えていない場合はノイズとみなし、器具動作判定に使用しない。
【0038】
図6のT4では、有効ピークと認定された振動ピークを器具動作判定用ピーク(パターン)として、ガス器具毎に個別に用意されている参照ピークパターンと順次照合する。そして、照合一致した参照ピークパターンが見つかれば、その参照ピークパターンに対応するガス器具が動作中であると判定する。例えば、図1に示すように、表示部93を、個々のガス器具に対応付けたインジケータ93i(LED等:ただし、これに限定されない)の組として構成しておけば、その判定結果を、個々のインジケータ93iの作動状態の動作状態により出力が可能である(例えば、点灯=動作中、消灯=非動作)。
【0039】
また、図9は、ガスコンロ5aの動作状態判定を行なう場合の例を示すものであるが、ガスコンロ5aの場合、特徴的な振動ピークが1つしか現れないので、これを器具動作判定用ピークp100として採用する。参照ピークパターンも対応するピークP100のみを有し、検出されたピークp100の周波数位置f100が、参照ピークP100の周波数位置F100と一致しているか否か、及び、検出された器具動作判定用ピークp100の高さが、ガスメータの流量に対応する閾高さを超えているか否かにより、ガスコンロ5aが動作中であるか否かを同様に判定できる。
【0040】
一方、ガスコンロ5a特有の現象として、図3のパターンCに示すように、バックグラウンド部BGの帯域上限周波数f3が低周波数側に現れるので、検出された振動の周波数スペクトルにて特定される帯域上限周波数f3が、予め定められた閾周波数よりも低い場合にガスコンロ5aが動作中であると判定することもできる。当然、該帯域上限周波数による判定条件を、器具動作判定用ピーク位置の一致による判定条件と組み合わせることにより、器具動作特定精度をさらに向上できる。
【0041】
また、複数のガス器具5a,5bのうちの2以上のものが動作している場合は、主配管7に取り付けられた振動センサ91が検出する機械振動の周波数スペクトルにおいて、それら複数のガス器具5a,5bの動作に個別に由来した複数の振動ピークパターンを、個々のガス器具5a,5bの参照ピークパターンと照合することにより分離特定し、ひいては、動作中の複数のガス器具5a,5bを特定することが可能である。例えば、図10に示すように、測定された振動に含まれる振動ピークを順次、ガスコンロ5a及び給湯機5bの参照ピークパターンと照合した結果、それらガスコンロ5a及び給湯機5bの参照ピークパターンと照合一致する結果が得られた場合は、ガスコンロ5a及び給湯機5bが同時に動作していると判定できる。
【0042】
次に、図9の右に示すように、器具動作判定用ピークp100として定めたもの以外の振動ピークp’(つまり、どの参照ピークパターンにも含まれないピーク)が検出された場合は、対応するガス器具が正常動作していない(例えば、非動作の場合もありえるし、異常動作している場合もありえる)と判定することが可能である。ガスメータ4により有意なガス流量が測定され、かつ、どの参照ピークパターンにも含まれないピークが検出された場合は、ガス供給はなされていても、器具自体が正常に動作していない可能性があり、この場合は異常判定とし、警報音出力部94を動作させて報知を行なう。
【0043】
次に、図11に示すように、複数の振動センサ91a,91bを各分岐配管7a,7bに分散して設けることも可能である。この場合のシステムブロック構成を図12に示す。動作判別ユニット9のマイコン90の入出力部904には、複数の振動センサ91a,91b‥が接続され、各振動センサ91a,91b‥の振動検出波形が個別に取り込まれ、周波数スペクトル変換される。そして、各分岐配管7a,7bに取り付けられた振動センサ91が検出する機械振動の周波数スペクトルが、図8ないし図9を用いてすでに説明した手法により、対応する分岐配管7a,7bにつながるガス器具5a,5bの参照ピークパターンとそれぞれ照合される。そして、対応する参照ピークパターンと照合一致する振動ピークパターンの検出された分岐配管7a,7bのガス器具5a,5bを作動中であると判定し、照合不一致のガス器具5a,5bを非作動と判定する。
【0044】
また、ガス器具別に振動センサ91a,91b‥を設け、個別に波形検出した場合、図9に示すごとく、対応する器具の参照ピークパターンにも含まれないピークが、予め定められた閾高さ以上にて検出された場合は、ガス供給はなされていても、器具自体が正常に動作していない可能性が高くなる。この場合は、当該ガス器具が異常動作中(例えば、ガスが供給されていても燃焼していない、いわばガス漏れの状態など)であると判定することができる。つまり、ガス器具を特定した上での個別の異常判定が可能になるわけである。この場合、図1を援用して示せば、表示部93のガス器具別のインジケータ93iを、動作中を示す表示状態(例えば点灯)と非動作を示す表示状態(例えば消灯)とに加え、異常を示す表示状態(例えば点滅)が新たに出力可能となるように構成することで、器具別の異常報知出力が可能となる。
【0045】
また、図13に示すように、各分配配管7a,7b‥に取り付けられた器具別の振動センサ91a,91b‥により、作動中のガス器具の周波数スペクトルを取得した場合、器具別に流量推定用に採用する振動ピークを予め定めておき(例えば、ガスコンロ5aであれば図9のp100、給湯機5bであれば図8のp4)、それら流量推定用ピークと各分配配管7a,7b‥を流れるガス流量との関係を予め測定し(この関係は、例えば、複数のガス器具5a,5b‥の1つのみを動作させた状態でガスメータ4により流量測定しつつ、対応する振動センサ91a,91bによる振動検出を合わせて行なうことで測定が可能である)、図13に示すように、器具別に参照データとして記憶しておけば、流量推定用ピーク高さの測定結果からガス器具別の流量推定を高精度に行なうことが可能である。この場合、各器具のガス流量の推定結果は、例えば表示部93に液晶ディスプレイ等を用い、これをガス流量推定結果出力手段として器具別の推定流量を表示出力することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態であるガス器具動作識別システムの概略構成の一例を示すブロック図。
【図2】図1のガス器具動作識別システムに係る要部の電気的構成例を示すブロック図。
【図3】ガス配管に取り付けた振動センサの検出波形に基づく周波数スペクトルの測定例を示す図。
【図4】ガス流量に応じて周波数スペクトルの振動ピークが変化する様子を説明する図。
【図5】主配管に振動センサを取り付けた場合の振動ピーク高さとガス流量との関係を説明する図。
【図6】図1のガス器具動作識別システムにおけるガス器具動作判別処理の流れを説明する図。
【図7】周波数スペクトルから振動ピークを抽出する概念を説明する図。
【図8】振動ピークパターンと参照ピークパターンとの照合方式を説明する図。
【図9】同じく別の照合方式を説明する図。
【図10】主配管に取り付けた振動センサの検出波形に基づく周波数スペクトルから、複数のガス器具の振動ピークパターンを分離特定する方法を説明する図。
【図11】ガス器具別の分岐配管に複数の振動センサを分散して設ける構成を説明する図。
【図12】図11の構成に対応するブロック図。
【図13】分岐配管毎に振動センサを取り付けた場合の振動ピーク高さとガス流量との関係を説明する図。
【符号の説明】
【0047】
1 ガス器具動作識別システム
5a,5b ガス器具
7 主配管(ガス配管)
7a,7b 分岐配管
9 動作判定ユニット(周波数特性解析手段、器具作動状態識別手段、識別結果出力手段、ガス流量推定手段)
91 振動センサ
93 表示部(識別結果出力手段、ガス流量推定結果出力手段)
【技術分野】
【0001】
本発明はガス器具動作識別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平10−238772号公報
【特許文献2】特開2005−188925号公報
【特許文献3】特開平8−247808号公報
【特許文献4】特開2001−281037号公報
【特許文献5】特開2005−283479号公報
【0003】
ガス器具の動作状況を識別するシステムとして、次のような種々の方式が提案されている。
(1)ガス器具に接続される配管内のガス流量の検知結果に基づいて、ガス器具の作動状況を識別する(特許文献1及び特許文献2)。
(2)ガス配管に取り付けられたマイクにより、特定周波数を有するガス器具着火音を検出し、着火後のガス流量検出結果と合わせて器具動作状況を把握する(特許文献3)。
(3)器具のガスインレットに設けた電磁バルブにより、器具に対応付けられた特定周波数の圧力変動を故意に発生させ、その圧力変動を目印として器具特定する(特許文献4)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記各方式には以下のような欠点がある。
(1)器具別に高価な流量計を取り付けねばならず不経済である。また、超音波トランスジューサを用いた流量計測方式が採用されている場合は、ガス器具の立ち上り及び立ち下りにおける流量変化パターンから器具の動作判別を行なうことになるが、ガスメータ等で採用されている電池動作による超音波計測では測定動作が間欠的であり、ガス器具が動作し始める瞬間のパターン変化を見逃してしまう危険性がある。また、この瞬間を捉えるためには連続的に超音波を送受信させる必要があるが、電池寿命を考慮した場合には不可能である。従って、流量変化の立ち上り及び立ち下りの変化を捉えることは難しい。
【0005】
(2)マイクロフォンで検知できる情報は可聴帯域の限られた情報であり、器具動作特定の正確性に欠ける。また、マイクロフォンで検知できるのは結局着火音のみであり、その後の器具動作をガス流量で特定している点で(1)と同じ欠点を有し、マイクロフォンの追加が要求される点が更なるコストアップ要因となる。
(3)器具の動作特定のみの目的で各ガス器具に電磁バルブを追加するのは、部品点数の増大を招くばかりでなく、圧力損失の要因ともなりかねず不経済である。また、本来一定しているべき供給ガスの流量を、わざわざ電磁バルブを介在させて乱すのは、ガス器具の安定動作を確保する観点においては本末転倒の思想であるともいえる。
【0006】
本発明の課題は、器具別の流量検出を行なわずとも、ガス器具の動作状況を確実かつ安価に把握することができるガス器具動作識別システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のガス器具動作識別システムは、
ガス器具に接続されるガス配管と、
ガス配管に取り付けられ、該ガス配管に発生するガス器具へのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する振動センサと、
振動センサが検出する機械振動の周波数特性を解析する周波数特性解析手段と、
機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、ガス器具の作動状態を識別する器具作動状態識別手段と、
その識別結果を出力する識別結果出力手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明者は、ガス器具の接続された配管系統において、個々のガス器具が配管を介してガス供給されつつ動作した場合に、ガス器具へのガス流通状態(ひいては動作状態)に特有の機械振動を生ずることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。本発明のガス器具動作識別システムにおいては、各ガス配管に設けた振動センサによりガス器具へのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する。そして、その検出された機械振動の周波数特性を解析し、ガス配管に接続された個々のガス器具及びその動作に特徴的な情報がその解析結果に反映されているか否かに基づいてガス器具の作動状態を識別することができる。
【0009】
その結果、上記従来の手法の欠点をことごとく解決することができる。
(1)センシング部として安価な振動センサを採用でき、器具別に高価な流量計を取り付ける必要がなくなる。
(2)接続されたガス器具を含む配管系の機械的な振動特性とガス器具動作状況に応じたガス流通状態あるいは燃焼状態とを反映した、該配管系のさまざまなモードの固有振動を振動センサにより広帯域に検出でき、個々のガス器具及びその動作状況に係る特徴情報をよりきめ細かく抽出できるので、器具動作特定の正確性が大幅に向上する。また、流量測定のための超音波送信等が不要であり、発生する振動を受動的に検出すればよいので、ガス器具の連続的なモニタリングが可能である。また、特に、器具の立ち上りや立ち下りの検出を行なわずとも動作特定が可能である。
(3)センシング部自体は配管の振動を検出するのみであり、配管内のガス供給状態に全く影響を及ぼさない。
【0010】
ガス配管は複数のガス器具に分配接続することができる。器具作動状態識別手段は、機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、ガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものとして構成できる。これにより、ガス配管に接続されている複数のガス器具の動作状況を、配管に設けた振動センサの検出情報に基づいて容易にかつ安価に把握することが可能となる。
【0011】
この場合、ガス配管は、主配管と、該主配管から各ガス器具に向けて分岐する分岐配管とを有するものとして構成される。振動センサは、複数のガス器具に共用化される形で主配管に設けることができる。ガス器具毎に機械振動の周波数特性が異なっていれば、複数のガス器具が単独で動作している場合は、得られる機械振動波形の周波数特性の相違に基づき、どのガス器具が動作しているかを容易に特定できる。また、機械振動波形が互いに分離できる場合は、複数のガス器具が同時に動作している場合でも個々の動作中のガス器具を特定できる。当然、複数のガス器具間で1つの振動センサを共用化できるのでセンサコストの削減にも寄与できる。
【0012】
一方、複数の振動センサを各分岐配管に分散して設けることも可能である。分岐配管別に振動センサを設けることで、個々のガス器具の動作特定の精度は一層向上する。また、複数のガス器具が同時に動作している場合でも個々の器具の動作を高精度に識別でき、特に、個々のガス器具に由来した機械振動波形の帯域的な重なりが大きい場合においても問題なく動作特定が可能である。
【0013】
器具作動状態識別手段は、機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピーク位置に基づいてガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものとして構成できる。本発明者が検討したところ、器具動作に伴ないガス流通する配管系には、器具及び動作状態に特有の固有振動モードが存在し、その周波数スペクトルにおいて特有の周波数位置に振幅ピークを形成することが判明した。従って、個々の器具の作動中にどのような振幅ピークが現れるかが予め知れていれば、固有振動ピーク位置に基づいてガス器具のいずれが作動中であるかを容易に特定することができる。
【0014】
また、本発明のガス器具動作識別システムには、機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピークの高さに基づいて、作動中のガス器具に供給されるガス流量を推定するガス流量推定手段と、該ガス流量の推定結果を出力するガス流量推定結果出力手段とを設けることができる。本発明者が検討したところ、ガス器具動作に伴ない発生する機械振動の、その周波数スペクトルに現れる固有振動のピークは、器具へのガス供給流量が変化した場合、ピーク周波数位置はほとんど変化しない一方、ピーク高さは、流量が大きくなるほどこれに対応して一義的に増加することが判明した。従って、該ピーク高さと器具へのガス供給流量との関係が予め知れていれば、該ピーク高さを測定により特定することで、動作中のガス器具へのガス供給流量を推定することができる。
【0015】
次に、器具作動状態識別手段は、周波数スペクトルの予め定められた周波数位置に固有振動ピークが存在するか否かに基づいて、複数のガス器具のうち当該周波数位置に対応付けられた特定のものが作動しているか否かを判定するものとして構成できる。前述のごとく、個々の器具の作動中にどの周波数位置に振幅ピークが現れるかが予め知れていれば、その周波数位置に固有振動ピークが存在するか否かに基づいてガス器具のいずれが作動中であるかを容易に特定することができる。具体的には、各器具にてどの周波数位置に振幅ピークが現れるかを示す参照ピークパターンの情報を用意しておくことで、器具作動状態識別手段は、周波数スペクトルに現れる1又は複数の固有振動ピークからなる振動ピークパターンを、ガス器具別に予め記憶されている上記参照ピークパターンと照合し、特定のガス器具に対応する参照ピークパターンと照合一致した場合は該特定のガス器具が作動中であると判定し、照合不一致の場合は同じく非作動と判定するように構成できる。これにより、周波数スペクトルから周知のピーク特定アルゴリズムにより振動ピークパターンを抽出し、これを参照ピークパターンと照合することで、動作中のガス器具特定を一層容易に行なうことができる。
【0016】
例えば、振動センサを複数のガス器具に共用化される形で主配管に設ける場合、器具作動状態識別手段は、複数のガス器具のうちの2以上のものが動作している場合に、主配管に取り付けられた振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルにおいて、それら複数のガス器具の動作に個別に由来した複数の振動ピークパターンを、個々のガス器具の参照ピークパターンと照合することにより分離特定することにより、動作中の複数のガス器具を特定するように構成できる。すなわち、振動センサを主配管に取り付けると、複数のガス器具の動作中は、該振動センサが検出する振動の周波数スペクトルには、それら複数のガス器具に特有の振動ピークパターンが互いに重なり合って現れることとなる。しかしながら、個々のガス器具に固有の参照ピークパターンが用意されていれば、重なったパターンから個々のガス器具の振動ピークパターンを分離でき、限られた個数の振動センサにより、同時に動作する複数のガス器具も容易に特定することが可能となる。
【0017】
一方、各ガス器具への分岐配管に複数の振動センサを分散して設ける場合は、器具作動状態識別手段は、各分岐配管に取り付けられた振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルを対応する分岐配管につながるガス器具の参照ピークパターンとそれぞれ照合するとともに、対応する参照ピークパターンと照合一致する振動ピークパターンの検出された分岐配管のガス器具を作動中であると判定し、照合不一致のガス器具を非作動と判定するように構成できる。この構成であれば各分岐配管上で検出される振動ピークパターンが、その分岐配管に対応する参照ピークパターンと一致するか否かだけを照合するだけで、動作中のガス器具が複数であっても、それぞれ容易に特定が可能である。
【0018】
次に、器具作動状態識別手段は、ガス配管を流れるガス流量測定結果を取得するガス流量測定結果取得手段と、周波数スペクトルに現れる固有振動ピークを有意ピークと判定するための閾ピーク値を、測定されたガス流量が大きいほど高くなるように設定する閾ピーク値手段とを有するものとして構成できる。この場合、周波数スペクトル中の固有振動ピークの高さを閾ピーク値と比較するとともに、該閾ピーク値よりも高い比較結果が得られた場合にのみ固有振動ピークを、作動中のガス器具を特定するための有意ピークとして採用するようにする。前述のごとく、固有振動ピークの高さはガス器具に供給されるガス流量が大きくなるほど増加する。そこで、ガスメータなど、ガス配管を流れるガス流量の測定機構が別途設けられる場合は、そのガス流量測定結果を取得するとともに、期待される固有振動ピーク高さを反映した閾ピーク値を測定されたガス流量が大きいほど高くなるように設定し、検出される固有振動ピーク高さがこの閾ピーク値を超える場合にのみ当該固有振動ピークをガス器具動作特定に採用することで、その特定精度をさらに向上させることができる。
【0019】
次に、器具作動状態識別手段は、機械振動の周波数スペクトルにおいて、振動振幅が閾レベルを超える主振動成分の分布帯域の相違に基づき、作動中のガス器具の種別を特定するように構成できる。本発明者が検討したところ、複数のガス器具がガス配管に接続されている場合、周波数スペクトルに現れる主振動成分の分布帯域がどのガス器具が動作しているかに応じて変化することが判明した。従って、該主振動成分の分布帯域を分析することにより、いずれのガス器具が動作中であるかを特定することも可能である。該方式は、例えば振動ピーク位置が互いに近接しているガス器具同士の動作識別を行ないたい場合等に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態たるガス器具動作識別システム1の概略構成を示すブロック図である。ガス器具動作識別システム1は、ガス器具5a,5bに接続されるガス配管7と、ガス配管7に取り付けられ、該ガス配管7に発生する、ガス器具5a,5bへのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する振動センサ91と、該振動センサ91が接続される動作判別ユニット9とを有する。動作判別ユニット9はマイコンハードウェアを主体とするものであり、搭載されたプログラムにより、振動センサ91が検出する機械振動の周波数特性を解析する周波数特性解析手段と、機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、ガス器具5a,5bの作動状態を識別する器具作動状態識別手段として機能する。また、動作判別ユニット9には、その識別結果を出力する識別結果出力手段としての表示部93が設けられている。
【0021】
ガス配管7が複数のガス器具5a,5bに分配接続されている。図1では、複数のガス器具はガスコンロ5aと給湯機5bの2つを表示しているが、図4上に示すように、3以上のガス器具が接続されていてもよい。具体的には、ガス配管7は、主配管7と、該主配管7から各ガス器具5a,5bに向けて分岐する分岐配管7a,7bとを有する。振動センサ91は圧電セラミック素子を用いた周知の構成を有するものであり、図1の構成においては、複数のガス器具5a,5bに共用化される形で主配管7の外面に取り付けられている。なお、器具動作に固有な振動の検出感度を向上する観点から、振動センサ91は各分岐配管7a,7bへの分岐点よりも上流側にて、主配管7のなるべく該分岐点に近い位置に(例えば1m以内:望ましくは50cm以内)に取り付けることが望ましい。
【0022】
図1の構成においては、主配管7は都市ガスあるいはLPガスなどの燃料周知のガスメータ4が取り付けられ、超音波流量計を用いた周知の流量測定を該主配管7上にて行なうことにより、主配管7における瞬時ガス流量や、各ガス器具5a,5bの動作に伴ない配管系全体で消費される積算ガス流量が算出されるようになっている。なお、その算出結果はガスメータ4に設けられた表示部41に表示されるほか、シリアル通信バス50を介して動作判別ユニット9にも送られる。
【0023】
図2は、図1のガス器具動作識別システム1の主要部に係るさらに詳細な電気構成を示すブロック図である。動作判別ユニット9の主体をなすマイコン90はCPU901、RAM902、ROM903及び入出力部904が内部バス905により接続された構造を有する。振動センサ91はアンプ92を介して入出力部904のA/Dポートに接続されている。また、入出力部904には前述の表示部93と警報音出力部94とが接続されている。
【0024】
ROM903には、次のような内容が記憶されている。
・波形取り込むソフト:振動センサ91が検出する振動波形を取り込む処理を行なう。
・ピーク解析ソフト:その波形に高速フーリエ変換処理を施して周波数スペクトルを生成し、該周波数スペクトルに現れる固有振動ピークの周波数f(位置)と高さhとを特定する。
・器具判別ソフト:固有振動ピークの位置(さらには高さ)に基づいて動作中の器具を判別する処理を行なう。
・流量推定ソフト:固有振動ピークの高さに基づいて各器具に供給される個別のガス流量を推定する。
・参照データ:ガスメータ40と通信を行なうための通信ソフト、及び、器具判別のための後述の参照パターンデータや、固有振動ピーク高さとガス流量との関係を示す流量推定用データなどからなる。
【0025】
また、RAM902には上記各ソフトの実行メモリ領域と、取り込んだデジタル振動波形データを記憶する振動波形メモリ領域、動作中の器具の判別結果を記憶する判別結果メモリ、器具別の流量の推定結果を記憶する器具別流量管理メモリ領域等が形成されている。
【0026】
次に、ガスメータ4は、制御主体がマイコン40で構成されている。マイコン40は、CPU401、RAM402、ROM403及び入出力部404が内部バス405により接続された構造を有する。入出力部404には、超音波流量計の原理に即した周知の流量測定部41と、その測定情報を元に演算された流量測定内容を表示する表示部42と、流量測定内容を外部に通信出力する外部通信ユニット43が接続されている。また、動作判別ユニット9とガスメータ4とは、それぞれシリアル通信インターフェース95,44を介してシリアル通信バス50に接続されている。
【0027】
図1においてガス器具5a,5bのいずれかが動作すると、ガス器具5a,5bへのガス流通状態(あるいは燃焼状態)に特有の機械振動が発生する。具体的には、器具動作に伴ないガス流通する配管系(7a,7b、7)に、各器具の機械的構造及び動作状態に特有の固有振動モードにて機械振動が発生する。この機械振動を主配管7に取り付けられた振動センサ91で検出する。
【0028】
検出された機械振動の波形は、図2において振動波形メモリに取り込まれ、高速フーリエ変換処理を経て周波数スペクトルデータに変換される。図3のパターンAはいずれのガス器具も動作していない状態で測定した周波数スペクトルの例を、パターンBは給湯機5bのみが動作している状態で測定した周波数スペクトルの例を、パターンCはガスコンロ5aのみが動作している状態で測定した周波数スペクトル(0Hz〜2000Hzの帯域における各周波数での相対振幅分布)を示している。いずれの周波数スペクトルにおいても、下限周波数側に尾引きの大きいバックグラウンド部BGが形成されている。
【0029】
器具非動作となるパターンAでは、バックグラウンド部BG以外に目立った振動ピークは観察されないが、給湯機4bが動作しているパターンBでは複数の振動ピークPが観察される。また、ガスコンロ5aが動作しているパターンCでも高さは小さいが振動ピークPが観察される。パターンB及びパターンCのいずれにおいても、給湯機4bないしガスコンロ4aの動作時には、振動ピークが各々固有の周波数位置に再現性よく出現する。また、ガスコンロ5aのパターンCに現れる振動ピークPは、給湯機4bのパターンBに現れる複数の振動ピークPのいずれとも異なる周波数位置に現れている。
【0030】
また、バックグラウンド部BGの現れる帯域(つまり尾引き)の上限周波数は、給湯機4bが動作しているパターンBでは1060Hzであるのに対し、ガスコンロ5aが動作しているパターンCでは1020Hzと、低周波数側に移動している。
【0031】
さらに、図4に示すように、各ガス器具の動作時に現れる振動ピークの高さhは、器具へのガス供給流量Qが大きいほど増加する。具体的には、図4の下に示すように、該ガス供給流量Qにほぼ比例する形でピーク高さhは単調に増加している。従って、ガス供給流量Qと特定の周波数位置に現れる振動ピークの高さhとの関係が、図4の下に示すように予め知れていれば、周波数スペクトル上で特定される振動ピークの高さhから、対象となるガス器具へのガス供給流量を推定することが可能である。
【0032】
なお、ガス供給流量Qに応じた振動ピークの高さhの変化の線形性は、図5に示すように、主配管7に対する振動センサ91の取付位置に応じて変化する。具体的には、各ガス器具5a,5b,‥への分岐配管7a,7b,‥の分岐点に近いほど上記の線形性は良好である。
【0033】
以下、ガス器具動作識別システム1の作動について、図6の流れ図に従い説明する。まず、T1において振動センサ91による振動検知を開始し、その波形を取り込むとともに、T2においてその波形を周波数スペクトルに変換する。そして、T3では、その周波数スペクトルにおいて振動ピークを特定し、また、バックグラウンド部BGの帯域(上限周波数)を特定する。図7の上に示すごとく周波数スペクトルが得られた場合、周知のピーク特定アルゴリズムにより振動ピーク(p1〜p7)を特定する。各振動ピークp1〜p7は、それぞれ周波数位置(f1〜f7)とピーク高さ(h1〜h7)とを対にしてデータ化される。
【0034】
振動ピークの周波数位置は、作動している器具の種別に応じて固有かつ不変の値となる。そこで、個々の器具毎に期待される複数の振動ピークの1又は複数のもの(振動ピークパターン)を、器具動作判定用ピークとして採用する。例えば、図3のパターンB(給湯機5b)においては、7つのピークp1〜p7からなる振動ピークパターンが確認可能であるが、例えば図8に示すように、相対高さの最も大きいピーク(最大ピーク)p4を少なくとも含むように器具動作判定用ピークを定めることができる。この場合、図8左に示すように、最も単純な態様として、最大ピークp4のみを器具動作判定用ピークとして選定することもできるし、図8右に示すように、最大ピークp4を含む複数の振動ピークを器具動作判定用ピークとして選定することもできる。図8右の態様では、最大ピークp4とこれに次いで相対高さの大きいピークp1とが器具動作判定用ピークとして選定されている。
【0035】
そして、上記各ガス器具について選定された器具動作判定用ピークの周波数位置の組が、参照ピークパターンとして参照データに含まれている。実測された振動波形の周波数スペクトルにて特定された振動ピークパターンの、個々のピーク位置は参照ピークパターンに含まれる個々のピーク位置と照合・比較される。この照合結果の一致することが、対応するガス器具が動作中であると判定するための必要条件となる。例えば図8の左においては、最大ピークp4の周波数位置f4が、参照ピークP4の周波数位置F4と一致しているか否かに基づき、対応するガス器具(つまり、給湯機5a)が動作中であるか否かを判定する。つまり、周波数スペクトルに現れる1又は複数の固有振動ピークからなる振動ピークパターンを、ガス器具5a,5b別に予め記憶されている参照ピークパターンと照合し、特定のガス器具5a,5bに対応する参照ピークパターンと照合一致した場合は該特定のガス器具5a,5bが作動中であると判定し、照合不一致の場合は同じく非作動と判定するのである。
【0036】
また、図8の右においては、最大ピークp4と、次に高さの大きいピークp1との各周波数位置f1,f4が、参照ピークP1,P4の周波数位置F1,F4と一致していることを必要条件として、対応するガス器具(つまり、給湯機5a)が動作中であるか否かを判定する。なお、本発明者が検討したところ、ガス流量が増加するのに合わせて各ピークの高さも増加方向に変化するが、周波数位置の異なる複数ピークの高さ比はガス流量によらずほぼ一定である。従って、複数の振動ピークを器具動作判定用ピークとして採用する場合は、それらピークの高さ比もガス器具動作判定に使用することができる。例えば、図8の右においては、最大ピークp4と、次に高さの大きいピークp1との高さ比h4/h1が参照ピークP1,P4の高さ比H4/H1と一致していることを必要条件として、対応するガス器具(つまり、給湯機5a)が動作中であるか否かを判定することも可能である。この場合、この高さ比一致の条件を、上記ピーク位置一致の条件と組み合わせることにより、器具動作特定の精度をさらに向上できる。
【0037】
ここで、主配管7を流通するガス流量の測定結果はガスメータ4より通信取得可能である。対応するガス器具が正常動作している場合は、個々のガス流量毎に期待される最低ピーク高さ(閾ピーク高さ)を実験的に特定できる。従って、その実験結果を用いれば、図4下のグラフに準じた形で、ガス流量と該閾ピーク高さの関係を示すデータが作成でき、これが図2の参照データに含める形で記憶されている。本実施形態では、図6のT51において、ガスメータ4よりガス流量を通信取得する。またT52では、取得したガス流量に対応する閾ピーク高さを読み取る。そして、T3において、周波数スペクトル上で検出された振動ピークの高さを読み取った閾ピーク高さと比較し、該閾ピーク高さを超えていれば、当該振動ピークを有効ピークとして認定し、器具動作判定に使用する。一方、閾ピーク高さを超えていない場合はノイズとみなし、器具動作判定に使用しない。
【0038】
図6のT4では、有効ピークと認定された振動ピークを器具動作判定用ピーク(パターン)として、ガス器具毎に個別に用意されている参照ピークパターンと順次照合する。そして、照合一致した参照ピークパターンが見つかれば、その参照ピークパターンに対応するガス器具が動作中であると判定する。例えば、図1に示すように、表示部93を、個々のガス器具に対応付けたインジケータ93i(LED等:ただし、これに限定されない)の組として構成しておけば、その判定結果を、個々のインジケータ93iの作動状態の動作状態により出力が可能である(例えば、点灯=動作中、消灯=非動作)。
【0039】
また、図9は、ガスコンロ5aの動作状態判定を行なう場合の例を示すものであるが、ガスコンロ5aの場合、特徴的な振動ピークが1つしか現れないので、これを器具動作判定用ピークp100として採用する。参照ピークパターンも対応するピークP100のみを有し、検出されたピークp100の周波数位置f100が、参照ピークP100の周波数位置F100と一致しているか否か、及び、検出された器具動作判定用ピークp100の高さが、ガスメータの流量に対応する閾高さを超えているか否かにより、ガスコンロ5aが動作中であるか否かを同様に判定できる。
【0040】
一方、ガスコンロ5a特有の現象として、図3のパターンCに示すように、バックグラウンド部BGの帯域上限周波数f3が低周波数側に現れるので、検出された振動の周波数スペクトルにて特定される帯域上限周波数f3が、予め定められた閾周波数よりも低い場合にガスコンロ5aが動作中であると判定することもできる。当然、該帯域上限周波数による判定条件を、器具動作判定用ピーク位置の一致による判定条件と組み合わせることにより、器具動作特定精度をさらに向上できる。
【0041】
また、複数のガス器具5a,5bのうちの2以上のものが動作している場合は、主配管7に取り付けられた振動センサ91が検出する機械振動の周波数スペクトルにおいて、それら複数のガス器具5a,5bの動作に個別に由来した複数の振動ピークパターンを、個々のガス器具5a,5bの参照ピークパターンと照合することにより分離特定し、ひいては、動作中の複数のガス器具5a,5bを特定することが可能である。例えば、図10に示すように、測定された振動に含まれる振動ピークを順次、ガスコンロ5a及び給湯機5bの参照ピークパターンと照合した結果、それらガスコンロ5a及び給湯機5bの参照ピークパターンと照合一致する結果が得られた場合は、ガスコンロ5a及び給湯機5bが同時に動作していると判定できる。
【0042】
次に、図9の右に示すように、器具動作判定用ピークp100として定めたもの以外の振動ピークp’(つまり、どの参照ピークパターンにも含まれないピーク)が検出された場合は、対応するガス器具が正常動作していない(例えば、非動作の場合もありえるし、異常動作している場合もありえる)と判定することが可能である。ガスメータ4により有意なガス流量が測定され、かつ、どの参照ピークパターンにも含まれないピークが検出された場合は、ガス供給はなされていても、器具自体が正常に動作していない可能性があり、この場合は異常判定とし、警報音出力部94を動作させて報知を行なう。
【0043】
次に、図11に示すように、複数の振動センサ91a,91bを各分岐配管7a,7bに分散して設けることも可能である。この場合のシステムブロック構成を図12に示す。動作判別ユニット9のマイコン90の入出力部904には、複数の振動センサ91a,91b‥が接続され、各振動センサ91a,91b‥の振動検出波形が個別に取り込まれ、周波数スペクトル変換される。そして、各分岐配管7a,7bに取り付けられた振動センサ91が検出する機械振動の周波数スペクトルが、図8ないし図9を用いてすでに説明した手法により、対応する分岐配管7a,7bにつながるガス器具5a,5bの参照ピークパターンとそれぞれ照合される。そして、対応する参照ピークパターンと照合一致する振動ピークパターンの検出された分岐配管7a,7bのガス器具5a,5bを作動中であると判定し、照合不一致のガス器具5a,5bを非作動と判定する。
【0044】
また、ガス器具別に振動センサ91a,91b‥を設け、個別に波形検出した場合、図9に示すごとく、対応する器具の参照ピークパターンにも含まれないピークが、予め定められた閾高さ以上にて検出された場合は、ガス供給はなされていても、器具自体が正常に動作していない可能性が高くなる。この場合は、当該ガス器具が異常動作中(例えば、ガスが供給されていても燃焼していない、いわばガス漏れの状態など)であると判定することができる。つまり、ガス器具を特定した上での個別の異常判定が可能になるわけである。この場合、図1を援用して示せば、表示部93のガス器具別のインジケータ93iを、動作中を示す表示状態(例えば点灯)と非動作を示す表示状態(例えば消灯)とに加え、異常を示す表示状態(例えば点滅)が新たに出力可能となるように構成することで、器具別の異常報知出力が可能となる。
【0045】
また、図13に示すように、各分配配管7a,7b‥に取り付けられた器具別の振動センサ91a,91b‥により、作動中のガス器具の周波数スペクトルを取得した場合、器具別に流量推定用に採用する振動ピークを予め定めておき(例えば、ガスコンロ5aであれば図9のp100、給湯機5bであれば図8のp4)、それら流量推定用ピークと各分配配管7a,7b‥を流れるガス流量との関係を予め測定し(この関係は、例えば、複数のガス器具5a,5b‥の1つのみを動作させた状態でガスメータ4により流量測定しつつ、対応する振動センサ91a,91bによる振動検出を合わせて行なうことで測定が可能である)、図13に示すように、器具別に参照データとして記憶しておけば、流量推定用ピーク高さの測定結果からガス器具別の流量推定を高精度に行なうことが可能である。この場合、各器具のガス流量の推定結果は、例えば表示部93に液晶ディスプレイ等を用い、これをガス流量推定結果出力手段として器具別の推定流量を表示出力することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態であるガス器具動作識別システムの概略構成の一例を示すブロック図。
【図2】図1のガス器具動作識別システムに係る要部の電気的構成例を示すブロック図。
【図3】ガス配管に取り付けた振動センサの検出波形に基づく周波数スペクトルの測定例を示す図。
【図4】ガス流量に応じて周波数スペクトルの振動ピークが変化する様子を説明する図。
【図5】主配管に振動センサを取り付けた場合の振動ピーク高さとガス流量との関係を説明する図。
【図6】図1のガス器具動作識別システムにおけるガス器具動作判別処理の流れを説明する図。
【図7】周波数スペクトルから振動ピークを抽出する概念を説明する図。
【図8】振動ピークパターンと参照ピークパターンとの照合方式を説明する図。
【図9】同じく別の照合方式を説明する図。
【図10】主配管に取り付けた振動センサの検出波形に基づく周波数スペクトルから、複数のガス器具の振動ピークパターンを分離特定する方法を説明する図。
【図11】ガス器具別の分岐配管に複数の振動センサを分散して設ける構成を説明する図。
【図12】図11の構成に対応するブロック図。
【図13】分岐配管毎に振動センサを取り付けた場合の振動ピーク高さとガス流量との関係を説明する図。
【符号の説明】
【0047】
1 ガス器具動作識別システム
5a,5b ガス器具
7 主配管(ガス配管)
7a,7b 分岐配管
9 動作判定ユニット(周波数特性解析手段、器具作動状態識別手段、識別結果出力手段、ガス流量推定手段)
91 振動センサ
93 表示部(識別結果出力手段、ガス流量推定結果出力手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス器具に接続されるガス配管と、
前記ガス配管に取り付けられ、該ガス配管に発生する、前記ガス器具へのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する振動センサと、
前記振動センサが検出する前記機械振動の周波数特性を解析する周波数特性解析手段と、
前記機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、前記ガス器具の作動状態を識別する器具作動状態識別手段と、
その識別結果を出力する識別結果出力手段と、
を備えたことを特徴とするガス器具動作識別システム。
【請求項2】
前記ガス配管が複数の前記ガス器具に分配接続されるとともに、前記器具作動状態識別手段は、前記機械振動の前記周波数特性の解析結果に基づいて、前記ガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものである請求項1記載のガス器具動作識別システム。
【請求項3】
前記ガス配管は、主配管と、該主配管から各前記ガス器具に向けて分岐する分岐配管とを有し、前記振動センサが複数の前記ガス器具に共用化される形で前記主配管に設けられている請求項2記載のガス器具動作識別システム。
【請求項4】
前記ガス配管は、ガス供給原につながる主配管と、該主配管から各前記ガス器具に向けて分岐する分岐配管とを有し、複数の前記振動センサが各分岐配管に分散して設けられている請求項2記載のガス器具動作識別システム。
【請求項5】
前記器具作動状態識別手段は、前記機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピーク位置に基づいて前記ガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものである請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項6】
前記機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピークの高さに基づいて、作動中の前記ガス器具に供給されるガス流量を推定するガス流量推定手段と、該ガス流量の推定結果を出力するガス流量推定結果出力手段とを有する請求項5記載のガス器具動作識別システム。
【請求項7】
前記器具作動状態識別手段は、前記周波数スペクトルの予め定められた周波数位置に前記固有振動ピークが存在するか否かに基づいて、複数の前記ガス器具のうち当該周波数位置に対応付けられた特定のものが作動しているか否かを判定するものである請求項5又は請求項6に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項8】
前記器具作動状態識別手段は、前記周波数スペクトルに現れる1又は複数の前記固有振動ピークからなる振動ピークパターンを、ガス器具別に予め記憶されている参照ピークパターンと照合し、特定のガス器具に対応する参照ピークパターンと照合一致した場合は該特定のガス器具が作動中であると判定し、照合不一致の場合は同じく非作動と判定するものである請求項7記載のガス器具動作識別システム。
【請求項9】
請求項3記載の要件を備え、前記器具作動状態識別手段は、複数の前記ガス器具のうちの2以上のものが動作している場合に、前記主配管に取り付けられた前記振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルにおいて、それら複数のガス器具の動作に個別に由来した複数の振動ピークパターンを、個々のガス器具の前記参照ピークパターンと照合することにより分離特定することにより、動作中の複数のガス器具を特定するものである請求項8記載のガス器具動作識別システム。
【請求項10】
請求項4記載の要件を備え、前記器具作動状態識別手段は、各前記分岐配管に取り付けられた前記振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルを対応する分岐配管につながる前記ガス器具の前記参照ピークパターンとそれぞれ照合するとともに、対応する参照ピークパターンと照合一致する振動ピークパターンの検出された分岐配管のガス器具を作動中であると判定し、照合不一致のガス器具を非作動と判定するものである請求項8記載のガス器具動作識別システム。
【請求項11】
前記器具作動状態識別手段は、
前記ガス配管を流れるガス流量測定結果を取得するガス流量測定結果取得手段と、
前記周波数スペクトルに現れる前記固有振動ピークを有意ピークと判定するための閾ピーク値を、測定された前記ガス流量が大きいほど高くなるように設定する閾ピーク値手段とを有し、
前記周波数スペクトル中の前記固有振動ピークの高さを前記閾ピーク値と比較するとともに、該閾ピーク値よりも高い比較結果が得られた場合にのみ前記固有振動ピークを、作動中の前記ガス器具を特定するための有意ピークとして採用する請求項3ないし請求項10のいずれか1項に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項12】
前記器具作動状態識別手段は、前記機械振動の周波数スペクトルにおいて、振動振幅が閾レベルを超える主振動成分の分布帯域の相違に基づき、作動中の前記ガス器具の種別を特定するものである請求項2ないし請求項11のいずれか1項に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項1】
ガス器具に接続されるガス配管と、
前記ガス配管に取り付けられ、該ガス配管に発生する、前記ガス器具へのガス流通状態を反映した固有の機械振動を検出する振動センサと、
前記振動センサが検出する前記機械振動の周波数特性を解析する周波数特性解析手段と、
前記機械振動の周波数特性の解析結果に基づいて、前記ガス器具の作動状態を識別する器具作動状態識別手段と、
その識別結果を出力する識別結果出力手段と、
を備えたことを特徴とするガス器具動作識別システム。
【請求項2】
前記ガス配管が複数の前記ガス器具に分配接続されるとともに、前記器具作動状態識別手段は、前記機械振動の前記周波数特性の解析結果に基づいて、前記ガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものである請求項1記載のガス器具動作識別システム。
【請求項3】
前記ガス配管は、主配管と、該主配管から各前記ガス器具に向けて分岐する分岐配管とを有し、前記振動センサが複数の前記ガス器具に共用化される形で前記主配管に設けられている請求項2記載のガス器具動作識別システム。
【請求項4】
前記ガス配管は、ガス供給原につながる主配管と、該主配管から各前記ガス器具に向けて分岐する分岐配管とを有し、複数の前記振動センサが各分岐配管に分散して設けられている請求項2記載のガス器具動作識別システム。
【請求項5】
前記器具作動状態識別手段は、前記機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピーク位置に基づいて前記ガス器具のいずれが作動中であるかを特定するものである請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項6】
前記機械振動の周波数スペクトルに現れる固有振動ピークの高さに基づいて、作動中の前記ガス器具に供給されるガス流量を推定するガス流量推定手段と、該ガス流量の推定結果を出力するガス流量推定結果出力手段とを有する請求項5記載のガス器具動作識別システム。
【請求項7】
前記器具作動状態識別手段は、前記周波数スペクトルの予め定められた周波数位置に前記固有振動ピークが存在するか否かに基づいて、複数の前記ガス器具のうち当該周波数位置に対応付けられた特定のものが作動しているか否かを判定するものである請求項5又は請求項6に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項8】
前記器具作動状態識別手段は、前記周波数スペクトルに現れる1又は複数の前記固有振動ピークからなる振動ピークパターンを、ガス器具別に予め記憶されている参照ピークパターンと照合し、特定のガス器具に対応する参照ピークパターンと照合一致した場合は該特定のガス器具が作動中であると判定し、照合不一致の場合は同じく非作動と判定するものである請求項7記載のガス器具動作識別システム。
【請求項9】
請求項3記載の要件を備え、前記器具作動状態識別手段は、複数の前記ガス器具のうちの2以上のものが動作している場合に、前記主配管に取り付けられた前記振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルにおいて、それら複数のガス器具の動作に個別に由来した複数の振動ピークパターンを、個々のガス器具の前記参照ピークパターンと照合することにより分離特定することにより、動作中の複数のガス器具を特定するものである請求項8記載のガス器具動作識別システム。
【請求項10】
請求項4記載の要件を備え、前記器具作動状態識別手段は、各前記分岐配管に取り付けられた前記振動センサが検出する機械振動の周波数スペクトルを対応する分岐配管につながる前記ガス器具の前記参照ピークパターンとそれぞれ照合するとともに、対応する参照ピークパターンと照合一致する振動ピークパターンの検出された分岐配管のガス器具を作動中であると判定し、照合不一致のガス器具を非作動と判定するものである請求項8記載のガス器具動作識別システム。
【請求項11】
前記器具作動状態識別手段は、
前記ガス配管を流れるガス流量測定結果を取得するガス流量測定結果取得手段と、
前記周波数スペクトルに現れる前記固有振動ピークを有意ピークと判定するための閾ピーク値を、測定された前記ガス流量が大きいほど高くなるように設定する閾ピーク値手段とを有し、
前記周波数スペクトル中の前記固有振動ピークの高さを前記閾ピーク値と比較するとともに、該閾ピーク値よりも高い比較結果が得られた場合にのみ前記固有振動ピークを、作動中の前記ガス器具を特定するための有意ピークとして採用する請求項3ないし請求項10のいずれか1項に記載のガス器具動作識別システム。
【請求項12】
前記器具作動状態識別手段は、前記機械振動の周波数スペクトルにおいて、振動振幅が閾レベルを超える主振動成分の分布帯域の相違に基づき、作動中の前記ガス器具の種別を特定するものである請求項2ないし請求項11のいずれか1項に記載のガス器具動作識別システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−145051(P2010−145051A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324372(P2008−324372)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】
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